僕は今宵、悪役貴族に恋をする

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2023/12/04(月) 22:54:13.75 ID:6Pd4JEq9O
「あァン? お前ェ、女だったのかァ……?」

マズイマズイマズイマズイ。バレた。とうとうこの日が来てしまった。あれだけバレないように気をつけて日々を過ごしてきたのに。
女であることを隠し学園に通い、"婚約者"である悪役貴族の目を欺いてきた『僕』のこれまでの努力が水の泡だ。そんなの、イヤだ。

「ていうか、てめェ……写真で見た許嫁……」
「は、はあ? なにを言ってるのさ。僕は正真正銘、男だよ。変な言いがかりはよしてくれ。さては君、欲求不満なんじゃないの?」

慌てて否定するあまり、口を滑らせた。悪役貴族に対する侮辱。1番やってはいけないタブー。失言に気づいた時にはもう遅かった。

「あァ……そうだなァ。たしかに近頃は欲求不満かもしンねェなァ。なンだったら、てめェで解消してやろうかァ? あァン!?」

もうなんなのこの人。怖すぎる。泣きそう。

「待ちたまえ。さすがに見過ごせないな」
「あァん? チッ……優等生のお出ましかァ」

颯爽と現れたのは僕のクラスの委員長。純白の制服とマントを靡かせ、僕を背に庇い、悪役貴族に立ち向かう。よかったー助かった。

「あなたが欲求不満なら、恋人である私に解消する義務がある。浮気は絶対に許さない」

んん? なんだこの状況は。どういうご関係?

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1701698053
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/12/04(月) 22:58:12.31 ID:6Pd4JEq9O
「ケッ……一度抱いたくらいで恋人気取りかァ? てめェなンざ、俺とは釣り合わねェよ」
「だから私は努力している。成績だってあなたに次いで学年次席だし毎日お弁当だって作っている。あなたは食べてくれないけど」
「炭が詰まった弁当なンざ食えるかァ!!」
「口ではそう言いつつも、あなたはその炭を花壇に撒いて、私の好きなお花の肥料にしてくれる。そんな優しいあなたを、私は……」
「勘違いすンじゃねェ! あの花は俺の許嫁が好きな花なンだよ!! まさかその許嫁が同じ学園に通ってるとは思わなかったがなァ」
「なに? ま、まさか! 君が彼の許嫁……?」
「ヒトチガイデスヨー?」

もうなんなのこの状況。修羅場ってやつだろうか。別に束縛するつもりはないから好きに恋愛して、僕との婚約を解消して貰いたい。

「やれやれ。これでは私はとんだ道化だな。浮気相手は私のほうだったとは……覚悟は出来てる。後は煮るなり焼くなり好きに……」
「ちょっと待てェ……魔が差して抱いちまったのは俺の落ち度だ。すまん……悪かった」

どうでもいいっての。ほっといてくれない?

「彼もこう言ってることだし、私が言うのもなんだが……許してやってはくれないか?」
「は?」

なに言ってんのこの女。虫が良すぎない?

「君が怒るのも無理はない。彼はたしかに良い殿方だ。彼以上の傑物は存在しない。だからこそ、今回のような諍いが生じてしまう。だからどうだろう? 独り占めするのではなく分かち合うというのは? そうするべきだよ」
「いや、僕はそもそもこんな奴いらないよ」
「はぁ〜やれやれ。まったく素直じゃないな。君がそんなだから浮気されるんだぞ?」

あーイライラしてきた。殴りたい。心から。
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/12/04(月) 23:03:00.69 ID:6Pd4JEq9O
「おい、お前ェ……そもそもなンで、そンな格好してこの学園に通ってんだァ?」

なんでも何も今みたいな状況に陥りたくないから。確かに僕の婚約者は顔立ちが整ってるので、こうなることは予想の範疇だったし。

「あァン? ほっぺた膨らんでンぞォ?」

触んなし。ツンツンすんなし。ほっとけし。

「チッ……安心しろォ。抱いたつっても最後までしてねェっての。当たり前だろォ?」
「知らないし。興味ないし。あっち行けし」
「やれやれ。本当に素直じゃないね、君は」

うるさいぞ、浮気女。どうせ土壇場になって怖くて腰が引けたんだろ。そもそもお前が僕の婚約者を誘惑したんじゃないのか? 絶対そうだ。そうに決まってる。でも残念でした。

