【艦これ】羽黒「司令官さん、私、信じていますね」
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18: ◆m9ZGL07ULFKn[saga]
2017/08/22(火) 22:16:29.87 ID:W3bdf8BU0
同時期、海は地獄に化けようとしていた。
突然に海面に浮上した異形の大艦隊が、人間の全ての船舶を蹴散らしていたのだ。
生還者の証言、また僕の今までの経験から考えるに、『クラゲ』として海中に漂っていた深海棲艦たちが急に浮上、航行中船舶に対して無差別な攻撃を行ったのだろう。
19: ◆m9ZGL07ULFKn[saga]
2017/08/22(火) 22:20:15.24 ID:W3bdf8BU0
9時になり、固定タイムが訪れ、僕は僕の見たことを研究室の面々に説明した。
全面的な納得はしていなかったと思うが、”消えた『クラゲ』”、”割れたガラス”、”現れた少女”という、それまたぶっとんだ目の前の事実が、それに不思議な説得力を与えていた。
11時に構内で緊急放送があり、僕は海上で起こっている、不条理で切実な戦闘行為を知ることになった。屋内退避になり、研究室はテレビの視聴所と化した。報道は、まるで映画を流しているみたいだった。その日の夜まで警報は鳴り続き、日本地図は海岸全体が警報地区を示す赤色に塗られ、市町村の名前の次には、『壊滅』の表示が躍った。
20: ◆m9ZGL07ULFKn[saga]
2017/08/22(火) 22:25:17.36 ID:W3bdf8BU0
日本はそれから先の一年、混沌に包まれることになる。
受けた被害の大きさ、命綱であった海運の壊滅、目途の立たぬ復興。
行政は大きく組みなおされることとなり、また国内インフラも限界まで簡素化・統合化された。
注目されたのは『クラゲ』から生み出された少女たちだった。
21: ◆m9ZGL07ULFKn[saga]
2017/08/22(火) 22:40:44.21 ID:W3bdf8BU0
内閣府の直属機関として、「海上激甚災害対策総合研究所」が設立されたのは、主要研究機関の生存者に対する取り調べが大方終わり、事実が整理され始めてからのことだ。
事実というのはつまり、「数人の人間は、敵やその一部を、完全に無害化できる」ということに他ならない。
その研究機関は、「そういう人間の共通点等を見つけ、集めること」「無害化の方法を確立し、事態の収拾を目指すこと」を目的としていた。
22: ◆m9ZGL07ULFKn[saga]
2017/08/22(火) 22:43:58.30 ID:W3bdf8BU0
僕はよく彼女と話した。
あまりに刺激や娯楽の無い生活の中で、彼女の存在は僕にとって癒しだった。恐らくは、彼女にとっても僕はそういう存在だったのではないか、と思う。
彼女は好んで図書室で本を読んでいた。
23: ◆m9ZGL07ULFKn[saga]
2017/08/22(火) 22:46:33.37 ID:W3bdf8BU0
生活に不穏さが入り込んだのは、不快な噂が飛び交うようになってからだった。
「国は、例の少女たちを戦力として投入しようとしている」
それが僕たちに入ってきた最初期の情報になる。
24: ◆m9ZGL07ULFKn[saga]
2017/08/22(火) 23:02:54.15 ID:W3bdf8BU0
外部との接続を極限まで拒絶されたその生活の中で、僕は不安と共にあった。
自分の何を、どういう風に研究されているのかわからないことへの怖さ。外部で何が起こっているのか、全く分からないことへの恐さ。
僕は漣を思い出して、彼女の華奢さを思って、時々本当に怖くなった。
どうして彼女すら戦力化しなければならないんだ?
25: ◆m9ZGL07ULFKn[saga]
2017/08/22(火) 23:08:02.71 ID:W3bdf8BU0
どうやら、研究所は僕たちと少女たちを懇親させる方向に転換したらしかった。
「今のところ、何も成果が出ていないらしいから、ここ」と彼女は僕に言った。「方針を変えたんでしょう」
彼女は美人だったし、だから研究員たちから情報を得やすかったのだろう。
26: ◆m9ZGL07ULFKn[saga]
2017/08/22(火) 23:09:11.40 ID:W3bdf8BU0
もちろん、僕は漣にも頻繁に会いに行った。
漣はかわいらしい人だった。若干サブカルチャーにかぶれていたところがあったが、根は真面目だというのも、それと同じくらいよくわかった。
漣は、僕をいつも「ご主人さま」と呼んだ。
27: ◆m9ZGL07ULFKn[saga]
2017/08/22(火) 23:10:45.46 ID:W3bdf8BU0
図書室で会った時に聞くと、彼女も少女たち――その時にはすでに”艦娘”という呼び方が定着していた――に、「司令官」やら「提督」やらと呼ばれているらしかった。
「なんていうか、すごくかわいいと思わない?」
彼女は僕に笑いながら言った。
「あんな澄んだ目で、敬うような口調で、”司令官さん”なんて。そりゃ、言葉のチョイスは少し不思議だけど。そうだな。なんか子供ができたみたいで」
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