狼魔王とチビ勇者

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1 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2023/09/10(日) 18:03:09.77 ID:OSEfFxB00

 魔王が布をはぐと、現れたのは人間の赤子だった。


 赤子はぼんやりと魔王を見つめている。魔王の姿は大人が泣きわめくほど恐ろしいはずだが、赤子におびえる様子はない。

 しばらくして赤子の目がとろんと力を失った。目元を手でクシクシとこすったあと、穏やかな寝息を立て始める。

 粗末な寝台には柔らかそうな藁が敷きつめられていて、赤子を優しく包み込んでいる。

 赤子の正体が勇者であると、魔王にはひと目見たときから分かっていた。

 勇者を眺める魔王の目にはいくつもの感情が揺れている。憎しみ、哀れみ、期待、そして──諦め。

 魔王には確信があった。赤子が成長しどれだけ力をつけようと、その先には無惨に殺される運命が待っている。ならばいっそ。

 魔王の大きな手がゆっくりと赤子へのびていく。


 撫でるためではなく、一瞬で命を奪うために。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1694336588
2 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:07:15.27 ID:OSEfFxB00

 千年前

 魔王城 玉座の間

『勇者1人目』

 ハア、ハア……ッ

風の勇者(なんだよ話が違うじゃねえか!  即位して間もない新人魔王だって聞いたから楽勝で倒せると思ったのに……強すぎる!)

狼牙の魔王「……」ゴゴゴ

風の勇者(人狼のくせになんだこの強さ。人狼族はもっと華奢で知能も低いはずなのにこいつは違う。

 黒い毛皮の下は鋼鉄の筋肉に覆われ戦術にも無駄がない。明らかに異質だ)

魔王「戦闘中に休憩とは余裕だな勇者。それとも力を使い果たしたか?」

風の勇者「んなわけねえだろ。見せてやるよ、俺の本気をな」スッ

 ダダダッ

魔王「ふはは、それでよい。もっと吾(おれ)を楽しませるがいい!」ブンッ

 グシャリ

魔王「む?」

 シーン

魔王「なんだもう死んだのか、つまらん。しょせん勇者など最強の魔王にかかれば赤子と同じよ!」

 フハハハハ!
3 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:09:27.98 ID:OSEfFxB00

『勇者26人目』

魔弾の勇者「なんで、なんでよっ」

 ドンッ ドンッ

魔弾の勇者「今までこの魔砲弾で倒せなかった敵はいないのにっ」ドンッ

 バチィン!

魔弾の勇者「なんで片手一本で弾かれるのっ!」

魔王「まさかこの程度ではなかろう? 貴様の本気を見せるがいい」

魔弾の勇者「くっ……やってやる。見なさい、これが私の全身全霊!」コオオ…

 ドバンッ

魔王「ふははよいぞ、そうこなくては──」

 シュンッ……

魔王「む、魔砲弾が消えた?」

 ザアアッ……

魔王「魔力を使い果たして体が砂になったか……興ざめだな」フウ


『勇者198人目』

剣士「なにするの勇者やめて……ぎゃっ」ブシュ

魔法使い「やめよ勇者、操られておるのか? いま助け……ぐぎ」ズバン

信念の勇者「ひひ、ひ。どうせみんな死ぬんだ。こんな強いやつに勝てるわけ、ないんだから」スッ

 ザシュッ ドサリ

魔王「……仲間を殺した末の自害か。見苦しいな」

魔王(勇者はみな弱すぎる。魔王に即位して50年。強者と戦えることを期待して玉座に座ったというのに、これではなんの意味も……)
4 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:12:31.49 ID:OSEfFxB00

