3: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 21:47:15.90 ID:dbtwVbjq0
つい先日のまゆの誕生日のことである。
彼女は困っていた光を助けたがために、自分のプロデューサーに渡そうと思っていたプレゼントの入っている黒い紙袋を落とし、光の自転車その他もろもろを巻き込んだ追跡劇の末、大切な紙袋が見知らぬ誰かのトラックに乗ったまま、どこかへ消え行く姿を見送るハメになってしまった。
光は気にしていたが、まゆは
「いいんですよぉ。気にしないでね。素敵な思い出は作れましたから」
と笑顔で答えてくれた。
(でも、あの時のまゆ姉は……ちょっと寂しそうだったな)
今朝、プレゼントをくれたときのまゆの様子を見てから、彼女が助けてくれたことへの感謝を、どうやって返そうか、それを光はずっと考えていたのである。
光の頭を占めていたのは、それだけではない。
今日これから待っている仕事。
それを考えると、心がソワソワするような、身体がゾクゾクするような、なんとも言えない震えを感じる。
トイレがいつもより近いのも、そのせいかもしれない。
さて、少年はというと、エスカレーターの前を行ったり来たりすることに徒労を感じたのか、トボトボと通路の隅に置かれているベンチへと向かい、腰を下ろした。
(まゆ姉に向けてじゃなくても……もらった分、他の誰かにお返しできるのが、ヒーローだよな)
光もそのベンチへと歩き出す。
「ねぇ、キミ。どうかしたのかい?」
「ふぁい!?」
顔を上げた少年に向かって、光は笑顔を返す。
「べ、別に何でもない……」
今度はその瞳を右往左往させながら、モジモジと少年は答えた。
その元気のない返事に光はますます心配になる。
「そう? 困ってるように見えたけど……お父さんやお母さんは近くにいるの?」
光が優しく問いかけると、少年は視線を光からそらして、こめかみのあたりを人差し指でかく。
「……いないよ」
ポツリとつぶやいた少年の横に、光も腰を下ろす。
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