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侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part3
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133 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/16(月) 17:56:27.51 ID:xLULnzaZ0
ランジュ「じゃあ、なんで倒れてないのよ!」
リナ『それは簡単。回復したから』 || ╹ᇫ╹ ||
ミア「What?! “どくけし”でも使ったって言うのか!?」
リナ『違う』 || ╹ᇫ╹ ||
しずく「サーナイト……“いやしのすず”」
「サナ〜♪」
私が指示をすると──サーナイトが周囲に心地の良い鐘の音を響かせる。
ランジュ「……まさ……か……」
しずく「……そうですよ……。……私が叫んだのは──“いやしのすず”の音をランジュさんに気付かれないように、掻き消すためです……」
ランジュ「じ、じゃあ……メガサーナイトが苦しそうにしてたのは……」
しずく「もちろん……演技ですよ」
「サナ」
しずく「私のポケモンたちは……ポケモン演劇の稽古を旅の合間に行っています。……“もうどく”で苦しむ演技なんて、簡単ですよ」
ランジュ「………………」
ランジュさんは、それを聞いて項垂れる。
だけど──
ミア「……そんなの反則だろ!!」
ミアさんが怒鳴り込んでくる。
ミア「トレーナーが“いやしのすず”の音を大声で掻き消して、相手にバレないようにしただって!? そんなの聞いたことないし、トレーナーがポケモンバトルに介入するのは反則だろ!!」
ランジュ「……ミア、いいわ。……ランジュの負けよ」
ミア「いいわけないだろ!! こんなのポケモンバトルの判定としておかしい!!」
ランジュ「いいからっ!!」
ミア「……!」
ミアさんの言葉に、強い語気でランジュさんが言葉を返す。
ランジュ「……負けは負けよ」
ミア「……」
ランジュさんはゆっくりと立ち上がって──
ランジュ「……これで……2勝1敗……。……次の龍脈の地で……待ってるわ」
そう残し、ランジュさんは踵を返して、
ランジュ「ジジーロン……飛んで」
「──ジーロン」
ボールから出したジジーロンの背に飛び乗る。
ミア「あ、おい!! ランジュ……!!」
ミアさんはそれを追うようにジジーロンの背に飛び乗り──二人はグレイブマウンテンを去っていったのだった。
どうにか──勝てた。……安心した瞬間──
134 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/16(月) 17:58:33.36 ID:xLULnzaZ0
しずく「…………げほっ!! ごほっ!!」
喉の違和感から、激しく咳き込み、その場に蹲る。
かすみ「しず子……!?」
かすみさんが駆け寄ってくる。
しずく「ごほっ、げほっ……!! がはっ……!!!」
激しい咳と共に吐き出された唾液が──グレイブマウンテンの雪を赤く染めた。
しずく「あ、あれ……」
かすみ「……!? 血!? しず子、血吐いてる……!?」
気付けば、呼吸も苦しい。喉が痛くて、うまく息が出来ない。
しずく「げほっ……ごほっ……」
歩夢「しずくちゃん、落ち着いて……! 深く、ゆっくり息をして……!」
駆け寄ってきた歩夢さんが、私の背中をさすりながら言う。
しずく「……はぁ…………はぁ…………すぅー…………はぁー…………」
歩夢「そう、ゆっくり……ゆっくりね……。吸うよりも、吐くことを意識して……苦しくないよ……」
かすみ「しず子……」
せつ菜「しずくさん……」
かすみさんとせつ菜さんが私の手を握る。
侑「しずくちゃん……よく頑張ったね。ありがとう」
しずく「侑……先輩……けほっ……けほっ……」
侑先輩は──優しく、私の頭を撫でる。
栞子「しずくさん……ありがとうございます……。……こんなになるまで……」
そして、栞子さんが青い顔をしながら言う。
しずく「うぅん……だい、じょうぶ……けほっ……」
侑「とにかく、この寒さと乾燥だと喉にも良くないよね……一旦移動しよう」
かすみ「はい! しず子、アーマーガア出せる……?」
せつ菜「私は毛布を準備しますね……! 出来れば寝かせて運んであげた方がいいでしょうし……!」
しずく「そこまで、して……いただかなくても……けほっけほっ……ごほっ……!!」
かすみ「いいから……!」
しずく「う、うん……」
135 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/16(月) 17:59:46.76 ID:xLULnzaZ0
🎹 🎹 🎹
──ツシマ研究所。
善子「しばらく安静にしてなさい。声帯から出血してる。どんな無茶な発声したらそうなるのよ……。悪化するとポリープになるわよ。そうなったら困るでしょ。極力喋らないように」
しずく「────」
ヨハネ博士の言葉に、しずくちゃんが無言で頷く。
かすみ「あ、あの……しず子……大丈夫……なんですよね……?」
善子「ええ。大声の出し過ぎで、声帯が一時的に損傷してるだけ。安静にしてればすぐによくなるわ」
かすみ「よかった……」
侑「とりあえず……しずくちゃんはここで安静にしてた方がいいかな……」
せつ菜「そうですね……。無理をして悪化させてもよくないでしょうし」
しずく「────」
私たちの言葉にしずくちゃんが両手を顔の前で合わせて、「ごめんなさい」の意を示してくる。
かすみ「その間、かすみんが看病します……!」
善子「まあ、おかしいのは喉だけだから、あんまり大袈裟に考えなくてもいいけどね。部屋は自由に使っていいから、しっかり休みなさい」
かすみ「ありがとうございます……ヨハ子博士……」
善子「気にしなくていいわよ。あと、ヨハ子じゃなくてヨハネだからね」
そう言い残して、ヨハネ博士は部屋を出て行った。
侑「それじゃ……次の場所へは、4人で行こうか」
「ブイ」
歩夢「栞子ちゃん、反応はどっち方面?」
栞子「えっと……東です。……それに反応も近い」
せつ菜「ここから東にあるパワースポットらしき場所となると……」
歩夢「……太陽の花畑……!」
リナ『だね。それで、次は誰が戦う?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「私か歩夢だけど……」
果たしてどちらが先に行くべきかだけど──
136 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/16(月) 18:00:21.29 ID:xLULnzaZ0
歩夢「……私が戦う」
予想外にも、歩夢が自分から名乗り出た。
歩夢はあんまり積極的にバトルに臨むタイプではないから、ちょっと意外だった。
歩夢「太陽の花畑なら……私が一番知ってるし……。……それに大将を任せるなら侑ちゃんの方がいいと思う」
リナ『まあ、そうかもね。大一番は侑さんの方が向いてる』 || ╹ ◡ ╹ ||
確かに……大将戦は一番プレッシャーが掛かる場所だろうしね。
歩夢よりもバトル慣れしている私の方がいいのは、そうなのかもしれない。
侑「それじゃ歩夢、お願いね!」
歩夢「うん! 頑張るね!」
しずくちゃんの頑張りによって、どうにかグレイブマウンテンでの中堅戦に勝利し──私たちはこれで3戦1勝2敗。首の皮一枚繋がった。
さあ次は、太陽の花畑で歩夢の副将戦だ──
137 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/16(月) 18:00:52.30 ID:xLULnzaZ0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【セキレイシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
138 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/16(月) 18:01:26.13 ID:xLULnzaZ0
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.82 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.79 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.80 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.77 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドラパルト♂ Lv.78 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
フィオネ Lv.74 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:278匹 捕まえた数:12匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.68 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.69 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.65 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
トドゼルガ♀ Lv.64 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラージェス♀ Lv.64 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
ウツロイド Lv.73 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:257匹 捕まえた数:24匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.84 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロアーク♀ Lv.78 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
マッスグマ♀ Lv.75 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニゴーン♀ Lv.75 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ダストダス♀✨ Lv.74 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
ブリムオン♀ Lv.76 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:301匹 捕まえた数:15匹
主人公 しずく
手持ち インテレオン♂ Lv.69 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
バリコオル♂ Lv.68 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アーマーガア♀ Lv.68 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロズレイド♂ Lv.68 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
サーナイト♀ Lv.69 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
ツンベアー♂ Lv.69 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:282匹 捕まえた数:23匹
主人公 せつ菜
手持ち ウーラオス♂ Lv.79 特性:ふかしのこぶし 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
ウインディ♂ Lv.87 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
スターミー Lv.83 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
ゲンガー♀ Lv.85 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
エアームド♀ Lv.81 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
ドサイドン♀ Lv.84 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:205匹 捕まえた数:51匹
主人公 栞子
手持ち ピィ♀ Lv.11 特性:メロメロボディ 性格:やんちゃ 個性:かけっこがすき
ウォーグル♂ Lv.71 特性:ちからずく 性格:れいせい 個性:かんがえごとがおおい
ウインディ♀ Lv.70 特性:もらいび 性格:さみしがり 個性:のんびりするのがすき
ゾロアーク♂ Lv.68 特性:イリュージョン 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
イダイトウ♀ Lv.68 特性:てきおうりょく 性格:さみしがり 個性:にげるのがはやい
マルマイン Lv.68 特性:ぼうおん 性格:きまぐれ 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 0個 図鑑 未所持
侑と 歩夢と かすみと しずくと せつ菜と 栞子は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
139 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/16(月) 23:02:00.32 ID:xLULnzaZ0
■Intermission🔔
ミア「おい、ランジュ……!」
ジジーロンで飛行する中、ミアが声を荒げながら、ランジュの肩を掴む。
ランジュ「……何?」
ミア「何? じゃないだろ……! どうして、負けを認めたんだ……!」
ランジュ「……だから言ったでしょ。負けは負けよ」
ミア「あの戦いは相手の反則負けでもおかしくなかった。ランジュの目的はレックウザなんだろ? なら、判定勝ちして、レックウザを捕獲する権利を得るべきだったんじゃないか?」
ランジュ「……それじゃ、ダメなのよ」
ミア「Why?」
ランジュ「相手がちょっとズルをした程度でそれに文句を言ってるようじゃ……足りないの」
ミア「……足りない?」
ランジュ「ランジュは──圧倒的な力で、レックウザを従えないといけないんだから……」
ミア「……」
ミアはランジュの言葉を聞いて、少しの間、黙っていたけど──
ミア「なら……これ以上負けるようなことになるなよ? ボクの育てたポケモンを使ってるんだ……ランジュには、ボクのブリーダーとしての腕を証明してもらわないと困るんだ」
ランジュ「わかってる。……次は、絶対に負けないわ」
ランジュは、“みどりいろのたま”を握りしめて──次の龍脈の地を目指すのだった。
………………
…………
……
🔔
140 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/17(火) 12:07:38.46 ID:8ywSMszf0
■ChapterΔ007 『合戦の花畑』 【SIDE Ayumu】
──ポケモンバトルというものが、別段嫌いなわけではなかった。
ただ、どうしても画面の向こうで起こっている事というか……自分がその場に立つというのをなかなか想像出来なかった。
侑ちゃんと旅をして、失敗して、挫折して、諦めそうになって……。でも、大切な人たちを守るためには……蹲って、怖がって泣いているだけじゃダメだって、そんな当たり前のことに気付いて──私は戦うことを選んだ。
ただ……そうは言っても、私は必要に駆られないのであれば、可能な限り戦わない方がいいと思っている。
だから、あの旅にひと段落付いた後は、実は一度もポケモンバトルらしいバトルをした覚えがなかった。
もちろん、野生のポケモンと戦うことくらいはあったけど……。
だから、今回の私たちのチームでの五番勝負も、出来ることなら私の番が回ってくる前に終わって欲しい──無意識の内に、そんな甘いことを考えていたと思う。
ただ……しずくちゃんの戦っている姿を見て、考えが変わった。
あんなにボロボロになるまで戦ってくれたしずくちゃんを見て、私は出来れば戦いたくないなんて……思えるわけない。
歩夢「しずくちゃんの繋いでくれたバトンを──私が侑ちゃんに繋ぐんだ……」
私はそう独り言ちながら──太陽の花畑へ向かう。
🎀 🎀 🎀
──グレイブマウンテンでの戦いを終え、ツシマ研究所で一晩過ごした私たちはその翌日、太陽の花畑へと訪れていた。
栞子ちゃんの持っている“もえぎいろのたま”は当然のように、大輪華・サンフラワーの方へ反応を示し……そこには既に、
ランジュ「……来たわね」
ランジュちゃんたちが待っていた。
ランジュ「……次にランジュの相手をするのは……どっち?」
ランジュちゃんが私と侑ちゃんを順に見る。
なんだか……ランジュちゃんはすごくピリピリしていた。
しずくちゃんに負けたのは本当に予想外だったみたいだから……ある意味、当然なのかもしれない。
歩夢「私だよ」
ランジュ「……歩夢、貴方ね」
私は一人、前に歩み出て、ランジュちゃんと相対する。
栞子「歩夢さん……! 頑張ってください……!」
せつ菜「歩夢さん、ファイトです!!」
侑「歩夢……! お願いね!」
リナ『歩夢さん、ファイトー!!』 || > ◡ < ||
みんなの応援を受けながら、
歩夢「うん、任せて!」
141 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/17(火) 12:08:10.16 ID:8ywSMszf0
力強く頷く。
ランジュ「……勝つつもりなのね」
歩夢「うん。負けないよ」
私の言葉を聞くと、ランジュちゃんはスッと目を細める。
ミア「ランジュ、今回のポケモン」
ランジュ「ええ」
ランジュちゃんが例の如く3匹のポケモンをミアちゃんから受け取り──ランジュちゃんがボールを構える。
そのとき、なんとなくだけど──ランジュちゃんが構えているボールに入っているポケモンが……じめんタイプな気がした。
ランジュ「さぁ、始めるわよ……!!」
お互いのボールが花畑のフィールドの中に、放たれた──
🎀 🎀 🎀
ランジュ「行きなさい、カバルドン!!」
「──バルドン…」
ランジュちゃんの1匹目、カバルドンがボールから飛び出すと同時に“すなおこし”で“すなあらし”が発生する。
やっぱり、じめんタイプだった……!
対して私が繰り出したのは──
歩夢「お願い、トドゼルガ!」
「──ゼルガァ…!!!」
トドゼルガだ。
相性は有利……!
歩夢「“ハイドロポンプ”!」
「ゼルガァーー!!!!」
トドゼルガが先に動いて、強烈な水流でカバルドンを攻撃する。
「バルドン…」
カバルドンは攻撃を受けながら、
ランジュ「“ステルスロック”!」
「バルドン…」
カバルドンが全身の穴から、鋭い岩を噴き出し、それが周囲に漂い始める。さらに“オボンのみ”を食べて体力の回復をしているのが見える。
そして“オボンのみ”を食べ終わった直後──カバルドンが口を開けて息を吸い込むのが見えた。
──あの子……“あくび”しそう……。
歩夢「“アンコール”!」
「ゼルガ」
142 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/17(火) 12:09:07.93 ID:8ywSMszf0
トドゼルガが上半身を持ち上げ、パチパチと手を打ち鳴らし始める。
すると、
「バルド…」
カバルドンは再び“ステルスロック”を発射し始める。
“アンコール”は相手の直前にした行動を繰り返させる技。
歩夢「ほ……。……“あくび”されたら、眠っちゃうところだったね」
「ゼルガ」
ランジュ「……読まれてる……。戻りなさい、カバルドン」
「バルドン──」
ランジュちゃんがカバルドンをボールに戻し、次のボールを手に持つ。
歩夢「…………」
その瞬間、肌がピリピリとし、毛が逆立つような感覚がした。
でんきタイプ……とは違う。威圧的な存在感を持つタイプ──ドラゴンタイプな気がする。
ランジュ「カイリュー!!」
「──リューー!!!」
歩夢「“れいとうビーム”!!」
「ゼルガァ!!!」
ランジュ「な……!?」
「リュゥ…!!」
歩夢「やった! やっぱり、ドラゴンタイプだった……!」
カイリューは苦手な“れいとうビーム”を受けて、苦しそうに呻き声をあげる。
ランジュ「よ、読まれてる……!? なんで……!?」
🎹 🎹 🎹
せつ菜「歩夢さん……すごいです……! 悉く読みが当たっています……!」
リナ『読みというか……たぶん、勘……』 ||;◐ ◡ ◐ ||
リナちゃんの言うとおり、歩夢の場合は戦術的な読みというよりは……たぶん、勘だと思う。
歩夢のポケモンに対する第六感とも言える勘は、あの戦いが終わった後も、日に日に強くなっている気はしていたけど……。
侑「私たちには真似出来ない戦い方かも……」
栞子「すごいです、歩夢さん……! ランジュに対して、優勢を取っています……!」
リナ『ただ──歩夢さんの能力は、弱点もある』 ||;◐ ◡ ◐ ||
せつ菜「弱点……ですか?」
侑「歩夢がわかるのは……あくまでポケモンのことだけだから……」
143 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/17(火) 12:09:52.62 ID:8ywSMszf0
歩夢は無意識に自分の勘に頼りがちだから……そこが戦うときの弱点になることがある。
特に今回のルールでは──
🎀 🎀 🎀
ランジュ「“ばかぢから”!!」
「リューーーッ!!!!」
「ゼルガァ…!!!?」
歩夢「きゃぁっ!!?」
トドゼルガの攻撃を受けた途端、カイリューの攻撃力が著しく上昇し、トドゼルガを一撃で吹き飛ばす。
歩夢「き、急に攻撃力が上がった……!? な、なんで……?」
「ゼ、ゼルガァ…」
歩夢「戻って、トドゼルガ……!」
私は焦ってトドゼルガをボールに戻す。
ランジュ「貴方……あれだけ読みを通していたのに、“じゃくてんほけん”のこと、知らないの……?」
歩夢「“じゃくてん……ほけん”……?」
私が首を傾げると──
侑「歩夢ー!! 弱点の技を受けたときに、自分の攻撃能力を上げる持ち物のことだよー!」
と、後ろから侑ちゃんが教えてくれる。
歩夢「そ、そういうのもあるんだ……」
持ち物のことはよくわからなかったから、トドゼルガにはあの子が好きな“フィラのみ”を持たせていたけど……一撃で倒されちゃったから、食べる暇もなかった。
せつ菜「歩夢さん! 焦らないでください! ちゃんと相手に十分な削りは入れられていますよ!」
せつ菜ちゃんの言葉に頷き、私は一度息を吸って心を落ち着ける。
トドゼルガは倒されちゃったけど……まだ全然挽回出来る。
歩夢「……よし! 行くよ、フラージェス!」
「──ラージェス」
フラージェスがボールから飛び出すのと同時に、周囲を漂っていた鋭い岩がフラージェスに向かって突き刺さりそうになるけど──気付けば、フラージェスに向かって飛んでくる岩との間に、たくさんの花びらが浮遊し、纏わりつくようにして、岩の動きを止めていた。
ランジュ「……!」
歩夢「ここはこの子が生まれ育ったお花のフィールドだから……ここのお花はフラージェスの味方」
「ラージェス」
フラージェスは花を操って戦うポケモン。
私がここ太陽の花畑での戦いを選んだ理由は、フラージェスの力を最大限に発揮出来るからだ。
お花たちの力を少しでも発揮できるように、持ち物も“きせきのタネ”を選んだ。“きせきのタネ”はくさタイプの技の威力を上げるアイテムだと、侑ちゃんが教えてくれた。
ランジュ「面白い戦い方するじゃない……! カイリュー! “アイアンテール”!!」
「リューーーッ!!!」
144 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/17(火) 12:10:24.95 ID:8ywSMszf0
カイリューが、フェアリータイプのフラージェスが苦手なはがねタイプの技で攻撃してくるけど──
ザァァァッと、大量の花びらたちが集まってきて、
「リューーーッ!!!!」
振り下ろされる、鋼鉄の尻尾を、ボフンッと音を立てながら受け止める。
ランジュ「……く……花の量が多すぎる……」
ここは一面見渡す限り花しかない。花たちはフラージェスを守ってくれるから、本来は苦手だけど、物理攻撃に偏っているはがねタイプも怖くない。
もちろん、ランジュちゃんもそれはすぐに判断したようで──
ランジュ「なら、焼き払うだけよ!! カイリュー!! “かえんほうしゃ”!!」
「リューーーッ!!!」
歩夢「! いけない! フラージェス!」
「ラージェスッ!!!」
カイリューがお花たちに向かって、口から炎を吐き出した瞬間──お花たちはザァァァッと道を開けるようにその場から離れ、代わりにフラージェスが、“かえんほうしゃ”に向かって突っ込んでいく。
ランジュ「什么!?」
歩夢「“ひかりのかべ”!」
「ラージェスッ!!!」
特殊攻撃を弱める障壁を展開し、炎を散らして防御する。
フラージェスとお花は共生関係にある。お花はフラージェスを守ってくれるし、フラージェスもお花を守る。
フラージェスが攻撃を防ぐと同時に──四方八方に散ったお花はカイリューの上下左右から回り込むように迂回し、
歩夢「“はなふぶき”!!」
「ラーージェスッ」
「カイ、リューー…!!!」
カイリューに向かって突撃していく。
ドラゴンタイプとひこうタイプを持つカイリューにはそこまで効果的な威力は出ないものの、その物量でカイリューの動きを鈍らせる。
ランジュ「く……“ぼうふう”!!」
「リューーーッ!!!!」
「ラージェス…!!」
歩夢「きゃ……!?」
だけど、カイリューは翼を振るって“ぼうふう”を起こし、周囲の花を吹き飛ばす。
吹き飛ばされたお花は、すぐにUターンしてカイリューに向かっていくけど──巻き起こされる強風によって、一定距離までしか近付けない。
歩夢「なら……! “にほんばれ”!」
「ラージェス」
フラージェスが“すなあらし”をかき消すように天気を晴らし──同時に光の集束を始める。
ここ太陽の花畑は──いつでも太陽のエネルギーに満ちている場所だから、
歩夢「“ソーラービーム”!!」
「ラーージェスッ!!!!!」
強力な“ソーラービーム”は、カイリューの“ぼうふう”を突き破って、
「リュゥゥーーーッ!!!」
145 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/17(火) 12:11:03.41 ID:8ywSMszf0
カイリューのお腹に直撃し、“ぼうふう”を中断させる。
風による妨害を受けなくなったお花たちは、再びカイリューに向かって押し寄せる。
四方八方から押し寄せるお花たちがカイリューを捉えようとした瞬間──
ランジュ「カイリュー!! “しんそく”!!」
「リューーッ!!!」
お花たちの切れ目を、カイリューが弾丸のように飛び出してきた。
歩夢「……!?」
咄嗟のことに対応しきれず──目にも止まらぬ勢いで、カイリューがフラージェスを突き飛ばす。
「ラーージェスッ…!!!?」
さらに突き飛ばされたフラージェスに向かって──
ランジュ「“ギガインパクト”!!」
「リューーーーッ!!!!!」
追撃の大技。この位置じゃ、もうお花たちの防御も間に合わない。
猛スピードで突っ込んでくるカイリューに向かって、
歩夢「……っ……! “マジカルシャイン”!!」
「ラーーージェスッ!!!!」
フラージェスが激しく閃光する。
「リュゥゥゥゥッ…!!!!」
フェアリータイプの閃光。カイリューには効果は抜群だけど──
「リュゥゥゥゥゥッ!!!!!!」
カイリューはその光を突き抜け、
「リュゥゥゥゥゥッ!!!!!」
「ラーージェスッ…!!!!」
フラージェスにぶつかるのと同時に──“ギガインパクト”のエネルギーが大爆発を起こした。
歩夢「フラージェス……!!」
「──ラー…ジェス…」
爆炎の中から、フラージェスが吹き飛ばされてきて──花畑の上に力なく落下する。
だけど──
「リュゥ…!!!」
“ギガインパクト”の反動で動けなくなったカイリューに向かって──仇を撃つように、お花たちが押し寄せ、
「リュウ…ッ!!!」
カイリューを押しつぶした。
ここまでの戦闘でのダメージの蓄積に加えて、激しい“はなふぶき”に曝されたカイリューは、
146 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/17(火) 12:12:26.90 ID:8ywSMszf0
「リュウ…」
戦闘不能になり──フラージェス同様、花畑の上に落下したのだった。
歩夢「フラージェス……! 戻って……!」
「ラージェス…──」
ランジュ「カイリュー、お疲れ様」
「リュゥ…──」
お互いポケモンをボールに戻す。
──相討ちだ。
だけど……。
ランジュ「まさか、“じゃくてんほけん”で能力を上げたカイリューを倒されるとは思わなかったけど……これで2対1ね」
歩夢「……」
追いつめられてしまった。
やっぱり……私じゃ……勝てないのかな……。
思わず弱気になってしまうけど──
侑「歩夢ーー!! 頑張れーー!!」
栞子「歩夢さん!! 頑張ってください……!!」
せつ菜「歩夢さんっ! まだ全然、逆転のチャンスはありますよっ!」
背中に3人の応援の言葉を受けて、私はふるふると頭を振る。
弱気になっちゃダメ……! 侑ちゃんにバトンを繋ぐって、決めたんだから……!
最後まで諦めない……!
