415: ◆DTYk0ojAZ4Op[saga]
2015/12/30(水) 01:47:49.38 ID:+mjVyJCo0
と、いうわけで、見習は今時計塔の街に居る。
盗賊という男が管理していたという空き家に身を潜め、
1週間が過ぎようとしていた。
見習「………しっかし、まぁ」
見れば見るほどなにもない家である。
ドーマータイプの角地という事は、
元は中流家庭が暮らしていた家だろう。
しかし竈も食堂も居間も、全て奥まった一角にある。
窓際には更に作業台のような机が据え付けられていて、
この家の家主はよほど生活スペースが狭かったのだと推測できる。
窓明かりを取り込むためか、
作業台の窓のみガラスが嵌めこまれている。
見習「ま、姉ちゃんもこんなもんだけど」
仕事ばっかしてるから自宅に求めるものが少なくなるんだ。
家は自らの帰りを待つものであるはずだ。
人も招かず、家庭も持たず、する事と言えば寝るか湯浴みするか、そのどちらかだけ。
姉も20の女性なんだから、良い嫁ぎ先のひとつでもあればいいのだが、
まぁ恐らく暗殺者と結婚したがる男など、それはきっと余程の物好きか、
似たような外法の者しか居ないのだろう。
見習「あ、いけね」
珈琲でも煎れようと湯を沸かしていた事を失念していた。
ここは火龍山脈南部に近く、地下水の豊富な街だ。
水資源は街を豊かにする。
長閑な地方の街を気取っていられる事も、巨大な山脈の恵みに守られているからこそだろう。
時計塔の街というだけあり、時計作りはこの街の伝統工芸だ。
魔法仕掛けの時計が幅を効かせるようになってからは時計職人たちは姿を消したと聞いたが、
彼らは時計職人から、金属板に印を刻む彫金師へと姿を変え、
未だ時計を作り続けているという。
それは執念か、それとも妄執か。
時とは人を惹きつける。
取り戻せない過去。
それは行きて帰らざる日々。
秒針がひとつ揺れる度、人々はまた何かを失くし生み出していく。
哲学者は時間の浪費にもなにかを見出すのだろうか?
未来を浪費し過去になにかを見出す事が彼らの人生だとすれば、
それは死んでいると同じ事だ。
差し引き、ゼロじゃないか。
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