820: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/03/24(日) 23:31:01.22 ID:6D6vTS+OO
佐藤「ちゃんと整理してよー……田中君たち……」
食べ残しや食べかけが乱雑に詰め込まれた冷蔵庫は、肥満体を維持しようとする健啖家の胃の中身のようだった。佐藤は冷蔵庫のまえでしゃがみこみ、中を覗きこんだ。ソースや脂がこびりついた食品のパッケージデザインが幾重にも折り重なって浅薄な資本主義批判が主題の現代アートもどきの森とでもいうべき光景をかたちづくっている。実際の胃のように蠕動運動と攪拌運動がこの冷蔵庫の中の光景を蠢かしていたら、宇宙的な混沌の最中にいるように感じられただろうが、冷蔵庫は冷蔵庫でしかなく、どれだけ乱雑でも手を加えないかぎり食べ物が位置を変えることはなかったので、しばらくして佐藤はおあつらえ向きのものを見つけた。
佐藤は冷凍バイク便に電話で配達を依頼すると揚げ手羽先のレシピをプリントアウトし、あとひとつ手羽先をつくるのに必要な調理器具と調味料を用意した。食材の用意はいまからする。
佐藤は鍋に油を入れ、コンロに火をかけた。油の温度が揚げ物に適したことを確認すると、中華包丁を握り、まな板の上に置いた自分の左手首に勢いよく振り下ろした。
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