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侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」
- 818 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:36:24.22 ID:S2FBcmzU0
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善子「か、かすみ……?」
かすみ「むしろ、なんでそんな大事なこと、今の今まで黙ってたんですかっ!!」
善子「え、えっと……」
しずく「そのとおりです、ヨハネ博士」
善子「しずくまで……」
しずく「もちろん私たちは、その菜々さんにはなれません……ですが、意志を受け継ぐことくらい出来ます」
かすみ「菜々先輩の分まで、かすみんたちが立派なトレーナーになってやりますよっ!! 当り前じゃないですかっ!!」
善子「貴方たち……」
力強く、自分たちの意志を示す、かすみちゃんとしずくちゃん。
歩夢「……博士」
善子「歩夢……?」
歩夢「私……実はずっと、どうして自分が選ばれたのかわからなくて、悩んでました。だけど……この旅で、侑ちゃんと一緒にいろんな場所を巡って、いろんな人と会って、戦って、ポケモンたちと友達になって──ちょっとずつだけど、自分が旅で出た意味がわかってきた気がするんです」
善子「……」
歩夢「それに、今の話を聞いて……もっともっと、博士が選んでくれたことを誇りに思おうって、今はそう思ってます。もしどこかで……私たちの先輩──菜々さんに会ったときに恥ずかしくない私になれるように……」
善子「貴方たち……っ……」
ヨハネ博士は目頭を押さえて、顔を背ける。
曜「……ふふ。ちゃんと言ってよかったでしょ?」
曜さんがそう言いながら、博士の背中をポンと叩く。
曜「善子ちゃんが選んだこの子たちは、確実に信用出来る強さを持った、立派なトレーナーに成長していってるよ」
善子「うっさいバカ……当たり前じゃない……っ……。この子たちは、私が選んだリトルデーモンなんだから……っ」
曜「あはは、ホント素直じゃないんだから」
やれやれと言った感じで、曜さんが優しく笑う。
侑「ヨハネ博士」
善子「……侑」
侑「私は歩夢のお陰で偶然図鑑を貰っただけかもしれません……だけど、私も今の話を聞いて、博士の力になりたいって思いました。私も博士から図鑑を貰った人間として、この研究所から旅立ったトレーナーとして、一人の図鑑所有者として恥ずかしくないトレーナーを目指します!」
リナ『私、侑さんと一緒に頑張る! リナちゃんボード「ファイト、おー!」』 || > ◡ < ||
善子「侑もリナも……ありがとう。そう言ってくれて嬉しいわ」
ヨハネ博士は涙を拭いながら、お礼の言葉を返してくれる。
かすみ「そうとなったら、もたもたしてられませんね!! かすみん、菜々先輩の代わりに最強のトレーナーになっちゃいますよ!!」
しずく「目指すはローズシティだね!」
侑「残るジムは、あと3つ……!」
歩夢「セキレイから北の、オトノキ地方の残り半分……どんなポケモンに会えるかな?」
リナ『きっと、みんなとなら、素敵な冒険が待ってる!』 || > ◡ < ||
私たちは、決意を新たに──ローズシティに向かって旅立ちます……!!
- 819 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:37:09.00 ID:S2FBcmzU0
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😈 😈 😈
善子「……あの子たち、行っちゃったわね」
曜「よかったね、善子ちゃん」
善子「……ヨハネだってば。……それにしても……子供たちの成長は、早いわね」
曜「そうだね。旅立った頃からは比べ物にならないくらい逞しくなってたね。……鞠莉さんも案外こういう気持ちだったのかもね」
善子「そうね。当時のヨハネの成長は目を見張るものがあっただろうし」
曜「ふふ♪ ルビィちゃんも、花丸ちゃんも、梨子ちゃんも、千歌ちゃんも──私も。みんな旅の中でいろんな経験したもんね」
善子「……ええ」
なんだか、自分たちが旅をしていた頃が、遠い昔のように感じる。
善子「……菜々。貴方の意志は貴方の後輩たちが受け継いでくれるって……」
私はそう独り言ちた。
今、彼女がどうしているかはわからない。
でも、きっと……あの子の想いは無駄になんてならない。ちゃんと、繋がったから。
今は少しだけ、そう思えて……心が救われたような気分だった。
- 820 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:37:48.31 ID:S2FBcmzU0
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>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【セキレイシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
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||. | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
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||. | | .__ \ : .||
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||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
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||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.44 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.44 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.41 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.36 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
タマゴ なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
ルガルガン♂ Lv.83 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:153匹 捕まえた数:5匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.41 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.38 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.36 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
タマザラシ♀ Lv.31 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラエッテ♀ Lv.24 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:155匹 捕まえた数:16匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.40 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.37 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.37 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.33 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.34 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:149匹 捕まえた数:8匹
主人公 しずく
手持ち ジメレオン♂ Lv.30 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
マネネ♂ Lv.23 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アオガラス♀ Lv.30 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロゼリア♂ Lv.30 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
キルリア♀ Lv.29 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:156匹 捕まえた数:9匹
侑と 歩夢と かすみと しずくは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 821 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2022/12/08(木) 18:34:12.95 ID:Vi/9troWO
- 『続・マジ強パーティー出来たから見てくれ。』
SVレート(シングル)/ハイボ〜マスボ級:Round.4
(19:00〜放送開始)
https://youtube.com/watch?v=vTP4Azqbcww
- 822 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 03:08:03.99 ID:9oar5n900
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■Intermission😈
曜「そういえばさ、善子ちゃん」
善子「ヨハネだって言ってんでしょ。ってかあんた、いつまでいるのよ」
曜「千歌ちゃんのルガルガンから、何のデータ取ってたの?」
善子「聞きなさいよ!!」
全く、このヨーソローは本当に昔から私の話を聞かないのよね……。
善子「えっと……千歌のルガルガンって特殊個体でしょ?」
曜「うん。なんかこの地方にはあんまりいないんだっけ……?」
善子「今確認されてるのは進化見込みのイワンコを含めて9匹だけね」
曜「少ないって聞いてたけど、そんなに少ないんだ……」
善子「しかも、3年前に突然生まれたのよね……」
一応原因は──地方の危機を察知したルガルガンたちが、生存本能から特殊な変異個体を生んだんじゃないか……なんて言われてるけど、実際のところはまだ調査中だ。
ルガルガンたちの縄張りで問題が起こってしまったため、特殊なイワンコたちは派遣された調査団によって保護され……グレイブ団事変解決後にはパタリと生まれなくなったらしい。
曜「じゃあ、それの真相究明みたいな?」
善子「それもあるけど……私の研究テーマ、覚えてる?」
曜「えーっと……人とポケモンの関わりの文化……だっけ?」
善子「そう。……ポケモンの中には、いろんな姿を持ってる種類がいるでしょ?」
曜「オドリドリとか、ポワルンとか……それこそ、ルガルガンもだよね」
善子「ええ。オドリドリのように、アイテムによって姿を変えるポケモン。天候によって姿を変えるポワルンやチェリム。ルガルガンのように、進化の際に別の見た目になるものもいる」
曜「確か……カラナクシなんかは、地方によっては違う姿があるんだよね」
善子「水色の個体ね。この地方にはピンク色の個体しかいないからね。ガラルやシンオウで見られる姿らしいわ」
曜「そうなんだ」
善子「あとは♂♀で姿が違うポケモンもいるわ」
曜「ニャオニクスとかイエッサンとか?」
善子「それもそうだけど……もっと明確に違うのは、ニドランやバルビート、イルミーゼね」
曜「え、あれって姿の違いなの?」
善子「ポケモン図鑑だと一応別種って扱いになってるけど、生物学的にはほぼ同じ種類って考えられてるのよ」
実際、イルミーゼのタマゴやニドラン♀のタマゴからは、バルビートやニドラン♂が生まれるしね。
- 823 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 03:08:42.21 ID:9oar5n900
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善子「それと──メガシンカも」
曜「メガシンカもなの?」
善子「当然よ。そして、メガシンカはトレーナーとのキズナの力によって姿を変えるわけだけど……」
曜「うん」
善子「極稀に……メガシンカとは違う方法で、姿を変えるポケモンがいるらしいの」
曜「メガシンカと違う……? “キーストーン”と“メガストーン”を使わないってこと?」
善子「ええ。……“キーストーン”や“メガストーン”を介さずに、ポケモンとの強いキズナで同調して、力を引き出すポケモンがいるらしいのよ」
曜「……なんかずいぶんふわふわしてるね?」
善子「何分資料がほとんどないからね……。数百年に一度確認されることがあるとかないとか……“キズナ現象”って呼ばれてるってことだけはわかってるんだけど」
曜「つまり、善子ちゃんは今……その“キズナ現象”って言うのについて研究してるんだ」
善子「そういうこと。ただ、あまりに情報が少なすぎてね……もしかしたら、特殊な姿をしている個体なら何か関係があるかもって思って、千歌のルガルガンを調べさせてもらってたってわけよ」
曜「なるほどね。それで、何かわかったの?」
善子「……正直収穫としては微妙ね。まあ、これでわかったら最初から苦労してないしね」
研究とは得てして地道なものだ。これくらいのことでへこたれている場合じゃない。
善子「でも……“キズナ現象”は人とポケモンの関わり合いの文化の中では、重要なファクターになってくるはずよ……」
それこそ、人とポケモンが関わり合いの中で、新たな力に目覚めるなんて、まさに私の研究したいことそのものなのだ。
もしその謎の解明が出来れば……人とポケモンはさらに一歩先に進めるんじゃないか。そんな気がする。
真剣な顔をしながら、次のことを思案していると、
曜「ふふ、善子ちゃん、すっかり研究者さんなんだね」
曜は笑いながら言う。
善子「前から研究者よ。あとヨハネだって言ってるでしょ」
曜「ごめんごめん。“キズナ現象”、解明出来るといいね」
善子「任せなさい。ヨハネが絶対解明してみせるんだから……!」
………………
…………
……
😈
- 824 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:30:29.69 ID:9oar5n900
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■Chapter042 『菜々──せつ菜』 【SIDE Setsuna】
──カーテンクリフで修行していた私は、急な仕事が入ったため、一旦ローズシティへと帰ってきていた。
どうやら、直近の会議の中でスケジュールそのものを調整しなくてはいけないらしく、それなら秘書である私も同席せざるを得ない。
会議は明日の朝一からあるため、前日のうちにローズへ戻ってきたというわけだ。
せつ菜「三つ編み……大丈夫。髪留めも……よし。ちゃんと外してる」
手鏡で自分の姿を確認。
あとは……ポケモンたち。
せつ菜「みんな、窮屈かもしれないけど……少しの間、我慢してくださいね」
ボールをベルトごと外して、カバンに入れる。
最後に、上着のポケットから眼鏡を取り出して──
ユウキ・せつ菜は……ナカガワ・菜々になる。
菜々「……ふぅ」
小さく息を整えてから、私は──久しぶりに帰ることになった自宅を目指して、歩き始めた。
🎙 🎙 🎙
菜々「……ただいま」
菜々母「あら、菜々。おかえり」
帰宅して、自宅のリビングへ赴くと、母親が紅茶を飲みながら映画鑑賞をしているところだった。
ただ、ポケウッドでやっているような溌剌なものではなく、いかにも貴婦人が好みそうな洋画であることが、今ワンシーンをちらりと見ただけでもよくわかった。
なんというか……いつものお母さんの昼下がりだ。
菜々「……お父さんは?」
菜々母「お仕事よ。平日だもの。今日は遅くなるみたいで、帰ってくるのは深夜になるって言ってたわ」
菜々「……そっか」
今日帰ることは予め連絡していたんだけどな……。
久しぶりに娘が帰ってきたというのに、仕事熱心なようで何よりだ。
菜々母「それより菜々こそ、お仕事の方はどう? 順調?」
菜々「うん。真姫さんも優しいし……仕事もやりがいがあって楽しいよ」
菜々母「なら、安心だわ。あの真姫お嬢様の秘書になるって聞いたときは驚いたけど……誰もが出来る仕事じゃないものね。お母さんも誇らしいわ」
そう言いながら、ニコっと笑うお母さん。
菜々母「今日は菜々の好きな物、作ってあげるわ♪」
菜々「うん、ありがとう。楽しみにしてるね」
- 825 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:31:18.25 ID:9oar5n900
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私は簡潔に返事をして、踵を返す。
菜々「ちょっと疲れてるから……部屋で休むね」
菜々母「そう? それじゃあ、夜ごはんになったら、部屋まで呼びに行くわね」
菜々「うん」
🎙 🎙 🎙
普段は真姫さんの手配してくれた社員寮で寝泊まりしている──ということになっている──ため、家に帰ってくること自体が随分久しぶりだ。
──そんな久しぶりの自室。
一息吐くために、荷物を置いて、使い慣れた机に向かって腰を下ろす。
久しぶりに帰ってきたというに妙にしっくりくるのは、何度もこの机で勉強をしてきたからだろう。
回転椅子の上で振り返り、久しぶりの自室を見回すと──本棚にはたくさんの参考書たち……そして、賞状やトロフィーが飾られている。
読書感想文や、スクールで主席に送られるもの。陸上で表彰されたときのものや……文武問わずいろいろなモノがある。
これも全て、幼い頃から両親の期待に必死に応え続けてきた結果……。
だけど──そこにポケモンに関わるモノは一つものなかった。
菜々「…………」
まるで私──ナカガワ・菜々という人間の歴史全てを物語っているような部屋だと思った。
幼い頃から、ナカガワ・菜々の生活の中には、驚くくらいにポケモンが存在していなかった。
スクールに入るまで、実際にポケモンを目にしたことがなかったし、そういうものがいる、くらいの認識しかしていなかったと言えば、その異常さがわかるかもしれない。
ほぼフィクションの存在。私にとっては全てのポケモンが伝説の存在のようなものだった。
ただ……この世界でそんなことが可能なのか? 今では、そう思う。
この世界では……至る所にポケモンが居る。それはもう、数えきれないくらいに。
そんな重度の箱入り娘を作り上げたのは、他でもない──両親の影響だったというのは言うまでもないだろう。
両親は父母二人揃って、ポケモンが苦手だと聞く。……特に父親は相当なポケモン嫌いらしく、母親が話題に出すことを忌避するくらいだ。
どうやら、父は小さい頃にポケモンに襲われたことがあるらしく……それ以来、ポケモンを毛嫌いしている節があるそうだ。
そんな家で育ったが故に……私は、酷くポケモンと遠ざけられて育ってしまった。
お陰で我が家ではポケモンの話をしたことは、一度もなかった。
そんな私がポケモンに興味を持ったのは──忘れもしない……3年前。
世に言うグレイブ団事変と言われる大事件でのこと。
街中にゴーストポケモンが大量発生し、ポケモンに耐性のない人が多いこのローズシティは大パニックに陥った。
それは私たちも例外ではなく……民家であろうが、お構いなしに壁をすり抜け侵入してくるゴーストポケモンから逃げる母親に手を引かれて、逃げ惑うことになった。
- 826 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:31:57.22 ID:9oar5n900
-
──────
────
──
菜々「はぁ……はぁ……」
菜々母「菜々、頑張って走って……!!」
息が切れて、苦しかった。
もう何時間逃げ回っているんだろうか。
もういい加減休みたかった。
ただ──ゴーストポケモンは人の命を奪うらしい。
それが恐ろしくて、怖くて、ただ逃げていた。
ただ、ずっと走り続けていれば、体力に限界は来るもので、
菜々「……あっ!」
菜々母「菜々……!?」
私は足をもつれさせて、転んでしまった。
菜々「……っ……」
菜々母「菜々、大丈夫……!?」
菜々「う、うん……。……っ゛……!」
立ち上がろうとすると、足に痛みが走った。
足をくじいてしまったらしい。
どうにか立ち上がろうとしていた、矢先、
菜々母「きゃぁぁぁっ!!」
お母さんが私の背後を見て、悲鳴をあげた。
恐る恐る振り返ると──
「サマヨーー…」
一つ目のゴーストポケモンが私の背後に立っていた。
菜々「……ヒッ!」
私は転んだまま、強引に足を引きずって、どうにか距離を取ろうとするけど、
「サマヨーー」
ゴーストポケモンは一歩一歩にじり寄ってくる。
怖くて怖くて仕方なかった。
「サマヨーー」
そのゴーストポケモンは、大きな手を私に伸ばしてくる。
もうダメだと思った。
そのとき──
- 827 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:32:51.83 ID:9oar5n900
-
「──“バレットパンチ”!!」
「ハッサムッ!!!!」
「サマヨォッ!!!!?」
弾丸のような速度で、真っ赤なポケモンが、ゴーストポケモンを殴り飛ばしていた。
そして、それと同時に、一人の女性が駆け寄ってくる。
女性「大丈夫!?」
菜々「は……はい……っ」
菜々母「あ、ありがとうございます……!!」
気付けば周囲では、その女性以外にも、駆け付けた“ポケモントレーナー”と呼ばれる人たちが、ゴーストポケモンたちと応戦を始めていた。
女性「ポケモンは私たちがどうにかするから、早く行きなさい!」
菜々母「は、はい……! 菜々、立てる?」
菜々「う、うん……」
お母さんに肩を貸してもらって、私は足を引きずりながら歩き出す。
菜々母「お父さんの会社まで行けば、きっと安全だから……! 頑張って……!」
菜々「う、うん……」
ローズの大きな会社は災害時にも機能を失わないために、非常に頑丈なつくりをしている。
父の会社も例外ではなく、しかもゴーストポケモンが侵入出来ないように、特殊な磁場で防ぐ機構もあるそうだ。
そこを目指して、再び進み始める。
菜々母「きっと、大丈夫だからね、菜々……!」
菜々「うん……」
私は逃げながら──ふと、今助けてくれた人の方を振り返る。
女性「“バレットパンチ”!!」
「ハッサムッ!!!!」
「ゴスゴスッ!!!?」
女性は今も懸命にゴーストポケモンたちを撃退し続けている。
いや、その人だけじゃない……。
男性トレーナー「キリキザン! “メタルクロー”!!」
「キザンッ!!!」
女性トレーナー「クチート! “アイアンヘッド”!!」
「クチッ!!!」
たくさんのトレーナーたちが、街の人を守るために、戦っていた。
私はその姿を見て、心の底から……思った。
菜々「──……かっこいい……!」
──
────
- 828 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:33:25.80 ID:9oar5n900
-
今までポケモンをほぼ見たことすらなかった私にとって、その経験は今までの人生全ての価値観をひっくり返してしまうほどに、衝撃的だったのは言うまでもない。
この頃には、両親がポケモン嫌いなことに気付いていたものの……私は湧き上がる好奇心とトレーナーへの強い憧れを抑えることが出来なかった。
両親に隠れて、図書館でポケモンバトルを題材にした作品を読み漁り、スクールの帰りにこっそり街の隅にあるバトル施設を見に行ったりもした。
そこには、私の知らない世界が広がっていた。
トレーナーがポケモンと力を合わせて、ぶつかり合い、競い合い──切磋琢磨し合う……そんな世界。
私は一瞬で、ポケモンとポケモントレーナーという存在の虜になった。
そして、そんな私がその次に考えることは、もちろん──
菜々「──私も……ポケモントレーナーになりたい……!!」
止め処なく溢れる熱い感情に突き動かされ、私はどうすれば自分がポケモントレーナーになれるかを必死に考えた。
調べて調べて調べて……そして、たどり着いたのが、
菜々「ツシマ研究所……新人用ポケモンと……ポケモン図鑑……」
ヨハネ博士だった。
ヨハネ博士は連絡を取ると、私のことを歓迎してくれて、私を旅立ちのトレーナーとして、選んでくれた。
嬉しかった。
ただ、懸念はあった。
もちろん、両親のことだ。
果たしてあの両親が……特に父親が私の旅立ちを認めてくれるのだろうか。
勢いで旅立ちを決めてしまったけど……許してもらえるんだろうか。
怖かったけど……。
菜々「……説得するんだ」
そのときの私は、きっとこの気持ちを真っすぐ伝えればわかってくれるなんて、そんな甘いことを考えていた。
──
────
菜々「お母さん、お父さんいつ帰ってくる……?」
菜々母「お父さん? そうね……今日も遅くなるんじゃないかしら」
菜々「そっか……」
菜々母「何か話があるなら、私が伝えておくけど……」
菜々「うぅん、お父さんがいるときに、直接伝える」
菜々母「そう?」
多忙な父とはなかなかタイミングが合わず……気付けば、旅立ちの日が迫っていた。
そんな中──父が休みの日に、やっと話が出来るタイミングがあって……。
菜々「よし……今日、お父さんに話すんだ……!」
ギリギリになっちゃったから……叱られるかな。こんな急だと、さすがに来週に旅に出る……なんてことを許してもらうのは急すぎて無茶かもしれない。
でも、今はとにかく気持ちをちゃんと伝えなくちゃ……!
自室でそう意気込んでいると──コンコンとドアがノックされた。
菜々父「菜々」
- 829 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:34:24.48 ID:9oar5n900
-
父の声だった。
菜々「は、はい……!」
意気込んでいたところだったから、少し面食らったけど、私は慌ててドアを開く。
開いたドアの向こうに立っていた父は、私の姿を確認すると、
菜々父「私の部屋に来なさい」
それだけ言うと踵を返してしまう。
菜々「……お父さん……?」
私は言われるがままに、父の書斎へ足を運ぶ。
書斎に入ると、父は鋭い視線で私を見つめていた。
なんだか、背筋が凍るような視線だった。
……でも、今しかない。
菜々「…………あのお父さん、実は話が……」
菜々父「最近、誰かとしきりに連絡を取っているようだな、菜々」
菜々「え、あ……うん。……そのことについてなんだけど……」
菜々父「ツシマ研究所だそうだな」
菜々「……!? し、知ってたの……?」
菜々父「最近様子がおかしいと、お母さんから聞いた」
どうやら、お母さんに電話しているところを聞かれていたらしい。
頻繁に連絡を取っていたし……様子がおかしいことに気付いていたなら、不思議なことでもないかもしれない。
菜々父「ポケモンを貰って旅に出る……か」
菜々「う、うん……!」
菜々父「今すぐにでも断りの連絡を入れないといけないな……」
菜々「……え」
一気に血の気が引いた。
菜々父「……今からツシマ研究所に連絡するから、ポケギアを取ってきなさい」
菜々「え、あ……いや……」
菜々父「早くしなさい。わざわざこのために仕事を休んだのだから」
菜々「……ま、待って……わ、私……」
菜々父「早くしなさい」
菜々「……っ!」
静かな口調だった。
静かで……とても、強い口調。
有無を言わせない、そんな、口調。
菜々「……は……はい……っ……」
- 830 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:35:51.35 ID:9oar5n900
-
──ああ、私……なんで説得出来るなんて思い上がってしまったんだろう。
取り付く島なんて、どこにもなかった。
私がトレーナーになれる可能性なんて──最初からなかったんだ……。
──
────
──────
菜々「…………」
なんだか、辛いことを思い出してしまった。
ヨハネ博士に断りの連絡を入れたその日の深夜に、私は親が寝静まったあと……ヨハネ博士に一度だけ電話をした。
励ましてくれて、『ヨハネが説得してあげるわ……!!』──そう言ってくれた博士の言葉に勇気を貰って、もう一度だけお父さんに話をしたけど……それが逆鱗に触れてしまったのか、ポケギアを没収され、連絡する手段すらも失ってしまった。
あの後……ヨハネ博士に会った──というか、見かけたのは1回だけ……ポケモンリーグ本選の会場で見かけたとき。
そのときは、思わず声を掛けそうになってしまったけど……。
今更、どの面を下げて話せばいいのかもわからず……結局、話しかけることは出来なかった。
何より……そのときの私は菜々ではなく──せつ菜でしたし。
菜々「……そう考えると……今が信じられないな……」
あのときはもう本当に、一生ポケモントレーナーになれないんだと思っていたから。
あの人が──私に“せつ菜”をくれたから。
──prrrrrr!!!!
菜々「あ、電話……」
仕事を始めてから、再び持たせてもらうようになったポケギアには──今思い浮かべていた人の名前が書かれていた。
菜々「はい、菜々です」
真姫『菜々、明日のことだけど……』
菜々「大丈夫ですよ、もうローズに戻っていますから」
真姫『急だったのに対応してくれてありがとう』
菜々「いえ、これも仕事ですから、気にしないでください。……ですが、本当に急でしたね」
真姫『なんでも先方がちょっと特殊な業種の人らしくて……』
菜々「特殊な業種……ですか?」
真姫『ええ。モデルらしいわ』
菜々「モデルさん……?」
真姫『今度のビジネス発表会に出てくれることが急に決まったらしくて……諸々の擦り合わせをしなくちゃいけなくてね……』
菜々「なるほど……」
確かにそうなると、両者で確認をしながら、直接スケジュールを押さえる必要が出てくることもあるだろう。
- 831 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:36:49.51 ID:9oar5n900
-
真姫『今は寮?』
菜々「いえ、実家です」
真姫『実家なの……?』
菜々「はい。たまには顔くらい見せないと……両親に悪いですし……」
真姫『大丈夫……?』
菜々「ふふっ、大丈夫も何も、自分の家ですよ」
真姫『それはそうだけど……』
菜々「心配してくれて、ありがとうございます。……お父さんもお母さんも、厳しいですけど……私のことを想って言ってくれてるだけですから」
そんなお父さんとは会えそうもないですけど……。
真姫『そう……。……でも無理はしちゃダメよ』
菜々「はい、ありがとうございます」
いろいろと事情を知っている真姫さんは、何かと気遣ってくれる。
彼女には本当に頭が上がらない。
真姫『それと今日の午後から天気が崩れそうだから、気を付けてね。それじゃ』
菜々「はい」
通話が切れる。
ふと窓から外を見ると──真姫さんの言うとおり、空は曇天に覆われていた。
菜々「これは……確かに天気が崩れそうですね……」
あまり酷くならないと良いのですが……。
🍅 🍅 🍅
真姫「…………」
菜々との通話を終えて、私は少し複雑な気分だった。
菜々は……なんというか、危うさがある。
優しすぎると言うか……真面目すぎるというか……無垢というか……一切ズルさがないのだ。
まあ……だからこそ、面倒を見ている節はあるのだけど……。
梨子のことと言い、私はどうやら、ああいう子たちを放っておけない性質らしい。
──────
────
──
- 832 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:37:42.66 ID:9oar5n900
-
──菜々と出会ったのは、ローズシティの外周区にあるポケモンバトル施設でのことだった。
私はローズジムのジムリーダーとして、たまに街のバトル施設に視察に赴くことがある。
グレイブ団事変ではっきりしたが……この街は有事の際に戦えるトレーナーが非常に少ない。
ローズシティの人とポケモンの住み分けをしっかり行う考え方にはそこまで反対する気はないが、少し極端な考えを持った人が見られるのは難しいところだ。
ただ……どうしても、ポケモンが苦手な人というのも居て、そういう人たちがローズに集まってくるからこそ、そういう文化が形成されやすいのは仕方のない話なのかもしれない。
ポケモンが苦手な人間に、無理にポケモンと触れ合えというのもまた道理の違った話なので、ポケモンリーグに所属するジムリーダーの一人としては──この街に今いるトレーナーたちを大切にすることが重要だと考えている。
だから、こうして折を見て、視察を行っているわけだ。
セキレイほどではないが、こうしてローズのバトル施設を訪れると、そこそこの数の人が居る。
人口比率で言うとやや物足りないのかもしれないが……それでも、こうしてバトルに興味を持ってくれている人がいるのは良いことだ。
観戦席から、トレーナーたちの戦っている様を観察していると──
「……違う、私だったら……ここは“シャドーパンチ”……ああ……だから言ったのに……」
何やら、ぶつぶつと言いながら観戦している少女がいることに気付く。
──結論から言うと、この子が菜々だった。
フィールドを見ると、ゴーストの放った“シャドーボール”をソーナンスが“ミラーコート”で反射して、ゴーストがやられてしまっているところだった。
……確かに、彼女の言うとおり相手のソーナンスからしたら、“ミラーコート”をしたいというのはわかりきっている盤面。
“シャドーパンチ”なら、意表を付けるし、仮に“カウンター”をされても、かくとうタイプだからゴーストにはダメージがない。
ただ……。
真姫「あのゴースト……“シャドーパンチ”は覚えてなかったんじゃなかしら」
菜々「え?」
真姫「ごめんなさい、独り言が聞こえちゃって……ゴーストは特殊攻撃が得意だから、物理技を覚えさせていないトレーナーは少なくないわ」
菜々「確かにそうかもしれません……だとしても、今のは悪手です」
真姫「どうして?」
菜々「相手の次の行動は読めている……なら交換すればいい。ゴーストタイプには“かげふみ”が効かないですし……」
真姫「……確かにそうね」
確かにそのとおりだ。“かげふみ”という特性はゴーストタイプ相手には効果がない。第一印象としては、よくバトルの勉強をしている子だと思った。
真姫「貴方、ポケモントレーナー?」
菜々「……いえ、私は……ポケモントレーナーではありません……」
真姫「トレーナーじゃないのに、随分バトルに詳しいのね」
菜々「……ポケモンバトルを……見るのが……好きなので……」
言葉とは裏腹に──彼女は、酷く寂しそうに返事をする。
菜々「あ……もうこんな時間……そろそろ、帰らないと……」
彼女はそう言って立ち上がり、私に会釈をしたあと、駆け足でその場を去ってしまった。
真姫「ポケモンバトルを見るのが好き……ね」
その割に──随分悲しそうな顔で観戦するのね……私はそう思った。
- 833 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:38:16.47 ID:9oar5n900
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🍅 🍅 🍅
それからというもの、
菜々「ああ……そこは一旦“まもる”で時間を稼いで……」
真姫「あの子……またいる」
彼女をよくこのバトル場で見かけることが多くなった。
真姫「また来てたのね」
菜々「あ……こんにちは……」
彼女は相変わらず、沈んだ声音で独り言を呟きながら、バトルを観戦していた。
何度かこの子を観察していてわかったのは……恐らくこの子は毎日ここにきている。
恐らくというのは、他の仕事で、ここに訪れるのが少しでも遅れるとこの子には会えないからだ。
滞在時間は恐らく10〜15分ほど……1試合見るか見ないかくらいで、帰ってしまう。
真姫「ねぇ、貴方」
菜々「……なんでしょうか」
真姫「いつもここに来てるけど……観戦しかしないのね」
菜々「……私は……ポケモントレーナーではないので……」
真姫「……興味はないの?」
菜々「……あります。……ありますけど……私は、ポケモントレーナーに……なれなかった……。……なっちゃ……いけなかった……」
最初からなんとなく勘付いてはいたけど……どうやら訳アリらしい。
真姫「貴方、名前は?」
菜々「……知らない人には名乗るなと……親からきつく言われています」
真姫「……ごめんなさい。貴方の言うとおりね。自分から名乗りもしない相手に、名前なんて教えられないわよね。私は真姫。ローズジムのジムリーダーよ」
こちらから、名乗ると、
菜々「……え?」
少女はこちらを向いて、目をぱちくりとさせる。
菜々「……ジ、ジムリーダー……?」
真姫「嘘じゃないわよ。ほら、このとおりローズジム公認の証の“クラウンバッジ”も持ってるし」
ポケットから、ジムバッジを取り出して見せる。
菜々「じ、ジムバッジ……! 初めて見ました……!」
彼女はバッジを見ると目を輝かせる。
- 834 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:39:08.63 ID:9oar5n900
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真姫「ふふ、やっと笑った」
菜々「え……?」
真姫「貴方……ずっと、この世の終わりみたいな顔しながら、バトルを見ていたから……」
菜々「……私……そんな顔をしていましたか……?」
真姫「ええ。絶望の底にいるみたいだったわよ」
菜々「そう……ですか……」
私の言葉を聞くと、少女は俯いて、再びしゅんとしてしまう。
真姫「……ポケモントレーナーになっちゃいけないって、どういうことか聞いてもいい?」
菜々「…………」
少女は少し迷ったあと、
菜々「……私……本当は旅に出たかったんです……」
ぽつりぽつりと話し始めた。
菜々「……博士と、最初のポケモンと……ポケモン図鑑を貰う約束までして……。……博士もそれを喜んでくれて……歓迎してくれて……。……でも……結局、親に反対されちゃって……」
真姫「……ダメになっちゃったのね」
菜々「……はい」
真姫「親御さんには貴方の気持ちは伝えたの?」
菜々「……取り付く島もありませんでした。……私の気持ちは……関係ないって……聞いてすらくれませんでした……」
真姫「…………」
どこかで聞いたような話だった。
親が全て判断して、親が全てを決めて、こちらの意思も、言葉も、全て無視されて。
所詮、子供言うことだとあしらわれて。大切に扱ってもらえなくて。
菜々「……私のお父さん……小さい頃にポケモンに襲われて大怪我をしたことがあるそうです……。……そのときに、お父さんのお母さん──私のお祖母さんは、お父さんを庇って……もっと酷い大怪我をして……それが原因で亡くなってしまったそうです……」
真姫「……だから、ローズに住んでいるのね」
菜々「……はい」
この街に住んでいれば、ポケモンに襲われる可能性は格段に減る。
実際、それが目的でここに移住している人は多いし。
菜々「私……もう15歳なのに、最近になるまで、ほとんどポケモンを見たことすらなかったんです……。両親がずっと……私からポケモンを遠ざけていたんだって……最近になってやっと気付いて……」
真姫「なら……どうやってポケモンバトルを好きになったの?」
菜々「……助けてもらったんです。ある日突然、野生のポケモンが街中に現れて……襲われたときに、ポケモントレーナーの方が助けてくれたんです。あまりに急なことだったので……助けてくれたトレーナーの方の顔もよく覚えてないのですが……」
恐らく、グレイブ団事変のときのことだろう。あのときは多くの人が野生のポケモンに襲われたし、私も数えきれない人数を保護した記憶がある。
もしかしたら、この子もそんな人たちの中の一人だったのかもしれない。
- 835 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:41:05.26 ID:9oar5n900
-
菜々「ただ……そのとき私を助けてくれたポケモントレーナーの人たちを見て……ああ、なんてかっこいいんだろう。私もあんな風にかっこよくて、強くて……誰かを守れる人になりたい……そう強く思ったことだけは覚えてます」
真姫「それはすごく立派なことよ。私はこの街のジムリーダーとして……貴方みたいな人にトレーナーになって欲しいわ」
菜々「あはは……ありがとうございます。……でも、ダメなんです。……私は、ポケモンを持っちゃいけない人間なので……ポケモンと関わっちゃいけない人間なんです……」
真姫「…………」
菜々「……あ……もう、こんな時間だ……。……帰って勉強しないと……親に怒られちゃいます……」
そう言って彼女はいつものように、立ち上がって、踵を返す。
その折に、
菜々「……菜々です。……ナカガワ・菜々」
彼女はそう名乗った。
真姫「……知らない人には名乗っちゃいけないんじゃないの?」
菜々「えへへ……この街のジムリーダーなら、知ってる人みたいなものです。お話を聞いてくれて、ありがとうございました」
そしていつものように会釈をして──去って行った。
真姫「……ままならないものね」
この世界はポケモンと共存して回っている。だけれど、そんなポケモンの人智を越えたパワーに恐怖する人間は決して少なくない。
ポケモンに命を救われる人がいる中で、ポケモンによって命を落とす人もいる。
だから、ポケモンを忌避し、関わらないように生きる人がいることはわかっているし、否定する気はない。
だけど……ポケモンと関わりたくて、力を合わせたくて、強くなろうとしている子の気持ちが……捻じ曲げられてしまうのを見ているのは……心苦しかった。
ただ、親の言葉というのは……年端もいかない子供にとっては絶対と言っても差し支えないほど、大きな大きな影響力を持って降りかかってくる。
──私もそうだったから。
あのとき、凛と花陽が、私を連れだしてくれなかったら……私は今でも親の敷いたレールの上を走り続けていたのかもしれない。
……菜々は、あのとき誰からも手を取ってもらえなかった……私なんじゃないか。
そう思えて仕方がなかった。
真姫「ナカガワ……菜々……。……ナカガワ……?」
そういえば、ナカガワって名前……どこかで聞いた気が……。
🍅 🍅 🍅
真姫「……やっぱり」
私は関連企業役員の名簿を見て、一人納得していた。
ナカガワというファミリーネーム、どこかで聞いたことがあると思ったら……ニシキノ家が出資している企業の中の一つにナカガワという名前の社長が居た。
彼は優秀な人物であると共に──ポケモン嫌いなことで有名な人でもあった。
有事の際にポケモンに頼らなくてもいいように、会社の外装や外壁に、“リフレクター”や“ひかりのかべ”と似たような効果を持たせた頑強なビルを建てていて、実際にグレイブ団事変のときも、住民の避難所として重宝した。
その理由は前述したとおり、ポケモン嫌い故にポケモンに頼らなくてもポケモンからその身を守ることが出来るように、そのような設計をしたというのは、グループ内では有名な話だ。
もちろん、ただファミリーネームが同じだけという可能性もなくはないが……。
- 836 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:41:58.16 ID:9oar5n900
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真姫「菜々の話とも辻褄が合う……。十中八九、このナカガワ社長が菜々のお父さんで間違いないわね……」
確か……数回程度だけど、私も父親と一緒に会ったことがあった気がする……。
そういえば、優秀な娘が居るという自慢をしていたような……。
真姫「ゆくゆくは娘も……ニシキノのグループ傘下の会社に……とかも言ってたような」
私は、菜々の言葉を思い出す。
──『ただ……そのとき私を助けてくれたポケモントレーナーの人たちを見て……ああ、なんてかっこいいんだろう。私もあんな風にかっこよくて、強くて……誰かを守れる人になりたい……そう強く思ったことだけは覚えてます」──
──『……でも、ダメなんです。……私は、ポケモンを持っちゃいけない人間なので……ポケモンと関わっちゃいけない人間なんです……』──
15歳そこそこの女の子が、そんな風に自分の夢を諦めていいのだろうか。
真姫「……ダメよ、そんなの」
……正直リスクはある。だけど、今の菜々は昔の自分を見るようで──黙って見ていることが出来なかった。
それに私には、それを可能に出来るカードが揃っている。
真姫「……梨子のときと言い……私ってお節介焼きなのかしら……」
自分ではドライな方であるつもりなのにね。
真姫「……いいわ、私がどうにかしてあげようじゃない」
🍅 🍅 🍅
──次の日。
バトル施設に赴くと、
真姫「菜々。こんにちは」
菜々「……あ、真姫さん……」
菜々は今日もバトル施設に来ていた。
菜々「あの……昨日はおかしな話を聞かせてしまって……」
真姫「そんなことは良いの、ちょっと一緒に来てくれない?」
私は菜々の手を取って、立ち上がらせる。
菜々「え、えぇ……?」
困惑気味の菜々を強引に引っ張って歩き出した。
- 837 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:42:43.29 ID:9oar5n900
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🍅 🍅 🍅
私が来たのは──ローズジム。
菜々「こ、ここ……ポケモンジム……」
菜々がポカンと口を開けている。
まあ、急に連れてこられたら驚くわよね。
真姫「菜々。正直に答えて欲しいんだけど」
菜々「……?」
真姫「貴方、トレーナーになりたい?」
菜々「え……」
真姫「貴方の正直な気持ちを教えて」
菜々の目を真っすぐ見つめて、問いかける。
菜々「……えっと…………」
菜々は少し、言葉に迷う素振りを見せたけど……。
菜々「…………なりたい……です……」
迷いながらも、確かにそう口にした。
真姫「……なら、私が貴方をポケモントレーナーにしてあげる」
菜々「……え?」
菜々は私の言葉に目を丸くする。
菜々「いや、あの……む、無理なんです……私は……」
真姫「貴方のお父さんは貴方にちゃんとした企業に就職して欲しいと思っているのよね」
菜々「は、はい……だから……」
真姫「なら、私が貴方を雇うわ。私の専属秘書として」
菜々「……え?」
菜々はまたしても目を丸くする。
真姫「私は貴方のお父さんの会社にも出資している。何度か会ったこともあるわ。そんな私から指名で専属秘書になれば、安定した就職については納得してくれるわよね」
菜々「そ、それはそうかもしれませんが……」
真姫「そして、その仕事をこなしてもらいながら──貴方をその裏でトレーナーとして、育ててあげる」
菜々「へ……」
菜々は目をパチクリとさせる。
無理もない。こんな突拍子もない提案をされたら、誰だって驚く。
だけど、私は──私には、今のこの子を助けるだけの力がある。
- 838 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:43:20.31 ID:9oar5n900
-
真姫「決して楽な道じゃない……。普通のトレーナーよりも何倍も、何十倍も大変な道になるかもしれない。……それでも、やりたいなら、やるべきよ。親に何を言われたんだとしても」
