西城樹里「タケウチ」

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145 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 16:41:26.91 ID:LQd6uuhx0
冬馬「待機、って……もしかして、落ちた時にキャッチしろってのかよ!?」

北斗「それ以外無いだろ?」

冬馬「上等だぜっ!!」



子供「ううぅぅ……もうダメぇーー!!! うああぁぁ……!!」ボロボロ

母親「ああぁ! たっくん!! しっかりして!!」


武内P「くっ……!」タタタ…!


翔太「ダメだ……くっそぉ、間に合えぇぇ!!」



子供「う、あっ、あぁ……!」プルプル


ズルッ
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 16:42:20.26 ID:LQd6uuhx0
?
樹里「あっ……!」

武内P「!!」

翔太「間に合わな…!」


タタタ…!

シュバッ! ガシッ!

子供「ふぇ……?」





???「はぁ……はぁ…………フフ、間に合って良かった」


子供「……おねえ、ちゃん」



白瀬咲耶「ケガは無いかい?」ニコッ
147 :>>146の修正 [saga]:2023/02/19(日) 16:43:44.94 ID:LQd6uuhx0
樹里「あっ……!」

武内P「!!」

翔太「間に合わな…!」


タタタ…!

シュバッ! ガシッ!

子供「ふぇ……?」





???「はぁ……はぁ…………フフ、間に合って良かった」


子供「……おねえ、ちゃん」



白瀬咲耶「ケガは無いかい?」ニコッ
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 16:45:50.59 ID:LQd6uuhx0
冬馬「……あの女」

北斗「翔太とは逆方向から駆け寄って、廊下の手摺を乗り越えて手を伸ばした」

北斗「あの体格で、あの身のこなし……」


グイッ

咲耶「ふぅ……よく頑張ったね。もう大丈夫さ」

母親「あぁ! あ、ありがとうございます!! 本当に、何とお礼を…!」ペコペコ

子供「うわあぁぁぁん……怖かったよぉ……!」

咲耶「フフッ」ニコッ


翔太「……へぇー」ザッ

咲耶「?」

翔太「先、越されちゃったなぁ」
149 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 16:46:41.94 ID:LQd6uuhx0
咲耶「どうやら、そのようだね」

咲耶「でも、あの子の無事を前にすれば、それは些末な事だろう」

翔太「そりゃあ、そうなんだけどね」ポリポリ

咲耶「キミのあの子を助けようという意志にだって、確かなものだったはずさ。
   皆の想いが結実した結果だよ」

翔太「まぁ、そういう事にしよっか」



武内P「……何はともあれ、子供が無事に助かって何よりでした」


樹里「…………」
150 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 16:48:05.23 ID:LQd6uuhx0
ザワザワ…  ザワザワ…


武内P「……関係者と話をしてまいりました。
    今日のイベントについては、中止となります」

武内P「我々に対する事情聴取は、ひとまず終わりましたが、
    この後も、事故の原因に関する現場検証が行われるとのことで」

樹里「……そりゃ、大変だな」

武内P「申し訳ございません。初ステージが、このような事態になってしまい……」

樹里「アンタが謝ることじゃねぇだろ」

樹里「それに……」チラッ


咲耶「……ステージに立っていたアイドルだね」

咲耶「騒がせてしまったようで、すまない」

樹里「そっちが謝るなっての」
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 16:49:02.19 ID:LQd6uuhx0
咲耶「いや、謝るさ。何せ初ステージだったのだろう?」

咲耶「西城樹里」


樹里「……!!」ピクッ


武内P「我々を、知っているのですか?」

咲耶「元々、注目していてね。
   今日来ていたのも、樹里のステージを見るためさ」

樹里「いきなり呼び捨てかよ」

咲耶「あ、っと……気分を害してしまったかい?」

樹里「いや、助かるぜ」
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 16:59:15.50 ID:LQd6uuhx0
樹里「でも、アタシみたいな新人をいちいちチェックしてんのか?
   言っちゃ悪いけど、そんな事してたらキリがねぇだろ」

咲耶「あぁ、そうだね」

樹里「……?」


咲耶「私達にとって、樹里は見守るに値する特別な存在という事さ」


樹里「!」

武内P「……あなたは、一体」


咲耶「白瀬咲耶だ」

咲耶「同じアイドル同士、お互いに研鑽を重ねていこう」スッ

樹里「……あぁ」スッ

ギュッ
153 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:00:16.71 ID:LQd6uuhx0
咲耶「またいつか、会える日を楽しみにしているよ、樹里」ニコッ

コツコツ…



武内P「……白瀬咲耶」

樹里「知ってんのか? アイツ」


武内P「……そういえば一度だけ、お見かけした記憶があります」

武内P「当時、有栖川さんもそうでしたが、
    芸能事務所と専属契約を結ぶ前の、練習生と呼ばれる方達のレッスンを視察した際に」

樹里「ふぅん……アタシと同じ新人ってことか」
154 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:01:11.54 ID:LQd6uuhx0
武内P「いずれにせよ、彼女が語った「見守る」ことについての動機が引っ掛かります。
    言い換えれば、なぜ彼女は我々を「監視」しなくてはならないのか」

武内P「もし、我々が置かれている状況についても、ある程度知っているのだとしたら、
    油断のならない相手であるかと」

樹里「あぁ。だけど……アイツは子供を助けた」

武内P「元々、それさえ仕込んでいた可能性もあります」

樹里「……かもな」


樹里「でも……アタシは、悪いヤツじゃない、と思う」



武内P「…………」
155 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:02:21.59 ID:LQd6uuhx0
〜961プロ 社長室〜

黒井「……フゥ〜ム」

黒井「ジュピター……ひとまずは一応の仕事をした」

黒井「西城樹里に対しても、それなりの牽制にはなったはずだ、が……」


 【あわや大事故 幼児の窮地を救った謎の美女の正体とは?】


黒井「……気に食わんな。一体何者だ」

カタカタカタ… カチッ


黒井「白瀬咲耶……?」


黒井「…………」ギシッ…



黒井「貴様さえも私の邪魔立てをするか、天井」

黒井「なるほど。フンッ……なぁに、いくらでもやりようはある」
156 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:07:12.51 ID:LQd6uuhx0
――――――

――――


  なぜ、あんな無謀なスリーを打った?

  あそこでサヤカにパスをしていれば、無難に2点を取れた。
  試合の流れも作れたはずだ。

「アタシは……ただ、皆のためにやらなきゃって……!」

  ……やはり、お前では荷が重かったようだな。

  ベンチへ戻れ。
  残り時間、ポイントガードはレナに任せる。

  はいっ!

「そんな……待って、待ってくださいっ!」

「う、ぐっ……!」

  ……なぜ、ケガを隠した?

  気合いと根性でカバーする事が、チームのためだとでも?

  だが、お前の行いは、チームを欺いたも同然だ。
157 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:08:01.66 ID:LQd6uuhx0
「!! ……ッ」

「……アタシはまだやれます!!」

  もういい。休め。
  ミホ、樹里の手当を頼む。

  はい! 樹里ちゃん、大丈夫? さぁ……!


「ッ……」

「…………ざけ……んな……!」



樹里「ふ……ざけん……!!」

樹里「ハッ!?」ガバッ!


樹里「……ハァ! …………ハァ!……」



樹里「……クソ、何で……思い出してんだよ」
158 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:08:57.88 ID:LQd6uuhx0
〜翌日 346プロ〜

未央「うーん……」


卯月「未央ちゃん、どうしたんですか?」

未央「あ、しまむー。いやさ、昨日ジュリアンのデビューだったでしょ?」

未央「なのに、いくら探しても全然情報が出てこないんだよねぇ」

卯月「えっ? ……あれ、本当だ。検索しても……」


凛「樹里の情報が、出てこない……961プロのホームページにも?」


未央「いくらジュリアンの出来が良かろうと悪かろうとさ。
   誰もSNSとかで発信しないなんて、そんなことあるかなぁ?」

卯月「イベント会場のアカウントさんも、何も言っていないみたいです……」
159 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:09:59.62 ID:LQd6uuhx0
凛「……この、ジュピターっていう男性アイドルユニットの事は、どんどん出てくるね」

未央「同じ日に、同じ会場でやってたみたいだね」


卯月「ひょっとして、私達が勘違いしちゃっていたんでしょうか?
   樹里ちゃんのデビューの日を」

凛「いや、樹里自身の口から聞いたんだから、それは間違いないよ」

未央「だよねぇ。じゃあ……このジュピターさん達は、一緒のイベントに出てたってこと?」

凛「そうなるね」


未央「とりあえず、本人に聞いてみよっか!」サッ

凛「えっ?」

ポパピプペ
160 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:11:12.74 ID:LQd6uuhx0
未央「……」プルルルルル…


