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侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」
- 718 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:09:47.21 ID:ogLreJcM0
-
要領を得ないことには変わりないけど……私の頭の中で一つ、結びついたことがあった。
歩夢「龍神様の……遣い……」
栞子「そうですね、外でピィがそのように呼ばれることがあるのは把握しています」
私の言葉に、栞子ちゃんは首を縦に振る。
つまり、ここは……。
歩夢「龍神様のいるところ……ってこと……?」
栞子「はい、そうですね」
歩夢「あの話……本当、だったんだ……」
まさか、ピィが本当に龍神様の遣いだったなんて……。
栞子「ですが、本来は外の人間がここに来ることはありません」
歩夢「え? じゃあ、どうして私は……」
栞子「貴方が、落ちそうになったピィを、身を挺して助けてくれたからです」
歩夢「身を挺してって……あのときはただ夢中だっただけで……」
栞子「その姿勢が、龍神様のお気に召したのでしょう。仮に遣いの案内があっても、心の穢れた人間は入ることすら出来ない場所ですから」
歩夢「…………」
恐らく、龍神様の聖域……みたいな場所なんだと理解する。
落ちそうなピィを助けた結果、私も一緒に落ちちゃったけど……落ちている最中に、ピィがこの空間に私を飛ばして、助けてくれたということらしかった。
それはわかった……けど、
歩夢「あの……」
栞子「なんでしょうか?」
歩夢「あなた……栞子ちゃんは、どうしてここにいるの?」
この子がここにいる理由がよくわからなかった。そもそもこの子は誰なんだろう……?
栞子「いきなりちゃん付けですか……」
歩夢「あ、ご、ごめんなさい……! 馴れ馴れしかったかな……?」
栞子「いえ……あまり、そのように呼ばれたことがなかったので驚いただけです。呼び方は貴方のご自由に」
歩夢「あ……私は歩夢って言います!」
そういえば、まだ名乗っていなかった。
- 719 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:10:33.89 ID:ogLreJcM0
-
栞子「歩夢さんですね。覚えておきます。……それで、どうしてここにいるか、ですが……」
歩夢「うん」
栞子「私は……巫女なんです」
歩夢「……巫女……? えっと、龍神様の……ってこと?」
栞子「はい。私たちの一族は代々、龍神様の巫女として仕えてきました。その中でも当代の巫女は“翡翠の巫女”と呼ばれています」
歩夢「それじゃあ……栞子ちゃんがその翡翠の巫女なの?」
栞子「そうなります」
歩夢「ここには他の人はいないの?」
栞子「はい。私の一族は基本的には隠れ里に住んでいて、翡翠の巫女だけが、龍神様の傍にお仕えする決まりになっているんです。龍神様はあまり人間がお好きではなく……最低限の人間しか傍に置きたがらないので」
歩夢「そうなんだ……。じゃあ、栞子ちゃんはずっと一人で……」
栞子「一人ではありませんよ。ポケモンたちがいますから」
歩夢「ポケモンたちって……ピッピたち?」
栞子「ピッピたちもそうですが……。見た方がわかりやすいと思います。こちらへどうぞ」
栞子ちゃんはそう言って、さらに奥の部屋へと私を案内する。
栞子「このピッピたちの部屋は、月と星を通じて、ここと外界を繋ぐ部屋……つまるところ、この結解の玄関のような場所なんです」
栞子ちゃんの案内で、ピッピたちのいた部屋の隣の部屋へ入る。
そこは先ほどよりは小ぢんまりとしていて──部屋の中には、お布団や畳んだ衣服が置かれていた。
歩夢「もしかして、栞子ちゃんの部屋……?」
栞子「はい」
通された彼女の部屋の中から、生き物の気配がする。
栞子「みんな、出て来てください」
栞子ちゃんが声を掛けると、
「キュゥ…」「ワン」「ビリリリ」「ウォー」
ポケモンたちが顔を出す。
栞子「こちら歩夢さんです。ピィを助けてくれたんですよ」
「キュウ…」「ワンワン」「ビリリ」「ウォー」
出て来たポケモンは4匹。でも、どれも見たことのないポケモンばかり。
栞子「歩夢さん、こちら一緒に住んでいるポケモンたちです。ゾロア、ガーディ、ビリリダマ、ウォーグルです」
歩夢「え?」
ただ、栞子ちゃんの紹介する名前はどれも知っているポケモンの名前ばかりだった。
特にゾロアなんかは、かすみちゃんのゾロアを何度も見てきたから、馴染み深い。
でも、目の前にいるゾロアは、かすみちゃんのゾロアのような黒い毛ではなく……真っ白な毛並みをしていた。
ゾロア以外も、ガーディは白いもこもこで目が覆われているし、ビリリダマは……なんだか質感が木のようだ。
私が知っているガーディやビリリダマとは違う姿をしている。
ウォーグルは……実物を見たことがないから、あまりわからないけど……少なくとも、テレビで見たことがある姿とは何か違う気がする。
- 720 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:11:17.29 ID:ogLreJcM0
-
栞子「この姿、あまり馴染みがないかもしれませんね」
歩夢「う、うん……」
栞子「この子たちは今はもうない、ヒスイ……という地に生息していたポケモンなんです」
歩夢「ヒスイ……」
栞子「翡翠の巫女は、龍神様にお仕えすることの他に、このヒスイの地に生まれたポケモンたちを人知れず守るのも使命の一つとして代々受け継いできたんです」
歩夢「そうなんだ……。じゃあ、この子たちは栞子ちゃんの家族なんだね?」
栞子「家族……そうですね。私の家族です」
歩夢「そっか……じゃあ、私とおんなじだ」
栞子「?」
歩夢「私もお家にたくさんポケモンがいてね、小さい頃から家族同然に過ごしてきたんだ」
栞子「……だからですね」
歩夢「え?」
栞子「歩夢さんからは、少し不思議な雰囲気を感じていました」
歩夢「不思議な雰囲気……?」
栞子「はい。本来ここに住んでいるピィは警戒心が強くて、滅多に人間には近寄らないのですが……歩夢さんにはポケモンの警戒心を解く、不思議な雰囲気があるようです。それは恐らく、幼い頃から、ポケモンと家族同然に育ってきたからこそ、身に付いたものなのでしょう」
歩夢「そう……なのかな?」
栞子「ええ。だからこそ、ピィも心を許してくれたんだと思いますよ」
自覚はないけど……そうらしい。
栞子「他の部屋にも、別のヒスイのポケモンたちがいますが……特に仲の良い子はこの子たちなんです。あ、もちろん、ピィやピッピとも仲良しですよ」
歩夢「大切な子たちなんだね」
栞子「はい。この子たちがいるから、私は寂しくないんです。……寂しくありません」
そういう栞子ちゃんの声は……なんだか、強がっているような気がした。
歳は私と同じか……少し下くらいかな……。
そんな女の子がこんな薄暗い洞窟の中で、ずっと一人で過ごしていて、寂しさを感じないわけなんてない。
だから私は、
歩夢「……ねぇ、栞子ちゃん」
栞子「なんですか?」
歩夢「私と……お友達になってくれないかな?」
自然とそう提案していた。
栞子「お友達……ですか……?」
歩夢「うん。ダメかな……?」
栞子「ダメ……ではないです。そう言ってくださって嬉しいです。ですが……もう会うこともないでしょうから」
歩夢「え……」
栞子「本来、ここに外の人間が入ることも、存在を知らせることも、許されていないんです。今回はあくまで特例ですから」
歩夢「そっか……」
栞子「ですから……今日ここで見たことは、歩夢さんの心の中だけにしまっておいてください」
歩夢「……うん、わかった」
栞子「それでは……帰りの道をご案内します」
- 721 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:12:30.52 ID:ogLreJcM0
-
栞子ちゃんと一緒にさっきのピッピたちの部屋へと戻る。
栞子「そこの中央の丸い岩の上に」
歩夢「うん」
ピッピたちが踊る部屋の真ん中にある──大きな真ん丸のテーブルのような岩の上に立つ。
すると、不思議なことに、洞窟の中なのに、頭上に空が見えて、月の光が降り注いでくる。
栞子「そこを通れば、外の世界に戻れますよ」
歩夢「ありがとう、栞子ちゃん」
栞子「いえ……こちらこそ、ピィを──家族を、助けていただいて、感謝しています」
栞子ちゃんは丁寧に腰を折ってお辞儀をする。
歩夢「もう、会えないんだよね……?」
栞子「はい。不思議な夢を見たと、そう思ってください」
歩夢「……せっかくお友達になれたのに……ちょっと、寂しいな」
栞子「寂しくありませんよ。きっと外で、歩夢さんの大切な人たちが待っていますから」
歩夢「……うん……ばいばい、栞子ちゃん」
栞子「はい。お元気で」
私は──ゆっくりと、空にある朧月へと、吸い込まれていき……不思議な浮遊感に包まれながら、元の世界へと帰っていく──
- 722 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:13:16.50 ID:ogLreJcM0
-
🎀 🎀 🎀
気が付いたときには、
侑「…………すぅ……すぅ……zzz」
「ブイ…zzz」
ホシゾラ天文所の宿泊部屋にいた。
ベッドの上で侑ちゃんが眠っているから間違いないだろう。
歩夢「戻ってきた……」
「シャボ」
なんだか、随分と不思議な体験をしてしまった気がする。
あまりに不思議すぎて……。
歩夢「……夢、だったのかな」
寝ぼけていただけなのかと、一瞬思ったけど……。
ピィも、ピッピも、ヒスイのポケモンたちも。
──栞子ちゃんも。
全部全部、鮮明に覚えている。
──『不思議な夢を見たと、そう思ってください』
栞子ちゃんには、そう言われたけど。
歩夢「……」
どうして栞子ちゃんが、ヒスイの家族たちを紹介してくれたのか。
ただ送り返すだけでもよかったはずなのに。
それは、もしかして……。
歩夢「……自分を、知って欲しかったから……じゃないかな」
たった一人で、龍神様に仕える中で、偶然現れた私に、自分という存在を伝えたかったんじゃないかな。
ここにいるよ。ここで使命を全うしているよ。ここで家族と暮らしているよ。
そんなことを、知って欲しかったんじゃないかなって。
わかんないけど……私の想像でしかないけど。
もう会うことはないって言われたけど……でも、
歩夢「忘れないでいれば……いつか、どこかで会うかもしれないから」
──たった、一時だけど、朧月の夢の中で出会った不思議な女の子……栞子ちゃんのことを。今日あった不思議な出来事を、忘れないように胸にしっかり刻んで、しまうことにした。
また、いつか……あの朧月の夢の中で出会える日を、願って……。
- 723 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:13:52.86 ID:ogLreJcM0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【流星山】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂●|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.37 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.34 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.32 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
タマザラシ♀ Lv.26 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:143匹 捕まえた数:15匹
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.39 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.36 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.31 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.28 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
タマゴ なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:111匹 捕まえた数:4匹
歩夢と 侑は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 724 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 01:55:00.14 ID:iC9FggQ30
-
■Intermission🎹
──そこは温かい丘だった。
「ベベノ〜♪」
「ベノ〜」「ベノム〜」「ベベベノ〜」
その温かい丘で、小さなポケモンがたくさん楽しそうに飛んでいる。
みんな同じポケモンで紫色のポケモンだけど……そのうちの1匹だけは目を引くような白と黄色の白光色をしていた。
「ベノ〜♪」
「アタシたちに楽しいこと、報告してくれてるのかもね♪」
「うん。きっとそう」
──女の子二人がそんな会話をしていた。
そのうちの一人に──
「ベベノ?」
さっきの小さなポケモンが1匹近づいてくる。
この子はたくさんいる紫色の子のうちの1匹だ。
その子は白光色の子と一緒に踊り始める。
「ベベノ〜♪」「ベベノ〜♪」
「この子なら、仲良くなれそう」
「そうだね。ねぇ、ベベノム、よかったらアタシたちのベベノムと友達になってよ」
「ベベノ〜♪」
「よかったね、ベベノム♪ 友達出来たよ♪」
「ベベノ〜♪」「ベベノ〜♪」
「また、賑やかになるね」
「だね〜♪」
なんだか楽しくて、嬉しくて、温かな光景だった……。
「ニャァ…」
──
────
──────
侑「……んぅ……」
目が覚める。
侑「…………まただ」
また、この夢……。
最近、よく見る……。
侑「なんなんだろ……?」
- 725 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 01:55:44.87 ID:iC9FggQ30
-
最初は何も気にしていなかったけど……さすがに短い間に何度も見ると、何か意味があるのかと考えてしまう。
そういえば、夢の中に出てきた女の子……。どこかで見たような……?
侑「…………夢の記憶が曖昧で…………思い出せない……」
さすが夢とでも言うべきだろうか……。なんとなくの印象はあったけど……容姿を鮮明に覚えていないというか……。
歩夢「……ん……ぅ…………ゆうちゃん……?」
侑「あ、ごめん……起こしちゃった?」
歩夢「んーん……大丈夫……」
歩夢は眠そうに目を擦りながら身を起こす。
リナ『おはよう。侑さん、歩夢さん』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「おはよう、リナちゃん」
歩夢「……おはよう…………ふぁ……」
リナ『歩夢さん、まだ眠そう』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「ん……ちょっと……」
侑「まだ寝てていいよ。ごめんね、起こしちゃって」
歩夢「……じゃあ……もう少しだけ……」
そう言うと、歩夢はぽてっと横になると……すぐに、すぅすぅと寝息を立て始めた。
リナ『歩夢さんの寝起きが悪いなんて、珍しいね』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「確かにそうだね」
リナちゃんと二人ひそひそ声で話す。
歩夢は朝に強い方だから、私も珍しいもの見ちゃったかも。
侑「昨日、寝るの遅かったのかな? リナちゃん、知ってる?」
リナ『うぅん。スリープモードにしてたから……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「そっか。まぁ……昨日はジム戦もあったし、もう少しゆっくり休ませてあげよう」
リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「…………すぅ……すぅ……」
さて……歩夢が起きるまで、どうしようかな……。
あまり音を立てないように、ベッドの上で身体を伸ばしていると、
リナ『そういえば、侑さん。今日はどうする予定?』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんがそう訊ねてくる。
侑「うーんと……せっかく流星山の頂上まで来たし、北に向かって、アキハラタウンを目指す感じになるかな?」
リナ『となると、流星山の北側を下山するんだね』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「うん。アキハラタウンでは特にやることもないから……そのまま、セキレイを目指すことになると思う」
- 726 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 01:56:20.96 ID:iC9FggQ30
-
アキハラタウンはセキレイシティの南に位置する小さな田舎町。
二つの町を繋ぐ8番道路ものどかで、野生のポケモンも大人しいことから、ポケモンを持つ前にも、歩夢とお散歩で何度か行ったことがある場所でもある。
大樹・音ノ木があるから、観光地としては有名だけど、私たちセキレイ住民にとっては地元の範疇。
ジムもないし……この旅では素通りするだけになりそうだ。
侑「流星山の下山って厳しかったりする?」
リナ『登りよりは大変かもしれないけど、最近北側にも、山道が出来たから、大丈夫だと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「そっか、よかった。それじゃ、歩夢が起きたら、出発しよっか」
リナ『うん』 || > ◡ < ||
歩夢「…………すぅ……すぅ……」
………………
…………
……
🎹
- 727 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2022/12/04(日) 02:52:21.88 ID:mgqN8qMa0
- VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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- 728 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:13:45.75 ID:iC9FggQ30
-
■Chapter037 『カーテンの裾にて』 【SIDE Shizuku】
かすみ「さぁ〜次の目的地に向かって、旅立つよ〜!」
「ガゥガゥ♪」
──かすみさんのジムチャレンジが終わった翌日。
ダリアシティから、次の目的地を目指して出発する。
かすみ「ところで、次ってどこに行くの?」
しずく「えーと……ダリアからだと、北のヒナギクか、東に行ってセキレイに戻る感じになるかな……ただ、ヒナギクに行くためにはカーテンクリフを越えないといけないから、私たちには難しいかも……」
かすみ「カーテンクリフって……あれだよね?」
かすみさんが街の北側に目を向けると──大きな岩の壁が見える。
カーテンクリフとはオトノキ地方の西側にある大きな山脈のことだ。
ダリアシティとヒナギクシティの間を割るように東西に伸びている断崖絶壁で、山というより、もはや大きな岩盤を縦向きにしたかのような急傾斜をしている。
それがまるでカーテンを引いたかのような様から、カーテンクリフの名が付けられたと言われている。
かすみ「それにしても、ダリアから見ると、ホントに壁みたいだね……」
大きな山脈なので、セキレイからも見ることは出来るが、位置関係的に、カーテンを斜めから見るような形になる。
そして、ダリアから見ると真正面に横切っている形になるため、より『壁』という印象が強くなる。
かすみ「ヒナギクに行けないのはわかったけど……セキレイに戻る前に、一度近くで見てみない?」
しずく「そうだね。せっかく、こうして近くに来てるんだし、行ってみよっか」
今まで見てるだけだった場所に、実際に訪れてみるのも旅の醍醐味だろう。
私はかすみさんの意見に賛成する。
かすみ「それじゃ、カーテンクリフへレッツゴー♪」
「ガゥガゥ♪」
私たちはカーテンクリフ目指して、ダリアシティを発つ──
💧 💧 💧
ダリアの北の道路──5番道路を歩く。
かすみ「……もう結構歩いたよね?」
しずく「そうだね」
かすみ「なんか……思ったより、遠いね……」
しずく「カーテンクリフはとにかく大きいからね……」
あまりに大きい岩の壁を目の前に望みながら歩いていると、だんだん遠近感がおかしくなってくる。
とりあえず、目の前にずっと背の高い断崖絶壁があることがわかるという感じで、なかなか近付いている実感が湧かないのも無理はない。
- 729 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:15:08.86 ID:iC9FggQ30
-
しずく「カーテンクリフは5番道路と7番道路を続けて進んでいかないといけないからね」
かすみ「2つ分道路があるんだ……」
しずく「うん。ほぼ直線で繋がってるから、違う道路って印象は薄いけど……ダリアからカーテンクリフへの道のりは、この地方の中でもローズの北にある11番道路の次に長い道になってるんだよ」
かすみ「へー……さすが、しず子。物知り。とりあえず、すごい長い道なんだね」
しずく「あはは……まあ、大雑把に言うと、そんな感じかな」
かすみ「それにしても……ほんっとにでっかい山だねぇ……見上げてると、首が痛くなっちゃいそう」
「ガゥゥ…」
かすみさんが、肩に乗っているゾロアと一緒にカーテンクリフを見上げる。
かすみ「どうすればこんな高い山になるんだろう……」
しずく「いろいろ説があるけど……ヒナギク周辺の山脈はほとんどが、陸がぶつかって隆起して出来たらしいよ。だから、グレイブマウンテンやカーテンクリフでは、かなり高い場所なのに、太古の海にいたポケモンの化石が見つかることがあるんだって」
かすみ「陸が……ぶつかって……? りゅーき……?」
しずく「ああ、えっと……無理やり押されて、高くなったって感じかな……」
かすみ「ふーん……?」
たぶん、わかってなさそう……。
まあ……これもあくまで学説の一つでしかなく、それこそ『こんなものが自然に出来るわけがない!』、『神が創った!』、なんて言う人たちも少なくない。
実際、カーテンクリフの西端の頂上には遺跡があるらしく、遥か昔から信仰があったと言われている。高い場所に位置し、天に近い遺跡故に太陽信仰や月信仰があったのではないかと考えられているらしい。
専ら、今は信仰というよりは、オカルト好きな人たちによって、神が創ったと主張されていることの方が多いらしいけど……。
わかっているのかは怪しいけど、かすみさんの何気ない疑問に答えながら進んでいると、
かすみ「……あ! しず子、あそこがカーテンの一番下の部分じゃない!?」
やっと、クリフの麓が見えてくる。……いや、麓というには、かなり切り立った岩肌になっているけど。
しずく「麓まで、こんなに明確に壁のようになっているなんて……さすが、カーテンというだけはあります……」
上から下まで……特に、ダリア側からは超が付くほどの急勾配だとは聞いていたけど、実際に目の当たりにすると、本当に聞いていた通りで、感動すら覚える。
やはり、実際に見に来てみるものだ。
かすみ「こうして根本が見えたら、もうあと少し! 行くよ、ゾロア!」
「ガゥ!!」
かすみさんの合図で、ゾロアが肩から飛び降りて、一緒に走り出す。
かすみ「しず子〜♪ どっちが先に着くか競争だよ〜! 負けた方は、あとでジュース奢りね〜♪」
「ガゥ♪」
しずく「あ、ずるい!?」
かすみ「さぁ、しず子は、かすみんに追い付けるかな〜?」
しずく「ま、負けないんだから……!」
- 730 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:15:47.61 ID:iC9FggQ30
-
💧 💧 💧
かすみ「……ぜぇ……はぁ……はぁ……。……ま、まだ思ったより……距離が……あった……」
「ガゥ?」
クリフの麓に到着する頃には、かすみさんは息絶え絶え、満身創痍な状態だった。
しずく「かすみさん、大丈夫?」
かすみ「……しず子……足速くない……? かすみん普通に追い越されたんだけど……」
しずく「ポケモン演劇部で走り込みとかしてたからね。演劇は体力必要だから」
文化部だから、体力がないように思われがちですが、実は運動神経は良い方なんです。
球技は……苦手なんですけど……。
かすみ「そんなのずるい〜……」
しずく「ずるくありません。それじゃ、あとでジュース奢ってね?」
かすみ「ちぇ、わかったよー……セキレイ戻ったらね」
しずく「よろしい」
何のジュースを奢ってもらおうかなと考えながら──すぐ傍に聳えるカーテンクリフに目をやる。
かすみ「……本当に壁って感じだね」
しずく「うん……」
これが自然に出来た物だとは、にわかに信じがたい。
神様を信じているわけじゃないけど……神が創ったなんて言う人が出てくるのも頷ける。
垂直に近い形で天に向かって伸びている岩のカーテンは、並大抵の鳥ポケモンでも飛んで越えることが出来ないと言われている。
しずく「……。……出てきて、アオガラス」
「──カァーー!!!」
しずく「上まで、飛べる?」
「カァー」
訊ねると、アオガラスは翼を羽ばたかせながら、垂直に飛翔していく。
かすみ「なになに? どうしたの?」
「ガゥ?」
しずく「今の私たちで、どこまで行けるのか、試してみたくって……」
きっと、アオガラスのままでは難しい。
案の定、下で見ていると、岩の壁の中腹辺りで、アオガラスがバテ始めているのが見て取れた。
しずく「アオガラスー! 無理はしなくていいからねー!」
「カ、カァーー…!!!」
そろそろ限界のようだったけど……アオガラスはバタバタと翼を羽ばたかせて、少しでも高く飛ぼうとする。
しずく「無理しなくていいって言ってるのに……」
かすみ「アオガラス、見栄っ張りですねぇ」
しずく「かすみさんには言われたくないと思うけど……」
- 731 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:17:40.07 ID:iC9FggQ30
-
かなり我武者羅に羽根をバタつかせながら、頑張っていたけど……。
「カ、カァ……」
最終的には無理だと悟ったのか、ゆっくりと下に降りてくる。
かすみ「半分いけたくらい?」
しずく「そうだね……」
ここが今の私の手持ちの限界ということだろう。
もちろん、垂直の壁を登ったらそれで終わりというわけではなく、そこから山脈が始まるから、今の実力ではどう頑張ってもクリフを超えるのは無理ということだ。
「カァ…」
しずく「ごめんね、無茶振りしちゃって。でも、ナイスファイトだったよ、アオガラス」
「カァ〜……」
かすみ「鳥ポケモンでこんなんなのに、越えられる人なんているのかな……?」
しずく「きっと、進化してアーマーガアになれば、越えられると思う」
かすみ「そうなの?」
しずく「うん。アーマーガアに進化すると、飛翔高度も距離も、飛び続けられる時間も桁違いになるから」
実際ガラルでは、アーマーガアが地方全体の移動の要になっているくらいで、その飛行能力は折り紙付きだ。
しずく「アオガラスも、いつか進化したら、ここを越えられるようになるはずだから……! 頑張ろうね!」
「カァ〜〜〜!!!」
かすみ「えーかすみんも空の旅したい〜!」
しずく「ふふ♪ いつかオトノキ地方中の空を、一緒に巡ろっか♪」
「カァ〜♪」
かすみ「やった〜! 約束だからね! しず子! アオガラス!」
しずく「うん♪」
「カァカァ♪」
そのためにも、私もアオガラスをアーマーガアに進化させられるくらい強くならなきゃ。
かすみさんに負けていられないな。
かすみ「さて、それじゃ……実際に見て、越えられないこともわかったし、セキレイシティに向かおっか〜」
「ガゥ♪」
しずく「そうだね。風斬りの道を越えていくなら、自転車が必要だから……一旦、ダリアに戻って、レンタルサイクルかな……」
「カァ〜」
かすみ「……あっ!?」
しずく「ど、どうしたの? 急に大きな声出して……?」
かすみ「最終的にセキレイシティに行くってわかってたんだから……最初から、ダリアで自転車を借りればよかったんじゃ……」
しずく「……あ」
確かに、言われてみればそうだ……。
かすみ「ち、ちょっとぉ〜……かすみん、走り損じゃないですかぁ〜……しかも、これからまた長い道を戻るの〜……?」
しずく「走ったのはかすみさんが勝手にやったことだと思うんだけど……」
かすみ「もうやだ〜……かすみん、歩けない〜……」
「ガゥゥ…」
かすみさんはその場にへたり込む。
- 732 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:18:30.28 ID:iC9FggQ30
-
しずく「今向かおうって言ったばっかでしょ……」
かすみ「だって、ホントだったら、今頃自転車でスイスイだったんだよ!? そう考えたら、足が重く……もう一歩も動けない〜……」
しずく「はぁ……もう、そんなことばっかり言ってると、置いてくよ?」
「カァカァ」
溜め息交じりに、振り返って歩き出そうとしたとき、
「──ガドーン」
しずく「……!?」
そいつは気付けば、目の前に、居た。
パステルカラーで彩られた細長い体躯に真ん丸の頭の異形。
突然のことに身体が固まる。
かすみ「しず子っ!! こっちっ!!」
だが、かすみさんの反応は早かった。
呆気に取られて動けなくなってしまった私の手を、強引に引いて走り出す。
しずく「きゃっ……!?」
かすみ「足ぃ!! 動かしてぇ!! とにかく走ってぇ!!」
「ガゥガゥ!!!!」
足がもつれて転びそうになるけど、どうにか踏ん張って走り出す。
全速力で走りながら、やっと少しずつ頭が回り出す。
あれは──あの異様な雰囲気のポケモンは……!
