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王子『はちじょうひとまのワンルーム?』
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32 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/08(木) 23:44:39.33 ID:dr7q0Gdl0
>>18
ありがとうございます!
遅筆のため遅いとは思いますが、ゆっくり書いていけたらなと思います。
33 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/11(日) 01:28:42.61 ID:sZTlet6c0
魔王城、秘密の小部屋。
戦時の際に魔王の一族が身を潜めるために作られたその部屋には、丁寧に床に積まれた本の数々とそのうちの一冊を読む王子の姿があった。
王子『――よって、魔法の優劣を決めるのは、使い手自身の精神エネルギーの大小だけではない』
王子『呪文の出来によっても魔法の質は少なからず変わると結論づけられる。考察終わり』パタン
王子『……なるほどなぁ』ンー
王子『やっぱり、この筆者の賢者って人は天才だなあ。残された考察を読めば読むほど目から鱗って感じだ』
王子『ずっと昔にいなくなっちゃったらしいけど、この人が今もいたならどんな魔法の研究をしていたんだろう?』
王子『……想像つかないなあ』
34 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/11(日) 01:29:10.17 ID:sZTlet6c0
王子『まっ、それもそうか。僕みたいな凡才が思いつくことは、この人みたいな天才にとって些細なものだろうし』
王子『……はぁー。天才の頭を覗いてみたいよ』
王子『そうしたら、きっと、今より魔法が上手くなれるんだろうなあ』
王子『…………』ハァー
王子『……よしっ。次はどの考察を読もうか――』
王女『おにいちゃあああんっ!』バタン
王子『うわあああああああ!?』ドタタッ
35 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/11(日) 01:29:36.32 ID:sZTlet6c0
王子『おっ、王女か。びっくりしたぁ』
王女『びっくりしたぁ、じゃないよお兄ちゃんっ。今何時だと思ってるの?』
王子『え? んー、何時だろ。9時ぐらいか?』
王女『分かんない!』
王子『えー……』
王女『と・に・か・くっ、もうすぐ王様が来るんだよ? お兄ちゃん!』
王子『……ああ、なるほどね』
36 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/11(日) 01:30:11.02 ID:sZTlet6c0
王子『僕はいいや。母さんと父さんがいれば十分だろ』
王女『十分じゃないよーっ。王様に顔を見せないと!』
王子『顔を見せたところでなにするんだよ』
王女『……んー、お話とか?』
王子『王様に話すことなんかないだろ。僕たち子供が』ハァー
37 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/11(日) 01:30:37.31 ID:sZTlet6c0
王女『そうかなー? 王様はいつもニコニコしながら聞いてくれるよ? 学校の話とか』
王子『あのなあ。魔王の子供だから優しくしてくれてるだけで、王様だって本当は子供の話なんかに時間を割きたくないっての』
王女『そうなの?』
王子『そうに決まってんだろ。大人は忙しいもんだ』
王女『でも、この前、帰る途中に魔王城の広場で街の子供たちと一緒にボール蹴ってたよ?』
王子『それは……まぁ、なんだ。ボールを蹴りたい気分だったんだよ、その時は』
王女『……そうなの?』
王子『そうだよ。ああ、もう、うるさいなあっ』
38 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/11(日) 01:31:32.33 ID:sZTlet6c0
王子『どうせ、昼の会食には参加しろって感じだろ? 心配すんな。その時には戻るから』
王女『……分かった』
王子『なら帰れ帰れ。僕は忙しいんだ』
王女『忙しい? ――あっ』
39 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/11(日) 01:31:58.41 ID:sZTlet6c0
王女『その本、賢者の残した考察だ! 図書館から持ち出したらいけないなやつ!』
王子『……いいだろ、別に。こんな機会じゃなきゃ落ち着いて読めないんだから』ハァー
王女『危険なものもあるから子供だけで読んだらいけないんだよ?』
王子『大丈夫だよ。そんなの、大人のざれごとだ』
王女『ふーん……』ジー
王子『おいおい。なんだその目は』
王女『わたしにも読ませて』
40 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/11(日) 01:32:26.68 ID:sZTlet6c0
王子『はぁ? 嫌だよ。僕が読んでるのに』
