西城樹里「タケウチ」

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345 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:39:30.82 ID:9H96sgaS0
美城「部内に他社との関わりを持っている者がいないかを知りたいのですが」

今西「……」ピクッ

美城「今西部長。あなたは何かご存知でしょうか」


今西「……それを知ってどうすると?」

美城「簡単な話です。余計なリスクを排除したいだけのこと」

今西「…………」


美城「今の時代、不必要な他社との関わり合いがメリットになるシーンは極めて少ないと考えます」

美城「それどころか、社外秘の情報が漏洩するリスクを考えれば、
   一時のコラボ企画等以外で提携する機会は極力排した方が良いでしょう」

今西「……なるほど、ではもう一つ。
   他社との関わりを持っている者の有無について、君が疑うきっかけとなったものは?」
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:41:14.02 ID:9H96sgaS0
美城「他の社員と比べて、明らかに在席率が低い者がいます」

今西「きっと、営業活動等で出突っ張りなんでしょう」

美城「可能性は認めましょう。
   一方で、先日、高垣楓はミニライブを行いました」

今西「…………」

美城「その会場に、他の事務所のアイドル候補生がスタッフとして入り込んでいたようです」

美城「さらに不可解なのは、その相手先である事務所と当方との間で、
   何も金銭の動きが確認されていない」

美城「どちらからの依頼で、どちらが応じたのか……
   いずれにせよ、両社が何の報酬も無しにこれを互いに了承した事には、著しい違和感が認められます」

美城「そして、先日のサマーフェスにおいては、
   我が346プロからのアイドルのエントリーが無かったにも関わらず、我が社のプロデューサーが会場にいたらしい、と」


今西「…………」

美城「いずれも、ただの偶然、あるいは邪な意図など無いのかも知れません。
   ですが、この正否を私には確認する責務があります」
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:43:11.03 ID:9H96sgaS0
美城「私の立場では見通しきれないものも多い。
   ですので、あなたにもご協力をいただきたい」

美城「お願いできますでしょうか」


今西「……ええ、もちろんです」

今西「私はあなたの部下なのだから、是非もないことでしょう」

美城「恐縮です」

スクッ スタスタ

美城「では、事実関係の確認をよろしく頼みます。
   分かり次第で構いませんが、いたずらに問題を放置する事は考えていません」ギシッ

今西「じゃあ、うーん……二週間くらい?」

美城「十日後に、ひとまずはご報告願います」カタカタ…

カタカタカタ… カタカタ…



今西「…………」
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:45:40.91 ID:9H96sgaS0
〜後日、レストラン〜

店員「お待ちしておりました。ごゆっくりどうぞ」ペコリ

夏葉「ありがとう」

スタスタ…


樹里「……しっかしまた、高そうな店だなおい」

咲耶「幹線道路にほど近いはずなのに、都会の喧噪を感じさせない落ち着きがある……
   さすが、夏葉の選ぶ店は品があるね」

樹里「こんなトコ連れてこられても、アタシ手持ちねーぞ。
   大丈夫なのかよ、またアンタが出すつもりなのか?」

夏葉「会計なら283プロの経費で落とすよう、ウチの事務員には了解を取っているわ」

樹里「えっ?」


ズイッ

夏葉「今日はあなたと真剣にお話したい事があるの。
   そのために、こうして個室で話せる場所をわざわざ選んだのよ」
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:47:29.77 ID:9H96sgaS0
樹里「な、何だよ話したい事って……ていうか、アンタ大概いつも真剣じゃねーか」

夏葉「それはそうだけど、それはそれよ。いい、樹里?」


夏葉「あなた、自分の置かれた境遇がおかしいと思わないの?」

樹里「は?」


夏葉「よく考えてみてちょうだい、樹里」

夏葉「あなたは2ヶ月前の『サマードルフィン』で私を下し、優勝した」

夏葉「それなのに、2位に甘んじた私や咲耶の方がアイドルとして活躍している」

樹里「それは……アンタんとこのプロデューサーの売り出し方が上手い、とか?」

夏葉「じゃあ聞くけど、あのフェス以降、
   あなたがアイドルとして活動した実績は何があるのかしら?」

樹里「えっ? えっと……基礎レッスンと……なんか、宣材写真撮ったり」

夏葉「そういうのは実績とは言わないわよ」
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:49:19.06 ID:9H96sgaS0
夏葉「どうして自分の活動が停滞しているのか、
   あなたのプロデューサーとちゃんと話し合った事はあるの?」

樹里「んー……無い、というか……
   アタシそういうのは全部プロデューサーに任せてっからなぁ」

夏葉「ダメよ、そんなことじゃ。
   樹里がどうしたいというのを、プロデューサーにも伝えないと」

樹里「うっ……いや、つっても、アタシそういうの苦手なんだよ」ポリポリ


夏葉「346プロを打倒するために、もっと高みに上り詰めていきたいんでしょう?」

夏葉「プロデューサーを信頼するのは結構だけれど、
   何もかもを任せきりにして自分を腐らせてはいけないわ」

樹里「わ、分かってるよそんなの! でも……」


咲耶「樹里は、どんなアイドルになりたいんだい?」

樹里「え……」


咲耶「そのビジョンが、樹里の中で明確になっていない所に、問題があるのかも知れないね」
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:50:54.07 ID:9H96sgaS0
樹里「何だよ……二人して説教垂れるためにアタシを呼んだってのか?」

樹里「付き合ってらんねぇ。帰らせてもらうぜ」スッ


咲耶「樹里には今、夢中になれるものがあるかい?」

樹里「……!」ピクッ


  ――あなたには今、夢中になれるものがありますか?


樹里「……何でそんな事聞くんだよ」

樹里「アンタには関係ねーだろ」


咲耶「樹里にはそうした方が良いだろうから、ハッキリ言わせてもらうよ」

咲耶「私はアイドルが好きだ。
   そして、私の好きなものを、穏やかならぬ目的のための手段にしようとしている人がいる」

樹里「…………」

咲耶「私にはそれが、どうしても放っておけないのさ。
   たとえ樹里にとって、この行いが価値観の押しつけになろうとも、ね」

咲耶「関係なくなんて無い……私は、樹里と無関係でありたくないんだ」
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:52:17.10 ID:9H96sgaS0
樹里「……夏葉、言ってたよな」

樹里「アイドルを手段としてしか考えない姿勢は、
   本気でアイドルを夢見ているヤツに対する侮辱だ、って」

夏葉「……えぇ、そうね」


樹里「だったら教えてくれよ」

樹里「手段としてしか見出せないヤツに、アイドルをやる資格があるのかを」


咲耶「樹里……!」

樹里「夢を持てないヤツは、誰かを侮辱する事しかできねぇっていうんなら……」

樹里「アタシがアイドルをやること自体、矛盾でしかなかった、ってこったな」

ガタッ

樹里「辞めてやるよ。元々、アタシのガラじゃなかったしな」

樹里「もちろん、346プロを懲らしめてからの話だけどよ」

夏葉「そうやっていつまで自分の気持ちを誤魔化していくつもりなの?」

樹里「あぁ?」
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:53:01.89 ID:9H96sgaS0
夏葉「あなたは恐れているだけよ」

夏葉「どうしてそんなにも怯えているのか、私には分からないけれど……
   手を伸ばさないままでいれば、自身を傷つける心配も無いものね」



樹里「……ッ!」ギリッ


樹里「アンタらに……アンタらに、何が分かんだよ……!!」



クルッ


ツカツカ…!
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:55:04.06 ID:9H96sgaS0
夏葉「…………」

咲耶「……すまない、夏葉。私のせいだ」

夏葉「いいえ。私の方こそ、あの子に強く当たってしまったわ」

夏葉「樹里には、アイドルを続けてほしいから……
   ポジティブな気持ちで、これからもずっと、私達と一緒に」

咲耶「ああ……だけど、かえってムキにさせてしまったようだね。
   凛の期待にも、応えられなかった」

咲耶「あの態度が、樹里の本音でなければ良いのだけれど……」


夏葉「それは心配無いと思うわ」

咲耶「? どうしてだい?」

夏葉「樹里としても、何か理由がある事が分かったからよ」


夏葉「去り際にあの子、言っていたでしょう。「何が分かる」と」

夏葉「樹里自身がジレンマを抱えていない限り、あんな台詞が出てくるはずが無いわ」

咲耶「……ああ、そうだね」
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:55:58.64 ID:9H96sgaS0
〜961プロ 社長室〜

