西城樹里「タケウチ」

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545 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:41:29.30 ID:AXuZ3osI0
武内P「千川さん……」

樹里「……事務員さん?」

武内P「はい。346プロの、私の同僚です」

樹里「同僚……」


ちひろ「今西部長には、黙って来ちゃいました」


武内P「……なぜあなたが?」

武内P「我々がここに用があって来ることは、黒井社長しか知り得ないはずです」


ちひろ「らしくないですね、プロデューサーさん」

ちひろ「私も961プロと繋がりがあるから、と考えるのが自然でしょう?」

武内P「千川さん……」


ちひろ「……西城樹里ちゃん。お会いするのは、初めてでしたね」

樹里「…………」
546 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:43:33.60 ID:AXuZ3osI0
ちひろ「正直に言うと、樹里ちゃん……あなたの事を、恨んでいます」

樹里「! え……」

ちひろ「樹里ちゃんと出会ってしまったがために、プロデューサーさんは狂ってしまいました」

ちひろ「たとえ後ろ暗い事であろうと、それまでは平穏無事に、仕事ができていた。
    少なくとも、命が脅かされるような事は、何も」

ちひろ「なのに……」

樹里「……アタシは」

武内P「耳を貸す必要はありません、西城さん」

樹里「ぷ、プロデューサー……」

ちひろ「…………」


武内P「961プロの狙いが渋谷さんではなく私であることは、分かっています」

武内P「私をおびき寄せ、身柄を拘束するために、渋谷さんを人質に取った……
    引き続き、961プロが346プロとの交渉を優位に進めるために」

武内P「346と961を繋ぐものは、私と、かの契約をおいて他にありません。
    つまり、両社の間で、契約の継続について主張の相違があった」


武内P「961プロが、私の身柄を確保したがっているとすれば、
    これに対する346プロの目的は……私の排除」
547 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:45:23.75 ID:AXuZ3osI0
樹里「……えっ!?」

武内P「違いますか?」


ちひろ「……伊達に“こっちの世界”での生活が長くないんですね」

ちひろ「ですが、私達は……私はあくまでも、346プロ側の人間です。
    私の目的もまた、美城常務と全く違えているわけではありません」

武内P「……?」


ちひろ「業界の悪しき慣習を無くしたいという気持ちは、同じなんです」

ちひろ「それを実力行使で直接的に排除するのか、
    穏便に済ませて幕引きを図りたいか……その違いだけ」

武内P「私が、もう346プロに必要とされていないであろう事は、承知しています」

ちひろ「だから……!」


ちひろ「私がここにいるのは、プロデューサーさんを陥れたいからじゃありません」スッ

ジャキッ
548 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:46:50.05 ID:AXuZ3osI0
樹里「うぇっ!?」ギクッ!

武内P「……ッ」


ちひろ「お願いです、プロデューサーさん……私に、殺されてください」

武内P「千川さん……」

ちひろ「殺されたことに、してください」

武内P「……!?」


ちひろ「遺体も死亡届も、偽装する準備は整っています。
    あなたは名前も戸籍も変えて、これまでの事も忘れて、第二の人生を歩んでくれたらいいんです」

ちひろ「それが、誰も犠牲にならない、最も穏便な方法なんです」


ちひろ「でないと……このままでは本当に、殺されてしまいますっ」ツー…

ポタッ


武内P「……」

ちひろ「う、うっ……う……!」ポロポロ
549 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:50:18.61 ID:AXuZ3osI0
武内P「それはできません」

ちひろ「! ……ぷ、プロデューサーさん……ッ!」


武内P「私にはまだ、やり残していることがあります」

武内P「担当アイドルと向き合うということ。
    渋谷さん達はもちろん、西城さんが……」

武内P「私がスカウトしたアイドルが、自身の翼を広げて羽ばたく姿を見届けることが、
    プロデューサーとしての私の本分です」

樹里「ぷ、プロデューサー……」


ちひろ「しっ、死んじゃうんですよ!
    346だけじゃないんです、961もほとんど手の平を返し始めています!」

ちひろ「逃げ切れるわけないんですっ!!」ポロポロ

武内P「私の命など、元より終わっているようなものです」

ちひろ「だからって、一方的に汚れ仕事を押しつけられたプロデューサーさんがっ!!
    用済みになった、途端にっ、う……ひっ、ぐ……何の見返りもなく……切ら、ぇっ……!!」

ちひろ「あんまりです……! ひ、いぃ……そんなの、ひどすぎますっ……!!」ボロボロ


武内P「私はむしろ、感謝しているくらいです」
550 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:52:03.17 ID:AXuZ3osI0
ちひろ「え……」

武内P「確かに、辛く苦しい仕事でした。
    ですが……961プロの仕事が無ければ、今日まで私が業界に携わることも無かった」

武内P「西城さんに出会うことも無かったのです」

ちひろ「どうして……どうしてそこまで、樹里ちゃんに……?」

ちひろ「狙われていた樹里ちゃんを、守るためにスカウトしただけのはずじゃ……」


武内P「いえ……きっとそれが無くとも、私は西城さんをスカウトしたでしょう」

武内P「出会った時に、一目で私は……心を動かされた」


樹里「……え」カァーッ



ちひろ「……“あの子”を、投影しているんですね」


樹里「! ……」

武内P「…………」

ちひろ「そんなに、囚われていたなんて……」


樹里「あの子、って……」
551 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:53:29.01 ID:AXuZ3osI0
武内P「……救えなかった彼女への罪滅ぼしになるとは、考えていません」

武内P「ですが、西城さんを放っておくことが、どうしても私にはできなかったのです」


ちひろ「……ッ」グッ

ちひろ「分かりました……そこまで言うのなら、止めることはしません」

武内P「ご忠告、感謝します、千川さん。
    あなたが私の身を案じてくれていることも」

ちひろ「私はっ……961プロの協力者です」

武内P「きっとそれも、私の恨みを買いたいがための方便に過ぎないでしょう」

ちひろ「! ……」

武内P「常務の指示で黒井社長の後をつけていた……そう考えるのが自然です」

ちひろ「……ッ」フルフル


武内P「あなたにも、辛い想いをさせてしまいました……申し訳ありません」

武内P「失礼します」スッ

樹里「……」ペコッ

コツコツ…



ちひろ「……辛い想いをしているのは、あなたじゃないですか」ポロポロ
552 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:55:32.74 ID:AXuZ3osI0
〜テレビ局〜

ガヤガヤ…

楓「楽しくお話をしすぎて、ちょっと収録が押しちゃいましたね……
  ごめんなさい、智代子ちゃん」

智代子「いえいえ! 私の方こそたくさんお話しちゃいましたし!
    とても楽しかったですっ。ありがとうございました」ペコリ

楓「ふふ、そう言ってもらえて嬉しいです」


楓「この後は、智代子ちゃん何かご予定はありますか?
  良かったら、お食事でも一緒に」

智代子「ほ、本当ですか!?」

楓「美味しい白和えを出してくれるお店を知っているんです」

智代子「お、お酒のおつまみッッ……!
    ちょっと私には早いかもですけど、お誘いとあらばぜひ…」ヴィー…!

智代子「ん……? うわっ!?」

楓「?」
553 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:57:16.15 ID:AXuZ3osI0
智代子「なんか……知らない間に、チェインがすっごい事になってるー!?」

楓「何かあったんですか?」

智代子「は、はい、えぇと凛ちゃんと、夏葉ちゃん達も……わわっ、え!?
    なんか、本当に大変な事に……何これ、えぇぇ!?」


楓「何だか、とても大変そうですね」

智代子「ちょ、ちょっと言葉では言い表せないくらい、大変みたいで……
    だ、だからそのぉ……」

楓「私のことなら、大丈夫ですよ。
  お食事なら、今日じゃなくても行けるでしょうし」

智代子「本当にごめんなさい、ちょっと合流した方が良いっぽくて!
    せっかくの楓さんのお誘いだったのに……!」ペコペコ

楓「いえ、どうか気にしないでください。
  急にお誘いしちゃったのは、私ですし」

楓「智代子ちゃんのお友達を……凛ちゃんや夏葉ちゃん達を、大事にしてください。ね?」ニコッ

智代子「か、楓さん……」ジィーン…
554 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:58:08.37 ID:AXuZ3osI0
智代子「ありがとうございます! このご恩はいつかきっと!」

楓「ええ、お気をつけて。皆さんにもよろしくお伝えください」フリフリ

智代子「はいっ! それではこれにて、失礼します!」ダッ!

タタタ…!


楓「……」フリフリ



楓「…………」





楓「ごめんなさい、智代子ちゃん……」

楓「本当に……ごめんなさい」
555 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 21:59:45.14 ID:AXuZ3osI0
〜クイーンズゲートドーム メインホール〜

黒井「ついこの間、建造したばかりのドームだ」

黒井「こけら落としも済んでいないステージの上にいる事を、光栄とは思わんかね?」


凛「…………」ギシッ


黒井「反抗的な目だ。気に入らんな」

凛「……逆に聞くけど、好意的に見てもらいたいんですか?」

黒井「いいや、思わんね。
   貴様も西城樹里も、等しく私のそばを飛び回るガチャ蠅に過ぎん」

黒井「私が考えるのは、貴様らを飼い慣らす者に、相応の躾をするよう仕向けることだけだ」


凛「……嘘」

黒井「ンンー?」


凛「あなたはプロデューサーをもう、そんな風に見ていない」

凛「自分の都合の良いタイミングで、都合良く使い捨てる事しか……!」
556 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:00:50.54 ID:AXuZ3osI0
黒井「おやおや、それは心外だ」

黒井「彼にはもっと働いてもらわなくては困るのだよ。使い捨てるなんてとんでもない」

黒井「ただ、最近は妙な自意識を抱いているように見えるのでな。
   少しばかり、お灸を据えてやる必要があるというわけだ」

凛「…………」


ギイィィ…


黒井「フン、噂をすれば、か」

凛「! プロ……」


バタン



コツ…

コツ…



樹里「…………」ザッ
557 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:02:27.02 ID:AXuZ3osI0
黒井「……何だと」

凛「じゅ、樹里……!?」


樹里「よぉ、凛。それと……」

樹里「アンタと顔合わせんのは初めてだったな……黒井社長」


黒井「口の利き方には気をつけろと言ったはずだ、小娘が」

樹里「生憎、ロクな教育受けてないんでな」

樹里「アタシの友達をそんな目に遭わせるようなヤツへの口の利き方なんてよ」ギリッ…!


