南条光「カンシャノアカシ」
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15: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 21:57:21.92 ID:dbtwVbjq0

 ***

「戻れない? そこは、どうにかなりませんか?」

『んー……なんとも難しいかもねぇ』

 プロデューサーが電話をかけている相手は三ツ谷である。

 バス停まで来て、時刻表を見た時点で、プロデューサーは三ツ谷に助けを求めるという判断をし、電話をかけた。

 つくば駅のロータリーはきれいな外見と入っては出ていくバスの密度から、本数が多いと思われたが、実際に本数が充実しているのはごく一部の路線のみであった。
 醸し出ている「本数ありますから田舎じゃないですよ」感は、路線数の多さを狭いロータリーに集中させることで取り繕っている見栄なのだ。

 そもそも、バスをバスで追いかけたところで、追いつくはずがない。
 タクシーを利用しようかとも思ったが、タクシーは行き先を指定する必要がある。
 それは土地勘のないプロデューサーには無理だ。
 ゆえにそれは最終手段である。

 できれば、土地勘も豊富で自由の利く運転手が欲しい。
 それならば、「普段は暇さ」と豪語する、今回の企画立案者、三ツ谷に頼ろうと考えるのは自然であろう。
 自分で投げた槍を自分で回収することを、そろそろ覚えていただこうと考えていた分、好都合であった。

 しかし、三ツ谷は三ツ谷で、どうやら大変な状況らしい。

『いやさぁ、今、地方興行に来ているサーカスの取材に来ててね。
 で、支配人さんの取材を受けるつもりだったんだけど、大変なのよ』

「何があったんです?」

『なんかねぇ、支配人の息子さん、いなくなっちゃったらしいのさ』

「息子さん?」

『そう。小学四年生だってさ。午前中に突然。
 なんか最近、いわくつきでねぇ、このサーカス。
 ついこの間まで、都内で公演してたけど、そのときも動物が逃げ出す騒動があったなんて噂があるし、
 それより前にも練習中に事故があったって聞くし』

「なるほど。なら、都合がいいですね。
 取材なんてできないでしょうから、早く戻って、合流してください」

『君も言うねぇ』

「こちらだって三ツ谷さんの企画です」

『まぁ、そうだけど、まだちょっと様子見させてくれよ』

「まったく――」

 その時、プロデューサーのスマホに別の着信が入る合図がした。




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