新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
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791: ◆8zklXZsAwY[saga]
2019/01/26(土) 22:36:07.96 ID:ymR8HEsBO

李「あのときは……ごめんなさい」


顔の横に挙げた両手と唇を震わせながら李が言った。瞳から涙が溢れ落ちた。

田中の動きが止まった。心は激しく動揺していた。

李はゆっくりと手を下げ、瞼を閉じた。唇は噛み締められ、手は胸のところでぎゅっと握られている。

田中は大きく動揺したまま、李を見た。撃ち殺される恐怖に打ちひしがれながら、額に脂汗を滲ませ涙を哀れに幾筋も流しながら、逃げることだけはきっぱりと拒否して、李奈緒美はそこに立っていた。

田中の動揺がさらに大きくなった。眼の前の女は復讐されるに当然の人間のはずだった。なのにその顔はなんだ。なんでそんな顔をする。なんでおれみたいに助けを求める顔をして、それなのに逃げ出しもせず命乞いもしないんだ? そこで田中は気づいた。暗殺のとき、相手の顔を正面から見たのはこれが初めてだということに。田中はみずからの殺意が砂の城のようにたよりなく、たやすく波にさらわれ消え去っていくのを感じた。

背後から黒い波が押し寄せてきた。


田中「なんで……亜人の粒子が?」


驚く高橋とゲンにつられ、振り返った田中は換気口から流れ出てくる黒い粒子をいまだ動揺から立ち直られない態度のまま見やった。


田中「いや、それに……あんなすぐ消えちまうもん、こんな大量に……」


粒子の波はいまや濁流と化していた。換気口からの送風にのせられて黒い粒子が部屋を飲み込み始める。すぐ眼の前まで黒い濁流が迫ってきた。そのとき、田中の頭の中で佐藤からの伝聞の情報が線を結び、答えとなって閃いた。




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