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侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」

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853 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:12:37.78 ID:hRdoaDre0

侑「かすみちゃん、雨具持ってないの!?」

かすみ「バッグの奥底にあって取り出せないんですぅ〜!!」

リナ『かすみちゃんは荷物を持ちすぎなんだと思う』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


だから普段から、道具を持ちすぎだって言ってるのに……。


しずく「それにしても……本当に酷い雨ですね……」


レインコートを羽織っていても、靴の中に水は入り放題だし、地面の状態は最悪だ。

あまりにも雨足が強すぎて──前方を走る、かすみさんと侑先輩の姿を追いかけるのがやっとな状態。


歩夢「しずくちゃん、平気?」

しずく「は、はい……! かなり置いていかれちゃってますから、急がないとですね……」


先ほどから歩夢さんは、しきりに私に声を掛けてくれている。

恐らく……先ほどの私の様子が気になっているのだろう。


歩夢「体調が悪かったら言ってね……?」

しずく「は、はい……ありがとうございます」


面倒見が良い歩夢さんらしいなと思った。

だからこそ、先ほどのような態度を見せてしまったのは失敗だったなと反省する。

後輩が急に無口になったら心配もするだろう。

この雨を抜けたら、本当になんでもないことを伝えなくては……。

──バシャバシャと音を立てながら、ぬかるむ道をひた走る。

走り続けていると、道路の中腹を横切る河川が見えてくる。

もちろんこんな大雨の中だ。川の水はかなり増水し、茶色い濁流となっている。

気付けば、かすみさんたちは橋をすでに渡り始めていて、そろそろ向こう岸に着こうとしていた。


しずく「い、急がないと……!」


私がもたもたしていたせいで、随分遅れてしまっている。

焦り気味に、橋へと差し掛かった瞬間──ミシっという嫌な音がした。

直後、視界がガクンと揺れる。


しずく「っ!?」


この大雨によって──橋が、壊れた。

急なことに、なすすべもなく私は濁流に投げ出される。


歩夢「──しずくちゃん……!!」
854 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:13:20.42 ID:hRdoaDre0

視界の端に居た歩夢さんが──濁流に飛び込んでくる姿が見えた。

──歩夢さん、来ちゃ、ダメです……!!

叫ぼうとするが、濁流に呑まれながら声を発することなど出来るはずもなく、私は流されていく。

溺れないように、必死に顔を水面に出そうとするが、激しい濁流の中では自由が全く効かず、私の視界は──気付けば全てが濁った水の中で、回転していた。

上も下も右も左もわからない。

洗濯機の中にでも放り込まれたような気分だった。

もはや水面がどっちかすらわからない。

──私……死んじゃうのかな。

ウルトラビーストに襲われたとかじゃなくて……まさか、川で溺れて死んじゃうなんて……。

情けないな……。

だんだん、抗う気力もなくなってきて……ただ流されていく私の腕を──何かが掴んで引っ張りあげるような感覚がした。


しずく「──ぷはっ……! げほっ! げほっ!」

歩夢「しずくちゃん、平気!?」
 「シャーボ!!!」


私を引っ張りあげたのは──歩夢さんだった。サスケさんが私の腕に頭側を絡みつかせ、尻尾側は歩夢さんの腕に絡みつき、私を引っ張っていた。

そのまま、サスケさんを伝って、歩夢さんが手を伸ばし、私の腕を掴む。

歩夢さんに引き寄せられた状態で、濁流の中辛うじて顔だけを水面から出したような状態のまま、流されている。


しずく「あ、あゆむ……さん……っ……」

歩夢「サスケ……! 絶対、私から離れちゃダメだよ……!」
 「シャーボッ!!!」

歩夢「タマザラシ……! 頑張って、岸まで……!」
 「タマァァ…!!」


歩夢さんがタマザラシに掴まって泳いでいることに気付く。

そうだ私も……!


しずく「ジメレオン、出てきて……!」
 「ジメッ!!」


私もジメレオンに掴まり、歩夢さんのタマザラシと力を合わせて、岸に向かおうとする──が、


歩夢「な、流れが……速すぎて……っ」

しずく「二人とも岸まで行くのは無理です……! ジメレオン、タマザラシと協力して、歩夢さんだけでも……!」
 「ジ、ジメ…」

歩夢「そんなの絶対にダメ……!!」

しずく「ですが……っ」


歩夢さんは私を助けるために、飛び込んできたのだ。

私が落ちたりしなければ、歩夢さんが危険な目に遭うなんてことなかった。


しずく「どちらかしか助からないなら……歩夢さんが──」

歩夢「どっちが助かるかなんて考えないでっ!」

しずく「!」

歩夢「タマザラシ、お願い……!!」
 「タマァァァ…!!」


そのとき──タマザラシの体が眩く光り始めた。
855 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:13:56.90 ID:hRdoaDre0

 「──グラァッ!!!!」

しずく「トドグラーに……進化した!?」

歩夢「! これなら……! トドグラー、お願い!」
 「グラーー!!!」


進化して、パワーアップしたトドグラーは、濁流の中でも私たちをぐんぐん引っ張って──どうにか岸へとたどり着いたのだった。





    💧    💧    💧





歩夢「エースバーン、“ひのこ”」
 「バース」


歩夢さんのエースバーンが集めた枝に火を点けてくれる。


歩夢「これで……ちょっとはあったかくなるかな」

しずく「はい……あったかいです」


水に浸かっていたせいで完全に冷え切ってしまった身体を、焚火が温めてくれる。

私たちは、あの後どうにか岸に上がり、川から少し離れた場所にあった大きな木陰の下で雨宿りをしていた。


歩夢「……結構流されちゃったみたいだね」


歩夢さんは図鑑のタウンマップを確認しながらそう言う。


しずく「すみません……私が不甲斐ないばっかりに」


私はしゅんとしてしまう。


しずく「歩夢さんまで巻き込んでしまって」

歩夢「…………」


歩夢さんは無言で立ち上がって、


しずく「……歩夢さん……?」


私の目の前にしゃがみこみ──そのまま、私のことをぎゅっと抱きしめてきた。


歩夢「……そんな悲しいこと言わないで……私たち、友達でしょ?」

しずく「歩夢……さん……」

歩夢「しずくちゃんが困ってたら……助けるよ。……だから、巻き込んだなんて言わないで欲しいかな……」

しずく「……ごめんなさい……」

歩夢「……もう言っちゃダメだよ、そんなこと」

しずく「……はい」


私が謝ると、歩夢さんは私を離したあと、頭を撫でてニコっと笑う。
856 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:16:35.68 ID:hRdoaDre0

歩夢「……雨、止むまでは動けないね」

しずく「そうですね……かすみさんたち、心配してますよね……」

歩夢「さっき、リナちゃんにメッセージは送っておいたよ。……あ、返事来てる」

しずく「侑先輩たちはなんて……?」

歩夢「『二人とも無事でよかった。天気が落ち着いたら、すぐに迎えに行くからそこで待ってて』って」

しずく「そうですか……。……くしゅんっ」

歩夢「わわ……! 風邪引いたら大変……! 私の上着、ちょっとだけ乾いてきたから、羽織ってて!」

しずく「い、いえ、そんな……! 歩夢さんこそ風邪引いちゃいます……!」

歩夢「私は大丈夫だから、ね?」

しずく「でも……」

歩夢「はい、どうぞ」

しずく「……ありがとう……ございます……」


歩夢さんには独特の押しの強さがあるというか……なんだか、気付くと言うことを聞いてしまっているような、不思議な雰囲気がある。


歩夢「いいんだよ、こんなときは甘えても。私の方がお姉さんなんだから♪」

しずく「は、はい……///」


なんだか、少し気恥ずかしくなってくる。


歩夢「他に困ったことはないかな?」

しずく「大丈夫ですよ。それこそ、そこまで気を遣っていただかなくても……」


そのとき──くぅ〜……とお腹の辺りから音が鳴る。


しずく「あ、あの、これは……///」

歩夢「ふふ♪ 確かにお腹空いちゃったね♪」

しずく「ぅぅ……///」

歩夢「何かあるかな……」


歩夢さんは自分のバッグの中身を確認し始める。

ただ、先ほどまで濁流を流されていたこともあって──


歩夢「……うーん……。……やわらかい“きのみ”はほとんどダメになっちゃってるかも……」


持っている“きのみ”の多くがダメになってしまったようだ。


しずく「あ、あの……歩夢さん、本当に大丈夫ですから……」

歩夢「あ……そうだ!」


歩夢さんは何かを思いついたらしく、ぽんと手を叩いて、バッグの中から何かの箱を取り出した。


歩夢「よかった……ケースの中身は無事みたい」

しずく「それって……“ポフィンケース”ですか?」

歩夢「うん♪ “ポフィン”はポケモンのおやつだけど……少し貰っちゃおうかなって。はい♪」


そう言いながら、ケースから“ポフィン”を取り出し、私に薄黄色の“ポフィン”を手渡してくれる。
857 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:17:21.22 ID:hRdoaDre0

しずく「いただいてしまって、いいんですか……?」

歩夢「もちろん♪」
 「シャーーボッ!!!」「バーースッ!!」

歩夢「ふふ♪ サスケとエースバーンにもあげるから、慌てないで♪ はい♪」
 「シャボッ」「バーース♪」


サスケさんとエースバーンは歩夢さんからそれぞれ、緑色と黄色い“ポフィン”を貰うと、おいしそうに食べ始める。


 「グラァ…」

歩夢「トドグラーもおいで♪」
 「グラ…♪」


トドグラーは歩夢さんに呼ばれると、彼女に身を摺り寄せる。

歩夢さんはトドグラーを優しく撫でながら、口元に赤い“ポフィン”を持っていき、食べさせ始める。


歩夢「ふふ♪ 進化しても、トドグラーは甘えん坊だね♪」
 「グラァ…♪」


歩夢さんはトドグラーに“ポフィン”を与えながら、


歩夢「ジメレオンくんもおいで♪」

 「ジメ…」


桃色の“ポフィン”を取り出して、私のジメレオンのことも呼ぶ。

ジメレオンは少し困惑気味だったけど、


歩夢「手渡しだと緊張しちゃうかな? ここにおいておくね♪」


歩夢さんがそっと“ポフィン”を置くと、


 「ジメ…」


そろそろと近付いて、“ポフィン”を食べ始めた。


しずく「……」

歩夢「私も食べようかな♪」


そう言いながら、歩夢さんも桃色の“ポフィン”を取り出して、口に運ぶ。


歩夢「……えへへ♪ おいしく出来てる♪ しずくちゃんも遠慮せずに食べてね。たくさんあるから!」

しずく「は、はい……」


私も遠慮気味に貰った“ポフィン”を口の運ぶ。一口食べると──甘酸っぱい味が口いっぱいに広がる。

甘さの中にある酸っぱさが、疲労した身体に染み渡っていくようだ。


しずく「おいしい……」

歩夢「よかった♪ しずくちゃん、少し疲れてたそうだったから、“すっぱあまポフィン”を選んだんだけど……他の味もあるから、食べたい味があったら言ってね♪」

しずく「ありがとうございます、歩夢さん」

歩夢「ふふ♪ どういたしまして♪」


歩夢さんが優しく笑う。
858 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:18:15.56 ID:hRdoaDre0

 「グラー…」

歩夢「トドグラー、おかわり欲しいの? 今日は頑張ったもんね。はい♪」
 「グラァ…♪」

しずく「歩夢さんは……すごいですね」

歩夢「え?」

しずく「こんなときでも……ポケモンたちを大切にしていて……。……私は、いつも自分のことで精いっぱいで……ポケモンたちには助けてもらってばかりで……」

歩夢「しずくちゃん……?」


口に出してから、またやってしまったと思った。


しずく「す、すみません……! なんでもないんです……」

歩夢「……」


……でも、こんなことを言って誤魔化しても、歩夢さんがなんでもないなんて思ってくれるはずもなく。


歩夢「トドグラー、ちょっとごめんね」
 「グラァ…」


“ポフィン”を食べているトドグラーの傍から離れて、歩夢さんは私の隣に腰を下ろす。


歩夢「やっぱり……何か、悩んでるんだね」


すぐ隣で私の顔を心配そうに覗き込んでくる歩夢さん。


しずく「……それは…………」


でも、私はなんだか気まずくて、目を逸らしてしまう。


歩夢「……もしかして──……最近マネネをあんまりボールから出してないことと、何か関係あるのかな……?」

しずく「……え?」


私はその言葉に驚いて、せっかく目を逸らしたのに、思わず歩夢さんの方をまじまじと見つめてしまう。


歩夢「えっと……あんまり、聞かれたくなかったかな……?」

しずく「あ、いえ……その……。……歩夢さんには……そう、見えましたか……」

歩夢「……うん。しずくちゃん、いつもマネネと一緒だったのに……セキレイに戻ってきてから、あんまりマネネをボールから出してなかったから、何かあったのかなって……」

しずく「…………歩夢さんには、敵いませんね……」

歩夢「マネネと何かあったの……?」

しずく「何か……というわけではないんですが……」


私はマネネのボールを手に取って、見つめる。

すると、ボールがカタカタと震えるのがわかった。


しずく「前に……ロトムの話をしましたよね」

歩夢「うん。鞠莉さんのロトムのお話だよね」

しずく「……ロトムはイタズラ好きなポケモンで、すごく子供っぽいと言いますか……。その気性が故に、精神的に成長していく鞠莉さんと少しずつ噛み合わなくなっていって……ケンカをしてしまったそうです」

歩夢「でも、しずくちゃんが昔の気持ちを思い出させてあげて……また仲直り出来たんだよね?」

しずく「……はい」


ただ、私はそのとき……いいや、正確にはその後、だけど……思ってしまった。
859 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:19:07.22 ID:hRdoaDre0

しずく「……でも、それは鞠莉さんが子供のときの気持ちを思い出してくれたから、うまく行っただけであって……ポケモン側が変わってしまったら、難しかったんじゃないかって……」

歩夢「……? どういうこと?」

しずく「……マネネってすごく子供っぽいポケモンなんです。主人の“まねっこ”をしたがる……そんなポケモン」

歩夢「うん」

しずく「でも……進化してバリヤードになったら、そういう子供っぽさはなくなるそうなんです……」

歩夢「……。……もしかして、マネネに進化して欲しくないから、あんまりボールから出してなかったの……?」

しずく「……意識してそうしていたつもりはなかったんです。……だけど、今、歩夢さんから言われて……ああ、私、そう思ってたのかもしれないって……」


いつも、私の近くで無邪気に子供っぽく、“まねっこ”をしていたマネネが、違う姿になってしまうことが、うまく想像出来なかった。

想像出来なくて……もし、変わってしまったマネネは、どうなってしまうのか、私を見てどう思うのか……なんだか、そんなことを無意識に考えてしまっていた自分に気付いてしまった。


しずく「本当はこんなこと考えちゃいけないことはわかってるんです……。大切な手持ちが成長するのは、トレーナーとして喜ぶべきことですから……」


ただ、この短い間にあまりにいろんなことがあって……。私の中に少しずつ迷いが生まれ始めて……。


しずく「姿が変わったら……私はどう映るのかなって……。……私は……今の私に……自信が、ないんです……」


だって私は──いつ自分がおかしくなっても、不思議じゃないから。

今でも、私の心のどこかで──ウルトラビーストの毒が私を蝕んでいる気がするのだ。

もし、私が私じゃなくなったら……私のポケモンたちは私をどう思うんだろう。

一番付き合いの長いマネネは、もし私がおかしくなってしまっても……きっと私の傍にいてくれる。そう思えたけど……もし、マネネが進化して、今のマネネじゃなくなったら……。


しずく「私……ダメですね……」

歩夢「……しずくちゃん」

しずく「……進化して欲しくなかったら……かすみさんみたいに、進化キャンセルをすればいいんですよね……でも」


だけど、かすみさんと私では少し事情が違う。

かすみさんは可愛いポケモンに拘りがあって……その上で強い。無理に進化させなくても、ポケモンたちを信じられるし、その強さを引き出せる自信があるのだ。

ポケモンたちも、かすみさんが望むものを理解して、かすみさんを信頼している。

だから、彼女と彼女のポケモンたちにとっては無理に新しい姿を手に入れる必要はないのだろう。

だけど、私は……私が進化して欲しくないのは、私が不安なだけなのだ。


しずく「……私の事情で、ポケモンたちの成長を止めてしまうのは……私のエゴなんじゃないかって……」

歩夢「……そっか」

しずく「……ごめんなさい。……変ですよね、こんなこと悩んでるなんて……」

歩夢「うぅん。そんなことないよ。ずっとお友達だったポケモンの姿が変わっちゃったら、びっくりしちゃうの、わかる気がするよ」


そう言いながら、歩夢さんは肩の上で鎌首をもたげているサスケさんの頭を撫でる。


 「シャボ」
歩夢「私もね、サスケがアーボックに進化したらどうなっちゃうのか、想像出来ないもん」

 「シャボ」

しずく「そういえば……サスケさんのレベルだと、もうアーボックに進化していてもおかしくないですよね」


歩夢さんもかすみさん同様、サスケさんには進化キャンセルをしているんだと思っていたけど、
860 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:19:54.59 ID:hRdoaDre0

歩夢「うん。ただ、サスケ……進化しないんだよね」

しずく「え? 歩夢さんがキャンセルしているんじゃないんですか……?」

歩夢「うん。だから、きっとサスケ自身がずっと私の肩の上にいたいって思ってるから進化しないのかなって……。アーボックになったら、さすがに肩には乗せられないだろうし……」
 「シャーボ」


歩夢さんがサスケさんの頭を撫でると、サスケさんもそれに応えるように、歩夢さんに身を摺り寄せる。


歩夢「でも、私もサスケが進化しちゃったら……びっくりして戸惑っちゃうかもしれないなって……。だから、しずくちゃんがそう思う気持ち、ちょっとわかるんだ」

しずく「歩夢さん……」

歩夢「だから、全然変なことじゃないよ。そんなに自分がおかしいだなんて、自分を追い詰めなくてもいいんだよ」


そう言いながら、歩夢さんはまた私の頭を優しく撫でてくれる。

なんだか、歩夢さんが優しすぎて──ポロリと……涙の雫が零れてしまった。


しずく「……ぐすっ……す、すみません……」

歩夢「大丈夫だよ、しずくちゃん」


かすみさんの前では、ずっと気丈に振舞っていたからだろうか。

何故だか、年上のお姉さんである歩夢さんの前では、普段言えない気持ちも素直に言えてしまう気がした。

──もちろん……それでも、ウルトラビーストのことは歩夢さんには言えないけど……。


歩夢「ねぇ、しずくちゃん」

しずく「……なんでしょうか」

歩夢「しずくちゃんがマネネとどうやって出会ったのか……聞いてもいい? そういえば私、聞いたことなかったなって……」

しずく「マネネとの出会い……ですか」


そういえば、あまり人に話したことはなかったかもしれない。

いい機会だし、歩夢さんに聞いてもらうのも悪くないのかもしれない。


しずく「……私がマネネと出会ったのは、両親に連れられて、ガラル地方に旅行に行ったときのことでした……」



──────
────
──



初めて訪れるガラルの地。

目に映るもの全て、オトノキ地方とは全然違って──はしゃいでいた私は、気付いたら親から離れて迷子になってしまっていました。


しずく「おとうさん……おかあさん……どこですか……っ……」


ブラッシータウンでべそをかきながら、両親を探す私。

異国の地で不安になりながら、とぼとぼと歩いていると、


 「マネ…マネネ…」

しずく「……?」


足元で、私みたいにベソをかいているポケモンがいた。


しずく「……あなたもまいごなんですか……?」
861 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:20:23.27 ID:hRdoaDre0

私が小首を傾げながら訊ねると、


 「マネ?」


そのポケモンは私を見上げて、小首を傾げる。


しずく「……?」


そのポケモンが何を考えているのかよくわからなくて、私が不思議そうに見つめると、


 「…?」


そのポケモンも私を不思議そうに見つめ返してくる。


しずく「もしかして……私のまねしてるんですか……?」
 「マネ、マネネマネ?」

しずく「ま、まねしないでください……」
 「マ、マネマネネ」

しずく「だから……まねしないで……!」
 「マネ、マネネ!!!」


ただでさえ不安で心細いのに、からかわれているようで嫌だった私は、そのポケモンを無視して、歩き出す。


しずく「おとうさん……おかあさん……どこ……」

 「マネー…マネネー…」

しずく「だから、付いてこないでください……!」
 「マネ、マネネマネッ!!」

しずく「うぅ……」
 「マネェ…」


異国の地でただでさえ不安で不安でしょうがないのに、変なポケモンにまで付きまとわれて、もう限界だった。


しずく「ぅ、…ぅぇぇん……っ……おとうさん……おかあさん……どこぉ……っ……ひっく……っ……」
 「マ、マネ…!?」


その場に蹲って、しゃくりをあげながら泣き出してしまう私に、さすがに面食らったのか、マネネが私の周りでおろおろし始めた。


しずく「……ひっく……っ……かえりたい、ですぅ……っ……」
 「マ、マネ…」


泣きじゃくる私、不安だし、寂しいし、お腹も空いてきた。もう帰りたい。


 「マ、マネ…!!」


そんな、私の目の前で、マネネがぴょんぴょんと跳ね始める。


しずく「……こ、こんどは……っ……なん、ですか……っ……」


涙を拭いながら、マネネに文句を言うと、


 「マネ」


マネネは私に向かって──青色をした“きのみ”を差し出していた。


しずく「これ……くれるんですか……?」
 「マネ」
862 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:20:55.16 ID:hRdoaDre0

当時はこれがなんの“きのみ”かはわからなかったが、今考えてみると“カゴのみ”でした。

お腹も空いていたし……せっかくくれたから、食べてみることにする。

思い切って、齧ってみると、


しずく「……か、硬い……」


とてつもなく硬かった。

でも、頑張って、ガリっと噛み砕いて口に含むと、


しずく「…………ちょっと、しぶい……」


よく家で飲む、お茶のような渋みがあった。

くれたのはありがたいけど……このまま食べるのには、向いていないかもしれない。


しずく「ちょっと、しぶくて……これいじょう、たべられないです……」


そう言いながら、マネネに“きのみ”を返すと、


 「マネ」


マネネはまた私の真似をして、“きのみ”に齧りつく。

ガリっと硬い“きのみ”を口に含むと、


 「マ、マネェェェ…」


“きのみ”の渋い味に、顔を顰めた。


しずく「……くすくす♪ わたし、そんなかおしてませんよ♪」
 「マ、マネェ…」


さっきまでひたすら“まねっこ”していたのに、自分で持ってきた“きのみ”の味に険しい顔をするマネネが面白くて、なんだか笑ってしまった。

私がくすくすと笑うと、


 「マネマネ♪」


私を真似して、マネネもくすくすと笑う。


しずく「もう……また、まねしてる……」


よほど、人の“まねっこ”をするのが好きなポケモンらしい。

少し呆れてしまうけど──お陰で、少しだけ元気が出てきた気がする。


しずく「……わたし、しずくっていいます。あなたは?」
 「マネネッ!!」

しずく「マネネ……でいいのかな? いっしょにおとうさんとおかあさん……さがしてくれますか?」
 「マネ♪」



──
────
──────

863 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:21:28.01 ID:hRdoaDre0

その後、マネネと一緒に両親を探して……ブラッシータウンの駅で両親と再会することが出来ました。


しずく「──これが、私とマネネの出会いでした」

歩夢「素敵な出会いだったんだね」

しずく「はい……大切な思い出です。私にとっての……初めての友達……」


だから……だからこそ、マネネとの距離感が変わってしまうことが怖かった。


しずく「……マネネ、出てきて」


私は握ったボールから、マネネを外に出す。


 「──マネ♪」

歩夢「しずくちゃん……いいの?」

しずく「はい……なんだか、マネネとお話ししたくなっちゃって……」
 「マネ♪」


進化してしまうのは、変わってしまうのは、怖いけど……でも、マネネと話したい気持ちもある。


しずく「マネネは……“まねっこ”が大好きなポケモンですが……それが“まねっこ”ではなく、“ものまね”になったとき、バリヤードに進化するそうです」
 「マネ?」

しずく「果たして“まねっこ”と“ものまね”の何が違うのか……よくわかりませんが……」


技としては、“まねっこ”は直前に見たのと同じ技を繰り返す。“ものまね”は直前に見た技を覚えて使えるようになる……という違いだが、何が起こると“まねっこ”が“ものまね”になるのかはよくわからない。

結局人の真似をしているということには何も変わりがないわけだし……。


しずく「でも……私がこんな悪あがきをしていても……マネネは成長して、いつかは進化しちゃうんでしょうけどね……」

歩夢「……私は、大丈夫だと思うな」

しずく「大丈夫……ですか……?」

歩夢「きっと、マネネは進化しても、しずくちゃんのこと、大切にしてくれると思う」

しずく「…………どうして、そう言い切れるんですか」


これだけ話したのに、そんな風に言う歩夢さんの言葉が、少し無責任に聞こえて、むっとした声になる。


しずく「ポケモンは進化して、新しい姿を得たら、気性が変わるのは事実なんです……保証なんてどこにも……」

歩夢「あるよ」


でも、歩夢さんは頑なだった。


歩夢「だって、それはしずくちゃんが今話してくれたよ」

しずく「……え? 私、そんな話……」

歩夢「ガラルで迷子になったとき、見ず知らずのマネネと出会ったしずくちゃんはどうしてマネネと仲良くなれたの?」

しずく「え……?」

歩夢「マネネの優しさをしずくちゃんが受け取ったからだよ」

しずく「…………」

歩夢「マネネから貰った“きのみ”を食べたとき、しずくちゃんはどう思った?」

しずく「どう……」
864 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:22:25.46 ID:hRdoaDre0