しずく「ウルトラビースト……っ……! 確か、名前はズガドーン……!!」
かすみ「なんで名前知ってんの!?」
しずく「遥さんに、ウルトラビーストのデータをいくつか見せてもらったんだよ! その中にいたウルトラビースト!」
ズガドーンは、その場から動こうとしないが──その周囲に紫の炎がポポポッと出現する。
「ガドーン」
かすみ「なんかしてくる!? しず子伏せてっ!!」
「ガゥッ!!!」
しずく「きゃっ!?」
かすみさんが覆いかぶさるようにして、私を地面に押し倒す。
その上を、紫の色の炎──“マジカルフレイム”が素通りする。
かすみ「あ、あちちっ!?」
しずく「かすみさん!?」
かすみ「だ、大丈夫……! ちょっと熱かっただけ……!」
掠ってすらいないはずなのに、とてつもない熱気を感じる。
それが相手の攻撃の威力を物語っていた。
──絶対に勝てない。とにかく、逃げなきゃ……!
- 733 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:19:26.05 ID:iC9FggQ30
-
かすみ「しず子、立って!」
しずく「……うん……!」
二人で立ち上がって再び距離を取るために走り出す。
幸いとでも言うべきか、今のところズガドーンはあまり熱心にこちらを追いかけてくる素振りはない。
それが逆に不気味でもあるが……。
しずく「……そうだ! 千歌さんたちに連絡を……!」
私は大急ぎでポケギアを取り出し、千歌さんに通話を飛ばすと──
千歌『──しずくちゃん!!』
千歌さんが秒で通話に出る。
しずく「ち、千歌さん、今……!!」
千歌『もう向かってる!! 7番道路だよね!? ウルトラビーストの種類は!?』
しずく「ず、ズガドーンです!」
千歌『わかった!! 15分……うぅん、10分で着くから、とにかく逃げて!』
しずく「は、はい!!」
通話を切って、
しずく「かすみさん、千歌さんがすぐに来てくれるから──」
かすみ「な、なんかあいつ、様子がおかしくない!?」
しずく「えっ!?」
言われて、ズガドーンを振り返ると、
「ガドーーン」
ズガドーンが──自分の頭が取り外して、手に持っていた。
かすみ「あの頭取れんの!?」
確か、遥さんに見せてもらったデータでは──
しずく「に、逃げなきゃ……!!」
かすみ「わわっ!?」
あの珍妙な行動に、リアクションを取っている場合じゃない……!
今度は私がかすみさんの手を強引に引っ張って走り出す。
かすみ「ちょ、しず子!?」
しずく「とにかく……! とにかく、距離を……!!」
少しでも距離を離そうと全力疾走する。
……が、ズガドーンは逃げる私たちに向かって──自分の頭を放り投げてきた。
- 734 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:20:15.45 ID:iC9FggQ30
-
かすみ「な、投げてきたー!?」
「ガゥワゥッ!!!?」
しずく「っ……!」
私は咄嗟に、手持ち全員をボールから出す。
「ジメ…」「ロゼ!!!」「キル」「マネネッ」
しずく「“みずびたし”っ! “わたほうし”っ! “サイコキネシス”っ! “ひかりのかべ”っ! “きりばらい”っ!」
先に出ていたアオガラス含め、手持ち全員に叫ぶように指示を出す。
直後──目の前に鮮やかな色の花火が散った。
それと同時に全身が浮遊感に包まれ──吹っ飛ばされた。
あの頭が、目の前で大爆発したのだ。
しずく「ぐ……ぅぅぅ……っ……!!」
爆風を受けて、地面を転がる。
かすみ「……し、死ぬかと思ったぁ……!」
「ガ、ガゥゥ…」
しずく「ど、どうにか、間に合った……」
「ジ、ジメ…」「ロゼ…」「キルゥ…」「マ、マネェ…」「カァ…」
私たちは手持ちもろとも吹っ飛ばされたが、敷き詰められた“わたほうし”の上を転がることで、なんとか怪我せずに済んだ。
しずく「か……かすみさん……無事……?」
かすみ「な、なんとか……い、今の何……?」
しずく「“ビックリヘッド”……頭を大爆発させて攻撃する技みたい」
かすみ「なにそれこわっ!」
しずく「あんまり怖がらない方がいいと思う……」
かすみ「え?」
しずく「ズガドーンはそれで、驚かせた相手から生気を奪い取るらしいから……」
かすみ「ま、全く、それでかすみんを驚かせたつもりですかぁー!?」
取って付けたような強がりが出来ている時点で、かすみさんも無事なのは間違いないだろう。
それにしても、“ビックリヘッド”がどういう技があらかじめわかっていなかったら、本当に無事じゃ済まなかった。
ほのおタイプの爆発技。
“みずびたし”で爆弾自体を湿らせ、少しでも爆発と爆風の威力を殺すための“ひかりのかべ”と“きりばらい”。
身体を地面に叩きつけられないように、“サイコキネシス”で僅かに浮かせて、“わたほうし”を敷き詰めた地面に軟着陸。
手持ち全員が力を合わせてどうにか、耐えきった。
でも、まだ戦闘は終わっていない。
とにかく、千歌さんたちが来るまで逃げ続けないと……!
再びかすみさんの手を取って、逃げ出そうと、顔を上げると──
「ガドーン」
ズガドーンが眼前に迫っていた。
- 735 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:20:54.55 ID:iC9FggQ30
-
しずく「……っ……!」
かすみ「わ、わぁぁぁぁ!!?」
ズガドーンの手に炎が灯る。
攻撃の予兆。
ダメだ、避けられない。
かすみ「しず子っ!!」
かすみさんが庇うように、ズガドーンに背を向ける形で、私を抱きしめる。
ズガドーンの手がこちらを向く。
炎が噴き出す。
もうダメだ。
そう思った瞬間、
「──“ハイドロポンプ”!!」
「フゥッ!!!!!!」
「ガドーーンッ!!!!?」
声と共に、真上から激しい水流の筋飛んできて、ズガドーンを吹っ飛ばした。
かすみ「へ……な、なに……?」
しずく「い、今のは……?」
事態が呑み込めず、二人で唖然とする。
そんな私たちの頭上から──フワリと降りてくる影。
大きな星型のポケモン──スターミーに乗って、突然目の前に現れた一人の女の子。
女の子「大丈夫ですか!?」
かすみ「え……」
しずく「嘘……」
彼女の姿は、何度も見たことがあった。
ただ、会ったことがあるわけではない。
テレビの中で、だ。
かすみ「……せ……せ……!?」
せつ菜「何やらお困りのようですね! 僭越ながら、助太刀させていただきます!!」
前回ポケモンリーグの準優勝者──せつ菜さん、その人だった。
- 736 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:22:05.34 ID:iC9FggQ30
-
💧 💧 💧
「ガドォーン…」
せつ菜「見たことがないポケモンですね……。この地方はあちこち見て回ってきたつもりですが、まだ新しいポケモンに出会うことがあるなんて……やはり、世界は広いですね!」
スターミーの上に乗ったまま、ズガドーンと相対するせつ菜さん。
あまりに予想外の展開が続くせいで、また呆気にとられそうになったが……。
この人をウルトラビーストと戦わせちゃダメだ……!
しずく「せ、せつ菜さん! 戦わずに逃げてください!」
かすみ「そいつ、めっちゃくちゃ強いんですっ!」
せつ菜「逃げる? 強いというなら、ますます背中を見せるわけにはいきません!」
「ズガ──」
せつ菜「“パワージェム”!!」
「フゥッ!!!」
ズガドーンが動き出そうとしたときには既に、輝く閃光がズガドーンを貫いていた。
かすみ「は、はや……!?」
攻撃が直撃し、地面を転がるズガドーン。
「ガ、ガドーン」
せつ菜「“10まんボルト”!」
「フゥッ!!!」
「ガドドドドッ!!!!?」
畳みかけるように、電撃による追撃。
が、ズガドーンもただでやられてはいない。
「…ガ、ドォーンッ!!!!」
せつ菜「耐えますか……!」
「ドォーーンッ!!!!!」
そして、黒い球体を猛スピードで、スターミーに向かって放ってきた。
「フゥッ!!!?」
せつ菜「うわぁっ!!?」
ズガドーンの攻撃がスターミーに直撃し、その衝撃で上に乗っていたせつ菜さんが飛ばされる。
が、せつ菜さんは軽やかな身のこなしで、身体を捻りながら、地面に着地する。
「フ、フゥ…」
せつ菜「やりますね……! “シャドーボール”ですか……! まさか、私のスターミーが一発でやられるなんて……!」
せつ菜さんはスターミーをボールに戻しながら、ズガドーンの強さに感心したように言う。
せつ菜「なら、この子はどうですか!」
だが、怯むどころか、間髪入れずに次のポケモンを繰り出す。
- 737 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:22:59.77 ID:iC9FggQ30
-
「ゲンガッ!!!」
せつ菜「ゲンガー! 暴れますよ!」
「ゲンガッ!!!!」
「ガドォーーンッ」
再び、ズガドーンが黒い球体──“シャドーボール”を作り出し、撃ち放つ。
せつ菜「こちらも“シャドーボール”です!」
「ゲンガッ!!!!」
一方せつ菜さんも対抗するように、“シャドーボール”を撃ち出し──双方のシャドーボールが衝突する。
両者の攻撃はぶつかると、その場で相殺し合い、黒い影を周囲に散らす。
しずく「ご、互角……」
せつ菜「私のゲンガーの“シャドーボール”……威力には自信があったんですが……!」
自分の予想を裏切るほどの相手の強さに感心するものの、せつ菜さんはやはり臆さない。
せつ菜「その強さに……敬意を示します! 私の全力、受け止めてみなさい!!」
そう言いながら、せつ菜さんの手首に嵌めていた腕輪が輝きを放ち始めた。
かすみ「あ、あれって……!?」
しずく「“キーストーン”……!?」
せつ菜「さぁ、行きますよゲンガー!! メガシンカです!!」
「ゲンガァーー!!!!」
せつ菜さんが叫ぶと、ゲンガーも眩い光に包まれ──ゲンガーの体にある棘、腕、そして尻尾がより鋭角的に、さらに自身の体は足元の影と一体化し、
「ゲンガァァァ!!!!!!」
赤紫色の怪しい光を放つ──メガゲンガーへと姿を変えた。
メガゲンガーの持つ妖気……とでも言えばいいんだろうか。
姿を変えた瞬間、肌がびりびりとするのを感じた。それくらい、すさまじいパワーを身に秘めているのが、素人目でも理解できる。
「ズ、ガドォォォォーーー!!!!!!」
が、ズガドーンも全く臆することなく、再び“シャドーボール”を放ってくる。
せつ菜「今度は先ほどのようには行きませんよ!! “シャドーボール”!!」
「ゲンガァァーーッ!!!!!」
二度目となる同じ技の撃ち合い。
だけど、今回は──
かすみ「……で、でかっ!?」
メガゲンガーの放った“シャドーボール”は先ほどより一回りも二回りも大きいもので、
「ガドッ!!!?」
ズガドーンの放った“シャドーボール”をいとも簡単に呑み込んで──
- 738 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:26:03.08 ID:iC9FggQ30
-
「ガ、ガドォォォォンッ!!!!!!!」
ズガドーンに衝突すると同時に、影のエネルギーが収縮し、ズガドーンを押しつぶしたあと──黒い影を散らしながら、爆散した。
「ガ、ガドォォォォン……」
影が晴れると、ふらふらになったズガドーンの姿、
「ガ、ガドォォォン……!!」
勝てないと悟ったのか、ズガドーンはスゥーっと地面に潜るようにして、消えてしまった。
せつ菜「あ……逃げられました。……メガゲンガーの“かげふみ”から逃げられるということは、やはりゴーストタイプだったようですね……」
「ゲンガ──」
せつ菜さんは肩を竦めながら、メガゲンガーをボールに戻す。
しずく「う、嘘……」
かすみ「やっつけちゃった……」
またしても二人して呆けていると、
せつ菜「お二人とも、お怪我はありませんか?」
せつ菜さんは私たちのもとに駆け寄ってきて、そう訊ねてくる。
しずく「は、はい……」
かすみ「とりあえず、大丈夫です……」
せつ菜「それは何よりですね。真下で大きな爆発音が聞こえたので、何かと思いましたが……野生のポケモンに襲われるとは災難でしたね」
しずく「い、いえ……お陰で助かりました……」
せつ菜「……あ、自己紹介がまだでしたね! 私はせつ菜って言います! よくここにポケモン修行をしに来ているんです!」
存じております……。ここで修行をしているのは、知らなかったけど。
しずく「私は、しずくです……。こちらはかすみさん」
かすみ「あ、えっと……よろしくお願いします……」
あまりの展開に未だ頭が付いていっていないのか、かすみさんも自己紹介でのかすみん問答を忘れているほどだ。
せつ菜「お怪我はされていないようですが……心配なので、近くの街までお送りしますね! えっと、近くだとダリアかヒナギク……ん?」
そのとき、せつ菜さんは自分の腰のボールが震えていることに気付いて、その子を外に出す。
「ワォンッ」
せつ菜「ウインディ? どうかしたんですか?」
「ワォン」
せつ菜さんが訊ねると、ウインディは鳴きながら、クリフの上の方を見上げる。
せつ菜「ん……?」
せつ菜さんは少し考えたあと、
せつ菜「……あ、そうでした……! さっきまで、ご飯を作っている真っ最中でした……上に全部置いてきちゃいましたね。貰った“ポフィン”も……」
- 739 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:26:59.68 ID:iC9FggQ30
-
どうやら調理中に飛び出してきたということを思い出したらしい。
「ワォンッ!!!」
せつ菜「ち、ちょっとウインディ!? 引っ張らないでください……! もう! 歩夢さんから“ポフィン”を貰って以来、随分食いしん坊になりましたね……?」
「ワォンッ!!!」
しずく「あ、あの……私たち、街には戻れると思うので……」
せつ菜「……すみません、いつもはこんなに食に貪欲じゃないはずなんですが……」
「ワォンッ!!!」
せつ菜「わ、わかったから……! 引っ張らないで……!」
せつ菜さんは少し焦りながらも、ウインディの背にまたがる。
せつ菜「それでは、すみませんが失礼します!」
「ワォンッ」
せつ菜さんが背にまたがると、ウインディは跳ねるようにして、カーテンクリフを登って行ってしまった。
かすみ「……なんで、この壁、登れるの……?」
しずく「…………」
レベルが違うとは、こういうことを言うのかもしれない……。
かすみ「なんか……すごかったね……」
しずく「う、うん……」
ウルトラビーストとの遭遇もだが……それ以上に颯爽と現れ、風のように去っていったせつ菜さんのインパクトがあまりにすごすぎて、私たちはしばらくの間、その場で動けずに呆けてしまっているのだった。
💧 💧 💧
──その後、間もなくして千歌さんたちが到着した。
彼方「──……ってことは、せつ菜ちゃんがやってきて、ズガドーンを倒しちゃったんだ……」
しずく「はい……」
かすみ「圧倒してました……」
千歌「さすが、せつ菜ちゃん……」
遥「でも、どうしましょう……一般人のウルトラビーストとの接触案件ですけど……」
しずく「まだ、クリフの上にいるとは思いますが……」
千歌「んー……会って説明した方がいいのかなぁ……?」
穂乃果「うーん……」
穂乃果さんは少し悩む素振りを見せる。
穂乃果「しずくちゃん、かすみちゃん。せつ菜ちゃん、ウルトラビーストを見て、どんな反応してたか覚えてる?」
かすみ「えっと……強い相手なら逃げるわけにいかない……って。全然怖がってませんでした」
しずく「そうですね……強い野生ポケモンの一種と認識していた気がします」
その強さに感じるものはあったのかもしれないけど……少なくとも外世界から来た異質なポケモンだと認識していたとは考えにくかった。
- 740 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:28:54.86 ID:iC9FggQ30
-
穂乃果「……となると、無理に説明したりしないで、そういうものだと思い込んでもらったままの方がいいかもしれないね。もちろん、本部へは一応報告するけど」
彼方「そうだね〜……特異な存在だって知っちゃうと、逆に関わりを持っちゃうから……」
千歌「まあ……せつ菜ちゃんなら、仮にまた遭遇しても同じように対処しちゃいそうだしね……あはは」
千歌さんは過去に覇を競い合った相手なだけあって、せつ菜さんの強さをよく理解しているようだった。
彼女たちがそう判断したのなら、私たちからこれ以上言うことは特にない。
千歌「それじゃ、近くの街まで送ってくよ。ダリアでいい?」
かすみ「はい……今日中にセキレイに行くつもりでしたけど、もうくたくたなので、ダリアで休みたいです……」
彼方「それじゃ〜そんなかすみちゃんに彼方ちゃんが元気が出るご飯を作ってあげよう〜」
かすみ「え、ホントですか!? キッチン付きのホテル探さなきゃですね……!」
現金なモノで、彼方さんがご飯を作ってくれると聞くと、かすみさんは意気揚々と歩き出す。
まだ元気、結構余っている気がするんだけど……。
そんな中、遥さんが、
遥「あの、しずくさん」
しずく「? なんでしょうか……?」
遥「再び襲われた今でも……旅を続けたいと思いますか」
真剣な目で、そう訊ねてきた。
しずく「……はい」
遥「……わかりました」
それだけ言うと、遥さんも彼方さんたちを追って先に行ってしまった。
しずく「……」
穂乃果「遥ちゃん、ずっと心配してたからね」
しずく「はい……」
遥さんに診てもらい助けてもらった手前、罪悪感はある。
そんな私の胸中を察したのか、
穂乃果「旅を続けるって決めたなら、しずくちゃんはそれを頑張ればいいんだよ」
穂乃果さんは優しい声でそんな風に言う。
しずく「はい……ありがとうございます」
穂乃果「それじゃ、行こう。ダリアへの道は長いから、急がないと日が暮れちゃう」
しずく「そうですね……」
私は穂乃果さんの言葉に頷いて──再び道を歩き始めるのでした。
- 741 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:29:49.80 ID:iC9FggQ30
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【7番道路】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
|| |●|. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 しずく
手持ち ジメレオン♂ Lv.27 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
マネネ♂ Lv.22 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アオガラス♀ Lv.27 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロゼリア♂ Lv.27 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
キルリア♀ Lv.27 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:149匹 捕まえた数:9匹
主人公 かすみ
手持ち ジュプトル♂ Lv.34 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.34 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.33 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.27 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.27 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
バッジ 4個 図鑑 見つけた数:140匹 捕まえた数:7匹
しずくと かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 742 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2022/12/04(日) 16:37:49.08 ID:4TqIcDHeO
- 『ポケモンSVさらに精度を上げていく』
レート戦/戦力集め・その3 (14:21〜開始)
https://www.twitch.tv/kato_junichi0817
- 743 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:30:00.87 ID:6bHKz0F20
-
■Chapter038 『凱旋セキレイシティ』 【SIDE Shizuku】
かすみ「──さぁ! セキレイシティに向かって、出発するよ〜!」
「ガゥ!!」
かすみさんが自転車にまたがりながら、元気よく拳を突き上げる。
かすみ「さぁさ! 早く行かないと、日が暮れちゃうから!」
しずく「どこかの誰かさんが、チェックアウトギリギリまで起きなかったからね……」
かすみ「ぅ……! だ、だって、疲れてたんだもん……! しず子だって、いつもよりは起きるの遅かったって言ってたじゃん!」
まあ、確かに……昨日は全く想定外のウルトラビーストとの戦闘があったため、疲れていたというのはある。……精神的にも、肉体的にも。
ただ、私が起きるのが遅かったというのは、普段6時に目を覚ますのが6時半になった程度のものだ。
一方かすみさんは、起こそうとしても全く起きる気配がなく、本当にホテルのチェックアウトギリギリに焦って起こしたくらいだし……。
かすみさんより遥か前に起きた穂乃果さんや千歌さんたちは、「また何かあったら連絡してね」と残し去って行った。
彼方さんは「まさか彼方ちゃんよりお寝坊さんな子がいるとはね〜」なんて笑っていたし……。
まあ、かすみさんに寝坊癖があるのは、今に始まったことじゃないけど……。
かすみ「と、とにかく……! セキレイシティに行くの!」
しずく「はいはい、わかりました」
かすみ「出発進行〜!」
「ガゥ♪」
💧 💧 💧
かすみ「風が気持ちいい〜♪」
「ガゥガゥ♪」
しずく「ふふ、そうだね」
かすみさんの寝坊に苦言を呈しはしたけど、ダリア〜セキレイ間は、風斬りの道を自転車で駆け抜けるだけだ。
途中に草むらがあるわけでもなく、隅から隅まで人の手が入った橋を越えていくだけ。
時折、周囲を飛んでいる鳥ポケモンが下りてくることがあるらしいけど……基本的には風を斬りながら走るサイクリングを楽しむ道だ。
その証拠に橋の上では私たち以外にも、サイクリングを楽しんでいる人がちらほら見える。
……まさか、ここでもウルトラビーストに襲われるなんてことはないと信じたい。
かすみ「このペースなら、すぐ着いちゃうね〜♪」
しずく「うん。お昼過ぎくらいにはセキレイに着けそうかな?」
かすみ「なら、時間に余裕もあるね!」
しずく「かすみさん、セキレイに到着したらどうするつもりなの? 一旦、家に帰る?」
かすみ「もちろん、一度お家には帰るつもりだけど……それよりも、大事なところがあるじゃん!」
しずく「大事なところ……? あ、ポケモンスクールへの挨拶?」
かすみ「……もう! ポケモンジムに決まってんじゃん!!」
言われて思い出す。
- 744 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:33:03.51 ID:6bHKz0F20
-
しずく「そういえば、かすみさん、まだセキレイジムに挑戦出来てなかったね……」
かすみ「忘れないでよ!!」
セキレイシティのジムは、ポケモンスクールにも近いし……あまりに地元感が強くて、すっかり忘れていた。
かすみ「今日という今日こそは、セキレイジムで曜先輩とバトルしてもらうんだもん! かすみん、5個目のバッジも絶対ゲットしちゃうんだから!」
「ガゥ!!」
かすみ「なんかそう考えたら、いち早く到着して挑戦したくなってきちゃった……! 全速力です!!」
「ガゥガゥ♪」
かすみさんが、急にペダルを全速力でこぎ始める。
しずく「あ、ち、ちょっと!? そんなに飛ばしたら危ないって!?」
かすみ「今かすみん燃えてるの! しず子も早く来ないと置いてっちゃうよ!」
そう言いながら、かすみさんはどんどん突っ走っていく。
しずく「ああもう……」
やれやれと思いながら、私も立ち漕ぎになりペースを上げて、かすみさんを追いかける。
このやる気が空回りしないといいけど……。
💧 💧 💧
──セキレイシティ。セキレイジム前。
かすみ「……何故」
ジムの前にはこんな張り紙──『現在ジムリーダー不在のため、ジムをお休みしています』。
前回来たときと同じ状態だった。
かすみ「もう〜!! なんで、曜先輩はいつもいないんですかぁ〜!!」
「ガゥゥ…」
しずく「あはは……セキレイジムって何かとジムリーダー不在なこと多いよね……」
前任のことりさんもだが、セキレイジムのジムリーダーはバトルだけでなくコンテストにも携わっているからか、不在なことが多い。
それでも、ジムリーダーとして籍を置いているのは、街の人からの支持が高いことが理由らしい。
確かに、ことりさんも曜さんも、街の人から慕われているのが一目でわかる人気者だ。
- 745 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:33:39.83 ID:6bHKz0F20
-
かすみ「はぁ……さすがにこれは待つしかないよね……」
しずく「そうだね……」
かすみ「でも、待ってる間何してよう……。家に帰ろうかな……」
しずく「あ、待って! 帰る前に行かなくちゃいけないところがあるよ!」
かすみ「行かなくちゃいけないところ……? えーでも……ポケモンスクールは正直」
しずく「いや、スクールじゃなくて……」
かすみ「? じゃあ、どこ……?」
しずく「どこって……決まってるでしょ!」
かすみ「えっと……?」
どうやら、本当に見当が付いていないらしい。思わず、溜め息が漏れそうになる。
しずく「ツシマ研究所! 博士に旅の報告しないと!」
かすみ「……あ、あー!!」
しずく「もう……なんで忘れるのよ……」
私たちを旅に送り出してくれた張本人なのに……。
かすみ「い、いや、もちろん覚えてたよ? 今から、行こうと思ってたもん! ね、ゾロア!」
「ガゥ?」
しずく「……」
思わず、かすみさんにジト目を向けてしまう。
かすみ「さぁ、行くよしず子! ツシマ研究所目指してレッツゴー!」
「ガゥ」
かすみさんが、調子よさげに研究所に向かって走り出す。
しずく「はぁ……」
私は思わず額に手を当てながら、かすみさんの後を追うのだった。
🎹 🎹 🎹
──流星山を北側から下山し、アキハラタウンを抜け、その先の8番道路を歩くこと数十分。
侑「帰ってきたね……!」
「イブイ」
歩夢「うん!」
「シャボ」
私たちはセキレイシティに戻ってきていた。
旅に出て大体2週間くらいだろうか。
すごく長い時間離れていたわけではないけど、今まで2週間も故郷から離れていたことなんてなかったし、こうして地方の南半分くらいを自分たちの足で歩いてきたと考えると、なんだか感慨深い。
それだけで見慣れた故郷の景色のはずなのに、一周回って新鮮に見えてくる。
- 746 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:34:31.70 ID:6bHKz0F20
-
リナ『とりあえず、どうするつもり?』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「えっと……せっかく、セキレイまで戻ってきたから、一度家には寄ろうかなって思うけど……」
侑「まずは……あそこだよね」
私と歩夢の視線は──ここからすでに見えているツシマ研究所に向けられる。
ツシマ研究所は街の南側に位置しているから、8番道路からだと、すぐなのだ。
侑「ヨハネ博士への旅の報告!」
「ブィ〜♪」
歩夢「だね♪」
リナ『なるほど』 || > ◡ < ||
早速ツシマ研究所へと近付いていくと、
──pipipipipipi!!! と、以前どこかで聞いた音が歩夢の方から鳴りだす。
歩夢「これ、図鑑の共鳴音……?」──pipipipipipi!!!