『勇者340人目』

聖なる勇者「くそが、こうなったら盾役につれてきた奴隷どもを囮に逃げ──ぐぎゃ」グシャッ

奴隷たち「……っ」ガタガタ

魔王「……」スッ

 シッ シッ

奴隷たち「! ……っ」ダダッ

魔王「まったく……む?」

 タタッ

奴隷の子供「……タスケテ、クレテ……アリガト」

 タタッ

魔王「……」


『勇者571人目』

嘘つきの勇者「いいのか? 私はお前よりはるかに強い。いまのうちに降伏したほうが身のため」グシャッ


『勇者678人目』

剛拳の勇者「へへ、誰にも俺には敵わなかった。俺の拳で貴様も熟れた果実みたいにつぶしてや」グシャッ

────

───

──

『勇者15373人目』

木剣の勇者「うわっ」ドサッ

 カランカランッ

木剣の勇者(くっそ、勝てる気しねえ)ギリッ

魔王「ふむ。まだ若いが見どころのある戦いぶりだった。

これまで吾に挑戦した勇者は全員殺してきたが、貴様には機会をやろう。修行を積み数年後また城へ来るがいい」

木剣の勇者「……そうやって安心させといて背後から攻撃するつもりじゃねえの?」

魔王「吾は絶対に約束を守る。さあ、行け」
5 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:14:36.45 ID:OSEfFxB00

 10年後

『勇者15400人目(再戦)』

 ズガアアアン!

木剣の勇者「はあっ……くそ、相変わらず強いなあんたは!」

魔王「貴様も強くなったぞ。ずいぶん修行したのではないか?」

木剣の勇者「もちろん修行もしたけど、強くなった理由はそれだけじゃない」

魔王「いったいどんな方法を使ったのだ? 古代魔法か? あるいは禁術か?」

木剣の勇者「子どもができた」

魔王「……む?」

木剣の勇者「愛する人と出会って子どもが3人産まれた。俺が強くなれたのはそのおかげだ」

魔王「ふっ」

 フハハハハ!

魔王「冗談もたいがいにしろ。子どもができたから強くなっただと?」

木剣の勇者「ま、あんたには理解できないよな。でも俺が強くなったのは事実だ。そうだろ?」

 ゴゴゴ……

魔王(ほう、素晴らしい闘気だ)

魔王「確かにそうだな。あまりに予想外の答えで思わず笑ってしまった。無礼だったな、許せ」
6 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:18:40.28 ID:OSEfFxB00

木剣の勇者「はは、あんたのそういうとこ嫌いじゃないぜ」

 スッ

木剣の勇者「だから俺は負けるわけにいかないんだ。あんたは先代の魔王と違ってむやみに人間界を襲ったりはしないが、それでも何十年後かには俺の家族の村も侵略する。そうだろ?」

魔王「ああ」

木剣の勇者「ここで食い止める。家族の未来のために、俺を信じている全ての人のために!」ダダッ

魔王「来い! 久しぶりに全力で相手をしてやろう」フハハ

──

 ドゴオオン!

魔王「どうだ勇者、吾の拳を受けてみろ!」

 ドンッ ドガンッ

魔王「どうした圧倒されているのか? まだまだ貴様の実力はこんなものではなかろう」

 スッ

秘書「魔王様、そろそろ」

魔王「なんだ秘書、見ての通り吾は忙しい。要件ならあとで──」

秘書「すでに死んでおります」
7 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:20:05.94 ID:OSEfFxB00

魔王「なに?」

秘書「木剣の勇者はしばらく前に死んでおります。死体はちりも残っておりません。魔王様の攻撃で蒸発しましたわ」

魔王「……」

 クルッ

魔王「そうか、しょせんその程度か。誰も吾の強さには敵わぬようだ」フッ

 フハハハ……ハハ……ハ……

魔王「……」

秘書「木剣の勇者の家族が住む村を、侵攻リストから外しますか?」

魔王「なにをいう。敗者に情けは無用」

秘書「失礼しました」スッ

魔王「……村をリストの最後尾に回せ。それくらいの働きはしたから、な」コホ

 ゴホッ ゲホッ
8 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:21:49.95 ID:OSEfFxB00