歩夢「……行くよ!! エースバーン!!」
「──バーースッ!!!!」
ランジュ「最後はエースバーンね。それじゃ、出てきなさい──ルカリオ!!」
「──グゥォッ!!!!」
ランジュちゃんの最後のポケモンは、はどうポケモン、ルカリオ。
ルカリオがフィールドに繰り出されると同時に──
歩夢「……?」
──変な感じがした。
どう変かが説明出来ない……ただ、変な感じがしたとしか。
歩夢「…………? 今の……何……?」
違和感の正体がわからず、思わずキョロキョロしてしまう。そんな私を見て、
ランジュ「? ……どうかしたの? 何か問題があったのかしら?」
ランジュちゃんがアクシデントと思ったのか、そう訊ねてくる。
歩夢「あ……いや……大丈夫……!」
ランジュ「そう? じゃあ、続けるわよ!」
歩夢「うん、ごめんね!」
147 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/17(火) 12:13:11.20 ID:8ywSMszf0
変な感じは続いているけど……バトルを中断するほどじゃないと判断して、ランジュちゃんの言葉に頷く。
ランジュ「それじゃ、行くわよ! メガシンカ!!」
「グゥォ…!!」
歩夢「……! やっぱり、メガシンカ……!」
眩い光に包まれ──ルカリオがメガルカリオへと姿を変える。
その瞬間──つま先から頭のてっぺんまでを、何かが走り抜けた。
歩夢「……ッ……!?」
身体がビクッと緊張し、全身の毛が一瞬で逆立つ。
気付けば、心臓がドクンドクンと脈打っていることに気付く。
──なに……? これ……?
酷い違和感が全身を襲ってくる。だけど──
ランジュ「ルカリオ!! “はどうだん”!!」
「グゥォッ!!!!!」
大丈夫と言った手前、ランジュちゃんは待ってなんかくれない。
頭をぶんぶん振って、変な感覚を極力気にしないようにしながら、エースバーンに指示を出す。
歩夢「“かえんボール”!!」
「バーーースッ!!!!」
エースバーンが拾い上げた小石を発火させながら、火球として蹴り飛ばす。
“かえんボール”と“はどうだん”が空中でぶつかり合い、爆発してエネルギーを散らせる。
その間も──
歩夢「……っ」
違和感は大きなっていく。
具体的に何がおかしいのかがわからないのが、酷く気持ち悪い。
でも、
歩夢「戦いに……集中、しなきゃ……」
この戦いは……負けるわけにいかないんだから……。
「バーースッ…!!?」
歩夢「……!?」
エースバーンの鳴き声でハッとなって顔を上げる。
すると、エースバーンは仰向けで、メガルカリオが作り出した骨の形をした波導の塊で、押さえつけらているところだった。
ランジュ「そのまま決めなさい!! “ボーンラッシュ”!!」
「グゥォッ!!!!」
メガルカリオが、倒れているエースバーンに、骨による追撃を食らわせようと、振りかぶった瞬間、
歩夢「“ローキック”……!!」
「バーーースッ!!!」
エースバーンがメガルカリオに脚を引っかけて転ばせようとするが、
148 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/17(火) 12:14:49.60 ID:8ywSMszf0
「グゥオッ…!!!」
メガルカリオは咄嗟に、骨を杖のように突いて、転ばないように堪え──
ランジュ「“メガトンキック”!!」
「グゥォッ!!!!!」
「バァーースッ…!!!?」
咄嗟に攻撃手段を変えて、エースバーンを蹴り飛ばす。
歩夢「エースバーン……!?」
「バ、バーースッ…!!」
エースバーンは受け身を取ってすぐに起き上がるけど──このままじゃ、いけない……。
指示に集中したいのに──全身を走る違和感で、集中出来ない。
そのとき──
侑「──歩夢ーーー!! 頑張れーーー!!」
侑ちゃんの声が──響いた。
それは本当に文字通り──頭の中に、直接、ぐわんぐわんと響いていた。
聞こえ方がおかしかった。
でも──止まっちゃ……ダメ……。
負けたくない……。みんなのために──負けたくない……!
そう、強く、思った、瞬間──世界の色が、変わった。
🎀 🎀 🎀
世界が青白く光っていた。
ランジュ「ルーカーリーオー、“イーンーファーイートー”!」
何故か、ランジュちゃんがゆっくり喋っている。
そして──
「グーゥーォーッ」
メガルカリオがどこに攻撃しようとしているのかが──何故か、理解出来た。
ゆっくりと肉薄してきたメガルカリオが、エースバーンに向かって、両手両足を使った乱打を仕掛けてくる。
けど──
「バース」
頭で、メガルカリオが攻撃しようとしている場所を思い描くと──エースバーンはそれをヒョイヒョイと回避する。
ランジュ「什ー么ー……!?」
そして、頭の中で──今のタイミングなら、“ブレイズキック”が出来そう……と思うと、
149 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/17(火) 12:16:00.23 ID:8ywSMszf0
「バーースッ」
エースバーンがメガルカリオの下段蹴りを小ジャンプで回避しながら身を捻り──“ブレイズキック”をメガルカリオの頭部に叩きこむ。
「グーゥーォーッ…!!!?」
メガルカリオはゆっくり吹き飛びながらも、受け身を取って起き上がる。
ランジュ「きゅーうーにーつーよーくーなーっーたー……!?」
何が起きているんだろう。
私がおかしくなったのか、周りがおかしくなったのか、わからない。
何もわからないけど──何故だか……今の私は、負ける気がしなかった。
🎹 🎹 🎹
侑「な、なにが起こってるの……?」
「ブイ…」
せつ菜「わ、わかりません……」
歩夢の様子が目に見えておかしかった。
だらんと両腕が下がり、なんだか脱力しながら立っている様子だ。
そして、全くエースバーンに指示を出さなくなってしまった。
……なのに、エースバーンの動きが急に良くなり──いや、良くなったなんてレベルじゃない。メガルカリオの至近距離からの猛ラッシュを全て躱して、反撃をするという神業をして見せた。
何かわからないけど……何かが、起こっている。
侑「そ、そうだ! リナちゃんなら、何が起こってるかわかるんじゃ……!」
そう思ってリナちゃんに訊ねるも──
リナ『……ごめん。全くわからない……』 ||;◐ ◡ ◐ ||
リナちゃんですら何が起きているか理解出来ていなかった。
でも、そんな中、
栞子「……歩夢さんが……波導に同調している……?」
栞子ちゃんがそんなことを呟いた。
侑「波導に……同調……? どういうこと……?」
栞子「……歩夢さんは、ポケモンに対する感応性が異常に強い人です……。……もしかしたら──メガルカリオが持つ強い波導のエネルギーに中てられているんじゃ……」
せつ菜「……えっと……?」
せつ菜ちゃんは栞子ちゃんの説明に首を傾げるけど──私は歩夢をずっと見てきたからか、なんとなく……感覚的にだけど……わかるような気がした。
150 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/17(火) 12:16:30.04 ID:8ywSMszf0
侑「……ルカリオの波導を読み取る力に、歩夢が影響されちゃってる……ってこと?」
栞子「はい……恐らくは」
リナ『つまり……ルカリオが波導から読み取ってる情報を、歩夢さんが読み取ってる……』 || ╹ᇫ╹ ||
栞子「波導によって読み取れる情報は……普通の五感情報とは一線を画すものです……。今の歩夢さんには、世界がスローモーションに見えていて……それを第三者が見れば、さながら未来予知のように見えてもおかしくありません」
せつ菜「で、ですが……それを歩夢さんが出来たとしても、エースバーンまで相手の攻撃を予知しているのはおかしくないですか……?」
栞子「……稀に強い信頼で結ばれた人とポケモンは、言葉を交わさなくても、お互いの考えていることがわかると言います……歩夢さんもエースバーンも一種の過集中状態なのかもしれません。波導を介して繋がっているというのもあるのかもしれませんが……」
せつ菜「……ゾーンのようなものですか。……私もバトルの最中に極限まで集中すると、最低限の指示でポケモンに意図が伝わるという経験はしたことがありますが……」
リナ『それのさらにすごい版かもしれない』 || ╹ᇫ╹ ||
せつ菜「つまり……ピンチに秘めたる力が覚醒したということですよね……!! すごいです、歩夢さん!!」
せつ菜ちゃんはそう言って目を輝かせる。
でも、栞子ちゃんはせっかく形勢が逆転しそうなのに、浮かない顔をしていた。
侑「栞子ちゃん……?」
栞子「……確かに、今の状況はバトルを好転させ得るものかもしれません。……ですが……人には本来読み取れない情報を読み取り続けるのは……歩夢さんに大きな負担が掛かるはずです」
侑「……」
ただ、バトル中である以上、私たちには手出しが出来ない。
侑「歩夢……」
「イブィ…」
🎀 🎀 🎀
ランジュ「“はーどー──」
“はどうだん”が来るのがわかった時点で──
「バーース」
エースバーンが“かえんボール”を蹴り出す。
ゆっくりと飛ぶ火球は──ちょうどメガルカリオが“はどうだん”の集束を始めたところに突き刺さり、
「グーゥーォーッ…!!!」
メガルカリオを吹っ飛ばした。
さらに、もう一発──
「バーースッ」
151 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/17(火) 12:17:23.86 ID:8ywSMszf0
エースバーンが“かえんボール”を用意する。
吹き飛ばされながらも、受け身を取って立ち上がるメガルカリオ。
そのメガルカリオの体には──波導が巡っているのがわかる。
そしてのその全身を巡る波導にも、強い部分と弱い部分がある。
手足や頭、お腹にはたくさんの波導が集中している反面──他の部位の波導は弱い。
そこが、メガルカリオの急所。
何故だか確信が持てた。
「バーーースッ!!!」
エースバーンが蹴り出した火球は──
「グーゥー…ォー…」
メガルカリオの急所──みぞおちの辺りに、突き刺さり……メガルカリオは花畑の上を転がりながら、戦闘不能になった。
🔔 🔔 🔔
──何が起きているのか理解出来なかった。
さっきまで、こっちが優勢だったはずなのに、気付けば圧倒されていた。
ランジュ「何よ……なんなのよ……これ……」
一方で、歩夢は──
歩夢「…………」
さっきから、ぼんやりと脱力した状態で立ち尽くしているだけ。
まるでポケモンに指示も出していないのに、エースバーンが未来予知でもしているかのような動きで、ルカリオを圧倒してしまった。
ランジュ「……ルカリオ……戻って……」
だけど、まだこっちにだって勝機はある。
カバルドンなら、ほのおタイプのエースバーンと、相性は悪くない。
ランジュ「負けるもんですか……!!」
ランジュは、最後の手持ちを繰り出す──
152 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/17(火) 12:19:23.81 ID:8ywSMszf0
🎀 🎀 🎀
──カバルドンが出てきた。
「バールードーンー…」
“じしん”をしてきそうだなと思った。
「バース」
直後、エースバーンが“とびはねる”で攻撃を回避する。
ランジュ「…………!」
ランジュちゃんが驚いた顔をした。
気付けば、地面が揺れていた。
だけど、私は揺れる地面の動きが何故だか理解出来て、全然転ぶ気がしなかった。
まるで、大地に杭のように刺さっているかのように、地面の揺れに合わせて自分もゆらゆら揺れるだけ。
「バーースッ!!!」
“とびはねる”で宙に浮いたエースバーンは──予め拾っておいた小石に炎を宿しながら、“かえんボール”として、真下にいるカバルドンに向かって蹴り出す。
「バールードーンー…」
カバルドンの眉間に、“かえんボール”が直撃し、よろけさせる。
そして──落下の速度を乗せた、エースバーンが、
「バーーースッ!!!!」
“とびひざげり”をカバルドンの脳天に炸裂させたのだった。
「バールー……ドーンー……」
ゆっくりと崩れ落ちるカバルドン。
ランジュ「………………」
ランジュちゃんは何故だか絶句していた。
──あ。そっか。
気付けば……ランジュちゃんのポケモンは、みんな戦闘不能になっていた。
私……勝ったんだ。
なんだか頭がふわふわとしていて、実感が湧かないけど……ちゃんと勝てたことに安堵した──途端、
歩夢「………………ッ……!?」
周囲の環境音が爆音のように大きくなって聞こえてきた。
私の頭の中に、風の音が、花が揺れる音が、あちこちにいるポケモンたちの鳴き声が、ありとあらゆる周りの音が、無理やり頭の中に詰め込まれるような感覚と共に──私は目の前が真っ白になった。
153 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/17(火) 12:20:58.78 ID:8ywSMszf0
🎹 🎹 🎹
──戦いが終わると同時に、
侑「……あゆ、む……?」
歩夢は──パタリと花畑の上に倒れてしまった。
侑「……歩夢ッ!?」
「ブイ…!!!」
私は血の気が引いて、考えるよりも先に走り出していた。
歩夢に駆け寄り、歩夢を抱き起こす。
侑「歩夢しっかりして!! 歩夢!!」
「イブィ!!!」
歩夢「………………」
「シャボ…」
声を掛けても目を覚まさない。バトルの間、ずっと大人しかったサスケも、心配にそうに歩夢の頬をチロチロと舐めている。
侑「歩夢……!! 歩夢ッ……!!」
せつ菜「侑さん……! 落ち着いてください……!」
気付けば、せつ菜ちゃんも追い付いてきて、歩夢を抱きかかえる私のすぐ傍にしゃがみこみ、歩夢の首筋に手を当てる。
栞子「侑さん……! せつ菜さん……! 歩夢さんは……!」
せつ菜「……脈は正常だと思います」
リナ『バイタルもひととおりチェックした。……たぶん、気を失ってるだけ』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんとせつ菜ちゃんの言葉を聞いて──
侑「……よかった……」
力が抜けてしまう。
一方で、
ランジュ「何よ……一体、何がどうなってるのよ……」
ランジュちゃんが信じられないものを見るような目で、歩夢を見ていた。
ランジュ「ランジュ……負けたの……?」
栞子「……はい。ランジュ……今回は貴方の負けです」
ランジュ「…………」
ミア「Oh my gosh...」
ランジュ「…………ッ」
ランジュちゃんは悔しそうに、拳を握りしめていたけど──
ランジュ「…………2勝……2敗……。……でも……最後には、絶対にランジュが……勝つんだから……」
154 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/17(火) 12:22:04.74 ID:8ywSMszf0
絞り出すようにそう言い、踵を返して、太陽の花畑から去っていったのだった……。
🎹 🎹 🎹
──ツシマ研究所。その一室。
侑「……歩夢……」
「ブイ…」
歩夢「…………」
「シャボ…」
もうすっかり日も落ちて……。
薄暗い部屋の中でベッドに横になっている歩夢は……静かに胸が上下しているので、眠っているだけなのはわかるけど……。
善子「……ひととおり診たけど……身体に異常はない。今はたぶん疲れて眠ってるだけだから、明日になったら目を覚ますと思うわ」
侑「…………」
善子「心配なのはわかるから、やめろとは言わないけど……ほどほどにね。侑が倒れたら、一番悲しむのは歩夢なんだから」
侑「はい……」
ヨハネ博士はそう残して部屋を出て行く。
歩夢「…………」
侑「歩夢……」
何気なく、歩夢の手を握ると──無意識だろうけど、弱い力で握り返してくる。
侑「歩夢のお陰で2勝2敗だよ。ありがとう」
歩夢「…………ゅ、ぅ…………ちゃ…………」
侑「…………歩夢?」
歩夢「…………すぅ…………すぅ…………」
侑「……うん。……今はゆっくり、休んでね……」
私は眠る歩夢の髪を、優しく撫でつけるのだった……。
🎙 🎙 🎙
せつ菜「──あ、ヨハネ博士……!」
善子「菜々……」
私は歩夢さんが休んでいる部屋から出てきた博士に声を掛ける。
せつ菜「あの……歩夢さんは……」
善子「今は疲れて眠ってるだけよ。すぐよくなるわ」
せつ菜「よかった……」
155 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/17(火) 12:23:16.82 ID:8ywSMszf0
リナさんのチェックでも、問題はないと言っていたけど……ある程度、医学の心得のあるヨハネ博士に言ってもらえると、安心感が増す。
善子「なんなら……中に入って顔でも見てきたら?」
せつ菜「いえ……今は侑さんと二人にしてあげた方がいいかなと思って……」
善子「ん……そっか」
きっと一番心配しているのは侑さんでしょうし……。
あまり部屋の前でうるさくしてもいけないので、ヨハネ博士と一緒に1階へと向かう。
せつ菜「あの……ヨハネ博士」
善子「なに?」
せつ菜「歩夢さんの力というのは……一体なんなんでしょうか……?」
彼女がポケモンに対して特別な力を持っていることは、なんとなく知っていたけど……今日改めて、その力のすごさを目の当たりにしてしまったというか……。
善子「……何と一言で言うのは少し難しいけど……。……私は超共感性やシナスタジアの一種だとは思ってる」
せつ菜「シナスタジア……共感覚でしたっけ」
善子「ええ。歩夢には、ポケモンが発する鳴き声やエネルギーを、別の感覚に変換して見たり、聞いたりすることが出来るんだと思うわ」
せつ菜「本当に……そんなことが出来るものなんですか?」
善子「実際のところは本人にしかわからないけど……。ただ、歴史上にポケモンと意思疎通を図ることが出来た人間は数多く存在してる。それこそ、栞子のような人とポケモンとの仲介役を担う巫女は、そういう力を有してると言われてる」
せつ菜「……なるほど」
だから、栞子さんは歩夢さんの身に起こっていることに、いち早く気付いたのかもしれない。
ヨハネ博士と話しながら1階へ降りてくると──
かすみ「あ、せつ菜先輩……! ヨハ子博士……! 歩夢先輩は……!」
かすみさんがパタパタと駆けよってくる。
せつ菜「今は疲れて眠っているだけだそうですよ」
かすみ「ほ……よかったですぅ……」
安心するかすみさんの後ろで、しずくさんが──『気を失った歩夢さんを見たときは、肝が冷えました……』と筆談で伝えてくる。
しずくさんは喉の調子が戻りつつあるようですが、今は極力喉を休めるために筆談で会話をしているそうです。
リナ『しずくちゃんもリナちゃんボードを使ってるみたいだね』 || > ◡ < ||
──『じゃあ、しずちゃんボードだね♪』
なんておどけている辺り、しずくさんの方は順調に回復しているようだ。
とりあえず……。
せつ菜「これで2勝2敗……しずくさんと歩夢さんが、私たちの負けを取り返してくれました」
かすみ「はい……! あとは侑先輩が勝つだけです!」
156 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/17(火) 12:23:49.96 ID:8ywSMszf0
序盤から大ピンチだった五番勝負は、どうにかイーブンまで巻き返し──最終戦まで、もつれ込むことになった。
あとは最後に残った侑さんの試合。侑さんは大一番での勝負強さがある。
最後を任せるに相応しいと思います。
そのとき、
栞子「……あの、皆さん……。……お願いがあるんです」
先ほどまで、黙って座っていた栞子さんが、口を開く。
せつ菜「栞子さん? なんでしょうか」
栞子「……最終戦のことなんですが……」
かすみ「最終戦は侑先輩に任せておけば大丈夫だよ! 侑先輩、すっごく強いから!」
栞子「いえ……最終戦は……私に戦わせてくれませんか」
かすみ「……へ?」
なんと栞子さんは──最後の戦いを自分にやらせて欲しいと、口にするのだった。
157 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/17(火) 12:24:24.58 ID:8ywSMszf0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【セキレイシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
158 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/17(火) 12:25:18.89 ID:8ywSMszf0
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.82 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.79 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.80 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.77 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドラパルト♂ Lv.78 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
フィオネ Lv.74 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:281匹 捕まえた数:12匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.69 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.69 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.65 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
トドゼルガ♀ Lv.65 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラージェス♀ Lv.65 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
ウツロイド Lv.73 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:260匹 捕まえた数:24匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.84 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロアーク♀ Lv.78 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
マッスグマ♀ Lv.75 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニゴーン♀ Lv.75 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ダストダス♀✨ Lv.74 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
ブリムオン♀ Lv.76 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:301匹 捕まえた数:15匹
主人公 しずく
手持ち インテレオン♂ Lv.69 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
バリコオル♂ Lv.68 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アーマーガア♀ Lv.68 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロズレイド♂ Lv.68 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
サーナイト♀ Lv.69 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
ツンベアー♂ Lv.69 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:282匹 捕まえた数:23匹
主人公 せつ菜
手持ち ウーラオス♂ Lv.79 特性:ふかしのこぶし 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
ウインディ♂ Lv.87 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
スターミー Lv.83 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
ゲンガー♀ Lv.85 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
エアームド♀ Lv.81 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
ドサイドン♀ Lv.84 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:208匹 捕まえた数:51匹
主人公 栞子
手持ち ピィ♀ Lv.11 特性:メロメロボディ 性格:やんちゃ 個性:かけっこがすき
ウォーグル♂ Lv.71 特性:ちからずく 性格:れいせい 個性:かんがえごとがおおい
ウインディ♀ Lv.70 特性:もらいび 性格:さみしがり 個性:のんびりするのがすき
ゾロアーク♂ Lv.68 特性:イリュージョン 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
イダイトウ♀ Lv.68 特性:てきおうりょく 性格:さみしがり 個性:にげるのがはやい
マルマイン Lv.68 特性:ぼうおん 性格:きまぐれ 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 0個 図鑑 未所持
侑と 歩夢と かすみと しずくと せつ菜と 栞子は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
159 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 10:50:06.11 ID:1Gm0czzm0
■Intermission🔔
ランジュ「……次の反応は……北西……。……しかも、そんなに離れてないわね……」
北西を見ると──高い丘が見える。
何度か“そらをとぶ”で移動しているときに、高い丘の上に湖があるのを見た覚えがある。
恐らく次の龍脈はあそこなのだろう。
ミア「……ランジュ」
ランジュ「……何かしら」
ミア「……2連敗だぞ。わかってるのか?」
ランジュ「…………わかってる」
ミア「……まさか、これ以上負けるなんてこと……ないよな?」
ミアが苛立ちを隠さずに言葉をぶつけてくる。
ランジュ「……ありえないわ」
しずくも歩夢も……ポケモンバトルの常識とは逸脱した戦い方だったから、油断してしまったけど……もう負けるつもりなんてない。
ミア「なら、結果で示してくれよ」
ランジュ「ええ、わかってるわ」
こんなところで……負けるわけにはいかない。
そうじゃないと──栞子のこと……救ってあげられないから……。
………………
…………
……
🔔
160 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 20:49:46.96 ID:1Gm0czzm0
