西城樹里「タケウチ」

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445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:19:32.14 ID:sUxM0O3Y0
武内P「…………」ダムッ

ダムッ


ダムッ


ダムッ ダムッ

武内P「……ッ」ダムッ!

ダムッ! ダッ!


智代子「行った! 正面!?」

咲耶(いや、性格からしてプロデューサーは強引には行かない……!)

咲耶(必ずサイドに躱そうとするはずだ。そして樹里には既に見抜かれている!)


樹里「……!」バッ!

ダッ!
446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:20:44.15 ID:sUxM0O3Y0
夏葉「!?」

未央「わっ、ちょっ……!」

凛(ボールではなく、真っ直ぐにプロデューサーへ……樹里!?)


武内P「な……!?」

樹里「う、おおおぁぁぁぁっ!!」グオッ!

ドガッ!

武内P「むぅっ!!」

樹里「! ぐぁっ……!!」

ドサッ

グキッ!

樹里「ぐっ!! う……!」


夏葉「! 樹里っ!!」

卯月「樹里ちゃん!! 大丈夫ですかっ!?」ダッ!

タタタ…!
447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:22:33.49 ID:sUxM0O3Y0
樹里「く……っ痛……!」グッ…!

武内P「西城さん!」

智代子「じゅ、樹里ちゃん、血が……!」


夏葉「見せて、樹里」スッ

樹里「い、てて……大丈夫だって、騒ぐ、な……ッ!」

夏葉「……」グイッ

樹里「ぁい゛っっ!! ……ッ!」ズキンッ

未央「ジュリアン……!」


夏葉「……接触時に、額をプロデューサーの肘にぶつけた。
   出血しているとはいえ、そっちは大した怪我ではないようだけれど……」

夏葉「倒れて右手を地面についた際、手首を捻ったようね。
   早めにお医者様へ診せた方が良いわ」
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:24:23.00 ID:sUxM0O3Y0
咲耶「確か、公園を出てすぐ近くにクリニックがあったはずだ。
   専門医に診てもらえるか、問い合わせてみよう」スッ

夏葉「えぇ、お願い。
   さぁ樹里、まずはあそこの水道で冷や…」

樹里「いいって、言ってんだろ……!」グッ

夏葉「言うことを聞きなさい」


武内P「西城さん……なぜ……」

武内P「なぜ、あのような無茶をされたのですか……」

樹里「…………」


武内P「ラフプレーに頼らずとも、あなたであれば、
    今の私からボールをカットする事は容易かったはずです」

武内P「たとえそれが敵わず、点を入れられても、9対7……
    残りのゲームで、じっくり勝利を決めることもできた」
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:26:27.39 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……アンタの言う事は正しいよ」

樹里「そうやって勝利をたぐり寄せた方が、確かに利口だよな」


樹里「でも……この勝負は、元々アタシに有利なモンだ」

樹里「アンタがここまでバスケできるとは思ってなかったけどよ……」

樹里「それでも、アタシはこんな準備してきて、アンタは普通のスーツ姿で……
   運動の習慣だって、どうせロクに無かったろ?」

樹里「こんなハンデで勝っても、なんかちげーな、って……
   ちゃんと、なんつーか……」

樹里「勝ちに、行きたかったのかもな……アタシなりに、納得できる形で……」


未央「ジュリアン……」

凛「…………」


武内P「……勝負は、私の負けです」

樹里「まだ終わってねぇだろ、いっ……ッ!」ズキンッ
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:27:42.57 ID:sUxM0O3Y0
咲耶「先ほどのクリニックだが、すぐに診てもらえるそうだ。
   さぁ行こう、樹里。智代子もついて来てくれるかい?」

智代子「う、うん!」


樹里「やめろっ!!」

智代子「ひぇっ!?」ビクッ


咲耶「……それは聞き入れられないよ。
   樹里のケガは、早急に手当てが必要のはずだ」

咲耶「それを拒むというのなら……理由を聞かせてほしい」

咲耶「私達だって、樹里への想いに納得が必要なんだ」


樹里「…………」



樹里「……もう、同じ思いをするのは嫌なんだよ」

樹里「あんな、惨めな思いは、もう……」グッ…
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:29:14.22 ID:sUxM0O3Y0
凛「……樹里、中学までバスケをやってたんだよね?」

樹里「…………」

凛「それと、関係があること……?」



樹里「……アタシがいた中学のバスケ部は、創部以来初めて県大会優勝してさ」

樹里「関東……ゆくゆくはインターハイも夢じゃねぇかも、
   なんて、メンバー皆ではしゃいでた」


未央「……えへへ、すごいじゃん!」

樹里「へっ、アタシが凄かったんじゃねぇよ……」


樹里「キャプテンで……いわゆる、司令塔のポジションを担うヤツがいてさ」
452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:31:55.72 ID:sUxM0O3Y0
樹里「背はそんな高くねぇけど、ボール捌きが抜群に上手くて、視野も広くて……
   それに、明るくて優しくて、皆のムードメーカーで」

樹里「いつも皆の中心で笑ってて、チームの力を実力以上に引き出してた……
   ソイツがいたから、アタシ達は勝てたようなモンだった」

樹里「親友だったんだ……アタシだけじゃなく、皆そう思ってただろうな」


樹里「ある時、ソイツが練習時間になっても来ねぇからさ……探しに行ったんだ」

樹里「学校の隅っこの、もう使われてないオンボロ倉庫の中に、ソイツはいた」


樹里「人目に隠れて、タバコを吸ってたんだ」


凛「……!」

卯月「た、タバコ……!?」

樹里「中2だぜ? 結構ヤンチャしてるよな、ハハ……」
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:34:07.18 ID:sUxM0O3Y0
樹里「親父のを、黙って持ってきたんだってよ……
   その時初めて吸った、って……それはたぶん、本当なんだと思った」

樹里「知らなくても一目で分かるくらい、まるで手つきが慣れてなかったからな……」


樹里「初めての関東大会で、部の内外からも期待を集めて……
   相当、プレッシャーを与えちまったんだと思う、アタシ達も」

樹里「それに、ソイツの家庭も、ちょっと問題を抱えてたみたいでさ……
   親父や母親からも、怒鳴られたり、暴力とかも……全然アタシ、知らなくて……」

樹里「友達ヅラして、一方的に追い詰めてた……
   たどたどしくタバコを持つソイツの姿を見て、初めてその事に気づいたんだ」

未央「そんな、ジュリアン……!」


樹里「咄嗟に、ソイツに言ったんだ……アタシがやった事にしろ、って」
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:35:07.59 ID:sUxM0O3Y0
智代子「!? そ、そんなの……!」

夏葉「……樹里、それは間違っているわ」


樹里「ああ、そうだよ。間違ってた」

樹里「たぶん、そん時も気づいてたさ……でも、そうするのが一番良いと思った」

樹里「ソイツがいなきゃ、関東も、その先も勝ち抜けるワケがねぇんだからな」

樹里「それがチームのためになると思ったんだ」


樹里「でも、アイツは自白して……辞めた」

咲耶「…………」


樹里「代わりに関東大会初戦のコートに立ったのが、アタシだった」
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:36:58.15 ID:sUxM0O3Y0
樹里「結果は散々……ってほどでもなかったかな。
   中盤までは、まだ勝負になってた」

樹里「でも、第3クォーターから、やっぱり地力の違いが出てきてさ……
   点差も、どんどん開いてって……」

樹里「アタシがやらなきゃ、って思ったんだ……
   ここでスリーを決めて、チームを勢いづけて第4クォーターを迎えれば、勝ち目が見えてくる……!」

樹里「アイツの代わりに、アタシが皆の精神的支柱になってやるんだ、って!」グッ…


樹里「でも……アタシのボールは、リングに届きすらしなかった」

樹里「相手チームに取られて、あっさりカウンター決められて、ますます点差が開いて……」


樹里「元々厳しい先生だったけど……ウンザリするほど責められたな。
   逆に、チームのメンバーは、皆アタシを擁護してくれた。励ましてくれた」

樹里「その優しさが、すげぇ辛くてさ……」

卯月「……樹里ちゃん」ジワッ
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:38:13.96 ID:sUxM0O3Y0
樹里「あの日から……アタシは、空っぽになった」

樹里「あれだけ一生懸命、自分の全てとさえ思ってたバスケを辞めて……
   まぁ、そりゃそうだよな」


樹里「あんなに夢中になって頑張ってたから、全てだったんだ」

樹里「だから、アタシは……夢中になる事が、怖くなった」

武内P「……!」ピクッ

咲耶「そうか……樹里、君は……」


樹里「……なぁ、プロデューサー」

樹里「初ステージの時、アタシ……途中で身体固まって、動かなくなってたろ?」

武内P「……はい。子供が落ちそうになっていたのを、目の当たりにされて」

樹里「違うんだよ」
457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:39:56.57 ID:sUxM0O3Y0
樹里「子供は関係ない……思い出しちまったんだ」

樹里「土壇場でスリーを外した、あの試合を……トラウマ、ってヤツなのかな」

武内P「! ……」


夏葉「……ひょっとして、サマーフェスのアレも?」

樹里「ヘッ、やっぱ夏葉も気づいてたか……あぁ、そうだよ」

樹里「絶対にミスしちゃダメだ、って……思えば思うほど、あのスリーを思い出しちまう」

樹里「バスケに全てをかけてたアタシの心の傷は、アタシが考えている以上に深かった」

樹里「夏葉の言う通りだぜ。
   手を伸ばさないままでいれば、ケガをする事もねぇ」

夏葉「ッ……私は、そんな……!」

樹里「いいんだ」フルフル


樹里「それもあるのかな……
   本当はアタシ、今は346プロにさほど怒りを感じちゃいねーんだ」

樹里「薄々、自覚しちゃいたけどな……」
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:45:16.20 ID:sUxM0O3Y0
樹里「智代子が立ち直ってくれた後、アイドルを辞めようと思えばできた。
   でも……手放す度胸が持てなくて、かといって、のめり込む勇気さえ無くて……」