王女『口止め料』
王子『え?』
王女『わたしにも読ませてくれたら、お母さんとお父さんには本を持ち出したこと黙っておく』
王子『……勝手にしろ』ハァー
王女『やった』
41 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/11(日) 01:33:09.25 ID:sZTlet6c0
王女『んー。呪文の考察、マギカの正体について、魔法の原理とその可能性。どれにしようかなー』
王子『さっさと選べ』
王女『あっ、これ面白そうっ。この本に決めた!』
王子『読むときは静かにな』
王女『分かってる。えーっと、なになに? 莫大なマギカの衝突におけるワームホールの発生について』
王子『……それ、賢者の残した考察の中で一番難しいやつだぞ』
王女『そうなの?』
42 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/11(日) 01:34:54.56 ID:sZTlet6c0
王子『ああ。大人でも理解できる人がいなくて、理論すら賢者本人しか理解してないってレベル』
王女『へー』
王子『だからやめとけ。もっと易しいやつがあるから』
王女『いや、これにする。第一印象でピーンときたから』
王子『……そうかい。まっ、勝手にしろ』
43 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/11(日) 01:35:23.02 ID:sZTlet6c0
王女『えーっと、なになに? はじめに、この本を読んでいる君に告ぐ』
王子『……声に出して読むな』
王女『この研究は人間と魔族両方の歴史を鑑みても存在しない、前例がない魔法へのアプローチである』
王子『……静かに』
王女『そのため、未知の領域が多い。非常に危険なものだと理解してほしい』
王子(……だから嫌だったんだ)
44 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/11(日) 01:35:50.37 ID:sZTlet6c0
2時間後――
王女『…………』
王子(王女のやつ、静かになったな)
王女『…………』
王子(もしかして眠ってる? いや、寝息は聞こえないか)
王女『…………』
王子(集中してるのか? いやいや、まさかあの王女が)
王女『……った』
王子『えっ?』
王女『分かった。この本。理解できた』エッヘン
45 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/11(日) 01:36:18.50 ID:sZTlet6c0
王子『は? お前なにを言ってんの。そんな難しい本、理解なんて出来るわけねーだろ』
王女『ううん、出来た』ブンブン
王子『……出来た、って。僕も――いや、大人だってその本を理解できた人いないんだぞ。嘘も大概にしとけ』
王女『出来たもん!』エッヘン
46 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/11(日) 01:36:45.66 ID:sZTlet6c0
自慢気に薄い胸をそる王女。
彼女が生まれてから10年間、家族として一緒に過ごしてきた。だから、王女が嘘をついていないことはその目を見て分かった。分かってしまった。
王子『……なんだよ、それ』
神様は不公平だ。
なぜ、自分と妹の間でこんなにも魔法に対する才能が違うのか。
同じ両親から生まれてきたのに、なぜこんなにも持って生まれたものが違うのか。
47 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/11(日) 01:37:17.84 ID:sZTlet6c0
王女『どう? 凄いでしょ?』ジマンゲー
屈託なく笑う妹に、腹の奥底からわっと怒りが湧いた。
王子『……お前は嘘つきだ』
溢れる感情を制御できず、心にもないことを口にしてしまう。
48 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/11(日) 01:37:51.28 ID:sZTlet6c0
王女『嘘なんてついてないよっ』
王子『嘘だ! お前は嘘つきだ!』
王女『ついてない!』
王子『いや、ついてる! 理解なんて出来るはずない!』
王女『……なんで』
王子『僕は信じない! お前は嘘つきだ!』
王女『……なんで、そんなこというの?』ウルウル
ポロポロと涙を流す王女を見て、はっと我に返った。
49 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/11(日) 01:44:35.38 ID:sZTlet6c0
王子『――っつ』
王女『ひぐ……うぅ……』
王子『わ、悪か――』
王女『うわああああああん!』
滂沱の涙を流す王女。
50 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/11(日) 01:45:05.47 ID:sZTlet6c0
王子(……やってしまった)
王子(3歳下の妹に、大人気なくなに言ってんだ。僕)
王子(才能ないくせに、魔族としても小さいな)
王子(……ああ、もう!)