あのとき、マネネがくれた──あの渋い“きのみ”。

おいしくなかった、あの“きのみ”。

だけど……。


しずく「……心が……あったかく、なりました……」


泣きじゃくる私に、小さなマネネが考えた、精いっぱいの優しさで、胸が温かかった。


歩夢「姿が変わったら、気性が変わっちゃうポケモンがいるのは、しずくちゃんの言うとおりだと思う」

しずく「…………」

歩夢「子供っぽくて、甘えん坊なマネネじゃなくなっちゃうかもしれない。……だけど、しずくちゃんと出会ったときの優しい気持ちは──きっとそんなに簡単に変わらないよ」

しずく「……歩夢さん」

歩夢「変わっていくことで、気持ちがわからなくなっちゃうこともあるかもしれない……。だけど、そのときはまたいっぱいお話しして、仲直りすればいい」

しずく「……はい」

歩夢「だから、変わることを怖がらなくていいんだよ」


そう言いながら、歩夢さんはまた私の頭を優しく撫でてくれた。


しずく「……はい……っ……」


本当はわかっていたんだ。

だって今、歩夢さんが言っていることは、私がロトムと鞠莉さんに伝えたかったことだから。伝えたことだから。

悲しいこと、怖いことがたくさんあって、いつの間にか私も見失っていたんだ。

歩夢さんに話してみて、やっと心のつかえが取れた気がして──安心と一緒に、また涙が零れる。


しずく「す、すみません……っ……私、泣いてばかりで……っ……」

歩夢「うん、大丈夫だよ。しずくちゃん」


ポロポロと涙を零す私。そんな私を優しく撫でる歩夢さん。

そんな私たちを見て、


 「マネ…」


マネネは私の肩までよじ登り。


 「マネ…」


歩夢さんのように、私の頭を優しく撫でてくれる。

……そこで私は、やっと気付いた──……そっか、そういうことだったんだ。

“まねっこ”と“ものまね”の違い。

──“まねっこ”はただ、目の前の人の仕草を真似るだけだけど……。

──“ものまね”は、その行動の意味を、気持ちを、自分で理解して、することなんだ。

今のマネネのように。泣いている私を、慰めたいって、優しい気持ちで──歩夢さんの“ものまね”をしているように。


しずく「……いつの間にか……成長、してたんだね……っ……マネネ……っ……うぅん……っ……」
 「──バリ」

しずく「バリヤード……っ……」
 「バリ♪」


“まねっこ”は“ものまね”に。マネネは──バリヤードに。
865 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:22:59.16 ID:hRdoaDre0

しずく「今まで、構ってあげられてなくて……ごめんね……っ……」
 「バリバリ♪」


私はバリヤードを抱きしめる。

こんなに優しい、私の友達。私の最初の友達。

姿が変わったくらいで、なくなってしまうわけなかったんだ。


しずく「どんなに姿が変わっても……ずっと、一緒だよ……」
 「バリバリッ♪」


私は姿が変わっても、こんなに愛おしいんだと、再確認出来て──やっと心の底から、安堵したのだった。





    💧    💧    💧





歩夢「落ち着いた?」

しずく「……はい。すみません、いろいろご迷惑を……」

歩夢「もう……だから、そういうこと言っちゃダメだよ!」

しずく「す、すみませ……あ、えっと……。…………すみません」

歩夢「……ふふ♪ しずくちゃんらしいけど♪」

 「バリバリ♪」

しずく「むぅ……バリヤードまで……」


少し膨れてしまう。


歩夢「それにしても……私が知ってるバリヤードと少し違うかも……」

しずく「はい。この子はガラルで出会ったマネネが進化したバリヤードなので……」


図鑑を開いて歩夢さんに見せる。

 『バリヤード(ガラルのすがた) ダンスポケモン 高さ:1.4m 重さ:56.8kg
  タップダンスが 得意。 足の 裏から 出す冷気で つくった
  氷の 床を 蹴り上げ バリヤーの ごとく 身を 守る。
  凍らせた 床の 上で 1日 タップダンスに 励んでいる。』


歩夢「ガラルのバリヤードは、こおりタイプもあるんだね」

しずく「はい♪」
 「バリバリ♪」


歩夢さんとバリヤードの新しい姿について話しているうちに──激しい雨の音はすっかり消えており、


歩夢「……雨……あがったね……!」

しずく「……はい!」


気付けば雲の隙間から、夕日の茜が差し込んできて、私たちを照らしていた。

それとほぼ同時に──


侑「おーーい!! 歩夢ーーー!! しずくちゃーーん!!」
かすみ「やっと見つけましたよー!! しず子ーーー!! 歩夢せんぱーい!!!」


川の向こう岸から、かすみさんと侑先輩が、私たちを呼んでいた。
866 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:23:33.83 ID:hRdoaDre0

歩夢「侑ちゃーん! かすみちゃーん! 今そっちに行くねー! トドグラー、もう一度向こう岸まで泳げる?」


雨も落ち着いて、少しずつ大人しくなってきた川を渡ろうとする歩夢さん。


しずく「歩夢さん、もう泳いで渡らなくても大丈夫ですよ」

歩夢「え?」

しずく「ね、バリヤード♪」
 「バリバリ♪」


バリヤードがタップダンスを踏みながら、川へと歩いていくと──彼の足元が凍り付いて、氷の道が出来上がる。


歩夢「わぁ……!」

しずく「行きましょう、歩夢さん♪ 二人が待ってます♪」

歩夢「うん♪」


私はバリヤードと共に──雨の晴れた10番道路を、再び歩き始めたのでした。



867 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:24:05.55 ID:hRdoaDre0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【10番道路】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      ●| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.33 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリヤード♂ Lv.25 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.32 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.33 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.32 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:172匹 捕まえた数:11匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.43 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.41 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.38 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドグラー♀ Lv.33 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラエッテ♀ Lv.28 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:170匹 捕まえた数:17匹

 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.48 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.48 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.45 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.39 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      タマゴ  なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
      ルガルガン♂ Lv.83 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:167匹 捕まえた数:5匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.43 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.40 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.39 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.37 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.38 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:164匹 捕まえた数:8匹



 しずくと 歩夢と 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



868 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2022/12/10(土) 18:54:26.43 ID:3U0IO5Sko
『雑談しながらポケモンSVランクマ考察する2』
(14:51〜開始)

https://www.twitch.tv/kato_junichi0817
869 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 09:57:24.11 ID:6zYh2+nI0
 ■Intermission🎹



──4人の女の子が、砂漠のような世界を歩いているのを足元から見上げていた。


 「……あつ、すぎ……る……」

 「我慢しなさい……暑いのはみんな同じよ……」

 「こんなときのために、発明したものがある」

 「発明?」

 「自立式自動日傘ロボット『パラソル君』」

 「おぉ〜傘が開いた」

 「いや……大きすぎでしょ……どこにしまってたのよ……」

 「布部分は真空圧縮してる。携帯性抜群」

 「でも、快適だよ〜……生き返る〜……」

 「はぁ……じゃあ、進みましょうか」


そう言って、リーダーらしき女の子の一声で一行は歩き出すけど──


 「……いや、遅すぎるんだけど……」

 「風の抵抗をモロに受けるから、このスピードが限界」

 「むしろ、これくらいゆっくりな方が楽でい〜よ〜♪」

 「今すぐ閉じて進むわよ」

 「えぇ〜!? なんで〜!?」

 「ま、日が暮れると砂漠はめちゃくちゃ冷えるからね……それはそれでしんどいし」

 「ちぇ〜……わかったよぉ〜……」


のんびり屋さんっぽい女の子が項垂れると同時に── 一陣の風が吹く。


 「……!? い、今のって〜……!?」

 「……お出ましみたいね」

 「──、下がって……」

 「う、うん……」


女の子に抱き上げられながら、下がっていく。

緊迫する空気の中──


 「──フェロッ」


真っ白な体躯のポケモンが、猛スピードで突っ込んできた──



──
────
──────
870 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 09:58:04.96 ID:6zYh2+nI0

侑「…………」


身を起こす。


侑「…………また…………変な夢……」


もうこの夢を見るのは何度目だろうか。

今回はいつもよりも登場人物が多かったけど……。……しかも、見覚えがあるような、ないような……。

だけど、やっぱり絶妙に思い出せない……。

暗がりの中で、ぼんやりと周囲を見回すと、


歩夢「…………すぅ…………すぅ…………」
 「…zzz」


歩夢がシュラフの中で、サスケと一緒に寝息を立てていた。


リナ『侑さん? どうしたの?』 || ╹ᇫ╹ ||


私が起きたことに気付いたのか、リナちゃんがふわりと私の目の前に現れる。


侑「ちょっと目が覚めちゃっただけだよ」

リナ『雨の音のせいかな?』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんにそう言われて──確かに私たちのテントに雨粒が当たっている音がしていることに気付く。


侑「せっかく止んだのに……また降ってきちゃったんだね」

リナ『10番道路は天候が変わりやすいから仕方ない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


リナちゃんと話していると、


 「ブイ…?」


私のシュラフで一緒に寝ていたイーブイが、寝ぼけまなこで私のことを見上げていた。
871 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 10:00:01.03 ID:6zYh2+nI0

侑「あ、ごめんね。起こしちゃったね……まだ寝てていいよ」


イーブイを撫でながら言うと、


 「ブイ…♪」


気持ちよさそうな声をあげたあと、また丸くなって、眠り始めた。

イーブイや歩夢たちの睡眠の妨げにならないように、私は声のボリュームを1段階落とす。


侑「かすみちゃんたちのテントは平気かな……?」

リナ『川からは離れてるし、雨自体もそんなに強くないから大丈夫だよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「ならいいんだけど……。…………ふぁぁ……」

リナ『まだ朝まで時間があるから、ちゃんと寝ておいた方がいいよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん……そうする……」


もぞもぞとシュラフに潜り込み、もふもふのイーブイを抱きしめる。


侑「イーブイ……あったかい……」
 「……ブィ…zzz」


もふもふでぽかぽかなイーブイを抱きしめていると、私の意識はまたすぐに眠りへと落ちていくのだった。


………………
…………
……
🎹

872 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 18:58:25.43 ID:6zYh2+nI0

■Chapter044 『急転』 【SIDE Setsuna】





菜々「……やはり、雨ですね」


マンションのエントランスから空を見上げると、灰色の空から雨が降り注いでいた。

不幸中の幸いとも言えるのは、昨日の午後のような、記録的な土砂降りではないことくらいだろうか。

昨日は大雨のせいで、公共交通機関にも乱れが生じるほどだったそうだ。

夕方ごろに一度、晴れこそしたものの……また明け方に掛けて天気が崩れ、雨になっている。

ただ、ここは整備の行き届いたローズシティ。

普通の雨くらいなら、舗装された道路を歩くのも、そこまで苦ではない。

私は真っ赤な傘を差して、仕事へと向かう。





    🎙    🎙    🎙





本日の仕事は、数週間後に控えた、ビジネス発表会のための打ち合わせだそうだ。

会議を行うビジネスタワーで入館手続きを済ませ中に入ると、ローズシティ内の様々な企業の人たちの姿が目に入る。

件のビジネス発表会というのは、このローズシティの中でもかなり大きなビジネスショウの一つで、ローズ中の会社が集うイベントとなる。

真姫さんはローズシティにある、かなりの数の企業に影響を持っているニシキノ家のご令嬢ということもあり、顔を出さないわけにはいかない。

そして、そんな真姫さんのスケジュール管理と業務補佐をするのは、秘書である私の役目だ。


菜々「真姫さんは……もう会議室の方に行ってるのかな」


エントランスホール内には姿が見えないので、私は会議室の方へと足を運ぶ。

それにしても、本日の会議は急に決まったものだと言うのに人が多い。

やはり──噂のスーパーモデルの飛び入り参加が大きいのだろう。

一応、昨日のうちに件の人物については調べておいた。

──アサカ・果林。4年ほど前に突如モデル界に現れ、その抜群のプロポーションと人の目を引くカリスマ性で、そちらの界隈ではかなり話題になっていたそうだ。

私は……家庭の方針でそういう浮ついたものには触れさせてもらえなかったので、あまり知らなかったけど……。

今ではファッション業界や化粧品会社などから、多くの仕事を請け、広告塔としても有名のようだ。

そんな彼女とお近づきになっておきたい企業はいくらでもある。

だから、このような急なスケジュールでも、多くの企業から人が出張ってきているのだろう。

エントランスホールから廊下を抜け、エレベーターホールに差し掛かったとき、


菜々「……あ」


ちょうど、エレベーターに乗り込むお父さんの後ろ姿がちらっと見えた。

──お父さんも、今日の会議にいるんだ……。

お父さんもニシキノグループの関連企業の人間だ。いてもおかしくはないけど……。

父の姿を見ると、少しだけ緊張してしまう。


菜々「……落ち着きなさい、菜々。……私はあくまで秘書として、仕事をこなすだけです」
873 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 18:59:39.87 ID:6zYh2+nI0

小さく呟きながら、自分を落ち着かせる。

いつもどおり、真姫さんの傍で真姫さんを補佐することに専念すればいい。

次のエレベーターが来るのを待ちながら、息を整えていると──エレベーターホールの向こう側から、


 「──……もう……会議室はどっちなのぉ……?」


そんな声が聞こえてきた。


菜々「……?」


エレベーターホールの向こう側って……非常階段だよね?

私はエレベーターホールを抜けて、非常階段の方に足を向ける。

すると──深い青みがかった髪をウルフカットにしている、長身の女性がいた。

まさに昨日調べていた人、


菜々「……アサカ・果林さん……?」

果林「……え?」


──アサカ・果林さんその人だった。


菜々「こんなところで、どうかされたんですか?」

果林「え、えぇっと……。……会議室に行きたいんだけど」

菜々「会議室ですか……?」


もしかして……道に迷っている?

いやでも……会議室はエントランスホールからエレベーターホールで上の階に行くだけだし……。

どうやっても、この非常階段に来る間にエレベーターの前は通るはずなんだけど……。

……まあ、いいか。困っているのなら、助けることに理由はいらないでしょう。


菜々「私も会議室に用があるので、よろしければ一緒に行きましょうか」

果林「ホントに……? 助かるわ……」

菜々「こちらです」


私は果林さんと共に会議室へと赴く──





    🎙    🎙    🎙





──エレベーターで上階へ昇りながら、


果林「貴方……もしかして、真姫さんの秘書かしら?」

菜々「え……?」


果林さんから、そう話を振ってきた。
874 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:01:47.81 ID:6zYh2+nI0

菜々「えっと……はい、確かにそうですが……」

果林「やっぱり」

菜々「よくご存じでしたね……」

果林「真姫さんの秘書は若い女の子だって聞いていたから……。このビルで見かけた人の中でも、貴方は飛びぬけて若い子だったから、もしかしてと思って」

菜々「なるほど……」

果林「確か……ナカガワ・菜々さんよね」

菜々「はい」

果林「まだ16歳って本当なの?」

菜々「は、はい……真姫さんに直接秘書にならないかとお声を掛けていただいて……」

果林「若いのに、有能なのね」

菜々「い、いえ、そんな……///」

果林「それに、可愛い顔してる……」

菜々「はいっ!?///」


果林さんの言葉に、思わず声が裏返る。


果林「その容姿なら、きっと人気者になれるわよ?」

菜々「か、か、からかわないでくださいっ!!///」


思わず、果林さんから目を逸らす。

この人は急に何を言い出すんだ。


果林「ふふっ、ごめんなさい。でも、可愛いって思ったのは本当よ?」

菜々「ぅぅ……///」


顔が熱い。ポケモンバトルを褒められることはよくあるけど、こんな風に容姿を褒められるのには慣れていない。

しかも──今の私は菜々モードだ。眼鏡に三つ編みで、比較的地味な見た目にしているはずなのに……。


果林「ふふ……隠してもダメよ? お姉さんには、わかっちゃうんだから」

菜々「だ、だから……か、からかわないでください……///」

果林「ふふ、ごめんなさい♪」


果林さんが、いたずらっぽく笑うのとほぼ同時に──ピンポーン。という音と共に、エレベーターが目的の階に到着する。

エレベーターのドアが開くと果林さんは、


果林「案内してくれてありがとう、それじゃまた後でね」


そう残して、先に行ってしまった。


菜々「……はぁ……///」


一緒にエレベーターに乗っていただけなのに、なんだか気疲れしてしまった。


菜々「……これから、大事な会議なんだから、しっかりしないと」


私は動揺を飛ばすために頭を振り、果林さんの後を追ってエレベーターを降りるのだった。

──余談ですが、何故か果林さんが会議室に姿を現したのは、会議開始時間ギリギリでした。……ちゃんと会議室まで案内してあげた方がよかったのかもしれません。



875 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:02:50.07 ID:6zYh2+nI0

    🎙    🎙    🎙





──さて……。会議は滞りなく終わり、


菜々「真姫さん、お疲れ様です。こちら、本日の内容を簡単にまとめたものです」

真姫「ありがとう、菜々」


他の参加者たちはまばらに退室を始めているところだ。

真姫さんに情報をまとめた端末を渡しながら、周囲を軽く確認すると──果林さんはもう退室していて少しだけ安心する。

それと……お父さんの姿も、すでに会議室内にはなかった。

真姫さんもお父さんの姿がもうないことを確認したのか、


真姫「菜々、大丈夫だった?」


そう訊ねてくる。


菜々「はは……確かに、父と同じ場所で仕事をしていると思うと、少し緊張はしましたが……会話をしたわけでもないですし……問題ありません」

真姫「なら、いいけど」


……始まる前や終わった後に、少しくらい話しかけられるかなと思ったけど……そんなこともなかったし……。


真姫「私たちも、出ましょうか」

菜々「はい」


私は真姫さんと一緒に、会議室を後にする。

二人でエレベーターを降りながら、真姫さんはふと会議中のことを思い出したらしく、


真姫「そういえば、貴方……アサカさんから随分熱い視線を送られてた気がするけど……知り合いだったの?」


そう訊ねてくる。


菜々「え、ええっと……ここに来る前に、会議室の場所がわからずに困っていたので……場所をお教えした際に少しお話ししまして……」

真姫「あら……少し話しただけで随分気に入られたのね」

菜々「き、気に入られたというか……私が分不相応に若いから、気になっただけですよ……」


本当に気に入られたというよりも、からかわれただけですし……。

場が場だけに、私は一際若い……というか、他の人から見たら子供ですし……。


真姫「案外、トップモデルから見ても、光るモノを感じられたのかもしれないわよ?」

菜々「ま、真姫さんまで……やめてください……///」


恥ずかしいから、からかわないで欲しい。

せつ菜モードでなら、褒められてもうまく対応できるのに、菜々モードのときにこういうことを言われるとワタワタしてしまう。


真姫「それにしても……そういうのはマネージャーの仕事だと思うんだけど……」

菜々「言われてみればそうですね……」


会議中、果林さんの背後には、スーツを着た金髪のお姉さんが居ましたが……恐らくあの方がマネージャーなんだと思います。

会議室にギリギリで入ってきたときは一緒にいたので、会議室のある階で合流出来たのかもしれませんが……。
876 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:03:32.69 ID:6zYh2+nI0

真姫「まあ……滞りなく会議も終わったし、別にいいけど」


確かに向こうの事情は向こうにしかわからない。

果林さんはあまりマネージャーに頼らない方針なのかもしれないし……。

せめて、行き先にたどり着けるようにしてあげて欲しいですが……。

二人で話しながら、エントランスホールへと戻ってくる。


菜々「……そういえば、真姫さん。そろそろ、ジムの挑戦者受付時間ですよね?」

真姫「ええ、わかってる。私はジムに戻るから、菜々は……」

菜々「私は今日の会議の内容をちゃんと纏めて、後で持って行きますね」

真姫「ありがとう。お願いね」

菜々「はい。お任せください」


真姫さんはジムに戻るために、一足先にビジネスタワーを後にする。

私は……どうしようかな。タワー内には一般の人も使える、カフェスペースがあるし……そこで資料を纏めようかな。





    👠    👠    👠





愛「カリンさー、どうすれば一本道で迷うわけ?」

果林「い、いいじゃない……ちゃんとたどり着けたんだから……。それに愛こそ、マネージャー役なのに、私を無視して先に行っちゃうのはどうなのかしら?」

愛「気付いたら、いなくなってただけじゃん……せっつーもカリンを見つけたときはさぞ驚いただろうね。“タワー”にカリンおっ“たわー”! って感じで」

果林「はいはい……じゃあ、私が悪かったってことでいいわよ……」

愛「いや、愛さんに悪いところ一つもないと思うんだけどなー……。それより、この後どうすんの? 逃走経路の確保と、ここらの監視カメラのクラッキングはやっておいたけどさ」

果林「大丈夫よ。もう全部──仕掛けてあるから」


──直後、ドンッと何かが壊れるような大きな音がする。


果林「さて……どうなるかしらね」


私は今後の展開を思い、口角を釣り上げた──



877 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:04:21.49 ID:6zYh2+nI0

    🎙    🎙    🎙





菜々「……これでいいかな」


ある程度今日の会議の内容が纏まって来たところで一息。

目の前がガラス張りになっているカウンター席で、エントランスホールを眺めながら、コーヒーを飲む。

程よい苦みと香りが心地いい。

作業もスムーズに進んだし、この後は少し時間が浮く。

真姫さんへ資料を渡したあと、久しぶりにローズの街を散歩するのも悪くないかもしれない。

どうせ、また明日からはせつ菜として、この街を離れるわけだし……。

ぼんやりと今後のことを思案していた──そのときだった。

──ドンッ!! と急に大きな音が、響く。


菜々「!? ……な、なに……?」


爆発……? 周囲のお客さんも突然の大きな音に、ざわついている。

音がしたのは……エレベーターホールの方……?

何が起きたのか考えている間に──エレベーターホールの方から、逃げ惑う人の波がエントランスの方へと押し寄せて来た。

その姿にさらにざわめく店内。

何かがあったのは間違いなかった。

私はバッグをひったくるように手に取り、店の外に駆けだす。

カフェスペースから外に出る頃には──この騒動の正体が、すでにエントランスホールまで姿を現していた。


 「──バーンギッ!!!!!」


エレベーターホールの方から、怪獣のような巨体が、我が物顔で歩いてくるではないか。


菜々「ば、バンギラス……!?」


姿を現したのは、よろいポケモン、バンギラス。当たり前だが、こんなところにいるはずがない。

ここはローズシティの、それも中央地区にあるビジネスタワーだ。

突然のことに動揺を隠せないが──それ以上に、エントランスホール内の混乱は酷かった。

逃げ惑う人たちから、怒号が飛び交い、押し合い圧し合いで、逃げ惑う。

まさに、パニック状態だった。

パニックの最中、


女性「きゃぁ……!!」


逃げ惑う人たちに押されて、転んだ女性が目に入る。


 「バンギィ…!!!!」


バンギラスは声をあげながら、転んだ彼女の方に視線を向ける。


女性「……い、いや……! だ、誰か……たすけ……!」

菜々「……! いけない……!!」
878 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:05:57.06 ID:6zYh2+nI0

私は咄嗟に走り出す。

迷っている暇なんかなかった。

バッグの中から、ボールベルトごと引っ張り出して、


 「バァンギッ!!!!!」

女性「いやぁっ……!!」


女性に向かって襲い掛かるバンギラスに向かってボールを投げた。

──ボムという音と共に、


 「──ドサイッ!!!」

 「バンギッ…?」


現れた巨体が、バンギラスの拳を受け止める。


菜々「ドサイドン!! “ロックブラスト”!!」
 「ドサイッ!!!」


組み合った手とは逆の掌を、バンギラスに突き付け──至近距離で岩石の砲弾を発射する。


 「バンギッ!!?」


──ドンッ、ドンッ! と音を立てながら、岩の砲弾がバンギラスを吹き飛ばす。


菜々「大丈夫ですか……!?」

女性「は、はい……っ……」

菜々「ここは私がどうにかします……! 貴方は逃げてください!」

女性「あ、ありがとうございます……っ……」


よろよろと立ち上がる彼女を手助けしながら、どうにか送り出すと──


 「バァンギッ!!!!」


鳴き声と共に、私たちの方に向かって大岩が飛んでくる。


菜々「……っ! “ドリルライナー”!!」
 「ドサイッ!!!」


頭のドリルを回転させて、飛んできた岩を破壊する。

が、その隙に、


 「バァンギッ!!!!」


バンギラスが突撃してくる、


菜々「くっ……!」


まだ背後には逃げ遅れた人たちがいる。止めなくちゃ……!


せつ菜「ドサイドン! 受け止めなさい!!」
 「ドサイッ!!!」

 「バンギッ!!!!」
879 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:06:40.00 ID:6zYh2+nI0

二つの岩の巨体がぶつかって、がっぷり四つで組み合う形になる。

私のドサイドンはパワーが自慢。組み合いさえしてしまえば並のポケモン程度にはまず力負けしない──


 「バンギィッ!!!」

 「ド、ドサィ…ッ!!!」
菜々「な……!?」


が、私の予想と反して、ドサイドンが押され始める。

さらに、


 「バァンギッ!!!!」


組み合いながら、バンギラスが首を伸ばして、ドサイドンの肩に噛みついてくる。

この状況で“かみくだく”……!?