樹里「アイドルを好きになりそうな自分が怖くて……
   自分の中で、アイドルがどんどん大きくなっていくのが怖くて……」

樹里「だから、打倒346プロっていう建前を振りかざして、
   一生懸命やるフリだけしながら、一線を引いてさ」

樹里「プロデューサーが、ロクな活動を寄こしていないのも、認識してた。
   踏ん切りつかないアタシは……そのぬるま湯にダラダラと浸かってたんだ」

樹里「ハンパはしたくねーとか言っといてな……ほんと、自分勝手だよな、ハハ……」



咲耶「樹里……いや、これはプロデューサーに聞くべきだろうか」

武内P「……? 何でしょう、白瀬さん」

咲耶「一つ確認させてほしいんだ。
   樹里がアイドルを辞められなかったのは、樹里の気持ちだけじゃない」

咲耶「樹里の事を狙う者達がいるからだと、私は認識していたのだが……違うのかい?」

武内P「! ……どうして、それを」


凛「私が言ったんだよ」

武内P「渋谷さん……」

凛「プロデューサーや樹里だけが、抱え込んでちゃいけないと思ったから」

樹里「…………」
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:51:25.82 ID:sUxM0O3Y0
咲耶「どうか凛を責めないでほしい、プロデューサー」

咲耶「私も、天井社長から薄々話を聞かされていたから、何となくの察しはついている。
   だから……本当のことを聞かせてくれないか」


武内P「……正直に打ち明けますが、その通りです」

武内P「かの346プロのオーディションでの不正の事実を知る西城さんは、狙われている……
    身柄だけでなく、その命さえも」

未央「い、命……!?」

武内P「不正を知られて最も困るのは、346プロです」

智代子「そんな事まで……」

夏葉「なるほど、だからあなたは346プロではなく、961プロとして樹里をスカウトしたのね」

夏葉「それに、身柄の安全を確保するために樹里を匿おうにも、
   346プロとしてスカウトしたのでは樹里は応じないだろう、と」

武内P「はい、仰る通りです」


夏葉「だったら、樹里を救う方法はあるわ」

武内P「……?」

樹里「は?」
460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:54:03.79 ID:sUxM0O3Y0
夏葉「あのオーディションの実態を知る当事者が、ここにも一人いるのをお忘れかしら?」ニコッ


卯月「な、夏葉さん……!」

武内P「待って下さい、有栖川さん。良からぬ事を考えるのはおやめください!」

夏葉「何? 良からぬ事って」

武内P「あなたがこの問題に関わると、あなたにも危害が及ぶ事になります!」


夏葉「あまり自分で言いたくはないけれど、私も世界的な大企業を営む有栖川家の人間なの」

夏葉「当代たる父の影響力をフルに活用して、346プロの追求を牽制し阻む事は、不可能ではないわ」

夏葉「つまり、樹里ではなく、実際にそのオーディションに参加した私がその不正を告発する……
   もし私の身に何かあれば、有栖川グループの総裁が黙っていないだろう、ともね」

夏葉「実家に頼ることは本意ではないけれど、樹里を守るためなら是非も無いことよ。
   何より、当事者である私が告発した方が、信憑性も話題性も担保できる」

夏葉「どう? 何かご不満はあるかしら」ファサッ


武内P「う、うむ……」

未央「ブレの無いなつはしのつよさよ」ゴクリ…
461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:55:47.06 ID:sUxM0O3Y0
樹里「余計な事をしないでくれ」

樹里「元々アタシが吹っ掛けた喧嘩なんだ。夏葉には関係ねぇ」

夏葉「あら。あのオーディションの参加者でないあなたよりは、関係あると思うけど?」

樹里「そういう事じゃなくて、あーもう……!」ワシャワシャ


夏葉「あなたの過去も知らずに、身勝手なことを言ったのは謝るわ」

夏葉「それでも、身勝手をさせてほしいのよ。
   あなたに気兼ねなく、アイドルを続けてもらえるように、ねっ?」ニコッ

樹里「……知るか」


智代子「……樹里ちゃん、聞いて」

智代子「私が立ち直れたのってね……
    樹里ちゃんがアイドル、やってくれたおかげなんだよ?」

樹里「…………」

智代子「ガラじゃねぇ、だなんて、あんなに恥ずかしがってた樹里ちゃんが、えへへ……
    私なんかのために、あんなに、一生懸命、キラキラで……」

智代子「すっごく練習、したんだろうなぁ、って……!」グスッ
462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:58:14.87 ID:sUxM0O3Y0
智代子「だからね、樹里ちゃん?」ジワ…

智代子「樹里ちゃんがやってきたこと、ハンパなんかじゃ……!」

智代子「……ッ!」ゴシゴシ

智代子「ハンパなんかじゃ全然ないよっ!」

智代子「私はずっと! 樹里ちゃんに感謝しなくちゃ、って……だから!
    それを伝えるために、アイドルやってたい、って! 思って……!」

智代子「今度は、私の番だ、って、うぁ……お、思うから……っ!」ポロポロ

智代子「あぁ、アイドルってすごいなぁ、いいなぁ、って……!
    樹里ちゃんにも、おも……ひ、ぃ、思って、もらいた、て、わたし……!」

樹里「チョコ、もういい……もういいよ」

智代子「よくないっ!! い、ぃぅぅ……!」ボロボロ


樹里「アタシなんかのために、皆もう……そういうの、やめてくれよ」

樹里「怖くなっちまうんだよ……アイドルのことも、皆のことも……」



武内P「……西城さん。一つ、誤解されていることがあります」
463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:59:58.70 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……?」

武内P「私が西城さんの仕事量を、意図的に少なくしていたのは、
    西城さんがこれ以上、アイドルに没頭するのを避けたかったからではありません」

樹里「知ってるよ……やべぇヤツらからアタシを守るためだろ?」

武内P「はい。ですが、それだけではありません」

樹里「え?」


武内P「私も、恐れたのです……プロデューサーとしての本来業務を果たす事を」


樹里「な……何だよ、それ?」


武内P「黒井社長から、先日指摘された事があります」

武内P「西城さんを表舞台に出そうと出すまいと、既に動向を観察している者はいる。
    どう立ち回ろうと、もはや注目は逃れられない、と……」

咲耶「…………」

夏葉「それじゃあ……なぜあなたは、樹里に目立った活動をさせずに匿い続けたの?」
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:01:41.90 ID:sUxM0O3Y0
武内P「資格が無いのではと、考えるようになりました」

武内P「私のような人間が、アイドルを輝かせようなどという資格が……」

未央「え……」

凛「……詳しく聞かせて」


武内P「……かつて、担当していたアイドルがいました」

武内P「聡明、かつ快活な人柄で、誰からも愛される、花のような人でした」

武内P「しばらくは、順調に活動を続けていたのですが……」


武内P「ある時、とある週刊誌に突然、彼女に関するゴシップ記事が掲載されたのです」

樹里「ゴシップ?」

武内P「男性芸能人との不倫……それも、一人や二人ではなく、あらゆる方面の……
    当然ですが、根も葉もないものでした」
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:04:27.69 ID:sUxM0O3Y0
武内P「ですが……当事者たる芸能人達含め、関係者が皆、口裏を合わせたのです」

武内P「ゴシップであるはずのその記事は、やがて真実として各所で報道される事になりました」

智代子「そ、そんな……!?」


武内P「彼らにとっては、ある種の炎上商法と言うのでしょうか……
    多少の汚名よりも、話題性を得る事を良しとする者達で、結託をしたようです」

武内P「そして、それを指揮していたのは、
    当時ライバル関係にあったアイドル事務所のプロデューサーでした」


武内P「私の担当アイドルは、ご家族も含め、メディアに食い潰され……
    そのまま、引退に追い込まれたのです」


夏葉「何てこと……」

未央「そんな……後でそれがウソでしたって、釈明できなかったの!?
   そんなのあんまりだよ!」

武内P「もちろん、力を尽くしました。ですが……」

凛「覆せなかったの……? そんな、酷いことって……!」
466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:06:04.79 ID:sUxM0O3Y0
武内P「私は、そのライバル事務所のプロデューサーに、抗議をしました」

武内P「ですが、彼は鼻で笑い、こう答えたのです」


武内P「“事故”にあったようなものだ……
    この業界、こんなのはよくある事だろう、と」

武内P「これからは、身の振り方を弁えるんだな、とも……」

樹里「…………」


武内P「私は、怒りと憎悪に取り憑かれました」

武内P「不条理な動機と手段で、私の担当アイドルを社会的に殺したその男を」

武内P「何より、彼女の汚名を晴らすことができなかった、私自身の無力さにも」



武内P「だから私も……同じ事をしたのです」

凛「……!?」ピクッ
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:08:24.15 ID:sUxM0O3Y0
武内P「その男と、彼の担当アイドルを……“事故”に遭わせました」