菜々「で、でも……」
ただ、菜々は困惑している。
菜々「お、お父さんが……ダメ……って……。……ダメ、だって……」
真姫「菜々。貴方の人生は貴方のモノよ」
菜々「……!」
真姫「貴方が決めなさい」
私は手を差し伸べる。
真姫「この手を掴むか……貴方が決めなさい。今ここで」
菜々「…………私……ポケモントレーナーになって……いいんですか……?」
真姫「それも全部、貴方が決めることよ」
菜々「…………」
菜々は私の言葉を聞いて、自分の手を胸の前にぎゅっと引き寄せる。
その手が、震えているのがわかった。
きっと彼女の中では今、たくさんの葛藤がぶつかり合っているに違いない。
不安、期待、恐怖、憧れ、悲哀、希望、後悔、いろんな感情がぶつかり合っているはずだ。
でも私は……この子はその感情の奔流に負けない子だと信じられた。
会って間もないけど、この子の好きは、ポケモンが、ポケモントレーナーが、ポケモンバトルが好きだという言葉は気持ちは──嘘じゃないと断言出来たから。
菜々「…………」
考えて、考えて、考えた菜々は震える手で──
菜々「……私は……ポケモントレーナーに……なりたい。……なります……!」
確かに、自分の意思で、意志で──私の手を握った。
🍅 🍅 🍅
菜々「──い、今でも……胸がドキドキしてます……」
真姫「ふふ、頑張ったわね」
本当に勇気を振り絞って、私の手を取ったことは言うまでもない。
そんな彼女の最初の勇気を労って、頭が撫でてあげる。
- 839 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:44:33.90 ID:9oar5n900
-
菜々「えへへ……。……それで……あの……私はどうすればいいんでしょうか……」
真姫「そうね……秘書の件は貴方の親御さんたちと話さないといけないとして……」
菜々「さ、最初のポケモン……とか……」
真姫「それは、用意はしてあげられないから、一緒に捕まえるしかないわね。それよりも、必要なことがあるわ」
菜々「必要なこと……?」
真姫「トレーナーとしての名前よ」
菜々「トレーナーとしての……?」
真姫「菜々って名前のままトレーナーになったら、公式戦に出たときにご両親に感付かれる可能性があるでしょう?」
菜々「あ……確かに……」
菜々の父親は、話を聞く限り筋金入りのポケモン嫌いみたいだし……。
そうなると、そのままの名前でトレーナーになるのはあまり得策とは言えない。
トレーナーとしての登録名自体を変えた方が安全だ。
それに……。
真姫「見た目もね……」
三つ編みに眼鏡。いかにも優等生でポケモンバトルをしなさそうなこの子の見た目は、バトルフィールドに立つと却って目立ちそうだ。
真姫「ちょっとじっとしてて」
せつ菜「は、はい……」
真姫「三つ編み、解くわね」
結ばれた三つ編みを解いて、髪を下ろし──
真姫「眼鏡も外した方がいいわね……後でコンタクトを買いに行きましょう」
眼鏡を取る。
あとは……。
真姫「……髪留め持ってる?」
菜々「ゴムしか持ってないです……」
真姫「……じゃあ、これ」
私はポケットから、髪留めを一つ取り出す。
──これは梨子から貰ったものだ。私は髪留めは使わないと言ったんだけど、まさかこんな形で使うことになるとはね。
髪を菜々の右側頭部で結んで、それを髪留めで留めてあげる。
真姫「……いい感じじゃない」
菜々の手を引いて、私の部屋の姿見の前まで連れていく。
- 840 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:45:17.57 ID:9oar5n900
-
菜々「……これ、私……?」
真姫「そうよ。これが貴方の新しい姿。名前はどうしましょうか……」
菜々「ゆ、ユウキと、セツナ……!!」
真姫「え?」
菜々「わ、私……図書館でポケモンのお話をたくさん読んで……! その中で、大好きな作品の主人公がユウキくんとセツナちゃんなんです……!」
真姫「……ふふ、いいじゃない。どっちも貰っちゃいましょう」
菜々「……はい!」
菜々は元気よく返事をして、
せつ菜「私は今日から──ユウキ・せつ菜です……!」
ここにユウキ・せつ菜という一人のトレーナーが誕生したのだった。
──
────
──────
真姫「あれからもう2年か……」
あのときはまさか、せつ菜がここまで強くなるとは思ってなかったけど……。
彼女は──本当に強くなった。
それこそ、チャンピオンまであと一歩のところまで来ている。
これも全て、あの子の努力の結果。
真姫「願わくば……このまま、せつ菜が夢を叶えてくれればいいんだけどね……」
気付けば、空は今にも雨が降り出しそうな灰色の雲に覆われていた──
- 841 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:46:02.61 ID:9oar5n900
-
🎹 🎹 🎹
歩夢「空……曇ってきたね……」
侑「ちょっと急いだ方がいいかな……?」
「ブイ…」
まだセキレイを出て、10番道路に差し掛かったところなんだけど……。
かすみ「行けます行けます!! 今のかすみん、ちょーーー気合い入ってますから!! レッツゴーです!!」
「ガゥガゥ♪」
リナ『レッツゴー♪』 || > ◡ < ||
元気よく飛び出す、かすみちゃんとリナちゃん。
しずく「大丈夫かな……」
侑「とにかく、雨が降り出す前に出来るだけ急ごう!」
歩夢「うん!」
──私たちは、曇天の空の下、ローズシティを目指して、10番道路を駆け出しました。
- 842 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:46:56.96 ID:9oar5n900
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【10番道路】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____●|____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.45 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.45 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.41 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.36 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
タマゴ なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
ルガルガン♂ Lv.83 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:153匹 捕まえた数:5匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.41 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.39 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.36 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
タマザラシ♀ Lv.31 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラエッテ♀ Lv.24 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:155匹 捕まえた数:16匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.40 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.38 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.37 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.33 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.34 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:149匹 捕まえた数:8匹
主人公 しずく
手持ち ジメレオン♂ Lv.30 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
マネネ♂ Lv.24 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アオガラス♀ Lv.30 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロゼリア♂ Lv.30 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
キルリア♀ Lv.29 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:156匹 捕まえた数:9匹
侑と 歩夢と かすみと しずくは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 843 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 02:49:46.28 ID:hRdoaDre0
-
■Intermission👠
──DiverDiva拠点。
愛「カリン、調子どう?」
愛は端末をいじりながら、こちらに顔を向け、そう訊ねてくる。
果林「……大体まとまったわ。当日は愛にも手伝ってもらうけど」
愛「ん、りょーかい。それはそうと、報告があるんだけど」
果林「報告?」
愛「“星のガス”が十分に溜まったよ」
果林「……いいタイミングね」
私はそれだけ返すと、席を立つ。
愛「どっか行くの?」
果林「……ええ。今夜はエマと約束しているから」
愛「そっか」
愛はそれだけ答えると、また端末の方へと向き直り、作業を始める。
果林「……いつもみたいに、茶化してこないのね」
愛「ま、今日くらいはね」
果林「……」
今日くらいは──それが何を意味しているのかは、言うまでもない。
果林「行ってくるわ」
愛「ん、行ってら〜」
「ベベノ〜」
私は今日もきままに漂っている愛の相棒の、のんきな鳴き声を聞きながら、拠点を後にする。
愛「……まあ、今日くらいは監視はやめといてあげようかな。……たぶん、最後の機会だろうしね」
「ベベノ〜」
👠 👠 👠
「チャムー」「ヤンチャー」「チャム」
今日もヤンチャムたちが元気に鳴いている部屋で、私はエマと食卓を囲む。
エマ「──果林ちゃん、おいしい?」
果林「ええ、すごくおいしいわ。ありがとう、エマ」
- 844 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 02:51:31.93 ID:hRdoaDre0
-
私はエマの作ってくれたクリームシチューを食べながら、お礼を言う。
エマ「えへへ♪ 今日のはね、搾りたての“モーモーミルク”で作ったんだよ♪」
果林「ふふ♪ この前も同じこと言ってたわよ?」
エマ「でもね、でもね! 今日は特別ミルタンクの元気がよくてね! お乳の出もすっごく調子がよかったから、きっといつもよりもおいしいよ!」
エマは幸せそうに笑いながら、シチューを口に運び、
エマ「ん〜、ボーノ……♪」
一口食べるたびに、もっともっと幸せそうに笑いながら、つぼめた指先を唇に当ててキスをする。
彼女の生まれ育った国における、すごく美味しいということを表す仕草らしい。
果林「ふふ」
エマ「んー? どうかしたの、果林ちゃん?」
果林「エマっていっつも幸せそうに食べるから……見てる私もなんか嬉しくなっちゃっただけ」
エマ「えへへ♪ だって、おいしいものを食べてると幸せになるんだもん♪」
エマが嬉しそうに笑っていると、
「チャムー!!」「ヤンチャー!!!」「チャムチャム!!!」「チャムチャー!!」「ヤンチャムッ!!」
ヤンチャムたちが、空になったお皿を持って、エマの足元に群がってくる。
果林「こら、貴方たち……まだエマがご飯食べてるんだから……」
エマ「うぅん、大丈夫だよ。ヤンチャムちゃんたちもおかわりが欲しいんだよね? すぐによそってあげるね♪」
「チャムー!!」「チャムチャー」「ヤンチャ!!」
果林「いつもごめんなさいね……」
エマ「うぅん、わたしも好きでやってるだけだから♪ この子たちを連れて来たのも、わたしだし!」
果林「そういえば、そうだったわね……」
このヤンチャムたちは……ある日突然、エマが私にくれたポケモンだった。
もうずいぶん昔のことのように感じる。
果林「ねぇ、エマ」
エマ「ん〜?」
果林「……いつも、ありがとう」
エマ「ふふ、どうしたの?」
果林「ここに来てから……私はずっとエマのお世話になりっぱなしだっただから……」
エマ「そんなことないよ、果林ちゃんもわたしのこと助けてくれたもん♪」
果林「……そんなことあったかしら」
……心当たりがない。
エマ「あったよ? 私がここに来て1年くらいのとき……ケンタロスが暴れて逃げ出しちゃって……それを果林ちゃんが止めてくれたんだよ!」
果林「ああ……初めて会ったときのことね」
エマ「うん! そのときね、この地方にはこんなに優しい人がいるんだって、すっごく嬉しくなっちゃって!」
- 845 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 02:52:18.74 ID:hRdoaDre0
-
もう、耳にタコが出来るくらいこの話は聞いた。あれはただの気まぐれというか……私もここに来たばかりで──計画のために、面倒な騒ぎが起こるのが嫌だったから、手を出しただけ。
でも……それがきっかけでエマにはいたく気に入られ、その後、彼女はなにかと私の世話を焼いてくれるようになった。
ヤンチャムたちも……その中で貰ったポケモンだ。
エマ「それに、御守りの石もくれたし……今も大切にしてるんだよ?」
果林「まだ持ってたのね……」
エマ「当たり前だよ! 果林ちゃんからの贈り物だもん! 一生大切にするに決まってるよ!」
一生の宝物だなんて大袈裟な……。
あれは……ただ私の故郷で拾っただけの石なのに。
エマにとっては……本当にただの石ころのはずなのに……。
果林「そういえば……前から聞きたかったんだけど……」
エマ「?」
果林「どうして、ヤンチャムをくれたの?」
ある日突然ヤンチャムを渡され──次会ったときにも……またその次会ったときにもと、あれよあれよとヤンチャムの数は増えていった。
あまりに毎回ヤンチャムを渡されるから、さすがに6匹目で止めたんだけど……。
エマ「だって果林ちゃん、ヤンチャムが好きみたいだったから」
果林「え……? そんなことがわかる機会……あったかしら……?」
エマ「あったよ〜! 果林ちゃん、いっつもテレビでヤンチャムが出てくると、じーっと見てたもん!」
果林「そ、そうかしら……」
こっちに関しては逆に心当たりがあった。
私は……ここに来るまで、ヤンチャムというポケモンを見たことがなかった。
初めて見たときから、あの白と黒のボディに丸っこいフォルムが妙に私のツボを突いてきて── 一目惚れだったと思う。
エマはそれを見逃さなかったということらしい。
本当にエマは、私のことをよく見ている。……ずっと、ずっと見ていてくれた。
果林「……ねぇ、エマ」
エマ「なにかな?」
果林「もし……もしね、私がここを離れなくちゃいけないって言ったら……どうする……?」
エマ「……」
私の言葉を聞いて、エマはスプーンを持った手を止める。そして、
エマ「……やっぱり、果林ちゃん……いなくなっちゃうんだね」
そう続ける。
エマ「果林ちゃん……ここを出ていこうとしてるんだよね」
果林「……気付いてたの?」
エマ「なんとなく……そうなのかなって」
果林「……そう」
- 846 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 02:52:48.93 ID:hRdoaDre0
-
エマは……本当に私をよく見てくれていたようだ。
そして、それは……私も。
最初は、そんなつもりはなかった。……こっちの人と仲良くするつもりなんてなかった。……情が湧いてしまうから。
なのに、エマはどんなにあしらっても、私の傍に居て……笑ってくれた。
いつの間にか、エマは──……私にとって、大切だと思える存在になってしまっていた。
だから、私は……エマは……エマだけは……巻き込みたくなかった。
私はここまで、自分を殺して頑張ってきたつもりだ。……一つくらい、わがままを言ってもいいんじゃないか。
だから、
果林「……エマ」
エマ「……ん」
果林「何も言わずに……私と一緒に……来て……」
気付けばそう、言葉にしていた。
エマ「……」
果林「貴方は私が守るから……だから……」
私の言葉を受けてエマは、
エマ「……ごめんね」
そう言って、首を横に振った。
果林「……」
エマ「わたしね、この町が大好きなの。牧場も、牧場の人たちも、牧場のポケモンたちも、大好きなんだ。だから、今ここから離れることは出来ない……」
果林「エマ……」
エマ「だから……果林ちゃんとは一緒にいけない」
果林「……そっか」
エマ「……ごめんね」
果林「……こっちこそ、ごめんなさい。変なこと聞いて」
エマ「……うぅん」
果林「……」
エマ「……あ、果林ちゃん、おかわりよそうよ? 食べる?」
果林「……ええ、お願い」
エマ「……うん♪」
- 847 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 02:53:27.89 ID:hRdoaDre0
-
👠 👠 👠
エマ「──それじゃ、また来るね!」
果林「ええ、またね」
エマ「あ! ここを出て行くときは、ちゃんと一言言ってね? 勝手にいなくなったら……わたし、怒っちゃうから!」
果林「ええ、わかってる」
エマ「うん! 約束だよ♪」
エマは笑いながら去って行った。
果林「…………」
私はエマが出て行ったドアを──しばらく見つめていた。
👠 👠 👠
程なくして、DiverDiva拠点に戻る。
愛「あ、カリン、お帰り」
果林「……愛、荷物をまとめて。次の作戦が始まったら──ここにはもう戻らないと思うから」
愛「……カリン、エマっちは?」
果林「……何の話かしら」
愛「……まあ、カリンがいいなら、いいけどさ」
愛は言われたとおり、テキパキと荷物をまとめ始める。
「ベベノ〜」
愛「お、手伝ってくれんの? お前はいい子だな〜♪ 愛してるぞ〜♪」
「ベベノ〜♪」
果林「……明朝には発ちましょう」
愛「りょうか〜い」
愛が作業を始める中、拠点内の大モニターに目をやると──先ほどまでエマと一緒に食事をしていた部屋のカメラだけが真っ黒になっていた。
恐らく……愛が気を遣ってくれたのだろう。
当初の予定からは、想像出来ないくらい……ここには長く居ついてしまった。
あまり持たないようにしていたのに……愛着も、少しだけ湧いてしまった。……けど、
果林「……思い出作りは……もう十分、出来たから……。──さようなら。……エマ」
私は最後の踏ん切りをつけるために──小さく別れの言葉を呟いたのだった。
………………
…………
……
👠
- 848 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:08:59.80 ID:hRdoaDre0
-
■Chapter043 『マネネ? まねっこ? ものマネネ?』 【SIDE Shizuku】
──ローズシティを目指して10番道路を北上している私たちですが……。
「ヒヒィーーンッ!!!」
侑「かすみちゃん、ごめん! ギャロップそっちに行った!!」
かすみ「任せてください! ゾロア! “ナイトバースト”!!」
「ガァゥゥッ!!!!!」
「ヒヒィンッ!!!?」
突撃してくるギャロップを、かすみさんのゾロアが迎撃する。
歩夢「侑ちゃん! 茂みの奥にマルノームがいるよ!」
侑「え、どこ!?」
「マァールノォー!!!」
今度は、マルノームが茂みの奥から、“ヘドロばくだん”を侑先輩に向かって放ってきた、
侑「う、うわぁ!?」
しずく「キルリア! “サイコキネシス”!!」
「キルゥ!!」
その“ヘドロばくだん”をキルリアが念動力で逸らす。
侑「あ、ありがとう、しずくちゃん……! ライボルト!! “10まんボルト”!!」
「ライボォォォ!!!!!」
反撃する侑先輩、だが──マルノームは近くにあった岩を丸呑みにし始めた。
「マル、ノー」
すると、不思議なことに、ライボルトの“10まんボルト”を意にも介さなくなる。
ほとんどダメージが通っていない。
侑「くっ……“たくわえる”で耐えてきた……」
「ライボ…!!」
持久戦が苦手な侑先輩は苦い顔をする。
マルノームは緩慢な動きで、攻撃の姿勢に移ろうとするが、
歩夢「タマザラシ、“アンコール”!」
「タマァ〜〜♪」
歩夢さんのタマザラシがパチパチで手を叩くと、
「マル、ノー…」
マルノームは再び、“たくわえる”をし始める。
“アンコール”は相手のポケモンに前使ったのと同じ技を強制させる補助技だ。
それで出来た隙に向かって、
- 849 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:09:38.42 ID:hRdoaDre0
-
侑「ライボルト、“オーバーヒート”!! イーブイ、“めらめらバーン”!!」
「ライボォォォ!!!!」「ブーーイィッ!!!!!」
「マ、マルノォーーー」
2匹のほのお技で一気に圧倒する。
侑「歩夢、ありがとう!」
歩夢「ふふ、どういたしまして♪」
リナ『二人とも、まだ来るよ! 上空から、オオスバメ!』 || ˋ ᨈ ˊ ||
「スバァーーー!!!!!」
リナさんの言うとおり、鳴き声をあげながら突撃してくるオオスバメの姿。
かすみ「ああもう次から次へと……!! ヤブクロン!! “ヘドロこうげき”!!」
「ヤーブッ!!!」
ヤブクロンが向かってくるオオスバメに向かって、ヘドロを吐きつけるけど、
「スバッ!!!」
攻撃を察知し、オオスバメは上空へと回避する。
歩夢「フラエッテ! “ようせいのかぜ”!!」
「ラエッテッ!!」
オオスバメが逃げた上空に向かって、歩夢さんのフラエッテが“ようせいのかぜ”を放つが、オオスバメはダメージを受けるどころから、風攻撃の届かない範囲ギリギリを飛んで、おちょくっている。
歩夢「あ、あれ……?」
かすみ「歩夢先輩、全然攻撃が届いてないですよぉ〜!」
侑「相手が速すぎるんだ……!」
ひこうタイプにとって、地上からの攻撃はさぞ回避しやすいのだろう。
だけど、それならこちらにも考えがある。
しずく「ジメレオン」
「ジメ…」
ジメレオンは手の平に水の玉を作り始める。
ジメレオンというポケモンは自分の体液で膜を作ることによって、水をボール状に丸めることが出来る。
その水のボールを、
「ジメッ…!!」
空中を旋回しながら様子を伺っているオオスバメに向かって、投擲する。
でも、
かすみ「し、しず子〜!! 投げてる方向が全然違うじゃん!?」
「スバ…」
ボールは明後日の方向に飛んでいく。
オオスバメもあまりのノーコンっぷりに、空中で鼻を鳴らす。
- 850 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:10:14.59 ID:hRdoaDre0
-
しずく「ふふっ、ジメレオンは頭脳戦が得意なんですよ」
かすみ「……はぇ?」
明後日の方向に飛んでいたはずの水のボールは──急に空中で軌道を変えた。
侑「空中で動きが変わった!?」
「スバッ!?」
急に変化したボールの動きに対応出来ず、水のボールがオオスバメに炸裂し、驚いたオオスバメはバランスを崩す。
しずく「今度こそ、ストレートで決めるよ!」
「ジーーメッ!!!!」
ジメレオンは用意していた2球目を、オオスバメに向かって、投球し、
「ス、スバァーーーッ!!!?」
剛速の水球は先ほどよりも強い威力で炸裂する。
オオスバメは弾けた水の塊に吹き飛ばされて、戦闘不能になった。
しずく「やったね、ジメレオン♪」
「…ジメ」
かすみ「ちょっと、しず子、今何したの!? ボールが空中で変な動きしたけど……!?」
しずく「ふふっ♪ 上空に吹いていた風を利用しただけだよ♪」
歩夢「もしかして……フラエッテの“ようせいのかぜ”?」
しずく「はい♪ 使わせていただきました♪」
すでに空中で吹いていた“ようせいのかぜ”にジメレオンの水球を乗せ、軌道を変えて攻撃を当てたということだ。
ジメレオンは水のボールを使って、相手を追い詰めていくのが得意なポケモン。
うまく意表を突く展開で、ジメレオンの良さが生かすことが出来た。
侑「とりあえず……これで、野生のポケモンは落ち着いたかな」
かすみ「ですねぇ……ちょっと、疲れましたぁ……」
歩夢「一度にたくさん出てきて、びっくりしちゃったね……」
しずく「それに1匹1匹が、今まで戦ったきた野生のポケモンより強かった気がします……」
リナ『オトノキ地方は北側の方が野生のレベルも高いからね』 || ╹ᇫ╹ ||
先ほどから、こんな感じで何度も野生ポケモンの群れと出くわしている。
こちらも4人いるので、負けることはないが……何度も戦いながらのため、いかんせん進みが遅い。
かすみ「“むしよけスプレー”でも買っておけばよかったですぅ……」
歩夢「私は……“むしよけスプレー”はあんまり好きじゃないかも……。ポケモンが可哀想だし……」
かすみさんの言葉に遠慮がちに言う歩夢さん。
侑「私はみんなで戦いながら進むのも楽しいけどな〜。みんなのポケモンが戦う姿も見られるし!」
リナ『それに、強い相手と戦うのは悪いことばっかじゃないからね』 || ╹ ◡ ╹ ||
かすみ「そうなの?」
リナ『経験値がたくさんもらえる。その証拠に、ほら』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
- 851 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:10:57.23 ID:hRdoaDre0
-
そう言いながら、リナさんの視線が私の傍らのキルリアに向けられる。
「キルゥ…」
気付けば、キルリアはぶるぶると震えていて……次の瞬間、カッと眩い光を放つ。
歩夢「これって……!」
侑「進化の光だ……!」
光が晴れると──
「──…サナ」
キルリアはサーナイトに進化していた。
しずく「サーナイト……」
かすみ「わ、やったじゃん、しず子!」
しずく「…………」
かすみ「……しず子? どうしたの?」
しずく「……え?」
かすみ「なんか反応薄いよ? サーナイト、前から欲しかったって言ってたのに……」
しずく「あ、う、うぅん! 嬉しいよ! 新しい姿にちょっと感動してただけ!」
「サナ」
しずく「サーナイト、これからもよろしくね!」
「サナ」
サーナイトは恭しく頭を下げる。
リナ『サーナイト ほうようポケモン 高さ:1.6m 重さ:48.4kg
未来を 予知する 能力で トレーナーの 危険を 察知したとき
最大 パワーの サイコエネルギーを 使うと 言われている。
空間を ねじ曲げ 小さな ブラックホールを 作り出す 力を 持つ。』
リナさんの図鑑解説を聞きながら、
侑「わかるよ、しずくちゃん! 新しいポケモンを見ると、なんか言葉失っちゃうよね!」
侑先輩が目を輝かせながら、私の手を握ってくる。
しずく「は、はい……」
リナ『侑さんはちょっと感動しすぎなところあるけど』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
「ブイ…」
しずく「あ、あはは……」
呆れ気味なイーブイとリナさんを見て、苦笑してしまう。
そのとき、突然、
かすみ「──つめたっ!」
かすみさんが、声をあげた。
空を見上げると──パラパラと雨の粒が降り始めたところだった。
- 852 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:11:39.76 ID:hRdoaDre0
-
かすみ「わー!? 雨、降ってきちゃったぁ!?」
「ガゥゥ…」
侑「本降りになる前に急ごう……!」
「イブィッ」
侑先輩たちは大急ぎで手持ちをボールに戻して、10番道路を駆け出す。
私も、サーナイトとジメレオンをボールに戻す。
ボールに戻して──今しがた姿を変えたサーナイトのボールをまじまじと見つめてしまう。
しずく「…………私も……侑先輩みたいに、思えたら……」
──小さく独り言ちる。
歩夢「しずくちゃん……?」
そんな私の呟きが聞こえたのかどうかはわからないが、歩夢さんが足を止めて、こちらに振り返り、
歩夢「大丈夫……?」
ととっと近付いてきて、私の顔を心配そうに覗き込みながら訊ねてくる。
しずく「あ、いえ……すみません! なんでもないんです……!」
歩夢「そう……?」
咄嗟に誤魔化すものの、歩夢さんはやはり心配そうに私の顔を見つめている。
かすみ「しず子〜! 歩夢せんぱ〜い! 何してるんですかぁ〜!? 早く行きますよ〜!!」
しずく「あ、う、うん!! 歩夢さん、行きましょう!」
歩夢「……うん」
歩夢さんの視線から逃げるように、私はかすみさんたちを追って駆け出した。
歩夢「…………」
💧 💧 💧
──10番道路は長い道路だ。
二つの大きな都市に挟まれている割に、自然豊かで様々な種類のポケモンが生息している。
また東側を上流とする河川も流れていて、道路の中腹辺りには橋が架かっている。
多少勾配はあるものの、基本的には歩きやすく、多種多様なポケモンとの邂逅を求めて、多くのトレーナーが訪れるそうだが……。
かすみ「ほ、本降りですぅぅ〜〜!!!」
「ガゥ、ガゥガゥッ!!!!」
今日みたいな土砂降りだと、話は変わってくる。
私たちはバッグからレインコートを取り出して、ぬかるむ道を疾走中だが……かすみさんだけは何故か、レインコートを羽織っていない。
- 853 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:12:37.78 ID:hRdoaDre0
-
侑「かすみちゃん、雨具持ってないの!?」
かすみ「バッグの奥底にあって取り出せないんですぅ〜!!」
リナ『かすみちゃんは荷物を持ちすぎなんだと思う』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
だから普段から、道具を持ちすぎだって言ってるのに……。
しずく「それにしても……本当に酷い雨ですね……」
レインコートを羽織っていても、靴の中に水は入り放題だし、地面の状態は最悪だ。
あまりにも雨足が強すぎて──前方を走る、かすみさんと侑先輩の姿を追いかけるのがやっとな状態。
歩夢「しずくちゃん、平気?」
しずく「は、はい……! かなり置いていかれちゃってますから、急がないとですね……」
先ほどから歩夢さんは、しきりに私に声を掛けてくれている。
恐らく……先ほどの私の様子が気になっているのだろう。
歩夢「体調が悪かったら言ってね……?」
しずく「は、はい……ありがとうございます」
面倒見が良い歩夢さんらしいなと思った。
だからこそ、先ほどのような態度を見せてしまったのは失敗だったなと反省する。
後輩が急に無口になったら心配もするだろう。
この雨を抜けたら、本当になんでもないことを伝えなくては……。
──バシャバシャと音を立てながら、ぬかるむ道をひた走る。
走り続けていると、道路の中腹を横切る河川が見えてくる。
もちろんこんな大雨の中だ。川の水はかなり増水し、茶色い濁流となっている。
気付けば、かすみさんたちは橋をすでに渡り始めていて、そろそろ向こう岸に着こうとしていた。
しずく「い、急がないと……!」
私がもたもたしていたせいで、随分遅れてしまっている。
焦り気味に、橋へと差し掛かった瞬間──ミシっという嫌な音がした。
直後、視界がガクンと揺れる。
しずく「っ!?」
この大雨によって──橋が、壊れた。
急なことに、なすすべもなく私は濁流に投げ出される。
歩夢「──しずくちゃん……!!」
- 854 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:13:20.42 ID:hRdoaDre0
-
視界の端に居た歩夢さんが──濁流に飛び込んでくる姿が見えた。
──歩夢さん、来ちゃ、ダメです……!!
叫ぼうとするが、濁流に呑まれながら声を発することなど出来るはずもなく、私は流されていく。
溺れないように、必死に顔を水面に出そうとするが、激しい濁流の中では自由が全く効かず、私の視界は──気付けば全てが濁った水の中で、回転していた。
上も下も右も左もわからない。
洗濯機の中にでも放り込まれたような気分だった。
もはや水面がどっちかすらわからない。
──私……死んじゃうのかな。
ウルトラビーストに襲われたとかじゃなくて……まさか、川で溺れて死んじゃうなんて……。
情けないな……。
だんだん、抗う気力もなくなってきて……ただ流されていく私の腕を──何かが掴んで引っ張りあげるような感覚がした。
しずく「──ぷはっ……! げほっ! げほっ!」
歩夢「しずくちゃん、平気!?」
「シャーボ!!!」
私を引っ張りあげたのは──歩夢さんだった。サスケさんが私の腕に頭側を絡みつかせ、尻尾側は歩夢さんの腕に絡みつき、私を引っ張っていた。
そのまま、サスケさんを伝って、歩夢さんが手を伸ばし、私の腕を掴む。
歩夢さんに引き寄せられた状態で、濁流の中辛うじて顔だけを水面から出したような状態のまま、流されている。
しずく「あ、あゆむ……さん……っ……」
歩夢「サスケ……! 絶対、私から離れちゃダメだよ……!」
「シャーボッ!!!」
歩夢「タマザラシ……! 頑張って、岸まで……!」
「タマァァ…!!」
歩夢さんがタマザラシに掴まって泳いでいることに気付く。
そうだ私も……!
しずく「ジメレオン、出てきて……!」
「ジメッ!!」
私もジメレオンに掴まり、歩夢さんのタマザラシと力を合わせて、岸に向かおうとする──が、
歩夢「な、流れが……速すぎて……っ」
しずく「二人とも岸まで行くのは無理です……! ジメレオン、タマザラシと協力して、歩夢さんだけでも……!」
「ジ、ジメ…」
歩夢「そんなの絶対にダメ……!!」
しずく「ですが……っ」
歩夢さんは私を助けるために、飛び込んできたのだ。
私が落ちたりしなければ、歩夢さんが危険な目に遭うなんてことなかった。
しずく「どちらかしか助からないなら……歩夢さんが──」
歩夢「どっちが助かるかなんて考えないでっ!」
しずく「!」
歩夢「タマザラシ、お願い……!!」
「タマァァァ…!!」
そのとき──タマザラシの体が眩く光り始めた。
- 855 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:13:56.90 ID:hRdoaDre0
-
「──グラァッ!!!!」
しずく「トドグラーに……進化した!?」
歩夢「! これなら……! トドグラー、お願い!」
「グラーー!!!」
進化して、パワーアップしたトドグラーは、濁流の中でも私たちをぐんぐん引っ張って──どうにか岸へとたどり着いたのだった。
💧 💧 💧
歩夢「エースバーン、“ひのこ”」
「バース」
歩夢さんのエースバーンが集めた枝に火を点けてくれる。
歩夢「これで……ちょっとはあったかくなるかな」
しずく「はい……あったかいです」
水に浸かっていたせいで完全に冷え切ってしまった身体を、焚火が温めてくれる。
私たちは、あの後どうにか岸に上がり、川から少し離れた場所にあった大きな木陰の下で雨宿りをしていた。
歩夢「……結構流されちゃったみたいだね」
歩夢さんは図鑑のタウンマップを確認しながらそう言う。
しずく「すみません……私が不甲斐ないばっかりに」
私はしゅんとしてしまう。
しずく「歩夢さんまで巻き込んでしまって」
歩夢「…………」
歩夢さんは無言で立ち上がって、
しずく「……歩夢さん……?」
私の目の前にしゃがみこみ──そのまま、私のことをぎゅっと抱きしめてきた。
歩夢「……そんな悲しいこと言わないで……私たち、友達でしょ?」
しずく「歩夢……さん……」
歩夢「しずくちゃんが困ってたら……助けるよ。……だから、巻き込んだなんて言わないで欲しいかな……」
しずく「……ごめんなさい……」
歩夢「……もう言っちゃダメだよ、そんなこと」
しずく「……はい」
私が謝ると、歩夢さんは私を離したあと、頭を撫でてニコっと笑う。
- 856 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:16:35.68 ID:hRdoaDre0
-
歩夢「……雨、止むまでは動けないね」
しずく「そうですね……かすみさんたち、心配してますよね……」
歩夢「さっき、リナちゃんにメッセージは送っておいたよ。……あ、返事来てる」
しずく「侑先輩たちはなんて……?」
歩夢「『二人とも無事でよかった。天気が落ち着いたら、すぐに迎えに行くからそこで待ってて』って」
しずく「そうですか……。……くしゅんっ」
歩夢「わわ……! 風邪引いたら大変……! 私の上着、ちょっとだけ乾いてきたから、羽織ってて!」
しずく「い、いえ、そんな……! 歩夢さんこそ風邪引いちゃいます……!」
歩夢「私は大丈夫だから、ね?」
しずく「でも……」
歩夢「はい、どうぞ」
しずく「……ありがとう……ございます……」
歩夢さんには独特の押しの強さがあるというか……なんだか、気付くと言うことを聞いてしまっているような、不思議な雰囲気がある。
歩夢「いいんだよ、こんなときは甘えても。私の方がお姉さんなんだから♪」
しずく「は、はい……///」
なんだか、少し気恥ずかしくなってくる。
歩夢「他に困ったことはないかな?」
しずく「大丈夫ですよ。それこそ、そこまで気を遣っていただかなくても……」
そのとき──くぅ〜……とお腹の辺りから音が鳴る。
しずく「あ、あの、これは……///」
歩夢「ふふ♪ 確かにお腹空いちゃったね♪」
しずく「ぅぅ……///」
歩夢「何かあるかな……」
歩夢さんは自分のバッグの中身を確認し始める。
ただ、先ほどまで濁流を流されていたこともあって──
歩夢「……うーん……。……やわらかい“きのみ”はほとんどダメになっちゃってるかも……」
持っている“きのみ”の多くがダメになってしまったようだ。
しずく「あ、あの……歩夢さん、本当に大丈夫ですから……」
歩夢「あ……そうだ!」
歩夢さんは何かを思いついたらしく、ぽんと手を叩いて、バッグの中から何かの箱を取り出した。
歩夢「よかった……ケースの中身は無事みたい」
しずく「それって……“ポフィンケース”ですか?」
歩夢「うん♪ “ポフィン”はポケモンのおやつだけど……少し貰っちゃおうかなって。はい♪」
そう言いながら、ケースから“ポフィン”を取り出し、私に薄黄色の“ポフィン”を手渡してくれる。
- 857 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:17:21.22 ID:hRdoaDre0
-
しずく「いただいてしまって、いいんですか……?」
歩夢「もちろん♪」
「シャーーボッ!!!」「バーースッ!!」
歩夢「ふふ♪ サスケとエースバーンにもあげるから、慌てないで♪ はい♪」
「シャボッ」「バーース♪」
サスケさんとエースバーンは歩夢さんからそれぞれ、緑色と黄色い“ポフィン”を貰うと、おいしそうに食べ始める。
「グラァ…」
歩夢「トドグラーもおいで♪」
「グラ…♪」
トドグラーは歩夢さんに呼ばれると、彼女に身を摺り寄せる。
歩夢さんはトドグラーを優しく撫でながら、口元に赤い“ポフィン”を持っていき、食べさせ始める。
歩夢「ふふ♪ 進化しても、トドグラーは甘えん坊だね♪」
「グラァ…♪」
歩夢さんはトドグラーに“ポフィン”を与えながら、
歩夢「ジメレオンくんもおいで♪」
「ジメ…」
桃色の“ポフィン”を取り出して、私のジメレオンのことも呼ぶ。
ジメレオンは少し困惑気味だったけど、
歩夢「手渡しだと緊張しちゃうかな? ここにおいておくね♪」
歩夢さんがそっと“ポフィン”を置くと、
「ジメ…」
そろそろと近付いて、“ポフィン”を食べ始めた。
しずく「……」
歩夢「私も食べようかな♪」
そう言いながら、歩夢さんも桃色の“ポフィン”を取り出して、口に運ぶ。
歩夢「……えへへ♪ おいしく出来てる♪ しずくちゃんも遠慮せずに食べてね。たくさんあるから!」
しずく「は、はい……」
私も遠慮気味に貰った“ポフィン”を口の運ぶ。一口食べると──甘酸っぱい味が口いっぱいに広がる。
甘さの中にある酸っぱさが、疲労した身体に染み渡っていくようだ。
しずく「おいしい……」
歩夢「よかった♪ しずくちゃん、少し疲れてたそうだったから、“すっぱあまポフィン”を選んだんだけど……他の味もあるから、食べたい味があったら言ってね♪」
しずく「ありがとうございます、歩夢さん」
歩夢「ふふ♪ どういたしまして♪」
歩夢さんが優しく笑う。
- 858 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:18:15.56 ID:hRdoaDre0
-
「グラー…」
歩夢「トドグラー、おかわり欲しいの? 今日は頑張ったもんね。はい♪」
「グラァ…♪」
しずく「歩夢さんは……すごいですね」
歩夢「え?」
しずく「こんなときでも……ポケモンたちを大切にしていて……。……私は、いつも自分のことで精いっぱいで……ポケモンたちには助けてもらってばかりで……」
歩夢「しずくちゃん……?」
口に出してから、またやってしまったと思った。
しずく「す、すみません……! なんでもないんです……」
歩夢「……」
……でも、こんなことを言って誤魔化しても、歩夢さんがなんでもないなんて思ってくれるはずもなく。
歩夢「トドグラー、ちょっとごめんね」
「グラァ…」
“ポフィン”を食べているトドグラーの傍から離れて、歩夢さんは私の隣に腰を下ろす。
歩夢「やっぱり……何か、悩んでるんだね」
すぐ隣で私の顔を心配そうに覗き込んでくる歩夢さん。
しずく「……それは…………」
でも、私はなんだか気まずくて、目を逸らしてしまう。
歩夢「……もしかして──……最近マネネをあんまりボールから出してないことと、何か関係あるのかな……?」
しずく「……え?」
私はその言葉に驚いて、せっかく目を逸らしたのに、思わず歩夢さんの方をまじまじと見つめてしまう。
歩夢「えっと……あんまり、聞かれたくなかったかな……?」
しずく「あ、いえ……その……。……歩夢さんには……そう、見えましたか……」
歩夢「……うん。しずくちゃん、いつもマネネと一緒だったのに……セキレイに戻ってきてから、あんまりマネネをボールから出してなかったから、何かあったのかなって……」
しずく「…………歩夢さんには、敵いませんね……」
歩夢「マネネと何かあったの……?」
しずく「何か……というわけではないんですが……」
私はマネネのボールを手に取って、見つめる。
すると、ボールがカタカタと震えるのがわかった。
しずく「前に……ロトムの話をしましたよね」
歩夢「うん。鞠莉さんのロトムのお話だよね」
しずく「……ロトムはイタズラ好きなポケモンで、すごく子供っぽいと言いますか……。その気性が故に、精神的に成長していく鞠莉さんと少しずつ噛み合わなくなっていって……ケンカをしてしまったそうです」
歩夢「でも、しずくちゃんが昔の気持ちを思い出させてあげて……また仲直り出来たんだよね?」
しずく「……はい」
ただ、私はそのとき……いいや、正確にはその後、だけど……思ってしまった。
- 859 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:19:07.22 ID:hRdoaDre0
-
しずく「……でも、それは鞠莉さんが子供のときの気持ちを思い出してくれたから、うまく行っただけであって……ポケモン側が変わってしまったら、難しかったんじゃないかって……」
歩夢「……? どういうこと?」
しずく「……マネネってすごく子供っぽいポケモンなんです。主人の“まねっこ”をしたがる……そんなポケモン」
歩夢「うん」
しずく「でも……進化してバリヤードになったら、そういう子供っぽさはなくなるそうなんです……」
歩夢「……。……もしかして、マネネに進化して欲しくないから、あんまりボールから出してなかったの……?」
しずく「……意識してそうしていたつもりはなかったんです。……だけど、今、歩夢さんから言われて……ああ、私、そう思ってたのかもしれないって……」
いつも、私の近くで無邪気に子供っぽく、“まねっこ”をしていたマネネが、違う姿になってしまうことが、うまく想像出来なかった。
想像出来なくて……もし、変わってしまったマネネは、どうなってしまうのか、私を見てどう思うのか……なんだか、そんなことを無意識に考えてしまっていた自分に気付いてしまった。
しずく「本当はこんなこと考えちゃいけないことはわかってるんです……。大切な手持ちが成長するのは、トレーナーとして喜ぶべきことですから……」
ただ、この短い間にあまりにいろんなことがあって……。私の中に少しずつ迷いが生まれ始めて……。
しずく「姿が変わったら……私はどう映るのかなって……。……私は……今の私に……自信が、ないんです……」
だって私は──いつ自分がおかしくなっても、不思議じゃないから。
今でも、私の心のどこかで──ウルトラビーストの毒が私を蝕んでいる気がするのだ。
もし、私が私じゃなくなったら……私のポケモンたちは私をどう思うんだろう。
一番付き合いの長いマネネは、もし私がおかしくなってしまっても……きっと私の傍にいてくれる。そう思えたけど……もし、マネネが進化して、今のマネネじゃなくなったら……。
しずく「私……ダメですね……」
歩夢「……しずくちゃん」
しずく「……進化して欲しくなかったら……かすみさんみたいに、進化キャンセルをすればいいんですよね……でも」
だけど、かすみさんと私では少し事情が違う。
かすみさんは可愛いポケモンに拘りがあって……その上で強い。無理に進化させなくても、ポケモンたちを信じられるし、その強さを引き出せる自信があるのだ。
ポケモンたちも、かすみさんが望むものを理解して、かすみさんを信頼している。
だから、彼女と彼女のポケモンたちにとっては無理に新しい姿を手に入れる必要はないのだろう。
だけど、私は……私が進化して欲しくないのは、私が不安なだけなのだ。
しずく「……私の事情で、ポケモンたちの成長を止めてしまうのは……私のエゴなんじゃないかって……」
歩夢「……そっか」
しずく「……ごめんなさい。……変ですよね、こんなこと悩んでるなんて……」
歩夢「うぅん。そんなことないよ。ずっとお友達だったポケモンの姿が変わっちゃったら、びっくりしちゃうの、わかる気がするよ」
そう言いながら、歩夢さんは肩の上で鎌首をもたげているサスケさんの頭を撫でる。
「シャボ」
歩夢「私もね、サスケがアーボックに進化したらどうなっちゃうのか、想像出来ないもん」
「シャボ」
しずく「そういえば……サスケさんのレベルだと、もうアーボックに進化していてもおかしくないですよね」
歩夢さんもかすみさん同様、サスケさんには進化キャンセルをしているんだと思っていたけど、
- 860 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:19:54.59 ID:hRdoaDre0
-
歩夢「うん。ただ、サスケ……進化しないんだよね」
しずく「え? 歩夢さんがキャンセルしているんじゃないんですか……?」
歩夢「うん。だから、きっとサスケ自身がずっと私の肩の上にいたいって思ってるから進化しないのかなって……。アーボックになったら、さすがに肩には乗せられないだろうし……」
「シャーボ」
歩夢さんがサスケさんの頭を撫でると、サスケさんもそれに応えるように、歩夢さんに身を摺り寄せる。
歩夢「でも、私もサスケが進化しちゃったら……びっくりして戸惑っちゃうかもしれないなって……。だから、しずくちゃんがそう思う気持ち、ちょっとわかるんだ」
しずく「歩夢さん……」