秘書「魔王様!?」

魔王「なんでもない、平気だ」ケホ

秘書「……」

魔王「お前は仕事に戻るがいい」

秘書「かしこまりました」スッ


 玉座の前

魔王「……」ギシッ

 ポウ……

玉座『魔王の能力が低下しています。全盛期の約60パーセント。速やかな次代への移行を推奨』

魔王「だろうな」

魔王(結局吾は、満足のいく好敵手に出会うことなく死ぬのだろう)フウ

 
 魔王城 秘書室

秘書「……」カキカキ

『報告書 270

狼牙の魔王はその勢い衰えることを知らず、心身ともに健康そのもの。体調不良のうわさは間違いだと思われる。

弱点はまだ見つからず。引き続き監視を継続する』
9 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:23:47.03 ID:OSEfFxB00

──


 20年後

 境界線近くの村 とある家の前

村長「もう一度聞くが、あんたの赤ん坊を差し出す気はないんだね」

 ダンッ

勇者の父「くどい。我が子を敵に渡せといわれて従う親がどこにいる」

猟師「ふざけるな! 魔王軍が迫ってるんだぞ」

パン屋「この村が襲われるのはあんたの子どもが勇者のせいだ! 勇者を1人差し出せば村人全員が助かるんだよ」

 そうだそうだ、子どもをよこせ!

勇者の父「ふっ。本気で魔王軍がうちの子を殺しに来たと思ってるのか」

 当たり前だろ! 

勇者の父「違うな。この村が選ばれたのはただの偶然だ。周りの村は以前から襲われてる。むしろ今まで見逃されてたのが奇跡だぜ」

 減らず口を!

勇者の父「うわさによれば、現在の魔王は強者との正々堂々とした戦いを好むという。

そこまで戦いに飢えたやつが産まれたばかりの赤子を狙うわけがない。育つ前に麦の苗を刈り取るようなもんじゃねえか。どうせなら育ち切って穂が重く垂れてから刈るだろうよ」

農民「……一理あるな」

 ざわざわ

村長「それでも我々にはこの方法しかないのだ。どうか分かってくれんか」

勇者の父「分からねえな。仮に魔王軍の目的が本当にうちの子だとする。勇者を差し出したあとやつらが素直に帰ると思うかい。

相手は血に飢えた魔族だぞ。村を蹂躙するに決まってるだろうが」

 ざわざわ ざわざわ

村長「確かにわしらが助かる可能性は低いだろうな」

勇者の父「ほらな。だったら」

村長「しかしゼロではない」スッ

 ドスッ
10 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:25:33.00 ID:OSEfFxB00

勇者の父「なっ」ブシュ

村長「村が助かる可能性がわずかでもあるなら、それに賭けるのが村長の仕事なのだよ」

勇者の父「……らあっ!」ブオン

 バキッ

村長「がっ」ドサッ

 ……ガタン

勇者の父「! 出てくるんじゃねえ! いいか絶対に家のなかにいろよ!」ボタボタ

村長「……今だ、やれ……子どもを奪えぇ!」ガフッ

 う……うおおおお!

勇者の父(必ず家族を守ってみせる)

勇者の父「絶対に、ここは、通さん!」ブンッ
11 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:27:15.94 ID:OSEfFxB00

 数時間後

 村の北門付近

 ザッザッザッ

村人「逃げろ、骸骨兵(スケルトン)の大群だ!」

村人「逃げるってどこに、取り囲まれてるじゃねえか! くそ、村長が勇者を連れてくるはずじゃ──ぐふ」ドス

 ギャアアア……

スケルトンキング「くひひひ、よき悲鳴じゃ。骨の髄から震えが走るわい」

スケルトンキング(にしてもあの人間、さっき勇者とかいっておったか? まあ聞き違いじゃろうな。こんな貧相な村に勇者がいるとは思えん)

