812: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/03/24(日) 23:22:42.43 ID:6D6vTS+OO
サミュエルが、拳銃を抜き取り、銃口を地面に向けた。カーター氏は突然の行動にぽかんとし、「チーム」の二人も意味不明な行動に戸惑っている。二人はサミュエルの指が引き金にかかっているのを気にしていた。「チーム」のふたりと違って、カーター氏はサミュエルの表情を見ていた、いつものポーカーフェイスが、別の表情に変わるのをはじめて目撃した。
「プレイボール」
サミュエルは笑顔を浮かべて、引き金を引いた。
一発の銃弾が、百人の敵を呼びよせた。おびただしい数の敵との戦闘。まるでジャングルを形成する植物と熱帯の気候と闇が敵意を剥き出しにしてきたかのよう。戦闘中、サミュエルは笑みを絶やすことはなかった。茂みから飛び出してきたベトコンに銃剣で腹部を刺されても、お礼のように笑いながら水平に寝かしたナイフを心臓に送り返す。手榴弾がジープの荷台に転がり、炸裂しサミュエルの右脚を吹き飛ばす、「チーム」のひとりの顔面が半分になり、もうひとりの方は腹から多量の出血。カーター氏は耳鳴りに苦しみ、現実が遠のいていく感覚に襲われる。
認識が戻り、現実感を取り戻したとき、カーター氏は自分が自軍のヘリに乗っていることに気づいた。しばらくは茫然としていた。浮遊感をおぼえてからだいぶ経って安堵を覚え、カーター氏は弟の無事を確認しようと顔をあげた。サミュエルがいた。
もうその顔に“表情”はなく、その無表情は右脚が失われたことを惜しむというより、右脚が失われた状況が失われたことを惜しんでいるように見えた。
帰国後、サミュエル・T・オーウェンは軍法会議にかけられ不名誉除隊となる。
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