【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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78: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/28(日) 00:11:23.33 ID:Q3fcpmY20
「ぐっもーにーん! えぶりばーでぃー!」

 スタッフやアイドルたちの緊張感とは対照的に、能天気な高い声が響く。
 鼻歌混じりに楽屋口から舞台袖へと入ってきたその声の主は、ショートの金髪碧眼、日本人とフランス人の両親を持つハーフのアイドル、宮本フレデリカだった。
 フレデリカは今回の目玉アイドルの一人だ。飛びぬけて明るく、いつも緊張感とは無縁なフレデリカのキャラクターは、男女を問わず広い世代に親しまれている。

「おはよーございまーす、今日はよろしくー」

 その後ろから、同じく緊張感ゼロで舞台袖に入ってきたのは、銀髪でこちらも同じくショート、キツネのようにシャープでサバサバした雰囲気を身に纏ったアイドル、塩見周子だった。
 フレデリカと周子、そして一ノ瀬志希の三人からなる人気ユニット「誘惑イビル」の演目は、今回のライブで盛り上がりのピークのひとつとなるだろう。
 フレデリカと周子が入ってきたので、てっきり志希も来るのかと思いきや、二人の後ろから着いてくるものはいなかった。
 肩透かしを食らったような周りの雰囲気を悟ったのか、フレデリカは集まっているアイドルたちの中心でぱっと右手を挙げる。

「あ、シキちゃんはまだ楽屋で丸まってるんだ〜、だいじょーぶ、本番までにはまにあうよー、たぶんだけどねー」

 それから、フレデリカはアイドルたちをぐるりと見回してから、茜たちや美穂のほうを見ると「おおっ?」と興味深そうな声をあげた。

「ねえねえ、たしかライブはじめて、じゃなかったっけ? リハーサルで言ってたよね?」

 屈託ない笑顔で近づいてくるフレデリカに、茜、比奈、美穂の三人はそれぞれ頭を下げる。
 サマーフェスはかなりの参加者があり、全員のスケジュールを完全に合わせることは困難だった。
 おそらく、茜たちとフレデリカたちは、リハーサル以外に顔を合わせる機会はなかったのだろう。

「日野茜ですっ! 今日が初めてのライブです! よろしくおねがいします!」

「あっ、小日向美穂、です、私も初めてで……よろしくおねがいします」

「荒木比奈っス。アタシも初めてっス」

「宮本フレデリカだよー! 今日はよろしくね、ラビュー!」

 フレデリカは三人に向かって手を振る。それから、長いまつげが印象的な大きな目で、三人を見た。

「ねぇねぇ、三人はもう、掛け声決めた?」

「掛け声、ですか……?」

 美穂がきょとんとした声をあげる。茜と比奈も不思議そうな顔をしていた。

「そう、ライブがスタートして、ステージに出ていくときの掛け声だよー、アン、ドゥ、トロワー! みたいにねー! もう決めたー?」

「掛け声……聞いたことなかったっスね……」

「決めといたほうがいいよー、あたしは塩見周子。よろしゅー、がんばろーね」言葉とは裏腹に、やる気を表に出す様子がまるでない周子が話に参加してきた。「掛け声はプロダクションの伝統だからねー、好きな食べ物にするといいって聞いたことあるなー、ね、フレちゃん?」

 周子は悪戯っぽい目でフレデリカを見る。
 フレデリカは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに大きく頷いた。

「そう、そうなんだよー、さすがシューコちゃん、良く知ってるよねー! アタシだったらねー、えーっと『ふつう、味の、コロッケー!』かなー?」

 走り出すようなポーズをとって言うフレデリカの言葉に、集まっているアイドルの何人かは吹き出し、何人かは肩を震わせて笑いをこらえている。
 比奈が苦笑いし、茜と美穂はきょとんとしていた。なんだ、ふつう味のコロッケって。

 俺も周りのリアクションの理由を知っていた。
 もちろん、美城プロダクションにそんな伝統はないし、食べ物にするといいなんてこともない。フレデリカと周子の即興の冗談だ。
 フレデリカたちに悪気はなく、本番前の緊張を和らげようとしてくれようとしているのだろうが。

「なるほど! 掛け声ですかっ!」それが冗談だとつゆ知らず、茜はそれを真に受ける。「美穂ちゃん、どうしましょう!?」

「えっ? えっと……」美穂は少しのあいだ悩む。「茜ちゃんの好きな食べ物は?」

「私ですか! 私は……カレーです! ということは……『カ、レー、ライス!』ですかね?」

 それはちょっと語呂が悪くないか、と意見をする間もなく。

「うんうん、いいと思うよー。じゃあ、本番もがんばろー」

 周子はのんびりと言う。その一言で、アイドルたちはまたそれぞれに待機することになった。



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