新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
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178: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 21:16:46.95 ID:5HbT9nK2O
五日目になって、二階の探索にかかろうとしたとき、通路の奥に若い女性の後ろ姿を幽霊を通して見た。研究所の中で唯一の女性だったので、わずかにスーツを着たその女性の背中に意識が向いた。ミディアムの外ハネの黒髪が揺れたかと思うと、下村は首の後ろを指で触れられたかのようにばっと振り向き、それとまったく同じタイミングで幽霊の派遣者は幽霊の身体を壁に隠した。理由の分からない焦燥に急き立てられ、黒い幽霊をもっと見つかりにくいところに隠さなければならないという思いが全身に広がった。

黒い幽霊をとっさに跳躍させると、幽霊は通路の角の壁に静かに着地した。音を出さないように素早く動かしながら、階段まで戻る。階段に足を置かず手摺を掴んでぶら下がると、直線に一度折れ曲がった階段の隙間に身体を通しまた音もなく着地する。顔を上げると、ファイルが詰まったダンボールを抱えた研究所のスタッフと眼があった。スタッフは脚を上げ腿でダンボールを支えながら右側にある資料室のドアを開けると部屋の中に入っていった。



179: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 21:21:21.34 ID:5HbT9nK2O
膝を曲げたままの姿勢で固まっている黒い幽霊の頭部が崩壊を示しはじめた。拡散する黒い粒子が空気の中へ消えていく。消滅までやり過ごそうとまだ閉まりきっていないドアを抜けまっすぐ突き当たりまで進み、三列に並ぶスチールラックの上に、ラックが揺れないよう慎重に幽霊を乗せた。ラックの上からスタッフが背に貼られた通し番号順にファイルを整理している様子が見えた。

閉まっていたはずのドアが風に揺れるカーテンのように静かに開いた。三角形の頭部を持った黒い幽霊が部屋の中に入ってきた。下村の幽霊は浮き上がったように身体を持ち上げ、資料室を見渡そうとした。派遣者はラックの上にいた幽霊の身体を回転させ、床に落とした。着地音を吸収するように両手両足が床に張り着いたまま、幽霊は動かなくなった。着地の瞬間には、頭部がもう完全に消滅していたからだ。

下村の幽霊はラックから下りると、今度は部屋のなかを歩き出した。首を動かし、ラックの間に頂角を向ける。幽霊とのリンクが途切れた派遣者はただ祈ることしかできなかった。下村の幽霊が頭部の無い幽霊がいる奥のラックの方へ進むと、ファイル整理を終えたスタッフと対面し、一歩後退ることになった。スタッフはそのまま真っ直ぐ幽霊の方に歩いてきた。下村はさらに後退し幽霊の背中をラックにつけてやり過ごすと、スタッフが出て行ってから資料室の捜索を再開した。何かの存在の痕跡は、跡形もなく消えていた。


180: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 21:24:19.36 ID:5HbT9nK2O
それから五日間、黒い幽霊が研究所内を歩くことは無かった。

二度目の失敗は一度目のときより遥かにこたえたが、しばらくすると希望的な観測が派遣者の中に生まれていた。あの亜人の女の人が美波と話をした政府の人といっしょにいるのなら、美波の弟だって外に出られるのかもしれない。いまはまだきっといろいろな検査をしているときだから、すぐではないにしてもその可能性がある以上、それを確認して見届けなければ。でも、黒い幽霊も送り込めないのにどうやって?

