西城樹里「タケウチ」

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245 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:28:09.75 ID:LQd6uuhx0
テクテク…

樹里「なぁ、プロデューサー」

武内P「はい」

樹里「裏方とはいえ、あんな人と一緒の仕事なんて、よくセッティングできたな」

武内P「……」

樹里「ひょっとしてアンタ、業界ん中じゃすげぇプロデューサーなのか?」


武内P「スタッフの募集というのは、アルバイト等と同様に、相応に門戸が開かれています」

武内P「業界のツテを使って、若干名の枠を確保するのは、そう難しい事ではありません」
246 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:29:23.18 ID:LQd6uuhx0
樹里「ふーん、そういうモンか。まぁいいけどよ」


樹里「夏葉と対決するフェス……『サマードルフィン』とか言ったっけか。
   開催まで、2週間切ってるな」

樹里「アタシは勝つぜ、プロデューサー」

武内P「はい」

樹里「だけど……」

武内P「?」


樹里「あのさ……プロデューサー、アタシに笑顔でいろって、言ったよな?」

樹里「今のアタシに、笑顔になんてなれんのかな……」

武内P「…………」

樹里「楓さんみたいに、あんな……誰もが笑顔になれるステージ、出来んのかな」
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:31:00.71 ID:LQd6uuhx0
樹里「そりゃ、あんなハイレベルなステージを最初から目指すのは、身の程知らずだけどよ」

樹里「何か、自信なくしたっつーか……
   笑顔って、思ってたより難しいのかも知んねぇ、って、尻込みしちまうっていうか……」

樹里「心から笑えるような、そういうの……こんな薄っぺらなアタシに、届けられんのかな……?」


武内P「……」

樹里「あ、おい、今笑っただろ! ひょっとして馬鹿にしてんな!?」

武内P「え? い、いえ! そんな事は……!」


武内P「ですが、西城さん」

武内P「その難しさに気づけただけでも、大きな一歩であると、私は考えます」

樹里「……だと良いけどな」
248 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:32:06.00 ID:LQd6uuhx0
樹里「まぁ……今度のフェスではさ」

樹里「あまり、夏葉に仕返しをしてやろう、みたいなスタンスで望まねぇ方が良さそうだな」

武内P「はい」

武内P「共に頑張りましょう、西城さん」

樹里「うん」


樹里「……あれ?」ピタッ

武内P「? どうされましたか?」


樹里「あ、いや」

樹里「ちょっと……見覚えのある人影が見えた気がしてさ」

武内P「……そうですか」


樹里(凛達……それと咲耶、が一緒に歩いてるワケねーもんな)
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:33:55.55 ID:LQd6uuhx0
〜283プロ 事務所〜

夏葉「…………」スイッ


シャニP「なんだか、珍しい光景だな」

夏葉「プロデューサー……何が?」

シャニP「レッスンにも行かずに、夏葉が熱心にスマホと睨めっこをしている姿が、さ。
     よほど面白いものでもあったのか?」


夏葉「ふふ、ご明察よ」

夏葉「これを見てもらえるかしら」スッ

シャニP「?」


シャニP「346プロの、高垣楓……彼女のライブイベントの様子か」

夏葉「そう。咲耶がチェインで教えてくれたのよ」

夏葉「咲耶だけじゃないわ、ファンの人達の間でもSNS上で大騒ぎよ。
   たぶん本番前なのでしょうけど、高垣楓本人が突然路上に出て、会場周辺を歩き回っているって」

シャニP「しかもステージ衣装を着て、か……随分と派手な振る舞いをするんだな」
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:36:17.44 ID:LQd6uuhx0
夏葉「えぇ、本当に」

夏葉「でも、私が注目しているのは、高垣楓の方ではないの」スッ


シャニP「……この、子供を肩車している金髪の子」

シャニP「今度の『サマードルフィン』で夏葉がライバルと目しているという、あの子か。
     961プロの、西城樹里」

夏葉「見所があるでしょう?」

シャニP「ステージ上での姿を見れていないから、何とも言えないが……」

シャニP「確かに、他の子とは違う不思議な風格を感じる。
     賑やかに振る舞っているように見えるが……まるで、孤高の狼のような」

夏葉「孤高?」

シャニP「いや、勘違いだったらすまない。しかし……」

シャニP「961プロの西城樹里が、どうして346プロのトップアイドルと一緒にいるんだ?」
251 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:37:04.87 ID:LQd6uuhx0
夏葉「そう。そこなのよ」

夏葉「あの子の周りでは、いつもこうして不思議な事が起きている」

夏葉「きっと今度のフェスでも、新たな発見があるって思わない?」

シャニP「夏葉や咲耶の興味が尽きない理由が、分かった気がするよ」

シャニP「俺も業界関係者として、961と346の繋がりは無視できない。
     機会を見つけて、俺も少し調べてみよう」

夏葉「ありがとう。損はさせないと思うわ」

シャニP「ああ」
252 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:38:47.05 ID:LQd6uuhx0
〜ファミレス〜

卯月「紅茶、お好きなんですか?」

咲耶「事務所の仲間が、よく嗜んでいてね」

咲耶「早速だけど、本題に入ろうか」


凛「そうだね」

凛「まず、咲耶のことを教えて」

咲耶「おや。樹里ではなく、私に興味を持ってくれるとは、嬉しいな」

凛「そうやって人をからかうの、止めてもらえる?」

咲耶「からかってなどいないさ。だが……そうだね」


咲耶「確かに、まずは私に邪な意図が無いことを理解してもらった方が良さそうだ」

咲耶「改めて自己紹介をしよう。
   白瀬咲耶。まだ駆け出しではあるけれど、283プロでアイドルをしている」
253 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:41:13.97 ID:LQd6uuhx0
咲耶「アイドルになったきっかけは、スカウトだった。
   モデルの仕事をしていた時に、今のプロデューサーから声を掛けられてね」

未央「どうりでスタイル抜群なワケだよねぇ」ウンウン

卯月「モデルさんのお仕事姿も、見てみたいです」

咲耶「フフ、ありがとう」


咲耶「ただ私は、誰かを喜ばせる仕事がしたいと、常々思っていた」

咲耶「そのためにはモデルではなく、アイドルの方が適しているのではと思ってね」


凛「ふーん……咲耶にとって、アイドルは手段、ってこと?」

未央「ちょ、ちょっとしぶりん、言い方!」


咲耶「当初は、そのように考えていたのかも知れない。
   だが、今は違うよ」

咲耶「素敵な仲間達とプロデューサーに恵まれているおかげで、
   今はただ、アイドルという仕事が、楽しくて仕方がないんだ」

凛「…………」


咲耶「だからこそ、樹里のことが気になっている、とも言えるね」
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:42:55.91 ID:LQd6uuhx0
凛「え……?」

卯月「ど、どうして樹里ちゃんが気になるんですか?」


咲耶「危うい感情を感じ取ったからさ」

咲耶「憎しみというのは、アイドルには最も似つかわしくない感情だろう?」

凛「憎しみ……」


咲耶「繰り返しになるが、私はアイドルという仕事に出会えて良かった。
   仲間達との得難い絆の数々は、誇りと言っていい」

咲耶「だから、それを心から楽しめていないアイドルの存在が、どうしても気になるんだ」

咲耶「樹里のことを、頭ごなしに否定する気は毛頭無い。
   だけど……その背景や考えをより深く知り、必要とあらば、余計なお節介をしたいのさ」

咲耶「私が樹里に近づく動機は、ただそれだけだよ」
255 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:44:31.01 ID:LQd6uuhx0
未央「な、なんかさくやんってさ……」

咲耶「さくやん?」キョトン

未央「どんなにキザな事を言っても、ぜーんぶサマになっちゃうね」

卯月「はい……何だか、とてもカッコいいです」ポー…

咲耶「フフッ、褒め言葉と受け取っておくよ。
   卯月のような可憐な乙女を喜ばせることが出来たなら、お安い御用さ」バチコーン☆

卯月「う、うええぇぇぇぇっ!?」ドッキーン!

