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【デレマス】ファースト・シンデレラ
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138 :
◆1hbXi1IU5A
[sage]:2022/12/07(水) 23:24:30.62 ID:sQ22x4PF0
「あぁ〜懐かしいですねぇ〜」
海岸線を車で走っていると、菜々さんは感慨深げに呟いた。
「そう言えばこの町は……」
「はいっ!プロデューサーさんとナナが初めて出会った町ですよ!」
「というと、菜々さんの……」
はっと思いついて、菜々さんの言葉に合わせようとすると。
「ノウッ!ナナの故郷はウサミン星ですよ!」
「そうですね。菜々さんはウサミン星のプリンセスなんですからね」
頬を膨らませて取り繕う菜々さんの表情は可笑しかったが、いつもの調子で話を合わせる。
「はいっ♪って、あーっ!今通ってる道の、あそこの砂浜で小さい頃よく海を眺めてたんですよ〜」
話を合わせたはずなのに、なぜか菜々さんは話を元に戻してしまった。
これがバラエティ番組なら佐藤あたりがツッコミを入れるのだろうが、今日はふたりだけ。
139 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/07(水) 23:25:54.85 ID:sQ22x4PF0
すみません。トリップを付け間違えていました。
◆1hbXi1IU5Aは僕です。
140 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/07(水) 23:26:42.85 ID:sQ22x4PF0
「……小さい頃の菜々さんは、海を眺めて何を思ってたんですか?」
「えへへ……」
菜々さんは笑う。いつもの笑顔とは少し違う、懐かしそうな笑顔で。
多分、聞いてほしいことがあったのだろう。
「ナナは、子供の頃からウサミン星のプリンセスになるんだって言ってたんですけど……」
朝日を浴びて光を散らしていく海を眺める菜々さんは、とても綺麗だと思う。
「クラスの子達からはよくバカにされてたんです。ウサミン星なんてないって」
海岸線から市街地へと向かう道へと曲がると、菜々さんは名残惜しそうに振り返っていた。
「それで、あの海に向かって『ウサミン星はあるもん!』って叫んでたんですか?」
141 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/07(水) 23:27:17.71 ID:sQ22x4PF0
「……小さい頃の菜々さんは、海を眺めて何を思ってたんですか?」
「えへへ……」
菜々さんは笑う。いつもの笑顔とは少し違う、懐かしそうな笑顔で。
多分、聞いてほしいことがあったのだろう。
「ナナは、子供の頃からウサミン星のプリンセスになるんだって言ってたんですけど……」
朝日を浴びて光を散らしていく海を眺める菜々さんは、とても綺麗だと思う。
「クラスの子達からはよくバカにされてたんです。ウサミン星なんてないって」
海岸線から市街地へと向かう道へと曲がると、菜々さんは名残惜しそうに振り返っていた。
「それで、あの海に向かって『ウサミン星はあるもん!』って叫んでたんですか?」
142 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/07(水) 23:27:47.07 ID:sQ22x4PF0
遠い遠い少女時代に、誰からも見向きもされなかった夢を叶えた高翌揚感からなのだろうか。
一通りまくし立てた菜々さんに、一つ魔法をかけてみたくなった。
「菜々さん、いつか菜々さんが胸を張ってウサミン星のプリンセスになったんだって思えたら」
赤信号。ちらりと横目で菜々さんの顔を見ると、頬が紅潮しているのを見て取れた。
「一緒に、あの海を見に行きましょう」
信号が、変わる。
「……はい」
菜々さんが、答えてくれた。
143 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/07(水) 23:28:16.61 ID:sQ22x4PF0
「安部菜々さん、入りました!」
「商店街の皆さん!準備はばっちりです!」
現場に入ると、けたたましく撮影の準備が進んでいく。
「プロデューサーさん。さきほどの約束、忘れないでくださいね♪」
柔らかい掌が、ハンドルを握り続けて冷たくなっていた手に一瞬だけの温もりをくれた。