■ChapterΔ008 『最終戦』 【SIDE Yu】
──近くで人の気配がする。
侑「…………ん……ぅ…………」
ゆっくりと目を開けると──
歩夢「……あ……ごめんね、起こしちゃった……?」
侑「……歩夢……」
歩夢が、ずり落ちそうになっていた毛布を、私に掛けようとしているところだった。
侑「………………歩夢……っ!?」
歩夢「きゃっ!?」
私は今しがた寝ていたソファから跳ね起き、歩夢の両肩に手を置く。
侑「歩夢、平気なの……!? 痛いところとかない……!?」
歩夢「うん、大丈夫だよ」
歩夢はそう言いながら、いつもの笑顔でニコっと笑う。
私が騒がしかったのか──
「…ブイ…?」
ソファで一緒に寝ていたイーブイも目を覚まし、
「…ブイ!!!」
歩夢が起きているのを見ると、イーブイは歩夢に向かって飛び付いた。
歩夢「ふふ、イーブイ、おはよう♪」
「ブイ♪」
侑「ホントに元気そうで、安心した……」
今の様子を見る限り、本当にいつもどおりの歩夢だ。心配そうに歩夢の枕元で見守っていたサスケも、今はいつもどおり歩夢の首に掛かりながら、眠っている。
ただ、歩夢はイーブイを撫でながら、少し不安そうな顔になって、
歩夢「えっと……その……私、気付いたらここで寝てたんだけど……ランジュちゃんとのバトルはどうなったの……?」
そう訊ねてくる。
侑「もしかして、覚えてないの……?」
歩夢「ランジュちゃんとバトルしてたら……ルカリオが出てきて、その子がメガシンカして……。……そこくらいから、記憶が曖昧で……」
侑「…………」
やっぱり、栞子ちゃんの言うとおり、あの状態は歩夢に強い負荷を掛けていたのかもしれない……。
161 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 20:50:30.30 ID:1Gm0czzm0
歩夢「侑ちゃん……?」
侑「えっとね……ルカリオの波導が逆に流れ込んで来ちゃって、オーバーヒートしちゃった……って言うのかな……」
歩夢「オーバー……ヒート……」
歩夢は私の言葉に少し難しそうな顔をしていたけど、
歩夢「……そっか……あれは……オーバーヒート……」
自分の中の朧気な記憶と、私の説明を照らし合わせて、納得出来たのか、最終的に呟きながら小さく頷いていた。
そして、
歩夢「……それじゃ……私……負けちゃったんだね……」
そう言いながら、シュンとする。
侑「違うよ」
歩夢「え?」
侑「試合は……歩夢の勝ちだよ」
歩夢「え……」
歩夢は驚いたように目を見開く。
歩夢「ホント……?」
侑「うん。夢中だったから覚えてないかもしれないけど……歩夢がランジュちゃんのポケモンを倒しきって、副将戦は歩夢が勝ったんだよ」
歩夢「そ、そっか……」
歩夢は身に覚えのない勝利に戸惑っている様子だったけど、
侑「歩夢……ありがとう」
私がお礼を言いながら、歩夢をぎゅっと抱きしめると、
歩夢「侑ちゃん……は、恥ずかしいよ……。……でも、みんなの役に立てたなら……嬉しい……えへへ……」
そう言ってはにかむのだった。
しばらく、ぎゅーっとしていると──くぅぅぅ〜……と可愛らしい音が聞こえてくる。
歩夢「……///」
歩夢のお腹の音だった。
侑「そういえば……昨日から何も食べてないんだもんね。朝ごはんにしよっか」
歩夢「うん……///」
歩夢の手を引いて、部屋から出ようとしたそのとき──コンコン。控えめにドアがノックされる。
そして、ドアの向こうから、
栞子『……侑さん、今大丈夫でしょうか……?』
栞子ちゃんの声が聞こえてきた。
歩夢「栞子ちゃん……?」
162 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 20:51:06.91 ID:1Gm0czzm0
歩夢がドアを開けると、
栞子「……! 歩夢さん、目を覚まされたんですね……! よかった……」
栞子ちゃんは歩夢の姿を見て、ホッと安堵の息を漏らす。
歩夢「心配掛けちゃってごめんね……」
栞子「いえ……ご無事なら何よりです」
侑「それで……どうかしたの?」
栞子「あ、はい。……実は、侑さんにご相談がありまして……」
侑「相談……?」
🎹 🎹 🎹
侑「──最終戦を栞子ちゃんが……?」
栞子「……はい」
栞子ちゃんから打診されたのは──ランジュちゃんとの五番勝負、その最終戦を自分に戦わせてくれないかというお願いだった。
栞子「最後になって……こんなことをお願いするのは不躾だというのは理解していますが……」
侑「それは構わないけど……どうして急に……?」
ここまで見てきた感じだと……栞子ちゃんは積極的にバトルをしたがる性格ではないし、純粋に疑問だった。
栞子「……皆さんの戦う姿を見ていて……思ったんです。……見ず知らずの私のために……皆さん、あんなに必死に戦ってくれて……。……歩夢さんやしずくさんに至っては、倒れるまで……。……それなのに、私だけが何もしないで見ているだけでいいのかと……」
歩夢「そんなに気負わなくてもいいんだよ……! せつ菜ちゃんも言ってたけど、困ったときはお互い様だよ! 栞子ちゃんは今までずっと一人で地方を守ってくれてたんだし……!」
栞子「いえ……元はと言えば……私とランジュの問題なんです……。本来は、私がランジュを止めなくてはいけなかったのに……」
栞子ちゃんなりに……戦う私たちを見て、ずっと責任を感じていたのかもしれない。
栞子「それに……皆さんの戦う姿を見ていて……私も勇気を貰ったんです。勝てないなんて最初から決めつけず、最後まで諦めずに戦う……私もそんな強さが欲しいと……」
歩夢「栞子ちゃん……」
侑「……わかった。そういうことなら、最終戦──大将は栞子ちゃんにお願いしていい?」
栞子「……! はい!」
栞子ちゃんは私の言葉を聞くと、パァァっと表情が明るくなる。
栞子「それでは、皆さんにもそう報告してきます……!」
侑「うん、お願いね」
栞子ちゃんは一度恭しく私に頭を下げたあと、部屋を出て、下の階へと下りていく。
歩夢「侑ちゃん……いいの?」
歩夢の問い。恐らく、栞子ちゃんはそこまでバトル慣れしていなさそうだし……私が戦った方が勝率は高いと思う。
そういう意味での、「いいの?」という問い。
163 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 20:53:04.39 ID:1Gm0czzm0
侑「栞子ちゃんも言ってたけど……根本的には栞子ちゃんとランジュちゃんの問題だし……それに私たちが首を突っ込んでるだけだからさ。栞子ちゃんが自分で解決したいって言うんなら、その方がいいと思って」
歩夢「……確かに、そうかも……」
侑「きっと、栞子ちゃんも悩んで決めたことだと思うし……。……それなら、私は栞子ちゃんの選択を信じてあげたいなって」
歩夢「侑ちゃん……。……わかった。侑ちゃんがそう言うなら、私も賛成」
侑「ありがと、歩夢♪」
👑 👑 👑
かすみ「むむむー……」
リナ『かすみちゃん、どうしたの?』 || ╹ᇫ╹ ||
難しい顔をして唸ってるかすみん(まあ、そんな顔をしててもかすみんはとびきりキュートなんですけど)を見て、リナ子が話しかけてくる。
かすみ「最終戦……ホントにしお子に任せちゃっていいのかなって……」
リナ『侑さんがいいって言った以上、その判断に従うべきだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「それは……そうだけど……」
しずく「……」
かすみんの隣に座っていたしず子が、筆談用のノートにペンを走らせる。
──『かすみさんも反対しなかったでしょ?』
かすみ「そ、そうだけどぉ……」
確かにかすみんも、しお子が自分で戦いたいって言ってるのに、ダメ! なんて言いたくないけど……。
かすみ「ただ……いろいろ考えちゃって……」
リナ『いろいろって?』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「……ランジュ先輩……強いから、しお子よりもきっと侑先輩の方が勝てる可能性は高いだろうし……。それに……」
言いながら、しず子に視線を向ける。
しずく「?」
かすみ「……しず子がこんなになるまで頑張ったのに……この判断で負けちゃったら……」
しずく「……」
しず子は椅子から立ち上がって──かすみんの頭をナデナデし始める。
しずく「……私、たちの……戦いを見て……栞子さんが、勇気を出せたなら……私は……それで、いいの……けほ……」
かすみ「しず子……」
掠れた声でしず子は言う。
やっぱりまだ喋りづらかったのか、再び筆談ノートを手に取って──『それに、私はちょっと声が枯れちゃっただけだから、そんなに大袈裟なことじゃないよ』──なんてことを書く。
続けて──『あとは栞子さんを信じてあげよう?』……と。
かすみ「……うん」
164 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 20:54:08.54 ID:1Gm0czzm0
もちろん、かすみんもいじわるしたくてこんなことを言ってるわけじゃない。
かすみ「……わかった。しず子がそう言うなら、かすみんも全力でしお子のこと応援する」
しずく「♪」
かすみんの言葉を聞いて、しず子はニッコリと笑うのだった。
🎙 🎙 🎙
善子「それにしても意外だったわ」
研究のお手伝いで、飼育されているポケモンたちに餌をあげていると、博士は私に向かって急にそんなことを言う。
せつ菜「意外? なんのことですか?」
善子「菜々は、勝負には拘るタイプだと思ったから」
せつ菜「……ああ、その話ですか」
善子「即決で栞子が戦うことに賛成したから、ちょっと意外だった」
せつ菜「……そうですね。前の私だったら……きっと難色を示していたと思います」
前の私だったら……確実に勝てる人選を優先したと思う。
私は勝つことでしか自分を証明出来ないと思い込んでいたし……例え草試合でも、とにかく勝つことを意識していた。
せつ菜「ただ……あのとき、千歌さんと全力でぶつかりあって……気付いたんです。本当に大事なことは、勝ち負けだけじゃないのかなって……」
もちろん、勝負である以上、勝利出来るに越したことはない。
だけど……じゃあ、勝てればなんでもいいというわけじゃない。
せつ菜「その戦いに……どう臨んだかとか、それで何を得られるのかとか……。そういうことの方が大事なのかなって……。……栞子さんとランジュさんは幼馴染だと言っていました。きっと、二人がちゃんとぶつかり合うことには、意味があると思うんです」
善子「……なるほどね」
ヨハネ博士はうんうんと頷きながら、私の頭をポンポンと撫でる。
善子「成長したわね。菜々」
せつ菜「えへへ……ヨハネ博士に褒められると、嬉しいです」
善子「これで、菜々が自分の試合で勝ってれば、もっとかっこよかったんだけどね」
せつ菜「え、あ、いや……それは、その……」
善子「ふふ、冗談よ」
せつ菜「い、いじわるなこと言わないでください……」
善子「ふふ、ごめんなさい」
ヨハネ博士はクスクスと笑う。
善子「ただ……栞子が負けたときはどうするの? 五番勝負はレックウザの捕獲の権利を賭けてるんでしょ?」
せつ菜「そのときはそのときです! また何か別の解決策を考えます! だから今は、栞子さんが全力で戦えるよう、応援するのみです!」
善子「……ふふ、愚問だったわね。じゃあ、全力で栞子のこと、サポートしなくちゃね」
せつ菜「はい! お任せください!」
165 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 20:54:58.92 ID:1Gm0czzm0
こうして私たちの大将戦は──栞子さんに託されることとなった。
🎹 🎹 🎹
──セキレイシティを発ってから、数十分ほど。
すぐに次の龍脈の地が見えてきた。
侑「見えてきたね──クリスタルレイク」
「ブイ」
歩夢「栞子ちゃん、反応は?」
栞子「はい。確実に強くなっています」
せつ菜「間違いなさそうですね! 降りましょう!」
かすみ「アーマーガア、降りてくれる?」
「ガァーー」
全員でクリスタルレイクへと降り立つ。
栞子「反応は……強くなっているんですが……」
歩夢「方向はあってそうだけど……」
確かに“もえぎいろのたま”はクリスタルレイクに近付くほど強くなるけど……今まで見た龍脈での反応に比べると少し弱く感じる。
となると……。
せつ菜「あとは……高さでしょうか」
──『なら、クリスタルケイヴではないでしょうか』と、しずくちゃん。
侑「うん。水晶の大水槽だと思う」
歩夢「となると……下に降りないとだね」
歩夢がキョロキョロと辺りを見回すと──
歩夢「あっ、あそこに縦穴があるよ!」
すぐにイワークが作ったであろう、大きな穴を見付ける。
リナ『ちょっとエコーロケーションしてくるね』 || ╹ ◡ ╹ ||
リナちゃんがそう言って穴に向かって浮遊し始めると、
「──ウニャァ〜」
ボールからニャスパーが飛び出して、リナちゃんの背面に引っ付いて一緒に飛んでいく。
恐らくニャスパーの“チャームボイス”を使ってエコーロケーションを行う為だろう。
リナちゃんたちが縦穴に向かっていくのを見ながら、かすみちゃんが口を開く。
166 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 20:55:36.29 ID:1Gm0czzm0
かすみ「それにしても歩夢先輩……すぐに見つけちゃいましたね」
歩夢「前に侑ちゃんが、この辺りの縦穴に落ちちゃったことがあって……」
侑「あはは……あったね……そんなこと……」
クリスタルケイヴまで繋がる縦穴はかなり長かったし、下にキノコがなかったら、私も無事では済まなかったと思う……。
そんな話をしていると、
リナ『うん。ここからなら、大水晶のある部屋に繋がってると思う』 || > ◡ < ||
「ウニャァ〜」
リナちゃんたちから、報告が入る。
せつ菜「それでは、降りてみましょう! ウーラオス!」
「──ラオス!!」
かすみ「ジュカイン!」
「──カインッ」
歩夢「ウツロイド、お願い」
「──ジェルルップ…」
侑「ドラパルト、出てきて」
「──パルト」
大きな縦穴と言っても、羽ばたいて降りるのは危ないので、身のこなしの軽いポケモンや、ゆっくり下降の出来るポケモンたちを出す。
せつ菜「かすみさん、お先にどうぞ!」
かすみ「それじゃ、お言葉に甘えて……しず子、乗って」
「カイン」
しずく「……」
しずくちゃんがコクリと頷きながら、二人でジュカインの尻尾に腰かけ、ジュカインが壁伝いに穴を降りていく。
その後に続くように、せつ菜ちゃんが、ウーラオスの肩に乗り、
せつ菜「ウーラオス、お願いします」
「ラオス」
壁伝いに降りていく。
侑「栞子ちゃんはドラパルトに一緒に乗ってね」
栞子「はい。お願いします」
歩夢「それじゃ、先に行くね」
侑「うん」
歩夢「ウツロイド、ゆっくり降りるよ」
「──ジェルルップ」
歩夢がウツロイドを頭の上に乗せ──落下傘のようにゆっくりと下降を始める。
最後に私と栞子ちゃんがドラパルトの頭の上に乗って、ゆっくりと縦穴を降りていく──
167 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 20:56:25.74 ID:1Gm0czzm0
🎹 🎹 🎹
滞りなく、縦穴の底にたどり着くと、例の如く白く光るキノコがたくさん敷き詰められていた。
侑「ネマシュたちは、イワークが作った穴を巣にするんだね」
かすみ「綺麗……ほわほわ……」
リナ『かすみちゃん、あんまり見てると眠くなっちゃうよ』 || ╹ᇫ╹ ||
せつ菜「周囲にネマシュもいますね」
せつ菜ちゃんの言うとおり、
「ネマシュ…」「マシュ…」
ネマシュが洞窟の陰からこちらを見つめている。
前回は落ちたのが夜だったからネマシュたちは出払っていたけど、今はまだ日中だから洞窟内にいるのだろう。
侑「ライボルト、“エレキフィールド”」
「──ライボ!!」
ボールからライボルトを出して、“エレキフィールド”を展開させる。
“エレキフィールド”の中でなら、眠ることがなくなるから、これで眠ってネマシュたちに襲われる心配もなくなる。
かすみ「なんか、ピリピリしてて、目が冴えてきました……!」
効果てき面のようだ。
ネマシュたちも眠らないのがわかってからは、横を通ってもじーっと見ているだけで、攻撃してくるような素振りはなかった。
そのまま、通路を進んでいくと──水晶の大水槽の大部屋に辿りつく。
栞子「……これは……。……すごいです……」
この光景は何度見ても圧倒される。……透明な水晶の先で、湖に差し込んできた太陽光がプリズムのように反射してキラキラと光っている光景は、神秘的で息を飲んでしまう。
そして、その七色の光の下に、
ランジュ「……遅かったわね」
ミア「……」
ランジュちゃんたちが居た。
ランジュ「さぁ、侑……白黒付けましょう」
私に向かって、そう促してくるけど──
栞子「いえ、ランジュ……。……今回戦うのは、私です」
栞子ちゃんが前に歩み出る。
168 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 20:57:28.87 ID:1Gm0czzm0
ランジュ「……え? ……ち、ちょっと待って……! 栞子、貴方は五番勝負のメンバーじゃないはずよ!」
栞子「はい。ですので、無理を言って代わってもらいました」
ランジュ「か、代わってもらったって……き、聞いてないわ! そんなこと……!」
栞子「確かに言ってないので……聞いてないとは思いますが……。……ですが、そもそも“もえぎいろのたま”を持っているのは私です。私が戦うメンバーになることに問題はないと思います」
ランジュ「でも、栞子……! 貴方は修行中、ランジュに一度だって勝ったことなんてなかったじゃない!」
栞子「それはむしろ、ランジュにとっては都合のいいことなのではないですか? それとも──私に負けるのが怖いんですか?」
ランジュ「な……! そんなわけないでしょ!! いいわ、この際相手が栞子でも、侑でも、どっちでも……!」
栞子「ありがとうございます」
栞子ちゃんは、ランジュちゃんの扱いがわかっているのか、説得して、フィールドに立つ。
ミア「ランジュ。ポケモン」
ランジュ「谢谢」
ランジュちゃんがミアちゃんからポケモンを受け取り、二人がフィールドで相対する。
そんな中で、栞子ちゃんは、
栞子「皆さん」
こちらを振り返り、私たち全員に順番に目配せをして、
栞子「頑張りますので……見ていてください!」
覚悟の言葉を口にした。
侑「うん! 頑張って、栞子ちゃん!」
せつ菜「栞子さんの気持ち、ランジュさんにぶつけてあげてください!」
──『栞子さん、応援してるね!』
かすみ「しお子! 任せたからね!」
リナ『栞子ちゃん、ファイト!!』 || > ◡ < ||
歩夢「栞子ちゃん、思いっきり戦って!」
栞子「はい!」
栞子ちゃんは私たちの言葉に頷き──フィールドに向き直り、
ランジュ「始めるわよ……!」
栞子「はい……!」
二人のトレーナーが、ボールを、放った──
169 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 20:58:07.73 ID:1Gm0czzm0
🔖 🔖 🔖
栞子「ウインディ! お願いします!」
「──ワォン」
私は灰色の体毛を身に纏った、ヒスイのすがたのウインディを繰り出す。
通常のウインディとは違って、体毛に火成岩の成分が含まれており、加えて岩で出来たツノを持っている、ほのお・いわタイプの姿です。
さらに頭には“ちからのハチマキ”を巻いて攻撃力を強化している。
対するランジュが繰り出したのは、
ランジュ「ギルガルド、行きなさい!」
「──ガルド」
剣と盾の体に霊魂を宿したおうけんポケモン、ギルガルド。
栞子「ウインディ!! “かえんぐるま”!!」
「ワォンッ」
ウインディが先制で炎を身に纏って、ギルガルドへ突進する。
──ガィンッ!! ウインディの硬い体毛と、ギルガルドの金属質の盾がぶつかり合い、硬い音を立てながら、弾き返される。
ノックバックしたウインディに、
ランジュ「“せいなるつるぎ”!!」
「ガルド…!!!」
「ワォンッ…!!!」
盾を除け、“ブレードフォルム”にチェンジした、ギルガルドの刃がウインディを斬り裂く。
栞子「怯まないでください……! “かえんほうしゃ”!!」
「ワォンッ…!!」
ウインディはすぐさま口に炎を宿し、ギルガルドに向かって放射する。
ですが、
ランジュ「“キングシールド”!!」
「ガルド」
再び、“シールドフォルム”に戻ったギルガルドは、自身の大きな盾で“かえんほうしゃ”を防いでしまう。
栞子「“キングシールド”には隙が出来ます……! もう一度!!」
「ワォーンッ…!!!!」
連続で“かえんほうしゃ”による攻撃。隙の出来たギルガルドに今度こそ直撃させられたと思ったが、
ランジュ「戻りなさい、ギルガルド!!」
「ガルド──」
ランジュは、冷静にギルガルドを控えに戻し、次のポケモンのボールを放る。
飛び出して、ギルガルドの代わりに“かえんほうしゃ”を受け止めるのは──
ランジュ「行きなさい、マリルリ!」
「──マリ」
170 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 20:59:41.89 ID:1Gm0czzm0
みずうさぎポケモン、マリルリ。
“かえんほうしゃ”を真っ向から受け止めるマリルリの体に──みずのエネルギーが纏われるのが見えた。
ランジュ「“アクア──」
栞子「……! 戻ってください、ウインディ!」
「ワォン──」
ランジュが攻撃の指示を出し切る前に、咄嗟にウインディをボールに戻し、次のポケモンのボールを投げ込む。
ランジュ「──ジェット”!!」
栞子「マルマイン!!」
「──マインッ!!」
そして、代わりに飛び出してきたのは、ヒスイの姿のマルマイン。
通常のマルマインと違い、木目調のボディはでんきタイプだけでなく、くさタイプも有し、みずタイプの“アクアジェット”を半減して受け止める。
受け止めると同時に、
栞子「“10まんボルト”!!」
「マインッ!!!」
「マリッ…!!!?」
電撃による反撃でマリルリを痺れさせる。効果は抜群ではあるものの──マリルリが身に纏っている“とつげきチョッキ”のせいで、ダメージは思ったように通っていない。
しかし、だとしても相性は圧倒的にこちらが有利。
ランジュ「……く……」
直後、
ランジュ「戻りなさい、マリルリ!」
栞子「戻ってください、マルマイン!」
ランジュ「……!?」
二人同時にポケモンをボールに戻し、
「──ワォン…!!」
「──サザンドーラッ…!!!」
ウインディとサザンドラがフィールドに繰り出される。
栞子「ランジュはバトルの基本がよく出来ていると、お師匠様もよく褒めていましたね」
ランジュ「……」
ランジュなら、絶対に交換をしてくると思ったからこそ、私もポケモンを交換した。
ただ……何度もうまく行くわけじゃない。ちゃんと、読みを通した一回一回の機会を大切にしないと……!
ランジュ「サザンドラ、“りゅうのはどう”!!」
「サザンーーラッ!!!!」
栞子「“いわなだれ”!!」
「ワォン…!!」
ウインディが目の前に、岩石を大量に落とし、壁を作って“りゅうのはどう”を防御する。
それによって、砕かれた岩の壁の向こうから──
171 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 21:00:46.02 ID:1Gm0czzm0
「サンドーーラッ!!!」
栞子「……!?」
サザンドラが突っ込んできていた。
ランジュ「“とんぼがえり”!!」
「サザンッ!!!」
「ワゥッ…!!」
ダメージは小さいが、再び交換を許し、“とんぼがえり”の効果でボールに戻ったサザンドラの代わりに、
「──マリッ」
再びマリルリが飛び出し、ウインディに向かって飛び掛かってくる。
ランジュ「“じゃれつく”!!」
「マリ〜♪」
そのまま、じゃれついてくるマリルリ。フェアリータイプの攻撃はウインディには効果いまひとつです。
ダメージを半減にして攻撃を受け、そのまま、
栞子「“かみなりのキバ”!!」
「ワォン…!!!」
電撃を纏ったキバで噛みついて攻撃する。
「マリリッ…!!」
ランジュ「今度は交換してない……!」
ランジュが次の行動に移る前に、
栞子「交代です……!」
「ワオンッ──」
「──マインッ!!!」
再び、飛び出すマルマインが、
「マリッ…!!!」
マリルリのみずエネルギーを纏った突進──“たきのぼり”を受け止める。
ランジュ「また、読まれた……!?」
栞子「マルマイン!! “クロロブラスト”!!」
「マインッ!!!」
マルマインがボールの体の真下部分を相手に向けると同時に──緑色のエネルギー砲が一気に放出される。
「マリ…!!!?」
至近距離で極太のくさタイプのレーザーが直撃すると同時に、大爆発を起こし、強烈な光を伴うエネルギーの奔流が止む頃には──
「マ、マリ…」
172 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 21:02:04.24 ID:1Gm0czzm0
弱点タイプの攻撃なこともあって、マリルリが戦闘不能になって目を回していた。
“クロロブラスト”は自分にも大きな反動ダメージがある分、とても強力な技です。
さらに今回マルマインに持たせた道具はくさタイプの攻撃力を上げる“きせきのタネ”──“とつげきチョッキ”があっても、どうやらその威力には耐えきれなかったようです。
栞子「……やりました……! マルマイン!」
「マインッ」
ランジュ「……っ」
ミア「……おい、ランジュ」
ランジュ「……大丈夫よ、黙って見てなさい」
ミア「……」
ランジュは今にも文句を言いたげなミアさんを言葉で制しながら、次の手持ちをフィールドに出す──
🎹 🎹 🎹
かすみ「しお子すごい……!」
歩夢「うん……! ランジュちゃんを圧倒してる……!」
せつ菜「ランジュさんのトレーナーとしての癖を理解していますね……同門だからでしょうか」
確かに読み勝ちが、試合の流れをいい方向に持って行っている。
──『栞子さん……すごくよく相手を見ながら戦っていますね』としずくちゃん。
ある意味、ランジュちゃんにとっては、栞子ちゃんこそ厄介な相手なのかもしれない。
かすみ「この勝負……勝てますよ……!」
侑「うん……!」
歩夢「栞子ちゃーん! 頑張ってー!!」
🔖 🔖 🔖
背中に声援を受けながら、
「──ガルド」
再び場に現れるギルガルドと相対する。
ギルガルドには、くさタイプでは効果が薄い。なら……!
栞子「“10まんボルト”!!」
「マインッ!!!」
電撃による攻撃。
「ガルド…」
173 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 21:04:57.84 ID:1Gm0czzm0
ギルガルドは、それを“シールドフォルム”で受け止めながら──不思議な動きを始める。
盾の後ろで、自身の刀身を振るような──
栞子「……!?」
攻撃技をしてくると思っていたので、一瞬何をしているのかで困惑してしまったけど──すぐに思い至る。
栞子「……しまった……!? “つるぎのまい”……!?」
あえてマルマインの攻撃を受け止め──その隙に“つるぎのまい”で自身の攻撃力を上げていたんだと気付いたときには、もうすでに遅く、
ランジュ「“かげうち”!!」
「ガルドッ」
「マインッ…!!!?」
栞子「……っ! マルマイン……!!」
上昇した攻撃による、高速の一撃がマルマインに直撃し、
「マ、マイン…」
“クロロブラスト”による自分へのダメージもあったマルマインは、戦闘不能になってしまった。
栞子「も、戻ってください……!」
「マイン…──」
ランジュ「やっぱり、読みと言っても完璧じゃないわね」
栞子「……く……」
そう言う間にも、
「ガルド…」
ギルガルドは“たべのこし”で自身の体力を回復しながら待っている。
早く次のポケモンを出さないと……!