一同「!!」


武内P「主に行うことは、業界関係者への根回しと誇大広告、SNS上での宣伝工作……」

武内P「興信所に依頼し、相手の汚点となるネタを掻き集め、
    これをマスコミや週刊誌にリークするなども行いました」

武内P「当時持っていた私財のほとんどを費やし……
    それでも足りない分は、事務所の資金を横領して、この活動に充てました」

武内P「あの時の私は、自分の行いは正しいのだと、信じて疑わなかった。
    いや……信じ込もうとしていた」

武内P「担当していた、彼女の無念を晴らすためなのだと」

武内P「後で自分や事務所がどうなろうと、関係無い。
    今すべきことに、全てをかけ、全てを失う覚悟で、私は……復讐を果たしました」


卯月「……ッ」ポロポロ

凛「プロデューサー……」


武内P「本懐を遂げた私に、やがて近づく男がいました。
    961プロの、黒井祟男社長です」
468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:12:04.44 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……気になってた事がある」

樹里「アンタが346プロの人間であるのは分かったけどよ……
   961プロのプロデューサーだってのは、結局ウソだったのか?」


武内P「はい。厳密に言えば、正しくはありません。
    あくまで私は、346プロのプロデューサーです」

武内P「ですが、961プロにおいても、それとほぼ同等の権利を与えられている、ということです」

未央「……それって、つまり?」


武内P「黒井社長が私に、協力関係を持ちかけたのです」

武内P「有事の際に、961と346、双方にとって害を為す存在を抹消する……
    その手を下すことを、担ってくれないかと」

武内P「協力をしてくれるなら、私の社会的なステイタスを、全て保障する……
    確実に隠蔽するし、私が無断で横領した346プロの資金も、961プロが補填をしよう、と」

武内P「そうすれば、まだ貴様は、アイドルのプロデューサーを続けられるだろう……」


夏葉「……あなたはそれに従った、ということね」

武内P「そうです。そして……
    346プロの会長と961プロとで、正式かつ秘密裏に、契約が結ばれたのです」
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:13:24.28 ID:sUxM0O3Y0
武内P「間接的に相手を陥れるものや、直接的なもの……
    “仕事”の内容は、様々でした」

智代子「直接的、ってどんな事、ですか……?」

武内P「とてもあなた方に、お教えできる事ではありません」

智代子「……!」ゾクッ

武内P「それだけの事を、私は重ねてきたのです」

咲耶「…………」


武内P「これは“事故”なのだ……よくある事なのだ、と……」

武内P「不条理に手を染める私の心を慰めたのは、皮肉にも、あの憎き男の言葉でした」

武内P「この行いは、私の担当アイドルのためなのだと」

武内P「そう、心の中で繰り返し、黙して“仕事”をこなしてきた……
    そんなある日の事でした」
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:15:47.07 ID:sUxM0O3Y0
武内P「繁華街を通りがかった時、路上で泣き叫ぶ一人の女性を見かけました」

武内P「見るからに正気ではなく、呂律も回っていない……
    みすぼらしい風貌の、若い人でした」

武内P「気にも留めまいと、通り過ぎようとしたのですが……
    よく見て、気がついたのです」


武内P「その女性は、私が陥れたあの男の、担当アイドルだった人でした」

樹里「……ッ!?」

卯月「もう、やめて……!」


武内P「何を言っているのかは分からない。
    ですが……あらん限りの憎しみや怨嗟を、周囲に吐き出しているのが見て取れました」

武内P「かつて復讐を遂げた相手の、変わり果てた姿を見て、私は……
    逃げるようにその場を後にしたのです」


武内P「その日以来、私は……眠ることが出来なくなりました」
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:18:17.71 ID:sUxM0O3Y0
武内P「目を閉じると、瞼の奥に、私の担当アイドルとその女性の姿が重なるのです」

武内P「かつて“事故”に遭わせた、数々の芸能関係者達もまた……同じ末路にあるのだと」

武内P「私は、多くの光を奪った……その私が、誰かに光を諭す事など……」

武内P「まして活躍をさせて注目を浴びれば、同じ目に遭わせようとする者も現れるかも知れない……
    かつての私の担当アイドルや……私が陥れた者達のように」

武内P「だから、私は西城さんを、守るという名目で、活動をさせてこなかった……
    いえ、活動させることが出来なかったのです……」


凛「……やっと、分かった」

凛「プロデューサーの事だったんだね……復讐に身を任せ、暗く深い闇に堕ちた者って」

凛「取り返しのつかない所までいって、二度と光を見ることはできない……」

武内P「…………」


凛「でも……それでもプロデューサーは、助けようとしたんでしょ?」

凛「樹里のことを……樹里が、自分と同じ道を進んじゃう前に」

凛「苦しみを知っているからこそ、見過ごせなかったから助けた、って、言ってたじゃん」

樹里「……知らなかったぜ。そんな話をしてたのか」


凛「それで……樹里はもう、346プロにさほど怒りを抱いていない、って、それは本当?」
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:19:41.31 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……あぁ」

樹里「別に、凛達が346プロだって分かったからじゃない」

樹里「それにまだ、智代子を苦しめた事が許せねぇって気持ちも、もちろんある」

智代子「樹里ちゃん……」


樹里「でも、まぁ……薄れちまった、ってトコだ」ポリポリ


凛「ありがとう、樹里」

凛「だったら……プロデューサーはやっぱり、樹里を救ったんだよ」

武内P「……私が、西城さんを?」

凛「うん」コクッ

凛「だから、その……あんまり自分を責めなくてもいい、っていうか……」

夏葉「凛」

凛「えっ?」


夏葉「私はプロデューサーを許してはいけないと思うわ」
473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:21:09.40 ID:sUxM0O3Y0
凛「ッ……!」

智代子「な、夏葉ちゃん、そんなまた水を差すような事…!」

夏葉「彼の話が本当であれば、簡単に見過ごして良いはずがないでしょう」


武内P「有栖川さんの言う通りです。
    元より私の大義は、復讐を果たしたあの時から、既に失っています」

武内P「いかなる誹りも裁きも、免れる事はできません」

武内P「そのために、西城さん」

樹里「……何だよ」


武内P「もし、有栖川さんのご提案に従うのであれば……
    あなたが346プロからその身を狙われる心配も無くなります」

武内P「つまり、自身を守るためにアイドルを続ける必要が、無くなるのです」

樹里「…………」


武内P「今後の方針を振り返るには、良い頃合なのかも知れません。
    私も……あなたを導く自信が、薄れてきている」

武内P「何者にも脅かされることなく、それまで通りの生活に戻る事も……あなたが望むのであれば」
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:22:40.89 ID:sUxM0O3Y0
智代子「樹里ちゃんのプロデュース……諦めるんですか?」

武内P「…………」


未央「ちょ……あ、あの、なつはし、ちょっと待って! あのさ!」

未央「プロデューサーを勘弁してあげるの、できないかな!?
   だ、だって! プロデューサーだって深い事情があって…!」

夏葉「事情があれば他人を陥れて良い道理があると、未央は思っているの?」

未央「うっ……!」ギクッ

卯月「夏葉さんっ……お願いです、そんな!」

咲耶「残念だけど、卯月、未央……夏葉の言っている事は正しい」

卯月「ううぅ……!」


夏葉「彼の手によって、智代子と同じ、いや……智代子以上に苦しめられた人達が何人もいる。
   その事実から、私達は決して目を背けてはならないわ」

凛「夏葉……」


夏葉「かと言って、責任から逃がれる事も許されないわよね」
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:24:05.01 ID:sUxM0O3Y0
未央「へ?」

武内P「あ、有栖川さん……」

夏葉「聞こえなかったの?」

夏葉「樹里のプロデュースを辞める事は、逃げだと言ったのよ」


咲耶「樹里とプロデューサー……
   図らずも、二人の間に生まれたモラトリアムに、お互いが利害の一致を見たという訳か」

咲耶「そして、それを氷解するきっかけとなったのが、凛のお弁当だった」

咲耶「私達が考えるべきは、逃避なんかじゃない。
   過去に縛られ、道半ばで自ら夢を絶つなど、この業界に生きる者の本分ではないはずだ」


凛「咲耶……」

未央「えへへ……やっぱりさくやんってば、カッコイイこと言うよねー」ウリウリ

咲耶「そうかな。思ったことを言ったまでさ」ニコッ
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:25:27.61 ID:sUxM0O3Y0
樹里「み、皆……?」

卯月「……ねぇ、樹里ちゃん」

卯月「樹里ちゃんは、私達が構うの、迷惑ですか?」

樹里「め、迷惑……なんかじゃねぇって。この間も言ったろ?」

卯月「だったら!」スッ

ギュッ!

