勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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559:名無しNIPPER[saga]
2017/06/25(日) 16:16:17.64 ID:dyU/3Fo20
――――沈黙。
長い、とても長い沈黙があった。
やがて、勇者が口を開く。伏せられたその顔からは、表情が読み取れない。
勇者「……そうだな。確かに、もうその子がお前の計画を継ぐなんてことは無理なんだろう。俺たちの世界に連れ帰り、人として育てれば、魔界なんて世界があることさえ知ることなく生きていくことも出来るかもしれない」
勇者が顔を上げた。
勇者の顔には笑みが浮かんでいた。
だけどもそれは、とても寂しくて、大事な何かを諦めてしまったような、そんな力の無い笑みだった。
勇者「だけどな――――それでもゼロじゃない。いつかその子は何かのきっかけで記憶を取り戻して、俺たちの世界に牙をむくかもしれない。そんな可能性が万が一にも存在している以上――――この子を見逃すことは出来ないんだよ、大魔王」
大魔王の顔が凍り付く。
勇者が一歩を踏み出した。
大魔王「うおあああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
奇声を発し、半狂乱で暗闇を発動させる大魔王。
そして、娘の手を引き、その暗闇に押し込もうとして――――ごとり、と大魔王の首が地面に転がった。
一拍遅れて噴き出した鮮血が娘の頬を濡らす。
娘「うゆ?」
どさりと大魔王の体が崩れ落ちた。
首を失くし、地面に血の水たまりを広げ続ける己の父の姿を、娘は不思議そうに見つめている。
勇者は振り切った剣をもう一度構えなおした。
娘が勇者の気配に気付く。キョトンと目を丸くし、首を傾げながら娘は勇者の顔を見上げている。
剣を振りかぶる勇者の姿を見ても、娘は逃げようとしない。
娘「あう。うー! うー!」
娘は勇者に向かって両手を伸ばした。
まるで、抱っこをせがむ赤子のように。
勇者の目から大粒の涙がこぼれた。
そして勇者は剣を下ろした。
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