811: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/03/24(日) 23:21:44.64 ID:6D6vTS+OO
カーター氏の次の回想はベトナム戦争終結後、米軍の完全撤退が完了してから一年が過ぎた、一九七六年のことだ。シアトルの自宅にいた彼に軍から一本の電話がかかってきた。アメリカ兵パイロット一名がいまだベトナム国内に捕虜として囚われているとの情報を入手した米軍は、とある理由からカーター氏をサミュエルが所属していた特殊部隊「チーム」に同行させ、ベトナムの奥地まで送り込んだ。そこは、戦争終結後も戦いはまだ続くと信じていた、ベトコンのなかでもとくに狂信的な集団百人ほどが潜伏している地域だった。危険極まりない地域だったが、そこへ侵入してゆく「チーム」の隠密行動は芸術的だった。身体の輪郭を暗闇に溶け込ませるすべを持ち、葉っぱひとつ揺らさずにジャングルを潜り抜けるすべを持ち、月明かりに立つ歩哨を音も無く暗闇に引きずり込み永遠に寝かせるすべを持っていた。「チーム」の技能をまの当たりにし、また自らも同様の行動(みずから技能をはるかに越えた行動をとれたのは、「チーム」の、とりわけサミュエルのおかげといってよかった。)をとったカーター氏は、得も言われぬ興奮と感動が胸に満ちていた。厳重な警備を瞬く間に抜け、サミュエルら「チーム」三名とカーター氏は捕虜を救出。カーター氏は捕虜となっていた弟を抱きしめると、弟もまたか細くなってしまった腕で兄を抱きしめた。これには「チーム」のメンバー二人も微笑みを浮かべた。あとはピックアップポイントまで後退すればそれで任務はおわる。
カーター氏は尊敬のまなざしを向けながら、サミュエルに脱出をうながした。カーター氏はにわかに興奮していた。またあの素晴らしい「チーム」の技能を眼にできる、その動きに加わり、弟とともに故郷に帰れる。
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