歩夢「だから、全然変なことじゃないよ。そんなに自分がおかしいだなんて、自分を追い詰めなくてもいいんだよ」
そう言いながら、歩夢さんはまた私の頭を優しく撫でてくれる。
なんだか、歩夢さんが優しすぎて──ポロリと……涙の雫が零れてしまった。
しずく「……ぐすっ……す、すみません……」
歩夢「大丈夫だよ、しずくちゃん」
かすみさんの前では、ずっと気丈に振舞っていたからだろうか。
何故だか、年上のお姉さんである歩夢さんの前では、普段言えない気持ちも素直に言えてしまう気がした。
──もちろん……それでも、ウルトラビーストのことは歩夢さんには言えないけど……。
歩夢「ねぇ、しずくちゃん」
しずく「……なんでしょうか」
歩夢「しずくちゃんがマネネとどうやって出会ったのか……聞いてもいい? そういえば私、聞いたことなかったなって……」
しずく「マネネとの出会い……ですか」
そういえば、あまり人に話したことはなかったかもしれない。
いい機会だし、歩夢さんに聞いてもらうのも悪くないのかもしれない。
しずく「……私がマネネと出会ったのは、両親に連れられて、ガラル地方に旅行に行ったときのことでした……」
──────
────
──
初めて訪れるガラルの地。
目に映るもの全て、オトノキ地方とは全然違って──はしゃいでいた私は、気付いたら親から離れて迷子になってしまっていました。
しずく「おとうさん……おかあさん……どこですか……っ……」
ブラッシータウンでべそをかきながら、両親を探す私。
異国の地で不安になりながら、とぼとぼと歩いていると、
「マネ…マネネ…」
しずく「……?」
足元で、私みたいにベソをかいているポケモンがいた。
しずく「……あなたもまいごなんですか……?」
- 861 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:20:23.27 ID:hRdoaDre0
-
私が小首を傾げながら訊ねると、
「マネ?」
そのポケモンは私を見上げて、小首を傾げる。
しずく「……?」
そのポケモンが何を考えているのかよくわからなくて、私が不思議そうに見つめると、
「…?」
そのポケモンも私を不思議そうに見つめ返してくる。
しずく「もしかして……私のまねしてるんですか……?」
「マネ、マネネマネ?」
しずく「ま、まねしないでください……」
「マ、マネマネネ」
しずく「だから……まねしないで……!」
「マネ、マネネ!!!」
ただでさえ不安で心細いのに、からかわれているようで嫌だった私は、そのポケモンを無視して、歩き出す。
しずく「おとうさん……おかあさん……どこ……」
「マネー…マネネー…」
しずく「だから、付いてこないでください……!」
「マネ、マネネマネッ!!」
しずく「うぅ……」
「マネェ…」
異国の地でただでさえ不安で不安でしょうがないのに、変なポケモンにまで付きまとわれて、もう限界だった。
しずく「ぅ、…ぅぇぇん……っ……おとうさん……おかあさん……どこぉ……っ……ひっく……っ……」
「マ、マネ…!?」
その場に蹲って、しゃくりをあげながら泣き出してしまう私に、さすがに面食らったのか、マネネが私の周りでおろおろし始めた。
しずく「……ひっく……っ……かえりたい、ですぅ……っ……」
「マ、マネ…」
泣きじゃくる私、不安だし、寂しいし、お腹も空いてきた。もう帰りたい。
「マ、マネ…!!」
そんな、私の目の前で、マネネがぴょんぴょんと跳ね始める。
しずく「……こ、こんどは……っ……なん、ですか……っ……」
涙を拭いながら、マネネに文句を言うと、
「マネ」
マネネは私に向かって──青色をした“きのみ”を差し出していた。
しずく「これ……くれるんですか……?」
「マネ」
- 862 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:20:55.16 ID:hRdoaDre0
-
当時はこれがなんの“きのみ”かはわからなかったが、今考えてみると“カゴのみ”でした。
お腹も空いていたし……せっかくくれたから、食べてみることにする。
思い切って、齧ってみると、
しずく「……か、硬い……」
とてつもなく硬かった。
でも、頑張って、ガリっと噛み砕いて口に含むと、
しずく「…………ちょっと、しぶい……」
よく家で飲む、お茶のような渋みがあった。
くれたのはありがたいけど……このまま食べるのには、向いていないかもしれない。
しずく「ちょっと、しぶくて……これいじょう、たべられないです……」
そう言いながら、マネネに“きのみ”を返すと、
「マネ」
マネネはまた私の真似をして、“きのみ”に齧りつく。
ガリっと硬い“きのみ”を口に含むと、
「マ、マネェェェ…」
“きのみ”の渋い味に、顔を顰めた。
しずく「……くすくす♪ わたし、そんなかおしてませんよ♪」
「マ、マネェ…」
さっきまでひたすら“まねっこ”していたのに、自分で持ってきた“きのみ”の味に険しい顔をするマネネが面白くて、なんだか笑ってしまった。
私がくすくすと笑うと、
「マネマネ♪」
私を真似して、マネネもくすくすと笑う。
しずく「もう……また、まねしてる……」
よほど、人の“まねっこ”をするのが好きなポケモンらしい。
少し呆れてしまうけど──お陰で、少しだけ元気が出てきた気がする。
しずく「……わたし、しずくっていいます。あなたは?」
「マネネッ!!」
しずく「マネネ……でいいのかな? いっしょにおとうさんとおかあさん……さがしてくれますか?」
「マネ♪」
──
────
──────
- 863 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:21:28.01 ID:hRdoaDre0
-
その後、マネネと一緒に両親を探して……ブラッシータウンの駅で両親と再会することが出来ました。
しずく「──これが、私とマネネの出会いでした」
歩夢「素敵な出会いだったんだね」
しずく「はい……大切な思い出です。私にとっての……初めての友達……」
だから……だからこそ、マネネとの距離感が変わってしまうことが怖かった。
しずく「……マネネ、出てきて」
私は握ったボールから、マネネを外に出す。
「──マネ♪」
歩夢「しずくちゃん……いいの?」
しずく「はい……なんだか、マネネとお話ししたくなっちゃって……」
「マネ♪」
進化してしまうのは、変わってしまうのは、怖いけど……でも、マネネと話したい気持ちもある。
しずく「マネネは……“まねっこ”が大好きなポケモンですが……それが“まねっこ”ではなく、“ものまね”になったとき、バリヤードに進化するそうです」
「マネ?」
しずく「果たして“まねっこ”と“ものまね”の何が違うのか……よくわかりませんが……」
技としては、“まねっこ”は直前に見たのと同じ技を繰り返す。“ものまね”は直前に見た技を覚えて使えるようになる……という違いだが、何が起こると“まねっこ”が“ものまね”になるのかはよくわからない。
結局人の真似をしているということには何も変わりがないわけだし……。
しずく「でも……私がこんな悪あがきをしていても……マネネは成長して、いつかは進化しちゃうんでしょうけどね……」
歩夢「……私は、大丈夫だと思うな」
しずく「大丈夫……ですか……?」
歩夢「きっと、マネネは進化しても、しずくちゃんのこと、大切にしてくれると思う」
しずく「…………どうして、そう言い切れるんですか」
これだけ話したのに、そんな風に言う歩夢さんの言葉が、少し無責任に聞こえて、むっとした声になる。
しずく「ポケモンは進化して、新しい姿を得たら、気性が変わるのは事実なんです……保証なんてどこにも……」
歩夢「あるよ」
でも、歩夢さんは頑なだった。
歩夢「だって、それはしずくちゃんが今話してくれたよ」
しずく「……え? 私、そんな話……」
歩夢「ガラルで迷子になったとき、見ず知らずのマネネと出会ったしずくちゃんはどうしてマネネと仲良くなれたの?」
しずく「え……?」
歩夢「マネネの優しさをしずくちゃんが受け取ったからだよ」
しずく「…………」
歩夢「マネネから貰った“きのみ”を食べたとき、しずくちゃんはどう思った?」
しずく「どう……」
- 864 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:22:25.46 ID:hRdoaDre0
-
あのとき、マネネがくれた──あの渋い“きのみ”。
おいしくなかった、あの“きのみ”。
だけど……。
しずく「……心が……あったかく、なりました……」
泣きじゃくる私に、小さなマネネが考えた、精いっぱいの優しさで、胸が温かかった。
歩夢「姿が変わったら、気性が変わっちゃうポケモンがいるのは、しずくちゃんの言うとおりだと思う」
しずく「…………」
歩夢「子供っぽくて、甘えん坊なマネネじゃなくなっちゃうかもしれない。……だけど、しずくちゃんと出会ったときの優しい気持ちは──きっとそんなに簡単に変わらないよ」
しずく「……歩夢さん」
歩夢「変わっていくことで、気持ちがわからなくなっちゃうこともあるかもしれない……。だけど、そのときはまたいっぱいお話しして、仲直りすればいい」
しずく「……はい」
歩夢「だから、変わることを怖がらなくていいんだよ」
そう言いながら、歩夢さんはまた私の頭を優しく撫でてくれた。
しずく「……はい……っ……」
本当はわかっていたんだ。
だって今、歩夢さんが言っていることは、私がロトムと鞠莉さんに伝えたかったことだから。伝えたことだから。
悲しいこと、怖いことがたくさんあって、いつの間にか私も見失っていたんだ。
歩夢さんに話してみて、やっと心のつかえが取れた気がして──安心と一緒に、また涙が零れる。
しずく「す、すみません……っ……私、泣いてばかりで……っ……」
歩夢「うん、大丈夫だよ。しずくちゃん」
ポロポロと涙を零す私。そんな私を優しく撫でる歩夢さん。
そんな私たちを見て、
「マネ…」
マネネは私の肩までよじ登り。
「マネ…」
歩夢さんのように、私の頭を優しく撫でてくれる。
……そこで私は、やっと気付いた──……そっか、そういうことだったんだ。
“まねっこ”と“ものまね”の違い。
──“まねっこ”はただ、目の前の人の仕草を真似るだけだけど……。
──“ものまね”は、その行動の意味を、気持ちを、自分で理解して、することなんだ。
今のマネネのように。泣いている私を、慰めたいって、優しい気持ちで──歩夢さんの“ものまね”をしているように。
しずく「……いつの間にか……成長、してたんだね……っ……マネネ……っ……うぅん……っ……」
「──バリ」
しずく「バリヤード……っ……」
「バリ♪」
“まねっこ”は“ものまね”に。マネネは──バリヤードに。
- 865 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:22:59.16 ID:hRdoaDre0
-
しずく「今まで、構ってあげられてなくて……ごめんね……っ……」
「バリバリ♪」
私はバリヤードを抱きしめる。
こんなに優しい、私の友達。私の最初の友達。
姿が変わったくらいで、なくなってしまうわけなかったんだ。
しずく「どんなに姿が変わっても……ずっと、一緒だよ……」
「バリバリッ♪」
私は姿が変わっても、こんなに愛おしいんだと、再確認出来て──やっと心の底から、安堵したのだった。
💧 💧 💧
歩夢「落ち着いた?」
しずく「……はい。すみません、いろいろご迷惑を……」
歩夢「もう……だから、そういうこと言っちゃダメだよ!」
しずく「す、すみませ……あ、えっと……。…………すみません」
歩夢「……ふふ♪ しずくちゃんらしいけど♪」
「バリバリ♪」
しずく「むぅ……バリヤードまで……」
少し膨れてしまう。
歩夢「それにしても……私が知ってるバリヤードと少し違うかも……」
しずく「はい。この子はガラルで出会ったマネネが進化したバリヤードなので……」
図鑑を開いて歩夢さんに見せる。
『バリヤード(ガラルのすがた) ダンスポケモン 高さ:1.4m 重さ:56.8kg
タップダンスが 得意。 足の 裏から 出す冷気で つくった
氷の 床を 蹴り上げ バリヤーの ごとく 身を 守る。
凍らせた 床の 上で 1日 タップダンスに 励んでいる。』
歩夢「ガラルのバリヤードは、こおりタイプもあるんだね」
しずく「はい♪」
「バリバリ♪」
歩夢さんとバリヤードの新しい姿について話しているうちに──激しい雨の音はすっかり消えており、
歩夢「……雨……あがったね……!」
しずく「……はい!」
気付けば雲の隙間から、夕日の茜が差し込んできて、私たちを照らしていた。
それとほぼ同時に──
侑「おーーい!! 歩夢ーーー!! しずくちゃーーん!!」
かすみ「やっと見つけましたよー!! しず子ーーー!! 歩夢せんぱーい!!!」
川の向こう岸から、かすみさんと侑先輩が、私たちを呼んでいた。
- 866 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:23:33.83 ID:hRdoaDre0
-
歩夢「侑ちゃーん! かすみちゃーん! 今そっちに行くねー! トドグラー、もう一度向こう岸まで泳げる?」
雨も落ち着いて、少しずつ大人しくなってきた川を渡ろうとする歩夢さん。
しずく「歩夢さん、もう泳いで渡らなくても大丈夫ですよ」
歩夢「え?」
しずく「ね、バリヤード♪」
「バリバリ♪」
バリヤードがタップダンスを踏みながら、川へと歩いていくと──彼の足元が凍り付いて、氷の道が出来上がる。
歩夢「わぁ……!」
しずく「行きましょう、歩夢さん♪ 二人が待ってます♪」
歩夢「うん♪」
私はバリヤードと共に──雨の晴れた10番道路を、再び歩き始めたのでした。
- 867 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:24:05.55 ID:hRdoaDre0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【10番道路】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. ●| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 しずく
手持ち ジメレオン♂ Lv.33 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
バリヤード♂ Lv.25 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アオガラス♀ Lv.32 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロゼリア♂ Lv.33 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
サーナイト♀ Lv.32 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:172匹 捕まえた数:11匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.43 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.41 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.38 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
トドグラー♀ Lv.33 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラエッテ♀ Lv.28 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:170匹 捕まえた数:17匹
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.48 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.48 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.45 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.39 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
タマゴ なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
ルガルガン♂ Lv.83 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:167匹 捕まえた数:5匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.43 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.40 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.39 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.37 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.38 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:164匹 捕まえた数:8匹
しずくと 歩夢と 侑と かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 868 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2022/12/10(土) 18:54:26.43 ID:3U0IO5Sko
- 『雑談しながらポケモンSVランクマ考察する2』
(14:51〜開始)
https://www.twitch.tv/kato_junichi0817
- 869 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 09:57:24.11 ID:6zYh2+nI0
- ■Intermission🎹
──4人の女の子が、砂漠のような世界を歩いているのを足元から見上げていた。
「……あつ、すぎ……る……」
「我慢しなさい……暑いのはみんな同じよ……」
「こんなときのために、発明したものがある」
「発明?」
「自立式自動日傘ロボット『パラソル君』」
「おぉ〜傘が開いた」
「いや……大きすぎでしょ……どこにしまってたのよ……」
「布部分は真空圧縮してる。携帯性抜群」
「でも、快適だよ〜……生き返る〜……」
「はぁ……じゃあ、進みましょうか」
そう言って、リーダーらしき女の子の一声で一行は歩き出すけど──
「……いや、遅すぎるんだけど……」
「風の抵抗をモロに受けるから、このスピードが限界」
「むしろ、これくらいゆっくりな方が楽でい〜よ〜♪」
「今すぐ閉じて進むわよ」
「えぇ〜!? なんで〜!?」
「ま、日が暮れると砂漠はめちゃくちゃ冷えるからね……それはそれでしんどいし」
「ちぇ〜……わかったよぉ〜……」
のんびり屋さんっぽい女の子が項垂れると同時に── 一陣の風が吹く。
「……!? い、今のって〜……!?」
「……お出ましみたいね」
「──、下がって……」
「う、うん……」
女の子に抱き上げられながら、下がっていく。
緊迫する空気の中──
「──フェロッ」
真っ白な体躯のポケモンが、猛スピードで突っ込んできた──
──
────
──────
- 870 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 09:58:04.96 ID:6zYh2+nI0
-
侑「…………」
身を起こす。
侑「…………また…………変な夢……」
もうこの夢を見るのは何度目だろうか。
今回はいつもよりも登場人物が多かったけど……。……しかも、見覚えがあるような、ないような……。
だけど、やっぱり絶妙に思い出せない……。
暗がりの中で、ぼんやりと周囲を見回すと、
歩夢「…………すぅ…………すぅ…………」
「…zzz」
歩夢がシュラフの中で、サスケと一緒に寝息を立てていた。
リナ『侑さん? どうしたの?』 || ╹ᇫ╹ ||
私が起きたことに気付いたのか、リナちゃんがふわりと私の目の前に現れる。
侑「ちょっと目が覚めちゃっただけだよ」
リナ『雨の音のせいかな?』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんにそう言われて──確かに私たちのテントに雨粒が当たっている音がしていることに気付く。
侑「せっかく止んだのに……また降ってきちゃったんだね」
リナ『10番道路は天候が変わりやすいから仕方ない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
リナちゃんと話していると、
「ブイ…?」
私のシュラフで一緒に寝ていたイーブイが、寝ぼけまなこで私のことを見上げていた。
- 871 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 10:00:01.03 ID:6zYh2+nI0
-
侑「あ、ごめんね。起こしちゃったね……まだ寝てていいよ」
イーブイを撫でながら言うと、
「ブイ…♪」
気持ちよさそうな声をあげたあと、また丸くなって、眠り始めた。
イーブイや歩夢たちの睡眠の妨げにならないように、私は声のボリュームを1段階落とす。
侑「かすみちゃんたちのテントは平気かな……?」
リナ『川からは離れてるし、雨自体もそんなに強くないから大丈夫だよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「ならいいんだけど……。…………ふぁぁ……」
リナ『まだ朝まで時間があるから、ちゃんと寝ておいた方がいいよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「うん……そうする……」
もぞもぞとシュラフに潜り込み、もふもふのイーブイを抱きしめる。
侑「イーブイ……あったかい……」
「……ブィ…zzz」
もふもふでぽかぽかなイーブイを抱きしめていると、私の意識はまたすぐに眠りへと落ちていくのだった。
………………
…………
……
🎹
- 872 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 18:58:25.43 ID:6zYh2+nI0
-
■Chapter044 『急転』 【SIDE Setsuna】
菜々「……やはり、雨ですね」
マンションのエントランスから空を見上げると、灰色の空から雨が降り注いでいた。
不幸中の幸いとも言えるのは、昨日の午後のような、記録的な土砂降りではないことくらいだろうか。
昨日は大雨のせいで、公共交通機関にも乱れが生じるほどだったそうだ。
夕方ごろに一度、晴れこそしたものの……また明け方に掛けて天気が崩れ、雨になっている。
ただ、ここは整備の行き届いたローズシティ。
普通の雨くらいなら、舗装された道路を歩くのも、そこまで苦ではない。
私は真っ赤な傘を差して、仕事へと向かう。
🎙 🎙 🎙
本日の仕事は、数週間後に控えた、ビジネス発表会のための打ち合わせだそうだ。
会議を行うビジネスタワーで入館手続きを済ませ中に入ると、ローズシティ内の様々な企業の人たちの姿が目に入る。
件のビジネス発表会というのは、このローズシティの中でもかなり大きなビジネスショウの一つで、ローズ中の会社が集うイベントとなる。
真姫さんはローズシティにある、かなりの数の企業に影響を持っているニシキノ家のご令嬢ということもあり、顔を出さないわけにはいかない。
そして、そんな真姫さんのスケジュール管理と業務補佐をするのは、秘書である私の役目だ。
菜々「真姫さんは……もう会議室の方に行ってるのかな」
エントランスホール内には姿が見えないので、私は会議室の方へと足を運ぶ。
それにしても、本日の会議は急に決まったものだと言うのに人が多い。
やはり──噂のスーパーモデルの飛び入り参加が大きいのだろう。
一応、昨日のうちに件の人物については調べておいた。
──アサカ・果林。4年ほど前に突如モデル界に現れ、その抜群のプロポーションと人の目を引くカリスマ性で、そちらの界隈ではかなり話題になっていたそうだ。
私は……家庭の方針でそういう浮ついたものには触れさせてもらえなかったので、あまり知らなかったけど……。
今ではファッション業界や化粧品会社などから、多くの仕事を請け、広告塔としても有名のようだ。
そんな彼女とお近づきになっておきたい企業はいくらでもある。
だから、このような急なスケジュールでも、多くの企業から人が出張ってきているのだろう。
エントランスホールから廊下を抜け、エレベーターホールに差し掛かったとき、
菜々「……あ」
ちょうど、エレベーターに乗り込むお父さんの後ろ姿がちらっと見えた。
──お父さんも、今日の会議にいるんだ……。
お父さんもニシキノグループの関連企業の人間だ。いてもおかしくはないけど……。
父の姿を見ると、少しだけ緊張してしまう。
菜々「……落ち着きなさい、菜々。……私はあくまで秘書として、仕事をこなすだけです」
- 873 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 18:59:39.87 ID:6zYh2+nI0
-
小さく呟きながら、自分を落ち着かせる。
いつもどおり、真姫さんの傍で真姫さんを補佐することに専念すればいい。
次のエレベーターが来るのを待ちながら、息を整えていると──エレベーターホールの向こう側から、
「──……もう……会議室はどっちなのぉ……?」
そんな声が聞こえてきた。
菜々「……?」
エレベーターホールの向こう側って……非常階段だよね?
私はエレベーターホールを抜けて、非常階段の方に足を向ける。
すると──深い青みがかった髪をウルフカットにしている、長身の女性がいた。
まさに昨日調べていた人、
菜々「……アサカ・果林さん……?」
果林「……え?」
──アサカ・果林さんその人だった。
菜々「こんなところで、どうかされたんですか?」
果林「え、えぇっと……。……会議室に行きたいんだけど」
菜々「会議室ですか……?」
もしかして……道に迷っている?
いやでも……会議室はエントランスホールからエレベーターホールで上の階に行くだけだし……。
どうやっても、この非常階段に来る間にエレベーターの前は通るはずなんだけど……。
……まあ、いいか。困っているのなら、助けることに理由はいらないでしょう。
菜々「私も会議室に用があるので、よろしければ一緒に行きましょうか」
果林「ホントに……? 助かるわ……」
菜々「こちらです」
私は果林さんと共に会議室へと赴く──
🎙 🎙 🎙
──エレベーターで上階へ昇りながら、
果林「貴方……もしかして、真姫さんの秘書かしら?」
菜々「え……?」
果林さんから、そう話を振ってきた。
- 874 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:01:47.81 ID:6zYh2+nI0
-
菜々「えっと……はい、確かにそうですが……」
果林「やっぱり」
菜々「よくご存じでしたね……」
果林「真姫さんの秘書は若い女の子だって聞いていたから……。このビルで見かけた人の中でも、貴方は飛びぬけて若い子だったから、もしかしてと思って」
菜々「なるほど……」
果林「確か……ナカガワ・菜々さんよね」
菜々「はい」
果林「まだ16歳って本当なの?」
菜々「は、はい……真姫さんに直接秘書にならないかとお声を掛けていただいて……」
果林「若いのに、有能なのね」
菜々「い、いえ、そんな……///」
果林「それに、可愛い顔してる……」
菜々「はいっ!?///」
果林さんの言葉に、思わず声が裏返る。
果林「その容姿なら、きっと人気者になれるわよ?」
菜々「か、か、からかわないでくださいっ!!///」
思わず、果林さんから目を逸らす。
この人は急に何を言い出すんだ。
果林「ふふっ、ごめんなさい。でも、可愛いって思ったのは本当よ?」
菜々「ぅぅ……///」
顔が熱い。ポケモンバトルを褒められることはよくあるけど、こんな風に容姿を褒められるのには慣れていない。
しかも──今の私は菜々モードだ。眼鏡に三つ編みで、比較的地味な見た目にしているはずなのに……。
果林「ふふ……隠してもダメよ? お姉さんには、わかっちゃうんだから」
菜々「だ、だから……か、からかわないでください……///」
果林「ふふ、ごめんなさい♪」
果林さんが、いたずらっぽく笑うのとほぼ同時に──ピンポーン。という音と共に、エレベーターが目的の階に到着する。
エレベーターのドアが開くと果林さんは、
果林「案内してくれてありがとう、それじゃまた後でね」
そう残して、先に行ってしまった。
菜々「……はぁ……///」
一緒にエレベーターに乗っていただけなのに、なんだか気疲れしてしまった。
菜々「……これから、大事な会議なんだから、しっかりしないと」
私は動揺を飛ばすために頭を振り、果林さんの後を追ってエレベーターを降りるのだった。
──余談ですが、何故か果林さんが会議室に姿を現したのは、会議開始時間ギリギリでした。……ちゃんと会議室まで案内してあげた方がよかったのかもしれません。
- 875 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:02:50.07 ID:6zYh2+nI0
-
🎙 🎙 🎙
──さて……。会議は滞りなく終わり、
菜々「真姫さん、お疲れ様です。こちら、本日の内容を簡単にまとめたものです」
真姫「ありがとう、菜々」
他の参加者たちはまばらに退室を始めているところだ。
真姫さんに情報をまとめた端末を渡しながら、周囲を軽く確認すると──果林さんはもう退室していて少しだけ安心する。
それと……お父さんの姿も、すでに会議室内にはなかった。
真姫さんもお父さんの姿がもうないことを確認したのか、
真姫「菜々、大丈夫だった?」
そう訊ねてくる。
菜々「はは……確かに、父と同じ場所で仕事をしていると思うと、少し緊張はしましたが……会話をしたわけでもないですし……問題ありません」
真姫「なら、いいけど」
……始まる前や終わった後に、少しくらい話しかけられるかなと思ったけど……そんなこともなかったし……。
真姫「私たちも、出ましょうか」
菜々「はい」
私は真姫さんと一緒に、会議室を後にする。
二人でエレベーターを降りながら、真姫さんはふと会議中のことを思い出したらしく、
真姫「そういえば、貴方……アサカさんから随分熱い視線を送られてた気がするけど……知り合いだったの?」
そう訊ねてくる。
菜々「え、ええっと……ここに来る前に、会議室の場所がわからずに困っていたので……場所をお教えした際に少しお話ししまして……」
真姫「あら……少し話しただけで随分気に入られたのね」
菜々「き、気に入られたというか……私が分不相応に若いから、気になっただけですよ……」
本当に気に入られたというよりも、からかわれただけですし……。
場が場だけに、私は一際若い……というか、他の人から見たら子供ですし……。
真姫「案外、トップモデルから見ても、光るモノを感じられたのかもしれないわよ?」
菜々「ま、真姫さんまで……やめてください……///」
恥ずかしいから、からかわないで欲しい。
せつ菜モードでなら、褒められてもうまく対応できるのに、菜々モードのときにこういうことを言われるとワタワタしてしまう。
真姫「それにしても……そういうのはマネージャーの仕事だと思うんだけど……」
菜々「言われてみればそうですね……」
会議中、果林さんの背後には、スーツを着た金髪のお姉さんが居ましたが……恐らくあの方がマネージャーなんだと思います。
会議室にギリギリで入ってきたときは一緒にいたので、会議室のある階で合流出来たのかもしれませんが……。
- 876 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:03:32.69 ID:6zYh2+nI0
-
真姫「まあ……滞りなく会議も終わったし、別にいいけど」
確かに向こうの事情は向こうにしかわからない。
果林さんはあまりマネージャーに頼らない方針なのかもしれないし……。
せめて、行き先にたどり着けるようにしてあげて欲しいですが……。
二人で話しながら、エントランスホールへと戻ってくる。
菜々「……そういえば、真姫さん。そろそろ、ジムの挑戦者受付時間ですよね?」
真姫「ええ、わかってる。私はジムに戻るから、菜々は……」
菜々「私は今日の会議の内容をちゃんと纏めて、後で持って行きますね」
真姫「ありがとう。お願いね」
菜々「はい。お任せください」
真姫さんはジムに戻るために、一足先にビジネスタワーを後にする。
私は……どうしようかな。タワー内には一般の人も使える、カフェスペースがあるし……そこで資料を纏めようかな。
👠 👠 👠
愛「カリンさー、どうすれば一本道で迷うわけ?」
果林「い、いいじゃない……ちゃんとたどり着けたんだから……。それに愛こそ、マネージャー役なのに、私を無視して先に行っちゃうのはどうなのかしら?」
愛「気付いたら、いなくなってただけじゃん……せっつーもカリンを見つけたときはさぞ驚いただろうね。“タワー”にカリンおっ“たわー”! って感じで」
果林「はいはい……じゃあ、私が悪かったってことでいいわよ……」
愛「いや、愛さんに悪いところ一つもないと思うんだけどなー……。それより、この後どうすんの? 逃走経路の確保と、ここらの監視カメラのクラッキングはやっておいたけどさ」
果林「大丈夫よ。もう全部──仕掛けてあるから」
──直後、ドンッと何かが壊れるような大きな音がする。
果林「さて……どうなるかしらね」
私は今後の展開を思い、口角を釣り上げた──
- 877 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:04:21.49 ID:6zYh2+nI0
-
🎙 🎙 🎙
菜々「……これでいいかな」
ある程度今日の会議の内容が纏まって来たところで一息。
目の前がガラス張りになっているカウンター席で、エントランスホールを眺めながら、コーヒーを飲む。
程よい苦みと香りが心地いい。
作業もスムーズに進んだし、この後は少し時間が浮く。
真姫さんへ資料を渡したあと、久しぶりにローズの街を散歩するのも悪くないかもしれない。
どうせ、また明日からはせつ菜として、この街を離れるわけだし……。
ぼんやりと今後のことを思案していた──そのときだった。
──ドンッ!! と急に大きな音が、響く。
菜々「!? ……な、なに……?」
爆発……? 周囲のお客さんも突然の大きな音に、ざわついている。
音がしたのは……エレベーターホールの方……?
何が起きたのか考えている間に──エレベーターホールの方から、逃げ惑う人の波がエントランスの方へと押し寄せて来た。
その姿にさらにざわめく店内。
何かがあったのは間違いなかった。
私はバッグをひったくるように手に取り、店の外に駆けだす。
カフェスペースから外に出る頃には──この騒動の正体が、すでにエントランスホールまで姿を現していた。
「──バーンギッ!!!!!」
エレベーターホールの方から、怪獣のような巨体が、我が物顔で歩いてくるではないか。
菜々「ば、バンギラス……!?」
姿を現したのは、よろいポケモン、バンギラス。当たり前だが、こんなところにいるはずがない。
ここはローズシティの、それも中央地区にあるビジネスタワーだ。
突然のことに動揺を隠せないが──それ以上に、エントランスホール内の混乱は酷かった。
逃げ惑う人たちから、怒号が飛び交い、押し合い圧し合いで、逃げ惑う。
まさに、パニック状態だった。
パニックの最中、
女性「きゃぁ……!!」
逃げ惑う人たちに押されて、転んだ女性が目に入る。
「バンギィ…!!!!」
バンギラスは声をあげながら、転んだ彼女の方に視線を向ける。
女性「……い、いや……! だ、誰か……たすけ……!」
菜々「……! いけない……!!」
- 878 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:05:57.06 ID:6zYh2+nI0
-
私は咄嗟に走り出す。
迷っている暇なんかなかった。
バッグの中から、ボールベルトごと引っ張り出して、
「バァンギッ!!!!!」
女性「いやぁっ……!!」
女性に向かって襲い掛かるバンギラスに向かってボールを投げた。
──ボムという音と共に、
「──ドサイッ!!!」
「バンギッ…?」
現れた巨体が、バンギラスの拳を受け止める。
菜々「ドサイドン!! “ロックブラスト”!!」
「ドサイッ!!!」
組み合った手とは逆の掌を、バンギラスに突き付け──至近距離で岩石の砲弾を発射する。
「バンギッ!!?」
──ドンッ、ドンッ! と音を立てながら、岩の砲弾がバンギラスを吹き飛ばす。
菜々「大丈夫ですか……!?」
女性「は、はい……っ……」
菜々「ここは私がどうにかします……! 貴方は逃げてください!」
女性「あ、ありがとうございます……っ……」
よろよろと立ち上がる彼女を手助けしながら、どうにか送り出すと──
「バァンギッ!!!!」
鳴き声と共に、私たちの方に向かって大岩が飛んでくる。
菜々「……っ! “ドリルライナー”!!」
「ドサイッ!!!」
頭のドリルを回転させて、飛んできた岩を破壊する。
が、その隙に、
「バァンギッ!!!!」
バンギラスが突撃してくる、
菜々「くっ……!」
まだ背後には逃げ遅れた人たちがいる。止めなくちゃ……!
せつ菜「ドサイドン! 受け止めなさい!!」
「ドサイッ!!!」
「バンギッ!!!!」
- 879 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:06:40.00 ID:6zYh2+nI0
-
二つの岩の巨体がぶつかって、がっぷり四つで組み合う形になる。
私のドサイドンはパワーが自慢。組み合いさえしてしまえば並のポケモン程度にはまず力負けしない──
「バンギィッ!!!」
「ド、ドサィ…ッ!!!」
菜々「な……!?」
が、私の予想と反して、ドサイドンが押され始める。
さらに、
「バァンギッ!!!!」
組み合いながら、バンギラスが首を伸ばして、ドサイドンの肩に噛みついてくる。
この状況で“かみくだく”……!?
いや、それだけじゃない。パキパキと音を立てながら、バンギラスの噛み付いた部分が凍り付いていく。
菜々「まさか“こおりのキバ”……!?」
このバンギラス──強い。しかも、恐ろしく戦い慣れている。
「ド、ドサイッ…!!!」
これは──これ以上、組み合っちゃいけない……!
菜々「“アームハンマー”!!」
「ドサイッ!!!」
ドサイドンは片手を振り上げ、それをバンギラスの肩の辺りに勢いよく振り下ろす。
──ガンッ! と大きな音を立てながら殴りつけられたバンギラスは、
「バンギッ…!!!」
さすがに、噛みつき続けていられずに、体勢を崩す。
そこに向かって、
菜々「“アイアンテール”!!」
「ドサイッ!!!!」
ドサイドンが身を捻りながら、尻尾にある大きな石鎚を叩きつけた。
「バァンギッ!!!?」
遠心力を利用した尻尾のハンマーの威力に、バンギラスが数メートル吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「バン、ギッ…」
崩れる瓦礫と砂煙の中──やっとバンギラスは大人しくなる。
と同時に──バンギラスが何かに吸い込まれて小さくなっていく。
菜々「……!?」
一瞬、何かと思ったが──
菜々「まさか、トレーナーがいる……!?」
- 880 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:07:15.42 ID:6zYh2+nI0
-
今のは、バンギラスがボールに戻されただけだ……!!
そう気付いて、
菜々「待ちなさい……!!」
私は駆け出した。
だけど、砂煙と瓦礫に視界を遮られているせいで──犯人の姿を見つけるのは、とてもじゃないが困難だった。
菜々「く……」
先ほどバンギラスが倒れた瓦礫の向こう側に辿り着いた時には──すでに人影のようなものは見当たらず……。
菜々「逃げられましたね……」
私は苦々しい顔で、肩を落とす。
それにしても……どうしてこんなことが……。
これが人為的なものであるなら……ポケモンによるテロ行為と言って差し支えない。
到底許されるものではない……。
私が怒りに肩を震わせながら、振り返ると──
菜々「……え」
そこには──お父さんがいた。
お父さんが、信じられないものを見るような目で──私を見つめていた。
菜々「お、とう……さん……」
菜々父「……菜々、どういうことだ」
──どういうことだ。
その言葉が、この事態に対する説明要求──でないことは、すぐに理解出来た。
父の表情を見て──理解、してしまった。
ポケモンと、共に戦う私に対しての──『どういうことだ』。
「ド、ドサイ…」
菜々「こ、れは……そ、の……」
何か誤魔化さなきゃ。そう思ったけど、考えれば考えるほど、頭の中は真っ白になっていく。
言い訳なんて、出来るはずがない。
自分の気が──どんどん遠くなっていくのを感じた。
🎹 🎹 🎹
かすみ「到着しましたー!! ローズシティ!!」
「ガゥガゥ♪」
侑「うん!」
「イブィ♪」
- 881 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:08:08.53 ID:6zYh2+nI0
-
──雨模様の10番道路の長い道のりを越え……私たちはようやく、ローズシティにたどり着いた。
さて、ローズシティに着いたならまずは……。
侑「ローズジムだよね!」
かすみ「侑先輩、さすがわかってますねぇ〜!」
かすみちゃんと二人で黒と黄色の傘を並べながら意気揚々と、歩き出す。
歩夢「あ、侑ちゃん……ローズを歩くなら、イーブイをボールに入れないと……」
侑「え? どういうこと?」
歩夢の言葉に首を傾げる。
リナ『ローズシティでは、あんまりポケモンの連れ歩きが推奨されてない。基本的にボールに入れてた方がいい』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「え、そうなの?」
しずく「本当に厳しいのは中央区だけなんだけど……基本的にはポケモンはボールに入れておいた方がいいかもね」
リナ『無用なトラブルは避けたいしね。郷に入っては郷に従え』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
かすみ「ポケモンを出しちゃいけないなんて、珍しい街ですね〜?」
「ガゥ?」
侑「うーん……でも、そういうルールなら従わないわけにもいかないよね……」
かすみ「まあ、それもそうですね……戻って、ゾロア」
「ガゥ──」
かすみちゃんがゾロアをボールに戻す。
歩夢も同様に、
歩夢「ちょっと窮屈だけど……ボールの中で大人しくしててね」
「シャボ──」
サスケをボールに戻していた。
私も、イーブイを戻さないと……。
侑「イーブイ、しばらくボールの中に──」
私がボールを近づけると、
「ブイッ」
イーブイは前足でボール弾き飛ばした。
侑「…………」
「ブィィ…ッ!!!」
かすみ「なんかめっちゃ怒ってますよ、イーブイ……」
歩夢「侑ちゃんのイーブイ……ボールに入るのが嫌いなんだよね」
侑「そうなんだよね……」
実はイーブイをボールに入れたことは一度しかなくて……自分の手持ちとして登録する際に一瞬ボールに入れたときだけだ。
何度かボールに戻そうとしたことはあるにはあったんだけど……ものすごく嫌がられるし、私の頭の上か、肩の上にいるのが好きみたいだから、ずっとボールには入れてなかったんだよね。
- 882 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:09:00.01 ID:6zYh2+nI0
-
侑「どうしよう……」
しずく「ボールに入れられないなら……抱きかかえて歩くのがいいかもしれませんね。……抱きしめていれば、突然飛び出したりしないとわかってもらえるでしょうし……」
リナ『しずくちゃんの言うとおり、たぶん抱っこしてれば大丈夫だと思う。中央区にはあんまり行かない方がいいだろうけど、ジムがあるのは街の外側だし』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「うん……そうするしかないね……」
「ブイ…?」
侑「歩夢、ちょっと傘持っててもらっていい?」
歩夢「うん」
歩夢に傘を持ってもらい、頭の上のイーブイを両手で掴んで、そのまま胸に抱きかかえる。
侑「これならいい?」
「ブイ♪」
どうやら、これなら許してもらえたようだ。歩夢から傘を受け取りながら、空いた方の手でイーブイをしっかり胸に抱き寄せる。
侑「それじゃ、ジムに行こっか!」
かすみ「はい! 腕が鳴りますね〜!!」
私たちはローズジムを目指して、ローズシティの地に足を踏み入れます!
🎹 🎹 🎹
しずく「──ローズシティは外側部は低い建物が多くて、中央区に近付くほど、高いビルが増えていくんですよ」
侑「じゃあ……あっちの方向が中央区なんだね」
私は一際背の高いビルの方に目を向ける。
リナ『一番高いのはセントラルタワーって言うんだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
しずく「一番背の高いセントラルタワーを中心に、同心円状にビルの高さが変わって行くんです。なので、夜のローズシティを上空から見ると、夜景が光の山のように見えるそうですよ」
かすみ「なにそれなにそれ〜! 絶対きれいなやつじゃん!」
リナ『ただ、中央区の中でもセントラルタワーの上空付近は飛行許可を取らないと、“そらをとぶ”も使えないから、一般人が見るのはなかなか大変みたい』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「噂には聞いてたけど……ローズシティって本当に厳重なんだね……」
しずく「この地方の商業、工業の要ですからね……。この街の中央区が止まると、同時にいろんな物流が止まってしまうそうなので……」
リナ『モンスターボールなんかも、このローズシティから出回ってるしね。ボールの出荷が停止すると、どこも困っちゃう』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「ポケモンは少ないけど、トレーナーにとっても重要な街なんだね」
「イブィ?」
オトノキ地方の大きな街の中でも、いろんなポケモンの姿が見られるセキレイシティとは真逆だけど……この街はこの街で、重要な役割を担っているみたいだ。
しずく「中央区とは逆に外周区には、ポケモン用の施設が多くあります。ポケモンセンターやバトル施設……それこそ、ポケモンジムも外周区にありますね」
リナ『多いって言っても、街の規模に対して考えると少ないけどね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
かすみ「まあ、そのお陰でこーんなおっきな街でも、すぐにジムにたどり着けるけどね!」
そう言いながら、私たちはまさにローズジムの前に到着したところだった。
侑「ここがローズジム……! なんだか、今からジム戦するって考えただけで、ときめいてきちゃう!」
「イブィ♪」
- 883 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:09:37.71 ID:6zYh2+nI0
-
ローズジムの真姫さんとはどんなバトルになるんだろう……! 楽しみで、今からときめきが止まらない……! ついでにサインも貰わないと……!
リナ『侑さん、ときめくのはいいけど、もう一個目的があるの忘れないでね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「もちろん! 千歌さんのルガルガンを渡すことだよね!」
このために研究所から、真っすぐローズシティまできたわけだしね!