「俺が愛してンのはお前だけだ。ンな当たり前のことなンざ、言わなくてもわかンだろ」
「……バカたれ」

知ってるし。言うなし。照れるし。アホめ。
くそ。だから嫌なんだ。どれだけ嫌っても。
どれだけ距離を置いても一言で落とされる。

「ンな格好してても、てめェはキレイだな」
「っ……もぉ」

最終的に。僕は今宵、悪役貴族に恋をする。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/12/04(月) 23:04:33.14 ID:6Pd4JEq9O
「あーあ……振られてしまったか。しかし、私は諦めないぞ。まだ我々は学生の身分。チャンスはいくらでもある……では、またな」

もう来んなし。てゆーか、震え声じゃない?
ちょっと泣いてるし。負けて悔しい癖にさ。
惨めすぎるから慈悲を与えたくなるじゃん。

「委員長。この先の学園生活で僕を守ってくれるなら……こいつの近くに居てもいいよ」

どのみちボディガードは必要だ。卒業するまでに孕まされたら困る。だから委員長が身代わりになってくれたらいい。卒業するまで。

「でも卒業したら……返してね」
「さて……約束は出来かねるな」

まあ、そういうものだろう。約束なんて当てにならない。破られるのが怖いから、僕はこれからも悪役貴族とは距離を置いて過ごす。


【僕は今宵、悪役貴族に恋をする】


FIN
5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/04(月) 23:08:12.61 ID:TMc09Pebo
おつおつ
6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2023/12/04(月) 23:29:45.14 ID:+n5Na7nz0
何度か続けたら
僕は今宵、悪役貴族にうんこをする になるんだろ
7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/05(火) 00:07:54.13 ID:3Zrurdtq0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1699519196/
まだお前が立てたスレ残ってんだろ
クソスレ乱立すんな
8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/05(火) 02:54:31.76 ID:32BOP2QsO
最初に依頼スレに書き込んだらまとめサイトじゃ
その後の内容はまとめて貰えないんやで
単発のスカトロスレばかり投げてたせいで
そんな基本も知らないんやなあ
9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/05(火) 12:55:20.28 ID:Ge25W1THO
スカトロパイの実くんは暫くの間
毎日深夜にパクりまみれの薄くて痛い内容を投げ続けて自己満足に浸るんだろうねえ
10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/12/05(火) 22:00:37.33 ID:OjqdnO+qO
「んぅ……あれ? どこいくの……?」
「あァン? なんだ、起きたのかァ。俺は毎朝走ってンだよ。お前はそのまま寝とけェ」
「うん……気をつけて。行ってらっしゃい」
「あァ……じゃあな」

朝、目が覚めると隣には誰もおらず室内を見渡すと僕の婚約者がジョギングに出かけるところだった。寝室を出る前に優しく頭を撫でてから額にキスしてくれた。幸せな気分だ。

「結婚したら毎朝こんな感じなのかな……」

そう独りごちて思わずにやける。そのまま二度寝しようとしてようやく僕は我に返った。
待て待て待て。なんだ今のは。夢か現実か?

「くかー……んふふ……まったく甘えん坊め」
「げ。委員長……なんでいるんだよ」

ベッドの反対側に何故か僕のクラスの委員長が寝ていた。いつもの凛々しさとはかけ離れた、だらしない笑みを浮かべている。どんな夢を見ているのやら。あ、おへそが出てる。

「ていうか、僕も何も着てないし……」

恐る恐る掛け布団の中を覗くとすっぽんぽんだった。何やってんだ僕は。最近こんな目覚めしかしていない。距離を置くって決めたのに。なんだかんだ婚約者の部屋に通ってる。

「これも全て、このポンコツ委員長が全然役に立たないせいだ。なんだよ、着痩せするとかさぁ。どこにそんな凶器隠してたんだよ」

委員長は意外と発育が豊かだった。鶏ガラみたいな僕とは雲泥の差だ。普段は高い位置で結んでいる黒髪もツヤツヤで魅力的だった。
11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/12/05(火) 22:01:55.15 ID:OjqdnO+qO
「おはようごさいます、奥様」
「おはよ。まだ奥様じゃないけど」
「これは失礼しました、若奥様」

とりあえず服を着て寝室を出ると2人のメイドが出迎えた。この子たちは僕の婚約者が奴隷市場で仕入れてきた双子らしく判別が困難なほどによく似ている。てか誰が若奥様だ。

「お食事にしますか? お風呂にしますか?」
「若様からはもうしばらく寝かせるようにと言付かっておりますが……」
「もう目が覚めちゃったからさ。あいつって毎朝どのくらい走ってるの?」
「若様は1時間はお戻りになられません」
「ふーん。ちなみに朝食はもう出来てる?」
「申し訳ございません。すぐに取り掛かりますので、今しばらくお待ちくださいませ」
「ああ、いいよ。僕が作るから」
「ええっ!?」
「わ、若奥様が、直々に!?」