未央「……忙しいのかな? 出ないね」ピッ

卯月「今日のお昼ご飯とか、誘ってみるのはどうでしょうか?」

未央「そうだね! メール入れておこう。
   今日、お昼、どっか一緒に、行かない……っと」スイスイ

未央「あ、そうだ!」

未央「しぶりんもさ、プロデューサーに連絡とってもらえますかなぁ〜?
   お昼、皆で一緒に行きたいでしょ?」ニヤニヤ


凛「……うん」スッ

卯月(あれ? ギューッってしないんですね)

未央(ゆ、許された……!)ホッ
161 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:12:19.62 ID:LQd6uuhx0
〜961プロ レッスンルーム〜

樹里「…………!」タンッ タタン…

樹里「よ……ッ……」タタン! キュッ タン


武内P「……西城さん」

樹里「う、おっ……!?」グラッ

樹里「っとと……な、何だ? どっかおかしかったか?」

武内P「い、いえ。申し訳ございません」


武内P「昨日の事で、西城さんは何も、お気になさらないのですか?」

樹里「昨日の事って?」

武内P「たとえば、ご自身の反響について、など……」

武内P「実は……昨日の西城さんのステージについて、SNS等での反響を調べたのですが、
    一切の情報が流れてこないのです」

武内P「異常とも言える情報統制が、なされている可能性も考えられます」
162 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:13:36.91 ID:LQd6uuhx0
樹里「別にいいんじゃねぇか?」

武内P「えっ?」

樹里「昨日のアタシの出番、途中で終わっちゃっただろ?」

樹里「まだまだ無名もいいトコなんだし、あんなので有名になれるなんて思っちゃいねぇよ。
   むしろ変な評判が広がってないなら何よりだぜ」


武内P「……それも、そうですね」

樹里「アタシが気にしてんのは、むしろジュピターってヤツらの方だ。
   アイツら、黒井社長の差し金だったんだろ?」

武内P「はい。彼らの言うことが、真実であれば」


樹里「なぁ、プロデューサー……
   アタシ、このまま961プロでアイドルやってて大丈夫なのかよ?」

樹里「アタシだって一応、961プロの所属アイドルだってのに、
   社長自ら邪魔立てを寄こしてくるなんざ、普通じゃないぜ」
163 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:14:59.91 ID:LQd6uuhx0
武内P「それは……私も考えていました」

武内P「ですが、今さら鞍替えをする訳にもいきません。
    また、アイドルを辞めることも」


樹里「……一度、整理させてほしいんだけどさ」ポリポリ

樹里「アタシの目的は、チョコにもう一度アイドルを目指してもらうことだ。
   それと、346プロに不正を認めさせること」

樹里「それが出来んのなら、アタシがアイドルをやること自体に拘りはねぇよ」

樹里「961プロのアイドルを辞めて、また別の方法を探すってのもあるんじゃねぇのか?」


武内P「…………」

樹里「あ、い、いや! 961プロでの待遇に文句はないぜ?」ブンブン

樹里「寮は使いやすいし、アンタの弁当作りや植木の世話だって、大した手間じゃねぇし……
   アタシなんかのために、良くしてもらってるって思うよ」

樹里「ただ……あぁして、露骨に妨害をされるのって、結構ショックでさ……」
164 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:16:25.73 ID:LQd6uuhx0
武内P「西城さん」

武内P「あなたが961プロのアイドルを辞めた場合に、想定される事態は二つあります」

武内P「身柄を狙われるか、命を狙われるか」

樹里「! ……ッ」ゾクッ


武内P「あの日、黒服の連中に襲われた時のことを、思い出していただきたい」

武内P「もし、オーディションの不正が明るみに出れば、346プロの信用は失墜します。
    彼らの狙いは、西城さんがその不正を暴くのを防ぐこと」

武内P「そのために彼らは、西城さんに金を積むか、346プロに抱き込むか……闇に葬るか」

樹里「…………」


武内P「346プロのアイドルになる事を、あえて受け入れるのであれば、
    それも一つの手段ではありますが」


樹里「イヤだね」

樹里「346プロだけは、ぜってぇに許さねぇ……!」ギリッ
165 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:18:00.70 ID:LQd6uuhx0
武内P「……」

樹里「ありがとな、プロデューサー。目が覚めたぜ」

樹里「それにごめん……
   あの日、アタシを守ってくれたのを忘れるなんて、どうかしてた」

武内P「いえ……」


樹里「でも……アタシに刺客を寄こしてきたってのは、
   黒井社長は、346側についてるってことなんじゃねぇのか?」

武内P「一概にそうとは限りません」

武内P「ただ、西城さんに関する徹底的な情報統制が、仮に黒井社長の手によるものであれば……
    いずれにせよ、あまり喜ばしい状況とは言えないかと」

樹里「だよなぁ、うーん……」



ザワザワ…

武内P「……?」

樹里「なんだ? 外が騒がしいな」
166 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:19:08.30 ID:LQd6uuhx0
ガチャッ


武内P「……!?」

樹里「! あ、アイツは……!」


ザワザワ…!



夏葉「有栖川夏葉よ!」バァーン!

夏葉「ここに西城樹里はいないかしら!」


社員「で、ですから、アポイントメントの無い方をご案内する訳には……」

夏葉「無礼は百も承知よ。ちょっとお話したいだけなの」
167 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:20:48.82 ID:LQd6uuhx0
樹里「……何やってんだ、アイツ」


夏葉「! あらっ、ふふ……やはりあなただったのね」

夏葉「待っていたわ、樹里」

樹里「あん?」

樹里「いや、ちょっと待て……何でアタシを知ってんだ?
   あの日、アタシはアンタに名乗っていなかったはずだぜ」


夏葉「調べたのよ、昨日のイベントについてね」

武内P「……昨日のイベントを?」


夏葉「詳しい話は、場所を移してからにしましょう」

夏葉「美味しいダージリンを淹れてくれるお店を知っているの。
   ご一緒してもらえるかしら?」

樹里「イヤだっつっても断れなさそーだな」

夏葉「話が早くて助かるわ」ニコッ

武内P「……」ポリポリ
168 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:22:09.76 ID:LQd6uuhx0
〜カフェ〜

店員「お待ちしておりました。ごゆっくりどうぞ」カチャッ

夏葉「ありがとう」

スタスタ…


樹里「……すっげー高そうなトコだな」

樹里「外車にまで乗せてもらったし……アンタ、一体何モンだよ?」

夏葉「一アイドル候補生よ」

樹里「アイドルやんなくても、十分金持ってそうに見えるけどな」


夏葉「金銭的な事情なんて、アイドルを志す理由にはなり得ないわ」

夏葉「収入だけを得たいのなら、他にいくらでも方法はあるでしょう?」

樹里「それはまぁ、分かるような分かんねーような……」


武内P「……それで、お話というのは」

夏葉「あぁ、ごめんなさい」
169 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:23:22.57 ID:LQd6uuhx0
夏葉「昨日は初めてのイベント出演、お疲れ様、樹里。
   直接見ることができなくて残念だったわ」

樹里「初、ってのまで知ってんのか」

夏葉「思わぬアクシデントで、途中で中止となってしまった事もね」

樹里「…………」


武内P「お言葉ですが、有栖川さん。
    あなたは先ほど、先のイベントについて調べたと仰られました」

武内P「一体、どのようにお調べになったのでしょうか?」

夏葉「……それはどういう意味かしら」


武内P「あのイベントについては、当事務所の西城について、公にされている情報は無かったはずです」

武内P「事務所の公式ページはおろか、個人のSNSアカウントによる発信に至るまで……
    徹底的に、と言えるほどに排除されています」


夏葉「えぇ、そのようね」

夏葉「だから気になったのよ」
170 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:25:20.60 ID:LQd6uuhx0
樹里「えっ?」

夏葉「そうまでして、西城樹里というただの一アイドルを秘匿しなくてはならない理由は何か。
   誰がそれを行っているのか」

夏葉「当然、そのアイドルに興味を持つなというのも、私には無理な話だったわ。
   それも、あのオーディションに智代子の付き添いで来ていた、その子が当人だったなんて……」