自己嫌悪に陥る王子のかたわら、王女の側で空気中に含まれるマギカが集まっていた。
それは、肌で感じられるほど、濃い。
51 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/11(日) 01:45:31.19 ID:sZTlet6c0
王子『……えっ?』
王子が異変に気づいたときには、もう遅かった。
王女の感情の奔流が、魔法を暴走させていたのだった。強大すぎる精神エネルギーに、ありとあらゆるマギカに反応し、直前に理解した魔法を無意識に発生。
王子『な――っ!?』
そして、空間にピキピキと歪みが入った。
52 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/11(日) 01:46:28.94 ID:sZTlet6c0
それは小さな歪みで、吸い込まれる力こそなかったが、泣きわめく王女のすぐそばで生まれていた。
王子『――あぶねえ!』ドンッ
王子は王女を押しのけ、身代わりになるかたちで歪みに吸い込まれる。
王女『お兄ちゃんっ!』
53 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/11(日) 01:46:55.32 ID:sZTlet6c0
王子『……良かった。お前が無事で――』
悪かった、という言葉を言う直前に歪みが閉じた。
王子は、意識を、失った。
54 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/11(日) 01:47:21.69 ID:sZTlet6c0
――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――
――――――――――
――――――
――……
??「君! ねえ、君! しっかりして!」ペチペチ
55 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/11(日) 01:47:52.55 ID:sZTlet6c0
王子『……ん? うぅ』
少女「良かったぁ。息してる。ほっとしたよ」
王子『うぅ……あっ。ここは?』クラクラ
少女「そんなすぐ起き上がらないで。君、さっきまでどんぶらこどんぶらこって川を流れてたんだから」
王子『……何語、ですか? さっきから』パシパシ
56 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/11(日) 01:54:44.06 ID:sZTlet6c0
王子のおぼつかない視界は、ゆっくりとピントが合ってくる。
そこは見慣れぬ川のほとりで、体はびしょ濡れで、肌を突き刺すように日差しは熱くて。
少女「えーっと、外国の子なのかな? すごく凝った衣装着てるし、もしかしてなにかの撮影中?」
色の白い肌。金色の髪。大きな瞳は吸い込まれそうになるほど魅力的で。
王子『――っ!!』
目の前の少女を一目見た時、王子は少しの間、呼吸をするのを忘れてしまうのだった。
57 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/11(日) 01:55:10.04 ID:sZTlet6c0
今日はここまでです。
58 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/12(月) 22:22:03.15 ID:49rnlsyO0
王子『』
少女「んー。どの言葉なら通じるだろう? きっと日本語は分からないよね」
王子『』
少女「ひとまず、アーユーオーケイ?」
王子『』
少女「違うか。んーっと、エスクサヴァ?」
王子『』
少女「もしかして、エスタスビエン?」
王子『――ゴホッ! ゲホッ、ガハッ!』
59 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/12(月) 22:22:32.36 ID:49rnlsyO0
少女「うわっ、どうしたの突然、咳き込んで!」ズイッ
王子『!?』
少女「大丈夫?」」
王子『うわあああ! ち、近づかないで!』ドタドタドタ
少女「……そんな後退りしないでよ。傷つくなあ』ツカツカ
60 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/12(月) 22:23:08.47 ID:49rnlsyO0
王子『や、止めて! むっ、胸がっ、胸がっ!』ドキドキ
少女「慌てなくてもいいよ。別に取って喰おうってわけじゃないんだからさ」ピト
少女はしゃがみ込み、王子のおでこに自分のおでこを合わせる。
少女「んー、ちょっと温かいけど、熱は大丈夫そうかな?」
王子『うわっ、あっ、あ……っ!』
61 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/12(月) 22:23:37.18 ID:49rnlsyO0
少女「ずぶ濡れのままで風邪引いちゃいけないから、すぐそこの診療所に行こっか」ニコッ
ゼロ距離で笑みを浮かべる少女。
仲の良い女性と言えば母と妹ぐらいしかいない王子にとって、その笑顔は彼をノックアウトするには十分すぎた。
王子『――あっ』ブシュッ
少女「きゃっ」
勢いよく鼻血を出しながら、王子は前のめりに倒れる。