凛「樹里、私の事なんかいいから早く逃げてっ!」

樹里「“なんか”って言うな」

凛「……!」


樹里「前にも言ったろ?」ニコッ

凛「……馬鹿」
558 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:03:40.17 ID:AXuZ3osI0
黒井「勝手に話をしているんじゃあないぞ、ガチャ蠅共。
   あの男はどうした?」

樹里「来てねぇよ。伝えてねぇからな」

黒井「ダウト」フンッ!


黒井「差し詰め貴様は囮で、どこかの物陰からこの小娘を助ける隙を伺っているのだろう?」

樹里「…………」

黒井「私とて、この世界に長く身をやつしている訳ではない。
   つまらん小細工が通用するなどとは思わん事だ」

黒井「それとも」スッ

パチンッ!


ズザザザッ!

黒服達「……」ザッ!
559 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:05:08.58 ID:AXuZ3osI0
凛「わ、わわ……!」

黒井「貴様が囮でないというのなら、
   見事この包囲網を突破し、私の手から小娘を救い出してみせるがいい」

樹里「…………」

黒井「まっ! 出来んだろう。大人しく貴様もこの私に屈…」

ザッ

黒井「ン?」


スタスタ…

樹里「……」スタスタ


凛「じゅ、樹里……!?」

黒井「正気か? 貴様……」


樹里「…………」スタスタ
560 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:06:39.13 ID:AXuZ3osI0
黒服「社長。いかがされますか?」ジャキッ

黒井「…………」

黒服「さすがに実弾の使用は控えるべきとは思…」

黒井「構わん、やれ」

黒服「は?」


黒井「ここは私のテリトリーであり、あの小娘も961プロの人間だ。
   後で何があろうと、どうとでも握り潰せる」

黒井「聞こえなかったのか? あの身の程知らずを始末しろ!」


ジャキ ジャキッ!


凛「や、やめてっ!!」


樹里「……ッ!」
561 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:07:39.37 ID:AXuZ3osI0
ガシャンッ!



黒服達「!?!?」



黒井「何だ!? 何があった!!」

凛「で、電気が……急に真っ暗に……!?」


ガッ!

黒服「ぐぁっ!」

ゴッ! ガスッ!

黒服達「うっ……!?」「ガハッ!」


ドサッ バタッ
562 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:08:45.37 ID:AXuZ3osI0
黒井「ええい何が起きている!! 状況を報告しろ!!」

「渋谷さん、こちらへ」

「え……あ」


黒井「!? なっ……!」

スッ

黒井「えぇい、貴様ら、待てっ! くっ!!」ジャキッ!

「おりゃ!」バシッ!

黒井「な、何っ!?」


樹里「社長であるアンタまでこんな物騒なモン持ってるとはな」ヒョイッ

樹里「呆れて物も言えねぇぜ、本当にヤクザじゃねーか」
563 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:10:51.07 ID:AXuZ3osI0
黒井「か、返せっ!!」バッ!

樹里「おっと」サッ

タンッ タタン! タッ!

黒井「な、この……ちょこまかと!」ブンッ!

黒井「うおっ!?」グラッ…!

ドテッ


キュッ! タッ タンッ!

ザッ


樹里「アンタみてぇなオッサンを相手にカットして突破すんのはワケねぇよ」

樹里「これがホントの“アンクルブレイク”ってな」


武内P「ナイスプレーです、西城さん」

樹里「ヘヘッ、そっちもな」

凛「二人とも……!」
564 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:13:58.38 ID:AXuZ3osI0
黒井「お、おんのれぇ、貴様らぁぁ〜〜!!」ワナワナ…!

武内P「一つお伝えしたい事があります、黒井社長」

黒井「……何?」


武内P「あなたには感謝しています」

武内P「曲がりなりにも、私をこれまで生き長らえさせてくれたこと……
    それが、今の私と、私達に繋がっている」

武内P「そのため、せめて『クリスタルウィンター』までは、どうか見逃していただきたい」

武内P「それが終われば、私はいかなる処遇をも甘んじてお受けします」


凛「プロデューサー……」

樹里「カッコつけてんじゃねーよ、アタシらの前で」

武内P「…………」


黒井「……フンッ」
565 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:15:35.55 ID:AXuZ3osI0
黒井「そういう台詞は、この場を生きて逃れてから言うものだ」パチンッ!


ズザザザザッ!!

黒服達「……」ザザッ!


武内P「……!」

樹里「げっ!?」

凛「さ、さっきよりも多く……!」


黒井「その二人を庇いながらどこまで逃げおおせる事ができる?」

黒井「あるいは、小娘達を見捨てれば、貴様一人の命は助かるかも知れんなァ?」

武内P「…………ッ」


黒井「ところで……私に感謝していると、貴様は言ったな」

黒井「それは、貴様が抱える心の傷についても、という事かね?」
566 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:19:54.77 ID:AXuZ3osI0
武内P「……どういう意味でしょうか」


黒井「良い機会だ。冥土の土産に教えてやろう」

黒井「貴様は不思議に思わなかったのか?
   当時の担当アイドルを潰した、その事務所のプロデューサーとアイドルに復讐を果たした時」

黒井「なぜこの私が、復讐を果たした直後に貴様と接触しようとしたのか。
   なぜ、そのタイミングを見計らう事ができたのか」

黒井「そもそも、貴様が画策する弱小事務所への復讐など、961プロには何ら関係が無い」

黒井「なのに、その経緯を把握し、タイミングを狙って声を掛けたのなら、
   私は貴様を観察していた事になる」


黒井「なぜ、復讐を果たすに至るまでの貴様の動向を、わざわざこの私が観察していたのか?」

黒井「なぜ、貴様が行う復讐の経緯を、私が知っていたのか?」


樹里「経緯、って……!?」

凛「そんな……」


武内P「…………まさか……!!」
567 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:23:43.41 ID:AXuZ3osI0
黒井「あぁそうとも」

黒井「全ては私の計画だ。
   その事務所のプロデューサーを焚きつけ、貴様の当時の担当アイドルを潰させた事も」

黒井「自責の念が強い貴様は、憎悪に駆られて同じ事を仕返すであろう、という事もな」

黒井「先代の美城会長は、貴様を高く評価していたよ。
   幾度も話をしていたものだから、これは使えると考えたのだ」

黒井「我が961プロにとって目の上のタンコブである346プロに負い目を与え、
   これに“契約”という形で強請れば、意のままに操り続ける事ができるだろう、と」

黒井「いざとなれば、全ての罪を346プロに負わせ、こちらは知らぬ存ぜぬを貫き通せばいい。
   もたらされる結果は、いずれにせよ961プロの一人勝ちという訳だ」


凛「何てことを……!」

樹里「な、ナメやがって……それでも血の通った人間かよテメェ!!!」

黒井「あぁそうだとも。いかにも人間らしい合理的な考えだろう?」

樹里「ふざっけんな!!!」ガッ!

黒服「……」グッ

樹里「くっそ、放せ!! アイツ、許さねぇ!!!」ジタバタ!
568 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:24:50.70 ID:AXuZ3osI0
黒井「まっ、それも今日で終わりか。寂しいものだ」

黒井「ひとまず今日を以て、貴様らには消えてもらおう。
   同時に、346プロには貴様の過去の所行について全責任を負わせ、舞台を降りてもらう」

黒井「残りの283プロなどという弱小事務所も、後でどうとでも料理すればいい」

黒井「労いに与える物が、鉛玉では味気ないかも知れんがね。ハハハ!」

樹里「クソ野郎……!!!」ギリッ!


武内P「…………なるほど」


武内P「よく分かりました」

黒井「何?」



武内P「よく分かったと言ったのです、黒井社長」

武内P「果たすべき目標が……やるべき事が明確であれば、迷わずに済む」
569 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:29:37.16 ID:AXuZ3osI0
黒井「この状況で何を言っている? ロクな得物も持っていないようだが」

武内P「武器なら、ここに」シュッ

樹里「あ」パシッ

武内P「……」ジャキッ


黒服達「……!」ドヨ…!