夏葉「ふふ、偶然にしては出来過ぎていると思わない?」

樹里「アタシに聞くなよ」


夏葉「どうやって昨日のイベントについて調べたのか、という質問だったわね」

夏葉「何てことは無いわ。
   私と同じ事務所に所属する子が、当日のあなたのステージを見ていたからよ」

樹里「同じ事務所?」

武内P「……」ピクッ


夏葉「白瀬咲耶という子を?」

樹里「……あぁ、アイツか。なるほどな」
171 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:26:24.61 ID:LQd6uuhx0
夏葉「あなたの様子を語る咲耶の顔と言ったら、ふふっ……
   まるで子供のようにはしゃいで、本当に嬉しそうだったのよ」

夏葉「私だって、アイドルを志す者の一人だから、
   同じ事務所の仲間が注目を寄せる子がいれば、調べてみようって思うでしょう?」

夏葉「ところが、肝心の情報がまるで出てこない……ただの一つも」

武内P「……それで、西城樹里という名前だけを頼りに、961プロを訪れたと」

夏葉「えぇ、そのとおりよ」


樹里「…………」

夏葉「? どうしたの、樹里。黙ってしまって」

樹里「あ、いや……」ポリポリ…

夏葉「照れているのかしら? ふふっ、人は見かけに寄らないわね」

樹里「て、照れてなん……!」

樹里「……あーもう」ワシャワシャ
172 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:27:45.32 ID:LQd6uuhx0
樹里「なんつーか、昨日の咲耶とかいうヤツといい……アンタといい」

樹里「モノ好きが多いもんだぜ。アタシはただ……」

夏葉「……ただ?」


樹里「……いや、悪ぃ。アンタに話すような事じゃねぇな」

夏葉「いいえ、話してちょうだい」

樹里「!」


夏葉「さっきも言った通り、樹里……私はあなたに興味があるの」

夏葉「あのオーディションに出ていなかったはずのあなたが、なぜアイドルをしているのかも含めてね」

樹里「……夏葉」


夏葉「私の推測でしかないけれど……
   あのオーディションの結果も、あなたがアイドルを志す理由の一端なのかしら」



樹里「……346プロだけは、絶対に許さねぇ」

樹里「あんなふざけたオーディションで、チョコの努力をコケにしやがった346プロだけは……!」
173 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:29:16.45 ID:LQd6uuhx0
武内P「……」

樹里「アイツらを見返して、チョコにもう一度、アイドルをやってもらいたい……
   アタシがアイドルをやる理由なんて、それだけだ」

樹里「有り難がられる要素なんて、アタシには何もねぇよ」


夏葉「……そう」


夏葉「失望したわ。その程度の志だったのね」ガタッ


武内P「……!」

樹里「なっ……!?」

夏葉「ゆっくりしてくれて構わないわ。お会計は済ませておくから」スッ

樹里「な、ちょ、おい待てよっ!!」ガタッ!
174 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:30:16.84 ID:LQd6uuhx0
夏葉「……」

樹里「聞き捨てならねぇな」

樹里「確かに、アタシには夢とかやりたい事とか、アイドルに対する前向きな動機なんてねぇよ」

樹里「でも、友達のために……友達の仇を討って、もう一度前を向いてもらいたい、って!
   その気持ちを、赤の他人に馬鹿にされてたまるか!!」

夏葉「あなたはアイドルを何だと思っているの?」

樹里「あぁ!?」


夏葉「アイドルを手段としてしか考えない、その姿勢自体、
   本気でアイドルを夢見ていた智代子に対する侮辱だとは考えないのかしら」
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:32:05.14 ID:LQd6uuhx0
樹里「!! ……ッ」

夏葉「そんな考えで、よくも智代子に前を向いてもらえるなどと思えたものね」

樹里「こ、この……!」グッ


夏葉「樹里。あなたの今後の活動予定は?」

樹里「え……」

武内P「……基礎レッスンを続ける以外は、今のところ大きな予定はありません」

夏葉「そう」


夏葉「なら、一ヶ月後のサマーフェスに出なさい。
   私も出場するから、直接対決といきましょう」

樹里「!?」


武内P「一ヶ月後のフェス……『サマードルフィン』」

武内P「出場者同士によるステージ対決、ですか」

夏葉「エントリーはまだ受け付けていたはずよ。
   無理というのなら、強制はしないけれど」
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:33:57.92 ID:LQd6uuhx0
武内P「……いかがされますか? 西城さん」


樹里「……いいぜ、出てやるよ」

樹里「面白ぇ。いわゆるライブバトルってヤツか……
   生意気をほざくオジョウサマの鼻っ柱、へし折ってやるぜ」

夏葉「そうこなくてはね」ニコッ


武内P「しかし、有栖川さん。
    フェスへの出場をはじめ、アイドルとして活動するに当たっては、事務所との専属契約が必要です」

武内P「白瀬さんと同じご所属と仰いましたが、あなたの事務所は……」


夏葉「283プロよ」

夏葉「それが私達の事務所」


樹里「283プロ……」


夏葉「お互いベストを尽くしましょう。
   私を打ち負かすことがあったなら、さっきの非礼はお詫びするわ」
177 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:34:46.39 ID:LQd6uuhx0
樹里「夏葉……」

夏葉「じゃあ、私はこれで」フリフリ

樹里「待てよ」

夏葉「まだ何か?」


樹里「ありがとな……アタシに発破かけてくれて」

夏葉「……ふふ、何のことかしらね」ニコッ


コツコツ…



武内P「……西城さん」

樹里「すぐにレッスンがしてぇ。頼めるか?」
178 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:37:27.35 ID:LQd6uuhx0
武内P「分かりました。曲も用意しましょう」

樹里「ああ……見方によりゃあ、これも一つのチャンスって事だよな」

武内P「チャンス?」


樹里「今度のそのフェスって、昨日やった地方イベントみてぇなモンじゃなくて、
   多くのアイドルファンや業界人とかが集まる、大規模なイベントなんだろ?」

樹里「それなら、昨日みたいに情報統制?とかで握り潰される心配も無いだろうし、
   結果を残して有名になりゃ、アタシを狙うヤツらも簡単には手出しができなくなる」

樹里「って思ったんだけど、どうだ?」


武内P「……仰る通りかと」

樹里「? 何だよ、釈然としなさそーなツラして」

樹里「あっ! ひょっとしてアタシが勝つって信じてねぇのか!?」

武内P「い、いえ! 決してそういう訳では……!」
179 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:39:05.44 ID:LQd6uuhx0
カラン カラン…

樹里「ったく、辛気臭ぇのも紛らわしいぜ」

武内P「申し訳ございません……む」

樹里「今度はどうした?」


武内P「着信が入っておりましたので、少々、失礼します」スッ

樹里「あぁ……あれ、アタシも」サッ


樹里「未央達からだ。
   やべっ、結構時間空いちゃってるじゃん」

武内P「……!」ピクッ


樹里「えーっと、どうやって返信すんだ……ここか?
   違ぇな。クソ、もっと聞いとくんだったぜ」

樹里「なぁ。これ、どうやればいいか分かるか?」スッ
180 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:40:41.09 ID:LQd6uuhx0
武内P「……こちらの、下部の空欄をタップすれば、ウィンドウが開きますので、
    そのままメッセージを入力すればよろしいかと」

樹里「おー、サンキュー。
   悪ぃな、この間入れてもらったばっかでさ」

樹里「この未央ってヤツが、やたら賑やかで元気のいいヤツでさー。
   楽しいし、気ぃ遣いなのはありがてぇけど、まともに付き合うと疲れちゃって困るぜ」ハハハ

樹里「あ、卯月からも来た」ティロン♪

樹里「えーと、なになに……このお店でお昼ご飯どうですか、だって?」

樹里「こっからなら行けそうだな。凛も一緒か」


樹里「プロデューサーも、良かったら一緒に昼飯行かねぇか?」

武内P「……!」ギクッ

樹里「な、何だよ。今日弁当作れなかったし、ちょうどいいかなって」

武内P「いえ……」
181 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:41:36.56 ID:LQd6uuhx0
武内P「少々、仕事が立て込んでおりますので……すみませんが」

樹里「あぁ……そっか。
   ていうか、仕事の着信来てるんだっけ。悪ぃな、手止めちゃって」

武内P「いえ」


樹里「じゃあ、昼飯済ませたら事務所に戻るよ。レッスンよろしくな!」

武内P「はい。一旦ここで、失礼致します」ペコリ

樹里「そんな仰々しくすんなっての。じゃあなー!」フリフリ

タタタ…



武内P「……」スッ

ポパピプペ

プルルルルル…


『……もしもし、プロデューサー?』
182 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:42:29.83 ID:LQd6uuhx0
〜外〜