なんかめちゃくちゃ驚かれた。まあ、貴族の女の子は料理しないからね。まあ、この子たちの仕事を奪ってしまうから、本来ならば控えるべきなんだけど、たまにはいいだろう。

「君たちは寝坊助委員長を起こしてきて」
「かしこまりました」
「しかしあの方はどうも寝起きが悪く……」
「手荒でも構わないよ。ベッドから叩き落とせばいくら委員長でも起きるでしょ」
「仰せのままに」

恭しく手渡されたエプロンを巻いて、髪を結おうとして切ったことを思い出す。長かった髪が懐かしい。そう考えると、今の僕を許嫁だと認識できた婚約者はたいしたもんだな。

「ま、今回はそのご褒美ってことで」
「ふぎゃっ!?」

寝室から、寝起きの委員長の悲鳴が響いた。
12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/12/05(火) 22:02:53.82 ID:OjqdnO+qO
「おォい、ちょっとツラ貸せェ」

お手軽にサンドイッチを作ってから同じ寮内の自分の部屋へと帰宅して、男子用の学生服に着替えてから登校した僕は、お昼休みに、いかにも悪役貴族な婚約者に絡まれていた。

「なに? 学園内では絡んで来ないでよ」
「てめェ……いつの間に料理なンざ……」
「ああ、あれ? あれは委員長が作ったんだよ。本人からそう聞かなかった?」
「ケッ。あの優等生が嘘をつけるわけねェだろォが。ハッハァ! 人選を誤ったなァ?」

つくづく使えないポンコツ委員長め。だったらあの双子メイドが作ったことにしとけば良かっただろうか。しかし、あの2人の手料理なんて食べ慣れてるわけで結局はバレたか。

「そもそも俺ァ朝は食わねェんだよ」
「あっそ。余計なことして悪かったね」
「あァン? ちげェなァ。そうじゃねェ」

何が言いたいんだと訝しむと抱きしめられ。

「最ッ高ォに美味かった。ありがとなァ」
「……バカたれ」

こいつは本当に。悪役貴族の癖に軽々しくお礼を言うなよな。暫くはこいつの部屋に行くつもりはなかったのに。朝食なんて、結婚するまではお預けのつもりだったのに。もぉ。

「そォいやあの優等生の弁当も少しはマシになってたが……あれもてめェの仕業かァ?」
「しーらない」

婚約者に炭を食べさせ続けるのは阻止した。


【僕は黎明、悪役貴族に餌付けする】


FIN
13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/06(水) 01:34:04.09 ID:Sjjltse60
>>8
自演バレバレやぞ
文章が意味不明すぎるでw
14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/06(水) 17:06:20.21 ID:gJtpXjuyO
>>13
「まだ書きかけなのにこのスレが既に>>1によってHTML化依頼に出されてるから、これ以降の内容はまとめてもらえないよ?>>1馬鹿なの?」
って意味やで
15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/12/06(水) 22:19:50.96 ID:cOn33GSDO
「許嫁殿、これで本当に大丈夫なんだな?」
「うん、大丈夫。あとは焼くだけだからさ」

その日、僕と委員長は休日ということもありお菓子作りに精を出していた。個人的に普通のクッキーよりもサブレのほうが好きなのでバター多めの焼き菓子である。良い匂いだ。

「よし! 5時間くらい焼けば完成だな!」
「5時間焼けば立派な炭の出来上がりだね」

この通り、委員長は壊滅的に料理が出来ない。なので生地はもちろん僕が作り、委員長は形を整えただけだ。大きさにやたら拘り、巨大なサブレ1枚だけが、委員長の造形だ。
ちなみに僕はなんとなく、鳩の形に作った。

「楽しみだな。喜ぶ顔が目に浮かぶ」
「どうだか」

あいつの喜ぶ顔なんて、どうせ邪悪に決まっているだろうけど、悪党特有の無駄に爽快感がある笑い声は嫌いではないかも知れない。

「奥様、お迎えにあがりました」
「だから奥様じゃないってば」
「これは失礼しました、若奥様」

ちょうどサブレが焼き上がった頃、悪役貴族の使いである双子メイドが現れた。何度言っても奥様扱いするメイドたちに連れられて、焼きたてのサブレを手土産として、あいつの部屋に向かうと、当然のように呼ばれてもない委員長がついてくる。たいしたもんだよ。
16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/12/06(水) 22:21:32.13 ID:cOn33GSDO
「若様、若奥様とお客様をお連れしました」
「おォ、来たか。まァ、テキトーに座れェ」

悪の巣窟に足を踏み入れると、悪役貴族は読書をしていたようで本から顔をあげて僕らを出迎えた。いや、出迎えてない。しかし、小難しそうな本に目を通している姿を見ると、怠惰なのか勤勉なのか判断がつかなかった。