骸骨兵「村のほとんどの拠点を制圧。殲滅は時間の問題かと」

スケルトンキング「生者は一匹も逃がすでない。地中の虫まで殺し尽くせ」

骸骨兵「はっ。しかしよろしいのですか? 魔王様の許可なく人間の村を襲うなど、ばれたらどんな罰を受けるか」

スケルトンキング『雷槍』ズガアアン

骸骨兵「ふぎゃあああ!」バラバラッ

スケルトンキング「愚か者。しばらく前から一切人間界を攻めなくなった臆病者を恐れる必要などないわ。わしは本来魔王がすべき義務を果たしておるだけじゃ。

ほれいつまで転がっておる。さっさと復活して指揮に戻らんかい」

 カランカランッ……ピシッ

骸骨兵「あいたた。し、失礼しました」タタッ

スケルトンキング「この調子で多くの村を滅ぼせば、わしの名は各地に轟くじゃろう。死体が増えれば骸骨兵も増える。出来損ないの魔王を倒すのも時間の問題じゃ」クヒヒ

魔王「それは楽しみだな」

スケルトンキング「まったくじゃ笑いが止まらな──はっ!?」
12 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:29:03.41 ID:OSEfFxB00

魔王「では今すぐ倒してみよ。遠慮などいらぬ」

 ゴゴゴゴ……

スケルトンキング「まま魔王様! なぜこのような場所に」

 スッ

秘書「お控えなさい、魔王様の前です。ひざまずいてごあいさつするのが礼儀ですわ」

スケルトンキング(秘書も一緒か。人狼族の魔王と敵対する吸血族でありながら、魔王の側近になった女。

雪のように白い肌と髪、紅い宝玉のごとき瞳。秘書よりも夜伽役のほうが向いているのではないか?)クックッ

スケルトンキング「なにが魔王様じゃ。やるべき仕事もせず、勇者を倒すことにしか興味のない戦闘狂が」

秘書「あ?」ギロッ
13 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:30:06.76 ID:OSEfFxB00

スケルトンキング「ひっ」

魔王「秘書よ、そんな目をするな。こやつの主張は正しい」

秘書「魔王様! そのようなことは」

魔王「魔王の仕事は人間界を侵略し魔界の領土を広げること。それがおろそかになっているのは事実だ。スケルトンキングが反旗を翻すのも無理はない」

スケルトンキング「さすが魔王様、物分かりがよくていらっしゃる。無抵抗でわしの軍門にくだっていただけますな」

魔王「その前に質問がある。魔王にもっとも必要な資質はなんだ」

スケルトンキング「簡単なこと。あまたの生物がひれ伏す圧倒的な軍事力。これしかないじゃろう」クヒヒ

魔王「惜しいな」

スケルトンキング「なんですと?」
14 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:31:27.12 ID:OSEfFxB00

魔王「なぜ魔王が軍事力を持てるのか。それは魔王が恐れられているからだ。

なぜ恐れられているのか。それは圧倒的な強さを持つからだ。すなわち」パチン

 バサアッ

魔王「魔王になりたければ誰よりも強いことを証明しろ。吾と一対一で戦え」ニッ

スケルトンキング(脳筋の発想!)

 ハッ

スケルトンキング(待て、これはチャンスじゃ。魔王は肉体的には最強じゃが基本的な魔法しか使えない。

対してわしはあらゆる魔法を極めた大魔法使いじゃ。わしが使える最強の魔法をお見舞いすれば一瞬で勝負がつくじゃろう。それに)

 ククッ

スケルトンキング(魔王は体調が思わしくないと聞く。魔王の位を退く日も近いとか。わしが引導を渡してやろうぞ)

スケルトンキング「後悔するなよ魔王」

魔王「試してみるがいい」スッ
15 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:33:05.24 ID:OSEfFxB00

スケルトンキング「お得意のファイティングポーズか。そんなものでわしの魔法を防げると思うな!」ギュン

 ギュオオオ!

スケルトンキング「決して避けられぬ死の魔法じゃ。これで魔王の座はわしの」

魔王「しっ」シュッ

 パアアアン!