「シャボ…?」
侑「ってことは……!?」
私がキョロキョロと辺りを見回すと──
「侑せんぱーい! 歩夢せんぱーい!」──pipipipipipi!!!
共鳴音と一緒に元気いっぱいに駆け寄ってくる姿を見つける。
侑・歩夢「「かすみちゃん!」」
かすみ「はぁ……はぁ……! なんでなんで!? すごい偶然ですぅ〜!」
リナ『共鳴音が鳴ってるってことは、しずくちゃんもいるってことだよね?』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「あ、うん! そろそろ来ると思うけど……」
かすみちゃんが来た方向に目を向けると、一足遅れてしずくちゃんがこちらに小走りで駆けてくる姿が目に入る。
しずく「侑先輩! 歩夢さん! お二人もセキレイに戻ってきていたんですね……! 突然、図鑑が鳴りだしたから、驚きました……!」
歩夢「うん! 今から博士のところに、報告に行こうと思ってたところで……」
かすみ「先輩たちもですか!? ほんとすっごい偶然です〜! かすみんたちも今博士への報告に行こうと思ってたところなんですよ!」
しずく「……かすみさんはさっきまで忘れてたけどね」
かすみ「ちょっとしず子! 余計なこと言わないでよ!」
侑「あはは……」
二人ともいつもどおりで安心する。
歩夢「それじゃ、みんな揃って、博士に報告だね♪」
しずく「はい、そうですね」
侑「じゃ、行こうか!」
──4人揃って、研究所のドアを押し開け、中に入る。
侑「失礼しまーす!」
- 747 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:35:45.37 ID:6bHKz0F20
-
研究所の中に入ると、ヨハネ博士は奥の方で、ポケモンの世話をしている真っ最中だった。
博士が私たちの声に気付いて、こちらに顔を向けると、
善子「──あら、貴方たち……セキレイに戻ってきてたのね。ちょっと待ってて、今餌やり済ませちゃうから」
「ハミィ?」
ヨハネ博士は手早くユキハミの飼育部屋の中に、新しい雪を補充したあと、私たちのもとへとやってくる。
善子「おかえりなさい、リトルデーモンたち。4人揃って戻ってくるとは、相変わらず仲良しみたいでなによりだわ」
侑「4人揃ったのはたまたまなんですけどね……」
しずく「今さっき、研究所の前で会ったところなんです」
善子「それだけ気が合うってことじゃないかしら。そういう偶然、運命に導かれている感じがして、私は好きよ」
ヨハネ博士はうんうんと頷きながら言う。
善子「それに、みんな顔つきが変わったわね。頼もしくなった」
かすみ「そうでしょうそうでしょう! かすみんめっちゃ強くなっちゃったんですから!」
「ガゥガゥ♪」
胸を張る、かすみちゃん。
歩夢「えっと……そうなら、嬉しいです……えへへ」
控えめにはにかむ歩夢。
しずく「自分ではあまり自覚はありませんが……確かにいろいろなことを経験した分、成長出来たんじゃないかと思います!」
冷静に分析するしずくちゃん。
侑「みんなバラバラだね……あはは」
善子「気が合うんだか、合わないんだか……。侑は、どうかしら?」
侑「私は……いろんな場所を巡っている間に、たくさん仲間が増えました!」
「ブイ♪」
善子「ふふ、それは何よりね」
ヨハネ博士は優しく笑ってから、一人一人の顔を順に見回す。
善子「……かすみ……しずく……歩夢……そして、侑──……ん?」
そして、私の隣で目を留める。
リナ『初めまして、ヨハネ博士! 私リナって言います!』 ||,,> ◡ <,,||
善子「!? え、これ侑に渡した図鑑よね!? なんで、喋ってんの!? ってか、浮いてるじゃない!?」
侑「えっと……?」
そういえば、鞠莉博士もなんか変な反応してたっけ……。
リナ『そのことについて、鞠莉博士から言伝を預かってる』 || ╹ ◡ ╹ ||
善子「こ、言伝……?」
リナ『「人から渡されたモノを、断りもなく勝手に他の人に預けるんじゃありまセーン! そのことについて話があるから、後で、直接連絡を寄越すように!」』 || ˋ ᇫ ˊ ||
善子「!?」
侑「えーっと……?」
- 748 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:36:31.64 ID:6bHKz0F20
-
何やら事態がよく呑み込めないんだけど……。
善子「……そーゆーことか……」
ヨハネ博士は、気まずそうに頭を掻きながらも、どうやら何かを察したようだった。
リナ『とりあえず、鞠莉博士からはそれだけ! 私のことについては鞠莉博士から聞いてね!』 || > ◡ < ||
善子「わかったわ……」
侑「えっと、私はどうすれば……?」
私の知らないところで、何かが起こっているっぽいんだけど……。
リナ『うぅん、鞠莉博士とヨハネ博士の話だから、侑さんは気にしないで』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「そう……?」
まあ、リナちゃんが気にしないでと言うなら……。
善子「コホン……。気を取り直して……旅の調子はどうかしら?」
侑「あ……! そうそう、旅でたくさん集めたんです……!」
かすみ「あ、旅で集めたって言ったら……もしかして……!」
侑「いろんなトレーナーから貰ったサイン!!」
かすみ「いや、サインの話ですかっ!?」
侑「はい! ダリアのにこさん、コメコの花陽さん、ホシゾラの凛さん、ウチウラではルビィさんとダイヤさんのサイン……! それに鞠莉博士からも貰っちゃいました!」
歩夢「侑ちゃん、いつの間に……」
しずく「なんというか……さすが侑先輩……」
実は花丸さんにも書いてもらったんだけど、これは言っちゃいけないから、黙っておく。
かすみ「もう、侑先輩! これはただの観光の旅じゃないんですよ!?」
善子「あのね、侑……」
かすみ「ほら! ヨハ子博士も言ってやってください!」
善子「私、サイン書いてないんだけど」
かすみ「そっち!?」
侑「っは……言われてみれば、バタバタしてたから貰い忘れてた……! ヨハネ博士、サインください!」
善子「くっくっくっ……苦しゅうない……」
ヨハネ博士は私から色紙を受け取ると、サラサラとサインを書いていく。
侑「わーい! ありがとうございます!!」
善子「大切にするのよ?」
侑「はい!」
新しいコレクションが増えて、思わずホクホクしてしまう。
- 749 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:37:28.28 ID:6bHKz0F20
-
かすみ「一体なんの報告ですかぁ……」
歩夢「あはは……」
かすみ「はぁ……ま、かすみん、サインは集めてませんけど、ジムバッジは4つも集まったんですよ!」
侑「あ、私もジムバッジは5つ集めたよ!」
かすみ「かすみんこの流れでバッジの数も負けてるんですか!?」
しずく「かすみさん……ドンマイ」
かすみちゃんが悔しそうに項垂れる。
善子「さっきのサインラインナップからしても、地方の南を回ってきたのかしら? となると、セキレイ、ダリア、コメコ、ホシゾラ、ウチウラのジムよね」
侑「はい!」
善子「となるとかすみは、どんなルートだったの……? ジム4つを巡るルートって結構限られると思うけど……」
しずく「あ、えっと、私たちはサニーからフソウに渡って、ウチウラ、ホシゾラ、コメコ、ダリアと進んで、セキレイに戻ってきました」
かすみ「セキレイジムがまだなんですぅ〜……曜先輩が全然捕まらなくてぇ……」
善子「あぁ、なるほどね。曜だったら、たぶんサニーにいると思うわ」
しずく「前と同じように、まだサニーでお仕事をされているんですね」
善子「ええ。当分はあっちにいるって言ってたから……ジム戦をしたいなら、サニーに行った方が早いかもしれないわね」
かすみ「じゃあ、次の目的地はサニーかなぁ……」
しずく「あ、それじゃあ、今日は私、サニーに帰ってもいいかな? 皆さん、今日はさすがにご自分のお家に帰られるでしょうし……かすみさんも家に帰るって言ってたよね?」
かすみ「うん。さすがにセキレイに戻ってきたわけだし……」
しずく「それなら、私も今日くらいは家に帰りたいかな。ついでに、サニーで曜さんに会ったら、明日にでもジム戦をしてもらえるように、お願いしておくよ」
善子「確かにそれが確実かもね。曜って落ち着きがないから、ちゃんと予定押さえておかないと、なかなか捕まらないし」
かすみ「じゃあ、しず子、曜先輩に会ったらお願いね!」
しずく「うん、わかった」
というわけで、かすみちゃんはジム戦のために東に向かうみたいだ。
歩夢「私たちはどうする……?」
侑「うーん……今日はさすがに家に帰るけど……」
リナ『ジム巡りを続けるなら、次に目指すのは北のローズシティだと思うよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「だよね。なら、次はローズを目指そっか」
次は順当に、まだ行っていない北に進むことになりそうだ。
善子「あ、ちょっと待って。ローズに行くなら、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど……」
侑「お願い、ですか……?」
なんだろう……?
善子「ローズシティにいる真姫に渡して欲しいポケモンがいるの」
しずく「真姫さんって言うと……ローズジムのジムリーダーですよね?」
侑「渡して欲しいポケモンって言うのは……?」
善子「えっと、ちょっと待っててね」
- 750 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:38:29.03 ID:6bHKz0F20
-
そう言うと、ヨハネ博士は一旦奥の部屋へと下がっていく。
恐らく件のポケモンを探しに行ったのだろう。
すぐに目的のポケモンを見つけて戻ってきた博士は、
善子「この子よ」
そう言いながら、一個のボールからポケモンを出す。
ボールから出て来たのは、
「──ワォン」
黄昏色の毛色をした、オオカミようなポケモン。
侑「え……!?」
でも、私はこのポケモンにすごく見覚えがあった。
侑「こ、このポケモンってもしかして……!! 千歌さんのルガルガンじゃないですか!?」
歩夢「そうなの?」
侑「うん! この黄昏色の体毛……間違いないよ!」
この“たそがれのすがた”のルガルガンはオトノキ地方では、今のところ千歌さんしか持っていないと聞いたことがある。
侑「数が少ないから、研究のために千歌さんの手を離れてることがあるって噂には聞いてたけど……まさか、ツシマ研究所にいたなんて……!」
善子「あら……よく知ってるわね。ただ、つい最近千歌から手持ちに戻したいって言われてね」
「ワォン」
しずく「千歌さんの……ポケモン……ですか……」
歩夢「しずくちゃん? どうかしたの?」
しずく「あ、いえ、なんでもありません。……えっと、それでどうしてそのルガルガンをローズシティの真姫さんに?」
善子「健康診断のために、千歌の手持ちに返す前に、一度ローズで診てもらうのよ。あそこは医療設備も整ってるからね」
かすみ「えー……でも、それくらいならパソコンで転送しちゃえばいいじゃないですかぁ〜……?」
善子「そうしたいのは山々なんだけどね……チャンピオンのポケモンってなると、欲しがる人なんて、ごまんといるから、転送でやり取りするのは不安があるのよ」
リナ『確かに、万が一でも、クラッキングで気付かない間に、転送先を変えられてたりしたら、大事だね』 || ╹ᇫ╹ ||
善子「そういうこと。だから、出来るだけ人から人で受け渡しする方が確実なのよ。ただ、私もちょっと手が離せない研究があって、ここを離れる時間を作るのが難しくって……」
侑「なるほど! そういうことなら、私が真姫さんに届けます!」
善子「そうしてくれると助かるわ」
侑「はい! ……それに、あの千歌さんのポケモンと一瞬でも一緒に過ごせるなんて、貴重だよ……貴重すぎるよ……! 絶対に私がやりたい……!」
「ブイ…」
リナ『侑さん、心の声が漏れだしてる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「あはは……」
歩夢とリナちゃんが苦笑してる──ついでにイーブイも呆れてる──けど……これは絶対私がやりたいんだもん! 仕方ないじゃん。
- 751 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:39:10.51 ID:6bHKz0F20
-
善子「あー……ただ……。お願いしておいて悪いんだけど……すぐにってわけにはいかないのよね……」
侑「? どういうことですか?」
善子「ホント唐突に言われたもんだから、こっちもルガルガンの必要な観察データがまだ取り切れてないのよ……。今大急ぎで進めてるから、明後日には送り出せると思うんだけど……」
リナ『そうなると……すぐには、ローズに行けないね』 || ╹ᇫ╹ ||
しずく「そういうことでしたら……私たちが、ローズまでお届けしましょうか? サニーで曜さんとジム戦を終えたら、私たちもローズに向かうと思いますし……」
侑「いや! 絶対、私がやりたい!」
歩夢「あはは……侑ちゃんなら、そう言うよね」
千歌さんの手持ちと過ごせるチャンス……! これだけは絶対に譲れない……!
歩夢「それなら……私たちも、かすみちゃんと一緒にサニータウン方面に行ってもいいかな?」
かすみ「え? かすみんは別に構いませんけど……」
歩夢「私たち、今回の旅でサニーにはまだ行ってないし……太陽の花畑を、ポケモンたちに見せてあげたいの」
太陽の花畑といえば、一年中四季折々の花が咲き誇る、オトノキ地方でも有数の大きな花畑だ。
かなり穏やかな場所で、野生のポケモンが大人しく、ポケモントレーナーでなくても安全に訪れることが出来る。
特に歩夢は、あそこがすごくお気に入りで、この季節になると毎年一緒にピクニックに出かけていたっけ。
歩夢「私の大好きな景色……旅で出会ったみんなにも見て欲しくって……」
侑「そういうことなら!」
歩夢「えへへ、じゃあ決まりだね♪」
歩夢は嬉しそうに言う。
善子「それじゃ、悪いけど……明後日にまた、研究所までルガルガンを引き取りに来てもらえる?」
侑「はい! わかりました!」
かすみ「となると、しばらくは侑先輩と歩夢先輩も一緒ってことですね!」
歩夢「うん、よろしくね♪」
リナ『旅路が賑やかになるね。リナちゃんボード「ハッピー♪」』 ||,,> ◡ <,,||
というわけで、私たちはしばらくかすみちゃんたちと行動を共にすることになりました。
明日は太陽の花畑を抜けて、いざサニータウンへ……!
🎹 🎹 🎹
しずく「──それでは皆さん、また明日」
侑「うん! またね、しずくちゃん!」
歩夢「気を付けて帰ってね」
しずく「はい、ありがとうございます」
かすみ「しず子〜、曜先輩のことお願いね〜!」
しずく「うん、任せて!」
しずくちゃんは手を振って、サニータウンへと帰っていった。
- 752 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:39:48.91 ID:6bHKz0F20
-
侑「それじゃ、私たちも帰ろっか」
「ブブイ」
歩夢「うん」
かすみ「はーい!」
3人で帰り道を歩き出す。
歩夢「なんだか、こうして3人で歩いてると、スクールに居た頃みたいだね」
侑「あはは、確かにそうかも♪」
かすみ「でもでも、今はあのときとはもう違いますから!」
「ガゥ♪」
かすみちゃんが元気に言うと、ゾロアが同調するように鳴く。
かすみ「今はかすみんたち、ポケモントレーナーなんですから!」
歩夢「ふふっ、そうだね♪」
歩夢がくすくすと笑う。
なんだか、いつものセキレイシティの景色の中で、ポケモントレーナーになった歩夢やかすみちゃんと歩くのは不思議な感覚だった。
旅に出る前には考えられないくらい、いろんな人やポケモンと出会って、これまでにいろんなことがあった。
そして、何より──
「ブイ?」
私には新しい仲間がいる。
歩夢にも、かすみちゃんにも、しずくちゃんにも。
リナ『侑さん、なんか嬉しそう』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「うん! 私たち、前に進んでるんだなって思って、なんか嬉しいなって」
リナ『そっか。侑さんが嬉しそうにしてると私も嬉しい』 || > ◡ < ||
侑「ふふ、ありがとうリナちゃん」
そして、リナちゃんもこの旅で出会った大切な仲間だ。
このオトノキ地方での旅は、こうしてセキレイシティに戻ってきたことによって、地方全体の凡そ半分くらいを旅してきたことになると思う。
侑「この先には……何があるのかな……!」
私は旅の続きが楽しみで楽しみで堪らない。
大きな期待を胸に、未来に希望を抱きながら、私は無限に広がっている空を仰いで、この先に続いているまだ見ぬ地を思い描きながら、帰路に就くのだった。
🎹 🎹 🎹
……さて。
久しぶりに我が家へ帰宅した私だったんだけど……。
侑「まさか帰宅早々、夕飯の買い出しをやらされるとは……」
「ブイ?」
- 753 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:40:56.19 ID:6bHKz0F20
-
セキレイデパートの中をげんなりした顔で歩いていた。
侑「まあ、突然帰ってきたから、食材が足りなかったってのは、わかるけどさ……」
リナ『侑さん侑さん! 今日の“パイルのみ”普段の価格よりも22%もお得だよ』 || > 𝅎 < ||
侑「リナちゃんが毎日買い物についてきてくれたら、お母さん喜びそうだね……」
帰るや否や、買い物袋とお金を渡されて、自宅をUターンしてしまったため、まだロクに旅の仲間も紹介出来てないし……。
帰ったら、リナちゃんや新しく捕まえたポケモンたちも紹介しないとね。
侑「ま……余ったお金で好きなモノ買っていいって言ってたし、いっか……」
リナ『侑さんのお母さん、太っ腹だね』 || > ◡ < ||
太っ腹って言うなら、むしろ久しぶりに帰ってきた娘を労って欲しいものなんだけど……。
リナ『ところで、何か欲しいものとかあるの?』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「うん。まあ、なんとなくは」
デパートの中をうろうろしながら、私はお花のコーナーに足を向ける。
リナ『お花買うの?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「うん。ちょっとね」
私は並べられた色とりどりの花を眺めながら考える。
侑「どれがいいかな……」
リナ『……あ、もしかして……贈り物?』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「……ま、まあ……そんなところかな、あはは」
リナちゃん、意外と鋭いんだよなぁ……。ちょっと恥ずかしい。
並べられた花は、一輪の物から、ブーケになっているもの、ドライフラワーや、アクセサリーに加工してあるものもある。
そんな中、
侑「あ……これ……」
小さな、花飾りが私の目に留まった。
横にある小さなポップに、この花飾りに使っているお花の花言葉が書いてあって──
侑「……これにしよう」
私はこれしかないと思い、それを手に取って、レジに向かうのだった。
- 754 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:41:34.03 ID:6bHKz0F20
-
🎹 🎹 🎹
──その夜。
侑「んー……やっぱ自分の部屋は落ち着くなぁ……」
自室のベッドに寝転がってくつろいでいた。
突然の帰宅だったのに、お母さんが私の好きなものをたくさん作ってくれて、お腹もいっぱいだ──その夕飯のための買い出しに駆り出されたのは少々不服ではあるけど……。
──まあ、その買い出しのお陰で、良いものも買えたし、いいんだけどさ。
私がリラックスして、だらけていると、
「ブイ…」
イーブイがちょっと不機嫌そうに鳴く。
侑「ああ、ごめんごめん! 毛繕いするんだった! おいで」
「ブイ」
イーブイは呼ばれると、私の膝の上で素直に丸くなる。
手に取ったブラシで毛繕いをしてあげると、
「ブイィ♪」
ご機嫌そうに鳴く。
リナ『“おくびょう”だったイーブイもすっかり侑さんに慣れたね』 || > ◡ < ||
侑「慣れすぎて、軽くふてぶてしいけどね……」
「ブイ?」
お父さんとお母さんの前では、人見知りを発動して、お人形さんみたいになっていたのに……。
そんな家族での夕食の際、当初の計画通りイーブイ以外の手持ちたちも家族に紹介したし、
リナ『それにしても、侑さんのお父さんとお母さん、二人とも優しかった』 || > ◡ < ||
リナちゃんのことも、しっかりと紹介出来た。
もちろん、最新型AIではなくロトム図鑑だと説明したけど……。
お父さんもお母さんも、最初は驚いていたものの……ロトム図鑑というものがあるのを説明したら、すんなり受け入れてくれて、しばらく私そっちのけでリナちゃんと談笑していたくらいだ。
リナ『いっぱいお話し出来て嬉しかった』 || > ◡ < ||
侑「お父さんもお母さんも、順応性高いんだよね……」
のほほんとしているというかなんというか……。
まあ、変に勘繰られるよりずっといいんだけど。
リナちゃんともすぐ仲良くなれるくらいの順応性のお陰で、イーブイ以外の手持ちたちも、可愛がってくれていたし。
侑「ライボルトを撫でまくってるときはちょっとひやひやしたけど……」
「ライボ…」
苦笑いしながら言うと、いつものように部屋の隅で伏せて目を瞑っていたライボルトが静かに鳴く。
- 755 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:42:36.17 ID:6bHKz0F20
-
リナ『ライボルト、あんまり触られるの好きじゃないもんね』 || ╹ᇫ╹ ||
ライボルトは頭の良い子だから、気を遣って大人な対応をしてくれたんだろう……。
侑「お母さんたちがごめんね、ライボルト」
「…ライボ」
相変わらず、目を瞑ったまま、気にするなとでも言わんばかりに相槌だけ打つライボルト。……クールだ。
イーブイの毛繕いをしながら、ライボルトと会話していると、
「ワシャッ」
侑「おとと……」
頭の上にワシボンが止まる。
侑「ワシボンも毛繕いしてほしいの?」
「ワシャ!」
侑「イーブイ、ワシボンも毛繕いして欲しいって」
「ブイ…」
私がそう言うと、イーブイは私の膝の上からぴょんと飛び降りて、ワシボンに場所を譲る。
侑「よしよし、仲良く出来て、良い子良い子」
「…ブイ♪」
侑「じゃあ、ワシボン、毛繕いするよー」
「ワシャ♪」
リナ『侑さんの手持ちたちも随分打ち解けたよね』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「やっぱり、一緒に旅してると、仲間意識が湧くんだろうね」
手持ち同士の仲が悪かったりすると本当に大変だって言うから、その点は助かっている。
ただ、
「ニャァ〜」
ニャスパーはなんというか……我が道突き進むというか、周りのポケモンにあまり関心がない。
相変わらず、リナちゃんを目で追いかけながら、とてとてと歩き回っていて、イーブイやワシボンと遊んだりもしないし……。
侑「ニャスパーは本当にリナちゃんが好きだよね……」
「ニャァ〜」
リナ『リナちゃんボード「テレテレ」』 ||,,╹ᨓ╹,,||
このニャスパー……本当にどこの誰のポケモンなんだろう。
リナ『もっと動きまわった方がいいのかな』 || > ◡ < ||
「ニャァ〜」
リナちゃんが飛び回ると、ニャスパーは上を見上げながら、短い足でとてとてと追いかけ始める。
正直この光景に関しては、微笑ましいことこの上ない。
- 756 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:43:17.61 ID:6bHKz0F20
-
侑「やっぱネコポケモンは動くものが好きなんだね」
リナ『だね』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「……よし! ワシボン、毛繕い終わったよ」
「ワシャ♪」
「ブイブイ」
「ワシャ〜」
しっかり毛並みを整えてあげると、ワシボンはご機嫌に鳴きながら、イーブイと追いかけっこを始める。
侑「イーブイ、ワシボン、あんまり暴れちゃダメだよ〜」
「ブイ♪」「ワシャ〜」
イーブイ、ワシボン、ライボルト、ニャスパー、なかなか個性的な手持ちになってきた気がする。
そして……最後の手持ち、と言っていいのかな。
私はその子をボールから外に出す。
丸いラグビーボール大くらいの──タマゴ。
リナ『そのタマゴ、全然変化がないね』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「うん……」
たまにボールの外に出して、撫でてみたり、優しく抱きしめてみたりしているけど……あんまり変化はない。
侑「本当に生まれてくるのかな……」
タマゴに直接耳を当ててみるけど……特に何も聴こえない。
どんなポケモンが生まれてくるのかわからないと、この子をどうするかの方針も立たないんだけどなぁ……。
リナ『まだまだ時間がかかりそうだね』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「そうだね……」
まあ、根気よく待つしかないかな……。
何か早く生まれさせる方法があるわけでもないし。
リナ『……あ、侑さん』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「ん?」
リナ『歩夢さんから、メールだよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「歩夢から?」
リナ『ベランダ、今出られるかって、訊いてる』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「ん、わかった」
私は上着を羽織って、ベランダの外に出る。
ベランダに出ると──歩夢が隣の部屋のベランダの手すりにもたれかかりながら、空を見ていた。
私も歩夢と同じようにベランダの手すりに手を掛けながら、歩夢に声を掛ける
侑「歩夢」
歩夢「あ、侑ちゃん。ごめんね、急に呼び出して」
侑「うぅん、平気だよ。どうしたの?」
歩夢「なんだか……お話ししたくなっちゃって」
侑「ふふ、そっか。旅に出る前はよくこうして話してたもんね」
- 757 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:44:13.12 ID:6bHKz0F20
-
そんなに前のことじゃないはずなのに、なんだかこうしてベランダで話すのも懐かしい気持ちになってくる。