『お待たせしてしまい、申し訳ございません』

凛「ううん。忙しいのは分かってるから」

凛「……樹里と、一緒だったの?」

『……はい』

凛「そっか……」


『私は、昼食にご一緒できませんが、皆様にはよろしくお伝えください』

凛「うん、分かってる……そりゃあ、そうだよね」

『申し訳ござ…』

凛「謝らないで」

『渋谷さん……』


凛「でもさ……いつか、理由を教えてよ」

凛「私達が、樹里に……346プロであることを教えちゃいけない理由を」
183 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2023/02/19(日) 17:42:41.05 ID:Cd7CkCvPo
龍が如くスピンオフ
JUDGE EYES(キムタクが如く)
実況プレイPt.1※ネタバレあり
第1章『モグラ』
(18:00〜開始)

https://www.youtube.com/live/_TVj3Zz1po8
184 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:43:26.73 ID:LQd6uuhx0
『……分かりました』

凛「ありがとう……お疲れ様」

『ありがとうございます……それと、午後もすみませんが、立ち会えません』

凛「……うん、分かった」

凛「それじゃあね」

『はい。失礼致します』

ピッ


凛「…………」

凛「……プロデューサー、忙しくて来れないって」

未央「絶対それ以外にも話してたよね?」

凛「う……!」ギクッ

卯月「お昼ご飯に樹里ちゃんを誘ったの、良くなかったでしょうか……?」


凛「……放ってもおけないでしょ」

未央「だね」
卯月「はいっ」
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:44:19.00 ID:LQd6uuhx0
〜某所〜


「……そうか、ご苦労」


「なに……その程度であれば十分だ。案ずるな」


「黒井とて馬鹿な男ではない。いずれ私の狙いにも気づくだろう」

「いや、もう気づいているのかも知れん」

「だからこそ、ああいう派手な行いをしているとも、な……ヤツの考えそうな事だ」



「今の私達にできることは、見守ることだ」

「西城の事を、よろしく頼んだぞ」
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:46:16.62 ID:LQd6uuhx0
〜ファミレス〜

樹里「……ふ〜ん。ってことは、三人とも本当に新人だってのか」

卯月「はい、そうなんです。だから、まだ活動させてもらえてなくって……」

未央「思ったより世知辛くってさー、困っちゃうよねぇ」ウーム

凛「だから、私達のことをネットとかで調べても、何も出てこないから」

樹里「そっか……アタシなんかでさえ情報が全然出てねぇらしいし、そういうモンなのかな」

凛「そういうものかもね、たぶん。それに……」


凛「自分のことを“なんか”って言うな、って言ってたの、樹里でしょ?」

樹里「うっ!?」ドキッ

凛「アイドルなんだから、もっと図々しくなんなよ」フッ

樹里「そ、そうか……そうだな」
187 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:47:31.44 ID:LQd6uuhx0
樹里「じゃあさ、どこの事務所なんだ? それくらいは教えてもらってもいいだろ?」

未央「いぃ!?」ギクッ!


樹里「……まさか、346プロ」

卯月「うえぇぇっ!?」ギクギクッ!


樹里「……なわけ無いか。
   ていうか、あんなトコのヤツらだなんて、思いたくねーし」

卯月「あ、は、ハハ……そ、そうですね、そうそう、アハハ……」


樹里「961プロでもねーし……ってことは……」

樹里「! ……ひょっとして283プロか?」

凛「283プロ?」
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:48:39.43 ID:LQd6uuhx0
樹里「違ったか……そうだ。皆知らねぇか? 283プロ」

未央「ううん、ちょっとあまり……」

凛「その283プロが、どうかしたの?」


樹里「いや……そこの事務所のヤツとさ、ライブバトルっつーのか?
   一ヶ月後に、一緒のサマーフェスに出ることになったんだよ」

樹里「夏葉、えぇっと……有栖川夏葉ってヤツなんだけど、知ってるか?」

未央「ちょっと検索してみるね」スイスイッ

卯月「あ、有栖川……有栖川ってひょっとして……!?」

樹里「? どうした、卯月?」


卯月「有栖川グループの有栖川、ですか!?」
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:49:34.73 ID:LQd6uuhx0
未央「!? え、あの……なんかいっぱいCMやってるアレ!?」

樹里「そ、そんな有名なヤツなのか?」

凛「動画サイトにあると思う……あった」スイッ


 『憩いの〜〜 空間〜〜 あります有栖川〜〜♪』


樹里「あ、なんか聞いたことあんなコレ」

凛「国内でも屈指の、有名リゾートホテルグループの令嬢……」

卯月「水瀬財閥と双璧を為す、国内でも有数の大企業ですよぉ!」ドキドキ

樹里「マジでお嬢様だったのか、アイツ……」
190 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:51:22.83 ID:LQd6uuhx0
未央「283プロのプロフィールには、そういう情報までは載っけてないみたいだね」

樹里「アイドル活動に関して、実家の力に頼るつもりはねーってことか。
   ふーん……」

樹里「……!」ピクッ


  ――不可解な審査があった理由について、大よその心当たりはあるわ。
     残念ながらね。

  ――合格は辞退します。早急に、父に問い質す必要があるわね。


樹里「まさか…………アイツ……!」

ギュッ…!


凛「樹里? ……あの、どうかし…」

樹里「悪ぃ、皆。急用ができたから帰るわ」ガタッ

未央「あっ、ちょっとジュリアン?」

樹里「これアタシの頼んだ分。じゃあな」スッ

ツカツカ…!
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:52:21.25 ID:LQd6uuhx0
卯月「行っちゃいました……」

未央「ど、どうしちゃったんだろ?」

凛「…………」


未央「しかし……へぇー、色んなアイドルがいるもんだねぇ」

凛「まだ283プロのホームページ見てたの?」

未央「なかなか興味深くってさ。
   ……あ、ほら見て、すっごい綺麗だよこの人!」

卯月「うわあぁぁ……か、カッコいい……」

凛「……ふーーん、スタイルもいいね」

未央「元モデルさんかぁ。えーっと、名前名前……」


未央「白瀬咲耶、っていうんだって!」
192 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:53:14.47 ID:LQd6uuhx0
〜961プロ レッスンルーム〜

キュッ! タタンッ タンッ!

樹里「はぁっ、はぁ……! くっ……!」タンッ タン

樹里「……ッ!」タッ タンッ!


武内P「……」

武内P「西城さん、そろそろ休憩を…」

樹里「うる、っせぇ……!」タンッ!


樹里「夏葉……! あの、女……!!」



武内P「…………」
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:54:01.91 ID:LQd6uuhx0
樹里「はぁ……はぁ……!」タタンッ タンッ

樹里「ッ……うりゃ、と」ビシッ!


樹里「……くっ! はぁ、はぁ! はぁ……!」ガクッ


武内P「お疲れ様でした」スッ

樹里「……」バシッ!

武内P「!」


樹里「……!?」

樹里「あ、あぁ……悪ぃ、その……」


武内P「……西城さん」

武内P「有栖川さんの事で、何か?」
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:55:06.48 ID:LQd6uuhx0
樹里「……アイツ、有栖川グループっていう、すっげーデカい企業のお嬢様なんだってな」

武内P「そのようです」


樹里「あの日、346プロのオーディションで夏葉を勝たせるよう仕組んだのも、
   夏葉の親父らしいぜ」

武内P「……!」

樹里「もっとも、夏葉本人はそんなこと望んでなかったらしいけどな」


樹里「でも関係ねぇ」ギリッ

樹里「チョコが塞ぎ込んじまったのは、全部あのオーディションが原因なんだ……!」

樹里「何が有栖川グループの令嬢だ……! ふざけやがって、畜生っ!!」ダンッ!
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:56:37.45 ID:LQd6uuhx0
武内P「西城さん……」

樹里「アタシは勝つぜ、プロデューサー。
   346プロだけじゃねぇ、チョコの仇が、まさか他にもいたなんてな」


武内P「……アイドルを手段とする、ということですか?」


樹里「……あぁ、そうだよ」

樹里「だからイライラしてんじゃねーか……!」

樹里「アイドルに対する夢も野心もないアタシは、結局こうするしかねーんだ!
   悪いかよ!!」

武内P「…………」


樹里「すげーカッコ悪い事だって、分かってるよ……
   夏葉に言われて、気づかされて……納得させられたばかりだってのにな」

樹里「でも……でもっ! 他にどうしようもねぇんだよっ!!」


武内P「……では、西城さん。一つだけお願いがあります」

樹里「? 何だよ」
196 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:57:49.14 ID:LQd6uuhx0
武内P「ステージ上では、どんな事があろうと、笑顔でいてください」