スケルトンキング「は?」

スケルトンキング(え、なにが起きた? 魔王のパンチで……強化も施していない普通のパンチでわしの最強魔法が消されたように見えたが……いやいやそんなはずは)

魔王「今度は吾の番だな」

スケルトンキング(ま、まずい! ここは転移で体勢を立て直し)

 シュッ

魔王「なるほどこれが貴様の核か。緑の宝玉のようだ」

スケルトンキング「!? その手に握られているのはまさかっ」バッ

スケルトンキング(ない! わしの体内にあるはずの核が!)

魔王「これを壊さないと何度も復活して面倒だからな」グ…

 バキィイン
16 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:34:32.07 ID:OSEfFxB00

スケルトンキング「あ、が……」ガクッ

 バラバラッ……

秘書「魔王様、スケルトンキングの消滅までしばらくかかります。最後に話をしてもよろしいでしょうか。

裏切り者とはいえ一度は同僚だった方。お別れと感謝を伝えたいのです」

魔王「構わぬぞ。吾は村にいる骸骨兵の後始末をする。終わったらお前も手伝え」クルッ

 ザッザッザッ……

秘書「かしこまりました」スッ

スケルトンキング「……クッ……クヒヒ。なーにがお別れと感謝を伝えたい、じゃ。

わしの反逆をそそのかしたのは貴様の父親、吸血族の長じゃ。知らないとはいわせんぞ!」カタカタ

 クスッ

秘書「……ああ。もちろん知ってるぜ」ニヤッ

スケルトンキング(被っていた化け猫を捨て、本性を現しおったか)

スケルトンキング「貴様が魔王城に侵入したのも魔王をおとしいれるためじゃろう! 魔王の勘は鋭い。気づかれていないとでも思っているのか?」

 ピクッ

秘書「あの方の勘が、鋭い?」
17 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:35:51.55 ID:OSEfFxB00

 フフッ……アハハハ!

秘書「もし本当に勘が鋭かったら、あたしはこんなに苦労してねえんだよ!」バンッ

スケルトンキング「!」ビクッ

秘書「どんなに好き好きアピールしても気づきもしねえ。気合い入れてセクシーな格好しても無反応! あたしはこんなに魔王様を愛してるのに! ありえねえだろうオイ!」ギラギラ

スケルトンキング「いや……知らんが……」

秘書「『お慕いしております』って何度伝えても答えは『そうか』だけ! 一体どういうことだよ。もっと大胆なアプローチをしろってことか!?」

スケルトンキング「なんというか、それは俗にいう脈がないというやつでは──」

 グシャッ

秘書「おっといけねえ。うっかり踏んづけちまったぜ」

 ニコッ

秘書「それではごきげんよう、元四天王スケルトンキング様。素敵な夢が見られるといいですわねぇ」クスッ

スケルトンキング(こんのクソ女があああ……!)ザアアッ…

秘書「……ばーか。魔王様に逆らうからそうなるんだよ。あの方の害になるやつはあたしが絶対に許さない。誰であろうとな」クルッ
18 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:38:32.94 ID:OSEfFxB00

 とある民家

 ガシャッ ガシャッ ガシャッ

父親(くそ、外は骸骨兵であふれてる。やっぱり勇者を差し出すなんて間違ってたんだ。なにをしようと魔物は見逃してはくれない)

少年「父ちゃん……」

父親「大丈夫、隠れていれば安全だ」

少年「うう」グスッ


骸骨兵「!」ピタッ


父親(? あの骸骨兵、なぜ立ち止まったんだ)


骸骨兵「匂いがするな。恐怖で流れる涙の匂いが」スンスン


 ガシャッ ガシャッ……バキバキッ!