「今日はえーと、なんだったか……」
「サブレ」
「そう! サブレを焼いてきたんだ!」
「ハッ! 焼き菓子ってことは、まさか5時間も焼いて炭化してねェだろォなァ?」
「ギクッ! あ、はは……なんのことやら」

ご明察。だけど大丈夫。時間指定で焼いた。

「おォい、焼き菓子に合う紅茶を出せェ」
「かしこまりました」
「すぐにお出しします」

双子メイドがテキパキと上等な茶葉を取り出して紅茶を淹れる。すっきりとした香りと甘いバターの香りだけで、もう美味しそうだ。

「ほら、委員長」
「ほ、本当に私でいいのか? きっと許嫁殿がやってあげたほうが喜ぶと思うが……」
「いいから、やって」

サブレ作りを教える代わりに、委員長には司令を与えていた。内容は簡単で単純。手作りサブレを、僕の婚約者にあーんする役目だ。
17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/12/06(水) 22:22:40.69 ID:cOn33GSDO
「あ、あーん」
「あァン? 何のつもりだァ?」
「きゅ、急に振り向くな! あっ……」

意を決して、あーんを敢行した委員長だったが前のめりすぎたのか、振り向いた悪役貴族とサブレが接触。無駄にデカいサブレが割れてしまった。本当にポンコツ委員長で困る。

「あぅ……せっかく上手に出来たのに……」
「拾えェ」
「え? でも、床に落ちたぞ……?」
「いいからさっさと拾えェ!!」

言われるがまま、委員長が床に落ちたサブレを拾い集めると、そのひと欠片をつまんで口に放り込んだ。そのまま咀嚼して催促する。

「次だァ。もっとよこせェ!」
「あ、うん……えへへ、美味しいか?」
「あァ……そうだなァ。ハッハァー! てめェが作ったとは思えないくらい美味いなァ」

何もかもお見通しみたいな顔をして。思った通りの邪悪な笑みを浮かべて。僕の婚約者は委員長にあーんされてご満悦だ。むかつく。

「ぐぬぬぬ……!」
「お、奥様……?」
「お顔色が優れませんが……?」

僕の計画では委員長があーんするも婚約者は食べず、仕方なく僕があーんしてやる予定だった。サブレが割れるアクシデントがあったとはいえ、他の女の手から餌を貰うなんて言語道断。これは完全に浮気だ。だ、駄犬め。
18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/12/06(水) 22:26:00.65 ID:cOn33GSDO
「メイドちゃんたち、あーん」
「へ? お、奥様……?」
「わ、私たちにくださるのですか……?」
「僕はそもそも君たちのために作ったんだ」

待ても出来ない駄犬にお仕置きするためにメイドにご褒美を与える。この子たちはなんだかんだ甲斐甲斐しく僕の世話をしてくれる。
この部屋に来ると、まるで僕が主人のよう。

「ほら、遠慮しないで僕の隣にお座り」
「は、はあ……では、失礼します」
「お、仰せのままに」

素直にソファに座ったメイドたちにサブレを差し出して交互にあーんしてあげた。口が渇くだろうからついでに紅茶も注いであげる。

「美味しい?」
「はい! とっても!」
「でも、これは若様のために奥様が……」
「いーのいーの。僕らだけで食べちゃおう」

あんな駄犬は、床に落ちたのだけで充分だ。

「やれやれ。だから最初から素直に自分で食べさせてあげたら良かったのに……」
「なんか言った? 浮気女」
「そもそも許嫁殿が素直になれば……!」
「ほっとけェ、もっと近くに寄れェ」
「わわっ!」

口答えしてきた委員長を睨みつけると、駄犬が肩を引き寄せて膝に座らせた。そのまま抱き寄せて、邪悪に嘲る。あったまにきたぞ。

「メイドちゃん! もっとそばに寄って!」
「は、はい!」
「こ、こうですか?」
「もっと! 僕に抱きついて!」
「お、奥様……あったかい」
「いい香りがします……」

へへーん。こっちは両手に花だ。参ったか!
19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/12/06(水) 22:30:13.31 ID:cOn33GSDO
「チッ……掴まってろォ、河岸変えンぞォ」
「へ? うわっ! ど、どこに行くんだ!?」
「寝室に決まってンだろォがァ」