樹里「笑顔?」

武内P「はい。アイドルの基本です」

武内P「それさえ約束していただけるなら、私からは何も言いません」


樹里「笑顔……あぁ、いいぜ」

樹里「そんな簡単な事でいいんだったらな」

武内P「…………」

樹里「今日はもう少し自主練してぇ。
   レッスンルーム、まだ使ってていいよな?」

武内P「……えぇ、構いません」

樹里「うっし。忘れないように、ちゃんと復習しとかねーとな」スッ


武内P「…………」ポリポリ
197 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:58:17.10 ID:LQd6uuhx0
ガチャッ バタン


コツコツ…


武内P「……」コツコツ…



凛「プロデューサー」


武内P「!?」ピタッ



凛「……お疲れ様」
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 17:59:23.78 ID:LQd6uuhx0
武内P「し、渋谷さん……なぜ、ここに?」

凛「プロデューサーに会いに来たからに決まってるでしょ」

凛「961プロ……初めて来たけど、大きくて綺麗な所だね」

武内P「し、しかし……」

凛「大丈夫だよ。私なんてまだアイドルとしての知名度は大して無いし」

凛「こうしてエントランスロビーのソファーで座ってるうちは、
  ただのお客さんなんだなって皆思うでしょ?」

凛「あぁ、それと……未央と卯月には、黙って来ちゃった。
  ちょっと、騒がしくなりそうかなって思って」

武内P「……」ポリポリ


凛「樹里のことで、話があるんだ。時間ある?」

武内P「……場所を変えましょう」

武内P「私の方からも、お話したいことがあります」

凛「うん」
199 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 18:01:04.68 ID:LQd6uuhx0
〜喫茶店〜

凛「…………」

凛「そんな……そんな事が、346プロのオーディションで……」


武内P「園田さんというご友人を、不条理に失意の底に沈ませた346プロに対し、
    西城さんは強い憎しみを抱いています」

武内P「彼女の目的は、園田さんにもう一度、アイドルを志してもらうこと。
    そして……346プロ、引いてはかの不正に荷担した者達への復讐」

武内P「それ故に、私達が346プロである事を、彼女には秘匿しておく必要があるのです」

凛「ちょっとおかしくない、それ!?」ガタッ!

ザワッ ザワザワ…


凛「……ッ」スッ


凛「……放っておけばいい、とまでは言わないけど」

凛「どうしてプロデューサーは、わざわざ樹里をプロデュースしようって思ったの?
  それも、961プロだ、って身分を偽って……余計な面倒を抱えてまで」
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 18:02:23.29 ID:LQd6uuhx0
武内P「そういう人間を、知っているからです」

凛「そういう人間?」


武内P「復讐に身を任せ、暗く深い闇に堕ちた者を」

武内P「取り返しのつかない所にまで至ってしまったら、二度と光を見ることはできません。
    そうなる前に、彼女を救い出す必要があると考えました」

武内P「それ故に……とても見過ごす訳にはいかなかったのです」


凛「……樹里のしようとしてる復讐って、何?」

凛「見えたよ……窓の外から、樹里がレッスンしてる姿」

武内P「…………」


凛「鬼気迫る、っていうのかな……まるで、アイドルじゃないみたいだった」

凛「346プロやその関係するアイドルを打ち負かす事が復讐だって、樹里が考えているなら……
  復讐の機会を与えたのは、プロデューサーの方だったんじゃないの?」
201 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 18:03:42.63 ID:LQd6uuhx0
武内P「私は……」

武内P「…………ッ」グッ…


凛「……ごめん。意地悪な事を言って」

武内P「いえ……そのために私は、
    西城さんに気づきを与え、軌道を修正する必要があると考えています」

凛「気づき?」

武内P「はい」


武内P「アイドルの本懐は、ファンの方々を楽しませること」

武内P「ファンとの触れ合いを通し、アイドル活動の楽しさを見出す機会を与えることで、
    アイドルを志す動機に、それまでと違う意義を彼女に気づかせたいのです」


凛「……具体的に、どうするつもりなの?」

凛「樹里自身、まだそこまでファンを集められるほど知名度があるわけじゃないし……
  346プロのイベントに参加させるのだって、もっと無理でしょ?」


武内P「考えはあります」
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 18:04:16.00 ID:LQd6uuhx0
20時頃まで席を外します。
203 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:31:44.20 ID:LQd6uuhx0
〜後日、とあるミニライブ会場〜

テクテク…

樹里「意外と小さいトコなんだなー」

武内P「本来であれば、もっと大きな会場を用意する事もできるのですが、
    当人の希望により、こちらに」

樹里「当人?」


武内P「ミニライブの主演者……
    西城さんが本日、お手伝いをしていただくアイドルとなります」

樹里「ふーん」
204 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:32:48.01 ID:LQd6uuhx0
樹里「まぁ、アタシはアタシの仕事をするだけだけど……
   普通アイドルって、多くのファンを呼びたいって思うもんじゃねーのか?」

樹里「余計なお世話かも知んねーけど、わざわざ自分の利益が小さくなるようなこと、
   アイドル自身が考えるのって、なんつーか……」


武内P「西城さんの仰ることは、もっともであり、一つの正解ではあります」

武内P「ですが、彼女にとっては、別の価値基準があったということです。
    単純な利益、それ以上に大事なものが」

樹里「利益以上に、大事なもの……?」

武内P「本日の仕事は、西城さんにもその一端をお知りいただけたらと思い、セッティングしました」


武内P「こちらが、そのアイドルの控え室になります」

樹里「……」ゴクリ…
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:33:25.88 ID:LQd6uuhx0
武内P「……」コンコン


「どうぞ」



ガチャッ

武内P「失礼致します」

樹里「し、失礼しまー……!?」


武内P「どうも、お疲れ様です」



楓「お疲れ様です」ペコリ
206 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:35:04.02 ID:LQd6uuhx0
樹里「あっ、アンタ! ひょっとして、た、高垣……!?」

楓「はい、高垣楓と申します」ニコッ


樹里「お、おいっ! アイツ……じゃない。
   あの人、346プロじゃねぇか!! アタシでさえ知ってるぜ!」

武内P「はい」

樹里「はいじゃねぇ!! どうして346プロの人間がこんなトコ……!」

樹里「こ、この人のライブの手伝いをすんのが、今日の仕事だってのか!?」

武内P「そうです」

樹里「冗談じゃねぇ!!
   どうしてライバル事務所の手伝いを961プロがしなきゃなんねーんだよ!」

樹里「ふざけやがって! やってられっか!!」ザッ


楓「樹里ちゃん」スッ

樹里「うぇっ!?」ドキッ
207 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:36:43.86 ID:LQd6uuhx0
樹里(あ、アタシの名前……知ってんのかよ)


楓「ごめんなさい。
  樹里ちゃんが、346プロを苦手だっていうお話は、お伺いしていたのですが……」

楓「今日のお仕事は、私にとって特別な……大切にしている、ミニライブなんです」

楓「これ、見てください。
  今日のファンの方々に配る、うちわです」スッ

樹里「うちわ? ……サイン入り」

楓「先ほどからやっているのですが、ちょこっと大変で。ふふっ♪」ニコッ

樹里(1個1個、手書きでサイン書いてんのかよ……)


楓「樹里ちゃんは、アイドルを志して間もないと、お聞きしました」

楓「先輩風を吹かして、偉そうな事を言うつもりはありません」

楓「ですが……いいえ、だから、今日のお仕事は、
  なるべくお客さんの視点に立って、色々なことを感じ取ってほしいんです」

樹里「お客さんの視点……」
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:38:20.76 ID:LQd6uuhx0
楓「その時を楽しみたいという気持ちは、
  961プロや346プロ、そのファンの方々にとって、違いは無いと思っています」

楓「だから、お客さん達と一緒に楽しんでもらえると、とても嬉しいです」

楓「今日はよろしくお願いします、樹里ちゃん」ペコリ

樹里「うわっ……あ、頭下げないでくださいっ!」ブンブン


武内P「いかがでしょうか、西城さん」

樹里「…………」


樹里「はぁ……何つーか、怒りも失せちまったぜ」ポリポリ

樹里「よくよく考えたら、ちゃんと仕事の内容を確認しなかったアタシも悪いし……
   やるって決めたからには、ハンパはできねぇよな」

武内P「ありがとうございます」

楓「ふふっ♪」ニコッ
209 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:39:51.69 ID:LQd6uuhx0
樹里「で、プロデューサー。
   アタシがやんのは、入口でなんか配るスタッフって事でいいんだよな?」