いや、それだけじゃない。パキパキと音を立てながら、バンギラスの噛み付いた部分が凍り付いていく。


菜々「まさか“こおりのキバ”……!?」


このバンギラス──強い。しかも、恐ろしく戦い慣れている。


 「ド、ドサイッ…!!!」


これは──これ以上、組み合っちゃいけない……!


菜々「“アームハンマー”!!」
 「ドサイッ!!!」


ドサイドンは片手を振り上げ、それをバンギラスの肩の辺りに勢いよく振り下ろす。

──ガンッ! と大きな音を立てながら殴りつけられたバンギラスは、


 「バンギッ…!!!」


さすがに、噛みつき続けていられずに、体勢を崩す。

そこに向かって、


菜々「“アイアンテール”!!」
 「ドサイッ!!!!」


ドサイドンが身を捻りながら、尻尾にある大きな石鎚を叩きつけた。


 「バァンギッ!!!?」


遠心力を利用した尻尾のハンマーの威力に、バンギラスが数メートル吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる。


 「バン、ギッ…」


崩れる瓦礫と砂煙の中──やっとバンギラスは大人しくなる。

と同時に──バンギラスが何かに吸い込まれて小さくなっていく。


菜々「……!?」


一瞬、何かと思ったが──


菜々「まさか、トレーナーがいる……!?」
880 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:07:15.42 ID:6zYh2+nI0

今のは、バンギラスがボールに戻されただけだ……!!

そう気付いて、


菜々「待ちなさい……!!」


私は駆け出した。

だけど、砂煙と瓦礫に視界を遮られているせいで──犯人の姿を見つけるのは、とてもじゃないが困難だった。


菜々「く……」


先ほどバンギラスが倒れた瓦礫の向こう側に辿り着いた時には──すでに人影のようなものは見当たらず……。


菜々「逃げられましたね……」


私は苦々しい顔で、肩を落とす。

それにしても……どうしてこんなことが……。

これが人為的なものであるなら……ポケモンによるテロ行為と言って差し支えない。

到底許されるものではない……。

私が怒りに肩を震わせながら、振り返ると──


菜々「……え」


そこには──お父さんがいた。

お父さんが、信じられないものを見るような目で──私を見つめていた。


菜々「お、とう……さん……」

菜々父「……菜々、どういうことだ」


──どういうことだ。

その言葉が、この事態に対する説明要求──でないことは、すぐに理解出来た。

父の表情を見て──理解、してしまった。

ポケモンと、共に戦う私に対しての──『どういうことだ』。


 「ド、ドサイ…」
菜々「こ、れは……そ、の……」


何か誤魔化さなきゃ。そう思ったけど、考えれば考えるほど、頭の中は真っ白になっていく。

言い訳なんて、出来るはずがない。

自分の気が──どんどん遠くなっていくのを感じた。





    🎹    🎹    🎹





かすみ「到着しましたー!! ローズシティ!!」
 「ガゥガゥ♪」

侑「うん!」
 「イブィ♪」
881 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:08:08.53 ID:6zYh2+nI0

──雨模様の10番道路の長い道のりを越え……私たちはようやく、ローズシティにたどり着いた。

さて、ローズシティに着いたならまずは……。


侑「ローズジムだよね!」

かすみ「侑先輩、さすがわかってますねぇ〜!」


かすみちゃんと二人で黒と黄色の傘を並べながら意気揚々と、歩き出す。


歩夢「あ、侑ちゃん……ローズを歩くなら、イーブイをボールに入れないと……」

侑「え? どういうこと?」


歩夢の言葉に首を傾げる。


リナ『ローズシティでは、あんまりポケモンの連れ歩きが推奨されてない。基本的にボールに入れてた方がいい』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「え、そうなの?」

しずく「本当に厳しいのは中央区だけなんだけど……基本的にはポケモンはボールに入れておいた方がいいかもね」

リナ『無用なトラブルは避けたいしね。郷に入っては郷に従え』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

かすみ「ポケモンを出しちゃいけないなんて、珍しい街ですね〜?」
 「ガゥ?」

侑「うーん……でも、そういうルールなら従わないわけにもいかないよね……」

かすみ「まあ、それもそうですね……戻って、ゾロア」
 「ガゥ──」


かすみちゃんがゾロアをボールに戻す。

歩夢も同様に、


歩夢「ちょっと窮屈だけど……ボールの中で大人しくしててね」
 「シャボ──」


サスケをボールに戻していた。

私も、イーブイを戻さないと……。


侑「イーブイ、しばらくボールの中に──」


私がボールを近づけると、


 「ブイッ」


イーブイは前足でボール弾き飛ばした。


侑「…………」
 「ブィィ…ッ!!!」

かすみ「なんかめっちゃ怒ってますよ、イーブイ……」

歩夢「侑ちゃんのイーブイ……ボールに入るのが嫌いなんだよね」

侑「そうなんだよね……」


実はイーブイをボールに入れたことは一度しかなくて……自分の手持ちとして登録する際に一瞬ボールに入れたときだけだ。

何度かボールに戻そうとしたことはあるにはあったんだけど……ものすごく嫌がられるし、私の頭の上か、肩の上にいるのが好きみたいだから、ずっとボールには入れてなかったんだよね。
882 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:09:00.01 ID:6zYh2+nI0

侑「どうしよう……」

しずく「ボールに入れられないなら……抱きかかえて歩くのがいいかもしれませんね。……抱きしめていれば、突然飛び出したりしないとわかってもらえるでしょうし……」

リナ『しずくちゃんの言うとおり、たぶん抱っこしてれば大丈夫だと思う。中央区にはあんまり行かない方がいいだろうけど、ジムがあるのは街の外側だし』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「うん……そうするしかないね……」
 「ブイ…?」

侑「歩夢、ちょっと傘持っててもらっていい?」

歩夢「うん」


歩夢に傘を持ってもらい、頭の上のイーブイを両手で掴んで、そのまま胸に抱きかかえる。


侑「これならいい?」
 「ブイ♪」


どうやら、これなら許してもらえたようだ。歩夢から傘を受け取りながら、空いた方の手でイーブイをしっかり胸に抱き寄せる。


侑「それじゃ、ジムに行こっか!」

かすみ「はい! 腕が鳴りますね〜!!」


私たちはローズジムを目指して、ローズシティの地に足を踏み入れます!





    🎹    🎹    🎹





しずく「──ローズシティは外側部は低い建物が多くて、中央区に近付くほど、高いビルが増えていくんですよ」

侑「じゃあ……あっちの方向が中央区なんだね」


私は一際背の高いビルの方に目を向ける。


リナ『一番高いのはセントラルタワーって言うんだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

しずく「一番背の高いセントラルタワーを中心に、同心円状にビルの高さが変わって行くんです。なので、夜のローズシティを上空から見ると、夜景が光の山のように見えるそうですよ」

かすみ「なにそれなにそれ〜! 絶対きれいなやつじゃん!」

リナ『ただ、中央区の中でもセントラルタワーの上空付近は飛行許可を取らないと、“そらをとぶ”も使えないから、一般人が見るのはなかなか大変みたい』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「噂には聞いてたけど……ローズシティって本当に厳重なんだね……」

しずく「この地方の商業、工業の要ですからね……。この街の中央区が止まると、同時にいろんな物流が止まってしまうそうなので……」

リナ『モンスターボールなんかも、このローズシティから出回ってるしね。ボールの出荷が停止すると、どこも困っちゃう』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ポケモンは少ないけど、トレーナーにとっても重要な街なんだね」
 「イブィ?」


オトノキ地方の大きな街の中でも、いろんなポケモンの姿が見られるセキレイシティとは真逆だけど……この街はこの街で、重要な役割を担っているみたいだ。


しずく「中央区とは逆に外周区には、ポケモン用の施設が多くあります。ポケモンセンターやバトル施設……それこそ、ポケモンジムも外周区にありますね」

リナ『多いって言っても、街の規模に対して考えると少ないけどね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

かすみ「まあ、そのお陰でこーんなおっきな街でも、すぐにジムにたどり着けるけどね!」


そう言いながら、私たちはまさにローズジムの前に到着したところだった。


侑「ここがローズジム……! なんだか、今からジム戦するって考えただけで、ときめいてきちゃう!」
 「イブィ♪」
883 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:09:37.71 ID:6zYh2+nI0

ローズジムの真姫さんとはどんなバトルになるんだろう……! 楽しみで、今からときめきが止まらない……! ついでにサインも貰わないと……!


リナ『侑さん、ときめくのはいいけど、もう一個目的があるの忘れないでね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「もちろん! 千歌さんのルガルガンを渡すことだよね!」


このために研究所から、真っすぐローズシティまできたわけだしね!


侑「それじゃ、入ろうか」


私は早速ローズジムの中に入ると、


真姫「──あら、いらっしゃい。チャレンジャーかしら?」


ジムの中には、早速ジムリーダー──真姫さんの姿。


侑「わ……! 本物の真姫さん……! とりあえず、サイン色紙……」

リナ『侑さん、目的……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

歩夢「あはは……」


歩夢が苦笑している。

一方で真姫さんは、


真姫「あら……? そのロトム図鑑……もしかして、貴方が侑?」


何故か私の名前を言い当ててくる。


侑「え!? な、なんで知ってるんですか……!?」

真姫「善子から聞いてるわ。ジムに挑戦するついでに、千歌のルガルガンを持ってきてくれたのよね」

侑「あ、は、はい!」


私は小走りで真姫さんのもとに駆け寄り、


侑「このモンスターボールの中に、千歌さんのルガルガンが入ってます……!」


真姫さんに手渡す。


真姫「ありがとう。確かに受け取ったわ」

侑「は、はい! あ、あの……それと……」

真姫「何かしら?」

侑「もしよかったら……サインください!」

真姫「ふふ、いいわよ」

侑「やったー! ありがとうございます!」


私がバッグから、サイン色紙を取り出そうとすると、


かすみ「ちょーーーっと待ってください!!」


かすみちゃんが大きな声をあげる。


かすみ「侑先輩! サインは後ですよ! かすみんたちはジム戦をしに来たんですから!!」


そう言いながら、かすみちゃんが前に出てくる。
884 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:10:17.77 ID:6zYh2+nI0

真姫「あら……ということは貴方もチャレンジャーかしら?」

かすみ「はい! かすみんは、セキレイシティから来たかすみんです!」

真姫「かすみん……? 変わった名前ね?」

しずく「す、すみません……この子の名前はかすみさんって言います……。……もう、初対面の人に変な自己紹介したら、めっ! って何度も言ってるでしょ!」

真姫「ああ……にこちゃんのにこにー的なアレね……」

かすみ「ちょっとぉ!! あんなのと同じにしないでくださいよ!」

真姫「まあ、それはいいんだけど……侑とかすみ、どっちと先にジム戦すればいいのかしら?」


真姫さんは私とかすみちゃんを交互に見ながら、そう訊ねてくる。


しずく「そういえば、どっちが先にジム戦をするかの話、してなかったね……」

かすみ「……侑せんぱ〜い……? かすみんが先にジム戦しちゃダメですかぁ〜……?」


かすみちゃんが可愛くおねだりしてくる。


侑「ふふ、いいよ♪ 私はかすみちゃんの後で大丈夫だから!」


そう答えて、私は一旦見学スペースの方へと歩いていく。


かすみ「あ〜ん♡ 侑先輩優しいですぅ〜♪ 好き好き〜♡」

しずく「侑先輩……いいんですか?」

侑「うん。むしろ後の方が、かすみちゃんとの試合を見て、対策も立てられるし」

かすみ「任せてください! かすみんがしっかり勝ち方を見せてあげちゃいますから!」


かすみちゃんは私と入れ替わるように歩み出て、チャレンジャー用のスペースに着く。


真姫「話は付いたみたいね。それじゃ、さっさと始めましょうか」

かすみ「よろしくお願いします!」


真姫さんがジム戦用のポケモンのボールを携え、フィールドに立った──そのときだった。


使用人「──お嬢様、お電話が入っております」


ジムの奥から、いかにもな使用人さんが電話を持って現れる。


真姫「電話……? ちょっと待ってもらっていいかしら」

かすみ「あ、はい。わかりました」

真姫「ありがとう」


真姫さんはお礼を言いながら、使用人さんの持ってきた受話器を受け取る。


真姫「誰から?」

使用人「それが……警察の方からです……」

真姫「……警察?」


真姫さんは電話の主を聞いて、眉を顰める。


真姫「もしもし……真姫だけど」
885 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:10:50.00 ID:6zYh2+nI0

かすみ「今、警察って言いませんでした……?」

リナ『ジムリーダーは街の治安維持も仕事だから、警察から連絡が来ることもあるとは思う』 || ╹ᇫ╹ ||

しずく「うん……何か、あったのかな?」

かすみ「なーんか、嫌な予感がしますぅ……」


ひそひそと話しながら、通話の行く末を見守っていると、


真姫「………なんですって?」


真姫さんの眉間にシワが寄るのがわかった。──そのまま目を細めて通話先の話を聴き、


真姫「……わかった。すぐ行くわ」


そう返して、通話を切った。

そして、かすみちゃんに向かって、


真姫「ごめんなさい……ちょっと、急用が出来て、どうしても出なくちゃいけなくなったわ」


申し訳なさそうに、そう伝えて来る。


かすみ「や、やっぱり……」

真姫「本当にごめんなさい……」

かすみ「あ、あのぉ……それじゃ、ジム戦……いつなら出来ますか……?」

真姫「……ちょっと、本当に緊急事態だから、しばらくジムを閉めるかもしれないわ」

かすみ「ええ!? そ、そんなぁ……!」

真姫「本当に急ぐから申し訳ないけど、ジムは他の場所から巡って頂戴」


それだけ残すと、真姫さんは私たちの横を通り過ぎ、駆け足でジムから立ち去ってしまった。


かすみ「ま、またこのパターン……」

リナ『かすみちゃん……ドンマイ』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

しずく「ここまで来ると、なんて声を掛ければいいやら……」

かすみ「……もう、いいです。慣れました……」


がっくりと肩を落とす、かすみちゃん。


しずく「と、とりあえず、ポケモンセンターのカフェスペースにでも行こ! ね?」

かすみ「……うん」


とぼとぼとジムから出ていくかすみちゃんと、そんなかすみちゃんを慰めるしずくちゃん。


歩夢「侑ちゃん、私たちも行こっか」

侑「う、うん」


とりあえず、ジムリーダーがいなくなってしまったし、この場にいても仕方ないので、私たちは一旦ポケモンセンターへと移動することに……。



886 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:11:27.75 ID:6zYh2+nI0

    🎹    🎹    🎹





私たちがポケモンセンターに到着すると、どうして真姫さんが飛び出して行ったのかがわかった。

カフェスペースに備え付けてあるテレビモニターからは──警察車両に囲まれた建物の映像。


しずく「中央区のビル内で人がポケモンに襲われたって……」

かすみ「だ、大事件じゃないですかぁ!?」

歩夢「怪我人も出てるって……大丈夫かな……心配……」


3人の言うとおり、ビジネスタワーのビル内で、ポケモンが大暴れする事件が発生したらしい。

偶然居合わせたポケモントレーナーによって、どうにかそのポケモンを無力化することは出来たらしいけど……怪我人も出ているらしい。

不幸中の幸いというべきなのは、怪我人は転んで軽傷を負った程度のもので、襲われたことが原因で大怪我をした人はいないとのこと。


侑「これじゃ……ジムを飛び出して行ってもおかしくないよね……」
 「ブィ…」

リナ『うん。ジムリーダーは街を守るのも仕事だからね』 || ╹ᇫ╹ ||


それこそ、ジム戦をしている場合じゃない状況だ。


しずく「こうなってくると……当分の間はジム戦は難しそうですね……」

かすみ「うぅ……さすがにこれは仕方ないよねぇ……」

リナ『中央区は安全確認が出来るまで、立ち入りも出来ないみたいだね』 || ╹ᇫ╹ ||


となると……この街で出来ることはかなり限られてくる。

それに、どのタイミングでジム戦受付が再開されるかもわからないし……。


侑「……真姫さんの言ってたとおり、他のジムを先に巡っちゃう方がいいかもしれないね」

しずく「そうですね……ここで待っていても、本当にいつジム戦の受付を再開するかもわからないですし……」

リナ『そうなると……東のクリスタルレイクを越えた先のクロユリシティに行くか、街を北に抜けて11番道路沿いに西のヒナギクシティを目指すかになると思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「クロユリかヒナギクかぁ……」

歩夢「クロユリとヒナギクは、ローズシティを経由するから……どちらにしろ、どっちかの町に行ったら、ローズに戻ってくることになるね」

侑「考えようによっては、むしろ都合がいい気もするけど……」


どちらにしろ、ローズにジム戦をしに戻ってくる必要はあるわけだしね。

ただ、問題はどっちに進むかだ。


侑「私は……クロユリに行きたいかな」

リナ『何か理由があるの?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「私、クロユリのジムリーダーの英玲奈さんに会ってみたいんだ」


──彼女はこのオトノキ地方の中で最強のジムリーダーと呼ばれている。

ジムリーダー序列というジムリーダー内での総当たり試合の勝率でも頭一つ抜けているし、その実力は四天王と同等……もしくはそれ以上なんて噂もあるくらいの人だ。

ストイックで鍛錬に余念がなく、むしポケモンによる畳みかけるようなバトルスタイルから、付いた通り名は『壮烈たるキラーホーネット』。

まさにポケモンバトルのスペシャリストみたいな人だ。

もちろん、全てのジムを回る以上、いつかは会えるとは思うんだけど……クロユリかヒナギクかと言われたら、私はポケモンバトルのスペシャリストである英玲奈さんに会ってみたかった。


かすみ「じゃあ、次はクロユリシティですかね?」
887 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:12:05.06 ID:6zYh2+nI0

行き先が決定しかける中、


しずく「あ、あのぉ〜……」


しずくちゃんが遠慮がちに手を上げる。


歩夢「どうしたの? しずくちゃん?」

しずく「私は……その……。……ヒナギク側に行きたいなって……」


ここで予想外なことに、しずくちゃんから反対方向へ行きたいとの意見が出てきた。


かすみ「なになに? ヒナギクシティに何かあるの?」

しずく「うん……。私、クマシュンってポケモンと会ってみたくって……」

かすみ「クマシュン?」

歩夢「クマシュンって確か……寒い場所にいるシロクマポケモンだよね?」

しずく「はい……! ポケウッドスターのハチクさんの相棒──ツンベアーの進化前で……すっごく可愛いんです! 旅をするなら、実際に一度見てみたいとずっと思っていて……」

リナ『確かにクマシュンはグレイブマウンテンにしかいないから、会うならヒナギク方面に行かないといけないね』 || ╹ᇫ╹ ||


確かに旅をするならジム巡り以外にも、そこにしかいないポケモンに会うのも楽しみの一つだよね。


侑「そういうことなら……ヒナギク方面に行く?」

しずく「えっと……でも、侑先輩はクロユリ方面が良いんですよね……?」

侑「それはそうなんだけど……後から行っても英玲奈さんには会えるし……」

しずく「その理屈で言うなら、私もクロユリに行った後でも大丈夫です……! すみません、後から余計なことを言ってしまって……」

侑「うぅん、ここはしずくちゃんの意見を優先しよう」

しずく「い、いえ、侑先輩の行きたい場所を優先に……」

かすみ「もう! なんで二人して譲り合ってるんですか!」


譲り合い合戦が始まってしまった私たちの間に、かすみちゃんが割って入る。


かすみ「なら侑先輩! 競争しませんか!」

侑「競争……?」

かすみ「はい! かすみんとしず子はヒナギク方面に、侑先輩と歩夢先輩はクロユリ方面に進んで──どっちが先にジム攻略出来るか、競争しましょう!」

侑「なるほど……」


確かに言われてみれば、4人で行動しなくちゃいけないわけじゃないし……行き先が割れちゃうなら、前みたいに、かすみちゃんはしずくちゃんと、私は歩夢と二人で旅をすればいい話だ。


侑「歩夢はそれでいい?」

歩夢「うん♪ 侑ちゃんと一緒なら、私はどっち方向でも♪」

リナ『それじゃ、決まりだね』 || ╹ ◡ ╹ ||

かすみ「かすみんたちは、ヒナギク方面へ!」

侑「私たちは、クロユリ目指して! 負けないよ、かすみちゃん!」

かすみ「かすみんも負けるつもりはないですよ! そうと決まったら、スタートダッシュです!」
888 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:12:37.44 ID:6zYh2+nI0

かすみちゃんはいそいそと荷物を纏めて、


かすみ「しず子、行くよ!」

しずく「え、ええ!? 今すぐ行くの!?」

かすみ「だって、そうじゃないと侑先輩に負けちゃうじゃん! 早くして!」

しずく「わ、わかったから、引っ張らないで〜……! ゆ、侑先輩、歩夢先輩、またローズで合流しましょう……!」

かすみ「レッツゴー!」


半ば強引にしずくちゃんの手を引きながら、かすみちゃんたちは慌ただしく旅立って行った。


侑「それじゃ、私たちも行こうか、歩夢、リナちゃん」
「イブィ♪」

歩夢「うん♪」

リナ『クロユリシティ目指して、リナちゃんボード「レッツゴー♪」』 ||,,> 𝅎 <,,||


私たちもクロユリシティを目指して、ローズシティを後にするのでした。



889 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:13:13.24 ID:6zYh2+nI0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ローズシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       ● __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.50 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.50 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.48 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.42 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      タマゴ  なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:176匹 捕まえた数:5匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.44 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.42 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.39 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドグラー♀ Lv.35 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラエッテ♀ Lv.30 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:179匹 捕まえた数:17匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.45 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.42 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.40 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.38 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.39 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:171匹 捕まえた数:8匹

 主人公 しずく
 手持ち ジメレオン♂ Lv.33 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリヤード♂ Lv.28 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.33 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.33 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.33 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:179匹 捕まえた数:11匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



890 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 01:29:17.05 ID:ropYqdR40

 ■Intermission🍅



真姫「……これは予想以上に酷いわね」


──現場に到着した私は、『KEEP OUT』のテープを潜りながら、眉を顰める。


先ほど会議をしたビジネスタワーは外から見ても、中の惨状がよくわかる状況だった。

あちこちガラスは割れているし、中にはあちこちに瓦礫があって、砂煙が立ち込めている。

ここで戦闘があったというのは本当らしい。

私が、タワー内に立ち入ると、


ジュンサー「真姫さん……! お待ちしておりました!」


ジュンサーが私に気付いて、駆け寄ってくる。


真姫「これはまた……派手にやられたみたいね」

ジュンサー「はい……。ですが、お陰で助かりました……」

真姫「お陰で……? なんの話?」

ジュンサー「もしかして、まだご存じないんですか……? ポケモンを撃退したトレーナー──真姫さんの秘書の方と伺ったんですが……」

真姫「菜々が……?」


確かに菜々なら、並大抵のポケモンには負けることはないと思う。

ただ、そうなってくると、逆に気になることがある。


真姫「……それで、菜々──私の秘書は事件後、どこにいったのかしら……?」


これだけのことがあったのに、何故、菜々本人から連絡がないのかが不可解だ。


ジュンサー「警察の方から軽く事情を伺ったあと、彼女のお父様と一緒に帰られましたよ」

真姫「……え?」

ジュンサー「どうかされましたか……? 顔色が悪いですが……」

真姫「……いえ、大丈夫よ」

ジュンサー「それなら、いいんですが……。詳しい事件の詳細をお話ししますので、こちらに」

真姫「……ええ」


──まさか……菜々が戦っている場面に、菜々の父親もいたのでは……?