コンコン…

黒井「入りたまえ」


ガチャッ

バタン


武内P「失礼致します」ペコリ



黒井「この私が、わざわざ貴様をここに呼んだ理由、理解しているかね?」

武内P「……西城の件、でしょうか」

黒井「ウィ、そうとも」
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:57:51.14 ID:9H96sgaS0
黒井「なぜ私に無断であんなガチャ蠅をスカウトしたのか……
   それについては不問とするつもりでいた」

黒井「961プロとして恥じぬ実績を残せたらの話だがな。
   だが、現実はどうだ?」

黒井「かのサマーフェス以降、西城樹里はロクな活動一つしていない。
   各所からのオファーも次々に断り、業界からの評判も堕ちていく始末」

黒井「当然、我が961プロの品格さえもだ」

武内P「…………」


黒井「いいか。貴様に、我が961プロ内でも相応の地位と権利を与えてやっているのは、
   例の“契約”があるからに過ぎん」

黒井「961と346、双方にとって邪魔となる存在を速やかに排除するため、
   最も柔軟かつ臨機応変に対応できる貴様が、業界内でも動きやすいように、だ」

黒井「勘違いしているようなら、身の程を弁えてもらおうか」
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:00:17.31 ID:9H96sgaS0
武内P「大変、失礼を致しました」ペコリ

黒井「安い謝罪など、どうだっていい。
   あの小娘をどうするつもりか、聞かせてもらおう」

武内P「…………」

黒井「フン……答えに困るような事を聞いているつもりは無いのだが?」

黒井「それとも、何か後ろ暗い事でもあるというのかね? あのガチャ蠅に」


武内P「お言葉ですが、黒井社長」

武内P「西城の初イベントに、あなたが別のアイドルを介入させた事は分かっています」

武内P「実績を残せていないことを責めるのであれば……
    西城の邪魔立てをしたあなたの行為にもまた、説明が必要ではないでしょうか」

黒井「……つくづく、傲岸不遜な物言いをするじゃあないか、この私に向かって」

武内P「さらに言わせていただくなら」


武内P「西城が表舞台に姿を見せない状況は、あなたにとっても好都合なのではないでしょうか」


黒井「フン……それはどういう意味かね?」

武内P「…………」
358 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:02:14.64 ID:9H96sgaS0
黒井「とにかく、我が社のアイドルとして見合う実績を残せない以上、
   あの西城樹里は961プロに必要無い!」

黒井「これは貴様らだけでなく、我が社の信用問題に関わる話だ」

黒井「そして、現にそれを怪しむ動きも出ている事を、認識した方が良いのではないかね?」

武内P「! ……」

黒井「当然だろう。曲がりなりにも、あの規模のフェスの優勝者だ。
   一切の声明を出さぬまま姿を消すのは、道理に合わん」


武内P「…………ッ」グッ…!


黒井「ああ、そうだとも。
   あの小娘が大人しくしている事自体は、一概に都合が悪いとも言えん」

黒井「しかし、それ故に不都合なのだよ。
   あの小娘に寄せられている関心は、貴様が考えている以上に大きいものだ」

黒井「表社会からも、そうでない者達からも……全くもって不本意ではあるがね」

黒井「どう立ち回ろうとも、もはや注目は逃れられん。
   であるならば、せいぜい為すべき事を為すがいい」

黒井「“我が961プロの”プロデューサーとしてな」
359 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:03:32.02 ID:9H96sgaS0
武内P「……承知しました」

黒井「分かったなら下がりたまえ。私は忙しい」

武内P「…………」スッ

ガチャッ

武内P「……失礼致します」

バタン…



黒井「……フン」

黒井「厄介な者を抱えてきたものだ……この私を悩ますとは」


プルルルルル…!

カチッ

黒井「私だ」

『346プロダクションの美城常務がお見えです』

黒井「ウィ、社長室へ通せ」

『畏まりました』


黒井「さて……厄介な者がもう一人」ギシッ
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:04:19.34 ID:9H96sgaS0
〜346プロ〜

ウィーン…


コツコツ…

武内P「…………」コツコツ…



今西「やぁ、お疲れ様」

ちひろ「お疲れ様です、プロデューサー」


武内P「! お、お疲れ様です」ペコリ

今西「ハハハ、そう畏まらないで」


今西「ただ……ちょっと話があるのだが」


武内P「常務の件……ですね」

ちひろ「……はい、そうです」
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:06:08.62 ID:9H96sgaS0
今西「……と、いうわけなんだ」

今西「私も、常務に誤魔化し続けるのは、そろそろ限界でね」

武内P「なるほど……」


今西「常務はまだ、君が961プロと内通している、というレベルの認識だろう」

今西「加えて、君が961プロとの契約に従い行ってきた事を突き止めれば……
   単なる解雇以上のペナルティをも、免れなくなるかも知れない」

ちひろ「……ッ」


武内P「…………」


今西「君にばかり負担をかけて、悪いと思っている」

武内P「いえ……身から出た錆です」

武内P「いつかこういう日が来ることは、分かっていました」

ちひろ「プロデューサー……!」


武内P「ですが……もう少し、猶予があれば」
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:07:21.12 ID:9H96sgaS0
今西「猶予があるとして、どうする?」

武内P「……!」


今西「君自身はどうしたい」

今西「西城君や渋谷君達を、トップアイドルにしたいのか。
   それとも、貝のように口を閉ざして生きるのか」

今西「過去の担当アイドルのような目に遭わせないために」

武内P「!! ……ッ」


今西「行動には責任が伴うものだ」

今西「どちらを選択するにせよ、君は……吹っ切らなくてはならないと私は思う」


武内P「…………」


ちひろ「……プロデューサーさん」

ちひろ「こちらを……」スッ
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:08:31.11 ID:9H96sgaS0
武内P「? ……これは?」ペラッ

ちひろ「新天地となる会社の候補を、私なりに選んでみました」

武内P「え……」


ちひろ「こんな事、私は言いたくありません……でも……でもっ」

ちひろ「これ以上、辛いお仕事のためにプロデューサーさんが苦しむのを見たくありません、それに……」

ちひろ「もう、常務には気づかれてしまいます……!
    今のうちにお逃げになって、有耶無耶にしてしまった方が、安全だって思うんです」


武内P「…………」

ちひろ「私を……何もお力になれない私を、恨んでください……」



武内P「………………」
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:09:27.88 ID:9H96sgaS0
〜事務室〜

武内P「………………」ズゥーーン…


未央(ちょ、ちょっとしぶりん……!)コショコショ!

凛「何?」

未央(あんなドンヨリしてるプロデューサー、初めて見るんだけど!?)コショコショ!

卯月(元々、物静かな方ですけど、何だか空気が重すぎて……!)ハラハラ!

凛「ていうか、二人ともそうやってコソコソしてる方が余計に目立つよ」

未央「やっぱり?」スンッ

卯月「えっ? ちょ、ちょっと未央ちゃん!?」


凛「でも……確かに、あの落ち込みようはちょっと異常だね」
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:10:27.27 ID:9H96sgaS0
凛「…………」

クルッ

ツカツカツカ…!

卯月「え、ちょ、凛ちゃん……!?」


ツカツカ ピタッ


凛「樹里のことで悩んでるんでしょ」

武内P「!」ピクッ

未央(直球ッ!!)

凛「ここ最近ずっと、私達以外の事でプロデューサーが頭を一杯にしてるの、
  担当アイドルとして面白くないんだけど」

卯月(からの追い打ち……!!)