そして、スタッフに促されて、菜々さんは駆けていく。
「今日もアイドル!がんばりますよー!」
アイドル安部菜々が出かけてゆく。いつか見たような街の、ひとごみの中に。
144 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/07(水) 23:29:51.30 ID:sQ22x4PF0
【Scene [ FRIENDS ] どうしても君を失いたくない ― 了 ―】
145 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/07(水) 23:34:25.48 ID:sQ22x4PF0
わかる人には何をモチーフにしているか分かるお話を、明日明後日でもう二つ上げさせていただきます。
146 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/08(木) 22:58:18.83 ID:PtCBDhPH0
Scene 2
147 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/08(木) 22:58:49.09 ID:PtCBDhPH0
何度目かの待ち合わせ。
賑やかな夜の街に君を誘う。
時計を見ながら待つ僕の前に、君は悠然と現れた。
周りの女性に比べてやや小さな背丈からは想像もできない。
豊かな胸元を見せつけるような大胆なドレス。
タイトなスカートからふっくらとした太腿が伸びて。
「待たせたかしら?」
君は挑発的な上目遣いで僕の顔を覗き込んでくる。
「いや。今来たところだよ」
決り文句にむず痒さを感じつつ、君の手を取る。
148 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/08(木) 22:59:18.65 ID:PtCBDhPH0
君は僕より少しだけ年上だけど、何かにつけてリードされたがっているのは知っている。
「今日はいつものバーで少し飲んだあと……」
細くくびれた腰に手を回し、こちら側に引き寄せる。
「会えなかった時間をたっぷりと埋め合わせしよう」
周りの目なんか気にせず、君の耳元に囁きかけた。
「若いわねぇ」
君は妖艶さに芳醇な色香を混ぜて、童顔な顔立ちに背徳的な微笑みを浮かべる。
「いいわ。今夜も付き合ってあげる……」
指先で僕の頬をなぞる君に、これから訪れる目眩く時への誘いを感じて……。
149 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/08(木) 22:59:48.16 ID:PtCBDhPH0
『朝よー!(カンカン!)起きなさい!(カンカン!!)』
けたたましく響く目覚ましボイスに脳が激しく揺さぶられる。
この【片桐早苗ボイス付き目覚まし時計:4980円(税抜)】を使ってから、寝坊知らずだ。
問題は、せっかく夢の中で片桐早苗さんに出会えたとしても、
そこでの触れ合いでたとえどんな美しく扇情的な装いであったとしても、
時間がくれば早苗さんは突然割烹着姿に着替えてフライパンを叩き出すということだろう。
「おはよう。早苗さん」
壁の、早苗さんが浴衣姿でにこやかにビールを煽る広告ポスターにひと声かけて、身支度を始めた。
150 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/08(木) 23:00:22.61 ID:PtCBDhPH0
早苗さんが28歳にしてアイドルデビューを果たして暫く経った頃に、
テレビのバラエティで朗らかに、ハキハキと周りの出演者たちを引っ張っている早苗さんを見た。
なんて素敵な人なんだろうと早苗さんのファンになってから、毎日が随分と変わった。
大学を卒業して2年目、24歳の僕にとって早苗さんは年上のお姉さんだ。
友人たちや会社の同期達は同じ28歳でもクールで知的な美女、川島瑞樹さんのファンが多い。
151 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/08(木) 23:00:48.47 ID:PtCBDhPH0
童顔で背も小さく、なのに抜群のスタイルを誇る早苗さんが好みだというと、
周囲からはなぜかロリコン扱いされることもあり、あまり口に出さなくなった。
それでも、こうやって早苗さんの写真集や歌、グッズなんかを買い集めて、
どんどん活躍の場を増やしていく早苗さんの笑顔を思い浮かべると、