父親「くそ見つかった……!」ギュッ

少年「父ちゃん……っ」

骸骨兵「死ね」ギュオッ
19 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:41:20.02 ID:OSEfFxB00

 バキッ! ザアアッ……

父親「なんだ? 急に骸骨兵が消え──!」ハッ

魔王「……」ギロッ

 ゴゴゴゴ

父親「……!」ヘタリ

父親(こいつは、なんだ? まるで怒りと恐怖が形を持ったような恐ろしい姿。まさかこいつが……魔王!)

少年「……っ。……っ」ガタガタ

父親(逃げたいのに体が動かない! もう、だめだ……っ)ギュッ

魔王「……」フイ

 ザッザッザッ……

父親「助かった……?」

少年「さ、さっきのやつって魔王?」

父親「ああ、たぶん」

少年「どうして僕らを見逃したんだろう」

父親「わからん。だがあの冷たい目、まるで虫けらを見るようだった。あの方にとって俺たちは殺すにも値しない存在だったんだろう」
20 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:43:13.19 ID:OSEfFxB00

──

骸骨兵「ひいっ、お許しを魔」

 バキッ ザアアッ……

魔王(ふむ。わかってはいたが残党を殺すのはつまらんな。この村に強者でも潜んでいればうれしいのだが、見たところ剣を握った経験もない弱者ばかり。さっさと終わらせて帰るとするか……む?)

 ピタッ

魔王「この家を中心に死体が放射状に散らばっている。しかも武装した死体ばかりではないか」

 スッ

魔王(上等な服を着ているのは村の長か。頭がつぶれているな。ほかの死体も体の一部がつぶされている。とすると)スクッ

 ザッザッザッ……ピタッ

魔王(棍棒で武装した体格のいい死体。こやつが村人どもを相手に大立ち回りを演じたのか。いくつもの刃を体に突き立てられてもなお戦い続けるとは、見どころがある)

 ジッ

魔王「こやつが守っていたのはこの家か」
21 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:45:26.66 ID:OSEfFxB00

 バキッ スタスタ

魔王(ふむ。家の中では男と女が倒れている。男は侵入者か? 頭が割られているな。女のほうは)スッ

勇者の母「……っ……」ハアハア

魔王(まだ息があるが、ナイフの刺さった腹から血が流れ続けている。死ぬのは時間の問題だろう)

 ゴソゴソ

魔王(ベッドでなにかが動いているな)スッ

 バサッ

魔王「!」
22 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:46:56.17 ID:OSEfFxB00

勇者「う、あう」キョトン

魔王(赤子……この気配は勇者か)

勇者「んー」クシクシ

 スー、スー

魔王(なるほど。村人たちは勇者を奪おうとこの家を取り囲んだのだな。おそらくはスケルトンキングとの交渉材料にするために。スケルトンキングがこの村を襲ったのは勇者を殺すため……?)

 ……フム。

魔王(違うな。あやつにそこまでの思慮はない。偶然勇者のいる村を引き当てたのだろう)

勇者「……んぅ」スヤスヤ

魔王(このまま見逃せば村の生き残りが赤子を育てるかもしれぬ。だがそのあとになにが待っている? 勇者の末路は皆同じ、無惨に魔王に殺されるだけだ。

長年勇者を殺してきて吾は悟った。おそらく魔王より強い勇者は永遠に現れない、それがこの世界の仕組みなのだ)

 スッ

魔王「つらい人生の末に魔王に殺されるくらいなら、いっそ今ここで──」
23 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:48:13.33 ID:OSEfFxB00

 ガタッ

勇者の母「お、お待ちください……魔王様」ハアハア

魔王(倒れていた女。まだ意識があったか)

魔王「ほう。なぜ吾が魔王だと思った」クルッ

勇者の母「ひと目でわかりましたわ。誰もが恐れずにいられないその姿。歌語りで聴いた通りですもの」ググッ

 スッ

勇者の母「伏してお願いいたします、偉大なる魔王様」

魔王「申せ」

勇者の母「はい。噂によれば、魔王様は真剣勝負がお好きとか。私と勝負をしていただきたいのです」

魔王「……ふ」

 フハハハハハ!
24 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:49:47.06 ID:OSEfFxB00

