2: ◆t6XRmXGL7/QM[sage saga]
2017/07/08(土) 00:23:35.10 ID:J2BrVGck0
6月中旬。梅雨入り宣言をしたはずの都内は未だ雨の気配を見せず、太陽は正午に至ろうとしていた都内を灼いている。
半袖、開襟、スーツを脱いでいてもこの暑さを逃すことができず、この外回りの過酷さに拍車をかけていた。
ズボンだけでも丈が短くできればだいぶ変わるのにな、と、俺は現代日本を縛り付けている暗黙のルール──働く男はスーツを着なくてはならない──を恨んだ。
恨んだって仕方ないのだが、そういうふうに何かに対してネガティヴな感情をぶつけていないと暑さでどうにかなってしまいそうだったから。
3: ◆t6XRmXGL7/QM[sage saga]
2017/07/08(土) 00:24:28.12 ID:J2BrVGck0
蒸し焼きにされたような熱い体を、ビルのエントランスのよく効いた空調が冷やしてくれる。
本当、外もこれくらい涼しければなとは思うのだが。
実際冬になればこれよりも『涼しく』なるというのに、ヒトはそれに対しても文句を言うのだから勝手なものである。
誰に充てるでもない自嘲めいた冗談を頭の中で笑い飛ばしながら、俺は自身の所属する部署の階のボタンを押す。
4: ◆t6XRmXGL7/QM[sage saga]
2017/07/08(土) 00:25:08.58 ID:J2BrVGck0
「外、ひどく暑いですね」
「ああ。うちも早いところ私服通勤オッケーにしてくれねーかなー」
「他の部署では、私服の人、よく見かけます」
5: ◆t6XRmXGL7/QM[sage saga]
2017/07/08(土) 00:25:40.91 ID:J2BrVGck0
〜〜〜〜〜〜
夜。
「おや、アーニャ、まだ居たのか。帰らないとまずいんじゃないか」
6: ◆t6XRmXGL7/QM[sage saga]
2017/07/08(土) 00:27:05.75 ID:J2BrVGck0
「なかなか、綺麗でしょう?」
「うーん、本当だ。東京でもこんなにはっきり夜空を望めるなんて思っても見なかった」
「これは夏の大三角だね」
7: ◆t6XRmXGL7/QM[sage saga]
2017/07/08(土) 00:27:33.56 ID:J2BrVGck0
〜〜〜〜〜〜
「冬の大三角かぁ」
「?」
8: ◆t6XRmXGL7/QM[sage saga]
2017/07/08(土) 00:28:13.67 ID:J2BrVGck0
沈黙が俺らを包む。見おろすと葉脈のように繰り広げられる幹線道路に、白と赤の光がアリのようにぞろぞろと動いているのが見える。
その脇には、大小様々なビルが放つ残業の光が煌々と光っていた。
空に比べると、ここは高さがあるとはいえど、やはりアーニャの言うように東京の光は"うるさい"。
9: ◆t6XRmXGL7/QM[sage saga]
2017/07/08(土) 00:28:40.65 ID:J2BrVGck0
再度の沈黙。それを再び破ったのは俺。
「オリオン座、なんで好きなの?」
我ながらなんて話の切り出し方だよと心の中で頭を抱える。
10: ◆t6XRmXGL7/QM[sage saga]
2017/07/08(土) 00:29:17.36 ID:J2BrVGck0
「ベテルギウスは……もしかしたら、今はもうないのかもしれません」
「え、どう言うこと」
「ベテルギウスは、赤色超巨星で、人間でいうとおじいちゃんなんです」
11: ◆t6XRmXGL7/QM[sage saga]
2017/07/08(土) 00:30:01.02 ID:J2BrVGck0
〜〜〜〜〜〜
翌朝。やたら眩しい光に起こされた。そういや、昨日はアーニャを見送ったあと、そのままここで寝ちまったんだった。
うーん、こりゃまた部長のお説教コースか。
なんて憂いていると、アーニャが事務所に飛び込んできた。
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