どんなに仕事が辛くても気持ちが楽になるんだ。
152 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/08(木) 23:01:19.70 ID:PtCBDhPH0
帰りがけに寄ったコンビニ。
巻頭グラビアを飾る早苗さんが表紙になっているからと
ろくに中身を読むもないタブロイド雑誌を買うのも珍しくなくなった。
部屋に戻ると、10代の少年のような胸の高まりを抑えながら雑誌をめくる。
水着姿で、ギュッと両肩を窄めて谷間を強調して見せては、イタズラっぽく笑う早苗さん。
写真一枚一枚に「どうもありがとう」と声に出す僕も相当なもんだ。
(一度でいいから、会ってみたいなぁ)
153 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/08(木) 23:01:49.18 ID:PtCBDhPH0
東京の方では、頻繁にLIVEや握手会が開催されていて、早苗さんもよく出演している。
地方都市に在住で土日が出勤の僕は、未だに映像でも写真でもない早苗さんを見たことがない。
LIVE映像を見ると、早苗さんは楽しそうに歌って踊って、時折カメラに視線を送ってウインクなんかして。
まるで、誘惑されているような気持ちになってくる。
だからあんな夢を見るんだ。覚めてほしくない、願望に塗れた生々しい夢を。
154 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/08(木) 23:02:19.33 ID:PtCBDhPH0
「どうかしたの?」
「……いや。特には」
久しぶりに休日が合ったこともあり、その日は朝から彼女と出かけていた。
彼女とは大学時代から付き合っていて、もうすぐ6年になろうとしている。
最初は趣味の話で盛り上がったことから始まった関係も、
何年も経てばお互いに興味の向かないジャンルをいくつか抱えるようになっている。
ただお互いに余計な詮索をしない関係は、居心地が悪いわけではない。
155 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/08(木) 23:02:50.00 ID:PtCBDhPH0
そして当然、彼女には早苗さんのファンであることは伝えていない。
多分僕は、彼女より早苗さんに恋をしてるんだろう。
もちろんこんな気持ちを、頻繁に夢に見ているなど彼女に話せるわけない。
このぬるま湯のような関係を捨ててしまうほどの度胸はない、そんな小心者の恋なんだ。
156 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/08(木) 23:03:23.00 ID:PtCBDhPH0
……ランチのために立ち寄った喫茶店で、彼女はこれ見よがしに結婚情報誌を眺めていた。
その号には短いながらも早苗さんへのインタビューが掲載されているのを知っている。
ウェディングドレスを着た早苗さんの写真を想像して、なぜかとても嬉しくなった。
「……何を笑ってるの?」
彼女が嬉しそうにこちらを見てきた。
……やっぱりこういうのも悪くない。
157 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/08(木) 23:03:59.34 ID:PtCBDhPH0
一週間後、ファンクラブの連絡で、早苗さんが近くの街にイベントで来ることを知った。
ユニット『セクシーギルティー』でのトークショーの後、新曲のお披露目と握手会が開催されるそうだ。
千載一遇だった。多分もう、二度とこんな機会は訪れない。
直ぐに予約をとって、次の日には有給休暇も確保した。
158 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/08(木) 23:04:28.73 ID:PtCBDhPH0
後から知ったが、握手会は先着100名の狭き門だった。
質問が一つだけ許されるそうなので、どうしても聞いてみたかったことを聞くことにした。
……それがつまみ出されるかも知れない危険な質問だというのは後から知ったことだけど。
とにかく、永遠とも思えるような日々を過ごした後、待ちに待ったイベントの日がやってきた。
159 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/08(木) 23:04:58.33 ID:PtCBDhPH0
(動いてる……!そこに居る……!)