そんな疑惑が頭を過ぎる。


真姫「菜々……」



891 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 01:29:52.20 ID:ropYqdR40

    🎙    🎙    🎙





菜々父「……この5つで持っているポケモンのボールは全てか?」

菜々「……はい」


──私は今、父の会社の社長室にいる。

そして、父の座る社長室の机の上には……5つのモンスターボールが並べられていた。

もちろん、私のポケモンたちだ。


菜々父「私の知らないところで、こんなものを……」

菜々「そ、その子たちを……どうするつもり……?」

菜々父「業者に引き渡して、逃がしてもらう」

菜々「!? だ、ダメ……!!」


私は、机の上に並べられたボールに覆いかぶさるようにして、自分の胸に抱き寄せる。


菜々父「……菜々、言うことを聞きなさい」

菜々「この子たちは、私の大切な仲間なの……! そんなこと出来ないよ……!」

菜々父「ポケモンは危険な生き物なんだ。これもお前のためを思って──」

菜々「どうしてお父さんは、そんなにポケモンを嫌うの!?」


大切な仲間たちを渡すまいと、私は5つのモンスターボールを抱きかかえたまま、後退る。


菜々「ポケモンは怖い生き物なんかじゃないよ!! お父さんはポケモンのことを知らないまま怖がってるだけだよ……!!」

菜々父「知らないまま、怖がっているだけか……」


お父さんは椅子から立ち上がり、私から背を向ける。


菜々「それなのに、知ろうともしないで危険だ、近寄るななんて言われても、納得できないよ……!!」

菜々父「……菜々……エレキッドというポケモンを知っているか」

菜々「え?」


まさか父の口からポケモンの名前を聞くことがあるなんて、思ってもいなかったから、面食らってしまう。


菜々「し……知ってるけど……」

菜々父「私は小さな山村に生まれてな。ある日、山の中で弱っているエレキッドを見つけたんだ」

菜々「……」

菜々父「私は放っておけず、そのエレキッドを家に連れ帰り、両親を説得した。元気になるまで、家で世話をさせてくれと」


……正直、私は驚いていた。あの父が、そんな風にポケモンに優しくしていた時期があったなんて、まるで想像が出来なかったから。


菜々父「保護したエレキッドは、みるみる回復していった。特にケチャップが好きなやつでな。あげると喜んで食べていたよ。次第にエレキッドは私たち家族に溶け込んでいき……我が家の一員となった」

菜々「……な、なら、どうして……」


この話のどこにポケモンを嫌う要素があるのだろうか。
892 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 01:30:34.96 ID:ropYqdR40

菜々父「ある日……エレキッドが進化したんだ」

菜々「……エレブーに……?」

菜々父「そうだ。ただ姿が変わっただけだと思っていた私が、いつものようにエレブーにケチャップを持って行ったら──あいつは暴れ出した」

菜々「え……」

菜々父「これは後で知ったことだが……エレブーは赤いものを見ると、興奮して暴れ出す習性があるそうだ。……暴れるエレブーは、どんなに声を掛けても聞く耳を持たず、周囲に無差別に“ほうでん”を繰り返し、家は瞬く間に炎に包まれた」

菜々「……そんな」

菜々父「燃える家から命からがら逃げだす中、私の母親は、私を庇って“ほうでん”を受けた。……あのときの母さんの叫び声は、今も覚えている」

菜々「…………」

菜々父「その後、私も気を失ったらしい。父さんがどうにか、私と母さんを近くの病院まで運んで……次に目が覚めたのは病院のベッドの上だった。母さんは……酷い火傷と感電によって、包帯でぐるぐる巻きのままベッドに寝かされ──数日後に帰らぬ人になったよ」


お父さんは、私の方に振り返る。


菜々父「……何度自分を呪ったか。あのとき、もっと知識があれば。あのとき、エレキッドを助けなければ。あのとき……ポケモンと、関わらなければ、と」


お父さんは深く息を吐きながら、


菜々父「人とポケモンは……根本から違う生き物なんだと……」


そう、言葉にした。


菜々「おとう……さん……」


お父さんがそんな風にポケモンと触れ合っていたなんて、知らなかった。

ただ襲われて、ポケモンを嫌いになってしまっただけだと思っていた。


菜々父「……私は、ポケモンを知らないまま怖がっているかい。菜々」

菜々「それは……」


私は思わず言葉に詰まる。お父さんの苦しみは……ポケモンから受けた痛みは……きっと計り知れないものだったのだろう。

それも助けたポケモンに、家族を奪われるなんて……。


菜々「でも……そういうポケモンばかりじゃない……ポケモンと触れ合って、わかり合っていけば、どうやって接すればいいかもわかるはずだよ……!」

菜々父「今日のバンギラスのように、人を傷つけるポケモンもいる」

菜々「そうだけど……! でも、人を守るポケモンたちだっているよ……!」


私は今日みんなを守って見せたドサイドンのボールを手に持ち、前に突き出す。

この子が多くの人の命を守ったんだ。それはお父さんだって見ていたはず。

でも、お父さんはそんなことを意にも介していないかのように、質問を投げかけてきた。


菜々父「なら、聞こう。菜々。そのポケモンたちと一緒に過ごす間に、菜々は掠り傷一つ負わなかったか?」

菜々「……え?」

菜々父「菜々の大切な仲間たちは──私の大切な娘に掠り傷一つ負わせなかったか?」

菜々「え……と……」
893 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 01:31:19.32 ID:ropYqdR40

私は思わず言葉に詰まる。

──捕まえたばかりのヒトデマンが何を考えているかわからなくて、無理やり言うことを聞かせようとして、顔に“みずでっぽう”を噴きかけられたことがある。

──いたずら好きのゴースに何度驚かされて、転んで擦り傷を作ったか。

──エアームドの抜け落ちた鋭い羽根で、ザックリ手を切ってしまったときは、血がたくさん出て、すごく焦った。

──サイホーンがなかなか懐かなくて、何度も追い回されたし、あの角でお尻を小突かれて痛い思いをした。

──最初の友達のガーディにだって……最初の頃は、何度も手を噛まれた。


菜々父「ポケモンは、人とは違う常識と、人とは違う力を持っている。思い当たる節があるんじゃないか」

菜々「……だから、ポケモンは危ないって言うの?」

菜々父「そうだ」

菜々「だから、ポケモンと関わるなって言うの?」

菜々父「そうだ」

菜々「そんなの、おかしいよ!!」


私は思わず声を張り上げる。


菜々「お父さんの言いたいこともわかるよ……でも、だからって、一生関わらないのが正解だなんて、おかしいよっ!!」

菜々父「……」

菜々「確かに最初はわかんなくって怪我したこともあったけど……それでも、今はちゃんと信頼し合えてる!! 人とポケモンはわかり合えるよ!!」


私はそうやってポケモンと手を取り合って強くなってきた。それは胸を張って言える。


菜々父「その保証がどこにある」

菜々「なんでわかってくれないのっ!?」

菜々父「お前に危ないことをして欲しくないだけだ」

菜々「っ……」


お父さんの言い分はわかる。

私を想って言ってくれていることもわかる。

だけど……だから、もうポケモンと関わるのは諦めろなんて言われても、納得なんて出来ない。


菜々父「どうやってポケモンとわかり合えることを証明する?」


どうすれば父を説得できるか。それが頭の中をぐるぐるする。

勉強してポケモンドクターの資格を取るとか……? ……そんなの一朝一夕でなれるようなものじゃない。

ポケモン研究者として、ポケモンの生態を研究し尽くして……。……いや、それだって、ポケモンと実際に触れ合わないと無理だ。

それに、なると言ってなれるものではない。

ポケモンの専門家たちは、途方もない時間を掛けて、やっとその地位や資格を手に入れるのだ。

私に出来ることなんて……バトルしか──


菜々「……!」


そうだ。私には……ポケモンバトルがある。


菜々「……チャンピオン」

菜々父「……なに?」

菜々「もし……私が、この地方で一番ポケモンを上手に扱える人だったら……証明になるはずだよ」
894 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 01:31:57.71 ID:ropYqdR40

チャンピオン──それは、誰よりもポケモンたちと信頼し合って、誰よりも強くなったトレーナーに贈られる称号。


菜々父「菜々、いい加減に──」

菜々「すぐにでも、私がチャンピオンになって……証明するからっ!!」


私はそれだけ言うと、踵を返して、部屋から飛び出したのだった。





    🎙    🎙    🎙





──お父さんの会社から駆け足で飛び出すと、


真姫「菜々っ!?」


真姫さんとすれ違う。


菜々「真姫さん……」

真姫「菜々、お父さんと話したの……?」

菜々「……真姫さん、これ」


ポケットから、今日の会議内容を纏めたデータの入ったメモリを手渡す。


真姫「今はこんなのはどうでもいいの……!」

菜々「真姫さん」

真姫「……何?」

菜々「少し、お休みをください」

真姫「え……?」

菜々「私──」


三つ編みを解いて、眼鏡を外す。


せつ菜「──チャンピオンになってくるので……!」


決意を伝えて、走り出す。


真姫「ち、ちょっと待ちなさい……! 菜々……!!」


雨の降る、ローズシティを駆け──中央区を抜けて、


せつ菜「エアームド!! ウテナシティへ!!」
 「──ムドーー!!!!」


エアームドの背に飛び乗り──チャンピオンになるため、雨雲を切り裂くように、空へと飛び立ったのだった。


………………
…………
……
🎙

895 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:07:51.89 ID:ropYqdR40

■Chapter045 『水晶洞窟でうらめしや〜?』 【SIDE Yu】





──ローズシティから一旦10番道路に戻り、そこから東に歩くこと数時間ほど。

私たちは、雨でぬかるむ丘を登っているところだった。


侑「歩夢、足滑らせないようにね」

歩夢「うん」


丘といっても、比較的なだらかで、ある程度道も舗装されているため、すごく大変というほどではないんだけど……。

やっぱり、雨のせいで足元の状態は悪いし、傘を差しながら勾配を進むのはなかなかに骨が折れる。


 「ブイ」


こんな雨模様の丘登りだと、イーブイを歩かせるのも忍びなくて、いつものように頭の上に乗せている。

今歩かせたら、絶対泥まみれになっちゃうだろうしね……。


リナ『二人とも、もう少しで頂上だから、頑張って』 || >ᆷ< ||


近くをふよふよ漂っているリナちゃんからの応援を受けながら登っていくと──急に視界が開ける。頂上だ。


侑「……わぁ!」
 「ブイ〜♪」


丘を登りきると──そこは大きな湖が広がっていた。


侑「ここが、クリスタルレイク……!」

歩夢「テレビで何度も見たことあったけど……実際に見るとすっごく大きいね……!」

侑「うん、そうだね……!」


ここクリスタルレイクは、オトノキ地方の絶景スポットとして、とても有名な湖で、地理にあまり詳しくない私でも、何度も見聞きしたことがあるくらいの場所。

ただ、惜しむらくは……。


歩夢「晴れてると、湖に太陽の光が反射して、すごく綺麗って聞いてたけど……」

侑「この雨じゃ、それはちょっと見れそうにないね……」


大分、雨足が弱まってきているものの、陽光を反射する湖面を見ることは出来なさそうだ。


リナ『でも、雨雲レーダーを見る限り、夜になれば天気もよくなってくると思うよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

歩夢「あ、それなら……夜まで待ちたいな」

侑「じゃあ、今日はこの辺りでキャンプにしよっか」

歩夢「うん♪」


私がそう言うと、歩夢は嬉しそうに頷く。

このクリスタルレイク……ただ、陽光が反射して綺麗な大きな湖というだけで、オトノキ屈指の名所だなんて言われているわけではない。

この湖の本当の絶景は、夜にこそ見れる。


歩夢「湖面の夜空……楽しみ♪」
896 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:08:37.13 ID:ropYqdR40

歩夢は本当に楽しみな様子で、目を瞑ってその光景を思い浮かべうっとりしている。

──湖面の夜空。クリスタルレイクは非常に特殊な生態系をしていて、湖中に生息しているポケモンはたった1種類しかいない。

その1種類はケイコウオというポケモンだ。


歩夢「あ、見て侑ちゃん! ケイコウオが跳ねてるよ!」

侑「ホントだ!」


まさに今も目の前の湖でケイコウオが跳ね、その姿を見せてくれる。

ケイコウオというポケモンは、日中に太陽の光を溜め、夜になるとそれを鮮やかに光らせることで知られるポケモン。

そんなケイコウオしか生息していない、このクリスタルレイクでは、夜になると湖の中でたくさんのケイコウオたちが一斉に光り輝き、湖面をまるで星空のように輝かせる。

その光景を通称『湖面の夜空』と呼んでいるというわけだ。そんなことを頭の中でおさらいしながら……ふと思う。


侑「そういえば……ケイコウオって海にいるポケモンだよね……?」


海水と淡水だと、生息するポケモンが変わってくると思うんだけど……。

ただ、私のそんな疑問に、歩夢が答えてくれる。


歩夢「クリスタルレイクは塩湖だから、海と似たような環境なんだよ」

侑「え? こんな丘の上なのに……?」

リナ『クリスタルレイクは大昔、地殻変動で海がそのまま持ち上がって出来たって言われてる。だから、ここの地層は多くの海水由来のミネラルを含んでいて、湖の塩分濃度もほぼ海水と同じらしいよ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「そうなんだ……ここが昔、海だったって言われても、ピンと来ないね……」

歩夢「何百年、何千年、何万年って時間を掛けて、この不思議な湖が出来たって思うと……ちょっとドキドキしちゃうね」

侑「うん……」


それも人の手を借りず、自然の力だけで形作られたというのは本当に、大自然の神秘と言うしかない。


リナ『夜には晴れるし、きっと明日の朝には朝日に照らされる、クリスタルレイクも見られると思う』 ||,,> ◡ <,,||

侑「なんか、今から楽しみになってきちゃった……!」
 「イブィ♪」

リナ『そのためにも、早く野営の準備をしちゃおう〜!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「うん、そうだね!」

歩夢「おー♪」


私たちは夜に備えて、野営の準備を始めるのだった。



897 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:09:24.82 ID:ropYqdR40

    🎹    🎹    🎹





──テントを張り、野営の準備が出来る頃には、


侑「雨、止んだね」

歩夢「うん♪」


雨はすっかり止んでいた。

時刻的には、もうそろそろ夕方くらいかな。

西の空の雲の切れ間から──夕日が差し込んできて、湖面を赤く染めている。

そんな幻想的な風景を横目に、歩夢が食事を作ってくれている真っ最中だ。


歩夢「よし……! 後は、しばらく煮込めばシチューの完成だよ♪」

侑「歩夢のシチュー、おいしいから好きなんだよね♪ もう待ちきれない〜♪ ちょっと、味見しちゃダメ?」

歩夢「ダメだよ? シチューはちゃんと煮込んであげた方がおいしくなるんだから」

 「シャーボ」
侑「ほら、サスケも待ちきれないって!」

歩夢「もう……侑ちゃんもサスケも食いしん坊なんだから……。でも、完成するまで待っててね? せっかく食べてもらうなら、おいしく出来たものを食べて欲しいもん」

侑「うぅ……わかった……」
 「シャボ…」


空腹でお腹がぐーぐー鳴っているけど、完成するまで我慢我慢……。

私とサスケがシチューの完成を今か今かと待ち構えている中、


 「イブイ♪」


イーブイは夕日を反射して光るクリスタルレイクを、キラキラとした目で眺めていた。


侑「イーブイ、湖もっと近くで見る?」
 「イブィ♪」


訊ねるとイーブイは嬉しそうに鳴きながら、湖に向かって駆けだしていく。

ご飯が出来るのを眺めていたら、余計にお腹が空きそうだし、私もイーブイと一緒に近くに行ってみようかな。


侑「ちょっと行ってくるね」

リナ『私も付いてく』 || > ◡ < ||

歩夢「うん、行ってらっしゃい」


歩夢に見送られながら、私ははしゃぐイーブイを追いかけて、湖畔へ向かう。


 「イブイ、ブイ♪」
侑「ふふっ♪」


嬉しそうにはしゃぐイーブイを見ていると、なんだか私も嬉しくなってくる。

さっきまで湖からは少し離れた場所で、テントの設営をしていたけど……こうして近くに寄ってみると、クリスタルレイクの湖畔は思ったよりも凸凹としていた。
898 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:10:06.41 ID:ropYqdR40

侑「思ったよりも歩きづらい……」

リナ『この辺りは野生のイワークが地中を掘り進んでるから、イワークの通った後の地面が盛り上がって凸凹になることがあるらしいよ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「へー、イワークがいるんだ」

リナ『クリスタルレイクの地下にはイワークが掘って出来た洞窟があるんだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「あ、もしかして……クリスタルケイヴ?」

リナ『正解! リナちゃんボード「ぴんぽーん!」』 ||,,> ◡ <,,||


クリスタルレイクの地下には、大きな洞窟があるというのは有名な話だけど……イワークが掘ったものだったんだ。


リナ『だから、たまに丘の上まで顔を出すイワークを見られるらしいよ。基本は地下を掘り進んでるから、丘の上で会えるのは稀だけど』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

侑「せっかくだから、出て来てくれないかな……!」

リナ『イワークにとっては地中を掘り進むのは食事みたいなものだからね。狙って会うのはなかなか難しいかも』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


イワークは土や岩石を食べるポケモンだから、食べ進んでいる間に、地上に出て来てしまうということらしい。

──そこでふと思う。


侑「イワークが顔を出した場所って、穴になってるのかな?」


あの太い、いわヘビポケモンが顔を出したら、そこはきっと大きな穴っぽこになるよね……?


リナ『うん。その穴がクリスタルケイヴへの入り口になるんだよ。丘の上から入る人は滅多にいないけどね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「確かに、地下からここまで上ってきた穴だと、すごい勾配になってるだろうしね……」


もはや縦穴みたいになってるかもしれない……。


リナ『……あ、侑さん。歩夢さんからメッセージ。シチュー出来たって』 || > ◡ < ||

侑「やった♪ すぐ戻らないとね! イーブイ! 戻るよー!」

 「イブイ」


私が呼び掛けると、水辺で遊んでいたイーブイが私のもとへと駆け出してくる。

私もイーブイを迎えに歩き出す。

──さて、ここは非常に凸凹した地形になっているためか、起伏に隠れて見えづらくなっているものがある。

それは──穴だ。イワークが顔を出したために出来た……大きな縦穴。

角度的に、私にも今の今まで全く気付けなかった位置に、大きな穴が空いていた。そして──それは、今まさにこちらに向かって駆けてくる、イーブイの進路上にあった。


侑「……!? イーブイ、ストップ!?」

 「ブイ?」


イーブイが私の声に気付いて、ブレーキを掛け──ギリギリ、穴の手前で止まってくれた。


侑「せ、セーフ……」


あのままだと絶対に落っこちていたに違いない。早く迎えに行ってあげないと……。

私は穴を迂回するように、駆け出す。

そんな私の姿を見て、自分の行き先に何かがあることに気付いたイーブイは、自分の足元を覗き込むようにして、身を乗り出す。


 「ブ、ブィィ!!?」
899 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:10:46.56 ID:ropYqdR40

そこでやっと、自分の目の前に縦穴があることに気付いたらしい。

ただイーブイは、急に視界に入ってきた奈落に驚いてしまったのか、逃げるように踵を返す。

だけど、それが却ってよくなかった。

雨が降った直後の湿った岩で──イーブイが足を滑らせた。


 「ブイッ!!!?」

侑「!? イーブイ!?」


イーブイはずるりと足を滑らせて──その身が投げ出される。

もちろん──縦穴の真上に。


 「ブ、ブィィィィ!!!!?」


イーブイが重力に従い、縦穴に吸い込まれていく。


侑「イーブイッ!!!」


そこからは、身体が勝手に動いていた。


リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||


私はイーブイの落ちた縦穴に、自ら飛び込んでいた。

──風を切る音と共に、私は猛スピードで穴を真っすぐ落ちていく。


 「ブ、ブイィィィ!!!!」
侑「イーブイッ!!!」


真っすぐ自由落下しながら──私は、イーブイに手を伸ばす。

空中でどうにか掴んで手繰り寄せ──そして、抱きしめる。


 「ブイ、ブイィッ!!!!」
侑「っ……!!」


もちろん、イーブイを抱き寄せても、落下は終わらない。

猛スピードで、縦穴を真っすぐ落ちながら、私はイーブイをぎゅっと抱きしめる。


侑「イーブイ……! 私がいるから……!」
 「ブ、ブィィッ…」


不安げに鳴くイーブイを抱きかかえたまま──私たちは奈落へと落ちていった。





    🎹    🎹    🎹




 「ブイィ…」
侑「……生きてる」


とんでもない高さを真っ逆さまに落ちたのに、何故か私たちは無事だった。

薄暗い空間の中で仰向けになっている私の視界のずーっと先には、小さな穴の先に夕焼け空が見える。

私たちが今しがた落ちてきた縦穴だろう。

私はゆっくりと身を起こす。
900 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:11:24.72 ID:ropYqdR40

 「ブイィ…」
侑「よしよし、怖かったね……もう、大丈夫だよ」


ぶるぶると震えるイーブイを優しく撫でながら、声を掛ける。

相当びっくりしたに違いない。

しばらく抱きしめていたら、イーブイは次第に落ち着いてくる。


 「ブイ…」
侑「怪我してない?」

 「…ブイ」


訊ねると、イーブイは首を小さく縦に振る。


侑「よかった……」


もう一度ぎゅっと抱きしめる。

本当にイーブイが怪我しなくてよかった……。


侑「それにしても……これだけの高さから落ちて、よく無事だったね、私たち……」
 「ブイ…」


座ったまま、周囲を確認する。

縦穴を落ちてきただけあって、完全に洞窟内だけど……かなり狭い通路のような場所──恐らくここもイワークの通った道なんだろう──で、周囲には何やらキラキラとした粉のようなものが舞っている。

そして、私のお尻の下には──何やら白くてぶよぶよしたものがあった。


侑「これが、クッションになって助かったみたいだね……。でも、なんだろ、これ……」
 「ブイ…?」


手で押してみると、強い弾力性があって押し返してくる。


侑「うーん……?」


全く見当も付かず、頭を捻っていると──


リナ『──侑さーん……!』


真上からリナちゃんの声が聞こえてきた。


侑「リナちゃん!」

リナ『よかった、侑さん無事だった……』 || > _ <𝅝||

侑「うん、これのお陰で助かったみたい」


私は自分たちの真下にある、白いぶよぶよを指差す。


侑「これ、なんだろ?」

リナ『これは……キノコの一種みたい』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「キノコ……? じゃあ、周りに漂ってる粉みたいなのは……」

リナ『たぶん胞子』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「どうしてこんなところにキノコが……?」

リナ『クリスタルケイヴは、ネマシュの生息地だからだと思う。たぶんここは、ネマシュたちの巣だよ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「なるほどね……お陰で助かったよ……」
 「ブイ…」
901 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:12:28.18 ID:ropYqdR40

私たちはどうやらネマシュたちに救われたようだ。


リナ『でも、このままここにいると、眠らされて養分にされる』 ||;◐ ◡ ◐ ||

侑「それは困るね……」


とりあえず、早く移動した方がよさそうだ。

そう思って、腰を上げたちょうどそのとき、


 「──侑ちゃーん!! 大丈夫ー!?」


遥か上の方から、歩夢の声が聞こえてきた。


リナ『あ、そうだ……歩夢さんに侑さんとイーブイが穴に落ちちゃったってメッセージ送ったんだった』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「それで様子を見に来てくれたんだ……。──歩夢ー!! 私たちは無事だよー!!」


上に向かって、叫び返す。


歩夢「──よかったー!! 私たちも、他の入り口から、クリスタルケイヴに入るねー!!」


侑「わかったー!! 図鑑のナビを使って、どうにか合流しようー!!」


歩夢「うーん!!」


とりあえず、歩夢に無事を伝えることは出来たから、今は移動だ。

ぶよぶよのキノコの上を、イーブイを抱えたまま歩き出す。


リナ『とりあえず、奥に行けば開けた場所がある。夜の虹の場所辺りで合流するのがいいと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「夜の虹って……確か、クリスタルケイヴの名所だよね」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「わかった、そこを目指そう」

リナ『了解! ナビするね!』 ||,,> ◡ <,,||


リナちゃんが先導する形で前を飛ぶ。


侑「……それにしても、ネマシュたちの巣って言う割に、姿が見えないね」

リナ『ネマシュやマシェードは夜行性だから、日中は暗い洞窟内で過ごして、日が沈み始めると16番道路の方に出ていくみたい。全くいないわけじゃないと思うけどね』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ってことは、もうそろそろ夜ってことだね……」


私たちが落ちたときに夕方だったから、考えてみれば当たり前だけど……洞窟内だと外からの光がないから、時間の感覚がなくなってくる。


リナ『そろそろ、夜の虹がある場所に出るよ』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんの案内通り、細い通路を抜けて、開けた空間に出る。

そして、その空間の天井には──


侑「わぁ……!」


大きな水晶で出来た天然の水槽があった。

これが夜の虹の一つ──クリスタルケイヴの大水槽だ。

まだ、ケイコウオたちが光り出す時間になっていないのか、水晶の天井の向こうで何かが泳いでいる影が見える程度だけど……。

迫り出すような形で圧倒的な存在感を示している、巨大な水晶の水槽だけでも、十二分に迫力があった。
902 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:13:39.26 ID:ropYqdR40

侑「確かに、これはすごいかも……」
 「ブイィ♪」


さらにこれが七色に光るんだと想像するだけで──なんだか、ときめいてきた。


リナ『ここで歩夢さんと合流しよう。歩夢さんにここの座標を送っておくね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん、お願い」


ここで歩夢を待つわけだけど……もうかなり日も暮れているだろうし、そろそろ夜の虹の時間になっちゃうかな……?