侑「それじゃ、入ろうか」
私は早速ローズジムの中に入ると、
真姫「──あら、いらっしゃい。チャレンジャーかしら?」
ジムの中には、早速ジムリーダー──真姫さんの姿。
侑「わ……! 本物の真姫さん……! とりあえず、サイン色紙……」
リナ『侑さん、目的……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「あはは……」
歩夢が苦笑している。
一方で真姫さんは、
真姫「あら……? そのロトム図鑑……もしかして、貴方が侑?」
何故か私の名前を言い当ててくる。
侑「え!? な、なんで知ってるんですか……!?」
真姫「善子から聞いてるわ。ジムに挑戦するついでに、千歌のルガルガンを持ってきてくれたのよね」
侑「あ、は、はい!」
私は小走りで真姫さんのもとに駆け寄り、
侑「このモンスターボールの中に、千歌さんのルガルガンが入ってます……!」
真姫さんに手渡す。
真姫「ありがとう。確かに受け取ったわ」
侑「は、はい! あ、あの……それと……」
真姫「何かしら?」
侑「もしよかったら……サインください!」
真姫「ふふ、いいわよ」
侑「やったー! ありがとうございます!」
私がバッグから、サイン色紙を取り出そうとすると、
かすみ「ちょーーーっと待ってください!!」
かすみちゃんが大きな声をあげる。
かすみ「侑先輩! サインは後ですよ! かすみんたちはジム戦をしに来たんですから!!」
そう言いながら、かすみちゃんが前に出てくる。
- 884 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:10:17.77 ID:6zYh2+nI0
-
真姫「あら……ということは貴方もチャレンジャーかしら?」
かすみ「はい! かすみんは、セキレイシティから来たかすみんです!」
真姫「かすみん……? 変わった名前ね?」
しずく「す、すみません……この子の名前はかすみさんって言います……。……もう、初対面の人に変な自己紹介したら、めっ! って何度も言ってるでしょ!」
真姫「ああ……にこちゃんのにこにー的なアレね……」
かすみ「ちょっとぉ!! あんなのと同じにしないでくださいよ!」
真姫「まあ、それはいいんだけど……侑とかすみ、どっちと先にジム戦すればいいのかしら?」
真姫さんは私とかすみちゃんを交互に見ながら、そう訊ねてくる。
しずく「そういえば、どっちが先にジム戦をするかの話、してなかったね……」
かすみ「……侑せんぱ〜い……? かすみんが先にジム戦しちゃダメですかぁ〜……?」
かすみちゃんが可愛くおねだりしてくる。
侑「ふふ、いいよ♪ 私はかすみちゃんの後で大丈夫だから!」
そう答えて、私は一旦見学スペースの方へと歩いていく。
かすみ「あ〜ん♡ 侑先輩優しいですぅ〜♪ 好き好き〜♡」
しずく「侑先輩……いいんですか?」
侑「うん。むしろ後の方が、かすみちゃんとの試合を見て、対策も立てられるし」
かすみ「任せてください! かすみんがしっかり勝ち方を見せてあげちゃいますから!」
かすみちゃんは私と入れ替わるように歩み出て、チャレンジャー用のスペースに着く。
真姫「話は付いたみたいね。それじゃ、さっさと始めましょうか」
かすみ「よろしくお願いします!」
真姫さんがジム戦用のポケモンのボールを携え、フィールドに立った──そのときだった。
使用人「──お嬢様、お電話が入っております」
ジムの奥から、いかにもな使用人さんが電話を持って現れる。
真姫「電話……? ちょっと待ってもらっていいかしら」
かすみ「あ、はい。わかりました」
真姫「ありがとう」
真姫さんはお礼を言いながら、使用人さんの持ってきた受話器を受け取る。
真姫「誰から?」
使用人「それが……警察の方からです……」
真姫「……警察?」
真姫さんは電話の主を聞いて、眉を顰める。
真姫「もしもし……真姫だけど」
- 885 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:10:50.00 ID:6zYh2+nI0
-
かすみ「今、警察って言いませんでした……?」
リナ『ジムリーダーは街の治安維持も仕事だから、警察から連絡が来ることもあるとは思う』 || ╹ᇫ╹ ||
しずく「うん……何か、あったのかな?」
かすみ「なーんか、嫌な予感がしますぅ……」
ひそひそと話しながら、通話の行く末を見守っていると、
真姫「………なんですって?」
真姫さんの眉間にシワが寄るのがわかった。──そのまま目を細めて通話先の話を聴き、
真姫「……わかった。すぐ行くわ」
そう返して、通話を切った。
そして、かすみちゃんに向かって、
真姫「ごめんなさい……ちょっと、急用が出来て、どうしても出なくちゃいけなくなったわ」
申し訳なさそうに、そう伝えて来る。
かすみ「や、やっぱり……」
真姫「本当にごめんなさい……」
かすみ「あ、あのぉ……それじゃ、ジム戦……いつなら出来ますか……?」
真姫「……ちょっと、本当に緊急事態だから、しばらくジムを閉めるかもしれないわ」
かすみ「ええ!? そ、そんなぁ……!」
真姫「本当に急ぐから申し訳ないけど、ジムは他の場所から巡って頂戴」
それだけ残すと、真姫さんは私たちの横を通り過ぎ、駆け足でジムから立ち去ってしまった。
かすみ「ま、またこのパターン……」
リナ『かすみちゃん……ドンマイ』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
しずく「ここまで来ると、なんて声を掛ければいいやら……」
かすみ「……もう、いいです。慣れました……」
がっくりと肩を落とす、かすみちゃん。
しずく「と、とりあえず、ポケモンセンターのカフェスペースにでも行こ! ね?」
かすみ「……うん」
とぼとぼとジムから出ていくかすみちゃんと、そんなかすみちゃんを慰めるしずくちゃん。
歩夢「侑ちゃん、私たちも行こっか」
侑「う、うん」
とりあえず、ジムリーダーがいなくなってしまったし、この場にいても仕方ないので、私たちは一旦ポケモンセンターへと移動することに……。
- 886 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:11:27.75 ID:6zYh2+nI0
-
🎹 🎹 🎹
私たちがポケモンセンターに到着すると、どうして真姫さんが飛び出して行ったのかがわかった。
カフェスペースに備え付けてあるテレビモニターからは──警察車両に囲まれた建物の映像。
しずく「中央区のビル内で人がポケモンに襲われたって……」
かすみ「だ、大事件じゃないですかぁ!?」
歩夢「怪我人も出てるって……大丈夫かな……心配……」
3人の言うとおり、ビジネスタワーのビル内で、ポケモンが大暴れする事件が発生したらしい。
偶然居合わせたポケモントレーナーによって、どうにかそのポケモンを無力化することは出来たらしいけど……怪我人も出ているらしい。
不幸中の幸いというべきなのは、怪我人は転んで軽傷を負った程度のもので、襲われたことが原因で大怪我をした人はいないとのこと。
侑「これじゃ……ジムを飛び出して行ってもおかしくないよね……」
「ブィ…」
リナ『うん。ジムリーダーは街を守るのも仕事だからね』 || ╹ᇫ╹ ||
それこそ、ジム戦をしている場合じゃない状況だ。
しずく「こうなってくると……当分の間はジム戦は難しそうですね……」
かすみ「うぅ……さすがにこれは仕方ないよねぇ……」
リナ『中央区は安全確認が出来るまで、立ち入りも出来ないみたいだね』 || ╹ᇫ╹ ||
となると……この街で出来ることはかなり限られてくる。
それに、どのタイミングでジム戦受付が再開されるかもわからないし……。
侑「……真姫さんの言ってたとおり、他のジムを先に巡っちゃう方がいいかもしれないね」
しずく「そうですね……ここで待っていても、本当にいつジム戦の受付を再開するかもわからないですし……」
リナ『そうなると……東のクリスタルレイクを越えた先のクロユリシティに行くか、街を北に抜けて11番道路沿いに西のヒナギクシティを目指すかになると思う』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「クロユリかヒナギクかぁ……」
歩夢「クロユリとヒナギクは、ローズシティを経由するから……どちらにしろ、どっちかの町に行ったら、ローズに戻ってくることになるね」
侑「考えようによっては、むしろ都合がいい気もするけど……」
どちらにしろ、ローズにジム戦をしに戻ってくる必要はあるわけだしね。
ただ、問題はどっちに進むかだ。
侑「私は……クロユリに行きたいかな」
リナ『何か理由があるの?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「私、クロユリのジムリーダーの英玲奈さんに会ってみたいんだ」
──彼女はこのオトノキ地方の中で最強のジムリーダーと呼ばれている。
ジムリーダー序列というジムリーダー内での総当たり試合の勝率でも頭一つ抜けているし、その実力は四天王と同等……もしくはそれ以上なんて噂もあるくらいの人だ。
ストイックで鍛錬に余念がなく、むしポケモンによる畳みかけるようなバトルスタイルから、付いた通り名は『壮烈たるキラーホーネット』。
まさにポケモンバトルのスペシャリストみたいな人だ。
もちろん、全てのジムを回る以上、いつかは会えるとは思うんだけど……クロユリかヒナギクかと言われたら、私はポケモンバトルのスペシャリストである英玲奈さんに会ってみたかった。
かすみ「じゃあ、次はクロユリシティですかね?」
- 887 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:12:05.06 ID:6zYh2+nI0
-
行き先が決定しかける中、
しずく「あ、あのぉ〜……」
しずくちゃんが遠慮がちに手を上げる。
歩夢「どうしたの? しずくちゃん?」
しずく「私は……その……。……ヒナギク側に行きたいなって……」
ここで予想外なことに、しずくちゃんから反対方向へ行きたいとの意見が出てきた。
かすみ「なになに? ヒナギクシティに何かあるの?」
しずく「うん……。私、クマシュンってポケモンと会ってみたくって……」
かすみ「クマシュン?」
歩夢「クマシュンって確か……寒い場所にいるシロクマポケモンだよね?」
しずく「はい……! ポケウッドスターのハチクさんの相棒──ツンベアーの進化前で……すっごく可愛いんです! 旅をするなら、実際に一度見てみたいとずっと思っていて……」
リナ『確かにクマシュンはグレイブマウンテンにしかいないから、会うならヒナギク方面に行かないといけないね』 || ╹ᇫ╹ ||
確かに旅をするならジム巡り以外にも、そこにしかいないポケモンに会うのも楽しみの一つだよね。
侑「そういうことなら……ヒナギク方面に行く?」
しずく「えっと……でも、侑先輩はクロユリ方面が良いんですよね……?」
侑「それはそうなんだけど……後から行っても英玲奈さんには会えるし……」
しずく「その理屈で言うなら、私もクロユリに行った後でも大丈夫です……! すみません、後から余計なことを言ってしまって……」
侑「うぅん、ここはしずくちゃんの意見を優先しよう」
しずく「い、いえ、侑先輩の行きたい場所を優先に……」
かすみ「もう! なんで二人して譲り合ってるんですか!」
譲り合い合戦が始まってしまった私たちの間に、かすみちゃんが割って入る。
かすみ「なら侑先輩! 競争しませんか!」
侑「競争……?」
かすみ「はい! かすみんとしず子はヒナギク方面に、侑先輩と歩夢先輩はクロユリ方面に進んで──どっちが先にジム攻略出来るか、競争しましょう!」
侑「なるほど……」
確かに言われてみれば、4人で行動しなくちゃいけないわけじゃないし……行き先が割れちゃうなら、前みたいに、かすみちゃんはしずくちゃんと、私は歩夢と二人で旅をすればいい話だ。
侑「歩夢はそれでいい?」
歩夢「うん♪ 侑ちゃんと一緒なら、私はどっち方向でも♪」
リナ『それじゃ、決まりだね』 || ╹ ◡ ╹ ||
かすみ「かすみんたちは、ヒナギク方面へ!」
侑「私たちは、クロユリ目指して! 負けないよ、かすみちゃん!」
かすみ「かすみんも負けるつもりはないですよ! そうと決まったら、スタートダッシュです!」
- 888 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:12:37.44 ID:6zYh2+nI0
-
かすみちゃんはいそいそと荷物を纏めて、
かすみ「しず子、行くよ!」
しずく「え、ええ!? 今すぐ行くの!?」
かすみ「だって、そうじゃないと侑先輩に負けちゃうじゃん! 早くして!」
しずく「わ、わかったから、引っ張らないで〜……! ゆ、侑先輩、歩夢先輩、またローズで合流しましょう……!」
かすみ「レッツゴー!」
半ば強引にしずくちゃんの手を引きながら、かすみちゃんたちは慌ただしく旅立って行った。
侑「それじゃ、私たちも行こうか、歩夢、リナちゃん」
「イブィ♪」
歩夢「うん♪」
リナ『クロユリシティ目指して、リナちゃんボード「レッツゴー♪」』 ||,,> 𝅎 <,,||
私たちもクロユリシティを目指して、ローズシティを後にするのでした。
- 889 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:13:13.24 ID:6zYh2+nI0
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>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ローズシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | ● __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.50 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.50 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.48 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.42 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
タマゴ なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:176匹 捕まえた数:5匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.44 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.42 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.39 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
トドグラー♀ Lv.35 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラエッテ♀ Lv.30 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:179匹 捕まえた数:17匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.45 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.42 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.40 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.38 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.39 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:171匹 捕まえた数:8匹
主人公 しずく
手持ち ジメレオン♂ Lv.33 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
バリヤード♂ Lv.28 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アオガラス♀ Lv.33 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロゼリア♂ Lv.33 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
サーナイト♀ Lv.33 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:179匹 捕まえた数:11匹
侑と 歩夢と かすみと しずくは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 890 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 01:29:17.05 ID:ropYqdR40
-
■Intermission🍅
真姫「……これは予想以上に酷いわね」
──現場に到着した私は、『KEEP OUT』のテープを潜りながら、眉を顰める。
先ほど会議をしたビジネスタワーは外から見ても、中の惨状がよくわかる状況だった。
あちこちガラスは割れているし、中にはあちこちに瓦礫があって、砂煙が立ち込めている。
ここで戦闘があったというのは本当らしい。
私が、タワー内に立ち入ると、
ジュンサー「真姫さん……! お待ちしておりました!」
ジュンサーが私に気付いて、駆け寄ってくる。
真姫「これはまた……派手にやられたみたいね」
ジュンサー「はい……。ですが、お陰で助かりました……」
真姫「お陰で……? なんの話?」
ジュンサー「もしかして、まだご存じないんですか……? ポケモンを撃退したトレーナー──真姫さんの秘書の方と伺ったんですが……」
真姫「菜々が……?」
確かに菜々なら、並大抵のポケモンには負けることはないと思う。
ただ、そうなってくると、逆に気になることがある。
真姫「……それで、菜々──私の秘書は事件後、どこにいったのかしら……?」
これだけのことがあったのに、何故、菜々本人から連絡がないのかが不可解だ。
ジュンサー「警察の方から軽く事情を伺ったあと、彼女のお父様と一緒に帰られましたよ」
真姫「……え?」
ジュンサー「どうかされましたか……? 顔色が悪いですが……」
真姫「……いえ、大丈夫よ」
ジュンサー「それなら、いいんですが……。詳しい事件の詳細をお話ししますので、こちらに」
真姫「……ええ」
──まさか……菜々が戦っている場面に、菜々の父親もいたのでは……?
そんな疑惑が頭を過ぎる。
真姫「菜々……」
- 891 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 01:29:52.20 ID:ropYqdR40
-
🎙 🎙 🎙
菜々父「……この5つで持っているポケモンのボールは全てか?」
菜々「……はい」
──私は今、父の会社の社長室にいる。
そして、父の座る社長室の机の上には……5つのモンスターボールが並べられていた。
もちろん、私のポケモンたちだ。
菜々父「私の知らないところで、こんなものを……」
菜々「そ、その子たちを……どうするつもり……?」
菜々父「業者に引き渡して、逃がしてもらう」
菜々「!? だ、ダメ……!!」
私は、机の上に並べられたボールに覆いかぶさるようにして、自分の胸に抱き寄せる。
菜々父「……菜々、言うことを聞きなさい」
菜々「この子たちは、私の大切な仲間なの……! そんなこと出来ないよ……!」
菜々父「ポケモンは危険な生き物なんだ。これもお前のためを思って──」
菜々「どうしてお父さんは、そんなにポケモンを嫌うの!?」
大切な仲間たちを渡すまいと、私は5つのモンスターボールを抱きかかえたまま、後退る。
菜々「ポケモンは怖い生き物なんかじゃないよ!! お父さんはポケモンのことを知らないまま怖がってるだけだよ……!!」
菜々父「知らないまま、怖がっているだけか……」
お父さんは椅子から立ち上がり、私から背を向ける。
菜々「それなのに、知ろうともしないで危険だ、近寄るななんて言われても、納得できないよ……!!」
菜々父「……菜々……エレキッドというポケモンを知っているか」
菜々「え?」
まさか父の口からポケモンの名前を聞くことがあるなんて、思ってもいなかったから、面食らってしまう。
菜々「し……知ってるけど……」
菜々父「私は小さな山村に生まれてな。ある日、山の中で弱っているエレキッドを見つけたんだ」
菜々「……」
菜々父「私は放っておけず、そのエレキッドを家に連れ帰り、両親を説得した。元気になるまで、家で世話をさせてくれと」
……正直、私は驚いていた。あの父が、そんな風にポケモンに優しくしていた時期があったなんて、まるで想像が出来なかったから。
菜々父「保護したエレキッドは、みるみる回復していった。特にケチャップが好きなやつでな。あげると喜んで食べていたよ。次第にエレキッドは私たち家族に溶け込んでいき……我が家の一員となった」
菜々「……な、なら、どうして……」
この話のどこにポケモンを嫌う要素があるのだろうか。
- 892 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 01:30:34.96 ID:ropYqdR40
-
菜々父「ある日……エレキッドが進化したんだ」
菜々「……エレブーに……?」
菜々父「そうだ。ただ姿が変わっただけだと思っていた私が、いつものようにエレブーにケチャップを持って行ったら──あいつは暴れ出した」
菜々「え……」
菜々父「これは後で知ったことだが……エレブーは赤いものを見ると、興奮して暴れ出す習性があるそうだ。……暴れるエレブーは、どんなに声を掛けても聞く耳を持たず、周囲に無差別に“ほうでん”を繰り返し、家は瞬く間に炎に包まれた」
菜々「……そんな」
菜々父「燃える家から命からがら逃げだす中、私の母親は、私を庇って“ほうでん”を受けた。……あのときの母さんの叫び声は、今も覚えている」
菜々「…………」
菜々父「その後、私も気を失ったらしい。父さんがどうにか、私と母さんを近くの病院まで運んで……次に目が覚めたのは病院のベッドの上だった。母さんは……酷い火傷と感電によって、包帯でぐるぐる巻きのままベッドに寝かされ──数日後に帰らぬ人になったよ」
お父さんは、私の方に振り返る。
菜々父「……何度自分を呪ったか。あのとき、もっと知識があれば。あのとき、エレキッドを助けなければ。あのとき……ポケモンと、関わらなければ、と」
お父さんは深く息を吐きながら、
菜々父「人とポケモンは……根本から違う生き物なんだと……」
そう、言葉にした。
菜々「おとう……さん……」
お父さんがそんな風にポケモンと触れ合っていたなんて、知らなかった。
ただ襲われて、ポケモンを嫌いになってしまっただけだと思っていた。
菜々父「……私は、ポケモンを知らないまま怖がっているかい。菜々」
菜々「それは……」
私は思わず言葉に詰まる。お父さんの苦しみは……ポケモンから受けた痛みは……きっと計り知れないものだったのだろう。
それも助けたポケモンに、家族を奪われるなんて……。
菜々「でも……そういうポケモンばかりじゃない……ポケモンと触れ合って、わかり合っていけば、どうやって接すればいいかもわかるはずだよ……!」
菜々父「今日のバンギラスのように、人を傷つけるポケモンもいる」
菜々「そうだけど……! でも、人を守るポケモンたちだっているよ……!」
私は今日みんなを守って見せたドサイドンのボールを手に持ち、前に突き出す。
この子が多くの人の命を守ったんだ。それはお父さんだって見ていたはず。
でも、お父さんはそんなことを意にも介していないかのように、質問を投げかけてきた。
菜々父「なら、聞こう。菜々。そのポケモンたちと一緒に過ごす間に、菜々は掠り傷一つ負わなかったか?」
菜々「……え?」
菜々父「菜々の大切な仲間たちは──私の大切な娘に掠り傷一つ負わせなかったか?」
菜々「え……と……」
- 893 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 01:31:19.32 ID:ropYqdR40
-
私は思わず言葉に詰まる。
──捕まえたばかりのヒトデマンが何を考えているかわからなくて、無理やり言うことを聞かせようとして、顔に“みずでっぽう”を噴きかけられたことがある。
──いたずら好きのゴースに何度驚かされて、転んで擦り傷を作ったか。
──エアームドの抜け落ちた鋭い羽根で、ザックリ手を切ってしまったときは、血がたくさん出て、すごく焦った。
──サイホーンがなかなか懐かなくて、何度も追い回されたし、あの角でお尻を小突かれて痛い思いをした。
──最初の友達のガーディにだって……最初の頃は、何度も手を噛まれた。
菜々父「ポケモンは、人とは違う常識と、人とは違う力を持っている。思い当たる節があるんじゃないか」
菜々「……だから、ポケモンは危ないって言うの?」
菜々父「そうだ」
菜々「だから、ポケモンと関わるなって言うの?」
菜々父「そうだ」
菜々「そんなの、おかしいよ!!」
私は思わず声を張り上げる。
菜々「お父さんの言いたいこともわかるよ……でも、だからって、一生関わらないのが正解だなんて、おかしいよっ!!」
菜々父「……」
菜々「確かに最初はわかんなくって怪我したこともあったけど……それでも、今はちゃんと信頼し合えてる!! 人とポケモンはわかり合えるよ!!」
私はそうやってポケモンと手を取り合って強くなってきた。それは胸を張って言える。
菜々父「その保証がどこにある」
菜々「なんでわかってくれないのっ!?」
菜々父「お前に危ないことをして欲しくないだけだ」
菜々「っ……」
お父さんの言い分はわかる。
私を想って言ってくれていることもわかる。
だけど……だから、もうポケモンと関わるのは諦めろなんて言われても、納得なんて出来ない。
菜々父「どうやってポケモンとわかり合えることを証明する?」
どうすれば父を説得できるか。それが頭の中をぐるぐるする。
勉強してポケモンドクターの資格を取るとか……? ……そんなの一朝一夕でなれるようなものじゃない。
ポケモン研究者として、ポケモンの生態を研究し尽くして……。……いや、それだって、ポケモンと実際に触れ合わないと無理だ。
それに、なると言ってなれるものではない。
ポケモンの専門家たちは、途方もない時間を掛けて、やっとその地位や資格を手に入れるのだ。
私に出来ることなんて……バトルしか──
菜々「……!」
そうだ。私には……ポケモンバトルがある。
菜々「……チャンピオン」
菜々父「……なに?」
菜々「もし……私が、この地方で一番ポケモンを上手に扱える人だったら……証明になるはずだよ」
- 894 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 01:31:57.71 ID:ropYqdR40
-
チャンピオン──それは、誰よりもポケモンたちと信頼し合って、誰よりも強くなったトレーナーに贈られる称号。
菜々父「菜々、いい加減に──」
菜々「すぐにでも、私がチャンピオンになって……証明するからっ!!」
私はそれだけ言うと、踵を返して、部屋から飛び出したのだった。
🎙 🎙 🎙
──お父さんの会社から駆け足で飛び出すと、
真姫「菜々っ!?」
真姫さんとすれ違う。
菜々「真姫さん……」
真姫「菜々、お父さんと話したの……?」
菜々「……真姫さん、これ」
ポケットから、今日の会議内容を纏めたデータの入ったメモリを手渡す。
真姫「今はこんなのはどうでもいいの……!」
菜々「真姫さん」
真姫「……何?」
菜々「少し、お休みをください」
真姫「え……?」
菜々「私──」
三つ編みを解いて、眼鏡を外す。
せつ菜「──チャンピオンになってくるので……!」
決意を伝えて、走り出す。
真姫「ち、ちょっと待ちなさい……! 菜々……!!」
雨の降る、ローズシティを駆け──中央区を抜けて、
せつ菜「エアームド!! ウテナシティへ!!」
「──ムドーー!!!!」
エアームドの背に飛び乗り──チャンピオンになるため、雨雲を切り裂くように、空へと飛び立ったのだった。
………………
…………
……
🎙
- 895 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:07:51.89 ID:ropYqdR40
-
■Chapter045 『水晶洞窟でうらめしや〜?』 【SIDE Yu】
──ローズシティから一旦10番道路に戻り、そこから東に歩くこと数時間ほど。
私たちは、雨でぬかるむ丘を登っているところだった。
侑「歩夢、足滑らせないようにね」
歩夢「うん」
丘といっても、比較的なだらかで、ある程度道も舗装されているため、すごく大変というほどではないんだけど……。
やっぱり、雨のせいで足元の状態は悪いし、傘を差しながら勾配を進むのはなかなかに骨が折れる。
「ブイ」
こんな雨模様の丘登りだと、イーブイを歩かせるのも忍びなくて、いつものように頭の上に乗せている。
今歩かせたら、絶対泥まみれになっちゃうだろうしね……。
リナ『二人とも、もう少しで頂上だから、頑張って』 || >ᆷ< ||
近くをふよふよ漂っているリナちゃんからの応援を受けながら登っていくと──急に視界が開ける。頂上だ。
侑「……わぁ!」
「ブイ〜♪」
丘を登りきると──そこは大きな湖が広がっていた。
侑「ここが、クリスタルレイク……!」
歩夢「テレビで何度も見たことあったけど……実際に見るとすっごく大きいね……!」
侑「うん、そうだね……!」
ここクリスタルレイクは、オトノキ地方の絶景スポットとして、とても有名な湖で、地理にあまり詳しくない私でも、何度も見聞きしたことがあるくらいの場所。
ただ、惜しむらくは……。
歩夢「晴れてると、湖に太陽の光が反射して、すごく綺麗って聞いてたけど……」
侑「この雨じゃ、それはちょっと見れそうにないね……」
大分、雨足が弱まってきているものの、陽光を反射する湖面を見ることは出来なさそうだ。
リナ『でも、雨雲レーダーを見る限り、夜になれば天気もよくなってくると思うよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「あ、それなら……夜まで待ちたいな」
侑「じゃあ、今日はこの辺りでキャンプにしよっか」
歩夢「うん♪」
私がそう言うと、歩夢は嬉しそうに頷く。
このクリスタルレイク……ただ、陽光が反射して綺麗な大きな湖というだけで、オトノキ屈指の名所だなんて言われているわけではない。
この湖の本当の絶景は、夜にこそ見れる。
歩夢「湖面の夜空……楽しみ♪」
- 896 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:08:37.13 ID:ropYqdR40
-
歩夢は本当に楽しみな様子で、目を瞑ってその光景を思い浮かべうっとりしている。
──湖面の夜空。クリスタルレイクは非常に特殊な生態系をしていて、湖中に生息しているポケモンはたった1種類しかいない。
その1種類はケイコウオというポケモンだ。
歩夢「あ、見て侑ちゃん! ケイコウオが跳ねてるよ!」
侑「ホントだ!」
まさに今も目の前の湖でケイコウオが跳ね、その姿を見せてくれる。
ケイコウオというポケモンは、日中に太陽の光を溜め、夜になるとそれを鮮やかに光らせることで知られるポケモン。
そんなケイコウオしか生息していない、このクリスタルレイクでは、夜になると湖の中でたくさんのケイコウオたちが一斉に光り輝き、湖面をまるで星空のように輝かせる。
その光景を通称『湖面の夜空』と呼んでいるというわけだ。そんなことを頭の中でおさらいしながら……ふと思う。
侑「そういえば……ケイコウオって海にいるポケモンだよね……?」
海水と淡水だと、生息するポケモンが変わってくると思うんだけど……。
ただ、私のそんな疑問に、歩夢が答えてくれる。
歩夢「クリスタルレイクは塩湖だから、海と似たような環境なんだよ」
侑「え? こんな丘の上なのに……?」
リナ『クリスタルレイクは大昔、地殻変動で海がそのまま持ち上がって出来たって言われてる。だから、ここの地層は多くの海水由来のミネラルを含んでいて、湖の塩分濃度もほぼ海水と同じらしいよ』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「そうなんだ……ここが昔、海だったって言われても、ピンと来ないね……」
歩夢「何百年、何千年、何万年って時間を掛けて、この不思議な湖が出来たって思うと……ちょっとドキドキしちゃうね」
侑「うん……」
それも人の手を借りず、自然の力だけで形作られたというのは本当に、大自然の神秘と言うしかない。
リナ『夜には晴れるし、きっと明日の朝には朝日に照らされる、クリスタルレイクも見られると思う』 ||,,> ◡ <,,||
侑「なんか、今から楽しみになってきちゃった……!」
「イブィ♪」
リナ『そのためにも、早く野営の準備をしちゃおう〜!』 ||,,> ◡ <,,||
侑「うん、そうだね!」
歩夢「おー♪」
私たちは夜に備えて、野営の準備を始めるのだった。
- 897 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:09:24.82 ID:ropYqdR40
-
🎹 🎹 🎹
──テントを張り、野営の準備が出来る頃には、
侑「雨、止んだね」
歩夢「うん♪」
雨はすっかり止んでいた。
時刻的には、もうそろそろ夕方くらいかな。
西の空の雲の切れ間から──夕日が差し込んできて、湖面を赤く染めている。
そんな幻想的な風景を横目に、歩夢が食事を作ってくれている真っ最中だ。
歩夢「よし……! 後は、しばらく煮込めばシチューの完成だよ♪」
侑「歩夢のシチュー、おいしいから好きなんだよね♪ もう待ちきれない〜♪ ちょっと、味見しちゃダメ?」
歩夢「ダメだよ? シチューはちゃんと煮込んであげた方がおいしくなるんだから」
「シャーボ」
侑「ほら、サスケも待ちきれないって!」
歩夢「もう……侑ちゃんもサスケも食いしん坊なんだから……。でも、完成するまで待っててね? せっかく食べてもらうなら、おいしく出来たものを食べて欲しいもん」
侑「うぅ……わかった……」
「シャボ…」
空腹でお腹がぐーぐー鳴っているけど、完成するまで我慢我慢……。
私とサスケがシチューの完成を今か今かと待ち構えている中、
「イブイ♪」
イーブイは夕日を反射して光るクリスタルレイクを、キラキラとした目で眺めていた。
侑「イーブイ、湖もっと近くで見る?」
「イブィ♪」
訊ねるとイーブイは嬉しそうに鳴きながら、湖に向かって駆けだしていく。
ご飯が出来るのを眺めていたら、余計にお腹が空きそうだし、私もイーブイと一緒に近くに行ってみようかな。
侑「ちょっと行ってくるね」
リナ『私も付いてく』 || > ◡ < ||
歩夢「うん、行ってらっしゃい」
歩夢に見送られながら、私ははしゃぐイーブイを追いかけて、湖畔へ向かう。
「イブイ、ブイ♪」
侑「ふふっ♪」
嬉しそうにはしゃぐイーブイを見ていると、なんだか私も嬉しくなってくる。
さっきまで湖からは少し離れた場所で、テントの設営をしていたけど……こうして近くに寄ってみると、クリスタルレイクの湖畔は思ったよりも凸凹としていた。
- 898 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:10:06.41 ID:ropYqdR40
-
侑「思ったよりも歩きづらい……」
リナ『この辺りは野生のイワークが地中を掘り進んでるから、イワークの通った後の地面が盛り上がって凸凹になることがあるらしいよ』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「へー、イワークがいるんだ」
リナ『クリスタルレイクの地下にはイワークが掘って出来た洞窟があるんだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「あ、もしかして……クリスタルケイヴ?」
リナ『正解! リナちゃんボード「ぴんぽーん!」』 ||,,> ◡ <,,||
クリスタルレイクの地下には、大きな洞窟があるというのは有名な話だけど……イワークが掘ったものだったんだ。
リナ『だから、たまに丘の上まで顔を出すイワークを見られるらしいよ。基本は地下を掘り進んでるから、丘の上で会えるのは稀だけど』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「せっかくだから、出て来てくれないかな……!」
リナ『イワークにとっては地中を掘り進むのは食事みたいなものだからね。狙って会うのはなかなか難しいかも』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
イワークは土や岩石を食べるポケモンだから、食べ進んでいる間に、地上に出て来てしまうということらしい。
──そこでふと思う。
侑「イワークが顔を出した場所って、穴になってるのかな?」
あの太い、いわヘビポケモンが顔を出したら、そこはきっと大きな穴っぽこになるよね……?
リナ『うん。その穴がクリスタルケイヴへの入り口になるんだよ。丘の上から入る人は滅多にいないけどね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「確かに、地下からここまで上ってきた穴だと、すごい勾配になってるだろうしね……」
もはや縦穴みたいになってるかもしれない……。
リナ『……あ、侑さん。歩夢さんからメッセージ。シチュー出来たって』 || > ◡ < ||
侑「やった♪ すぐ戻らないとね! イーブイ! 戻るよー!」
「イブイ」
私が呼び掛けると、水辺で遊んでいたイーブイが私のもとへと駆け出してくる。
私もイーブイを迎えに歩き出す。
──さて、ここは非常に凸凹した地形になっているためか、起伏に隠れて見えづらくなっているものがある。
それは──穴だ。イワークが顔を出したために出来た……大きな縦穴。
角度的に、私にも今の今まで全く気付けなかった位置に、大きな穴が空いていた。そして──それは、今まさにこちらに向かって駆けてくる、イーブイの進路上にあった。
侑「……!? イーブイ、ストップ!?」
「ブイ?」
イーブイが私の声に気付いて、ブレーキを掛け──ギリギリ、穴の手前で止まってくれた。
侑「せ、セーフ……」
あのままだと絶対に落っこちていたに違いない。早く迎えに行ってあげないと……。
私は穴を迂回するように、駆け出す。
そんな私の姿を見て、自分の行き先に何かがあることに気付いたイーブイは、自分の足元を覗き込むようにして、身を乗り出す。
「ブ、ブィィ!!?」
- 899 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:10:46.56 ID:ropYqdR40
-
そこでやっと、自分の目の前に縦穴があることに気付いたらしい。
ただイーブイは、急に視界に入ってきた奈落に驚いてしまったのか、逃げるように踵を返す。
だけど、それが却ってよくなかった。
雨が降った直後の湿った岩で──イーブイが足を滑らせた。
「ブイッ!!!?」
侑「!? イーブイ!?」
イーブイはずるりと足を滑らせて──その身が投げ出される。
もちろん──縦穴の真上に。
「ブ、ブィィィィ!!!!?」
イーブイが重力に従い、縦穴に吸い込まれていく。
侑「イーブイッ!!!」
そこからは、身体が勝手に動いていた。
リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||
私はイーブイの落ちた縦穴に、自ら飛び込んでいた。
──風を切る音と共に、私は猛スピードで穴を真っすぐ落ちていく。
「ブ、ブイィィィ!!!!」
侑「イーブイッ!!!」
真っすぐ自由落下しながら──私は、イーブイに手を伸ばす。
空中でどうにか掴んで手繰り寄せ──そして、抱きしめる。
「ブイ、ブイィッ!!!!」
侑「っ……!!」
もちろん、イーブイを抱き寄せても、落下は終わらない。
猛スピードで、縦穴を真っすぐ落ちながら、私はイーブイをぎゅっと抱きしめる。
侑「イーブイ……! 私がいるから……!」
「ブ、ブィィッ…」
不安げに鳴くイーブイを抱きかかえたまま──私たちは奈落へと落ちていった。
🎹 🎹 🎹
「ブイィ…」
侑「……生きてる」
とんでもない高さを真っ逆さまに落ちたのに、何故か私たちは無事だった。
薄暗い空間の中で仰向けになっている私の視界のずーっと先には、小さな穴の先に夕焼け空が見える。
私たちが今しがた落ちてきた縦穴だろう。
私はゆっくりと身を起こす。
- 900 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:11:24.72 ID:ropYqdR40
-
「ブイィ…」
侑「よしよし、怖かったね……もう、大丈夫だよ」
ぶるぶると震えるイーブイを優しく撫でながら、声を掛ける。
相当びっくりしたに違いない。
しばらく抱きしめていたら、イーブイは次第に落ち着いてくる。
「ブイ…」
侑「怪我してない?」
「…ブイ」
訊ねると、イーブイは首を小さく縦に振る。
侑「よかった……」
もう一度ぎゅっと抱きしめる。
本当にイーブイが怪我しなくてよかった……。
侑「それにしても……これだけの高さから落ちて、よく無事だったね、私たち……」
「ブイ…」
座ったまま、周囲を確認する。
縦穴を落ちてきただけあって、完全に洞窟内だけど……かなり狭い通路のような場所──恐らくここもイワークの通った道なんだろう──で、周囲には何やらキラキラとした粉のようなものが舞っている。
そして、私のお尻の下には──何やら白くてぶよぶよしたものがあった。
侑「これが、クッションになって助かったみたいだね……。でも、なんだろ、これ……」
「ブイ…?」
手で押してみると、強い弾力性があって押し返してくる。
侑「うーん……?」
全く見当も付かず、頭を捻っていると──
リナ『──侑さーん……!』
真上からリナちゃんの声が聞こえてきた。
侑「リナちゃん!」
リナ『よかった、侑さん無事だった……』 || > _ <𝅝||
侑「うん、これのお陰で助かったみたい」
私は自分たちの真下にある、白いぶよぶよを指差す。
侑「これ、なんだろ?」
リナ『これは……キノコの一種みたい』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「キノコ……? じゃあ、周りに漂ってる粉みたいなのは……」
リナ『たぶん胞子』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「どうしてこんなところにキノコが……?」
リナ『クリスタルケイヴは、ネマシュの生息地だからだと思う。たぶんここは、ネマシュたちの巣だよ』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「なるほどね……お陰で助かったよ……」
「ブイ…」
- 901 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:12:28.18 ID:ropYqdR40
-
私たちはどうやらネマシュたちに救われたようだ。
リナ『でも、このままここにいると、眠らされて養分にされる』 ||;◐ ◡ ◐ ||
侑「それは困るね……」
とりあえず、早く移動した方がよさそうだ。
そう思って、腰を上げたちょうどそのとき、
「──侑ちゃーん!! 大丈夫ー!?」
遥か上の方から、歩夢の声が聞こえてきた。
リナ『あ、そうだ……歩夢さんに侑さんとイーブイが穴に落ちちゃったってメッセージ送ったんだった』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「それで様子を見に来てくれたんだ……。──歩夢ー!! 私たちは無事だよー!!」
上に向かって、叫び返す。
歩夢「──よかったー!! 私たちも、他の入り口から、クリスタルケイヴに入るねー!!」
侑「わかったー!! 図鑑のナビを使って、どうにか合流しようー!!」
歩夢「うーん!!」
とりあえず、歩夢に無事を伝えることは出来たから、今は移動だ。
ぶよぶよのキノコの上を、イーブイを抱えたまま歩き出す。
リナ『とりあえず、奥に行けば開けた場所がある。夜の虹の場所辺りで合流するのがいいと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「夜の虹って……確か、クリスタルケイヴの名所だよね」
リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「わかった、そこを目指そう」
リナ『了解! ナビするね!』 ||,,> ◡ <,,||
リナちゃんが先導する形で前を飛ぶ。
侑「……それにしても、ネマシュたちの巣って言う割に、姿が見えないね」
リナ『ネマシュやマシェードは夜行性だから、日中は暗い洞窟内で過ごして、日が沈み始めると16番道路の方に出ていくみたい。全くいないわけじゃないと思うけどね』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「ってことは、もうそろそろ夜ってことだね……」
私たちが落ちたときに夕方だったから、考えてみれば当たり前だけど……洞窟内だと外からの光がないから、時間の感覚がなくなってくる。
リナ『そろそろ、夜の虹がある場所に出るよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
リナちゃんの案内通り、細い通路を抜けて、開けた空間に出る。
そして、その空間の天井には──
侑「わぁ……!」
大きな水晶で出来た天然の水槽があった。
これが夜の虹の一つ──クリスタルケイヴの大水槽だ。
まだ、ケイコウオたちが光り出す時間になっていないのか、水晶の天井の向こうで何かが泳いでいる影が見える程度だけど……。
迫り出すような形で圧倒的な存在感を示している、巨大な水晶の水槽だけでも、十二分に迫力があった。
- 902 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:13:39.26 ID:ropYqdR40
-
侑「確かに、これはすごいかも……」
「ブイィ♪」
さらにこれが七色に光るんだと想像するだけで──なんだか、ときめいてきた。
リナ『ここで歩夢さんと合流しよう。歩夢さんにここの座標を送っておくね』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「うん、お願い」
ここで歩夢を待つわけだけど……もうかなり日も暮れているだろうし、そろそろ夜の虹の時間になっちゃうかな……?
私たちのせいで、湖畔の夜空は見られるか怪しいけど……せめて、夜の虹は歩夢と一緒に見たいな……。
歩夢が来るまで、夜の虹が視界に入らない場所で待っていようかな……などと考えていた、そのとき──トントンと肩を叩かれた。
侑「? リナちゃん、どうかしたの?」
私が振り返ると、
「メシヤァ〜〜〜〜〜♪」
侑「わぁーーーーっ!!?」
「ブイッ!!?」
目の前に急にポケモンが現れて、思わず声をあげながら尻餅をつく。
侑「え、な、なに……!?」
「ブイ…?」
「メシヤ〜〜〜♪」
そのポケモンは私が驚いている姿を見ると、満足げに笑い、飛び去ってしまう。
侑「い、いつの間に私の背後に……?」
気配とかも何もしなかったし……ホントに急に現れた気がするんだけど……。
リナ『今のは、ドラメシヤだね』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「ど、ドラメシヤ……?」
先ほど見たポケモンの名前は、ドラメシヤと言うらしい。
緑色のボディに、特徴的な角と、ニョロッとした尻尾を生やして、空を飛んでいた。
いや、飛んでいた……というか──
「メシヤ〜〜」「ドラメシ〜」「メシヤ〜〜〜」
気付けば、この空間内がドラメシヤだらけだった。
侑「わ、わぁ!? な、なにこれ!?」
「ブ、ブイ」
リナ『確かにここはドラメシヤの生息地だけど……これだけ大量発生してるのは珍しい』 || ╹ᇫ╹ ||
リナ『ドラメシヤ うらめしポケモン 高さ:0.5m 重さ:2.0kg
古代の 海で 暮らしていた。 ゴーストポケモンとして
よみがえり かつての すみかを さまよっている。 1匹では
非力だが 仲間の 協力で 鍛えられ 進化して 強くなる。』
そういえば、さっきもここは、大昔に海だったって言ってたっけ……。
- 903 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:14:13.72 ID:ropYqdR40
-
リナ『でも、ドラメシヤはあんまり好戦的なポケモンじゃないから、放っておいても大丈夫だと思うよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「なら、いいんだけど……」
さすがにこれだけ大量に現れたらびっくりもするよ……。
とりあえず、危なくはないらしいから、安堵の息を漏らす。
ただ、そのときだった。
「──ロンチ〜」
侑「……!?」
ドラメシヤと似たようなカラーリングだけど──ドラメシヤよりも何倍も大きなポケモンが、いつの間にか私の目の前にいて、思わず固まってしまった。
そして、そのポケモンは──
「ロンチ」
「ブイ!?」
ひょい、と私の腕からイーブイを取り上げ、頭の上に乗せて──
「ローンチ」
「ブ、ブイーー!!!?」
目にも止まらぬスピードで、その場から逃げ去ってしまった。
──突然のことに、呆気に取られてしまったけど……すぐにハッと我に返る。
侑「い、イーブイ!?」
イーブイを連れ去られた……!?
私は大急ぎで立ち上がって、そのポケモンが逃げて行った方に駆け出す。
リナ『イーブイ連れてかれちゃった!? 今のポケモンはドロンチって、ポケモンだよ!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
侑「ドロンチ……!?」
リナ『ドラメシヤの進化系!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
リナ『ドロンチ せわやくポケモン 高さ:1.4m 重さ:11.0kg
飛行速度は 時速200キロ。 ドラメシヤと 一緒に 戦い 無事に
進化するまで 世話をする。 ドラメシヤを 頭に 乗せていないと
落ち着かないので ほかの ポケモンを 乗せようとする。』
侑「ドラメシヤなら、いくらでもいるじゃん……!?」
とにかく、早くイーブイを取り返さなきゃ……!!
私はドロンチを追いかけて、クリスタルケイヴを奥へと進んでいく──
🎹 🎹 🎹
ドロンチを追いかけ、クリスタルケイヴ内の細い道を進んでいくと──程なくして、小部屋のような場所にたどり着く。
小部屋に入ると、
「ローンチ♪」
「ブ、ブイ…」
- 904 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:14:48.07 ID:ropYqdR40
-
ドロンチとイーブイの姿をすぐに見つけることが出来た。
侑「いた……!」
ドロンチはイーブイを頭の上に乗せたままで──尻尾で器用に“きのみ”を持ち上げながら、それを自分の頭の上に置く。
目の前に現れた“きのみ”を見たイーブイは、
「ブ、ブィィ…」
警戒しているのか、食べたりはせず、ふるふると首を振っている。
侑「あれ……何してるんだろう……?」
リナ『たぶん……イーブイのお世話をしてるんだと思う……』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「……なるほど」
さすが、“せわやくポケモン”というだけはある……。
ただ、部屋の中に落ちている“きのみ”は、“ナナシのみ”や“パイルのみ”と言った、すっぱい“きのみ”ばっかりだ。
それはイーブイの好きな味じゃない。
私はイーブイのお世話をしている、ドロンチの前に出る。
侑「……ドロンチ」
「ロン?」
侑「イーブイを返してくれないかな。その子は私の相棒なんだ」
「ロン」
でも、ドロンチは首を横に振る。
まあ、奪っていくようなポケモンに説得しようとしてもダメかな……。
侑「……イーブイ、戻っておいで」
「イブィ…!!」
私が呼び掛けると、イーブイはドロンチの頭の上から、私の方に向かって飛び跳ねる。
だけど──
「ローンチ」
「ブイ!?」
ドロンチは尻尾を伸ばして、イーブイを捕まえ──再び自分の頭の上に乗せてしまう。
リナ『返す気はないみたい……』 || ╹ _ ╹ ||
侑「みたいだね……」
出来れば、話し合いで解決したかったけど……。
侑「ワシボン、出てきて!」
「──ワッシャァ!!!」
「ローンチ…」
侑「言うこと聞いてくれないなら、力ずくで返してもらうよ! ワシボン、“ダブルウイング”!!」
「ワッシャァ!!!」
ワシボンが飛び出し、ドロンチに向かって、両翼を叩きつける。
- 905 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:15:23.11 ID:ropYqdR40
-
「ロン…!!!」
攻撃を受けて一瞬怯むが、すぐに顔を上げ──
「ローンッ!!!!」
口から“りゅうのはどう”を、至近距離にいるワシボンに向かって発射する。
「ワッシャァッ!!?」
“りゅうのはどう”に吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられたワシボンに向かって、
「ローンッ!!!!」
追撃するように飛び掛かってくる。
リナ『侑さん!! “ドラゴンダイブ”だよ!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
侑「なら……!! ワシボン! 壁に向かって、“ブレイククロー”!!」
「ワッシャァッ!!!!」
ワシボンは、猛禽の爪で壁を蹴り砕き、即座に離脱──それによって壁が崩れて、岩壁が崩れ落ちてくる。
侑「“がんせきふうじ”!!」
「ローンッ!!!?」
勢いよく崩れてくる岩石に巻き込まれ、ドロンチが体勢を崩す。
その拍子に──
「ブ、ブィィ!!!?」
ドロンチの頭の上にいたイーブイが放り出される。
侑「イーブイ!!」
私は、地面を蹴って走り出し──滑り込むようにして、イーブイを受け止めた。
「ブィィ…」
侑「おかえり、イーブイ」
私がイーブイを抱きしめると、イーブイも私の胸にすりすりと身を寄せてくる。
一方でドロンチは、
「ローンチ…!!!!」
イーブイを取り返されたのが気に食わないようで、不機嫌そうに鳴いたあと──ユラリと姿が掻き消える。
侑「……! “ゴーストダイブ”……!」
恐らく、イーブイを奪った私──私のイーブイなんだけど──を直接狙うつもりだろう。
リナ『侑さん、きっと狙われてる!? 逃げて!?』 || ? ᆷ ! ||
リナちゃんもそれに気付いたのか、逃げるように促してくるけど……恐らく、ドロンチのスピードからは逃げきれない。
追い付かれたら、また力ずくでイーブイを奪われる。そうなるくらいなら……!