62 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/12(月) 22:24:07.89 ID:49rnlsyO0
少女「わっ、大丈夫!? 凄い鼻血出したけど」
王子『』ピクピク
少女「おーい! 聞こえてますかー!」
王子『』ピクピク
少女「これは本当にやばそう。誰かー! 誰かー!」
少女の助けを求める声を耳にしながら、王子の意識はゆっくりと薄れていった。
63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/12(月) 22:24:36.58 ID:49rnlsyO0
次に王子が目を覚ましたとき、そこは地面の上ではなく、ふかふかのベッドの上だった。
王子『あれ? ここは?』
王子『……確か、めちゃくちゃ綺麗な人になんか助けられたような』
王子『……夢だったのか?』
王子『…………』
王子『とにかく、起きよう』
64 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/12(月) 22:25:25.73 ID:49rnlsyO0
王子はベッドから降り、辺りを見回す。
王子『古いけど清潔感のある部屋だ。あと、見たことのないものがいっぱいある』
王子『というか、外は凄く暑かったのに、なんでこの部屋は涼しいんだろう』
王子『ん? あのゴウゴウ鳴いてるものから冷たい風が出てきてるぞ』
王子『冷風を出す生き物じゃあないよな』
王子『魔法か? いや、魔法というか道具っぽい』
王子『……ん? 冷たい風を出す道具? なんかどこかで聞いたことがあるような』
王子『!』
65 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/12(月) 22:25:51.91 ID:49rnlsyO0
王子『そうだ。確か“くーらー”だ! お父さんが言ってた』
王子『日本という国には季節があって、めちゃくちゃ暑い季節があるから、みんなそれを使って部屋で涼むとか』
王子『そうか。これが件のくーらーかあ。実物を見るのは初めてだなあ』シミジミ
王子『こんなに角ばってるんだなあー。いやあ、いいものを見たなー』ウンウン
王子『……いやいやいやいや!』ブンブンブンブン
66 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/12(月) 22:26:25.58 ID:49rnlsyO0
王子『なんでくーらーがこの部屋にあるんだ!?』
王子『くーらーがあるってことは日本ってことだろ!』
王子『だって、俺がいるこの場所は――』
そこまで口にして、王子はハッと気づく。
67 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/12(月) 22:26:53.83 ID:49rnlsyO0
王子『……莫大なマギカの衝突におけるワームホールの発生』
王子『その歪みに巻き込まれて』
王子『別の世界に飛ばされた?』
王子『もしかして、もしかしてだけれど。ここは――』
68 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/12(月) 22:27:22.04 ID:49rnlsyO0
王子『日本?』
69 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/12(月) 22:27:48.09 ID:49rnlsyO0
今日はここまでです。
70 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/26(月) 23:11:14.52 ID:fBL0rP/L0
女「――おっ、目ぇ覚めた?」ガチャ
王子『』ビクゥ
女「あははっ。そんな驚かんでええやん。まあ言葉も通じへんし、知らん土地で知らん奴相手やと敏感にもなるわなぁ」
王子『……平べったい顔の、人間?』
女「ちょっと失礼」ジー
王子『……なんですか?』
女「ちょい待って」ジー
王子(……母さんと同じぐらいの歳かな? これぐらいの人なら近づかれてもあんま緊張しないな)
71 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/26(月) 23:11:40.92 ID:fBL0rP/L0
女「やっぱり見れば見るほどそっくりやなあ」シミジミ
王子『?』
男「失礼します」ガチャ
王子(……また平べったい顔の人間がひとり)
女「あっ、お父さん」
男「患者さんに近づきすぎですよ、お母さん」
72 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/26(月) 23:14:58.15 ID:fBL0rP/L0
女「ごめんなあ。あっ、少女ちゃんは?」
男「遅くなりそうなので帰らせましたよ。ここからだと電車で1時間ぐらいかかりますしね」
女「そっかあ。車で送ってあげたら良かったなあ」
男「言ったんですけどね。定期があるので大丈夫です、って断られましたよ」
女「律儀やねえ。ってかな、お父さん。この子、あんまりにも魔王ちゃんに似てない?」
男「……確かに。それでいて、勇者くんの面影もありますね」ジー
女「なー。賢者さんとこの少女ちゃんが男の子を背負ってきたと思ったら、その子があの2人にそっくりなんやもん」