栞子「お願いします! ゾロアーク!」
「ゾロアーーク…」
私は3匹目──ヒスイのすがたのゾロアークを繰り出す。
あくタイプである本来のゾロアークと違って、ヒスイのすがたはノーマル・ゴーストタイプ。
このタイプなら、攻撃力が強化された“かげうち”で一方的にやられることは防げる。
さらに、こちらのゴーストタイプの技を“のろいのおふだ”で強化している。
栞子「“シャドーボール”!!」
「ゾロアーーク…!!」
ランジュ「“キングシールド”!」
「ガルド」
当然の如く、ギルガルドは“シールドフォルム”に戻って攻撃を受け止める。
でも、ギルガルドの戦い方を考えれば、ここまではわかり切っていること。
勝負はここから……!
「ゾロアーーーク…」
ゾロアークから紫色の呪いのオーラが溢れ出す。
174 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 21:05:31.68 ID:1Gm0czzm0
栞子「“うらみつらみ”!」
「ゾロアーーークッ…」
そのオーラは、ギルガルドを包み込み、
「ガルド…!!!」
ダメージを与えながら──身の毛もよだつ呪いのエネルギーが相手を“しもやけ”状態にする技です。
ランジュ「確かに強力な技だとは思う……だけどね」
“シールドフォルム”で攻撃を耐え、“バトルスイッチ”で“ブレードフォルム”へと姿を変えながら、
ランジュ「“アイアンヘッド”!!」
「ガルド!!!!」
剣の切っ先をこちらに向けて、突き刺すように、ゾロアークへと突撃をしてくる。
栞子「ゾロアーク!!」
「ゾロアーークッ…」
ゾロアークは、後ろに飛びながら、攻撃を回避しようとするが──
しつこく追い回してくるギルガルドから、逃げ切れず、
「ゾロアーークッ…!!」
重い剣の体をぶつけられ、地面を転がり、たったの一撃で戦闘不能になってしまった。
栞子「ゾロアーク……!」
「ゾ、ゾロアーク……」
ランジュ「防御が低いゾロアークじゃ、撃ち合いきれなかったわね」
栞子「戻ってください……ゾロアーク……」
ゾロアークをボールに戻す。
あっという間に追い詰められて……残るは、ウインディだけ……。
ランジュ「……栞子、もうやめましょう。貴方じゃ私には勝てない」
栞子「……まだ……勝負はついてません……!」
ランジュ「無理よ。栞子は、私には勝てない……。……ねぇ、侑」
ランジュは急に、私の後ろにいる侑さんに声を掛ける。
侑「ん……なにかな」
ランジュ「この勝負……無効試合にしない? 栞子は本来戦う予定じゃなかったし……そもそもバトルが得意じゃない。ランジュが勝って当然よ……これで勝っても、嬉しくないわ。だから、この試合はなかったことに──」
栞子「……ダメです……!」
私はランジュの言葉を遮るように声をあげる。
ランジュ「……栞子。貴方は戦わなくていいの」
栞子「……どうして……ランジュがそれを決めるんですか……!」
175 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 21:06:14.21 ID:1Gm0czzm0
私はギュッとボールを握り込む。
自分が弱いことは……自分が一番わかっている。
自分にバトルの才能がないことだって……わかっています。
でも──
栞子「……私は……ずっと後ろで皆さんの戦いを見てきました」
私には、かすみさんのように、意表を突く奇抜な戦い方は出来ません。
せつ菜さんのように、裏打ちされた自信と、確かな実力で、盤石な戦いを展開することは出来ません。
しずくさんのように、誰にも予想出来ないような舞台を自身の力で作り出すことも……。
歩夢さんのように、信じられないような力で圧倒することも出来ない……。
栞子「私は……皆さんのように、上手に戦うことは出来ません……だけど──」
私は真っすぐランジュに視線をぶつける。
栞子「諦めないで最後まで戦うことは……私にだって出来ます……!」
ランジュ「…………」
栞子「ランジュが勝手に、私の可能性を決めないでください……!!」
私は──ボールを投げる。
「──ワォンッ!!!!」
栞子「ウインディ!! “かえんほうしゃ”!!」
「ワォンッ!!!」
ウインディが炎を噴き出すが──それより早く、
ランジュ「“かげうち”!!」
「ガルド!!!」
「ワオンッ…!!」
ウインディの足元から影が立ち上り、ウインディを攻撃する。
でも、ギルガルドも“かえんほうしゃ”に飲み込まれ──
「…ガル、ド…」
ここまでの蓄積ダメージもあって、やっと崩れ落ちる。
栞子「これで……1対1です……!」
ランジュ「……体力の削れたウインディで、サザンドラに勝てると思ってるの?」
栞子「まだ、勝負はついてません……!」
ランジュ「……侑、もう決着はついてるようなものよ。ここで試合を無効に出来るのは、貴方たちにとっても悪い話じゃないと思うんだけど」
栞子「ランジュ……!! どうして、そこまでして試合をなかったことにしたがるんですか……!?」
ランジュ「……そんなの……栞子と、これ以上戦いたくないからに決まってるじゃない……」
栞子「どうしてですか!? 私が弱いからですか!?」
ランジュ「そうよ。栞子は弱い」
栞子「……っ!」
真っ向から、弱いと言われ、言葉に詰まる。
176 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 21:07:02.36 ID:1Gm0czzm0
ランジュ「だから、強い人に守ってもらえばいいの。栞子が戦う必要なんて最初からないのよ」
栞子「……どうして──どうして、ランジュはいつも……私の話を聞いてくれないんですかっ……! 龍神様のことだって……解放したら大変なことになってしまうと何度も言ったのに……!!」
ランジュ「……話を聞いてくれないのは……栞子だって同じじゃない」
栞子「……え」
ランジュが──酷く寂しそうに、言った。
ランジュ「サザンドラ、出てきなさい」
「──サザンドーラ…!!!」
ランジュ「……そんなに続けたいなら……わからせてあげる。栞子は自分で戦う必要なんかないって……」
栞子「…………」
ランジュ「それで……もう戦わなくなるんだったら……。栞子に戦いなんて向いてないって……ちゃんと、わからせてあげるから……」
ランジュが一体、何を考えているのか……私には理解出来なかった。
ですが、戦いは最後の局面へと移っていく……。
🔖 🔖 🔖
ランジュ「“サザンドラ”! “あくのはどう”!!」
「サザンドーーラッ!!!!」
栞子「“いわなだれ”!!」
「ワォンッ!!!!」
再び前方に岩を降らせ、壁を作って攻撃を防ぐ。
だけど、
ランジュ「“りゅうのはどう”!!」
「サザンドーーラッ!!!!」
ランジュは立て続けに攻撃をし、岩石の壁を吹き飛ばす。
栞子「っ……! ウインディ、走ってください……!」
「ワォンッ…!!!」
狙いを付けられないように、ウインディが走り回り始める。
ランジュ「逃がさないわ……! サザンドラ!!」
「サザンドーーラッ!!!!」
ランジュの指示と共に、サザンドラの3つの口に、光が集束され──
ランジュ「“ラスターカノン”!!」
「サザンドーーーラッ!!!!」
光が一閃し、
「ワォンッ…!!!!」
栞子「ウインディ……!!」
ウインディを撃ち抜く。
177 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 21:07:45.12 ID:1Gm0czzm0
ランジュ「……無理よ。栞子じゃ……私には勝てない」
栞子「ま、まだです……!!」
「ワォ、ンッ…!!!」
ウインディはよろけながらも立ち上がる。
ランジュ「逃げるので精一杯じゃない……」
「サザンドーーラッ…!!!」
サザンドラの3つの口にそれぞれ──ほのお、でんき、こおりのエネルギーが集束され始める。
ランジュ「“トライアタック”!!」
「サザン、ドーーーラッ!!!!」
発射される3種のエネルギーの複合技に向かって、
栞子「“だいもんじ”!!」
「ワーーォォーーーンッ!!!!!」
大の字に広がる、業火で迎え撃つ。
空中でエネルギーがぶつかり合い、
栞子「きゃぁ……!」
弾ける衝撃が、私のところまで伝わってきて、尻餅をつく。
歩夢「栞子ちゃん……!」
栞子「へ、平気です……!」
でも、私はすぐに立ち上がる。
まだ……まだ終わってない……!
栞子「“ストーンエッジ”!!」
「ワォンッ!!!」
ウインディが前足で地面を打ち鳴らすと──サザンドラの真横にあった、洞窟の壁から鋭利な岩が突き出てくる。
しかし、
「サザンドーラッ」
サザンドラはアクロバット飛行のような身のこなしで、その岩を躱しながら、
ランジュ「“りゅうのはどう”!!」
「サザンドーーーラッ!!!!!」
ドラゴンエネルギーを発射する。
「ワォンッ……!!?」
直撃。
栞子「ウインディ……!!」
ランジュ「勝負……あったわね」
178 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 21:08:17.93 ID:1Gm0czzm0
よろけるウインディ。
体がゆっくりと傾き、崩れ落ちそうになったが──
「ワォンッ…!!!」
栞子「ウインディ……!」
ランジュ「……!」
ウインディは持ちこたえ、
「ワォーーーンッ!!!!!」
“かえんほうしゃ”でサザンドラに反撃する。
「サザンッ…!!!」
猛烈な火炎で押し返しながら、再びウインディが走り始める。
栞子「まだ……まだです……!」
歩夢「栞子ちゃーん! 頑張ってー!!」
せつ菜「栞子さん!! まだチャンスはありますよ!!」
かすみ「しお子ーー!! 諦めちゃダメだよーーー!!」
栞子「はい……!!」
私は皆さんの声援に頷く。
ランジュ「……何よ。……私の言葉は……聞いてくれないのに……なんで……」
栞子「ランジュ……! 私は何を言われても、途中で諦めたりしません……!」
ランジュ「…………サザンドラ……“ドラゴンダイブ”」
「サザンドーーーラッ!!!!」
急にサザンドラが──猛スピードで、ウインディに向かって落下してきた。
「ワォンッ…!!?」
栞子「ウインディ……!?」
急なことに全く対応出来ず、ウインディはサザンドラにのしかかられるように組みつかれ──
ランジュ「“りゅうのはどう”」
「サザンドーーーラッ!!!!」
至近距離で“りゅうのはどう”が炸裂する。
ランジュ「……だから言ったでしょ……栞子は私には勝てない」
「ワ、ォォォン…!!!」
栞子「まだ……まだですっ!!!」
「サザンッ…!!!?」
ランジュ「な……!?」
ウインディはボロボロになりながらも、サザンドラの真ん中の首に噛みつき、抵抗を続ける。
ランジュ「しつこい……!!」
「サザンッ…!!!!」
179 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 21:08:49.06 ID:1Gm0czzm0
しかし、サザンドラの首は3つある。両サイドの首から“りゅうのいぶき”を噴き付けられる。
でも、それでも──
「ワ、ォォォォンッ!!!!!」
ウインディは倒れなかった。
ランジュ「なんで……なんでよ……。……もう、体力……限界でしょ……」
栞子「ウインディ!! “だいふんげき”!!」
「ワォォォォンッ!!!!!」
ウインディは全身から炎熱を噴き出しながら、暴れはじめる。
ランジュ「……なんでよ」
栞子「ランジュッ!! 私は、最後まで諦めません……!!」
「ワォォォォンッ!!!!!」
「サザン、ドーーラッ…!!!!」
ウインディは逆にサザンドラを組み伏せ、何度も何度も炎熱を叩き付ける。
しかし、サザンドラもただ無抵抗にやられているわけではなく、何度も3つの首から、“りゅうのはどう”や“りゅうのいぶき”を発射し、ウインディを攻撃している。
栞子「あとちょっと……あとちょっとで……!!」
ランジュ「……なんなのよ」
「ワォォォォンッ!!!!!!」
ウインディが雄叫びと共に──大きく息を吸い込む。
ランジュ「……これでやっと──栞子が……戦わなくてよくなると……思ったのに……」
栞子「ウインディ!!! “だいもんじ”!!!」
「ワォォォォンッ!!!!!」
ウインディが最後の大技をサザンドラ目掛けて放った──が……。
ボフッ……。ウインディの口からは、小さな炎が出ただけで──
「ワ…ォン…」
ウインディは静かに崩れ落ちたのだった。
栞子「あ……」
ランジュ「……」
ウインディは……ついに力尽きて、戦闘不能になっていた。
栞子「ウインディ……!」
私はウインディの傍に駆け寄る。
「ワ、ォン…」
栞子「ウインディ……」
ボロボロになったウインディの顔に身を寄せると──
「ワォン…」
180 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 21:09:23.91 ID:1Gm0czzm0
ウインディは弱々しく鳴きながら、私の頬をペロりと舐めた。
栞子「ありがとうございます……ウインディ。……よく頑張りましたね……」
「ワ、ォン…」
私はウインディを労ってから、ボールに戻す。
そしてそこに、
歩夢「栞子ちゃん……!」
かすみ「しお子ー……!!」
皆さんが駆け寄ってくる。
栞子「……すみません……。……負けて……しまいました……」
私はそう口にしながら、シュンとしてしまう。けど、
歩夢「うぅん……栞子ちゃん、すごく頑張ってたの……ちゃんと見てたよ」
栞子「歩夢さん……」
かすみ「うんうん! ナイスファイトだったと思うよ! 特に最後、すごかった!」
栞子「かすみさん……」
せつ菜「そうですよ。結果は負けてしまったかもしれませんが……得られるものはあったはずです」
栞子「せつ菜さん……」
侑「誰も栞子ちゃんのこと、責めたりしないから……そんな顔しないで?」
栞子「侑さん……」
しずく「……栞子さん……けほ……かっこ、よかったよ……けほけほ……」
栞子「しずくさん……」
負けてしまった。
自分から名乗り出て、戦うと言ったのに。
大事な大将戦で負けてしまったのに……。
皆さんが励ましてくれる言葉が、温かかった……。
ミア「……とりあえず、これでランジュの3勝2敗だ。……レックウザを捕まえる権利はランジュが得る。それで問題ないね?」
栞子「……はい」
これに関してはそういう約束である以上、反故にすることは出来ない。
ですが──
ランジュ「…………もう、いいわ」
ランジュは急に、目を伏せたまま、そう言った。
ミア「What?」
ランジュ「……もう……いい……」
ミア「何がだよ」
ランジュ「…………レックウザ……もう、いい……」
ミア「……はぁ? おい、何言ってるんだ、ランジュ」
ランジュ「…………栞子に……こんな苦戦してるようじゃ……ダメなのよ……」
181 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 21:09:56.01 ID:1Gm0czzm0
ランジュは絞り出すように言いながら──手から、“みどりいろのたま”を地面に放る。
栞子「……ランジュ……?」
ランジュ「ランジュは……圧倒的に強くなくちゃいけないのに……」
そう言って、ランジュは踵を返す。
ミア「おい、ランジュ!!」
ランジュ「……ミア、もう付いてこなくていいわ」
ミア「はぁ!?」
ランジュ「……もう……やめにしたから……」
ミア「ふざけんなよっ!! おい、待てって……!! ランジュ!!」
ミアさんが大声で怒鳴りながら、ランジュを制止しますが──ランジュは振り返ることなく、クリスタルケイヴから去っていってしまったのでした……。
🎹 🎹 🎹
ミア「なんだよ……一体なんなんだよ……!! わけわかんないよ……!!」
憤慨するミアちゃんを見ながら、私たちも呆然としていた。
かすみ「えっと……とりあえず……解決……しました……?」
せつ菜「……そ、そう……なんですかね……?」
侑「……確かに、ランジュちゃんがレックウザを諦めてくれたなら……目的は達成された……けど……」
あまりに急な展開に、全員が反応に困っていた。
そんな中、
ミア「…………っ」
ミアちゃんは拳を握りしめて、肩を震わせていた。
ミア「……なん……だよ……。……ランジュが、ボクの育てたポケモンで……最強を証明するって……言ったんじゃないか……」
ミアちゃんは悔しそうに、呟く。
ミアちゃんは最初は憤慨していたけど、だんだんと表情が曇っていき──
ミア「…………ボクの育てたポケモンが……悪かったのか……?」
自分を責めるようなことを口にし始めた。
ミア「ボクの育てたポケモンが……弱いから……ランジュが、満足の行く結果を……出せなかったんじゃ……」
自分を卑下するように言うミアちゃんに向かって、
リナ『そんなことないと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんが答える。
182 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 21:10:43.73 ID:1Gm0czzm0
ミア「…………なんだよ。同情か?」
リナ『そうじゃない。ミアちゃんの育てたポケモンは、攻撃、防御、素早さ、技や細かい調整も、全部完璧だった。だから、そんなに自分を卑下しなくてもいい』 || ╹ ◡ ╹ ||
ミア「……お前に何がわかるんだよ」
リナ『わかる。私はポケモン図鑑だから。ミアちゃんの育てたポケモンがどれだけ強かったのかは、数値を見れば一目瞭然』 || ╹ ◡ ╹ ||
ミア「じゃあ……なんで、ランジュはいなくなったんだよ!!!」
リナ『それはわからない。でも、ミアちゃんが自分を責める必要は全くない。自信を持っていい』 || ╹ ◡ ╹ ||
ミア「……っ!! お前なんかに何がわかるんだよっ!!! ただの機械の癖に……!!」
ミアちゃんが振るった手が、近くを飛んでいたリナちゃんのボディを弾く。
リナ『わわ……!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「リナちゃん……!?」
ミア「あ……っ」
ミアちゃんもさすがに手が出てしまったことに、動揺を見せるが──
ミア「まだ……何も証明、出来てないのに……っ……」
唇を噛み締めて、その場から走り去ってしまった。
かすみ「もう……なんなんですか、あれ」
侑「リナちゃん、平気?」
リナ『平気……。……私、もしかして無神経なこと、言っちゃったかな……』 || 𝅝• _ • ||
せつ菜「そんなことは、ないと思いますけど……」
かすみ「うまく行かなくって、ムキーってなっちゃってただけでしょ。別にリナ子が気にするようなことじゃないって」
リナ『うん……』 || 𝅝• _ • ||
侑「…………」
歩夢「とりあえず……私たちも外に出る……?」
歩夢の言葉にしずくちゃんが頷きながら、『それがいいかもしれません』と筆談する。
栞子「…………」
歩夢「栞子ちゃん……大丈夫……?」
栞子「え……あ、はい……」
栞子ちゃんも、あまりに急なことだったため、頭が追い付いていない様子だった。
せつ菜「とりあえず……今後どうするかは研究所に戻って話しましょうか」
侑「そうだね……一旦、セキレイに戻ろう」
全員で頷き合い、私たちはクリスタルケイヴを後にする。
五番勝負は……惜しくも負けてしまったけど……期せずして、事態は……解決……したのかな……?
183 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 21:11:36.08 ID:1Gm0czzm0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【クリスタルケイヴ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ● |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
184 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/18(水) 21:12:12.11 ID:1Gm0czzm0
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.82 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.79 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.80 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.77 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドラパルト♂ Lv.78 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
フィオネ Lv.74 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:284匹 捕まえた数:12匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.69 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.69 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.65 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
トドゼルガ♀ Lv.65 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラージェス♀ Lv.65 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
ウツロイド Lv.73 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:263匹 捕まえた数:24匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.84 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロアーク♀ Lv.78 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
マッスグマ♀ Lv.75 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニゴーン♀ Lv.75 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ダストダス♀✨ Lv.74 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
ブリムオン♀ Lv.76 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:304匹 捕まえた数:15匹
主人公 しずく
手持ち インテレオン♂ Lv.69 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
バリコオル♂ Lv.68 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アーマーガア♀ Lv.68 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロズレイド♂ Lv.68 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
サーナイト♀ Lv.69 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
ツンベアー♂ Lv.69 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:285匹 捕まえた数:23匹
主人公 せつ菜
手持ち ウーラオス♂ Lv.79 特性:ふかしのこぶし 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
ウインディ♂ Lv.87 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
スターミー Lv.83 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
ゲンガー♀ Lv.85 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
エアームド♀ Lv.81 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
ドサイドン♀ Lv.84 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:211匹 捕まえた数:51匹
主人公 栞子
手持ち ピィ♀ Lv.11 特性:メロメロボディ 性格:やんちゃ 個性:かけっこがすき
ウォーグル♂ Lv.71 特性:ちからずく 性格:れいせい 個性:かんがえごとがおおい
ウインディ♀ Lv.71 特性:もらいび 性格:さみしがり 個性:のんびりするのがすき
ゾロアーク♂ Lv.69 特性:イリュージョン 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
イダイトウ♀ Lv.68 特性:てきおうりょく 性格:さみしがり 個性:にげるのがはやい
マルマイン Lv.69 特性:ぼうおん 性格:きまぐれ 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 0個 図鑑 未所持
侑と 歩夢と かすみと しずくと せつ菜と 栞子は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
185 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/19(木) 11:14:16.81 ID:aJfxqeWu0
■ChapterΔ009 『ミア・テイラー』 【SIDE Yu】
クリスタルケイヴでの試合を終えて、ツシマ研究所に戻ってきた私たち。
せつ菜「とりあえず……これから、どうしましょうか」
侑「レックウザを封印しに行く……のかな……?」
「ブイ?」
栞子「そうですね……。ランジュがこれ以上、龍神様に関わる気がないのなら……そうなると思います」
かすみ「でもでも……あのランジュ先輩が、こんな簡単に諦めるんですかね……?」
確かに、なかなか話を聞いてくれなかったランジュちゃんが、突然レックウザ捕獲の挑戦権を放棄してしまったのは、今でも信じられないけど……。
栞子「ですが……宝珠はここにあります」
栞子ちゃんは今まで使っていた“もえぎいろのたま”とは別に、ランジュちゃんが捨ててしまった“みどりいろのたま”も持っていた。
栞子「宝珠がなければ……結局、龍神様に龍脈のエネルギーをお返し出来ませんし……エネルギーを返さないと捕獲も出来ません」
歩夢「そもそも、そのために龍脈のエネルギーを集めて回ってたんだもんね……」
ランジュちゃんが宝珠を捨ててしまったと言うことは、本当にレックウザを捕獲する気を失くしたのと同義だ。
かすみ「まあ、ランジュ先輩が何考えてるかはわかりませんけど……とりあえず、解決したってことでいいんじゃないですか?」
かすみちゃんはあっけらかんと言うけど、それに対してしずくちゃんが──『それでいいのかな……』と心配そうに返す。
かすみ「でも、これで後はレックウザをもう一度しお子が封印すればいいんでしょ?」
──『それはそうかもしれないけど……』としずくちゃん。
せつ菜「ところで……レックウザは今どこにいるんでしょうか?」
栞子「それはわかりませんが……恐らく、まだ私たちの行っていない龍脈の地にいると思われます」
歩夢「龍神様も龍脈の地を目指してたの……?」
栞子「龍神様も龍脈からエネルギーを吸収することは出来るので……本来は自分の持っていたエネルギーですし。ただ、宝珠ほど効率がいいわけではないので……」
せつ菜「つまり……いつまでも放っておくと、龍脈のエネルギーを集めきって、完全復活してしまうということですね」
栞子「そういうことになります。恐らく、宝珠で集めた龍脈とは逆順で巡っていると思うので、このまま反応を追っていけば、龍神様とはどこかで鉢合わせることになると思います」
せつ菜「私たちの目的は捕獲ではありませんでしたが……レックウザを見付けるためには、どちらにしろ龍脈を巡る必要があったということですね」
かすみ「じゃあ、次の龍脈を目指しましょう! しお子、次の龍脈は──」
かすみちゃんがそう言いかけたところに、
善子「……余裕が出来たなら、一旦休んだ方がいいんじゃない? 貴方たち、ここ数日ずっと動きっぱなしでしょ?」
とヨハネ博士から一言。
かすみ「えー、でも善は急げって言うじゃないですか〜」
善子「準備を整えなさいって話よ。これから、そのレックウザと対面するんでしょ? 何事もなく、はいわかりましたって、また封印されてくれると思うの?」
かすみ「う……それは、確かに……」
善子「特に、歩夢としずくは一旦ゆっくり休みなさい。じっとしてろとは言わないけど、万全な状態じゃないんだから。リフレッシュも兼ねて1日くらい休息を取りなさい」
歩夢「は、はい」
186 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/19(木) 11:14:53.56 ID:aJfxqeWu0
ヨハネ博士の言葉に──『お気遣い感謝します』としずくちゃんが頭を下げる。
侑「それじゃ……明日1日は自由行動にしよっか」
栞子「自由行動……ですか……?」
歩夢「やっぱり……早く龍神様のところに行きたい?」
栞子「い、いえ……そういうわけではなくて……。……自由行動と言われても、一体何をすればいいのかと……」
かすみ「そういうことなら〜、セキレイデパートでお買い物しようよ〜! しお子に似合うアクセサリー、かすみんが選んであげる!」
栞子「あ、アクセサリーですか……?」
歩夢「それ楽しそう♪ 私も付いて行っていい?」
かすみ「もちろんです〜! 歩夢先輩も一緒に行きましょ〜!」
かすみちゃんたちがお買い物の予定を立てて盛り上がる中──
リナ『ねぇ、侑さん』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんが話しかけてくる。
侑「ん? なにかな?」
リナ『ちょっと……お願いがあるんだけど……』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「お願い?」
リナ『うん……連れて行って欲しい場所があるんだ』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんからお願い事なんて珍しいなと思いながら、私はリナちゃんの話に耳を傾ける──
🎹 🎹 🎹
──翌日。私がリナちゃんにお願いされて来た場所は……。
鞠莉「──Mia Taylor?」
リナ『うん。博士なら知ってるんじゃないかと思って』 || ╹ᇫ╹ ||
オハラ研究所──鞠莉博士のところだった。
リナちゃん曰く、鞠莉博士はお嬢様だから、人脈が広く、もしかしたら私たちが知らないようなことも知っているんじゃないかとのこと。
鞠莉「確か……あのテイラー家の次女よね」
リナ『うん』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「そもそも、テイラー家ってどんなお家なんですか?」
私たちが知っていることと言えば、有名なポケモントレーナーの一家ということくらいだ。
あくまで、有名人だから知っている程度の知識でしかない。
187 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/19(木) 11:15:41.81 ID:aJfxqeWu0
鞠莉「確か、当主は過去にいくつかの地方のリーグ大会で優勝経験をしている人だったと思うわ。奥様は、バトルの腕もさることながら、ポケモンミュージカルの女優としても有名ね。あと、長女は今でもトップクラスのトレーナーとして、世界中のリーグで活躍していたはずよ」
侑「本当にバトル一家なんだ……」
リナ『家族はみんなトレーナー……なのに、なんでミアちゃんだけブリーダーなんだろう……?』 || ╹ _ ╹ ||
鞠莉「本人が公の場で、その理由に言及したことはないけど……。ただ、何年か前に話題にはなったのよね」
侑「話題……ですか……?」
鞠莉「バトル一家の末っ子であるミア・テイラーの公式デビュー戦で……彼女は不戦敗だったのよ」
侑「不戦敗……? どういうことですか……?」
鞠莉「時間になっても、バトルフィールドに現れなかったのよ。それ以降、彼女の名前がバトルの世界で挙がったことはないみたい」
バトルの場に現れなかった……?
