37: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:47:28.89 ID:fLR/Lwcb0
たとえ突っぱねられたとしても、伝えるなら今しかないと思った。
「先輩」
心臓が早鐘を打っている。
38: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:48:09.07 ID:fLR/Lwcb0
「先輩、じゃなくて、千夏って、呼んでほしかよ」
歌うような言葉だった。
頷くこともせず、おれは彼女の目だけを見つめる。
39: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:49:02.47 ID:fLR/Lwcb0
それから、もう何杯か飲んだ後のことだった。
40: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:50:05.33 ID:fLR/Lwcb0
「夏目君、きみ全然酔ってなくない?」
彼女が訝しげな表情を浮かべて、おれの様子を窺っていた。
41: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:52:03.33 ID:fLR/Lwcb0
どこか拗ねたような横顔。その顔がおれに向き直り、こちらに身を乗り出して、そのまま右の耳元に近付いてきた。
おれはというと、突然の事態についていけなくて身体が動かなかった。
「言うときに照れんくなるばい」
42: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:53:06.55 ID:fLR/Lwcb0
とん、という微かな音と共に、柔らかな質感。そしてすぐそばから漂う、くだもののような香り。
43: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:53:58.19 ID:fLR/Lwcb0
大切な秘密を打ち明けるように、そっと言ってくれた。
「うちもきみのこと、好いとうよ」
44: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 22:57:16.33 ID:fLR/Lwcb0
店を出て、連れ立って歩く。
幾らか涼しくなっている気候に、漸く長い夏のおわりを見た気がした。
更け切った夜の、ずっと静かな気配がそこかしこにある。
45: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 23:00:36.19 ID:fLR/Lwcb0
「先輩」
彼女を呼ぶ。
いつもならすぐに反応をくれるのに、どうしてだか彼女は振り向きもしなかった。
46: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/08/24(木) 23:02:18.01 ID:fLR/Lwcb0
「うちの名前は"先輩"なんかじゃなかよ」
つっけんどんなその返事が、いちいち可愛かった。
「あー、すんません」
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