魔王「なにをいいだすかと思えば、面白い冗談だ。死に損ないの人間風情が吾と勝負がしたいだと? 万全の状態ですら勝てる見込みはないというのに」

勇者の母「おっしゃるとおり、私は死にかけの弱い人間に過ぎません。勇猛な戦士のごとくあなた様と死闘を繰り広げるなど不可能。そこで別の形の勝負を提案いたします」

魔王「聞くだけ聞いてやろう」

勇者の母「問答勝負はいかがでしょうか。私が問題を出します。魔王様はそれにお答えください。正解なら魔王様の勝ち、不正解なら私の勝ち」

魔王(問答か。好みではないが暇つぶしにはなる)

魔王「よかろう。吾が勝ったらなにを差し出す? 貴様が賭けられるものなどたかが知れているだろうが」

勇者の母「おっしゃるとおりです。私が差し出せるものなど、自らの命と我が子の命くらいしかございません」
25 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:51:55.53 ID:OSEfFxB00

魔王「ほう」

勇者の母「私の命に価値などありませんが、我が子はご覧のとおり勇者です。いずれ脅威になりうる存在を潰しておくのは将来のためになるかと」

魔王「よいのか? 勇者は魔王の宿敵。じわじわと苦しみを与えながらむごたらしく殺すかもしれんぞ」

 フッ

勇者の母「構いません。それもこの子の運命でしょう」

魔王「貴様が勝った場合は?」

勇者の母「この子を、勇者を育てていただきます」

魔王「……なに?」
26 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:53:20.98 ID:OSEfFxB00

勇者の母「勇者が成人するまで魔王様のもとで育てていただきたいのです。成人するころにはきっと一人前の戦士に成長していることでしょう。

魔王様とどの程度戦えるかはわかりませんが、多少は楽しめると思います。なにしろ最強の魔王様ご自身が育てた勇者ですもの」

魔王「矛盾しているな。勇者は脅威だから殺せといったその口で、勇者を育てて戦えというのか」

勇者の母「はい。ですが矛盾は誰しもが抱えているものです。魔王様のなかにも矛盾した思いがあるはず」

魔王「……」

勇者の母「勝つにせよ負けるにせよ、魔王様が損をすることはございません。

公平を期すために、勝負の際、魔法を使うことや相手の体に触れることは禁止。この条件でいかがでしょうか」

魔王「問題の内容によるな」

勇者の母「ご心配なく、問題自体は簡単です。『私はあとどれくらいの時間で死ぬでしょうか?』」

魔王「……ふっ」
27 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:54:15.83 ID:OSEfFxB00

魔王(なるほど。人間界に詳しくない吾なら、人間の体の構造に疎いと思ったか。だが甘い)

魔王「およそ半刻だな。出血量からすれば」

魔王(吾にはあまたの勇者を殺してきた経験がある。この女があとどれくらいで死ぬかなど、あまりに簡単な問題だ)

勇者の母「お答えになったということは、勝負成立でよろしいですね」

魔王「ああ」

勇者の母「なるほど。では……私の勝ちでございます」ギュッ

 ブシッ……ザクッ!
28 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:55:40.41 ID:OSEfFxB00

魔王(! こやつ腹に刺さったナイフを抜いて、自分の首に突き刺した!? ならば回復魔法を──)

 ハッ

──勝負の際、魔法を使うことや相手の体に触れることは禁止──

魔王(あの条件はこのために……!)