- 906 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:16:42.71 ID:ropYqdR40
-
侑「私はここだよ!! ドロンチ!!」
リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||
私は挑発するように、声を張り上げる。それと同時に腰のボールに手を掛けながら、前に飛び出す態勢を取る。
直後──
「──ローンチ」
背後から、ドロンチの鳴き声と共に──私は背後から大きな尻尾を叩きつけられ、吹き飛ばされた。
侑「ぐっ……」
強い衝撃に、思わず声が漏れる。でも、私は手に掛けたボールを放って手持ちを出す。
侑「ニャスパーっ! “テレキネシス”!!」
「──ニャー!」
ニャスパーはボールから飛び出すと同時に、私の身体を浮き上がらせ、それによって落下の衝撃をゼロにする。
侑「いっつつ……」
リナ『侑さん、大丈夫!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「う、うん……後ろから攻撃してくることはわかってたから、どうにか……」
“ゴーストダイブ”は相手の背後を取って死角から攻撃することが多い技だ。
背後から来るとわかっていれば、前に向かって飛びながら当たって、“テレキネシス”で床や地面に叩きつけられないようにすれば、大方の衝撃を殺せる。
……と、言ってもさすがポケモンのパワーなだけあって、結構痛い。
どうにか、起き上がって振り返ると──
「ローンッ…!!!」
相変わらず、ドロンチが不機嫌そうに鳴いている。
侑「でも……これだけやった甲斐はあったよ。ね、イーブイ!」
「ブイ!!」
「ロン…?」
吹き飛ばれたのに、何故か得意げな私たちを見て、ドロンチが首を傾げた──直後、ドロンチの足元から、太い樹が地面から飛び出し、
「ロンッ!!!?」
それはドロンチを巻き込みながら成長し、洞窟内の天井に叩きつけた。
ドロンチを天井に押し付けながらも、樹はどんどん成長し、蔦と枝に絡め取っていく。
「ロ、ローン…」
侑「そうなったら、もう身動き取れないよね!」
「イブィ♪」「ワッシャ♪」「ニャー」
「ローン…」
リナ『この樹……もしかして、“すくすくボンバー”!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「うん。ドロンチが“ゴーストダイブ”で消えた瞬間、足元に仕込んでおいたんだ」
「イブィ♪」
- 907 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:17:16.49 ID:ropYqdR40
-
相手は見るからに、ドラゴンタイプとゴーストタイプのポケモン。
そうなると、イーブイの相棒技──“めらめらバーン”、“びりびりエレキ”、“いきいきバブル”、“すくすくボンバー”はどれも相性が悪い。
唯一使えるとしたら、この狭い空間での制圧力の高さを活かして、“すくすくボンバー”なんだけど……“すくすくボンバー”は技を出してから、決まるまでに時間が掛かるのが難点だった。
……なら、ドロンチが“ゴーストダイブ”で私を狙ってくるってわかっているわけだし、あらかじめ私の足元に“すくすくボンバー”を仕込んでおけばいいだけだ。
そうすれば、ドロンチが私を攻撃して吹っ飛ばしたあと、時間差で足元から生えてくる樹に巻き込まれて、動けなくなるという寸法だ。
リナ『侑さん、意外と無茶する……』 ||;◐ ◡ ◐ ||
侑「逃げるだけじゃ、勝てないと思ったからね……いてて……」
「ブイ…」
イーブイが心配そうに、私の胸の中で鳴く。
侑「あはは、大丈夫だよ。ニャスパーのお陰で壁にぶつかったりはしなかったから」
「ブイ…」
もしかしたら、尻尾がぶつかったところは軽い打ち身くらいにはなってるかもしれないけど……。
「ローン…」
リナ『ドロンチ、どうする……?』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「うーん……」
“すくすくボンバー”はしばらくしたら枯れちゃうから、放っておけば自由になれるだろうけど……。
侑「放っておいたら、また別のポケモンを頭に乗せようと彷徨い始めるのかな……」
リナ『たぶん……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
それはそれで、次にここに訪れた人が危ないような気もする……。
侑「そもそも、なんでこのドロンチは、ドラメシヤを頭に乗せないんだろう……?」
ドラメシヤなんて、洞窟内にあんなにたくさんいるのに……。
リナ『たぶん、ここのドラメシヤが特殊なんだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「特殊?」
リナ『そもそもクリスタルレイクとクリスタルケイヴって、環境がすごく特殊だから、ここにしかいない変わった生態のポケモンが多いんだ』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「そうなの?」
リナ『外敵が少ないからか、ケイコウオは滅多にネオラントに進化しないし、イワークもここの土中に含まれる水晶をよく食べるからか、水を泳げる個体が目撃されたこともあるみたいだよ』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「い、イワークが泳ぐの……?」
ちょっと想像出来ない……。
リナ『たぶん、ドラメシヤたちも外敵が少ないから、普通と違って強くなる必要があんまりなくて、お世話係を必要としてないんじゃないかな。実際、群れの中に絶対数匹はいるはずのドロンチは滅多に目撃されないらしいし……』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「なるほどね……」
だから、何かの拍子でドラメシヤが進化してしまうと、逆にお世話する相手がいなくて落ち着かなくなっちゃうってことか……。
それはそれで、なんだか気の毒な気もしてくる。
「ローンチ…」
侑「うーん……」
- 908 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:17:51.22 ID:ropYqdR40
-
どうにかしてあげたいけど……イーブイを取り上げられるのはさすがに困る……。
そのとき、ふと、
侑「ん?」
腰のボールが僅かに揺れた。揺れたボールをベルトから外してみる。
侑「このボールって……タマゴの入ってるボールだ」
リナ『少し揺れた?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「うん」
長らく全然変化のない、このタマゴだけど……。
少しは孵化の時が近付いてきているのかもしれない。
侑「あ……そうだ!」
リナ『?』 || ? ᇫ ? ||
私は良いことを思いつく。
侑「ねぇ、ドロンチ!」
「ローン…?」
侑「一つ提案があるんだけど……聞いてくれないかな?」
「ロン…?」
私はドロンチにその考えを話し始めた──
🎹 🎹 🎹
──さて、あの後、私たちが水晶の水槽の部屋に戻る最中、
歩夢「あ……侑ちゃん! やっと見つけた……!」
図鑑を片手に、向こう側から歩いてくる歩夢と鉢合わせになる。
歩夢「もう……水晶の水槽の部屋で待ってるって、メッセージくれたのに……」
侑「ごめんね、ちょっとトラブルがあって……」
「ローン」
歩夢「あれ? そのポケモンは……」
侑「私の新しい仲間のドロンチだよ!」
「ローン♪」
私の紹介を受けて、ドロンチがご機嫌に鳴く。
そして、彼の頭の上には──
歩夢「タマゴを乗せてるけど……? 侑ちゃんの持ってたタマゴ?」
侑「うん、そうだよ」
私は思いついたこと、それは──私のタマゴのお世話をしてもらうということだった。
- 909 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:18:32.30 ID:ropYqdR40
-
リナ『侑さんはドロンチにタマゴを守ってもらえて安心だし、ドロンチはタマゴをお世話出来て安心するし、Win-Winだね!』 ||,,> ◡ <,,||
歩夢「なんだかよくわからないけど……。私、歩夢。よろしくね、ドロンチさん」
「ローン♪」
挨拶もそこそこに、
歩夢「それより侑ちゃん、来て♪」
歩夢に手を引かれる。
手を引かれ、通路から大広間に出ると──
侑「わぁ……!!」
「イブィ〜!!」
水晶の大水槽の中から、ケイコウオたちの光が乱反射して、洞窟内を虹色に照らしていた。
侑「すっごい……!!! こんなの見たら── 」
歩夢「ときめいちゃうよね♪」
侑「もう、歩夢! それ私の台詞!」
歩夢「ふふっ、ごめんね♪」
歩夢がいたずらっぽく笑う。
侑「……それにしても……本当に綺麗だね……」
「ブィ…♪」
歩夢「……うん、そうだね」
厚い水晶の壁の向こうから、揺蕩う虹色の光たち。
それに照らされる洞窟の中にいると、まるでオーロラの中にでもいるような気がしてくる。
まさに夜の虹の名に相応しい、幻想的な光景だった。
侑「こんなの見たら、落ちたのも悪くなかったなって思っちゃうよ……」
歩夢「もう……私、すっごい心配したんだよ……?」
侑「あはは、ごめんね……。でも、見たとおり元気だから!」
歩夢「もう、侑ちゃんったら……」
侑「この調子で湖面の夜空も見ちゃう?」
「イブィ♪」
リナ『ケイコウオたちは、日が昇るまで光り続けるから、いいと思う』 ||,,> ◡ <,,||
歩夢「ふふっ♪ 私たち、すっごく夜更かしすることになりそうだね♪」
侑「たまにはいいじゃん、そういうのも♪」
どうやら今日は楽しい夜になりそうだ。
私たちは、幻想的な虹の光に包まれながら、わくわくした気持ちで、クリスタルケイヴでの夜を過ごすのでした。
- 910 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:19:04.74 ID:ropYqdR40
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【クリスタルケイヴ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ● |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.52 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.52 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.49 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.43 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドロンチ♂ Lv.50 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
タマゴ なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:179匹 捕まえた数:6匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.45 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.44 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.40 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
トドグラー♀ Lv.36 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラエッテ♀ Lv.33 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:182匹 捕まえた数:17匹
侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 911 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 03:23:27.64 ID:r2gRr5pF0
-
■Intermission🎙
──ウテナシティ、ポケモンリーグ。
せつ菜「チャンピオンは不在ですか……」
ダイヤ「はい……申し訳ありません。四天王戦は通常通り出来ますが、勝ち抜いてもチャンピオン戦は……」
せつ菜「いつ戻られるかはわかりますか……?」
ダイヤ「すみません……最近、千歌さんは捕まらないことが多くて……。こちらから連絡は入れておきますが……」
せつ菜「……わかりました。ありがとうございます」
私はダイヤさんに頭を下げ、踵を返して、ポケモンリーグを後にする。
チャンピオンの不在を聞いて、私は早速出鼻を挫かれてしまった。
ただ不在なだけならまだしも……ダイヤさんのあの口振りだと、チャンピオン戦をするためにリーグに戻ってきてもらえるかも怪しい。
そうなると──
せつ菜「やはり、地方のどこかにいる千歌さんをどうにか見つけて、バトルしてもらうしかない……」
もちろん野良試合で勝っても、すぐさまチャンピオンになることは出来ないだろう。
だけど、私は千歌さんとは何度もバトルしているからわかる。彼女は野良バトルだから負けてもよかった、なんて思えるタイプじゃない。
きっと私が善戦したら、決着をつけなくては気が済まなくなるはず。
だからこそ、今はとにかく千歌さんを見つけてバトルを申し込む。
それが、私が最速でチャンピオンになる方法なのには、間違いがない。
せつ菜「問題は千歌さんがどこにいるか……」
せつ菜として地方を回っている間は、頻繁に千歌さんを探していたつもりではあったけど……最近はウラノホシのご実家にも帰られていなかったようだし……。
せつ菜「最後に会ったのは、確か10番道路ですね……」
なら、もう一度10番道路に向かって、会えることに賭けるべきか……?
いや、あそこで何をしていたかは定かではないけど、用もなく道路のど真ん中にいるとは到底思えない。
せつ菜「せめて、何か手掛かりがあれば……」
私は必死に頭を動かして考える。
一刻も早く千歌さんを見つけなくては。
お父さんの手前であんな啖呵を切ってしまった以上、1秒でも早く結果を出さなくてはいけない。
チャンピオンになると宣言したからと言って、いつまでも黙って待っていてくれる人じゃないことなんて、もうわかっていることだ。
せつ菜「会えれば……千歌さんとバトルさえ出来ればいいんです……!」
今まで、勝ったことはないけど──あと、ちょっとのところまで来ている。そういう手応えは確かにあるんだ。
私のチャンピオンへの道は──もう、すぐそこに見えているんだ。
だからこそ、探さなくちゃ……!
せつ菜「千歌さんの居場所を知っている人がいれば……」
そう独り言ちた、そのときだった。
- 912 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 03:24:06.96 ID:r2gRr5pF0
-
「──千歌ちゃんの居場所なら、知っているけど?」
せつ菜「え?」
背後から聞き覚えのある声がして、振り返ると──
果林「こんにちは。……いえ、初めましての方がいいのかしら?」
せつ菜「……果林さん……?」
私は一瞬ポカンとしてしまった。何故、ここに果林さんが……?
……いや、それよりも、果林さんは今、なんて言った……?
果林「チャンピオン……探してるんでしょ?」
せつ菜「……! 千歌さんの居場所をご存じなんですか!?」
果林「ええ」
せつ菜「お、教えてください……!! 私、今すぐにでも千歌さんに会わないといけないんです……!!」
思わず果林さんに詰め寄ってしまう。
果林「落ち着いて。私は千歌ちゃんの今現在の居場所を知っているわけじゃないの」
せつ菜「え、で、でも、さっき知ってるって……」
果林「今いる場所は知らない……でも、近いうちに現れる場所は知ってる」
せつ菜「え……と……」
どういうことだろう。
- 913 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 03:24:50.10 ID:r2gRr5pF0
-
果林「でも、もう日も沈んじゃったし、今その場所に行っても、千歌ちゃんには会えない。でも、これから千歌ちゃんが行く場所は知ってる」
せつ菜「…………」
この人は何を知っているんだろうか。何故そんなことがわかるんだろうか。
正直、怪しいと思ったけど──それ以上に、今の私は藁にもすがりたい気持ちだった。
果林「明日、ここに行ってみるといいわ」
そう言って、果林さんは私に一枚のメモ紙を手渡してくる。
果林「それじゃ、頑張ってね♪ 未来のチャンピオン──ユウキ・せつ菜さん♪」
最後にそう言い残してから、果林さんはボールから出したファイアローの脚に掴まって、飛び去ってしまった。
せつ菜「……」
果林さんから貰ったメモ紙を開いてみると──時刻と地名が書かれていた。
明日、この時間、この場所に、千歌さんが……?
わからないことだらけだけど……。
せつ菜「行ってみるしかない……!」
せっかく手掛かりを得たのだから。
せつ菜「……あれ? ……そういえば……果林さん、どうして私の名前、知っていたのでしょうか……?」
菜々のときにしか面識はなかったような……?
………………
…………
……
🎙
- 914 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:08:26.63 ID:r2gRr5pF0
-
■Chapter046 『森とキノコと魔法使い』 【SIDE Kasumi】
──ローズシティを出て数時間。かすみんたちは11番道路を進んでいる真っ最中です。
かすみ「るんる〜ん♪」
「ガゥガゥ♪」
しずく「かすみさん、ご機嫌だね」
かすみ「そりゃそうだよ〜! だって、かすみんの集めたお宝、返ってきたんだもん♪」
「ガゥ♪」
そう言いながら、かすみんは物がたくさん詰まってパンパンになったバッグをしず子に見せつける。
返ってきたお宝とは何か──話はローズシティを出る前に遡ります……。
────
──
かすみ「さて……侑先輩たちも行っちゃいましたし、かすみんたちも行こっか!」
しずく「うん、そうだね」
ローズシティのポケモンセンターで侑先輩たちと別れて、かすみんたちも11番道路に向かおうとした矢先──prrrrrr!!! とポケギアが鳴りだしました。
かすみ「あれあれ〜? かすみんのファンの人からのラブコールかなぁ〜……?」
しずく「……馬鹿なこと言ってないで、早く出なさい」
かすみ「もー……しず子ったら、ノリ悪〜い……」
失礼なことを言うしず子を後目に、ポケギアの通話に応じると──
エマ『もしもし、かすみちゃん? エマだよ〜♪』
かすみ「エマ先輩?」
お相手はエマ先輩でした。
エマ『今、大丈夫かな?』
かすみ「はい、大丈夫ですよ〜。どうかしたんですか?」
エマ『うん♪ 前、言ってたものが見つかったから、かすみちゃんのパソコンに送っておいたよ♪』
かすみ「前言ってたもの……?」
何かエマ先輩に頼んでいたものとかありましたっけ……?
エマ『ゆっくりお話ししたいんだけど……私はまだ、お仕事の途中だから。確認してみてね!』
かすみ「は、はい。ありがとうございます……?」
エマ『それじゃ、またね〜♪』
それだけ言うと、エマ先輩からの通話は切れてしまいました。
本当に用件を伝えるための連絡だったみたいです。
- 915 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:09:22.31 ID:r2gRr5pF0
-
しずく「エマさんから?」
かすみ「うん」
しずく「なんだって?」
かすみ「前、言ってたものが見つかったから、かすみんのパソコンに送っておいたって……何かあったっけ?」
かすみん、さっぱり思い出せないんですけど……。……でも、しず子はしっかり覚えていたようで、
しずく「……あ、もしかして……あれじゃないかな?」
かすみ「……あれ?」
しずく「とにかく、パソコンを確認してみたら?」
かすみ「ま、それもそっか」
かすみんはエマ先輩からの贈り物を確認するために、ポケモンセンターへとトンボ返りするのでした。
──
────
そして、そんなかすみんのパソコンに入っていたものは──
かすみ「まさか、ドッグランでジグザグマたちに盗られた“げんきのかけら”が戻ってくるなんて〜♪」
そう、エマ先輩から送られてきたのは、ドッグランでジグザグマたちの群れに強奪された、大量の“げんきのかけら”だったんです!
ドッグランで数を減らしちゃったあとも、コツコツ集めていたけど──もう戻ってこないと思っていた分が戻ってきたお陰で、かすみんのバッグはもはや宝の山状態になったというわけです!
しずく「はぁ……せっかく減ったのに……。そんなに持ち歩いてたら重くて疲れちゃうよ……?」
かすみ「いーの! 『備えあれば嬉しいな』って言うでしょ!」
しずく「『備えあれば憂いなし』ね……」
しず子は呆れ気味だけど……これはジグザグマがかすみんのために、頑張って集めてくれた宝物だもん。一つも無駄になんて出来ません!
しずく「でも、本当にその大荷物で大丈夫……? 11番道路は結構長い道のりになるよ?」
かすみ「へーきへーき! これはかすみんの宝物だから、荷物のうちに入らないも〜ん♪」
しずく「……後で文句言わないでよ?」
かすみ「言わない言わな〜い♪ それじゃ、レッツゴー!」
「ガゥガゥ♪」
- 916 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:09:51.67 ID:r2gRr5pF0
-
👑 👑 👑
かすみ「──しず、子……もぅ……無理……き、休憩……しよ……」
「ガゥ?」
しずく「はぁ……だから、言ったのに……。……わかった、ここでちょっと休憩にしようか」
かすみ「しず子〜! やっぱ、話がわかる〜!」
しずく「全く、調子いいんだから……」
11番道路を歩くこと数時間。
かすみんはすっかりバテバテモードになっていました。
しず子に注いでもらったお茶を飲みながら、
かすみ「……11番道路がこんなに歩きづらい道だと思わなかった……」
そうぼやく。
今かすみんたちのいる、この11番道路は本当に荒れ地って感じで、ゴツゴツした岩があちこちに飛び出している。
さっきから道も登ったり下ったり……しかも地面も硬いし、歩きづらいのなんの……。
しずく「11番道路はローズシティから、ヒナギクシティを繋ぐために強引に作った道だからね。これでも十分人の手が加えられてるんだよ」
かすみ「これでぇ……?」
しずく「ヒナギクシティはもともと四方を山に囲まれた町だったんだよ。しかも南北はカーテンクリフとグレイブマウンテン……。比較的低い山だった東側を切り開いて、ローズからの道を繋いだみたい」
かすみ「へー……。ヒナギクシティの人たちはそれまでどうやって暮らしてたんですかね……? あそこって雪とか降るくらい寒いんでしょ?」
四方が山って、満足に生活出来てたのかな?
しずく「そうだね……ローズとの道が開通するまでは相当厳しい環境だったみたいだよ。外から物資が入ってくることも、ほとんどなかっただろうし……」
かすみ「食べるものとかあったのかな……」
かすみん、おいしいご飯が食べられない場所で暮らすなんて、考えただけでゾッとしちゃいます……。
しずく「一応ヒナギクの東側には小さな森があるから、そこで調達してたみたいだね」
かすみ「森があるの? オトノキ地方の森って、コメコの森だけだと思ってた」
しずく「森って言っても、コメコの森と比べると、かなり小さいからね。知らない人も多いと思うよ」
かすみ「ふーん……じゃあ、その森で採れる“きのみ”とかを食べて暮らしてたんだ」
しずく「うん。あとはキノコかな」
かすみ「キノコ? ……キノコって、あのにょきにょき生えてるキノコ?」
しずく「そう、そのキノコ。ヒナギクの東の森には、すごく生命力の強いキノコが群生していて、森全域にたくさんキノコが生えてるらしいよ。だから、ヒナギクの東の森は通称マッシュルームフォレストなんて言われることもあるみたい」
かすみ「へー! 名前になっちゃうくらいたくさんキノコが採れるんだ! ちょっと、かすみんも食べてみたいかも!」
しずく「うーん……。やめておいた方がいいと思うよ。毒キノコらしいし……」
かすみ「……え? 毒キノコなのに、食べてたの……?」
しずく「それくらい食べるものがなかったんだよ。あの辺りに生息してるジオヅムってポケモンの“しおづけ”で何ヶ月も掛けて水分を飛ばして、毒素を薄めて……それでやっと食べられる状態にしてたみたい。それでも、毒を完全に抜ききることは出来なくて、食中毒で亡くなる人も多かったって聞いたかな……」
かすみ「ひ、ひぇぇ……過酷すぎる……」
かすみん、今の時代にセキレイシティで生まれてよかったです……。
- 917 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:10:31.78 ID:r2gRr5pF0
-
しずく「まあ、それも昔の話で……今は観光地としてそれなりに賑わってるみたいだから、ヒナギクに着けばおいしいご飯も食べられると思うよ。ポケモンジムがあるくらいだしね」
かすみ「本当に今の時代に生まれてよかった……」
しずく「さて……そろそろ行けそう?」
かすみ「あ、うん! かすみん休憩して元気回復したから!」
「ガゥ♪」
かすみんが元気よく立ち上がると、ゾロアもご主人様の復活が嬉しいのか、ご機嫌な鳴き声をあげる。
かすみ「この調子でさっさとヒナギクまで行っちゃいましょー!」
しずく「ふふ、そうだね」
👑 👑 👑
──あれから歩くこと、さらに数時間。
かすみ「……なにこれ」
かすみんはあるものを見上げて、唖然としていました。
そのあるものとは──
かすみ「これ……キノコ……?」
しずく「……だね」
めちゃくちゃでかいキノコでした。
どれくらいでかいかと言うと……軽く3mは超えていると思います。
しずく「この巨大キノコが森の入り口の目印だね」
かすみ「さすがマッシュルームフォレスト……」
コメコの森よりは小さいと聞いていたものの……とんでもないサイズのキノコの圧迫感と、森の樹々はなんというか、鬱蒼としていて……おだやかな森だったコメコの森に比べると、大分ホラーな感じがします……。
たぶん、その怖い感じに拍車を掛けているのは……いつの間にか出始めてきた霧も関係しているのかも……。
しずく「とりあえず……もう日も暮れ始めちゃってるし、霧も濃くなってきたから、森には入らずに、ここで野宿にしようか……」
かすみ「えー!! また野宿……2日連続じゃん……。ローズで泊まればよかった……」
しずく「言ってても仕方ないよ。早くテント張っちゃおう」
かすみ「うん……そうだね……」
かすみんがテンション低めに、テントの設営をお手伝いしようとしたそのとき──森の奥の方で、何かがチカチカと光るのが見えた。
かすみ「あれ……? 今なんか光った……?」
……気になる。
かすみんは、目を凝らして森の奥に目を向ける。すると──また、チカチカと何かが光る。
かすみ「やっぱ、なんかある……!」
霧のせいで、ぼやーっとした光が点滅しているのがわかる程度ですけど……確実に何かが光っている。
- 918 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:11:08.27 ID:r2gRr5pF0
-
しずく「かすみさん? どうかしたの?」
かすみ「あそこでなんか光ってる……ちょっと確認してくる」
しずく「……もう暗いし、森に入らない方がいいと思うけど……」
かすみ「すぐそこだし、ちょっと確認したらすぐ戻ってくるから!」
しずく「まあ、それくらいなら……。……絶対に奥まで入っちゃダメだよ?」
かすみ「わかってるって〜♪ ゾロア、行くよ!」
「ガゥ」
ゾロアと一緒に光に向かって駆け出す。
巨大なキノコの脇をすり抜けて、入った森の中──光っていた目的物は本当にすぐ近くにあった。
チカチカと光っていたのは──
かすみ「……キノコ?」
またしてもキノコだった。
大きな傘をした──って言っても入り口のキノコよりは全然小さい30pくらいの──真っ白なキノコ。
かすみ「なーんだ……見に来て損した……」
「ガゥ…」
なんかお宝的なものを期待してたのに……。まあ、光るキノコは珍しいけどさ……。
かすみんは振り返って、
かすみ「しず子ー!! 光ってるの、ただの光るキノコだったー!」
しず子に向かって、報告するために声をあげる。
そして、しず子の反応を待つこと、数秒……数十秒……。
かすみ「あ、あれ……?」
しず子からの反応が返ってこない……。
森から少ししか入っていないのに、すでに入り口は霧に覆われていて、ほぼ見えないし……。
かすみんは駆け足で、先ほどまでしず子が居た場所に戻ると──そこには、設営途中のテントを残して……しず子の姿はどこにもなかった。
かすみ「しず子……? どこ行ったのー? おーい!」
「ガゥガゥーー!!」
ゾロアと一緒に呼んでみるけど、しず子からの反応は一向に返ってこない。
もしかしたら緊急事態か何かで席を外してるのかな……? お花摘みとか……。
そう思って、かすみんは少しの間、その場で待つことにした。
- 919 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:11:46.27 ID:r2gRr5pF0
-
👑 👑 👑
かすみ「……おかしい」
どれだけ待てども、しず子は一向に戻ってこなかった。
テントの設営もすっかり終わっちゃったし……。
かすみ「しず子が何も言わずに、こんなに戻ってこないなんて考えられない……やっぱ何かあったとしか……」
でも音もなく消えちゃうなんてことあるのかな……。
あまりに霧が濃すぎて、帰り道を見失っちゃったとか……?
しっかりもののしず子に限って、そんなことあるかな……。
かすみ「とにかく、探さなきゃ……!」
ここで考えていても仕方ありません。
しず子に何かあったなら、かすみんが見つけないといけないし、道に迷ってるんだとしても、探さなくちゃ!
かすみ「……そうだ、図鑑!」
図鑑のサーチ機能を思い出して、図鑑を取り出し、ぽちぽちと操作する。
かすみ「えーっと……確か、こうしてこうして……あ、出た!」
しず子の図鑑の位置を検索すると──それはすぐ傍に表示された。
かすみ「……? なんだ、思ったより近くにいるじゃん……」
表示された場所は本当にすぐ傍だった。たぶん2mも離れていない。
テントの場所から、少し森の方へ歩いた方向……。
深い霧の中、しず子の図鑑が表示されている位置に一歩ずつ歩を進めていく。
かすみ「……ここだ」
図鑑の表示の真上に立つ。……だけど、しず子の姿はどこにもなかった。
かすみ「しず子ー! どこー?」
「ガゥガゥー!!」
その場でキョロキョロと辺りを見回しながら探していると──足に何かが当たった。
かすみ「ん……?」
屈んでそれを確認してみると──
かすみ「……!? これ、しず子のバッグ……!?」
「ガゥガゥ!!」
それはしず子が使っていた、バッグだった。
そして、そのバッグから少しだけ離れたところに──赤い布切れが見えた。
近寄って確認してみると──
- 920 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:13:19.06 ID:r2gRr5pF0
-
かすみ「しず子の……リボン……!?」
しず子のトレードマークとも言える、大きな赤いリボンだった。
バッグなら落とす可能性はある。だけど、身に着けているリボンを落とすなんて、普通ありえない。
かすみ「しず子に何かあったんだ……!!」
──なんでもっと早く気付かなかったんだ。
かすみんに何も言わずに、しず子が急にいなくなった時点でおかしいって思うべきだった。
その時点ですぐに探しに行くべきだった。
かすみ「いや、反省は後です……!! 探しに行くよ、ゾロア!!」
「ガゥ!!!」
かすみんはしず子のバッグとリボンを拾い──マッシュルームフォレストの中へと駆け出した。
👑 👑 👑
かすみ「しず子ー!! しず子ーー!!」
「ガゥガゥッ!!!!!」
しず子の名前を呼びながら、森の中を駆け回る。
だけど、鬱蒼とした森な上に、深い霧が立ち込めているせいで、とにかく視界が悪い。
同じような樹々と同じようなキノコがたくさんあるだけ──キノコの中には、たまに光るやつもいるけど、本当にそれくらいだ。
あまりにも手掛かりがなさすぎる……。というか……。
かすみ「はぁ……はぁ……バッグ……重……」
自分のバッグが重いというのもあるけど……今はしず子のバッグも一緒に持っている。
さすがにこの状態で走り回ると息が上がってしまう。
一旦荷物の一部をテントに置いてきた方がいいかもしれない……そう思い、踵を返そうとして──
かすみ「あ、あれ……? かすみん……どっちから来たんだっけ……?」
「ガゥ…?」
かすみ「ゾロアは……どっちから来たか覚えてる……よね?」
「ガゥゥゥ…」
かすみ「……」
「ガゥ……」
かすみ「もしかして、かすみんたち……迷子……?」
「ガゥ…」
かすみ「あー、うー……どうしよう……しず子は見つからないし、かすみんたちは迷子だしぃ……」
思わずちょっぴり涙目になって、蹲る。
蹲っていると──バッグを後ろから何かに引っ張られるような感覚がして、
かすみ「わぁっ!?」
そのまま、仰向けにひっくり返る。
- 921 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:14:11.12 ID:r2gRr5pF0
-
かすみ「い、いたた……な、なに……?」
「ベロバーーーー!!!!!!!」
かすみ「ぎゃーーーーーっ!!?」
仰向けになったかすみんの目の前に──ピンク色の何かが急に現れた。
「ガゥガゥッ!!!!」
ご主人様の叫び声を聞いて、ゾロアがそいつに向かって飛び掛かる。
「ベロバッ!!?」
「ガゥガゥゥゥッ!!!!」
その隙に、かすみんは起き上がって距離を取る。
かすみ「はぁ……はぁ……あれ、ポケモン……!?」
ゾロアと取っ組み合いをしている相手は、ピンクの体色に紫の模様と紫のベロという、とにかく毒々しい色をしたポケモンだった。
「ベロバッ!!!!!」
「ガゥッ…!!」
そいつは取っ組み合いしながら、ゾロアに“かみつく”で攻撃してくる。
かすみ「“ナイトバースト”!!」
「ガーーゥゥゥッ!!!!!」
「ベロバー!!!?」
それを内から溢れる黒いオーラで吹っ飛ばす。
吹っ飛ばされこそしたものの、ピンクのポケモンはすぐに起き上がって、
「ベロベー、ベロベロバー」
“ちょうはつ”するように踊りだす。
かすみ「もう、なんなんですか、こいつ……!」
その仕草に苛立ちながらも、バッグを持って立ち上がろうとして──さっきまであれだけ重かったバッグが妙に軽いことに気付く。
かすみ「……!? バッグの中身がまた減ってる!?」
さっきすっころんだときにぶちまけたのかと思って周囲を伺うと、
「ベロバー」「ベロベロバー」「ベロ」
かすみ「……!?」
かすみんの周囲には、さっきゾロアと取っ組み合いをしていたピンクのと同じ種類のポケモンが大量にいた。
しかも──“げんきのかけら”を持っている。
かすみ「ち、ちょっとぉ!? それ、せっかく戻ってきたかすみんのお宝!?」
「ベロ」「ベロバーー♪」「ベロベロバー」
そして、そのまま散り散りに持ち逃げしていく。
- 922 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:14:59.85 ID:r2gRr5pF0
-
かすみ「ま、また盗まれた……」
「ガ、ガゥ…」
そして、気付けば、さっきゾロアと戦っていた個体もいなくなっている。
かすみ「あーーーもーーー……!! なんなのこの森ーーーー!!!」
かすみんの叫びは虚しくも霧の森に呑み込まれていく……。
👑 👑 👑
かすみ「もうやだ……早くこの森から出たい……」
「ガゥゥ…」
しず子もいなくなっちゃったし……またかすみんのお宝も奪われて……。
そういえば、さっきのポケモン……図鑑で調べてみたら、どうやらベロバーというポケモンらしい。
『ベロバー いじわるポケモン 高さ:0.4m 重さ:5.5kg
常に 舌を 出している。 民家に 忍びこみ 盗みを
働き さらに 悔しがる 人や ポケモンの 発する
マイナスエネルギーを 鼻から 吸い込み 元気になる。』
かすみ「つまり、かすみんを悔しがらせて食事をしてた……ってことだよね」
まんまとしてやられたのが悔しくてたまらないけど、ここで悔しがると、それを餌にされるらしい。
それは癪だ……。
かすみ「早くしず子を見つけて、この森……脱出しなきゃ……」
「ガゥゥ…」
ゾロアと一緒に霧の森の中を彷徨っていると──急に霧が薄くなってきた。
かすみ「こ、今度はなにぃ……?」
もうこの得体のしれない森にうんざりしてきた。
今度は何かと身構えながら、周囲を伺う。
かすみ「……? ここだけ、霧が晴れてる……?」
どうしてかはわからないけど、かすみんはちょうど球状に霧が晴れている空間に入り込んでいたようだった。
まるでバリアで霧の侵入を阻んでいるような……そんな不思議な空間。
ただ、その空間内にあるのは、相も変わらずここまで見てきたのと同じような樹と……中心に光る大きなキノコがあるだけ。
かすみ「……? なんで、ここだけ……?」
首を捻りながら、中心にある光るキノコへと歩を進めると──キノコの下から、小さな何かが飛び出してきて、
「ミ、ミブーー!!!!」「ミブリーーー!!!!」
かすみ「わ……!?」
鳴き声をあげながら、逃げていく。
- 923 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:23:33.63 ID:r2gRr5pF0
-
かすみ「えっと……今のもポケモンだよね……?」
かすみん何もしてないんだけど……。
図鑑を開く。
『ミブリム おだやかポケモン 高さ:0.4m 重さ:3.4kg
人気の ない 場所が 好き。 頭の 突起で 生物の
気持ちを 感じとる。 穏やかな ものにしか 心を 開かず
強い 感情を 感じとると 一目散に 逃げ出してしまう。』
かすみ「ミブリムって言うんだ……」
かすみん、どうやらミブリムたちの巣にお邪魔しちゃったみたいですね……。
かすみ「ミブリムたちには悪いですけど……ちょっとここで休憩させてもらいましょう……」
「ガゥ」
視界の開けた場所で、今後どうするかを少し考えたい。
そう思って、大きな光るキノコに背を預けようとしたら──キノコの影から、
「テブリ…」
また新しいポケモンが現れた。
帽子のような髪の毛を被った、先ほどのミブリムを少し大きくしたようなポケモン。
かすみ「わ……! 可愛い……?」
その姿は愛らしく、子供の頃テレビアニメで見た魔女っ娘を小さくしたような見た目で、可愛いポイントがものすごく高いポケモンです。
かすみ「ミブリムと雰囲気が似てるし……もしかして、ミブリムが進化した姿なのかな?」
「テブ…」
かすみ「怖くないですよ〜。かすみん、敵じゃありません♪」
その愛らしさに思わず手を伸ばして、撫でようとした──そのときだった。
かすみ「んがっ!!?」
急に顎下から強烈な衝撃と共に、目の前に星が舞った。
次、気付いた時には、かすみんはまたしても仰向けにひっくり返っていた。
かすみ「…………はっ!?」
今、ものすごい衝撃に吹っ飛ばされて、一瞬意識が飛んだ。
顎がすごい痛い……。起き上がろうとすると、頭がふらふらする。
かすみ「え、な、なに……?」
「テブリィ…」
どうにか身を起こすと、先ほどの魔女っ娘ポケモンがゆっくりとこちらに迫ってきていた。
かすみ「え、えっとぉ……あ、あのぉ……も、もしかして怒ってます……?」
「テブリィ…」
かすみ「ま、待ってください……!! かすみん、本当に敵とかじゃなくて、可愛いからちょっと仲良くしたいなって思っただけで……!」
- 924 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:24:05.25 ID:r2gRr5pF0
-
かすみんの必死の説得も虚しく、
「テブッ!!!!」
かすみ「んがぁっ!?」
かすみんは魔女っ娘ポケモンの頭の房に、鼻っ柱を殴り飛ばされていました。
強烈なパンチで殴り飛ばされて、またしても地面を転がる。
かすみ「いったぁぁぁぁぁ!! もう、なんなんですか!? 魔女っ娘ポケモンに見せかけて、とんだ脳筋ポケモンじゃないですかぁ!?」
「テブリィ…?」
かすみ「あ、いえ、なんでもないです。ごめんなさい」
睨みつけられて、即ごめんなさいする。
この子、見た目に反して、めちゃくちゃおっかなくないですか!?
図鑑を開いて確認してみる。
『テブリム せいしゅくポケモン 高さ:0.6m 重さ:4.8kg
強い 感情を もつ ものは それが 誰であれ 黙らせる。
その手段は じつに 乱暴で プロボクサーさえ 一発
KOの 破壊力が ある 頭の房で 相手を 殴り飛ばす。』
すごい見た目詐欺ポケモンです……。
「ガゥ…」
かすみ「大丈夫だよ、ゾロア……。そもそも、テブリムたちの巣にお邪魔してるのはかすみんたちですから……」
心配して身を摺り寄せてくるゾロアを撫でる。
元はと言えば、勝手に巣にお邪魔している方が悪いわけですから……。
かすみ「ただ、あのぉ……本当にこれ以上近付かないので、ここで休憩だけさせてください……」
「テブリ…」
不機嫌そうなテブリムだけど……結局のところ、それは許可してくれたのか、わざわざ近付いて暴力を振るってくることはなかった。
とりあえず、一安心……ここで、作戦を考えないと……。
しず子をどうにか見つけなくちゃいけないけど……。
恐らくしず子も、この不思議な森の不思議な何かのせいで、出られなくなってる……もしくは元の場所に戻れなくなってるって考えればいいのかな……。
その何かがなんなのかわからなくて困ってるんだけど……。
かすみ「うーん……どうしたものか……」
「ガゥ…」
腕組みをしながら悩んでいると──
「ミブーーー!!!」
巣の中の、かすみんたちがいるのとは反対側の方から、ミブリムが鳴き声をあげながら逃げ込んできた。
そして、その後ろからは──
「ベロバーー!!!」「ベロベロバーー!!!!」「ベローーー!!!!」
かすみ「ベロバー……!!」
- 925 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:24:40.72 ID:r2gRr5pF0
-
ベロバーたちがミブリムを追いかけて巣に侵入してくる。
あいつら、ミブリムたちにもいじわるしてるんですね……!!
ベロバーたちを追い払おうとボールに手を掛けた瞬間、
「テブリッ!!!!」
「ベロバッ!!!?」
テブリムがベロバーを殴り飛ばして、巣の中から追い出し始める。
かすみ「テブリム、めちゃつよじゃないですか……」
次々とベロバーを拳で追っ払うテブリム。……これは手伝う必要はなさそうですね。
そう思った矢先──樹の上から影が飛び降りてきた。
かすみ「!?」
「テブッ!!?」
ちょうどテブリムの背後に着地した影は──
「ギモッ!!!!」
テブリムの顔の目の前で、両掌を合わせて叩き、大きな音を立てる──“ねこだまし”だ。
「テブッ!!!?」
頭上からの奇襲攻撃に反応できなかったテブリムが怯む。
「ギモッ!!!!」
そして、相手のポケモンがその勢いのまま、追撃を仕掛けようとした瞬間、かすみんはボールを投げ放っていた。
かすみ「ジュカインッ!! “でんこうせっか”!!」
「──カインッ!!!!」
「ギモォッ!!!?」
ボールから出ると同時に、高速の一撃で肉薄しながら、敵を斬り裂いた。
かすみ「テブリム、大丈夫ですか!?」
「テブ…」
かすみんはテブリムに駆け寄る。
かすみ「全く、“ふいうち”なんて卑怯なやつですね……!」
「ギ、ギモ…」
かすみ「お前、ベロバーたちの親玉ですね! もう許しませんよ……!!」
「ギ、ギモー!!!」
かすみんに恐れ慄いたのか、急にそいつは膝をついて土下座をし始める。
かすみ「全く……情けないですねぇ。勝てないと思ったら、土下座なんて」
「カイン」
- 926 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:25:15.07 ID:r2gRr5pF0
-
でも、そんなことされても、許してなんてやりませんもんね。
ジュカインはのっしのっしと近付いていく。
あんなやつ巣からつまみ出してやります。
その間に、あいつの名前を調べるために図鑑を開く。
『ギモー しょうわるポケモン 高さ:0.8m 重さ:12.5kg
悪知恵を 使って 夜の 森に 誘い込もうとする。
土下座して 謝る 振りをして 槍のように 尖った
後ろ髪で 突き刺してくる 戦法を 使ってくる。』
かすみ「!? 土下座は罠!?」
「ギモッ…!!!」
十分に近づいたと判断した瞬間、ギモーは髪の毛を尖らせてジュカインに突き刺してくる。
「カインッ…!!」
「ギモ、ギモモモ!!!!」
引っ掛かったと言わんばかりに下卑た笑い声をあげるギモー。
……が、
「…カイン」
ジュカインは突き刺さった髪の毛を──手で掴む。
「ギ、ギモ…!?」
かすみ「かすみんのエースは、その程度じゃ怯みもしませんよ!」
「ジュ、カインッ!!!」
髪の毛を直接握って捕まえたギモーに向かって、
かすみ「“りゅうのいぶき”!!」
「ジュ、カイーーンッ!!!!」
至近距離から“りゅうのいぶき”を噴き付けた。
「ギ、ギモォォォッ!!!!?」
ドラゴンエネルギーの炎に焼かれ、地面を転がりながら、
「ギ、ギモ、ギモモモ!!!!」
ギモーは一目散に逃げ出していく。
かすみ「ふん! おととい来やがれです!」
「カインッ」
かすみんが鼻を鳴らして勝ち誇ると、
「ミブ♪」「ミブリー♪」「ミブミブー♪」
ミブリムたちがかすみんとジュカインの足元に掛けよってきた。
かすみ「わわ……!? え、えっと……認めてもらえた感じ、ですかね……?」
恐る恐る、テブリムの顔色を伺うと、
- 927 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:25:47.14 ID:r2gRr5pF0
-
「…テブ」
先ほどまで睨むような目つきだったテブリムも気持ち穏やかな表情になっている気がした。
かすみ「ほ……」
これなら、もうさっきみたいにぶん殴られる心配もなさそうです。
かすみ「これでゆっくり考えられます……」
かすみんが、ミブリムたちの中央に腰を下ろすと、
「ミブ…?」
1匹のミブリムが、かすみんのバッグに結んでいた──しず子のリボンに反応を示した。
かすみ「……? ミブリム、もしかしてこのリボン、見覚えあるの?」
「…ミブ」
ミブリムはかすみんの言葉に首──というか体を左右に振りながら否定する。
でも……その代わりとでも言いたげに、さっきテブリムにぶん殴られて伸びているベロバーを指差す。
かすみ「ベロバーがどうかし……ん……?」
そういえば、さっき図鑑で……ミブリムは生物の気持ちを感じとるって……。
かすみ「……」
さらにギモーは悪知恵で夜の森に誘い込む……ベロバーはギモーの手下で……。
しず子の持ち物を見て、気持ちを感じ取れる力を持つミブリムがベロバーを指差した……。
だんだん、話が見えてきました……。
ミブリムはきっとこう言いたいんだと思う。そのリボンの持ち主は、ベロバーたちのところにいる……って。つまり──
かすみ「しず子は……ギモーたちに連れ去られたんだ……!!」
かすみんは立ち上がる。
そうとわかれば、今すぐにでもギモーたちの巣を見つけて、しず子を助けないと……!
