429: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 20:29:01.29 ID:4fkctst+O
佐藤は搭乗手続きを済ませ、飛行機に乗り込むとチケットに記載されている座席番号を確認した。機内には六十名ほどの乗客がいて、旅行先での計画やコンペティションの資料の見直しをしている。結婚報告を向かう若いカップルも乗っている。
佐藤は辺りを見渡し予約した座席を探す。すこしして席を見つけそこに向かって通路を進むと、微かに音楽が鳴っているのを耳にする。うたた寝している女性の耳から外れたイヤホンから漏れ聞こえてくるその曲には聞き覚えがあった。ジョニー・キャッシュの「The Man Comes Around」。黒服の男は「叫び声に嘆きの声/生まれくる者もいれば死にゆく者もいる/アルファにしてオメガの王国が到来する」と歌っていた。
通路を挟んだ二列後方の席に座っいる男性は、タブレット端末で『ハドソン川の奇跡』を試聴している。二〇〇九年に起きたUSエアアウェイズ1549便不時着水事故とその後の国家運輸安全委員会によるサレンバーガー機長の不時着水の判断の正当性をめぐる調査を、クリント・イーストウッドが映画化した作品だった。
佐藤はその男性の一列後ろの窓側の席に腰を下ろした。腕時計で時間を確認すると、離陸まで三十分ほどある。佐藤は紙袋に手を入れ、奥山の言ったいた暇潰しを探すことにした。それは一冊の文庫本だった。チャック・パラニュークの『サバイバー』という特殊な形式の小説で、物語は第四十七章、四二七ページから幕を開ける。集団自殺をしたとあるカルト教団の生き残りである主人公は、小説の始まりのである終章のおいて、ハイジャックした飛行機の乗員乗客を「業界用語を借りれば、降機」させたあと、コックピットで独り、「ここに至る顛末を語った物語」をボイスレコーダー相手に語り始める。
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