35: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/08/29(火) 15:51:12.46 ID:a/BNsWng0
きらりと夕美さんのふたりと別れ、何度か凛ちゃんとメールのやりとりをする。
凛ちゃんは宣材写真の更新をするために事務所内のスタジオで撮影をしているらしい。
私についてるコレは凛ちゃんのじゃないけど、一応行ってみようかな。
「杏! 私の影は!?」
撮影スタジオに入ると、凛ちゃんが慌てた様子で駆け寄ってきた。
「わかんない、いま情報集めてるから」
「そう……どうしよう、これじゃ撮影できないし……」
「ん? なんで?」
「影がないから、写真が変になっちゃうんだよ」
「そーゆーもん? むしろ撮影のときってレフ板とかで影消そうとしない?」
「薄くする分にはいいんだけど……全くないとそれはそれで変なの。顔とか特に」
凛ちゃんがカメラマンさんを手招きし、ノートパソコンについさっき撮ったらしい写真を表示させてもらう。
資料としての使い勝手を考えてか、ウチは宣材写真の撮影にはデジタルカメラを使用している。デジタルでもこれはなかなかお高いカメラで、画質は申し分ないはず……なんだけど、
なるほど、平面的とでもいうのか、どこか顔がのっぺりとしているように見える。普通ならあるはずの細かな陰影がなくなっているせいだろう。
「だったら、杏についてる影使ってみる?」
「……それを?」
「誰のかわかんないけどね、どことなくクールっぽい雰囲気だから」
「うん……それじゃあ、少し借りるね」
凛ちゃんが私についていた影を持っていき、カメラマンさんに何枚か写真を撮ってもらう。撮ったばかりのそれをノートパソコンに転送し、画面いっぱいに表示する。――へえ、これはなかなか。
「どう?」
「うん、なかなかいいと思うよ。なんかいつもよりキリッとして、大人っぽく見えるね」
「そう、かな?」
と、そのとき、ポケットの中でスマホがぶるんと振動した。メール着信、発信者は……乃々ちゃんだ。
『もりくぼの影がもりくぼの影じゃないんですけど!!』
「おっ」
「なに? 私の影みつかった?」
「たぶんね、いまこっちに呼ぶよ」
ほどなくして、ロングヘアーの影を引き連れた乃々ちゃんがスタジオにやってきた。背丈も雰囲気も間違いない、凛ちゃんの影だ。
「よかった、私の影だ」
凛ちゃんがほっと息をついた。やっぱり自分の影がいるというのは安心するものなのだろう。
凛ちゃんに貸していた影を私に戻し、乃々ちゃんから凛ちゃんに影を移動させる。
「写真、どうしよっか? 自分の影で撮り直す?」
「ん……いや、さっきのやつでいいかな。自分の影でならいつでも撮れるし、その影も、まあ悪くないから」
凛ちゃんはうつむき気味にそう言った。なんだか照れてるみたいだ、大人っぽいって言われたのが嬉しかったのかもしれない。実際のところ普段の凛ちゃんではなかなか撮れない写真なのは確かだから、残しておく価値はあるだろう。
「あの……それで、もりくぼの影はいったいどこに……」
そうだ、今度は乃々ちゃんの影がなくなってしまったことになる。私についてる影はどう見ても乃々ちゃんのじゃないし、乃々ちゃんのもみつけてあげないと。
「乃々ちゃん、昨日誰と会ったか覚えてる?」
「き、昨日は……事務所でまゆさんといて、お仕事に連れ出されました。現場は凛さんといっしょで、会ったのはおふたりだけだと思うんですけど……」
「じゃあまゆちゃんに連絡とってみてよ、『影を見て』って」
「は、はい……あ、返事来たんですけど」
「早いね、なんて?」
「えっと、『影がありません!』って……」
「えー……」
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