あいつめ。分が悪いと察したか、尻尾を巻いて逃げようとしてるぞ。しかも委員長をお姫様抱っこして、最後まで僕を挑発してきた。

「ハッ! てめェはそこでメイドと戯れてろ」

バタンと扉が閉まる。最低の駄犬だ。屑め。

「お、奥様……?」
「謝って許して頂いたほうが……」
「僕は絶対に謝らない」

そもそもあいつが他の女から食べ物を恵んで貰った時点で悪い。なのにアクシデントのせいで美談みたくなってるのがおかしいんだ。

「寝室に突撃する」
「ふぇええ!?」
「お、奥様、お考え直されたほうが……」
「君たちも連れていくよ」
「わ、私たちもですか!?」
「たしかに、若様よりいつ何時も奥様を最優先するように仰せ使っておりますが……」

余計なお世話だ。でも、嬉しいのが悔しい。

「じゃあ、僕の決定は絶対だね」
「はい……どこまでも」
「いつまでも、お供いたします」
「ならば、悪役貴族の寝室にいざゆかん!」

ドアを開けると委員長が全裸で縛られてた。
現行犯であり御用だ。悪役貴族を退治する。
緊縛委員長を押し倒している浮気者の背中にのしかかり、メイドちゃんたちが委員長をベッドの上から排除して、婚約者の首を絞め、メイドちゃんたちに必死に止められて、僕は泣き喚き、そこから先はよく覚えていない。
20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/12/06(水) 22:32:18.53 ID:cOn33GSDO
「んぅ……おはよ」
「おォ……起きたかァ。ハッハァ! てめェはこの俺よりも悪役貴族みてェだなァ!」

朝起きると僕は両脇に全裸の双子メイドたちを抱いていた。わざわざ確認するまでもなく僕も全裸である。よもや悪役貴族に悪役貴族呼ばわりされる日が来ようとは。世も末だ。

「肩とか首、ごめんね。痛くない……?」
「あァン? こンなのかすり傷だっての」

日課のジョギングに出かけるために着替えている婚約者の肩や首筋にくっきりと歯形がついている。言うまでもなく僕の歯形だった。

「この子たち、いい子だね……」
「どォやら気に入ったようだなァ」

両脇のメイドちゃんたちはすやすや寝てる。
結構無茶をした気がするけど最後までついてきてくれた。2人とも僕より発育が良いな。

「大事にしてあげなよ?」
「あァン?」

婚約者は何言ってんだこいつみたいな顔で。

「俺のもンはいずれ全て、てめェのもンになる。だからてめェが大事にしてやれ」
「うん……わかった」

朝だからだろうか。僕は素直に頷き従った。

「ハッ……やけに素直じゃねェか」

揶揄うようにくしゃくしゃと僕の短い髪を撫でる婚約者がたまらなく愛おしい。思わず袖を通したジャージの裾を引き、引き寄せて。

「ん……いってらっしゃい」
「ハッハァ! マラソンでも走れそうだなァ」

僕のキスには、42.195キロのパワーがある。


【僕は昨夜、悪役貴族を退治した】


FIN
21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/12/07(木) 00:17:13.04 ID:jzxXRj0z0
最後ひっどいなあ
キロメートルとキログラムの区別もついていない池沼なん?
22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/12/07(木) 22:57:28.73 ID:bg1X56IiO
「ねえ、双子ちゃんたち、なんかあった?」
「だいたいてめェのせいだァ」

その日、双子メイドちゃんたちの様子がおかしかった。いつもは肩を寄せ合うくらいにくっついるのに、この日は距離が離れていた。

「僕のせいってどういうこと?」
「ケンカしたんだとよォ」
「ケンカ? なんで?」
「なンでも、てめェがどっちが好きかで揉めたらしいぜ。ハッ! モテモテじゃねェか」

どっちが好きって、どっちも好きだけど。でもまあ、モテることは素直に嬉しい。ただケンカはよくないから早く仲直りするべきだ。

「2人とも、ちょっとおいで」
「はい、奥様」
「なんでしょう、奥様」

機敏に僕の前にきたメイドたち。近頃はどっちが姉でどっちが妹かわかるようになった。
ひとまずはお姉ちゃんのほうから聴取する。

「妹ちゃんと何かあったの?」
「妹は奥様に甘えすぎなんです」

たしかに妹ちゃんのほうが甘え上手かもしれない。お姉ちゃんのほうは控えめというか、常日頃から我慢しているのだろう。手招く。

「お姉ちゃんも甘えていいんだよ?」
「ですが、私どもはあくまでメイドで……」
「建前なんかどうでもいいよ。君はきっと、お姉さんという立場だから妹ちゃんのことを思って遠慮してるんでしょ? 優しいもんね」

お姉ちゃんのほうはしっかりしている。立場や建前を重視しているのだろう。とはいえ、僕はやっぱり、平等に接するべきだと思う。
23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/12/07(木) 22:58:41.65 ID:bg1X56IiO
「僕に出来ることならなんでも言ってよ」
「なんでも……ですか」
「うん。遠慮はいらないよ」