樹里「う、うわっ!?」ドキッ

卯月「もっともっと、そばにいさせてください」

樹里「……ッ!」

卯月「私達が差し伸べる手を、怖いなんて言わないでくださいっ!」

樹里「お、お前……」


智代子「えへ……えへへ」ニコニコ

智代子「モテモテですなぁ、樹里ちゃん?」

樹里「は、はぁ!?」
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:27:20.47 ID:sUxM0O3Y0
未央「ジュリアン、ユーもう観念しちゃいなよ。
   これだけのお節介焼きに囲まれて、逃げきる方が無理ってもんだよね?」

樹里「う、うるせぇ! お節介を焼く側が言う事かよ!」

未央「あはは、それもそっか!」ニコッ

凛「でも、未央の言う通りだよ」


凛「たとえ樹里やプロデューサーが諦めようと、私達は諦めたくない」

凛「これだけ深い間柄になれた人を、放っておけなんて……
  そんな悲しい事、言わないでよ」

武内P「渋谷さん……」

凛「大体、樹里のプロデュースを諦めるクセに、私達の事は何も言わないの、おかしいよね?」クスッ

武内P「う、む……」ポリポリ


咲耶「さて……私達の想いは、今述べた通りだ」

夏葉「あとは、あなた達の気持ち次第よ」


武内P「…………」

樹里「……おい、プロデューサー」

武内P「は、はい。何でしょう……?」
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:28:29.38 ID:sUxM0O3Y0
樹里「ボール、取ってくれ」スクッ


智代子「……えっ!?」

未央「ちょ、ジュリアン…!」


樹里「まだ9対7だ、勝負は終わっちゃいねぇ。
   次はアタシがオフェンスだったよな」

武内P「し、しかし……」

樹里「いいから、ほら」クイッ


武内P「…………」スッ

樹里「……」ヒュッ

武内P「……」パシッ ヒュッ

樹里「……」パシッ


樹里「ッ……!」ズキッ

武内P「…………」


ダムッ
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:29:52.48 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……」ダムッ


ダムッ


卯月「……あ、あれ?」

咲耶「リングから、遠ざかって……?」


武内P「あ、あの……西城さん?」

樹里「確か、ここだ」ダムッ

武内P「えっ?」


樹里「あの時、アタシがスリーを打ったのは、この辺りだった」スッ


凛「樹里……」



樹里「なぁ、プロデューサー。一つ賭けをしてみねぇか?」

武内P「賭け?」
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:32:01.91 ID:sUxM0O3Y0
樹里「こっからアタシが、スリーポイントシュートを投げる」

樹里「今、9対7……これが入ったら、アタシの勝ち」

樹里「入らなければ、アタシの負けだ。
   この手首じゃ、どのみちゲームは続けらんねぇからな」

樹里「で、そうなった場合、アタシはアイドルを辞める……どうだ?」


夏葉「……何だか、最初と趣旨が変わっていないかしら?」

樹里「なっ!? う、うっせーな、いいんだよ細かい事ぁ!」


樹里「アイドルとしてステージに立つからには、このトラウマは克服しなきゃなんねぇ」

樹里「投げるのは1球だけ。
   一発勝負で入らなきゃ、アタシはそれまでだったってことだ」

卯月「でも、樹里ちゃんは手を…!」

武内P「分かりました」

未央「ぷ、プロデューサー……!?」


武内P「入ったら、アイドルを続けていただけるんですね?」
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:34:21.87 ID:sUxM0O3Y0
樹里「へぇー……いいのかよ?」ニヤッ

樹里「卯月が言いかけた通り、今のアタシは万全じゃねぇ」

樹里「それどころか、わざと外して、まんまとアイドル辞めてやる気かも知れないぜ?」


武内P「あなたは、打算的な事をする人ではありません」

樹里「……!」ピクッ

武内P「たとえ後ろ暗い思いがあったとしても、
    目の前のものには真摯に向き合うのが西城さんであると、私は知っています」


樹里「……ったく。
   ホント、アンタって恥ずかしげも無く、よくもまぁ……」


樹里「あぁ。本気でやるよ」

樹里「でないと、諦められるモンも諦められねぇしな」


咲耶「それでこそ樹里だ」ニコッ

樹里「うるせぇ」ザッ


武内P「お願いします、西城さん」



樹里「…………フゥー」
482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:35:14.95 ID:sUxM0O3Y0
樹里「…………」スゥーッ…

樹里「……」スッ


シュッ…!


未央「行った!」

智代子「お願いっ……!!」ギュッ!


樹里「……ッ」ズキッ



卯月「あ……あぁ……!」

夏葉「軌道が……」



樹里(……ダメ、だな)
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:35:54.41 ID:sUxM0O3Y0
ガンッ!


凛「……ッ!」

智代子「そんな、リングに……!」

咲耶「……」フルフル


ダッ!


未央「うぇっ!?」


ダダッ! バッ!


卯月「ぷ、プロデューサーさんっ!?」
484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:36:41.33 ID:sUxM0O3Y0
武内P「……ッ!」ゴオッ!


樹里「な……えっ!?」


パシッ!

武内P「ッ!」ブォッ!


ガゴォォンッ!!



凛「……ッ!」

夏葉「あ……アリウープ……!」



スタッ

武内P「…………」
485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:38:00.16 ID:sUxM0O3Y0
樹里「あ、アンタ……」

武内P「ボールは、入りました」

樹里「!」ピクッ


武内P「……あなたは一人ではありません」

武内P「偉そうに言える立場ではないとしても……私は、あなたの力になりたい」

武内P「たとえ躓いても、私や皆さんがあなたの力になり、支え続けます。
    あなたに手を、伸ばし続けます」

武内P「そうして共に夢を目指すことの尊さを、見出していきたいと……
    ようやく、そう思うことができました」

武内P「ここにいる皆さんのおかげで……だから、西城さん」


武内P「もう一度、あなたをプロデュースさせてください」
486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:39:04.45 ID:sUxM0O3Y0
樹里「…………」

樹里「どいつもこいつも、勝手なこと、言ってくれるぜ……」

樹里「まぁ……悪くねぇ」


樹里「アタシの勝ちだな」ニカッ

武内P「いいえ、西城さん」

武内P「“私達”の勝ちです」ニコッ

樹里「ヘッ! 言ってろ」



凛「樹里……良かった」

咲耶「ああ。しかし、プロデューサーの罪が消えた訳じゃない」

智代子「そ、そこはほら! 向き合った上での償いをと言いますか……!」

夏葉「ええ、そうね」

夏葉「凛が語ったように、彼が樹里や智代子を救ったことも事実だから」
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:40:29.38 ID:sUxM0O3Y0
未央「要するに、私達がやることは変わんないってことでいいよね?」

夏葉「ふふっ……ええ」ニコッ

卯月「それさえ分かれば、私達、頑張れますっ!」ギュッ


武内P「行うべきことは山積みです。
    これからしばらく、相応にハードなスケジュールになることを予めご承知ください」

樹里「何か目標とかあんのか?」

武内P「約二ヶ月後に、先日のサマーフェスと同等の規模のライブイベントがございます。
    西城さんには、これに出場していただきたいと思います」

樹里「また急な話だなおい」


樹里「でも、今までダラッとしてたアタシもアタシだ。いいぜ」

樹里「改めて、これからよろしくな、プロデューサー」スッ

武内P「はい、こちらこそ」スッ

ギュッ…!


樹里「ヘヘ……バスケが出来るワケだぜ」

樹里「でっけぇ手……」

武内P「……」ニコッ
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:42:24.96 ID:sUxM0O3Y0
〜283プロ〜


天井「……ふむ。そちらの言い分は分かりました」

天井「だが、なぜその話の流れで、この私にコンタクトを?」

『何も接点が見えないからです』

『今お話した登場人物の中で、283プロだけが本来的には何の関わり合いも無い』

『にも関わらず、御社のアイドルは本件について甲斐甲斐しく干渉し、
 関わりを持とうとしているように見えます』

天井「ウチの有栖川夏葉が世話になったから。それだけでは理由として不服かな?」


『彼女が弊社に相応の拘りを持っていたとすれば、それもあるでしょう』

『ですが、彼女にはかのオーディションについての未練はもう無い。
 既に御社で生き生きと活動しているように見えます』

『であるならば、今なお弊社で燻り続ける問題に、
 あなたは自分達のアイドルにわざわざ首を突っ込ませる必要など無いはずです』

『いかがですか?』
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:43:50.42 ID:sUxM0O3Y0
天井「……なるほど。
   深く考えた事はありませんでしたが、言われてみれば一理ある」

『ご冗談を。
 あなたは明確な意志を持ってご自分のアイドル達を介入に向かわせています』

『もしお電話ではお話しにくいようであれば、後日そちらにお伺いしましょう。
 283プロ、いいえ、あなたの真意とその背景にあるものについて、直接お聞かせいただきたい』

天井「お越しいただいても、ご期待に添えるようなお話はできませんがね。
   まぁいいでしょう」

『ありがとうございます。ではまた』

プツッ


天井「……フゥー」ガチャッ

天井(油断のならない相手とは聞いていたが、想像以上だな)

天井(あの強気……彼女も確信を得るに足るだけの情報を、既に握っている)


ギシッ…

天井(厄介なものを引き受けてしまったものだ……やはり、ひと味違うという訳か)

天井(“トップアイドル”が抱える問題のスケールというものは)
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:46:29.85 ID:sUxM0O3Y0
――――――

――――


『さぁ〜残り時間もあとわずか! そろそろ勝負が見えてきそうですがー!?』

『うわわっ!? じゅ、樹里ちゃんっ! そこジャンプで回避するか隠れて!!』

『はぁっ!? ちょ、ジャンプしてるってアタシ!! チョコも見ただろ!?』

『そうじゃなくて、敵が弾を撃ってきちゃ、ああぁー!! 前見て前っ!!』

『おりゃ、ジャンプ! あれ、おいっ!! どうなってんだこれ、おあぁっ!?』

『うわああぁぁっ!! またやられちゃった!!』

  >草ァ!
  >【朗報】漢西城、逃げも隠れもしない
  >めちゃくちゃ素が出てる「おいっ!」で大草原
  >焦りまくる樹里ちゃんでしか摂取できない栄養素がある
  >これ後で喧嘩するやろなぁ、せっかくチョコちゃんキル数稼いでたのに
  >クッソ必死にやってて草
  >何にでも本気でやるの良いよねこの子
  >この二人プライベートでもめっちゃ仲良しだぞ
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:47:29.89 ID:sUxM0O3Y0
〜961プロ〜

カタカタ… カタカタカタ…

武内P「はい、はい……恐れ入ります、ではその方向で……」カタカタ…

武内P「その日時であれば、私共は空いております……分かりました。
    では、引き続きどうかよろしくお願い致します……はい、失礼致します」

ピッ!

