このスレッドは1000レスを超えています。もう書き込みはできません。次スレを建ててください
侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」
- 518 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:12:12.29 ID:ffPGApYk0
-
侑「だ、ダイヤ……さん……」
ダイヤ「あら、わたくしのこと、ご存じなのですね。ありがとうございます」
侑「あ、あああ、当たり前じゃないですか!!」
ダイヤさんと言えば、元ウチウラジムのジムリーダーで、つい最近四天王に就任したというのはニュースにもなっていたし、知っていて当然だ。
この町に訪れる際も四天王の出身の町だし、もしかしたらどこかで会えるかもなどと淡い期待をしていなかったわけじゃないけど──まあ、セキレイシティも四天王出身の街だけど──まさか、もう去ったと思っていたこのウチウラジムで会えるとは思ってもみなかった。
侑「さ、さささ、サイン!! サインください!!」
ダイヤ「ふふ。わたくしのサインなんかでよろしければ、ジム戦が終わったあとに差し上げますわ」
侑「や、やったーーー!! 歩夢!! ダイヤさんからサイン貰えるって!!」
興奮気味に歩夢の方を振り返ると──
歩夢「……あの」
歩夢は何やら困惑していた。
侑「歩夢……?」
歩夢「えっと……」
そして、そんな歩夢の視線は私を通り過ぎて──ダイヤさんに注がれている。
ダイヤ「ふふ、昨日振りですわね」
歩夢「……やっぱり」
侑「え、何? 昨日振りって、どういうこと?」
歩夢「私……昨日、浜辺でダイヤさんと会ったの」
侑「え、嘘!? なんで教えてくれなかったの!?」
歩夢「真っ暗でほとんど顔とかは見えてなくて……まさか、四天王の人だったなんて……」
侑「な、なるほど……」
確かにそんな場面で会った人がまさか四天王の1人だなんて、想像出来ないかも……。
ルビィ「それより、お姉ちゃん……どうしたの? 今日はお休みだって言ってたのに……」
ダイヤ「確かに今は休暇中ですが……少し、そちらの方に用事がありまして」
そう言いながら、ダイヤさんの視線は再び歩夢に向けられる。
歩夢「……」
侑「歩夢に……!? やっぱ、昨日何かダイヤさんと話したの!?」
四天王のダイヤさんと歩夢がした会話……すごく気になる……!!
ダイヤ「昨日わたくしが最後にした話、覚えていますか?」
歩夢「……はい」
ダイヤ「でしたら、わたくしがここに出てきた理由も、なんとなくおわかりなのではないでしょうか?」
歩夢「……」
ダイヤさんの言葉を聞いて、歩夢が不安げな瞳を私に向けてきた。
- 519 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:13:07.74 ID:ffPGApYk0
-
侑「歩夢……?」
歩夢「……あの……侑ちゃん」
侑「なに?」
歩夢「……あの、ね……わがまま、言っていい?」
目を泳がせながら、不安げに言う歩夢に向かって。
侑「いいよ」
私は即答した。
歩夢「侑、ちゃん……」
侑「歩夢、何かしたいことがあるんだよね。だったら、私は協力する!」
ダイヤ「聞く前から、了承してしまっていいのですか?」
侑「はい! 歩夢のお願いですから!」
歩夢はいつも一歩引いている子だった。
私が好きなものに突っ走って、引っ張って、連れ回しても、文句一つ言わず、いつも私の傍にいてくれた。
そんな歩夢が、自分から、自分のしたいことを、わがままを、私に言ってくれることが、なんだか嬉しかった。
侑「どんなお願いでも、わがままでも、私が力になるからさ!」
歩夢「侑ちゃん……ありがとう」
ダイヤ「……ふふ、決まりですわね」
ルビィ「……?」
ダイヤ「ルビィ、このジム戦、少し特殊ルールにさせてもらってもいいですか?」
ルビィ「特殊ルール?」
ダイヤ「はい、特殊ルールとして──このジム戦はわたくしとルビィの二人で、チャレンジャーのお二人のお相手をさせていただきますわ」
🎀 🎀 🎀
侑「──まさか、四天王と戦えるなんて……!!」
「ブイ」
ダイヤさんとの話を終えて、戦いの準備取り掛かる中、侑ちゃんは興奮気味に言う。
歩夢「あの……侑ちゃん、本当に良かったのかな」
今更ながら、こんなことを私の一存で決めてしまってよかったのかと不安になるけど、
侑「いやいや、むしろありがとうって言いたいくらいだよ!! ジム戦が出来るだけでも贅沢なのに、四天王のダイヤさんと戦えるんだよ!? こんな機会普通ないんだから! 楽しまないと!」
歩夢「ふふ、侑ちゃんは本当にポケモンバトルが大好きなんだね」
侑「うん!」
嬉しそうな侑ちゃんを見て、安心する。
また私のわがままのせいで、大事なジム戦の難易度を上げてしまったかと思ったけど、それも杞憂のようだ。
──そして、このバトルをする以上は、
- 520 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:13:57.62 ID:ffPGApYk0
-
歩夢「……侑ちゃん」
侑「なに?」
歩夢「……私、勝ちたい」
勝ちたい。勝って、自分の自信にするために。
侑「違うよ、歩夢」
歩夢「え?」
侑「勝ちたい、じゃなくて──勝とう!」
歩夢「……! うん!」
侑ちゃんの手をぎゅっと握って、頷き合って、決意する。勝つんだ……!