黒井「小娘に奪われた、私の銃を……!」

黒井「馬鹿な真似はよすんだな。
   私を屠ることに傾注すれば、その小娘達の命など保証できまい」

黒井「それとも、その二人を守りながら完遂するつもりかね?」


武内P「私にできないとお思いですか?」

武内P「私の腕は、私に“信頼”して数々の依頼をしてきたあなたにはご存知のはずです」



黒井「…………ッ」


凛「ぷ、プロデューサー……?」

樹里「お、おい、マジかよ……」
570 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:31:30.02 ID:AXuZ3osI0
「そこまでだ」ザッ


一同「!!?」


黒井「誰だっ!?」



コツ…

「言ったはずだ、黒井。
 その者達に派手な行いをする事があれば、私も静観できなくなる、と」

「なるほど、これがクイーンズゲートドーム……
 ぜひ弊社の新施設の構想において、大いに参考とさせていただきたい、ですが」


黒井「貴様、ら……!」



天井「今一度、大人の話し合いをしようじゃないか、黒井」

美城「まずは正すべき襟を正していただきましょう」
571 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:32:45.69 ID:AXuZ3osI0
武内P「み、美城常務! それと……!」

凛「隣にいる人は……283プロの、天井社長?」

樹里「あぁ、だと思った。でも何で……?」


天井「まずはご苦労だったと言わせてもらおう。
   双方共に無血であることは何よりだ」

黒井「無血? 我が事務所の社員は、その男から暴行を受けたのだが?」


黒服達「うっ……」「うぐぐ……」ピクピク


天井「フッ。失礼した」

美城「ですが、それもきっと、正当防衛と解せるものとお察しします」

美城「そちらの黒服達は、レプリカでなければ物騒な物をお持ちのようで」

黒服達「!」サッ

黒井「狼狽えるな、馬鹿共」
572 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:34:54.16 ID:AXuZ3osI0
美城「いずれにせよ、私や天井社長もいるこの場で、
   これ以上の穏やかならぬ行いは慎んでいただきたい」

黒井「ノコノコと人様の建物に不法侵入しておいてよく言う……」

黒井「第一、貴様らは一体何しに来た? どうしてここが分かったのだ」


天井「何、大した事ではない。
   たまたま346プロへ所用で向かっている折りに、私の事務所のアイドル達から連絡があったのだ」

天井「346プロの渋谷凜との連絡がつかなくなった、と……
   それを、こちらの美城常務にも伝えてみれば、彼女はこう答えた」

天井「黒井社長がお忘れ物をしていたようだったので、事務員に後を追わせています、とね」


黒井「事務員……フンッ、まさか、あの千川という女か」

美城「その者から、こちらの位置情報を報告させました」

美城「天井社長はあなたに御用があるとのお話でしたので、
   ついでと言っては何ですが、こうして私もご一緒させていただいた次第です」

黒井「白々しい事を……!」


美城「千川は外で待たせています。
   末端の事務員に聞かせるようなお話を、あなたとするつもりは無い」

美城「無論、この場にいる他の者達も同様です」チラッ
573 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:36:44.99 ID:AXuZ3osI0
樹里「! な、何だよ……」

武内P「…………」


天井「こんな所で立ち話しては落ち着かん。河岸を変えたいのだが」

美城「では、弊社の会議室へとご案内しましょう」

黒井「勝手に話を進めるな。いいか、私はこの者達から暴行を受け…」


美城「346プロと争うおつもりが?」

黒井「…………」

美城「冷静なご判断を期待しますが、いかがでしょうか」



黒井「……良いだろう。
   ただし、我が961プロの一方的な不利益を強要するものと判断したら、即座に退席させていただく」

天井「貴様がそんな事を言うとはな」フッ

黒井「黙れ」
574 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:38:25.71 ID:AXuZ3osI0
凛「あの人達って、知り合い同士なの……?」コソッ

樹里「アタシが知るかよ」


美城「ご同意を得られて何よりです」

美城「外に車を手配してあります。どうぞ、こちらへ」スッ


武内P「あ、あの、常務っ」ザッ


常務「……先ほど話した通りだ。君達の出る幕は無い」

常務「今日のところは、もう帰りなさい」

武内P「わ、私は……常務にとって、決して無視できない行いを…」

凛「そ! そんな事ないっ! プロデューサーは何も悪いことなんか!!」

樹里「そうだぜ、悪いってんならむしろクロ…!」


常務「当然、君達の処分についても含めた会議となる。
   大人しく待っていなさい」
575 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:39:09.29 ID:AXuZ3osI0
凛「そんな……」

樹里「……納得いかねぇな」


武内P「渋谷さん、西城さん。帰りましょう」

凛「プロデューサー……」

武内P「今、ここで私達が出来ることはありません」


武内P「失礼致します」ペコリ

常務「……」

樹里「チッ……」スッ



天井「外には件の事務員だけではない。
   283プロと346プロ、双方のアイドル達も集まってきている」
576 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:39:54.68 ID:AXuZ3osI0
武内P「……!」

凛「えっ!?」


天井「我が事務所のアイドル達に伝えたら、そちらまで広まったようだ」

天井「きっと君達を心配しているだろう。早く元気な姿を見せてやるといい」


樹里「マジかよ……」

武内P「……ありがとうございます、天井社長」ペコリ


天井「何、大した事ではないさ」フッ
577 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:42:00.23 ID:AXuZ3osI0
〜ドーム前〜


コツコツ…

凛「……あっ」

樹里「おぉ、マジで来てる」


武内P「……皆さん」



未央「し、しぶりぃ〜〜〜ん!!!」ダダダッ!

ガバッ!

凛「わぷっ!?」

卯月「凛ちゃあぁん!! 本当に……本当に無事で!!」ワシャワシャ

凛「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いて……!」


シャニP「社長と、こちらの事務員さんから、大まかなお話は聞いています」

ちひろ「プロデューサーさん……」
578 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:43:56.23 ID:AXuZ3osI0
武内P「わざわざご足労いただき、申し訳ございません」ペコリ

シャニP「いえ、我々は何も。大変だったのはあなた方でしょう」


咲耶「凛……樹里も、本当に無事で何よりだ」

樹里「言うほど無事でもねーけどな。生きた心地しなかったぜ」

智代子「そ、そんなに!? 一体、中でどんな事があったの?」

樹里「そりゃまぁ、色々……?」チラッ


夏葉「……樹里。ケガは無い?」


樹里「ああ、別に……ヘヘッ」

夏葉「? どうしたの?」

樹里「いや、アンタがそんなしんみりしたツラしてんの、らしくねぇって思ってさ」

夏葉「! ……ふふっ」

夏葉「誰がしんみりしているですって!?」バァーン!

樹里「アハハ、そうそう。その調子だぜ」
579 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:46:05.89 ID:AXuZ3osI0
武内P「この度は弊社の……
    いいえ、私達に関するトラブルについて、ご心配をお掛けしました」

武内P「ご覧の通り、渋谷さんも西城さんも無事です。
    皆様どうか、今日の所はお帰りの上、ゆっくりお休みにな…」

樹里「待てよ、プロデューサー」

武内P「西城さん……渋谷さん?」


凛「ちゃんと、皆には話しといた方がいいよ。
  今日の出来事……あの中で、黒井社長達と話していた事」

武内P「…………」

樹里「あぁ、それと……アンタが前に担当していたアイドルの事、教えてほしいんだ」

樹里「辛くて、話しづらいだろうけど……
   もしアンタがアタシにその子を重ねているなら、どんな子だったか、ちゃんと知りてぇ」


ちひろ「……その件については、私からもお伝えできることがあるかと思います」

凛「ちひろさんが?」

ちひろ「はい」コクッ
580 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:47:46.34 ID:AXuZ3osI0
武内P「千川さん……」

ちひろ「あ、でも場所が……
    常務達が346プロに向かってしまって、うっかり鉢合わせるのも気まずいですね」


シャニP「それなら、ウチの事務所にお越しいただくのはいかがでしょうか?」

シャニP「さほど広くはありませんが、皆さんでゆっくり腰を落ち着けることくらいはできるかと」

夏葉「ナイスアイディアね、プロデューサー」

咲耶「私達の仲間で持ち寄った紅茶が、ちょうど今は充実しているんだ。
   ぜひご賞味いただきたいな」

智代子「困った時のお夜食も!」ニュッ


卯月「プロデューサーさん……私達からも、お願いします」

未央「とっくに私達は、運命共同体でしょ?」



武内P「…………分かりました」
581 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:49:38.30 ID:AXuZ3osI0
〜346プロ 会議室〜

美城「……ふむ、なるほど」

黒井「貴様らが来る前に、あの中で起きていた事は今述べた通りだ」


天井「対応を誤ったようだな、黒井」

黒井「何?」

天井「お前が今言った中で、一つ抜けている事実がある。
   我々が来る直前、貴様があのプロデューサーに告げた事だ」

黒井「……盗み聞きをしていた、だと?」


天井「あの男にトラウマという名の禍根を残した、その張本人が自分であった。
   それも、自分の私利私欲のために」

天井「貴様はあのプロデューサーを使う立場から、命を狙われる立場となった訳だ」

天井「安心して熟睡できる日が無くなったな?」

黒井「……フンッ、邪魔なら消せばいいだけの事だ。これまでもそうしてきた」
582 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:52:11.93 ID:AXuZ3osI0
美城「それを私の前で堂々と仰る辺り、さすがの胆力ですね、黒井社長」

黒井「美城の娘……貴様もあの男の扱いには手を焼いていたはずだろう。
   私が代わりに手を下すことに、何か不都合でも?」

美城「今は時期が悪いと言いたいのです」

黒井「時期?」


美城「『クリスタルウィンター』を前に騒ぎを起こすのは、
   この場にいる誰の利益にもならないでしょう?」

美城「ですので、せめてそれが終わるまでは派手な行いをしていただきたくはない」

黒井「……フム」


美城「確かに、あなたは契約に従い、弊社からの依頼をもよく受けてくれていたようですが、
   下品な手法による強引な解決は我々の本意ではない」

美城「それらはともすれば業界全体への不信を招き、自らの首を絞めることにもなるからです」

美城「ご安心を。
   あのプロデューサーに対しては、私の方からよくクギを刺しておきます」

黒井「フンッ、貴様が言って素直に聞くような男ではあるまい」
583 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 22:59:40.15 ID:AXuZ3osI0
美城「確かに。しかしながら、私に一つ考えがあります」

天井「考え?」


美城「次の『クリスタルウィンター』……
   この3社のアイドル達による合同ユニットで出場するのはいかがでしょうか?」


黒井「合同ユニットだと?」

天井「ほう……」


美城「他社とのコラボ企画などというものは、
   よほどのメリットが無い限り、弊社も積極的に採用しようとは思いません」

美城「ですが、相応に注目を集める旬のアイドル達が、
   事務所の垣根を越えてユニットを組むのは、良い意味で話題性を生むでしょう」

美城「加えて、その監督者としてかのプロデューサーを充てれば、
   まさかこれを無視してまで黒井社長に事を為す可能性は低いと考えます」

美城「アイドル達にとっても、知らぬ間柄ではないあの男がプロデューサーを務めた方が、
   お互いにやりやすいでしょう」
584 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:01:09.46 ID:AXuZ3osI0
天井「私は賛成だ。メンバー次第ではあるがな」