樹里「最初はステージも頼まれた気がすっけど、やっぱり346プロの前座はできねぇ。
   その辺のナマイキは勘弁してもらうぜ」

武内P「はい。それは承知しております」

樹里「つーか、今日来てんのは楓さんのファンだし、アタシが出たって意味ねぇだろ」

武内P「それは……」

樹里「まぁいいや」


樹里「……今日はよろしくお願いします、高垣楓さん」ペコリ

楓「はい、こちらこそ」



武内P「…………」チラッ


楓「……」クスッ


武内P「……」ポリポリ
210 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:41:04.86 ID:LQd6uuhx0
――――


凛『楓さんのミニライブの手伝いをさせる?
  そんなの、樹里がいいって言うわけないじゃん!』

凛『第一、346プロのトップアイドルの仕事に参加させたら、
  プロデューサーと346プロの繋がりだって、樹里に疑われるよ』


武内P『西城さんには、表向きは961プロから企画を持ち込み依頼したという名目で、
    正規に高垣さんのミニライブの仕事に参加していただきます』

武内P『実際上は、346プロ内部の裁量しか生じ得ないため、
    調整そのものは難しくありません』

凛『トップアイドルとの仕事の調整を難しくないって言い切るプロデューサーも、結構凄いよね』

武内P『調整が円滑に進んだのは、高垣さんのお考えによるところも大きくございます』

凛『えっ?』


武内P『アイドルを……ファンと共に楽しむ心を、西城さんに気づいてもらいたい。
    その意図を、汲んでいただけたのだと思います』

武内P『高垣さん自身、何か思うところもあったのではないかと』
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:43:20.26 ID:LQd6uuhx0
凛『……でも問題は、いくらトップアイドルとはいえ、樹里が346の楓さんに素直に従うかだよね』

武内P『はい。それについては、西城さん次第となります。
    それと……』


武内P『高垣さんと西城さん、双方のアイドル達が一緒に仕事をする事について、
    本来、346側にメリットはありません』

武内P『加えて、私の立場では、961プロの資金を自由に扱う権利はありません』

武内P『発議者である961プロから、相応のギャランティ等の提示が無いにも関わらず、
    346プロが応じたというのは、経緯を知らない人間から見れば、不可解に捉えられます』

武内P『一体何が起きているのか……
    私達の思惑、その動向について、探りを入れる人物が現れる可能性も、否定できません』

凛『……!』

武内P『衆目を集める派手な動きとなる以上、相応に綱渡りな手段とならざるを得ないでしょう』


凛『……そんなリスクを払ってでも、樹里を助けたいの? プロデューサーは』


武内P『はい』


――――
212 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:44:36.92 ID:LQd6uuhx0
武内P「西城さんには、こちらのブースを担当していただきます」

樹里「おう……って、
   これ、さっき楓さんが書いてたサイン入りのうちわじゃねーか!」

樹里「さすがにこういうのは、本人が直接ファンに手渡した方がいいんじゃねぇのか?
   いいのかよ、アタシが配っちゃって」


楓「大丈夫ですよ」

樹里「あ、楓さん」

楓「きっと喜んでくれます。
  今日来てくれたファンの皆様の手に、うちわがあるうちは、なんて、ふふっ♪」

樹里「は、はぁ……へ?」

武内P「開場したら、パンフレットと一緒に、こちらのうちわをお客様にお配りください」

樹里(す、スルーかよ……!?)
213 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:46:17.53 ID:LQd6uuhx0
樹里(まぁ、敵情視察を堂々と行えるチャンス……って考えるか)

武内P「さっそく、お客様がお見えになられたようです」

樹里「よ、よし……」



ガヤガヤ…


樹里「い、いらっしゃいませー!
   こちらでパンフレットとうちわをお配りしていまーす!」



樹里「あ、はいっ。会場は、こちら中入って右側になります」



樹里「え、えっと……うわっ、パンフが折れちまった!」アタフタ



樹里「へ? トイレ、ですか? えぇっと、どこだろ……
   す、すみません、確認してきます! おい、プロデューサー!……」
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:47:26.93 ID:LQd6uuhx0
樹里「……! …………!」セッセ セッセ…



楓「……とても熱心に、お仕事に取り組んでくれていますね」

武内P「西城さんは、常識的な感性や責任感が、とても強い方です。
    また、他者への思いやりも」


楓「お話をいただいた時は、私、樹里ちゃんに怒られるんじゃないかって、心配したのですが……」

武内P「高垣さんの人柄に触れ、思い直す面もあったのではと思われます」
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:49:13.50 ID:LQd6uuhx0
楓「ううん」フルフル

楓「樹里ちゃん自身、本当は気づいているのかも知れません。
  346プロを憎む事が、本質的な解決にはならない事を」

楓「行き場の無い感情に、ひとまずの納得を与えるために……怒りを抱いているのかな、って」

武内P「…………」


楓「……過ぎた事を言いました。忘れてください」

武内P「いえ……そろそろお着替えのほう、お願い致します」

楓「はい」スッ
216 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:50:05.14 ID:LQd6uuhx0
ガヤガヤ…

樹里(だんだん、客足も落ち着いてきたな……そこそこ入ったみてーだ)


樹里(しかし、何つーか……
   アイドルのファンって、もっとガツガツしてるもんだと思ったけど……)

樹里(今日のお客さん、みんな落ち着いてるというか……
   でも、変に冷めてるとかじゃなくて……何だろう)

樹里(このライブを楽しむ事に、ファン同士、皆で協力し合ってるみたいな……)


樹里「……?」チラッ



子供「……ママー…………ママぁ〜〜……!」
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:51:13.34 ID:LQd6uuhx0
樹里(何だあれ……ひょっとして迷子か?)



子供「ママぁぁ〜〜!」グスッ



樹里(どっかから迷い込んできたのか?
   いや……この建物の周りに、客を入れるような施設は無さそうだった)

樹里(だとしたら、今日この会場に来た誰かの子供……!?)



子供「うあぁぁぁぁぁ……ママぁぁ〜〜〜!!」ボロボロ



樹里「……クソッ!」ダッ!


武内P「? 西城さん、どちらへ…」

樹里「悪ぃ、プロデューサー! ここは任せた!」

武内P「え?」

タタタ…!
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:51:58.19 ID:LQd6uuhx0
武内P「……?」ポリポリ



ザッ


武内P「……!」ピクッ



黒服A「西城樹里……の、プロデューサーさんですね」

黒服B「お話したいことがあるのですが、少し、お時間いただけますか」



武内P「…………」

武内P「……どうぞ、こちらに」スッ
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:53:05.91 ID:LQd6uuhx0
子供「うええぇぇぇ……!」ボロボロ



樹里「おいっ! 大丈夫か!?」ガシッ!

子供「ひっ!?」ビクッ

樹里「あ……悪ぃ、脅かせちまって」


樹里「ママと迷子になっちまったのか?」

子供「……」コクッ

樹里「んーと、じゃあ……どっちから来たか、分かるか?」

子供「……」フルフル


樹里「うーん……」ワシャワシャ

樹里「悩んでてもしょうがねぇ、とにかくママを探しに行かねーとな。
   ほら、アタシがついてやっから、手」スッ

子供「うん……」ギュッ
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:53:48.78 ID:LQd6uuhx0
樹里「つっても……」


ガヤガヤ…  ゾロゾロ…


樹里「どうやって探すかなぁ……と、とりあえず……」コホン

樹里「あ、あのー!!」


オォォ…?  ドヨドヨ…


子供「……?」

樹里「こ、この子のお母さんはいませんかー!?」
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:55:05.04 ID:LQd6uuhx0
…? ……?

ザワザワ…


樹里(……くっ。反応ナシかよ、つめてーな)

樹里「すみませーん!! この子のお母さんいませんかー!!」

樹里「すみませーーん!!」


子供「……」



樹里「……クソッ。場所変えるか」

子供「うええぇ……ママぁ……」グスッ


樹里「……大丈夫だ!」ガシッ

子供「ふぇっ?」


樹里「ここはアタシが何とかしてやる!」
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:56:06.81 ID:LQd6uuhx0
樹里「うっし! こうなりゃ手段なんて選んでらんねー」パシッ!