私たちのせいで、湖畔の夜空は見られるか怪しいけど……せめて、夜の虹は歩夢と一緒に見たいな……。

歩夢が来るまで、夜の虹が視界に入らない場所で待っていようかな……などと考えていた、そのとき──トントンと肩を叩かれた。


侑「? リナちゃん、どうかしたの?」


私が振り返ると、


 「メシヤァ〜〜〜〜〜♪」

侑「わぁーーーーっ!!?」
 「ブイッ!!?」


目の前に急にポケモンが現れて、思わず声をあげながら尻餅をつく。


侑「え、な、なに……!?」
 「ブイ…?」

 「メシヤ〜〜〜♪」


そのポケモンは私が驚いている姿を見ると、満足げに笑い、飛び去ってしまう。


侑「い、いつの間に私の背後に……?」


気配とかも何もしなかったし……ホントに急に現れた気がするんだけど……。


リナ『今のは、ドラメシヤだね』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ど、ドラメシヤ……?」


先ほど見たポケモンの名前は、ドラメシヤと言うらしい。

緑色のボディに、特徴的な角と、ニョロッとした尻尾を生やして、空を飛んでいた。

いや、飛んでいた……というか──


 「メシヤ〜〜」「ドラメシ〜」「メシヤ〜〜〜」


気付けば、この空間内がドラメシヤだらけだった。


侑「わ、わぁ!? な、なにこれ!?」
 「ブ、ブイ」

リナ『確かにここはドラメシヤの生息地だけど……これだけ大量発生してるのは珍しい』 || ╹ᇫ╹ ||

リナ『ドラメシヤ うらめしポケモン 高さ:0.5m 重さ:2.0kg
   古代の 海で 暮らしていた。 ゴーストポケモンとして
   よみがえり かつての すみかを さまよっている。 1匹では
   非力だが 仲間の 協力で 鍛えられ 進化して 強くなる。』


そういえば、さっきもここは、大昔に海だったって言ってたっけ……。
903 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:14:13.72 ID:ropYqdR40

リナ『でも、ドラメシヤはあんまり好戦的なポケモンじゃないから、放っておいても大丈夫だと思うよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「なら、いいんだけど……」


さすがにこれだけ大量に現れたらびっくりもするよ……。

とりあえず、危なくはないらしいから、安堵の息を漏らす。

ただ、そのときだった。


 「──ロンチ〜」

侑「……!?」


ドラメシヤと似たようなカラーリングだけど──ドラメシヤよりも何倍も大きなポケモンが、いつの間にか私の目の前にいて、思わず固まってしまった。

そして、そのポケモンは──


 「ロンチ」

 「ブイ!?」


ひょい、と私の腕からイーブイを取り上げ、頭の上に乗せて──


 「ローンチ」

 「ブ、ブイーー!!!?」


目にも止まらぬスピードで、その場から逃げ去ってしまった。

──突然のことに、呆気に取られてしまったけど……すぐにハッと我に返る。


侑「い、イーブイ!?」


イーブイを連れ去られた……!?

私は大急ぎで立ち上がって、そのポケモンが逃げて行った方に駆け出す。


リナ『イーブイ連れてかれちゃった!? 今のポケモンはドロンチって、ポケモンだよ!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「ドロンチ……!?」

リナ『ドラメシヤの進化系!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

リナ『ドロンチ せわやくポケモン 高さ:1.4m 重さ:11.0kg
   飛行速度は 時速200キロ。 ドラメシヤと 一緒に 戦い 無事に
   進化するまで 世話をする。 ドラメシヤを 頭に 乗せていないと
   落ち着かないので ほかの ポケモンを 乗せようとする。』

侑「ドラメシヤなら、いくらでもいるじゃん……!?」


とにかく、早くイーブイを取り返さなきゃ……!!

私はドロンチを追いかけて、クリスタルケイヴを奥へと進んでいく──





    🎹    🎹    🎹





ドロンチを追いかけ、クリスタルケイヴ内の細い道を進んでいくと──程なくして、小部屋のような場所にたどり着く。

小部屋に入ると、


 「ローンチ♪」
 「ブ、ブイ…」
904 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:14:48.07 ID:ropYqdR40

ドロンチとイーブイの姿をすぐに見つけることが出来た。


侑「いた……!」


ドロンチはイーブイを頭の上に乗せたままで──尻尾で器用に“きのみ”を持ち上げながら、それを自分の頭の上に置く。

目の前に現れた“きのみ”を見たイーブイは、


 「ブ、ブィィ…」


警戒しているのか、食べたりはせず、ふるふると首を振っている。


侑「あれ……何してるんだろう……?」

リナ『たぶん……イーブイのお世話をしてるんだと思う……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……なるほど」


さすが、“せわやくポケモン”というだけはある……。

ただ、部屋の中に落ちている“きのみ”は、“ナナシのみ”や“パイルのみ”と言った、すっぱい“きのみ”ばっかりだ。

それはイーブイの好きな味じゃない。

私はイーブイのお世話をしている、ドロンチの前に出る。


侑「……ドロンチ」

 「ロン?」

侑「イーブイを返してくれないかな。その子は私の相棒なんだ」

 「ロン」


でも、ドロンチは首を横に振る。

まあ、奪っていくようなポケモンに説得しようとしてもダメかな……。


侑「……イーブイ、戻っておいで」

 「イブィ…!!」


私が呼び掛けると、イーブイはドロンチの頭の上から、私の方に向かって飛び跳ねる。

だけど──


 「ローンチ」

 「ブイ!?」


ドロンチは尻尾を伸ばして、イーブイを捕まえ──再び自分の頭の上に乗せてしまう。


リナ『返す気はないみたい……』 || ╹ _ ╹ ||

侑「みたいだね……」


出来れば、話し合いで解決したかったけど……。


侑「ワシボン、出てきて!」
 「──ワッシャァ!!!」

 「ローンチ…」

侑「言うこと聞いてくれないなら、力ずくで返してもらうよ! ワシボン、“ダブルウイング”!!」
 「ワッシャァ!!!」


ワシボンが飛び出し、ドロンチに向かって、両翼を叩きつける。
905 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:15:23.11 ID:ropYqdR40

 「ロン…!!!」


攻撃を受けて一瞬怯むが、すぐに顔を上げ──


 「ローンッ!!!!」


口から“りゅうのはどう”を、至近距離にいるワシボンに向かって発射する。


 「ワッシャァッ!!?」


“りゅうのはどう”に吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられたワシボンに向かって、


 「ローンッ!!!!」


追撃するように飛び掛かってくる。


リナ『侑さん!! “ドラゴンダイブ”だよ!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「なら……!! ワシボン! 壁に向かって、“ブレイククロー”!!」
 「ワッシャァッ!!!!」


ワシボンは、猛禽の爪で壁を蹴り砕き、即座に離脱──それによって壁が崩れて、岩壁が崩れ落ちてくる。


侑「“がんせきふうじ”!!」

 「ローンッ!!!?」


勢いよく崩れてくる岩石に巻き込まれ、ドロンチが体勢を崩す。

その拍子に──


 「ブ、ブィィ!!!?」


ドロンチの頭の上にいたイーブイが放り出される。


侑「イーブイ!!」


私は、地面を蹴って走り出し──滑り込むようにして、イーブイを受け止めた。


 「ブィィ…」
侑「おかえり、イーブイ」


私がイーブイを抱きしめると、イーブイも私の胸にすりすりと身を寄せてくる。

一方でドロンチは、


 「ローンチ…!!!!」


イーブイを取り返されたのが気に食わないようで、不機嫌そうに鳴いたあと──ユラリと姿が掻き消える。


侑「……! “ゴーストダイブ”……!」


恐らく、イーブイを奪った私──私のイーブイなんだけど──を直接狙うつもりだろう。


リナ『侑さん、きっと狙われてる!? 逃げて!?』 || ? ᆷ ! ||


リナちゃんもそれに気付いたのか、逃げるように促してくるけど……恐らく、ドロンチのスピードからは逃げきれない。

追い付かれたら、また力ずくでイーブイを奪われる。そうなるくらいなら……!
906 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:16:42.71 ID:ropYqdR40

侑「私はここだよ!! ドロンチ!!」

リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||


私は挑発するように、声を張り上げる。それと同時に腰のボールに手を掛けながら、前に飛び出す態勢を取る。

直後──


 「──ローンチ」


背後から、ドロンチの鳴き声と共に──私は背後から大きな尻尾を叩きつけられ、吹き飛ばされた。


侑「ぐっ……」


強い衝撃に、思わず声が漏れる。でも、私は手に掛けたボールを放って手持ちを出す。


侑「ニャスパーっ! “テレキネシス”!!」
 「──ニャー!」


ニャスパーはボールから飛び出すと同時に、私の身体を浮き上がらせ、それによって落下の衝撃をゼロにする。


侑「いっつつ……」

リナ『侑さん、大丈夫!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「う、うん……後ろから攻撃してくることはわかってたから、どうにか……」


“ゴーストダイブ”は相手の背後を取って死角から攻撃することが多い技だ。

背後から来るとわかっていれば、前に向かって飛びながら当たって、“テレキネシス”で床や地面に叩きつけられないようにすれば、大方の衝撃を殺せる。

……と、言ってもさすがポケモンのパワーなだけあって、結構痛い。

どうにか、起き上がって振り返ると──


 「ローンッ…!!!」


相変わらず、ドロンチが不機嫌そうに鳴いている。


侑「でも……これだけやった甲斐はあったよ。ね、イーブイ!」
 「ブイ!!」

 「ロン…?」


吹き飛ばれたのに、何故か得意げな私たちを見て、ドロンチが首を傾げた──直後、ドロンチの足元から、太い樹が地面から飛び出し、


 「ロンッ!!!?」


それはドロンチを巻き込みながら成長し、洞窟内の天井に叩きつけた。

ドロンチを天井に押し付けながらも、樹はどんどん成長し、蔦と枝に絡め取っていく。


 「ロ、ローン…」

侑「そうなったら、もう身動き取れないよね!」
 「イブィ♪」「ワッシャ♪」「ニャー」

 「ローン…」

リナ『この樹……もしかして、“すくすくボンバー”!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「うん。ドロンチが“ゴーストダイブ”で消えた瞬間、足元に仕込んでおいたんだ」
 「イブィ♪」
907 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:17:16.49 ID:ropYqdR40

相手は見るからに、ドラゴンタイプとゴーストタイプのポケモン。

そうなると、イーブイの相棒技──“めらめらバーン”、“びりびりエレキ”、“いきいきバブル”、“すくすくボンバー”はどれも相性が悪い。

唯一使えるとしたら、この狭い空間での制圧力の高さを活かして、“すくすくボンバー”なんだけど……“すくすくボンバー”は技を出してから、決まるまでに時間が掛かるのが難点だった。

……なら、ドロンチが“ゴーストダイブ”で私を狙ってくるってわかっているわけだし、あらかじめ私の足元に“すくすくボンバー”を仕込んでおけばいいだけだ。

そうすれば、ドロンチが私を攻撃して吹っ飛ばしたあと、時間差で足元から生えてくる樹に巻き込まれて、動けなくなるという寸法だ。


リナ『侑さん、意外と無茶する……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

侑「逃げるだけじゃ、勝てないと思ったからね……いてて……」
 「ブイ…」


イーブイが心配そうに、私の胸の中で鳴く。


侑「あはは、大丈夫だよ。ニャスパーのお陰で壁にぶつかったりはしなかったから」
 「ブイ…」


もしかしたら、尻尾がぶつかったところは軽い打ち身くらいにはなってるかもしれないけど……。


 「ローン…」

リナ『ドロンチ、どうする……?』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「うーん……」


“すくすくボンバー”はしばらくしたら枯れちゃうから、放っておけば自由になれるだろうけど……。


侑「放っておいたら、また別のポケモンを頭に乗せようと彷徨い始めるのかな……」

リナ『たぶん……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


それはそれで、次にここに訪れた人が危ないような気もする……。


侑「そもそも、なんでこのドロンチは、ドラメシヤを頭に乗せないんだろう……?」


ドラメシヤなんて、洞窟内にあんなにたくさんいるのに……。


リナ『たぶん、ここのドラメシヤが特殊なんだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「特殊?」

リナ『そもそもクリスタルレイクとクリスタルケイヴって、環境がすごく特殊だから、ここにしかいない変わった生態のポケモンが多いんだ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「そうなの?」

リナ『外敵が少ないからか、ケイコウオは滅多にネオラントに進化しないし、イワークもここの土中に含まれる水晶をよく食べるからか、水を泳げる個体が目撃されたこともあるみたいだよ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「い、イワークが泳ぐの……?」


ちょっと想像出来ない……。


リナ『たぶん、ドラメシヤたちも外敵が少ないから、普通と違って強くなる必要があんまりなくて、お世話係を必要としてないんじゃないかな。実際、群れの中に絶対数匹はいるはずのドロンチは滅多に目撃されないらしいし……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「なるほどね……」


だから、何かの拍子でドラメシヤが進化してしまうと、逆にお世話する相手がいなくて落ち着かなくなっちゃうってことか……。

それはそれで、なんだか気の毒な気もしてくる。


 「ローンチ…」

侑「うーん……」
908 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:17:51.22 ID:ropYqdR40

どうにかしてあげたいけど……イーブイを取り上げられるのはさすがに困る……。

そのとき、ふと、


侑「ん?」


腰のボールが僅かに揺れた。揺れたボールをベルトから外してみる。


侑「このボールって……タマゴの入ってるボールだ」

リナ『少し揺れた?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うん」


長らく全然変化のない、このタマゴだけど……。

少しは孵化の時が近付いてきているのかもしれない。


侑「あ……そうだ!」

リナ『?』 || ? ᇫ ? ||


私は良いことを思いつく。


侑「ねぇ、ドロンチ!」

 「ローン…?」

侑「一つ提案があるんだけど……聞いてくれないかな?」

 「ロン…?」


私はドロンチにその考えを話し始めた──





    🎹    🎹    🎹





──さて、あの後、私たちが水晶の水槽の部屋に戻る最中、


歩夢「あ……侑ちゃん! やっと見つけた……!」


図鑑を片手に、向こう側から歩いてくる歩夢と鉢合わせになる。


歩夢「もう……水晶の水槽の部屋で待ってるって、メッセージくれたのに……」

侑「ごめんね、ちょっとトラブルがあって……」
 「ローン」

歩夢「あれ? そのポケモンは……」

侑「私の新しい仲間のドロンチだよ!」
 「ローン♪」


私の紹介を受けて、ドロンチがご機嫌に鳴く。

そして、彼の頭の上には──


歩夢「タマゴを乗せてるけど……? 侑ちゃんの持ってたタマゴ?」

侑「うん、そうだよ」


私は思いついたこと、それは──私のタマゴのお世話をしてもらうということだった。
909 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:18:32.30 ID:ropYqdR40

リナ『侑さんはドロンチにタマゴを守ってもらえて安心だし、ドロンチはタマゴをお世話出来て安心するし、Win-Winだね!』 ||,,> ◡ <,,||

歩夢「なんだかよくわからないけど……。私、歩夢。よろしくね、ドロンチさん」

 「ローン♪」


挨拶もそこそこに、


歩夢「それより侑ちゃん、来て♪」


歩夢に手を引かれる。

手を引かれ、通路から大広間に出ると──


侑「わぁ……!!」
 「イブィ〜!!」


水晶の大水槽の中から、ケイコウオたちの光が乱反射して、洞窟内を虹色に照らしていた。


侑「すっごい……!!! こんなの見たら── 」

歩夢「ときめいちゃうよね♪」

侑「もう、歩夢! それ私の台詞!」

歩夢「ふふっ、ごめんね♪」


歩夢がいたずらっぽく笑う。


侑「……それにしても……本当に綺麗だね……」
 「ブィ…♪」

歩夢「……うん、そうだね」


厚い水晶の壁の向こうから、揺蕩う虹色の光たち。

それに照らされる洞窟の中にいると、まるでオーロラの中にでもいるような気がしてくる。

まさに夜の虹の名に相応しい、幻想的な光景だった。


侑「こんなの見たら、落ちたのも悪くなかったなって思っちゃうよ……」

歩夢「もう……私、すっごい心配したんだよ……?」

侑「あはは、ごめんね……。でも、見たとおり元気だから!」

歩夢「もう、侑ちゃんったら……」

侑「この調子で湖面の夜空も見ちゃう?」
 「イブィ♪」

リナ『ケイコウオたちは、日が昇るまで光り続けるから、いいと思う』 ||,,> ◡ <,,||

歩夢「ふふっ♪ 私たち、すっごく夜更かしすることになりそうだね♪」

侑「たまにはいいじゃん、そういうのも♪」


どうやら今日は楽しい夜になりそうだ。

私たちは、幻想的な虹の光に包まれながら、わくわくした気持ちで、クリスタルケイヴでの夜を過ごすのでした。



910 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:19:04.74 ID:ropYqdR40

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【クリスタルケイヴ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ●        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.52 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ワシボン♂ Lv.52 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.49 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.43 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドロンチ♂ Lv.50 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      タマゴ  なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:179匹 捕まえた数:6匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.45 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.44 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.40 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドグラー♀ Lv.36 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラエッテ♀ Lv.33 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:182匹 捕まえた数:17匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



911 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 03:23:27.64 ID:r2gRr5pF0

 ■Intermission🎙



──ウテナシティ、ポケモンリーグ。


せつ菜「チャンピオンは不在ですか……」

ダイヤ「はい……申し訳ありません。四天王戦は通常通り出来ますが、勝ち抜いてもチャンピオン戦は……」

せつ菜「いつ戻られるかはわかりますか……?」

ダイヤ「すみません……最近、千歌さんは捕まらないことが多くて……。こちらから連絡は入れておきますが……」

せつ菜「……わかりました。ありがとうございます」


私はダイヤさんに頭を下げ、踵を返して、ポケモンリーグを後にする。

チャンピオンの不在を聞いて、私は早速出鼻を挫かれてしまった。

ただ不在なだけならまだしも……ダイヤさんのあの口振りだと、チャンピオン戦をするためにリーグに戻ってきてもらえるかも怪しい。

そうなると──


せつ菜「やはり、地方のどこかにいる千歌さんをどうにか見つけて、バトルしてもらうしかない……」


もちろん野良試合で勝っても、すぐさまチャンピオンになることは出来ないだろう。

だけど、私は千歌さんとは何度もバトルしているからわかる。彼女は野良バトルだから負けてもよかった、なんて思えるタイプじゃない。

きっと私が善戦したら、決着をつけなくては気が済まなくなるはず。

だからこそ、今はとにかく千歌さんを見つけてバトルを申し込む。

それが、私が最速でチャンピオンになる方法なのには、間違いがない。


せつ菜「問題は千歌さんがどこにいるか……」


せつ菜として地方を回っている間は、頻繁に千歌さんを探していたつもりではあったけど……最近はウラノホシのご実家にも帰られていなかったようだし……。


せつ菜「最後に会ったのは、確か10番道路ですね……」


なら、もう一度10番道路に向かって、会えることに賭けるべきか……?

いや、あそこで何をしていたかは定かではないけど、用もなく道路のど真ん中にいるとは到底思えない。


せつ菜「せめて、何か手掛かりがあれば……」


私は必死に頭を動かして考える。

一刻も早く千歌さんを見つけなくては。

お父さんの手前であんな啖呵を切ってしまった以上、1秒でも早く結果を出さなくてはいけない。

チャンピオンになると宣言したからと言って、いつまでも黙って待っていてくれる人じゃないことなんて、もうわかっていることだ。


せつ菜「会えれば……千歌さんとバトルさえ出来ればいいんです……!」


今まで、勝ったことはないけど──あと、ちょっとのところまで来ている。そういう手応えは確かにあるんだ。

私のチャンピオンへの道は──もう、すぐそこに見えているんだ。

だからこそ、探さなくちゃ……!


せつ菜「千歌さんの居場所を知っている人がいれば……」


そう独り言ちた、そのときだった。
912 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 03:24:06.96 ID:r2gRr5pF0

 「──千歌ちゃんの居場所なら、知っているけど?」

せつ菜「え?」


背後から聞き覚えのある声がして、振り返ると──


果林「こんにちは。……いえ、初めましての方がいいのかしら?」

せつ菜「……果林さん……?」


私は一瞬ポカンとしてしまった。何故、ここに果林さんが……?

……いや、それよりも、果林さんは今、なんて言った……?


果林「チャンピオン……探してるんでしょ?」

せつ菜「……! 千歌さんの居場所をご存じなんですか!?」

果林「ええ」

せつ菜「お、教えてください……!! 私、今すぐにでも千歌さんに会わないといけないんです……!!」


思わず果林さんに詰め寄ってしまう。


果林「落ち着いて。私は千歌ちゃんの今現在の居場所を知っているわけじゃないの」

せつ菜「え、で、でも、さっき知ってるって……」

果林「今いる場所は知らない……でも、近いうちに現れる場所は知ってる」

せつ菜「え……と……」


どういうことだろう。
913 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 03:24:50.10 ID:r2gRr5pF0

果林「でも、もう日も沈んじゃったし、今その場所に行っても、千歌ちゃんには会えない。でも、これから千歌ちゃんが行く場所は知ってる」

せつ菜「…………」


この人は何を知っているんだろうか。何故そんなことがわかるんだろうか。

正直、怪しいと思ったけど──それ以上に、今の私は藁にもすがりたい気持ちだった。


果林「明日、ここに行ってみるといいわ」


そう言って、果林さんは私に一枚のメモ紙を手渡してくる。


果林「それじゃ、頑張ってね♪ 未来のチャンピオン──ユウキ・せつ菜さん♪」


最後にそう言い残してから、果林さんはボールから出したファイアローの脚に掴まって、飛び去ってしまった。


せつ菜「……」


果林さんから貰ったメモ紙を開いてみると──時刻と地名が書かれていた。

明日、この時間、この場所に、千歌さんが……?

わからないことだらけだけど……。


せつ菜「行ってみるしかない……!」


せっかく手掛かりを得たのだから。


せつ菜「……あれ? ……そういえば……果林さん、どうして私の名前、知っていたのでしょうか……?」


菜々のときにしか面識はなかったような……?


………………
…………
……
🎙

914 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:08:26.63 ID:r2gRr5pF0

■Chapter046 『森とキノコと魔法使い』 【SIDE Kasumi】





──ローズシティを出て数時間。かすみんたちは11番道路を進んでいる真っ最中です。


かすみ「るんる〜ん♪」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「かすみさん、ご機嫌だね」

かすみ「そりゃそうだよ〜! だって、かすみんの集めたお宝、返ってきたんだもん♪」
 「ガゥ♪」


そう言いながら、かすみんは物がたくさん詰まってパンパンになったバッグをしず子に見せつける。

返ってきたお宝とは何か──話はローズシティを出る前に遡ります……。



────
──



かすみ「さて……侑先輩たちも行っちゃいましたし、かすみんたちも行こっか!」

しずく「うん、そうだね」


ローズシティのポケモンセンターで侑先輩たちと別れて、かすみんたちも11番道路に向かおうとした矢先──prrrrrr!!! とポケギアが鳴りだしました。


かすみ「あれあれ〜? かすみんのファンの人からのラブコールかなぁ〜……?」

しずく「……馬鹿なこと言ってないで、早く出なさい」

かすみ「もー……しず子ったら、ノリ悪〜い……」


失礼なことを言うしず子を後目に、ポケギアの通話に応じると──


エマ『もしもし、かすみちゃん? エマだよ〜♪』

かすみ「エマ先輩?」


お相手はエマ先輩でした。


エマ『今、大丈夫かな?』

かすみ「はい、大丈夫ですよ〜。どうかしたんですか?」

エマ『うん♪ 前、言ってたものが見つかったから、かすみちゃんのパソコンに送っておいたよ♪』

かすみ「前言ってたもの……?」


何かエマ先輩に頼んでいたものとかありましたっけ……?


エマ『ゆっくりお話ししたいんだけど……私はまだ、お仕事の途中だから。確認してみてね!』

かすみ「は、はい。ありがとうございます……?」

エマ『それじゃ、またね〜♪』


それだけ言うと、エマ先輩からの通話は切れてしまいました。

本当に用件を伝えるための連絡だったみたいです。
915 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:09:22.31 ID:r2gRr5pF0

しずく「エマさんから?」

かすみ「うん」

しずく「なんだって?」

かすみ「前、言ってたものが見つかったから、かすみんのパソコンに送っておいたって……何かあったっけ?」


かすみん、さっぱり思い出せないんですけど……。……でも、しず子はしっかり覚えていたようで、


しずく「……あ、もしかして……あれじゃないかな?」

かすみ「……あれ?」

しずく「とにかく、パソコンを確認してみたら?」

かすみ「ま、それもそっか」


かすみんはエマ先輩からの贈り物を確認するために、ポケモンセンターへとトンボ返りするのでした。



──
────



そして、そんなかすみんのパソコンに入っていたものは──


かすみ「まさか、ドッグランでジグザグマたちに盗られた“げんきのかけら”が戻ってくるなんて〜♪」


そう、エマ先輩から送られてきたのは、ドッグランでジグザグマたちの群れに強奪された、大量の“げんきのかけら”だったんです!

ドッグランで数を減らしちゃったあとも、コツコツ集めていたけど──もう戻ってこないと思っていた分が戻ってきたお陰で、かすみんのバッグはもはや宝の山状態になったというわけです!


しずく「はぁ……せっかく減ったのに……。そんなに持ち歩いてたら重くて疲れちゃうよ……?」

かすみ「いーの! 『備えあれば嬉しいな』って言うでしょ!」

しずく「『備えあれば憂いなし』ね……」


しず子は呆れ気味だけど……これはジグザグマがかすみんのために、頑張って集めてくれた宝物だもん。一つも無駄になんて出来ません!


しずく「でも、本当にその大荷物で大丈夫……? 11番道路は結構長い道のりになるよ?」

かすみ「へーきへーき! これはかすみんの宝物だから、荷物のうちに入らないも〜ん♪」

しずく「……後で文句言わないでよ?」

かすみ「言わない言わな〜い♪ それじゃ、レッツゴー!」
 「ガゥガゥ♪」



916 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:09:51.67 ID:r2gRr5pF0

    👑    👑    👑





かすみ「──しず、子……もぅ……無理……き、休憩……しよ……」
 「ガゥ?」

しずく「はぁ……だから、言ったのに……。……わかった、ここでちょっと休憩にしようか」

かすみ「しず子〜! やっぱ、話がわかる〜!」

しずく「全く、調子いいんだから……」


11番道路を歩くこと数時間。

かすみんはすっかりバテバテモードになっていました。

しず子に注いでもらったお茶を飲みながら、


かすみ「……11番道路がこんなに歩きづらい道だと思わなかった……」


そうぼやく。

今かすみんたちのいる、この11番道路は本当に荒れ地って感じで、ゴツゴツした岩があちこちに飛び出している。

さっきから道も登ったり下ったり……しかも地面も硬いし、歩きづらいのなんの……。


しずく「11番道路はローズシティから、ヒナギクシティを繋ぐために強引に作った道だからね。これでも十分人の手が加えられてるんだよ」

かすみ「これでぇ……?」

しずく「ヒナギクシティはもともと四方を山に囲まれた町だったんだよ。しかも南北はカーテンクリフとグレイブマウンテン……。比較的低い山だった東側を切り開いて、ローズからの道を繋いだみたい」

かすみ「へー……。ヒナギクシティの人たちはそれまでどうやって暮らしてたんですかね……? あそこって雪とか降るくらい寒いんでしょ?」


四方が山って、満足に生活出来てたのかな?