黒井「フンッ! 聞こえの良い事を並べ立てているが、
   最終的に自分が美味しいところを攫っていくつもりではないかね?」


美城「であるならば、プロジェクト名は御社になぞらえて、そうですね……」

美城「『プロジェクトクローネ』、というのはいかがです?」


黒井「みくびられたものだ。
   この私が、346の新規プロジェクト名を知らんとお思いか」

美城「フフ、ご存知でしたか」

美城「ですが、黒井社長の声掛けにより発足されたものとなれば、
   その功績はあなたのものとなります」

黒井「体良く責任を押しつけているようにも思えるがな」

美城「…………」
585 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:04:36.51 ID:AXuZ3osI0
黒井「良いだろう。
   283プロの有栖川夏葉と白瀬咲耶、園田智代子」

黒井「その者達も関わるということであれば、あの男もこれを成功させるために力を尽くすはずだ」

美城「その間、あのプロデューサーには大人しくさせておくことをお約束します」


天井「要綱によれば、『クリスタルウィンター』の出場は5人編成のクインテットユニットが限度だ」

天井「我が事務所から三人も出すのなら、961と346からは誰を出す?
   961プロからは西城樹里として……」


美城「私個人の考えとしては、弊社からは高垣楓を、
   と言いたい所ですが……彼女は応じないでしょう」

美城「それに、そのメンバーであれば、渋谷凜が適任であると考えます」

黒井「美城の娘も、所詮は絆などという甘ったれたものを最後に重視するということかね?」

美城「あくまで適性が最も高いというだけの話です」


天井「なるほど、了解した。
   ひとまずは事態が平穏無事に収まっていくようで何よりだ」

黒井「待て、天井。貴様はこの私に用があると言ったが?」

天井「既に今の話の中で用は済んだ」
586 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:07:04.19 ID:AXuZ3osI0
美城「私はあなたに用があります、天井社長」

天井「……貴女もしつこい人だ」

美城「そもそも、これは961プロと我々346プロの間の話です。
   第一、今日の一件についても、私に情報をもたらしたのはあなただった」

美城「そうまでして我々に積極的に関わる理由は何か、お教えいただきたい」


天井「私の主張はシンプルだ。
   有栖川夏葉、引いては他の283プロアイドル達の身の安全を保証すること」

黒井「どういう意味かね。
   私は貴様の弱小事務所のアイドルなど、ハナから相手にしていないのだが?」

天井「我が事務所の有栖川夏葉が、かのオーディションの関係者であってもか?」

黒井「……!」ピクッ


美城「先日のお電話でもお話しましたが、
   彼女にはもう、あのオーディションの件について関わる必要性など無いはずです」

美城「あなたが焚きつけているのでは? 天井社長」

天井「いや、彼女が自主的にそれを申し出たのだ」

天井「あなた自身も言っていたが、美城常務……
   私に言わせれば、正すべき襟があるのは黒井だけではないと考えている」

天井「なればこそ、その不義理を正そうとする彼女の自主性を、私が否定する理由など無い」
587 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:10:27.67 ID:AXuZ3osI0
黒井「馬鹿な事を。
   あの有栖川が、オーディションの件について外部に告発する気だと言うのか?」

美城「あれはもう終わった話です、天井社長。
   蒸し返す事は、それこそ誰の利益にもなりません」

美城「いたずらに敵を作る愚かさが、分からないあなたでは無いはずです」


天井「自分達に潰されるのが怖いのなら、不条理に対して口を閉ざせと?」

天井「そもそもの事態を起こした貴様らが、よくも敵を作る愚かさなどと私に説いたものだな。
   大手の芸能事務所が聞いて呆れる」


黒井「では聞くが……我が961プロの西城樹里の初イベントに、
   貴様は白瀬咲耶を遣わしていたな?」

天井「…………」

黒井「オーディションの一件に義憤を駆られたなどといった事をほざきながら、
   それと関係が無い西城樹里の動向を観察していたのはなぜだ」

天井「西城樹里は、かのオーディションの被害者である園田智代子の友人だ。
   思うところが無かったはずはあるまい。だから動向を注視した」


美城「果たしてそれだけでしょうか?」

天井「というと?」

美城「白瀬咲耶は、弊社の高垣楓のミニライブにも姿を現していたようです」
588 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:15:57.23 ID:AXuZ3osI0
天井「……フム。それは初耳だな」

美城「とぼけた事を……
   あなたの指示でないのなら、なぜ彼女がその場にいたというのです」


美城「私が思うに、天井社長……」

美城「オーディションの一件について、業界の不義理を正すために告発するというご主張は、
   ご自身の真意を隠すための大義名分に過ぎない」

美城「あなたが本件に関わる理由は、別の所にあるのでは?」

黒井「同感だ。我々を甘く見ないでもらおうか」


天井「パンドラの箱を?」

黒井「何?」

美城「……?」


天井「私はただ、彼女自身がそれを開ける日が来るまで、
   余計な邪魔立てが入らないようにするだけだ」

黒井「貴様……何度も言わせるな、貴様の有栖川夏葉が…!」
589 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:16:34.25 ID:AXuZ3osI0
天井「有栖川ではない」


黒井・美城「……!?」



天井「有栖川はただのきっかけに過ぎん」

天井「“彼女”がそれを開けるための、な」



天井「私から言えるのは、ここまでだ。
   既に察しがついているのなら、これ以上の言及はご遠慮願おうか」
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:18:01.38 ID:AXuZ3osI0
美城「…………」


黒井「…………フン」



天井「……今日の話を整理させてもらう」

天井「ウィンターフェスに当たり、三社の合同ユニット『プロジェクトクローネ』を結成する。
   メンバーは283プロの有栖川、白瀬、園田、961の西城、346の渋谷」

天井「これが終わるまでの間は一時休戦とし、かのプロデューサーにも誰も干渉をしない」

天井「ただし、終わった後はお望み通り、私は第三者に戻ろう。
   双方の好きにするがいい」


美城「古い時代の悪しき慣習は、もう必要とされてはいません」

黒井「どうとでも言うがいい。だが……」

黒井「フェスが終わった後、こちらに裁量を任されることに異論は無い」


美城「では、あの男は…………」
591 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:18:28.80 ID:AXuZ3osI0
楓「………………」





楓「…………」スッ


コツ…



コツ…
592 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:20:42.54 ID:AXuZ3osI0
〜283プロ事務所〜

ジィーーー…


 『ふんふーん……♪』

 『わぁ、綺麗なお花ですね。毎日お疲れ様です』

 『あっ、ちひろさん! ううん、全然お疲れなんかじゃないよっ。
  お花のお世話、私も好きでやってるんだし』

 『それでも、こうして事務所の花壇のお手入れをしてくれるおかげで、
  他のアイドルの皆さんも、晴々とした気持ちになれると思います』

 『もちろん、私も。本当にありがとうございます』

 『そうかな……えへへ、そうだと嬉しいな』


 『ところで、ちひろさん。それ動画撮ってるの? どうして?』

 『あぁ、これはですね。
  事務所の入社説明会で使う動画を撮影していまして』

 『基本的には内部用ですが、綺麗に撮れたものは、外向けのPRにも使おうと思っているんです』
593 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:22:14.47 ID:AXuZ3osI0
 『へぇー。あっ、だとしたら私、もっと張り切っちゃおうかなっ♪』

 『えぇ、よろしくお願いしますね。
  それじゃあ……あっ、ちなみにこの黄色いお花、何ていう名前ですか?』

 『あっ、よくぞ聞いてくれました! これはね、ラナンキュラスだよっ!
  黄色のラナンキュラスの花言葉は、「優しい心遣い」』

 『花束やフラワーアレンジメントの定番でもあるんだけど、
  モコッとして存在感あるのに他のお花達ともすごく調和してくれるから、私、好きなんだ』

 『優しい心遣い……ふふっ、ひょっとしてプロデューサーさんへの贈り物用ですか?』

 『うん。えっ!? ち、違うよっ!? いや、違く、ないけど……』

 『って、あぁ〜もうっ! そういうの言わせないでよー、ちひろさん!』

 『ふふっ。残念ですが、この動画はお蔵入りですね』





ちひろ「…………」


樹里「……この子が」
594 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:23:46.07 ID:AXuZ3osI0
武内P「このような動画があったとは……知りませんでした」

ちひろ「本当はお蔵入りにせず、音声だけオフにして使用する予定でした」

ちひろ「ですが……これを撮影した直後に、あの報道がなされて……」

武内P「…………」グッ…!