かすみ「行くよ、ゾロア!! ジュカイン!!」
「ガゥッ!!!」「カインッ!!!」
かすみんが駆け出そうとした、そのとき、
「テブッ!!!」
テブリムが自分の頭の房を使って、器用にジャンプし、かすみんの頭の上に飛び乗ってくる。
かすみ「わとと……!? ……もしかして、一緒に来てくれるの?」
「テブリ」
テブリムは頷くと、伸びてるベロバーを指差し、頭の房で殴るようなジェスチャーをする。
……どう見てもベロバーやギモーたちとは仲悪そうでしたし、自分も乗り込んでボコボコにしてやろうってことなのかも……。
- 928 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:26:20.62 ID:r2gRr5pF0
-
かすみ「まあ、構いませんよ! かすみんも好き放題やられて頭に来てるのは同じですからね!」
「テブリッ!!」
かすみ「テブリム! 一緒にギモーたちをぼっこぼこのけちょんけちょんにしてやりましょう!!」
「テブリッ!!!!」
テブリムが進むべき方向を指差して教えてくれる。
かすみ「こっちにいるんですね! 行きますよ!」
「テブッ!!!」
さぁ、好き放題やってくれたギモーたちに反撃開始ですよ……!!
💧 💧 💧
しずく「……むー……!! むー……!!」
激しく抗議の意思を表してみる、
だけど、
「…ロン」
私を拘束しているこの黒い髪は全く力を緩めようとしない。
私を捕えているのは──ベロバー、ギモーの最終進化系である、オーロンゲだ。
森の光るキノコに誘われて、かすみさんが私の近くを離れた直後だった。
森の奥から伸びてきた髪の毛に、手足を絡め取られ、
しずく『な、なに……!? かすみさ──むぐっ……!』
声をあげる前に、口も髪で塞がれて──
しずく『むー……! むー……!!』
森の奥に引き摺りこまれた。
しずく「……」
ベロバーとその進化系たちは、人のマイナスエネルギーを餌とするポケモンだ。
恐らくこうして近くを通った人間やポケモンを捕まえて恐怖を与えることで、自分たちの糧としているのだろう。
たぶん、かすみさんを光るキノコで引き付けて、私と引き離したのも、ギモーの悪知恵だと思う。
そうすれば、恐怖に怯える私と、私がいなくなったことで焦ったり不安になるかすみさんからもマイナスエネルギーを奪えて一石二鳥というわけだ。
ただ、誤算があるとしたら──
「ロンゲ…」
私を至近距離で睨みつけてくるオーロンゲ。
それもそうだろう。私が全然怯えないからだ。
しずく「……むー……」
- 929 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:27:22.49 ID:r2gRr5pF0
-
そんな風に睨みつけても無駄ですよ。
私は貴方なんか怖くもなんともありません。
──絶対かすみさんが助けに来てくれますから。
「…ロンゲ」
オーロンゲは機嫌悪そうに鳴く。
私が希望を失っていないから。
そして、私に希望を与えてくれるあの人は──
「──しず子ー!! どこー!!」
やっぱり、来てくれた。
👑 👑 👑
かすみ「ジュカイン! “マジカルリーフ”!! ゾロア! “スピードスター”!!」
「カインッ!!!」「ガゥガゥッ!!!!」
「ベロ!!?」「ベベロバッ!!!?」「ベロベー!!!?」
そこらへんにいるベロバーたちを必中の遠距離技で片っ端から倒しながら突き進む。
そして、
「ベローー!!!」「ギモーーッ!!!!」「ギモォ!!!!」
飛び掛かってくるベロバーやギモーは、
かすみ「テブリム!! “ぶんまわす”!!」
「テブリーーー!!!!!」
「ベベローー!!?」「ギモッ!!!?」「ギモォッーーー!!!!」
かすみんの頭の上で拳を振り回すテブリムが全部ぶっ飛ばします。
かすみ「しず子ーーー!! 迎えに来たよーー!! どこーー!?」
もう完全にベロバーやギモーたちの縄張りに入っている。
いるとしたら、ここしかありえない。
かすみ「テブリム! しず子のもっと詳しい居場所、わかる!?」
「テブ」
テブリムが自らの額を、しず子のリボンに近付ける。
恐らく、またしず子の思念みたいなものを読み取っているんだろう。
「テブ!!」
かすみ「あっちだね! 了解!!」
テブリムが指差す方向へと走る。
ベロバーやギモーたちをぶっ飛ばしながら、走っていくと──大きな樹が見えてきた。
- 930 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:28:06.82 ID:r2gRr5pF0
-
「テブ!!」
かすみ「あの樹!? よっし……じゃあ、行きますよ!!」
大きな樹にダッシュで駆け寄り──
かすみ「テブリム!! お願いします!!」
「テーーブッ!!!!」
テブリムが樹木に向かって拳を叩きつけると──樹木の表面がバラバラと崩れ、大きな洞が現れる。
そして、
しずく「──むー……!!」
かすみ「しず子!!」
そこには、黒いひも状のもので縛られたしず子が居た。
「ロンゲ…」
「テブッ!!!」
かすみ「お前がしず子を攫ったやつですね……!!」
ギモーたちよりもずっと大きな背丈の──恐らく群れのボスらしきポケモンに向かって、テブリムが飛び出していく。
体を捻りながら、テブリムが渾身のパンチを繰り出すと──
「ロンゲッ!!!!」
相手も、身を捻りながら、拳を突き出し、2匹の拳が真っ向からぶつかり合うが──
かすみ「ご、互角……!?」
「テブッ…!!」
「ロンゲッ」
2匹のパワーは互角で、お互い相殺し合っている。
テブリムのパンチ力は身をもって体験している。それなのに、それと互角に撃ち合ってくるなんて……!!
しずく「──かすみさんっ!! 攻撃を緩めないで!!」
かすみ「!?」
気付けば先ほどまで、口を塞がれていたしず子が、私に向かってそう伝えてくる。
しずく「オーロンゲは全身の髪の毛で、自分の筋力を増強するの!! だから、攻撃に使っていたら、私を拘束できなく──むぐっ……!!」
かすみ「なるほど! そういうことなら……!! テブリム!!」
「テーブッ!!!!」
テブリムは、オーロンゲと呼ばれたポケモンの前に立って、連続で拳を繰り出す。
「ロンゲ…!!!」
もちろん、そうなればオーロンゲも応戦するしかなくなり、
しずく「……ぷはっ!」
しず子の拘束が緩んだ隙に、
かすみ「ジュカイン!!」
「カインッ!!!!」
- 931 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:29:35.36 ID:r2gRr5pF0
-
ジュカインが自慢の身のこなしで洞内の壁を蹴りながら、しず子を救出して、すぐに離脱する。
かすみ「ナイス! ジュカイン!」
「カインッ!!!」
すぐに、ジュカインがしず子を抱きかかえたまま、私のもとに戻ってくる。
しずく「かすみさん……!」
かすみ「しず子! よかった、無事で……!」
しずく「うん……! 絶対助けに来てくれるって信じてたよ!」
かすみ「当たり前じゃん!」
再会を喜び合うのも束の間、
「テ、テブーー!!!」
テブリムがこちらに吹っ飛ばされてくる。
かすみ「テブリム!? 大丈夫!?」
「テ、テブ!!」
しずく「オーロンゲも私の拘束に使っていた分を、全部攻撃に回してきたみたいだね……」
「ロンゲ…」
忌々しそうにこちらを睨みつけてくるオーロンゲ。
そして、背後からは、
「ギモーーー!!!!!」「ギモモ!!!!」「ギーーモッ!!!!」
この洞に向かって、ギモーたちが殺到してきている。
しずく「後ろは任せて」
かすみ「! そういうことなら……!! オーロンゲ、倒しますよ!!」
「テブッ!!!!」
しずく「出てきて、ジメレオン!!」
「ジメ…」
ジメレオンはボールから出ると同時に、手に大量の水の球を作り出し、
「ジメッ!!!」
それを連続で投擲──投げられた水の球は、森の樹々を反射しながら、
「ギモッ!!!?」「ギモッ!!!!」「ギィ!!!?」
予測不可能な軌道で、ギモーたちを次々と撃ち落としていく。
しずく「1匹たりとも、ここは通しません!!」
「ジメ…!!」
しず子とジメレオンがギモーたちを抑えてくれている間に、
かすみ「テブリム……!! “ぶんまわす”!!」
「テーーブッ!!!!」
テブリムが頭の房を振り回しながら、オーロンゲに飛び掛かる。
- 932 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:30:06.51 ID:r2gRr5pF0
-
「ロンゲ!!!!」
「テブッ…!!!」
が、やはりフルパワーのオーロンゲ相手だと、力負けしてテブリムが吹っ飛ばされる。
かすみ「なら……!! “マジカルシャイン”!!」
「テーーブッ!!!!」
テブリムは吹っ飛ばされながらも、激しく閃光を放って反撃。
「ロン…!!?」
暗い洞の中で急に激しい閃光が放たれたことによって、オーロンゲが一瞬怯む。
かすみ「そこです!! テブリム!!」
「テーーーブッ!!!!」
怯んだところに──テブリムが走り込み、オーロンゲの顎に向かってアッパーカットを叩きこんだ。
「ロンゲッ!!!?」
オーロンゲは体が宙を浮くほどの強烈な一撃を食らい、洞の中で倒れこむ。
「ロンゲ…!!」
まだ倒しきれていないのか、オーロンゲはすぐに起き上がるけど……確実に大きなダメージを与えたはず……!!
かすみ「この調子でもう一発……!」
さらなる追撃を加えようとした瞬間、
「ロンゲッ!!!」
オーロンゲは、髪の毛で強化した腕を──洞内の壁に思いっきり叩きつけた。
かすみ「壁に向かって“アームハンマー”……!?」
それと同時に──洞の壁が吹き飛び、それによって耐えきれなくなった樹木が倒壊を始める。
かすみ「や、やば……!?」
「カインッ!!!」
かすみんが指示するよりも早く、ジュカインが私としず子を抱きかかえ、脱出を試みる。
テブリムやゾロア、ジメレオンもジュカインの大きな尻尾にしがみついているし──お陰でどうにか、全員倒壊に巻き込まれることなく脱出が出来た。
かすみ「あ、ありがとう……ジュカイン」
「カインッ」
かすみ「そうだ、オーロンゲは……!!」
気付けば、オーロンゲの姿は見えなくなっていた。
かすみ「に、逃げられた……!」
周囲にいたギモーやベロバーたちも、樹々の影に隠れて逃げ始めている。
- 933 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:30:41.39 ID:r2gRr5pF0
-
しずく「恐らく逃げて態勢を立て直すつもりだろうね……。森の中は彼らのテリトリーだから、一旦引いて態勢を立て直せば、いくらでも策はあるだろうし……」
かすみ「冷静に分析してる場合じゃないって〜!?」
しずく「大丈夫だよ、かすみさん」
かすみ「え?」
しずく「今回は──私もかなり怒ってるから」
静かに怒りを顕わにするしず子の声に同調するように──
「ジメ──」
ジメレオンが光り出した。
かすみ「これって、まさか……!?」
しずく「かすみさんのキモリはジュカインに、歩夢さんのヒバニーもエースバーンになって……私のメッソンも、最終進化の時が近いってわかってたから」
「──インテ」
しずく「行くよ、インテレオン」
「インテ」
進化し、新しい姿を得たジメレオン……改めインテレオンは、指を銃口のようにかざし、
しずく「この森では貴方たちは隠れ放題、逃げ放題って思ってるかもしれないけど……私の“スナイパー”は、絶対に外さない──“ねらいうち”」
「インテ──」
指先から──超速度の水の弾丸を撃ち出した。
ヒュン、と風を切る音と共に、水の弾丸は樹々の間をすり抜けて──
「ロンゲェッ!!!!!!」
オーロンゲの悲鳴に変えて、直撃を私たちに報せてくれた。
「…インテ」
しずく「これに懲りたら、今後は無暗矢鱈に人を襲わないことだね。……もう、聞こえてないだろうけど」
かすみ「か、かっこよ……」
インテレオンの必殺の一撃によって──マッシュルームフォレストで起こった、一連の騒動は終息するのでした。
👑 👑 👑
かすみ「テブリム。協力してくれてありがとね」
「テブ」
あの後かすみんたちは、テブリムの巣に戻ってきました。
──あ、ちなみに盗まれた“げんきのかけら”は、崩れた樹の近くにまとめて置いてありました。もちろん全部取り戻してめでたしめでたしです。
かすみ「それじゃ……これからもミブリムたちを守ってあげてね」
「テブ」
かすみ「よし……! それじゃ、しず子! さっさと森、抜けちゃおっか! 朝になっちゃう!」
かすみんはテブリムへの挨拶を終えて、しず子に振り返る。
- 934 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:31:29.60 ID:r2gRr5pF0
-
しずく「かすみさん、いいの……? テブリム、捕まえなくても……?」
かすみ「いいのいいの! あの子は群れのリーダーなんだから、いなくなったらみんな困っちゃうもん」
せっかく一緒に戦った仲だし、ちょっと寂しくはありますけど……。
しずく「そっか……。……でも、テブリムはそう思ってないみたいだよ?」
かすみ「え?」
そう言われてテブリムの方へ振り返ると──
「テブ」
テブリムは私の足元に居た。
かすみ「テブリム……もしかして、一緒に来てくれるの?」
「テブ」
かすみ「でもミブリムたちは……」
「ミブー!!」「ミブ、ミブーーー!!!」「ミブリーー!!!!」
しずく「ふふ、旅に出る仲間を応援してくれてるね♪」
かすみ「……野生のポケモンってたくましいですね……」
嬉しそうに飛び跳ねるミブリムたちを見ていると、まるで「私たちは私たちでどうにかやっていくから、心おきなく旅に行っておいで」と群れのリーダーの門出を祝っているようだった。
「テブリ」
テブリムはまた器用に頭の房を使ってジャンプすると、
かすみ「わっとと……」
かすみんの頭に飛び乗ってくる。
「テブ」
しずく「かすみさんの頭の上で腕組んでるね」
かすみ「……なーんか、ちょっと偉そうですね、このテブリム……」
しずく「群れのみんなも大切だけど……頼りない子分が心配だから、付いて行ってやろうって感じなのかな……?」
「テブ」
かすみ「えぇ!? なにそれ!? 頼りない子分ってかすみんのこと!?」
「テブテブ」
かすみ「むー……ま、いいけどさー……。……これからよろしくね、テブリム」
「テブ!!」
霧に包まれ、キノコが群生する、この不思議な森で……新たな仲間を加えて、かすみんたちは再び、ヒナギクシティを目指して出発するのでした。
──ちなみに、森を出る頃には完全に朝になっていました……。うぅ……徹夜は美容の敵なのに……。
- 935 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:32:19.20 ID:r2gRr5pF0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【11番道路】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回_●__ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.48 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.45 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.42 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.39 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.41 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
テブリム♀ Lv.40 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:179匹 捕まえた数:9匹
主人公 しずく
手持ち インテレオン♂ Lv.37 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
バリヤード♂ Lv.32 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アオガラス♀ Lv.36 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロゼリア♂ Lv.36 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
サーナイト♀ Lv.36 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:187匹 捕まえた数:12匹
かすみと しずくは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 936 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:12:54.47 ID:A5BOh9Vw0
-
■Intermission🎙
せつ菜「……ここ、ですね……。エアームド、下に降りてください」
「ムドー」
夜が明けて──私たちがやってきたのは、クロユリシティのちょうど北西部に存在する大きなカルデラ湖。その中心に鎮座している火山島だ。
未だに活発な活火山で、名前は──天睛山(てんせいざん)、とりわけその火山洞は天睛の火道(てんせいのかどう)と呼ばれています。
活火山なだけあって、危険を伴う場所で、人があまり近寄らず、街から繋がる道もない。大きなカルデラ湖から中央の火山島へ渡る船などもないため、ポケモンの力を借りずに来る方法はほぼないと言っていい。
──果林さんから貰ったメモには、『オトノキ北の火山洞奥。20〜』とだけ書かれていた。
オトノキ北の火山と言われたらここしかないし、20〜というのは20時以降を示しているものだろう。
ただ……。
せつ菜「本当にこんな場所に千歌さんが来るのでしょうか……」
流れ出す溶岩を横目に見ながら、私は溶岩洞に足を踏み入れる。
溶岩洞窟内は大きさこそあるものの、入り組んだ道ではなかった。
溶岩洞の入り口から真っすぐ進んでいくと、大きな広間のような空間に出る。
せつ菜「入り口は一つしかありませんでしたし……もし来るんだとしたら、ここに居れば必ず鉢合わせるはず……」
だだっ広い空間ではあるが、赤熱した溶岩のお陰で洞窟内は意外と明るかった。
その光景自体は自然の力強さを感じる幻想的な風景ではあるのだが──
せつ菜「さすがに……暑いですね……」
ドロドロとした溶岩がそこかしこに見られるだけあって、非常に暑い。
私は暑さにはかなり耐性がある方だけど……それでも、ずっと居たくはないと思うくらいには暑かった。
せつ菜「本当に、ここに千歌さんが来るの……?」
何度目かわからない自問。
千歌さんがここに来ることが想像できない。出来ない、のだが……。
せつ菜「当てもなく探し回るよりは、いい……はず」
何せ、彼女がどこにいるかは本当に見当が付いていないのだ。
もし来ないのであれば、それはそのとき考えればいい。
今は、もし彼女がここに訪れたらどうするかを考える方が建設的だ。
──これから彼女とするであろう、戦いのシミュレーションを。
一匹一匹手持ちのボールに触れながら、戦い方を頭の中で思い浮かべる。
千歌さんの手持ちとどう渡り合うかを一つ一つ考えて。
せつ菜「……」
正直、不安はあった。
今の私で勝てるのか。
今の力で通用するのか。
でも、
- 937 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:15:06.65 ID:A5BOh9Vw0
-
せつ菜「……大丈夫」
私が信じて進んできた道に、間違いはない。
あと、少しで手が届くという手応えだって、ずっと感じていた。
だから、今日、ここで、超える。
弱気になんてなっちゃダメだ。
せつ菜「私は……チャンピオンになるんだ」
私は自分に言い聞かせるように、そう言葉にした──
🎙 🎙 🎙
──時刻は20時半を回ろうとしていた。
せつ菜「…………」
溶岩洞の内部は、今も灼熱の溶岩が流れ続けるだけ。
20〜と書かれていたが、千歌さんは未だ姿を現していなかった。
せつ菜「…………また、からかわれてしまったみたいですね……」
菜々のときだけではなく、せつ菜であってもからかわれてしまったようだ。
さて、これからどうしたものだろうか……。
次の策を思案し始めた、そのときだった。
「──こっちであってるよね!?」
入り口からこの広間へ向かう通路の方から、声が聞こえてきた。
せつ菜「……え?」
その声は、あまりに聞き覚えのある声で──程なくして、
千歌「はぁ……はぁ……! どこ……!?」
千歌さんが、この火山洞の中に、姿を現した。
せつ菜「本当に……来た……」
私は唖然としてしまった。
まさか本当に来るなんて。
キョロキョロと何かを探していた千歌さんは、
千歌「……え?」
私を視界に入れた瞬間、目を丸くする。
千歌「せつ菜ちゃん……?」
- 938 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:15:48.34 ID:A5BOh9Vw0
-
千歌さんもポカンとしていた。
まさか、私がこんな場所にいるなんて思っていなかったとでも言わんばかりに。
呆然としながら、見つめ合う私たち。そして、その背後から、
彼方「千歌ちゃーん……待って〜……」
息を切らせながら、広間に入ってくる女性の姿。
確か……彼方さんと呼ばれていた気がします。
そしてその後ろから、ツインテールの少女と、さらにサイドテールの女性が姿を現す。
遥さんと……穂乃果さんと呼ばれていたと思います。
最近、千歌さんと会うときに大体一緒に行動している方たちです。
千歌「あ、えっと……彼方さん……」
彼方「はぁ……はぁ……あ、あのねー……大変なのー……。……ここに入ったら、急に反応が、消えちゃって……」
千歌「え? そうなの……?」
彼方「うん……」
遥「勝手に戻っていったということでしょうか……」
穂乃果「今までそんなことあったっけ……?」
何やら話をしていますが……こうして千歌さんと出会えたのなら、
せつ菜「……あの!!」
私は私の目的を果たさねばならない。
せつ菜「千歌さん!! 私とバトルしてください!!」
千歌「あ、えっと……」
千歌さんは少し動揺した様子だった。
彼方「あれ……? なんで、せつ菜ちゃんがいるの〜……?」
遥「まさか、またせつ菜さんが……?」
千歌「えーっと……」
千歌さんは背後の穂乃果さんを伺うように、チラりと視線を送る。
穂乃果「……とりあえず、反応が消えちゃったなら、私たちには何も出来ないし……大丈夫だと思う」
千歌「……まあ、それもそっか」
どうやら、向こうも話が付いたらしく。
千歌「どうしてここにせつ菜ちゃんがいるのかはわからないけど……トレーナー同士、目が合ったら戦うのが礼儀だもんね!」
せつ菜「……! はい!!」
──やった……! バトルまで、漕ぎつけた。
後は──戦って勝つ……!! 勝って、実力を示して、チャンピオン戦をしてもらう!!
私はボールから手持ちを繰り出す。
- 939 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:16:30.06 ID:A5BOh9Vw0
-
せつ菜「行きますよ、ゲンガー!!」
「ゲンガッ!!!」
千歌「出てきて、バクフーン!」
「──バクフーン!!!!」
お互いの手持ちが相対して、今まさにバトルが始まろうとした──その瞬間だった。
──ビーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
けたたましいブザー音のようなものが洞窟内に響き渡った。
千歌「……!?」
せつ菜「な、なに……!?」
千歌さん共々、ブザー音の発信源に目を向けると──それは彼方さんの持っている端末から鳴っている音だった。
彼方「……うそ」
穂乃果「彼方さん、場所は……!?」
彼方「叡智のゴミ捨て場付近と……フソウ島」
遥「二ヶ所同時……!?」
穂乃果「しかも、ここと真逆……!?」
彼方「それに、どっちも市街地が近い場所だよ〜……!」
穂乃果「……っ……私はフソウに飛ぶ!! 千歌ちゃんは、ダリアの方に行って!!」
そう言って、穂乃果さんは踵を返して駆け出して行く。
千歌「は、はい……!」
千歌さんも動揺しながらも、踵を返して出て行こうとする。
せつ菜「ま、待って……!?」
千歌「ごめん、せつ菜ちゃん……!! バトルはまた今度……!!」
そう言って、千歌さんが洞窟内から駆け出して行く。
どうしよう。戦わなくちゃいけないのに。私は、すぐにでも千歌さんと戦って示さなくちゃいけないのに。
私の頭の中は、それでいっぱいだった。
だから、私は、
千歌「んぎっ!?」
彼方「千歌ちゃん!?」
遥「どうしたんですか……!?」
千歌「身体が……う、動かない……!!」
せつ菜「……トレーナーとの戦いが始まったのに、背を向けるんですか……」
“メガバングル”を輝かせながら、言う。
- 940 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:21:21.68 ID:A5BOh9Vw0
-
「ゲンガァー…!!!!!」
千歌「め、メガゲンガー……! “かげふみ”……!」
彼方「ち、千歌ちゃん……!」
千歌「二人は穂乃果さんと、先に行って……!」
遥「わ、わかりました……!」
彼方「ご、ごめんよ〜……!」
彼方さんと遥さんが千歌さんを置いて駆け出して行く。
せつ菜「……バトルの最中に……相手に背を向けるんですか……チャンピオンが……」
千歌「……っ……せつ菜ちゃん、今は緊急事態で……バトルなら、今度会ったときに改めてやろう! ね!?」
せつ菜「今度って……いつですか……次会うのはいつですか……!!」
千歌「え、いや、それは……わ、わかんないけど!!」
せつ菜「──それじゃ、ダメなんですっ!!」
千歌「……っ!?」
自分でも驚くくらい、大きな声が火山洞内で反響する。
次会えるのなんて、いつになるかわからない。
今ここでこの機会を逃したら──全てを失ってしまう気がした。
せつ菜「今……!! 今、バトルしてください……!!」
千歌「だ、だから……!! 緊急事態なんだって!! 今行かないと大変なことに……」
せつ菜「私だって、今バトル出来ないと困るんですっ!!!」
千歌「……っ」
私の無茶な要求に千歌さんも困っていたし、苛立ちがあったのかもしれない。
だから、彼女は私に向かって──言ってしまった。
千歌「──ポケモントレーナーだったら、バトルなんていつだって出来るじゃんっ!!!!」
せつ菜「────」
その言葉を聞いて、私の中で──何かが切れてしまった。
せつ菜「いつだって……出来る……?」
千歌「そうだよ、いつだって出来る、だから……!」
せつ菜「……ゲンガー!! “シャドーボール”!!」
「ゲンガーーッ!!!!」
千歌「!? “かえんほうしゃ”!!」
「バクフーンッ!!!!!」
ゲンガーの放った“シャドーボール”が“かえんほうしゃ”で相殺されて、爆発する。
爆発の衝撃で、朦々と立ち込める煙の向こうに立つ千歌さんを、見据える。
せつ菜「……そうですよね、貴方はいつだって、どこでだって、好きなときに、好きなだけ、戦える。トレーナーでいられる。何不自由なく、縛られることなく、誰に言われることもなく」
千歌「せつ菜ちゃん、やめてって!! 今は戦えないって言ってるじゃん!!」
せつ菜「戦う気がないなら……戦う気にさせてあげますよ……!!」
私は──ボールを4つ放った。
- 941 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:22:18.17 ID:A5BOh9Vw0
-
「ムドー!!!」「フゥ!!!」「ドサイッ!!!」「ワァォン!!!!」
せつ菜「エアームド、“ステルスロック”! スターミー、“ハイドロポンプ”! ドサイドン、“ロックブラスト”! ウインディ、“かえんほうしゃ”!」
「ムドーーー!!!!」「フゥッ!!!!」「ド、サイッ!!!!」「ワァーーーオーーーンッ!!!!!」
千歌「……っ!」
「バクフッ!!!」
私の手持ちたちの総攻撃に、千歌さんはバクフーンに掴まり、駆け出して回避する。
千歌「せつ菜ちゃんっ!! いい加減にしてよっ!!」
せつ菜「私は本気です!! 本気で貴方と戦う意志を持って今ここにいるんですっ!! だから、千歌さんも私と本気で戦ってくださいっ!!」
彼女なら、意志を見せれば、向き合ってくれると思った。
だけど──そうじゃなかった。
千歌「あーーーーもーーーーっ!!! 今は無理って言ってるでしょーーーー!!!!」
千歌さんが叫ぶのと同時に──彼女の腕に付けたリングが、強烈な閃光を放ち始めた。
せつ菜「……!?」
千歌さんとは何度も戦ってきたけど、これは、こんな光景は、一度も見たことがなかった。
彼女の腕の光は、千歌さんの腕から──バクフーンへと流れ込み、
「バクフーーー!!!!!!!」
離れていても、ビリビリとほのおのエネルギーを感じるほどに、すさまじい熱気を放ち、
千歌「──“ダイナミックフルフレイム”!!」
「バーーーーク、フーーーーーーンッ!!!!!!!!!!!!!!」
せつ菜「う……そ……」
見たこともないような、巨大な火球が──
「ゲンガッ!!!?」「フゥ…!!!」「ドサイ…!!!」「ムドーッ!!!?」「ワォンッ!!!?」
私たちの手持ち5匹全てを呑み込み──直後、膨れ上がったほのおエネルギーが大爆発を起こした。
せつ菜「うぁっ……!!」
強烈な爆音と爆風が衝撃波となって、私に襲い掛かってくる。
立っていることもままならず、吹き飛ばされて地面を転がる。
せつ菜「……っ……」
轟音が洞窟内で何度も反響し、火山全体を大きく揺さぶる。
目の前で大噴火が起こったのかと錯覚するような、とてつもない熱量。
──やっと、余波が収まった頃に顔を上げて、どうにか身を起こす……。
せつ菜「…………」
千歌「はぁ……! はぁ……!」
せつ菜「………………」
千歌「ごめん、せつ菜ちゃん……!! 私、行くから……!!」
- 942 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:23:08.31 ID:A5BOh9Vw0
-
千歌さんは今度こそ踵を返して、洞窟から駆け出して行く。
彼女が去ったあとの洞窟内をぼんやりと見回すと、
「ゲ、ン…」
ゲンガーが倒れていた。
「ムドー…」
エアームドも力なく地に伏せ、
「フ、ゥ…」
ほのおタイプが得意なはずのスターミーもコアを点滅させ、
「ド、サイ…」
溶岩さえ耐える、硬い岩の皮膚を持つドサイドンも丸焦げにされ、
「ワ、ォン…」
同じほのおタイプのはずのウインディも、力尽きて倒れていた。
せつ菜「……なに……いま、の……」
私は──思い上がっていた。
もう少しで手が届くと思っていたのは、ただの勘違いだった。
私のポケモンたちは──たった一撃で全滅してしまった。
千歌さんは、あんな技を隠していた、あんな特別な、技を……。
せつ菜「あ、……あはは、あははははははっ……」
笑いが込み上げてきた。
笑いと一緒に──涙も。
せつ菜「あはは、あははははははっ……千歌さんは、本気じゃなかったんだ……ずっと私なんか相手に、本気なんて出してなかったんだ……」
本当はいつでも一撃で終わらせられる技を持ってたんだ。そんな──『特別』を持っていたんだ。
私にはまだ──チャンピオンなんて遠かったんだ。
ただ、負けただけなら……いつもだったら、どうすれば勝てるかを考えていた。
だけど……今回は、そう思えなかった。そんな風に、考えられなかった。
せつ菜「なんで……っ……。なんで……その技なんですか……っ……。なんで……バクフーンなんですか……っ……」
ずっと、言わないようにしていた言葉が……勝手に溢れ出してきた。
せつ菜「なんで……選ばれた貴方が……選ばれた技で……選ばれたポケモンで……──選ばれなかった私から、全てを奪うんですか……っ!!」
もう言葉が止まらなかった。
せつ菜「私だって、選ばれたかった……っ!!! 博士からポケモン図鑑を貰って、最初のパートナーを貰って、旅に出たかった……!! 私だって、そうしたかった……そうありたかった……」
──結局。
- 943 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:23:58.79 ID:A5BOh9Vw0
-
せつ菜「結局……貴方は選ばれたから、なんですか……? 私は選ばれなかったから……勝てないんですか……? そんなの……そんなのって……っ……」
力無く項垂れる私の背後から──
「──……そうよね、酷いわよね」
女性の声がした。
聞き覚えのある、声だった。
せつ菜「果林……さん……?」
果林「酷い……酷すぎるわ……」
そう言いながら、彼女は私のことを後ろから抱きすくめる。
果林「選ばれた人間が……選ばれなかった人間をめちゃくちゃにする。……どんなに頑張っても、結局選ばれた人たちだけが、笑って、貴方たちの努力あざ笑う」
せつ菜「…………」
果林「可哀想なせつ菜……。でも、大丈夫よ、せつ菜……」
果林さんは私の頭を優しく撫でながら、私の耳元で、
果林「──私が、選んであげるから」
そう、言葉にした。
せつ菜「え……?」
果林「貴方に……『特別』な力をあげる」
『特別』──その言葉は……今の私には、あまりにも甘美な響きだった。
果林「私と一緒に、来なさい……せつ菜。私が貴方を──『特別』にしてあげる」
せつ菜「…………はい」
今の私は、その甘い毒に、抗う術を持っていなかった──
………………
…………
……
🎙
- 944 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:37:02.97 ID:A5BOh9Vw0
-
■Chapter047 『激闘! ヒナギクジム!』 【SIDE Kasumi】
かすみ「さて、今日はついにヒナギクジムに挑戦の日です!」
「ガゥガゥ♪」
しずく「ふふ、そうだね」
かすみ「昨日は1日お休みした分、かすみん元気全開! 気合い入りまくってるんだから!」
「ガゥ♪」
しずく「うんうん、頑張ろうね♪」
昨日の朝方、ヒナギクに到着したかすみんたちは、もちろん宿に直行しました。
あまりに疲れていたのもあって、起きたら夕方……そこからジム戦に行くのもタイミングが悪いということで、結局その日は休息日ということにしたわけです。
お陰でたくさん寝られましたし、お肌もつるつる、髪もつやつや、乙女の尊厳も守りながら、元気全開、パワー全開でジムに挑むことが出来ますよ!
さあ、早速ジムにレッツゴーです!
👑 👑 👑
かすみ「…………」
──『現在ジムリーダーは留守です』
お決まりの留守札がかかっている、ジムのドアを見て、かすみん思わずしかめっ面になります。
しずく「あはは……なんか、なんとなくこうなるかなーって気はしてたんだけど……」
かすみ「はぁ……かすみん呪われてるんですかねぇ……」
「ガゥ?」
しずく「い、いっそ、このまま全ジム制覇出来ちゃうかもしれないよ……?」
かすみ「そんなジム制覇したくないよぉ〜……」
全部のジムで出鼻を挫かれるなんて嫌すぎます……。って言っても、結局後回しになっちゃったローズジムを含めたら、これで7個目ですからね……。
制覇も近い……。
ジムの前で項垂れるかすみんなんですが……そんなかすみんに向かって、
女の子1「あら……お前たち、ジム挑戦者かしら?」
女の子2「この時間……ジムリーダーは基本的にジムにいない……」
たまたま通りかかったっぽい、女の子たちが声を掛けてくる。
黒いゴスロリ服に身を包んだアッシュグレーの髪の女の子と、それとは対照的に白いゴスロリ服に長い黒髪を携えた女の子の二人組。
……この、いかにもな服装……オカルトマニアかな……?
- 945 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:37:55.36 ID:A5BOh9Vw0
-
かすみ「ジムリーダーはこの時間はいつも留守なんですか?」
女の子2「うん……この時間は基本留守」
しずく「どこかに出かけているんですか?」
女の子1「ええ……この時間はいつもグレイブガーデンにいるみたいよ」
かすみ「グレイブガーデン……?」
しずく「グレイブガーデンって……ヒナギクの北にある、墓地ですよね……?」
かすみ「え、墓地? お墓参りってこと……?」
女の子1「みたいね……毎日朝夕に欠かさず行っているみたいよ」
しずく「毎日……ですか」
かすみ「この町のジムリーダーは、随分マメな人なんですね……」
女の子2「ただ、誰のお墓参りなのかは誰も知らない。聞いても答えてくれないから」
女の子1「噂では、ここのジムリーダーは過去に“機関”に属していて、そのときに犠牲にしてしまった命への弔いだなんて言われているわ……」
しずく「き、“機関”……!? こ、ここのジムリーダーはまさか壮絶な過去を……」
かすみ「しず子〜……こういうの本気で相手しない方がいいよ〜……?」
オカルトマニアが言うことなんて大体適当なんだし……。
女の子1「まあ、信じる信じないはお前たちの勝手だけどね……行くわよ、咲良」
女の子2「うん……姉さん」
そう言い残して、二人は去って行ってしまった。
しずく「今の二人、姉妹だったんだね」
かすみ「この町……癖強い人が多いよねぇ……」
軽く周囲を見渡してみても、さっきの姉妹のようなゴスロリっぽい衣装の人や、魔女みたいな服装の人とか……今日は仮装パーティの日なのかと疑いたくなるような人たちがたくさんいる。
しずく「あはは……この町は南北を霊峰に挟まれてるからね……そっち系の人は多いらしいよ。……それで、どうする? ここでジムリーダーが帰ってくるの待つ?」
かすみ「うーん……」
かすみん少し悩みましたが、
かすみ「グレイブガーデンにいるって言うなら、行ってみよう。もしかしたら、また急用でジム戦出来ない〜とか言われたら嫌だから、直接捕まえるべきです!」
しずく「捕まえるって……ポケモンじゃないんだから……」
かすみ「とにかく! グレイブガーデンへレッツゴー!」
「ガゥガゥ♪」
かすみんたちは、町の北にあるグレイブガーデンを目指します。
- 946 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:38:58.98 ID:A5BOh9Vw0
-
👑 👑 👑
──グレイブガーデンはジムからそこまで遠くなくて、すぐにたどり着きました。
かすみ「うわ……一面お墓だらけ……」
「ガゥ」
しずく「墓地だからね。……あんまり変なことすると呪われちゃうかもよ〜……?」
かすみ「ひぅっ!?」
しずく「ふふ、なーんて。冗談だよ。でも、お墓だから、いつもみたいにはしゃぎすぎないようにね?」
かすみ「お、脅かさないでよ! ま、まあ、別にかすみんそれくらいじゃ全く怖くないですけど〜? ゾロアもいるし……」
「ガゥ?」
しずく「もう……じゃあ、なんで私の後ろに隠れるの?」
かすみ「ほ、ほら……しず子の背中になんか憑かないようにと思って……!」
しずく「ふふ、そっか、ありがとね」
かすみ「ほら、前に進まないと!」
「ガゥ」
しずく「はいはい、わかりました」
しず子を盾──じゃなかった……しず子の背中を守りながら、グレイブガーデンを進んでいきます。
かすみ「それにしても……ホントにすごい数だね……」
しずく「厳しい環境の町だからね……開拓前は多くの人が亡くなったって言うし……」
かすみ「そうなんだ……」
しずく「人だけじゃなくて、ポケモンもね……。あと、この共同墓地はヒナギクの人やポケモンだけじゃなくて、地方のいろんな町から、お墓を建てに来る人がいるみたいだよ」
かすみ「確かに、セキレイではお墓ってあんまりないよね……」
しずく「特にポケモンのお墓はね。オトノキ地方以外でも、カントーのポケモンタワー、ホウエンの送り火山、シンオウのロストタワー、イッシュのタワーオブヘブン、アローラのハウオリ霊園とか……ポケモンを弔う場所は共同墓地として置かれてることが多いかな……」
しず子の説明を聞きながら、グレイブガーデンを進んでいくと、
しずく「あ……」
かすみ「むぎゅっ!」
しず子が急に足を止めた。そのせいで、しず子の背中に顔を押し当ててしまう。
かすみ「き、急に止まらないでよ……」
しずく「かすみさん、あの人じゃないかな」
かすみ「え?」
言われて、しず子の影から覗いてみると──確かに、お墓の前で手を合わせている女の子がいた。
赤紫の髪をツインテールに結っている女の子だ。
しずく「ちょうどお墓参りしてるところみたいだね」
かすみ「さすがに終わるまで待った方がいいよね?」
しずく「そうだね」
さすがにお墓参り中に話しかけるなんて、非常識な真似はしません。
少し離れた位置で見守ることにする。
- 947 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:39:51.00 ID:A5BOh9Vw0
-
女の子「…………」
かすみ「……真剣に手を合わせてますね」
しずく「よほど大切な人なのかもね……」
だとしても、これを毎日しているというのは、大変な気がする。
すごく優しくて、真面目な人なのかもしれない。
しばらく待っていると、女の子は目を開けて、立ち上がる。
女の子「──ごめんなさい、待たせたみたいね」
かすみ「はぇ……?」
しずく「もしかして、私たちに気付かれてました……?」
女の子「なんとなく気配でわかった」
かすみ「そ、そうですか……」
こうして目の前に立つ女の子は、背こそ低いものの、眼光は鋭く、立ち居振る舞いって言うんでしょうか……なんだか毅然としていて……簡単に言うと、なんか強そうな感じがします。
女の子「こうしてここまで私に会いに来たってことは……ジム戦に来たのよね」
かすみ「は、はい……!」
理亞「私は理亞。ヒナギクジムのジムリーダーよ」
かすみ「よ、よろしくお願いします! わ、私はかすみって言います!」
しずく「私はしずくです」
理亞「よろしく。あと貴方も」
そう言いながら、理亞先輩はゾロアの頭を撫でる。
「ガゥ♪」
理亞「わざわざ迎えに来てくれてありがとう。すぐにジム戦の準備するから、ジムに行きましょう」
かすみ「は、はい!」
理亞先輩を先頭に、来た道を戻っていく。
しずく「そういえば、かすみさん……珍しくまともに自己紹介してたね」
かすみ「な、なんというか……ふざけちゃいけない空気を感じたというか……いや別に、かすみんがかすみんなのは、ふざけてるわけじゃないけどね?」
「ガゥ?」
しずく「普段も挨拶のときくらいは、それくらい空気を読めればいいのに……」
かすみ「む……まるで普段が空気読めてないみたいじゃん」
全く、失礼なしず子ですね……!
かすみんがぷんぷんしていると、
理亞「それにしても、良いタイミングだった」
理亞先輩が話しかけてくる。
- 948 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:40:35.56 ID:A5BOh9Vw0
-
かすみ「良いタイミング……ですか?」
理亞「実は明日からローズに行くためにジムを空けようと思ってたから」
しずく「ローズにですか?」
かすみ「今、ローズはバタバタしてますよ?」
理亞「知ってる。中央区でテロがあったって。……ただ、姉がローズの病院に入院してるから、様子を見に行こうかと思って」
しずく「そういうことでしたか……」
理亞「もちろん病院の方は問題ないってことは聞いてるけど……一度見に行った方がいいと思ったから」
ってことは、かすみん珍しく、間がよかったみたいですね……!
最初留守札を見たときはまたかって思っちゃいましたけど……やっぱり、こういうときに日頃の行いが出るんですよね〜。
理亞「だから、もし挑戦に失敗しても、再戦は出来ないから」
かすみ「む……もちろん、かすみん1回で勝つつもりで来てますよ」
理亞「そ。でも、手加減するつもりとかないから」
なかなか自信家さんみたいですねぇ……でも、かすみんだって負けるつもりなんてありませんから!
かすみ「……そういえば、しず子」
しずく「ん、なに?」
かすみんは、理亞先輩に聞こえないように、こっそりしず子に耳打ちをします。
かすみ「理亞先輩って何タイプ使うの……?」
しずく「そこは私頼りなんだね……。えっと……理亞さんはこおりタイプのエキスパートだよ」
かすみ「こおりタイプ……」
ジュカインが苦手なタイプですね……。これはちょっと考えないといけないかも……。
作戦を練りながら、かすみんたちはヒナギクジムへ向かいます。
👑 👑 👑
──ヒナギクジムに到着すると、理亞先輩は早速バトルスペースに赴きます。
かすみ「よろしくお願いします!」
理亞「ん、よろしく。使用ポケモンは4体。全員戦闘不能になったらその時点で決着だから」
めんどくさいやり取りは抜きで、お互いボールを構える。
理亞「これ……一応、戦う前に言うやつらしいから。ヒナギクジム・ジムリーダー『無垢なる氷結晶』 理亞。負けて、泣かないようにね」
両者のボールがフィールドに放たれて──バトル、開始です!!
- 949 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:41:21.25 ID:A5BOh9Vw0
-
👑 👑 👑
理亞「行くよ、マニューラ」
「マニュッ!!!」
理亞先輩の1匹目はマニューラ。対するかすみんは、
かすみ「さぁ、行きますよ! ジュカイン!」
「カインッ!!!」
しずく「い、いきなりジュカイン!?」
驚きの声をあげるしず子。こおりタイプはジュカインにとっては苦手な相手です。
最後の1匹に残して、相性不利のまま戦うくらいなら、最初に全力で戦ってもらって、数を削る方が得策と考えました。
理亞「へぇ……こおりタイプのジムでくさタイプ先発……いい度胸してる」
かすみ「相性が悪くても、当たらなければ問題ありません! かすみんのジュカインは速いですよ!」
「カインッ!!」
理亞「そ。でも──もう、当たりそうだけど」
かすみ「え……!?」
気付いたときには、フィールド上からマニューラの姿が掻き消えていた。
フィールド全体を見渡しても、マニューラの姿はどこにも見えない。
そんな中──突然かすみんの頭上に影が差した。
かすみ「!? 上!?」
理亞「“つららおとし”!!」
「マニュッ!!!!」
ジュカインの真上に跳躍したマニューラは冷気を放ち、それを塊にして降らせてくる。
かすみ「“リーフブレード”!!」
「カインッ!!!!」
でも、動き出しで負けても、ジュカインがスピード自慢なのには変わりありません!