しずく「そうだね……ローズとの道が開通するまでは相当厳しい環境だったみたいだよ。外から物資が入ってくることも、ほとんどなかっただろうし……」

かすみ「食べるものとかあったのかな……」


かすみん、おいしいご飯が食べられない場所で暮らすなんて、考えただけでゾッとしちゃいます……。


しずく「一応ヒナギクの東側には小さな森があるから、そこで調達してたみたいだね」

かすみ「森があるの? オトノキ地方の森って、コメコの森だけだと思ってた」

しずく「森って言っても、コメコの森と比べると、かなり小さいからね。知らない人も多いと思うよ」

かすみ「ふーん……じゃあ、その森で採れる“きのみ”とかを食べて暮らしてたんだ」

しずく「うん。あとはキノコかな」

かすみ「キノコ? ……キノコって、あのにょきにょき生えてるキノコ?」

しずく「そう、そのキノコ。ヒナギクの東の森には、すごく生命力の強いキノコが群生していて、森全域にたくさんキノコが生えてるらしいよ。だから、ヒナギクの東の森は通称マッシュルームフォレストなんて言われることもあるみたい」

かすみ「へー! 名前になっちゃうくらいたくさんキノコが採れるんだ! ちょっと、かすみんも食べてみたいかも!」

しずく「うーん……。やめておいた方がいいと思うよ。毒キノコらしいし……」

かすみ「……え? 毒キノコなのに、食べてたの……?」

しずく「それくらい食べるものがなかったんだよ。あの辺りに生息してるジオヅムってポケモンの“しおづけ”で何ヶ月も掛けて水分を飛ばして、毒素を薄めて……それでやっと食べられる状態にしてたみたい。それでも、毒を完全に抜ききることは出来なくて、食中毒で亡くなる人も多かったって聞いたかな……」

かすみ「ひ、ひぇぇ……過酷すぎる……」


かすみん、今の時代にセキレイシティで生まれてよかったです……。
917 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:10:31.78 ID:r2gRr5pF0

しずく「まあ、それも昔の話で……今は観光地としてそれなりに賑わってるみたいだから、ヒナギクに着けばおいしいご飯も食べられると思うよ。ポケモンジムがあるくらいだしね」

かすみ「本当に今の時代に生まれてよかった……」

しずく「さて……そろそろ行けそう?」

かすみ「あ、うん! かすみん休憩して元気回復したから!」
 「ガゥ♪」


かすみんが元気よく立ち上がると、ゾロアもご主人様の復活が嬉しいのか、ご機嫌な鳴き声をあげる。


かすみ「この調子でさっさとヒナギクまで行っちゃいましょー!」

しずく「ふふ、そうだね」





    👑    👑    👑





──あれから歩くこと、さらに数時間。


かすみ「……なにこれ」


かすみんはあるものを見上げて、唖然としていました。

そのあるものとは──


かすみ「これ……キノコ……?」

しずく「……だね」


めちゃくちゃでかいキノコでした。

どれくらいでかいかと言うと……軽く3mは超えていると思います。


しずく「この巨大キノコが森の入り口の目印だね」

かすみ「さすがマッシュルームフォレスト……」


コメコの森よりは小さいと聞いていたものの……とんでもないサイズのキノコの圧迫感と、森の樹々はなんというか、鬱蒼としていて……おだやかな森だったコメコの森に比べると、大分ホラーな感じがします……。

たぶん、その怖い感じに拍車を掛けているのは……いつの間にか出始めてきた霧も関係しているのかも……。


しずく「とりあえず……もう日も暮れ始めちゃってるし、霧も濃くなってきたから、森には入らずに、ここで野宿にしようか……」

かすみ「えー!! また野宿……2日連続じゃん……。ローズで泊まればよかった……」

しずく「言ってても仕方ないよ。早くテント張っちゃおう」

かすみ「うん……そうだね……」


かすみんがテンション低めに、テントの設営をお手伝いしようとしたそのとき──森の奥の方で、何かがチカチカと光るのが見えた。


かすみ「あれ……? 今なんか光った……?」


……気になる。

かすみんは、目を凝らして森の奥に目を向ける。すると──また、チカチカと何かが光る。


かすみ「やっぱ、なんかある……!」


霧のせいで、ぼやーっとした光が点滅しているのがわかる程度ですけど……確実に何かが光っている。
918 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:11:08.27 ID:r2gRr5pF0

しずく「かすみさん? どうかしたの?」

かすみ「あそこでなんか光ってる……ちょっと確認してくる」

しずく「……もう暗いし、森に入らない方がいいと思うけど……」

かすみ「すぐそこだし、ちょっと確認したらすぐ戻ってくるから!」

しずく「まあ、それくらいなら……。……絶対に奥まで入っちゃダメだよ?」

かすみ「わかってるって〜♪ ゾロア、行くよ!」
 「ガゥ」


ゾロアと一緒に光に向かって駆け出す。

巨大なキノコの脇をすり抜けて、入った森の中──光っていた目的物は本当にすぐ近くにあった。

チカチカと光っていたのは──


かすみ「……キノコ?」


またしてもキノコだった。

大きな傘をした──って言っても入り口のキノコよりは全然小さい30pくらいの──真っ白なキノコ。


かすみ「なーんだ……見に来て損した……」
 「ガゥ…」


なんかお宝的なものを期待してたのに……。まあ、光るキノコは珍しいけどさ……。

かすみんは振り返って、


かすみ「しず子ー!! 光ってるの、ただの光るキノコだったー!」


しず子に向かって、報告するために声をあげる。

そして、しず子の反応を待つこと、数秒……数十秒……。


かすみ「あ、あれ……?」


しず子からの反応が返ってこない……。

森から少ししか入っていないのに、すでに入り口は霧に覆われていて、ほぼ見えないし……。

かすみんは駆け足で、先ほどまでしず子が居た場所に戻ると──そこには、設営途中のテントを残して……しず子の姿はどこにもなかった。


かすみ「しず子……? どこ行ったのー? おーい!」
 「ガゥガゥーー!!」


ゾロアと一緒に呼んでみるけど、しず子からの反応は一向に返ってこない。

もしかしたら緊急事態か何かで席を外してるのかな……? お花摘みとか……。

そう思って、かすみんは少しの間、その場で待つことにした。



919 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:11:46.27 ID:r2gRr5pF0

    👑    👑    👑





かすみ「……おかしい」


どれだけ待てども、しず子は一向に戻ってこなかった。

テントの設営もすっかり終わっちゃったし……。


かすみ「しず子が何も言わずに、こんなに戻ってこないなんて考えられない……やっぱ何かあったとしか……」


でも音もなく消えちゃうなんてことあるのかな……。

あまりに霧が濃すぎて、帰り道を見失っちゃったとか……?

しっかりもののしず子に限って、そんなことあるかな……。


かすみ「とにかく、探さなきゃ……!」


ここで考えていても仕方ありません。

しず子に何かあったなら、かすみんが見つけないといけないし、道に迷ってるんだとしても、探さなくちゃ!


かすみ「……そうだ、図鑑!」


図鑑のサーチ機能を思い出して、図鑑を取り出し、ぽちぽちと操作する。


かすみ「えーっと……確か、こうしてこうして……あ、出た!」


しず子の図鑑の位置を検索すると──それはすぐ傍に表示された。


かすみ「……? なんだ、思ったより近くにいるじゃん……」


表示された場所は本当にすぐ傍だった。たぶん2mも離れていない。

テントの場所から、少し森の方へ歩いた方向……。

深い霧の中、しず子の図鑑が表示されている位置に一歩ずつ歩を進めていく。


かすみ「……ここだ」


図鑑の表示の真上に立つ。……だけど、しず子の姿はどこにもなかった。


かすみ「しず子ー! どこー?」
 「ガゥガゥー!!」


その場でキョロキョロと辺りを見回しながら探していると──足に何かが当たった。


かすみ「ん……?」


屈んでそれを確認してみると──


かすみ「……!? これ、しず子のバッグ……!?」
 「ガゥガゥ!!」


それはしず子が使っていた、バッグだった。

そして、そのバッグから少しだけ離れたところに──赤い布切れが見えた。

近寄って確認してみると──
920 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:13:19.06 ID:r2gRr5pF0

かすみ「しず子の……リボン……!?」


しず子のトレードマークとも言える、大きな赤いリボンだった。

バッグなら落とす可能性はある。だけど、身に着けているリボンを落とすなんて、普通ありえない。


かすみ「しず子に何かあったんだ……!!」


──なんでもっと早く気付かなかったんだ。

かすみんに何も言わずに、しず子が急にいなくなった時点でおかしいって思うべきだった。

その時点ですぐに探しに行くべきだった。


かすみ「いや、反省は後です……!! 探しに行くよ、ゾロア!!」
 「ガゥ!!!」


かすみんはしず子のバッグとリボンを拾い──マッシュルームフォレストの中へと駆け出した。





    👑    👑    👑





かすみ「しず子ー!! しず子ーー!!」
 「ガゥガゥッ!!!!!」


しず子の名前を呼びながら、森の中を駆け回る。

だけど、鬱蒼とした森な上に、深い霧が立ち込めているせいで、とにかく視界が悪い。

同じような樹々と同じようなキノコがたくさんあるだけ──キノコの中には、たまに光るやつもいるけど、本当にそれくらいだ。

あまりにも手掛かりがなさすぎる……。というか……。


かすみ「はぁ……はぁ……バッグ……重……」


自分のバッグが重いというのもあるけど……今はしず子のバッグも一緒に持っている。

さすがにこの状態で走り回ると息が上がってしまう。

一旦荷物の一部をテントに置いてきた方がいいかもしれない……そう思い、踵を返そうとして──


かすみ「あ、あれ……? かすみん……どっちから来たんだっけ……?」
 「ガゥ…?」

かすみ「ゾロアは……どっちから来たか覚えてる……よね?」
 「ガゥゥゥ…」

かすみ「……」
 「ガゥ……」

かすみ「もしかして、かすみんたち……迷子……?」
 「ガゥ…」

かすみ「あー、うー……どうしよう……しず子は見つからないし、かすみんたちは迷子だしぃ……」


思わずちょっぴり涙目になって、蹲る。

蹲っていると──バッグを後ろから何かに引っ張られるような感覚がして、


かすみ「わぁっ!?」


そのまま、仰向けにひっくり返る。
921 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:14:11.12 ID:r2gRr5pF0

かすみ「い、いたた……な、なに……?」

 「ベロバーーーー!!!!!!!」

かすみ「ぎゃーーーーーっ!!?」


仰向けになったかすみんの目の前に──ピンク色の何かが急に現れた。


 「ガゥガゥッ!!!!」


ご主人様の叫び声を聞いて、ゾロアがそいつに向かって飛び掛かる。


 「ベロバッ!!?」
 「ガゥガゥゥゥッ!!!!」


その隙に、かすみんは起き上がって距離を取る。


かすみ「はぁ……はぁ……あれ、ポケモン……!?」


ゾロアと取っ組み合いをしている相手は、ピンクの体色に紫の模様と紫のベロという、とにかく毒々しい色をしたポケモンだった。


 「ベロバッ!!!!!」
 「ガゥッ…!!」


そいつは取っ組み合いしながら、ゾロアに“かみつく”で攻撃してくる。


かすみ「“ナイトバースト”!!」
 「ガーーゥゥゥッ!!!!!」

 「ベロバー!!!?」


それを内から溢れる黒いオーラで吹っ飛ばす。

吹っ飛ばされこそしたものの、ピンクのポケモンはすぐに起き上がって、


 「ベロベー、ベロベロバー」


“ちょうはつ”するように踊りだす。


かすみ「もう、なんなんですか、こいつ……!」


その仕草に苛立ちながらも、バッグを持って立ち上がろうとして──さっきまであれだけ重かったバッグが妙に軽いことに気付く。


かすみ「……!? バッグの中身がまた減ってる!?」


さっきすっころんだときにぶちまけたのかと思って周囲を伺うと、


 「ベロバー」「ベロベロバー」「ベロ」

かすみ「……!?」


かすみんの周囲には、さっきゾロアと取っ組み合いをしていたピンクのと同じ種類のポケモンが大量にいた。

しかも──“げんきのかけら”を持っている。


かすみ「ち、ちょっとぉ!? それ、せっかく戻ってきたかすみんのお宝!?」

 「ベロ」「ベロバーー♪」「ベロベロバー」


そして、そのまま散り散りに持ち逃げしていく。
922 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:14:59.85 ID:r2gRr5pF0

かすみ「ま、また盗まれた……」
 「ガ、ガゥ…」


そして、気付けば、さっきゾロアと戦っていた個体もいなくなっている。


かすみ「あーーーもーーー……!! なんなのこの森ーーーー!!!」


かすみんの叫びは虚しくも霧の森に呑み込まれていく……。





    👑    👑    👑





かすみ「もうやだ……早くこの森から出たい……」
 「ガゥゥ…」


しず子もいなくなっちゃったし……またかすみんのお宝も奪われて……。

そういえば、さっきのポケモン……図鑑で調べてみたら、どうやらベロバーというポケモンらしい。

 『ベロバー いじわるポケモン 高さ:0.4m 重さ:5.5kg
  常に 舌を 出している。 民家に 忍びこみ 盗みを
  働き さらに 悔しがる 人や ポケモンの 発する
  マイナスエネルギーを 鼻から 吸い込み 元気になる。』


かすみ「つまり、かすみんを悔しがらせて食事をしてた……ってことだよね」


まんまとしてやられたのが悔しくてたまらないけど、ここで悔しがると、それを餌にされるらしい。

それは癪だ……。


かすみ「早くしず子を見つけて、この森……脱出しなきゃ……」
 「ガゥゥ…」


ゾロアと一緒に霧の森の中を彷徨っていると──急に霧が薄くなってきた。


かすみ「こ、今度はなにぃ……?」


もうこの得体のしれない森にうんざりしてきた。

今度は何かと身構えながら、周囲を伺う。


かすみ「……? ここだけ、霧が晴れてる……?」


どうしてかはわからないけど、かすみんはちょうど球状に霧が晴れている空間に入り込んでいたようだった。

まるでバリアで霧の侵入を阻んでいるような……そんな不思議な空間。

ただ、その空間内にあるのは、相も変わらずここまで見てきたのと同じような樹と……中心に光る大きなキノコがあるだけ。


かすみ「……? なんで、ここだけ……?」


首を捻りながら、中心にある光るキノコへと歩を進めると──キノコの下から、小さな何かが飛び出してきて、


 「ミ、ミブーー!!!!」「ミブリーーー!!!!」

かすみ「わ……!?」


鳴き声をあげながら、逃げていく。
923 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:23:33.63 ID:r2gRr5pF0

かすみ「えっと……今のもポケモンだよね……?」


かすみん何もしてないんだけど……。

図鑑を開く。

 『ミブリム おだやかポケモン 高さ:0.4m 重さ:3.4kg
  人気の ない 場所が 好き。 頭の 突起で 生物の
  気持ちを 感じとる。 穏やかな ものにしか 心を 開かず
  強い 感情を 感じとると 一目散に 逃げ出してしまう。』


かすみ「ミブリムって言うんだ……」


かすみん、どうやらミブリムたちの巣にお邪魔しちゃったみたいですね……。


かすみ「ミブリムたちには悪いですけど……ちょっとここで休憩させてもらいましょう……」
 「ガゥ」


視界の開けた場所で、今後どうするかを少し考えたい。

そう思って、大きな光るキノコに背を預けようとしたら──キノコの影から、


 「テブリ…」


また新しいポケモンが現れた。

帽子のような髪の毛を被った、先ほどのミブリムを少し大きくしたようなポケモン。


かすみ「わ……! 可愛い……?」


その姿は愛らしく、子供の頃テレビアニメで見た魔女っ娘を小さくしたような見た目で、可愛いポイントがものすごく高いポケモンです。


かすみ「ミブリムと雰囲気が似てるし……もしかして、ミブリムが進化した姿なのかな?」

 「テブ…」

かすみ「怖くないですよ〜。かすみん、敵じゃありません♪」


その愛らしさに思わず手を伸ばして、撫でようとした──そのときだった。


かすみ「んがっ!!?」


急に顎下から強烈な衝撃と共に、目の前に星が舞った。

次、気付いた時には、かすみんはまたしても仰向けにひっくり返っていた。


かすみ「…………はっ!?」


今、ものすごい衝撃に吹っ飛ばされて、一瞬意識が飛んだ。

顎がすごい痛い……。起き上がろうとすると、頭がふらふらする。


かすみ「え、な、なに……?」

 「テブリィ…」


どうにか身を起こすと、先ほどの魔女っ娘ポケモンがゆっくりとこちらに迫ってきていた。


かすみ「え、えっとぉ……あ、あのぉ……も、もしかして怒ってます……?」

 「テブリィ…」

かすみ「ま、待ってください……!! かすみん、本当に敵とかじゃなくて、可愛いからちょっと仲良くしたいなって思っただけで……!」
924 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:24:05.25 ID:r2gRr5pF0

かすみんの必死の説得も虚しく、


 「テブッ!!!!」

かすみ「んがぁっ!?」


かすみんは魔女っ娘ポケモンの頭の房に、鼻っ柱を殴り飛ばされていました。

強烈なパンチで殴り飛ばされて、またしても地面を転がる。


かすみ「いったぁぁぁぁぁ!! もう、なんなんですか!? 魔女っ娘ポケモンに見せかけて、とんだ脳筋ポケモンじゃないですかぁ!?」

 「テブリィ…?」

かすみ「あ、いえ、なんでもないです。ごめんなさい」


睨みつけられて、即ごめんなさいする。

この子、見た目に反して、めちゃくちゃおっかなくないですか!?

図鑑を開いて確認してみる。

 『テブリム せいしゅくポケモン 高さ:0.6m 重さ:4.8kg
  強い 感情を もつ ものは それが 誰であれ 黙らせる。
  その手段は じつに 乱暴で プロボクサーさえ 一発
  KOの 破壊力が ある 頭の房で 相手を 殴り飛ばす。』

すごい見た目詐欺ポケモンです……。


 「ガゥ…」
かすみ「大丈夫だよ、ゾロア……。そもそも、テブリムたちの巣にお邪魔してるのはかすみんたちですから……」


心配して身を摺り寄せてくるゾロアを撫でる。

元はと言えば、勝手に巣にお邪魔している方が悪いわけですから……。


かすみ「ただ、あのぉ……本当にこれ以上近付かないので、ここで休憩だけさせてください……」

 「テブリ…」


不機嫌そうなテブリムだけど……結局のところ、それは許可してくれたのか、わざわざ近付いて暴力を振るってくることはなかった。

とりあえず、一安心……ここで、作戦を考えないと……。

しず子をどうにか見つけなくちゃいけないけど……。

恐らくしず子も、この不思議な森の不思議な何かのせいで、出られなくなってる……もしくは元の場所に戻れなくなってるって考えればいいのかな……。

その何かがなんなのかわからなくて困ってるんだけど……。


かすみ「うーん……どうしたものか……」
 「ガゥ…」


腕組みをしながら悩んでいると──


 「ミブーーー!!!」


巣の中の、かすみんたちがいるのとは反対側の方から、ミブリムが鳴き声をあげながら逃げ込んできた。

そして、その後ろからは──


 「ベロバーー!!!」「ベロベロバーー!!!!」「ベローーー!!!!」

かすみ「ベロバー……!!」
925 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:24:40.72 ID:r2gRr5pF0

ベロバーたちがミブリムを追いかけて巣に侵入してくる。

あいつら、ミブリムたちにもいじわるしてるんですね……!!

ベロバーたちを追い払おうとボールに手を掛けた瞬間、


 「テブリッ!!!!」

 「ベロバッ!!!?」


テブリムがベロバーを殴り飛ばして、巣の中から追い出し始める。


かすみ「テブリム、めちゃつよじゃないですか……」


次々とベロバーを拳で追っ払うテブリム。……これは手伝う必要はなさそうですね。

そう思った矢先──樹の上から影が飛び降りてきた。


かすみ「!?」

 「テブッ!!?」


ちょうどテブリムの背後に着地した影は──


 「ギモッ!!!!」


テブリムの顔の目の前で、両掌を合わせて叩き、大きな音を立てる──“ねこだまし”だ。


 「テブッ!!!?」


頭上からの奇襲攻撃に反応できなかったテブリムが怯む。


 「ギモッ!!!!」


そして、相手のポケモンがその勢いのまま、追撃を仕掛けようとした瞬間、かすみんはボールを投げ放っていた。


かすみ「ジュカインッ!! “でんこうせっか”!!」
 「──カインッ!!!!」

 「ギモォッ!!!?」


ボールから出ると同時に、高速の一撃で肉薄しながら、敵を斬り裂いた。


かすみ「テブリム、大丈夫ですか!?」

 「テブ…」


かすみんはテブリムに駆け寄る。


かすみ「全く、“ふいうち”なんて卑怯なやつですね……!」

 「ギ、ギモ…」

かすみ「お前、ベロバーたちの親玉ですね! もう許しませんよ……!!」

 「ギ、ギモー!!!」


かすみんに恐れ慄いたのか、急にそいつは膝をついて土下座をし始める。


かすみ「全く……情けないですねぇ。勝てないと思ったら、土下座なんて」
 「カイン」
926 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:25:15.07 ID:r2gRr5pF0

でも、そんなことされても、許してなんてやりませんもんね。

ジュカインはのっしのっしと近付いていく。

あんなやつ巣からつまみ出してやります。

その間に、あいつの名前を調べるために図鑑を開く。

 『ギモー しょうわるポケモン 高さ:0.8m 重さ:12.5kg
  悪知恵を 使って 夜の 森に 誘い込もうとする。
  土下座して 謝る 振りをして 槍のように 尖った
  後ろ髪で 突き刺してくる 戦法を 使ってくる。』


かすみ「!? 土下座は罠!?」

 「ギモッ…!!!」


十分に近づいたと判断した瞬間、ギモーは髪の毛を尖らせてジュカインに突き刺してくる。


 「カインッ…!!」

 「ギモ、ギモモモ!!!!」


引っ掛かったと言わんばかりに下卑た笑い声をあげるギモー。

……が、


 「…カイン」


ジュカインは突き刺さった髪の毛を──手で掴む。


 「ギ、ギモ…!?」

かすみ「かすみんのエースは、その程度じゃ怯みもしませんよ!」
 「ジュ、カインッ!!!」


髪の毛を直接握って捕まえたギモーに向かって、


かすみ「“りゅうのいぶき”!!」
 「ジュ、カイーーンッ!!!!」


至近距離から“りゅうのいぶき”を噴き付けた。


 「ギ、ギモォォォッ!!!!?」


ドラゴンエネルギーの炎に焼かれ、地面を転がりながら、


 「ギ、ギモ、ギモモモ!!!!」


ギモーは一目散に逃げ出していく。


かすみ「ふん! おととい来やがれです!」
 「カインッ」


かすみんが鼻を鳴らして勝ち誇ると、


 「ミブ♪」「ミブリー♪」「ミブミブー♪」


ミブリムたちがかすみんとジュカインの足元に掛けよってきた。


かすみ「わわ……!? え、えっと……認めてもらえた感じ、ですかね……?」


恐る恐る、テブリムの顔色を伺うと、
927 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:25:47.14 ID:r2gRr5pF0

 「…テブ」


先ほどまで睨むような目つきだったテブリムも気持ち穏やかな表情になっている気がした。


かすみ「ほ……」


これなら、もうさっきみたいにぶん殴られる心配もなさそうです。


かすみ「これでゆっくり考えられます……」


かすみんが、ミブリムたちの中央に腰を下ろすと、


 「ミブ…?」


1匹のミブリムが、かすみんのバッグに結んでいた──しず子のリボンに反応を示した。


かすみ「……? ミブリム、もしかしてこのリボン、見覚えあるの?」

 「…ミブ」


ミブリムはかすみんの言葉に首──というか体を左右に振りながら否定する。

でも……その代わりとでも言いたげに、さっきテブリムにぶん殴られて伸びているベロバーを指差す。


かすみ「ベロバーがどうかし……ん……?」


そういえば、さっき図鑑で……ミブリムは生物の気持ちを感じとるって……。


かすみ「……」


さらにギモーは悪知恵で夜の森に誘い込む……ベロバーはギモーの手下で……。

しず子の持ち物を見て、気持ちを感じ取れる力を持つミブリムがベロバーを指差した……。

だんだん、話が見えてきました……。

ミブリムはきっとこう言いたいんだと思う。そのリボンの持ち主は、ベロバーたちのところにいる……って。つまり──


かすみ「しず子は……ギモーたちに連れ去られたんだ……!!」


かすみんは立ち上がる。

そうとわかれば、今すぐにでもギモーたちの巣を見つけて、しず子を助けないと……!