樹里「おい、肩車するぜ。乗れ」スッ

子供「えっ……うわぁっ!?」

樹里「よっ!と ……どうだ?」


子供「わああぁぁぁ……!」

樹里「たけーだろ?」ニカッ

子供「すごーい!! たかいたかーい!!」ワタワタ

樹里「うわっ!? バッ、こ、こらっ! 暴れんなっ!!」


樹里「よし、じゃあ行くぜ!」
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:57:02.31 ID:LQd6uuhx0
樹里「すみませーーん!! この子のお母さんいませんかー!!」

子供「いませんかー」キャッキャ


ザワザワ…!  オオォ…


樹里「この子のお母さんいませんかー!?」

樹里「すみませーーん!!」



ザッ…

咲耶「……おや? あれは」



樹里「この子のお母さんを探してまーす!! いませんかー!!」



咲耶「……フフッ。賑やかなことだね」ニコッ
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:58:12.34 ID:LQd6uuhx0
〜舞台裏 控え室〜

スタッフ「それじゃあ、あと15分ほどで開演になりますので」

楓「分かりました」



ガヤガヤ…  ザワザワ…


楓「……?」

スタッフ「……向こうが騒がしいですね。ちょっと様子を見てきます」

楓「はい」



ドタドタ…!


楓「……まぁっ」


樹里「か、楓さんっ!」ザッ
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 20:59:41.47 ID:LQd6uuhx0
樹里(うわっ、ステージ衣装……)

樹里(改めて見ると……すっげぇ美人、だな)


楓「樹里ちゃん。その、肩車している子供は、一体……?」

樹里「いや、その……迷子になっちまったみたいで…」

子供「わーい」キャッキャ

樹里「だぁーもう、暴れんなって!」

楓「ふふっ。迷子にしては、楽しそうですね」ニコッ

樹里「何も楽しいことなんか……!」


樹里「そ、そうだ! ウチのプロデューサー、どこに行ったか知りませんか!?」

楓「? ……そう言えば、先ほどから姿が見えませんね」

樹里「はあぁ!? アイツ、肝心な時にどこ行ってんだよ!」

樹里「……まぁ急に飛び出しちまったアタシもアタシだけどよ」
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:01:00.32 ID:LQd6uuhx0
子供「おねーちゃん、もっとー」ワタワタ

樹里「うおっ、とと……!」

樹里「ったく、こっちが気ぃ利かせてママを探してやってんのに、暢気なもんだぜ。
   すっかり泣き止んじまって」

楓「ママ、ですか……」

樹里「ずっとその辺を探し回っているんですけど、全然見つからなくて」

樹里「中は粗方回ってきたから、ひょっとすると会場の外か?
   そうなったら、もうキリが無くなってくるぜ……!」


楓「……樹里ちゃん」

樹里「え? はい」


楓「私に、ちょこっと良い考えがあります」
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:02:42.88 ID:LQd6uuhx0
〜会場外〜

テクテク…

未央「ねぇーしぶりーん、やっぱ止めといた方が良いって」

凛「何が」

未央「いくらジュリアンの様子が気になるったって……」

卯月「私達が見に来ている所を樹里ちゃんに見つかったら、
   346プロとの繋がりとか、疑われちゃうんじゃあ……!」ハラハラ


凛「私達はどこかの小さな事務所の、ただのアイドル候補生」

凛「それで、たまたま346プロのトップアイドル、高垣楓さんのミニライブの情報を聞きつけて……
  その……敵情視察? っていうのに来ただけだから」

未央「その“たまたま聞きつけて”っての、ちょっと無理ない?」

凛「と、とにかく! 今日の私達は樹里じゃなくて、楓さんを見に来たってこと」

卯月「チケットを持ってなくて、関係者でも無いはずの私達が、
   楓さんを見れるわけでもないような気が……」
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:04:07.73 ID:LQd6uuhx0
凛「……ふーん。未央も卯月も、そうやって私にイジワル言うんだ」

未央「うわわっ!? ち、違うってしぶりん!」アタフタ

卯月「私達は、ちょっと色々と、心配と言いますか……ねっ、未央ちゃん!?」アセアセ

凛「もう……」ハァ…

凛「でも、確かに、楓さんと樹里を堂々と見れるシーンが、そう都合良く……」


凛「……?」ピタッ

未央「ん?」
卯月「あれ……?」


ザワザワ…!  オオォォ…!



楓「お騒がせしております。高垣楓と、その迷子のお客さんでーす♪」テクテク

樹里「み、道を空けてくださーい! 押さないでー!」

子供「わーい♪」キャッキャ



凛・未央・卯月「いるー!!?」ガビーン!
229 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:05:44.94 ID:LQd6uuhx0
楓「樹里ちゃんの言う通りでーす♪」

楓「お騒がせしている当事者が言うのもなんですが、
  どうか沿道の皆様、交通の邪魔にならないよう」

楓「おさない、かけない、しゃべらないの“お・か・し”を守ってくださいねー♪」

通行人「しゃべらなかったら迷子探せなくないですかー!?」

楓「あ、それもそうですね。じゃあ、おしゃべりはオッケーでーす♪」

アハハハハ…!



未央「か、楓さんが……メガホン持って歩いてる」

卯月「しかもアレ……ステージ衣装、でしょうか? 綺麗……」

卯月「でも、すごく楽しそうですっ」

未央「これは遠巻きに見に行くしかないっしょ! ねぇしぶりん!?」

凛「さっきと言ってること違くない?」


凛(しかも、樹里も一緒……肩に乗っているのは、子供?)
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:06:59.18 ID:LQd6uuhx0
ガヤガヤ…!

樹里「か、楓さん、やっぱマズいですってこういうの!」

樹里「うわっ、すっげぇ人集まってきてる……!」

楓「えぇ。プロデューサーがいなくて、良かったかも知れません」

樹里「えっ?」


楓「いたらたぶん、止められちゃうでしょうから」クスッ

樹里「い、いやいやいや! じゃあ止めましょうって!」

楓「ユウちゃん」チラッ

子供「なーにー?」

楓「ユウちゃんは今、楽しいですか?」

子供「うんっ! おねえちゃん、あそんでくれてたのしいー!」ワタワタ

樹里「暴れんなっつーの!」

楓「そう。それは良かったです」ニコッ

樹里「だから良くないって!!」プンスコ!
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:08:02.90 ID:LQd6uuhx0
タタタ…!


楓「……あら?」



母親「ゆ、ユウちゃん……!」


子供「あ、ママー!」フリフリ

樹里「おぁ!? 見つかったのか!?」


母親「ユウちゃんっ!」

子供「ママー!」ジタバタ

樹里「おーよしよし、今降ろしてやっから」スッ


母親「ああユウちゃんっ! ごめんね、怖かったよね……!」ギュゥッ

子供「ううん、すっごくたのしかったー!」

母親「えっ?」
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:09:24.50 ID:LQd6uuhx0
子供「あのおねえちゃんが、ずっといっしょにあそんでくれたの!」


樹里「……? あ、アタシ!?」ドキッ

子供「かたぐるまして、たかいたかいして、あそんでくれたの!」

樹里「いやいや! アタシは遊びでやってた訳じゃ…!」

母親「あぁ! あの、本当に……本当にありがとうございます!
   ご迷惑をお掛けして、なんとお礼を言ったらいいのか……!」ペコペコ

樹里「や、やめてください!
   アタシはただ、その子をなんつーか、えーっと……!」

楓「ふふふっ♪」ニコニコ


「迷子だったのか」「あの金髪の子が探してあげてたんだって」「へぇー」

パチパチパチ…!
233 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:10:57.71 ID:LQd6uuhx0
卯月「……樹里ちゃんが、迷子になった子のお母さんを、探し回っていたんですね」

未央「ファンの人達や、通行人の人達も……なんだか皆、楽しそう」

卯月「はいっ。とっても素敵な笑顔です」

凛「…………」



子供「あそんでー」クイクイ

樹里「だぁー、やめろ! ほら、用が済んだならママんとこ行けって」

楓「……あら、もう開演の時間ですね。ただ、この靴だと急いで走るのが……」

楓「樹里ちゃん、私も会場まで抱っこしてくれませんか?」

樹里「さっきから無茶しか言わねぇなアンタ!?」

楓「女はいつでもダダッコ、なんて、ふふふっ♪」ニコニコ

樹里「あーもう、疲れる!!」ワシャワシャ!



