326: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 13:51:34.30 ID:8mPTevMeO
永井「けっこう旨かっただろ?」
草の上に倒れるアナスタシアに向かって、永井は座ったまま、すこしも身動ぎせず説明してやった。
永井「そのキノコはイボテングタケっていってね、このあたりの針葉樹林帯にコンスタントに自生してる。イボテン酸というアミノ酸が、旨味のもとであると同時に毒成分でもあるんだ。中毒症状は二〇分から二時間で発症。腹痛、嘔吐、幻覚、痙攣、精神錯乱。意識不明に陥ることもある。きみが不死身でも、無力化する方法はあるんだよ」
永井の説明口調は、まるで妹に諭すかのようで、これは毒キノコだから、決して食べないように、と注意しているようだった。
アナスタシア「な……なん、で……どう、して……」
永井「国内四例目の亜人が、知名度のある現役のアイドル。三例目の亜人発見のすぐ後にその事実が発覚すれば、マスコミはいま以上に騒ぎ出す。そうなれば、現在僕を捜索している警察や政府の追手も、きみの捕獲に人員を割かざるをえない」
永井の声音は先ほどと少しも変わらず、やはり妹に説明するような口調だった。その声を聞いたアナスタシアの青い瞳が、毒によるものとは別の種類の揺れを見せはじめたのとは対照的に、立ち上がり、アナスタシアを見下ろす永井の瞳は、黒曜石のように小さく固まり、いっさい揺れることはなかった。アナスタシアは永井の眼を見た。その眼は、いままで見上げてきたどんな夜の空よりも、暗い色をしていた。
永井「アナスタシアさん、きみは最良のスケープゴートだ」
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