そう思っていたのは歩夢も同じだったようで。
歩夢「ふふ♪ なんだか、そんなに前のことじゃないのに、懐かしい気持ちになっちゃうね♪」
そう言って笑う。
歩夢「侑ちゃん、お部屋で何してた?」
侑「ポケモンたちと遊んでた」
歩夢「ふふ、私と同じだね♪」
侑「旅で出会ったポケモンたちが、自分の部屋にいるのはなんか不思議な気分だけどね」
歩夢「そうだね。……私たち、旅してきたんだね」
歩夢は空を見上げながら、しみじみと言う。
歩夢「ちょっと前まで……旅してる自分を全然想像出来なかったんだけど……」
侑「そうだね……」
歩夢「旅に出たら、やっぱり戸惑うことばっかりで……大変だなって思うこともいっぱいあったけど……」
侑「うん」
歩夢「旅に出てよかったって……思ってるよ」
侑「なら、よかった」
歩夢「侑ちゃんが居てくれたお陰だよ♪」
侑「それはこっちの台詞だよ。歩夢、いつもありがとう」
歩夢「えへへ……なんか、照れちゃうね」
歩夢は嬉しそうにはにかむ。
そんな歩夢を見て、今かなと思った。
侑「ねぇ、歩夢」
歩夢「?」
侑「実は、歩夢にプレゼントがあるんだ」
歩夢「え、プレゼント……?」
侑「歩夢のお陰で旅が出来て、歩夢のお陰で毎日が幸せだからさ……そのお礼というか」
歩夢「そ、そんな……感謝してるのはこっちだよ……! それに私、何も用意してないし……」
侑「私が歩夢にあげたいって思っただけだからさ。受け取って欲しいな」
そう言って、私は上着のポケットから、小さな小箱を取り出して歩夢に渡す。
歩夢「……開けていい?」
侑「もちろん」
歩夢がゆっくりと小箱を開けると──
歩夢「……わぁ♪ 可愛い……♪」
中から、桃色の花飾りが顔を出す。
- 758 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:45:53.91 ID:6bHKz0F20
-
侑「さっき、夕飯の買い物に行ったときにたまたま見つけて……歩夢に似合うと思ってさ」
歩夢「ありがとう、侑ちゃん……♪」
歩夢はそう言いながら、早速花飾りを着けて見せてくれる。
歩夢「……どうかな?」
侑「ふふっ。やっぱり私が思ったとおりだ。すっごく、よく似合ってるよ♪」
歩夢「えへへ……ありがとう……///」
歩夢は照れ臭そうに笑う。
侑「この旅をしててさ……私、歩夢の知らないところ、たくさんあったんだなって思ったんだ」
歩夢「そうなの?」
侑「うん。だから、ケンカもしちゃったし……」
歩夢「あ……そうだね……」
侑「あ、でも、あのときケンカしちゃったことは、今となってはよかったって思ってるよ。ちゃんとお互い思ってることを言い合えたから」
歩夢「侑ちゃん……。うん、私もそう思うよ」
侑「だからさ、その……なんていうか……。これから先、もしかしたら、また気持ちがすれ違っちゃうこととか、一緒にいられないことが、あるのかもしれないけど……」
歩夢「……うん」
侑「……私はいつでも、歩夢を大切に思ってる。そんな気持ちを込めたから……何かあったら、その花飾りを見て、思い出してくれたら嬉しいなって……」
歩夢「侑ちゃん……。……うん、わかった」
歩夢が優しい表情で笑い返してくれる。本当に心の底から、私の言葉を受け止めて笑ってくれているんだって。
なんだか、それが妙に気恥しくて、
侑「……そ、それじゃ、そろそろ明日に備えて寝ないとね///」
思わず、話を切り上げてしまう。
歩夢「ふふっ♪ そうだね♪」
くすくすと笑いながら言う歩夢。
なんだか、今の私の気持ちを見透かされているみたいで、余計恥ずかしくなってくる。
歩夢「おやすみ」
侑「う、うん、おやすみ! また明日!」
半ば逃げるように、部屋に戻ろうと踵を返す。
歩夢「侑ちゃん」
侑「?」
歩夢「私の侑ちゃんへの想いも、ずっと変わらないから……安心してね」
侑「……うん、ありがとう」
──なんだかこそばゆい気持ちだけど、今日は良い夢を見られそうな気がする。
ふと見上げた夜空では、旅していたときと変わらず、月明りが優しく私たちを照らしていたのだった。
- 759 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:46:29.41 ID:6bHKz0F20
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>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【セキレイシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.39 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.38 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.34 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.29 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
タマゴ なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:136匹 捕まえた数:4匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.38 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.36 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.34 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
タマザラシ♀ Lv.29 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:146匹 捕まえた数:15匹
侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 760 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 21:01:41.49 ID:6bHKz0F20
-
■Intermission😈
──ツシマ研究所にて。
子供たちを家に帰して、ひととおり仕事を片付けたところだ。
善子「……さて……気は進まないけど、連絡しようかしらね……」
私はパソコンの前に座って、ビデオ通話を掛ける。
アプリの呼び出し音が鳴る中、先方が応じるのを待つ。
10秒……20秒……30秒……。
善子「出ない……」
あのルーズな古巣の師を思い出して、溜め息が出る。
連絡してくるときは突然なのに、こっちから連絡してもなかなか捕まらないのだ。昔から。
1〜2分待って、諦めようかと思ったとき、
鞠莉「チャオ〜、善子〜」
やっと、マリーは通話に応じてくれた。
善子「それでマリー、用件は?」
鞠莉「そっちから掛けてきたのに、すごい切り出し方するわね……。そんな言い方するってことは、リナに会ったのね」
善子「ええ。とりあえず、あのリナってポケモン図鑑がなんなのか、教えて欲しいんだけど」
鞠莉「リナは自分のこと、ロトム図鑑って言ってなかった?」
善子「……ロトム図鑑じゃないことくらいわかるわよ」
鞠莉「あら……さすがね」
善子「誰の研究所で助手やってたと思ってるのよ……」
ロトム図鑑とはそれなりに付き合いが長い。一目見れば、違うことはすぐにわかった。
問題は──じゃあ果たして何なのかということ。
鞠莉「AIよ」
善子「マリーが作った……わけないわよね」
鞠莉「あら、失礼ね……マリーには出来ないってこと? わたしはこれでも、そっち方面も出来るのよ?」
善子「それは知ってる。だけど、あのポケモン図鑑──リナはあまりに感情が豊かすぎる」
あんなに感情豊かなAIは、見たことがない。
というか、今の技術で作れるのかも怪しい。
- 761 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 21:02:27.08 ID:6bHKz0F20
-
鞠莉「……ふふふ」
善子「何笑ってんのよ」
鞠莉「さすが、わたしの弟子だと思って」
善子「誰がマリーの弟子よ……」
鞠莉「あなたの言うとおり、あんなに感情豊かなAIは今の技術では作れない……」
善子「じゃあ、あのリナってポケモン図鑑は何?」
鞠莉「逆に聞くけど、なんだと思う?」
善子「……」
ああもう……この人のこういうところが苦手だ。
ただ、何故こんなまどろっこしい訊き返し方をしてくるのか。それを考えればなんとなくわかった。
善子「……マリーも知らないってことね」
鞠莉「正解。いや、正確には、確信が持てていないだけだけどね」
善子「……もう一度聞くけど、あのリナってポケモン図鑑はなんなの? いや……違うか──」
私は、この質問では不十分だと思って言い直す。
善子「──私にあの子を託して、どうするつもりだったの?」
あのポケモン図鑑は、侑の手に渡らなければ私か、千歌の手にあるはずのものだった。
確認をしなかった私の落ち度だけど──当初は本当に図鑑データ収集の雑用をさせられると思ったし──この人選には、意味がある。
善子「私か千歌にあのポケモン図鑑を任せるってことは──自分であんまこういうこと言いたくないんだけど……マリーにとって信頼のおける人物の手に置く必要があった」
鞠莉「……続けて」
善子「そして、何故マリーの手元にあるだけではダメなのか。……あの子により多くのデータを与えるため。言うなれば……リナに進化を促す、とでも言えばいいのかしら」
恐らく自己学習型のAIだと言うのは少し会話をしただけでも、想像に難くない。
なら、そのために必要なのは経験だ。それを得やすい人のもとに預けておくのは理に適っている。
鞠莉「……ふむ。当たらずとも遠からずね」
善子「そりゃ、どーも……」
とはいえ、私の推測で考えられるのはここまでが限界。
ここでマリーから正解と言ってもらえなかったということは──私には知りえない情報がまだあるということだ。
鞠莉「リナを成長させたいというのは合ってるわ。あなたの考えているとおり。ただ、進化って言うのは……正確じゃないかな」
善子「まあ……成長でも進化でも、表現はなんでもいいんだけど……」
言い回しに拘るのは、ある意味研究者らしい返答だ。
- 762 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 21:03:00.05 ID:6bHKz0F20
-
善子「その上で、あの子に経験を積ませて……何が起こるの?」
鞠莉「……リナは……あの子はね──Keyよ」
善子「……キー……? 鍵?」
鞠莉「そう──これから、この地方で起こる、何かに対する重要なKey factor」
善子「……何か……?」
鞠莉「善子、あの子……リナの正体は──」
私は、マリーの言葉を聞いて……驚き、目を見開いてしまった。
そんなこと……ありえるの……?
………………
…………
……
😈
- 763 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:43:59.75 ID:hNufaooJ0
-
■Chapter039 『歩夢と桃色の花』 【SIDE Ayumu】
歩夢「──ん〜……! 今日はぽかぽかしてて、気持ちいいね〜……」
侑「こうぽかぽか陽気だと眠くなってくる……」
「ブイ…」
歩夢「ふふ♪ 確かに、お昼寝したくなっちゃうね♪」
眠そうな侑ちゃんとイーブイを見て、くすくすと笑ってしまう。
リナ『今日は一日中晴れだと思うよ! お散歩日和になってよかったね、歩夢さん!』 || > ◡ < ||
歩夢「うん♪」
私たちは今、セキレイの街を東にある9番道路方面に向かって歩いているところ。
まだ午前中だと言うのに、今日はぽかぽかとした、まさにお散歩日和な日だ。
二人で歩き慣れたセキレイの街を進んでいると、
かすみ「──侑せんぱ〜い! 歩夢せんぱ〜い!」
「ガゥガゥ♪」
かすみちゃんの呼ぶ声が聞こえてきて振り返る。
侑「おはよう、かすみちゃん」
歩夢「おはよう♪」
かすみ「おはようございます! って、あー! 歩夢先輩、なんですかなんですか、その新しい髪飾り! めっちゃ可愛いじゃないですかぁ〜!」
歩夢「あ、これ……えへへ、実は昨日、侑ちゃんに貰ったんだ……///」
かすみ「えー!? ずるいずるい! 侑先輩、かすみんにはプレゼントないんですかぁ〜!?」
侑「あ、えーっと……ごめん。かすみちゃんの分はちょっと用意してないや……」
かすみ「えー……むー……まあ、いいですけど。その代わり、今日のジム戦の応援、全力でお願いしますね」
侑「あはは、それなら任せて!」
というわけで、私たちはこれからサニータウンへ向かうために、セキレイシティを東に進んでいきます。
そしてその途中には──太陽の花畑がある。
私はこの太陽の花畑をすごくすごく楽しみにしている。
特に今日みたいなぽかぽか陽気な日に、あのお花畑をお散歩出来たら、きっとすごく気持ちいいに違いない。
歩夢「早くみんなに見せてあげたいな……♪」
素敵な景色を、私の大切なポケモンたちに見せてあげられるんだと思っただけで、気持ちがうきうきしていた。
- 764 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:44:34.78 ID:hNufaooJ0
-
🎀 🎀 🎀
──セキレイを東に抜けて、しばらく9番道路を歩いた先、
歩夢「見えてきたよ!」
気持ちが逸っていたのか、自然と少し前を歩いて、先導するような形になっていた私は、侑ちゃんとかすみちゃんを振り返りながら、前方を指差す。
そこには──色とりどりの花が、ずーっと先まで広がっている光景。
侑「うわぁ〜! 久々に来たけど、やっぱすごいね!」
「ブィ〜〜!!!」
歩夢「うん!」
ここが、セキレイの東にある大きなお花畑──太陽の花畑だ。
かすみ「かすみんはちょっと前に来たんですけど……そのときとなんかちょっと違うかも?」
「ガゥゥ?」
歩夢「ちょうど開花時期のお花もあるからだと思うよ♪ この時期は、一番咲いてるお花の種類が多くて綺麗なんだ♪」
かすみ「へーそうなんですね! 前来たときは、コソ泥さんを追いかけてて、ゆっくり見る暇もなかったけど……こうしてみると、やっぱり絶景ですね!」
歩夢「うん!」
まさに花の絨毯と言っても差し支えない光景を目の当たりにしながら、
歩夢「みんな、出てきて!」
みんなをボールから出す。
「バースッ!!」「マホイ〜♪」「タマァ…」
エースバーンは一面に広がる風景に目を丸くしていたけど、
「バスッ♪」
ご機嫌になって、花畑を駆け出す。
進化した今でも、走り回るのが大好きみたい。
「マホ〜♪」
マホイップは、近くにあるお花に近付いて、匂いを嗅いでいる。
「マホ〜♪」
歩夢「ふふっ♪ いい匂いするよね♪」
マホミルの頃から、甘い匂いが好きだったマホイップも、ニコニコしながら、あっちこっちの花の匂いを嗅いでいる。
ただ、そんな中、
「タマ…」
タマザラシは私の足元から離れようとしない。
- 765 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:48:06.20 ID:hNufaooJ0
-
歩夢「タマザラシ、お花綺麗だよ?」
「タマァ〜…」
侑「歩夢と離れたくないんじゃない?」
歩夢「そっか……じゃあ、一緒にお花、見よっか♪」
「タマァ…♪」
頭を撫でながら言うと、タマザラシは嬉しそうに鳴く。
この子はさみしがりやで甘えん坊だから、綺麗なお花畑よりも、私から離れたくないみたい。
まあ、私から離れないのはサスケも同じなんだけど……。
「シャボ…」
いつものように私の肩の上にいるサスケは、鳴きながら軽く目を開けたけど、
「シャボ…zzz」
すぐに目を瞑って、眠りだす。
侑「あはは……サスケは相変わらずだね」
リナ『ご飯あげれば起きるかもよ?』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「花より団子だからなぁ……サスケは……」
これに関しては昔から変わらないかも。
かすみ「それじゃ、せっかくですし、かすみんもポケモンたちを外に出してあげようかな〜♪」
侑「私も!」
侑ちゃんとかすみちゃんが私に倣うように、自分たちの手持ちを外に出す。
「ワシャッ♪」「ライボ」「ニャァ〜」
「ジュプトッ」「ザグマァ〜」「……サ」「ブクロン♪」
ボールから飛び出すと、ワシボンとジグザグマが元気よく飛び出して行く。
侑「あんまり、遠くに行っちゃダメだよ〜?」
「ワシャ〜」
かすみ「ジグザグマ〜! 何か見つけたら、ちゃんとかすみんのところに持ってくるんだよ〜!」
「クマァ〜♪」
一方で、ニャスパーとサニーゴはいつもどおり、ぼんやりしている。
「ニャァ〜」「…………サ」
侑「ニャスパー。遊んできていいんだよ?」
「ニャァ〜…?」
侑ちゃんが言うと、ニャスパーは近くの花に顔を近づけたり、手でてしてしと叩いてみたりしている。
かすみ「サニーゴは……うーん、まあいつもどおりですね」
「…………ニ」
サニーゴは興味があるのかないのか、いつもどおりの無表情で、花畑の上をゆっくりと浮きながら移動している。
- 766 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:48:39.50 ID:hNufaooJ0
-
かすみ「あれ、楽しいのかな……」
リナ『たぶん……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「イーブイも、行っていいよ」
「ブイ♪」
侑ちゃんの肩の上で待機していたイーブイも、侑ちゃんから許可をもらうと、元気よく花畑に飛び出して行く。
そんな、イーブイを追いかけるように、
「ガゥガゥ♪」
ゾロアも、駆け出す。
かすみ「やっぱり、こ〜んな大きなお花畑があると、みんな開放的な気分になるんですね!」
侑「ふふ、そうだね。せっかくだし、タマゴも外に出してあげよっかな」
侑ちゃんはタマゴをボールから出して、落とさないようにしっかりと胸に抱える。
歩夢「タマゴ、何か変化あった?」
侑「全然……。でも、こうやって歩いてたら、何か刺激になるかもしれないしさ」
かすみ「昨日もちょっとだけ見せてもらいましたけど、一体どんなポケモンが生まれるんでしょうね?」
侑「そればっかりは生まれてみないとかなぁ」
そんな話をしながら、私たちも花畑の中を歩き出す。
すると、タマザラシはコロコロと転がりながら、さらにその後ろから、ジュプトルとライボルトが警護でもしているかのように、ゆっくりと付いてくる。
かすみ「ジュプトルも遊べばいいのに……」
侑「ライボルトとジュプトルは、遊ぶって感じじゃないみたいだね」
歩夢「でも、お花に囲まれて、嬉しそうだよ♪」
いつもどおりのクールな表情でこそあるものの、足取りは気持ち軽やかに見える。
かすみ「あれ……そういえば、ヤブクロンは……?」
そういえば、飛び出して行った子たちの中にヤブクロンはいなかった。かすみちゃんがキョロキョロと辺りを見回すと、ヤブクロンはたくさんの花の影に隠れていて、
かすみ「ああ、そんなところにいたんだね。……って!?」
「ヤブ…」
もしゃもしゃとお花を食べているところだった。
- 767 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:49:44.85 ID:hNufaooJ0
-
かすみ「わー!? ヤブクロン、勝手に食べちゃダメでしょ!?」
「ヤブ…?」
侑「かすみちゃんのヤブクロン、お花食べるの?」
かすみ「は、はい……お花が大好物なんです……。でも、お花畑の花は食べちゃダメでしょ!」
「ヤブ…」
かすみ「そんな不機嫌そうな顔されても……勝手に食べたら、かすみんが叱られちゃいますよぉ……」
歩夢「うーん……ちょっとくらいなら大丈夫だと思うよ?」
かすみ「えぇ……? そんな、歩夢先輩まで……。管理してる人とかに叱られちゃわないですか……?」
リナ『太陽の花畑には管理人はいないよ』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「はぇ……? え、だって、お世話してる人がいるでしょ?」
歩夢「あのね、かすみちゃん。太陽の花畑は、自然のお花畑で、人の手は入ってないんだよ」
かすみ「え!? こんなに大きくて、いろんな種類のお花があるのに!?」
かすみちゃんが驚くのも無理はない。
私も昔は、誰かが手入れをして、作ったものだと思っていたもの。
リナ『この花畑は花にとって、特別な環境になってるんだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「特別な環境って、具体的には?」
歩夢「ここのお花畑はね、太陽のエネルギーに溢れてるって言われてるの」
かすみ「太陽のエネルギーに溢れてる……?」
歩夢「うん。あそこにある大きな花……見える?」
私は花畑の中央の方を指差す。
かすみ「ああ、あのでっかいヒマワリですよね! ここの名物ですから、あれは知ってますよ!」
侑「確か……大輪華・サンフラワーだっけ?」
かすみ「どうすれば、あんなに大きく成長するんですかねぇ……」
歩夢「あのヒマワリはね、太陽のエネルギーの塊だって言われてるの」
侑「太陽のエネルギーの塊……?」
かすみ「えぇ? じゃあ、あのおっきなヒマワリが、周りのお花を育ててるって言うことですかぁ?」
かすみちゃんが不思議そうに小首を傾げる。
歩夢「えっと……進化の石ってあるでしょ?」
侑「ああ、“ほのおのいし”とか“みずのいし”とかのことだよね」
歩夢「うん。あれは小さい手の平のサイズの石なんだけど……自然界には、あの進化の石と同じようなエネルギーを持った場所があるんだって」
リナ『ここはそんな“たいようのいし”のエネルギーが満ちてる場所って言われてるんだよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
かすみ「え? じゃあ、“たいようのいし”いらずってことですか?」
歩夢「うん。チュリネやヒマナッツはここにいるだけで、進化することがあるみたいだよ」
かすみ「え!? ほ、ホントに“たいようのいし”いらずだった……」
リナ『そんなエネルギーの恩恵を受けて、多くの花が自生してるんだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「でも、どうしてそんなエネルギーがここにはあるの?」
リナ『正確な理由はわかってないみたい……。私のデータにもない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「でもね、あのサンフラワーにまつわる伝説は残ってるんだよ」
かすみ「伝説ですか?」
- 768 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:51:17.05 ID:hNufaooJ0
-
私は、このお花畑が好きでもっと知りたくて……以前、学校の図書館で調べた、大輪華の伝説のことを話し始める。
歩夢「ここは最初は何もなかったんだけど……。このオトノキ地方に最初の輝きを与えたと言われるポケモン──ディアンシーは自らの輝きを地方中に分け与えたんだって」
かすみ「輝きって、なんかふわふわした言い方ですね?」
リナ『今ではこの輝きって言うのは生命エネルギーだったとか、宝石や鉱石だったんじゃないか、なんて言われてるね』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「うん。その輝きの一つはここ……太陽の花畑に。大きな大きな、太陽の輝き。その太陽の輝きの上に、たまたま一つのヒマワリの種が芽吹いたんだって。そして、そのヒマワリの種は太陽の輝きの中に芽を伸ばして──大きく、大きく成長した」
私は、大輪華を見上げる。
侑「……もしかして、その太陽の輝きって……」
歩夢「うん。巨大な“たいようのいし”だったんじゃないかって言われてるみたい」
“たいようのいし”のエネルギーを吸って成長したから、サンフラワーはあんな大きな大輪を咲かせたと考えられているそうだ。
歩夢「だから、サンフラワー自身が強い太陽のエネルギーを放って、土地を潤し続けてる。そんな場所だから、長い年月を掛けて、自然といろんな種類のお花が集まってきたんだって」
かすみ「へ〜……なんだか、壮大な話ですねぇ……」
侑「だから、人の管理は必要ないんだね」
歩夢「うん。あ、でもね……人以外がお花のお世話をしてるんだよ」
侑・かすみ「「人以外……?」」
侑ちゃんとかすみちゃんの声が重なる。
歩夢「えっとね……」
私はキョロキョロと辺りを見回す。
真ん中の方に来ると、いつもだいたい何匹かいるんだけど……そう思って、周囲を確認していると、
歩夢「あ、いた……」
「エッテ」「エッテ〜」「エッテエッテ♪」
歩夢「あの子たちがお世話してるんだよ」
少し離れたお花の上で、漂うように飛んでいる、小さなポケモンたちを指差す。
かすみ「わ、可愛い〜♡」
侑「あのポケモンは……確か、フラエッテだっけ?」
リナ『フラエッテ いちりんポケモン 高さ:0.2m 重さ:0.9kg
自分の パワーを 花に 与え 心を こめて 世話を する。
あちこちの 花畑を 飛び回り 枯れかけた 花を 見つけると
世話を 始める。 花の 秘められた 力を 引き出して 戦う。』
侑「確か、フラベベの進化系で……さらにフラージェスに進化するんだっけ」
歩夢「ふふっ♪ そうだね♪」
ポケモンの話題になると、急に饒舌になるのが侑ちゃんらしくて、ちょっと笑ってしまう。
歩夢「フラエッテたちがお花のお世話をして、ここでお気に入りの花を見つけたフラベベたちが、花に乗って飛んでくんだよ」
そう説明していると、風が吹いて、ちょうど目の前で花に乗ったフラベベたちが花畑を飛び立っていく。
- 769 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:52:33.69 ID:hNufaooJ0
-
リナ『フラベベ いちりんポケモン 高さ:0.1m 重さ:0.1kg
気に入った 花を 見つけると 一生 その花と 暮らす。 花の
力が ないと 危険だが 好きな 色と 形が 見つかるまで
旅を 続ける。 見つけると 風に 乗って 気ままに 漂う。』
歩夢「そうやって、世界中にお花を広げていくんだって♪」
かすみ「なんかロマンチックな話ですね! それにこれだけいろんな種類があったら、フラベベも絶対にお気に入りのお花が見つけられますもんね!」
歩夢「そうだね♪」
そして、お気に入りの花を見つけて飛び立っていったフラベベたちは、成長してフラエッテになると、お花のお世話をしにここに戻ってくるらしい。