武内P「……渋谷さんの言う通りです」
366 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:12:00.46 ID:9H96sgaS0
凛「…………」

武内P「私は西城さんを、どう導けば良いのか、迷っています」

武内P「本分を全うする事に悩むようでは……プロデューサー失格です」

卯月「プロデューサーさん……」


未央「導く、って……プロデューサーはジュリアンのこと、背負い込みすぎだよ」

未央「ジュリアンがしたいこと、聞いてあげてさ、それを応援してあげたらどうかな。
   私達の事だって、プロデューサー、伸び伸びとやらせてくれたでしょ?」


武内P「……何をしたいのか、西城さんに気づかせる事ができずにいます」

武内P「事実、優勝後のしばらくの間、基礎レッスンだけを続けさせる事に、
    西城さんは何ら疑問を持っていない……」

未央「う、うーん……」
367 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:13:06.60 ID:9H96sgaS0
凛「気づきたくないだけなんだとしたら?」

武内P「……え?」

卯月「凛ちゃん……?」


凛「樹里も……プロデューサーも、
  私に言わせれば、どっちも素直になれてないだけだよ」

凛「私達には個性個性って、尊重して自由にやらせてくれるクセに……
  プロデューサーはそうして大人ぶって、自分の気持ちを押し殺してるじゃん」

凛「そうして悩んでるフリを続けることが、本当に最後は良い結果に繋がるの?」

武内P「…………」


凛「……ごめん、言い過ぎた」

武内P「いえ……」
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:14:43.74 ID:9H96sgaS0
未央「ま、まぁまぁまぁ!
   とりあえず今日の午前中のお仕事は、確かインタビュー?だっけ?」

未央「それが終わったらさ、皆でお昼ご飯食べに行こうよ!
   私、ずーっと行きたかったお店があったんだけど、いかんせんボリューミーで」

卯月「あっ! この間話してたデカ盛りのお店ですか?」

未央「そうそう! やはり男手がいないと、なかなか突入する勇気が持てんのだよ。
   というワケで、いざって時のモグモグ要員として、プロデューサーも来てくれるよね?」

武内P「申し訳ございません。実は、お弁当を持ってきておりまして……」

未央「あ……そ、そうでした、ね、アハハ、アハ……」

凛「ふーん……まだ続いてるんだ、樹里の」


凛「……!」ピクッ

卯月「凛ちゃん、どうかしましたか?」



凛「……ううん、何でもない」フルフル
369 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:17:18.87 ID:9H96sgaS0
――――――

――――


  ううん……やっぱ、無理だよ。

  私、取り返しのつかないこと、しちゃったもん……。

「何言ってんだよ! いいか、よく聞け!」

「アタシがやった事にしろ!」

  ……樹里が?

「ああ! どうせアタシは先公達の評判悪いし、その方が皆納得すんだろ?
 だから……!」


  そんな事、ないよ……。

  先生達、ちゃんと見てるよ……樹里は、気配りのできる、優しい子だって。

  今の私に対しても、そうじゃん。
370 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:18:32.12 ID:9H96sgaS0
「だ、だとしてもだ!
 お前がチームを抜けて、関東勝ち抜けるワケねーだろ!」

「どう考えても、アタシが出場停止食らった方が、チームのためになるんだ!」

「……ッ! 足音……タキザワの奴が来るっ!
 いいか、絶対余計な事言うなよ! アタシに全部任せとけっ!」


「……あっ、タキザワ先生! お、お疲れ様です!」

  二人して、こんな所で何をしている?

「あぁいえ、これは、その、あの……!」


  先生、ごめんなさい。

「えっ……」

  私……。


「おい……やめろ、言うな……」
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:20:24.67 ID:9H96sgaS0
「アタシだ……アタシのせいなんだ……!」


  ――お前はチームを欺いた。


「うるせぇ……!!」


  ――なぜ、あんな無謀なスリーを打った?


「アタシは……」

「くそっ、なんで……ボールが……!」


「なんでボールが、届かねぇんだよ……!!」

「届けよ……届いてくれよっ……ちきしょう……!!」


「うあああぁぁぁあぁぁっ……!!!」
372 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:21:20.76 ID:9H96sgaS0
樹里「………………」



武内P「西城さん」

樹里「……ん?」

武内P「どうかされましたか? 体調が優れないようであれば……」

樹里「何でもねーよ」


樹里「アンタも大概、人のこと言えねーぜ。
   いつも以上に辛気臭いツラしやがって」

武内P「……申し訳ございません」

樹里「謝んなってんだよ……」



ヴィー…! ヴィー…!

樹里「……?」ゴソゴソ
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:22:18.42 ID:9H96sgaS0
樹里「凛か……」

武内P「……」

樹里「悪ぃ、席外すぜ」スッ

武内P「はい」


スタスタ…


ピッ!

樹里「もしもし……おう」

樹里「あぁ、うん……いや、アタシも言い過ぎた。ごめんな」

樹里「で、どうしたんだ?」



樹里「……は? 料理?」
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:24:05.79 ID:9H96sgaS0
〜テレビ局 控え室〜

ディレクター「高垣さん、お疲れ様でした。いやー今日の収録も大盛り上がりでしたね」

楓「いえ、そんな……ゲストの方や、皆さんのおかげです。
  ありがとうございます」ペコリ

D「あぁいえいえ、そんなご謙遜を」


D「それで、このトーク番組のゲストについて、各界から応募がたくさん来ておりまして」ドサーッ

楓「まぁ」

D「全部目を通す訳にもいかないでしょうから、こちらでいくつか絞ってみた結果がこちらです」スッ

楓「……ふふっ、お料理番組みたいですね」クスッ

D「ハハハ。でまぁ〜、気になる方がおられたら、高垣さんのご希望をお聞きできればと」

楓「そうでしたか……えぇと」


楓「うーん……」
375 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:25:30.99 ID:9H96sgaS0
D「今決めていただかなくとも結構ですよ、数日中にご連絡いただければ」

楓「いえ、あまりお待たせしては、先方にも悪いですし……」


楓「……!」ピクッ

D「おっ、気になる方いました?」

楓「智代子ちゃん……」

D「へ?」


楓「283プロの、園田智代子ちゃんをお招きしたいです」


D「あ、はい。えぇっと……アレですよね? 新人アイドルの」ポリポリ

D「彼女の事務所からは、別に応募なんて来てなかったと思いますが」

楓「先ほどは、私の希望を聞いていただけると」

D「あぁいえ! そりゃそうなんですけどね。
  ほら、我々も商売ですし、数字が取れる見込みが無いとちょっと……」


楓「責任なら、私と346プロが取ります」

楓「どうか、よろしくお願いします」
376 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:26:40.81 ID:9H96sgaS0
〜後日、961プロ寮 樹里の部屋〜

ガチャッ

樹里「まぁ、何もねぇけど」

凛「お邪魔します……あれ?」


智代子「ひぇ……! なんだ、凛ちゃんかぁ、ビックリしたぁ〜」


凛「智代子も来てたんだ」

樹里「合い鍵渡してんだよ」

凛「合い鍵?」

智代子「わわっ!? じゅ、樹里ちゃん、そんな言い方は……!」

樹里「うわぁ!? バ……あの、ちげーよ勘違いすんなよな!!」

凛「勘違いって、何が?」

樹里・智代子「――ッ!!」カァーッ!
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:28:30.35 ID:9H96sgaS0
樹里「つまりぃ! アタシ一人でこんな部屋使うのもったいねーだろ?」

樹里「それに、ほら、アレ」クイッ

凛「?」


樹里「ああして、アタシの手が回んない時は、チョコに面倒見てもらってんだ」

シュッ シュッ

智代子「ありがとう……大きくなれよ、ありがとう……(藤○弘、)」フキフキ

樹里「いらねー小芝居すんな」

智代子「この間、夏葉ちゃんにモノマネ披露したら、すごくウケちゃって」エヘヘ


凛「ふーん……アグラオネマか」


樹里「え?」

智代子「ウソ!? 凛ちゃん分かるの、この鉢植えの名前!」

凛「あ、うん。私の家、花屋やってるから」

樹里「し、知らなかった……」
378 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:31:14.43 ID:9H96sgaS0
凛「霧吹きだけで水やりしてるの?」