レインコートが雨を弾く音を聞きながら、その人物は光線が放たれてる場所を見ていた。ライトは地面に直線に走ったまま動かない。その光は目印のように固定され、誰かを導くのを待っているかのようだった。光線と爆発音がレインコートの人物の頭の中で明滅と反響を続けていた。
以下略 AAS



181: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 21:28:00.70 ID:5HbT9nK2O
切断されたフェンスをくぐり抜けたとき、地面にうつ伏せている警備員の眼を見た。警備員の眼は虚ろで死体の眼をしていた。顎から眼の下のあたりまで深い傷が刻まれていて、それが致命傷なのだとすぐに理解できた。恐怖がレインコートの人物を刺し貫いた。冷たい恐ろしさが骨格の代わりになってしまったかのようにその場から動けなくなり、喉が閉まり呼吸するのも苦しくつらい。剥き出しになった死を目の当たりにするのは、これが初めてだった。

ふたたび研究所内からさっきの爆発音と同種の音が響いてきた。その音が鳴り続けているあいだ、誰があの建物の中で死んでいる。レインコートの人物は苦しみながらなんとか口を開け、必死になって息を吐き出した。渇きを癒すために水を喉に流し込むかのように空気を大量に吸い込むと、息を止め一気に駆け出す。燻りと灰と焦げ臭さが残る東入口に彼女がたどり着いたとき、銃声はすでに止み、冷たくなった静寂が研究所をすでに満たしはじめていた。



182: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/04/23(日) 21:30:09.14 ID:5HbT9nK2O
今日はここまで。やっと『シンデレラガールズ』側の亜人を登場させることができました。

それと、亜人実写版の慧理子役の人、浜辺美波さんという方なんですね。アニメ版の慧理子と美波の中の人が同じなのはそんなに珍しくもないんですが、今回の偶然の一致にはさすがに声が出ました。



183: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:08:42.60 ID:AMJLL1TVO

緑色の照明に照らされた駐車場にショットガンで撃たれた四人の死体が転がっている。ダブルオーバックの鹿撃ち弾に撃たれ頭部か胸部が大きく欠けた死体は、警備員とオグラ・イクヤの護衛で、護衛のふたりはアメリカ人だった。


田中「銃ってなあ……結構疲れんだなあ……」
以下略 AAS



184: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:09:51.51 ID:AMJLL1TVO

田中は息を落ち着かせ、はじめてのときのようにショットガンのフォアグリップをスライドさせ、空薬莢を排出し、薬室に次弾を装填した。弾薬を使い過ぎた気がしつつも、田中はオグラ・イクヤを乗せた黒いワゴンの側面に近づいていった。


田中「出て来い」
以下略 AAS



185: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:11:28.30 ID:AMJLL1TVO

コウマ陸佐「不死身とか……それ以前の話だ。この亜人は何者だ!」


佐藤が警備員を突破し、永井圭が保管されている部屋に悠々と入っていく様子をモニターで見ていたコウマ陸佐は、苦渋に表情を歪めながら叫ばずにはいられなかった。
以下略 AAS



186: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:13:48.93 ID:AMJLL1TVO

戸崎「すみません……緊急事態でして」


戸崎はタイミングの悪さに悪態をつきたい気分だった。
以下略 AAS



187: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:16:37.80 ID:AMJLL1TVO

赤く濡れた通路に二十体以上の死体が倒れていた。仰向けの死体に、うつ伏せて四肢を投げ出している死体、普段なら曲げないであろう限界まで関節が曲がり奇妙なオブジェのように壁に寄りかかっている死体、張りつめて伸びた脚のあいだに背中を丸め頭を垂れ、額を床にぴったりつけている死体など、さまざまな姿勢の死体が廊下の前後どちらにも続いていて、冷たくなった身体の下にあるぬめった血溜まりの周縁部は水に溶け、形状をあいまいにしていた。

血溜まりは天井の灯りを反射して白く輝いていたり、反対に光を吸い込んでいるように黒く見えるものもあり、赤、黒、白の色彩はそれぞれコントラストを作っていて、それ以外の光がちらちらと散っているところは小川のようだった。二人が歩くと踏まれた箇所に波紋が広がり、濡れた通路の床はほんとうにせせらいでいるように見えた。

以下略 AAS



188: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/05/16(火) 20:17:56.02 ID:AMJLL1TVO




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