咲耶「先日アナタが言っていた通り、花のように可憐で可愛らしい人だ」

智代子「それに、こうして花壇の手入れも率先してやってくれて……」

夏葉「献身的な子だったのね。
   それだけに……そんなひどい目に遭ったなんて、ますます許せない」

シャニP「あぁ、その通りだ」


卯月「凛ちゃん……さっきのお話、本当なんですか?
   黒井社長が、すべて……」

凛「……あの人が嘘をついていないのなら、ね」

未央「……ッ」グスッ


樹里「……なぁ、プロデューサー」
595 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:25:11.44 ID:AXuZ3osI0
樹里「アンタが部屋で育ててる、あのアグラオネマとかいう鉢植え……
   ひょっとして、この子からのプレゼントだった、とか?」

凛「……」ピクッ


武内P「……彼女に連れられ、花屋に立ち寄った事がありました」

武内P「学が無い私に、色々な花を、楽しそうに講釈してくれて……
    その中で、一つの鉢植えが目に留まったのです」

武内P「花も無ければ、根も無い……まるで私のようだと思い、親近感が湧きました」

武内P「彼女は、そのように自分を評する私に、憤慨したりもしましたが……
    店を出る時、密かにこれを購入し、私に手渡したのです」

武内P「愛情を持って大事に育てることが、一番の栄養なのだと。
    それを忘れないで、と……」


凛「……それが、アグラオネマだったんだね」
596 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:26:35.67 ID:AXuZ3osI0
樹里「……そっか」

樹里「ごめん、プロデューサー……アタシ、アンタのこと勝手に馬鹿にしてた」

樹里「花の心も分かってねぇ、なんて……アンタの気も知らねぇで……」

武内P「謝らないでください、西城さん」


樹里「こんなの……」グッ

樹里「こんなのって、ねぇよ……ひでぇよ……!」

樹里「黒井のヤツ……ちきしょう……!」ポロポロ


智代子「樹里ちゃん……」

武内P「…………」


シャニP「……これからどうしますか?」

シャニP「もし今のお話が本当なら、961プロが……
     いえ、黒井社長が今後、手段を選んでくるとは思えない」

ちひろ「私も同感です。
    プロデューサーさんは、しばらく身を隠された方が……」
597 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:29:16.76 ID:AXuZ3osI0
武内P「いいえ、それには及びません」

未央「えっ?」


武内P「私のやるべき事は、既に決まっています」スクッ


卯月「ま、まさかプロデューサーさん……?」

咲耶「早まった事はしないでくれ、これ以上アナタが罪を重ねる必要は無いっ」ガタッ!

夏葉「そうよ、私が告発するまで待っ…!」

武内P「全ては私の身から出た錆であり、私が全てに片をつけるのが筋です」


樹里「アタシのプロデュースはどうすんだよっ!!」

武内P「……!」ピタッ


樹里「アタシが、自分の翼を広げて羽ばたく姿を見届けるって……」

樹里「それがプロデューサーとしての本分だ、って……
   さっきそう言ったばかりじゃねぇかよ……!」
598 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:30:55.16 ID:AXuZ3osI0
武内P「……申し訳ございません」

樹里「……ッ」フルフル


ヴィー…! ヴィー…!

ちひろ「……? 今西部長?」ピッ

ちひろ「はい、もしもし、千川です……」

ちひろ「えぇ、はい……はい、すみません、そうです……いえ……」

凛「……」



ちひろ「え、えぇっ!?」

一同「!?」ビクッ


ちひろ「い、いえ……はい……はい……あ、はい、います」


ちひろ「プロデューサーさん、あの……今西部長が代わってほしいと」スッ

武内P「一体、何のお話だったのですか?」

ちひろ「それが、その……」



ちひろ「ご、合同ユニットを……三社の合同ユニットのプロデュースを、と……」
599 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:32:14.02 ID:AXuZ3osI0
――――――

――――


『それではここで、発起人である黒井社長からのメッセージが届いています、どうぞ』


『我が961プロが事務所の威信をかけて皆様にご提案する夢のアイドルプロジェクト!!
 その名も、プロジェクトクローネ!!』

『その第一弾となるユニットは、事務所の垣根を越え、
 時代を象徴する旬なアイドル達を選りすぐった、精鋭クインテットであります!』

『283プロの有栖川夏葉さんに白瀬咲耶さん、園田智代子さん!
 346プロの渋谷凜さん!』

『そして……我が961プロの西城樹里!』

『この私が直々に目を掛け、選出した圧倒的な力でもって、
 必ずや! クリスタルウィンターに伝説を残すことを約束しようではありませんか!!』

『さらに、このプロジェクトはこれだけに留まる予定などありません!
 今後も第二弾、三弾と、次代を担うトレンディなアイドルユニットを…!』
600 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:35:47.26 ID:AXuZ3osI0
  >さすがにゴリ押しが露骨すぎて萎える
  >また西城かよ、最近ほんと出すぎじゃねコイツ
  >ていうか西城樹里がセンターなの?
  >961プロ主導なら当然だろ

  >この間のサマーフェスだってどうせ八百長だよな
   明らかに夏葉ちゃんの方が良かったじゃん、西城とか一瞬棒立ちだったし
  >↑未だにこれ言ってるヤツいて草
   素直に負けを認めろよガイジ
  >西城本人がこの話題になった途端に言い淀む時点で答え出てるぞ

  >まぁ、283プロの人選は分かるわ
   何で346プロは楓さんじゃないんや?
  >ギャラが高い定期
  >↑金にならないミニライブを毎年やってる聖人なんだよなぁ
  >言うてしぶりんもそんなに悪い選択肢じゃないやろ
   そろそろポスト高垣も育てとかなアカンし

  >そういや、西城樹里がこの間の楓さんのミニライブに出てたってマジ?
  >↑画像出回ってるぞ
  >一体コイツに何があるんや。ここまで来るとすげぇな

  >こうして散々話題になってる時点で、961プロの宣伝としては成功なんだろうな
  >ここで叩いてる連中も、なんやかんやで絶対見ると思うわ
  >見なきゃ叩けないからな
  >叩くためにコンテンツを追いかけるオタクの鑑
601 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:37:22.20 ID:AXuZ3osI0
〜283プロ レッスンスタジオ〜

 キュッ! タタンッ! タン!

咲耶「フッ……!」キュッ!


夏葉「良い仕上がりね、咲耶」スッ

咲耶「そうかい? フフッ、ありがとう夏葉」

樹里「随分気合い入ってんじゃねーか」


咲耶「それはそうさ」

咲耶「このメンバーで同じステージに上がることが出来たなら……
   ずっと夢見ていた事が、現実になる」

咲耶「燃えない方が、無理があるよ」


凛「それにしても……まさか、黒井社長の発案だなんてね」

智代子「そ、それは驚きだけど!
    でも、そのおかげで皆と一緒にやれるのは、素直に嬉しいなぁ私」
602 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:38:48.07 ID:AXuZ3osI0
樹里「…………」

夏葉「今は余計な事を考えるのは止めましょう、樹里」

樹里「夏葉……」

夏葉「あの黒井社長に何らかの思惑があるのは間違いないでしょうけれど……
   発案者である彼の想像をも超える、皆の度肝を抜くようなステージを見せつける」

夏葉「ここまで来た以上、私達に出来ることでアッと言わせた方が面白いと思わない?
   アイドルらしく、ね?」ニコッ

シャニP「夏葉の言う通りだ。俺達は俺達でできる事に集中しよう、西城さん」

樹里「……そりゃあ、分かっているけどよ」ポリポリ


コンコン ガチャッ



楓「お疲れ様です、皆さん」


凛「か、楓さん!?」

咲耶「……!」ピクッ
603 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:40:34.10 ID:AXuZ3osI0
未央「私達もいるよー、しぶりん!」ヒョコッ

卯月「皆さん、レッスンお疲れ様ですっ!」


樹里「おー差し入れか、ありがとな。
   つっても……」

夏葉「まさか、346プロのトップアイドルが陣中見舞いに来てくれるなんてね。
   とても光栄だわ」

楓「ふふっ……いいえ、こちらこそ」ニコッ

凛「プロデューサーから頼まれたんですか?」

楓「はい」


楓「僭越ながら、『クリスタルウィンター』に出場される皆さんの活動を、
  サポートさせていただくことになりました」

楓「あまりお役に立てないかも知れませんが、何かあったら何でも仰ってくださいね」ニコッ


智代子「わ、私達のサポート!? 楓さんが、ですか!?」
604 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:42:09.04 ID:AXuZ3osI0
卯月「さすがに、給水とかまで楓さんにしてもらう訳にはいかないので、
   私達もお手伝いをさせていただくんですが……」

未央「本人はそういう雑用もノリノリでやりたがるからさー、ホント困っちゃうよ」

楓「たくさんいると、あぶれた私は混雑要員、なんて、ふふふっ♪」ニコニコ

シャニP「は、はぁ……」

夏葉(……噂には聞いていたけれど、これが)

樹里(下手にツッコむと火傷しかねねぇから、適当に相槌打っとけ)

智代子(う、うん……)


咲耶「……おや、もうこんな時間か」

咲耶「夏葉、樹里。そろそろ次の仕事に行った方が良くないかい?」

夏葉「あら、本当ね。プロデューサーも外で待っている頃だわ」

未央「何かあるの?」

樹里「ユニットのPR活動が忙しいんだよ、ったくプロデューサーのヤツ」
605 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:45:03.34 ID:AXuZ3osI0
凛「大事な仕事なんだから、文句を言わない」

樹里「はいはい」

智代子「私達も夕方からラジオ出演があるんだったよね、凛ちゃん?」

凛「うん。何かあったら面白いフォロー頼んだよ、智代子」

智代子「いや、それどういう意味、凛ちゃん!?」


楓「ふふっ。皆さん、すっかり仲良しなんですね」

樹里「おかげで退屈しなくて済んでますよ」

未央「……ジュリアンが敬語で話してんの、初めて見た気がする」

樹里「はぁ!? あ、当たり前だろ、年上なんだし!」

夏葉「あら、私は?」ニュッ

樹里「だー!! うるせぇあっち行け!」

智代子「根が体育会系だから普通に礼儀正しいんだよね、樹里ちゃん」

シャニP「なるほど」メモメモ

樹里「余計なことメモんな!!」

楓「ふふふ♪」ニコニコ
606 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:46:19.46 ID:AXuZ3osI0
夏葉「じゃあ、行ってくるわね」フリフリ

樹里「アタシらがいなくてもサボんじゃねーぞ、特にチョコ」

ガチャッ バタン


智代子「……私に対する樹里ちゃんの評価の低さたるや」ガクッ

卯月「ま、まぁまぁ智代子ちゃん、今までの積み重ねがあるわけですし」

智代子「それ言う!?」

未央「しまむー、なかなかにヒドいね」


楓「あ、そうそう」

凛「楓さん、どうしたんですか?」


楓「皆さんのユニット名は、何ていうんでしょう?」

智代子「ああ、それはですね……!」
607 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:48:15.55 ID:AXuZ3osI0
ブロロロロロ…