リナ『二人とも頑張ってね。私もサポート頑張る』 || ˋ ᨈ ˊ ||
侑「うん、お願いね! リナちゃん!」
歩夢「頑張るね!」
リナちゃん含めて、戦いの準備が整ったところで、フィールドの向かい側にいるダイヤさんとルビィさんが声を掛けてくる。
ダイヤ「さて、準備はよろしいですか?」
ルビィ「こ、今回のルールは特別ルールで、それぞれのトレーナーが2匹ずつのポケモンを使ってのマルチバトルです!」
ダイヤ「そして、もちろんですがそちらが勝った暁には、ジムバッジをお二人に差し上げますわ。ただし、こちらの手持ちは侑さんのジムバッジ2個相当に合わせて選ばせていただきます。ジムバッジを持っていない歩夢さんには少し厳しい条件になりますが、そこはご容赦を」
侑「わかりました!」
歩夢「も、問題ありません!」
ルビィ「それじゃ、ジム戦を開始します……!」
ダイヤ「今は四天王ですが、本日はジムリーダーの一人として、お相手いたしますわ」
二人がボールを構える。
ダイヤ「ウチウラジム・ジムリーダー『花園の気高き宝石』 ダイヤ」
ルビィ「ウチウラジム・ジムリーダー『情熱の紅き宝石』 ルビィ!」
ダイヤ「さあ、ルビィ。行きますわよ!」
ルビィ「うん! お姉ちゃん!」
4つのボールが放たれて──……バトル、スタート……!!
🎀 🎀 🎀
侑「行くよ! ライボルト!!」
「──ライボッ!!!」
歩夢「ラビフット、お願いね!」
「──ラフット!!!」
侑ちゃんの最初のポケモンはライボルト、私はラビフットを繰り出す。
対する、ジムリーダー側は、
- 521 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:14:53.69 ID:ffPGApYk0
-
ルビィ「行くよー! ヒトモシ!」
「──トモシ〜」
ダイヤ「さぁ行きましょう、カリキリ」
「──カリキリ」
ろうそくのようなポケモンと、小さなカマキリのようなポケモン。
リナ『ヒトモシ ろうそくポケモン 高さ:0.3m 重さ:3.1kg
明かりを 灯して 道案内を するように 見せかけながら
生命力を 吸い取っている。 吸い取る 命が 若ければ
若いほど 頭の 炎は 大きく 妖しく 燃え上がる。』
リナ『カリキリ かまくさポケモン 高さ:0.3m 重さ:1.5kg
昼間は 光を浴びて 眠り 夜に なると より 安全な
寝床を 探し 歩き出す。 太陽の 光を 浴びると 甘く
よい香りが するので 虫ポケモンたちが 寄ってくる。』
今のウチウラジムのエキスパートタイプは、ほのおタイプ。そして、先代ジムリーダーのダイヤさんのエキスパートタイプは、くさタイプだったはず。
侑ちゃんもそれは知っているだろうから、その上でくさタイプに相性のいいワシボンを出さなかったということは──
侑「ライボルト!! ヒトモシに向かって“チャージビーム”!!」
「ライボッ!!!!」
開始早々、ライボルトの攻撃がヒトモシに向かって飛んでいく。
ルビィ「ヒトモシ、“ちいさくなる”!!」
「トモシィ〜…」
侑「くっ、避けられた……! ライボルト、畳みかけるよ!」
「ライボッ!!!」
ライボルトが侑ちゃんの指示でヒトモシに向かって飛び出して行く。
その際、一瞬だけ私に目配せをしてくる。
歩夢「……!」
侑ちゃんの言いたいこと、伝えたいことが自然とわかった。
──『ヒトモシは私たちが引き付けるから、カリキリをお願い!』
私はそれに応えるように、力強く頷いて見せる。
ダイヤ「──ボーっとしている余裕はありませんわよ!」
歩夢「!?」
ダイヤさんの声にハッとして視線を前に戻すと──カリキリがラビフットに向かって飛び掛かってきているところだった。
歩夢「避けてっ!?」
「ラビフッ!!」
私の咄嗟の指示で、ラビフットは身を引くものの、完全には回避しきれず、
「カリッ」
飛び掛かってきたカリキリが、ラビフットの脚に引っ付いた。
ダイヤ「“きゅうけつ”!!」
「カリ、キリッ!!」
そして、そのままラビフットの脚にガブリと噛みついてくる。
- 522 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:15:48.06 ID:ffPGApYk0
-
「ラ、ラビフッ!!」
カリキリは顎で噛みつき、体力の吸収を始める──剥がさなきゃ……!!
幸いこっちは有利なほのおタイプ。付かれた場所が脚ならすぐに剥がせる……!!