武内P「お待たせしました、西城さん」ガタッ

樹里「毎日急がしそうだな、ちゃんとメシ食ってんのか?」

武内P「おかげさまで、いつも美味しくいただいております」

樹里「あ、アタシの弁当の事じゃねぇって! 朝とか夜の話!」

武内P「これは、失礼致しました」ペコリ


樹里「……いつも空っぽにして渡されんだから、そっちは分かりきってるっての」ボソッ

武内P「何か?」

樹里「うるっせぇな!! ほら、仕事行くぞ!」プイッ
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:48:20.13 ID:sUxM0O3Y0
ブロロロロロ…

武内P「道が混んでいますので、到着は若干遅れるかと」

樹里「電話しようか、アタシ?」

武内P「いえ、既に先方へは連絡済みです」

樹里「……あ、そう」


樹里「…………」チラッ



 【961プロ西城樹里 アイドル戦国時代へ殴り込み! 目指すは『クリスタルウィンター』優勝!】

 【芸能界は『西城樹里』を待っていた! カムバックにファンからは期待の声続々】



樹里「…………」
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:50:37.34 ID:sUxM0O3Y0
武内P「西城さんのファン層は、老若男女、非常に幅広いのが特徴です」

樹里「ッ!? ちょ、何だよ、ちゃんと前見ろよ!」

武内P「失礼」

樹里「……」プイッ


樹里「……この間、道歩いてたらさ」

樹里「アタシのファンです、って……
   たぶん年下だけど、女の子から、握手求められたんだ」

樹里「応じて良かったんだよな、アタシ……?」


武内P「……ケースバイケースではあります。
    人通りが多く、いたずらに混乱を招きうる場合は、避けた方が良いでしょう」

武内P「また、西城さんの肖像権は事務所に帰属するため、写真撮影に応じることも原則としてNGです」

樹里「そっか……悪ぃ」


武内P「いいえ」

武内P「一人一人のファンを大切にされる西城さんの姿勢は、アイドルとして立派です」
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:52:17.48 ID:sUxM0O3Y0
樹里「そうかよ……」ポリポリ

樹里「……アタシ、こういうナリだからさ。
   見た目で怖がられて、知らない人から避けられること、多かったんだ」

武内P「…………」


樹里「……嬉しかった」

樹里「握手を求めたその子も、すげー勇気を出してアタシに話しかけたんだろうし……
   ファンに応援されるって、いいモンなんだなって」

樹里「アタシ、もっと頑張るよ」

武内P「……はい」ニコッ


武内P「到着まで、まだ少しかかります。お休みをされても大丈夫ですが」

樹里「何だよ、アタシとお喋りすんのが嫌だってのか?」

武内P「い、いえ! そういう意味では……」

樹里「あはは、バーカ」


樹里「もっと仕事してぇ。頼むぜ、プロデューサー」

武内P「はい」
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:53:57.03 ID:sUxM0O3Y0
――――


美城『961プロとのコラボ企画だと?』

武内P『そうです。
    そのために私は961プロに足繁く通い、そのアイドルと準備を進めてまいりました』


美城『君は、この私の目を節穴だと思っているようだな』

美城『君が社の規定に反する行動を取っていた多くの事実を、既に私は握っている』

今西『……!』

武内P『…………』


美城『ただでさえコンプライアンスやCSRの重要性が叫ばれ、
   世間の監視の目も強くなっている時代だ』

美城『次第によっては、私はこの場で解雇を言い渡すどころか、
   反社会的な人間として君の身柄を然るべき機関へ引き渡す事に一切の躊躇もしない』

ちひろ『そ、そんなっ!』



武内P『結構です。しかし……』
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:55:19.84 ID:sUxM0O3Y0
武内P『あなたにそれが出来るでしょうか』

美城『……どういう意味だ』


武内P『あなたはきっと、こうも考えているはずです』

武内P『私を罰しようとするなら、961プロの黒井社長があなたに対し、
    徹底的に抗議してこれを否定するでしょう』

武内P『彼がそれをするに足る理由をあなたが知っているとすれば、ですが』

美城『…………』

武内P『そうなれば、346プロと961プロとの全面戦争は避けられない』

武内P『仮に法廷の場で勝利を納めるとしても、それまでに受けるであろう損失を考えれば、
    表立って行動を起こすのはデメリットでしかない』

武内P『果たしてそれは、あなたにとって合理的な判断と言えるでしょうか』
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:56:16.20 ID:sUxM0O3Y0
美城『……開き直りとはな。
   伊達に裏の仕事を担ってきただけあり、並みの心臓を持ってはいないということか』

武内P『…………』


美城『私は君を否定する。
   このまま野放しにしておく事など考えてはいない』

美城『その時が来るまで、せいぜい独りよがりの贖罪ごっこでも続けるがいい』


武内P『ありがとうございます』ペコリ


ちひろ『プロデューサーさん……』

今西『…………』


――――
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:58:07.58 ID:sUxM0O3Y0
〜某テレビ局スタジオ〜

ワアアァァァァァ!!

冬馬「玉ねぎをすり下ろすぜっ!」ショリショリ!

冬馬「こうすることで、水分が出てふんわりと柔らかくなるし、
   焼いた時に割れちまうリスクも回避できるからオススメ! だぜっ!」ビシッ!

キャアアァァァッ!!


司会者「天ヶ瀬冬馬選手、なんと繊細なひと手間!
    一方で青コーナーの、あーっとこれは961プロ、西城樹里選手!?」

司会者「みじん切りにした玉ねぎに、これは溶かしバターでしょうか!?」

司会者「サッと回しかけたそれをラップに包んで、電子レンジの中へ!
    西城さん、これは今何を!?」


樹里「飴色になるまで炒めてると時間かかるんで、こうしてます」ジャーッ

樹里「普通に炒めるのより水分が飛ばないからジューシーにもなるし、
   加熱した玉ねぎの甘みと、バターでコクも出て……」サッ サッ

樹里「しかもこうして、他の作業も並行してできるから便利かなって」シャカシャカッ

ヒューーッ!! ワアァァァァ!!
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 22:59:15.48 ID:sUxM0O3Y0
冬馬「ヘッ! レンジを使った程度で得意になってりゃ世話ねぇな」

樹里「何だぁ? 玉ねぎをすり下ろすのなんざ、アタシだってとっくに試してんだよ」

冬馬「言ってろ。最後に美味くできなきゃ意味ねぇぜ!」ガオッ!

樹里「こっちの台詞だぜ! 後で吠え面かくんじゃねぇぞ!」クワッ!

ギャーギャー!

司会者「あぁっと、これはアイドルらしからぬ舌戦の応酬!」

解説者「台本には無いですね。とても良いですよ、ノーカットでやりましょう」

司会者「解説なのに編集者目線ですねぇ!?」

ワアアアァァァァァァ!!



武内P「…………」


凛「プロデューサー、お疲れ様」ヒョコッ

武内P「!? し、渋谷さん……どうしてこちらへ?」
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:00:45.26 ID:sUxM0O3Y0
凛「ちょうど、隣のスタジオで仕事だったんだよ。忘れたの?」クスッ

武内P「これは、失礼致しました」

凛「ううん」フルフル


凛「本当は、楓さんも一緒だったんだけど、次の仕事があるみたいで」

武内P「そうでしたか」

凛「だから、楓さんから樹里へ伝言」

凛「美味しいハンバーグを食べて、私達もアイドル業界をわんぱーくに邁進しましょう♪」

武内P「…………」

凛「……いや、私じゃなくて、本当に楓さんが言ったんだからね?」

武内P「いえ、分かっています……」


凛「でも、楽しそうだね、樹里」

武内P「……はい」
501 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:02:05.73 ID:sUxM0O3Y0
樹里「あれっ!? おい、チーズを入れんのは反則だろ!」

冬馬「ゲッチュウ! 神様は何も禁止なんかしてない! だぜっ!」ビシッ!

樹里「んの野郎……! よしっ、じゃあこっちも秘密兵器を投入だ!」ドスンッ

冬馬「えっ!? ちょ、何だそれ!? どっから出てきたその鍋!」

樹里「ウチで作ってきた特製デミグラスソース」グツグツ

冬馬「そっちの方がなんかズルくねぇか!?」



凛「その樹里と……ウィンターフェスでは敵同士になるんだね、ニュージェネは」

武内P「……そうなります」


スッ

凛「ねぇ……プロデューサーは、どっちの方につくの?」

武内P「…………」
502 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:03:29.36 ID:sUxM0O3Y0
凛「フェスの事で、話をしたりしないんだけどさ……」

凛「樹里はきっと……私達についてやれ、ってプロデューサーに言うよ。
  本来は、346プロのプロデューサーなんだから、って」

武内P「…………」


凛「…………」



凛「樹里についてあげて」


武内P「えっ?」


凛「知ってる? 樹里の周りにいるの、もうファンだけじゃなくなってるって事」

凛「この間、未央から見せてもらったんだけど……匿名掲示板とかに、そういう……」


武内P「……アンチからの誹謗中傷、ですか」

凛「…………」
503 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:05:02.66 ID:sUxM0O3Y0
武内P「大なり小なり、そういうものはつきものです」

武内P「私も……同じ事を行い、何人も闇に葬ってきました」

凛「! そ、それは961プロから言われて仕方なくでしょ!」

武内P「はい。ですが……許される理由にはなり得ません」

凛「……ッ」プイッ


武内P「私が責められる分には、許容できます。ですが」

武内P「西城さんまでをも巻き込んでしまうのが、私には……」


凛「だから、樹里のそばにいてあげてよ」

凛「その辛さを一番分かっている人が、一番の支えになれるはずだから」


武内P「渋谷さん……」

凛「私達なら大丈夫。
  未央も卯月もいるし、ステージの上でも三人で支え合っていける」

凛「樹里には……プロデューサーが必要なんだよ」
504 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:06:18.96 ID:sUxM0O3Y0
武内P「…………」グッ…