智代子「うん」

樹里「そうしろ、って言われたからな」

凛「それ、たぶんダメだよ」

樹里・智代子「えっ!?」


凛「葉っぱについたホコリを取るのに、水をかけるのは良いと思うけど……
  基本的に水やりは、冬以外は根元にたっぷりあげた方がいいよ」

凛「あとは……これからの時期、寒くなると、外には出さない方がいいかな。
  寒さに弱い品種だし」

凛「それから、あまり日当たりの良い所に置いちゃダメ。
  本来はジャングルに自生する植物だから、直射日光はNGだね」


智代子「へぇ〜……さすがお花屋さん」

樹里「何だよ、全然違うじゃねーか、アイツの言ってた事」

凛「アイツって?」

樹里「プロデューサーだよ、凛も会った事あんだろ?」

凛「……!」ピクッ

樹里「頼まれたから、たまにこうしてアタシの部屋でも面倒見てやってんのに、
   いい加減な事言うなってんだよなぁ? ったく」
379 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:32:33.34 ID:9H96sgaS0
樹里「なにが「日射がこちらから降り注ぎますので」だ。したり顔で語りやがって。
   花の心っつーもんがまるで分かってねーな」

智代子「乙女心は分かっていても、お花は同じというワケにはいきませんなぁ」

樹里「ヘッ、どうだか。乙女心の方も知れてるぜ」


凛(知らなかった……プロデューサー、そんな趣味があったんだ)

凛(それに……その鉢植えの世話を、私達じゃなくて、樹里に……)


凛「…………」

智代子「り、凛ちゃんどうしたの? ひょっとして怒りに打ち震えてる……!?」

凛「えっ?」

樹里「気持ちは分かるぜ。
   こういう生き物の世話ってのはハンパは許されねーし、まして家業だもんな」

凛「い、いや! そういう事じゃなくて!」ブンブン
380 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:34:12.62 ID:9H96sgaS0
凛「ていうか、今日来た用事は、別に講釈するためじゃないから」

樹里「あぁ、そういやそうだったな」

智代子「樹里ちゃん家に遊びに来たんじゃないの?」

樹里「なんか料理教えてほしいってさ」

智代子「うああぁ、何それ! 私も一緒にいたい、けど……!」

智代子「不肖、園田智代子。
    これから咲耶ちゃんの新ラジオ番組のゲストに呼ばれておるのです……!」

樹里「超重要なヤツじゃねーかそれ、さっさと行ってこいよ」

凛「咲耶、聞き上手だし、誰かと話をするのも好きそうだし、適任だよね」

智代子「うええぇぇん、樹里ちゃん、後で私にも教えてねぇぇ……!」ポロポロ

樹里「な、泣いてるし……」


智代子「それでは、後はお若い二人でごゆっくり」ニコォォ…!

樹里「うるせぇ、さっさと行けって」

ガチャッ

バタン
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:35:22.78 ID:9H96sgaS0
凛「……ふーん」キョロキョロ

樹里「別に面白いモンなんかねーぞ」

樹里「で、何を作りてぇんだ?」

凛「何を、ってほどでもないけど……」


凛「例えば、その……お弁当、とか?」


樹里「弁当? 昼メシの?」

凛「うん」コクッ

樹里「弁当、って……
   んなもん、適当に空いてるスペースに色々ぶち込めばいいだけじゃねぇか」

凛「適当にぶち込んでるように見えないんだけどな……」

樹里「あん?」

凛「あ、ううん、何でもない」

凛「でも、普段料理しない身からすると、その適当にっていうのが難しくてさ」

樹里「ふーん……まぁ、いいけどよ」
382 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:36:57.62 ID:9H96sgaS0
樹里「でも、本当に何でもいいんだったら、冷凍のおかずで事足りんだろ?」

樹里「何か、これだけはちゃんと作ろうって、イメージしてるモンとかあるのか?」

凛「ちゃんと作るもの……」

凛「…………」


  ――それでは、私はハンバーグを。

  ――おおっ! 紅蓮の業火に灼かれし禁断の果実!
     我が友も、彼の贄を所望するか!

  ――らんらんもハンバーグ大好きだもんねー。


凛「……ハンバーグ」

樹里「おー、ハンバーグな。いいトコ突くじゃねーか」

樹里「アタシも最近、色んな作り方を研究しててさ。
   少なくとも冷凍のヤツよりかは、うまく作れる自信あるぜ」

凛「へぇー、樹里がそこまで言うの、期待しちゃうね」

樹里「まぁな。よし、じゃあまずは材料買いに行くか。
   せっかくだし、他にもひと通り思いついたヤツ作ろうぜ」

凛「うん」
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:38:32.62 ID:9H96sgaS0
トントントントン…

樹里「玉ねぎはこうしてみじん切りにして……」トントントン…

凛「……」ジーッ

樹里「……っと、こんな感じ。ほら、半分やってみ?」スッ

凛「う、うん」


トン トン …

凛「……樹里みたいに、早く、できない……」トン…

樹里「焦んなよ、早くやる必要ねーんだからこんなの」

樹里「ほら、端っこの方切る時あぶねぇぞ。
   無理しないで、向き変えて寝かせてみな」

凛「む、向き?」トン…

樹里「玉ねぎの。あぁ、そうそう」
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:40:23.88 ID:9H96sgaS0
樹里「先に飴色になるまで炒めて、コクと香りがどうとかって作り方もあるけど……」トントントン

樹里「弁当用のだからな。いちいちそんな時間かけらんねーし」ササッ

樹里「それに、生のままならサッパリ、しかも水分が出てジューシーになったりするし」スイッ

樹里「まぁ、好みの問題ってヤツ?」パッ パッ

凛「……」フムフム


樹里「これと、パン粉と卵、牛乳……」サァーッ…

樹里「んで……氷水」ジャーッ

凛「氷水? 入れるの?」

樹里「いいや、こうしてボウルを冷やすんだ」ガショッ

樹里「手の熱で肉の脂が溶けちまうと、良くないんだってさ。
   そんで、挽肉に、塩をしっかり入れて……」ササッ

樹里「よし、混ぜる。はい」スッ

凛「わ、私?」

樹里「お前が作んだろ」
385 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:42:02.05 ID:9H96sgaS0
凛「…………」ネリネリ

樹里「うん、いいんじゃねぇか?
   そして、そこにさっきのつなぎを投入」ザザーッ

凛「……なんか、くすぐったいね」ネリネリ

樹里「あぁ、わかる」


凛「どう、先生?」

樹里「先生じゃねーし。でもまぁ……そんなもんだろうな」

樹里「んで、こうして手に取って、成形して……」ペタペタ

凛「なんか、手の平でキャッチボールするって聞いた事あるけど」

樹里「あぁ、そうそう。空気抜くんだよな」ペタペタ

凛「ふふっ」ペタペタ


樹里「そんで、表面をなるべく滑らかに……
   こうすると、表面が割れずに、肉汁を閉じ込めやすくなるんだぜ」

凛「なるほど……」フムフム
386 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:43:16.66 ID:9H96sgaS0
ジューーッ…!

樹里「…………」

凛「……」チラッ


樹里「………………」ジューッ…


凛「……ふふ」

樹里「ん? どうした?」

凛「ううん、ごめん。すごく真剣な表情だな、って」

樹里「あ? あぁ、まぁ……一番大事な工程だからな」

樹里「焼き加減一つで、それまでの苦労が台無しになる事もあるし」

樹里「別に、自分用のズボラ飯だったら適当にガァーッてやってパパッと済ますんだけど、
   今回は一応、何つーか……」

凛「……」

樹里「凛に教えるんだし、ハンパはできねぇ、なんてな」
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:44:33.63 ID:9H96sgaS0
凛「……最近ハンバーグを研究してるの、プロデューサーが好きだから?」

樹里「まぁな。アイツ、何個入れてもペロリと食べやが…」

樹里「!! ……なっ!?!?」ドキッ!

凛「ふふっ」クスッ


凛「プロデューサー用のお弁当も、そうやっていつも真剣に作ってるんだ?」


樹里「〜〜〜〜!!!」カァーッ!