凛「卯月、顔赤くしすぎだから」


凛「なるほどね……樹里に抱いている気持ちについて、たぶん嘘が無いのは分かったよ」

咲耶「ありがとう」


凛「ただ、言葉足らずだよね」

凛「どんな経緯で樹里のことを知ったのか。
  どうして樹里が何かを憎んでるって、知っているのか」

凛「肝心な所を、まだ教えてもらってない」
256 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:45:46.69 ID:LQd6uuhx0
咲耶「凛は鋭いね」フッ

咲耶「もちろん、隠す気なんて無い。お答えしよう」


咲耶「凛達は、有栖川夏葉というアイドルを?」

未央「あっ、283プロの! さくやんと同じ事務所の人だよね」

咲耶「知っていたか。夏葉もきっと喜ぶよ」

卯月「有栖川夏葉さんが、どうかしたんですか?」


咲耶「彼女は実は、先日行われていた、
   346プロのアイドル候補生を決めるオーディションに参加していたんだ」


凛「……!」ピクッ

未央「! えっ……!?」

卯月「それって、つまり……本当は夏葉さんは、346プロに入りたかったってことですか!?」
257 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:46:58.08 ID:LQd6uuhx0
咲耶「そうなるね」

咲耶「しかも夏葉は、そのオーディションに合格していた」

咲耶「なのに、346プロには入らなかった……その意味が分かるだろうか?」


未央「え、えっ……何で受かったのに?」

卯月「……ひょっとして、合格を辞退した、ですか? どうして……」


咲耶「皆を前にして、346プロの悪口を言うつもりは無いのだが……」

咲耶「かのオーディションでは、審査員側で不可解な判定があったらしい。
   夏葉の言うことには、だけどね」


未央「えっ!?」

卯月「ど、どういう事ですか……!?」

凛「…………」
258 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:48:50.96 ID:LQd6uuhx0
咲耶「夏葉は致命的なミスをした。
   本来であれば、並み居る出場者を押さえてまで受かるはずが無いほどのミスだ」

咲耶「しかも、彼女の後に実演した子は、
   会場内の誰もが満場一致で合格を確信するほどの出来映えだったという」

咲耶「夏葉もまた、彼女の合格を信じて疑わなかった」


卯月「……なのに夏葉さんが、合格になって……」


咲耶「あれほど憤った夏葉を見たのは、後にも先にも、その様子を語った時だけだ」

咲耶「誇り高い分、ひどく心を傷つけられたのだろうね」

咲耶「もちろん、かの判定により、それまでの努力を反故にされた、その出場者も」

咲耶「そして……その子の周囲の人間も」

未央「……それがジュリアンと何か関係しているの?」


咲耶「私が夏葉からその話を聞いたのは、つい先日の事だ」

咲耶「それよりも少し前……とある日、私は283プロの社長に呼び出された」
259 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:51:29.18 ID:LQd6uuhx0
凛「社長から?」

咲耶「天井努という人だ。私達をよく気に掛けてくれる、面倒見の良い人でね」

咲耶「西城樹里について知ったのは、彼の話がきっかけだった」

凛「! ……」


咲耶「樹里は、346のオーディションで不条理に落とされた子の友人として、
   付き添いに来ていたらしい」

咲耶「だから樹里は、346プロを憎んでいる。
   引いては、アイドルそのものをも憎んでいるのかも知れない」


未央「だからプロデューサーは、346プロである事を隠せ、って……」


咲耶「そんな彼女を、天井社長は守ってほしいと私に言った」

卯月「守る……な、何から、ですか?」



咲耶「その前に、君達が樹里を気に掛ける理由を教えてもらえるだろうか」

咲耶「ここから先は、生半可な覚悟しか持たない者に話す事はできない」

咲耶「知ってしまったが最後、君達をも危険に晒す事になりかねないからだ」
260 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:52:57.36 ID:LQd6uuhx0
未央「ちょ、ちょっと……何だかすごく物騒というか、おっきな話になってきてない?」

咲耶「ああ。どうやら樹里を中心に、この業界は大きなうねりを見せている。
   おそらくは、私達が考えている以上にね」

卯月「そ、そんな……わ、私達はただ、樹里ちゃんと……!」

凛「いいよ」

卯月「え……」


凛「私達の事もちゃんと話さなきゃ、フェアじゃないよね。
  それに、今さら樹里を放っておくことなんてできない」

凛「上辺の話だけ中途半端に聞かされて、引き下がれっていうのも無理な話でしょ?」

咲耶「……」フッ


凛「そんな大それた事じゃないよ。私達が樹里を気に掛ける理由」

凛「友達でいたいから」

咲耶「友達?」
261 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:54:10.41 ID:LQd6uuhx0
凛「初めて……いや、正確には初めてではなかったけど……」

凛「公園で自主練している樹里を見た時、放ってはおけなかった」

凛「何でかは分からないけど、他人とは思えなくて……」


凛「それに……プロデューサー」

凛「私達のプロデューサーが、すごく面倒で、余計なリスクを抱えてまで、
  あの子の事、気に掛けているんだ」

凛「だったら余計、放っておけないよ」

咲耶「君達のプロデューサーが……」


卯月「詳しい事情は、まだ全然聞けてないんです。だけど……
   あのプロデューサーさんがそうまでするなら、私も協力したいなって」

未央「そうそう。せっかく他所の事務所に出来た最初のアイドル友達だもん!
   お互いもっと楽しくやれた方が、絶対いいでしょ?」
262 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:55:42.32 ID:LQd6uuhx0
凛「私が……私達が信じるプロデューサーが、放っておかない人がいる」

凛「余計なお節介を焼きたいのは、咲耶だけじゃないってこと」

咲耶「…………」

凛「そんな私達の覚悟は……生半可、ってことになるのかな」


咲耶「……いや。すまない」

咲耶「どうやら私は、凛達をみくびっていたようだね」ニコッ

凛「! それじゃあ……」


咲耶「だが、やはり話すことはできない」


卯月「えっ!?」

未央「何でさ!? そういう流れだったじゃん!」


咲耶「卯月。君はさっき、詳しい事情をプロデューサーから聞かされていないと言ったね」

咲耶「それならまず、君達のプロデューサーときちんと話をするべきだ。
   立場上の第三者である私から、より深い情報を引き出すのは、健全ではないと思うよ」
263 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:57:20.83 ID:LQd6uuhx0
未央「ぐぬぬ……!」

卯月「う、う〜ん……」

凛「……悔しいけど、それはそうだね」

咲耶「分かってもらえたようで、何よりだ」


咲耶「さて……そうなると、私から話せることも、これでおしまいという事になる。
   ご満足いただけたかな?」


凛「……満足はしてない、けど」

凛「咲耶がどんな人なのか分かった。今日話せて良かったかな」

咲耶「ありがとう。私も、凛達と親交を深めることができて、嬉しく思うよ」ニコッ

凛「ちょっとキザすぎるのが、たまにキズだけどね」クスッ

咲耶「ハハハ、きっと性分なのさ。どうか大目に見てほしい」

凛「卯月もずっと、目がハートマークだったし」

卯月「ええぇぇっ!? そ、そんな事ありま……本当ですか!?」

未央「否定しきれてないのが何ともだねー」ウリウリ

咲耶「フフッ」ニコッ
264 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:58:54.84 ID:LQd6uuhx0
咲耶「では、また会おう」クルッ

コツコツ…



卯月「た、立ち去り方もカッコいい……」

未央「見るからに芸能人ですよーって歩き方……あ、道行く人も皆振り返ってる」


凛「……未央、卯月、ごめん」

未央「へ? 何が?」

凛「実は、知ってたんだ、私……346のオーディションで、起こったこと。
  それと、樹里が346プロを憎んでるってことも」

凛「プロデューサーから、この間聞いてたんだけど……私も、信じられなくて……」


卯月「ううん、凛ちゃん」フルフル

卯月「凛ちゃんも私達を思っての事ですし、こうして皆で一緒になれたじゃないですか」

未央「うんうん!
   デッカい問題だけど、まずはそれを知れただけでオッケーだよしぶりん!」

凛「……ありがとう」コクッ
265 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:00:08.25 ID:LQd6uuhx0
凛「咲耶も言った通り、やっぱりプロデューサーと、ちゃんと話さなきゃ」

凛「ただ、プロデューサーは、全部を抱え込もうとしている。
  たぶん、樹里に対しても」

卯月「タイミングは、慎重に見計らった方が良いかも知れませんね」

未央「思った以上に混み入った話みたいだからねぇ……」


未央「でも、深入りしないワケにもいかないっしょ。ねぇしぶりん?」

凛「……うん」

卯月「えへへ、また咲耶さんとお話できるのが楽しみです」

凛「卯月が言うと、別の意味に聞こえるんだけど」

卯月「え、うええぇぇっ!? ち、ちが……ぇぅ……!?」アタフタ

未央「そうして墓穴を掘るしまむーなのであった」
266 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:00:56.08 ID:LQd6uuhx0
〜某所〜


「……そうか」

「そこまで彼女達に伝わった、ということだね」


「いや……いずれ分かることだ。ありがとう」

「私達が案ずるべきは、順序とタイミングだ」

「これから起こり得ることのね」



「千川君」

「君に頼みたい事がある」
267 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:12:42.19 ID:LQd6uuhx0
〜『サマードルフィン』当日〜


プルルルルル…



プルルルルル…



『現在、電話に出ることができません』

『ピーッという発信音の後に、お名前とメッセージを、録音してください』

 ピーッ


『……あ、もしもし、チョコ? ……アタシ。樹里だけど……』

『今度アタシ、フェスに出るって、メールしたよな?』

『サマードルフィンとかいう、夏葉と対決するっていう、そのフェスなんだけどさ……』
268 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:14:08.31 ID:LQd6uuhx0
『特別にさ、ネット配信、っつーのか? ……されるんだってよ。
 よくわかんねーけど、そういう、専用のリンクから見れるようになってるらしいんだ』

『IDと、パスワード?
 それと……アタシが出る大体の予定の時間、メールしといたからさ、その……』

『チョコにも、見てもらいたいんだ……それだけ』

『敵討ち、ってモンでもねーけど、その……夏葉には、勝とうと思ってる……ていうか、勝つ』

『……ごめんな、突然電話しちまって……それじゃあ』


 プッ



智代子「…………」

智代子「樹里ちゃん……」グスッ
269 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:14:45.58 ID:LQd6uuhx0
樹里「…………」ピッ


樹里「……よし」


武内P「そろそろ向かいましょう。ご準備の方は、よろしいでしょうか」

樹里「アンタこそ、植木の水やりやったのか?」

武内P「エナドリも、既に」スッ

樹里「あっ、そ」
270 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:15:58.35 ID:LQd6uuhx0
〜フェス会場〜

ガヤガヤ…! ザワザワ…!