歩夢「“ブレイズキ──」
ダイヤ「“タネマシンガン”!!」
歩夢「……!?」
でも、私の指示よりもコンマ数秒早く、
「カリカリリリリリリ」
カリキリはラビフットの脚から口を離して、タネを吐き出して攻撃してくる。
「ラ、ラビッ!!?」
ダメージこそ大きくないものの、カリキリは吐き出すタネの反動で距離を取ってくる。
歩夢「せっかく、反撃のチャンスだったのに……」
いや、切り替えよう。距離を取ってくれたのなら、それはそれでいいんだ。
歩夢「ラビフット! “かえんほうしゃ”!!」
「ラビ、フゥゥゥ!!!!!」
今度は口から火炎を噴いて攻撃する。近接攻撃じゃなくても、ほのお技で攻めていけば、こっちが有利だもん……!
──だけど、ダイヤさんは極めて冷静に、次の指示を出す。
ダイヤ「“このは”!」
「カリ!!」
……“このは”……?
カリキリの目の前に大量の“このは”が集まってきて、
歩夢「……!?」
ラビフットの“かえんほうしゃ”を壁になって受け止める。
歩夢「う、うそ……くさタイプの技でほのおタイプの技を防いでる……!?」
予想外の防御手段に驚く。……とはいえ、いくら防いだと言っても、壁となっているのは、あくまで“このは”だ。
このまま、“かえんほうしゃ”を続けていれば“このは”の壁を焼き破るのはそんなに難しくないはず……!
歩夢「こ、このまま、“かえんほうしゃ”を続けて……!!」
「ラビフゥゥゥーー!!!!!」
火炎で燃やされた“このは”の壁はメラメラと音を立てながら燃え上がる。
この調子ならもうすぐ、破れ──
ダイヤ「“きりばらい”!」
「カリキリーー」
歩夢「!?」
- 523 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:16:25.11 ID:ffPGApYk0
-
そう思った瞬間、カリキリが強烈な風を巻き起こし、“このは”の壁もろとも、炎が霧散していく。
そして、何故か噴き付ける“かえんほうしゃ”は、カリキリを迂回するように逸れていってしまう。
歩夢「な、なんで……」
確かに“きりばらい”によって、吹いている風が炎の方向を操っているのかもしれないけど……ここまで、強い防御の技になるとは思えない。
当惑している私に向かって、ダイヤさんが口を開く。
ダイヤ「炎は風に煽られ、より燃えやすい方へと流れていきました」
歩夢「より、燃えやすい方……?」
何を言っているのかと思ったけど……よく見たら、炎が流れていった場所には──1本の道のように草が生い茂っていた。
歩夢「“グラスフィールド”……」
ダイヤ「そのとおり。炎の流れは草のフィールドと風の力でコントロールさせていただきました」
歩夢「……っ」
どうしよう、確実にこっちの方が相性は有利なはず……どうにか攻撃を当てなくちゃ……。
ダイヤ「攻撃がうまく決まらず、焦っていますわね」
歩夢「……」
ダイヤ「一つ、教えて差し上げますわ」
歩夢「……?」
ダイヤ「わたくしのエキスパートタイプ──くさタイプにはいくつ弱点があるかご存じですか?」
えっと……くさタイプの弱点は……。
歩夢「……ほのお、こおり、ひこう、むし、どくタイプです」
ダイヤ「正解。すらすら出てくるあたり、よく勉強されていますね。そんなくさタイプのポケモンたちですが……実は攻撃面でもそこまで恵まれてはいませんわ」
……確かに、同タイプのくさタイプをはじめ、ほのお、どく、ひこう、むし、ドラゴン、はがねと攻撃が半減されてしまう対象も多い。
ダイヤ「そんな相性の面では恵まれているとは言い難いくさタイプのポケモンたちが、どうすれば戦えるか、わたくしはずっと考えてきました。多い弱点も弱点にならないように、いくつも対策を考えて」
つまり……ダイヤさんが言いたいことは──
歩夢「ただ、弱点を突いただけじゃ……勝てない……」
今さっき、ほのおタイプの攻撃をいなされてしまったように、ダイヤさんは弱点のタイプへの対策が完璧なんだ……。
最初にやろうとした、“カウンター”としての“ブレイズキック”も、偶然ではなく、こっちの反撃を読み切っての回避行動だったということ。
歩夢「……っ」
圧倒的な実力差を感じる。
ダイヤ「さあ、次はどうされますか?」
強い……これが、四天王の実力。
──だけど、
歩夢「…………すぅ…………はぁ…………」
- 524 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:17:01.51 ID:ffPGApYk0
-
私は一度、深呼吸をする。
落ち着こう。落ち着いて、よく考えるんだ。
きっと何か打開する方法があるはずだ。
──もう簡単に諦めない。強くなるって、決めたから。
侑ちゃんの隣で、強くなるって、決めたんだから。
🎹 🎹 🎹
──横で歩夢がダイヤさんに苦戦しているのが、目に見えてわかる。
どうにか、加勢したいけど……。
侑「“でんげきは”!!」
「ライボッ!!!!」
「トモシィ!!?」
ルビィ「わわ!? 回避率を上げてても、その技は当たっちゃう!?」
リナ『“でんげきは”は必中技! 侑さん、ナイス技選択!』 ||,,> 𝅎 <,,||
ルビィ「なら──“マジカルフレイム”!!」
「トモーー!!」
