新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
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422: ◆X5vKxFyzyo[saga]
2017/09/25(月) 20:15:55.09 ID:4fkctst+O

《「さよならだね」って最後の言葉/耳に残るから 痛いよ/今も 愛しているから》

《ぼくはあなたを愛しています、戸口でパン屑を拾っている小鳥を愛するくらいには》


 「Memories」の歌詞に、ウィリアム・ブレイクは完璧に対応していた。ブレイクの詞の言葉は、美波のなかでは弟の声の代わりを果たすものとして機能している。美波の精神にとって、声が語る詞の一節は現実の響きを持っていた。それを否定するには、永井圭が自身の喉から発した声が必要不可欠だった。だが、それは、到底望むべくもないことだった。永井圭は姿を消したまま。美波はいまこの時ほど、弟と二度と会うことはないのだと、深く絶望的な気持ちになることはなかった。

 現在、美波は精神安定剤を服用している。美波に処方された薬のいいところは、副作用が眠くなるという点にあった。真新しいスポンジがあますところなく水を吸うように罪悪感が指の先まで染み渡り、美波の身体を重く無気力な塊にしていた。身体がこんな状態だと、意識はどんどん悪い想像を働かせる。たとえば、武力行使に参加した弟の銃が、シンデレラプロジェクトのだれかに当たってしまうという想像。しかもそれは流れ弾などではなく、眉間に向けて冷徹に躊躇いなく引き金を引いたことで撃たれた銃弾なのだ。

 こういった想像から逃れるためには、薬剤の作用とそれに伴う眠りがもっとも有効だった。夢を見ることもなく、底の底まで落ち沈む。眠るというより意識喪失というほうが正確であるだろうこの状態が、美波にとってはなによりも救いになっていた。


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