落ちてくるつららを1本ずつ正確に切り落としていく。
かすみ「これなら、捌ききれ──」
理亞「──ると思う?」
大量のつららに紛れて──
「マニュッ!!!!」
かすみ「!?」
マニューラが爪を構えながら、降ってくる。
理亞「“きりさく”!!」
「マニュッ!!!!」
「カインッ…!!!」
- 950 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:42:06.37 ID:A5BOh9Vw0
-
マニューラは鋭い爪で、ジュカインの胸部を切り裂きながら、床に着地する。
かすみ「着地隙逃がしちゃだめ!! “アイアンテール”!!」
「カァ、インッ!!!!」
ジュカインは床を踏みしめながら、体を捻って前方に着地したマニューラに向かって大きな尻尾を振るう。
でも、
理亞「遅すぎ」
「マニュッ!!!」
マニューラはすぐにジャンプをして、尻尾を回避し、さらに、
理亞「“トリプルアクセル”!!」
「マニュ、マニュ、マニュッ!!!!!」
跳ねながら回転し、3連続キックを繰り出してくる。
「カインッ!!!?」
身を捻って向けた背に、氷の蹴撃を食らって、ジュカインがうつ伏せに倒れる。
かすみ「ジュカイン!?」
理亞「トドメ……! “れいとうパンチ”!!」
「マニュッ!!!!」
倒れたジュカインの背に向かって、“れいとうパンチ”が迫る。
かすみ「わ、“ワイドブレイカー”!!」
「…!!! カインッ!!!!」
「マニュッ!!!?」
咄嗟に尻尾を大きく振るって、マニューラを迎撃する。
理亞「ちっ……仕留めそこなった」
「マニュッ…!!!」
“ワイドブレイカー”が当たりこそしたものの、こちらも体勢が悪い状態での攻撃だったため、大きなダメージにはなっていない。
マニューラは軽い身のこなしでフィールドに着地しながら、
理亞「“つるぎのまい”」
「マニュッマニュッ!!!!」
“ワイドブレイカー”で下げられた攻撃を元に戻している。
ジュカインもすぐさま、全身のバネを使って起き上がり、迎撃態勢を取るけど──完全に劣勢だ。
かすみ「せめて、一瞬でも隙が作れれば……」
かすみんはチラりとジムの天窓を見る。
寒い寒いヒナギクシティだけど、日中になればちゃんと日が照ってくれる。
“ソーラーブレード”さえ叩き込めれば勝機はあるんだけど……。
かすみ「……あ」
- 951 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:43:38.75 ID:A5BOh9Vw0
-
……かすみん、良いこと考えついちゃいました。
ソーラーの使い道は“ソーラーブレード”だけじゃありません……!
理亞「マニューラ、“こうそくいどう”」
「マニュッ!!!」
またマニューラの姿が掻き消える。
確かにめちゃくちゃ速いです。全然目で追えない。
……でも、
かすみ「目で追えなくても、目で追われてればいいんです!」
理亞「……は?」
理亞先輩がかすみんの言葉に怪訝な顔をした瞬間、
「マニュッ!!!!」
マニューラがジュカインの頭上後方から飛び掛かってくる。
完全な死角からの高速奇襲。絶対回避不可能な位置関係だけど──
かすみ「“フラッシュ”!!」
「カインッ!!!!」
ジュカインは自身に溜まっている太陽のエネルギーを光にして、一気に放出する。
「マ、マニュッ!!!?」
理亞「な……!?」
至近距離での強烈な閃光を受け、驚いたマニューラはそのまま、地面に落っこちる。
ジュカインは、目を潰されて隙だらけになったマニューラの頭上に尻尾を振り上げる。
かすみ「“アイアンテール”!!」
「カインッ!!!!」
「マニュッ!!!!?」
今度こそ、“アイアンテール”を頭上から直撃させた。
「マ、マニュ…」
鋼鉄の尻尾を叩きつけられたマニューラはあえなく戦闘不能。
理亞「……戻れ、マニューラ」
かすみ「よし!! まず一勝です!!」
理亞「マニューラは素早い代わりに、防御が弱い……やられた」
かすみ「さぁ、この調子で行きますよ! 早く次のポケモンを出してください!」
理亞「それはそっちもね」
かすみ「……え?」
直後──
「カインッ…」
- 952 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:44:20.26 ID:A5BOh9Vw0
-
ジュカインが崩れ落ちた。
かすみ「え、ええ!? ジュカイン!? どうしちゃったの!?」
理亞「熱くなりすぎて、気温の変化に気付いてないんじゃない?」
かすみ「へ……?」
言われてみれば……。
かすみ「な、なんか……さ、寒い……?」
しずく「……! まさか、“こごえるかぜ”……?」
かすみ「え?」
理亞「マニューラは場に出たときから、ずっと“こごえるかぜ”で少しずつフィールドの気温を下げながら戦ってた。ジュカインは寒さに弱いから、それでじわじわ体力が削られてたことに気付いてなかったみたいね」
かすみ「う、うそぉ……」
せっかく、大逆転したと思ったのに……。
理亞「さ……仕切り直し」
かすみ「くぅ……戻って、ジュカイン」
ジュカインをボールに戻す。
さすがに6人目のジムリーダーともなると、一筋縄ではいかなさそうです……!
かすみ「行くよ、ヤブクロン!」
「──ヤブゥッ!!!」
理亞「バイバニラ、よろしく」
「──バニーラ♪」「──バニーラ♪」
理亞先輩の2匹目のポケモンが現れると同時に──ジム内に“ゆき”が舞い始める。
かすみ「わ!? なんか、“ゆき”が降ってきた!?」
しずく「かすみさん! 特性“ゆきふらし”だよ!」
かすみ「ゆ、“ゆきふらし”……」
かすみん、確認のために図鑑を開きます。
『バイバニラ ブリザードポケモン 高さ:1.3m 重さ:57.5kg
体温は マイナス6度 前後。 水を 大量に 飲み込んで
体内で 雪雲を 作る。 2つの頭 それぞれに 脳があり
両者の 意見が 一致すると 猛吹雪を 吐いて 敵を 襲う。』
かすみ「めっちゃ冷たいポケモンだってことはわかりました……。もたもたしてると氷漬けですね……! なら、さっさと倒しちゃいましょう! “ヘドロばくだん”!!」
「ヤーーーーブッ!!!!!」
ヤブクロンがヘドロの塊を球状にして発射する。
相手のバイバニラはさっきのマニューラとは打って変わって、動きが速い感じはしない。
避ける素振りも見せず、攻撃が直撃するかと思った瞬間──パキンと音を立てて、“ヘドロばくだん”が凍り付いた。
かすみ「んなっ!?」
理亞「“フリーズドライ”で凍らせた」
“ヘドロばくだん”は炸裂することなく、空中で急激に冷やされたあと、バキリと真っ二つに割れ、バイバニラに当たることなく落ちてしまった。
- 953 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:48:29.72 ID:A5BOh9Vw0
-
理亞「“ふぶき”!」
「バーニラ♪」「バニーラ♪」
かすみ「んぎゃーー!! さ、寒いぃぃぃ!!」
「ヤ、ヤブゥゥ…!!!」
かすみ「ヤブクロン、“ドわすれ”……!」
「ヤブゥ……」
寒さを忘れて凌ぎ切ります。
さ、先にかすみんがダメになりそうですけど……が、頑張る!
理亞「ボーっとしてていいの? “れいとうビーム”」
「バニーラ♪」「バニーラ♪」
それぞれの頭から“れいとうビーム”が発射され──ボーっとしているヤブクロンに直撃する。
「ヤブ──」
直撃したビームは一瞬でヤブクロンを氷漬けにしてしまう。
理亞「寒さを忘れて防ぐことが出来るんだとしても……凍らせれば関係ない」
かすみ「ぐぬぬ……」
確かにそのとおりです。あれはあくまで寒さを忘れるだけで、物理的に凍らされることを防ぐことは出来ません。
ただ、凍った状態を脱する方法も考えています……!
──ジュゥ……。
理亞「……? なんの音……?」
──ジュー……ジュゥゥゥゥ……。
何かが焼けるような音が響く。
理亞「……ヤブクロンの方……? まさか……」
かすみ「ふふん、凍らされても溶かせばいいんです! “アシッドボム”!」
「──ヤブクゥ…」
寒さは“ドわすれ”で防いで、凍らされても落ち着いて“アシッドボム”で溶かす!
完璧です!
あとはゆっくり“どくガス”なりなんなり、体力を削る手段で──
理亞「“ぜったいれいど”」
「バニーラ♪」「バニーラ♪」
──パキリ……と音を立てながら、ヤブクロンが氷漬けになった。
かすみ「んなぁ!?」
理亞「“ぜったいれいど”は命中率が低い技だけど、動かない相手にはさすがに当たる」
かすみ「やややや、ヤブクロン!! “アシッドボム”で溶かしてぇ!?」
理亞「無理。“ぜったいれいど”は一撃必殺。“アシッドボム”すら使えないくらいに、完全に氷漬けになって気絶してるから」
かすみ「ぅ、ぅぅぅぅぅぅ!! 戻って、ヤブクロン!!」
かすみん、ヤブクロンをボールに戻します。
あっけなく2匹目が戦闘不能に……。
- 954 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:49:02.61 ID:A5BOh9Vw0
-
かすみ「サニーゴ!! 行きますよ!!」
「……サ」
かすみ「“パワージェム”!!」
「…………ニ」
輝くいわタイプのエネルギーが発射される。
理亞「“ラスターカノン”!!」
「バニーラ♪」「バニーラ♪」
対するバイバニラは、“ラスターカノン”で“パワージェム”を迎撃してくる。
ただ、バイバニラはさっきから避けようとしない。
マニューラと違って、スピードにはそんなに自信がないことがわかる。
かすみ「なら、これならどうですか!! “ナイトヘッド”!!」
「……ゴ」
サニーゴの目が怪しく光ると──
「バ、バニーラ…」
バイバニラの片側が苦しみ始める。
“ナイトヘッド”は直接攻撃を飛ばしたりする技と違って、相手に恐ろしい幻を見せて攻撃する技。
これなら相殺は出来ませんし、さらに──
「バ、バニーラ…」「バ、バニバニ」
バイバニラは図鑑の説明通りなら、お互いの意見が一致しないと技がうまく出せなくなるはずです……!
かすみ「最初からこうすればよかったですね……バイバニラ攻略です!」
と、思った瞬間、
理亞「“ボディパージ”!!」
「バ、ニーーーラッ!!!!!」
バイバニラは──“ナイトヘッド”受けている片側の頭を、サニーゴに向かって発射してきた。
かすみ「うそぉ!?」
飛んできたバイバニラの頭は──ボスッ! と音を立てながらサニーゴに直撃し、サニーゴの体がバイバニラの頭に埋まってしまう。
かすみ「ちょ、何やってるんですか!?」
理亞「バイバニラの脳は完全に独立してる。片方が溶けても、問題なく生きられるし、溶けてもそのうち戻る」
かすみ「それ逆にどうなってんですか!?」
理亞「ついでに“ボディパージ”をしたら、速くなるから」
「バニーーーラ!!!!」
素早い動きで、飛んできたバイバニラは──さっき飛ばしたもう半分の頭に合体し、元の形になる。
即ち──サニーゴを完全に体内に取り込んだ形になる。
- 955 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:49:34.82 ID:A5BOh9Vw0
-
かすみ「ちょっとぉ!?」
理亞「バイバニラの体温はマイナス6度……あとは氷漬けになって、戦闘不能になるのを待つだけ」
かすみ「そ、そんなぁ……」
理亞「これで3体目……もうサニーゴにこの状態を脱する手段がない。今のうちに、4匹目の準備をしておいたら?」
かすみ「…………」
こおりタイプによる場の支配力が強すぎます……。……強すぎますけど……。
「──バ…!!?」「──ニーラ…!!!?」
急にバイバニラが奇声をあげた。
理亞「な……!? なに……!?」
かすみ「確かに、氷漬け……怖いですけど……──“こおり”を溶かす技もあるんですよ!!」
理亞「……!?」
むしろ、動きがノロノロなサニーゴでどうやって、接近するかを考えていた。
相手から、自分の体内に取り込んでくれるなら、むしろ好都合です!!
かすみ「“ねっとう”!!」
「ニー……ーゴ」
「バ、バニィィィィ…」「ィィィィィラ…」
内側から高温のお湯で溶かされたバイバニラは、ドロドロに溶けて、その場にべしゃりと音を立てて、落っこちた。これはさすがに戦闘不能でしょう。
かすみ「ふふん♪ 3匹目の準備をしてください?」
理亞「……戻れ、バイバニラ」
理亞先輩が戦闘不能になったバイバニラをボールに戻す。
理亞「モスノウ、出てきて」
「──スノォ…」
次に出てきたポケモンは、モスノウ。
しずく「かすみさん! モスノウはユキハミの進化系だよ!」
かすみ「ユキハミ……ヨハネ博士の研究所に居たやつだよね……」
『モスノウ こおりがポケモン 高さ:1.3m 重さ:42.0kg
はねの 温度は マイナス180度。 冷気を 込めた りんぷんを
雪の ように ふりまき 野山を 飛ぶ。 野山を 荒らすものには
容赦せず 冷たいはねで 飛びまわり 吹雪を 起こし 懲らしめる。』
かすみ「マイナス180度!?」
理亞「“ふぶき”!」
「スノォ…」
モスノウが“こおりのりんぷん”をまき散らしながら、“ふぶき”を発生させる。
かすみ「さ、さっむ……!!」
「サ……」
冷たいのはあくまで翅の温度で、“ふぶき”自体がマイナス180度あるわけじゃないだろうけど──それでもあの冷たい翅から繰り出される“ふぶき”は猛烈に寒い。
しかも、バイバニラが降らせた“ゆき”もフィールド全体を覆いつくすのに一役買っている。
- 956 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:50:08.49 ID:A5BOh9Vw0
-
かすみ「こ、このままじゃ、サニーゴが凍っちゃう……! “ねっとう”!」
「ニ、ゴー……」
口から“ねっとう”を吐き出し、自分の身体が氷漬けになるのだけは防いでいるけど──“ねっとう”はサニーゴから少し離れたら、すぐに凍って落ちてしまって全然前に飛んでいかない。
理亞「それじゃ攻撃、届かないけど?」
かすみ「ぐぬぬ……で、でもでも、防御は出来てますもんね!!」
あの冷たい翅で直接触られない限り、いくら“ふぶき”をされても“ねっとう”で氷を溶かし続ければ、簡単にはやられません!
今のうちにどうにか、反撃の一手を──
理亞「なら……“まとわりつく”」
「スノォ…」
モスノウがゆったりとした動きで、こちらに羽ばたいてくる。
かすみ「ぎゃー!? こっち来ないでくださいー!? “パワージェム”!!」
「サ……」
またしても、いわエネルギーの光を集束させて発射する。
理亞「……! “オーロラビーム”!」
「モスノォー」
かすみ「おろ……?」
サニーゴが“パワージェム”を発射すると、モスノウは近付くのを中断して、“オーロラビーム”で迎撃を始めた。
かすみ「もしかして……“パワージェム”には当たりたくない感じですか?」
しずく「──かすみさん! モスノウはこおり・むしタイプだから、いわタイプにはかなり弱いはずだよ!」
かすみ「なるほど……! そういうことなら、連打連打です! “パワージェム”!!」
「サ、コ……」
──サニーゴから発せられた輝きが、モスノウに襲い掛かります。
理亞「“オーロラベール”」
「スノォ」
が、モスノウに当たった輝きはオーロラの輝きにかき消されて霧散してしまった。
かすみ「わ、わあぁぁぁぁ!? かき消すなんてずるいですぅ〜!!」
「サ、コ……」
理亞「ずるくない」
かすみ「こ、こっちこないでー!? “パワージェム”!! “パワージェム”!!」
どうにか追っ払おうと、“パワージェム”を連打するけど──全部“オーロラベール”にかき消されてしまう。
ゆったりサニーゴの眼前に迫ったモスノウは、
理亞「“まとわりつく”」
「スノォ……」
今度こそ、マイナス180度の翅で、サニーゴを包み込む。
かすみ「さ、サニーゴ!!」
「サ……」
- 957 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:50:41.44 ID:A5BOh9Vw0
-
翅で触れられると、サニーゴの体がみるみるうちに凍り始める。
かすみ「ね、“ねっとう”!!」
「サ……」
咄嗟に、モスノウに向かって“ねっとう”を噴射する。
ただ、モスノウの翅の冷たさは常軌を逸していて、“ねっとう”すらも一瞬で凍りつかせていく。
かすみ「が、頑張って、サニーゴ!!」
「サ、コー……」
かすみんが声を掛けると──サニーゴの噴射の勢いが少しだけ強まり、凍った“ねっとう”がどうにかモスノウを押し返す。
かすみ「よ、よし! 今のうちに逃げ──」
理亞「られるわけないでしょ」
「スノォ……」
でも、当然と言わんばかりにまたモスノウが“まとわりつく”。
かすみ「うぅ、“ねっとう”!!」
「サ……」
噴き出す“ねっとう”──もとい氷の塊で押し返しては、またまとわりつかれて、凍りそうになり、それをまた“ねっとう”で溶かして押し返し……だ、ダメです……! このままじゃ、ジリ貧です……!
かすみ「ど、どうにか……どうにかしないと……」
でも、“ねっとう”すら一瞬で凍り付かせる冷気に対抗する術が……。
かすみ「……! そうだ、氷だ!!」
かすみん、やっと反撃の一手をひらめきました……!
かすみ「サニーゴ、“あまごい”!!」
「サ……」
理亞「“あまごい”……?」
理亞先輩が怪訝な顔をする。
“ゆき”を降らせていた雪雲が── 一気に雨雲にとってかわり、大粒の雨を降らせ始める。
大粒の雨が降ったところで、モスノウの冷気が全てを凍らせてしまうけど──それでいい……!!
理亞「悪あがき……モスノウ、トドメを」
理亞先輩が、サニーゴにトドメを刺そうとした、そのとき──
「ス、スノゥ…!?」
モスノウが突然、地面に叩き落とされた。
理亞「な……!?」
かすみ「ふっふっふ……この“あまごい”は──攻撃技です!!」
そう、これは攻撃です……!!
理亞「!? まさか……!? 凍った雨粒が、翅に刺さってる……!?」
- 958 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:51:28.05 ID:A5BOh9Vw0
-
そのとおりです! 大粒の雨は降ったそばから、凍り付いて──大粒の雹に変わるんです!!
翅や体の軟らかいモスノウは、上空から叩きつけてくる大量の雹に耐えられず、落っこちる!
そして、
「サ……コ」
硬い体のサニーゴなら、問題なく耐えられる……!!
理亞「天候を“ゆき”に戻して……!」
「ス、スノォ……」
理亞先輩はすぐさま、“あまごい”を再び“ゆきげしき”で上書きして、態勢を立て直そうとするけど──もう遅いです!
かすみ「サニーゴ!! “ハイドロポンプ”!!」
「サ、コー……」
サニーゴの口から、強烈な水流が発射され、それは冷気によって一瞬で凍り付き──
「スノォ……」
急激に成長する氷の柱が、真正面から、モスノウをぶっ飛ばしました。
理亞「モスノウ……!」
「ス、スノォ……」
大きな氷の塊を叩きつけられたモスノウは、吹っ飛ばされた先で転がって、ついに戦闘不能になったのでした。
かすみ「さぁ、これで形成逆転ですよ!!」
かすみんの残りは2匹、理亞先輩は残り1匹です!
この勝負、貰いましたよ……!!
と、思った瞬間──ゴトっと何か重いものが落ちるような音がする。
かすみ「へ?」
何かと思って、音のした方に目を向けると──
「サ……」
サニーゴが──でかい氷柱を口元にくっつけたまま、地面に落下していた。
かすみ「ってぇ!? サニーゴと氷がくっついてる!?」
理亞「この氷点下で“ハイドロポンプ”を使ったら、普通そうなるでしょ。オニゴーリ」
「──ゴォーーリ!!!!」
理亞先輩が、最後のポケモン──オニゴーリを繰り出す。
かすみ「わーーー!! ちょっとタンマ!! タンマです!!」
理亞「待たない。“フリーズドライ”」
「ゴォーーリ!!!!」
氷柱の重さで動けないサニーゴは、波状に飛んでくる冷気の直撃を受け。
「────」
- 959 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:52:10.71 ID:A5BOh9Vw0
-
完全に氷漬けになって、戦闘不能になってしまった。
かすみ「あぁーー!? サニーゴーー!?」
理亞「意表を突くのもいいけど……その後まで考えてやった方がいいんじゃない?」
かすみ「ぐ、ぐぬぬ……返す言葉がない……」
サニーゴをボールに戻しながら、相手を確認する。
『オニゴーリ がんめんポケモン 高さ:1.5m 重さ:256.5kg
氷を 自在に 扱う 力を 持ち 岩の 体を 氷の よろいで
かためている。 空気中の 水分を 一瞬で 凍らせる 力で
獲物を 冷凍し 動けなくなったところを バリバリと 頂くのだ。』
かすみ「またおっかないポケモンですね……」
そんなオニゴーリに対抗する最後のポケモンは──
かすみ「行くよ! テブリム!」
「──テブリッ!!!」
手に入れたばっかの新顔、テブリムです!
理亞「まさか、ここまで追い詰められると思ってなかった……。オニゴーリ、メガシンカ!」
そう言いながら、理亞先輩の腕にあるブレスレットが眩く光り──
「ゴォォォォーーーーリ!!!!!!!!!」
雄叫びと共に、メガオニゴーリへと姿を変える。
大きく開いた口から、冷気が溢れ出し、周囲を凍結させる。
距離は十分にあるはずなのに、刺さるような冷気が伝わってくる。
理亞「オニゴーリ、“ふぶき”!」
「ゴォォォォーーーーリッ!!!!!!!!」
大きく開いた口から、強烈な冷気が“ふぶき”となって襲い掛かってくる。
フィールド全体を巻き込むような、強烈な寒波。だけど、
かすみ「“サイコキネシス”!!」
「テブッ!!!」
テブリムは自分の周囲に球状のサイコパワーを展開し、メガオニゴーリの“ふぶき”から逃れる。
この子は巣でもこうやって、霧を払っていたんです!
それが霧から冷気に変わっただけ!
理亞「へぇ……これ、防げるんだ」
かすみ「当然です! さらに、こんなことも出来ちゃいますよ!」
「テブ!!」
テブリムが前方に手をかざすと──紫色の炎がぽぽぽぽっと発生する。
かすみ「“マジカルフレイム”!!」
「テーブゥッ!!!!」
その炎を一気に発射する。
- 960 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:52:51.62 ID:A5BOh9Vw0
-
理亞「“こごえるかぜ”!!」
「ゴォォーーーリッ!!!!」
かすみ「か、かき消された!? 炎なのに!?」
理亞「炎だから、温度が低すぎれば消える」
かすみ「なら、“サイコショック”!」
「テブッ!!!」
今度はオニゴーリの周囲に、サイコパワーで生成したキューブが現れ──それが一気にオニゴーリに襲い掛かる。
「ゴォォーーリ…!!!!」
かすみ「そのでかい図体じゃ避けられませんよね!」
今度は問題なく技が直撃する。相手の氷の鎧が硬いのか、致命傷にこそなっていませんが、
かすみ「このまま、攻め攻めで行きますよ!」
「テブッ!!!」
テブリムのサイコパワーなら攻防同時に展開できる!
これなら一方的に、有利が取れると思った矢先、
理亞「遠距離からちまちまやられるのは面倒……! オニゴーリ、“ころがる”!!」
「ゴォーーーリッ!!!」
メガオニゴーリはゴロゴロと転がりながら、こっちに迫ってくるじゃないですか……!
かすみ「ちょ、動けるの!?」
理亞「動けないなんて言ってない」
かすみ「テブリム!」
「テブッ!!!」
テブリムは髪の毛の房を使って──跳ねる。
かすみ「かすみんのテブリムはジャンプも得意なんですよ!! 転がってたら、空中には手を出せませんよね!!」
「テブッ!!」
さぁ、上から攻撃して、今度こそ──テブリムが攻撃を構えた、そのときだった。
突如前方に、大きな柱のようなものが現れ──それがテブリムに向かって勢いよく振り下ろされた。
「テブッ!!!?」
かすみ「テブリム!? な、なに!?」
テブリムはそれに押しつぶされるような形でフィールドに叩きつけられる。
その柱の根本を辿ると──
「ゴォォォーーーリ…」
それは、メガオニゴーリの体から伸びているものだった。
理亞「オニゴーリは空間内の水分を自在に凍らせられる。相手がどこにいようが、関係ない」
「ゴォォォーーリ!!!!」
そして、テブリムを押しつぶした氷の柱を一旦持ち上げてから──
- 961 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:53:31.06 ID:A5BOh9Vw0
-
「ゴォォォーーーリッ!!!!」
理亞「これで終わり……!」
再度、テブリムに向かって、勢いよく振り下ろしてきた。
──ガシャァンッ!! とド派手な音がジム内に響き渡り、衝撃で雪や氷の欠片が舞い上がって、フィールド内を真っ白な煙が包み込む。
かすみ「…………」
理亞「……これで──」
かすみ「……終わりじゃありません!」
理亞「……!?」
煙の中で──
「テブッ!!!」
テブリムは立っていた。
理亞「な……!?」
目を見開く理亞先輩。そりゃ、無理もありません。
だって──先ほどテブリムに向かって振り下ろされた氷柱は、中央辺りでボッキリ折れていたんですから!
理亞「ど、どうやって!?」
かすみ「殴って折りました!!」
「テブッ!!!」
理亞「はぁ!?」
テブリムのサイコパワーは確かに強力ですけど──やっぱり、一番の自慢はあのパンチ力です!!
テブリムは腕を組み、頭の房でのっしのっしと歩を進めながら──
「テブッ!!!!」
メガオニゴーリから伸びている、砕けた氷柱を、真正面から殴りつける。
──ゴッ!! と鈍い音と共に、氷柱がバキバキと音を立てながらひび割れ、その衝撃は氷柱の根本にいたメガオニゴーリ本体まで吹っ飛ばす。
「ゴ、ゴォォォーーリ…!!!!」
理亞「お、オニゴーリ!?」
さらに追撃と言わんばかりに、
「テブッ!!!!!」
折れて転がっていた、氷柱の片割れをメガオニゴーリに向かって、殴り飛ばす。
理亞「う、受け止めろ!!」
「ゴォォーーリッ!!!」
メガオニゴーリは咄嗟に氷の盾を作り出して、キャッチしますが、
「テーーーブッ!!!!!」
- 962 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:54:18.12 ID:A5BOh9Vw0
-
テブリムはその氷の盾に向かって、間髪入れずに飛び掛かり──拳を叩きつける。
──ビキッ!! 1撃目で強烈な拳でヒビが入る。
──バキッ!! 2撃目でさらにヒビが広がり、
──バギンッ!! 3撃目で氷の盾を粉々に粉砕した。
理亞「嘘……!?」
「テブッ!!!」
かすみ「テブリム!!! いっけーー!!!」
砕け散る氷が舞う中、メガオニゴーリの脳天目掛けて──テブリムが両拳を合わせて、叩きつけた。
「ゴォォォーーーリ…!!!!」
至近距離から、脳天に向かって振り下ろされた拳は、メガオニゴーリの全身の氷の鎧にヒビを入れるほどの威力で、
「ゴ、ォォォ…リ…」
その破壊力に耐えられず、メガオニゴーリは目を回して、戦闘不能になったのでした。
「テブッ!!!!」
かすみ「やったー!! テブリムー!!」
かすみん、思わずテブリムに駆け寄っちゃいます。
そして、ハグ──しようと思ったら。
「テブッ!!!」
テブリムはぴょんと跳ねて、かすみんの頭に飛び乗ってきました。
かすみ「わっとと……!!」
「テブッ!!!」
そして、いつものように腕を組んで鼻を鳴らす。
かすみ「あ、相変わらずかすみんは子分扱いなんだね……」
「テブッ」
まあ、いいんだけど……ちょっと複雑です。
そんな私たちのもとへ、
理亞「まさか……最後にパワー負けすると思わなかった」
理亞先輩が近づいてくる。
かすみ「ふふんっ! かすみん自慢のテブリムですからね!」
「テブテブッ!!!」
理亞「負けたのは悔しいけど、貴方の強さは認めざるを得ない。これ……“スノウバッジ”」
そう言って、理亞先輩は雪の結晶を模したジムバッジを手渡してくる。
かすみ「はい! ありがとうございます! やったね、テブリム!」
「テブテブッ!!」
- 963 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:55:27.53 ID:A5BOh9Vw0
-
こうして、かすみんたちは、理亞先輩との激戦を制し──無事に6個目のジムバッジを手に入れたのでした!
にしし……これは侑先輩たちより早くジム攻略しちゃったかもしれませんね〜? これは、ローズでの結果報告が楽しみですね〜♪
👑 👑 👑
理亞「それじゃ、私はグレイブガーデンに行くから」
かすみ「はい! ジム戦ありがとうございました!」
ペコっと頭を下げると、理亞先輩はひらひらと手を振りながら、グレイブガーデンの方へと消えていった。
かすみ「ホントに朝夕欠かさず、お墓参りしてるんですね……」
しずく「みたいだね」
というわけで、気付けば夕方です。
かすみ「そういえば……しず子、グレイブマウンテンに行きたいって言ってたよね? クマシュンだっけ? そのポケモンに会いたいって」
しずく「あ、うん。……でも、今から山に入るのはちょっと難しいだろうから……グレイブマウンテンは明日かな。それよりも、ちょっと町を観光しない?」
かすみ「言われてみれば、あんまり観光出来てなかったね……。よーし! じゃあ今日は夜までヒナギクシティを巡ろ〜!」
しずく「うん♪」
夕日に照らされるヒナギクの町で、かすみんたちはのんびり一息つくことにしました♪
明日はしず子のために山登りですから! 今のうちに英気を養いますよ〜♪
おいしいモノとかあればいいな〜♪
るんるん気分で、町へと繰り出す、かすみんなのでした!
- 964 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:56:28.02 ID:A5BOh9Vw0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ヒナギクシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. ●____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.51 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.47 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.44 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.45 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.44 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
テブリム♀ Lv.44 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 6個 図鑑 見つけた数:183匹 捕まえた数:9匹
主人公 しずく
手持ち インテレオン♂ Lv.38 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
バリヤード♂ Lv.35 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アオガラス♀ Lv.38 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロゼリア♂ Lv.38 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
サーナイト♀ Lv.38 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:191匹 捕まえた数:12匹
かすみと しずくは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 965 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/15(木) 02:49:24.30 ID:J+r4F7N00
-
■Intermission🍊
──結局、天睛の火道から飛び出して、叡智のゴミ捨て場にたどり着いた時には、すでにウルトラビーストの反応は消えていた。
穂乃果さんも同様だったらしく、フソウに到着すると同時にパタリと反応が消えてしまったそうだ。
そして、私は……あの後すぐに、天睛の火道に戻ってきたんだけど……。
そこに、せつ菜ちゃんの姿はもうなかった。
千歌「せつ菜ちゃん……様子がおかしかったよね……」
それはわかっていたんだけど……私もウルトラビーストのもとへ急行しなくちゃいけなかったし、完全にテンパってしまっていた。
意識して、使わないようにしていたZ技まで使っちゃったし……。
千歌「せつ菜ちゃんに悪いことしちゃったな……」
結果として、私がダリアの方に行く意味はなかったわけだし……。
まあ、どちらにしろ放っておくわけにはいかなかったけど……。
千歌「今度会ったら、ちゃんと謝らなくちゃ……! そんでもって、せつ菜ちゃんが満足出来るまで、バトルに付き合ってあげよう!」
私はそう心に決めて──天睛の火道を後にし、もう一つの目的地に飛ぶことにした。
🍊 🍊 🍊
──ローズシティ、ローズジム。
真姫「はい、ルガルガン」
千歌「ありがとうございます、真姫さん」
私はローズシティの真姫さんのもとへ訪れていた。
理由はもちろん、ルガルガンを手持ちに戻すためだ。
真姫「ルガルガン、どこも異常なく健康だったわ」
千歌「はい、ありがとうございます!」
心身共に問題もないそうで、これで抜けたルカリオの穴も埋まったし、一安心。
真姫「そうだ、千歌……」
千歌「なんですか?」
真姫「最近、せつ菜に会ったりした……?」
千歌「え!?」
ちょっとタイムリーな名前が出てきて、思わず驚きの声をあげてしまう。
- 966 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/15(木) 02:49:57.43 ID:J+r4F7N00
-
真姫「……会ったの?」
千歌「え、えっと……まあ……その……バトルを申し込まれたんですけど……急用で中断することになっちゃって……」
真姫「……そう」
千歌「でもでも、今度会ったらせつ菜ちゃんの気が済むまでバトルするつもりなんで!」
真姫「そう……。……そうしてあげてくれると嬉しいわ」
千歌「はい! ……っと、もうこんな時間……早く帰らないと……」
彼方さんが今日は何かと振り回されて、疲れただろうからって、ご馳走を振舞ってくれると言っていたし、みんな待っているはずだ。
千歌「それじゃ、真姫さん! ありがとうございました!」
真姫「ええ。気を付けて帰りなさいね」
千歌「はーい!」
私は元気よく返事して──ムクホークに乗り、コメコの森を目指すのでした。
………………
…………
……
🍊
- 967 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:27:23.32 ID:eLOLjL7n0
-
■Chapter048 『決戦! クロユリジム!』 【SIDE Yu】
侑「歩夢! リナちゃん! 見えてきたよ!」
「イブィ♪」
歩夢「うん!」
リナ『やっと到着だね!』 ||,,> ◡ <,,||
侑「うん! クロユリシティ!」
「ブイブイ♪」
歩夢「結局ローズから、ここまで来るのに2日も掛かっちゃったね……」
侑「ちょっとクリスタルレイクでのんびりしすぎたからね……あはは」
──クリスタルケイヴで夜の虹を見たあと、私たちは洞窟で話していたとおり、再びクリスタルレイクまで登り、湖面の夜空を鑑賞。
ついでに朝日に照らされて輝くクリスタルレイクの時間まで起きて、クリスタルレイク三景をしっかり見た。
……そんな夜更かしをした結果、その日私たちが起き出したのは、昼下がり頃……。
もともと、クリスタルレイクからクロユリシティに行くのにも、16番道路と18番道路の2つの道路を経由しなくちゃいけないこともあって、どうやってもその日のうちにクロユリに到着するのは無理だった。
そんなこんなで、私たちはローズを発ってから、次の町にたどり着くまで2日間掛かってしまったというわけだ。
歩夢「でも、クリスタルレイク……すっごくキレイだったから、見られてよかったかな……えへへ」
侑「ふふ、そうだね♪ 夜の虹も、湖面の夜空も、朝日の湖も、最高だったよ!」
「イブィ♪」
歩夢「うん♪」
リナ『思い出に残る経験が出来たみたいで、私も嬉しい! リナちゃんボード「ハッピー」』 ||,,> ◡ <,,||
クリスタルレイクでは本当に良い経験が出来た。
そして、そんな経験を経て、たどり着いたここクロユリシティでの目的はもちろん──
侑「さぁ……! 今からジム戦だ!」
歩夢「頑張ってね、侑ちゃん! イーブイも♪」
侑「任せて!」
「イブィ♪」
リナ『侑さん! 頑張ろうね! 私も全力でサポートする! リナちゃんボード「ファイト、おー!」』 ||,,> 𝅎 <,,||
侑「うん! よろしくね、リナちゃん!」
いざ、クロユリジムへ!
- 968 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:36:07.96 ID:eLOLjL7n0
-
🎹 🎹 🎹
クロユリは非常に自然豊かな町で──雰囲気としては、林の中に点々と民家が建っている、そんな印象を受ける町だ。
侑「なんだか、今まで来た町とは全然印象が違うね……」
リナ『クロユリは、自然を大切にする町だからね。むしろ、自然の中に住まわせてもらってるって考え方みたい』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「人口も少ないんだよね。……確か、オトノキ地方の町の中だと……今はヒナギクよりも少ないんだっけ……?」
リナ『うん。地方の中では、住んでる人が一番少ない町のはずだよ』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「でも、この町は強いトレーナーが多いんだよね! 住んでる人ほとんどがトレーナーらしいよ!」
歩夢「そうなの?」
リナ『これだけ自然に囲まれてると、町中でも野生のポケモンが出るからね。そういう環境で暮らしてると自然とポケモントレーナーとして戦えるようになってるみたい』 || ╹ ◡ ╹ ||
そして、そんな町で生まれ育った強者……それが、オトノキ地方最強のジムリーダー・英玲奈さんだ。
侑「英玲奈さんと戦えるなんて……想像しただけでときめいちゃうよ……!」
リナ『ときめくのはいいけど、油断しないでね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「大丈夫大丈夫! バトルは全力でやるから!」
みんなで話しながら、林の間を抜けていくと──間もなくクロユリジムが見えてきた。
侑「よし……たのもー!!」
ジムの扉を押し開けて入る。
すると、ジムの中央で、目を瞑って待っている人が一人。
もちろん──
侑「ほ、本物の英玲奈さんだ……!」
英玲奈「……挑戦者か」
侑「は、はい! 侑って言います!」
英玲奈「私はクロユリジムのジムリーダー・英玲奈だ。ジムバッジはいくつだい?」
侑「5つです!」
英玲奈「わかった。難しい言葉は必要ないな。自らを語るよりも、お互いポケモン勝負をした方が早いだろう。バトルスペースにつくといい」
侑「は、はい!」
噂通りのストイックな感じ……! なんかドキドキしてきちゃった……!
英玲奈「使用ポケモンは4体。全て戦闘不能になった時点で決着だ。構わないね?」
侑「はい! よろしくお願いします!」
私はボールを構える。
英玲奈「クロユリジム・ジムリーダー『壮烈たるキラーホーネット』 英玲奈。さぁ、存分に戦おう」
私と英玲奈さん、両者が同時にボールを放って──バトル、開始です!!
- 969 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:38:24.87 ID:eLOLjL7n0
-
🎹 🎹 🎹
英玲奈「行け! ヘラクロス!」
「──ヘラクロッ!!!」
英玲奈さんの1番手はヘラクロス。
私の1番手は、
侑「ドロンチ! 初陣だよ!」
「ローンチ」
ドロンチだ。
英玲奈「……頭に乗せたタマゴは降ろした方がいいんじゃないか?」
侑「え? あ、そうだった……! ドロンチ、タマゴこっちに頂戴!」
「ローンチ…」
侑「そんな不機嫌そうな顔しないで! バトル中だけだから! ね?」
「ローンチ…」
渋々渡してくれたタマゴを受け取る。
侑「歩夢! バトル中、預かってて!」
歩夢「あ、うん」
セコンドスペースにいる歩夢にタマゴを預けて、大急ぎでバトルスペースに戻る。
侑「し、失礼しました!」
英玲奈「いや、構わない。それでは、始めようか」
「ヘラクロ!!!」
リナ『ヘラクロス 1ぽんヅノポケモン 高さ:1.5m 重さ:54.0kg
一直線に 敵の 懐に 潜り込み たくましい ツノで すくい上げ
投げ飛ばす。 ものすごい 怪力の 持ち主で 自分の 体重の
100倍の 重さでも 楽に ぶん投げる。 甘いミツが 大好き。』
リナちゃんの解説を聞きながら考える。
このマッチアップは悪くない。肉弾戦主体のヘラクロスだけど、ゴーストタイプのドロンチなら多くの攻撃を透かせる。
英玲奈「ヘラクロス!! “メガホーン”!!」
「ヘラクロッ!!!」
侑「ドロンチ! まずは飛ぶよ!」
「ローンチ!!」
ツノを下げて、前傾姿勢で突っ込んでくるヘラクロスに対して、ドロンチはフワリと浮き上がる。
侑「とにかく、空中戦で行こう!」
「ローンチ!!」
英玲奈「なるほど、悪くない作戦だ。だが、ヘラクロスにも翅はあるぞ!」
「ヘラクロッ!!!」
ヘラクロスが翅を広げて、飛び立ち──ツノをドロンチに向けたまま、突っ込んでくる。
侑「“かえんほうしゃ”!!」
「ローンチッ!!!!!」
- 970 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:39:18.63 ID:eLOLjL7n0
-
真正面から突っ込んでくるドロンチに向かって、火炎で迎撃する。
当たり前だけど、むしタイプのヘラクロスはほのおタイプに弱い。
翅があるから、空中まで追ってくることは出来るけど、地上と違って踏ん張りが効かない分、パワーも落ちる。
遠距離から弱点の技を選んで立ち回れば、ヘラクロスは攻略出来るはずだ……!!
だけど、
英玲奈「ヘラクロス!! 突っ込め!!」
侑「え!?」
英玲奈さんは怯むことなく、ヘラクロスを突っ込ませてくる。
“かえんほうしゃ”の中を真正面から突っ切り──
「ヘラクロッ!!!!」
「ロンチッ!!!?」
ドロンチの首元辺りにツノを突き立てる。
侑「ドロンチ!?」
英玲奈「畳みかけろ!!」
「ヘラクロッ!!!!」
ヘラクロスは、怯んだドロンチの上に回り込み──
英玲奈「“10まんばりき”!!」
「ヘラクロッ!!!!!」
真上から、思いっきりツノを振り下ろして、
「ロンチッ!!!?」
ドロンチを地面に向かって叩き落とす。
「ロン、チッ…!!!」
ドロンチは下方に吹っ飛ばされながらも、地面スレスレで体勢を立て直して、どうにか再び飛行に移行する。
侑「とにかく、距離を取らなきゃ……!」
地面スレスレを飛びながら逃げるドロンチに向かって、再びヘラクロスが、ドロンチの真上に並ぶようにして、追いかけてくる。
侑「く……追いかけてくる……! なら、“りゅうのはどう”!!」
「ロンッ!!!」
飛行しながら、体を捻って真上を向き、口から“りゅうのはどう”を発射した──直後、ヘラクロスの姿が急に掻き消えた。
侑「え、消え……!?」
「ロンッ!!?」
ヘラクロスを見失って、動揺する私とドロンチ。
その直後、
- 971 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:40:47.08 ID:eLOLjL7n0
-
英玲奈「“つばめがえし”!!」
「ヘラクロッ!!!!」
「ロン、チッ!!!?」
いつの間にか、真横に回り込んでいたヘラクロスがツノを叩きつけて、ドロンチを吹っ飛ばした。
消えたんじゃない……! “つばめがえし”で急に軌道を変えられたから、一瞬見失ったんだ……!
「ロ、ロンッ…!!!」
侑「ドロンチ……!!」
さすがに飛行を維持出来ず、地面に墜落するドロンチ。
器用に尻尾を振るいながらバランスを取って、すぐに体勢を復帰させるけど、
「ヘラクロッ!!!!」
ヘラクロスはもうすでにドロンチの眼前に迫っていた。
英玲奈「“じごくづき”!!」
「ヘラクロッ!!!」
「ロンッッ!!!!!!!」
ヘラクロスのツノが、ドロンチの胸部に突き立てられ、その勢いでドロンチはジムの壁まで吹っ飛ばされた。
──ドンッと大きな音を立てて、壁に叩きつけられるドロンチ。
侑「ドロンチ……!!」
「ロ、ロン…」
侑「……ありがとうドロンチ、戻って」
ドロンチ戦闘不能……。私はドロンチをボールに戻す。
──全く手も足も出なかった……。
パワーもスピードもテクニックも、どれも一級品だ。
これが、最強のジムリーダー……英玲奈さん……。
英玲奈「……確かに、ヘラクロス相手に近接戦を挑まないようにする立ち回りは悪くない。定石と言ってもいいだろう」
侑「……」
英玲奈「が、この私に対して、そんな消極的な戦い方で勝てると思っているなら、随分と舐められたものだな」
侑「……!」
そうだ……私はチャレンジャーなんだ……。安全安心な勝ち方なんて、最初から考えちゃいけない。
ジム戦用に使用ポケモンのレベルを合わせてくれているとはいえ、相手は百戦錬磨の最強のジムリーダー。
定石での戦いを仕掛けてくる相手への対策だって、知り尽くしているだろうし、私が見聞きした程度で知っている作戦なんかじゃ通用しなくて当然だ。
私が今やるべきことは、教科書通りの試合運びなんかじゃない……!