樹里「てんめぇ……! からかうんだったら教えてやんねーぞ!!」

凛「ごめんごめん」

樹里「ほらっ! 蓋っ!! 蒸し焼き!!」ガションッ!

凛「自分でやってるし」



樹里「……これしか」
388 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:45:46.06 ID:9H96sgaS0
凛「え?」


樹里「これくらいしか、ねーからな……アタシにできんの」

樹里「いつも世話になってんだし……」

樹里「ちゃんとすんの……何もおかしかねーだろ」


凛「……ごめん、そこまで言うつもりなかった」

樹里「ああ……いいよ」

凛「…………」

ジューーッ…


樹里「……っし、どうだっ!」パカッ!

ホカホカ…!

凛「! すっごく、良い匂い……!」

樹里「だろ? 後でソースも作んねーとな」ニカッ
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:46:53.72 ID:9H96sgaS0
凛「ほうれん草のゴマ和えと、厚焼き卵、筑前煮……」

樹里「あとはまぁ、こうしてサラダとかもあれば……
   ほら、何となくサマになんだろ?」スッ

凛「……すごいね」

樹里「何もすごくねーよ、筑前煮なんて途中端折ったしな」


樹里「んじゃ、食べようぜ」

凛「うん」

樹里・凛「いただきます」


パクッ

凛「…………」モグモグ

樹里「ど、どうだ……?」
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:48:17.97 ID:9H96sgaS0
凛「……聞くまでもないでしょ」ニコッ

凛「こんな美味しいハンバーグ、今まで食べたこと無い」


樹里「お、おう……ヘヘッ!」

樹里「まぁな!」ガツガツ!

凛(いい食べっぷり)

樹里「とにかくよ、大体覚えただろ?」

凛「うん……一人でやるのは、ちょっと大変そうだけどね」

樹里「いいんだよ、最初から上手くできるヤツなんかいねぇんだし」

樹里「そうだ! 夏葉や咲耶達にも、いつか教えてやってもいいかもな」

樹里「特に、夏葉は外食ばっかで自炊してる感じしねぇし、
   料理で見返してやるってのも悪かねぇ」ドヤァァ

凛(すっかり得意になってる……ふふ)クスッ
391 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:49:24.07 ID:9H96sgaS0
凛「今日はありがとう、樹里」

樹里「おう、また来いよ」

凛「うん」

凛「…………」


凛「……あっ、あの、さ」

樹里「ん?」


凛「私のプロデューサーも、好きなんだ……ハンバーグ」


樹里「へー……そうなのか」

凛「うん……さっそく明日、お弁当作ってみるね」


樹里(……って)

樹里(何でそんなのをアタシに言うんだよ!?)カァーッ
392 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:50:17.40 ID:9H96sgaS0
樹里「あ、えぇっと……なんだ……」ワシャワシャ

樹里「頑張れ、よ……?」

凛「……うん」


凛「じゃあ、またね」ガチャッ

樹里「おう」

バタン



樹里「…………」

樹里「なんか……急に腹、一杯になっちまったな……」
393 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:52:00.21 ID:9H96sgaS0
『……フフッ、智代子は本当にグルメへの造詣が深いんだね。
 ぜひ一度、ご教示賜りたいものだよ』

『そ、そんな大それたものじゃないよぅ、咲耶ちゃん。
 ただ食べるのが好きってだけで、あんまり自分じゃ作れないし……』

『そういう咲耶ちゃんだって、一人暮らしだよね?
 自炊したりするの?』

『私は、人並み程度と言ったところかな。
 威張れるほどの技量は持ち合わせていないさ』

『だが、もし智代子が来てくれるなら、最大限のもてなしをすると約束しよう。
 ちょうど今は、カツオが美味しい時期だ。実家から取り寄せて、寮の皆にも振る舞おうじゃないか』

『か、カツオ!? 魚の!? ひょっとして捌けるの、咲耶ちゃん!?』

『ああ』

『即答ッッッ!!!』


『そうだ! お料理といえば、私の友達にもすっごく上手な子がいてね?』
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:53:52.13 ID:9H96sgaS0
『へぇ。智代子をも唸らせるほどの腕前なのかい?』

『うんっ! 樹里ちゃ……ああいやいや』

『その子ときたら、凄いんだよ!
 お味噌汁一つ作るのだって、即席のじゃなくてちゃんとお出汁を丁寧に取って、すごく美味しくって』

『揚げ物だって、温度の見極めっていうのかな?
 ピタッ! ジュワーッ! という感じで、お加減バッチリなモノをパパッと作れちゃうの!』

『なるほど、手際が良いということか』

『そうっ! まさしくだよ!』

『そういったスキルは、普段の日常生活で行っていないと習熟できないものだ。
 とても家庭的な子なのだろうね』

『いやぁ、普段はメンドクセーなんて言って、あまり作ってはくれないんだけどね?
 私なんかはもうその子に胃袋掴まれっぱなしで』

『ふむ……そういう事なら、私が対抗馬として名乗りを上げても良いかな?』

『美食の姫にご満足いただけるよう、記憶に残る一皿を献上してみせよう、マイレディ』

『そりゃあ、カツオを目の前で捌かれたら忘れられないよねぇ』
395 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:55:17.37 ID:9H96sgaS0
――――――

――――


  う、ううむ……

「どうした、プロデューサー?」

  いえ、その……
  お腹が空いて、どうにも力が出ないようでして……

「何だか、アンパンのヒーローみてぇな言いぶりだな……」

「でも、今日はアタシ弁当作ってきてねーしなぁ」

  それは、困りましたね……



  プロデューサー、これ。

  えっ?


「おっ、それひょっとして弁当か? へぇー、やるじゃねぇか」

  明日作ってみる、って言ったでしょ?

「あぁ、そうだったな」
396 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:56:56.46 ID:9H96sgaS0
  うわぁぁ〜! このハンバーグ、すっごく良い匂い!

  はいっ! とても美味しそうです!

  樹里に教えてもらったんだ、作り方。

「よ、よせよ。いちいち言わなくていいだろ、そんなの」

  樹里ちゃんのハンバーグ!? わ、私にもどうか一口……!

  なるほど。これは私も食指が動いてしまうね、フフッ。

  ハンバーグってすごいのよ!


  ど……どう、プロデューサー?

  はい。とても美味しいです。ありがとうございます。

  そ、そう……ふーん。まぁ、良かったかな。


「何だよ。別にアタシが弁当作らなくても良かった、ってことか」

「二人とも、末永くお幸せに、なんてな」

  ちょ、ちょっと樹里! 変なこと言わないでよ。

「アハハハ」


――――

――――――
397 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:57:53.89 ID:9H96sgaS0
〜翌日〜

チュン チュン…


樹里「…………」ムクッ

樹里「……」ポリポリ


樹里(今日は久々に、あの夢を見なかったな……)

樹里(でも、なんか……代わりにすげーヘンな夢、見た気がする)


樹里「ふわぁ……」ノビー…


樹里「さて……今日も弁当作ってやっか」
398 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 22:58:44.51 ID:9H96sgaS0
ジューーッ…!

樹里「…………」ジュー…!

樹里「……」トントントン



樹里「………………」



樹里「…………」スッ

ポパピプペ


プルルルルル…


樹里「……あぁ、もしもし? アタシ。おはよう」

樹里「あのさ、プロデューサー」
399 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:00:11.89 ID:9H96sgaS0
樹里「悪ぃんだけど、今日は弁当作れねぇわ」

樹里「だから、適当に外で食うとか、してくんねーか?」

樹里「あぁ、買わなくていい……いや、分かんねぇけど。
   ほら、結構外食できそうなトコあるじゃん……そう、例えばの話、っつーか」

樹里「ああ……ごめんな、うん……それじゃ」

ピッ!