ルビィさんの指示と共に、飛んできた青白い炎がライボルトに纏わりつくように燃え上がる。
「ライボッ!!!!」
侑「ライボルト! 落ち着いて! そんなに威力の大きい攻撃じゃないから!」
炎を受け、慌てるライボルトを落ち着かせながら、ルビィさんを見る。
ルビィ「……」
ルビィさんは、目の前で戦っている私から、出来るだけ視線は外さないものの──さっきからチラチラとラビフットの方を気にしている気がする。
侑「リナちゃん」
リナ『なに?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「ヒトモシの特性って、もしかして“もらいび”だったりする?」
リナ『うん、そうだよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「やっぱり……」
ヒトモシの特性は知らなかったけど、進化系のシャンデラの特性と同じらしい。
あのロウソクの体は見るからに炎によって強化されそうだし……恐らくさっきから、ラビフットを気にしているのは、ラビフットからの炎攻撃を受けて強化したいからだ。
相手はほのおタイプのエキスパート。そして、今ルビィさんが一緒に戦っているダイヤさんはくさタイプのエキスパート。
姉妹の二人のことだ。くさタイプを使うダイヤさんをフォロー出来るポケモンを意識して使っているというのは、想像に難くない。
そのために、“もらいび”のヒトモシを使っているとなると、
侑「やっぱり、ルビィさんを自由にさせるわけにはいかない……」
今は歩夢を信じて、ルビィさんのヒトモシに集中しよう。
- 525 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:17:38.80 ID:ffPGApYk0
-
侑「ライボルト! “かみくだく”!!」
「ライボッ!!!!」
私の指示と共に、ライボルトが駆け出す。
“ちいさくなる”のせいで技は当たりづらいし、“マジカルフレイム”の効果によって、特殊攻撃力が下げられている。
なら、接近して直接攻撃をした方が手っ取り早い。
「ライッ!!!!」
標的は小さいけど、自慢の俊足で肉薄したライボルトは、しっかりと目標を捉えてキバを突き立て──た、と思った瞬間、
侑「うぇ!?」
噛み付いたはずのヒトモシが──ドロリと溶けた。
リナ『侑さん! “とける”だよ!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
侑「物理もダメ……!」
しかも、その直後、
「ラ、ライボッライィッ」
急にライボルトがたたらを踏みながら、むせ始めた。
侑「ライボルト!?」
焦ってライボルトを確認すると──口元から、何やら黒い煙が……。
侑「まさか、“スモッグ”!?」
ルビィ「えへへ、成功だよ! ヒトモシ!」
「トモ〜」
ルビィ「そのまま、“たたり──」
侑「“スパーク”!!!」
「ライボッ!!!!」
「トモシッ!!!?」
ルビィ「ピギィ!!?」
その場で激しく“スパーク”し、すぐさまヒトモシを追い払う。
それと共に、ライボルトは後退し、一旦相手から距離を取る。
侑「あ、あぶな……! “どく”状態から、さらに“たたりめ”を受けるところだった……」
どうにか最大打点は防いだものの、
「ライボ…」
“どく”を受けてしまったことには変わりない。このままだと、まずいかも……。
何か思い切った攻め手を打つべきか……いや、でも、
ルビィ「ヒトモシ! ライボルトから目を離しちゃダメだよ!」
「トモッ!!」
- 526 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:18:37.33 ID:ffPGApYk0
-
ルビィさんの狙いがいまいち掴み切れない。
さっきから、ラビフットを気にしているかと思いきや、ライボルトの相手はしっかりしている。
あれだけ多彩な補助技があるなら、ライボルトの攻撃を掻い潜ってラビフットの方に行くのも無理ではないはず。
侑「……いやむしろ、そうしないのはおかしいような……」
思わず口に出して呟いてしまう。
考えてみれば、ヒトモシの仮想敵は最初から、ダイヤさんの手持ちのくさタイプが呼ぶ、ほのおタイプやこおりタイプの相手なんだとしたら、大真面目にライボルトの相手をし続けているのには違和感がある。
加えて、でんきタイプの通りが悪い、くさタイプのポケモンがライボルトの相手をしに来る方が絶対に戦闘の効率もいいはず。
でも戦局はライボルトVSヒトモシ、ラビフットVSカリキリの構図になっている。……だけど、対戦相手を入れ替えようともしていない、そうしないだけの理由があるはずだ。
「トモシ」
指示どおり、ライボルトから視線を外さないヒトモシ。そして、
ルビィ「…………」
相変わらずラビフットを気にしながら、私たちの次の行動を待っているルビィさん。
──私が知る限りでは、ルビィさんの公式試合での戦い方には、独特な緩急があるイメージだ。
膠着したような試合運びのように見えて、突然何かのきっかけで、一気に自分の方に展開を持ち込むような逆転型の戦い方が特徴のトレーナー。
侑「……」
もしかして──何か特定の行動を……待っている……?