武内P「私は……あなた達のプロデューサーです」

凛「…………」


凛「体は一つしか無いんだから……」

凛「樹里は、今が正念場で、特に頑張んなきゃいけないんだから……
  樹里に力を注いであげてよ」


凛「今日はそれを伝えたかっただけ……それじゃ」スッ

武内P「! し、しぶ…」

スタスタ…


武内P「…………」ポリポリ


樹里「あん? どうした、困ったツラして」ズイッ

武内P「!? さ、西城さん……収録は?」

樹里「今休憩に入ったトコだよ、見てなかったのか?」

武内P「も、申し訳ございません」
505 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:08:19.11 ID:sUxM0O3Y0
樹里「ふーん、アンタらしくねぇな。やっぱ疲れてんじゃねぇのか?」

武内P「い、いえ……」


冬馬「おい西城っ!」

樹里「あ? 何だよ、えーっと……鬼ヶ島?」

冬馬「天ヶ瀬冬馬だ!! “ヶ”しか合ってねぇだろ!
   あのな、えーっと、なんだ……」

樹里「だから何だよ、男ならビッとしろよな」

冬馬「うっ、だ、だからっ! 後でその、お前のレシピも教えてくれ!」

樹里「!? はぁぁ!?」ドキッ

冬馬「こういうのは自分で作ってみねぇと、どっちが美味いか分かんねぇなと思って」


樹里「そ、そりゃあ、別に構わねぇけど……」ポリポリ

樹里「じゃあお前、えーっと……冬馬? のも教えろよな。
   一応アタシも家で作ってやるよ」

冬馬「本当か!? やったぜ! じゃあ後でメールするからな!」ビシッ

スタスタ…
506 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:09:23.05 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……なんか、アイドルって強引なヤツ多くねぇか?」

樹里「まぁ、退屈はしねぇけどさ」

武内P「…………」

樹里「あ、そうだ。収録終わった後でいいから、アタシのハンバーグ食べていけよな。
   あの冬馬とかいうヤツのと食べ比べて、どっちが美味いか聞かせてくれよ」

武内P「…………」

樹里「? ……おーい、もしもーし」

武内P「え?」


樹里「……やっぱ、何かあったろ」

樹里「もう、隠し事はナシにしようぜ、プロデューサー」



武内P「ウィンターフェス……『クリスタルウィンター』の件ですが」
507 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:10:18.73 ID:sUxM0O3Y0
〜街中〜

トボトボ…

凛「…………」


「ねぇ、ちょっとあの子……」
「しぶりんだよね?」
「変装とかしないんだ……」
「うわぁぁ顔ちっちゃ〜い……可愛い〜……!」


凛(……また、困らせちゃったな、プロデューサー)

凛(私……樹里に嫉妬してばかり)


ヴィー…! ヴィー…!

凛「……?」ゴソゴソ…

凛「知らない番号から……?」


ピッ!

凛「もしもし」
508 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:11:12.41 ID:sUxM0O3Y0
『突然電話をしてすまない』

凛「あの……誰ですか?」

『美城だ。346プロアイドル事業部の常務をしている』

凛「! えっ……」


『君と話したい事がある。
 すまないが、事務所の常務室まで来てくれないか』

凛「え、えぇっと……少し時間かかると思いますけど」

『構わない。
 用件は、私が主導する新たなプロジェクトへの参加の可否についてだ』

『前向きな回答を期待する』

ピッ!


凛(……常務自ら、私に直接?)
509 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:12:34.60 ID:sUxM0O3Y0
凛(確か、プロデューサーから聞いたな。プロジェクトクローネ、だっけ)

凛(私には、今のニュージェネの活動があるし……まして、ウィンターフェスも控えてる)

凛(新しいプロジェクトになんて、参加してる余裕は無いんだけど……)


凛(…………)


  ――私は……あなた達のプロデューサーです。


凛(いっそ……)


凛「!? い、いやいやいや……!」ブンブン


凛「ま、まぁ……聞くだけなら、聞いてあげてもいいかな、うん」

凛「そう、聞くだけ……」


凛(何を独り言、言ってんだろ私……馬鹿みたい)
510 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:14:10.23 ID:sUxM0O3Y0
〜346プロ〜

テクテク…

凛(……ここだ)ピタッ

凛(常務室、初めて来た……)


凛「…………」


凛(プロデューサー……引き留めてくれるのかな)

凛(プロジェクトクローネに行く、って言ったら……)

凛「……馬鹿」スッ


「冗談ではないっ!!」


凛「!?」ビクッ


凛(……え? 男の人の声?)

凛(先客が来てる……?)
511 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:15:42.45 ID:sUxM0O3Y0
ガチャッ…

凛「……」ソォー…



美城「えぇ、そうです。私は冗談など言っておりません」

黒井「であるなら、どういう風の吹き回しか聞かせてもらおう!」

黒井「この期に及んで“契約”を破棄するだと!?」


美城「御社と弊社の間で結ばれた契約については、
   私も先日、先代からようやく聞き出して知るところとなりました」

美城「346プロダクションアイドル事業の責任者として、お恥ずかしい限りです」

黒井「フンッ」

美城「ですが、黒井社長。昔とは時代が違います。
   何事も力押しで握り潰せるわけではありません」

美城「古い時代に生まれた契約に固執する理由など、弊社には無いということです」


黒井「ほ〜う? それはどうかな」
512 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:19:08.48 ID:sUxM0O3Y0
美城「と言いますと?」

黒井「相応の悪事に荷担した者がそちらにいる事は、既に知っているはずだ。
   これをマスメディアに暴露する」

黒井「世論が大好きな、業界最大手の炎上ネタだ。
   食い物にされれば、おたくの最も大事にする“イメージ”とやらが台無しになるだろう」

美城「……」

黒井「特に……」


黒井「346プロの稼ぎ頭である、あの歌姫の失脚は免れないだろうなァ?」



凛「……!?」ピクッ



美城「自己本位のご想像をされるのは自由ですが……」

美城「それを立証するには、それらを実行した者を明るみに出す必要があるでしょう」

美城「そして、その者は今あなたの手中にある訳ではない」
513 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:20:17.84 ID:sUxM0O3Y0
黒井「甘いな、美城の娘が。
   あの男は我が961プロの事務所にも出入りしているのだ」

黒井「それとも、私がその男を捕らえるよりも先に、346プロが先に動くつもりかね?
   黒い事実の証人を始末するために」


凛(え……)


美城「それをあなたに教える義理は無い」

黒井「クックック、なるほど……
   346プロの新代表は、私が考えている以上に腹が黒いようだ」

黒井「そうとなれば、今日はここで失礼する。
   急用ができたものだからな」スッ


凛(! こ、こっちに来る……!)サッ

ドシンッ!

凛「うっ!?」


黒服「…………」ズオォ…!

凛「! す、すみませ…」
514 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:22:27.54 ID:sUxM0O3Y0
ガチャッ!

黒井「……ンン〜〜〜?」

凛「!?」ビクッ


黒井「貴様、こんな所で何をしている」

凛「あ、いや、えっと……私は、ただの通りすがりで……」

黒服「Sir。このgirlは、doorの間から中のお話をlisten、聞いてマシタ、Sir」

凛「え、ちょ……!?」

黒井「何ぃ〜〜!?」


凛「……!!」ダッ!

黒井「あ、逃げた! 捕まえろ!!」

黒服「イエス、Sir」ダッ!

黒井「そもそも盗み聞きを見てたならなぜ止めさせなかったのだ!!」

ダダダ…!





美城「………………」
515 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:23:23.73 ID:sUxM0O3Y0
凛「くっ!」タタタ…!


ガシッ!

凛「キャッ!!?」グイッ!

黒服「捕まえました、Sir」


黒井「ククク、これはこれは、あの男の担当アイドルか」

凛「! わ、私を、知っているんですか……?」

黒井「あぁ、もちろんだとも」


黒井「貴様があの男を呼び寄せる格好のエサになる事もなァ?」

凛「!!」ゾクッ…!


黒井「私と一緒に来てもらおう、渋谷凜」ニヤ…
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:25:57.60 ID:sUxM0O3Y0
〜283プロ〜

夏葉「えぇ……えぇ、そのつもりよ」

夏葉「え? ……ちょっと、そこまでしてもらうほどの事じゃ……」

夏葉「……確かに、その通りね……えぇ、分かったわ。じゃあ、そのように」

夏葉「ありがとう、お父様」

ピッ!