かすみ「行くよ、ゾロア!! ジュカイン!!」
 「ガゥッ!!!」「カインッ!!!」


かすみんが駆け出そうとした、そのとき、


 「テブッ!!!」


テブリムが自分の頭の房を使って、器用にジャンプし、かすみんの頭の上に飛び乗ってくる。


かすみ「わとと……!? ……もしかして、一緒に来てくれるの?」
 「テブリ」


テブリムは頷くと、伸びてるベロバーを指差し、頭の房で殴るようなジェスチャーをする。

……どう見てもベロバーやギモーたちとは仲悪そうでしたし、自分も乗り込んでボコボコにしてやろうってことなのかも……。
928 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:26:20.62 ID:r2gRr5pF0

かすみ「まあ、構いませんよ! かすみんも好き放題やられて頭に来てるのは同じですからね!」
 「テブリッ!!」

かすみ「テブリム! 一緒にギモーたちをぼっこぼこのけちょんけちょんにしてやりましょう!!」
 「テブリッ!!!!」


テブリムが進むべき方向を指差して教えてくれる。


かすみ「こっちにいるんですね! 行きますよ!」
 「テブッ!!!」


さぁ、好き放題やってくれたギモーたちに反撃開始ですよ……!!





    💧    💧    💧





しずく「……むー……!! むー……!!」


激しく抗議の意思を表してみる、

だけど、


 「…ロン」


私を拘束しているこの黒い髪は全く力を緩めようとしない。

私を捕えているのは──ベロバー、ギモーの最終進化系である、オーロンゲだ。

森の光るキノコに誘われて、かすみさんが私の近くを離れた直後だった。

森の奥から伸びてきた髪の毛に、手足を絡め取られ、


しずく『な、なに……!? かすみさ──むぐっ……!』


声をあげる前に、口も髪で塞がれて──


しずく『むー……! むー……!!』


森の奥に引き摺りこまれた。


しずく「……」


ベロバーとその進化系たちは、人のマイナスエネルギーを餌とするポケモンだ。

恐らくこうして近くを通った人間やポケモンを捕まえて恐怖を与えることで、自分たちの糧としているのだろう。

たぶん、かすみさんを光るキノコで引き付けて、私と引き離したのも、ギモーの悪知恵だと思う。

そうすれば、恐怖に怯える私と、私がいなくなったことで焦ったり不安になるかすみさんからもマイナスエネルギーを奪えて一石二鳥というわけだ。

ただ、誤算があるとしたら──


 「ロンゲ…」


私を至近距離で睨みつけてくるオーロンゲ。

それもそうだろう。私が全然怯えないからだ。


しずく「……むー……」
929 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:27:22.49 ID:r2gRr5pF0

そんな風に睨みつけても無駄ですよ。

私は貴方なんか怖くもなんともありません。

──絶対かすみさんが助けに来てくれますから。


 「…ロンゲ」


オーロンゲは機嫌悪そうに鳴く。

私が希望を失っていないから。

そして、私に希望を与えてくれるあの人は──


 「──しず子ー!! どこー!!」


やっぱり、来てくれた。





    👑    👑    👑





かすみ「ジュカイン! “マジカルリーフ”!! ゾロア! “スピードスター”!!」
 「カインッ!!!」「ガゥガゥッ!!!!」

 「ベロ!!?」「ベベロバッ!!!?」「ベロベー!!!?」


そこらへんにいるベロバーたちを必中の遠距離技で片っ端から倒しながら突き進む。

そして、


 「ベローー!!!」「ギモーーッ!!!!」「ギモォ!!!!」


飛び掛かってくるベロバーやギモーは、


かすみ「テブリム!! “ぶんまわす”!!」
 「テブリーーー!!!!!」

 「ベベローー!!?」「ギモッ!!!?」「ギモォッーーー!!!!」


かすみんの頭の上で拳を振り回すテブリムが全部ぶっ飛ばします。


かすみ「しず子ーーー!! 迎えに来たよーー!! どこーー!?」


もう完全にベロバーやギモーたちの縄張りに入っている。

いるとしたら、ここしかありえない。


かすみ「テブリム! しず子のもっと詳しい居場所、わかる!?」
 「テブ」


テブリムが自らの額を、しず子のリボンに近付ける。

恐らく、またしず子の思念みたいなものを読み取っているんだろう。


 「テブ!!」
かすみ「あっちだね! 了解!!」


テブリムが指差す方向へと走る。

ベロバーやギモーたちをぶっ飛ばしながら、走っていくと──大きな樹が見えてきた。
930 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:28:06.82 ID:r2gRr5pF0

 「テブ!!」
かすみ「あの樹!? よっし……じゃあ、行きますよ!!」


大きな樹にダッシュで駆け寄り──


かすみ「テブリム!! お願いします!!」
 「テーーブッ!!!!」


テブリムが樹木に向かって拳を叩きつけると──樹木の表面がバラバラと崩れ、大きな洞が現れる。

そして、


しずく「──むー……!!」

かすみ「しず子!!」


そこには、黒いひも状のもので縛られたしず子が居た。


 「ロンゲ…」

 「テブッ!!!」
かすみ「お前がしず子を攫ったやつですね……!!」


ギモーたちよりもずっと大きな背丈の──恐らく群れのボスらしきポケモンに向かって、テブリムが飛び出していく。

体を捻りながら、テブリムが渾身のパンチを繰り出すと──


 「ロンゲッ!!!!」


相手も、身を捻りながら、拳を突き出し、2匹の拳が真っ向からぶつかり合うが──


かすみ「ご、互角……!?」
 「テブッ…!!」

 「ロンゲッ」


2匹のパワーは互角で、お互い相殺し合っている。

テブリムのパンチ力は身をもって体験している。それなのに、それと互角に撃ち合ってくるなんて……!!


しずく「──かすみさんっ!! 攻撃を緩めないで!!」

かすみ「!?」


気付けば先ほどまで、口を塞がれていたしず子が、私に向かってそう伝えてくる。


しずく「オーロンゲは全身の髪の毛で、自分の筋力を増強するの!! だから、攻撃に使っていたら、私を拘束できなく──むぐっ……!!」

かすみ「なるほど! そういうことなら……!! テブリム!!」
 「テーブッ!!!!」


テブリムは、オーロンゲと呼ばれたポケモンの前に立って、連続で拳を繰り出す。


 「ロンゲ…!!!」


もちろん、そうなればオーロンゲも応戦するしかなくなり、


しずく「……ぷはっ!」


しず子の拘束が緩んだ隙に、


かすみ「ジュカイン!!」
 「カインッ!!!!」
931 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:29:35.36 ID:r2gRr5pF0

ジュカインが自慢の身のこなしで洞内の壁を蹴りながら、しず子を救出して、すぐに離脱する。


かすみ「ナイス! ジュカイン!」
 「カインッ!!!」


すぐに、ジュカインがしず子を抱きかかえたまま、私のもとに戻ってくる。


しずく「かすみさん……!」

かすみ「しず子! よかった、無事で……!」

しずく「うん……! 絶対助けに来てくれるって信じてたよ!」

かすみ「当たり前じゃん!」


再会を喜び合うのも束の間、


 「テ、テブーー!!!」


テブリムがこちらに吹っ飛ばされてくる。


かすみ「テブリム!? 大丈夫!?」
 「テ、テブ!!」

しずく「オーロンゲも私の拘束に使っていた分を、全部攻撃に回してきたみたいだね……」

 「ロンゲ…」


忌々しそうにこちらを睨みつけてくるオーロンゲ。

そして、背後からは、


 「ギモーーー!!!!!」「ギモモ!!!!」「ギーーモッ!!!!」


この洞に向かって、ギモーたちが殺到してきている。


しずく「後ろは任せて」

かすみ「! そういうことなら……!! オーロンゲ、倒しますよ!!」
 「テブッ!!!!」

しずく「出てきて、ジメレオン!!」
 「ジメ…」


ジメレオンはボールから出ると同時に、手に大量の水の球を作り出し、


 「ジメッ!!!」


それを連続で投擲──投げられた水の球は、森の樹々を反射しながら、


 「ギモッ!!!?」「ギモッ!!!!」「ギィ!!!?」


予測不可能な軌道で、ギモーたちを次々と撃ち落としていく。


しずく「1匹たりとも、ここは通しません!!」
 「ジメ…!!」


しず子とジメレオンがギモーたちを抑えてくれている間に、


かすみ「テブリム……!! “ぶんまわす”!!」
 「テーーブッ!!!!」


テブリムが頭の房を振り回しながら、オーロンゲに飛び掛かる。
932 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:30:06.51 ID:r2gRr5pF0

 「ロンゲ!!!!」

 「テブッ…!!!」


が、やはりフルパワーのオーロンゲ相手だと、力負けしてテブリムが吹っ飛ばされる。


かすみ「なら……!! “マジカルシャイン”!!」
 「テーーブッ!!!!」


テブリムは吹っ飛ばされながらも、激しく閃光を放って反撃。


 「ロン…!!?」


暗い洞の中で急に激しい閃光が放たれたことによって、オーロンゲが一瞬怯む。


かすみ「そこです!! テブリム!!」
 「テーーーブッ!!!!」


怯んだところに──テブリムが走り込み、オーロンゲの顎に向かってアッパーカットを叩きこんだ。


 「ロンゲッ!!!?」


オーロンゲは体が宙を浮くほどの強烈な一撃を食らい、洞の中で倒れこむ。


 「ロンゲ…!!」


まだ倒しきれていないのか、オーロンゲはすぐに起き上がるけど……確実に大きなダメージを与えたはず……!!


かすみ「この調子でもう一発……!」


さらなる追撃を加えようとした瞬間、


 「ロンゲッ!!!」


オーロンゲは、髪の毛で強化した腕を──洞内の壁に思いっきり叩きつけた。


かすみ「壁に向かって“アームハンマー”……!?」


それと同時に──洞の壁が吹き飛び、それによって耐えきれなくなった樹木が倒壊を始める。


かすみ「や、やば……!?」
 「カインッ!!!」


かすみんが指示するよりも早く、ジュカインが私としず子を抱きかかえ、脱出を試みる。

テブリムやゾロア、ジメレオンもジュカインの大きな尻尾にしがみついているし──お陰でどうにか、全員倒壊に巻き込まれることなく脱出が出来た。


かすみ「あ、ありがとう……ジュカイン」
 「カインッ」

かすみ「そうだ、オーロンゲは……!!」


気付けば、オーロンゲの姿は見えなくなっていた。


かすみ「に、逃げられた……!」


周囲にいたギモーやベロバーたちも、樹々の影に隠れて逃げ始めている。
933 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:30:41.39 ID:r2gRr5pF0

しずく「恐らく逃げて態勢を立て直すつもりだろうね……。森の中は彼らのテリトリーだから、一旦引いて態勢を立て直せば、いくらでも策はあるだろうし……」

かすみ「冷静に分析してる場合じゃないって〜!?」

しずく「大丈夫だよ、かすみさん」

かすみ「え?」

しずく「今回は──私もかなり怒ってるから」


静かに怒りを顕わにするしず子の声に同調するように──


 「ジメ──」


ジメレオンが光り出した。


かすみ「これって、まさか……!?」

しずく「かすみさんのキモリはジュカインに、歩夢さんのヒバニーもエースバーンになって……私のメッソンも、最終進化の時が近いってわかってたから」
 「──インテ」

しずく「行くよ、インテレオン」
 「インテ」


進化し、新しい姿を得たジメレオン……改めインテレオンは、指を銃口のようにかざし、


しずく「この森では貴方たちは隠れ放題、逃げ放題って思ってるかもしれないけど……私の“スナイパー”は、絶対に外さない──“ねらいうち”」
 「インテ──」


指先から──超速度の水の弾丸を撃ち出した。

ヒュン、と風を切る音と共に、水の弾丸は樹々の間をすり抜けて──


 「ロンゲェッ!!!!!!」


オーロンゲの悲鳴に変えて、直撃を私たちに報せてくれた。


 「…インテ」
しずく「これに懲りたら、今後は無暗矢鱈に人を襲わないことだね。……もう、聞こえてないだろうけど」

かすみ「か、かっこよ……」


インテレオンの必殺の一撃によって──マッシュルームフォレストで起こった、一連の騒動は終息するのでした。





    👑    👑    👑





かすみ「テブリム。協力してくれてありがとね」
 「テブ」


あの後かすみんたちは、テブリムの巣に戻ってきました。

──あ、ちなみに盗まれた“げんきのかけら”は、崩れた樹の近くにまとめて置いてありました。もちろん全部取り戻してめでたしめでたしです。


かすみ「それじゃ……これからもミブリムたちを守ってあげてね」
 「テブ」

かすみ「よし……! それじゃ、しず子! さっさと森、抜けちゃおっか! 朝になっちゃう!」


かすみんはテブリムへの挨拶を終えて、しず子に振り返る。
934 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:31:29.60 ID:r2gRr5pF0

しずく「かすみさん、いいの……? テブリム、捕まえなくても……?」

かすみ「いいのいいの! あの子は群れのリーダーなんだから、いなくなったらみんな困っちゃうもん」


せっかく一緒に戦った仲だし、ちょっと寂しくはありますけど……。


しずく「そっか……。……でも、テブリムはそう思ってないみたいだよ?」

かすみ「え?」


そう言われてテブリムの方へ振り返ると──


 「テブ」


テブリムは私の足元に居た。


かすみ「テブリム……もしかして、一緒に来てくれるの?」
 「テブ」

かすみ「でもミブリムたちは……」

 「ミブー!!」「ミブ、ミブーーー!!!」「ミブリーー!!!!」

しずく「ふふ、旅に出る仲間を応援してくれてるね♪」

かすみ「……野生のポケモンってたくましいですね……」


嬉しそうに飛び跳ねるミブリムたちを見ていると、まるで「私たちは私たちでどうにかやっていくから、心おきなく旅に行っておいで」と群れのリーダーの門出を祝っているようだった。


 「テブリ」


テブリムはまた器用に頭の房を使ってジャンプすると、


かすみ「わっとと……」


かすみんの頭に飛び乗ってくる。


 「テブ」

しずく「かすみさんの頭の上で腕組んでるね」

かすみ「……なーんか、ちょっと偉そうですね、このテブリム……」

しずく「群れのみんなも大切だけど……頼りない子分が心配だから、付いて行ってやろうって感じなのかな……?」

 「テブ」

かすみ「えぇ!? なにそれ!? 頼りない子分ってかすみんのこと!?」
 「テブテブ」

かすみ「むー……ま、いいけどさー……。……これからよろしくね、テブリム」
 「テブ!!」


霧に包まれ、キノコが群生する、この不思議な森で……新たな仲間を加えて、かすみんたちは再び、ヒナギクシティを目指して出発するのでした。

──ちなみに、森を出る頃には完全に朝になっていました……。うぅ……徹夜は美容の敵なのに……。



935 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:32:19.20 ID:r2gRr5pF0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【11番道路】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回_●__  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.48 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.45 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.42 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.39 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.41 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      テブリム♀ Lv.40 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 5個 図鑑 見つけた数:179匹 捕まえた数:9匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.37 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリヤード♂ Lv.32 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アオガラス♀ Lv.36 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.36 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.36 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:187匹 捕まえた数:12匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



936 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:12:54.47 ID:A5BOh9Vw0

 ■Intermission🎙



せつ菜「……ここ、ですね……。エアームド、下に降りてください」
 「ムドー」


夜が明けて──私たちがやってきたのは、クロユリシティのちょうど北西部に存在する大きなカルデラ湖。その中心に鎮座している火山島だ。

未だに活発な活火山で、名前は──天睛山(てんせいざん)、とりわけその火山洞は天睛の火道(てんせいのかどう)と呼ばれています。

活火山なだけあって、危険を伴う場所で、人があまり近寄らず、街から繋がる道もない。大きなカルデラ湖から中央の火山島へ渡る船などもないため、ポケモンの力を借りずに来る方法はほぼないと言っていい。

──果林さんから貰ったメモには、『オトノキ北の火山洞奥。20〜』とだけ書かれていた。

オトノキ北の火山と言われたらここしかないし、20〜というのは20時以降を示しているものだろう。

ただ……。


せつ菜「本当にこんな場所に千歌さんが来るのでしょうか……」


流れ出す溶岩を横目に見ながら、私は溶岩洞に足を踏み入れる。

溶岩洞窟内は大きさこそあるものの、入り組んだ道ではなかった。

溶岩洞の入り口から真っすぐ進んでいくと、大きな広間のような空間に出る。


せつ菜「入り口は一つしかありませんでしたし……もし来るんだとしたら、ここに居れば必ず鉢合わせるはず……」


だだっ広い空間ではあるが、赤熱した溶岩のお陰で洞窟内は意外と明るかった。

その光景自体は自然の力強さを感じる幻想的な風景ではあるのだが──


せつ菜「さすがに……暑いですね……」


ドロドロとした溶岩がそこかしこに見られるだけあって、非常に暑い。

私は暑さにはかなり耐性がある方だけど……それでも、ずっと居たくはないと思うくらいには暑かった。


せつ菜「本当に、ここに千歌さんが来るの……?」


何度目かわからない自問。

千歌さんがここに来ることが想像できない。出来ない、のだが……。


せつ菜「当てもなく探し回るよりは、いい……はず」


何せ、彼女がどこにいるかは本当に見当が付いていないのだ。

もし来ないのであれば、それはそのとき考えればいい。

今は、もし彼女がここに訪れたらどうするかを考える方が建設的だ。

──これから彼女とするであろう、戦いのシミュレーションを。

一匹一匹手持ちのボールに触れながら、戦い方を頭の中で思い浮かべる。

千歌さんの手持ちとどう渡り合うかを一つ一つ考えて。


せつ菜「……」


正直、不安はあった。

今の私で勝てるのか。

今の力で通用するのか。

でも、
937 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:15:06.65 ID:A5BOh9Vw0

せつ菜「……大丈夫」


私が信じて進んできた道に、間違いはない。

あと、少しで手が届くという手応えだって、ずっと感じていた。

だから、今日、ここで、超える。

弱気になんてなっちゃダメだ。


せつ菜「私は……チャンピオンになるんだ」


私は自分に言い聞かせるように、そう言葉にした──





    🎙    🎙    🎙





──時刻は20時半を回ろうとしていた。


せつ菜「…………」


溶岩洞の内部は、今も灼熱の溶岩が流れ続けるだけ。

20〜と書かれていたが、千歌さんは未だ姿を現していなかった。


せつ菜「…………また、からかわれてしまったみたいですね……」


菜々のときだけではなく、せつ菜であってもからかわれてしまったようだ。

さて、これからどうしたものだろうか……。

次の策を思案し始めた、そのときだった。


 「──こっちであってるよね!?」


入り口からこの広間へ向かう通路の方から、声が聞こえてきた。


せつ菜「……え?」


その声は、あまりに聞き覚えのある声で──程なくして、


千歌「はぁ……はぁ……! どこ……!?」


千歌さんが、この火山洞の中に、姿を現した。


せつ菜「本当に……来た……」


私は唖然としてしまった。

まさか本当に来るなんて。

キョロキョロと何かを探していた千歌さんは、


千歌「……え?」


私を視界に入れた瞬間、目を丸くする。


千歌「せつ菜ちゃん……?」
938 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:15:48.34 ID:A5BOh9Vw0

千歌さんもポカンとしていた。

まさか、私がこんな場所にいるなんて思っていなかったとでも言わんばかりに。

呆然としながら、見つめ合う私たち。そして、その背後から、


彼方「千歌ちゃーん……待って〜……」


息を切らせながら、広間に入ってくる女性の姿。

確か……彼方さんと呼ばれていた気がします。

そしてその後ろから、ツインテールの少女と、さらにサイドテールの女性が姿を現す。

遥さんと……穂乃果さんと呼ばれていたと思います。

最近、千歌さんと会うときに大体一緒に行動している方たちです。


千歌「あ、えっと……彼方さん……」

彼方「はぁ……はぁ……あ、あのねー……大変なのー……。……ここに入ったら、急に反応が、消えちゃって……」

千歌「え? そうなの……?」

彼方「うん……」

遥「勝手に戻っていったということでしょうか……」

穂乃果「今までそんなことあったっけ……?」


何やら話をしていますが……こうして千歌さんと出会えたのなら、


せつ菜「……あの!!」


私は私の目的を果たさねばならない。


せつ菜「千歌さん!! 私とバトルしてください!!」

千歌「あ、えっと……」


千歌さんは少し動揺した様子だった。


彼方「あれ……? なんで、せつ菜ちゃんがいるの〜……?」

遥「まさか、またせつ菜さんが……?」

千歌「えーっと……」


千歌さんは背後の穂乃果さんを伺うように、チラりと視線を送る。


穂乃果「……とりあえず、反応が消えちゃったなら、私たちには何も出来ないし……大丈夫だと思う」

千歌「……まあ、それもそっか」


どうやら、向こうも話が付いたらしく。


千歌「どうしてここにせつ菜ちゃんがいるのかはわからないけど……トレーナー同士、目が合ったら戦うのが礼儀だもんね!」

せつ菜「……! はい!!」


──やった……! バトルまで、漕ぎつけた。

後は──戦って勝つ……!! 勝って、実力を示して、チャンピオン戦をしてもらう!!

私はボールから手持ちを繰り出す。
939 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:16:30.06 ID:A5BOh9Vw0

せつ菜「行きますよ、ゲンガー!!」
 「ゲンガッ!!!」

千歌「出てきて、バクフーン!」
 「──バクフーン!!!!」


お互いの手持ちが相対して、今まさにバトルが始まろうとした──その瞬間だった。

──ビーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!

けたたましいブザー音のようなものが洞窟内に響き渡った。


千歌「……!?」

せつ菜「な、なに……!?」


千歌さん共々、ブザー音の発信源に目を向けると──それは彼方さんの持っている端末から鳴っている音だった。


彼方「……うそ」

穂乃果「彼方さん、場所は……!?」

彼方「叡智のゴミ捨て場付近と……フソウ島」

遥「二ヶ所同時……!?」

穂乃果「しかも、ここと真逆……!?」

彼方「それに、どっちも市街地が近い場所だよ〜……!」

穂乃果「……っ……私はフソウに飛ぶ!! 千歌ちゃんは、ダリアの方に行って!!」


そう言って、穂乃果さんは踵を返して駆け出して行く。


千歌「は、はい……!」


千歌さんも動揺しながらも、踵を返して出て行こうとする。


せつ菜「ま、待って……!?」

千歌「ごめん、せつ菜ちゃん……!! バトルはまた今度……!!」


そう言って、千歌さんが洞窟内から駆け出して行く。

どうしよう。戦わなくちゃいけないのに。私は、すぐにでも千歌さんと戦って示さなくちゃいけないのに。

私の頭の中は、それでいっぱいだった。

だから、私は、


千歌「んぎっ!?」

彼方「千歌ちゃん!?」

遥「どうしたんですか……!?」

千歌「身体が……う、動かない……!!」

せつ菜「……トレーナーとの戦いが始まったのに、背を向けるんですか……」


“メガバングル”を輝かせながら、言う。
940 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:21:21.68 ID:A5BOh9Vw0

 「ゲンガァー…!!!!!」

千歌「め、メガゲンガー……! “かげふみ”……!」

彼方「ち、千歌ちゃん……!」

千歌「二人は穂乃果さんと、先に行って……!」

遥「わ、わかりました……!」

彼方「ご、ごめんよ〜……!」


彼方さんと遥さんが千歌さんを置いて駆け出して行く。


せつ菜「……バトルの最中に……相手に背を向けるんですか……チャンピオンが……」

千歌「……っ……せつ菜ちゃん、今は緊急事態で……バトルなら、今度会ったときに改めてやろう! ね!?」

せつ菜「今度って……いつですか……次会うのはいつですか……!!」

千歌「え、いや、それは……わ、わかんないけど!!」

せつ菜「──それじゃ、ダメなんですっ!!」

千歌「……っ!?」


自分でも驚くくらい、大きな声が火山洞内で反響する。

次会えるのなんて、いつになるかわからない。

今ここでこの機会を逃したら──全てを失ってしまう気がした。


せつ菜「今……!! 今、バトルしてください……!!」

千歌「だ、だから……!! 緊急事態なんだって!! 今行かないと大変なことに……」

せつ菜「私だって、今バトル出来ないと困るんですっ!!!」

千歌「……っ」


私の無茶な要求に千歌さんも困っていたし、苛立ちがあったのかもしれない。

だから、彼女は私に向かって──言ってしまった。


千歌「──ポケモントレーナーだったら、バトルなんていつだって出来るじゃんっ!!!!」

せつ菜「────」


その言葉を聞いて、私の中で──何かが切れてしまった。


せつ菜「いつだって……出来る……?」

千歌「そうだよ、いつだって出来る、だから……!」

せつ菜「……ゲンガー!! “シャドーボール”!!」
 「ゲンガーーッ!!!!」

千歌「!? “かえんほうしゃ”!!」
 「バクフーンッ!!!!!」


ゲンガーの放った“シャドーボール”が“かえんほうしゃ”で相殺されて、爆発する。

爆発の衝撃で、朦々と立ち込める煙の向こうに立つ千歌さんを、見据える。


せつ菜「……そうですよね、貴方はいつだって、どこでだって、好きなときに、好きなだけ、戦える。トレーナーでいられる。何不自由なく、縛られることなく、誰に言われることもなく」

千歌「せつ菜ちゃん、やめてって!! 今は戦えないって言ってるじゃん!!」

せつ菜「戦う気がないなら……戦う気にさせてあげますよ……!!」


私は──ボールを4つ放った。
941 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:22:18.17 ID:A5BOh9Vw0