そのとき、ふと、
ダイヤ「──さあ、次はどうされますか?」
ダイヤさんが歩夢の次の行動を促す言葉が聞こえてきた。
歩夢「……っ」
歩夢も攻撃を捌かれて焦っているのがわかる。
ダイヤさんは防御戦術の名手として知られている。
相性がよくても、なかなかあの防御力を崩せず苦戦するのも無理はない。
ダイヤ「どうしましたか? もうすでに最大火力の技は使ってしまいましたか?」
再び、攻撃を誘うような言葉。
そこでふと──一瞬だけ、ダイヤさんがライボルトの方をチラリと見たのを、私は見逃さなかった。
侑「……!」
──もしかして……そういうこと……?
……ただ、わかったとして、どうする?
歩夢に伝えたら、相手にもこっちが気付いたことを気取られる。
……いや──
侑「ライボルト、床に向かって“アイアンテール”!」
「ライボッ!!」
- 527 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:19:26.67 ID:ffPGApYk0
-
──ガァンッ!!! と激しい音を立てて、ライボルトが地面に鋼鉄の尻尾を叩き付ける。
その大きな音と突然の行動に、
ルビィ「ピギィ!?」
歩夢「きゃっ!?」
ルビィさんと歩夢が同時に驚きの声を上げる。
歩夢「侑ちゃん……?」
ダイヤ「一体何を……?」
思いっきり攻撃をぶつけた床は、崩れて小さな礫が転がる。
侑「歩夢、これ使える?」
歩夢「え……」
歩夢は一瞬、私の言葉に目を丸くしたけど、
歩夢「うん」
すぐに頷いた。
それを確認すると、ライボルトが礫を咥えてから、ラビフットの方に放り投げる。
「ラビフッ」
ラビフットはそれを器用にリフティングし始める。
ダイヤ「! 武器の調達ということですか」
ダイヤさんはこの意図には、すぐに気付いたようだ。
侑「歩夢、相手はどっちも守りがすごく堅い」
歩夢「う、うん……」
侑「だから、イチかバチか、私の合図で一気に最大火力で攻めてみよう」
歩夢「で、でも……」
歩夢の戸惑いの声。恐らく、我武者羅に突っ込んでも、また捌かれるだけかもしれないという心配だろう。
ただ、私は、
侑「大丈夫。私を信じて」
歩夢「侑ちゃん……」
侑「……いや、違うかな」
歩夢「?」
侑「私は歩夢のことを信じてるよ」
歩夢「! ……わかった」
歩夢も了承してくれた。
……あとは一発勝負だ。
「ライボォッ…!」
- 528 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:21:12.81 ID:ffPGApYk0
-
ライボルトが足回りの筋肉に“じゅうでん”を始める。
侑「1,2,3で同時に行くよ……!」
歩夢「うん! 行くよ、ラビフット!」
「ラビフッ!!!」
リフティングをしているラビフットの脚がメラメラと炎を宿す。
ダイヤ「ルビィ、来ますわよ!」
ルビィ「うん!」
相手方も迎え撃つ準備は万端のようだ。
侑「よし……! 行くよ、歩夢!」
歩夢「うん! いつでも!」
侑「1……2……3!! 行け! ライボルト!!」
「ライボッ!!!!」
歩夢「ラビフット!! “ブレイズキック”!!」
「ラビフットッ!!!!」
──ライボルトが充填した電気エネルギーを解放した“でんこうせっか”でヒトモシに向かって飛び出し、ラビフットが“ブレイズキック”で石に着火しながら、カリキリに向かって蹴り飛ばす。
ダイヤ「さあ、来なさい!!」
「カリキリ」
ルビィ「ヒトモシ! 行くよ!!」
「トモシッ!!!」
猛スピードで前進するライボルトと、それに並ぶように飛んでいく燃え盛る礫。
2つの攻撃が真っすぐ目の前の対象を捉えたその瞬間──ルビィさんの声。
ルビィ「“サイド──」
侑「“エレキボール”!!」
「ライボッ!!!」
ルビィ「──チェンジ”!! え!?」
ルビィさんが技の指示を出し切る前に、ライボルトが尻尾から“エレキボール”を放つ──背後のラビフットに向かって。
侑「歩夢!! 本命のボールはそっちっ!!!!」
歩夢「!! ラビフット!! 蹴り返して!!」
「!! ラビフット!!!!!!」
ラビフットが“エレキボール”を蹴り返すのと同時に──燃えた礫が急に上方向に軌道をずらし、ヒトモシの頭の上スレスレを通り抜けていく。
ダイヤ「なっ!?」
ルビィ「な、なんで!?」
驚きの声を上げる姉妹。
それもそのはず。最初から仲間と場所を入れ替える技──“サイドチェンジ”でヒトモシが“もらいび”で受け止めるつもりだったが、その受け止めるはずの炎の礫がヒトモシを避けるように天井に吸い寄せられていくからだ。
ダイヤ「っ!? “でんじふゆう”を使ったデコイ!?」
- 529 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:21:54.20 ID:ffPGApYk0
-
──そう、そのとおり。あの礫はライボルトが口に咥えたときに“でんじふゆう”で磁力を帯びさせていた。
最初から当てるつもりのない、囮の攻撃……! ラビフットが蹴り飛ばした直後にライボルトが一帯に強力な電場を作り出して、浮遊させたというわけだ。
礫が熱を帯びていたせいで、思ったよりも磁力で上に飛ばせなかったけど──ヒトモシにさえ当たらなければ十分だ……!
