5: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2017/06/22(木) 13:59:03.75 ID:eLlVio3H0
色々言いたいことはあったが、しかし、ここを追い出されてしまえば俺に行くあてはない。真っ当でないものの掃き溜めである陣内崎において、探偵業などは余程に真っ当だ。ロシアンマフィアの肉壁となるのも、MI6の二重スパイになるのも、俺はまったくごめんだった。
そして同時に知っていた。稀有は極端なまでに人との取り方を心得ていないから、きつい言葉とは裏腹に、内心では俺の服の裾をぎゅっと握りしめている。
俺はその手を引きはがすことを、ハードボイルド的とは思わない。
「今日の予定は?」
尋ねられて、予定帖へと目を落とす。稀有のボディガード兼秘書が俺の役割なのだった。
「十一時に警察署へ行って、殺人事件の解決が二件。午後からは何も入ってない」
「そうですか。退屈ですね」
ため息をついて、稀有はもう一度はっきりと、退屈です、と呟いた。
精悍にも見える彼女の顔つきは、いつもこの瞬間だけ、虚無に塗り潰される。
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