37: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/08/29(火) 15:54:08.43 ID:a/BNsWng0
私は未央と乃々ちゃんと別れ、事務所を出た。
女子寮で歌鈴ちゃんを拾い、ふたりでまゆちゃんのいるカフェに向かった。
そこで歌鈴ちゃんについていた影をまゆちゃんに戻し、今度は歌鈴ちゃんが影なしになった。
……いまいち事態が進展してる気がしないな。着実に戻せてるはずなんだけど。
「ふたりは昨日、いっしょに事務所に行ったの?」
「いえ、まゆは事務所に向かうところでしたけど、歌鈴さんは逆方向に向かってました。時間もなかったので、ほとんど挨拶しただけでしたねぇ」
「私は昨日もオフだったので、そのときは駅に行くところでした」
「会った場所は?」
「このカフェを出て、ふたつめの交差点を右に曲がって少し進んだあたりだったでしょうか?」
「たしかそのあたりです」
「うん、わかった。歌鈴ちゃん、そこ行くよ」
「はっ、はい」
「影、届けてくれてありがとうございましたぁ、皆さんのもみつかるといいですねぇ」
まゆちゃんと別れ、歌鈴ちゃんとまゆちゃんが昨日会った場所へと向かう。
「あの……私がまゆさんと会ったところに、なにかあるんですか?」
「いや、たぶんそこにはなにもない。でも歌鈴ちゃんとまゆちゃんの影が入れ替わったのはその場所だろうから、そこから事務所まで、まゆちゃんの通った道をたどる」
「な、なるほどー」
「んっと……このへん、でいいのかな?」
「はい、ここです」
スマホで地図アプリを開き、道順を確認する。
この位置から最短で事務所にたどり着く道筋はひとつしかない。まゆちゃんは「時間がなかった」と言っていたから、寄り道や遠回りはしていないだろう。
歌鈴ちゃんと連れ立って事務所への道をてくてくと歩く。そして――
「……みつけた」
「えっ? ど、どこでしゅか?」
「ほら、そこの電柱の影。いちおう確かめてみて」
道の端に、電信柱の影に重なって、小さくうずくまるようにした少女の影があった。
「ほ、ほんとだ! 私の影です、間違いありません!」
影も歌鈴ちゃんに気付いたらしく、両者は抱き合うようにしてひとつになった。
……ひとつになったってのはちょっと違うかな? くっついたって言えばいいのか、どうなのか。
「でも、よくみつけられましたね? よっぽど注意して見ないと気付かないですよ?」
「珍しいものがあったからね、それ。……近づかないでいいからね、杏が捨てとくから」
私は道の真ん中に落ちているバナナの皮を指さした。
「……それが、なにか関係が?」
「昨日からあったんだろうね。まゆちゃんは歌鈴ちゃんじゃないから、当然こんなものじゃ転ばない、よけて通ったはず。でもそのとき引き連れている影は歌鈴ちゃんの影だから、きっと転んだ。……バナナの皮の影を踏んで転んだことになるのかな? で、まゆちゃんはそれに気づかずに先に歩いて行っちゃってて、起き上がっても影だから日の照ってる中を追いかけることはできない。それから日が傾いてきて、電柱の影がバナナの皮に重なったところで、すみっこに避難したってところかな?」
歌鈴ちゃんの影がこくこくとうなずく。正解だったらしい。
それにしても本当にバナナの皮が落ちてるのなんて初めて見たよ。捨てた人はいったい、どんな必要に迫られて歩きながらバナナを食べたんだ?
「歌鈴ちゃんは今日オフだったよね、ここまででいいよ、お疲れさま」
「あ、ありがとうごじゃいましゅた!」
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