勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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72:名無しNIPPER[saga]
2016/02/28(日) 19:42:49.93 ID:09+TUdRc0
戦士「これが…これが答えか、騎士!」
騎士「あん? 何のことだよ」
戦士「とぼけるな! あの時の武闘会での貴様の言葉の真意だ! 『いずれ勇者は壊れる』などと嘯いて、最初から貴様自身が勇者を壊すつもりだったのか!!」
騎士の剣を斬り払い、戦士は両手で握った大剣を全霊で振り下ろす。
即座に体勢を立て直した騎士は、頭上に迫る戦士の大剣に己の持つ剣を合わせ、片手であっさりと受け止めきった。
ぎゃりぎゃりと音を立てて剣が鍔迫り合う中、涼しげな顔で騎士は言う。
騎士「あー、あれか。そりゃちっと誤解だぜ戦士ちゃん。俺に勇者を積極的に壊そうなんて意思はねえ。予言は依然継続中さ。あいつが壊れる時はいつか必ず来る」
騎士「あいつを一時的にも立ち直らせたのがよりによって『暗黒騎士』である俺だった、そのことがあいつの壊れる時期を早まらせるかも、ってな。あの時の俺の言いたかったことってのはそんなもんだ」
戦士「貴様は…また、思わせぶりなことを…!! 吐け!! 貴様は、何を知っている!!」
騎士「お前の知らないことをさ。……はは、ってゆーか、俺の言葉を鵜呑みにすんなよ。俺はお前らの敵だぜ?」
今度は騎士が戦士の剣を斬り払った。
その膂力に押され、戦士は体ごと後方に吹き飛ばされる。
空中で体勢を立て直し、戦士は両足から地面に着地した。
再び突貫せんと、戦士は騎士に目を向ける。
―――瞬間、戦士もまた、騎士の放つ尋常ではない殺気を、目に見える程の黒いオーラを感じ取った。
カタカタと剣が震える。
がくがくと膝が震える。
冷たい、嫌な汗が背中を伝う。
からからに乾いた喉に、ごくりと無理やり唾を流し込んだ。
戦士「おおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
雄叫びを上げ、己を鼓舞し、戦士は黒いオーラの渦中、騎士の元へと突っ込んだ。
ぶつかり合う赤い大剣と蒼い長剣。
必死に恐怖に抗い、怯えを噛み殺して騎士に立ち向かう戦士の姿は悲壮ですらある。
騎士「…は、ふは、あっはははは!!!!」
どうも、どうやらそれが騎士の琴線に触れたらしかった。
騎士「いい! 戦士お前、いいぜ!! その様子じゃ、お前は『死の恐怖』をもう知ってる! その上で、それを乗り越えて俺に立ち向かっている! 初めて会った時のような無知ゆえの蛮勇とは違う。その覚悟……惚れるぜマジで!!」
騎士の剣が戦士の剣を滑るように動く。
いつの間にか騎士の剣と戦士の剣の位置は入れ替わり、騎士の剣が上から押さえつける形になっていた。
そのまま騎士は戦士の剣を思い切り地面に押し付けた。
ずん、と音を立て、戦士の剣が地面に埋まる。
戦士「くっ…!」
すぐに剣から片手を離し、防御態勢に入ろうとした戦士だったが、遅かった。
騎士の軽く握った拳が戦士の顎を掠める。
それだけで、戦士の意識は刈り取られてしまった。
騎士「また後でじっくり遊ぼうぜ、戦士。今はちょっと、先約の相手をしてやんなきゃだからよ」
どさりと地面に倒れる戦士の姿を見届けてから、騎士はゆっくりと振り返った。
騎士「なあ、勇者」
騎士の視線の先に、勇者は立っていた。
騎士の放つ黒いオーラに相反するような、白く柔らかな輝きを纏って。
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