まさにこのお花畑は、自然とポケモンが密接に結びついて繁栄させてきた、自然の楽園というわけだ。
侑「なんか身近な場所だったのに、全然知らなかったや……」
歩夢「ふふっ♪ 侑ちゃんは花よりポケモンだもんね♪」
侑「でも、ポケモンとも関わりがあるってわかったら、興味湧いてきたよ!」
やっぱり侑ちゃんらしくて、くすくす笑ってしまう。
そんな中、急に──prrrrrとポケギアのコール音が鳴る。
私のじゃない……。侑ちゃんを見ると、侑ちゃんも首を左右に振る。
じゃあ、
かすみ「あ、かすみんのポケギアです。……あれ、しず子から? もしもし、しず子?」
しずく『もしもし、かすみさん? 今どこ?」
私たちにも聞こえるように、かすみちゃんがスピーカーモードにしてくれる。
かすみ「太陽の花畑だけど……」
しずく『えっと……まだサニーに着くまで時間かかりそう? 曜さん、もう待ってくれてるんだけど……』
かすみ「え? ……って、もうこんな時間じゃん!?」
侑「……わぁ!? もうとっくにお昼過ぎてる!?」
どうやら、花畑でのんびりしすぎたらしい。
かすみ「すぐに行くって曜先輩に伝えてくれる!?」
しずく『うん、わかった。待ってるね』
──piと通話を切り、
かすみ「みんな〜! サニーまで行くから、戻ってきて〜!」
手持ちを呼び戻している。
侑「曜さんのこと待たせちゃってるみたいだね……歩夢、ちょっと急ごうか」
歩夢「うん。曜さん、忙しい中、予定空けてくれてるんだもんね」
私と侑ちゃんもポケモンたちを呼び戻し始める。
歩夢「みんな〜! 戻ってきて〜!」
タマザラシをボールに戻しながら呼び掛けると、
「バース!!」
- 770 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:53:21.02 ID:hNufaooJ0
-
エースバーンがすぐに戻ってくる。
あとは、マホイップ……。
歩夢「マホイップ〜……どこ行っちゃったの〜……?」
呼んでも全然マホイップの姿が見えない。
恐らく、花の匂いに夢中になっているんだと思う。
マホイップは小さいから、花の影に隠れちゃうし……呼ばれていることに気付いてくれないと探すのが大変なんだけど……。
どうしようかと考えていると、
「…シャボ」
私の意図を汲んだのか、さっきまで寝ていたはずのサスケが私の身体を伝って、するすると地面に降りていく。
舌をチロチロとさせたあと、花を掻き分けて、進んでいく。
どうやら、探してくれるようだ。
舌先で匂いを嗅ぎ分けるサスケの後に付いていくと、
「マホ〜…♪」
マホイップは案の定、お花の匂いに夢中になっているところだった。
歩夢「やっと見つけた……ありがとう、サスケ」
「シャボ」
歩夢「マホイップ。そろそろ、行くよ」
「マホ?」
屈んで、マホイップを抱き上げる。
その際、ふと──小さなポケモンが地面にいることに気付く。
「ベベ…」
歩夢「……フラベベ?」
いや、フラベベなら周りにたくさんいる。
ただフラベベが居ただけなら、特に気にしなかったんだろうけど……。
本来花に乗り、風を受けて空を漂っているはずなのに、そのフラベベは──地面をぴょんぴょんと跳ねていた。
つまり、花を持っていなかった。
歩夢「あなた……お花はないの?」
「ベベベ…」
訊ねると、ふるふると首を振る。
歩夢「お花がないと、危ないよ?」
「ベベベ…」
フラベベは花の力がないと、満足に戦えないポケモンだし、こうして花もないまま1匹でいるのは、少し心配になる。
歩夢「……好きなお花、見つからないの?」
「ベベ…」
そう訊ねると、フラベベは頭を垂れて、しゅんとしてしまう。
- 771 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:55:22.15 ID:hNufaooJ0
-
歩夢「そっか……」
これだけいろんなお花があるから、こんな風にお気に入りの花を見つけられないフラベベがいるなんて考えたことがなかった。
侑「──歩夢〜!! どこ〜!?」
歩夢「あ、いけない……」
花畑の中で屈んでいたからか、侑ちゃんが大きな声で私を探し回っている。
歩夢「侑ちゃん、ここだよ〜!」
侑「あ、いた!」
かすみ「歩夢せんぱ〜い! 早く行きますよ〜!」
歩夢「う、うん」
かすみちゃんに促されて、行こうと思ったけど。
「……ベベ」
歩夢「……」
なんとなく、このフラベベを放っておけなくって……。
歩夢「……ごめん、侑ちゃん、かすみちゃん、先に行ってもらってていい?」
侑「え? いいけど……一人で大丈夫?」
歩夢「うん、大丈夫。すぐに追いつくから」
かすみ「それじゃ、かすみんたち、先に行きますね! 行きますよ、侑先輩!」
侑「あ、うん! それじゃ、歩夢、何かあったら連絡してね!」
歩夢「うん、わかった」
侑ちゃんたちが先に行ったのを確認してから、もう一度花畑の中でしゃがみこむ。
歩夢「フラベベ」
「…ベベ?」
私はフラベベの小さな体を抱き上げる。
……抱き上げると言っても、フラベベは手の平に乗るくらいのすごく小さなサイズだから、手の平で掬い上げる……くらいの表現が正確かもしれないけど。
歩夢「私もあなたのお花探し、一緒にしていい?」
「ベベ?」
歩夢「あなた一人じゃ移動も大変だろうし……どうかな?」
訊ねると、
「ベベ、ベベ」
フラベベはコクコクと頷く。
歩夢「ありがとう♪ それじゃ、素敵なお花、見つけよっか♪」
「ベベ♪」
私は太陽の花畑で、フラベベのお花探しをお手伝いすることにしました。
- 772 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:56:02.88 ID:hNufaooJ0
-
🎀 🎀 🎀
歩夢「フラベベ、このお花は?」
「ベベ…」
歩夢「んー……じゃあ、こっちは?」
「ベベ…」
歩夢「そっかぁ……」
フラベベを手に乗せたまま、太陽の花畑を歩き回ること数十分。
新しい種類の花が目に入るたびに、フラベベに訊ねているけど、フラベベは首を振るばかり。
歩夢「うーん……」
フラベベにとって花は一生を共にする相手。
しっくりこない限り、身の危険があるにも関わらず、いつまでも花を探し続けるらしいし……。
フラベベの多くが花畑に生息するのは、少しでも早く自分にあった花を見つけるためなんだと思う。
とはいえ、このまま虱潰しに探していたら、日が暮れてしまうかもしれない。
歩夢「まずは系統を絞らなくちゃ……!」
「ベベ…?」
歩夢「ちょっと待っててね」
私はバッグの中から“ポロックケース”を取り出す。
このケースの中にはその名のとおり、“ポロック”が入っている。
“ポロック”というのはポケモンのお菓子のこと。いろんな味の“ポロック”があって、これを与えることによって、ポケモンのコンディションを整えることが出来ると言われている。
ポケモンコーディネーターが好んでポケモン与えるものだ。
歩夢「えっと……赤、青、桃、緑、黄、紫、紺、茶、空、黄緑、灰、白……」
色とりどりの“ポロック”をフラベベの前に並べる。
“ポロック”は味によって、種類が変わるんだけど……今回は重要なのは味じゃなくて……。
歩夢「フラベベ、どの色が好き?」
フラベベに聞きたいのは好きな色。
「ベベ」
フラベベは“ももいろポロック”を指差す。
歩夢「色はピンクだね……」
「ベベ」
となるとここからは出来るだけ、ピンク系統で探してみた方がいいのかな……。
お花探しの方針を考えていると、
「ベベ…」
フラベベは並べられた“ポロック”をじーっと見つめている。
- 773 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:56:54.63 ID:hNufaooJ0
-
歩夢「もしかして、お腹空いてるの?」
「ベベ…」
フラベベはコクコクと頷く。
歩夢「ふふ、そっか♪ 食べていいよ♪」
「ベベ…♪」
許可してあげると、フラベベは“あおいろポロック”を食べ始める。“おっとり”した性格だから、渋い味の“あおいろポロック”が好きみたい。
それはそれとして……好きな色はわかったから……あとは、形かな。
歩夢「フラベベ、好きな形はどういうのがいいの?」
「ベベ…?」
ひとえに花と言っても、様々な形がある。
サクラのようなポピュラーな形のお花から、アサガオのように漏斗型の物、壺のようなスズランや、バラのような幾重にも花びらが重なっているものもある。
もちろん、フラベベが乗るお花は、茎のあるものじゃないといけないけど……。
歩夢「自分の好きな形のお花があったら、指差して教えてくれないかな? 形がわかったら、それに似た形で好きな色のお花を探せると思うから」
「ベベ」
そう言うと、フラベベは私の顔を見上げてくる。
歩夢「? どうしたの?」
「ベベ」
今度は私の方を指差してきた。
歩夢「あはは……えっと、私じゃなくて……お花を……」
そこまで言い掛けて、
歩夢「……。……もしかして……?」
気付く。
私は自分の髪に留めた、花飾りを外して、
歩夢「……これ?」
フラベベに見せてみると、
「ベベ、ベベ♪」
フラベベは嬉しそうに鳴きながら、花飾りに手を触れる。
「ベベ、ベベ!!」
すると、今度はあっちあっちと言わんばかりに花畑の向こう側を指差し始める。
歩夢「もしかして……あっちにあるの?」
「ベベ!!」
歩夢「わかった、行ってみよっか」
- 774 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:57:42.58 ID:hNufaooJ0
-
🎀 🎀 🎀
フラベベを手に乗せたまま、花畑を進んでいくこと10分ほど。
「ベベ♪ ベベ♪」
歩夢「ホントにあった……」
花畑の一角に──ピンク色の可愛らしい花びらのお花が僅かに咲いていた。
数はそんなに多くないけど、間違いない。私が侑ちゃんから貰ったこの花飾りと同じお花だ。
どうしてここに咲いていることをフラベベが知っていたのかはわからないけど……。
もしかしたら、フラベベは一度触れることで、同じ種類の花の持っているエネルギーのようなものを感じ取ることが出来るのかもしれない。
花と共生するポケモンだし、そういうことが出来てもなんらおかしくはない……のかな?
──私は、フラベベを手に乗せたまま、その花に近付く。
歩夢「ここでいい?」
「ベベ♪」
花のすぐそばにフラベベを下ろしてあげる。
すると、フラベベは嬉しそうに、その花の上に登り、
「ベベ♪」
嬉しそうに鳴き声をあげた。
どうやら、気に入ってくれたようだ。
歩夢「ふふっ♪ よかったね♪」
「ベベ♪」
フラベベが再び嬉しそうに鳴くと同時に、フラベベが花ごとフワリと浮き上がる。
きっと、風に吹かれて、旅に出るんだと思う。
歩夢「ばいばい、元気でね」
「ベベ♪」
せっかく、私と同じお花が好きな子と出会えたから、こうしてすぐお別れになっちゃうのは少しだけ寂しかったけど……。
フラベベはそういうポケモン。いつかフラエッテに進化したら、ここに戻ってきてくれるだろうから……きっとまた会える。
風に乗って、飛んでいくフラベベを見送っていたら──急に、強い風が吹いた。
歩夢「きゃ……!」
風はすぐに止む。そして、気付くと、
「ベベ♪」
今さっき飛び立ったはずの、フラベベが私の目の前に戻ってきていた。
そして、それと同時に──フラベベがカッと光輝いた。
歩夢「これってまさか……進化の光……!?」
「──エッテ♪」
──フラベベから姿を変えたフラエッテは、先ほど乗っていた花に、今度はぶら下がりながら、私の手の上に降りてくる。
- 775 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:58:15.11 ID:hNufaooJ0
-
歩夢「ふふっ♪ ……もう進化して戻ってきちゃったの?」
「エッテ♪」
進化までして、もう戻ってきちゃったマイペースなフラエッテ。
この子がどうして戻ってきてくれたかなんて、わざわざ確認なんてしなくても、その気持ちはわかった気がした。
歩夢「一緒に行こっか、フラエッテ♪」
「エッテ♪」
コツンと優しくボールを押し当てると、フラエッテはボールに吸い込まれていった。
歩夢「これからよろしくね、フラエッテ♪」
ボールに向かって話しかけると、カタカタと揺れて返事をしてくれた。
歩夢「さて……それじゃ、早くサニータウンに向かわないと……!」
もうとっくにジム戦は始まってしまっているだろうから、急がないと……!
私は新しくフラエッテを仲間に加え、サニータウンへ急ぐため、花の絨毯の中を駆け出したのでした。
- 776 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:58:46.73 ID:hNufaooJ0
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>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【太陽の花畑】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__●__.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.40 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.37 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.36 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
タマザラシ♀ Lv.30 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラエッテ♀ Lv.20 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:154匹 捕まえた数:16匹
歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 777 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:11:26.82 ID:0Ok5BWPG0
-
■Chapter040 『激闘! セキレイジム!』 【SIDE Kasumi】
かすみ「──歩夢先輩……遅いですねぇ……」
侑「そうだね……」
かすみんたちは、サニータウンの東の浜辺で、歩夢先輩を待っていたんですが……歩夢先輩は一向に現れません。
侑「リナちゃん、歩夢ってまだ太陽の花畑にいるの?」
リナ『うん。図鑑サーチすると……太陽の花畑をうろうろしてるみたい』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「何やってるんだろう……歩夢」
侑先輩は心配そうですけど……。
しずく「ですが、さすがにこれ以上お待たせするのは、曜さんに悪い気がします……」
さっき合流したしず子が、浜辺で作業をしている曜先輩に目を配らせながら言う。
侑「それもそうだね……。これ以上は待つわけにもいかないし、かすみちゃん、ジム戦始めてもらおっか」
かすみ「えぇ、いいんですか?」
侑「歩夢もちっちゃい子供じゃないし……太陽の花畑なら危ないこともないだろうからさ」
かすみ「……わかりました。それじゃ……曜せんぱ〜い!」
かすみんは、浜辺に向かって、駆け出しながら曜先輩に声を掛ける。
曜「お? もういいの? 歩夢ちゃん、結局来てないみたいだけど?」
かすみ「はい! 歩夢先輩、ちょっと遅れてくるみたいなんで、ジム戦始めちゃおうと思います!」
曜「なんかごめんね、急かしちゃったみたいで……」
かすみ「いえいえ! 急なお願いしたのはかすみんの方ですから!」
曜「そう言ってもらえると助かるよ」
かすみ「ところで……どこでバトルするんですか? この浜辺ですかね?」
キョロキョロと辺りを見回しても、バトルフィールドらしい場所は見当たらない。
となると、フリーバトルのように、この浜辺で戦うのかなと思っていたけど、
曜「うぅん、フィールドは用意出来てるんだ。こっちだよ」
曜先輩はそう言いながら、浜辺に向かって歩いていく。
そして、水面に向かって──ピュ〜〜〜イと、指笛を吹く。
「マンタ〜」「マンタイ〜ン」「タイ〜ン」
かすみ「あ、マンタイン!」
曜「前に来たときに、かすみちゃんたちが一緒にマンタインサーフをした子たちだよ」
しずく「お久しぶりです!」
「タイ〜ン」
曜「このマンタインに乗ってちょっと移動するから、付いてきて!」
曜さんはそう言いながら、かすみんたちにライフジャケットを手渡し、ぴょんとマンタインに乗って、海を進みだす。
- 778 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:11:58.12 ID:0Ok5BWPG0
-
かすみ「え、ええ……?」
曜「ほら、早く早く〜!」
侑「えっと……マンタインに乗って移動すればいいんだよね?」
しずく「恐らくは……」
かすみ「と、とにかく曜先輩を追いかけなきゃ……!」
かすみんたちはせっせとライフジャケットを装備し、マンタインに乗って曜先輩を追いかけます。
👑 👑 👑
ちょっとの間、マンタインに乗って、海を移動していると──それはすぐに見えてきました。
侑「わぁ〜!! すごい!!」
侑先輩が、見るまでもなく目を輝かせているのがわかる声音で、歓声をあげた。
そこにあったのは──
しずく「これ……バトルフィールドですか……!?」
水上に浮かぶ、バトルフィールドでした。
曜「そのとーり!」
侑「なんでこんな場所にバトルフィールドがあるんですか!?」
ウッキウキで訊ねる侑先輩。
曜「実は、レジャー開発の中で、バトルも出来たらいいんじゃないかって意見があってね。何か面白いものが作れないかなーって考えてたんだけど……海上のバトルフィールドって面白いんじゃないかなって思ってさ!」
侑「わぁ〜〜〜!!! それ絶対面白いです!! このフィールドでしか出来ないバトル、絶対ありますよね!! 想像するだけで、ときめいてきちゃった……!!」
「ブィ…?」
曜「今回せっかくだから、これの試用も兼ねてみようかなって思って!」
侑「い、いいなぁ〜……!! 新生のバトルフィールドで戦えるなんて……羨ましい……!!」
「ブイ…」
侑先輩がかすみんに向かって、本当に心底羨ましいんだなってことがわかる表情を向けてくる。
かすみ「ここで、ジム戦するんですね……」
見たところ、浮島はやや太めのアーチを向かい合わせたような形をしていて、中央にある大きな穴からは海面が覗いている。
そして大きな中央の穴のちょうど真ん中に半径1mくらいの丸い浮島があって、そこにも乗ることが出来るようです。
簡単に言うと、モンスターボールのようなシルエットをしています。
曜「この浮島を中心とした、周囲の海もバトルフィールドになってるんだけど……かすみちゃん、ジム戦はここででもいいかな?」
曜先輩がそう訊ねてくる。
このフィールド……みずタイプのポケモンが戦いやすいつくりになっているのは一目でわかりますけど……。
- 779 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:12:58.60 ID:0Ok5BWPG0
-
かすみ「どんな場所でも戦えてこそ立派なポケモントレーナーです! もちろん、受けて立ちます!」
曜「あはは♪ かすみちゃんなら、きっとそう言ってくれると思ってた! それじゃ、フィールドに上がって!」
かすみ「はい!」
曜先輩に促されて、かすみんはマンタインから浮島の端っこに乗り移る。
乗った瞬間──波に合わせて上下する特有の揺れを感じる。
かすみ「う……結構揺れる……」
曜「まだ観戦席が完成してないから、侑ちゃん、しずくちゃんはマンタインの上から観戦してもらってもいいかなー?」
しずく「はーい! 承知しましたー!」
侑「わかりましたー! ……くぅ〜……私もあそこに乗ってみたかったぁ……!」
リナ『まだ言ってる……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
「イブィ…」
かすみんは、浮島の上で軽く跳ねてみる。
特有の揺れこそあるものの、立っていられないとか、そんなことはないし、簡単にひっくり返ったり、沈んだりということもまずなさそうな、しっかりとした浮島で少し安心する。
これなら、きっと大丈夫……!
曜「ちなみにこのバトルフィールドにはトレーナースペースはないから、フィールド内でだったら、トレーナーも自由に動きまわって大丈夫だからね! ただし、わざと相手トレーナーを狙ったり、相手のポケモンの攻撃をトレーナーが身体で防ぐのは禁止だよ」
フィールドの形だけじゃなくて、フリーバトルに近い形式みたいですね……! かすみん好みの面白そうなルールじゃないですか……!
曜「さて、それじゃ始めようか! かすみちゃん、準備はいい?」
かすみ「はい! お願いします!」
曜「使用ポケモンは4匹! 全員戦闘不能になったら決着だよ! セキレイジム・ジムリーダー『大海原のヨーソローシップ』 曜! 君の全力の航海、私に見せて!」
曜先輩は敬礼してから、ボールをフィールドに向かって投げ放った。
バトル──開始です……!!
👑 👑 👑
かすみ「行くよ、ヤブクロン!」
「ブクロン!!」
かすみんの1番手はヤブクロン! 対する曜先輩は、
曜「タマンタ! 出発進行!」
「タマ〜」
マンタインを二回りくらいちっちゃくしたポケモン、タマンタが1番手。
タマンタは、ボールから飛び出すと同時に、中央の水中にザブンとダイブする。
リナ『タマンタ カイトポケモン 高さ:1.0m 重さ:65.0kg
2本の 触角で 海水の 微妙な 動きを キャッチする。
とても 人懐っこく 人間の 船の 近くまで 寄ってくる。
テッポウオの 群れに 混ざって 泳ぐことが 多い。』
侑「タマンタって確か……マンタインの進化前だよね?」
しずく「はい、そうですね……」
- 780 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:13:54.15 ID:0Ok5BWPG0
-
かすみんの後ろで流れるリナ子の図鑑解説とその感想を聞く限り、タマンタはまだ進化していない姿らしい。
かすみ「曜先輩ったら、ジム戦用のポケモンなのに進化させてないで大丈夫なんですかぁ〜?」
曜「ふふ♪ 舐めてかかると痛い目見るよ! “バブルこうせん”!」
「タマ〜〜!!!」
水面から顔を覗かせたタマンタが、泡の光線を吐き出してくる。
かすみ「ヤブクロン! “ヘドロこうげき”!」
「ヤブッ!!!!」
対抗するように、ヤブクロンが口から毒液を飛ばし、両者の攻撃がぶつかり合って、相殺する。
しずく「か、かすみさん! 海にヘドロなんか流したら……」
かすみ「え、ええ!? そんなこと言われても困るんだけどぉ!?」
曜「大丈夫だよ。このフィールド内は外の海からは隔離されてるから」
かすみ「そ、そういうことは先に言ってくださいよぉ!!」
曜「あはは、ごめんごめん♪」
むむ……曜先輩は顔馴染みということもあって、なんだか緊張感がない……。
で、でもでも! かすみん、手を抜いたりなんかしないんですから……!
かすみ「ヤブクロン、追撃の──……あ、あれ……?」
攻撃を畳みかけようとした矢先、
かすみ「た、タマンタはどこですか……!?」
「ヤ、ヤブクゥ…」
気付けばタマンタはさっき顔を出していた水面から姿を消していた。
かすみんがキョロキョロと周囲を見回していると──ちょうど、背後からバシャっと何かが跳ねる音がした。
曜「タマンタ! “エアスラッシュ”!!」
「タマァ〜〜!!!」
かすみ「!?」
驚いて振り向くかすみんの真横を“エアスラッシュ”が横切って、
かすみ「し、しまっ……!?」
「──ヤブゥ!!!?」
ヤブクロンに直撃した。
かすみ「ヤブクロン、大丈夫……!?」
思わずヤブクロンに駆け寄る。
「ヤ、ヤブ…!!」
すぐに起き上がるヤブクロン。どうやら、大きなダメージにはなっていないようで安心する。
侑「そうか……浮島の下は海だから、潜られると簡単に背後を取られちゃうんだ……」
- 781 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:14:32.52 ID:0Ok5BWPG0
-
侑先輩の分析どおり、タマンタは海中に潜って背後を取ってきたわけです。
気付けば、タマンタはまた海に潜って姿を消してるし……。
リナ『しかも、このルール……トレーナー自身もフィールド内にいるから、背後を取られたときに気付きにくい……』 || ╹ᇫ╹ ||
確かに、フィールド全体を後ろから把握できる普段の戦闘と違って、トレーナーの後ろ側にもポケモンが来る可能性がある。
そうなると、意識を前だけじゃなくて、前後左右に配らないといけないから……。
かすみ「や、ヤブクロンは後ろ見て! かすみんが前見るから!」
「ヤ、ヤブッ!!!!」
こうなったら、役割分担です!
かすみんが前半分、ヤブクロンが後ろ半分をカバーすれば、死角を減らせる……!
あえてかすみんが前を見ている理由は──
曜「さぁ、次はどっちから来るかわかるかな?」
曜先輩を見るため──直後、曜先輩が一瞬だけ、向かって左側に視線を向けたのを見逃しませんでした。
かすみ「ヤブクロン、左から来──」
曜「“つばさでうつ”!!」
「タマァッ!!!!」
「ヤブゥッ!!!?」
ヤブクロンに指示を出した瞬間、右側から飛来してきたタマンタの“つばさでうつ”で吹っ飛ばされる。
かすみ「ぎ、逆!? 今、一瞬左側見て……!?」
曜「ふふ♪」
余裕そうに笑う曜先輩を見て、すぐ気付く。
──視線に誘われた。
かすみんに見られているのを理解した上で、曜先輩は一瞬左側に視線を送り、それに釣られて死角になった右側からの攻撃。
かすみ「ぐ、ぬぬぬ……!」
完全に術中にはまっている感じがする。
しずく「かすみさーん! 落ち着いてー!!」
しず子の声が飛んでくる。
こんなときこそ冷静にならなきゃ……!
かすみ「でも、相手がどこから飛び出してくるかわかんない……そうだ、それなら……! ヤブクロン、“まきびし”!!」
「ヤブゥッ!!!!」
ヤブクロンが周囲にトゲトゲ状の硬いモノを吐き出し、それはぽちゃんぽちゃんと海に落下する。
かすみ「さらに、“タネばくだん”!」
「ヤブッ!!!」
続けざまに、今度は“タネばくだん”を吐き出して、それも海にばらまく。
- 782 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:17:30.32 ID:0Ok5BWPG0
-
かすみ「さぁ、どうですか……! これなら、海の中はトラップだらけですよ……!」
曜「! なるほどね……」
無暗に動き回れば“まきびし”が刺さるし、“タネばくだん”に触れればドカンです!
