市原仁奈「かいじゅうの気持ちになるですよ」
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1: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/05/27(土) 23:55:38.33 ID:NHoYyh5/0
字の文有りモバマスssです。

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2: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/05/27(土) 23:57:30.57 ID:NHoYyh5/0
 誰しもに行き先があるというのなら、誰しもに帰り着く場所がある。

 言葉にせずとも知っている人もいれば、言葉にしたところで理解できない人もいる。

 ありふれたフレーズだとは思うけれど、ありふれていると思ってしまうだけに忘れてしまわないようにして、折に触れては思い出すものがある。
以下略 AAS



3: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/05/27(土) 23:58:34.76 ID:NHoYyh5/0
 「P、教えてほしいことがあるでごぜーます!」

 とある午後のこと、デスクでコーヒーを飲んでいる時に、彼女が現れた。

 市原仁奈。担当している子だ。
以下略 AAS



4: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/05/28(日) 00:00:34.56 ID:Rwhrm4/q0
 「キャラバン? キャラバンっていうと、あのキャラバンか」

 たしか砂漠の行商だったかな、と思った。

 どこまでも続いている砂漠を、何頭ものラクダが隊列を組んで荷物を運んでいるイメージが浮かぶ。
以下略 AAS



5: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/05/28(日) 00:01:52.80 ID:Rwhrm4/q0
 「お店屋さん、でやがりますか」

 「うん。砂漠を通るお店で、大きい荷物はラクダに運んでもらうんだけど」

 すると彼女は少し考えてから、質問の内容を変えた。
以下略 AAS



6: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/05/28(日) 00:03:23.87 ID:Rwhrm4/q0
 「鈴?」


 そう聞き返しながら、内心で合点がいく。

以下略 AAS



7: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/05/28(日) 00:05:01.85 ID:Rwhrm4/q0
 「なるほど! はぐれるとさびしいでごぜーますものね……」

 何度か頷きながら、彼女は納得してくれたようだった。


以下略 AAS



8: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/05/28(日) 00:06:41.53 ID:Rwhrm4/q0
 「キャラバンの鈴の音っていうのがわからなかったんでごぜーます」

 にへ、と力なく彼女が笑う。

 「なるほどな。それにしても、懐かしい歌だ」
以下略 AAS



9: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/05/28(日) 00:08:07.50 ID:Rwhrm4/q0
 「そうだなあ……いい歌だとは思うけど」

 「そうで、ごぜーますか」

 「仁奈は違うのか?」
以下略 AAS



10: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/05/28(日) 00:09:17.15 ID:Rwhrm4/q0
 「仁奈、キャラバンって、もっとすげーものだと思ってたです」

 「だってかいじゅうが、自分の家をすててしまうくらいだから」


以下略 AAS



11: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/05/28(日) 00:10:04.91 ID:Rwhrm4/q0
 描写こそなけれ、怪獣は恐らく一匹だったのだろう。誰と話すことも、喧嘩することさえできず。

 明けては暮れる太陽を眺めながら、気の遠くなるような時間を孤独に過ごしたのだろう。


以下略 AAS



12: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/05/28(日) 00:11:03.21 ID:Rwhrm4/q0
 「仁奈は、あの歌に出てくる怪獣はどんなやつだと思う?」


 彼女は僅かに黙り込んで考えた。きっと怪獣の気持ちになっているのだろう。

以下略 AAS



13:名無しNIPPER[sage]
2017/05/28(日) 00:11:08.01 ID:Xsmhs4DWo
懐かしいな、俺は中学の時に歌ったが


14: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/05/28(日) 00:13:09.66 ID:Rwhrm4/q0
 「そうだよな。おれも怪獣はいいやつだと思う」

 彼女の笑顔につられて微笑みながら、言葉を続ける。

 「なら、こう考えられないか。怪獣は海に遊びに行ったんだって」
以下略 AAS



15: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/05/28(日) 00:13:56.01 ID:Rwhrm4/q0
 「仁奈だって、仕事で色んなとこに行くだろ? でも仁奈は、仁奈の家に帰ってくる」

 「きっと怪獣は、海を見に行ってそこで友達を作れたら、また帰ってくるつもりだったんじゃないかな」

 そう言うと、彼女も頷いた。
以下略 AAS



16: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/05/28(日) 00:15:52.07 ID:Rwhrm4/q0
 「……仁奈はですね、さっきまで、かいじゅうのことをあんまり好きになれなかったでごぜーます」

 「だって、自分の住んでいる家を出て行ってしまう歌だったです」


以下略 AAS



17: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/05/28(日) 00:16:49.00 ID:Rwhrm4/q0
 「ありがとうごぜーました! 仁奈すっきりしたですよ!」

 彼女がぺこりと頭を下げる。

 「うん。おれも楽しかったよ」
以下略 AAS



18: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/05/28(日) 00:18:57.22 ID:Rwhrm4/q0
 見渡す限りの砂に囲まれた怪獣は、海を求めて歩き出した。

 果てしない距離を一匹で。心が折れてしまいそうになる度に、自分の足跡を振り返り、決心を固めたのだろう。

 そうして行きついた海は、しかし怪獣の帰るべき場所なのだろうか。
以下略 AAS



19: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/05/28(日) 00:20:06.53 ID:Rwhrm4/q0
 バラードという言葉は、抒情詩を差して使われることが多い。

 決してしとやかではない曲調ではあったものの、あれがバラードを名乗る気持ちはわかる気がした。



20: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/05/28(日) 00:21:12.94 ID:Rwhrm4/q0
 砂漠に住んでいた怪獣は、今頃どこにいるのだろうか。

 ちゃんと海を見つけ、人を愛せているだろうか。

 それとも、孤独はあれど安寧もまた存在する砂漠に帰っているだろうか。
以下略 AAS



21: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/05/28(日) 00:22:27.31 ID:Rwhrm4/q0
 以上になります。
 ありがとうごぜーました。


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