凛「……ふふ、楽しそう」ニコッ

咲耶「ああ、まったくだ」フッ


凛「……!?」ビクッ
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:12:29.13 ID:LQd6uuhx0
咲耶「おっと、すまない。驚かせてしまったかな?」

凛「……あなたは」


未央「あ、この人! 確か283プロの……!」

卯月「ホームページで……白瀬咲耶さん、ですか?」

咲耶「おや? 光栄だ、私を知ってくれていたとはね」

凛「……ここで何をしているんですか?」

咲耶「何てことはないさ、ただの通りすがりだよ」


咲耶「君達の方こそ、彼女達に何か用が?」

凛「! それは、その……」


卯月「わ、私達はっ!
   えーっと、どこかの小さな事務所の、ただのアイドル候補生でして……!」アセアセ

未央「たまたま! その、346プロのトップアイドル、高垣楓さんのミニライブの情報を、き、聞きつけて……!
   何だっけ、そう、敵情視察! 敵情視察をしに来たっていうか!」アタフタ

未央「でいいんだよね、しぶりん!?」

凛「言い方以外はね」ハァ…
235 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:13:35.40 ID:LQd6uuhx0
咲耶「何も取り繕う必要はないさ、渋谷凛」

凛「!」

咲耶「君達のことも知っている。346プロの、本田未央、島村卯月」

咲耶「961プロの西城樹里が、気になっているのだろう?」

卯月「ど、どうしてそれを……」

咲耶「かくいう私も、同じだからね。樹里のことが、気になって仕方がないんだ」

凛「……楓さんではなくて、樹里を?」


咲耶「ミニライブの様子を見たいのなら、考えがある。
   私についてきてくれないかい?」
236 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:14:53.30 ID:LQd6uuhx0
〜路地裏〜


ドサッ…!

黒服B「うっ……う……」ピクピク


武内P「先に仕掛けてきたのは、あなた達の方です」

黒服A「…………ぐ」


武内P「答えていただきます」

武内P「誰の依頼を受けて、あなた方が私を襲いに来たのか……
    西城さんに干渉しようとしているのかを」


黒服A「…………」

黒服A「……言うと、思うのか?」ニヤッ


武内P「いいえ」

武内P「裏の人間になど、何も期待はしていません」スゥ…


ドスッ…!
237 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:16:23.18 ID:LQd6uuhx0
〜ミニライブ会場〜

ガヤガヤ…


楓「少し、遅れちゃいましたね」

樹里「ったく……いくらなんでも、無茶苦茶ですよ」

楓「でも、あの子のお母さんは、見つかりました」


楓「ありがとうございます、樹里ちゃん」

樹里「へ?」


楓「ここは、私がアイドルになって、初めて立ったステージなんです」

樹里「……!」


楓「きっとあの子も、樹里ちゃんに見つけてもらうまで、心細くて、不安だったと思います」

楓「あのままだと、きっとこの会場が……
  あの子にとって暗く、悲しい思い出になってしまっていたでしょう」

楓「私にとっての、大切な場所が……ね」
238 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:18:13.12 ID:LQd6uuhx0
樹里「楓さん……」

楓「あの子は、楽しかったと言っていました」

楓「樹里ちゃんが一緒についてくれて、遊んであげたことで……
  あの子にとってもまた、この会場が素敵な場所となった」

楓「その事が、私はとても嬉しいんです」


楓「毎年行っているこのミニライブは、私がファンの方々へ送る、恩返しの場」

楓「でも、今日はもう一つ、お返しをさせてください、樹里ちゃん。
  お席を一つ、ご用意しました」

樹里「……あ、アタシに、ですか?」

楓「はい」ニコッ


楓「樹里ちゃんのおかげで、今日はより一層、心を込めて歌えそうです」
239 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:19:26.73 ID:LQd6uuhx0
ワアアァァァァァァ!!!


楓「〜〜〜〜♪ 〜〜〜〜〜♪」

楓「〜〜〜〜〜♪ 〜〜〜〜〜〜♪」



樹里「……すっげぇ」


樹里「…………」



 ――今日は、開演が少しだけ遅くなってしまい、すみません。

 ――ご存知の方も、おられるかも知れませんが……
    このミニライブが始まる前、とても素敵なことがありました。

 ――小さい子供の、綺麗な思い出を守ってくれた、私の友人へ。

 ――そしてもちろん、今日来てくれたファンの皆様にも、
    心ばかりの感謝を届けたいと思います。

 ――楽しんでいってください。
240 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:20:24.07 ID:LQd6uuhx0
樹里「感謝、か……」


ワアアアアァァァァァァ!!! パチパチパチパチ…!!


楓「ありがとうございました」ペコリ

ファン「ありがとー!!」「最高だったよー!」「楓さーん!!」

楓「ふふ、ありがとうございます」フリフリ

ワアアアァァァァァ…!!



樹里「……」パチパチ


武内P「いかがだったでしょうか」ヌッ

樹里「おわっ!?」ビクッ

武内P「高垣さんのステージは」
241 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:22:08.89 ID:LQd6uuhx0
樹里「……アタシ、アイドルって、もっとアイドルだけが頑張るもんだと思ってた」

樹里「いや、頑張るってのはちげーな。何つーか……
   アイドルがお客さんを引っ張って、一方通行で盛り上げたり、楽しませるもんだって」

武内P「…………」


樹里「でも……楓さんのステージは、違う気がした」

樹里「そりゃあ、歌はすげー上手いし、圧巻って言うしかねーんだけど……」


樹里「ファンの人達も、このステージを一緒に良くしていこうって……
   盛り上げていこうって気持ちが伝わってきて」

樹里「楓さんも、独りよがりなんかじゃなくて、
   ずっとファンに寄り添って、思いやってるっていうか……」

樹里「ファンがいてこそのアイドルなんだな……
   お互いがお互いを、尊重し合ってる、って感じがした」


武内P「……はい」ニコッ


樹里「で、アンタは今までどこほっつき歩いてたんだよ」

武内P「申し訳ございません。少々、別件が入ってしまいまして」
242 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:23:24.93 ID:LQd6uuhx0
樹里「ったく……おかげでこっちは大変だったんだからな?」

武内P「大変失礼致しました」ペコリ



パチパチパチ…!

凛「……凄かったね」

咲耶「まるで、遙か青空の彼方に誘われていたかのような、清らかで美しい歌声だ」

咲耶「歌姫の名に恥じない、素晴らしいステージだったね」

未央「うええぇぇぇ……楓さん、最高だったよぉ……!」ボロボロ

卯月「凄すぎますぅ! 歌上手すぎてぇ……!」パチパチパチ

咲耶「おやおや。
   フフッ、そんなに賑やかにしていたら、変装がバレてしまうよ」


凛「関係者を装って、会場に潜り込むなんて……」

咲耶「ちゃんと業界用のスタッフ証は持っていた。
   こういう時のために、社長からある程度の数を預かっていて良かったよ」

凛「でも!」
243 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:25:38.98 ID:LQd6uuhx0
咲耶「褒められた行いではないのは、理解しているさ」

咲耶「それに、こう言ってはなんだが……
   凛達も、正規の手段でこの観客席へ入ることが難しい身だったんじゃないか、ってね」

凛「…………」


咲耶「樹里を見守るという志を同じくする者同士、この出会いを得難きものにしたい。
   良かったら、もう少し話をしていかないかい?」

咲耶「私に対し、不信感を抱いているとすれば、その払拭もしたいからね」

未央「ふ、不信感だなんて、そんな……」

凛「そうだね」


凛「何で樹里を気にしているのか、聞かせてよ」

咲耶「ありがとう。凛はとても真っ直ぐで美しいね」

咲耶「もちろん、私も腹を割って話させてもらうよ。
   そうでなければ、凛達に失礼だ」

凛「お互い、小細工は無しってことでいい?」

咲耶「生憎、策を弄するほどの余裕は無くてね」フッ
244 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/02/19(日) 21:27:21.28 ID:LQd6uuhx0
ガヤガヤ…

武内P「本日は、お疲れ様でした」ペコリ

楓「こちらこそ、とても良いステージができて、嬉しく思います」

武内P「恐れ入ります。それでは、私共はここで失礼致します」

楓「はい」


樹里「あ、あの……」

楓「樹里ちゃん、どうかしましたか?」


樹里「楓さん、その……ありがとうございました」ペコリ

樹里「アイドルが何なのかを教わったっつーか……
   ファンと一緒に楽しむ事の大切さ、みたいなモンを、今日のステージで感じました」

樹里「それと……346プロにも、こういう人がいるんだな、って」


楓「ふふ、ありがとうございます」

楓「またいつか、一緒にお仕事しましょうね」ニコッ

樹里「……はいっ」
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