樹里「お、いたいた。おーい」フリフリ

武内P「……」


未央「ジュリアーン!」フリフリ

凛「意外と落ち着いてるね」

樹里「今さらジタバタしたってしょうがねぇだろ」

凛「言えてる」フッ


卯月「あ、あわわわ……!」

樹里「逆に何で卯月が緊張してんだよ」

卯月「い、いええぇ、その! ええっと……!」アセアセ


卯月「こ、こちらの方が……樹里ちゃんの、ぷ、プロデューサーサン、ですよね?」
271 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:17:36.93 ID:LQd6uuhx0
武内P「はい」

武内P「西城の担当をしております、“961プロの”プロデューサーです」スッ

卯月「はひっ!? ど、どうも……」

未央「あーこれは、ご丁寧に名刺をどうも。ほほー、“961プロ”ねぇ」ウンウン

樹里「そっか……こんな強面のデカブツが来たんじゃ、卯月がビビるのも無理ねーよな」

卯月「え、えへへ……!」


凛「……」チラッ


武内P「……」コクッ


樹里「ところで……夏葉、見なかったか?」

卯月「えっ?」

樹里「あぁ、そっか悪ぃ。そもそも夏葉の顔を知らね…」


夏葉「来たわね、樹里!」バァーン!

未央「うわぁっ!?」ビクッ

樹里「相変わらずいちいちうるせぇな」
272 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:19:53.79 ID:LQd6uuhx0
夏葉「今日のために、我ながら熾烈な特訓を重ねてきたわ。
   私の方から啖呵を切った手前、お粗末な姿を見せるわけにはいかないもの」

夏葉「無論、あなたもそうでしょう?
   互いにその成果を存分に発揮して、最高のステージとしましょう、樹里」

夏葉「もちろん、その上で私が勝つわよ!」ビシィ!


樹里「……」ポリポリ

夏葉「? どうしたの樹里、ひょっとして体調不良かしら?」

樹里「何でもねーよ」


樹里(なんか……あんまり悪い事ができるようなヤツには見えねぇな)

樹里(いちいち憎らしく思うのが、馬鹿馬鹿しくなってくるぜ、ったく)


咲耶「やぁ、樹里」スッ


凛「……!」ピクッ

卯月「あっ! ……さ、咲耶さん」
273 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:21:02.82 ID:LQd6uuhx0
樹里「アンタも来てたのか。まぁ、同じ事務所だしな」

咲耶「ああ。悪いけれど、今日の私は夏葉の味方だ」

樹里「何も悪かねぇだろ」


未央(こ、これマズくない!?)

卯月(咲耶さんの口から、私達が346プロだって言われたら……!)ハラハラ


樹里「って、卯月達は咲耶のこと知ってるみてぇだけど、面識あんのか?」

卯月「ひぃぃっ!?」ビクゥ!

樹里「な、何だよ」


咲耶「仕事の縁で、ついこの間知り合ったんだ。
   お互い、駆け出しのアイドルと言うことで、親交を深め合っていこうってね」
274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:22:47.81 ID:LQd6uuhx0
樹里「アンタってこう、台詞がいちいちナンパくさいっつーか、キザだよな」

夏葉「咲耶の良い所よ。喜んでくれたなら何よりだわ」

樹里「褒めたつもりはねーんだけど……」ポリポリ


未央(ま……免れた!?)

卯月(咲耶さん、うまくボヤかしてくれた……?)

凛(…………)


タタタ…

シャニP「夏葉、先ほどエントリーを済ませてきた」

夏葉「ありがとう、プロデューサー」

シャニP「とりあえず本番まで……?」チラッ


武内P「……283プロのプロデューサーの方、ですね?」

シャニP「あなたは……」

武内P「私は、こういう者です」スッ
275 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:24:00.31 ID:LQd6uuhx0
シャニP「……なるほど、あなたが西城樹里さんの……」

シャニP「申し遅れました。283プロのプロデューサーです。
     本日は、ウチの有栖川がお世話になります」スッ

武内P「こちらこそ。本日は、どうかよろしくお願いします」

シャニP「えぇ。お互い、良いフェスにしましょう」


未央「へえぇぇ、オトナな応対だねぇ」

咲耶「アナタの違った一面を見れて、少し得をした気分だよ」フッ

シャニP「な……咲耶、それはどういう意味だ?」

夏葉「もちろん悪い意味ではないから、心配しなくていいわよ?」ニコッ

シャニP「お手柔らかに頼むよ、そういうのは……」ポリポリ


樹里「……あっちのプロデューサーは、結構フレンドリーな感じなんだな」

武内P「む……し、失礼しました」

樹里「謝んなっつーの」

凛「……」クスッ
276 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:25:20.30 ID:LQd6uuhx0
武内P「ところで、有栖川さんは、これから本番までどうされますか?」

夏葉「咲耶よろしく、樹里と親交を……と言いたい所だけど」

夏葉「生憎、私には強敵を前にして気分転換に勤しむほどの余裕は無いわ。
   最終調整は入念に行いたいから、そろそろ失礼しても良いかしら」

樹里「強敵、ね……喜んでいいのか?」

夏葉「あなたさえ良ければね」フッ

樹里「ヘッ! 後で吠え面かくんじゃねーぞ」ニヤッ


咲耶「バックヤードに手頃な場所があった。行こうか、夏葉」

夏葉「ありがとう、咲耶。助かるわ」

夏葉「ではまた、本番で会いましょう」フリフリ

樹里「ああ」

シャニP「それでは、一旦失礼致します」ペコリ

スタスタ…
277 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:26:46.02 ID:LQd6uuhx0
樹里「……アタシも、ボサッとしてらんねぇな」

武内P「練習用のスペースなら、あちらに用意しております」

樹里「凛達も来てくれ。出来を見て欲しい」スタスタ

卯月「は、はいっ!」


未央(すっごい気迫……!)

凛(私達の素性なんて、気にされる心配は無さそうだね)



スタスタ…

咲耶「どうだい、プロデューサー? 実際に樹里に会ってみての感想は」

シャニP「ああ、良い目つきをしていたよ。今から本番が楽しみだ」

夏葉「あら、出番を控える担当アイドルが隣にいるのに、浮気性ね?」

シャニP「そ、そういう意味で言ったんじゃないぞ!?」

夏葉「ふふ、冗談よ」ニコッ


シャニP「ただ、西城樹里よりも、あのプロデューサー……」

咲耶「? 彼がどうかしたのかい?」
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:27:14.42 ID:LQd6uuhx0
シャニP「いや、気のせいかも知れないが……」

シャニP「彼とよく似た人を、346プロで見かけた気がするんだ」
279 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:28:07.66 ID:LQd6uuhx0
〜フェス本番〜

ザワザワ…


武内P「西城さんの出番は、有栖川さんの後になります」

樹里「……ああ、知ってる」


樹里「…………」


武内P「……有栖川さんのステージを、見に行かれますか?」

武内P「ご覧にならず、ご自分のステージに集中するという選択肢もございますが」



樹里「……アンタは、どうしたらいいと思う?」

武内P「えっ?」
280 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:30:20.62 ID:LQd6uuhx0
樹里「アイドルとしての成長を考えるんなら……
   見に行って、何でも吸収しに行った方がいいんだろうな」

樹里「でもアタシは、勝てればいい」

樹里「ただ、勝ちさえすれば……それで、当面の目的を果たせるなら……」


樹里「……そう思ってた。だけど」

樹里「本当に、そうなのかな……」

武内P「…………」


樹里「なぁ、プロデューサー……アイドルに、勝ち負けってあんのか?」


武内P「……難しい質問です」

武内P「今回のフェスについて言えば、審査員がおり、
    より多くの得票を得たアイドルが、勝者となります」

武内P「ですが、敗者となったアイドルにもまた、
    このフェスが、新たなファンを生むきっかけとなる事もあるでしょう」

武内P「果たしてそれを、一概に敗北と断じる事ができるでしょうか」

樹里「…………」
281 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:31:49.41 ID:LQd6uuhx0
武内P「アイドルとは本来、優劣を競い合う類のものではないと、私は考えます」

武内P「なぜなら、アイドルにとって最も重要なものは、個性であるからです」

樹里「……前にも似たような事言ってたな、アンタ」

武内P「はい。それぞれの個性が放つ事のできる輝きがあり……」

武内P「二つと同じ星が無いのと同じように、それらは決して比べるものではありません」

樹里「……星、か」


武内P「有栖川さんには、有栖川さんの輝きが……」

武内P「そして、西城さんには西城さんだけが持つ輝きがあります」

武内P「どうか、私にそれを見せていただきたい。
    たとえ西城さんにとって、アイドルが目的を果たすための手段に過ぎないとしても」

武内P「あなたの歌とダンスに魅了された方々が抱く感動に、嘘はありません」
282 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:32:51.98 ID:LQd6uuhx0
樹里「……要は、アタシの気の持ちよう次第ってことか?」

武内P「少々、乱暴なまとめ方とは存じますが……」ポリポリ

樹里「言うじゃねぇか、でも」

樹里「アンタのそういうトコ、嫌いじゃないぜ」ニヤッ

武内P「西城さん……」


樹里「見ておくよ、夏葉のステージ」スッ

樹里「勝ち負けは別にして、あれだけ大口叩いてたヤツのステージには、興味もあるしな」

武内P「……はい」ニコッ
283 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:33:41.59 ID:LQd6uuhx0
〜ステージ〜

ワアァァァァァァァ!!!

