38: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/08/29(火) 15:55:03.86 ID:a/BNsWng0
歌鈴ちゃんと別れ、再び事務所へと向かう。乃々ちゃんの影はまだみつかってないけど、私の考えが間違ってなければ、それはまだ事務所の中にいるはずだ。
「あ、杏さん。どうでしたか?」
事務所のエントランスに入ると、乃々ちゃんが駆け寄ってきた。
「なんとかまゆちゃんと歌鈴ちゃんの影は元に戻せたよ」
「歌鈴さんの影もみつかったんですか? その……もりくぼの影は……?」
「それなんだけどね、ちょっと案内してほしいところがあってさ」
346プロダクションはとにかく大きい。アホみたいな数の部屋がある。
だけど、関わりのない部署の部屋には当然、普段立ち入ることはない。乃々ちゃんに連れられてきたこの部屋も、私は入るのは初めてだった。間取りや備品はどの部屋も大差ないみたいだね。
「乃々ちゃんのプロデューサーの机は?」
「えっと……そこ、ですけど」
「ここね、どれどれっと――あ、いた」
机の下を覗き込む。奥の方に、よくよく目を凝らさないと気付けないような人影があった。どこか私を警戒しているようにも見える。
「えぇっ!?」
「もともと影になる場所だから、わかりづらいんだね」
「そ、そんなところに! でも、なんで?」
「昨日、乃々ちゃんはここからお仕事に連れてかれたんだよね、抵抗はした?」
「もちろんしましたけど……でも、もりくぼが泣こうがわめこうが、その気になった男の人に抗うなんて到底かなわず……全てをあきらめて天井のシミを数え続けたんですけど……」
「ちょっと言い方に気をつけようね。まぁそれで、乃々ちゃん本体は残念ながら連れていかれちゃったけど、影のほうは抵抗し通したんだろうね」
「……そんなの」
「ほら、乃々ちゃんの影、もうお仕事は終わったよ」
「あ……」
小動物が威嚇するように身構えていた影は、乃々ちゃんの姿を確認するや否や、飛びつくようにその足元に飛び込んでいった。
「なにか、言ってあげたら?」
「うう……もりくぼがお仕事させられているのに、影だけのがれるなんて、ずるいんですけど……許せないんですけど……けど……けど……」
「けど?」
「……おかえりなさい、ですけど」
乃々ちゃんはそう言って床に映った影の、頭のあたりにぺたりと手を当て、ゆっくりと、なでるように動かした。
うんうん、なんかよくわかんないけど、イイ話っぽく落ち着いたね。
「じゃ、そろそろ日が暮れるし、今日はもう帰ろっか」
「あ……でも、杏さんの影、みつからなかったですね。その影の持ち主も……」
「ん――いや、これはもう見当ついてるから、明日でいいよ」
「そうなんですか?」
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