13:名無しNIPPER[saga]
2017/08/26(土) 21:07:20.37 ID:VbCvuMD40
来ヶ谷「………」
理樹(当たり前だけど最後に会ってから何も変わっていなかった。見る者の心の奥を見透かすような大きな眼、これ以上ないほどの美しい歩き方。あの髪飾りも健在だった。僕らに軽く挨拶のジェスチャーを送ると最初に演奏する人のため一旦引いていった)
恭介「どうだった?」
理樹「どうって……別に、普通だよ」
理樹(それは嘘だった。一年ぶりに見る来ヶ谷さんの姿をずっと頭の中で再生していた。それから次の人の演奏は頭に入ってこない癖にいざ彼女がまたピアノの前に立つとその瞬間、生き返ったように我に帰るんだ。なんてことはない。僕は彼女を見ることで未練を残していたことを思い出してしまったんだ)
恭介「弾くぞ」
理樹(その来ヶ谷さんの演奏は最後に聞いた時から何倍も良くなっているように感じた。静かに始まった第1章が弾いていくにつれて徐々に熱を帯びるように激しくなっていき、燃え上がるような曲のムードを見せ、しばらく観客を魅了すると、最後の方でまた最初のようなテンポに戻り、目を瞑りながらラストと思わしき音を弾いた。完璧な演奏だった)
理樹(完全な沈黙から数秒後、指し示したように周りの観客は同時に大きな拍手を送った。それにつられるまでもなく僕らも負けじと拍手を送った。そして彼女は立ち上がりこちらに向いて膝を曲げてお辞儀をした。更に拍手は大きくなった。そしてもう一度お辞儀をして姿勢を直した瞬間、目が合った)
理樹「………」
来ヶ谷「………」
理樹(わずか1秒もないくらいの間だったが、確かにお互いの視線は繋がっていた。そして何故だかその目を見て僕は今の自分の立場を冷静に自覚することが出来た。そう、今の僕は勝手に連絡を取らなくなった癖に彼女が有名になった途端のこのことコンサートに顔を出す恥知らずなんだ。それから僕はばつが悪くなって来ヶ谷さんから目を逸らし、いつの間にか握りしめていたパンフレットを見つめ、やっぱりまた目を戻すと彼女は既に舞台から消えていった)
恭介「…最高だったな」
理樹「……うん……」
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