するとお姉ちゃんはチラチラ妹を見ながら。

「ぎゅっと……抱きしめて欲しいです」
「お易い御用だよ。はい、ぎゅー」
「はぅ……ありがとうございます」

ぎゅっと抱きしめると、身体が熱かった。

「妹ちゃんもぎゅーする?」
「私はほっぺに口付けを……」
「ちょっと! いい加減にしなさい!」
「そうやって我慢ばかりして。お姉ちゃんだって奥様にちゅーして欲しい癖に」
「私は、たまに……気が向いた時にでも……」

素直な妹ちゃんと素直になれないお姉ちゃん。なんて可愛いんだろうか。でもケンカは良くない。だから僕は2人にキスをしよう。

「はい、これで仲直り」
「奥様……幸せです」
「お姉ちゃんを甘やかして頂き嬉しいです」
「僕のほうこそ懐いてくれてありがとね。君たちと一緒にいられてとても幸せ……ん?」

これにて一件落着と思いきや、ふと隣を見ると委員長と婚約者が口付けを交わしていた。
静かだなと思ったら、こいつら浮気してた。
24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/12/07(木) 22:59:45.70 ID:NqBdHAY3O
「なにやってんの?」
「あァン? 見せもンじゃねェぞォ」
「許嫁殿の代わりにお勤めを果たしてる」
「へー。ふーん。まあいいけどさ」

この浮気者どもは完全に開き直っていた。
僕の隣でよくもまあそんな真似が出来る。
とはいえ、僕は大人なので気にしないぞ。

「あっ……そんな、服に手を入れたら……」
「どうせ脱がすンだから気にすんなァ」

馬鹿みたい。そんなんで僕は乗せられない。

「ひぅっ……お、奥様……手が……」
「もっとしてください……」

ああ、悪い手だ。恥ずかしがり屋のお姉ちゃんと積極的な妹ちゃんを無意識に弄ってしまった。いけないな。悪役貴族になっちゃう。

「先にベッドを借りるよ」
「好きにしろォ。俺らは先に風呂だァ」

婚約者を睨みつけて、ふんっと鼻を鳴らす。
すると奴はハッと鼻で笑ってきた。本当にむかつく。でも、何故かムラムラする不思議。
25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/12/07(木) 23:00:49.02 ID:FiPLuEiwO
「おォい、寝ちまったかァ……?」
「……まだ起きてるよ」
「寝れねェんだろォ?」
「そっちこそ」

色々と終えたあとに、僕らは反省会をする。
みんな寝静まり、ようやく2人きりだから。
溜まりに溜まった鬱憤を、発散する時間だ。

「で? 委員長のキス、そんなに良かった?」
「てめェとのほうが格別に決まってンだろ」
「……したいならしてあげる」
「ハッ……こっちの台詞だァ」

ずっとしたかった。いつまでもしてられる。
僕はどうしても素直になれない。でもだからこそ、このひと時が格別に感じるのだろう。

「んっ……はぁっ……僕が支配したい」
「ハッハァ! てめェはそれだからたまらねェ……お前だけが、俺の理想的な許嫁だァ」
「あんっ……はあはあ……バカたれ」

いつの日か悪役貴族を犬みたいに従えたい。


【僕は深夜、悪役貴族とキスに耽る】


FIN
26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/12/08(金) 23:08:09.03 ID:x5BJorTLO
「ただいまー」
「おかえりなさいませ、奥様」
「お食事はもう少々お待ちください」

この頃はわざわざ自分の部屋を経由するのが面倒で悪役貴族の部屋に直帰している。途中、何人かの下級生の女の子に告白された。
なのでその件でマウントを取ろうとしたら。

「おォ……帰ったかァ」
「ん? なんでお風呂上がりなの?」

婚約者は、濡れた髪をタオルで拭いていた。

「ハッ! てめェの帰りが遅いからだァ」
「あ、そう……そういうことね」
「お、お待ちください奥様!」
「寝室にはまだお入りにならないほうが!」

メイドたちの制止を振り切って寝室の扉を開けると全裸の委員長が疲れ果てて寝ていた。
まあ、予想通りさ。万年発情期の駄犬めぇ。

「浮気女の委員長は晩御飯抜きで」
「かしこまりました」
「仰せのままに」

メイドたちに指示を出して、ふんと鼻を鳴らして扉を閉めようとした直前。"ソレ"に目が留まった。委員長の証。純白の制服である。
27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/12/08(金) 23:09:53.09 ID:UREF9f0sO
「じゃーん! どう?」
「あァン? って、お前ェ、その格好……」