侑「どうして、そんなことが……」
鞠莉「本当の理由はわからないけど……。……テイラーの名前が重かったんじゃないかとは言われてるわね」
リナ『重かった……』 || ╹ᇫ╹ ||
鞠莉「彼女が初めての公式戦に臨んだのは、8歳のとき。ご両親はもちろん、すでにそのときにはお姉さんもバトルで名を上げていて……全世界が、これからバトルの世界にやってくる超新星に期待をしていたそうよ」
侑「でも、結局ミアちゃんは……現れなかった……」
鞠莉「……そして、数年後にブリーダーとして名を上げ始めた。わたしが知ってるのはこれくらいかしら……。参考になった?」
リナ『うん、ありがとう、博士』 || ╹ ◡ ╹ ||
鞠莉「それなら、よかったわ」
🎹 🎹 🎹
──研究所を後にして……。
リナ『ねぇ、侑さん』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「なに?」
「ブイ?」
リナ『もう一つ……お願い、していい?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「いいよ。なにかな?」
リナ『……私と一緒に、ミアちゃんを探して欲しい』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんはそんなお願い事を口にする。
リナ『私……ミアちゃんの気持ち、わかる気がするんだ……』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「ミアちゃんの……気持ち?」
リナ『私も……お父さんとお母さんの研究を完成させなきゃって……すごくプレッシャーに感じてたことがあるから……。ミアちゃんも、そういうプレッシャーに苦しんでるんじゃないかなって……』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「…………そう、かもしれないね……」
確かにリナちゃんの言うとおり、ミアちゃんはすごく焦っていた。
まだ何も証明出来ていないと……。
もしかしたら……トレーナーになれなかった分を、ブリーダーとして取り戻そうとしているのかもしれない。
188 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/19(木) 11:16:48.29 ID:aJfxqeWu0
リナ『それなのに私……何も知らないのに、無神経なこと言って……ミアちゃんのこと、傷つけちゃったかもしれない……』 || 𝅝• _ • ||
侑「リナちゃん……」
リナ『一人で抱え込んでるときって……周りの全てが自分の敵みたいに見える……。……そんなとき、私の場合は愛さんがいつも傍に居てくれたけど……ミアちゃんは今、一人で苦しんでる……。そう思ったら、私……放っておけなくて……』 || 𝅝• _ • ||
侑「……わかった。一緒にミアちゃんを探そう」
リナ『ホント……?』 || 𝅝• _ • ||
侑「もちろん。リナちゃんのお願いだもん! それに、私もミアちゃんのこと……心配だからさ」
リナ『……ありがとう! 侑さん……!』 || > ◡ <𝅝||
私たちは、ミアちゃんを探すことに決め、
侑「ウォーグル、出てきて」
「ウォーーッ!!!」
ウォーグルに乗って、空に飛び立つ。
侑「でも……探すって言っても、どこに行けばいいんだろう」
当たり前だけど、行き先を聞いているわけじゃない。ただ、この広いオトノキ地方を闇雲に探すというのも……。
リナ『ミアちゃん……あの様子だとランジュさんを探してるんじゃないかな』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「確かに……。……もしミアちゃんがランジュちゃんを探してるんだとしたら……」
リナ『ランジュさんの行き先がわからないなら、とりあえず近くの大きな街で探すと思う……』 || ╹ᇫ╹ ||
クリスタルケイヴから近い街というと──
侑「ローズシティ……」
リナ『もちろん、あくまで予想だから、いる保証はないけど……』 || ╹ _ ╹ ||
侑「どちらにしろ、ここで待ってても会えないのは間違いないよね。とりあえず、ローズに行ってみよう」
「ブイ」
リナ『うん!』 || > ◡ < ||
侑「ウォーグル、ローズシティまでお願い!」
「ウォーーグ!!!!」
私たちはローズシティに向かって飛び立つ──
🎹 🎹 🎹
──ローズシティにたどり着いた私たち。
侑「って言っても……ローズシティは広いよね」
「ブイ」
イーブイを上着の中に入れて、胸から顔だけ出ている状態にして、歩き始める。
リナ『外周区よりは中央区かな……。ミアちゃん、ポケモンを連れ歩いてはいなかったし……』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「とりあえず……聞き込みしてみようか」
189 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/19(木) 11:17:40.87 ID:aJfxqeWu0
プラチナブロンドのあの髪はローズシティでは目立つと思うし……。
私たちは中央区まで移動し、聞き込みを始める。
侑「あの、すみませーん!」
通行人「ん? なにかな?」
侑「えっと、私と同じくらいの身長のプラチナブロンドの髪をした女の子を探してるんですけど……」
通行人「うーん……この辺りでは見てないかな……」
侑「そうですか……ありがとうございます」
数人同じ調子で聞き込みをしてはみたものの……。
侑「特に収獲はなしだね……」
リナ『ローズにはいないのかな……』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「せめて、どっち方面に行ったかだけでもわかれば……」
こんなことなら、あのとき追いかけておくべきだった。
二人で手をこまねいていると──
「──あれ? 侑さんとリナさん?」
声を掛けられる。
侑「え?」
振り返ると──
菜々「お二人もローズにいらしてたんですね」
侑「せつ菜ちゃん……?」
「ブイ♪」
そこに居たのはせつ菜ちゃん──いや、カジュアルな服装で髪は三つ編みに、さらに眼鏡を掛けているから、今は菜々ちゃんモードのようだ。
リナ『せつ菜さん、セキレイにいたんじゃないの?』 || ╹ᇫ╹ ||
菜々「えっと……博士の手伝いをしていたら、「私を手伝ってないで、ちゃんと休みなさい」と言われたので……一旦家に戻ってきたんです。せっかくなので、少し街で買い物でもしようと思って」
侑「でも、なんで菜々ちゃんモード……?」
菜々「この街にいるときは、この格好の方が落ち着くんです。……それに、せつ菜として出歩くと……人の多い場所では目立つので……あはは」
確かに、ローズはセキレイ以上の人口密集地だ。
今もビルの立ち並ぶ街中を、人が行ったり来たりしている。
せつ菜ちゃんほどのトレーナーだと、目立ち過ぎてしまうのかもしれない。
菜々「ところで、お二人はどうしてローズに? 朝から姿が見えないとは思っていましたが……」
侑「あぁ、そうだった……えっとね」
私たちはせつ菜ちゃんに、事情を説明し始める。
190 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/19(木) 11:18:24.50 ID:aJfxqeWu0
菜々「──……ミアさんの行方、ですか……」
リナ『ただ、正直空振りかも……』 || 𝅝• _ • ||
菜々「いえ、人の多い場所で聞き込みをするというのは間違ってないと思います。少なくとも、最後に見たのはクリスタルケイヴなわけですし……補給をするなら、ローズには寄るはずです」
侑「でも、見かけた人も特にいないみたいで……あの髪色なら目立つと思うんだけど……」
菜々「うーん……この街はいろんな人がいますからね。中央区の方だと外国人の方も多いですし……」
侑「……言われてみれば」
プラチナブロンドの女の子は歩いていないけど、確かにちらほらとスーツ姿の外人さんが歩いている。
菜々「中央区には基本的にポケモンがいないので、この国の文化がわからない人でも、安心して訪れることが出来るんです。……だから、実は外国人の方が多い街でもあるんですよ」
侑「そうなんだ……。……でも、確かにこれじゃ、ミアちゃんを見かけてもあんまり印象に残らないかも……」
リナ『いいアイディアだと思ったけど……失敗だったね』 || 𝅝• _ • ||
菜々「むしろ、ミアさんを探すなら、中央区よりも外周区の方がいいかもしれませんよ」
侑「え? どうして?」
菜々「外周区にはポケモンバトルの施設があります。そこでは、ポケモンをレンタルして戦うことが出来る場所もあるんですが……」
リナ『……そっか! ミアちゃんはブリーダーだから……!』 || ╹ᇫ╹ ||
菜々「はい! ミアさんが育てたポケモンをレンタルしている施設もあるので、そういうところでしたら、ミアさんの姿に見覚えがある方もいらっしゃると思うんです!」
侑「なるほど……!」
私はリナちゃんと頷き合う。
リナ『外周区のポケモンバトル施設に行ってみよう!』 || > ◡ < ||
菜々「でしたら、ご案内しますよ!」
侑「いいの? お休み中だったのに……」
菜々「いえ、むしろ手持無沙汰でそわそわしていたので……ご一緒させてください!」
侑「そういうことなら……せつ菜ちゃん、案内お願い!」
菜々「はい! お任せください!」
私たちはせつ菜ちゃんに案内され、外周区のバトル施設へと足を運ぶ。
🎹 🎹 🎹
せつ菜ちゃんの案内で外周区のポケモン施設へとやってきた私たち。
結論から言うと──ここで聞き込みをする必要はなかった。
何故なら……。
ミア「…………違う……そのポケモンの使い方はそうじゃないって……」
ミアちゃんはバトル場に入ってすぐの観客席で、観戦をしていたからだ。
ミア「Oh, my gosh...なんで、ボクのポケモンを使って負けるんだよ……。レンタル前に能力と覚えてる技を見れば、どういう想定で育てられてるのかもわかるはずなのに……。くそ……ランジュだったら、それくらいすぐに理解してたのに……」
目の前で行われている試合を見ながら、ぶつぶつと文句を言うミアちゃんに向かって、
191 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/19(木) 11:19:07.37 ID:aJfxqeWu0
リナ『ミアちゃん』 || ╹ᇫ╹ ||
ミア「わぁ!?」
リナちゃんが話しかけると、ミアちゃんは驚いて飛び上がる。
ミア「な、なんだ……キミたちか……」
リナ『ごめんなさい……驚かせるつもりはなかった』 || 𝅝• _ • ||
ミア「……いいよ、別に……」
侑「ミアちゃん……どうして、ここに?」
ミア「見てわかんないの? 観戦だよ」
菜々「それはわかりますが……」
ミアちゃんは深く溜め息を吐きながら、
ミア「……ランジュの代わりを探してるんだ……」
そんな風に言う。
リナ『代わり……?』 || ╹ᇫ╹ ||
ミア「ランジュの代わりに……ボクの育てたポケモンの強さを証明してくれる人を探してるんだ……」
侑「じゃあ、ミアちゃんがランジュちゃんのポケモンを用意してた理由って……」
ミア「そうだよ。ランジュにはボクのブリーダーとしての腕を証明してもらうために、ポケモンを用意してた。そして、ランジュはどんなポケモンでも扱いこなせるだけの実力を示すために、ボクにポケモンを要求してきた。……まあ、結局ランジュは投げ出しちゃったけどね」
リナ『どうしてそこまで……』 || ╹ _ ╹ ||
ミア「……キミたちには関係ない」
ミアちゃんはそう言うと、席を立って、この場から去ろうとするけど──
リナ『待って』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんはその行く手を阻むように、ミアちゃんの前に浮遊する。
ミア「どいてくれない? 通れないんだけど。ボクは今、忙しいんだ」
リナ『どうしてそこまで……ブリーダーとしての能力を証明することに拘るの……?』 || ╹ _ ╹ ||
ミア「……どけよ」
ミアちゃんは手でリナちゃんを除けようとする、けど──
リナ『今のミアちゃん……すごく、辛そう』 || ╹ _ ╹ ||
ミア「……うるさい」
リナ『私で良ければ話して欲しい……辛そうなミアちゃん……放っておけない』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんがそう言いながら、さらに近寄ろうとすると──
ミア「……あぁもう……!! ウザいなぁ!!」
ミアちゃんはリナちゃんを手で強く払いのけ、それによってリナちゃんが近くの席にガンッと音を立てながらぶつかった。
192 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/19(木) 11:19:45.11 ID:aJfxqeWu0
ミア「ぁ……」
侑「り、リナちゃん……!? 大丈夫……!?」
リナ『……平気。私のボディ、頑丈だから』 || ╹ᇫ╹ ||
ミア「…………ごめん。ボク……また……」
ミアちゃんはシュンと顔を伏せる。
リナ『それより大丈夫? 私のボディ、硬いから……ミアちゃん、手……痛くなかった……?』 || ╹ᇫ╹ ||
ミア「…………ごめん……つい熱くなっちゃって……」
リナ『そういうときもある』 || ╹ ◡ ╹ ||
ミア「…………」
リナ『そういうときは……。……ミアちゃん、何か食べたいもの、ある?』 || ╹ ◡ ╹ ||
ミア「食べたいもの……?」
🎹 🎹 🎹
──ミアちゃんを連れ立って訪れたのは……ローズシティにあるファーストフード店。
菜々「ハンバーガーなんて、久しぶりです……!」
せつ菜ちゃんがおいしそうにハンバーガーに齧り付く。今は見た目が菜々ちゃんだから、ギャップがあってなんだか可愛らしい。
侑「ミアちゃんも、どうぞ♪」
そう言って、トレイの上に置かれたハンバーガーをミアちゃんに手渡す。
ミア「Thanks...」
ミアちゃんは受け取ったハンバーガーの包みを開け、一口食べると──
ミア「……ん……あむ……」
二口、三口と、どんどん食べていく。
ミア「……そういえば……昨日から何も食べてなかった……」
リナ『お腹が空いてると、イライラしちゃうから、そういうときはご飯を食べた方がいいって、彼方さんに教わったんだ。私はもう食べられないけど』 || ╹ ◡ ╹ ||
ミア「……もう……?」
リナちゃんの言葉に、ミアちゃんが怪訝な顔をする。
侑「ミアちゃんは……実はもともと人間なんだ」
ミア「Huh?」
せつ菜「とある事故が原因で、身体を失ってしまったと言いますか……少し説明が難しいんですが……」
ミア「……そうなの?」
リナ『……うん。まあ、でもそれは大した問題じゃない』 || ╹ ◡ ╹ ||
リナちゃんは大した問題ではないと言うけど──
193 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/19(木) 11:20:41.85 ID:aJfxqeWu0
ミア「ご、ごめん……。……ボク、キミのこと……ただの機械だなんて……」
リナ『大丈夫、気にしてないよ。それより、ハンバーガーたくさんあるから、好きなだけ食べて』 || ╹ ◡ ╹ ||
ミア「うん……ありがとう」
ミアちゃんは頷くと、ハンバーガー3つほどをペロりと平らげてしまった。
よほどお腹が空いていたのかもしれない。
リナ『お腹いっぱいになった?』 || ╹ ◡ ╹ ||
ミア「うん……。さっきは……ごめん」
リナ『うぅん。そういうときもある。……ミアちゃん、改めて……どうしてそこまで自分の能力を証明したがるのか、聞いてもいい?』 || ╹ᇫ╹ ||
ミア「……。……ボクはテイラーの家に生まれたのに……戦えないんだ。家族はみんな……ポケモンバトルで素晴らしい成績を残しているのに……ボクだけは、何も残せていない……」
リナ『ポケモンバトルが嫌いなの……?』 || ╹ᇫ╹ ||
ミア「嫌いじゃないさ。……むしろ、小さい頃は……大好きだった。毎日ポケモンバトルの観戦をして、自分だったらこう戦う、ああしたいっていろんなことを考えて……」
リナ『じゃあ、どうして……』 || ╹ _ ╹ ||
ミア「……ある日、テイラー家みんなで一緒にエキジビションを行う機会があったんだ。それが初めての公式戦……ボクのポケモントレーナーとしてのデビュー戦だった。ワクワクしたよ。……でも、ボクはわかってなかったんだ……。テイラーの名が……世間からどれだけ期待されていたのかを……」
リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||
ミア「スタジアム一杯に観客が居て……何千という目が……新たなトレーナーの誕生を待ち望んでいた……。ただ、バトルをするのが好きで、楽しむことしか考えていなかった自分が……それに応えられるのか……。そう思ったら……足が竦んで……バトルフィールドに出て行くことが出来なかった」
──それはまさに、鞠莉博士から聞いた話だった。
ミア「バトルの出来ないテイラー家の娘に……価値なんてない。だから、せめて……自分に出来ることで居場所を作ろうとしたんだ」
リナ『だから……ブリーダーに……』 || ╹ _ ╹ ||
ミア「でも……結果は、ランジュに満足の行く戦いをさせてやれなかった。ランジュを利用してまで、ようやく手が届くと思っていたのに……」
リナ『でも、ミアちゃんの育てたポケモンは本当によく育てられてて。それは嘘偽りない事実』 || ╹ᇫ╹ ||
ミア「……ありがとう。……だけど、トレーナーに気持ちよくバトルをさせてあげられないなら……やっぱり、それじゃダメなんだ」
リナ『ミアちゃん……』 || ╹ _ ╹ ||
ミア「このままじゃ……ボクは何もない……空っぽなんだ……」
リナ『……でも、ミアちゃんはここにいるよ』 || ╹ᇫ╹ ||
ミア「え……?」
リナ『身体があって、声があって、目で、耳で、人やポケモンと触れ合える。言葉で繋がりあえる』 || ╹ᇫ╹ ||
それはもう……リナちゃんには出来ないことだからこそ、強い意味を持った言葉だった。
リナ『私……ミアちゃんが自分のポケモンと一緒に戦う姿、見てみたいな』 || ╹ ◡ ╹ ||
ミア「え……」
リナ『私ね、旅を通して、いろんな人がポケモンと一緒に戦う姿を見てきた。いろんな人がいたけど──みんな、違った。いろんなトレーナーが、いろんな向き合い方で、ポケモンと一緒にいろんな戦いを見せてくれた。最初は侑さんのサポートのために旅に出たけど……今は私も、トレーナーとポケモンが心を通わせて戦う姿を見るのが楽しみの一つなんだ。この人はどんな戦いを見せてくれるんだろうって、ワクワクするんだ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「リナちゃん……」
ミア「……でも、ダメだよ……。……テイラー家の娘が……そんな、ただしたいからってだけでバトルなんて……」
リナ『私は……ミア・テイラーじゃなくて、ミアちゃんのバトルしてる姿が見たいな』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
ミア「……」
リナ『テイラー家がどんなものなのか、私は知らない。だけど、バトルが好きなら、その気持ちをなかったことにしなくていいと思う』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
ミア「……でも」
リナ『もし……ミアちゃんがまたトレーナーとして戦うのが怖いなら──私も一緒に今日ここでポケモントレーナーになる』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
ミア「……え」
194 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/19(木) 11:21:33.96 ID:aJfxqeWu0
リナちゃんの言葉に反応するように──
「──ニャー」
私の腰のボールから、ニャスパーが飛び出す。
リナ『侑さん、ニャスパー借りるね』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「もちろん。ニャスパーはリナちゃんのポケモンだしね」
リナ『ミアちゃん、私とポケモンバトルして!』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
📶 📶 📶
──バトル場。
菜々「使用ポケモンは1匹ずつ。どちらかが戦闘不能になった時点で決着です! いいですね?」
ミア「……ボクは……」
リナ『ミアちゃん! 全力で思いっきりバトルしよう! 今はただ、私と私のポケモンだけを見て!』 || > ◡ < ||
「ニャー」
ミア「……。……わかった」
菜々「それでは……試合──開始です!!」
せつ菜さんの掛け声と共に、バトルが始まる。
リナ『行くよ、ニャスパー!』 || > ◡ < ||
「ニャー」
ミア「行け……! プリン!」
「プュ〜!!」
私のニャスパーと、ミアちゃんのプリンが対峙する。
ミア「プリン! “ハイパーボイス”だ!」
「プーーーーユーーーーーーッ!!!!!」
リナ『ニャスパー! “ひかりのかべ”!』 || > ◡ < ||
「ウニャーー」
飛んでくる“ハイパーボイス”を“ひかりのかべ”でガードする。
ミア「なら、“うたう”だ!」
「プ〜プルルゥ〜♪」
心地の良い歌で、ニャスパーを眠らせようとしてくるミアちゃん。
リナ『“しんぴのまもり”!』 || > ◡ < ||
「ニャー」
なら、こっちは“ねむり”を防ぐ神秘のベールを展開する。
リナ『逆に今度はこっちが眠らせるよ!』 || > ◡ < ||
「フニャァ〜〜…」
ニャスパーが眠そうに息を大きく吸い込み、
195 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/19(木) 11:22:15.57 ID:aJfxqeWu0
「プ、プユ…」
プリンの眠気を誘う。
ミア「“あくび”か……! なら、“ミストフィールド”!」
「プュ〜〜!!」
“ミストフィールド”が展開され、プリンの眠気が吹き飛ぶ。
“ミストフィールド”は状態異常を防いでくれるフィールドだから、これでもう、この場にいる2匹は眠らなくなった。
でも、その対応の時間は、こっちの攻撃チャンスになる。
リナ『ニャスパー! “サイコキネシス”!!』 || > ◡ < ||
「ウニャァーーー」
ニャスパーが耳を全開にし、全力“サイコキネシス”でプリンを吹き飛ばす。
「プ、プユ〜〜〜!!?」
ミア「プリン……!?」
吹き飛ばされたプリンは、壁にぶつかって跳ね返り──そのまま、天井や壁や床をぽよんぽよんと何度も跳ね返りまくる。
リナ『……い、いくらなんでも、跳ね過ぎのような……?』 || ╹ᇫ╹ ||
「ウニャ?」
ミア「わざと跳ねてるからね……!」
リナ『!?』 || ? ᆷ ! ||
跳ね返りまくったプリンは──跳ね返る反動を乗せて、ニャスパーへと突っ込んでくる。
ミア「“アイアンローラー”!!」
「プーーーーリィィーーーーッ!!!!」
「フニャァァァ〜〜〜〜!!!?」
リナ『ニャスパー!?』 || ? ᆷ ! ||
“アイアンローラー”はフィールドすらも破壊する勢いで回転しながら突撃する強力な技。
“ミストフィールド”を破壊しながら、ニャスパーを撥ね飛ばす。
ミア「追撃だ!! “シャドーボール”!!」
「プーーーリィーーー!!!!」
リナ『さ、“サイケこうせん”!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
「ウニャァ〜〜」
吹き飛ばされながらも、サイコパワーで姿勢を維持し、向かってくる“シャドーボール”に空中で“サイケこうせん”を発射して相殺しようとする。
ミア「く……攻撃の相性ではこっちの方が有利なのに……!」
リナ『ニャスパーのサイコパワーはすごいんだよっ!』 || > ◡ < ||
ニャスパーが浮いたまま、次の攻撃に移ろうとした瞬間、
ミア「“じゅうりょく”!!」
「プュッ!!」
「フニャ!!!?」
リナ『って、わぁぁぁ!!?』 || ? ᆷ ! ||
196 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/19(木) 11:23:06.60 ID:aJfxqeWu0
ニャスパーが地面に叩き落される。
──ついでに私も地面に落とされる。
板状だから、そのまま液晶部分が地面に押し付けられる。
リナ『ま、前が見えない〜〜!?』
侑「わぁぁ!? り、リナちゃん!?」
ミア「あ……sorry...」
侑さんがセコンド席から駆け寄ってきて、私を立たせてくれる。
リナ『びっくりした……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
ミア「大丈夫……?」
リナ『うん、平気! 続けよう!』 || > ◡ < ||
侑さんに持ち上げてもらいながら、試合を続行する。
ニャスパーは地面に落とされちゃったけど──別に地面でも遠距離攻撃は出来る……!