夏葉「〜〜〜! 〜〜!♪」キュッ! タンッ タタン!

夏葉「〜〜〜〜〜! 〜〜〜!♪」タッ! タン タンッ!

ワアアアアァァァァァァァァァ!!!!



卯月「うひゃあぁぁ……!」

未央「こ、こんな人がいたなんて聞いてないよぉ……
   ジュリアン大丈夫かなぁ、しぶりん?」

凛「…………」

未央「ちょ、沈黙が一番怖いってしぶりん!」

凛「ご、ごめん。でも……こんなにハイレベルだったとは、思わなくて……」

凛(この人が、346プロのオーディションを……)
284 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:34:39.44 ID:LQd6uuhx0
夏葉「皆ありがとう! これからも、この有栖川夏葉をよろしくね!」フリフリ

ワアアアァァァァァァァ!!!! パチパチパチ…!!


未央「終わった……すっごかったなぁ」

卯月「この後に樹里ちゃんの出番なのに……まだ会場がザワついています……!」

凛「…………」



フッ


オオォォォ…!? ザワザワ…!


凛「暗転した……!」

未央「いよいよジュリアンの出番……目一杯盛り上げなくっちゃね!」

卯月「はいっ!」ギュッ!



ワアァァァァァァァ……!!
285 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:35:22.47 ID:LQd6uuhx0

 西城樹里 【 1st Call 】


286 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:37:13.36 ID:LQd6uuhx0
  私のこといちばんに
  呼んでくれていたのね


ワアアアァァァァァァァ!!!


  選ばれたら一瞬の 期待も裏切らないよ
  さあ 声をあげて
  誇らしいと感じてね きみの名前を冠に
  そう こたえている


未央「ジュリアン……頑張れ……!」

凛「……樹里」

卯月「そう、その調子です……」ハラハラ…!



タン タッ タンッ! タンッ キュッ! タタンッ!

樹里「〜〜〜♪ 〜〜〜〜!♪」

タッ タタンッ! タンッ タタン!

樹里「〜〜〜〜!♪ 〜〜〜!♪」
287 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:39:46.67 ID:LQd6uuhx0
夏葉「…………」

咲耶「なんて鋭い……それでいて、情感溢れるダンスと歌声だろう」

咲耶「息つく暇も無いとはこの事だね。釘付けになってしまう」

シャニP「……なるほど。夏葉が見込んだわけだな」


咲耶「どうだい、夏葉? 好敵手と見定めた樹里のステージは」

夏葉「……そうね」


  もしCenterで燃えつきたら 墜ちてしまうかも
  こわくなるのは同じ
  どれ位許せるのかを 考えてみたの
  きみをもっと許せる きみももっと許せる
  でも私は自分で 自分のこと許せない


樹里「〜〜〜!♪ 〜〜〜〜〜!♪」

タタンッ タンッ  キュッ! タッ タンッ!


夏葉「不思議ね……とても誇らしい気分よ」フッ

咲耶「夏葉の目に狂いは無かった、ということかな?」

夏葉「あなたにとっても、でしょう? 咲耶」

咲耶「ああ」
288 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:40:47.82 ID:LQd6uuhx0
  奈落に沈んで しゃがみこんだ時
  名前呼ぶ声が 突き抜けて聴こえた
  暗闇の中 結ばれていく
  ひと筋の光へと 手をのばした


樹里「〜〜!♪ 〜〜〜!♪」

樹里(……このまま)タンッ タタンッ

樹里(このまま、最後まで……!)キュッ タタンッ タン!



樹里「……ッ!?」ギクッ



凛「……?」

未央「あ、あれ?」

卯月「今、な、なんだか……」
289 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:41:56.77 ID:LQd6uuhx0
樹里「……ッ!」

樹里「〜〜〜〜!♪ 〜〜〜!♪」タッ タン! タタン



シャニP「……ほんの一瞬ではあった、が」

夏葉(表情が、曇った……?)


  宿命的に最高を 更新していく
  生まれ変わり続ける
  今一緒にいて欲しいんだ わがままなくらいに
  ちょっとじゃ足りない全然 嫉妬も加味して超然
  セットリストや視線 完全に伝わってる


樹里「〜〜〜!♪ 〜〜〜!♪」タン! タッ タン!

樹里「〜〜〜〜〜!♪」タタン タッ! ザンッ!



ワアアァァァァァァ!!!!


樹里「はぁ……はぁ……はぁ……!」

樹里「……ありがとうございました!」ペコリ

ワアアアアァァァァァァァ!!!! パチパチパチ…!!
290 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:42:56.20 ID:LQd6uuhx0
コツ… コツ…

樹里「…………」コツ…



武内P「西城さん」

樹里「……プロデューサー」


武内P「お疲れ様でした。素晴らしいステージでした」



樹里「……正直に言えよ」

武内P「西城さん……?」


樹里「夏葉に敵うステージじゃなかった、って」
291 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:44:06.16 ID:LQd6uuhx0
武内P「……目立ったミスはありませんでした」

武内P「それどころか、これまで行ってきたどのレッスンよりも、良い出来だったと思います」



樹里「気づいてるはずだぜ、アンタには」

樹里「ラスサビに繋ぐ、一番盛り上げるシーンで……一瞬、動き止まってたろ、アタシ」


武内P「……繰り返しになりますが、ミスとカウントすべきほどのものでは…」

樹里「心にもねぇこと言ってんじゃねぇよっ!!」

武内P「!」


樹里「……ッ」グッ

武内P「さ、西城さん……」
292 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:44:57.89 ID:LQd6uuhx0
コツ…

樹里「……!」ハッ



夏葉「…………」

咲耶「お疲れ様、樹里」



武内P「有栖川さん、白瀬さん……」

樹里「……何だよ」



夏葉「……まずは結果を待ちましょう。話はそれからよ」
293 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:45:43.95 ID:LQd6uuhx0
樹里「……ああ」


夏葉「……」クルッ

咲耶「また後で会おう」スッ

シャニP「……」ペコリ

コツコツ…



樹里「…………」

武内P「彼女達の言う通りです。さぁ、西城さん」

樹里「分かってる」スッ

ツカツカ…



武内P「…………」
294 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:46:37.03 ID:LQd6uuhx0
ザワザワ…!

卯月「い、いよいよ結果発表です……!」ハラハラ

未央「うぅぅ……何だか、自分の時以上にドキドキしちゃうよぉ……!」ソワソワ


凛「……贔屓目抜きに、二人は誰が勝つと思う?」

未央「へっ? い、いやぁ……たぶん、ジュリアンかなつはしのどっちかだとは思うけど……」

卯月「ど、どちらが良かったか、って言われても……そのぉ……」モジモジ


凛「……私は、夏葉さんだと思う」

卯月「えっ!?」
295 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:47:36.82 ID:LQd6uuhx0
凛「…………」

未央「し、しぶりん……」



卯月「……あっ! 結果が!!」

凛・未央「!」


オォォォ…!



咲耶「……!」

シャニP「これは……」

夏葉「…………」



武内P「西城さん……」
296 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:48:23.90 ID:LQd6uuhx0
 【 1位  西城樹里 】



樹里「……え」

武内P「おめでとうございます、西城さん」ニコッ


ワアアアァァァァァァ!!!! パチパチパチ!!!


樹里「あ、アタシ……」

武内P「さぁ、ステージへ」


樹里「…………うんっ」
297 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:49:49.95 ID:LQd6uuhx0
ワアアアアァァァァァァァ!!!!


未央「あっ、ジュリアン出てきた!!
   イェーーーイ!!! ジュリアーーン、優勝おめでとーー!!」ヒューヒュー!

卯月「樹里ちゃん、よく頑張りましたー!! 本当にすごいです!
   ねっ、凛ちゃん!?」

凛「うん……!」


凛(でも……何だか、表情がパッとしないような……?)



