【デレマス】「先輩プロデューサーが過労で倒れた」
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21: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2017/05/01(月) 23:05:27.09 ID:z+wGLY660
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「はぁ、なるほど……そりゃ、勘違いして申し訳なかったっス……」
俺が事情を説明すると、比奈は俺が渡した名刺を眺め、頭を掻きながらそう言って謝った。
「あんときの罰ゲームっスね……」比奈は腕組をして唸る。「勝負に負けた人がアイドルのオーディションにシャレで申し込むって条件でボドゲしてたっス……まさかこんなことになるとは」
「弊社としては、荒木さんにぜひ参加していただきたいと考えていますが……もちろん、無理強いはできません」
できるだけ、比奈が断りやすいように組み立てた文章を、俺は口から吐きだした。
茜は俺のとなりに座って、らんらんと目を輝かせて比奈を見ている。
「ん〜」比奈はまた頭を掻く。「とりあえず……アタマ働いてないんで、シャワー浴びてくるっス。そのあいだに考えるんで。急ぎじゃなかったら、もうすこし待っててもらえるとありがたいっス」
「あ……はい、どうぞ」
俺がそう返事をすると比奈は立ち上がり、引き出しからバスタオルなどをとりだしてバスルームへと向かった。
「……はぁ」
茜がいるとはいえ、極度の寝不足とはいえ、知らない男がいる中で無防備なものだ。
「プロデューサー、比奈さん、来てくれるといいですね! うー、待ちきれません!」
茜は立ち上がり、なぜかその場でスクワットをはじめた。
昂揚した気持ちのやり場がないのだろう。
「ああ……なあ、俺は部屋の外に出ておくから、比奈がシャワーから上がって、話ができそうになったら呼んでくれ」
「了解ですっ!」
茜は元気よくそう言い、俺はふらふらと部屋の外に出た。
マンションの玄関近くに自販機が見える。
俺はそこまで降りていくと、微糖の缶コーヒーを買い、ぐいと煽る。
ちひろさんのドリンクほどではないが、糖分が疲れた頭を多少でも回復してくれる。
比奈はスカウトにどう返事をするか。順当に考えて、まず受けないだろう。
荒木比奈という人物はどう見てもインドア派、オタクの部類だ。
人前に出て輝くことにあこがれを抱くどころか、むしろ忌避するようなタイプ。
だからこそ不思議に思う。なぜ先輩は、比奈に目を付けたのか。
「結局、それが判らない俺は、プロデューサーに向いてないってことなんだよ」
どこへともなくつぶやいた。
思考をほかのところへ巡らせる。マンガを作るのはなかなか新鮮な体験だった。
ことによると二度とチャンスはないかもしれない。
「あのマンガ、面白かったな」
作業に必死でしっかり読み込むことはできなかったが、比奈の漫画は躍動感にあふれ、十八ページでストーリーもまとまっており、絵も巧かった。
印刷所の締め切りを気にしていたということは、アマチュアの同人誌作家だろうか。プロでも十分通用しそうだ。
あとで落ち着いて見せてもらいたいとも思うが、仕事のことを思えば、これでお開きになるのが一番いい。
そのことに、多少の名残惜しさを感じていたときだった。
「プロデューサーっ! 戻ってきてくださーいっ! 比奈さんがシャワーからあがりましたよーっ!」
ご近所に聞かれたらあらぬ誤解をされそうな大声がきこえたので、俺は空になった缶をゴミ箱に放り込むと、比奈の部屋へと戻った。
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