2: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 21:46:27.87 ID:dbtwVbjq0
(ありがとうっていう気持ちを、ちゃんと届けるには何を用意すればいいんだろ?)
白いハンカチでその手を拭きながら、南条光はそんなことを考えていた。
少なくとも、感謝の気持ちは一対一の相互交換なのではなく、誰かから誰かに次々とめぐりめぐってゆくものだと光は感じている。
さて。茨城県はつくば駅の近くにあるショッピングモールに、光はいる。
土曜日である今日は午前中から、同じ芸能事務所の小関麗奈、そして二人の担当であるプロデューサーと一緒に地方ロケをこなした後、ランチおよび次の仕事の打ち合わせをしていた。
緩いロケであったため、普段よりは見栄えが良いが私服とほぼ違わないカジュアルスタイルでいられることが、光には嬉しかった。
そして、レストランに麗奈とプロデューサーを残し、一人お手洗いに行った帰りに見つけたのである。
エスカレーター前で、深いため息をつきながらウロウロしている少年を。
(どうしたんだろう……)
小学四、五年生くらいだろうか。
短く切りそろえた髪型や程よく焼けた肌、ひざ下で途切れるハーフパンツに長袖のTシャツ姿一枚といった格好には似合わない、渋い面構えで黙々と右往左往している。
好意的に解釈すれば困っているように、正直に言ってしまえば挙動不審なその少年を見て、(迷子かな?)と思うあたりは、光の人の良さであろう。
くわえて、つい最近、似たように自分も困っていたことがあったことが、その理由としては大きい。
しまいかけていた純白のハンカチを見る。
そこには可愛らしい翠色のリボンマークをしたワンポイントが刺繍であつらわれている。
今朝、事務所の先輩である佐久間まゆから貰った誕生日プレゼントであった。
先日、とある事情で貸した自転車のお礼もかねてもらったものである。
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