勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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73:名無しNIPPER[saga]
2016/02/28(日) 19:43:32.02 ID:09+TUdRc0
僧侶「……終わりました。これで勇者様の体は、限界まで強化されたことになります」
勇者の傍らに控えていた僧侶が言う。
僧侶「攻撃強化、防御強化、速度強化……宝術による呪文効果の底上げもあり、勇者様の力はこの世界で実現可能な最大値まで高まっているはずです」
勇者「ありがとう。それじゃ、僧侶ちゃんは……」
勇者が言いかけた所で、どん! と大きな音が響いた。
先ほど打ち上げられた武道家の体が地面に落ちた音だった。
落ちる前から意識を失っていたのだろう。武道家は何の受け身も取らなかった。
精霊加護に守られているとはいえ、あれだけの高さから地面に叩き付けられては無事ではすむまい。
勇者「……僧侶ちゃんは、騎士の隙をみて皆の回復を頼む」
僧侶「わかりました」
僧侶への指示を終えて、勇者は騎士の方へ向き直る。
直後だった。
一瞬で勇者へ肉薄した騎士の剣が、勇者の腹を貫いていた。
勇者「がふ…!?」
僧侶「勇者様!?」
武道家のもとへと駆け出そうとしていた僧侶の足が止まる。
勇者「だ、大丈夫だ…まだ、この程度なら…」
勇者の言葉が終わらぬうちに、騎士の剣は勇者の腹から引き抜かれ、次いで十字に振るわれた。
僧侶の呪文によって限界まで身体能力を強化されたはずの勇者だが、その剣の動きに反応することすら出来なかった。
胸を真一文字に、それに交差するように右肩から左腰へ、勇者の体が切り裂かれる。
勇者「あがあああああああ!!!!!!」
苦痛に顔を歪める勇者。
騎士は笑った。
騎士「おいおいおい!! きらきら思わせぶりに光っといてその程度かよ勇者!! 笑わせんじゃねえぞ!!」
騎士の剣が勇者の顔面を突く。
反応し、身を躱した勇者だったが―――その剣から逃れきることは叶わなかった。
騎士の持つ精霊剣・湖月の切っ先が勇者の右目を抉った。
勇者「あっぎゃあああああああああああああああ!!!!!!」
右目を押さえ、勇者は絶叫する。
その隙を突かれ、先ほど胴に刻まれた十字傷の交点を騎士に蹴りこまれた。
ずぶり、と皮がめくられ、騎士の足が傷口にめり込んでいく。
その激痛もまた、とても声を我慢できるものではなかった。
背後に吹き飛び、木の幹に激しく背中を打ちつける勇者。
僧侶はすぐに勇者のもとに戻り、回復呪文の行使にかかった。
騎士「無駄なことはやめとけよ勇者。お前だってホントは分かってたんだろ? そんな風に呪文で強化したって俺に敵いやしないってことは。じゃなきゃ、最初から全員にそれをやって俺に挑んでいたはずだもんな」
勇者「うう…うぐ…うああ…!」
右目を押さえる勇者の手の指の隙間から、どくどくと血が流れ落ちる。
騎士「俺とお前の力の差は、そんな付け焼刃で埋まるもんじゃねえ」
回復は終わった。
血は止まり、右目の視力も無事に戻った。
身体強化の効果も未だ継続中だ。
だが。
騎士「さあ、どうする?」
目の前の男に、抗う術がない。
勝てる望みなどとっくに絶たれてしまった。
それはまさしく絶望だった。
勇者「嫌だ…嫌だ…クソ、クソ……!」
涙が滲む。歯の根が合わず、かちかちと音が鳴る。
勇者は衣服の胸の辺りをぎゅっと握りしめた。
嫌だ。
本当に嫌なんだ。
だけど――――――――命をここで、捨てなくちゃ。
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