トークショーでも、LIVEでもとにかく頭にあったのはほとんどその言葉。
初めて、本物の片桐早苗さんを見た。
画面の向こうから見るのに比べて、本当に可愛らしくて、本当に元気で、本当にセクシーで。
ユニットメンバーがふたりとも高校生だから、頼もしいお姉さんとして存分に魅せてもらえた。
思い残すことはなにもない。いや、まだ最後の思い残しがある。
160 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/08(木) 23:05:29.88 ID:PtCBDhPH0
新曲の披露が終わって、僕はもう魂が抜けたような感覚だったけれど最後の力を振り絞って握手会の行列に並ぶ。
少しずつ、少しずつ距離が縮まっていく。
もう少しで、早苗さんに触れることができる。
早苗さんはまるでファンがずっと前からの友人であるかのように短い対話を楽しんでいた。
あと3人、あと2人、あと1人。
鼓動が早鐘のようだ。口から飛び出してしまいそう、というのはこういうことを言うのだろう。
161 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/08(木) 23:05:59.56 ID:PtCBDhPH0
「はじめまして!よね!?」
自分の番になって、戸惑ってしまった僕の手を、早苗さんは強引に両手で手を掴んできた。
近い。小さい。可愛い。柔らかい。でもちょっと力が強い。いい匂いがする。あぁ……。
「あ、あの、ずっと、ずっと好きでした!」
しまった。何もかもすっ飛ばして……。
「あはは!ありがと!お姉さんもみんなが大好きよ!」
そこはやっぱりアイドルなんだ。早苗さんは何の迷いもなく、何の躊躇いもなかった。
162 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/08(木) 23:06:29.29 ID:PtCBDhPH0
目の前の早苗さんは、夢で見た早苗さんなんかよりも、もっともっと魅力的だった。
決して、手に届かないところに居るんだということを実感できるほどに。
「それで、君はお姉さんに何を聞きたいのかな?」
そうだった。早苗さんは本当に優しい人なんだな……。
「えっと、あの、早苗さん!」
「なーに♪」
大きな目をぱっちりと開けて、朗らかに笑ってくれている。
「早苗さんは今、恋を……していますか……?」
163 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/08(木) 23:06:59.05 ID:PtCBDhPH0
最後の方は、もう殆ど聞こえていないのではないだろうか。
怖くて、怖くて目を伏せてしまった。周りが少しざわついているような気がする。あぁ。終わった。
早苗さんの手は、ずっと僕の手を握ってくれたままだったけれど……。
「うふふっ……アイドルの恋は秘密よ♪」
そう言って、うつむいたままの僕の頬を両手で挟んで。
「あはは!しゃんとなさい!次は堂々と聞いてきなさいよ♪」
早苗さんはウインクをして、ペロリと舌を出した。
164 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/08(木) 23:07:30.01 ID:PtCBDhPH0
握手会を終えて、さっきまで早苗さんに包まれていた右手と、頬を交互に左手でなぞりながら家路につく。
そう、秘密だ。早苗さんもまた、秘密の恋をしているんだ。そういうことにしておこう。
僕と同じなんだ。そう思うと、少し心が楽になる。
誰に恋しているのかなんて、この際どうでもいい。踏ん切りがついた。
これからも、ずっと応援していよう。ファンであり続けよう。
そして僕は僕の生活を続けていこう。
今度は、胸を張って大好きだと言えるように。
165 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/08(木) 23:07:59.59 ID:PtCBDhPH0
君を想って、この後ずっと生きてゆこう。
それでいい。
君を想って、この後ずっと頑張ってゆこう。
何も変わらない。
166 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/08(木) 23:08:45.10 ID:PtCBDhPH0
【Scene [ FRIENDS U] ある密かな恋 ― 了 ―】
167 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/08(木) 23:09:19.20 ID:PtCBDhPH0
明日、もう一作投下します。
168 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/09(金) 21:24:09.58 ID:kGTB8pR/0
Scene 3
169 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/09(金) 21:24:44.03 ID:kGTB8pR/0
「カンパイ♪」
「カンパイ!」
個室の居酒屋で早苗ちゃんとふたり、カチンと勢いよくジョッキを合わせた。
「瑞樹ちゃん!今週もお疲れさま♪」
「早苗ちゃんもお疲れさま♪今日は張り切って飲みましょうね」
今日のレッスンはかなり体を動かしたし、明日は私も早苗ちゃんもお休み♪
そう!どれだけ深酒しても大丈夫な日なの!