この一瞬でそれに気付いたダイヤさんはさすがだけど、
ダイヤ「カ、カリキリ!! “このは”!!」
「カ、カリキ!!!」
この状況で防御の指示まで間に合うか──いや、間に合わせない!!
「ライボッ!!!」
土壇場で作った“このは”の壁を猛スピードの突進で無理やり突き破り、
侑「“ほのおのキバ”!!」
「ライボッ!!!!」
「カリィ!!?」
燃え盛るキバでカリキリを抑えつけたまま、
侑「“オーバーヒート”!!!」
「ライボォォォォ!!!!!!」
「カリキィィィィィ!!!?」
ありったけの熱波を至近距離で解放して焼き尽くした。
そして、それと同時に──
「トモシィ!!!?」
ルビィ「ヒ、ヒトモシー!!」
デコイの燃える礫を吸収する気満々で前に出てきたヒトモシは、ラビフットのキックで加速しながら跳ね返ってきた“エレキボール”が直撃して、
「ヒ、トモォ…」
目を回して、戦闘不能になるのだった。
侑「……せ、成功したぁ……」
かなり無茶な作戦がどうにか成功して、思わずへたり込む。
ルビィ「う、うそ……」
ダイヤ「……してやられましたわね。戻って、カリキリ」
「…カリィ──」
ダイヤ「ルビィも。ヒトモシを戻してあげてください」
ルビィ「あ……うん。お疲れ様、ヒトモシ……」
「…トモ──」
戦闘不能になった2匹がボールに戻される。
相手のポケモンを先に2匹撃破した。このアドバンテージは大き──
歩夢「侑ちゃんっ!」
侑「わぁ!?」
歩夢「もう、あんな無茶なことするなんて聞いてないよっ!」
- 530 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:22:30.97 ID:ffPGApYk0
-
歩夢が軽く涙目になりながら、抗議してくる。
侑「ご、ごめんっ! 声に出したら向こうにバレちゃうって思ったから……!」
歩夢「そうだとしても、ホントにびっくりしたんだから! “エレキボール”がこっちに向かって飛んできたとき、私、一瞬頭が真っ白になっちゃったんだよ!?」
侑「だからごめんって! でもね、歩夢!」
歩夢「?」
侑「歩夢なら絶対に、私の作戦、すぐに理解してくれるって信じてたから、成功したよ!」
そう言って、ニコっと笑顔を作ると、
歩夢「も、もう……そういう言い方、ずるいよ……」
歩夢は可愛らしく、ぷくーっと頬を膨らませるのだった。
リナ『二人ともすごかった! ナイスコンビネーション!』 ||,,> ◡ <,,||
侑「うん、ありがとう、リナちゃん」
歩夢「はぁ……今度から、こういう作戦は出来るだけ、あらかじめ決めておくようにしようね……」
侑「あはは、了解。でも、これで今回のバトルは4対2に持ち込めた……!」
リナ『うぅん、3対2だと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「え?」
言われて、フィールドを見ると、
「ライ、ボッ…」
ライボルトが蹲っていた。
侑「しまった……“どく”のダメージがそろそろ限界だった……!」
ライボルトは“スモッグ”で受けた“どく”のダメージで、これ以上の戦闘は厳しそうだ。
侑「戻って、ライボルト! ありがとう!」
「ライボ…──」
ライボルトをボールに戻して、歩夢以外が一斉にポケモン交換のため、バトルは一旦仕切り直しだ。
ダイヤ「──ポケモンを入れ替える前に、一つ聞いてもいいでしょうか?」
侑「なんですか?」
ダイヤ「ルビィのヒトモシの“サイドチェンジ”……わかっていたのですか?」
ダイヤさんからのそんな問い。
侑「あーえっと……“サイドチェンジ”をヒトモシが使えるかは知らなかったんですけど……」
ダイヤ「けど?」
侑「ルビィさんはずっとラビフットを気にしてたし……ダイヤさんも、不利相性のはずなのに歩夢の攻撃をいなすばっかりで、全然攻撃を仕掛けてなかったから、最初からラビフットに強力なほのお技を撃たせようとしてるんじゃないかなって。となれば、ヒトモシとカリキリのどっちかが、場所を入れ替わる技“サイドチェンジ”を使えるんじゃないかって思って」
“サイドチェンジ”自体はダブルバトルの試合で何度か見たことがあったけど、ヒトモシかカリキリがそれを使えるかどうかは、ある意味賭けだったけどね……。
ダイヤ「……なるほど」
ルビィ「ピギッ!?」
- 531 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:23:17.42 ID:ffPGApYk0
-
私の言葉を聞いて、ダイヤさんの鋭い視線がルビィさんに送られる。
ダイヤ「ルビィ、あれほど視線には注意しなさいと、いつも言っているでしょう……」
ルビィ「え、えぇ……ルビィ、ラビフットの方は見ないようにしてたつもりなのに……そんなに見ちゃってたかなぁ……」
ダイヤ「尤も……確信をしたのは、わたくしもどこかでライボルトの方を見てしまったから、なのかもしれませんが……」
恐らく、ダイヤさんもルビィさんに合図を送るために、わかりやすく大技を引っ張り出すタイミングを調整していたんだと思う。
その際、ダイヤさんが一瞬だけライボルトを見たのは、位置を入れ替えたカリキリが有利な展開を運ぶための策を考えるための確認だったんだろう。
ダイヤ「……とはいえ、あの一瞬であれだけの作戦を組み立てて実行する胆力。マルチバトルのパートナーを信頼していないと出来ない芸当。素直に称賛しますわ」
ルビィ「う、うん……確かにすごかった……」
侑「えへへ……だってさ、歩夢!」
歩夢「もう! 私まだ許してないよ! ……でも、侑ちゃんが私を信じてくれたのは……嬉しかったよ。えへへ……///」
さて、話も終わったところで、
ダイヤ「……さて、こうしてわたくしたちは不利な状況になってしまいましたが……。……2匹目はそう簡単には行きませんわよ」
ルビィ「侑さん! 次のポケモンの準備はいいですか!」
侑「はい!」
ダイヤさんとルビィさんがボールを放る。
侑「さぁ、出番だよ! イーブイ!」
「ブイ!!」
後ろで待っていた、イーブイがバトルフィールドに飛び出し、それと同時に2つのボールがフィールドに放たれた。
さあ、第二ラウンドだ……!