王子『…………』
73 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/26(月) 23:15:25.50 ID:fBL0rP/L0
女「びっくりしたわ、ほんま。しかも少女ちゃんに話を聞いたら、あたしが魔王ちゃんと出会った場所とほぼ一緒やし」
男「川で流れててびしょ濡れになって、僕の診療所までやってきたことも同じですしね」フフッ
女「偶然って重なるもんなんやねえ」
男「珍しすぎる気がしますが……」
王子『……あ、あの!』
女「ああっ、ごめんごめん。ほっぽって」
男「つい、昔を懐かしんでしまいましたね。すみません」
女「それじゃあ、お父さん。お願いできる?」
男「久しぶりすぎてちゃんと話せるか不安ですけど。えーっと」コホン
74 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/26(月) 23:15:56.43 ID:fBL0rP/L0
男『こんにちは。おカラダはダイジョウブですか?』
王子『言葉が分かるんですか!?』ガシッ
75 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/26(月) 23:16:24.22 ID:fBL0rP/L0
男『いっ、イタいです。おちついて』
王子『あっ……す、すみません』ジワッ
男『どうしました? やっぱりどこかイタミますか?』
王子『い、いや。なんていうか、その……痛いところはないんですけど、なんかホッとして』
男『……フフッ。シラナイ土地でシッテル言葉をキくとアンシンしますよね』
王子『そうですね』ゴシゴシ
男『キミのお母サンもそうでしたよ』クスクス
王子『えっ、母さんを知ってるんですか?』
男『モチロン。キミのお父サンもね』
76 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/26(月) 23:16:50.43 ID:fBL0rP/L0
男『魔王サンと勇者クンにこの国の言葉を教えたのは僕だからね』ニコッ
王子『……日本の、母さんと父さんの友人の男性』
男『そうですね。ちなみに、そこにいる僕の奥サンも2人のユウジンですよ』ニッ
女「ブイ」ニッ
男『カノジョも話スことはデキマセンが、この言葉を聞キ取ルことならデキます』
王子『そしてその人が、母さんと父さんの友人の女性……』
男『ソウです』ニコッ
王子『ということはっ!』ガバッ
男「わっ」
77 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/26(月) 23:17:18.53 ID:fBL0rP/L0
王子『あなたが、あの魔王と人間の王の一幕に出てくる――傷ついた人を助け、生かすことに尽力する男!』
男「ええ……?」
王子『そしてあなたが、相手に優しくすることに理由はいらない。そう教えてくれた女!』
女「なんよそれ……?」
王子『そういうことですね!?』
男『……そういうことですね、と言ワレましても』
女「初耳やね」
男『初耳デスね』
78 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/26(月) 23:17:47.23 ID:fBL0rP/L0
王子『……えっ、あっ、そうか。2人は、魔王と人間の王の一幕を知らないのか』
男『ええ。そちらのセカイに言ッタことがありませんから』
王子『……すいません。あの伝説の2人に会えると思ってなくて。舞い上がっちゃいました』
女「伝説って」
男『……言イ過ギですね』
王子『いえいえ。そんなことありませんよっ。2人のおかげで母さんは――』グゥゥゥ
79 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/26(月) 23:18:13.82 ID:fBL0rP/L0
王子『……あっ』
女「大きい腹の虫さんやね」クスクス
男『ゲンキな証拠だ。キミさえ良ければ、ウチでゴ飯を食べますか?』
王子『……い、いいんですか』
男『もちろん。それに……』
女「しばらくおってくれてもええよ」ニッ
男『そちらのセカイに帰ル手立テを見ツケルまで、家ニ居テくれてカマイませんからね』
王子『そんな……いいんですか?』
女「もち!」
男『その代ワリ、と言ッテはなんですが』
80 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/26(月) 23:18:39.86 ID:fBL0rP/L0
男『そちらのセカイのことと、魔王サンと勇者クンの話を聞カセテもらってもいいですか?』ニコッ
女「いやはや。もう二度と会えないと思ってた親友のお子さんと会えるなんて、人生なにが起きるか分からんねえ」
人の良さそうな2人の笑み。
見知らぬ土地で話も通じない環境で。
母さんと父さんの2人がそんな世界に上手く馴染めたのは、初めて会った人が目の前の2人だったからなんだと、王子は強く思った。
81 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2023/06/26(月) 23:19:12.08 ID:fBL0rP/L0
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