70: ◆AZbDPlV/MM[saga]
2025/01/16(木) 12:25:39.45 ID:Yn/S07zg0
獄原 「ま、待ってよ! 王馬君!! もう少し話し合おうよ!」
王馬 「もう充分話したと思うけど? まだゴネる気?」
立ち塞がる獄原に、王馬は眉を顰めて見上げ、溜息を吐く。話し合いたい獄原と、さっさと行動に移したい王馬との対立。対立の原因である俺としては、獄原が大人しく退いてくれる方が助かるんだが。いや、待てよ ────
『……王馬、ちょいと待ってくれ』
獄原 「あ、星君も待ってって言ってるよ!」
俺の待ったに、獄原の顔が安堵で少し明るくなる。悪いが、獄原が望んでいるような話ではないと、心の中で断っておく。
王馬 「んー? 星ちゃんは野生猫になりたいんでしょ? それとも、やっぱり人間に戻りたいっていう捨てきれない未練でもあんの?」
『そうじゃねぇ』
獄原 「っ! …………違うみたい……」
願いとは真逆の俺の返答に、獄原は沈痛な面持ちになり、がっくりと肩を落とす。
王馬 「じゃあなに?」
── 俺は思い出し、気付いた。今、この姿だからこそやれること。それは──辺古山の夢を叶えてやれる、と。
俺だったら、辺古山を怖がったり、逃げたりもしない。中身が俺だという点を除けば、辺古山が、今まで触りたくても触れなかった動物に、触れられるということ。こんな俺でも、できることがあるなら、最後にやれることをやってから出て行きたい。
『学園を出る前に寄りたいところがある』
獄原 「うう……学園を出る意思は変わらないんだね……え、えっと、寄りたいところがあるんだって」
王馬 「ふーん? どこに行きたいの?」
上から俺の考えていることを探ろうとしているのか、瞳を覗き込まれる。瞳の動きで動揺しているかを判断するためだろう。
『とりあえずこの部屋から出してくれさえすれば、自分で行く』
獄原 「出してくれたら自分で行くって」
獄原の通訳に、王馬は眼と口許を三日月のように歪めて笑う。
王馬 「目的を言い渋るその感じ、女のとこに行くんでしょー? やらしいんだー」
俺に何を期待しての発言をしてるんだ? コイツは。
『勝手に想像してろ』
獄原 「か、勝手に想像してって」
王馬 「うん! ねっちょりな想像しとく!」
満面の笑顔で答えたかと思うと、イヤにあっさりと手を離した。もう少し鍔迫り合いするもんだと思っていただけに、肩透かしをくらった気分だ。
王馬 「ゴン太ー、星ちゃんの代わりに扉開けたげてよ」
獄原 「え? う、うん!」
獄原は王馬に言われるままに扉を開いた。開かれたその先の光景は、見慣れているはずなのに、この部屋とは比べものにならないほど広い世界が広がっていた。
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