🎹 🎹 🎹
「──ジャノビ」
ダイヤ「ジャノビー、お願いしますわね」
「──シャモッ!!」
ルビィ「ワカシャモ! 行くよ!」
ダイヤさんはジャノビー、ルビィさんはワカシャモを繰り出してくる。
リナ『ジャノビー くさへびポケモン 高さ:0.8m 重さ:16.0kg
生い茂った 草木の 陰を 潜り抜け 攻撃を 回避し
巧みな ムチさばきで 反撃。 体が 汚れると 葉っぱで
光合成が できなくなるので いつも 清潔に している。』
リナ『ワカシャモ わかどりポケモン 高さ:0.9m 重さ:19.5kg
野山を 走り回って 足腰を 鍛える。 スピードと パワーを
兼ね備えた 足は 1秒間に 10発の キックを 繰り出す。
戦いに なると 体内の 炎が 激しく 燃え上がる。』
侑「歩夢、何してくるかわからないから気を付けて……!」
歩夢「う、うん」
──結果として相手の作戦は失敗したとはいえ、ルビィさんは場全体を巻き込んだトリッキーな戦略を仕掛けてきた。
今度も、姉妹で何か策を巡らせているかもしれない。そう思った矢先、
- 532 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:24:03.17 ID:ffPGApYk0
-
ルビィ「お姉ちゃん! ラビフットはルビィが──」
ダイヤ「いえ、ルビィはイーブイをお願いします」
ルビィ「え、でも……」
ダイヤさんは標的を指定する。
ダイヤ「むしろ、手を出さないように」
ルビィ「え、えぇ!?」
ダイヤ「……このままでは、わたくしが作戦のためだけに虚勢を張ったようではありませんか」
──なんの話だろう……? と思ったけど、
歩夢「あ、さっきの話……」
歩夢はすぐに思い至ったようだ。
ヒトモシと戦いながらだったから、しっかりは聞いていなかったけど──相性だけ良くても、自分のくさタイプのポケモンたちを突破は出来ない……みたいな話だったかな。
ルビィ「で、でも……あれはそういう作戦で……」
ダイヤ「とにかく、手を出さないように」
ルビィ「ぅ、ぅん……」
どうやら、ダイヤさん的に、このままではくさタイプのエキスパートとしてのプライドが許さないらしい。
──もちろん、これもさっきみたいな作戦の可能性もあるけど……。
侑「……でも、関係ない! イーブイ!!」
「ブイ!!!」
私の声と共にイーブイが駆け出す──ジャノビーに向かって。
侑「歩夢!! 集中攻撃で先にジャノビーを倒すよ!!」
歩夢「う、うん! わかった!」
ダイヤさんもルビィさんも残る手持ちは1匹ずつ。なら、片方をさっさと倒してしまえば、2対1を作り出せる。
わざわざ、相手の拘りに乗ってあげる理由はない。これはバトルなんだ……!
駆け出したイーブイの体毛が赤く燃え上がる。
侑「“めらめらバーン”!!」
「ブイィ!!!」
2匹のほのお技で一気に片を付ける……!