武内P「『TAKE−UC』」

武内P「“UC”とは、ICT用語の一種です」

樹里「あいしーてぃー?」


夏葉「“Unified Communication”」

夏葉「掻い摘まんで言えば、電話やメール、ウェブ会議等の多様な情報伝達手段の統合と、
   これによる業務効率化を図る仕組みのことね」

樹里「よく分かんねぇ。
   アタシらの活動は、別にネットとかでどうこうするようなモンでもねぇだろ」プイッ
608 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:50:18.74 ID:AXuZ3osI0
武内P「283と346、そして961……」

武内P「様々な芸能事務所のアイドル達が統合し、さらなる輝きを放つことを旨とし、
    この言葉を採用しました」

武内P「同時に、“UC”にはもう一つの意味合いも持たせています」

樹里「もう一つの意味合い?」


武内P「私達の向かう道は、後戻りはできない」

武内P「すなわち、キャンセルはできない、という意味です」


夏葉「“Uncancellable”……ふふ、なかなか洒落てるじゃない」

樹里「なるほどな、『TAKE−UC』……
   言い換えりゃ「前進あるのみ」ってトコか?」

武内P「そうです」

樹里「ヘッ、面白ぇ」ニヤッ
609 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:51:18.02 ID:AXuZ3osI0
〜イベント会場〜

ガヤガヤ…! ザワザワ…


武内P「本番までは、こちらで待機をするようにとのことです」ガチャッ

樹里「はーい」

武内P「私はスタッフの方々と確認がありますので、一旦失礼します」

夏葉「分かったわ。お願いね」

バタン



樹里「……」スッ

樹里「…………」シャカシャカ
610 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:52:50.85 ID:AXuZ3osI0
夏葉「……今度歌う新曲?」

樹里「ん? あぁ」スッ

夏葉「アタシ、あんまり物覚えが良い方じゃねーからな」


夏葉「そんな事ないわよ。
   この間のレッスンだって、一度も止まらずに踊りきったじゃない」

樹里「そんなんで満足してちゃダメだろ。
   ちゃんと叩き込んで、曲の解釈?とか、しっかり深めとかねぇと」

樹里「本番までそんなに時間ないんだし、
   完成度を高めるために、無駄な時間は作りたくねぇ」

夏葉「……ふふ、さすがは私達のセンターね」

樹里「ほっとけ」

コンコン

樹里「ん? プロデューサーかな。どうぞー」


ガチャッ

女A「こんにちはー……あら、あなた達は」

女B「283プロの有栖川夏葉さんと、961プロの……西城樹里ちゃんね」

夏葉「あら、共演者さんね。どうも、今日はよろしくね」ニコッ

樹里「そっか、アンタ達もアイドルなん…」
611 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:54:26.55 ID:AXuZ3osI0
女C「ちょっと、一緒にしないでくれる?」

樹里「え?」


女C「あなたみたいな事務所のネームバリューだけで売れてるコ見ると、虫酸が走るのよね」

女B「そうそう、おまけに色々と良くない噂もあるでしょ?
   共演したコを蹴落として泣かしたとか、コネ使って出演をねじ込んだとか」

女A「SNSとかでもぶっ叩かれてるけど、火の無い所に煙は立たないっていうしさ。
   アンタみたいなのと関わり合いになりたくないの」

樹里「あ、あの……」

女A「だから、さっさと出てってくれる?
   迷惑してんの分かるでしょ、業界全体がさ」

樹里「……!」


女B「アハハ! ちょっとー、それ言い過ぎ。可哀想じゃん」

女C「あたしはそう思わないけどなー。
   だってもっとヒドい目にあったコだっているし。コイツのせいでさ」
612 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:56:08.02 ID:AXuZ3osI0
女B「だからぁ、そういうのロジハラっていうんだって。訴えられるよ?」

女A「確かに、そういうのの専門家さんだもんねぇ、961プロは? フフッ♪」

女C「アッハッハ…!」

スッ

女C「へ?」


夏葉「この子に文句があるというのなら、私が聞くわ」

樹里「おい、夏葉」

夏葉「本当の樹里を知ろうともせずに、よくもそんな言葉を投げかけられるわね。
   見たくないものを視界に映さない、都合の良い視野をお持ちなのかしら」


女B「な、何よ!
   アンタだって大企業のお嬢様のくせに、ストイックぶっちゃってさ!」

女A「ちょ、ちょっと。この人は敵に回さない方がいいって。
   何されるか分から…」

夏葉「対峙するものが強大であるなら、尻尾を巻いて逃げると?」

女A「えっ?」


夏葉「威勢を張る相手を選んでいるのなら、あなた達の主張は偽物よ」
613 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/22(水) 23:57:39.38 ID:AXuZ3osI0
女C「! こ、この…」

夏葉「真っ向から勝負を挑む度胸も無いくせに、一丁前に業界のお説教だなんてお笑い草ね」

女A「くっ……!」


樹里「夏葉、もういいよ」

夏葉「いいえ、私には許容できないわ。あなたが馬鹿にされて良い道理なんて…」

樹里「その辺にしとけって言ってんだ。
   ムキになるなんざ、アンタらしくもねぇ」

夏葉「……そうね」スッ


女B「あ、あの……」

樹里「アンタ達が癪に障る気持ちも分かるよ。
   961プロなんざ、業界の闇の象徴っつーか、そういうイメージばっかだもんな」

樹里「アタシだって心底気に入らねぇし、許せねぇ所もたくさんあるけど……
   成り行きで所属している以上、そういう批判を受けるのも、しょうがねぇって思う」
614 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:00:02.62 ID:VfNpJpls0
樹里「だから、そういうのも引っくるめて、何つーか……頑張るよ」

樹里「今はアタシを見て、良くない印象持っちゃう人もいるかもだけど、
   アイドルやる以上、笑顔になってもらえるようになりてぇし」

樹里「やるって決めたからには、ハンパはできねぇからな」

女A「西城樹里……」


樹里「あぁ、だけどさ」

樹里「もし悪口を言いてぇんなら、アタシ一人だけにしとけよ」

樹里「夏葉や咲耶、チョコも……凛も。
   もし他のみんなまで馬鹿にするってんなら、アタシは許さねぇからな」


女B「…………」

女C「あ、あたし達だって、別に悪口言いたい訳じゃ…」


コンコン

夏葉「? どうぞ」


ガチャッ

冬馬「こ、こんにちはーっす! 今日はよろしくお願い……あん?」
615 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:01:31.79 ID:VfNpJpls0
樹里「なっ!? お、おめーは、鬼ヶ島!」

冬馬「天ヶ瀬!!冬馬だ! いい加減覚えろ!」クワッ!

樹里「冗談だよ」


北斗「おや、これはいつぞやのエンジェルちゃん」

翔太「最近ユニット組んだんだって? クロちゃんもやること派手だねー」


女A「えっ、ウソ!? ジュピターの北斗様!!?」

女B「翔太クンと冬馬クンもいるー!!」

女C「ふぁ、ファンなんです!! ツーショしてもらえませんか!?」グイィッ


冬馬「ぉわっぷ!? な、何だコイツら! お前らもアイドルだろ!」

北斗「おやおや、そういうのは事務所を通してもらいたいな」フッ

翔太「僕は大丈夫だよー。
   ただ事務所にバレたらウルサいから、お姉さん達とのヒミツってことで♪」

女達「キャアアーーーッ!!(裏声)」
616 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:03:32.90 ID:VfNpJpls0
樹里「…………」

夏葉「……つくづく、色々な人達がいるものね、この業界」

樹里「雑にまとめんじゃねーよ」


北斗「ところで……先ほどは、何やら穏やかでない空気だったようだが」

女A「えっ!? い、いえいえそんな全然〜!」

女C「楽しくお喋りしてただけですよ、ねぇー樹里ちゃん?」

翔太「そうかなぁ? 廊下の方まで響いちゃってたけどねー、話し声」

女B「うえ゛っ!?」


冬馬「くだらねぇ。
   気に入らねぇヤツがいるなら、グチグチ言わずに力でねじ伏せりゃいいだけじゃねえか」

冬馬「おい、西城」

樹里「あん?」
617 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:05:23.83 ID:VfNpJpls0
冬馬「お前の力は認めてる。
   だが、それでも俺達の足元には及ばねえし、及ばせねぇ」

冬馬「お前も黒井のオッサンの下についてんなら、
   小細工なんかしないで、せいぜい実力で証明してみせろよ」

冬馬「どんだけ頭数揃えた所で、急造ユニットのチームワークなんざ知れてるぜ!
   『クリスタルウィンター』で勝つのは俺達ジュピター!! だぜ!!」ビシッ!


北斗「フッ。相変わらず素直じゃないな、冬馬」

翔太「今の冬馬君の言葉を翻訳すると、「本戦でお互い良い勝負をしよう」って話ね」

冬馬「な!? こ、こらっ、余計なこと言うんじゃねぇ!」プンスコ!

翔太「ほら、否定しないでしょ?」


夏葉「なるほど、それがあなた達の矜持ということね」

樹里「ヘヘ……冬馬」

冬馬「な、何だよ」


樹里「お前のそういうトコ、嫌いじゃないぜ」ニヤッ
618 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:06:12.05 ID:VfNpJpls0
〜夜、346プロ〜

カタカタカタ…

シャニP「……それでは、私はこれで」

武内P「はい。新曲の手配、とても助かりました」ペコッ

シャニP「いえ、これくらいは何でもありません」

シャニP「メインで指揮を執るあなたの方が大変なのですから、
     俺に出来ることは何でも言ってください」

武内P「……ありがとうございます」

シャニP「こちらこそ。では、お先に失礼します」ペコリ

武内P「はい。お疲れ様でした」

ガチャッ バタン



武内P「……」グイッ


カタカタカタ… カタカタ…
619 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:06:55.16 ID:VfNpJpls0
〜レッスンスタジオ〜

コツ…



コツ…





ガチャッ


楓「…………」ソォー…

楓「……」キョロキョロ



楓「…………」ゴソゴソ
620 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:08:11.94 ID:VfNpJpls0
タタン! キュッ! タンッ!