リナ『ニャスパー! “サイコショック”!』 || > ◡ < ||
「ウーーニャァーー!!!」
プリンの周辺に小さなサイコキューブが大量に出現し──
「プ、プユユ…!!!」
プリンに向かって、マシンガンのように、降り注ぐ。
ミア「プリン! “ころがる”だ……!」
「プュ…!!!」
プリンはサイコキューブから逃れるように、高速で転がり、“サイコショック”から逃れて、ニャスパーに迫る。
リナ『ニャスパー! “サイコキネシス”!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
「ウニャァーー!!!」
「プユッ!!?」
ミア「プリン!?」
ニャスパーが耳を全開にして、“ころがる”で迫ってくるプリンを壁際へと吹き飛ばす。
ミア「……でも、その技はさっき攻略したぞ!」
確かに、さっきはその勢いでバウンドして、攻撃に利用されちゃったけど──
リナ『今度はバウンドさせないよ!』 || > ◡ < ||
「ウーーーニャァーーー!!!」
「プユッ…!!!?」
ミア「な……!?」
プリンは壁にぶつかり、そのまま壁に押し付けられる。
197 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/19(木) 11:23:42.35 ID:aJfxqeWu0
ミア「同じ技なのに、さっきと違う使い方……!?」
リナ『自由な発想があれば可能性は無限大なんだって! 私は旅の中で知ったんだ!』 || > ◡ < ||
ミア「自由な……発想……」
リナ『ニャスパー!! 決めるよ!!』 || > ◡ < ||
「ウーーーニャァーーーーッ!!!!」
「プ、プユゥゥーーー…!!!」
ミア「こ、このままじゃ……!」
壁にプリンを押し付け、そのまま試合が決まるかと思ったそのとき、
ミア「……そうだ……!! プリン!! 思いっきり息を吸い込むんだ!!」
「プュッ…!!!!」
プリンが突然大きく息を吸い込んで──膨らみ始めた。
リナ『え!?』 || ? ᆷ ! ||
一気に巨大化していくプリン。どんどんどんどん大きく膨らみ──
「ウニャァッ!!!?」
フィールドの中央に居たニャスパーを巻き込んで押しつぶす。
いや、それどころか──
リナ『私たちのところまで来てる!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「わ、わぁぁぁ!?」
ミア「って、プリン!? 膨らみすぎだよ!?」
菜々「わぁぁぁ!!? 審判席までぇぇ!!!?」
大きく膨らんだプリンは──このバトルフィールド全体を埋め尽くしてしまった。
侑「ぐ、ぐるじぃ……」
ミア「ぷ、プリン……も、元に戻るんだ……」
「プュ」
ミアちゃんの指示で、プリンから空気が抜け、ぷしゅるるるるると音を立てながら、風船のように縮んでいく。
そして、縮んだプリンの下から──
「…ウ、ウニャァ…」
潰されて目を回したニャスパーが居た。
菜々「……た、助かった……。……あ、あれ? ニャスパー……倒れてる……。……に、ニャスパー戦闘不能! プリンの勝ちです! よって、勝者ミアさん!」
ミア「か、勝った……」
リナ『うん……負けちゃった』 || > _ <𝅝||
ただ、結果は負けだけど──
198 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/19(木) 11:24:26.62 ID:aJfxqeWu0
リナ『プリンにあんな戦い方があるなんてびっくりした!』 || > ◡ < ||
ミア「ぼ、ボクも……咄嗟に思いついただけで……」
リナ『戦いの中で、咄嗟に思いつけるのはすごいことだよ!』 || > ◡ < ||
ミア「そ、そうかな……?」
侑「ポケモンと一緒に戦ってると、突然気付いたりするんだよね、新しい戦法とか、技とか!」
菜々「はい! そうして、ポケモンもトレーナーも強くなっていくんです!」
ミア「…………ボクが……プリンの力を引き出したって、こと……?」
「プュ?」
私はミアちゃんのもとにふよふよと近付いて、訊ねる。
リナ『今のバトル……負けちゃったけど、すっごく楽しかった! ミアちゃんは?』 || > ◡ < ||
ミア「……ボクも楽しかった」
リナ『私、またミアちゃんとバトルしたい!』 || > ◡ < ||
ミア「……ボクもまた──リナとバトルがしたい。それくらい、楽しかった」
リナ『うん! またしよう! 次は負けないから!』 || > ◡ < ||
ミア「……ふふ、またボクが勝つよ!」
ミアちゃんはそう言って笑う。
侑「もうすっかり、ミアちゃんもポケモントレーナーだね♪」
ミア「え?」
菜々「はい! ポケモンと心を通わせて、ポケモンの力を引き出して、戦いに望むその姿を、ポケモントレーナーと言わずして、なんと言うんですか!」
ミア「ボクが……ポケモン……トレーナー……」
リナ『うん! ミアちゃんも! 私も! もうポケモントレーナーだよ!』 || > ◡ < ||
ミア「……リナ……」
菜々「そもそも、ポケモントレーナーなんて、誰かに許可を貰ってなるようなものでもないですしね!」
侑「うん! これからはミアちゃんも、私たちと同じポケモントレーナーだよ!」
「ブイ♪」
ニコニコと笑う侑さんとせつ菜さんを見て、
ミア「…………こんな……簡単なことだったんだ……」
ミアちゃんは感慨深く言葉を漏らす。
リナ『ミアちゃんは、ミアちゃんのしたいことをすればいいんだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
ミア「…………うん。……やりたいことを、やりもせずに諦めるなんて……それこそ、ボクらしくなかった」
ミアちゃんは自分で自分の言葉に頷いて、
ミア「ボク……もっとバトル……してみたい……! もっと、ポケモントレーナーとして、強くなってみたい……!」
リナ『うん! ミアちゃんなら、きっと出来るよ!』 || > ◡ < ||
ミア「うん……! リナ……ボク、やってみるよ……!」
リナ『うんっ! リナちゃんボード「ファイト、オー!」』 || > ◡ < ||
こうしてまた一人──新しいポケモントレーナーが誕生したのでした。
199 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/19(木) 11:24:58.31 ID:aJfxqeWu0
🎀 🎀 🎀
──セキレイデパート。
かすみ「あーねぇねぇ! あっちの小物も可愛いよ! しお子、行こう〜!」
栞子「ま、待ってください、かすみさん……」
かすみ「なになに〜? しお子ったら、もうばてちゃったの?」
栞子「す、すみません……こういう場所に慣れていなくて……」
かすみ「もう……仕方ないなぁ」
歩夢「ちょっと、休憩しよっか」
栞子「すみません……」
かすみ「じゃあ、かすみん、ジュース買ってきますね! おすすめのやつが売ってるんですよ〜♪」
かすみちゃんはそう言って、パタパタと駆けて行く。
歩夢「かすみちゃーん! デパートで走っちゃダメだよー!」
かすみ「わかってます〜!」
かすみちゃんは元気よく、飲み物売り場へと消えていった。
栞子「……はぁ……」
歩夢「ごめんね、たくさん連れまわしたから、疲れちゃった……?」
栞子「あ、いえ……それは大丈夫なんですが……」
歩夢「ん……。……やっぱり、ランジュちゃんのこと……?」
栞子「……はい」
栞子ちゃんは、クリスタルケイヴから戻ってきてから、問題が解決した割に、あまり元気がなかったというか……浮かない顔をしていたので、気にはなっていた。
かすみちゃんも栞子ちゃんを元気付けるために、こうしてお買い物に誘ったんだろうし……。
栞子「結局のところ……ランジュは何がしたかったのかと思って……」
歩夢「……そうだね」
結局、ランジュちゃんがどうして龍神様を捕まえようとしていたのかはわからず仕舞いだった。
それに……栞子ちゃんとの戦いが終わった後のランジュちゃん、様子がおかしかったし……。
栞子「……当初の問題は解決したのに……すみません」
歩夢「うぅん。ランジュちゃんは栞子ちゃんの幼馴染なんでしょ? 気になって当然だよ」
私も侑ちゃんに元気がなかったら気になっちゃうし、栞子ちゃんがランジュちゃんを気にするのは仕方がないと思う。
200 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/19(木) 11:25:33.96 ID:aJfxqeWu0
栞子「せめて、ランジュがどうしてあんなことをしたのかが、わかればいいんですが……」
歩夢「……それは、本人に聞くしかないよね……。……わかった、私も一緒にランジュちゃんを探すよ!」
栞子「ですが……これ以上、ご迷惑をお掛けするわけには……」
歩夢「迷惑なんかじゃないよ! 栞子ちゃんはもう大切なお友達だもん!」
栞子「お、お友達……!? わ、私がですか……?」
歩夢「もちろんだよ♪ それに、私だけじゃなくて、他のみんなも栞子ちゃんのこと、大切な仲間でお友達だって思ってくれてるよ」
栞子「そう思っていただけているなら……。……嬉しいです」
歩夢「うん♪ 研究所に戻ったら、みんなに相談してみようね♪」
栞子「はい!」
🎹 🎹 🎹
──その晩。ツシマ研究所。
ミア「リナ……! リナが教えてくれたセキレイバーガー……すごくおいしいよ!」
リナ『気に入ってもらえたなら、よかった』 || > ◡ < ||
ハンバーガーをおいしそうに食べるミアちゃんを見て、
かすみ「って、なんでここにミア子がいるんですか!?」
かすみちゃんが買ってきたであろう大量の紙袋を両手に抱えたまま、驚愕する。
ミア「別にいいだろ?」
かすみ「いやいやいや、昨日まで敵だったじゃん! 何、当たり前みたいな顔して交じってんの!!」
リナ『かすみちゃん、ミアちゃんに酷いこと言っちゃダメ』 || ˋ ᇫ ˊ ||
しずく「そうだよ。仲良くしなきゃ、めっ」
かすみ「なんで、かすみんが怒られてるの!? ってか、しず子、喋って平気なの……?」
しずく「うん。まだ少し違和感はあるけど……普通に喋る分には問題ないよ」
少し声は出しづらそうだけど、しずくちゃんの喉も随分回復してきたようで何よりだ。
201 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/19(木) 11:27:38.07 ID:aJfxqeWu0
かすみ「……むー……」
ミア「なんだよ。まだなんかあんの?」
かすみ「やっぱ、敵がいるのは気になるというかー……」
ミア「はぁ……いちいちキャンキャンうるさいな……。こいぬポケモンかよ」
せつ菜「かすみさんはガーディ……!?」
侑「イワンコもこいぬポケモンだよね」
歩夢「私は……ワンパチが可愛くて好きかも」
しずく「そういえば、遠くの地方にいるパピモッチというポケモンも、こいぬポケモンという分類だった気がします」
かすみ「なんで、こいぬポケモン談義が始まってるの……!?」
ミア「はいはい……わかったわかった、子犬ちゃんの話は後で聞いてあげるから」
かすみ「誰が子犬ですか!?」
善子「もう夜なんだから、あんまり、うるさくしすぎちゃダメよー」
ミア「あははっ、怒られてやんの」
かすみ「かすみんだけじゃないでしょ!?」
なんだか、ミアちゃんがいることで、さらに研究所が賑やかになっている。
栞子「あの……それで、どうしてミアさんが……?」
ミア「ああ、それなんだけど……。……栞子、キミがランジュの行き先に心当たりはないかと思って」
栞子「ランジュの行き先……ですか」
歩夢「あのね、私たちもランジュちゃんを探したいってことを、みんなに相談しようと思ってたんだ」
せつ菜「確かに……ランジュさん、少し様子がおかしかったですもんね」
栞子「はい……。出来れば、どうしてランジュがあんなことをしたのか……理由を知りたくて……」
かすみ「それこそ、ミア子はランジュ先輩と一緒にいたんだから、なんか知ってるんじゃないの?」
ミア「そのミア子って呼び方やめろよ」
かすみ「ミア子はミア子でしょ。いいから、知ってること教えてよ」
ミア「それが人にモノを頼む態度なわけ? 子犬ちゃんは躾がなってないなぁ……」
かすみ「ムッカ……! なんなのこいつ!」
リナ『ミアちゃん、何か知ってることがあったら教えて欲しい』 || ╹ᇫ╹ ||
ミア「リナの頼みなら、いくらでも教えるよ!」
かすみ「ホントなんなんですか!?」
ミア「って言っても……ボクも目的の内容自体を聞いてたわけじゃないよ。ただ、ランジュは栞子のためにレックウザを従える……とか言ってたけど」
栞子「私のため……ですか……?」
ミアちゃんの言葉を聞いて、栞子ちゃんが困惑した表情になる。
栞子「ますますランジュが何をしようとしているのかが、わからなくなってきました……」
かすみ「しお子のためどころか、ランジュ先輩がやってることのせいで、しお子がめちゃくちゃ困ってるんですけどねぇ……」
確かに、ランジュちゃんがやっていることは地方を危険に曝しかねないことだ。
それが栞子ちゃんのため……というのは、確かによくわからない。
202 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/19(木) 11:29:08.09 ID:aJfxqeWu0
侑「どちらにしろ……もう一度、ランジュちゃんを探して会う必要がありそうだね」
歩夢「うん……」
しずく「問題は……そのランジュさんがどこにいるかですが……」
ミア「栞子は幼馴染なんだろ? ランジュが行きそうな場所とかわからないの?」
栞子「と言われても……会うのは久しぶりでしたし……」
かすみ「しお子は、なんだっけ……ずっとトロロイモの上とかいう場所にいたんだっけ……?」
リナ『かゆくなりそう』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
しずく「朧月の洞ね……どんな間違え方なの……」
確かに栞子ちゃんはずっと朧月の洞で生活していたから、ランジュちゃんと会う機会もほぼなかっただろうし……。
そのときふと、歩夢があることに気付く。
歩夢「……そういえば、ランジュちゃんが龍神様を解放するときって……どうやったの? 龍神様は、朧月の洞の結界の中で抑えてたんだよね……?」
せつ菜「言われてみれば確かに……ランジュさんは結界の外から干渉したということですか?」
栞子「いえ……ランジュは朧月の洞に出入りすることは出来るんです」
侑「え、そうなの……?」
栞子「はい。私のピィとは修行時代に会ったことがあって……何度か洞の中に来たこともありました。前に来たのは……それこそ数年前でしたが……」
しずく「では……ランジュさんは朧月の洞の結界内に侵入して、レックウザを解放したということですね」
栞子「はい……。また今回も気まぐれで遊びに来ただけだと思っていたら……私の封印の儀式を邪魔し始め……て……?」
そこまで言いかけて、栞子ちゃんが言葉に詰まる。
歩夢「栞子ちゃん……?」
栞子「そういえば……ランジュ……。朧月の洞にやってきたときに……「約束を果たしに来た」と言っていたような……」
侑「約束……?」
栞子「……」
栞子ちゃんはしばらく考える素振りをしたあと──
栞子「……もしかしたら……ランジュの居場所……わかったかもしれません」
確信めいた顔をしながら、そう言うのだった。
203 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/19(木) 11:29:42.19 ID:aJfxqeWu0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【セキレイシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
204 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/19(木) 11:30:45.17 ID:aJfxqeWu0
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.82 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.79 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.80 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.77 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドラパルト♂ Lv.78 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
フィオネ Lv.74 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:284匹 捕まえた数:12匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.69 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.69 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.65 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
トドゼルガ♀ Lv.65 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラージェス♀ Lv.65 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
ウツロイド Lv.73 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:263匹 捕まえた数:24匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.84 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロアーク♀ Lv.78 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
マッスグマ♀ Lv.75 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニゴーン♀ Lv.75 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ダストダス♀✨ Lv.74 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
ブリムオン♀ Lv.76 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:304匹 捕まえた数:15匹
主人公 しずく
手持ち インテレオン♂ Lv.69 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
バリコオル♂ Lv.68 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アーマーガア♀ Lv.68 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロズレイド♂ Lv.68 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
サーナイト♀ Lv.69 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
ツンベアー♂ Lv.69 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:285匹 捕まえた数:23匹
主人公 せつ菜
手持ち ウーラオス♂ Lv.79 特性:ふかしのこぶし 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
ウインディ♂ Lv.87 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
スターミー Lv.83 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
ゲンガー♀ Lv.85 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
エアームド♀ Lv.81 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
ドサイドン♀ Lv.84 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:212匹 捕まえた数:51匹
主人公 栞子
手持ち ピィ♀ Lv.11 特性:メロメロボディ 性格:やんちゃ 個性:かけっこがすき
ウォーグル♂ Lv.71 特性:ちからずく 性格:れいせい 個性:かんがえごとがおおい
ウインディ♀ Lv.71 特性:もらいび 性格:さみしがり 個性:のんびりするのがすき
ゾロアーク♂ Lv.69 特性:イリュージョン 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
イダイトウ♀ Lv.68 特性:てきおうりょく 性格:さみしがり 個性:にげるのがはやい
マルマイン Lv.69 特性:ぼうおん 性格:きまぐれ 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 0個 図鑑 未所持
主人公 ミア
手持ち プリン♂ Lv.75 特性:フレンドガード 性格:のんき 個性:ちょっぴりみえっぱり
バッジ 0個 図鑑 未所持
侑と 歩夢と かすみと しずくと せつ菜と 栞子と ミアは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
205 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/20(金) 02:46:45.67 ID:WJiIP5Z70
■Intermission🔔
ランジュ「…………」
──ただ……月を見ていた。
夜空がよく見えるこの場所で、ただ……月を見ていた。
思わず息を飲んでしまうような──大きくて丸く輝く、月を見ていた。
この景色が好きだった。
この月の先に──いると知っていたから。
ランジュ「……栞子……」
手を伸ばす。
でも……今、彼女は──そこにはいない。
ランジュ「…………お友達が……出来たんだものね」
私は伸ばした手を──ギュッと胸の前に引き寄せて……目を瞑った。
ランジュ「…………さようなら……栞子」
そう、言葉にしたとき──まるで、私の心を表すかのように、大きな満月に雲が薄く掛かって、ぼやけ始めた。
こんな月のことを……朧月と呼ぶらしい。
朧月の向こうで、いつも待ってくれていた栞子と──朧月の下でお別れする。
ランジュ「ふふ……皮肉ね」
私は朧月に背を向けて──この場を去る。
いや、去ろうとした……まさに、そのときだった。
「──ランジュ……!!」
名前を呼ばれた。
この、声は……。
振り返ると──そこには……朧月夜の下で──闇に溶けるような艶のある黒髪の女の子が……私を見ていた。
ランジュ「……栞子」
栞子「ランジュ……やっと、見つけましたよ」
──栞子が……そこに、立っていた。
………………
…………
……
🔔
206 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/20(金) 12:17:05.96 ID:WJiIP5Z70
■ChapterΔ010 『ランジュ』 【SIDE Shioriko】
栞子「──ランジュ……やっと、見つけましたよ」
ランジュは、やはりここにいました。
ランジュの向こうには──薄ぼんやりとした雲の影の中で輝く満月が見えた。
栞子「……月の綺麗な場所があると……言っていましたね。いつか、一緒に見に行きたいと……」
ランジュ「…………」
栞子「確かに、綺麗な満月ですね……夜空以外に何もなくて……とても綺麗に月が見えます」
煌々と光る、星たちと月に見守られたここは──天体観測でも有名な地、流星山。
ランジュ「なんの……用かしら……」
栞子「ランジュに、話を聞きに来ました」
ランジュ「話って……ランジュ、もうレックウザのことは諦めたわ……。……宝珠も、栞子が持ってるんでしょ……?」
栞子「そうではありません。……どうして、ランジュが龍神様を従えようとしていたのか……その理由を、聞きに来たんです」
ランジュ「…………」
栞子「教えてくれませんか……?」
ランジュ「嫌よ……。……だって、栞子……きっと、怒るもの」
栞子「ランジュ……」
ランジュはやはり答えてくれない。
そんな私の後ろから──
ミア「ならせめて、なんで諦めたのかを説明してくれないか? ボクはまだ納得してないぞ」
ランジュ「ミア……」
歩夢「ランジュちゃん……お話……出来ないかな……?」
かすみ「あんな風にいなくなられると後味も悪いですし……」
ランジュ「貴方たちまで……」
ミア「ランジュが言ったんだ。ボクのポケモンを使って、最強を証明するって。勝手に決めて、勝手にいなくなるなよ」
ランジュ「…………」
侑「ランジュちゃん……訳を話してもらえないかな……?」
栞子「ランジュ……お願いします。怒ったりしないので……教えてください」
ランジュ「…………」
ランジュは押し黙っていたけれど──
ランジュ「……月が……見られないから……」
ぽつりぽつりと、話し始めた。
207 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/20(金) 12:17:43.12 ID:WJiIP5Z70
栞子「月……?」
ランジュ「栞子……私と約束したじゃない……。いつか、一緒に月を見ようって……」
栞子「……はい。確かに約束しましたが……」
ランジュ「でも、栞子は……修行を終えた翡翠の巫女は……一生あの朧月の洞の中で、レックウザの世話をするんだって……」
栞子「それは……」
ランジュ「だから、ランジュ……思ったの。そんなレックウザを、ランジュが捕まえて従えることが出来れば……栞子は、翡翠の巫女のお役目から解放されるんじゃないかって……!」
栞子「……! ……まさか、それで……」
ランジュ「だっておかしいじゃない……! どうして栞子だけ、自分のしたいことを何一つ出来ないまま、一生あの洞の中で閉じ込められてなきゃいけないの……? ……せっかく栞子とお友達になれたのに……。……栞子と一緒になんにも出来ないなんて……ランジュは嫌よ……」
栞子「ランジュ……」
ミア「それでは……急にレックウザを諦めたのは……」
ランジュ「圧倒的な強さでないと、レックウザは従ってくれないと思った……それに……」
ランジュは寂しそうな目で、私の後ろにいる歩夢さんたちを見る。
ランジュ「ランジュがいなくても……栞子には、大切にしてくれるお友達が出来たみたいだから……」
栞子「え……?」
ランジュ「栞子には……ランジュしかいないって勝手に思ってたけど……気付いたら、栞子はたくさんの仲間に囲まれてて……」
栞子「…………」
ランジュ「……だから、きっと……もうランジュの出る幕じゃないんだって……思って……」
栞子「………………」
私は一歩前に出る。
ランジュ「……ごめんなさい。……やっぱり、怒ったわよね。お節介なことして……」
栞子「…………ランジュ」
ランジュ「だから、もう……ランジュ、余計なこと、しないから……」
栞子「……ランジュッ!!」
ランジュ「……っ!」
私が大きな声を出すと、ランジュがビクッと身を竦ませた。
栞子「どうして──どうして、ランジュはいつもいつも……私の話を聞かずに、全部自分で決めてしまうんですか……!」
ランジュ「え……」
栞子「歩夢さんたちは、確かに私のことを仲間だと、友人だと言ってくれました……でも、それとランジュが私にとって大切な友人であることは関係ありません……!!」
ランジュ「……! ……で、でも……ランジュ、いつも栞子のこと、怒らせて……」
栞子「だからそれは、ランジュが私の話を聞かずに、全部一人で決めてしまうからです……!」
ランジュ「そ、そうなの……?」
栞子「心配しているなら、最初からそう言ってください……! 何も言ってくれなかったら……わかりません……」
そう言って、ランジュの手を握る。
208 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/20(金) 12:18:34.37 ID:WJiIP5Z70
ランジュ「栞子……」
栞子「……私は……自分という存在は、この地方に存在するシステムのようなものだと思っていました……。だから、この地方のために、自分一人の犠牲で済むなら、それでいいんだと……。でも、私を大切に想ってくれる人たちがいることに気付いて……今はそれだけでは、ダメなのではないかと……結局、誰かを悲しませてしまうのではないかと……考えています」
歩夢「栞子ちゃん……」
栞子「……ランジュは……それに気付くきっかけをくれたんです。確かに最初は驚いてしまいましたが……。だから、怒ってなんかいませんよ」
ランジュ「ホントに……?」
栞子「はい……本当ですよ」
私は頷いて──ランジュを抱きしめた。
栞子「ランジュ、ごめんなさい……。……ずっと、私のことを大切に想ってくれていたのに……気付いてあげられなくて……」
ランジュ「……うぅん。……ランジュの方こそ……上手に伝えられなくて……勝手なことばかりして……ごめんなさい」
やっと、ランジュの気持ちがわかって……私はとても安心していた。
🎹 🎹 🎹
栞子ちゃんとランジュちゃんのわだかまりが解消されて、やっとランジュちゃんと和解することが出来た。
だけど……問題はまだ残っている。
かすみ「んで……結局どうするの? レックウザは今、人間に対して怒ってるんでしょ?」
栞子「……一度、龍神様と話をしてみようと思っています」
歩夢「龍神様を説得するってこと?」
せつ菜「うまく行くのですか……?」
栞子「それは……わかりません。……もしかしたら、却って怒らせてしまうかも……」
ランジュ「そのときは、ランジュが栞子を守ってあげる!」
栞子「ランジュ……ありがとうございます」
かすみ「そうですね! ここには、優秀なトレーナーがこんなにいるんですから! レックウザがどんなにすごいって言っても、きっとどうにかなりますよ!」
しずく「ふふ、そうだね♪」
かすみちゃんらしい根拠のない自信に、しずくちゃんがクスリと笑う。
でも確かに、私たちがみんなで力を合わせればどうにか出来てしまいそうな気がする。
だけど、そんなかすみちゃんの言葉に、ランジュちゃんは、
ランジュ「え、き、協力……するの……?」
急に困った顔になる。
209 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/20(金) 12:19:33.33 ID:WJiIP5Z70
かすみ「何か問題でもあるんですか……?」
ランジュ「そ、その……ランジュが掻き回しちゃったのに……今更、仲間に入れてなんて……。特に……しずくには、酷いこと言っちゃったし……」
しずく「私は気にしていませんよ」
ランジュ「ら、ランジュが気にするのよぉ……!」
かすみ「めんどくさい人ですねぇ……」
ランジュ「とにかく! 栞子を守るのはランジュの仕事よ! 貴方たちの出る幕はないわ!」
リナ『話が振り出しに戻った……』 ||;◐ ◡ ◐ ||
ランジュ「それに五番勝負はランジュが勝ったんだから、ランジュにその権利はあると思うわ!」
ミア「それを放棄したのもランジュだけどね……」
ランジュ「う……。……と、とにかく、栞子を守るのはランジュの役目なの!!」
ランジュちゃんが子供のようにぷくーっと頬を膨らませる。
歩夢「侑ちゃん……どうしよう……」
歩夢が困り顔で私の方を見つめてくる。
たぶん、栞子ちゃんが一言言えば解決しそうではあるけど……。
ただ私は、少し考えてから──
侑「……ねぇ、ランジュちゃん。それならさ……バトルで決めない?」
そう提案することにした。
ランジュ「バトル……?」
侑「うん。私たちはトレーナーなんだから、困ったときはバトルで決めればいいんじゃないかなって。さっきも言ってたとおり、五番勝負に勝ったのはランジュちゃんだけど、放棄しちゃったのも事実でしょ? なら、最後にもう1戦──私と戦ってくれないかな」
ランジュ「……つまり、それで勝った方が栞子を守るってことね! わかったわ! ミア、ポケモンを用意して!」
ミア「全く忙しいやつだな……。……わかったよ。ちょっと準備するから、待ってもらっていいかい?」
侑「うん、私も準備するね!」
両陣営がバトルの準備をするために、一旦離れる。
栞子「あの……侑さん、すみません……ランジュが最後までわがままを……」
侑「うぅん、気にしないで。ちゃんと白黒つく方法の方が、ランジュちゃんも納得するだろうし……。……それに」
歩夢「それに……?」
侑「みんなはランジュちゃんとバトルしたのに、私だけまだバトルしてないんだもん! 私だって、ランジュちゃんと戦ってみたいよ!」
「ブイ♪」
あんなにすごい戦いを5回も見せられて、実はずっとうずうずしてたまらなかったんだ。
それに、わかり合うなら、ぶつかり合うのが一番だって、栞子ちゃんの試合を見ていて思ったことだし。
しずく「あはは……侑先輩、本音はそっちですね……」
リナ『侑さんのポケモンバトルマニアが出た』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「ふふっ♪ でも、侑ちゃんらしいと思うよ♪」
歩夢がくすくすと笑う。
かすみ「でもでも、侑先輩? やる以上は……」
侑「もちろん! 絶対勝つよ!!」
「イブイッ!!!」
210 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/20(金) 12:20:08.54 ID:WJiIP5Z70
イーブイも気合い十分に鳴き声をあげる。
せつ菜「そういうことでしたら……侑さん、最後の試合、お願いしますね!」
侑「うん! 任せて!」
私たちの五番勝負は──追加の第六試合……私とランジュちゃんの試合で全てを決することになった。
🎹 🎹 🎹
ミア「試合形式はこれまでどおり3対3。全てのポケモンが戦闘不能になった時点で決着だ。いいね」
ランジュ「ええ」
侑「うん、わかった」
お互いボールを構える。
ランジュ「絶対ランジュが勝って、ランジュが栞子を守るんだから!」
侑「私も負けるつもりないから!」
月明りが照らす、流星山の下、本当の最終戦の火蓋が──切って落とされた。
🎹 🎹 🎹
侑「行くよ!! ウォーグル!!」
「──ウォーーーグッ!!!!」
ランジュ「行きなさい、ゲンガー!」
「──ゲンガァーーー!!!!」
ランジュちゃんの先発はゲンガー。
1番最初に出てくるゲンガーがよくしてくることと言えば──
ランジュ「ゲンガー! “10まんボルト”!!」
「ゲンガァーーー!!!」
ランジュちゃんの指示で電撃が届くよりも早く、
侑「“いわなだれ”!!」
「ウォーーーグッ!!!!」
足元の岩肌を割り砕き、その勢いで飛び出してきた岩石で前方に壁を作り出して、電撃を防ぐ。
ランジュ「! ……へぇ……!」
先発ゲンガーの役割は恐らく、後ろの続くポケモンが動きやすくなるように、削りや補助を行うこと。
わかっていても対処が難しい故に、大会ではよく用いられる戦い方。
攻撃範囲の広いゲンガーが使ってきそうな技はいくつかあるけど……ウォーグルに対して相性が良いのは“10まんボルト”や“こごえるかぜ”。
でも、ウォーグルの特性は多くが“まけんき”か“ちからずく”。ランジュちゃんが“まけんき”の可能性をケアするなら、“10まんボルト”が来ると予想出来た。
211 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/20(金) 12:21:49.23 ID:WJiIP5Z70
ランジュ「なら、“ヘドロウェーブ”!!」
「ゲンガァーー!!!」
ゲンガーが毒の波を発生させ、岩の壁を溶かし始める。
侑「ウォーグル!」
「ウォーーーッ!!!」
ウォーグルは岩の陰から上空に飛び出し──
侑「“エアスラッシュ”!!」
「ウォーーーッ!!!!!」
風の刃をゲンガーに向かって放つ。
ランジュ「“シャドーボール”!!」
「ゲンガァーーー!!!!」
ランジュちゃんはすぐに上空のウォーグルを指差しながら、“シャドーボール”の指示。
ウォーグルには効果のない技だから、完全に相殺のためだ。
2匹の攻撃がぶつかり合った瞬間──
侑「突っ切れ!! “ブレイブバード”!!」
「ウォーーーーーッ!!!!!」
そこを一直線に大技で一点突破……!!