「どうかしら早苗ちゃん。このメニューの端から端まで頼んじゃう?」
「いいわねー♪でもね瑞樹ちゃん。せっかくだから食べ物もいっぱいいただきましょう!」
170 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/09(金) 21:25:20.97 ID:kGTB8pR/0
早苗ちゃんのオススメでやってきた居酒屋だけど、お酒も食べ物も本当にたくさんで目移りしちゃうわ。
それに、二人で個室にも入れるお店なのが良いわね。
やっぱりふたりともテレビのお仕事をしているから、カウンターやテーブルで飲むってのは、ね。
「早苗ちゃんは本当に色んな所に顔が利くのね」
「あはは!故郷の新潟を出て10年!お酒が飲めるようになって8年!開拓してきた甲斐があるわ!」
美味しそうにジョッキを傾ける早苗ちゃんに、私も負けじとジョッキを呷る。
「「ぷはー♪」」
ふたり、おなじタイミングで一息ついて、顔を見合わせて笑いあった。
171 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/09(金) 21:25:53.18 ID:kGTB8pR/0
「ところで瑞樹ちゃん」
「なあに?早苗ちゃん」
口元に着いた泡を豪快に拭ってみせる早苗ちゃん。
「直帰だって言うからメッセージ打ったのに、プロデューサー君ったらまだ未読なのよ!」
「あら、そうなの?」
外は小一時間前から降り始めた雨が強さを増しているみたい。
「プロデューサー君、普段からマナーモードだから気づいてないのかしら?」
「ケータイを何のために携帯してるのよ!大事な担当アイドルからのお誘いでしょ!?」
言葉とは裏腹に、早苗ちゃんはとても楽しそう。
172 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/09(金) 21:26:36.79 ID:kGTB8pR/0
「早苗ちゃん。プロデューサー君は早苗ちゃんのために新しいお仕事を取りに行ってるのよ」
彼が営業に向かった先、それはとある有名なレコード会社。
以前、早苗ちゃんの宣材写真を持っていった会社だから早苗ちゃんへのお仕事をとってきてくれるわ。
「ふふふっ♪瑞樹ちゃん、ずいぶんプロデューサー君を信頼してるのね!」
機嫌よくおかわりのジョッキを呷った早苗ちゃんはとても嬉しそうにしてる。
「ねえ!瑞樹ちゃんとプロデューサー君はアイドルになる前からの付き合いなのよね!」
「そうね。私が局に入ってから2年。初めてバラエティのお仕事をした時に……」
173 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/09(金) 21:27:06.70 ID:kGTB8pR/0
プロダクションの制作部でアシスタント・ディレクターだった彼との出会い。
名刺交換しただけで印象的な出会いではなかったのよ。
その頃は私も駆け出しの局アナだったし、彼だって新人のアシスタントだったわけじゃない?
無我夢中に時間を積み重ねて、日々成長していこう、輝いていこうって必死だったのよ。
「3年前の年の暮れに、局の年末特番で総合司会をやりきったの」
「うんうん♪」
「お友だちになったって言えるのは、特番の打ち上げからじゃないかしら?」
「なんかはっきりしないわねぇ」
早苗ちゃんは首を傾げるけど、何年もお仕事をしたからって取引先の人とお友だちになんてそうそう無いのよ。
174 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/09(金) 21:27:36.50 ID:kGTB8pR/0
お仕事で何度も顔を合わせていたし、年齢も近かったからお喋りをする機会はあったんだけどね。
そう言えば、あの特番は彼がディレクターに昇格して間もない頃だったのよ。
お互いに大きなお仕事を無事に済ませられたってことで、共感するものがあったのかもしれないわ。
「それでその後は?」
「一緒に飲みに行く機会が増えたかしら♪お互いのお友だちと一緒だったり、ふたりきりだったこともあるけどね」
「あらあら♪もしかしたら何かあったんじゃ?」
早苗ちゃんが前のめりになって聞いてくる。女の子はこういう話が好きよね。わかるわ。
175 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/09(金) 21:28:05.97 ID:kGTB8pR/0
「プロデューサー君は必ず私を先に帰らせたわ。大事な取引先の社員ですから、だって」
「あはは!プロデューサー君らしいわね!それじゃなーんも無かったのね」