曜「でも、かすみちゃん! タマンタは海の中で簡単に障害物に当たったりしないよ!」
曜先輩の言葉と共に、タマンタがザバァッ!! っと音を立てて海面から飛び出してくる。
──もちろん、“まきびし”や“タネばくだん”によって負傷した形跡はない。
曜「“ハイドロポンプ”!!」
「ターーマァーーーッ!!!!!」
かすみ「わぁーー!!? ヤブクロン、“ボディパージ”!!?」
「ヤ、ブェェェェ…」
上空から襲い来る強烈な水流に対して、ヤブクロンは咄嗟に体から大量の花を吐き出し、身を軽くし、辛うじて回避する。
空振った“ハイドロポンプ”は、浮島に突き刺さり、
かすみ「わ、わわわ!?」
かすみんたちの足元がグラグラと揺れる。
かすみんは転ばないように、思わず四つん這いになってしまう。
曜「咄嗟に身を軽くして、避けられた……!」
ただ、曜先輩の言うとおり、回避には成功している。
“ハイドロポンプ”は大技だし、タマンタは飛び回りながらの攻撃。
ヤブクロンまでちょこまか動き回っていたら、なかなか狙いを定めるのは難しいはずです。
かすみ「ヤブクロン……! もっと“まきびし”と“タネばくだん”!!」
「ヤブクッ!!!」
ヤブクロンはフィールド走り回りながら、さらにトラップを設置していく。
曜「あくまでトラップ設置をするんだね」
かすみ「……タマンタが頭の触角で、海流を察知して避けられるのはわかります」
それはさっき図鑑で読んだところだし。
かすみ「でも、これだけ大量にあったら、全部は避けきれないんじゃないですか?」
曜「むむ……」
しかも“タネばくだん”は1つが起爆すれば、他も誘爆します。“まきびし”への被弾で体勢を崩せば、それもまた“タネばくだん”への被弾の可能性が増えますし、もはや海中はタマンタにとって安全な場所ではありません。
かすみ「もはや、こうなったらあとは時間の問題ですね、曜先輩! 次、海に戻ったときが決着のときです!」
かすみんは早く下りて来い下りて来いと念じながら、空を飛ぶタマンタを見つめる。
曜「“みずでっぽう”!!」
「タマァー!!」
かすみ「悪あがきですね! そんなの当たりませんよ!」
「ヤブクッ!!!」
- 783 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:18:08.88 ID:0Ok5BWPG0
-
空を旋回しながら、“みずでっぽう”を撃ち下ろしてくるけど、お互いが高速で動き回っているせいか、狙いが定まらない様子。
……お陰で、浮島がめっちゃ揺れて酔いそうなんですけど……。
かすみ「で、でも、そろそろ限界なんじゃないですか……!」
揺れるフィールドの上で四つん這いになりながら、タマンタを見上げると──
かすみ「……あ、あれ……? 全然下りてきてないような……?」
むしろ……ちょっとずつ高く上がってるような……?
侑「かすみちゃーん!! タマンタ、“みずでっぽう”の反動で飛んでるよ!?」
かすみ「はぁ!?」
言われてやっと気付く。
タマンタは攻撃のために“みずでっぽう”を撃ってきたんじゃなくて──反動で、揚力を得るために水を噴射していた。
カイトの要領で旋回していたから、そのうち落ちてくると思ったのに……これじゃ、いつまで経っても着水しない。
海中をトラップで制圧したつもりだったのに、これじゃ……。
曜「さぁ……空からの攻撃、いくら素早くても、一生避け続けられるもんじゃないんじゃないかな……!」
かすみ「っ……!」
形勢が逆転している。
いくら命中精度が悪い状態とはいえ、ずっと撃ち続けられていたら、いつか当たってしまってもおかしくない。
きっと攻撃が命中したら、怯んだ隙をついて、畳みかけてくるはずだ。
かすみ「──……ま〜、自分から空に留まってくれるなら、こっちとしては万々歳なんですけどねぇ〜……♪」
曜「……え?」
かすみんはあまりに事がうまく運びすぎて、思わずニヤッと笑ってしまう。
曜「もう、かすみちゃん……そんな言葉で揺さぶろうなんて……」
曜先輩は溜め息交じりに言いながら──急にハッとして、かすみんと同じように身を屈めた。
曜「こ、この臭い……!? タマンタ!! 高度落として!!」
「タ、タマァ…」
気付けば、空で滑空するタマンタの軌道はふらふらとし始めていた。
かすみ「もう遅いですよ!! ……とっくにこの上空には“どくガス”が充満してますからね!!」
曜「で、でも、ヤブクロンはそんな素振り……。いや……まさか、あの“ボディパージ”……!?」
曜先輩はカラクリに気付いたようで、ヤブクロンが“ボディパージ”でフィールド上に吐き出した──ヤブクロンの体の中で発酵された花に目を向けた。
かすみ「にっしっし……♪ そうです、そのヤブクロンが吐き出したお花がずっと“どくガス”になって上空に昇り続けてたんですよ!」
ヤブクロンにはあえて──毒性の強い花を吐き出すように予め打合せをしておくことで、“ボディパージ”はただ素早さを上げるだけでなく、“どくガス”発生装置にもなるということです!!
曜「く……! “ハイドロポンプ”で吹っ飛ばして!!」
「タ、マァァァーーー!!!!」
- 784 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:18:42.72 ID:0Ok5BWPG0
-
上空から、ゴミを洗い流すように、浮島上が水流で掃除される。
ただ、もう今更掃除しても遅い。“どく”は十分に回っています……!!
動きの鈍ったタマンタの進行方向辺りに、
かすみ「ヤブクロン! “ベノムトラップ”!!」
「ヤッブゥッ!!!」
霧状の毒液を散布する。滑空しているタマンタは咄嗟に方向転換できず、“ベノムトラップ”に突っ込んだ。
「タ、マァァァ……!!!?」
曜「タマンタ……!?」
さらにふらふらになるタマンタ。
リナ『“ベノムトラップ”は“どく”状態の相手の能力を一気に下げる技……!』 || > ◡ < ||
しずく「かすみさん! 今だよ!!」
かすみ「言われなくても……!」
満身創痍のタマンタを撃ち落とすなんて、造作もありません!
かすみ「“ベノムショック”!!」
「ヤーーーブゥッ!!!!!」
ブッ!! と毒液を鋭く吐き出して──
「タマァッ!!!!?」
タマンタに直撃させた。
タマンタは完全にバランスを崩して、海に落っこち──
その直後──ドォンッ!! と特大の水柱が上がった。
海中の“タネばくだん”たちが大爆発したようです。
──打ち上げられた水が雨のように、サァァっと降り注ぐ中、
「…タ、タマァ…」
タマンタがお腹を上にした状態でプカァっと浮かび上がってきたのだった。
曜「……戻って、タマンタ」
かすみ「ヤブクロン! 作戦大成功だね!」
「ヤブッ」
曜「四つん這いになってたのも、揺れるのが怖くて屈んでたんじゃなかったんだね……」
かすみ「ええ! かすみんが“どくガス”を吸わないように、しゃがんでただけですよ!」
曜「いやぁー……かすみちゃんはこういうことしてくるって、警戒してたつもりだったんだけどなぁ……」
曜先輩は頭を掻きながら言う。
かすみ「かすみんと知恵比べで勝とうなんて思わない方がいいですよ!」
しずく「かすみさんの場合、知恵比べというよりかは、化かし合いとか騙し合いのような……」
リナ『詐欺、偽計、譎詐、嘘のつき合いとか?』 || ╹ᇫ╹ ||
- 785 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:20:25.69 ID:0Ok5BWPG0
-
かすみ「外野! うるさい!!」
曜「あはは、確かに私はそういうので戦うよりも──真っ向から戦った方が向いてるかも」
曜先輩はそう言いながら──後ろに向かって2匹目のポケモンの入ったボールを放り投げる。
すると──
かすみ「……!?」
曜先輩の背後に巨大な壁が出現する。
いや、壁じゃない……あれは……!?
曜「行くよ、ホエルオー!!」
「ボォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!」
壁に見えていたのは──あまりにも巨大な体躯を持ったポケモンだった。
ホエルオーは出て来るや否や、海に潜っていく。
かすみ「で、でっか……!? なにあれ!?」
リナ『ホエルオー うきくじらポケモン 高さ:14.5m 重さ:398.0kg
見つかった 中では 最大級の ポケモン。 大海原を ゆったりと
泳ぎ 大きな 口で 一気に 大量の エサを 食べる。 獲物を
追い立てる ために 水中から ジャンプして 水しぶきを あげる。』
しずく「ホエルオー……!」
侑「うっわぁーー!! 私、実物のホエルオー見たの初めて!!」
「ブ、ブィィ」
侑先輩が目をキラキラさせているのが、振り返らなくてもわかりますけど……あれは敵……。
かすみ「というか、あんなの倒せるんですか……!?」
曜「ふふ、それはかすみちゃん次第だよ……!」
曜先輩がすっと腕を真っすぐ振り上げると──海面が急に盛り上がっていく。
かすみ「!?」
曜「ホエルオー!! “とびはねる”!!」
「ボォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!」
海中から、大量の水を巻き上げながら──ホエルオーが飛び出した。
かすみ「と、とんで……!?」
その体躯からは想像出来ないくらいに、明確に跳んでいた。宙にいた。
思わず、呆気に取られてしまった。
そんな巨体が海に落ちてきたら、どうなるかなんて、考えるまでもなく──
曜「“なみのり”!!」
巨大な波が一気にかすみんたちに向かって押し寄せてきた。
かすみ「ぎゃーーー!!?」
「ヤ、ヤブゥ!!!?」
逃げ場なんてどこにもなく、かすみんはヤブクロンともども、巨大な波に押し流されて海に放り出される。
- 786 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:21:00.88 ID:0Ok5BWPG0
-
しずく「き、きゃぁぁぁ!!?」
侑「す、すごい迫力だぁぁぁぁ♪」
「ブ、ブィィ…」
リナ『退避退避ぃ〜!?』 || ? ᆷ ! ||
観戦席の方からも悲鳴が聞こえてくる。
いや、なんか一人歓声だった気もするけど……。
かすみ「はぁ……はぁ……」
「タィーン」
気付けば、かすみんをここまで連れて来てくれたマンタインが足場代わりになってくれていた。
かすみ「あ、ありがとうマンタイン……」
「タィーーーン」
マンタインはかすみんを浮島に戻すと、再びフィールドから離れていく。
ヤブクロンは……と海を見渡すと、少し離れたところで、
「ヤ、ブゥゥゥ…」
大量の水波を叩きつけられ、戦闘不能になった状態でぷかぷか浮かんでいるところだった。
かすみ「戻って、ヤブクロン」
ヤブクロンをボールに戻す。
曜「あはは♪ すごいでしょ、私のホエルオー」
曜先輩がけらけらと笑いながら言う。
かすみ「や、やりすぎですよ……」
曜「ごめんごめん♪ バトルに出してもらえることなんて滅多にないから、張り切っちゃったみたいでさ。ね、ホエルオー」
「ボォォォォォォォォ」
そりゃ、このサイズで、しかも地上で出せないポケモンとなると、バトルに出て来ることなんて滅多にないでしょうね……。
曜「でも、安心して! 何かあってもマンタインがかすみちゃんたちの身の安全は保証するから!」
かすみ「それは、安心ですね……」
気付けば観客席の方にも、波を回避した侑先輩たちが戻ってきていた。
侑「ねぇ、今のすごかったね!! あんな大迫力、間近で見られるなんて!! 完全にときめいちゃった!! もう一度やってくれないかな!?」
しずく「わ、私は……遠慮したいです……あはは……」
リナ『ポケモン好きもここまで来ると、ちょっと怖い』 ||;◐ ◡ ◐ ||
もう一度やられるなんて、シャレにならない……。
となると、次使うのは──
かすみ「サニーゴ! お願い!」
「──……サ」
曜「ガラルサニーゴ! 珍しいポケモン持ってるね、かすみちゃん!」
とりあえず、あんなバカみたいな“とびはねる”からの“なみのり”攻撃を食らっていたら、試合にならない。
- 787 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:21:37.75 ID:0Ok5BWPG0
-
かすみ「“かなしばり”!!」
「……サ」
「ボォォォォ」
曜「おっと……」
大波を起こすための一連の行動を封じる。
曜「なるほどね、じゃあこれならどうかな! “しおふき”!!」
「ボォォォォォォ!!!!!!!!!!!!」
ホエルオーの頭から、大量の潮が噴出され──それが降り注いでくる。
かすみ「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!?」
「…………サ」
大量の水が上から降り注いできて、思わず膝を折る。
これは作戦とかじゃなくて──無理!! 水の勢いで立ってられない!!
サニーゴも、浮くのもままならず、浮島に押し付けられている。
必死に耐えて耐えて耐えて──やっと、上から降ってくる潮水の雨が止む。
かすみ「はぁ……はぁ……」
相手の攻撃の規模が大きすぎる。
かすみ「こんなの……は、反則……ですよぉ……」
「……サ」
まだこっちから何も出来ていないのに、息が切れてしまう。
とにかく、攻撃をしなくちゃ……!
かすみ「……し、“シャドーボール”……!!」
「…………サ、コ」
影の弾が発射され──ホエルオーに向かって、当たって弾けた。
「ボォォォォォォ」
曜「そんなちっちゃい攻撃じゃ効かないよ!」
かすみ「あ、相手が……大きすぎる……」
勝てるビジョンが思い浮かばない。
さすがにヤバイと思ったとき、
「…………サ、コ……」
サニーゴがのろのろとホエルオーに向かって、進んでいっていることに気付く。
かすみ「サニーゴ……?」
のろのろと前進しながら、サニーゴはゆっくりとこっちを振り返る。
「………………ゴ」
相変わらず、吸い込まれるような虚ろな目。だけど、何故だか──今日のサニーゴはいつになくやる気なんだと言うことが自然と理解出来た。
かすみ「……私が弱気になっちゃダメだ」
- 788 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:22:08.02 ID:0Ok5BWPG0
-
サニーゴは戦う意思を見せてくれている。
なら、トレーナーが諦めるわけにはいかない。
だけど、どうする。パワーもだけど、あの大きさじゃ小細工が通用しない。
そのとき、ふと──
かすみ「……あ」
作戦が思い浮かんだ。
かすみ「え、いや、でもぉ……」
正直、この策を取るのは、嫌というかなんというか……癪だった。
だけど……。
「ボォォォォォ…」
あの巨大な相手を倒すには……たぶん、これしかない。
かすみ「サニーゴ……!」
「…………サ」
かすみ「“ハイドロポンプ”!!」
「──サゴ」
サニーゴが口から勢いよく水流を発射した──
曜「……!?」
それを見て、曜先輩が驚いた顔をする。
何故なら──“ハイドロポンプ”を後ろ向きに噴射していたからだ。
かすみ「一気に近付くよ!!」
水流の逆噴射で、一気にホエルオーに接近するサニーゴ。
曜「でも、近付いてどうするつもりかな!?」
「ボォォォォォ……!!!!」
ホエルオーが大口を開け、“おたけび”を上げながら、サニーゴを待ち構えている。
そんなホエルオーの大口目掛けて──
かすみ「つっこめーーー!!」
サニーゴは勢いよく、飛び込んだ。
曜「え!?」
さすがに自分から食べられに来たのは予想外だったのか、曜先輩が動揺の声をあげた。
曜「え、ち、ちょっと!? さすがに、ジム戦で相手のポケモン食べちゃうのはまずいって!? ホエルオー、吐き出さないと!?」
「ボォォォォ」
かすみ「その必要は、ありませんよ」
曜「な、なにいって……!?」
ああもう、ホントにこういう作戦は可愛くないからやりたくないし……何より、あのにっくき──にこ先輩と同じ戦術なんてしたくなかったのに。
- 789 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:22:40.71 ID:0Ok5BWPG0
-
かすみ「“じばく”!!」
曜「っ!?」
──ボォンッ!!!! と大きな音が、ホエルオーの方から発せられ、びりびりと空気を震わせた。
少しの間、辺りが波の音だけになる。
……が、
「ボ、ォォ…」
程なくして、ホエルオーの体がひっくり返るように転覆し始める。
曜「わ、わぁぁぁ!? 戻って、ホエルオー!?」
曜先輩が慌てて、戦闘不能になったホエルオーをボールに戻すと──ホエルオーのいた場所に、
「──……サ」
戦闘不能になって動かなくなったサニーゴがぷかぷか浮かんでいた。
かすみ「サニーゴ、戻って!」
ボールを投げて、サニーゴを戻してあげる。
かすみ「ありがとう、サニーゴ……“じばく”なんてさせて、ごめんね」
これしかなかったとは言え、最初から“じばく”特攻をさせるのはさすがに心が痛む。
ジム戦が終わったら、たくさん労ってあげよう。
曜「……す、すごいことするね、かすみちゃん……」
かすみ「出来れば、やりたくなかったですけど……」
まさか、にこ先輩に打開のヒントを貰うことになるとは思いませんでした……。
まあ、結果としてはうまく行きましたし……少しくらい感謝してやらなくもないですね。
──とにもかくにも、
かすみ「これで2対2……!」
お互い残りの手持ちは半分です。
曜「ホエルオーで勝ち切るつもりだったんだけどなぁ……ま、いいや! 切り替えていこー!」
曜先輩が3匹目のボールを構える。
かすみんも同じようにボールを構えて──後半戦スタートです!
- 790 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:23:14.07 ID:0Ok5BWPG0
-
👑 👑 👑
かすみ「さぁ、行くよ、ジグザグマ!」
「クマァ〜」
曜「ラプラス! 出発進行!」
「キュゥ〜♪」
かすみんの3匹目はジグザグマ、曜先輩はラプラスです。
リナ『ラプラス のりものポケモン 高さ:2.5m 重さ:220.0kg
人の 言葉を 理解する 高い 知能を持ち 背中に 人を
乗せて 海を泳ぐのが 好きな ポケモン。 寒さに 強く
氷の 海も 平気。 ご機嫌に なると 美しい 声で 歌う。』
曜「ラプラス! “うたかたのアリア”!」
「キュ〜〜♪」
ラプラスが曜先輩の指示で歌を歌い始める。
しずく「わぁ〜……♪ 素敵な歌声です……♪」
侑「うん……! ときめいちゃう……♪」
「ブイ〜…♪」
オーディエンスたちはどっちの味方なんでしょうか……。
確かにキレイな歌声なのはわかりますけど、これは攻撃なんです……!
その証拠に──ラプラスの周囲には水で出来たバルーンのようなものが複数浮かんでいる。
かすみ「歌で水を操る技ってことですね……!」
曜「正解!」
「キュ〜〜〜♪」
水のバルーンたちがジグザグマに向かって飛んでくる。
かすみ「ジグザグマ、“ミサイルばり”!!」
「クマァッ!!!」
対抗するように、水のバルーン向かって、硬く尖った体毛を飛ばす。
薄い音の膜のようなものに包まれたバルーンは“ミサイルばり”が直撃すると、破裂して、ただの水に戻る。
対策としては正解っぽいんだけど……。
かすみ「か、数が多い……!」
「ク、クマッ」
撃ち落としても撃ち落としても、四方八方から、バルーンが飛んでくる。
曜「声が届く範囲にいる以上、“うたかたのアリア”からは逃げられないよ!」
どうやら、音の届く範囲内の水を操作できる技らしい。
かすみ「なら……! “しんそく”!」
「ク、マァッ!!!!」
浮島を蹴って、ジグザグマが一気に飛び出す。
襲い掛かってくるバルーンたちを掻い潜るようにして、浮島を飛び出し──ザブンッ!!
- 791 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:23:48.22 ID:0Ok5BWPG0
-
曜「!? 自分から海に……!?」
かすみ「海の中なら、音は響いてきませんよ!」
曜「なるほどね……でも、みずタイプ相手に潜るとはね! ラプラス、行くよ!」
「キュゥッ!!!」
曜先輩はラプラスに掴まって、海に潜っていく。
かすみ「あー……これ、いいのかな?」
かすみん、すでにジグザグマに指示してる技があるんですけど……。
ま、まあ、わざとじゃないし大丈夫だよね! ちょっとビリっとしますけど!
直後──海中から、バチバチと放電が発生する。
そして、それと同時に──ザバッと音を立てながら、
曜「げ、げほっげほっ……!! び、びりっときたぁ……!!」
「キ、キュゥゥ…」
ジグザグマの“10まんボルト”に痺れて顔を出す曜先輩とラプラス。
水は電気を良く通しますからね。一緒に潜ったら、曜先輩もビリビリです。
かすみ「曜先輩、大丈夫ですか……?」
曜「う、うん、平気……」
かすみ「まだまだビリビリしちゃいますから、もう潜らないでくださいね!」
ジグザグマは、相手が倒れるまで“10まんボルト”をするはずですからね!
そんなことを考えている間にも、バチバチと海上の表面を火花が放電する。
ただ──ラプラスはなぜか平気な顔をしていた。
かすみ「あ、あれ……?」
曜「ふっふっふ、かすみちゃん、水は電気を通すのにって思ってるでしょ? でも、ラプラスはもう水の中にいないよ!」
かすみ「はい?」
いや、どう考えても水面に浮かんでいるようにしか──と、思ってら、ラプラスの真下は、
かすみ「!? こ、凍ってる!?」
分厚い氷になっていた。
というか、気付けば、
かすみ「へ……へ……へくしっ……! さ、寒い……!」
春の暖かい陽気が嘘のように、どんどん肌寒くなっていく。
曜「“ぜったいれいど”!!」
「キュゥ〜〜♪」
直後、ラプラスを中心として、海が一気に氷漬けになる。
かすみ「わぁーーー!!!? な、なにしてくれてるんですかぁ!!?」
かすみんは大慌てで、氷の上を走り出す。
分厚い氷を上から覗き込むと──足元の氷の中で、戦闘不能になって動けなくなっているジグザグマの姿があった。
- 792 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:24:21.17 ID:0Ok5BWPG0
-
かすみ「じ、ジグザグマぁー!!!」
曜「確かに海は電気を通しやすいけど……冷気も伝わりやすいからね」
かすみ「そ、それより、助けてあげてくださいぃ!!」
曜「了解! ラプラス、“つのドリル”!」
「キュゥ♪」
ラプラスが頭の角で、氷を砕き──ジグザグマのいるところまでボールが届くように穴を空けてくれる。
かすみ「ジグザグマ、戻って……!」
穴からボールに戻して、一安心。
でも……。
曜「さぁ、かすみちゃん。最後のポケモンになっちゃったね」
そうです。かすみん、次が最後のポケモンです……。
追い詰められたけど……。
かすみ「かすみん、まだ全然諦めてませんよ……!」
曜「お、いいね! かすみちゃんのそういうところ、私好きだなぁ♪」
かすみ「毎回頼ってばっかりだけど……今回も頼みますよ! かすみんのエース!」
「──ジュプトォッ!!!」
最後のポケモンはもちろん、ジュプトル……!
かすみ「行くよジュプトル!!」
「ジュプトッ!!!!」
ジュプトルは浮島を蹴って飛び出し──氷の上を駆ける。
ジグザグマはやられちゃったけど……結果として、ジュプトルの走り回るフィールドを増やしてくれました……!
曜「“フリーズドライ”!!」
迫るジュプトルに向かって、ラプラスは自分の周囲に冷気を発してくる。
かすみ「当たりませんよ!」
「プトォルッ!!!」
ジュプトルは、氷の床を踏み切って、跳躍する。
地表の上を放射状に伝わる冷気攻撃。一見すると範囲の広い攻撃ですけど──ジュプトルは縦の動きにも強いんです!
冷気の届かない上空から、腕の刃を振りかぶる。
かすみ「“リーフブレード”!!」
「プトォルッ!!!!」
縦に薙いだ刃をラプラスに直撃──させたつもりだったけど、
かすみ「んなっ!?」
気付けばラプラスの口には、大きな氷の結晶が咥えられていて、それを使ってジュプトルの攻撃を受け止めていた。
曜「“こおりのつぶて”には、こういう使い方もあるんだよ!」
「キュウッ!!!」
- 793 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:24:57.80 ID:0Ok5BWPG0
-
そのまま、ラプラスは首を振って、刃を交えていたジュプトルを追い払う。
どうやら、大きく結晶化させた“こおりのつぶて”でジュプトルの攻撃を受け止めたらしい。
そして、その流れのまま、
「キュウッ!!!」
“こおりのつぶて”をジュプトルに向かって投擲してくる。
もちろん、本来の先制技のような奇襲性は失われているため、
「プトォル!!!!」
ジュプトルは、冷静に飛んできた氷の結晶を斬り裂いて対処する。
曜「“うたかたのアリア”!」
「キュゥ〜〜〜♪」
再び、“うたかたのアリア”で周囲に水のバルーンが浮き上がり──ジュプトルに向かって襲い掛かってきた。
かすみ「迎え撃つよ!!」
「プトォルッ!!!!」
だけど、かすみん怯みません!
周囲が凍っている分、さっきよりも攻撃の物量が少ない。
それにジュプトルなら──絶対に捌ききってくれるという信頼があった。
──次々に、飛び掛かってくるバルーンを斬り裂きながら立ち回る。
曜「いつまで持ちこたえられるかな……!」
「キュ〜〜♪」
ただ、曜先輩とラプラスの攻撃も止まない。
斬り裂いても斬り裂いても、新しいバルーンが飛んでくる。
周りは海だから、無限に燃料があるような状態。
一度に出せる量が減っているんだとしても、確かにこのままじゃジリ貧……そんなことはかすみんもわかってます。
かすみ「だから、手はもう打ってます!!」
曜「ここから、どうする気かな!」
そのとき、ふいに風が吹いた。
海風にさらわれて──フィールドの上を草が舞っていた。
曜「……え、草……?」
曜先輩が目を丸くする。
そりゃそうですよね──ここは海のど真ん中!