猛スピードで突っ込んでくるウォーグルの攻撃を回避しきれず、
「ウォーーーーグッ!!!!!」
「ゲンガッ!!!!?」
ゲンガーが吹っ飛ばされる。
防御の低いゲンガー……さらにウォーグルには“いのちのたま”を持たせている。大技の直撃で致命傷のはずだけど──ゲンガーは戦闘不能にはならず、後ろに飛び退きながら、
ランジュ「“10まんボルト”!!」
「ゲンガァーーーッ!!!!!」
電撃でウォーグルを攻撃してくる。
だけど──
侑「“いわなだれ”!!」
「ウォーーーグッ!!!!」
再び、岩石による壁を作り出して防御する。
ランジュ「な……!?」
侑「“きあいのタスキ”で1発受け止めてくるの、わかってるよ!」
ランジュ「……!」
“きあいのタスキ”は相手の攻撃によって一撃で倒されるようなダメージを受けたときも、気合いで食いしばることが出来る道具だ。
最初から相手の持ち物を予想出来ていれば、防御も出来る……!
「ウォーーグッ!!!」
212 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/20(金) 12:22:21.53 ID:WJiIP5Z70
ウォーグルは再び岩の陰から飛び出して、ゲンガーに向かって飛び掛かる。
“きあいのタスキ”で防いだ以上、もうあと一撃でも入れれば、ゲンガーは戦闘不能……!
侑「行け!! ウォーグル!!」
「ウォーーーッ!!!!」
ウォーグルがゲンガーに向かって一直線に突っ込もうとした瞬間──
「ゲンガ…!!!!」
ぼわっとゲンガーが黒いオーラに包まれる。
侑「“みちづれ”も読めてるよ……!」
ランジュ「……!」
ウォーグルはそのまま突進せず──ゲンガーの目の前で垂直に飛び上がる。
侑「“そらをとぶ”!!!」
「ウォーーーーッ!!!!!」
「ゲンガッ…!!!?」
ランジュ「……!?」
先発ゲンガーの対処の難しさの本質は──“みちづれ”だ。
倒すためには当たり前だけど、ダメージを与えないといけないわけだけど……何も考えずに攻撃すれば“みちづれ”の餌食になるし、“みちづれ”を警戒して攻撃を躊躇っていると、範囲の広い技や補助技を通されて不利な状況に陥ってしまう。
だけど──フェイントを掛けてしまえば“みちづれ”の対処は可能だ。
「ウォーーーーグッ!!!!」
トドメの一撃を決めようとウォーグルが空中から切り返し、急転直下。
“みちづれ”は連続で使えない技だから、これでまずは1匹……!!
──と、思ったけど、ランジュちゃんは冷静だった。
ランジュ「“かみなり”!!」
「ゲンガァーーーッ!!!!!」
侑「……!?」
突然目の前に雷撃が落ちる。
侑「しまっ……!?」
“かみなり”は“そらをとぶ”でも避けることが出来ない。
“かみなり”は決して命中率の高い技じゃないから安易に使う技ではないけど──ランジュちゃんは“みちづれ”による1:1交換が出来ないと悟った瞬間、攻撃に切り替えてきた。
しかも、この状況に対して、技選択が完璧だった。
上空のウォーグルは突然発生した雷撃を受け、
「ウォーーー…」
フラリと落ちてくる。
──が、
「ウォォォォォォォォォッ!!!!!!!!」
213 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/20(金) 12:22:55.20 ID:WJiIP5Z70
黒焦げのまま、目をカッと見開き、
ランジュ「什么……!?」
「ゲンガッ…!!?」
そのまま、ゲンガーに向かって突っ込んだ。
侑「ウォーグル……!?」
ランジュ「ゲンガー……!?」
ウォーグルが猛スピードで突っ込んだ衝撃で、朦々と砂煙が巻き上がり──その中で、
「ウ、ウォー…グ…」
「ゲンガァ……」
2匹とも戦闘不能になって倒れていた。
侑「ウォーグル……ありがとう。戻って」
「ウォー…──」
私はボールにウォーグルを戻す。“かみなり”を受けた時点で、体力はもう限界だったはずなのに……持ち前の気合いで、一矢報いてくれた。
何度もウォーグルの勇猛さには救われてきた。……今回も。
ランジュ「……結局相討ちね……。戻って、ゲンガー」
「ゲンガ…──」
せっかく“みちづれ”を読んで回避したのに、結局相討ちに持ち込まれてしまったのは痛手だけど……それでも、一方的に倒されることを避けられたと考えると、むしろ助かったかもしれない。
ランジュ「まあ、いいわ! 次よ!」
ランジュちゃんがボールを構え、私も同じように次のポケモンのボールを構える。
──さぁ、仕切り直しだ。
🎀 🎀 🎀
栞子「1匹目は相討ち……侑さん……」
しずく「ですが、決して悪い流れではないと思います……!」
かすみ「というか侑先輩……ランジュ先輩のほとんどの攻撃を予想して防いでませんでしたか……!?」
せつ菜「侑さんは、ポケモンバトルそのものに明るい人ですからね。今回のランジュさんの戦法にも心当たりがあったんだと思いますが……。何より、彼方さんに教えてもらったという防御戦術に磨きが掛かっている気がしますね」
リナ『侑さん、いなしと防御のトレーニングは、家にいる間もずっとしてたからね!』 || > ◡ < ||
リナちゃんの言うとおり、侑ちゃんは旅をしていない間も、防御術のトレーニングだけは欠かさなかった。
戦術に対する知識が多く、トレーナーの癖を読み、防御やいなしに特化した戦い方は、侑ちゃんだけの武器になりつつある。
今回のバトルでも侑ちゃんの長所を生かして戦えている。
しずくちゃんの言うとおり、決して悪い流れじゃない。
歩夢「侑ちゃん……頑張って……!」
214 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/20(金) 12:23:49.68 ID:WJiIP5Z70
🎹 🎹 🎹
侑「行くよ! ライボルト!!」
「──ライボォッ!!!!」
侑「メガシンカ……!!」
「ライボォッ!!!!」
ライボルトを出すと同時に、メガシンカさせる。
対するランジュちゃんは、
ランジュ「行くわよ、ガブリアス!」
「──ガァァァブ!!!!!」
ドラゴンポケモンのガブリアスだ。
ガブリアスを見た瞬間、
侑「“でんじふゆう”!!」
「ライボッ!!!」
ランジュ「“じしん”!!」
「ガァァァブッ!!!!」
ライボルトを浮遊させて、“じしん”を回避する。
絶対にやってくると思った。
だけど、回避を読んでいたのはランジュちゃんも同じで──
ランジュ「“ドラゴンクロー”!!」
「ガァァァブッ!!!!」
すぐさま踏み込んできて、低空浮遊するライボルトに切りかかってくる。
だけど、ライボルトには必殺技がある──
──ギィンッ!! と音を立て、
ランジュ「……!?」
砂鉄の盾が、ガブリアスの爪撃を弾く。
ランジュ「なによその技……!?」
「ガァァァブッ…!!!!」
攻撃を弾かれ、出来た隙に──
侑「“ハイパーボイス”!!」
「ライボォッ!!!!!!」
音波攻撃を叩きこむ。
「ガァブッ…!!!」
ランジュ「くっ……!!」
ガブリアスは怯む程度で大きなダメージにはなっていないけど、ライボルトのでんき技はガブリアスには効果がない。
守りを固めながら、削っていく方が恐らく効率がいい。
だけど──ここでも、ランジュちゃんの対応は早かった。
215 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/20(金) 12:24:31.35 ID:WJiIP5Z70
ランジュ「铁砂……? 電磁力で操ってるのね……! なら──“かえんほうしゃ”!!」
「ガァーーーーブッ!!!!!」
「ライボッ…!!」
侑「や、やば……!? こっちも、“かえんほうしゃ”!!」
「ライボォッ!!!!」
砂鉄シールドの陰から、“かえんほうしゃ”に向かって“かえんほうしゃ”で対抗する。
どうにか、相殺は出来たけど──
ランジュ「やっぱり……! 炎は困るみたいね!」
侑「く……!」
弱点に気付くのが早い……!
砂鉄シールドは炎を受けると、防御能力が著しく落ちてしまう。これだと、当初の予定の持久戦が一気にやりづらくなる。
かすみ「炎だと困るんですか……?」
せつ菜「確か……一定以上温度が上がると磁性が失われるのではなかったでしょうか」
リナ『熱されると、磁気モーメントが無秩序状態になるから、磁性が失われる。熱消磁って言われる現象』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「……??」
しずく「えっと……まあ、使えなくなるってことだよ」
ランジュちゃんはすぐにそれに気付き、
ランジュ「仕組みがわかれば対策は簡単よ! “ねっさのだいち”!!」
「ガァブッ!!!!」
ガブリアスが熱された砂をこちらに向かって飛ばしてくる。
侑「く……“スピードスター”!!」
「ライボォッ!!!!」
“ねっさのだいち”を吹き飛ばすために、星型のエネルギー弾で対抗するけど──大量の熱砂を全て撃ち落とすことは出来ず、一部が砂鉄シールドに降りかかり──降りかかった部分から、砂鉄が崩れて盾が崩壊していく。
それを好機を言わんばかりに、
ランジュ「今よガブリアス!! “かみくだく”!!」
「ガァァァブッ!!!!」
ガブリアスがこちらに向かって飛び出してくる。
侑「ライボルト……! ガード!!」
「ライボッ!!!」
とはいえ、まだシールドが全て崩壊したわけじゃない。
欠けているシールドを、ガブリアスの攻撃を防ぐように、前に展開すると──
「ガァァァブッ!!!!」
ガブリアスは大口を開けて、鋭い牙をシールドに突き立てる。
それと同時に──ガブリアスが牙を突き立てた場所から、バキリと音を立てて、シールドがひび割れる。
侑「な……!?」
ガブリアスはそのまま、砂鉄シールドを噛み砕き──
216 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/20(金) 12:25:09.49 ID:WJiIP5Z70
ランジュ「“ダブルチョップ”!!」
「ガァァァブッ!!!!」
盾を突き破りながら、両手でライボルトにチョップを食らわせる。
「ライボッ…!!!」
侑「なんで、シールドが……!?」
一瞬どうして破られたのかが、理解出来なかったけど──すぐに頭の中で解答にたどり着く。
侑「……! ……“ほのおのキバ”だ……!!」
ランジュ「そうよ! 熱に弱いなら、熱を加えながら攻撃をすればいい!!」
“ダブルチョップ”で受けて、後退るライボルトに、さらにガブリアスが踏み込んでくる。
侑「ライボルト!!」
「…ライボッ…!!!!」
私の声に反応するように、ライボルトの脚の筋肉の周辺がバチりと“スパーク”し、
「ガァブッ!!!!」
ガブリアスの“ドラゴンクロー”が空振る。
「ライボッ…!!!」
気付けば、ライボルトはガブリアスの背後にいた。
筋肉を刺激しての雷速移動だ。
背後を取ったライボルトが、逆にガブリアスに飛び掛かろうとするが──
ランジュ「“じならし”!!」
「ガァブッ!!!!」
「ライボッ…!!!?」
ガブリアスは振り向きもせずに地面を揺らして、ライボルトの足を止める。
ランジュ「筋肉を刺激して走る以上、“でんじふゆう”したままじゃ出来ないわよね!」
侑「ぐ……」
ランジュちゃんの言うとおり、雷速移動と“でんじふゆう”は両立出来ない。
強化した筋力で地面を蹴るからこその、あの瞬発力。
浮遊していたら、あんな“こうそくいどう”は出来ない。
“じならし”でよろけて、動きが鈍ったライボルトに向かって──
ランジュ「決めなさい、ガブリアス!!」
「ガァァァブッ!!!!」
ガブリアスが飛び掛かってくる。
どうする。
砂鉄シールドは攻略された、移動による回避を重視すればじめん技の餌食に、“でんじふゆう”したらガブリアスの機動力から逃げきれない。
そのとき、ふと──ある案が浮かんだ。
侑「ライボルト!! 砂鉄シールドを目の前に展開して!!」
「ライボッ!!!!」
217 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/20(金) 12:25:57.21 ID:WJiIP5Z70
ライボルトの目の前に砂鉄シールドが展開される。
ランジュ「それはもう攻略してるわ! “ほのおのキバ”!!」
「ガァァァブッ!!!!」
ガブリアスの牙に炎が宿り──ライボルトの前面に展開されたシールドに牙を立てる。
炎によって熱された砂鉄シールドは──
ランジュ「さぁ、噛み砕きなさい!!」
「ガァ、ブッ…!!!!」
──砕けなかった。
ランジュ「え……!?」
侑「ライボルト!! “ずつき”で突っ込め!!」
「ライボォッ!!!!」
ガブリアスがシールドに牙を突き立てた状態のまま、シールドの裏側にいるライボルトの脚部が“スパーク”する。
盾ごと後ろから“ずつき”でガブリアスに叩き付け──
「ガァブッ…!!!!」
噛み付いた砂鉄シールドごと仰け反り、無防備になったガブリアスの胴体に──
「ライボッ!!!!」
噛み付いた。
「ガァァァブッ…!!!!?」
そして、噛み付くと同時に、ライボルトが牙を立てた部分が──パキパキと音を立てながら凍り始めた。
こおりタイプは──ドラゴンポケモンにとって、これ以上ないほどの弱点タイプだ。
「ガ、ァァァァ…!!!!!」
苦しみ怯むガブリアスに向かって、
侑「“はかいこうせん”!!」
「ラァァァァイ、ボォォォォォォォ!!!!!!!!」
「ガァァァァァブッ!!!!!!?」
至近距離から、最大級の破壊の閃光を、ガブリアスに直撃させた。
苦手なこおりタイプの技の直後に、至近距離からの“はかいこうせん”を受けたガブリアスは、
「ガ、ァ、ブッ…」
さすがに耐えきれず、ゆっくりと仰向けに倒れ、戦闘不能になったのだった。
ランジュ「戻りなさい、ガブリアス……」
「ガ…ブ…──」
ランジュ「……やられた……っ、“ほのおのキバ”で熱されてる部分を……裏側から“こおりのキバ”で冷やしてたのね……」
ランジュちゃんの言うとおり──私が思いついた作戦は、熱された部分をすぐに冷やして再び磁石に戻すことだった。
熱された牙によって脆くした砂鉄の盾を急激に冷やされ再び硬い盾に戻したら……当たり前だけど、牙が突き刺さって抜けなくなるという寸法だ。
218 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/20(金) 12:26:29.44 ID:WJiIP5Z70
ランジュ「やるじゃない……。……攻略されたことを逆手に取るなんて」
侑「あはは……うまくいくかはイチかバチかだったけどね」
「ライボ…!!!」
でもこれで、ランジュちゃんの手持ちは残り1匹だ……!
ランジュ「……追い詰められちゃったけど……最後に勝つのはランジュよ!!」
ランジュちゃんは3匹目──最後のポケモンのボールをフィールドへと投げ込む。
🎹 🎹 🎹
ランジュ「行きなさい、ガルーラ!」
「──ガルゥッ…!!!」
ランジュちゃんの最後のポケモンはガルーラ。出すと同時に、耳に掛かった髪をかき上げ──それと同時に、“キーストーン”が光り輝く。
ランジュ「メガシンカ!」
ガルーラが光に包まれ──
「ガァル…!!!」「ガルゥ!!!!」
大きくなった子供がポケットから飛び出してくる。
侑「迎え撃つよ……!」
「ライボッ…!!」
ライボルトが、砂鉄の盾を構える。
ランジュ「ガルーラ! “ピヨピヨパンチ”!」
「ガァルッ!!!!」
砂鉄シールドにぶつかった瞬間、ピヨピヨと特徴的な音が鳴る。
だけど、シールドはそれくらいじゃ破れない──が、気付けばシールドの内側に、
「ガルッ」
侑「……!?」
子供ガルーラの姿があった。
──親が攻撃している間に、潜り込まれた……!?
「ガルッ!!!」
「ライボッ…!!!!」
殴り飛ばされ、ライボルトが地面を転がる。
侑「ライボルト……! 大丈夫!?」
「ライボッ…!!!」
219 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/20(金) 12:29:02.05 ID:WJiIP5Z70
ライボルトはすぐに起き上がるけど……。
まだ小さい子供なのに、自分より大きなライボルトを殴り飛ばすなんて、すごいパワーだ……。
ランジュ「“はかいこうせん”の反動があった分、逃げ遅れたわね」
“はかいこうせん”を使うと、反動でその場から動けなくなる。
そのケアを砂鉄でしようと思っていたけど……目論見が外れてしまった。
侑「でも、もう自由に動けるよ!!」
「ライボッ!!!」
ライボルトの脚が“スパーク”すると同時に、イカズチを描くように、ガルーラの周囲を高速で走り回り始める。
さっきと違って、でんき技が通る相手である以上、捉えられさえしなければ、いくらでも攻撃のチャンスは作り出せるはず……!