タンッ! タッ! タッ タン!


楓「……ッ! …………!」キュッ! タタッ! タン!

楓「フッ……ッ……!」タッ! タタンッ! タタン!





咲耶「アナタほどの人でも、居残り練習をするんですね」



楓「!?」クルッ


咲耶「……すまない。邪魔をするつもりは無かったのだけれど」

楓「咲耶ちゃん……どうしてここに?」
621 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:09:46.18 ID:VfNpJpls0
咲耶「忘れ物を取りに来た」

咲耶「……という訳ではなくて、私も少し、秘密の練習を」

咲耶「けれど、まさか思わぬ先約がいたとは、ね」フッ

楓「…………」


咲耶「今の振付は、私達の新曲ですよね?」

楓「……そうです」

楓「咲耶ちゃん達のサポートを、プロデューサーからお願いされましたから。
  私も、ひと通り踊れるようにならないと」

咲耶「果たして、本当にプロデューサーからの依頼だったのだろうか」

楓「……え?」


咲耶「私の見立てでは、アナタの方からプロデューサーに掛け合ったと思っているのだけれど、どうかな?」



楓「……ふふっ、アタリです」ニコッ
622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:11:07.12 ID:VfNpJpls0
楓「どうして? と、理由を聞きたいでしょうか」

咲耶「それが許されるなら」

咲耶「だけど……アナタが自分から、私達に明かしてくれる日が来るのを待ちたいと思います」

楓「……ありがとうございます。咲耶ちゃん」


咲耶「良かったらご一緒しても? 深窓の歌姫」

楓「えぇ、もちろんです。それと……」

楓「私に敬語は使わなくて構いません。どうか普段通りに、ね?」ニコッ

咲耶「フフッ……ああ、了解した」ニコッ



タンッ! キュッ! タタン…!
623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:12:47.96 ID:VfNpJpls0
〜料亭〜

女将「では、ごゆっくり」スッ

スゥー ストン…



トクトクトク…

今西「すまないね、付き合わせて」

ちひろ「いえ……」


今西「昔はよく、先代の会長ともここに来ていたものさ」

今西「接待でも利用したし……表ではとても話せないような密談もした」

今西「ここに来るのも、今日が最後になるかも知れないね」

ちひろ「…………」


今西「たまには君も、気分転換が必要なんじゃないかと思ったんだ」
624 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:14:22.62 ID:VfNpJpls0
ちひろ「私は……」


ちひろ「……今西部長」

今西「何だい?」


ちひろ「私は入社以来、ずっと346プロに尽くしてきたつもりでした。
    ずっと、事務所の歯車になることを目指してきました」

ちひろ「誰よりも早く出社して、最後に退社するのなんて序の口。
    休日に仕事を持ち帰ることだって、何も苦ではありません」

ちひろ「なぜなら、それが私の大好きなアイドル達のためになると信じていたからです」

今西「…………」


ちひろ「それが……何だか、よく分からなくなっちゃいました」



今西「なら、ここを辞めるかね?」
625 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:17:23.26 ID:VfNpJpls0
ちひろ「…………」

今西「事務職は、どの業種にも必要不可欠な存在だ。
   君ほどの人材であればどこでもやっていけるし、346プロという職歴はそれなりに箔にもなるだろう」

今西「君もまだ若い。いくらでもやり直せる」

今西「と……あんまり言い過ぎても薄情かな? アハハ」ポリポリ


ちひろ「最近、気づいたことがあります」

ちひろ「私が大好きなもの、応援したかったもの。
    それは……アイドルだけじゃなかったんだ、ということ」

ちひろ「いいえ、ひょっとしたら……彼らもアイドルの一部と言えるのかも知れません」

今西「彼ら?」


ちひろ「プロデューサーさん達のことです」

ちひろ「アイドルもプロデューサーも、お互いに無くてはならないもの……
    皆さんは、仕事のパートナーである以上に、固い絆で結ばれています」

ちひろ「その絆の輝きを、私は応援したかったんだと気づきました」

ちひろ「それができる仕事は……今の業種を置いて他にありません」
626 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:20:17.96 ID:VfNpJpls0
今西「そうか」

ちひろ「だから……今西部長」


ちひろ「今からでも、常務と黒井社長を説得することは出来ないのでしょうか?」

ちひろ「それが叶わないのなら、
    せめてお二方の手からプロデューサーさんを遠ざけることは、出来ませんか?」

今西「千川君……」

ちひろ「あの人はアイドルを愛しています!」

ちひろ「みんなも、あの人を慕っています。なのに……事務所の都合で……!」


今西「……残念だが、それが組織というものだ」

今西「時代は移り変わる。そのしわ寄せは、誰かが引き受けなければならない」

今西「少なくとも常務は……もう彼のことを、必要としないだろうね」

ちひろ「! …………ッ」



今西「私もね……ただ指をくわえて見ているだけ、というわけではないんだ」
627 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:21:43.21 ID:VfNpJpls0
ちひろ「……え」


今西「それを防ぐ手段が、一つだけある……かも知れない」

今西「だがそれは、あるいは業界全体をも潰しかねない方法だ」

今西「君は、それを選択する必要があると思うかね?」

ちひろ「い、今西部長……?」


今西「先日、283プロの天井社長と話をしてね」

今西「とある提案を受けたのだが……
   それはきっと、思わぬ化学反応を引き起こすものだったのだろう」


今西「今夜のレッスンスタジオで、彼女が居残りをしているとすれば、ね」
628 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:26:36.12 ID:VfNpJpls0
〜後日、283プロ〜

ジューーッ…!

智代子「…………ッ」ゴクリ…

樹里「まだひっくり返すんじゃねぇぞ」

夏葉「ま、まだなの、樹里?」ジュー…

樹里「アンタのはさっき入れたばっかじゃねぇか」


凛「みんなで樹里のお料理教室、か」

咲耶「仲良きことは美しきことかな、だね。
   卯月、紅茶のお替わりでも?」

卯月「え、うえぇっ!? あぁいえ、自分で出来ますから」

咲耶「構わないさ。
   せっかく来てくれたのだから、ゆっくりするといい」スッ

卯月「は、はひ……」ポーッ


未央「……じぃーーーっ」
629 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:27:43.89 ID:VfNpJpls0
凛「どうかした、未央?」

未央「ねぇさくやん」

咲耶「? なんだい?」


未央「最近、何か良いことあった?」


咲耶「えっ」ピクッ

未央「あっ、ほらーー!! やっぱり良いことあったんだ!」

卯月「ちょ、ちょっと未央ちゃん、いきなりどうしたんですか?」


未央「いつものさくやんなら……」

未央「フッ……ああ、良いことならたくさんあるさ。
   こうして皆と共に過ごすひとときこそが、私にとっての宝物だよ(イケボ)」

未央「ぐらいの事をサラッと言ってはぐらかすじゃん!
   何今の「えっ」って普通のリアクション!?」

咲耶「あ、いや、あの……」
630 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:29:57.29 ID:VfNpJpls0
樹里「うるせーな、何騒いでんだよ未央」

夏葉「あの、ま、まだかしら、樹里」ジュー…

樹里「ん、いいぞひっくり返して」

夏葉「……」ソォーー…

樹里「ひっくり返したら蓋して蒸し焼きだからな」

夏葉「は、話しかけないで、集中が乱れるわ……!」ソォーー…


未央「なーんか最近、お肌のツヤとかも良さげだし、
   立ち振る舞いとかルンルンな感じに見えたんだよねー」ウーム

咲耶「よ、よく見てくれているんだね、未央」

智代子「そう言えば、咲耶ちゃん最近遅くまで居残り練習してるよね?
    なのに、確かにすごく元気そうだなぁって」


咲耶「えぇと……」ポリポリ

凛「ふーーん」

咲耶「な、なんだい、凛?」


凛「ひょっとして……ウチのプロデューサーと、何かあった?」
631 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:31:18.39 ID:VfNpJpls0
咲耶「へ?」

卯月「うええぇぇぇっ!?」

樹里「なぁっ!?」ガタッ!

智代子「樹里ちゃん、凄い反応ッッッ!」

夏葉「樹里、大変よ!! 蓋を開けたらフライパンから煙が!!」ジュー…

樹里「ただの湯気だよ!! それより……!」


咲耶「ご、誤解だ皆! それは本当に誤解だよ!」ブンブン!

凛「必死に否定している所がますます怪しいんだけど」

未央「らしくないねぇ。素直に白状したまえよ、エェー、さくやん?」ウリウリ

樹里「人様んトコのプロデューサーに、咲耶、お前……!」ワナワナ

咲耶「ほ、本当だ! 信じてくれ!
   私はプロデューサーの方とは何も…!」

凛「プロデューサーの方“とは”?」

咲耶「!?」ギクッ!
632 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:33:02.86 ID:VfNpJpls0
凛「プロデューサーじゃない方とは、何かあるの?
  ていうか、じゃない方の人がいるの?」ズイッ

咲耶「あぁ、いや……言葉のあやさ、別に…」

凛「目を見て離そうよ、咲耶」ズズイッ

咲耶「そ、そんなに怖い目をされたら萎縮してしまうよ、凛」

未央「おおぉ、名探偵しぶりん、パねぇ……」ゴクリ


智代子「何やらあちらは、修羅場を迎えているようですなぁ」モグモグ

夏葉「あら、本当に美味しいわね! これなら家でも作れそう」パクパク


凛「346プロに居残って、誰かと一緒に何かをしてるってことだよね?
  今の話からすると」

樹里「同じユニットのメンバー同士、隠し事はナシにしようぜ、なぁ?」

咲耶「う、うーん……!」


ガチャッ バタン

シャニP「ただいま戻りました、って……おお、皆来ていたのか」
633 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:34:28.97 ID:VfNpJpls0
智代子「あっ、プロデューサーさんお帰りなさい!」

シャニP「おぉ、美味そうな匂いがすると思ったら、ハンバーグか」

夏葉「プロデューサーも食べてみて! 樹里のハンバーグってすごいのよ!」

シャニP「西城さんの? ……ん、美味いな」モグッ


咲耶「あ……プロデューサー!」ティン!