草が舞うなんておかしいですもんね!!
曜「……!?」
そして、曜先輩はやっと気付く──自分たちの足元が生い茂る草に覆われていることに……!
- 794 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:25:31.20 ID:0Ok5BWPG0
-
曜「まさか、これ……“グラスフィールド”!!?」
かすみ「そのとおりです!! 技を捌きながら、フィールドを展開してたんですよ!!」
「プトォルッ!!!!」
力強い緑のフィールドは、浮島だけでなく、ラプラスの作った分厚い氷の上にも緑の絨毯を広げ──ラプラスまで繋がる道を作り出していた。
そして、この緑の絨毯の上でだけ使える──最速の一撃がある。
曜「ま、まずい……!! ラプラス、一旦海に逃げ──」
かすみ「遅いです!! “グラススライダー”!!」
「──プトォルッ!!!!」
── 一瞬だった。
気付いたときには、草の絨毯をラプラスの背後まで滑り抜け、刃で袈裟薙ぎに一閃していた。
「キ、キュゥ…」
そして、ワンテンポ遅れて、斬り裂かれたことに気付いたかのように、ラプラスが崩れ落ちた。
侑「すっごーーーい!! 何今の!? すっごいかっこよかった!! ときめいちゃう!!」
しずく「今のは“グラススライダー”ですね。“グラスフィールド”上だと、高速の一撃になる技です」
うんうん。オーディエンスたちも魅了する、ちょーかっこいい、かすみんのエースの一撃が決まりましたね!
かすみんも会心の結果に思わず腕組みして頷いていると──
「プトォ──」
ジュプトルが光り輝きだした。
かすみ「!? ま、まさかこれって……!!」
曜「進化の光……」
ラプラスを倒して──経験値を得たジュプトルが、新たな姿に……!
「──ジュ、カイィィンッ!!!!」
かすみ「ジュプトルが進化……! 進化しました〜!!」
思わず、新しい名前を確認するために、図鑑を開く。
『ジュカイン みつりんポケモン 高さ:1.7m 重さ:52.2kg
腕に 生えた 葉っぱは 大木も すっぱり 切り倒す 切れ味。
密林の 戦いでは 無敵。 背中の タネには 樹木を 元気にする
栄養が 沢山 詰まっていると いわれ 森の 木を 大事に 育てる。』
かすみ「ジュカインって言うんだね……!」
「ジュカィンッ!!!」
凛々しくなって……キモリからこうして成長してきたことを考えると、なんだか目頭が熱くなってきちゃいます……。
かすみ「さぁ、曜先輩! 最後のポケモンを出してください! かすみんとジュカインがスパッとやっつけちゃいますから!!」
「ジュカィンッ!!!」
曜「ふふ、言うねかすみちゃん! 私も最後はエースポケモン。負ける気なんてないよ!」
曜先輩がそう言いながら繰り出した最後のポケモンは──
- 795 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:26:08.56 ID:0Ok5BWPG0
-
「ガメーーー!!!!」
曜「さぁ、カメックス!! 全速前進だよ!!」
かすみ「カメックス……!」
ゼニガメの最終進化系ですね……!
『カメックス こうらポケモン 高さ:1.6m 重さ:85.5kg
甲羅の 噴射口の ねらいは 正確。 水の 弾丸を 50メートル
離れた 空き缶に 命中させる ことが できる。 噴き出す
水流は 分厚い 鉄板も 一発で 貫く 破壊力が ある。』
曜「さぁ、行くよ、かすみちゃん!!」
「ガメェェェ!!!!!」
かすみ「望むところです!!」
「ジュカインッ!!!!」
最終戦の火蓋が切って落とされる。
とはいえ、すでに周囲は“グラスフィールド”が生い茂っている、ジュカインにとって有利な状況……!
この勝負貰いました……!
と、思った矢先、
曜「まずは氷を溶かすよ!! “ねっとう”!!」
「ガメェーー!!!!」
カメックスは背中のロケット砲から“ねっとう”を出して、周囲の氷を溶かし始める。
かすみ「わー!? 何やってるんですかぁ!?」
土台の氷が溶かされれば、もちろんその上に展開されていた“グラスフィールド”も消えるわけで……。
──とりあえず、ジュカインは“ねっとう”を浴びないようにかすみんの目の前まで戻ってきたけど……。
すっかり、周囲の氷は溶かされつくして、浮島上に“グラスフィールド”が展開されている以外は、最初の状態に戻ってしまった。
そして、そんな中、
「ガメッ!!!」
カメックスは中央の浮島を陣取ってくる。
中央から狙いを定めて──
曜「“ハイドロポンプ”!!」
「ガメェーーーーッ!!!!」
水砲で攻撃してくる。
かすみ「ジュカイン! “リーフブレード”!!」
「ジュカイッ!!!!」
ジュカインは、真っ向から飛んでくる水の塊を、腕の刃で斬り裂く。
縦に一閃した、斬撃により斬り裂かれた水砲は、左右にわかれて後ろに海面に着弾する。
それと同時に背後で2つの水柱が上がる。
かすみ「ひ、ひぇぇ……す、すごい威力じゃないですかぁ……」
思わず、直撃したときのことを考えてヒヤッとしたけど──逆に言うなら、進化して新しい力を得たジュカインなら、あの威力でも斬り裂けるということ……!
かすみ「この勝負……本当に貰いましたよ……!」
- 796 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:26:42.57 ID:0Ok5BWPG0
-
勝ちを確信したそのとき、
曜「なるほどね……。じゃあ、こっちも本当に切り札、使わせてもらうよ……!」
そう言って、曜先輩はシャツの中から、イカリを模したようなネックレスを取り出した。
その中央には──キラリと光る珠が嵌め込まれていた。
かすみ「!? あ、あれってまさか……!?」
曜「カメックス──メガシンカ!!」
「ガメェーーー!!!!!」
カメックスが眩い光に包まれる。
そしてその光の中から──
「ガーーメェッ!!!!!」
両腕に2本のアームキャノン、そして背中に一際大きなキャノン砲を背負った姿で現れる。
かすみ「め、めめめ、メガシンカを使うなんて聞いてないですよぉー!!?」
完全に予想外の展開に動揺が声に出てしまう。
しずく「かすみさーん! 5人目のジムリーダーからは、メガシンカの使用が許可されてるんだよー!!」
かすみ「だからそういうのは先に言ってってば!?」
曜「さぁ、行くよ! カメックス!!」
「ガーーーメッ!!!!」
曜先輩の掛け声と共に、メガカメックスの3門の砲全てがこちらを向く。
かすみ「や、やばっ!!」
曜「“ハイドロポンプ”!!」
「ガーーーメェッ!!!!!」
指示と同時に、3つの水の塊がかすみんたちに向かって猛スピードで飛んでくる。
受ける前から、直感でわかった。この攻撃は防ぎきれない。
かすみ「ジュカインッ!! “みきり”!!」
「カインッ!!!!」
背後に向かって、飛び退くジュカイン。だけど、メガカメックスの攻撃力はかすみんの予想を遥かに超えていて──
着弾と共に、爆発に近い衝撃と共に──浮島ごと吹き飛ばされた。
かすみ「っ……!!」
- 797 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:27:19.05 ID:0Ok5BWPG0
-
悲鳴をあげる暇もなく、ジュカインもろとも海に投げ出される。
視界が真っ青な海に包まれ、周囲にはかすみんたちが落ちた衝撃で、大量の泡が舞っていた。
かすみんは咄嗟に、ジュカインを探して周囲を見回す。
水の中のせいで、見えづらいけど……ジュカインは思いのほか近くにいた。
どうやら幸いなことに、同じ方向に飛ばされてきていたようだ。
少しだけホッとする。かすみんは、そのうちマンタインが助けに来てくれるけど、ジュカインは場所がわからなければ、狙い撃ちにされちゃうし……。
いや、その心配は居場所がわかったところでそんなに変わっていない。
どうする……。考えている時間はそんなにない。すぐに決断しないと──
普通のカメックスの攻撃だったら、斬り裂けたけど……メガカメックスの攻撃は“リーフブレード”じゃ、斬り裂けない。
じゃあ、どうやって攻略する……。
どうにか、策を巡らせるけど──あまりに相手のパワーが大きすぎる。
思わず水中で天を仰いでしまう。
天を仰ぐといっても……ここは海の中だから、海面が見えるだけなんだけど……。
見上げた海面からは──太陽の光が差し込んできていた。
幻想的な風景だった。
真っ青な世界の中に差し込む──太陽の、光……。
……太陽の光。
そうだ、“リーフブレード”で足りないなら、もっと強い刃を用意するしかない。
──“ソーラーブレード”。
ジュカインの切り札と言ってもいい、最終奥義。
かすみんは泳いで、ジュカインの肩に掴まる。
かすみ「──」
「──」
水の中、お互い声は出せないけど、目を見つめ合って、気持ちを交わし合う。
ジュカインはコクリと頷き、陽光の下へと泳ぎ、ソーラーエネルギーのチャージを始める。
恐らく──チャンスは1回。
斬り裂ければ勝ち。出来なければ負けだ。
チャージをしながら──ジュカインは自分の足元に“タネばくだん”をいくつか漂わせる。
“タネばくだん”によるロケットスタート──準備は万端……行きますよ……!
💧 💧 💧
しずく「かすみさん……」
メガシンカの圧倒的なパワーを前に、かすみさんたちは海に放り出されてしまった。
ただ、私たちはあくまでオーディエンス。見守るしか出来ない。
曜「やば……威力強すぎて、浮島ごと吹っ飛ばしちゃった……」
「ガメェッ!!!」
曜「ま、いいや! カメックス!」
「ガメッ!!!」
- 798 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:28:00.18 ID:0Ok5BWPG0
-
曜さんがカメックスの名を呼ぶと、カメックスは前傾姿勢になって、砲を海面に向ける。
曜「水の中でも関係ない……! 全部吹っ飛ばす!!」
さらなる追撃の姿勢を取る。
しずく「かすみさん……!」
私は思わず両手を合わせて祈ってしまう。どうにかかすみさんに逆転の一手を……!
侑「しずくちゃん、大丈夫」
しずく「侑先輩……」
侑「かすみちゃんを信じよう」
しずく「……はい」
私は息を整えてから──かすみさんに届くように、
しずく「かすみさーん!! 頑張ってー!!」
海に向かって叫んでみる。
どうか……かすみさん……!
その声に応えるかのように──急に海面が盛り上がり、ザパッと音を立てながら、ジュカインの背中にしがみついたまま、かすみさんが飛び出してきた。
しずく「かすみさん……!!」
ジュカインはその腕に、光を蓄えて……!!
👑 👑 👑
かすみ「行くよ!! ジュカインッ!!」
「ジュカイッ!!!!」
曜「飛び出してきた!! カメックス!! 照準を上空に!!」
「ガメェッ!!!!」
3門のキャノン砲に集束された、みずのエネルギーが今まさに、こちらに向かって撃ち出されようとしているところだった。
それに対抗するように、ジュカインが右腕を振り上げる。
かすみ「曜先輩!! カメックス!! 勝負です!!」
小細工なしの最後の戦い……!!
曜「“ハイドロポンプ”!!」
「ガーーーーメェッ!!!!!!!!!」
3門から同時に発射され、集束して襲い掛かる水砲。
かすみ「“ソーラーブレード”!!」
「ジュカーーインッ!!!!!」
- 799 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:28:35.28 ID:0Ok5BWPG0
-
振り下ろされる、陽光剣が──水塊にぶつかる。
みずタイプのエネルギーと太陽のエネルギーがぶつかり合う。
かすみ「いっけぇぇぇぇぇ!!!」
「カーーーイーーーンッ!!!!!!」
太陽の熱が、重く分厚い水の砲弾を、斬り裂いていく。
かすみ「ああああああっ!!!!」
「ジュカァァァァイッ!!!!!!」
大きく眩く伸びた光剣が──水塊を真っ二つに切り裂いた。
かすみ「やったっ……!!」
割れた水塊の先には──カメックス。
「ガメーーッ!!!!」
今まさに、目の前に降り立とうとするジュカインに対して──カメックスはガパッと口を開けた。
曜「カメックスは──口からも水を出せるよ」
最後の最後で、曜先輩が隠し持っていた──まさかの4門目。
今しがた使ったジュカインの“ソーラーブレード”は……強力な水塊と相殺しきって、もう輝きを失っていた。
「ガーーーメェッ!!!!!」
カメックスの口から放たれる──“ハイドロポンプ”が自由落下中のかすみんたちに向かって飛んでくる。
もう、太陽の剣は消えてしまった。
──……右腕のは……!
かすみ「“ソーラーブレード”ォ!!!!!」
「カィィィィンッ!!!!!!!」
ジュカインは左腕に宿した太陽の光を──振り下ろした。
曜「!!」
カメックスの最後の“ハイドロポンプ”を斬り裂きながら──ジュカインは中央の浮島に、ダンッ!! と音を立てながら着地した。
かすみ「はぁ……はぁ……っ……!!」
左腕の陽光剣で──カメックスを縦に一閃しながら。
フィールドが静寂に包まれる。
かすみ「……カメックスに口があるなら……ジュカインにも両腕があるんですよ……!!」
「ガ…メ…」
カメックスが目の前で、崩れ落ちた。
かすみ「ぜぇ……はぁ…………これが……かすみんたちの……実力です……!!」
「ジュカィィィンッ!!!!!」
曜「……は、はははっ!! かすみちゃん、すごい!! まさか、メガカメックスが真正面から負けるなんて、思ってなかったや!!」
- 800 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:29:10.54 ID:0Ok5BWPG0
-
曜先輩は負けたのに、心底嬉しそうに笑っていました。
かすみんはもうくたくただったし、安心で気が抜けたのもあって、中央の浮島でへたり込んでしまう。
そんなかすみんの背中に、
しずく「──かすみさんっ!」
いつの間にやら、マンタインでこっちまで来ていたしず子が抱き着いてくる。
かすみ「わとと……」
しずく「かすみさん、お疲れ様……」
かすみ「ふふん……かすみん、すごいかったでしょ?」
しずく「うん、すごかったよ……!」
侑「かすみちゃん本当に良い試合だった……! 最後の攻防、本当に……胸がときめいちゃった……」
かすみ「あはは……全く侑先輩ったら……今日何度ときめけば気が済むんですか〜……」
侑「それくらい、すごい試合だったんだもん! ね、リナちゃん!」
リナ『うん! 感動した!』 ||,,> ◡ <,,||
かすみ「それは……何よりです……」
オーディエンスも魅了出来たということで……かすみん、今日はオールオッケーって感じですね……。めちゃくちゃ疲れましたけど……。
曜「──かすみちゃん」
前方からの声に顔を上げると、曜先輩が中央の浮島まで、移動してきていた。
……というか、ずぶ濡れなんですけどこの人。……ここまで、泳いで来たみたい。
曜先輩は濡れる髪をかき上げながら、私の目の前で片膝を折って、身を屈める。
曜「私の完敗! かすみちゃんの諦めない心、立ち向かう勇気、仲間たちへの信頼、そして……その強さを認めて──この“アンカーバッジ”を贈るよ。受け取って!」
曜先輩がかすみんの手に小さなバッジを手渡してくれる。
かすみ「えへへ……♪ “アンカーバッジ”ゲットです……♪」
「ジュカィィーンッ!!!!」
こうして、激闘の末──かすみんは5つ目のジムに無事、勝利したのでした。
👑 👑 👑
──ジム戦を終えて、サニータウンに戻ってくると……。
──pipipipipipi!!! と図鑑が鳴り始める。図鑑の共鳴音です。
ということは……。
歩夢「おーい……! みんなー!」
浜辺に着くとほぼ同時に、歩夢先輩が手を振りながら駆け寄ってくるところだった。
- 801 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:29:55.06 ID:0Ok5BWPG0
-
侑「歩夢! よかった、ちゃんとたどり着けたんだね」
「ブィブィ♪」
歩夢「うん。遅くなっちゃったけど……」
かすみ「全くですよぉ……かすみんの大活躍、見逃しちゃったんですからね」
歩夢「ご、ごめんね、かすみちゃん……。でも、大活躍したってことは……!」
かすみ「はい、このとおりです!」
かすみんは歩夢先輩に今しがた貰った“アンカーバッジ”を見せつける。
歩夢「おめでとう、かすみちゃん♪」
かすみ「ありがとうございます!」
しずく「今日のかすみさん、本当に頑張ったよね♪」
かすみ「でしょでしょ! 今日のかすみんは主役だよね!」
しずく「ふふ、そうだね♪」
珍しくしず子も素直に褒めてくれて気分がいいですね♪
曜「みんな、この後はどうするの? もう日も暮れ始めてるけど……」
曜先輩がそう訊ねてくる。
確かにもうサニータウンの空は夕暮れに包まれている。
かすみ「家に着く前に日が暮れちゃいそうですね……」
しずく「それなら、今日は私の家に泊まらない?」
かすみ「え、いいの?」
しずく「もちろんだよ! 侑先輩と歩夢さんもどうでしょうか?」
歩夢「迷惑じゃないなら、行きたい!」
侑「私も!」
「イブィ♪」
リナ『全員合意、レッツゴー♪』 ||,,> ◡ <,,||
かすみ「それじゃ、ちゃちゃっと移動しちゃいましょう〜」
かすみんもうくたくたですからね……。
かすみ「曜先輩、今日は本当にありがとうございました!」
曜「こちらこそ、楽しいバトルだったよ! ジム戦とか抜きに、またバトルしたくなっちゃった!」
かすみ「えへへ、是非また今度戦いましょう! それじゃ、今日はこの辺で……」
曜「うん! みんな、気を付けて帰るんだよ!」
かすみ・しずく・侑・歩夢「「「「はーい!」」」」
4人揃って、しず子の家に向かって歩き出す。
しずく「……あ。歩夢さん。その髪飾り、どうしたんですか? 昨日はしてませんでしたよね?」
歩夢「あ、えっと……これは、侑ちゃんから貰ったの……えへへ」
侑「んっん……///」
侑先輩はわざとらしく、咳払いをして、
侑「それより、かすみちゃん! さっきのバトルの感想語ってもいいかな!」
- 802 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:30:27.55 ID:0Ok5BWPG0
-
かすみんの方に話を振ってくる。
かすみ「もう〜仕方ないですね〜! いくらでも聞いちゃいますよ〜!」
歩夢先輩に対する照れ隠しなのはバレバレですけど、かすみんを褒めてくれるならオールオッケーです!
しずく「可愛らしいお花の髪飾りですね……素敵です」
歩夢「侑ちゃんが、私のこと大切に想ってるって……そんな気持ちを込めて贈ってくれたの……えへへ」
しずく「それは、大切にしないといけませんね」
歩夢「うん♪」
侑「え、えっとぉ……/// き、今日の試合、まずヤブクロンVSタマンタの話からなんだけど……!」
照れを隠しながら、必死にかすみんの試合の感想を言う侑先輩はちょっと可愛かったです。
そんなサニータウンの夕暮れ時。かすみんたちは、楽しくおしゃべりをしながら、しず子のお家へ向かうのでした。
- 803 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:31:13.81 ID:0Ok5BWPG0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【サニータウン】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.●‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.39 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.35 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.36 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.32 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.32 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:149匹 捕まえた数:8匹
主人公 しずく
手持ち ジメレオン♂ Lv.29 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
マネネ♂ Lv.22 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アオガラス♀ Lv.29 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロゼリア♂ Lv.29 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
キルリア♀ Lv.29 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:156匹 捕まえた数:9匹
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.42 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.41 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.38 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.32 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
タマゴ なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:153匹 捕まえた数:4匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.40 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.37 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.36 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
タマザラシ♀ Lv.30 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラエッテ♀ Lv.20 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:155匹 捕まえた数:16匹
かすみと しずくと 侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 804 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 01:57:03.51 ID:S2FBcmzU0
-
■Intermission👏
──コメコシティ・DiverDiva拠点
果林「……姫乃ったら、とんでもない爆弾を見つけて来たみたいね」
カリンは数日前に姫乃から預かっていたデータを見ながら、そう漏らす。
愛「ホントにね。で、どうすんの?」
果林「利用しない手はないでしょ」
愛「ま、カリンならそう言うと思ってたけどね」
アタシはカリンに向かって、小さなフラッシュメモリを投げ渡す。
果林「……これは?」
愛「直近のマッキーのスケジュール」
果林「よくこんなもの手に入れられたわね……?」
愛「あっちこっちクラッキングして、やっとこさ入手した。セキュリティが厳重で足が付かないようにやるには結構苦労したよ……」
果林「ふふ、さすが愛ね」
果林は不適に笑いながら、メモリ内のデータを閲覧し始める。
愛「ホントギリギリになっちゃうけど、明後日……マッキーはいくつかの会社と、合同でビジネス発表会の会議があるはずだし、もしかしたらワンチャンそこに──菜々って子も現れるかもしんないよ」
果林「なるほど……。ただ……秘書を確実に同席させるなら、先方にスケジュール交渉をするように仕向けた方が……。時間がないわ……今すぐ、策を考えましょう」
カリンは拠点に戻ってきたところだと言うのに、次のミッションのために作戦を練り始める。
相変わらずストイックだ。まあ、カリンのそういうところは嫌いじゃないけど。
私もなんか手伝おうかと考えていると──拠点内をふよふよと漂っていた小さなポケモンが私の傍に近寄ってきた。
「ベベノー♪」
愛「おおー、急にどうした?」
「ベベノ、ベベノ♪」
愛「愛さんにかまって欲しいのか〜? 甘えんぼさんめ〜♪」
抱きしめて、撫でてあげると、相棒は嬉しそうに鳴き声をあげる。
果林「……仕事しないなら、外行ってくれる?」
愛「あーはいはい、手伝う手伝う。また後で遊んであげるから、待っててね」
「ベベノ」
全く、このストイックさに付き合っていたら、パートナーと遊ぶ暇もないんだから。
アタシは肩を竦めながら、カリンとの作戦会議に興じるのだった。
………………
…………
……
👏
- 805 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:24:08.45 ID:S2FBcmzU0
-
■Chapter041 『最初で最後のポケモン図鑑』 【SIDE Yu】
──かすみちゃんのジム戦も無事終わり……私たちはその翌日、約束どおりツシマ研究所を訪れていた。
侑「こんにちはー!」
「ブィ」
かすみ「ヨハ子博士〜! 可愛いかすみんが来ましたよ〜♪」
「ガゥガゥ♪」
私たちが研究所に入ると──博士はモンスターボールを磨いているところだった。
善子「あら、来たわね、リトルデーモンたち」
大切そうに磨いているボールを見て──
侑「も、もしかして、そのボール……! 千歌さんのルガルガンが入ってるボールですか!?」
思わず目を輝かせて、詰め寄ってしまう。
善子「ん、あー……残念ながら、これは千歌のルガルガンのボールじゃないわ」
侑「あ……そうなんだ……」
しずく「それにしても、随分丁寧に磨かれているんですね」
かすみ「もしかして〜……めっちゃ貴重なポケモンなんじゃないですかぁ〜? それなら、見せてくださいよ〜!」
善子「……まあ、確かに貴重なポケモンだけど……貴方たちには見せられないわ」
そう言いながら、博士はボールを引き出しにしまってしまう。
その際──その引き出しの中にちらっとだけど……赤い板状のものが見えた。
あれって……?
かすみ「えー!! ヨハ子博士のケチー!!」
歩夢「か、かすみちゃん……そんなこと言ったら博士も困っちゃうよ……」
善子「まぁ……普通のポケモンだったら見せてあげてもいいんだけどね。……この子だけはちょっと特別なのよ」
侑「特別……?」
善子「……ま、そんなことはいいの。今ルガルガンを連れてくるから、ここで待ってて」
侑「! はいっ!」
リナ『侑さん、テンション爆上がり』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
「イブィ…」
──程なくして、博士が奥の部屋から、戻ってくる。
もちろん、ルガルガンと一緒に、だ。
侑「わぁ〜〜〜!!!」
ヨハネ博士の横で、毅然とした態度で歩いてくる黄昏色のルガルガンを見て、私のボルテージは最高潮に達する。
侑「ち、千歌さんのルガルガンだぁ〜!!」
「ワォン」
侑「はぁ〜〜〜♪ やっぱ何度見ても実物で見ると、迫力が全然違う……! さ、触ってもいいですか!?」
善子「ルガルガン、触りたいって言ってるけど?」
- 806 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:25:07.54 ID:S2FBcmzU0
-
ヨハネ博士がそう訊ねると、
「ワォン」
ルガルガンは私の目の前で、伏せの姿勢を取る。
善子「許可が下りたみたいね」
侑「あ、ありがとうございますっ!!」
膝を折って、ルガルガンを優しく撫でてみると、柔らかい毛並みの感触が手に伝わってくる。
侑「こ、これが、あの伝説のルガルガン……私触っちゃった……! か、感激……!」
歩夢「ふふ、侑ちゃん、よかったね」
侑「うん……!」
善子「感動してるところ悪いけど……これから、この子を連れてくんだってこと忘れてないわよね? そんなテンションじゃローズまでもたないわよ……?」
侑「だ、大丈夫です! 責任持って送り届けます!」
善子「なら、いいんだけど。ルガルガン、戻りなさい」
「ワォン──」
ヨハネ博士はルガルガンをボールに戻して──
善子「それじゃ、千歌のルガルガン……確かに渡したからね」
ボールが私に手渡される。
侑「……はい!」
ぎゅっとボールを握りしめる。千歌さんの大切なルガルガン……責任を持って送り届けなくちゃ……!