ただもちろん、ランジュちゃんが自由に走り回らせてくれるわけはない。
ランジュ「ガルーラ! “じならし”!!」
「ガァルッ!!!!」
ガルーラが足を踏み鳴らして“じならし”を起こそうとした瞬間、
侑「“でんじふゆう”!」
「ライボッ…!!!」
ライボルトは浮き上がって振動攻撃を回避する。
が、ライボルトが浮き上がって減速した瞬間、
「ガァルッ…!!!!」「ガルッ!!!」
親ガルーラが子ガルーラを、ライボルトに向かって投げ飛ばしてきた。
侑「うそ!?」
ランジュ「“アームハンマー”!!」
「ガルッ!!!」
「ライボッ…!!!?」
子供の拳で、浮いていたライボルトが地面に叩き落される。
それに合わせるように──
ランジュ「“じしん”!!」
「ガァルッ!!!!」
「ライボッ…!!!!」
ライボルトが“じしん”に巻き込まれる。
侑「ライボルト……!!」
「ライ…ボ…」
“じしん”は効果てき面だった。ここまでのダメージの蓄積もあって、ライボルトはついにダウン。
侑「ありがとう……戻って、ライボルト」
「ライ、ボ…──」
ランジュ「さぁ、これで並んだわよ!」
220 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/20(金) 12:31:03.85 ID:WJiIP5Z70
私も残りは1匹のみになった。
最後はもちろん──
侑「行くよ、イーブイ!!」
「ブイ!!!」
やっと出番かと言わんばかりに、気合いたっぷりに鳴き声をあげながら、私の肩を踏み切ってフィールドに飛び出す。
その首には、試合前に巻いてあげた“シルクのスカーフ”が風にたなびいている。
──泣いても笑っても、これが最後だ。
侑「イーブイ! 勝つよ!!」
「ブイッ!!!」
ランジュ「いいえ! 勝つのはランジュたちよ!!」
「ガァルッ!!」「ガルッ!!」
🎹 🎹 🎹
侑「イーブイ、“わるわるゾーン”!!」
「ブイ!!!」
周囲が闇の包まれ、その中でイーブイが月光の輝きを身に纏う。
これで物理攻撃は半減される。
ランジュ「このランジュでさえも、見たことない技を使うのね、そのイーブイ! ガルーラ、“いわなだれ”よ!!」
「ガァルッ!!!!」「ガルッ!!!!」
親子ガルーラが同時に、足元の岩を殴り砕き、巻き上げられた岩がそのままこちらに向かって押し寄せてくる。
侑「“こちこちフロスト”!!」
「ブイッ!!」
目の前に真っ黒な氷の塊を作り出して、岩を受け止め、
侑「“すくすくボンバー”!!」
「ブーーィッ!!!」
イーブイの尻尾から飛び出したタネが岩を巻き込みながら急成長する。
“すくすくボンバー”の樹木を壁にしながら一旦様子を見ようと思ったが、
ランジュ「“すてみタックル”!!」
「ガァルッ!!!」「ガルッ!!!」
親子ガルーラが一緒に、樹木に向かって突撃してきた。
侑「うわぁ!!?」
──ズドンと大きな音が樹木の向こう側から響き渡り、空気を震わせる。
直後──
侑「……うそ」
ミシミシミシ、と音を立てながら、岩を実のように巻き込んでいる樹木がこちらに向かって倒れてくる。
221 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/20(金) 12:31:34.47 ID:WJiIP5Z70
侑「や、やばい……!!」
「ブイッ…!!!」
巻き込まれまいとイーブイと一緒に樹木の陰から飛び出した、その瞬間、
ランジュ「“アームハンマー”!!」
「ガァルッ!!!」
侑「!!」
親ガルーラが拳を振り下ろす。
侑「イーブイッ!!」
「ブイッ!!!」
イーブイは咄嗟に身を捻って避ける。
どうにか拳の直撃は避けられたけど──強烈なスピードで振り下ろされる拳は、地面を割り砕き、
「ブイッ…!!!」
割り砕かれる地面と共に、イーブイの体が宙を浮く。
さらに──
「ガルッ!!!」
子ガルーラがイーブイが浮き上がった先で、両手を振り上げて待っていた。
侑「っ……!! “びりびりエレキ”!!」
「ブーーーィィィッ!!!!」
「ガルッ…!!!?」
咄嗟に放った“びりびりエレキ”で迎撃を試みるが、
「ガーールッ…!!!!」
「ブイッ!!?」
子ガルーラにダメージこそ与えられたものの、完全に攻撃を中断させることは叶わず、イーブイに子ガルーラからの“アームハンマー”が叩き付けられる。
侑「イーブイ!!」
イーブイが地面を跳ねながら転がる。
「ブ、ブィィ…」
だけど……どうにか、立ち上がる。
戦闘不能にはなっていないけど、相性の悪いかくとうタイプの技を直撃で貰ってしまった──ダメージが大きく、限界ギリギリ。
ランジュ「追い詰めたわよ」
「ガァルッ」「ガル…ッ」
侑「……っ」
私たちの前にメガガルーラが少しずつ近寄ってくる。
イーブイは戦闘不能寸前。
一方相手は子ガルーラを“まひ”させられているだけ。
絶体絶命……という状況だけど、
222 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/20(金) 12:32:07.30 ID:WJiIP5Z70
「…ブイッ!!」
侑「うん、わかってるよ!」
不思議と不安ではなかった。
だって、まだ私の相棒の闘志は、消えていないから。
何度もイーブイに──相棒に助けてもらってきた。
だから、きっと今回も、
侑「私たちは……負けないよ!!」
「ブイッ!!!!」
イーブイが、地を蹴って──飛び出した。
侑「“すてみタックル”!!」
「ブーーーィィィッ!!!!」
ランジュ「ここで突っ込んできた……!?」
ランジュちゃんも、この土壇場での真っ向からの突進に、驚きはしたものの、冷静に、
ランジュ「“じならし”!!」
「ガァルッ!!!!」
手堅くイーブイの足を止めようとしてくる。
「ブイッ…!!!」
だけど、勢いに乗ったイーブイは止まらない。
ちょっとくらいスピードが落ちたっていい。
ガルーラに向かって一直線に走る、イーブイの目の前に、
「ガル…ッ!!!」
子ガルーラが飛び出してくる。
ランジュ「“けたぐり”!!」
「ガル…ッ!!!」
「ブイッ…!!?」
侑「イーブイ!?」
足を払われて、イーブイの体が宙を浮き──勢いに乗ったイーブイの体は地面を転がりながら、
「ガァル…!!!」
親ガルーラの足元へ……。
ランジュ「……これで終わりよ」
「ガァル…!!!」
「ブイ…!!!」
親ガルーラがイーブイを片手で摘まみ上げる。
そして、掴んでいるのとは逆の手を引く。
ランジュ「終わりよ……。“メガトン──」
223 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/20(金) 12:33:34.13 ID:WJiIP5Z70
親ガルーラの拳が引かれる。
狙うなら──今この一瞬しかない。
侑「イーブイッ!!!!」
あの技を見せるときだ。
侑「“とっておき”!!!」
「ブイッ!!!!」
ランジュ「な……!?」
「ガルッ!!?」
イーブイの体からエネルギーが溢れて、光り出す。
ランジュ「うそ……!? 技を全部使ったの!? ガルーラ、放しなさい!!」
イーブイはガルーラの目の前でぱぁぁぁっと光り輝き──
「…ガルッ!!!」
親ガルーラが手を放すのと同時に──光はすぐに消えていった。
ランジュ「え……?」
──当たり前だ。
“とっておき”は覚えている技を全て使わないといけない。
最初は2つしか技を覚えていなかったイーブイも……今はたくさん技を覚えている。
ランジュ「な、なんなのよ……!」
でも──これで、いい。
ランジュ「ガルーラ!! 今度こそ、決め……」
ランジュちゃんの言葉が、止まった。
それも、そのはず。
ランジュ「……い、イーブイは……どこ……!?」
「ガ、ガァルッ…!!!?」
先ほどまで親ガルーラが掴んでいたはずのイーブイは、フィールド上から姿を消していた。
“とっておき”はただの目くらましだ……!
そして──決めるなら、今しかない。
侑「イーブイ!!! 全力で行くよっ!!!!」
私の声に呼応するように──
「──ブィィィィィィィィッ!!!!!!!!!!」
親ガルーラの──ポケットの中から眩い光と共に、イーブイの雄叫びが聞こえてくる。
ランジュ「うそっ!? ポケットの中……!?」
224 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/20(金) 12:36:03.60 ID:WJiIP5Z70
そう、イーブイは──親ガルーラの手を離れた瞬間、ガルーラのお腹のポケットに潜り込んで姿を隠していた。
膨れ上がる光を纏いながら、ガルーラの顎下目掛けて、飛び出した。
侑「“ブイブイブレイク”ッ!!!」
「──ブゥゥゥゥゥイィィィィィィィィッ!!!!!!!!」
「ガァルッ!!!!?」
真下から、猛烈な突進で顎を突き上げられた親ガルーラは──そのまま、宙に浮きあがり、空中で何回転もしたあと──
「ガァルッ…!!!!?」
地面に落下し、
「ガ、ァァル…」
力尽きて、戦闘不能になった。
それと同時に──親が戦闘不能になったことで、メガシンカのパワーも失ったのか、
「ガ、ガル…」
子ガルーラが元の小さい子供の姿に戻っていく。
「ブイッ!!!」
攻撃を終え、着地したイーブイが鳴き声をあげると──
「ガ、ガル…」
子ガルーラは大慌てで、倒れた親ガルーラのポケットの中に逃げ込むのだった。
もう子ガルーラに戦闘の意思はないと見ていいかな。
つまり──
ランジュ「……う、うそ……」
ミア「……ランジュのポケモンは3匹とも戦闘不能。……決着だね」
侑「……いやったぁぁぁ!! 勝ったよ、イーブイっ!!!」
「ブイィィ♪」
フィールドに駆け出し、イーブイを抱きしめる。
そして、それと同時に──
かすみ「せんぱーいっ!! 信じてましたよ〜!!!」
せつ菜「侑さんっ!! やりましたね!!」
かすみちゃんとせつ菜ちゃんが駆け寄ってくる。
侑「うんっ!」
そして、その後ろから、
歩夢「侑ちゃん……!」
駆け寄ってきた歩夢が、二人をすり抜けるようにして、抱き着いてくる。
225 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/20(金) 12:37:30.08 ID:WJiIP5Z70
侑「おとと……」
歩夢「侑ちゃん……かっこよかったよ……。……イーブイも……」
「ブイ♪」
侑「ふふ……ありがと、歩夢」
抱き着く歩夢の頭を優しく撫でる。
かすみ「ちょ……歩夢先輩だけずるいですよ……!」
せつ菜「そうですね! 喜びを分かち合うときは、みんなでです!!」
かすみちゃんとせつ菜ちゃんも抱き着いてくる。
侑「く、苦しい……」
栞子「み、皆さん……! そんなに一斉に抱き着いたら、侑さんが潰れてしまいます……!」
しずく「ふふ、でもこれくらい元気な方が、私たちらしいかもしれませんね♪」
リナ『確かにそうかもしれない』 || > ◡ < ||
みんなで喜びを分かち合っていると──
ランジュ「…………そっか、ランジュの負けなのね……」
ランジュちゃんが肩を落として、呟く。
ランジュ「……でも、負けは負け。認めるわ。それに……楽しいバトルだったわ。侑」
侑「うん! 私も楽しかったよ!」
ランジュ「今回は……勝ちたかったんだけどな……」
ランジュちゃんはそう言って── 一瞬だけ、栞子ちゃんにチラリと目を配る。
栞子「ランジュ……」
ランジュ「でも……これで、すっきりした! 貴方たち、栞子のこと、お願いね!」
そう言って、踵を返す。
侑「待って待って、ランジュちゃん!」
ランジュ「……何? まだ何かあるの?」
侑「この試合は、どっちが栞子ちゃんを守るかを決めようとしてたわけじゃないよ」
ランジュ「え……?」
ミア「まあ……そうだよね。どっちが守るなんて話してたの、ランジュだけだし」
ランジュ「え、で、でも……」
侑「ランジュちゃん……。私たちと一緒に、栞子ちゃんを守ろう!」
私は、ランジュちゃんに手を差し伸べる。
ランジュ「いや、でも……み、ミア……!」
ミア「とりあえず、勝者の意見を尊重すればいいんじゃない?」
ランジュ「貴方どっちの味方なのよ……!」
ランジュちゃんは困ったようにおろおろしている──
226 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/20(金) 12:39:00.03 ID:WJiIP5Z70
ランジュ「や、やっぱりダメよ……ランジュがいたら、輪が乱れちゃうでしょ……!」
かすみ「はぁ……ランジュ先輩、まだわからないんですか」
ランジュ「え……な、なにが……?」
せつ菜「私たちは皆、ポケモンバトルを通して、全力でぶつかり合った者同士──ランジュさんの強さは私たちが一番理解しています!!」
しずく「これから挑むことになるのは……地方を守ってくれていた伝説の龍神様。今、私たちは……頼もしい仲間を必要としています」
かすみ「かすみんたちはランジュ先輩と一緒に戦いたいって言ってるんですよ!」
ランジュ「で、でも……ランジュは……」
歩夢「ランジュちゃん」
歩夢が前に歩み出て、ランジュちゃんの手を握る。
ランジュ「あ、歩夢……」
歩夢「やっぱり、気が引けちゃう?」
ランジュ「それは……そうよ……。……貴方たちは仲のいいお友達同士で……そこにランジュが入っても……」
侑「じゃあ、ランジュちゃん」
歩夢が握った手の上から──私もランジュちゃんの手を握る。
侑「私たちと──友達になって!」
ランジュ「……え」
ランジュちゃんは私の言葉に目を丸くした。
ランジュ「……いいの……?」
歩夢「うん、こっちからお願いしたいくらいだよ♪」
せつ菜「というより……全力でバトルをしたら、もうそれは強敵と書いてトモと読むんです!! それが習わしですから!」
かすみ「いや、それはなんか意味が違うような……」
しずく「ふふ♪ まあ、どういう友達になるかは、人それぞれでいいんじゃないかな♪」
ランジュ「ランジュも……お友達になっていいの……?」
かすみ「だから、さっきからそう言ってるじゃないですか!」
リナ『戦って、わかり合って、お互いを知って、繋がり合えたら、もうみんな友達だよ!』 || > ◡ < ||
みんなの言葉を聞いて──
ランジュ「…………っ」
ランジュちゃんは目の端に涙を浮かべる。
栞子「ランジュ」
栞子ちゃんが、ランジュちゃんに歩み寄り──抱きしめる。
ランジュ「栞子……」
栞子「みんなで……解決しましょう。……私たちはもう……みんな、お互いを支え合う仲間なんですから」
ランジュ「……うん……っ」
ランジュちゃんは、
ランジュ「……うん……っ」
227 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/20(金) 12:39:30.31 ID:WJiIP5Z70
その言葉を反芻するように、何度も何度も、頷くのだった。
🎹 🎹 🎹
さて……。
流星山での戦いを終えて──ポケモンたちの回復や休息……それと今度の準備を整えるために、例の如くセキレイシティのツシマ研究所に戻ってきていた。
栞子「……龍脈は、北──もっと正確に言うと、北北西方向に反応を示しています」
かすみ「もうだいぶ地方のあっちこっち回ったよね?」
栞子「そうですね……龍神様が待っている龍脈も……近いかもしれません」
せつ菜「なら、気を引き締めないといけませんね……!」
ランジュ「ランジュに任せなさい! 貴方たちはみーんな、ランジュが守ってあげるんだから!」
ミア「さっきまでの態度が嘘みたいだ……」
ランジュ「だってもうみんなは仲間で、お友達なんだもの!」
しずく「ふふ♪ 頼もしいですね♪」
ランジュちゃんはすっかり元気を取り戻したようで安心する。
せつ菜「それにしても北北西ですか……。……セキレイから北北西と言うと……」
リナ『天睛山くらいかな。クリスタルケイヴはもうすでに行ってるし』 || ╹ᇫ╹ ||
せつ菜「ですね」
かすみ「天睛山……?」
しずく「クロユリシティの北にある活火山のことだよ」
歩夢「あ……確か、竜の顔みたいな形の湖の真ん中にある火山だよね……目みたいに見えるって言う」
せつ菜「はい。通称『竜の瞳』なんて呼ばれています」
侑「そこが次の龍脈なんだね……。それじゃ、朝になったら天睛山に向かおう!」
栞子「はい!」
私たちは新しい仲間を加え……レックウザのもとを目指して──次なる龍脈へと進んでいく。
228 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/20(金) 12:40:57.06 ID:WJiIP5Z70
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【セキレイシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
229 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/20(金) 12:41:50.15 ID:WJiIP5Z70
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.82 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.79 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.80 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.77 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドラパルト♂ Lv.78 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
フィオネ Lv.74 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:285匹 捕まえた数:12匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.69 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.69 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.65 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
トドゼルガ♀ Lv.65 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラージェス♀ Lv.65 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
ウツロイド Lv.73 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:264匹 捕まえた数:24匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.84 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロアーク♀ Lv.78 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
マッスグマ♀ Lv.75 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニゴーン♀ Lv.75 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ダストダス♀✨ Lv.74 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
ブリムオン♀ Lv.76 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:305匹 捕まえた数:15匹
主人公 しずく
手持ち インテレオン♂ Lv.69 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
バリコオル♂ Lv.68 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アーマーガア♀ Lv.68 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロズレイド♂ Lv.68 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
サーナイト♀ Lv.69 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
ツンベアー♂ Lv.69 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:286匹 捕まえた数:23匹
主人公 せつ菜
手持ち ウーラオス♂ Lv.79 特性:ふかしのこぶし 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
ウインディ♂ Lv.87 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
スターミー Lv.83 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
ゲンガー♀ Lv.85 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
エアームド♀ Lv.81 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
ドサイドン♀ Lv.84 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
バッジ 8個 図鑑 見つけた数:213匹 捕まえた数:51匹
主人公 栞子
手持ち ピィ♀ Lv.11 特性:メロメロボディ 性格:やんちゃ 個性:かけっこがすき
ウォーグル♂ Lv.71 特性:ちからずく 性格:れいせい 個性:かんがえごとがおおい
ウインディ♀ Lv.71 特性:もらいび 性格:さみしがり 個性:のんびりするのがすき
ゾロアーク♂ Lv.69 特性:イリュージョン 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
イダイトウ♀ Lv.68 特性:てきおうりょく 性格:さみしがり 個性:にげるのがはやい
マルマイン Lv.69 特性:ぼうおん 性格:きまぐれ 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 0個 図鑑 未所持
主人公 ミア
手持ち プリン♂ Lv.75 特性:フレンドガード 性格:のんき 個性:ちょっぴりみえっぱり
バッジ 0個 図鑑 未所持
主人公 ランジュ
手持ち コジョンド♀ Lv.80 特性:すてみ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
ジジーロン♂ Lv.76 特性:ぎゃくじょう 性格:れいせい 個性:ひるねをよくする
エレキブル♂ Lv.77 特性:でんきエンジン 性格:せっかち 個性:ちょっぴりみえっぱり
ローブシン♂ Lv.77 特性:てつのこぶし 性格:ゆうかん 個性:うたれづよい
ギャラドス♂ Lv.75 特性:じしんかじょう 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
パラセクト♂ Lv.71 特性:しめりけ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
バッジ 8個 図鑑 未所持
侑と 歩夢と かすみと しずくと せつ菜と 栞子と ミアと ランジュは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
230 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/21(土) 12:20:09.16 ID:Vp8VUFfr0
■ChapterΔ011 『人とポケモン』 【SIDE Yu】
ツシマ研究所で一晩過ごして……翌日。
私たちは“そらをとぶ”でオトノキ地方の北を目指していた。
せつ菜「皆さん! 見えてきましたよ!」
──せつ菜ちゃん先導のもと飛んでいくと、大きな湖が見えてくる。
空から見たその湖は、確かに竜の頭部を思わせるシルエットをしていて、その竜の目に当たる部分に、火山が見える。
侑「あれが……天睛山」
「ブイ〜…」
かすみ「でもあれ、どこから入るんですか? 上の火口から……?」
せつ菜「いえ、天睛山には奥に繋がる火山洞が外から続いているので、そこから入ることが出来ますよ」
侑「それじゃ、一旦火山洞の入り口に行こう!」
「イブィ♪」
せつ菜「はい! ご案内します! エアームド!」
「ムドーー!!!」
🎹 🎹 🎹
せつ菜ちゃんの言うとおり、天睛山の麓に降りると、大きな洞窟が口を開けていた。
洞窟を見るや否や、
ランジュ「さぁ、貴方たち! 行くわよ! ランジュに付いてきなさい!」
ランジュちゃんが意気揚々と進んでいく。
栞子「あ、ちょっと、ランジュ……! 単独行動しないでください……!」
ミア「やれやれ……」
栞子ちゃんが小走りでランジュちゃんを追いかけ、ミアちゃんが肩を竦めながら後を追う。
せつ菜「私たちも行きましょう。足元が不安定なので、気を付けてくださいね」
かすみ「もう〜かすみんたち、これでも地方中旅して回ってるんですよ? 今更、荒れ道程度で転んだり──って、わぁぁぁぁ!!!?」
かすみちゃんが足元のでっぱりに引っ掛かって、盛大にすっ転ぶ。
しずく「か、かすみさん、大丈夫!?」
かすみ「い、痛い〜……しず子ぉ〜……」
しずく「もう……気を付けないと……」
しずくちゃんが、へたり込むかすみちゃんの頭を撫でる。
歩夢「でも、本当に凸凹だね……」
リナ『舗装された道ではないからね。噴火活動によって、出来た横穴でしかないから』 || ╹ᇫ╹ ||
231 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/21(土) 12:20:41.98 ID:Vp8VUFfr0
確かに、道は激しく凹凸があり、段差を登らないといけない場所もある。
私は一段上によじ登ってから、
侑「歩夢、掴まって」
歩夢「うん、ありがとう、侑ちゃん」
歩夢を引っ張り上げる。
全員で協力しながら、奥へと進んでいくと──だんだんと汗ばんでくるのがわかった。
かすみ「……あ、暑い……」
しずく「やはり、活火山だからでしょうか……」
せつ菜「はい。もう少し奥に進むと溶岩が流れている場所もあるので、気を付けてください」
かすみ「溶岩!?」
リナ『触ったら火傷じゃ済まないね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
かすみ「こんなの人が来るような場所じゃないですよぉ〜……」
しずく「弱音吐いてないで頑張って! ほら、背中押してあげるから!」
侑「歩夢、大丈夫? 疲れてない?」
歩夢「うん、平気だよ、ありがとう♪」
高低差のある横穴をひたすら進んでいくと──せつ菜ちゃんの言うとおり、開けた空間へとたどり着く。
先ほども言っていたとおり、壁を伝うように溶岩が流れている場所もあり、洞窟の奥だと言うのにそれなりに明るくて……何より暑い。
ランジュ「栞子、龍脈はここなのかしら?」
栞子「……いえ、反応はもう少し奥ですね……」
栞子ちゃんの手にある“もえぎいろのたま”は光ってはいるものの、他の龍脈の地にたどり着いたときほど強い輝きにはなっていない。
せつ菜「確か……この先に、火口に繋がる道があったはずです」
ミア「そこまで行かないとダメってことか……。ボク、少し疲れてきたよ……」
かすみ「ミア子、鍛え方が足りないんじゃないの〜?」
ミア「なんだって? キミだって、さっきすっころんでたじゃないか。体幹不足の子犬ちゃん」
かすみ「だから、子犬じゃないっ!!」
しずく「もう……ケンカしないの……!」
リナ『ミアちゃん、頑張って! もう少しだから!』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
ミア「リナが言うなら、頑張るよ!」
リナちゃんに言われると、ミアちゃんは元気よく答えて歩き出す。
かすみ「リナ子の言うことは素直に聞くのに……なんで、かすみんには生意気なのかな……」
侑「あはは……」
思わず苦笑してしまう。
せつ菜「えーっと……あっ、あった! 皆さん! 火口への道は、こちらです!」
せつ菜ちゃんが、道を見つけてみんなを呼び寄せる。
全員でゾロゾロと道へと入っていくと── 一気に気温が上昇するのがわかった。
232 :
◆tdNJrUZxQg
[saga]:2023/01/21(土) 12:21:57.49 ID:Vp8VUFfr0
かすみ「うわ……」
ミア「これは……」
かすみちゃんとミアちゃんが、あまりの熱気に顔を顰める。
栞子「確かに……これはすごい熱気ですね……」
せつ菜「天睛山の火口には溶岩だまりが出来ていることも多いので……この暑さはそれによるものでしょうね」
うだるように蒸し暑い洞窟内を抜けていくと──さほど時間が掛からずに、空間が開ける。
そして、そこには──眼下に湖のように広がった、溶岩が煮えたぎっていた。
かすみ「うひゃぁ……あんなにたくさん溶岩があるの……初めて見ました」
しずく「こんなに広い溶岩だまりがあるなんて……」
ランジュ「栞子、反応は?」
栞子「……間違いありません。ここが龍脈です」
栞子ちゃんの言うとおり、“もえぎいろのたま”は強く光を発していた。
あとは龍脈のエネルギーを集めたら、脱出して──と思った、そのとき、
歩夢「ま、待って……! 溶岩だまりの中央に……何かいるよ……!」
侑「え……!?」
歩夢の言葉に全員が、溶岩だまりの中央部分に目を向けると──
溶岩の上スレスレでとぐろを巻いて目を瞑っているポケモンが、灼熱の赤に照らされながら鎮座していた。
それはまさに──
栞子「龍神様……!」
私たちが探していた、レックウザだった。
🔖 🔖 🔖
「──キリュリリュリシィ……」
私の声に反応するかのように、龍神様はゆっくりと目を開け──
「キリュリリュリシイィィィィィィ……!!!」
雄叫びをあげながら、私たちの前方まで飛翔してくる。
かすみ「ぴゃぁぁぁぁ!!? こっちきたぁ!?」
「キリュリリュリシイィィィィィィ!!!!」
龍神様が動くだけで、周囲の空気が渦巻き、突風を発生させ、私たちの目の前で大きな体躯をしならせながら静止する。
「キリュリリュリシイィィィィィィ…」
栞子「龍神様……」
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