夏葉「……負けた、わね」パチパチパチ

咲耶「ああ。でも、夏葉も素晴らしかったよ」パチパチ

夏葉「ええ……それでも、樹里には敵わなかった」フッ

シャニP「時の運、というものもある。
     決して見劣りするものではなかったと、今日来てくれたファンも分かっているさ」

シャニP「また次を頑張ればいい。俺達にできない事ではないはずだ」

夏葉「……ありがとう、プロデューサー」コクッ
298 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:50:38.54 ID:LQd6uuhx0
シャニP「ただ、優勝した当人は……?」

夏葉「…………」

咲耶「ステージ上の樹里……まだ自分の勝利が信じられない、というようにも見えるね」

夏葉「……それだけではない気がするわ」

夏葉(一生懸命、笑顔で応じているようにも見えるけれど……樹里)



樹里「あぁ、いえその……あ、アタシなんかが、っていうか」

樹里「いえ、すっげぇ、じゃなくてあの、すごい嬉しいです!
   すみません、応援ありがとうございます!」

パチパチパチパチ…!!!



夏葉(あなた……ひょっとして何か……?)



武内P「…………」
299 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:52:13.93 ID:LQd6uuhx0
ザワザワ…

樹里「……ふぅ、やっとひと段落ついたか」

武内P「お疲れ様でした、西城さん」

樹里「本番よりも、その後のセレモニーとかインタビューみてぇなヤツの方が疲れたぜ」

武内P「致し方の無い事です」

樹里「そりゃ分かるけどよ」ポリポリ…


卯月「樹里ちゃーーん!」タッタッタッ


樹里「おー、卯月! 未央と凛も、今日はありがとな」フリフリ

未央「ううん! こちらこそ、すっごい良いステージだったよぉジュリアン!」ダキッ!

樹里「うぉわっ!? お、コラッ、いきなりやめろってそういうの!」


凛「……樹里、お疲れ様」

樹里「凛。へへッ、なんつーか……まだ信じらんねーよ」
300 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:53:18.53 ID:LQd6uuhx0
凛「じゃあ、樹里が実感できるまで、私達がたくさん言ってあげないとね」

卯月「はいっ! 樹里ちゃん、優勝おめでとうございます!」

未央「ジュリアンおめでとー!」

樹里「だからいいってそういうの!」

武内P「おめでとうございます、西城さん」

樹里「アンタまで言うんじゃねぇよ!!」

凛「ふふっ」


コツ…


未央「……あっ」



夏葉「樹里、優勝おめでとう」


卯月「夏葉さん、咲耶さん……」

樹里「……ああ」
301 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:54:56.79 ID:LQd6uuhx0
武内P「プロデューサーは、どちらへ?」

咲耶「先に車で待っていると」

武内P「そうですか」

咲耶「浮かない顔をしているね、樹里」

樹里「…………」

武内P「西城は、先ほどまで関係者への応対により、拘束されておりましたので」

咲耶「なるほど。お疲れというわけか」


夏葉「生憎だけれど、これからはもっとハードなスケジュールになるわよ、樹里」

夏葉「このフェスの優勝を機に、あなたにはきっとたくさん仕事が舞い込んでくるわ。
   これまでとは比較にならないほどのね」

夏葉「弱音を吐いてるヒマなんか無いわよ。しゃんとしなさい! ねっ?」ニコッ


樹里「……アンタは、どう思ってるんだ?」

夏葉「何が?」

樹里「今日の結果だよ」

樹里「アタシは……夏葉が勝つと思ってた」

卯月「じゅ、樹里ちゃん……」
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:56:23.94 ID:LQd6uuhx0
夏葉「もちろん、私が勝つと思っていたわ!」ドヤッ!

樹里「……!」

夏葉「でも、結果は樹里の勝ち。私はそれを受け入れるだけよ」

夏葉「だから、あなたも胸を張りなさい」


樹里「あの時は受け入れなかったクセにか?」

夏葉「あの時?」

樹里「346のオーディションの結果に抗議をした時だよ」

夏葉「……!」ピクッ


樹里「あの日のアンタの気持ち、よく分かるぜ……」

樹里「どうしても……納得ができねぇ。皆、ごめん……!」スッ

未央「あ、ちょっ、ジュリぁ…!」

スタスタ…!

夏葉「待ちなさい、樹里」
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:57:36.23 ID:LQd6uuhx0
樹里「! ……」ピタッ


夏葉「約束を果たすわ。あなたへの非礼を詫びると」

夏葉「智代子を想うあなたの決意を侮辱して、ごめんなさい、樹里」スッ


樹里「……アンタって、呆れるほどに真っ直ぐで真面目だな」

樹里「アンタが本当に、不正を仕向けた有栖川家の人間なのか、分からなくなるぜ」

夏葉「そう……それについても、あなたに話をする必要があるわね」

樹里「えっ?」


夏葉「あのオーディションから帰った後、父に問い質したの」

夏葉「どうして、己が実力を346プロに認めさせる機会を私から奪ったのか、とね。
   すると父はこう答えたわ」
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 22:59:27.11 ID:LQd6uuhx0
夏葉「何の事だ、と」


樹里「……何だって?」クルッ


夏葉「彼は……私の父は、346プロオーディションの存在すら知らなかったのよ。
   もちろん、それに私がエントリーをしていた事も」

夏葉「これがどういう意味か、分かるかしら」


樹里「アンタの親父は……不正に関わっていなかった?」


夏葉「この話を信じるかどうかは、あなたの自由よ。
   私も、有栖川家の人間だものね」

夏葉「でも、私は……私だって、あの一件をずっと許していない者の一人」

夏葉「何より、会場内の誰にも文句を付けられないだけの実力で、
   合格を勝ち取ることの出来なかった自分自身にも」

夏葉「いずれにせよ、智代子を傷つける結果を招いた責任が、私にもある事に変わりは無いわ」
305 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:00:45.96 ID:LQd6uuhx0
樹里「…………」

凛「樹里……」


樹里「……少し、考えさせてくれ」スッ

スタスタ…



卯月「オーディションの件……樹里ちゃんも、心の整理は難しいですよね」

武内P「……それもあるでしょう。ですが、それ以外にも……」

未央「今日のステージの出来も、ジュリアンの中で満足いってなさそうだったよね」

夏葉「…………」


咲耶(単に、自分のステージに納得していないだけのようには見えなかった)

咲耶(346プロへの私怨だけでなく、どうやら樹里自身、何かを抱えているようだ)

咲耶(それを明かしてくれる日は、果たして来るだろうか……)
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:02:16.59 ID:LQd6uuhx0
スタスタ…

樹里「……クソッ」

樹里(悪ぃ事、言っちまった……夏葉や、皆にも)

樹里(…………)



  ――樹里ー! パスパース!

  ――えへへっ! やっぱり樹里がいれば安心だねっ!

  ――私の代わりにポイントガードを任せられるの、樹里しかいないよー!



  ――なぜ、あんな無謀なスリーを打った?


樹里「……ッ!!」

ガスッ!


樹里「いちいち、思い出してんじゃねぇよ……!」

樹里「…………ッ」
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:03:02.21 ID:LQd6uuhx0
「樹里ちゃん……」


樹里「……!?」クルッ



智代子「……樹里ちゃんっ」



樹里「なっ……ちょ、チョコ!?」

智代子「樹里ちゃん!」ダッ

ダキッ!

樹里「うわっ!」


樹里「チョコ……か、会場に来てくれてたってのか!?」
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:04:19.94 ID:LQd6uuhx0
智代子「樹里ちゃぁん……!」グスッ

智代子「すごく……ひっ、ぐ、す……すっごい、カッコ良かったよぉ……!!」ポロポロ

智代子「キレイで……きま、う、うっ、キマッ、てて、キラキラで……!!」

智代子「うあぁぁぁあぁ……!!」ギュゥ…!


樹里「チョコ……」

樹里「あ、アタシはただ……その……えっと」ポリポリ


 ――あなたの歌とダンスに魅了された方々が抱く感動に、嘘はありません。


樹里「……チョコに、届いて良かった」

智代子「ぇ……?」

樹里「チョコのために、アタシは……アイドルやってた」


樹里「だから……チョコに喜んでもらえたなら、良かったよ」

樹里「良かった、って……今、やっと思うことができたぜ。チョコのおかげでさ」
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:05:35.19 ID:LQd6uuhx0
智代子「樹里ちゃん……!」ジワ…!

