南条光「カンシャノアカシ」
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13: ◆97Mk9WqE8w[sage saga]
2017/09/13(水) 21:56:00.65 ID:dbtwVbjq0

 ***

「俺の父ちゃんは、悪いヤツなんだ」

 バスに揺られながら、コータが話した。
 バスの後方、ちょうと空いていた席に二人並んで座っていた。
 光は「うん、うん」とうなずきながら聴いている。

 さかのぼること少し前。
 光がバスの中でコータに追いついて以降は、彼もおとなしくなった。

 財布も携帯も持っていない状況に、さすがの光も不安を感じたが、幸いなことに、いつも母から言われている「ポケットの中の三千円」は今日も忍ばせていたので、少しは気持ちを落ち着けることができた。

 気持ちが落ち着くと同時に、コータを気にする余裕が出てくると、彼が初めて見かけたとき以上に肩を落としていたので、光は(ただの迷子じゃないな)と察したのである。

 彼の肩に手を置き、優しく
「何か理由があるんだよね、困っている理由が?
 よかったら話してみてよ。何か力になれるかもしれないからさ」
 と伝えると、コータはポツリポツリと話し始めたのであった。

「俺の父ちゃんは悪いヤツなんだ。
 一番偉いからって言って、みんなに威張り散らして、俺の兄ちゃんや姉ちゃん、弟や妹たちに危ないことさせる。
 みんなはね、いいヤツなんだ。お父さんのことを悪く言ったりもしない。
 でも、きっとそれはお父さんが一番偉いから逆らえないだけさ。
 弟や妹たちなんて、いつも狭い檻の中に閉じ込められてるし」

「本当かい?」正直なところ、光は驚いていた。

「うん。しかも、お父さんは、それを俺にも『やれ』って言うんだ。
『お前は大きくなったら私の後を継ぐのだ』とか、勝手に押しつけて……
 がまんするのが毎日すっごくたいへんなんだよ。
 えばるための方法とか、お金を稼ぐ方法とかの勉強ばっかり。
 お母さんも一緒だ。悪いヤツの子分なんだ」

「それで、家出を……?」

「……家出、っていうか、みんなを助けたいと思って。
 それで、一番頼りになる弟を連れてきたんだけど……途中ではぐれちゃって」

「そうか。う〜ん……」

 光は腕組みをして、難しい顔をする。
 とはいっても、それらしく眉間にしわを寄せようとするが、元が可愛らしい顔つきであるから、なかなか深刻な表情にならない。

 なんだか、拗ねたポメラニアンみたいな顔になってしまっているのを、コータは少しおかしく感じた。




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