勇者の母「……っ」ゴプッ

 ズリ……ズリ

勇者の母「……ぅ……あ」ググッ

勇者「……ん……」スースー

勇者の母「……健やかに。あの人と私の、宝物……」ズルッ

 ドサッ

魔王「……」

魔王(なんだこの人間は。子を庇う親ならいくらでもいる。だがこやつは吾に勝ってみせた。歴戦の勇士ですらできなかったことを、自らの犠牲をもって成してみせた)

 カタカタ……

魔王(吾は……震えているのか? 馬鹿な。他人が震えるのを見たことは何度もある。だが自分の体が震えるのは……生まれて初めてだ。

認めよう。お前は真の親であり、強者だと)

 ジッ

魔王「誓おう。あなたの息子は、吾が責任を持って勇者に育て上げると」
29 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:56:50.86 ID:OSEfFxB00

 ソッ

勇者「!」パチッ

魔王「む、起きたか。吾は狼牙の魔王。これからお前を──」

勇者「びっ……びえぇええええええ!」

魔王「なっ」

魔王(なんだこれは聴覚への攻撃か? くっ、なんという大音量だ。赤子を抱いているせいで耳をふさぐこともできん)

 びえぇえええええ!

魔王(うう……せめて耳を寝かせるとしよう)ヘニャリ

勇者「びえええ……えぅ?」グスッ

魔王「泣き止んだか」

勇者「……」スッ

 ふにっ

魔王「!」ビクッ

勇者「おおー」フニフニ

魔王「末恐ろしいな。偉大な魔王の耳をおもちゃにするとは」

勇者「ふいー」ニコッ

魔王「! お前、笑ったのか」

魔王(誰かに笑いかけられたのは……生まれて初めてだ)
30 : ◆AhbsYJYbSg [sage saga]:2023/09/10(日) 18:58:23.89 ID:OSEfFxB00

 バキッ スタスタ

魔王「とりあえず秘書と合流するか。おい勇者、いつまで吾の耳を触って──」

 ギューッ!

魔王「いっ!」

勇者「おうーっ」キャハハ

魔王「ふっ……いい度胸ではないか。吾を涙目にしたのは貴様が初めて──」

『死神の接吻』

 ギュオオッ!

魔王「!」ヒュパン

 バチイィイン!

魔王(この魔法は……秘書か!)バッ

 フワッ……ストン

秘書「申し訳ありません魔王様。わたくしがすぐに片付けますわ」

魔王「なに?」

秘書「その赤子、勇者ですわね。魔王様の宿敵である勇者を見つけられないばかりか、あまつさえ魔王様本人に接触させてしまうとは。

この秘書一生の不覚でございます。いますぐそれを消しますわ」
31 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/09/10(日) 20:01:34.29 ID:GmgEQorso
きたい
32 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/09/10(日) 21:03:48.12 ID:kfT1mb3HO
こういうのめっっっちゃ好きなんだ超期待
33 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2023/09/11(月) 01:43:50.41 ID:VlAKiTg00
【空気中のスパイクタンパク汚染に気をつけましょう】

スギ花粉や様々な化学物質に対して過敏な方がおられるように
スパイクタンパクに対し過敏な方がおられます

特に二価ワクチンを接種された方に遺残した
オミクロン対応の
mRNAから生成されるスパイクタンパクは
従来の武漢対応のものと比べ
60〜70倍人体に結合しやすくなっており
シェディング被害は甚大なものになっています

また一部の方に感じる臭いに関しても
酸化したPUFAの代謝産物であるアルデヒドの可能性も否定できません

科学的証明は難しい案件ですが
徹底したシェディングング対策や
イベルメクチンやグルC点滴などで
改善することから
臨床的に起こっている事案は
化学物質過敏症やスパイクタンパクそのものでしか説明できないものばかりです

スパイクタンパクが体内に侵入すると
自覚症状が無くても
徐々に毛細血管レベルでは
血栓を形成する恐れがあり
酸素や栄養素が
細胞全体に十分行き渡らなくなる可能性があります
これは老化の促進を意味し
新たな病気が発生する素因にもなります

既接種者で
コロナ後遺症やワクチン後遺症になった方は
非接種者に比べ
シェディング被害を被りやすくなっています
そのため治療が難渋している可能性もあることに留意してください
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