「そう♪なーんにも無かったのよ」
他愛もないお話やお仕事での体験談を語り合うこともあれば、何十分も喋らないで黙々と杯を重ねたこともある。
お互いに良いことばかりがあったわけじゃないけど、愚痴を言い合うようなことはなかったわね。
ちょっと嫌なことがあったら、どちらともなく飲みに誘って、静かに杯を重ね合うの。
いつの間にか、そういうことを許し合えるような仲になってたのね。
176 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/09(金) 21:28:37.46 ID:kGTB8pR/0
「アナウンサーを卒業する少し前に、アイドルの密着取材をしたのだけれど……知ってる?」
「もちろん知ってるわよ!全国で放送された765プロの……」
そう、私の人生をまるごと変えてしまったあの密着取材。
ううん。私の中に眠っていた憧れが再び目覚めたあの夜。
「私自身もっと笑顔になって、みんなの笑顔をもっともっと見られるようなお仕事をしたいって気持ちね」
「それがアイドルね!」
何回目かの乾杯とともに、早苗ちゃんの笑顔が弾ける。
「瑞樹ちゃんも良い笑顔してるわよ!今、とっても!」
「そうかしら?ふふっ♪」
177 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/09(金) 21:29:06.93 ID:kGTB8pR/0
彼の企画したお仕事をきっかけに、彼の後押しを受けてアナウンサーを卒業した。
そして、彼がプロデューサーになると同時に、私はアイドルになった。
それから私は色んな笑顔に囲まれてアイドルの道を歩んでいる。
なんだか、ちょっとした運命を感じちゃうけど、彼と私は今までずっと……。
違うわ。アイドルになりたいという夢と、プロデューサーになりたいという夢のために利用しあった共犯者なの。
だからこそ、これからどんなことがあっても彼となら乗り越えていける。
この業界が明るいだけの世界じゃないことくらいわかるわ。
だけど、どんな光も影も、彼となら慈しんでいける。
一度色褪せて散ったと思っていた花がまた咲いたように。
178 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/09(金) 21:29:37.01 ID:kGTB8pR/0
「なんだかちょっと妬けちゃうわー♪」
「そうかしら?私もプロデューサー君のスカウトを受けてみたかったわぁ」
ジョッキも空いたことだし、店員さんを呼んでおかわりをお願いしたわ。もちろん、ふたり分。
「そんなに良いもんじゃないわよ?学生の頃だったらまだしもこの年になってからだもん」
「そうなの?」
「そうよ!最初にいきなり肩を掴まれたって話はしたわよね」
それで投げ飛ばしちゃったのはやりすぎたとは思うけどって、
何回目かは忘れちゃった乾杯の後、早苗ちゃんはちょっと不満そうな顔をした。
「この前聞いた『あの子』と見間違えたって。しかもちゃんと見てみたら全然違ってたって!」
「そうだったわね。プロデューサー君、よっぽど慌ててたのね」
彼がかつてファンだった地下アイドルの少女。多分私たちと同じくらいの子。
179 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/09(金) 21:30:11.40 ID:kGTB8pR/0
「会ってみたいわねぇ」
「そうねぇ……地下アイドルってそんなに長く続けられるもんなの?」
「わからないわ」
あの堅物の彼に芸能事務所のプロデューサーなんて夢を抱かせた『あの子』のこと、私たちは気になっている。
できれば会ってみたいし、お友だちにもなってみたい。
そんな名前も知らない『あの子』は今、何をしているのかしら。
彼は今も、あなたの姿を追いかけている。どうか出会ってあげてほしい。
「そう言えばプロデューサー君からの連絡は来てないの?」
「まだなのよ!どこで油を売ってるのかしら……?」
「もしかしたら……」
生真面目な彼だからこそ、何時間も連絡をよこさないほどなにかに没頭しているのかも。
180 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/09(金) 21:30:40.93 ID:kGTB8pR/0
「早苗ちゃん。プロデューサー君はお休み明けに何か報告してくれるかもしれないわ」
「あらっ♪ひょっとして今頃誰か新しい仲間をスカウトしてたり?」
「早苗ちゃんもそう思ったのなら、きっとそう♪」
私たちはほとんど同時に同じ結論に達したわ。オンナのカンね♪