シャニP「皆、お疲れ様。フェスに向けたミーティングか?」

咲耶「あぁ、そうそう。
   凛、実は私は、こっそりプロデューサーと内緒の打合せをしていたんだ」

凛「えっ?」
シャニP「えっ?」

樹里「346のあのカタブツじゃなくて、283プロのプロデューサーとか?」

咲耶「ああ」


シャニP(咲耶、何の話だ?)ヒソヒソ

咲耶(すまないプロデューサー、この場は話を合わせてくれ……)ヒソヒソ
634 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:37:19.05 ID:VfNpJpls0
咲耶「当日まで秘密にしておきたかったのだけれど……仕方が無い」

咲耶「ほら、そろそろ近づいてきただろう?
   11月26日が何の日か、皆は知っているかい?」

卯月「11月26日?」

未央「それって……」


樹里「……ひょっとして、アタシの誕生日か?」

智代子「おおぉ、そ、そうでした!」ポンッ


咲耶「それに向けたサプライズを、プロデューサーと計画していたんだ」

咲耶「本当なら、この事務所に戻ってから作戦会議をすべきなのだけれど、
   時間が遅くなってしまうからと、彼が気を利かせて、346プロまで来てくれてね」

咲耶「そうだろう、プロデューサー?」
635 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:38:26.13 ID:VfNpJpls0
シャニP「あ、あぁ……
     ただ、俺も年頃の女の子に何をプレゼントするのが良いか、分からなくてさ」

シャニP「ちょうど皆にも、相談してみた方がいいんじゃないかって思ってたんだ。
     もっとも、西城さんもこの場にいたんじゃ、サプライズ計画もご破算だけどな」

咲耶「フフッ、そういう事さ」


夏葉「樹里への誕生日プレゼントなら、私に考えがあるわ!
   エプロンにしましょう!」

未央「エプロン? 何で?」

夏葉「こんなに美味しいハンバーグを作ってくれるなら、毎日でも食べたいでしょう?」

樹里「アタシを専属シェフにでもするつもりかよ」

卯月「じゃあ、はいっ!
   樹里ちゃんの新しいレッスンウェアとか、シューズはどうでしょうか?」

樹里「おー、それいいな卯月。ちょうどヘタッてきたから助かるぜ」

卯月「えへへ」ニコニコ
636 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:39:52.04 ID:VfNpJpls0
凛「なるほどね……それなら、秘密にしたがるのも無理はないか」

咲耶「分かってもらえて何よりだ」

樹里「ていうか……あれ?
   おい、チョコ、夏葉、ハンバーグどうした!?」

智代子「先ほど美味しくいただきました!」

夏葉「我ながら会心の出来だったわよ!」

樹里「後でソース作るっつったじゃねーか!!」

シャニP(あ、ソースも作る予定だったのか)


咲耶「おやおや……フフッ、まぁ次もこの機会を設けようじゃないか。
   樹里。この料理教室、今度は私にも手ほどきをしてくれないかい?」

樹里「別にいいけど、余計なスキンシップとかはナシだかんな」

咲耶「おっと、先手を打たれてしまったね」

樹里「する気だったのかよ」


凛(……まぁ、やっぱりいつもの咲耶、か)

凛(ただ……考えすぎかな。どことなく言い訳がましい気がしたような……)
637 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:41:05.37 ID:VfNpJpls0
〜夜、346プロ〜

咲耶「ワン、ツー、スリー、フォー、ワン、ツー……!」タン! タンッ!


咲耶「……ッ…………フッ!」キュ! タタン! ビシッ!

咲耶「っ……はぁ……はぁ……」ガクッ


楓「とても良くなってきていると思います、咲耶ちゃん」

咲耶「そ、そうだろうか……フフ、アナタに言われると、自信になるよ」

楓「ふふっ」ニコッ



咲耶「……実は今日、少し危ういことがあったんだ」

楓「危ういこと?」

咲耶「この秘密練習について、凛達に疑われてね」

楓「まぁ」
638 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:43:24.17 ID:VfNpJpls0
咲耶「ひとまずは、ウチのプロデューサーの助けも借りて、何とかごまかせたのだけれど……」


スクッ

咲耶「この時間を皆に秘密にしているのは、独りよがりな私個人の意志だ。それでも」

咲耶「やはり楓……今一度、尋ねてもいいかな。
   どうしてアナタが、こんなにも私達に尽くしてくれるのかを」

楓「…………」


咲耶「……アナタが樹里と智代子を特別視していたのは、知っているよ。
   自分の仕事に、直々に指名して招待するほどだ」

咲耶「それと、関係があることかい?」



楓「……はい、そうです」

楓「端的に言えば……償い、ですね」

咲耶「償い……?」
639 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:45:16.15 ID:VfNpJpls0
楓「それ以上は、今は言えません……ごめんなさい、咲耶ちゃん」


咲耶「……ありがとう、楓。
   ではお返しに、私からも秘密を一つ明かそうか」

楓「えっ?」

咲耶「アナタだけでなく、他の誰にも明かしていない秘密さ」


咲耶「実は、先日の楓のミニライブ、私も観に行っていてね」

楓「えぇ。それは、凛ちゃん達からも聞いています」

楓「樹里ちゃんの行動を見守るために、咲耶ちゃんも凛ちゃん達も来ていたって」

咲耶「いや、違うんだ」フルフル


咲耶「私にとっては、樹里があの場にいた事こそが偶然だった」


楓「……それは、どういう…?」

咲耶「純粋に、楓……一ファンとして、アナタのライブを観に来ていたんだ」

楓「えっ」


咲耶「アナタがアイドルになる前……
   モデル時代から、私にとって高垣楓は憧れの存在だったのさ」
640 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:54:01.54 ID:VfNpJpls0
楓「咲耶ちゃん……」


咲耶「たまたま手に取った雑誌に、アナタの写真が載っていて……目を奪われた。
   この人のようになりたいと思って、モデルの勉強をしたんだ」

咲耶「高校生以上なら活動させてくれる事務所を見つけて、進学してすぐに契約した。
   前知識は十分に得たつもりだったけれど、なかなかアナタのようにいかなくてね……」

咲耶「少しずつ軌道に乗るようになってからも、私はアナタの後を追いかけ続けた。
   どんな細かい記事でもチェックをして、それで……アナタがアイドルに転身したことを知った」

咲耶「すると、今度はアイドルについて知りたくなったんだ」

咲耶「モデルとしても、あれほど脚光を浴びていた人が、何の前触れも無くアイドルになる……
   一体どんな魅力を見出したのか、興味を持つなという方が無理があるだろう?」


咲耶「そんな折、今の事務所のプロデューサーが、私をスカウトしてくれた」

咲耶「最初は、少し迷ったんだ。
   アナタと同じ事務所に行った方が、会える可能性も高まるんじゃないか、ってね」

咲耶「でも、私はあえて違う事務所を……283プロを選んだ。
   追いかけるだけでなく、いつの日か高垣楓と肩を並べる存在になるために」


咲耶「そして今……同じ立場で相まみえる日を待ち焦がれ続けた高垣楓が、私の目の前にいる」

咲耶「フフ……緊張を抑えるのに、私がずっと前から必死なのが分かるかい?」
641 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:55:51.02 ID:VfNpJpls0
楓「……そうだったんですか」


咲耶「アイドルに転身してからも、アナタの輝きは留まることを知らない。
   いや、それまで以上に眩い光を放ち続けている」

咲耶「楓……私には、アナタと二人でいるこの時間が、宝物だ」

咲耶「独り占めしたくて、だから……皆に教えたくなかった。
   こんな気持ちは初めてさ」

咲耶「私からアナタに贈る、二人だけの秘密……フフ、子供じみていると思うだろう?」ニコッ


楓「ううん」フルフル

楓「私が誰かにとって、強い想いを起こさせる存在になれたなら、
  とても光栄なことだなぁって思います」

咲耶「そうやってアナタは、他人事のように言うんだね」フッ

楓「そうでしょうか……そうかも知れません」
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:57:03.41 ID:VfNpJpls0
楓「我が事として捉える度胸が、私には足りていないのだと思います」

楓「畏れ多くて、同時に…………とても……」

楓「…………」

咲耶「……とても?」


楓「……一つ、分かりました」

楓「誰かからの秘密を預かるというのは、とても負担の大きい事なのですね」

咲耶「楓……?」


楓「咲耶ちゃん、ごめんなさい……それでも、まだお話はできません」

楓「ですが、一つだけ」


楓「私の秘密を預けている人が、一人だけいます」

楓「それは、咲耶ちゃんもよくご存知の人です。
  当時、たまたまお仕事でお会いした……283プロの人」
643 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:58:07.86 ID:VfNpJpls0
咲耶「283プロ……!?」


楓「関わり合いの薄い彼になら、中立の立場でそれを担ってくれると考えました。
  私の願いを、重荷とも思わないで済むような人になら、と」

楓「ですが……きっと、その方にも、負担を強いていたのでしょうね」

咲耶「か、楓……」


楓「察しがついたのなら、何かの折に、私が謝っていたとお伝えください」

楓「今度のフェスが終わった時に……私が、全て背負いますからと」

楓「だから……」



咲耶「……楓」

咲耶「ひとつ私から、提案したいことがある」
644 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/23(木) 00:59:28.26 ID:VfNpJpls0
今回はここまで。
次回は明日の夜8時〜11時頃の更新を予定しています。
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