かすみ「それはそうと〜……ヨハ子博士〜」
善子「? 何かしら」
かすみ「かすみん、昨日ジム戦すっごい頑張ったんですよ〜」
善子「そういえば、曜とジム戦をしてたんだったわね」
かすみ「ホントに激闘の末の勝利だったんですよぉ〜」
善子「そう」
かすみ「……」
善子「……えっと、なに?」
かすみ「もう! せっかく、自分のところから旅立ったかすみんが頑張ったのに、労いの言葉もないんですか!」
善子「あのねぇ……私は学校の先生じゃないのよ……」
かすみ「むーー!! ヨハ子博士のケチ!! 減るもんでもないんだし、褒めてくれてもいいじゃないですか!」
善子「かすみ、貴方は応援がないと頑張れないの?」
かすみ「頑張れませんっ! かすみんは人から応援されるのがパワーの源なんですっ!」
「ガゥガゥ」
ゾロアと同調しながら、ぷりぷりと文句を言うかすみちゃん。
そんなかすみちゃんを見てヨハネ博士が溜め息を吐く。
善子「はぁ……先が思いやられるわ……」
「──こら、善子ちゃん! そんな風に言っちゃダメでしょ!」
- 807 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:26:29.88 ID:S2FBcmzU0
-
急に私たちの背後から、聞き覚えのある声が響く。
振り返ると、そこにいたのは、ちょうど昨日も会った──
侑「曜さん!」
曜「ふふ、みんな、昨日振り!」
かすみ「曜せんぱ〜い……! ヨハ子博士がいじめますぅ〜……! かすみん、いっぱい頑張ったのに、ちっとも褒めてくれなくて〜……!」
曜「うんうん、酷い博士だよね〜……」
善子「曜……何しに来たのよ。あと、ヨハネって呼びなさい」
曜「えっと、昨日のバトルで水上フィールドが壊れちゃって……ちょっと耐久の見直しが必要だと思って、家まで設計資料を取りにセキレイに戻ってきたところだったんだけど……。ちょうど、研究所の前を通りかかったら、みんなの声が聞こえたからさ」
善子「それで、わざわざ寄ったってことね……」
曜「それより、善子ちゃん! 大切な図鑑所有者たちに、そんな冷たくしたらダメでしょ!」
かすみ「そうですそうです!」
「ガゥガゥ!!」
曜「そんな風に、冷たく接してると……もう嫌だーって辞めちゃうかもしれないよ!」
かすみ「そうですそうで……え、いや、それはかすみんも困るんですけど……」
「ガゥ?」
曜さんがヨハネ博士を窘める。私はてっきり、いつもみたいに軽くあしらうんだと思っていたんだけど……。
善子「……わ、悪かったわ……ごめんなさい……」
ヨハネ博士は気まずそうに、頭を下げる。
かすみ「あ、あれ……意外と素直に謝ってきましたね……」
曜「もう……善子ちゃん、本当は自分のもとから旅立った子たちが活躍してて嬉しい癖に、なんで素直に褒めてあげられないのかな」
善子「う……/// うっさいわね……余計なお世話よ……」
曜さんの言葉に、ヨハネ博士はプイっと顔を背ける。
曜「ごめんね、みんな……。善子ちゃん、前に失敗してるのもあって、君たちとの距離感を掴み損ねてるみたいでさ……」
しずく「失敗……?」
善子「あ、ちょっと、曜……! 余計なこと……!」
曜「やっぱりまだ言ってなかったんだね……」
善子「…………」
曜「善子ちゃん、そろそろ……この子たちには話してあげてもいいんじゃない?」
侑「……?」
一体、何の話だろう……?
善子「…………」
曜「善子ちゃんが、この子たちにどういう期待をしてて、どんな気持ちで旅に送り出したのか。その願いと想い……伝えてもいいんじゃないかな」
善子「でも、そんなの……私のエゴよ」
ヨハネ博士は困ったような表情をして言うけど、
- 808 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:27:15.89 ID:S2FBcmzU0
-
しずく「あ、あの……もし、ヨハネ博士に何か特別な想いがあるのでしたら……私は、聞きたいです」
善子「しずく……」
歩夢「き、期待に応えられるかはわからないですけど……私も、ヨハネ博士が何か考えてるなら……ちゃんと知りたいです」
善子「歩夢……」
かすみ「もう、ヨハ子博士、この期に及んで何を隠すことがあるんですか! 気になることがあるなら、このかすみんに話してくださいよ〜!」
善子「かすみ……あんたはなんか腹立つわね」
かすみ「なんでですかっ!?」
ヨハネ博士が選んだ3人からの言葉。
侑「あの、ヨハネ博士……私は博士に選んでもらったトレーナーじゃないですけど……みんなヨハネ博士のこと尊敬してるし、感謝してます! もし、何か気になることがあるなら、力になりたいです……!」
善子「侑……」
ヨハネ博士は少し悩む素振りを見せる。
善子「……もう、曜が余計なこと言うからよ……」
曜「こうしてあげないと、どこかの誰かさんはいつまでも抱え込むからね」
善子「……はぁ……わかったわよ」
ヨハネ博士は観念したように、溜め息を吐きながら──先ほど磨いていたボールをしまった引き出しを開けて、中から赤い板状の物を取り出した。
侑「あ、それ……」
さっきちらっと見たのと同じ物──
侑「ポケモン……図鑑……」
善子「……そうよ」
それは、真っ赤なポケモン図鑑だった。
かすみ「え、どういうことですか? 実はさらにもう1個ポケモン図鑑があったってこと?」
善子「……ええ。どの図鑑ともペアリングされてない。たった1つだけ……残された図鑑」
かすみ「ええ? なら、なんで侑先輩にはそれじゃなくて、リナ子を渡したんですか? リナ子はたまたま知り合いに頼まれて渡された〜みたいなこと言ってませんでしたっけ?」
善子「この図鑑を渡す相手は……もう決まってるの。ずっと……ずっと前から……」
侑「それって、どういう……」
善子「今から話すのは……2年前の話。私がこの研究所を持つ前のことよ──」
ヨハネ博士はそう切り出して──過去のことを話し始めた。
- 809 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:27:59.70 ID:S2FBcmzU0
-
😈 😈 😈
──────
────
──
──2年前。
善子「やっと……やっと、手に入れた……!!」
私は現在建設中の研究所の前で、小躍りしたくなるくらい嬉しかった。
私の手元に届いたのは──真っ赤な旧式のポケモン図鑑。
旧式と言っても、それはガワだけで、中身は最新のモノだ。
本当は外身も最新型の物が欲しかったんだけど……いかんせん、博士の地位を得たばかりで……しかも、自分の研究所も建設中の私にそんなツテがあるはずはなかった。
どうにかこうにか、方々に頭を下げ、あちこちを自分の足で回り、やっとの思いで手に入れることが出来たのが、この旧式のポケモン図鑑だったというわけだ。
そして、図鑑と同時に──わざわざ遠い地方まで探しに行って手に入れた、最初のポケモン。
これで……これでやっと……!
善子「私も博士として……新人トレーナーを送り出せるのね……!」
私の研究のテーマは人とポケモンとの関わり合いの文化だ。
もちろん、自分の足で、目で、それを調べることは重要だし、自分自身で出来ることはたくさんあるけど……。
それ以上に、ポケモンと共に旅に出て、共に成長していくトレーナーから得られる情報が必要だと考えていた。
それに、何より……過去に古巣の師が私たちを送り出してくれたように、博士として、新しいトレーナーを送り出せる人間になりたかった。
マリーには口が裂けても言えないけど……私にとって、あの人は憧れだ。
ケンカしてばっかりだけど、いつかマリーみたいな研究者になって、追い付くんだって、そう思っていた。
これはその第一歩なんだ……!
善子「早速トレーナーを……! 旅立ちを待ってるトレーナーを探さないと……!!」
😈 😈 😈
善子「…………」
曜「善子ちゃん、元気出しなよ」
項垂れる私に、カフェの向かいの席から、曜が言葉を掛けてくる。
善子「だって……全然……見つからないし……」
曜「まあ、鞠莉さんも新人トレーナー探しには苦戦してたもんね……」
善子「でも、ここセキレイよ!? ウラノホシとは違うのよ!?」
曜「そんなこと私に言われても……」
セキレイになら、明日にでも旅に出たくてうずうずしている子供がわんさかいると思っていたのに……まさかのマッチする子が誰も見つからない状態だった。
- 810 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:29:34.81 ID:S2FBcmzU0
-
善子「やっぱり私……不幸な堕天使なのね……」
曜「うーん……図鑑と最初のポケモンが1組しかないからかなぁ……」
善子「たぶんね……」
図鑑を貰って旅に出るとき、ポケモン図鑑と最初のポケモンは3組あるのが普通だ。
でも、私の手元にあるのは1組のみ……。
善子「やっぱり、最初のポケモンを選べないってのが、よくないのかしら……」
曜「まあ、一番最初の楽しみみたいなところあるもんね……」
善子「そうよね……」
今から、あと2組手に入れる……? いや、それこそ無理よ……。1組揃えるだけで、どれだけ大変だったか……。
曜「鞠莉さんに相談してみたら?」
善子「それは絶対嫌」
曜「はぁ……意地張らずにお願いすればいいのに……」
善子「絶対嫌よ……」
半ば強引に飛び出してきて独立したのに、なんやかんやあって、研究所を建てる際にも……頼んでもいないのにマリーが半ば強引に話を付けて研究所設立のお金を貸してくれたりして……。
そのお陰でどうにか自分の研究所を建てることが出来たようなものだったし……。
結局、私はあの人の世話になってばかりなのだ。
マリーは面倒見がいいし、お願いすれば、最初のポケモンどころか、ポケモン図鑑も工面してくれるかもしれない。
だけど……それじゃ、いつまで経っても私はマリーの腰巾着。あの人の隣になんていつまで経っても立つことが出来ない。
曜「なら……めげずに探し続けるしかないんじゃないかな」
善子「……わかってるわよ……」
机に突っ伏したまま、窓の外をちらりと見ると──まるで今のヨハネの気持ちを表したかのような、曇天に包まれていた……。
これは一雨来そうね……。
😈 😈 😈
善子「──あーもうっ!! やっぱり降られた……!!」
ずぶ濡れになりながら、マンションの自室に駆け込む。
玄関でびしょ濡れになった靴を脱いでいると、
「ムマァ〜ジ♪」
ムウマージがタオルを持ってきてくれる。
善子「ありがとう、ムウマージ……」
- 811 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:30:21.63 ID:S2FBcmzU0
-
タオルを受け取り、雨で濡れた身体を拭きながら、家に入る。
……お風呂沸かさないとね。
部屋に入ると、既にドンカラスがくちばしで器用にお風呂の給湯器を操作しているところだった。
自分の手持ちでありながら、賢い子が多くて助かる……。
善子「みんな、ただいま」
「カァ」「ゲコガ」「ヒュラ」「シャンディ」「ゲルル…」
ドンカラス、ゲッコウガ、ユキメノコ、シャンデラ、ブルンゲル……アブソルだけ返事がないけど……。
少し探すと、アブソルは部屋の隅の方で丸くなっていた。少し窮屈そうだ。
研究所が完成すれば、この子たちにも窮屈な思いをさせずに済むかもしれない。
もう少しの辛抱だ。
善子「とにかく今は……トレーナー探し……!」
お風呂が沸くまでの間に、パソコンを立ち上げる。
まだ研究所が建設中とはいえ、研究者の端くれ。
情報収集やメールチェックもしなくてはいけないのだ。
……知り合いがまだ少ないから、ほとんどはマリーから一方的にメールが送られてくるくらいだけど……。
──メーラーを開いて、カリカリとスクロールしながら、目を通す。
善子「スパム……多い……」
嘆息気味に目を滑らせながらスクロールしていくと──
善子「……え?」
一通のメールが目に留まった。
そこには──『新人トレーナー募集のお話について』と銘打ったメール。
開くと、そこには、こんな内容が書いてあった。
『初めまして。突然のご連絡、失礼いたします。この度、ツシマ研究所にて新人トレーナーを探されているとお伺いしました。もしよろしければ、詳しくお話を聞かせてもらえないでしょうか?』
善子「……来た」
「ムマァ〜ジ?」
善子「来た……!! 来たわ!! 新人トレーナーから連絡!!」
私はびしょ濡れで早くお風呂に入りたかったことなんてすっかり忘れて、メールに即行で返事をする。
メールに対するお礼と、こちらの詳細な連絡先、連絡可能時間、出来ればポケギアでいいので、一度直接話したい旨を送信する。
その際、送り主の名前を再度確認する。
善子「──ナカガワ・菜々……」
この子が、私が図鑑と最初のポケモンを託すことになる……最初のトレーナーなんだ……。
善子「くぅぅ……やった……やったわ……!」
思わず、拳を握りしめてしまう。それくらい嬉しかった。
まだ見ぬ、ナカガワ・菜々という少女と早く連絡が取りたい、そう思っていると──ピコンとメールの受信音。
- 812 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:31:21.33 ID:S2FBcmzU0
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善子「嘘!? もう返事来た!?」
まさにそのナカガワ・菜々さんから返事だった。
今すぐにでも、話したいという旨と彼女の連絡先が書かれていた。
私はポケギアを引っ張り出し、すぐにその番号をプッシュした。
通話先の主は──ワンコールも掛からずに、電話に応じてくれた。
『……も、もしもし……』
ギアの向こうから、緊張気味な少女の声が聞こえてきた。
善子「ナカガワ・菜々さんね……?」
菜々『は、はい……ツシマ・善子博士ですか……?』
咄嗟に善子じゃなくてヨハネと言いそうになったけど、今はそれよりも大事な用件だから、言葉を呑み込む。
善子「ええ……! そのとおりよ、私がツシマ・善子よ」
菜々『よかった……ちゃんと繋がって……』
善子「それで……新人トレーナー募集の話なんだけど……」
菜々『は、はい……私、ポケモンと旅……ずっとしてみたくて……偶然、博士が新人トレーナーを探してるって話を聞いて……連絡してみたんです……』
善子「そうだったのね……」
ああ、私のやってきたことは無駄じゃなかった。
思わず涙ぐみそうになる。
菜々『あ、あの……もしかして……もう旅立ちの子、決まっちゃってたりとか……』
善子「ええ、決まってるわ」
菜々『え、あ……そんな……』
善子「貴方よ」
菜々『……え?』
善子「菜々。……貴方が、私のもとから旅立つことになる新人トレーナーよ……!」
菜々『……! はい!』
これが、私と菜々のファーストコンタクトだった。
- 813 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:32:18.16 ID:S2FBcmzU0
-
😈 😈 😈
私は菜々と何度かやり取りをして、彼女のプロフィールを教えてもらった。
ナカガワ・菜々。
歳は15歳。
住んでいるのはローズシティ。
そして、驚くことにローズの名門スクールに通っている子だった。
そのスクールは今どき珍しい座学メインで、ポケモンの授業がほとんどない学校。
ほとんどの生徒がそのままローズの大企業に就職すると聞く。
そんな学校に通うだけあって、今までポケモンに触れた経験はなし。
ただ、本人はポケモンにすごく興味があり、どうしても旅に出てみたくて、いろいろ調べているうちに、偶然私が新人トレーナーを探しているということにたどり着いたらしかった。
これから初めてポケモンと関わって、一緒に過ごして、繋がりを作っていこうとしている少女……。まさに私が探している人物像そのものだった。
運命すら感じた。
善子「──菜々は、どんなポケモントレーナーになりたい?」
菜々『すっごく強いポケモントレーナーになりたいです……! 誰にも負けない、ポケモントレーナー! 私……そんなトレーナーになれますか……?』
善子「ええ、きっとなれるわ。そういう風に言ってて、本当に強くなった友達がいるの」
菜々『本当ですか……!』
菜々との打ち合わせは順調に進んでいった。
──そして、彼女の旅立ちまであと1週間と迫ったある日のことだった。
ポケギアが鳴り響き、画面を確認すると、いつものように、菜々の番号からだった。
善子「もしもし、菜々?」
菜々『……ヨハネ……博士……っ……』
善子「……菜々?」
通話越しでも、すぐに理解できた。
菜々の声が、震えていた。
善子「どうしたの、菜々!? 何かあったの!?」
菜々『ご、ごめん……なさい……。あ、あの……お、親に……代わり、ます……』
善子「え……?」
親……?
菜々父『──初めまして、ツシマ博士でしょうか』
ポケギアの向こうから聞こえてきたのは、男性の声だった。
つまり、菜々の父親だろう。
真面目そうで、堅い……威圧感のある声。
- 814 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:33:14.34 ID:S2FBcmzU0
-
善子「は、はい……間違いありません」
菜々父『この度は、娘がご迷惑をおかけして申し訳ございません』
善子「はい……? い、いえ、ご迷惑だなんて……」
菜々父『いえ、ギリギリになって、旅立ちのお断りの連絡を入れることになってしまって、申し訳ない……』
善子「……は?」
今、なんて言った……?
旅立ちを断る……?
善子「え、ち、ちょっと待ってください、どういうことですか……!?」
菜々父『今回、娘が勝手に博士に連絡を入れて、旅立ちの約束をしてしまったと伺いまして』
善子「……な……」
完全に予想外だった。
菜々は15歳という年齢でありながら受け答えもしっかりしていて、よく出来た子だったから、てっきり保護者とも話がついているんだと思い込んでいた。
菜々父『直前の連絡になってしまったことは、私たちの監督不行き届きに他なりません。本当に申し訳ない』
善子「ち、ちょっと待ってください……!」
菜々父『なんでしょうか』
善子「菜々は……菜々さんはなんと言ってるんですか……!?」
確かに親の了解を取っていなかったのはまずい。とはいえ、話が一方的すぎる。
私はずっと菜々がどれだけ旅を楽しみにしていたのか知っている。期待を、希望を、夢を、全て聞いてきた。
それなのに、二の句を継がせずに、旅に出させないという話になっているのは、あまりに急すぎる。
だけど、菜々の父親は、
菜々父『娘の意見は関係ありません』
その一言で切り捨てた。
善子「な……」
菜々父『我が家の教育方針では、ポケモンとは関わる必要はないと考えています』
善子「ポケモンと関わる必要がないって……」
菜々父『菜々はスクールでも主席。私たちもこの子の未来には期待しています。学校を卒業して、ローズの企業に就職すれば、ポケモンと関わらなくてもそこまで問題はないはずです』
善子「…………それは」
確かにローズシティにはそういう人が少なくない。
人口も多く、他の街に比べると、街中にいるポケモンは少ない方で、このオトノキ地方でも、一生涯ポケモンを持たずに暮らす人間が最も多いと言われている。
安全管理が徹底しているから、野生のポケモンに至ってはほぼゼロと言って差し支えないほどに少ないのがローズシティという街なのだ。
ポケモンを排除しようとしているのではない。人が多いからこそ、ポケモンとの住み分けをしっかりし、お互いの領域を守る。そういう理念で動いている街。
菜々父『それなのに、わざわざポケモンと旅に出るなんて、危険な真似をさせたがる親がいますか?』
善子「…………」
言葉に詰まる。
だけど、ダメだ。ここで何も言い返さなかったら──菜々の夢がここで終わってしまう。
善子「で、ですが……ローズもポケモンの力を全く借りていないわけじゃないはずです」
- 815 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:34:21.23 ID:S2FBcmzU0
-
当たり前だが、この世界でポケモンと全く無関係に生きるというのは不可能なはずだ。
程度の問題であって、ゼロではない。
善子「ポケモンのことを実際に自分の目で見て、知ることは教育の上でも重要だと私は考えていて──」
菜々父『それは貴方の考えでしょう』
ぴしゃりと返される。
……怯むな。
善子「ローズシティと言えば、この地方のモンスターボール生産の98%を占めていますよね? モンスターボール事業に関わることになれば、ポケモンの知識が重要に──」
菜々父『逆にお聞きします。この地方でポケモンによって起こる事件・事故の発生件数がどれほどのものか……博士ならご存じですよね?』
善子「それ……は……」
菜々父『並びにローズではそのような事件・事故がどれだけ少ないかも』
善子「…………」
ポケモンが街中にほとんどいないというのは裏を返せば、ポケモンによる事件や事故は格段に少ない。
そりゃそうだ。居ないのだから、起こるはずがない。
菜々父『その上でお訊ねします。娘を危険な目に遭わせたくない。だから、ポケモンと距離を置かせる。そう考える私の考えはおかしいでしょうか?』
──極端だ。そう思った。
だけど、親が子を守るための方便として、これ以上のものはなかった。
善子「……仰る通りだと思います」
菜々父『わかっていただけたなら、幸いです』
善子「いえ……」
菜々父『この度は本当に、申し訳ございませんでした』
善子「いえ……こちらこそ、確認不足でいらぬご心配をお掛けしてしまい、申し訳ございませんでした……」
菜々父『とんでもないです』
思わず、下唇を噛む。
私は、こんなことが言いたいんじゃないのに。
善子「……あの」
菜々父『なんでしょうか』
善子「最後に……菜々さんとお話させてもらえませんか……」
菜々父『わかりました』
菜々のお父さんの了承の言葉のあと、
菜々『ヨハネ……博士……っ……』
菜々の声が聞こえてきた。震える、菜々の声。
善子「菜々……」
菜々『ご迷惑おかけして……申し訳……ございません……。……私には、まだ……ポケモンは……早かった……みたい、です……』
善子「……っ……!!」
- 816 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:35:07.92 ID:S2FBcmzU0
-
──頭がカッとなる感覚がした。
もちろん菜々への怒りではない。菜々の親への怒りだ。
こんな──どう考えても言わされているような言葉。
私は菜々の想いを散々聞いてきたからわかる。こんなの菜々の本心じゃない。
菜々『最初のポケモンと図鑑は……他の子にあげてください……。きっと……私が貰うより……幸せだから……』
善子「菜々……っ……私は……っ」
菜々『いっぱいお話聞いてくれて……ありがとう、ございました……』
──ツーツーツー。その言葉を最後に、通話は切れてしまった。
善子「…………何よ、これ……」
私は思わず椅子にもたれかかって、天井を仰いだ。
😈 😈 😈
その日の深夜のことだった。
どうしても眠る気分になんてなれずに、ボーっと椅子に腰かけていると──prrrrrとポケギアが鳴った。
善子「…………深夜2時よ、何考えて──」
ぼやきながらギアの画面を見て、目を見開いた。
急いで通話に応じる。
善子「菜々……!?」
菜々『……よは、ね……はか……せ……っ……。……わた……し……っ……たびに……でたい、です……っ……』
菜々は通話の向こうで泣いていた。
悲痛な声で、親の前では言うことを許されなかった気持ちを、吐露しながら。
善子「菜々……っ……いいわ、私が許可する……!! 私の所に来たら、旅に送り出してあげるから……!!」
菜々『……たくさん……ポケモンと……っ……なかよく、なって……っ……つよい……とれー、なーに……なり、たい……です……っ……』
善子「なれるわ……っ!! 菜々なら、絶対……っ!!」
菜々『ほん、と……ですか……?』
善子「ええ!! 私が保証する!!」
菜々『でも……お父さんも、お母さんも……ゆるして、くれない……から……っ……』
善子「説得しましょう……!! いえ、ヨハネが説得してあげるわ……!! 旅が危ないって言うなら、ヨハネが貴方の旅に付いていってもいい……!! だから……!!」
菜々『………………ぐすっ……。…………ありがとう、ございます……っ……。……はかせ……っ……わたし……もうちょっとだけ……がんばります……っ……』
善子「菜々……?」
菜々『……当日……待っててください……絶対、ツシマ研究所に……行きます……から……』
善子「……ええ、待ってるわ。……菜々のこと、待ってるから……!」
菜々『……はいっ』
- 817 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:35:44.29 ID:S2FBcmzU0
-
──だけど、当日……菜々が姿を現すことはなかった。
そして、この通話が、菜々との最後の会話になった。
これ以降はメールも返事がなくなり、ポケギアも通じなくなってしまった。
そして、その数ヶ月後──
善子「……手紙……?」
研究所のポストに入った一通の手紙。宛先は書いていなかった。
封筒を開けると、中から一枚の便箋が出てくる。
──『ごめんなさい』──
とても綺麗な文字で、たった6つの文字だけが書いてある手紙だった。
その綺麗な文字を見るだけで、育ちの良さが伺える。そんな筆跡だった。
それが逆に、菜々の痛みを体現しているかのようで、私は胸が締め付けられるような気持ちになるのだった──
──
────
──────
🎹 🎹 🎹
善子「──何度か、菜々の家を直接訪ねようと思ったこともなかったわけじゃないんだけど……。……これ以上、私が口を挟むと、余計に菜々を傷つけるんじゃないかと思って……出来なかったわ」
侑「……じゃあ、その図鑑と、モンスターボールは……」
善子「……ええ。菜々に渡すはずだったものよ」
博士はそう言いながら、ポケモン図鑑を大切そうに引き出しに戻す。
善子「これは……菜々以外が持っちゃいけない……」
侑「……」
それは重さを感じる言葉だった。
善子「そこから2年……ようやく、3組の図鑑と最初のポケモンを揃えることが出来た」
歩夢「それによって、旅立つことになったのが……」
しずく「私たち……なんですね」
善子「……そうよ」
少し、研究所の中が静かになる。
善子「……ごめんなさい。やっぱり、こんな重い話、聞きたくなかったわよね……」
ヨハネ博士は申し訳なさそうに言う。
が──
かすみ「そんなわけないじゃないですかっ!!」
かすみちゃんが、真っ先に声をあげた。
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