樹里「…………」


ポパピプペ

プルルルルル…


樹里「……あぁ、チョコ? あのさ」


樹里「良かったら今日、弁当作ってきてやるよ」
400 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:01:24.58 ID:9H96sgaS0
〜346プロ〜

武内P「…………」カタカタカタ…


未央「んー? あれあれぇ〜?」クンクン

武内P「な、何でしょうか、本田さん?」


未央「プロデューサーの鞄から、いつもの良い匂いがしませんなぁ」

未央「今日はジュリアン、お弁当作ってくれなかったの?」

武内P「は、はい……鋭いですね」

卯月「未央ちゃんの嗅覚は、これすなわち生への執着ですねっ」

未央「しまむー、ちょいちょいヒドいね!?」

武内P「とりあえず、これから出張する際に、どこか外で済まそうかと……」
401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:03:22.47 ID:9H96sgaS0
凛「プロデューサー、これ」

武内P「渋谷さん?」

凛「はい」スッ


未央「こ、これはまさか……!?」ワナワナ…

卯月「お弁当! 凛ちゃんお手製、ですか!?」


武内P「……これは」

凛「お昼ご飯、無いんでしょ?
  たまたま私、自分用に作ってきたんだけど」

凛「プロデューサーの方が、忙しいんだし……これ、あげる」

武内P「し、しかし……」

凛「いいからっ」ズイッ!

武内P「は、はい」

未央(何というパワープレー……!)
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:04:45.37 ID:9H96sgaS0
武内P「ありがとうございます、渋谷さん」

凛「……ッ」

凛「い、いいって……普通だし、美味しくないかも、だけど……」モジモジ

武内P「いえ、そんな事はありません。大事にいただきます」

凛「うん……」


卯月「えへへっ。凛ちゃん、何を作ってきたんですか?」

未央「そうだぞー? この未央ちゃんにも内緒にしおってからにー♪」ウリウリ

凛「うぇ、いや、あの……は、ハンバーグ?」

未央「それ、プロデューサーのバッチシ大好物じゃーん!」ヒューッ!


武内P「これは、期待せざるを得ませんね」ニコッ

凛「もうっ。からかわないで……!」
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:05:57.02 ID:9H96sgaS0
〜961プロ近くの公園〜

智代子「あーー、んっ!」ハムッ!

智代子「……んん〜〜〜〜っ!!」

樹里「いちいち大袈裟だなぁ、リアクション」

智代子「そんなこと無いって! すっごく美味しいよぉ、樹里ちゃん」キラキラ

樹里「まぁ、喜んでくれんのはありがてぇけどよ」


智代子「特にこのハンバーグ! 全然、お店屋さんに出せる味だよ!」

樹里「ヘヘッ、だろ? ソイツは自信あんだよなー」

樹里「昨日も凛に作り方教えてやってさ。喜んでくれたんだぜ?」

智代子「私も一緒に受けたかったなぁ、樹里ちゃんのお料理教室」


智代子「でも、何で今日は作ってくれたの? お弁当」
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:07:14.33 ID:9H96sgaS0
樹里「えっ? あぁ、いや……別に」ポリポリ

樹里「む、虫の知らせ、みたいな……」

智代子「虫の知らせ?」キョトン

樹里「あぁいや! 違う違う、今のナシ」ブンブン

樹里「まぁその……ほら、何だっていいだろ。気分だよ、気分」

智代子「へぇー、たまたまその気になってくれたってことかぁ」ウンウン

樹里「ま、まぁな」


智代子「何にせよ、こうして樹里ちゃんのお弁当食べれるなんて万々歳だし、
    どんどんその気になってくれて私は一向に構わんですよ、樹里ちゃんッ!」

樹里「まぁ、チョコくらい喜んでくれた方が作りがいがある、ってのはあるかもな」

智代子「でしょ?」

樹里「考えとくよ」スクッ
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:11:20.68 ID:9H96sgaS0
智代子「あれ? もう行くの?」

樹里「ああ、これからレッスンだからな」

智代子「レッスン……」

樹里「何だよ、練習は大事だろ?
   チョコだって、午後は夏葉や未央達と秘密特訓じゃねーか」

智代子「あ、はい! そ……そうだね、そうそう! 秘密特訓っ!」

樹里「何でそんなにキョドってんだよ」

智代子「いえ、何も他意は無いです、何も」ブンブン


智代子「あっ、ていうかお弁当箱、洗って返すね!」

樹里「いいって、アタシが持って帰る。ほら」スッ

智代子「そ、そう? ……ごちそうさまでした」

樹里「はい、お粗末さんでした」

樹里「アタシはこっちのがあるから今日は行けないけど、怠けんじゃねーぞ」

智代子「も、もちろんですとも……」

スタスタ…



智代子「……樹里ちゃん、まだ活動再開しないのかなぁ」
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:12:05.73 ID:9H96sgaS0
〜961プロ レッスンルーム〜

ガチャッ

樹里「お疲れ様でー、す……?」


武内P「あ……西城さん」

樹里「おう、プロデューサー」


樹里「……弁当、食ってたのか」

武内P「申し訳ございません」

樹里「謝んなよ、だから」



樹里「……それ、アンタが自分で作ってきたのか?」


武内P「いえ……」
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:13:01.79 ID:9H96sgaS0
樹里「だろうな」

樹里「…………」



樹里「その……他に担当してる、アイドルからの……か?」


武内P「……はい」



樹里「ちなみに、何が入ってたか……聞いてもいいか?」
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:14:22.65 ID:9H96sgaS0
武内P「そうですね」


武内P「ハンバーグと……」

樹里「…………」


武内P「ほうれん草のゴマ和えと、厚焼き卵……」

武内P「それと、筑前煮……野菜も、サラダなどが、入っていました」

武内P「大変美味しく、栄養バランスも良い、ありがたいものです」



樹里「………………」


武内P「? ……西城さん、いかがさ…」

樹里「よく分かった」

武内P「え?」
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:15:17.29 ID:9H96sgaS0
樹里「よく分かったと言ったんだ」


樹里「悪ぃが、今日は帰る。ちょっと……気持ちの整理っつーか」クルッ

武内P「さ、西城さ…」

樹里「来んなっ!!」

武内P「!?」


樹里「ちょっと…………一人にさせてくれ……」


ツカツカ…! ガチャッ

バタンッ!



武内P「…………西城さん」

武内P「まさか……?」
410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:16:47.88 ID:9H96sgaS0
〜346プロ近くのジム〜

卯月「ひぇぇぇ……つ、疲れました……」グッタリ

凛「いつも以上に、ハードだったね……」

未央「ぜぇ、ぜぇ……どう考えても、原因は……」


夏葉「さぁ、仕上げのダウンジョグに行くわよ!」バァーン!

夏葉「近所の川沿いまで往復5km、暗くなる前に終わらせましょう!」

咲耶「ま、まぁまぁ夏葉。
   今日のところは、整理体操くらいにしておくのはどうだろう?」

夏葉「それでもいいわよ。
   いずれにせよ、十分に時間をかけて筋疲労を取り除かなくてはね」


未央「283プロとの、合同レッスン……!」

卯月「夏葉さん、本当にストイック、なんですねぇ……」

智代子「」デローン

凛「智代子なんかもう溶けてるし……」
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:17:52.80 ID:9H96sgaS0
夏葉「全ては自分を律するところからよ」

夏葉「高い目標を達成するには、一瞬たりとも自分を甘えさせてはいけないわ」

未央「なつはしの人生哲学だねぇ」

智代子「それを強いられる身にもなってほしいよ、夏葉ちゃん……」

夏葉「ふふっ、智代子?」スッ

ツン

智代子「オウフ」

夏葉「だいぶ引き締まってきたじゃない。
   私の言った通り、食事メニューもちゃんと気を遣っているようね」

智代子「いやぁ……樹里ちゃんのお手製弁当が無かったら即死だったよぉ」

夏葉「樹里の?」

凛「……」ピクッ
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:19:34.17 ID:9H96sgaS0
夏葉「詳しく聞かせてもらえるかしら。
   今日のレッスン前に、あなたは何を摂取してきたの?」

智代子「わわっ!? な、夏葉ちゃん落ち着いて!
    偏食なんかほど遠い、極めて栄養バランスの良いぃお弁当だよ!」

智代子「ほらっ、写真! 皆も見てよ、すっごく美味しかったんだから!」サッ


未央「おおー」

卯月「うわあぁぁ……このハンバーグ、とっても美味しそうです!」キラキラ

咲耶「なるほど、智代子が舌を巻くわけだね」


凛(……当たり前だけど、私のよりも綺麗)


夏葉「あなたの言う通り、見る限りでは身体に悪いものでは無さそうね」

智代子「美味しいものは身体に良いんだよ!」

夏葉「あの子にこんなスキルがあったなんて、樹里も隅に置けないわね。
   今度、私にも教えてもらおうかしら」
413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:21:11.42 ID:9H96sgaS0
凛「うん。樹里もそう言ってたよ」

夏葉「あら? 凛は樹里の料理について知っているの?」

凛「昨日樹里に教えてもらったんだ、私。同じお弁当の作り方」


卯月「そうだったんですか!?」

未央「それ私達も誘ってよー、しぶりん!」

智代子「本当だよぉ! 何で凛ちゃんだけ!」

卯月・未央・智代子「ずーるーい! ずーるーい!」エッサ! ホイサ!