侑「……英玲奈さんの想像を超えた戦いをしなくちゃ……!」
英玲奈「……ふ。……さぁ、次のポケモンを出したまえ」
侑「はい! 行くよ、ライボルト!!」
「──ライボッ!!!!」
ボールから飛び出すと同時に、ライボルトが走り出す。
- 972 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:42:29.93 ID:eLOLjL7n0
-
侑「“ニトロチャージ”!!」
「ライボッ!!!!」
ライボルトは加速しながら赤熱し、ヘラクロスの周囲をイカズチのように走り回る。
そして、周囲を走り回りながら、
侑「“ほうでん”!!」
「ライボッ!!!!!」
全方位から、電撃を浴びせる。
「ヘラクロッ…!!!」
英玲奈「ヘラクロス、怯むな!! “じならし”!!」
「ヘラッ!!!!」
ヘラクロスが勢いよく四股を踏むと──グラグラと地面が揺れ、
「ラ、ライボッ!!?」
ライボルトが揺れでバランスを崩し、足をもつれさせる。
英玲奈「そこだ!! “メガホーン”!!」
「ヘラクロッ!!!!」
侑「……っ!! “でんじふゆう”!!」
「ライボッ!!!」
ライボルトは咄嗟に浮遊し、ヘラクロスの突撃を間一髪で躱す。
英玲奈「なるほど、それなら足をもつれさせても関係ないな! だが、無防備に浮いたら隙だらけだぞ!!」
「ヘラクロッ!!!」
ヘラクロスが再び翅を開いて、ライボルトに飛び掛かってくる。
英玲奈「“インファイト”!!」
「ヘラクロッ!!!」
侑「組みつかせちゃダメだ!! “オーバーヒート”!!」
「ライボォッ!!!!」
「ヘラクロッ…!!!」
近距離で決しようとしてきた、ヘラクロスを全方位に発される熱波で押し返す。
だけど、隙だらけなのはそのとおりだ。
侑「“でんじふゆう”解除!!」
「ライボッ!!!」
自分に纏わせていた電磁力を解除して、地に戻る。
英玲奈「“10まんばりき”!!」
「ヘラクロッ!!!!」
またしても突っ込んでくるヘラクロス。
“ほうでん”程度じゃ怯まない気迫で突っ込んでくる。
なら……!!
- 973 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:46:33.99 ID:eLOLjL7n0
-
侑「“ライジングボルト”!!」
「ライボッ!!!!!」
「ヘ、ヘラクロッ!!!!?」
ヘラクロスの足元から──電撃が立ち上って、ヘラクロスを感電させる。
強烈な電撃がヘラクロスの足を完全に止める。
英玲奈「!? 威力が大きすぎる!? ……! まさか、さっきの“ほうでん”は攻撃のためだけじゃない……!!」
そのとおり……! フィールド全体に“ほうでん”しまくっていたのは、攻撃のためだけじゃない!
バトルフィールド内を“エレキフィールド”状態にするためだ……!
リナ『“ライジングボルト”は“エレキフィールド”下だと、威力が倍以上になるよ!』 || > ◡ < ||
感電し、完全に足が止まったヘラクロスに向かって──
侑「“かえんほうしゃ”!!」
「ライボォーーー!!!!!」
火炎を噴き付けた。
「ヘ、ヘラクロォ…!!!!」
足が止まったヘラクロスには、さっきのように炎を突っ切る突進力もない!!
これで、決着かと思った、そのとき、
英玲奈「ヘラクロス!! “こんじょう”を見せろ!!」
「──ヘラクロォッ!!!!!」
侑「!?」
「ライボッ!!!?」
ヘラクロスが雄叫びをあげながら──ライボルトに突っ込んできた。
ヘラクロスは前傾姿勢になり、ライボルトの腹下に大きなツノを滑り込ませる。
侑「しまっ!?」
英玲奈「“メガホーン”!!」
「ヘラクロッ!!!!」
──ブンと風を切る音と共に、
「ライボッ!!!!?」
ライボルトは勢いよく、打ち上げられた。
侑「ライボルト……!!」
英玲奈「少々肝を冷やしたが……“かえんほうしゃ”は悪手だったな。“やけど”したお陰で“こんじょう”が発動出来たよ」
侑「…………」
“こんじょう”は状態異常になると、攻撃力が爆発的に上昇する特性だ。
英玲奈「さぁ、ヘラクロス。落ちてきたところを狙い撃ち、に……?」
- 974 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:47:24.41 ID:eLOLjL7n0
-
英玲奈さんは上を見上げて、目を見開いた。
何故なら──上空に大きな雷雲が出来ていたからだ。
ライボルトは、空気中の電気をたてがみに集めて、雷雲を作り出すポケモンだ。
英玲奈「しまった!? ヘラクロス、防御を──」
侑「もう遅いです!! “かみなり”ッ!!」
「ライボォォォッ!!!!!!!!」
天空からの“かみなり”はヘラクロスの1本ヅノ目掛けて、轟音を立てながら、迸る。
空気の爆縮で、ジム内を雷轟が響き渡り──
それが晴れた頃には、
「ヘ、ラク、ロ…」
“かみなり”に撃たれて丸焦げになったヘラクロスが、地に伏せっていた。
「ライボッ!!!」
そして、再び“でんじふゆう”で着地の衝撃を緩和しながら、ライボルトが地面に降り立った。
侑「やったー!! ナイスだよ、ライボルト!!」
「ライボッ!!!」
英玲奈「……やられたな……さっきの“かえんほうしゃ”はわざと“こんじょう”を発動させるためのものだったか」
侑「えへへ……はい!」
ヘラクロスの特性は“こんじょう”、“むしのしらせ”、“じしんかじょう”の3種類。
その中でも、“むしのしらせ”は少なくて、“こんじょう”か“じしんかじょう”が圧倒的に多い。
ただ、相手を倒したときに自分のパワーを上げる特性の“じしんかじょう”なら、ドロンチを倒した時点でパワーアップしていないとおかしい。
となると、十中八九“こんじょう”だと当たりを付けていた。
英玲奈「“こんじょう”を発動させたのは……“メガホーン”で少しでも、高く打ち上げて欲しかったからか」
侑「はい! 天井に近ければ、一気に電荷を放出して、バレずに雷雲を即座に作り出せますから!」
英玲奈「土壇場で技の選択を間違えたようだな……。私もまだまだだ」
英玲奈さんはそう言いながら、ヘラクロスをボールに戻す。
確かに、“メガホーン”以外の技で来られていたら、この作戦は成功していなかったけど……“メガホーン”はヘラクロスの代名詞とも言える技。
ヘラクロスというポケモンが咄嗟に使うとしたら、きっと“メガホーン”だって自信があった。
英玲奈「なら、こいつはどうだ……! 行け、アイアント!!」
「──アントーーー!!!!」
英玲奈さんが2匹目のポケモン──アイアントを繰り出す。
アイアントは飛び出すと同時に、ものすごいスピードで、ライボルトへと迫ってくる。
侑「は、速い……!? “10まんボルト”!!」
「ライボッ!!!!」
高速で迫ってくるアイアントに向かって──バチバチと音を立てながら、電撃が迸る。
侑「よし……! 当たった……!!」
- 975 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:50:43.32 ID:eLOLjL7n0
-
相手が速かったから少し焦ったけど、いくら速いといっても電撃以上のスピードではない。
でも……電撃が直撃したはずの場所に──アイアントの姿はなかった。
侑「!?」
消えた──わけない……!!
侑「ライボルト!! “でんじふゆう”!!」
「ライボッ!!!!」
英玲奈「よく気付いた!! でも、遅い!!」
英玲奈さんの言葉と同時に──
「アーーーントッ!!!!!」
ライボルトの足元の地面から、アイアントが勢いよく飛び出してきて、空中に逃れようとしていたライボルトの前脚に噛みついた。
侑「ぐ……! ライボルト! “ほうで──」
英玲奈「“シザークロス”!!」
「アントッ!!!!」
「ライボォッ…!!!!」
こちらが攻撃で引きはがす前に、アイアントが鋭い顎で、ライボルトを切り裂いた。
「ラ、ライ…」
侑「戻って、ライボルト……!」
ライボルト、戦闘不能だ……。
英玲奈「“あなをほる”にすぐに気付いたのには驚いたよ。普通は焦ってしまって、なかなか判断出来ないんだがな」
……それでも、回避するんだったら、私はもっと早く判断しなくちゃいけなかった。
いや……反省は後だ……! 切り替えなくちゃ……!
侑「イーブイ! 出番だよ!」
「イブィ!!!」
私の傍らで待っていたイーブイが、フィールドに足を踏み入れる。
英玲奈「さぁ、もう一度だ、アイアント!!」
「アントーーー!!!!!」
アイアントが今度はイーブイ目掛けて、猛スピードで飛び出してくる。
でもスピードには、スピードで張り合っちゃダメだ……!
侑「イーブイ、“いきいきバブル”!」
「イブィ!!!」
イーブイの全身からぷくぷくと泡が立ち、それがフィールド上に漂い始める。
英玲奈「……! アイアント、止まれ!」
「アントーー!!!!」
英玲奈さんは、漂う泡を見て、アイアントを停止させた。
- 976 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:52:29.59 ID:eLOLjL7n0
-
英玲奈「見慣れない技だな……だが、当たっていいものではなさそうだ。とはいえ、そんな動きの遅い泡では攻撃技とは言い難いな。狙いが他にあるな?」
侑「…………」
まずい、一瞬で看破された……。
もしイーブイの技でアイアントを倒すとしたら、“めらめらバーン”を直撃させるしかない。
でも、“めらめらバーン”は直接攻撃だし、素早いアイアントに狙って当てるのは至難の業だ。
そのため、“いきいきバブル”の泡を設置して、うまく誘導しようと思ったけど……さすがにこっちの思惑通りには動いてくれなさそうだ。
英玲奈「……ふむ、来ないか。なら、“あなをほる”だ。アイアント」
「アントーーー!!!!」
アイアントが地面に潜っていく。
英玲奈「これなら、地上にいくら技が設置されていても、足元から攻撃出来るから問題ないな」
侑「…………」
ど、どうにかしなくちゃ……!
努めて平静を装ってはいるものの、こっちは作戦らしい作戦を思いついていない。
何か策を──いや、とりあえず……!
侑「“みきり”!!」
「ブイ!!!!」
「──アントーーー!!!!」
足元から飛び出すアイアントの攻撃を見切って躱す。
攻撃を躱されると、アイアントはまたすぐに地面に潜ってしまう。
英玲奈「なるほど。それなら、そちらも攻撃は食らわないと言うことだな。だが、ジリ貧じゃないか? “みきり”は何度も使える技じゃないぞ」
そう、そのとおりだ。
連続で使えば成功率も下がるし……何より、この技はPPも多くない。
あくまで一時凌ぎにしかならない。
侑「“みきり”!」
「イブィッ!!!!」
「──アントッ!!!!」
侑「み、“みきり”!!」
「イ、イブィッ!!!!!」
「──アントーーーッ!!!!!」
英玲奈「さぁ、そろそろ苦しいんじゃないか?」
本当に策を考えないと、もう数回ほどで避け切れずに攻撃が直撃する……どうしよう……!
フィールド内は気付けば穴ぼこだらけだし……。
侑「ん……?」
……この穴、使えないかな……?
侑「イーブイ! “すくすくボンバー”!」
「! イブィ!!!」
イーブイがブンと尻尾を振るうと、樹がニョキニョキと生えてくる。
- 977 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:55:02.64 ID:eLOLjL7n0
-
侑「樹の上に避難!!」
「イブィッ!!!」
「アントーーーッ!!!!」
地面から飛び出してくるアイアントをギリギリで回避して、樹上に逃げる。
英玲奈「む……また、面妖な技を……」
侑「イーブイ! 穴を狙うよ!」
「イブィッ!!!!」
そして、樹から大きなタネを──アイアントが掘った穴目掛けて落とす……!
“すくすくボンバー”のタネが次々と、“あなをほる”の入り口を塞ぐように落下する。
英玲奈「……なるほど、自分たちは樹上に退避し、さらにアイアントの動きを制限するために穴の口を塞ぐというわけか」
侑「…………」
もちろん、それだけじゃない。この技は“やどりぎのタネ”だ。
そんなの初見でわかる人なんて……。
英玲奈「ただ、私にはこの面妖な技が、それだけの技のようには思えない」
侑「……!?」
英玲奈「“タネばくだん”のようなものか……いや、それならとっくに爆発させているだろう。……なら、“やどりぎのタネ”のようなものか……?」
う、嘘でしょ……!? どんだけ、勘がいいの!?
英玲奈「……どうやら“やどりぎのタネ”だと言うのは、図星のようだな」
侑「!?」
英玲奈「さっきから、ポーカーフェイスをしているつもりかもしれないが……君は考えていることが顔に出るタイプのようだね」
侑「ぅ……」
リナ『確かに侑さんは表情豊か』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「──侑ちゃんのそういうところ、私は大好きだから、大丈夫だよー!!」
侑「そう言ってくれるのは嬉しいけど、この場合フォローになってないってー!!」
歩夢もリナちゃんも、たぶん本気で言ってくれているんだろうけどさ……!
英玲奈「凡そ、穴の中で“やどりぎのタネ”のツタを伸ばして、捕まえようという魂胆だろう」
私は目を逸らす。
英玲奈「だが、無駄だよ。アイアントは岩石をも噛み砕く顎で、複雑に入り組んだトンネルを作ると言われている。いくら掘った穴にツタを張り巡らされても──常に新しい穴を掘り続けていれば問題ない」
侑「…………」
英玲奈「それに……君たちは、どうして樹上なら安全だと思い込んでいるんだ?」
侑「え?」
「ブイ?」
次の瞬間──急に樹がグラリと傾き始めた。
侑「な……!?」
ハッとして、樹の根本を見ると──アイアントが樹の根本を齧って伐採している真っ最中だった。
- 978 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:55:52.48 ID:eLOLjL7n0
-
「イ、イブィィィ!!!!」
傾く樹からイーブイが振り落とされ、
──ズシンッと、音を立てながら樹が横倒しになる。
侑「っ……! イーブイ、平気!?」
朦々と土埃の立つフィールドに向かって声を掛けると、
「イ、イブィ〜」
鳴き声が返ってくる。どうやら、無事なようだ。
英玲奈「さぁ、今度こそ逃げ場はないぞ」
侑「……それはお互い様です」
英玲奈「……何?」
侑「確かに、“すくすくボンバー”のタネは“やどりぎのタネ”です。でも──私たちは“やどりぎのタネ”で捕まえようとしてたんじゃない」
──土煙の晴れた先で、イーブイが“すくすくボンバー”のタネの前に立ち、
侑「“めらめらバーン”!!」
「ブイッ!!!」
そのタネに──自らの炎を着火した。
英玲奈「な……!」
侑「確かにツタの成長速度じゃ、地中のアイアントには追い付けません……でも、そのツタに引火した炎と熱から、逃げられますか!」
ツタに引火した炎は一気に穴の中で燃え広がり、仮にツタの長さが足りず炎が届かなかったとしても──穴が繋がっていれば、その熱は穴全体を蒸し焼きにする……!
「アーーーントーーーー!!!!?」
急な熱波に驚いて、穴から飛び出してきたアイアントに、
侑「そこだ……!! “めらめらバーン”!!」
「ブーーーイッ!!!!!」
「イアーーーントッ!!!!?」
今度は“めらめらバーン”を直接炸裂させた。
全身を炎に包まれながら吹っ飛んだアイアントは、
「ア、アイアン……」
大の苦手なほのおタイプの技によって、戦闘不能になったのだった。
英玲奈「く……戻れ、アイアント」
英玲奈さんがアイアントをボールに戻す。
英玲奈「……まさか、ほのおタイプの技まで持っているなんて予想外だ」
確かに、“相棒わざ”は初見だと対応が難しい。それは百戦錬磨の英玲奈さんでも例外ではなかったようだ。
……改めて、イーブイが“相棒わざ”を使えてよかった……。
- 979 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:57:10.66 ID:eLOLjL7n0
-
英玲奈「だが、ネタが割れれば、どうにでもなる……! 行け、メガヤンマ!」
「ヤーーンマッ」
英玲奈さんの3匹目はメガヤンマだ。
リナ『メガヤンマ オニトンボポケモン 高さ:1.9m 重さ:51.5kg
加速すると 衝撃波が 出るほどの 力強い はねを持っている。
アゴの 力は けたはずれ 高速で 飛んで すれ違いざまに
相手を かみちぎるのが 得意。 尻尾の はねで バランスを とる。』
相手はむし・ひこうタイプのメガヤンマ。それなら……!
侑「“びりびりエレキ”!!」
「ブーーイッ!!!」
イーブイが電撃で攻撃する。相性良好、効果抜群の技だ……!
が、
「ヤンマ──」
メガヤンマは一瞬で掻き消える。
侑「よ、避けられた!?」
英玲奈「“みきり”だ。やはり、まだ隠していたようだね」
しまった……読まれた……!?
英玲奈「さっきも言ったが、ネタが割れてしまえば、なんてことはない」
メガヤンマは──ブーン、ブーンと音を立てながら、どんどん“かそく”していく。
侑「まずい……!! これ以上“かそく”されたら、手が付けられなくなっちゃう……!? イーブイ、“いきいきバブル”!!」
「ブーイッ!!!!」
空中に向かって、ぷくぷくと泡を散布する。
さっきみたいにこれで、動きを制限出来れば……!!
が、
英玲奈「“ソニックブーム”!!」
英玲奈さんの指示と共に、音速の衝撃波がフィールド上に浮いた泡を片っ端から割っていく。
英玲奈「タネが割れればなんてことはないと言っただろう!」
侑「び、“びりびりエレキ”!!」
「イッブィッ!!!!!」
英玲奈「もう、メガヤンマは“かそく”しきった……! 当たらんよ!」
侑「ど、どうしよう……!? もう、速すぎて姿が見えない……!?」
英玲奈「さぁ、さっきの仕返しだ!! “きりさく”!!」
──超加速したメガヤンマがイーブイを切り付ける。
「イッブィッ…!!!!」
イーブイを吹っ飛ばす。
- 980 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:59:32.84 ID:eLOLjL7n0
-
侑「イーブイ!!?」
「イ、ィブ…!!!」
イーブイはフィールドを転がりながらも、どうにか立ち上がるけど……あのスピードから繰り出される攻撃だ。ダメージが尋常じゃない……!
もう何発も耐えられない……!
とにかく、あのスピードをどうにかしなきゃ……!!
メガヤンマ、メガヤンマの弱点、何か、何か……!!
でも、“かそく”しきったメガヤンマを止める方法なんて……!
侑「……そういえば……前、かすみちゃんが……」
もしかしたら、あれなら……? で、でも、メガヤンマ相手でも出来るの……!?
侑「いや……もう、やるしかない……!!」
──ヒュンヒュンと風を切る、メガヤンマ。
英玲奈「“むしくい”!!」
大顎を開けて突っ込んでくるメガヤンマに向かって──
侑「イーブイ!!! “しっぽをふる”!!! くるくる回してっ!!」
「イ、イブイ!!!!」
イーブイが背を向け、宙に向かって円を描くように、尻尾をくるくると回し始めた。
風を切る、メガヤンマは──
「──ヤン」
イーブイに噛みつく直前で、ビタッと空中で静止した。
英玲奈「なんだと!?」
侑「ホントに止まった!?」
リナ『なんで侑さんが驚いてるの!?』 || ? ᆷ ! ||
英玲奈「メガヤンマ!! 惑わされるな!!」
「ヤンマッ」
侑「今だ、イーブイ!! 飛び乗って!!」
「イッブィッ!!!」
イーブイは、一瞬動きを止めたメガヤンマの背中に、飛び乗ってしがみつく。
──直後、メガヤンマは再び“かそく”を開始し、飛行を再開する。
イーブイを乗せたまま、超スピードで風を切り始める。
英玲奈「く……! 振り落とせ!!」
侑「イーブイ!! 放しちゃダメだよ!! そのまま、“めらめらバーン”!!」
「ブーーーーイーーーッ!!!!!!」
イーブイの雄叫びと共に、空中に猛スピードで飛ぶ炎の塊が現れる。
「ヤーーーンマーーー!!!!!!」
背中の上から直接炎で焼かれたメガヤンマは火だるまになり、
- 981 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:00:20.71 ID:eLOLjL7n0
-
「ヤンマァァァァァァ……!!!!!!」
「ブィィィィィ!!!!?」
イーブイを背中に乗せたまま、フィールドに墜落した。
「ヤ、ヤン…マ…」
メガヤンマはもちろん戦闘不能。
イーブイは……。
「ブ、ブィ…」
よろよろと立ち上がるものの……もう、戦う力が残っているとは言い難かった。
侑「もう、大丈夫だよ、イーブイ……!」
私はイーブイに駆け寄って、抱き上げる。
侑「英玲奈さん、イーブイ……戦闘不能です」
英玲奈「……ああ、メガヤンマもだ。お互い戦闘不能。仕切りなおそうか」
侑「はい。ありがとう、お疲れ様、イーブイ」
「ブィ…」
今回イーブイはアイアントとメガヤンマを倒して、大活躍だった。試合が終わったらたくさん労ってあげないとね……。
私はイーブイを抱きかかえて、セコンドスペースへ走る。
侑「歩夢、イーブイのことお願い」
歩夢「うん、わかった」
歩夢にイーブイを預けて、バトルスペースに戻る。
侑「お待たせしました」
ボールを構えようとして、
英玲奈「ちょっと待ってくれ」
英玲奈さんからストップが入る。
侑「え? な、なんですか……?」
英玲奈「さっきメガヤンマを止めたのは……一体なんなんだ。あんな戦術見たことも聞いたこともないぞ……」
英玲奈さんはかなり困惑していた。確かにあんなこと試合中にする人、私も見たことない……。
侑「えっと……スクールにいたころ、かすみちゃ──……イタズラ好きな友達が、よくヤンヤンマの目を回す遊びをしてて……」
英玲奈「……確かにヤンヤンマのような“ふくがん”を持ったポケモンは、目の前で指を回されると、それが何かを認識するために本能的に動きを止める習性があるが……実戦で使うのは初めて見たぞ……」
そういう理由だったんだ……。さすがむしポケモンのエキスパートの英玲奈さんだ。
まあ、本音を言うなら、半ばヤケクソ気味だったけど……。メガヤンマでやったことなんかなかったし……。
- 982 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:01:02.98 ID:eLOLjL7n0
-
英玲奈「……ふむ。メガヤンマの視界について、もう少し研究をした方がよさそうだな……こんな弱点があるとは思わなかった」
侑「わ、私も驚いてます……」
英玲奈「とりあえず、メガヤンマのことはわかった。中断してしまって済まない。試合の続きに戻ろうか」
侑「あ、はい!」
気を取り直して、お互い最後のポケモンのボールを構える。
泣いても笑ってもこれが最後だ──両者のボールがフィールドに放たれた。
🎹 🎹 🎹
侑「行くよ! ワシボン!」
「ワッシャァ!!!」
英玲奈「行くぞ、スピアー!」
「ブーーーンッ!!!!」
英玲奈さんの最後のポケモンはスピアーだ。
対して私は、ここまで温存していたひこうタイプのワシボン。
相性的にはこっちが有利だけど──
英玲奈「スピアー、メガシンカだ!」
「ブーーーンッ!!!!」
英玲奈さんの“メガブレスレット”が光り輝き、
「ブゥーーーーンッ!!!!!!!」
スピアーのフォルムがより鋭角に、足も毒針に変わり、より攻撃的な姿へと変貌する。
リナ『メガスピアー どくばちポケモン 高さ:1.4m 重さ:40.5kg
両足も 毒バリに 変化。 足の 毒バリが 分泌する
毒は 即効性で 敵の 動きを 止めるために 使い
より強力に なった 尻の 毒バリで 止めを 刺す。』
英玲奈「スピアー!!」
「ブンッ!!!!」
英玲奈さんの声と共に──スピアーが目にも止まらぬスピードで突っ込んでくる。
そのスピードを乗せたまま、
「ブーンッ!!!!」
腕の針を突き出してくる。
侑「“ブレイククロー”!!」
「ワシャッ!!!!」
その針を上から押さえつけるようにして、爪を振るって、攻撃を逸らす。
英玲奈「ほう、防ぐか……!」
だけど、間髪入れず、
- 983 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:03:46.48 ID:eLOLjL7n0
-
英玲奈「“ダブルニードル”!!」
「ブーンッ!!!!」
両足の針が襲い掛かってくる。
侑「ワシボン!! 離脱!!」
「ワッシャァッ!!!!」
ワシボンは、押さえつけた針を踏み台の要領で反動にし、上昇──両足の針を間一髪で、回避する。
英玲奈「ふむ……メガスピアーの針の恐ろしさはわかっているようだな」
いくらこっちがタイプ相性で優っていても、相手はメガシンカしたポケモン。
パワーも毒の強さも普通のポケモンの比じゃないし、掠っただけで致命傷になりかねない。
だけど、もちろん逃げ回っているだけじゃ勝てるものも勝てない。
攻撃を捌きながら、確実に反撃をしないと……!
侑「急降下して、“ダブルウイング”!!」
「ワシャァァァァ!!!!」
空に離脱したワシボンはすぐに切り返すようにして、両翼を構えながら、スピアーに向かって急降下する。
が、
「ブーーーンッ」
スピアーは素早い軌道で、急降下してくるワシボンを回避する。
英玲奈「“はりきり”すぎだな! 軌道がわかりやすすぎて、当たらんぞ!」
侑「く……」
メガスピアーはパワーこそあれ、防御は薄いポケモンだから、当たりさえすれば勝機はあるのに……!
英玲奈「“ミサイルばり”!!」
「ブーーーーンッ!!!!!」
下方に飛んで行ったワシボンに向かって、撃ち下ろすように、スピアーの持つそれぞれの針から“ミサイルばり”が発射される。
侑「“エアスラッシュ”で迎撃!!」
「ワッシャァ!!!!」
ワシボンは身を捻り、上を向いて、空気の刃を“ミサイルばり”に向かって撃ち放つ。
が、“エアスラッシュ”が当たっても、“ミサイルばり”は軽く揺れる程度だ。
──相手の攻撃の威力がありすぎる……!!
侑「……! ワシボン、“ブレイククロー”!!」
「ワッシャァッ!!!!」
遠距離攻撃での相殺は無理だと踏んで、直接攻撃で受け流す作戦に切り替える。
「ワッシャァァッ!!!!」
1発目を爪でホールドするように受け止め──掴んだ“ミサイルばり”の反動を利用しながら、弧を描くようにして投げ返し、“ミサイルばり”同士を相殺させる。
英玲奈「いい対応力だ!! だが、全然手数が足りていないぞ!!」
- 984 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:08:57.76 ID:eLOLjL7n0
-
英玲奈さんの言うとおり、私たちが捌ききれたのは最初の2発だけで、
「ワシャッ!!!?」
3発目がワシボンの翼を掠り、それだけでワシボンはバランスを崩して、吹っ飛ばされる。
侑「ワシボン!?」
回転しながら、地面に落下したワシボンだが、
「ワシャァ…ッ」
咄嗟に爪で踏ん張りながら、羽ばたくことで、落下の衝撃をギリギリまで殺す。
だけど、相手の攻撃はそれでもまだ続いている。さらに追撃を掛けるように迫る、残り2発の“ミサイルばり”。
侑「“がんせきふうじ”っ!!」
「ワシャァッ!!!」
思いっきり爪を突き立て、フィールドを砕き割り、それを飛んでくる針に向かってぶん投げる。
が──針は岩石をいとも簡単に穿ち、
「ワッシャァッ…!!!!!」
そのままワシボンに直撃した。その衝撃で、ワシボンがフィールドを転がる。
侑「ワシボンッ!!」
「ワ、ワシャァ…ッ…!!!」
ワシボンは気合いですぐさま立ち上がるけど──もう満身創痍なのは、見るからに明らかだった。
そこに向かって──
「ブーーンッ!!!!」
メガスピアーがお尻の針を突き立てながら、猛スピードで突っ込んでくる。
侑「!? ワシボン!! 避けて!?」
私の叫びも虚しく──避ける間もなく、隕石のように落下してきた、メガスピアーは一直線にワシボンを串刺しにした。
侑「そ、そんな……」
圧倒的だった。圧倒的なメガシンカの前に、手も足も出なかった……。
──私が諦めかけたそのとき、
「ワッシャァァァ…!!!」
ワシボンの雄叫びが響く。
侑「!」
私はワシボンの声にハッとなって顔をあげると──
英玲奈「ほう……なかなかのガッツだな」
- 985 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:12:50.44 ID:eLOLjL7n0
-
ワシボンは、体をひっくり返し、両足の爪を使って、どうにかメガスピアーの突撃を受け止めていた。
それも間一髪。ワシボンの目と鼻の先には針の切っ先がある。
英玲奈「だが、これで終わりだ!! “ダブルニードル”!!」
「ブーーーンッ!!!!」
メガスピアーが両腕の針をワシボンに向かって、突き立て──た、瞬間。
「ワシャァッ!!!」
ワシボンは“ダブルニードル”を足蹴にして、離脱する。
侑「ワシボン……!」
英玲奈「まだ、そんな力が残っていたか……! “みだれづき”!!」
至近で繰り出される連続攻撃だけど、
「ワシャッ!!!! ワシャァァッ!!!!」
ワシボンは爪を、翼を、嘴を振るって、針を弾く。
もちろん、そんな超近距離で猛スピードの連打を完全に捌ききることなんて不可能だ。
逸らしきれなかった針が、翼を掠めて羽根が散り、力負けした爪がひび割れ、掠った頭に傷が付く。
でも、それでも、何度も、何度も、何度も何度も何度も、どれだけ針が襲い掛かってきてもワシボンは諦めない。
ずたずたに引き裂かれても、ワシボンは戦うのをやめない。
「ワッシャァァァァァ!!!!!」
もう策なんて何一つ残ってない。もはや、ただ我武者羅に抵抗しているだけだ。
英玲奈「その気合い、嫌いじゃない──だが、戦う意思を見せるなら、こちらも攻撃を止めることは出来ないぞ!!」
「ブーンブーーーンッ!!!!!!」
「ワッシャァァァァァァァ!!!!!!!」
──見ていられなかった。私はあまりに圧倒的な力で傷つけられていくワシボンを見ていられず、
侑「もういいっ!! ワシボンっ!! これ以上、戦わなくていい!!」
そう叫んだ。
侑「英玲奈さん!! もうやめてください!! 私、降参し──」
「ワッシャァァァァァァァアァァァァァァ!!!!!!!!!!!」
侑「!?」
私の言葉を遮るように、ワシボンがジム内に劈くような、大きな声で鳴いた。
もう、ボロボロでそんな大きな声が出せるはずないのに。
なんで、そこまでするの……?
どうして、そこまでボロボロになってまで、戦ってくれるの……?
考えたけど……そんなの、簡単な話だった。
──ワシボンだって……負けたくないからに決まってんじゃん……!
「ワッシャァァァァァァ!!!!!!!!!!!」
- 986 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:13:35.81 ID:eLOLjL7n0
-
スピアーの攻撃を捌きながら、ワシボンはもう一度大声をあげた。
今度は、私にぶつけるように。気持ちを示すように。
──指示を寄越せ!! まだ戦える!!
ワシボンはそう言っていた。
言葉は通じないはずなのに──確かにそう言っていた。
英玲奈「いい加減、倒れた方が身のためだぞ──」
侑「“はがねのつばさ”!!!」
「ワッシャァァァァァァ!!!!!!」
ワシボンは針の間を掻い潜り──メガスピアーの針に、鋼鉄の翼を叩きつけて対抗する。
英玲奈「……!」
侑「ワシボンッ!! 最後まで戦い切るよ!!」
「ワッシャァァァァ!!!!!!!!」
侑「“インファイト”!!!!」
「ワシャワシャワシャワシャァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」
防御を完全に捨て、全身を使って、メガスピアーの連撃に対抗するように、全力攻撃を叩きこむ。
英玲奈「その根性、大したものだな!! なら、これはどうだ!! スピアー!!」
「ブーーンッ!!!!」
メガスピアーは一瞬距離を取り、
英玲奈「“いとをはく”!!」
「ブーンッ!!!!!!」
「ワシャッ!!!!?」
口から、ワシボンを絡め取るように糸を発射する。
英玲奈「スピードが下がってなお、受け切れるものならやってみろ……!!」
「ブーーーンッ!!!!!!」
“いとをはく”で糸が絡みつき、体がうまく動かせないワシボンに向かって──今度こそ、トドメと言わんばかりに突っ込んでくるメガスピアー。
「ワッシャァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」
──うん。わかってるよ。
どうなっても、諦めない。
だって──
侑「負けたくないのは──私も同じだからっ!!!」
「ワッシャァァァァァァ!!!!!!!!!!!!」
私とワシボンの“まけんき”が同調した、その瞬間──
ワシボンの体が、眩い光に包まれた。
「ブーーーーンッ!!!!!!!」
突っ込んでくるメガスピアーに向かって──大きな爪を振り下ろし、
「──ウォォォォォーーーーーー!!!!!!!!!!!」
- 987 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:14:12.87 ID:eLOLjL7n0
-
雄叫びをあげながら──ウォーグルが、メガスピアーの頭を猛禽の爪で地面に押さえ付ける。
「ブ、ブーーーーンッ!!!!」
英玲奈「なっ!? この土壇場で進化だと……!?」
侑「行け、ウォーグル!!」
「ウォォォォーーーーーー!!!!!!!!!」
ウォーグルは大声をあげながら、メガスピアーの頭をがっちり掴んで──飛翔する。
英玲奈「く……!? まだ飛行する体力が残っているのか!? “どくづき”!!」
「ブ、ブーーーーンッ!!!!!!」
スピアーは捕まったまま、針を伸ばして、突き刺してくる──が、
「ウォォォォォォォーーーーー!!!!!!!!!」
ウォーグルは怯まない。
ジムの天井付近まで上昇し……そこから、一気に──地面に向かって切り返す。
侑「いっけぇぇぇぇ!!! “ブレイブバード”!!!!」
「ウォォォォォォォ!!!!!!!!!!!」
メガスピアーを掴んだまま、猛スピードで急降下し──地表スレスレで低空飛行に移行、
「ブ、ブブ、ブブブブブブ!!!!?」
メガスピアーを地面に擦り付けながら、飛行し──
「ウォォォ!!!!」
そのまま、メガスピアーもろとも壁に突っ込んだ。
2匹の衝突で、大きな音と共に、ジムが揺れる。
英玲奈「……!! スピアー!!」
立ち込める土煙と共に──フィールドが静寂に包まれた。
静寂の中、ゆっくり、ゆっくりと煙が晴れると──
「ウォォォォォ!!!!!」
「…ブ…ブーン……」
メガスピアーは、ウォーグルに頭を掴まれ踏まれたまま、戦闘不能になっていた。
英玲奈「…………よもやよもやだ……」
侑「……か、勝った……?」
英玲奈「……スピアー戦闘不能。私たちの負けだ」
そう言いながら、英玲奈さんはメガスピアーをボールに戻す。
私は、一瞬信じられなくて固まってしまったけど──すぐに実感が湧いてきて、
侑「やった、やったぁぁぁ!! ウォーグル!!」
フィールドのウォーグルに向かって駆け出す。
と、同時に──
- 988 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:15:26.83 ID:eLOLjL7n0
-
「ウォー……」
ウォーグルの身がゆらりと揺れ──崩れ落ちた。
侑「ウォーグル……!?」
ウォーグルは──完全に気絶していた。
英玲奈「恐らく、気力だけで、立っていたのだろうな……」
侑「ウォーグル……ありがとう……お疲れ様」
私は、気を失ったウォーグルを優しく抱きしめる。
リナ『何度も致命傷を受けてた……なんで、こんなに戦えたのか……私も見ていてよくわからなかった……』 || 𝅝• _ • ||
英玲奈「稀に……ギリギリの戦いの中で、強い意志を持ったポケモンが、常識では考えられないような力を発揮することがある……」
侑「……それを、ウォーグルが……」
英玲奈「そして、それを引き出すのは……トレーナーとの強い絆だと言われている。……負けてしまったが、すがすがしい気分だ。良いモノを見せてもらったよ」
そう言って、英玲奈さんは懐から──ソレを取り出した。
英玲奈「その強さ、認めざるを得ないだろう。“スティングバッジ”だ。受け取ってくれ」
侑「……はい!!」
私は死闘の末──6つ目のバッジ、“スティングバッジ”を手に入れたのでした。
🎹 🎹 🎹
──さて、ジム戦のあと、さすがにくたくただったし、ウォーグルたちをしっかり休ませてあげるために、宿で一晩過ごした私たちは、
侑「よし! みんなも回復してもらったし、ローズに戻ろっか!」
「イブィ♪」
歩夢「うん♪」
クロユリシティを発って、ローズシティに向かおうとしていた。
リナ『ちゃんとストレート突破だったし、ジム攻略競争は私たちの勝ちかもね!』 ||,,> ◡ <,,||
侑「あはは、だといいなぁ」
かすみちゃんの方もうまく行っているといいけど……。
そんなことを考えていると──prrrrrrとポケギアが鳴る。
歩夢「誰から?」
侑「えっと……あ、かすみちゃんからだ」
噂をすればなんとやらってやつかもしれない。
向こうもジムが終わって、報告のために連絡をしてきたのかもしれない。
- 989 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:19:57.11 ID:eLOLjL7n0
-
侑「もしもし? かすみちゃん?」
かすみ『侑先輩っ!!』
侑「わぁ!?」
ギアからかすみちゃんの大声が聞こえてきてびっくりする。
侑「ど、どうかしたの……?」
かすみ『侑先輩、た、助けてください!! しず子が、しず子が……!!』
侑「え……? な、なにかあったの!?」
かすみ『おっきな音がして、しず子がクマシュンを助けるために飛び出しちゃって……!! でもかすみん、飛べるポケモンがいなくて……!!』
侑「かすみちゃん、一旦落ち着いて!」
かすみ『で、でもでも、すぐに助けないとしず子が……!』
……ダメだ、完全にパニックを起こしてる。
侑「場所はどこ!?」
かすみ『ぐ、グレイブマウンテンですぅ……っ!』
侑「わかった……! 歩夢! 電話代わって!」
歩夢「え!? う、うん、いいけど」
歩夢にポケギアを投げ渡し、
侑「ウォーグル!」
「ウォーーー!!!!」
ウォーグルをボールから出す。
侑「歩夢!! ウォーグルの背中に乗って!」
歩夢「う、うん! わかった! ──かすみちゃん、とりあえず一旦深呼吸しよっか!」
歩夢もすぐに、かすみちゃんがパニックを起こしていることに気付いたのか、電話口でかすみちゃんを落ち着かせるように言葉を選びながら、ウォーグルの背に乗る。
侑「リナちゃん、バッグに入って!」
リナ『わかった!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
侑「ウォーグル、飛ぶよ!!」
「ウォーーーーッ!!!!!」
飛び立つウォーグルの脚を掴んで、そのまま飛翔する。
侑「歩夢!! 振り落とされないようにね!!」
歩夢「う、うん!」
侑「リナちゃん、グレイブマウンテンまでガイドして!!」
リナ『了解!』
侑「行こう!」
「イブィ!!!」
何があったのかわからないけど……しずくちゃんのピンチなのは間違いない……!
待ってて、すぐに駆け付けるから……!!
- 990 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:21:42.41 ID:eLOLjL7n0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【クロユリシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. ● | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.55 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.56 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.52 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.44 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドロンチ♂ Lv.51 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
タマゴ ときどき うごいている みたい。 うまれるまで もう ちょっとかな?
バッジ 6個 図鑑 見つけた数:190匹 捕まえた数:7匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.47 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.46 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.41 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
トドグラー♀ Lv.38 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラエッテ♀ Lv.36 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:192匹 捕まえた数:17匹
侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 991 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:23:26.89 ID:eLOLjL7n0
-
■Intermission⛄
──ローズシティ・ニシキノ総合病院。
真姫「──いらっしゃい、理亞」
理亞「真姫さん……。ねえさまの顔を見るだけだから、面会に付き合ってくれなくても大丈夫なのに……。今忙しいって聞いたし」
真姫「まあね。事後処理でバタバタよ。……でも、今聖良は私がいないと面会出来ないの」
理亞「……え、どういうこと」
そんな話は聞いていない。
理亞「まさか、ねえさまの容態が悪化して……!?」
真姫「悪化は……してないわ」
理亞「なら、どうして……」
真姫「たぶん、見てもらった方が早い」
理亞「……?」
真姫「……いい加減、黙っているのも限界が近いしね」
理亞「……わかった」
何かがあったことは理解出来た。私は黙って、真姫さんの後を付いていくことにした。
⛄ ⛄ ⛄
──ねえさまの病室。
聖良「………………」
理亞「これ、どういうこと……」
真姫「……見たとおりよ」
理亞「見たとおりって……」
ねえさまは……目を開けたまま、ベッドに横たわっていた。
目は開いているのに……微動だにしない。
真姫「今の聖良は……心がないの」
理亞「心が……ない……?」
真姫「目も見えてる、耳も聞こえる、触れられたらそれに気付く。……でも、意思がない。心がないから、それ以上の反応は示さない。情感を持った行動もしないし、喋ることもない……」
理亞「……そっか」
真姫「……思ったより、落ち着いているみたいね」
理亞「……なんとなく、こういうことが起こってもおかしくないんじゃないかって……ずっと思ってたから」
真姫「……そう」
ねえさまは……神様を怒らせたのだから。
悪しき心で……ディアンシーに触れたから……。
- 992 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:24:12.75 ID:eLOLjL7n0
-
理亞「神様の中には……罰を与えるときに人から心を奪う神様もいるって……希さんが前に言ってた」
真姫「……」
そう言いながら私は、病室の棚に置かれている──ピンクダイヤモンドの欠片に目を向ける。
真姫「……ねぇ、理亞」
理亞「なに?」
真姫「もし、ディアンシーが聖良の心を奪ってしまったんだとしたら……どうするの?」
理亞「……わからない」
私は静かに首を振った。
理亞「ねえさまには帰ってきて欲しい……。……だけど、ねえさまがしたことは許されないことだったのは、わかってるつもり。その上で、ねえさまの心を返してなんて……ディアンシーに向かって言っていいのか、わからない……」
真姫「理亞……」
理亞「まぁ……どちらにしろ、今はディアンシーに会う方法がないし……」
ルビィも、ディアンシーに会ったのは、3年前のあのときが最後だって言っていた……。
クロサワの祠の“やぶれた世界”へのゲートも気付いたら消滅してしまっていたと聞く。
そうなると、ディアンシーとコンタクトを取るのはほぼ不可能と言っても過言ではない。
理亞「……真姫さん」
真姫「なにかしら」
理亞「しばらく……ねえさまと二人にしてもらっていい? おかしなことしないって約束するから」
真姫「そんな約束しなくていいわ。好きなだけ一緒にいて大丈夫だから」
理亞「……ありがと」
真姫さんは私の肩を優しく叩くと、そのまま病室を後にした。
理亞「ねえさま……」
聖良「………………」
理亞「ねえさま……っ……」
病室の中では、無機質なバイタルサインの音と──私がねえさまを呼ぶ声だけが、静かに響いていた。
………………
…………
……
⛄
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