勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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69:名無しNIPPER[saga]
2016/02/28(日) 19:40:49.56 ID:09+TUdRc0
竜神「ずああッ!!!!」

 無くなったはずの右腕で、竜神は騎士の脳天目掛けて攻撃を繰り出す。
 竜神の腕は肘から先が幼女から竜のソレへと変貌しており、まともに当たればあっさりと頭蓋骨を粉砕し、脳みそをまき散らすことだろう。
 だが騎士はあっさりとその爪に精霊剣・湖月の刃を合わせ、受け止めた。
 チッ、と舌を鳴らした竜神は騎士の腕を蹴り、その反動で後方にくるりと宙返りして着地した。

騎士「お前が一番ダメージデカかっただろうに、一番早く復帰したか。しかも腕も翼も元通りと来てる。マジで蜥蜴だな。笑えるぜ」

 騎士は嘲るように竜神に向かってそう言った。
 トントンと剣で肩を叩きながら言うその様子からは、腕を蹴られたダメージなどほとんど見て取れない。

竜神「戯けめ、人間風情が調子に乗りおって……!! 竜神の真の威光を知り、己の浅はかさを後悔せよ!!」

 竜神の叫びに呼応し、大地が震動する。
 変化を解き、真の姿を解放せんとする竜神に、膨大なエネルギーが流れ込んでいく。

騎士「おっと、本当にいいのか?」

 ゴゴゴゴと大地が震動する轟音の中にあって、騎士の声は良く通った。

竜神「……何がじゃ?」

 怪訝な表情で騎士を見る竜神。
 騎士はにやにや笑いながら言った。

騎士「回復呪文による回復速度ってのは効果範囲に反比例する。効果を及ぼす範囲が広くなればなるほど回復の速度は遅くなるってことだ。まあ、当然だよな」

騎士「果たして、馬鹿でけえ竜の姿で首を刎ねられて、お前さん、回復するまでに命をここに留めてられるかい?」

竜神「戯けたことを…!!」

騎士「そう思うか? なら……やってみな」

 騎士の放つプレッシャーが変質した。
 余りに強大で禍々しいソレは、もはやどす黒い気の流れとして目に映るほどだ。
 ズズ…とこちらに意思をもって這い寄ってくるような、そう錯覚させるほどの漆黒のオーラにまともに当てられて、竜神は自身の体が震えていることを自覚した。

竜神「は…?」

 竜神は、首のない自分の肉体が地面に横たわる姿を幻視する。
 それを杞憂だと、気の迷いだと竜神は笑い飛ばすことが出来ない。

騎士「どうした? 別に俺はどっちでもいいんだぜ? お前がやりたいようにやりな」

竜神「ぐ…く…!」

 恐怖を知った。
 生まれて初めて味わう感覚に、訳も分からず滲み出てくる汗に、竜神はただ困惑していた。
 動きを止めた竜神に対し、騎士はこれ見よがしに剣を手の中で弄んだ。
 竜神はびくりと肩を震わせ、騎士の動きを注視する。
 ――――直後、騎士の体は竜神のすぐ傍まで肉薄していた。
 竜神の目は、その動きについていけていない。

騎士「賢明だな。よし、ご褒美にちょっとばかり優しくしてやろう」

 騎士は撫でるように優しく竜神の頭に手のひらを置くと、そのまま竜神の顔面を地面に叩き付けた。
 竜神の顔が地面に沈む。うつ伏せに倒れた竜神の体がびぐん、びぐんと跳ねた。



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