久しぶりの女子の制服。足がスースーする。

「かわいい?」
「チッ……言わなくてもわかンだろォがァ」

ほう。言わないつもりか。なら考えがある。

「よいしょっと」
「っ……てめェ、なンのつもりだァ?」

婚約者の膝に乗り、胸に片耳を当ててみる。

「心臓の音を聞いてるの」
「だァからァ、それになンの意味が」
「シッ……お黙り。静かにして」

ドクンドクンがドクドクと速くなってきた。

「……気がすんだかァ?」
「ん……もうちょっとだけ」
「俺ァ気が短けェんだよ」

顎を掴まれてキスされそうになったけれど。

「はい、ストップ」
「もがっ!?」

手のひらで婚約者の口を押さえて、囁いた。

「残念でした……バ・カ・た・れ」
「てめェ……俺よりも性格悪いよなァ」

はーすっきりした。悪役貴族へのお仕置きを終えて膝から降りる。純白の制服の袖口を嗅ぐと、当然ながら委員長臭かった。すると。

「奥様、お風呂の準備は出来ております」
「どうか早急にお召し替えくださいませ」
「ありがと。さすが僕のメイドちゃんたち」
「はぅ……お褒めの言葉、恐悦至極です」
「奥様のために、これからも尽くします」

ポイポイっと下着まで脱ぎ捨て、チラッと婚約者を振り向くと口元を押さえて赤面していたので気分が良い。さ、お風呂お風呂っと。
28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/12/08(金) 23:17:59.23 ID:E7xQmPjmO
「勝手に私の服を持ちだすな、許嫁殿」
「勝手に僕の婚約者に抱かれるな、浮気女」

広い湯船に浸かりリラックスしていると、目を覚ました委員長が殴り込んできた。当然ながら、浴室なので全裸である。デ、デカい。

「今日は許嫁殿の帰りが遅いのが悪い」
「満足そうに寝てた癖に……」
「どこかの許嫁殿のせいで服がなく、寝起きは最悪だったが……やれやれ。まあいいさ、水に流してやろう」
「うわっ……ちょっと近くにこないでよ」
「ふぅ〜極楽極楽」

掛け湯をしてから湯船に浸かる委員長は、やたら近い。スベスベの肌が肩に触れる距離。
お団子にまとめた黒髪。うなじがやらしい。

「委員長……えっちすぎ」
「許嫁殿だって、なかなかではないか」

は? どこがだよ。僕なんてぺったんこだぞ。

「許嫁殿は知らないのだ」
「知らないって、何がさ」
「彼が私を抱く時は毎回許嫁殿の名を囁く」
「げほっ……は、はあ!? なんだよそれ!」
「それがまた堪らんのだ。ゾクゾクする」

ちょっとでも気の毒に思った僕が馬鹿だった。委員長はある意味すごい。えっちな委員長を求めてやまない男どもは大勢居るだろうけど当の委員長が求める背徳感はきっとあの悪役貴族にしか与えられない。数奇な運命。

「まあ……浮気相手が委員長で良かったよ」
「うむ! 私に感謝するがいい! あっはっは」
「なに笑ってんのさ……バカたれ」

その清々しい愚かさに免じ夕食を与えよう。


【僕は夕刻、浮気相手と湯船に浸かる】


FIN
29 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/12/09(土) 23:29:43.63 ID:3NrJFa0PO
「どうしたの、委員長? 具合悪いの?」

ある日のこと。今日は期末テストの答案が返ってきてクラスメイトは一喜一憂していた。
そんな中で、委員長は机に突っ伏している。

「うう……テストの順位が……」
「どれどれ……おお! また2番じゃん」
「母上に叱られる……どうしよう」

委員長はこんなんでも優秀だ。順位は2位。
ちなみに1位は入学してからずっと僕の婚約者である。こいつらいつ勉強してんだろう。

「2番じゃだめなの?」
「私の母上は厳しくてな……1番になれねーならさっさと国に帰ってこい!って怒るんだ」

委員長のお母さんかぁ。見ての通り、黒髪の委員長は外国からの留学生だ。東の帝国の人たちは黒髪が特徴である。強制送還は困る。

「お母様に僕からお願いしてあげようか?」
「それは本当か、許嫁殿!?」
「うん。委員長がいなくなったら大変だし」

まず間違いなく僕は秒で妊娠するだろう。それに委員長なしだとあいつとの距離感が掴み難い。そうした意味では良い緩衝材である。

「ならば早速、スマホでメッセージを……」
「すまほ?」
「ああ、この国では圏外だったな……では手紙にしよう。やはり持つべきものは友だな」
「別に、友達じゃないし……ま、いいけど」