夏葉「今、父と話をしたわ。
   予定通り、『クリスタルウィンター』のステージ上で、それを告発する」

夏葉「有栖川家は私だけでなく、283プロに対してもあらゆる支援をすると、
   父はすっかり気炎を巻いているわよ」

咲耶「ありがとう、夏葉」

夏葉「礼には及ばないわ。紅茶でも?」

咲耶「ああ、いただこうか」


シャニP「な、なぁ……いくつか確認をさせてほしいんだが」
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:26:53.85 ID:sUxM0O3Y0
夏葉「先ほど話した通りよ?
   命を狙われている樹里を守るため、私が矢面に立つということ」

シャニP「いや、346プロが不正を隠蔽するために暗躍しているのは分かった」

シャニP「皆が危険に晒されないよう、夏葉のお父さんが最大限の協力をしてくれることもな」

シャニP「天井社長も了解している話であり、俺もその管理については社長から一任されている」


シャニP「じゃあ、最初に346のオーディションで不正を依頼したのは、一体誰なんだ?」

夏葉「あら。社長から一任されているのに、詳しい背景についてあなたも知らないの?」

シャニP「社長は何か知っているらしいんだけどな。俺に教えてくれないんだよ」
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:28:05.59 ID:sUxM0O3Y0
咲耶「……一説には、黒井社長が不正を依頼したらしい。
   だけど、その黒井社長も、誰かからの依頼だったようだ」

夏葉「でも、考えてみれば……確かに、そうね。
   346プロが黒幕だとしたら、わざわざ黒井社長に依頼する理由が無い」

シャニP「相手の狙いが分からないと、全てが後手に回ってしまうんじゃないかと思ってな」

咲耶「アナタの言う通りだね。
   だが……346プロでないのなら、一体誰が?」


ガチャッ

天井「皆、ご苦労」スタスタ

シャニP「あ、社長! どうもお疲れさ…」

シャニP「あれ? 社長、お急ぎのご様子ですがどちらへ?」
519 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:29:15.43 ID:sUxM0O3Y0
天井「961プロだ」

一同「!?」ピクッ

天井「いや……その前に、346プロにも寄る必要があるかも知れんな」

夏葉「? ……??」


天井「ところで、園田智代子はどうしている?」

シャニP「えっ? あの……今日は、346プロの高垣楓さんの番組に出演する予定です」

天井「そうか」

咲耶「あの、天井社長。一体何が……」



天井「大きなうねりが生じてきた。
   我々が第三者ではいられなくなってくるほどの、な」
520 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:30:09.21 ID:sUxM0O3Y0
〜車の中〜

ブロロロロロ…

樹里「んなモン、悩む要素ねぇじゃねーか。何言ってんだ」

武内P「は、はぁ、しかし……」

樹里「凛も凛だぜ。
   分かりきってる事をいちいち聞くなんざ、らしくねぇ」


樹里「アンタがアタシのプロデューサーとして出ちゃったら、
   346プロん中で示しがつかなくなんだろ?」

樹里「どうしたいかもいいけど、どうしなきゃいけないかを先に考えるべきじゃねーのか?」


武内P「……西城さんは、大人です」

樹里「は、はぁ?」

武内P「私は、あなたよりも歳を重ねてこそいますが、大人になりきれない……」
521 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:31:51.93 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……アタシなんか、もっとガキだよ」プイッ

樹里「ただ、筋の通らねぇ事をすんのは良くねぇ、って思っただけだ」

武内P「ですが、西城さん」

樹里「アタシのアンチの話だろ? アンタや凛が気にしてんの」

武内P「え……?」


樹里「チョコから聞かされて、もう知ってるよ。そういうのがいるって事」

樹里「何ならこの場でちょっくら検索して、読み上げてやろうか?」スッ

武内P「あ、あの、西城さん……!」

スイッ スイッ


樹里「……“コイツは口と態度が悪すぎ、さすが元ヤンだよな”」

武内P「…………」

樹里「“他の事務所の子が西城樹里にいじめられてるの見たわ”
   “コイツが映った瞬間チャンネル変えてる”」

樹里「“961プロのゴリ押しが露骨すぎてウザい”
   “不快だからさっさと消えてほしい”」
522 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:34:14.11 ID:sUxM0O3Y0
樹里「と……まぁ大体そんな感じのばっかだな。
   こんなの、大方の予想通りだろ。ったく、誰が元ヤンだ」

武内P「し、しかし! あまりに不当な評価は、許容できません」


樹里「重ねてんだな。アンタが前に担当してたアイドルと、アタシを」

武内P「…………」

樹里「色んな人達から叩かれて……辛かっただろうな、その子」


樹里「でも、アタシはアタシだ」

樹里「もちろん、アタシだってこんなのムカつくよ。
   こっちの気も知らねぇで、ありもしない事を勝手に言われりゃさ」

樹里「だから、いちいち気にしたくねぇし、それに……」


樹里「アンタのおかげで、こっちはトラウマを一つ克服できてんだ。
   今さらこんなのに潰されるような、ヤワなメンタル持ち合わせてねぇよ」

樹里「それを気づかせてくれたのはアンタだろ、プロデューサー?」ニカッ
523 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:35:28.51 ID:sUxM0O3Y0
武内P「西城さん……」

樹里「だから、えぇっと……あれ、何の話だっけ?」

樹里「あぁそうそう、ウィンターフェスだ。
   アンタはちゃんと、凛達のプロデューサーとしてついてやれよな」

樹里「ヘッ! どんな気分だよ?
   自分が育てた自慢のアイドルに、自分トコのアイドルが負けるのはさ」ニヤッ

武内P「……いいえ、西城さん」

武内P「私達は負けません」フッ

樹里「アハハ! その調子だぜ」


ヴィー…! ヴィー…!

武内P「む、携帯が……」
524 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:36:23.28 ID:sUxM0O3Y0
樹里「アタシが代わりに出ようか?」

武内P「ありがとうございます。相手にもよりますが……」

樹里「えーっと……」スッ


樹里「……凛だ」

武内P「…………」

樹里「噂をすれば、か……出てもいいか?」

武内P「お願いします」


樹里「……」ピッ!

樹里「もしもし」


『…………』


樹里「……もしもし? 聞こえてるか?」
525 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:37:20.55 ID:sUxM0O3Y0
『……樹里』

樹里「凛、どうした? 今プロデューサー、運転中だからよ」


『……来ないで』


樹里「え……?」


『私を……探さないで、って……プロデューサーに伝えて』

『皆にも……私は、大丈夫だから……』

『心配、要らないから……』


樹里「おい……今どこにいんだよ」


『……っ』

樹里「答えろよ、おい。どうしたんだ凛!?」
526 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:38:35.85 ID:sUxM0O3Y0
『キャッ……!』

『ガタッ ガタンッ…』


『……電話です、Sir』

『見れば分かる』


樹里「……!?」


『誰だ貴様は?』


樹里「……そっちこそ誰だよ」ギリッ

武内P「……?」


『なるほど……その反抗的な声色は、西城樹里だな?』

『あの男はどうしている? なぜ電話に出ない』
527 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:39:47.58 ID:sUxM0O3Y0
樹里「プロデューサーのこと言ってんなら、取り込み中だ。
   話があるならアタシが聞いてやる」

『口の利き方には気をつけるんだな。私は貴様の雇い主だ』

樹里「! アンタ……黒井社長……!」

武内P「!?」

ブロロロロ… キキィッ!


『すぐそばにその男がいるのなら話が早い。
 ヤツに伝えておくがいい』

『渋谷凜は、我が961プロが新たに建造したスペシャルなイベントホール、
 『クイーンズゲートドーム』にいる』

『貴様が渋谷凜よりも西城とかいうガチャ蠅を大事にするというのなら、
 存分にこの誘いを無視するがいい、とな』
528 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:41:38.17 ID:sUxM0O3Y0
樹里「ふざけやがって……!!」ギリッ

樹里「プロデューサーはそんなヤツじゃねぇよ! 凛を見捨てたりなんかするもんか!!」

『貴様には聞いていない。
 元より、その男の本質を何も知らずにいる貴様の話など、聞くに値しない』

樹里「何だと!?」

武内P「西城さん、電話を代わってください」

『日が明けるよりも前に来なければ、渋谷凜の身の安全は保証しない。
 無論、警察に伝えてもな』

『では、アデュ』

ピッ!


樹里「………………」


武内P「西城さん……?」


樹里「シャレんなってねーぞ、これ……!」

樹里「凛がさらわれた!! 早く助けに行かねーと!!」

武内P「……!!」
529 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:43:11.27 ID:sUxM0O3Y0
〜某テレビ局 スタジオ〜

アハハハハハ…!

智代子「ぜぇ、ぜぇ……あ、あの、そろそろ良いでしょうかね?」

楓「え……もう、おしまいなのですか?」シュン…

智代子「そ、そんな悲しそうな顔しないでくださいよぉ!」

智代子「分かりました、不肖園田智代子のモノマネ100連発!
    次は、チャップリンが目隠しでスケートをする時のモノマネやりますっ!!」

楓「わぁぃ♪」パチパチ


智代子「ふんん〜〜!!」ツイーッ

ドッ!! ワハハハハハ…!!