 「ムドー!!!」「フゥ!!!」「ドサイッ!!!」「ワァォン!!!!」

せつ菜「エアームド、“ステルスロック”! スターミー、“ハイドロポンプ”! ドサイドン、“ロックブラスト”! ウインディ、“かえんほうしゃ”!」
 「ムドーーー!!!!」「フゥッ!!!!」「ド、サイッ!!!!」「ワァーーーオーーーンッ!!!!!」

千歌「……っ!」
 「バクフッ!!!」


私の手持ちたちの総攻撃に、千歌さんはバクフーンに掴まり、駆け出して回避する。


千歌「せつ菜ちゃんっ!! いい加減にしてよっ!!」

せつ菜「私は本気です!! 本気で貴方と戦う意志を持って今ここにいるんですっ!! だから、千歌さんも私と本気で戦ってくださいっ!!」


彼女なら、意志を見せれば、向き合ってくれると思った。

だけど──そうじゃなかった。


千歌「あーーーーもーーーーっ!!! 今は無理って言ってるでしょーーーー!!!!」


千歌さんが叫ぶのと同時に──彼女の腕に付けたリングが、強烈な閃光を放ち始めた。


せつ菜「……!?」


千歌さんとは何度も戦ってきたけど、これは、こんな光景は、一度も見たことがなかった。

彼女の腕の光は、千歌さんの腕から──バクフーンへと流れ込み、


 「バクフーーー!!!!!!!」


離れていても、ビリビリとほのおのエネルギーを感じるほどに、すさまじい熱気を放ち、


千歌「──“ダイナミックフルフレイム”!!」
 「バーーーーク、フーーーーーーンッ!!!!!!!!!!!!!!」

せつ菜「う……そ……」


見たこともないような、巨大な火球が──


 「ゲンガッ!!!?」「フゥ…!!!」「ドサイ…!!!」「ムドーッ!!!?」「ワォンッ!!!?」


私たちの手持ち5匹全てを呑み込み──直後、膨れ上がったほのおエネルギーが大爆発を起こした。


せつ菜「うぁっ……!!」


強烈な爆音と爆風が衝撃波となって、私に襲い掛かってくる。

立っていることもままならず、吹き飛ばされて地面を転がる。


せつ菜「……っ……」


轟音が洞窟内で何度も反響し、火山全体を大きく揺さぶる。

目の前で大噴火が起こったのかと錯覚するような、とてつもない熱量。

──やっと、余波が収まった頃に顔を上げて、どうにか身を起こす……。


せつ菜「…………」

千歌「はぁ……! はぁ……!」

せつ菜「………………」

千歌「ごめん、せつ菜ちゃん……!! 私、行くから……!!」
942 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:23:08.31 ID:A5BOh9Vw0

千歌さんは今度こそ踵を返して、洞窟から駆け出して行く。

彼女が去ったあとの洞窟内をぼんやりと見回すと、


 「ゲ、ン…」


ゲンガーが倒れていた。


 「ムドー…」


エアームドも力なく地に伏せ、


 「フ、ゥ…」


ほのおタイプが得意なはずのスターミーもコアを点滅させ、


 「ド、サイ…」


溶岩さえ耐える、硬い岩の皮膚を持つドサイドンも丸焦げにされ、


 「ワ、ォン…」


同じほのおタイプのはずのウインディも、力尽きて倒れていた。


せつ菜「……なに……いま、の……」


私は──思い上がっていた。

もう少しで手が届くと思っていたのは、ただの勘違いだった。

私のポケモンたちは──たった一撃で全滅してしまった。

千歌さんは、あんな技を隠していた、あんな特別な、技を……。


せつ菜「あ、……あはは、あははははははっ……」


笑いが込み上げてきた。

笑いと一緒に──涙も。


せつ菜「あはは、あははははははっ……千歌さんは、本気じゃなかったんだ……ずっと私なんか相手に、本気なんて出してなかったんだ……」


本当はいつでも一撃で終わらせられる技を持ってたんだ。そんな──『特別』を持っていたんだ。

私にはまだ──チャンピオンなんて遠かったんだ。

ただ、負けただけなら……いつもだったら、どうすれば勝てるかを考えていた。

だけど……今回は、そう思えなかった。そんな風に、考えられなかった。


せつ菜「なんで……っ……。なんで……その技なんですか……っ……。なんで……バクフーンなんですか……っ……」


ずっと、言わないようにしていた言葉が……勝手に溢れ出してきた。


せつ菜「なんで……選ばれた貴方が……選ばれた技で……選ばれたポケモンで……──選ばれなかった私から、全てを奪うんですか……っ!!」


もう言葉が止まらなかった。


せつ菜「私だって、選ばれたかった……っ!!! 博士からポケモン図鑑を貰って、最初のパートナーを貰って、旅に出たかった……!! 私だって、そうしたかった……そうありたかった……」


──結局。
943 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:23:58.79 ID:A5BOh9Vw0

せつ菜「結局……貴方は選ばれたから、なんですか……? 私は選ばれなかったから……勝てないんですか……? そんなの……そんなのって……っ……」


力無く項垂れる私の背後から──


 「──……そうよね、酷いわよね」


女性の声がした。

聞き覚えのある、声だった。


せつ菜「果林……さん……?」

果林「酷い……酷すぎるわ……」


そう言いながら、彼女は私のことを後ろから抱きすくめる。


果林「選ばれた人間が……選ばれなかった人間をめちゃくちゃにする。……どんなに頑張っても、結局選ばれた人たちだけが、笑って、貴方たちの努力あざ笑う」

せつ菜「…………」

果林「可哀想なせつ菜……。でも、大丈夫よ、せつ菜……」


果林さんは私の頭を優しく撫でながら、私の耳元で、


果林「──私が、選んであげるから」


そう、言葉にした。


せつ菜「え……?」

果林「貴方に……『特別』な力をあげる」


『特別』──その言葉は……今の私には、あまりにも甘美な響きだった。


果林「私と一緒に、来なさい……せつ菜。私が貴方を──『特別』にしてあげる」

せつ菜「…………はい」


今の私は、その甘い毒に、抗う術を持っていなかった──


………………
…………
……
🎙

944 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:37:02.97 ID:A5BOh9Vw0

■Chapter047 『激闘! ヒナギクジム!』 【SIDE Kasumi】





かすみ「さて、今日はついにヒナギクジムに挑戦の日です!」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「ふふ、そうだね」

かすみ「昨日は1日お休みした分、かすみん元気全開! 気合い入りまくってるんだから!」
 「ガゥ♪」

しずく「うんうん、頑張ろうね♪」


昨日の朝方、ヒナギクに到着したかすみんたちは、もちろん宿に直行しました。

あまりに疲れていたのもあって、起きたら夕方……そこからジム戦に行くのもタイミングが悪いということで、結局その日は休息日ということにしたわけです。

お陰でたくさん寝られましたし、お肌もつるつる、髪もつやつや、乙女の尊厳も守りながら、元気全開、パワー全開でジムに挑むことが出来ますよ!

さあ、早速ジムにレッツゴーです!





    👑    👑    👑





かすみ「…………」


──『現在ジムリーダーは留守です』

お決まりの留守札がかかっている、ジムのドアを見て、かすみん思わずしかめっ面になります。


しずく「あはは……なんか、なんとなくこうなるかなーって気はしてたんだけど……」

かすみ「はぁ……かすみん呪われてるんですかねぇ……」
 「ガゥ?」

しずく「い、いっそ、このまま全ジム制覇出来ちゃうかもしれないよ……?」

かすみ「そんなジム制覇したくないよぉ〜……」


全部のジムで出鼻を挫かれるなんて嫌すぎます……。って言っても、結局後回しになっちゃったローズジムを含めたら、これで7個目ですからね……。

制覇も近い……。

ジムの前で項垂れるかすみんなんですが……そんなかすみんに向かって、


女の子1「あら……お前たち、ジム挑戦者かしら?」

女の子2「この時間……ジムリーダーは基本的にジムにいない……」


たまたま通りかかったっぽい、女の子たちが声を掛けてくる。

黒いゴスロリ服に身を包んだアッシュグレーの髪の女の子と、それとは対照的に白いゴスロリ服に長い黒髪を携えた女の子の二人組。

……この、いかにもな服装……オカルトマニアかな……?
945 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:37:55.36 ID:A5BOh9Vw0

かすみ「ジムリーダーはこの時間はいつも留守なんですか?」

女の子2「うん……この時間は基本留守」

しずく「どこかに出かけているんですか?」

女の子1「ええ……この時間はいつもグレイブガーデンにいるみたいよ」

かすみ「グレイブガーデン……?」

しずく「グレイブガーデンって……ヒナギクの北にある、墓地ですよね……?」

かすみ「え、墓地? お墓参りってこと……?」

女の子1「みたいね……毎日朝夕に欠かさず行っているみたいよ」

しずく「毎日……ですか」

かすみ「この町のジムリーダーは、随分マメな人なんですね……」

女の子2「ただ、誰のお墓参りなのかは誰も知らない。聞いても答えてくれないから」

女の子1「噂では、ここのジムリーダーは過去に“機関”に属していて、そのときに犠牲にしてしまった命への弔いだなんて言われているわ……」

しずく「き、“機関”……!? こ、ここのジムリーダーはまさか壮絶な過去を……」

かすみ「しず子〜……こういうの本気で相手しない方がいいよ〜……?」


オカルトマニアが言うことなんて大体適当なんだし……。


女の子1「まあ、信じる信じないはお前たちの勝手だけどね……行くわよ、咲良」

女の子2「うん……姉さん」


そう言い残して、二人は去って行ってしまった。


しずく「今の二人、姉妹だったんだね」

かすみ「この町……癖強い人が多いよねぇ……」


軽く周囲を見渡してみても、さっきの姉妹のようなゴスロリっぽい衣装の人や、魔女みたいな服装の人とか……今日は仮装パーティの日なのかと疑いたくなるような人たちがたくさんいる。


しずく「あはは……この町は南北を霊峰に挟まれてるからね……そっち系の人は多いらしいよ。……それで、どうする? ここでジムリーダーが帰ってくるの待つ?」

かすみ「うーん……」


かすみん少し悩みましたが、


かすみ「グレイブガーデンにいるって言うなら、行ってみよう。もしかしたら、また急用でジム戦出来ない〜とか言われたら嫌だから、直接捕まえるべきです!」

しずく「捕まえるって……ポケモンじゃないんだから……」

かすみ「とにかく! グレイブガーデンへレッツゴー!」
 「ガゥガゥ♪」


かすみんたちは、町の北にあるグレイブガーデンを目指します。



946 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:38:58.98 ID:A5BOh9Vw0

    👑    👑    👑





──グレイブガーデンはジムからそこまで遠くなくて、すぐにたどり着きました。


かすみ「うわ……一面お墓だらけ……」
 「ガゥ」

しずく「墓地だからね。……あんまり変なことすると呪われちゃうかもよ〜……?」

かすみ「ひぅっ!?」

しずく「ふふ、なーんて。冗談だよ。でも、お墓だから、いつもみたいにはしゃぎすぎないようにね?」

かすみ「お、脅かさないでよ! ま、まあ、別にかすみんそれくらいじゃ全く怖くないですけど〜? ゾロアもいるし……」
 「ガゥ?」

しずく「もう……じゃあ、なんで私の後ろに隠れるの?」

かすみ「ほ、ほら……しず子の背中になんか憑かないようにと思って……!」

しずく「ふふ、そっか、ありがとね」

かすみ「ほら、前に進まないと!」
 「ガゥ」

しずく「はいはい、わかりました」


しず子を盾──じゃなかった……しず子の背中を守りながら、グレイブガーデンを進んでいきます。


かすみ「それにしても……ホントにすごい数だね……」

しずく「厳しい環境の町だからね……開拓前は多くの人が亡くなったって言うし……」

かすみ「そうなんだ……」

しずく「人だけじゃなくて、ポケモンもね……。あと、この共同墓地はヒナギクの人やポケモンだけじゃなくて、地方のいろんな町から、お墓を建てに来る人がいるみたいだよ」

かすみ「確かに、セキレイではお墓ってあんまりないよね……」

しずく「特にポケモンのお墓はね。オトノキ地方以外でも、カントーのポケモンタワー、ホウエンの送り火山、シンオウのロストタワー、イッシュのタワーオブヘブン、アローラのハウオリ霊園とか……ポケモンを弔う場所は共同墓地として置かれてることが多いかな……」


しず子の説明を聞きながら、グレイブガーデンを進んでいくと、


しずく「あ……」

かすみ「むぎゅっ!」


しず子が急に足を止めた。そのせいで、しず子の背中に顔を押し当ててしまう。


かすみ「き、急に止まらないでよ……」

しずく「かすみさん、あの人じゃないかな」

かすみ「え?」


言われて、しず子の影から覗いてみると──確かに、お墓の前で手を合わせている女の子がいた。

赤紫の髪をツインテールに結っている女の子だ。


しずく「ちょうどお墓参りしてるところみたいだね」

かすみ「さすがに終わるまで待った方がいいよね?」

しずく「そうだね」


さすがにお墓参り中に話しかけるなんて、非常識な真似はしません。

少し離れた位置で見守ることにする。
947 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:39:51.00 ID:A5BOh9Vw0

女の子「…………」

かすみ「……真剣に手を合わせてますね」

しずく「よほど大切な人なのかもね……」


だとしても、これを毎日しているというのは、大変な気がする。

すごく優しくて、真面目な人なのかもしれない。

しばらく待っていると、女の子は目を開けて、立ち上がる。


女の子「──ごめんなさい、待たせたみたいね」

かすみ「はぇ……?」

しずく「もしかして、私たちに気付かれてました……?」

女の子「なんとなく気配でわかった」

かすみ「そ、そうですか……」


こうして目の前に立つ女の子は、背こそ低いものの、眼光は鋭く、立ち居振る舞いって言うんでしょうか……なんだか毅然としていて……簡単に言うと、なんか強そうな感じがします。


女の子「こうしてここまで私に会いに来たってことは……ジム戦に来たのよね」

かすみ「は、はい……!」

理亞「私は理亞。ヒナギクジムのジムリーダーよ」

かすみ「よ、よろしくお願いします! わ、私はかすみって言います!」

しずく「私はしずくです」

理亞「よろしく。あと貴方も」


そう言いながら、理亞先輩はゾロアの頭を撫でる。


 「ガゥ♪」

理亞「わざわざ迎えに来てくれてありがとう。すぐにジム戦の準備するから、ジムに行きましょう」

かすみ「は、はい!」


理亞先輩を先頭に、来た道を戻っていく。


しずく「そういえば、かすみさん……珍しくまともに自己紹介してたね」

かすみ「な、なんというか……ふざけちゃいけない空気を感じたというか……いや別に、かすみんがかすみんなのは、ふざけてるわけじゃないけどね?」
 「ガゥ?」

しずく「普段も挨拶のときくらいは、それくらい空気を読めればいいのに……」

かすみ「む……まるで普段が空気読めてないみたいじゃん」


全く、失礼なしず子ですね……!

かすみんがぷんぷんしていると、


理亞「それにしても、良いタイミングだった」


理亞先輩が話しかけてくる。
948 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:40:35.56 ID:A5BOh9Vw0

かすみ「良いタイミング……ですか?」

理亞「実は明日からローズに行くためにジムを空けようと思ってたから」

しずく「ローズにですか?」

かすみ「今、ローズはバタバタしてますよ?」

理亞「知ってる。中央区でテロがあったって。……ただ、姉がローズの病院に入院してるから、様子を見に行こうかと思って」

しずく「そういうことでしたか……」

理亞「もちろん病院の方は問題ないってことは聞いてるけど……一度見に行った方がいいと思ったから」


ってことは、かすみん珍しく、間がよかったみたいですね……!

最初留守札を見たときはまたかって思っちゃいましたけど……やっぱり、こういうときに日頃の行いが出るんですよね〜。


理亞「だから、もし挑戦に失敗しても、再戦は出来ないから」

かすみ「む……もちろん、かすみん1回で勝つつもりで来てますよ」

理亞「そ。でも、手加減するつもりとかないから」


なかなか自信家さんみたいですねぇ……でも、かすみんだって負けるつもりなんてありませんから!


かすみ「……そういえば、しず子」

しずく「ん、なに?」


かすみんは、理亞先輩に聞こえないように、こっそりしず子に耳打ちをします。


かすみ「理亞先輩って何タイプ使うの……?」

しずく「そこは私頼りなんだね……。えっと……理亞さんはこおりタイプのエキスパートだよ」

かすみ「こおりタイプ……」


ジュカインが苦手なタイプですね……。これはちょっと考えないといけないかも……。

作戦を練りながら、かすみんたちはヒナギクジムへ向かいます。





    👑    👑    👑





──ヒナギクジムに到着すると、理亞先輩は早速バトルスペースに赴きます。


かすみ「よろしくお願いします!」

理亞「ん、よろしく。使用ポケモンは4体。全員戦闘不能になったらその時点で決着だから」


めんどくさいやり取りは抜きで、お互いボールを構える。


理亞「これ……一応、戦う前に言うやつらしいから。ヒナギクジム・ジムリーダー『無垢なる氷結晶』 理亞。負けて、泣かないようにね」


両者のボールがフィールドに放たれて──バトル、開始です!!



949 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:41:21.25 ID:A5BOh9Vw0

    👑    👑    👑





理亞「行くよ、マニューラ」
 「マニュッ!!!」


理亞先輩の1匹目はマニューラ。対するかすみんは、


かすみ「さぁ、行きますよ! ジュカイン!」
 「カインッ!!!」

しずく「い、いきなりジュカイン!?」


驚きの声をあげるしず子。こおりタイプはジュカインにとっては苦手な相手です。

最後の1匹に残して、相性不利のまま戦うくらいなら、最初に全力で戦ってもらって、数を削る方が得策と考えました。


理亞「へぇ……こおりタイプのジムでくさタイプ先発……いい度胸してる」

かすみ「相性が悪くても、当たらなければ問題ありません! かすみんのジュカインは速いですよ!」
 「カインッ!!」

理亞「そ。でも──もう、当たりそうだけど」

かすみ「え……!?」


気付いたときには、フィールド上からマニューラの姿が掻き消えていた。

フィールド全体を見渡しても、マニューラの姿はどこにも見えない。

そんな中──突然かすみんの頭上に影が差した。


かすみ「!? 上!?」

理亞「“つららおとし”!!」

 「マニュッ!!!!」


ジュカインの真上に跳躍したマニューラは冷気を放ち、それを塊にして降らせてくる。


かすみ「“リーフブレード”!!」
 「カインッ!!!!」


でも、動き出しで負けても、ジュカインがスピード自慢なのには変わりありません!

落ちてくるつららを1本ずつ正確に切り落としていく。


かすみ「これなら、捌ききれ──」

理亞「──ると思う?」


大量のつららに紛れて──


 「マニュッ!!!!」

かすみ「!?」


マニューラが爪を構えながら、降ってくる。


理亞「“きりさく”!!」

 「マニュッ!!!!」

 「カインッ…!!!」
950 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:42:06.37 ID:A5BOh9Vw0

マニューラは鋭い爪で、ジュカインの胸部を切り裂きながら、床に着地する。


かすみ「着地隙逃がしちゃだめ!! “アイアンテール”!!」
 「カァ、インッ!!!!」


ジュカインは床を踏みしめながら、体を捻って前方に着地したマニューラに向かって大きな尻尾を振るう。

でも、


理亞「遅すぎ」

 「マニュッ!!!」


マニューラはすぐにジャンプをして、尻尾を回避し、さらに、


理亞「“トリプルアクセル”!!」

 「マニュ、マニュ、マニュッ!!!!!」


跳ねながら回転し、3連続キックを繰り出してくる。


 「カインッ!!!?」


身を捻って向けた背に、氷の蹴撃を食らって、ジュカインがうつ伏せに倒れる。


かすみ「ジュカイン!?」

理亞「トドメ……! “れいとうパンチ”!!」

 「マニュッ!!!!」


倒れたジュカインの背に向かって、“れいとうパンチ”が迫る。


かすみ「わ、“ワイドブレイカー”!!」
 「…!!! カインッ!!!!」

 「マニュッ!!!?」


咄嗟に尻尾を大きく振るって、マニューラを迎撃する。


理亞「ちっ……仕留めそこなった」

 「マニュッ…!!!」


“ワイドブレイカー”が当たりこそしたものの、こちらも体勢が悪い状態での攻撃だったため、大きなダメージにはなっていない。

マニューラは軽い身のこなしでフィールドに着地しながら、


理亞「“つるぎのまい”」
 「マニュッマニュッ!!!!」


“ワイドブレイカー”で下げられた攻撃を元に戻している。

ジュカインもすぐさま、全身のバネを使って起き上がり、迎撃態勢を取るけど──完全に劣勢だ。


かすみ「せめて、一瞬でも隙が作れれば……」


かすみんはチラりとジムの天窓を見る。

寒い寒いヒナギクシティだけど、日中になればちゃんと日が照ってくれる。

“ソーラーブレード”さえ叩き込めれば勝機はあるんだけど……。


かすみ「……あ」
951 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:43:38.75 ID:A5BOh9Vw0

……かすみん、良いこと考えついちゃいました。

ソーラーの使い道は“ソーラーブレード”だけじゃありません……!


理亞「マニューラ、“こうそくいどう”」
 「マニュッ!!!」


またマニューラの姿が掻き消える。

確かにめちゃくちゃ速いです。全然目で追えない。

……でも、


かすみ「目で追えなくても、目で追われてればいいんです!」

理亞「……は?」


理亞先輩がかすみんの言葉に怪訝な顔をした瞬間、


 「マニュッ!!!!」


マニューラがジュカインの頭上後方から飛び掛かってくる。

完全な死角からの高速奇襲。絶対回避不可能な位置関係だけど──


かすみ「“フラッシュ”!!」
 「カインッ!!!!」


ジュカインは自身に溜まっている太陽のエネルギーを光にして、一気に放出する。


 「マ、マニュッ!!!?」

理亞「な……!?」


至近距離での強烈な閃光を受け、驚いたマニューラはそのまま、地面に落っこちる。

ジュカインは、目を潰されて隙だらけになったマニューラの頭上に尻尾を振り上げる。


かすみ「“アイアンテール”!!」
 「カインッ!!!!」

 「マニュッ!!!!?」


今度こそ、“アイアンテール”を頭上から直撃させた。


 「マ、マニュ…」


鋼鉄の尻尾を叩きつけられたマニューラはあえなく戦闘不能。


理亞「……戻れ、マニューラ」

かすみ「よし!! まず一勝です!!」

理亞「マニューラは素早い代わりに、防御が弱い……やられた」

かすみ「さぁ、この調子で行きますよ! 早く次のポケモンを出してください!」

理亞「それはそっちもね」

かすみ「……え?」


直後──


 「カインッ…」
952 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:44:20.26 ID:A5BOh9Vw0

ジュカインが崩れ落ちた。


かすみ「え、ええ!? ジュカイン!? どうしちゃったの!?」

理亞「熱くなりすぎて、気温の変化に気付いてないんじゃない?」

かすみ「へ……?」


言われてみれば……。


かすみ「な、なんか……さ、寒い……?」

しずく「……! まさか、“こごえるかぜ”……?」

かすみ「え?」

理亞「マニューラは場に出たときから、ずっと“こごえるかぜ”で少しずつフィールドの気温を下げながら戦ってた。ジュカインは寒さに弱いから、それでじわじわ体力が削られてたことに気付いてなかったみたいね」

かすみ「う、うそぉ……」


せっかく、大逆転したと思ったのに……。


理亞「さ……仕切り直し」

かすみ「くぅ……戻って、ジュカイン」


ジュカインをボールに戻す。

さすがに6人目のジムリーダーともなると、一筋縄ではいかなさそうです……!


かすみ「行くよ、ヤブクロン!」
 「──ヤブゥッ!!!」

理亞「バイバニラ、よろしく」
 「──バニーラ♪」「──バニーラ♪」


理亞先輩の2匹目のポケモンが現れると同時に──ジム内に“ゆき”が舞い始める。


かすみ「わ!? なんか、“ゆき”が降ってきた!?」

しずく「かすみさん! 特性“ゆきふらし”だよ!」

かすみ「ゆ、“ゆきふらし”……」


かすみん、確認のために図鑑を開きます。

 『バイバニラ ブリザードポケモン 高さ:1.3m 重さ:57.5kg
  体温は マイナス6度 前後。 水を 大量に 飲み込んで
  体内で 雪雲を 作る。 2つの頭 それぞれに 脳があり
  両者の 意見が 一致すると 猛吹雪を 吐いて 敵を 襲う。』


かすみ「めっちゃ冷たいポケモンだってことはわかりました……。もたもたしてると氷漬けですね……! なら、さっさと倒しちゃいましょう! “ヘドロばくだん”!!」
 「ヤーーーーブッ!!!!!」


ヤブクロンがヘドロの塊を球状にして発射する。

相手のバイバニラはさっきのマニューラとは打って変わって、動きが速い感じはしない。

避ける素振りも見せず、攻撃が直撃するかと思った瞬間──パキンと音を立てて、“ヘドロばくだん”が凍り付いた。


かすみ「んなっ!?」

理亞「“フリーズドライ”で凍らせた」


“ヘドロばくだん”は炸裂することなく、空中で急激に冷やされたあと、バキリと真っ二つに割れ、バイバニラに当たることなく落ちてしまった。
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