とか言いつつも満更ではない。というかどのみち、手紙には友達を転校させないでくださいと書くほかないのだ。仕方ないなーもぉ。
30 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/12/09(土) 23:31:22.89 ID:gS6GJueMO
「ただいまー」
「おかえりなさいませ、奥様」
「たのもー! 今日も邪魔するぞ!」
「若様がお休みなのでお静かに願います」

ポストにお手紙を投函して悪役貴族の巣窟へと帰った。道中、何故か委員長が手を繋いできて恥ずかしかった。僕がやめてって言っても仲良しは手を繋ぐものだとか言って離してくれないし。カップルだと思われるじゃん。

「あいつ、寝てるの?」
「はい。恐らくは勉強疲れかと」
「ふむ。それなら許嫁殿、私に妙案がある」
「お耳を貸さないほうがよろしいかと」
「このメイド……失礼すぎないか?」
「聞くだけ聞いてあげる。妙案ってなに?」

僕の忠実なるメイドたちに冷たくあしらわれて涙目の委員長の妙案とやらを聞くことに。
どうせろくでもない妙案だろうと思いきや。

「許嫁殿、これは素直になるチャンスだぞ」
「チャンスって何が?」
「彼が寝てる時なら素直になれるだろう?」

ふむ。なるほど、確かに……って、いやいや。

「そもそも、なんで僕がそんなことを……」
「彼は君のために1番を取り続けてるんだ」
「へ? なにそれ、どゆこと?」
「それが婚約の条件らしいぞ」
「そんなの初耳。君たちは知ってた?」
「はい……実はその通りでございます」
「若様からは口止めされておりました」

メイドたちに確認すると事実らしい。僕は別に1番じゃなくたっていいのに。でも僕のために頑張ってるなら、ご褒美をあげないと。

「でも、いきなり素直にって言ったって」
「なに、思いの丈をそのまま言えばいい」
「簡単に言うけどさ……まあ、頑張るよ」
「奥様、ご武運を」
「美味しいお食事をご用意しておきます」

僕はドキドキしながら寝室へと踏み入れた。
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/12/09(土) 23:32:43.97 ID:rA0Wf9bbO
「おーい……寝てる?」

返事はない。僕の婚約者は学生服のまま、ベッドの脇のテーブルに突っ伏して寝ていた。
肩にかけられたタオルケットはメイドちゃんたちが用意したのだろう。そっと寝顔を覗き込むと、改めて、端正な顔立ちだと思った。
普段のような邪悪な笑みも、鋭い眼光も鳴りを潜めて、僕の婚約者は若干幼くも見えた。

「えーと……とりあえず、テストお疲れ様」

返事はない。これでいいのか。もっと何か。

「あとは……その……あ、ありがとう」

違う。僕が言いたいのは、そうじゃなくて。

「……好き」

思えば初めて言ったかも。込み上げてくる。

「僕はその、なかなか素直になれなくて……この学園に入学したのも、会ったこともない婚約者がどんな人か気になって……そしたらめちゃくちゃ怖そうで、女の子にモテモテで。だから僕は、結婚する自信がさ……すっかりなくなっちゃって。それでこんな格好して、陰から見てるしかなくて……ごめんね」

そんなつもりはなかったのに。言葉と共に涙も止まらなかった。寝てる人に言い訳したって、謝ったって意味ないのに。だけど僕は。

「ぐすっ……だけど僕は……素直になれない」
「ハッ……別に良いンじゃねェのかァ?」
「へ? は、はあっ!? お、起きてたの!?」

むくりと身を起こした悪役貴族。でもいつものように嘲笑うでもなく優しい眼差しで見つめてくる。そっと涙を拭う手つきも優しい。
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/12/09(土) 23:34:07.49 ID:M/wh8oxsO
「てめェが素直だろうが、素直じゃなかろうが……俺ァ、てめェを愛してる。だから、そンなどうでもいいことで泣くンじゃねェよ」

ずるい。卑怯だ。むかつく。全然上手くいかない。何がチャンスだ。ポンコツ委員長め。
嫌だ。優しくすんな。素直になりたいのに素直になれない自分が、嫌いでしょうがない。

「僕を……憐れまないで」
「ハッ! ちげェなァ。欲情してるだけだァ」
「……バカたれ」

本当に最低だ。僕はこんなに優しくされて、こんなことしか言えない。同情や憐憫を誘う涙は、枯れ果てることがない。悔しかった。

「……キスさせてよ」
「泣いてる女を抱くのは趣味じゃねェ。まずは飯が先だァ。その前に、顔ォ洗ってこい」
「……いじわる」
「ハッハァ! なンせ俺ァ悪役貴族だからな」

僕の婚約者は甘く優しい素敵な悪役貴族だ。


【僕は夕食後、悪役貴族にキスをせがむ】


FIN
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