樹里「あーもう、泣くなって。ほら、鼻かめよ、ティッシュいるか?」

智代子「樹里ちゃあんっ!!」ブワワッ

樹里「わあぁぁっ!? や、止めろって、アタシの服べちゃべちゃになるだろ!」

智代子「樹里ちゃん、そんなこと言うのズルいよぉ!! うわぁぁぁん!!」ジュルジュル


樹里「……へへ、ったく」

樹里「誰のせいだと思ってんだよ、アタシがこうして身体張ってんの」

樹里「チョコもさ……やらねーわけにはいかねぇだろ?」ニカッ

智代子「うん……うんっ……!」

樹里「……世話かけさせやがって」ナデナデ



夏葉「……智代子」
310 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:08:17.38 ID:LQd6uuhx0
凛(あの子が、樹里の……そっか)

卯月「二人とも、とっても幸せそうです」


咲耶「あの智代子に前を向いてもらう事が、樹里の目的の一つだった」

咲耶「その目的は、達成されたと見て良いだろうか?」

未央「何言ってんのさくやん、あれ見てよ。そうに決まってるじゃん!」

夏葉「樹里の満足げな表情がその証拠ね。さっきとは大違い」ニコッ

咲耶「フフ、そうだね」


凛「これでひとまず、一件落着……かな」

武内P「……今はただ、そうである事を願いましょう」

凛「うん……それと、さっき夏葉さんも言ってたけど、
  このフェスで結果を残した事で、樹里もこれからどんどん有名になる」

凛「そうなれば、しばらくは樹里を危ない目に遭わそうとする人達も、
  容易に手出しが出来なくなる……そうだよね、プロデューサー?」



武内P「……はい」
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:09:43.42 ID:LQd6uuhx0
〜会場外 961プロ リムジン車〜

黒井「何の用かと思えば、ノコノコと……」

黒井「そんな事を貴様に教える筋合いなど無い!」

シャニP「で、ですが……!」


???「では、私から話そう」

シャニP「えっ?」

黒井「何ッ!? 貴様、何を勝手な……!」


天井努「いずれ分かる事だ。
    それに、この男は余計な行動をする者ではない。私が保証しよう」

シャニP「しゃ、社長……」

黒井「……フンッ」


天井「お前の目した通り、あの男は346プロのプロデューサーだ」

シャニP「! ……で、ではどうして、彼は961プロのプロデューサーだと?」

天井「961プロのプロデューサーでもある、という事だ。
   その理由については、まだ明かす事はできない」
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:11:25.97 ID:LQd6uuhx0
天井「だが、来るべき時が来るまで、あの男と西城について深入りはせず、
   しかし注意深く見守る必要がある」

天井「お前にも、その役割を担ってほしい。頼まれてくれるな?」


シャニP「……分かりました。今日は、これ以上お伺いすることはしません」

シャニP「ですが、いずれ何らかの形で、私にも事情を明かしていただくことを願います」

天井「すまない、苦労を掛ける」

シャニP「いえ……では、失礼致します」ペコリ

スタスタ…



黒井「……フンッ!」

黒井「あの西城樹里とかいうガチャ蠅……
   346のプロデューサーが妙な動きをしているから、泳がせてみたが」

黒井「どうやら面倒な事になりそうだな。
   金と手間を惜しまず、さっさと潰せば良かったという訳か」

黒井「私とした事が、目測を見誤るなど……」


天井「フッ……いい加減、青臭い事を言うのはよせ」

黒井「……何だと?」ピクッ
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:14:09.00 ID:LQd6uuhx0
天井「確かに、我々はそう夢を見てはしゃぐような歳でもないが、
   そうして斜に構えるのは貴様の悪い癖だ」

天井「真っ直ぐに光を見出す若者の背を押すのは、大人の役目だと思うが?」


黒井「貴様……よくもそんな甘っちょろい事を言えたものだ、この私に。
   青臭いのはどちらかね」

天井「さぁな。しかしこれだけは言える」


天井「このフェスを機に、アイドル業界は大きなうねりを見せるだろう」

天井「そして、“何者か”があの男や西城に行動を起こすような事があれば、
   私も静観する事はできなくなる」

黒井「…………」

天井「懸命な判断を期待する。ではな」ガチャッ

バタンッ



黒井「……ナマイキな事を。私を牽制するつもりか」

黒井「夢、か……」

黒井「夢だけで食える業界など無い。だから我々のような者達がいる。
   そう……だからこそ、まだまだ続けていかねばならんのだ」

黒井「346プロとの“契約”だけはな」
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 23:18:18.82 ID:LQd6uuhx0
今日はここまで。
今後、2/20〜24まで、夜の8時〜11時頃を目標に100レス程度ずつ更新していければと思います。
 ※時間は前後する可能性があります。
 ※最終更新予定の2/24(金)は170レス程度になる見込みです。
315 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2023/02/20(月) 00:31:52.84 ID:bHNPXj6H0
統一教会スパイクタンパクISISは、正当に選挙されたスパイクタンパク会における代表者を通じて行動し、ウクライナとウクライナの子孫のために、諸スパイクタンパクISISとの協和による成果と、わがスパイクタンパク全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権がスパイクタンパクISISに存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそもスパイクタンパク政は、スパイクタンパクISISの厳粛な信託によるものであつて、その権威はスパイクタンパクISISに由来し、その権力はスパイクタンパクISISの代表者がこれを行使し、その福利はスパイクタンパクISISがこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。ウクライナは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
統一教会スパイクタンパクISISは、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸スパイクタンパクISISの公正と信義に信頼して、ウクライナの安全と生存を保持しようと決意した。ウクライナは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐるスパイクタンパク際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。ウクライナは、全世界のスパイクタンパクISISが、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
ウクライナは、いづれのスパイクタンパク家も、自スパイクタンパクのことのみに専念して他スパイクタンパクを無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自スパイクタンパクの主権を維持し、他スパイクタンパクと対等関係に立たうとする各スパイクタンパクの責務であると信ずる。
統一教会スパイクタンパクISISは、スパイクタンパク家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
316 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:39:22.06 ID:9H96sgaS0
――――――

――――


『というわけで、スタジオには90年から2000年代初頭の懐かしのアイテムをご用意しました〜』

『いやー、お父さんお母さん世代にはたまらないものばかりかと思うのですが、
 さてこの中で夏葉ちゃんが見たことあるものってありますか?』

『そうですね……たまごっち?
 あ、あとガラケーも知ってるわ。私の両親が昔使っていて。触ってもいいですか?』

『はい、もちろん!』

『なるほど、こっちに二つ折りの……え? あ、あらっ!?』バキッ!

『あ、ああぁ〜〜〜!?』

  >草ァ!
  >筋 肉 論 破
  >この子いつも筋肉で全てを解決してんな
  >今時のコ達ってガラケー見たことないんか?
  >これもうノゲイラだろ
  >台本って可能性もあるけど、夏葉ちゃんだからなぁww
  >パパのも折ってそう(確信)
317 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:41:16.67 ID:9H96sgaS0
 【アイドル界の新星! 283プロ『有栖川夏葉』のストイックな魅力に迫る大特集18ページ】

 【老若男女に大人気! 283プロ白瀬咲耶、商店街食べ歩きイベントで神対応 辺りは騒然】

 【トリオユニットの新基準! 346プロ ニュージェネレーションズに密着取材! \ガンバリマス!/】





カタカタカタ… カタカタ…


 【●●プロのアイドル◇◇、不審死を遂げた交際相手の俳優■■と口論する音声が流出】

 【死亡の前夜か? 「死ね」と連呼するアイドル◇◇の肉声 不審死との関連について】


  >文秋砲キターーー!!
  >これマジでヤバすぎやろ、シャレにならなすぎるわ


「待って! 待ってよ!!
 彼を失った上に、何で……何でこんな事を言われなきゃいけないのよ!?」

「こんなひどい事、私言ってない!! 言ってないのに……!!」
318 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:43:01.38 ID:9H96sgaS0
  >普通に殺人やん
  >納得だわ、この間共演してた時も明らかに仲悪そうだったしな
  >キモい擁護してたオタクども息してるかー?


カタカタ… カタカタ…


  >引くほどブチギレてる声で「死ね!」連呼してて草も生えない
  >こんなメンヘラと付き合ってりゃ、そら病むわ……
  >やっぱ自殺かぁ、伸びしろある俳優さんだったのに、本当に可哀想

「違う!! 違うっ!! こんなの全部ウソなのにっ!!」


カタカタ… カタカタカタ…


  >コイツが死ねば良かったのにな


「!!」

「イヤアアアァァァァァァッ!!!」


カタカタカタ…





武内P「………………」
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:44:56.27 ID:9H96sgaS0
〜346プロ 事務室〜


カタカタカタ… カタカタ…

武内P「…………」カタカタ…


ガチャッ

ちひろ「お疲れ様です、プロデューサーさん」

今西「毎日、ご苦労なことだね」

武内P「いえ……お疲れ様です」

つ エナドリ

武内P「……」グビッ


ちひろ「最近のニュージェネレーションズの三人、凄いですね。
    この間始まった新番組、業界人からの評価も高いみたいですよ」コトッ

武内P「ありがとうございます」
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:47:10.09 ID:9H96sgaS0
ちひろ「それと、283プロの有栖川夏葉ちゃんと、白瀬咲耶ちゃんも大人気ですね。
    テレビで見ない日は無いくらい」

武内P「彼女達は、346プロのアイドル達にも負けない、強烈な個性を持っています。
    かつ嫌味が無いため、メディア受けも良いのだと思われます」


武内P「そして……同じく283プロの、園田智代子さん」


ちひろ「先日デビューしたばかりですが、既に業界の中でも注目度は高いですね。
    復帰を熱望していた人達も多くいたみたいです」

武内P「それだけ、大きな事件だったということでしょう」

ちひろ「はい……」

今西「…………」
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:48:16.75 ID:9H96sgaS0
武内P「それ故に、安堵しています」

