狼魔王とチビ勇者

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1 : ◆AhbsYJYbSg [saga]:2023/09/10(日) 18:03:09.77 ID:OSEfFxB00

 魔王が布をはぐと、現れたのは人間の赤子だった。


 赤子はぼんやりと魔王を見つめている。魔王の姿は大人が泣きわめくほど恐ろしいはずだが、赤子におびえる様子はない。

 しばらくして赤子の目がとろんと力を失った。目元を手でクシクシとこすったあと、穏やかな寝息を立て始める。

 粗末な寝台には柔らかそうな藁が敷きつめられていて、赤子を優しく包み込んでいる。

 赤子の正体が勇者であると、魔王にはひと目見たときから分かっていた。

 勇者を眺める魔王の目にはいくつもの感情が揺れている。憎しみ、哀れみ、期待、そして──諦め。

 魔王には確信があった。赤子が成長しどれだけ力をつけようと、その先には無惨に殺される運命が待っている。ならばいっそ。

 魔王の大きな手がゆっくりと赤子へのびていく。


 撫でるためではなく、一瞬で命を奪うために。

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