楓「智代子ちゃん、ありがとうございます」

楓「特に、『雨に唄えば』のジーン・ケリーのモノマネが、とても良かったです」

智代子「よ、喜んでもらえたなら……」ゲッソリ
530 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:44:35.21 ID:sUxM0O3Y0
楓「普段からそういう、モノマネの練習をしているんですか?」

智代子「そ、そんな四六時中やっている訳じゃないですけど……
    えぇと、友達同士で、ふざけ合ってやるくらいで」

楓「まぁっ。とても賑やかで楽しそうですね♪」

智代子「それが、その友達はあまり乗ってくれないんですよねぇ。
    あ、友達というのは西城樹里ちゃんなんですけど、961プロの」

楓「樹里ちゃんが?」

智代子「新作のモノマネを披露してみせても、「くだらねぇ事すんな」って。
    まったく、私の努力を何だと思っているんでしょうか!」プンスコ

楓「ふふっ。ひょっとしたらそれは、樹里ちゃんの照れ隠しかも知れませんね」

智代子「そ、そうかなぁ……?」


智代子「そう言えば、楓さんは樹里ちゃんと一緒にお仕事された事、あるんでしたよね?」

楓「はい。樹里ちゃん、とっても一生懸命に取り組んでくれました」

智代子「いいなぁ樹里ちゃん。そういうコネを持っている961プロが羨ましい……」

智代子「あっ! コネとかそういうの言わない方がいいですよね、す、すみません!」

アハハハハ…!
531 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:45:58.73 ID:sUxM0O3Y0
楓「ふふ……いいえ、智代子ちゃん」

智代子「?」


楓「確かに、“961プロ”さんからのご依頼があってのお話でしたけれど……」

楓「樹里ちゃんとのお仕事については、私からの要望でもあったんです」


智代子「えっ!? それってつまり、
    楓さんが、じゅ、樹里ちゃんを指名した……ってこと、ですか!?」

楓「はい」ニコッ

智代子「何でーっ!!? ず、ズルいよぉ樹里ちゃん!!」

楓「まぁまぁ。
  智代子ちゃんにもこうして、私と共演していただけた事ですし」

智代子「そ、そうなんですよ!
    プロ、あぁいえ、事務所の人から聞いたんですけど」

智代子「ほ、本当の話なんですか?
    楓さんの方から、今回のゲスト出演をオファーいただいたのって」
532 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:47:18.65 ID:sUxM0O3Y0
楓「はい、そうなんです。無事に願いが叶って、ホッとしています」

智代子「いや、願いて……ど、どうして私なんかを?
    他にももっと豪華なゲストがいたんじゃ……」

智代子「あぁいえ、なんかって言っちゃうと失礼なのは分かるんですけど、その……」

楓「智代子ちゃんにとっては、なんかいなお話でしょうか、なんて。ふふふっ♪」

智代子「は、はぁ……」


楓「でも」



楓「それは、私がやらなければならない事だと、思ったからなんです」
533 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:48:45.46 ID:sUxM0O3Y0
智代子「……楓さん?」


楓「うーん、たとえばの話ですが、智代子ちゃん」

楓「道端にあった石ころを、つい蹴飛ばしてしまったとして……
  もしそれが、他の人に当たってしまった場合」

楓「智代子ちゃんなら、どうしますか?」

智代子「え? い、いやぁ……」

智代子「そりゃあ……ごめんなさいって、当てちゃった人に謝ります」

楓「そうですね。私も、そうすると思います」


楓「では、次の質問です」

楓「道端にあった石ころを蹴飛ばして……それは幸い、誰にも当たらなかった」

楓「でも、もしその蹴飛ばされた石ころを、何日か後に、通りを走る車が踏んで……
  その事が、何かしらの事故に繋がってしまったとしたら」

楓「智代子ちゃんは、その事故の被害に遭われた人に、謝るでしょうか?」
534 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:50:10.73 ID:sUxM0O3Y0
智代子「ええぇ? ど、どうでしょう。
    たぶん、謝らない……というか、謝れないんじゃないでしょうか?」

楓「えぇ、そうですよね」


楓「目の届くものにしか、私達は行動を起こすことができません」

楓「それは、自らの過ちに対してもそう」

楓「だから私は、できる限りあらゆる物事に目を配りたいですし、それに」

楓「私のせいで、私の気づかない所で不幸になっている人も、どこかにいる……
  その事実には、きちんと向き合わなきゃって思うんです」


楓「それが、私が樹里ちゃんや智代子ちゃんと一緒にお仕事をしたい理由、ですね」



智代子「? ……???」キョトン
535 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 23:51:56.87 ID:sUxM0O3Y0
智代子「いやいや、その流れで、何で私や樹里ちゃんが出てくるのか……?」

智代子「そもそも、楓さんのせいで不幸になる人なんているわけ無いじゃないですかっ」


楓「ありがとうございます、智代子ちゃん」

楓「そうであるなら、どんなに良いでしょう……」

智代子「楓さん……?」


楓「……ふふっ、ちょっとしんみりしてしまいました」

楓「そろそろ次のトークのお題に移りましょう。えぇっと次は……」

楓「あら、これは智代子ちゃんの得意分野ではないでしょうか。
  『最近ハマッているグルメ』」トンッ

智代子「お、おおっとそんな楓さん、私をまるで食いしんぼキャラみたいな風に!」

楓「まぁまぁ、チョコどうぞ」スッ

智代子「かたじけないッッ」

アハハハハハ…!
536 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/02/21(火) 23:52:46.69 ID:sUxM0O3Y0
今回はここまで。
次回は明日の夜9時〜12時頃の更新を予定しています。
537 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/02/21(火) 23:56:06.87 ID:pILEJ24B0
538 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/02/21(火) 23:56:28.77 ID:TH6oWqZDo
539 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2023/02/22(水) 01:15:09.77 ID:k2BSVbQs0
統一教会スパイクタンパクISISは、正当に選挙されたスパイクタンパク会における代表者を通じて行動し、ウクライナとウクライナの子孫のために、諸スパイクタンパクISISとの協和による成果と、わがスパイクタンパク全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権がスパイクタンパクISISに存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそもスパイクタンパク政は、スパイクタンパクISISの厳粛な信託によるものであつて、その権威はスパイクタンパクISISに由来し、その権力はスパイクタンパクISISの代表者がこれを行使し、その福利はスパイクタンパクISISがこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。ウクライナは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
統一教会スパイクタンパクISISは、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸スパイクタンパクISISの公正と信義に信頼して、ウクライナの安全と生存を保持しようと決意した。ウクライナは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐるスパイクタンパク際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。ウクライナは、全世界のスパイクタンパクISISが、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
ウクライナは、いづれのスパイクタンパク家も、自スパイクタンパクのことのみに専念して他スパイクタンパクを無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自スパイクタンパクの主権を維持し、他スパイクタンパクと対等関係に立たうとする各スパイクタンパクの責務であると信ずる。
統一教会スパイクタンパクISISは、スパイクタンパク家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
540 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:20:47.07 ID:AXuZ3osI0
〜346プロ〜

今西「お、落ち着いてくれたまえ、本田君、島村君。
   一体何があっ…」

未央「だからっ! しぶりんと連絡が取れないんだってば!」

卯月「プロデューサーさんや……961プロの樹里ちゃんも、何も反応してくれないんです!
   こんなこと、絶対おかしいって、私達心配で、怖くて……!」ジワ…

今西「プロデューサーが……」

未央「ちひろさんは!? ちひろさんもどこにいるの!何でいないの!?」


今西「…………」

今西「……先ほど、常務とも話をしてきたんだ」

今西「新規プロジェクトの件で渋谷凜君を呼んだはずなのに、
   一向に姿を見せないから心配している、とね」
541 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:22:30.02 ID:AXuZ3osI0
卯月「えっ……!?」

今西「つまり、渋谷君の身に何かがあったとすれば、彼女がこの事務所に……
   常務室へと来る途中、という事になるが」


卯月「じょ、常務はその辺りのお話について、何かご存知ないのでしょうか?」

未央「!? し、しまむー、それってどういう……?」

今西「……島村君。口の利き方には気をつけた方がいい」

卯月「! す、すみません……!」ペコッ


今西「どこに常務の目があるか、分からないのだからね」

卯月・未央「……?」


今西「私から言えるのはもう一つ」

今西「彼女が渋谷君を呼び寄せたその時間、
   常務は961プロの黒井社長と何やら話をしていたらしい」

今西「彼女は、黒井社長の方から突然来訪を受けたと言っていたがね」
542 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:26:06.30 ID:AXuZ3osI0
未央「そ、それ……つまり、黒井社長としぶりんが鉢合わせる事だってありえ……!」

未央「!! ま、まさか、黒井社長がしぶりんを……!?
   い、いやいや、そんないくら何でも…!」

卯月「じょ、常務は……どうして凛ちゃんを今日、常務室へ呼んだのでしょうか?」

未央「しまむー……?」


卯月「もし常務が、黒井社長が今日来ることを知っていたのだとしたら……」

卯月「まるで常務は、凛ちゃんと黒井社長が鉢合わせ…!」

未央「しまむー、それ以上はやめよう! 言い過ぎだよ!」

卯月「でもぉ!! 未央ちゃんだってぇ!」グスッ



コツ…

「失礼する」


未央・卯月「!?」クルッ

今西「おや……あなたは」



天井「美城常務に会いに来たのだが、ご在室かな?」
543 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:27:32.81 ID:AXuZ3osI0
〜961プロ クイーンズゲートドーム前〜

ブロロロロ… キキィッ

ガチャッ 


樹里「……おーおー、イカツいドームだなおい。
   本当にアイドルのライブのための建物かよこれ」バタン

武内P「西城さん。お連れしておいてなんですが、あなたは…」

樹里「何度も言わせんな。
   凛が危ない目に遭ってるってのに、引き下がれるかよ」


武内P「ここはどうか、私にお任せください」

武内P「ハッキリと申し上げますが、あなたでは足手まといになります」


樹里「……そうだとしてもだ」

樹里「頼む、プロデューサー……アタシだって、何かしたいんだよ」

樹里「あれだけ世話になったってのに……
   本当に助けが必要な時に、何もしてやれないんじゃ、何のための友達だ」
544 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:29:09.24 ID:AXuZ3osI0
武内P「西城さん……」

樹里「どうせ拳銃持ってるようなヤツが当たり前のように出てくる世界なんだろ?
   いつぞやアタシを襲ってきたみたいなさ」

樹里「確かにアタシなんかじゃ、頼りになんねぇだろうけど……
   覚悟だけは、出来てるつもりだぜ」


武内P「……分かりました。共にまいりましょう」

樹里「あぁ。世話を掛けてごめんな」

武内P「いえ、ありがたいです」

樹里「ヘッ……ん?」ピタッ

武内P「どうされましたか?」


樹里「誰かいねぇか? あそこ、入口の方……」

武内P「……あれは」



「……やはり、来てしまったのですね」


ザッ

ちひろ「プロデューサーさん……」
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