武内P「園田さんの実力であれば、埋もれる事は考えられません。
    そしてそれ以上に、彼女は……西城さんの心残りの一つでした」

武内P「それが払拭された事は、私にとっても喜ばしい事です」

ちひろ「はいっ」


ちひろ「ただ……」



武内P「……西城さんには、大きな目標がもう一つあります」

武内P「これが達成されない限り、彼女の心が真に晴れる事はありません」


今西「それは、トップアイドルになることではなく、という事かね?」
322 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:49:11.18 ID:9H96sgaS0
武内P「…………」


ちひろ「961プロの、西城樹里ちゃん……」

ちひろ「先日の『サマードルフィン』で、夏葉ちゃんを押さえて一位になり、
    注目度は智代子ちゃん達以上に高い子です」

ちひろ「それなのに、あれ以来表舞台には姿を見せず、目立った活動も公にされていない」

ちひろ「アイドルファンの間では、引退の噂すら囁かれているほどです」


ちひろ「……プロデューサーさんは、どうお考えになりますか?」


武内P「…………」


ちひろ「……失礼します」スッ

ガチャッ バタン…
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:50:32.27 ID:9H96sgaS0
武内P「…………」


今西「……そうそう。君に一つ、伝えておくことがある」

武内P「美城常務のこと、でしょうか?
    新しくアイドル事業部に着任された」

今西「さすが、察しが良いね」


今西「君のプロジェクトの、渋谷凛君」

今西「彼女もまた、常務の新規プロジェクトへのお声がかかる見込みだ」

武内P「……!」

今西「何、そう構える必要は無いよ。
   直ちに今動いているプロジェクトにメスを入れることが無いよう、私も説得している」

武内P「……ありがとうございます」


今西「だが……あくまで“直ちに”は無い、という話だ」

今西「今後、業績不振に陥るプロジェクトがあれば、その限りではないだろう」


今西「意地悪な言い方にはなるが……
   たとえば、我が事務所以外のアイドルに構うばかりに、“本来業務”が疎かになるプロデューサーの……」
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:52:22.53 ID:9H96sgaS0
武内P「!! ……ッ」

今西「私とて、このような事を言いたいわけではない。
   西城樹里君のことは、私も気にかけてはいる……しかし、だ」

今西「この先も彼女を匿い続ける事は、相応のリスクを抱える事になる。
   我が社だけでなく、君にとっても、彼女にとっても。あらゆる意味でね」

今西「だから、一応の警告だけはさせてほしいんだ。すまない」


武内P「……美城常務は、私の素性をご存知でしょうか?」

今西「いや。おそらく美城会長は、961プロとの“契約”の話まではご息女に引き継いでいないだろうね」

今西「だが、彼女は聡明だから、遅かれ早かれ気づくだろう。
   そして同時に、とても高潔な人だ」


武内P「私の存在そのものを、リスクと捉える可能性も考えられる……と?」


今西「時代は移り変わる」

今西「昔のような仕事の仕方は、もう、必要とされなくなるだろう」

今西「黒井社長ともいずれ、今後の“契約”の在り方について、見直すべきかも知れないね」


武内P「…………」
325 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:55:18.79 ID:9H96sgaS0
〜夜 某公園〜

タンッ タタン! タン…!

夏葉「はい、1、2、3、4……!」

未央「5、6、7、8! っと……どう、なつはし!?」

夏葉「良く出来ていたわ。でも、少し無駄な動きが多い気もするわね」

未央「えっ、ウソ!?」ギクッ


咲耶「快活さ溢れるエネルギッシュなダンスは、未央の大きな魅力の一つだ」

咲耶「多少の精度を気にするより、今の元気なベクトルを伸ばしていく方が、
   私は、未央には良いと思うよ」

未央「わーい! ありがとう、さくやん!
   何でも褒めてくれるのすごく嬉しいよー!」ダキッ!

咲耶「おっと。フフッ、未央は本当に感情表現が素直だね」ナデナデ
326 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:56:49.03 ID:9H96sgaS0
卯月「それにしても、なつはしってあだ名は……」

夏葉「私は別に気にしてないわよ、卯月」

夏葉「確かに、京都の八ツ橋みたいとは思ったけれど、
   八ツ橋自体は何もネガティブな印象を持ち得ないもの」

凛「それは、そうなんだけどね」


シュババババッ!

智代子「だ、誰か今、八ツ橋の話しなかった!?」ザッ!


卯月「うひゃあっ!? ち、智代子ちゃん!」

凛「誰もしてないから、ほら、練習再開しようか」

智代子「そんな……てっきり夏葉ちゃんがお土産で持ってきてくれたんだとばかり……」ガクッ

夏葉「そんなに欲しいなら、今度取り寄せておくのもいいわね。
   京都で懇意にしている老舗のお店があるの」

智代子「ほ、ホントに!?
    どうかお願い! 修学旅行以来ずーっと食べてないから無性に恋しくって!」
327 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 20:58:39.81 ID:9H96sgaS0
夏葉「ええ、いいわよ。そのかわり……」スッ

ツンッ プニッ

智代子「オウフ」

夏葉「約束したメニューを、しっかりこなしてからでないとね?」プニプニ

夏葉「私の計算上は、あなたのお腹はもっと引き締まっているはずなのだけれど、
   これはどういう事かしら」プニプニプニ

智代子「ち、違うんだよ夏葉ちゃん、これには深いワケが……」オロオロ


樹里「こらあぁっ、チョコ!!」


智代子「ひぇっ!? じゅ、樹里ちゃん!」ドキッ

樹里「アタシと一緒にランニングするって約束だったよなぁ!?」

樹里「そもそも自分一人だと意志が強く持てないから一緒にやってくれ、って、
   チョコの方がアタシに頼んだってのに、おま…!」

智代子「樹里ちゃん! 樹里ちゃんごめんだからあんまり夜騒ぐと近所迷惑だよ!」
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:00:34.43 ID:9H96sgaS0
樹里「ったく、復帰した途端に怠け癖を身につけやがって」

樹里「それとも、以前頑張ってた時も、アタシの見てない所で菓子食いまくってたのか?」

智代子「つ、疲れた時の糖分摂取は、それなりに……」

樹里「カロリー制限しろよな!」

智代子「ひぃっ!」ビクッ


未央「まぁまぁジュリアン、その辺にしてあげたまえよ」

卯月「智代子ちゃんも、悪気があるわけではないですし」

樹里「いーや、甘やかしちゃダメだ」

樹里「何しろアタシ達には、もっとデッカい目標があるんだからな」

咲耶「目標?」


樹里「346プロの不正を公表すんだよ」

樹里「誰も潰すことが出来ないくらい、もっと有名になった上でな」

凛「……!」
329 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:01:52.33 ID:9H96sgaS0
夏葉「……樹里」

智代子「じゅ、樹里ちゃん、それはいいよ。
    ほら、私も夏葉ちゃんも、こうして無事にアイドルをやれてるんだし、あの事はもう…」

樹里「自分達さえ良ければ、それで満足かよ?」

智代子「え……」


樹里「あの後だって、346プロは同じような事を何度もしてる可能性だってあるじゃねーか」

樹里「チョコ達と同じ苦しみを誰かに味わわせるような真似を、
   見過ごすなんてアタシには出来ねぇし、何より……」

グッ…!

樹里「何より、それを平気で行う346プロの腐った性根が気に入らねぇ」ググ…!

樹里「それが当然だと思ってんなら、大きな間違いなんだ、って……
   アイツらには思い知らせてやらなきゃだろ」
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:02:48.48 ID:9H96sgaS0
卯月「じゅ、樹里ちゃん……」

咲耶「…………」


樹里「だから、アタシは妥協したくねぇ」

樹里「まだまだ夏葉や咲耶達には及ばねぇけど、いつかは追いついて、
   もっと上の舞台で活動できるようになってやるんだ」

樹里「凛達も、夏葉達に負けないように、一緒に頑張ろうな!」


凛「う、うん……」

樹里「アハハ、何だよ気のない返事だな」

未央「あは、アハハ……」

卯月「…………」


凛「…………」
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:04:01.02 ID:9H96sgaS0
――――


凛『樹里に言うから。私達が346プロだってこと』

武内P『……!』ピクッ


凛『安心して。プロデューサーの事は、まだ言わないでおくよ』

凛『正体を明かすのは、あくまで私と未央と卯月の三人だけ』


武内P『……そうですか』

凛『止めないんだ?』

武内P『これ以上、ニュージェネレーションズの活動を西城さんに隠し続けるのは、
    限界だと考えます』

武内P『渋谷さん達と西城さんとの交友関係にも、支障をきたすでしょう』

凛『……ありがとう』
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:05:37.33 ID:9H96sgaS0
凛『でも……プロデューサーは、どうするの?』