その後しばらく他愛のないお話をして、私たちは締めのお粥を頂いてお店を後にしたわ。
帰りのタクシーを待つ間、早苗ちゃんったら彼にメッセージを打ってたんだけど……。
「今日は都合が合わなかったみたいだけど、今度担当アイドルからのお誘いを無下にしたらシメるわよ!っと」
「もう少し優しくしてあげてもいいんじゃないかしら?」
「いーのいーの!それじゃ、また明日ね!」
明日はふたりでエステに岩盤浴。きっちり身体をメンテナンスして来週のお仕事に備えなくちゃね。
181 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/09(金) 21:31:40.38 ID:kGTB8pR/0
月曜日。
アイドルの私たちは定時出社の必要はないんだけど、そこは染み付いた習慣かしら。
「おはようございます。瑞樹さん」
「おはよう。ちひろさん。今日も早いわね」
挨拶もそこそこに、彼の事務室に顔を出す。
いつもは私のほうが少し早いのだけど、今日に限って、ううん。多分今日だからこそ彼は出社していた。
いそいそと机の上に乗った書類を片付けているわね。うん。やっぱりそうなのね。
「おはようプロデューサー君。今日は早いわねー」
「おはようございます。川島さん」
いつもの挨拶を済ませて、私は応接用のテーブルに置きっぱなしになっていた雑誌や写真を纏め始める。
182 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/09(金) 21:32:19.31 ID:kGTB8pR/0
「川島さん、アイドルに雑用を手伝わせるのは悪いですよ」
バツの悪そうな顔をする彼。私と早苗ちゃんのカンはバッチリ的中したみたいね。
それに、もしかしたら、もしかするのかもしれないわ。
彼の表情、以前『あの子』の話を聞いたときと同じ顔をしている。
「大事なお客さんがくるんでしょ?わかるわ」
雑誌と写真の束を彼に手渡して、掃除機を借りてくるべく事務室を出る。
183 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/09(金) 21:32:49.98 ID:kGTB8pR/0
毎朝の彼との、他愛もないちょっぴり退屈な時間を過ごすのは悪くないけれど、
アイドルの為にって情熱を迸らせている彼に支えてもらうのが一番なの。
今日、これから新たな仲間が加わる。きっと良いお友だちになれるわ。
でも彼から最初にこの想像のつかない、真っ白な夢の道に手を引いてもらったのは、私よ。
例え『あなた』にだって負けないわ。いらっしゃい。最高のライバルさん。
一緒に輝いていきましょうね♪
184 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/09(金) 21:33:29.31 ID:kGTB8pR/0
【Scene [ FRIENDS V] GROW & GLOW ― 了 ―】
185 :
◆xMUmPABXRw
[sage]:2022/12/09(金) 21:36:09.31 ID:kGTB8pR/0
終わりました。
Scene 1 と 2 は最初のお話の少し後のできごと、 3 だけが最初のお話の最後の章の裏話と言った感じでした。
また、機会があれば同一世界線のお話を投下しにきます。
186 :
◆xMUmPABXRw
[sage saga]:2022/12/13(火) 00:11:06.72 ID:3rJ8azZY0
>>141
(全然気づいてなかったんですが、ここはこれにが入ります。)
↓
「えぇっ!?なんで知ってるんですか!!?」
「えっ?そうだったんですか?」
菜々さんなら、そうしただろうなと思って口にしたのだけれども、まさかの図星だ。
「ん"ん"!びっくりしました!もしかしたらとか思っちゃいましたよ!」
表情をコロコロ変えながら俺の顔と通り過ぎた砂浜を見返している菜々さん。
「でも!それだけじゃないんです!ウサミン星のプリンセスになるんだってあの海に誓って!」
「……菜々さん」
「それがプロデューサーさんに出会って、いつか再会する時にはって頑張ってたら!あの日にですね!」
「菜々さん。お仕事はこれからです。今からそんなんじゃ疲れてしまいますよ」
「は!はひっ!!!そ、そうですねー……アハハ……」
187 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2022/12/20(火) 11:21:10.41 ID:60OVAHGA0
はい
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