32: ◆yufVJNsZ3s[saga]
2017/06/25(日) 02:04:35.81 ID:zKrhlsv70
俺は本を閉じた。タイトルは「陣内崎の半世紀」。大学の講義のために買ったやつを今更もう一度引っ張り出してきたのだ。
何でそんな本を読んでいるのかと言えば、端的に暇だからである。
我が探偵事務所の主であらせられる有田稀有女史は、陣内崎市の都市伝説をまとめたゴシップ誌を熱心に読み耽っている。仕事はない。稀有に来る依頼は基本真南を経由した殺人事件の捜査なので、仕事がないほうが嬉しくはあるのだけれど。
「……」
かれこれ一時間ほど、一言も喋らない。もうそろそろ読み終わってもいいころだが、よくもまぁ集中が途切れないものだ。
殺人事件が何よりの退屈である稀有にとって、あるいはそういった人が死なないような謎こそが、探偵として最も望んでいることなのかもしれない。
人探し、動物探し、浮気調査に素行調査。派手ではない地味な、そして地道な作業を求めて、あえて稀有は探偵事務所なんぞを立ち上げたのではないか。そう思えてならなかった。
雇用主を慮るのは労働者の義務といっても過言ではない。心の隅にとどめておくことにしよう。
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