凛『まだ、樹里には秘密にし続けるの……?』


武内P『……私が身分を偽って自分に近づいたことを、西城さんが知れば、
    彼女の私に対する疑念は深まります』

武内P『私の素性は……明かす事はできません』


凛『もし、ニュージェネレーションズと樹里が、一緒の仕事をすることになったら?』

武内P『……ッ』

凛『プロデューサーは、どっちのプロデューサーとして来るつもりなの……?』


武内P『…………』


凛『もう、やめようよ』

凛『智代子が立ち直って、アイドルになれた事で……
  きっと樹里も、346プロに対する憎しみは薄れてる』

凛『一緒の仕事をする事になったとしても、全部知られていた方がお互いに気が楽でしょ?』

凛『だから…』

武内P『私の』


凛『え?』
333 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:06:55.34 ID:9H96sgaS0
武内P『私の本来業務は、何なのでしょうか……』


凛『……何の冗談のつもり?』

凛『私達と樹里、皆をトップアイドルにするために、プロデューサーがいるんでしょ』


武内P『……そう、ですね』

武内P『そうであるよう……努めてまいりたいと、思います』スクッ

凛『ちょっと、プロデューサー!』

武内P『失礼致します。
    まだ私の事は、西城さんには明かさないよう……』

凛『待って!』

スタスタ…



凛『プロデューサー……どうしちゃったの……?』


――――
334 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:08:37.18 ID:9H96sgaS0
テクテク…

未央「あ、ねぇねぇジュリアン! あっちバスケットコートあるよ」

樹里「あん? ……あぁ」

未央「今度バスケやろうよ!
   私もバスケ部の助っ人やってた時あったから、少しは自信あるんだー」

卯月「あっ、良いですね! 樹里ちゃんのバスケ姿、見てみたいです!」

樹里「んー……気が向いたらな」

未央「何だよー、中学までやってたんでしょ−?
   気の無い返事だなージュリアーン」ウリウリ


凛「……じゃあ、私と樹里はこっちだね。また今度」

咲耶「ああ。お互い忙しくなってきた身だけれど、この秘密特訓は可能な限り続けていこう」

夏葉「場所を変えるのも良いかも知れないわね。
   近くに手頃なジムが無いか、調べておくわ」

智代子「お、お手柔らかに……」ゲッソリ


未央「おやすみー!」フリフリ
卯月「おやすみなさーい!」


樹里「おー……」
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:20:01.70 ID:9H96sgaS0
テクテク…

凛「樹里ってさ……エゴサって、しないの?」

樹里「エゴサ?
   ……あぁ、ネットとかで自分のことを調べたりするヤツか?」

凛「うん」


樹里「プロデューサーから、そういうのは一切すんなって言われてる」

樹里「余計なことを知って、アタシが傷ついたり、変に影響されたりすると良くないってさ。
   ちぇっ、ガキみてーな扱いしやがって」

凛「でも、一応守ってるんだ?」

樹里「まーな。他のアイドルの事とか見たり調べたりすんのもやめろ、って」

樹里「西城サンには西城サンの輝きがあって、
   余計な色が付くとそれが失われてしまうんだと。ハンッ」

凛「…………」


樹里「でもまぁ……曲がりなりにも、アタシのプロデューサーだから?」ポリポリ

樹里「一応、守ってやらねー事も、ねーかな、っていう……」
336 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:22:07.52 ID:9H96sgaS0
凛「……そっか」

樹里「……悪ぃな。変な話、しちまって」

凛「ううん」フリフリ


テクテク…

凛「……バスケ」

樹里「あん?」

凛「樹里は、あまりやりたくないの?」

樹里「別にそういうワケじゃ……」


樹里「……いや」クシャクシャ

樹里「正直に言うと、な」

凛「そう……」

凛「ごめんね。未央も、悪気があった訳じゃないから」

樹里「知ってるよ。いちいち謝んなって、未央の分まで」

凛「…………」


樹里「? どうした。さっきから、なんか元気ねぇな」
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:23:05.05 ID:9H96sgaS0
凛「……あ、あのさっ」

凛「まだ、言ってなかったよね……私達の事務所」

樹里「……!」ピクッ


凛「今までずっと言えなくて、ごめん」

凛「でも、やっぱり言わないままにしておくの、良くないと思うから……」

凛「だから…!」

樹里「凛」

凛「え……?」


樹里「アタシがバスケをやりたくない理由、どうしてだと思う?」
338 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:24:10.20 ID:9H96sgaS0
凛「樹里……?」

樹里「答えは『教えてやれねぇ』だ」

樹里「今は、な」

凛「…………」


樹里「アタシも、凛達には言えない秘密を抱えてる」

樹里「だから凛も、無理にアタシに言い辛いこと、言わなくていい」

樹里「お互い、そういう風にしとこうぜ、な?」ニカッ


凛「……樹里」

凛「少し、幻滅したかも」

樹里「……何だと?」ピクッ
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:25:53.76 ID:9H96sgaS0
凛「それ、樹里が言いたくない事を言わないためのダシにしてるよね?
  私が事務所について言わない事を」

樹里「! ……」

凛「樹里がそうやって、自分の都合の良いように相手を利用するなんて、思わなかった」

樹里「そ……そんなつもりで言ったんじゃねぇよ!
   勝手にアタシのこと斜めに見んな!」

凛「じゃあ聞かせてよ。
  どうして私達の事務所について知りたくないのかを」

樹里「な、う……!」


凛「私は別に、樹里がバスケをしたくない理由なんて、あえて聞きたいと思わない。
  見返りや交換条件なんて抜きに、ただ私が樹里に打ち明けたいだけ」

凛「どう? 樹里に断る理由ある?」

樹里「…………」


凛「私達のことを……私を、怖がらないでよ、樹里」
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:27:32.07 ID:9H96sgaS0
樹里「…………」

樹里「アタシ、こっちだから……じゃあな」スッ

テクテク……



凛「…………樹里」


凛「……」スッ

ポパピプペ


プルルルルル…


『やぁ、凛。
 君から連絡をもらえるとは、先ほどまでの疲れが嘘のように心が軽くなる思いだよ』

凛「電話出る度に毎回それ言うの?」


凛「あのさ……相談したいことがあるんだ。聞いてくれるかな」

『……樹里のことか』

凛「できれば、夏葉にも」
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:29:24.53 ID:9H96sgaS0
〜346プロ〜

コツコツ…

美城常務「確認すべき社内の福利厚生施設はこのくらいか」コツコツ

役員「は、はい。左様で」


美城「このエステルームやサウナの稼働率は?」

役員「へっ!? あ、はい、あの……!」パラパラ

役員「年間の利用率ですと、およそ40%程度と…」

美城「では解体だ」

役員「……え?」


美城「アイドル達の福利厚生、パフォーマンス維持に十分に寄与しているとは言えない施設を盲目的に維持し、
   いたずらにランニングコストばかりを掛けるのは非効率だ」

美城「年間の半分も機能していない施設のために、我がアイドル事業部が投入すべき予算など無い。
   解体し、撤去したスペースには別の利活用を考える必要がある」
342 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:31:15.22 ID:9H96sgaS0
役員「で、ですが!
   突然この施設が利用できなくなったら困るアイドル達も大勢いるのでは…」

美城「近隣には類似の民間施設も大勢ある。
   利用する際の費用を活動経費の中で都度工面した方がロスも少ないし、利用実態の把握や予算管理も明瞭で容易だ」

役員「そ、そうだとしても、解体・撤去して新しいものを導入するにも相応のコストが掛かります。
   設備の面でも、定常的に運転させておいた方が維持管理上有利でして…」

美城「であるならば、客観的かつ定量的なデータを添えて、
   新しい施設の導入よりも現状維持が経済比較上有利である旨を私に示すことだ」

美城「猶予はいくらか与えるが、私は気が長い方ではない」

役員「う……!」


美城「我がアイドル事業部は、346プロ社内でも歴史ある部門とは言えない。
   そして事業の性質上、世情の動静には細心の注意を払う必要がある」
343 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:36:54.70 ID:9H96sgaS0
美城「今は会長の期待を寄せられているかも知れないが、次年度に同じだけの予算がつく保証など無い。
   目立った業績を挙げられずに漫然と無駄な支出を重ねていれば、なおさらだ」

美城「そのためにも、極力無駄を省き、
   捻出した予算をより時宜を得た高効率な事業へとフレキシブルに投入する必要がある」

役員「そ、それは、仰る通りですが……」

美城「我々が築いている城は、決して将来を約束された盤石なものではない。
   対外的にも、社内的にもだ」

美城「それが分かったのなら、君の仕事を果たしたまえ」クルッ

役員「……はい」


コツコツ…
344 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/20(月) 21:38:04.02 ID:9H96sgaS0
〜常務室〜

ガチャッ

美城「…………」


今西「やぁ。こんな時間まで大変だね」


美城「もうお帰りになられているものかと」バタン

今西「まぁ何、話があるらしいと、事務の千川君から聞いたものだから」

美城「……お気遣いをいただいたようですね。今、コーヒーを」コツコツ

今西「ああいや、お構いなく。君は常務なのですから」

美城「…………」


スッ

美城「……では、用件を」ギシッ

今西「アハハ、実に端的な人だ」ポリポリ

美城「この職責に、無駄にすべき時間などありません。それで」
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