夏葉「十分元気じゃない、あなた達」


ヴィー…! ヴィー…!

咲耶「おや?」
414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:22:25.98 ID:9H96sgaS0
咲耶「このスマホは、凛のかい?」スッ

凛「ありがとう」


凛「…………!」ピクッ



 『外で待ってる』



凛(樹里……)


卯月「凛ちゃん、どうしたんですか?」

凛「ごめん、ちょっと先に行ってるね」スッ

未央「へ?」

ガチャッ

バタン
415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:35:57.56 ID:9H96sgaS0
スタスタ…


凛「……」スタスタ…

凛「…………」ピタッ



樹里「…………」



樹里「……今日は皆、秘密特訓してるモンだとばかり思ってた」

樹里「でも、秘密特訓ってより、むしろ……合同レッスン、って言った方がしっくり来るよな」


樹里「283プロと346プロの、合同レッスン……」


凛「樹里……」
416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:36:56.80 ID:9H96sgaS0
樹里「…………ッ」スッ

ツカツカ…!


ガッ!

凛「……ッ!」グイッ


樹里「てめぇ……!」ギリッ…!

凛「…………」


樹里「……そうじゃなければいいと思ってた」

樹里「だから……あの時聞くのが怖かった、ってのは認めるよ」

樹里「だけど、まさか……アイツも同じだったなんてよ……!」
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:38:14.74 ID:9H96sgaS0
凛「……薄々勘づいていたくせに」

樹里「あ?」

凛「だから、今日はお弁当、作らなかったんでしょ? “私のプロデューサー”に」

樹里「……ッ!!」グッ


凛「私が言ったんだ」

樹里「何……!?」


凛「私が最初に、樹里には秘密にしようって、皆に言ったんだよ」

凛「わざわざ都合の悪いこと、樹里に言うことなんか無い、って」

樹里「! ……」


凛「あの時打ち明けようと思ったのだって、
  智代子が復帰して、樹里の346プロに対する憎しみが薄れたのを見て取ったから」

凛「つまり、自分達に都合の良いように、私は樹里に接してきたってこと」
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:39:11.09 ID:9H96sgaS0
タタタ…!

未央「い、いた! あっ……!」

卯月「凛ちゃん……じゅ、樹里ちゃん!?」


咲耶「樹里……!」



凛「私は樹里を騙して、振り回した……それは言い逃れしないよ」

凛「何か文句ある?」

樹里「…………」



智代子「と、止めないと…!」ダッ

夏葉「待って、智代子」

智代子「ふぇっ!?」ピクッ


夏葉「…………」
419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:40:11.79 ID:9H96sgaS0
樹里「…………」

樹里「……ッ」グッ

パッ

凛「? ……え」


樹里「…………チッ」ワシャワシャ

樹里「あぁ、文句ならあるぜ」

樹里「凛らしくもねぇ……そうやってつまらねぇウソをつくの、やめろよな」

凛「……!」


樹里「……アタシに気づかせるためだったんだな」

樹里「おかしいと思ったぜ。何で急に、弁当作りを教えろなんて……」

樹里「それもプロデューサーのための……明日作るんだ、なんて、わざわざアタシに……」

凛「…………」
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:41:29.55 ID:9H96sgaS0
樹里「お前が誰かを騙すとか、そういう狡い真似、できるわけねぇだろ」

樹里「もう分かってんだよ……
   アタシに隠すよう言ったのは、プロデューサーだってことくらい」

凛「樹里……」


卯月「じゅ、樹里ちゃんっ!!」ダッ!

未央「あ、しまむ…!」


樹里「! ……卯月」

卯月「樹里ちゃん、待ってください!
   プロデューサーさんは、悪気があったんじゃないんです!」

卯月「いつだって、プロデューサーさんは私達みんなのこと、大事に思ってくれていて……!」

卯月「だから、樹里ちゃんを騙そうとか、そんな……そんな事なんかじゃ…!!」

樹里「あぁ、分かってる」


卯月「……ふぇ?」
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 23:42:29.50 ID:9H96sgaS0
樹里「曲がりなりにも、アタシだってアイツの担当アイドルだ。
   どんな考え方してるかくらい、少しは分かるよ」

樹里「だけど……筋は通してもらわねぇとな」


樹里「凛。プロデューサー、後であの公園へ連れてきてくれ」

凛「え?」



樹里「ついでにもう一つ」

樹里「動きやすい服装で来い、ってな」
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/02/20(月) 23:45:07.49 ID:9H96sgaS0
今回はここまで。
次回は明日の夜8時〜11時頃の更新を予定しています。
423 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/02/20(月) 23:45:32.37 ID:CUehpB+ho
424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 20:50:47.16 ID:sUxM0O3Y0
〜346プロ 常務室〜

美城「園田智代子をゲストに指名しただと? 283プロの?」

美城「即刻キャンセルだ。
   わざわざ格の低いアイドルを選んで共演するなど、デメリットでしかない」

『そ、それがもう、当初の候補だった人達も予定が埋まってしまって、
 今から調整は不可能でして……』

『それに、高垣楓さんがどうしてもと、強く要望されたそうなのです……
 せ、責任も、自分と346プロが取りますから、と……』

美城「……それほどに、か」


美城「話は分かった」

ガチャッ
425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 20:51:37.63 ID:sUxM0O3Y0
美城「…………」

美城(……然したる主体性など、有していないアイドルだと思っていた。
   波風を立てず、しかし持ち前のポテンシャルでなるべくして結果を得てきたものだと)

美城(しかし、高垣楓……
   私のプロジェクトへの参加を拒むばかりか、独断でそのような事を進めるなど)

美城「……!」ピクッ


カタカタカタ…

美城「園田智代子……あのオーディション」カタカタ…

美城「そして、その同伴者……」カタカタカタ…

美城「……西城樹里!」カチッ


美城(そして、ここ最近連続して発生している、業界人達の不可解な失脚……)

美城(先日、黒井祟男から聞き出した話の内容……)


美城「………………」



美城「そういうことか」
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 20:52:09.61 ID:sUxM0O3Y0
〜公園〜

スタスタ…

武内P「……そうでしたか」


凛「……ごめん」

凛「私が、勝手なことを……」

武内P「いえ……時間の問題だとは、考えていました」


未央「……ジュリアンたしか、こっちの方へ来い、って」

スタスタ…



卯月「ここは……バスケットコート?」
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 20:53:15.47 ID:sUxM0O3Y0
樹里「来たか」

武内P「!」クルッ


ダムッ!


未央「ジュリアン……?」


ダムッ!


