勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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19:名無しNIPPER[saga]
2016/01/31(日) 21:48:45.82 ID:zBP9Ql630
だから『武の国』で再会した時は本当に驚いた。
あの程度の力量しか無かったのに猫ちゃんの手から逃れたのもそうだし、何より勇者は面白おかしい事になっていた。
『伝説の勇者の息子』への興味は俄然復活した。
話を聞くために、勇者を無理やり酒場に連行した。
女二人がついてきているのには気づいていたが、どうでも良かったので気にしなかった。
酒場で勇者の話を聞いて、ぞくりと背筋が震えるのが分かった。
『誰も彼もが自分を「伝説の勇者の息子」としてしか見ていない。本当の自分など、周りの人間は誰も求めてはいないのだ』
そこに至る過程に違いはあれど、勇者は自分と同じ結論に辿り着いていた。
だのに、それから取った行動が、勇者は自分の全くの真逆。
自分は自身を保つために周囲を拒絶した。それが普通で、正常だと思う。
だけど勇者は周囲を優先して自分自身を拒絶した。全くもって理解が出来ない。
百歩譲って、勇者が自分を犠牲にして周りを助けることに快感を、幸福を感じる超絶ナルシスだというのなら話は分かる。
だけど勇者の感性は、どちらかと言えば自分と同一の物だった。
周囲から物事を押し付けられた時に、「どうして俺が」とストレスを感じる一般的なものだった。
それでも勇者は周囲を優先する。自身の利益を押し殺す。
それで周囲が幸せになったとしても、勇者は幸せを感じない。
強いてその行動による勇者の利益を挙げるなら、奴はそれでようやく多少は心の平衡を保てるようになる、といった程度だ。
つまり、勇者はおそらく、周囲よりも自身の利益を優先させることに強い罪悪感を覚える性質なのだ。
他人より自分を優先することは悪い事なのだと思い込んでいる。
―――――なんだ、それは。
究極のお人好し―――いや、もはやこれはそんな次元ではなく―――人として、生物として、故障品ではないか。
そこで初めて、勇者に対して強い興味を持った。
『伝説の勇者の息子』ではなく、勇者自身に対して。
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