勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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70:名無しNIPPER[saga]
2016/02/28(日) 19:41:27.98 ID:09+TUdRc0
武道家「貴ッ様ぁぁぁぁあああああああ!!!!!!」

 その光景を目の当たりにした武道家が激高し、回復しきらぬ体で騎士に向かって突進した。
 右の拳を騎士に向かって振るう。
 騎士は僅かに身を躱しただけでその拳をやり過ごした。
 騎士の顔のすぐ傍を武道家の拳が通り過ぎていく。

武道家「つああッ!!!!」

 右腕を引きもどしながら間髪入れずに左の拳を騎士の脇腹に見舞う。
 しかしバシン、とまるで羽虫を払うような気安さでそれも叩き落とされた。

騎士「あっはっは!! 何キレてんだよロリコン野郎!!」

 騎士は笑い、その手に持っていた精霊剣・湖月を地面に突き立てた。
 そして握りしめた両拳を胸の前で構え、武道家に対してファイティングポーズを取る。

騎士「ホレ来い! お前の歪んだ性癖を俺が叩き直してやる!!」

武道家「おおおおおおおおおおッ!!!!!!」

 間断なく繰り出される武道家の連撃は、その悉くが躱され、いなされ、空を切った。
 騎士とて徒手空拳の戦いに関して全くの素人というわけではない。しかしその専門家である武道家と比べれば、体捌き等の技術は雲泥の差だ。
 にもかかわらず、武道家の拳は騎士に掠りもしない。
 それ程の速度差が、二人にはあった。

騎士「どんな気分だオイ!! 『武道家』のくせに『剣士』に殴り合いで負ける気分ってのは!!」

武道家「く…!! おのれ…!! おのれぇぇぇえええええ!!!!」

 ぎりりと奥歯を噛みしめて放った武道家の拳はやはりあっさりと空を切った。
 武道家の拳を掻い潜った騎士は、その勢いのまま武道家の懐に潜り込む。

騎士「そおらあッ!!!!」

 騎士の拳が地を這うように走り、武道家の腹に叩き込まれた。
 その勢いに押され、武道家の足が地面を離れる。
 ―――そしてそのまま、武道家の体は空高く射出された。

武道家「ごぶ…!」

 止まらない。ぐんぐんと武道家の体は高度を上げていく。
 遂には魔大陸の全容を見下ろせる高さまで、武道家の体は打ち上げられていた。
 魔大陸に刻まれた巨大な六芒星の光。
 霞む視界の中にその光景を捉えながら、武道家は無力感に打ちひしがれていた。
 これではまるで、初めて騎士と会ったあの時の戦いの再現だ。
 騎士の圧倒的な力に押され、無様に天高く飛ばされた自分。
 一緒ではないか。
 こんなにも変わっていないのか。こんなにもあの時のままなのか。
 ぐるりと瞳が瞼の裏に潜り込み、武道家の視界が暗転する。
 意識を手放した武道家の体がゆっくりと落下を開始した。



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