卯月「……バスケット、ボール」


ダムッ

樹里「動きやすい服装で来い、っつったろ」ダム ダム …

武内P「…………」

樹里「まぁ、アンタらしいけどよ」スッ
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 20:54:17.56 ID:sUxM0O3Y0
夏葉「樹里……あまり乱暴はしちゃダメよ」

咲耶「どうか感情的にならないようにね」

樹里「この格好見て分かんねぇかよ? 大きなお世話だぜ」

智代子「う、うん……」


未央「さくやん達も、来てたんだ……」


樹里「おい、そこに立ちな」

武内P「……?」スッ

ザッ



樹里「アンタ、バスケの経験は?」
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:01:30.65 ID:sUxM0O3Y0
武内P「……学生時代に、少々」

樹里「ふーん、“少々”ね……」


樹里「……」ヒュッ

武内P「!」パシッ

武内P「あ、あの……西城さん、これは……?」

樹里「あ? 寝てんのか?」


樹里「1on1だよ。アンタとアタシ、10点先取だ」

武内P「……」

樹里「アンタが勝てば、何も文句は言わねぇ。このままアイドル続けてやる」

樹里「そのかわり、アタシが勝ったら……」


樹里「洗いざらい話してもらうぜ……アンタがアタシに隠していたこと、全部」
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:02:04.51 ID:sUxM0O3Y0
武内P「…………」


樹里「おら、ボール」クイッ

武内P「……」ヒュッ

樹里「……」パシッ

ダッ!

武内P「ッ!?」


樹里「……」キュッ!

ダムッ! ギュォッ!
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:03:42.24 ID:sUxM0O3Y0
武内P「む、お……!?」グラッ

武内P「ッ!!」ドテッ

樹里「……ッ」ダッ!

シュバッ!


パスッ…!


   テンッ テン テン テテテテ…


武内P「……!」


未央「あ、アンクルブレイク……!」

夏葉「からのレイアップシュート……見事なスピードとキレね」

卯月(か、カッコいい……)
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:04:31.80 ID:sUxM0O3Y0
樹里「フンッ」

スッ

武内P「…………」


樹里「アンタの番だぜ」


武内P「…………」ヒュッ

樹里「……」パシッ ヒュッ

武内P「……」パシッ


武内P「…………」ダムッ

ダムッ


樹里「……」ザッ


樹里「言っとくけど……
   女が相手だと思って、手加減なんか考えんなよな」
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:05:34.27 ID:sUxM0O3Y0
武内P「……」ダムッ

樹里「部活は中学で辞めてっけど、
   野良で男子連中に混ざってストバスやってた時期もあったんだ」

樹里「フィジカル頼りのパワープレーしか脳がねぇヤツなんざ、
   アタシにとっちゃカモなんだよ」

武内P「……」ダムッ


樹里「いや……アンタの場合、
   気に掛かるのは女というより、“担当アイドル”が相手、ってところか?」

樹里「なぁ、“プロデューサー”?」


武内P「……」ダムッ

ダッ!

樹里(来る……左っ!)ザッ!
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:07:35.44 ID:sUxM0O3Y0
武内P「……!」ギュッ!

ダムッ! バッ!

樹里(違う、ターンして逆か!)

樹里(デケぇ身体を背にしてアタシからボールを隠すように……!)

樹里(へっ、やっぱりフィジカルか! 甘ぇんだよ!!)キュッ!

ザゥッ!

樹里(シュートモーションに入る時にはゴールに正対せざるを得ねぇ……!)

樹里(アタシを躱せるかってんだよ!)


キュッ! ダムッ!

樹里(ここだっ! もらった!!)バッ!
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:08:45.21 ID:sUxM0O3Y0
サッ スカッ

樹里「!?」

キュッ! ブオッ……!


樹里「なっ……!?」

武内P「……」フワッ…

シュッ!


咲耶「フェイダウェイ……!?」


樹里「……ッ!」クルッ


パスッ


   テンッ テン テン テテテテ…


卯月「ぷ、プロデューサーさんもカッコいい……」

智代子「素人目でも、すっごい綺麗なフォームだったねぇ」
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:09:56.69 ID:sUxM0O3Y0
樹里(完全にマークを外された……あのバックステップのキレ味)

樹里(そっから飛んでシュートを打つまでの動作移行……体幹の維持)

樹里(しかも、あんな踏ん張りのきかなそうな革靴で……)


樹里(ふざけやがって、何が“少々”だ)


武内P「あなたの番です」スッ

樹里「……」ヒュッ

武内P「……」パシッ ヒュッ

樹里「……」パシッ

ダムッ


樹里「……そのガタイでトリックプレイとはな。恐れ入ったぜ」ダムッ

武内P「…………」

樹里「いや……トリックってほどじゃねーか。単にアタシの判断ミスだ」ダムッ
437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:11:43.30 ID:sUxM0O3Y0
樹里「だがなっ!」ダッ!

ダムッ! ダッ!

武内P「!」キュッ!

樹里(……と見せかけて右!)バッ!

武内P「……!」ザッ!

樹里(読まれたか! ヘッ!)キュッ! ダムッ!

樹里(織り込み済みだぜっ!!)ザォッ!

キュッ! シュバッ! 

武内「むっ!?」


樹里(こういうのはどーよ!?)グオッ!

シュッ!


夏葉「フックシュート!?」

凛(プロデューサー、出遅れた……!)
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:12:13.15 ID:sUxM0O3Y0
武内P「ッ!」バッ!

樹里「……な!?」


武内P「……むぅん!」ブンッ!


バチィンッ!!


樹里「うおっ!?」

ダンッ!


卯月「うひゃあっ!?」バシッ!


武内P「あっ! し、島村さんっ!」

未央「うっひょぉ〜〜……見事なハエ叩き」
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:13:05.76 ID:sUxM0O3Y0
武内P「も、申し訳ございません! お怪我はありませんか!?」

卯月「い、いえ、全然……」

武内P「……」ホッ


武内P「…………」チラッ


樹里「……タイミングを外したつもりだったんだけどな」

樹里「やるじゃねぇか。膝にバネでも仕込んでんのか?」

武内P「…………」


樹里「面白ぇ」ニヤッ
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:14:20.55 ID:sUxM0O3Y0
ダムッ! ダンッ!

樹里「うぉらぁぁ!!」グァッ!

武内P「うっ……!」


智代子「な、なにィ!?」

未央「出たぁー!! ジュリアンのダブルクラッチだァァーーッ!!」



武内P「フッ!」ダムッ!

樹里「くっ! うぉ!?」

シャッ! ザォッ!


夏葉「フェイント!?」

卯月「プロデューサーさんが二人になってます!!」

凛「いや、なってないから」
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:15:23.62 ID:sUxM0O3Y0
〜数十分後〜

樹里「うりゃ!」バチンッ!

武内P「ぐっ!」

テンッ テン テテテテ…


樹里「っし! ……ハァ……ハァ……!」

武内P「くっ…………はぁ……はぁ……」ガクッ


智代子「8対6……!」ゴクリ…


咲耶(……プロデューサーの動きに、精彩さが失われてきている)

咲耶(まして、樹里との接触を極力避けるプレースタイルを続けていては、
   明らかにプロデューサーの分が悪い)
442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:16:43.15 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……」ヒュッ

武内P「……」パシッ ヒュッ

樹里「……」パシッ

ダムッ

樹里「…………」ダムッ


武内P「はぁ……はぁ……」



智代子「プロデューサーさん……ひょっとして、樹里ちゃんに遠慮してるのかな」

夏葉「そうだとしても、どのみち体力面でのハンディキャップは否めないわね」

未央「現役アイドルな上に、バスケの腕も運動神経も抜群だよねぇ、ジュリアン」


凛「…………」
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:17:53.24 ID:sUxM0O3Y0
樹里「……」ダムッ

武内P「はぁ、はぁ……ッ」グッ


樹里「……」ダムッ

ダムッ! ヒュバッ!

武内P「く……!」

ガッ!

武内P「ッ!?」グラッ

樹里「……」ザゥッ!

キュッ!

シュッ


パスッ


樹里「……」スタッ


武内P「はぁ……はぁ……はぁ……!」
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/21(火) 21:18:43.25 ID:sUxM0O3Y0
夏葉「これで9対6……どうやら勝負あったようね」

卯月「プロデューサーさん……!」ギュッ


武内P「はぁ…………はぁ……」ググッ…


樹里「……気張ってみろよ」スッ

武内P「…………」

樹里「アタシに秘密を明かしたくねぇんならな」


武内P「……」ヒュッ

樹里「……」パシッ ヒュッ

武内P「……」パシッ


樹里「…………」ザッ
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