勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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71:名無しNIPPER[saga]
2016/02/28(日) 19:42:03.89 ID:09+TUdRc0
エルフ少女は己の胸を撫でさする。
既に剣は抜け、傷口もふさがっている。
なのにエルフ少女は立ち上がることが出来なかった。
腰が抜けてしまって、どうしても足に力を入れることが出来なかった。
エルフ少女(訳が分からない……気が付けば、私の手から短剣が消えていた……気が付いたら、その短剣が私の胸に突き刺さっていた……)
エルフ少女(魔王軍最強と名高い獣王と曲がりなりにも打ち合えた私が、動きを視認することすら出来ないなんて……それはもう、一体どれ程の……)
騎士「よう」
エルフ少女「はあ、う…!」
エルフ少女は息を呑んだ。
いつの間にか騎士が己の目の前に立ち、こちらを見下ろしていた。
騎士「どうした? さっきまでドヤ顔で何か言ってたろう。『腕に覚えが』何だったっけ?」
エルフ少女「う、ぐ…!」
エルフ少女は心中で自らを鼓舞し、立ち上がろうと己を叱咤激励する。
しかし、震える膝には力が入ってくれない。怯えた心は前向きになってはくれない。
つまり、エルフ少女は既に戦意を失っていた。
生まれて初めて出会う、手も足も出ない強者の存在は、彼女の自信を木っ端みじんに打ち砕いてしまった。
動けないエルフ少女に対し、騎士は剣を振り上げた。
騎士「動かなきゃ死ぬだけだぜ? それが嫌なら、呆とせず命乞いの一つでもしてみせな」
そう言って、騎士は振り下ろしかけたその剣を―――途中で切り返して自身の背後に向けて振るった。
ギィン! と赤と蒼の刃が交差する。
騎士「へ……その不意打ち上等の精神、嫌いじゃないぜ」
音も無く騎士の背後に迫り、その背に剣を振り下ろしていたのは―――戦士だった。
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