そう、思った瞬間──イーブイの前に影が躍り出て、
ルビィ「──“ブレイズキック”!!」
「シャァモッ!!!!」
「ブイッ!!!?」
侑「イーブイ!?」
イーブイを蹴り返した。
真っ向からキックを食らったイーブイは、ジムの床を転がりながらも、受け身を取ってどうにか体勢を立て直す。
歩夢「侑ちゃん!? 大丈夫!?」
侑「だ、大丈夫、致命傷にはなってないよ! びっくりしたけど……」
- 533 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:24:38.14 ID:ffPGApYk0
-
完全にジャノビーとの間に立って、イーブイを遮るように立ち塞がるワカシャモ。
それにしても──
侑「全然ワカシャモからの攻撃に気付けなかった……!」
ジャノビーに狙いを定めていて注意が向いていなかったとは言え、ワカシャモは弾丸のような目にも留まらぬスピードでイーブイに攻撃をしてきた。
さっきの腰を据えた戦い方をしていたヒトモシとは打って変わって──ワカシャモはとんでもないスピードタイプらしい。
ルビィ「イーブイさんのお相手は、ルビィたちがします!」
「シャモォ……!!」
あくまでラビフットの相手は、ダイヤさんとジャノビーがするということらしい。
ダイヤ「さて、今度こそ、くさタイプの真髄、お見せしますわ」
「ジャノー」
……いや、でも考えようによってはチャンスかも。
侑「歩夢。ダイヤさんはああ言ってるけど、ほのおタイプの方が有利なことには変わりないよ!」
歩夢「う、うん!」
確かに迫力はあるけど、向こうから有利な相性で戦ってくれるなら、望むところのはずだ。
むしろ、考えないといけないのは私の方。
「シャモォ…!!」
かくとうタイプ特有の隙のない構えのまま、ジャノビーとの射線を塞いで立っているワカシャモ。
ノーマルタイプのイーブイにとっては、不利な相性の相手だ。
私たちこそ、慎重にいかなくちゃ……!
侑「でも……弱点を突けるのは私たちも同じだけどね!」
「ブイッ!!!」
私の声を共に、イーブイの体からぷくぷくと泡のようなものが湧き出してくる。
侑「“いきいきバブル”!!」
「ブーィッ!!!!」
ワカシャモは私たちがどうにかするから、ジャノビーは任せるよ、歩夢……!
🎀 🎀 🎀
ルビィ「──ワカシャモ! “かえんほうしゃ”!!」
「シャモォォォーー!!!!」
「ブ、ブィィ」
侑「ぐぅっ……! すごい、火力……! 負けないで、イーブイ……!」
隣ではイーブイとワカシャモが、激しい攻撃の応酬を繰り広げていた。
相性は良いはずなのに、ワカシャモの“かえんほうしゃ”は、イーブイの“いきいきバブル”をジュウジュウと音を立てながら蒸発させている。
- 534 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:25:08.42 ID:ffPGApYk0
-
歩夢「侑ちゃん……!!」
侑「こっちはいいから!! 歩夢はダイヤさんとジャノビーに集中して!!」
歩夢「……っ! わ、わかった……!」
ルビィさんが侑ちゃんを遮ったように、こうなったらダイヤさんも私が侑ちゃんの加勢に行くことを許してはくれないだろう。
歩夢「やるしか……ない……」
ダイヤ「腹を括ったようですわね。さあ、どこからでもどうぞ」
「ジャノ」
ただ、いざ相対したはいいけど──どうやって攻めればいいの……?
「ラビ…」
ラビフットも困惑している。何せ、さっきのカリキリとの戦いでは、侑ちゃんの機転で突破出来たとはいえ、私たちはほとんど攻撃を有効に通せていなかった。
だから、頭を過ぎる……また、さっきみたいに捌かれてしまうんじゃないかという未来が。
ダイヤ「……警戒して来ませんか、なら──こちらから……!」
「ノビー…!!」
歩夢「!」
ダイヤさんの指示で、ジャノビーが滑るようにして、こちらに向かって飛び出してきた。
歩夢「ラビフット! 走って!」
「ラビフッ!!!」
それを見て、私はラビフットを走らせる。
ジムの外側を回るようにして走り出したラビフットを追って、ジャノビーが地を這う。
ダイヤ「逃げますか……。……いや」
私の逃げのように見える手は恐らくすぐに看破される。
でも、真っすぐ戦っても、さっきみたいにいなされるだけだ。
なら──
歩夢「走って! ラビフット!! 全速力で!!」
「ラビフッ!!!」
スピードの戦いに持ち込む……!
ダイヤ「“ニトロチャージ”ですか……」
──そう、ラビフットはヒバニーのとき同様、走れば走るほど体に熱が蓄積されて加速していく。
いくらジャノビーが素早い身のこなしでも、極限まで速くなったラビフットには追い付けないはず……!
「ラビビビビビ!!!!!」
侑ちゃんとルビィさんの戦いに巻き込まれない程度にフィールド上で円を描きながら加速するラビフット。
この調子で攪乱しながら、攻撃の機会を──
歩夢「あ、あれ……?」
気付くと、さっきまでラビフットと追いかけっこ状態だったジャノビーは、何故かフィールドのど真ん中で立ち尽くしていた。
- 535 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:25:44.92 ID:ffPGApYk0
-
歩夢「追って、来てない……?」
それと同時に、
歩夢「きゃっ……!?」
突然、身体が前に引っ張られるような感覚がして、声をあげてしまった。
──いや、気のせいじゃない。足をしっかり踏みしめて身を引いていないと、体が前のめりになってしまう。
歩夢「な、なに……!?」
ダイヤ「相手が逃げ回るなら……引き寄せればいいだけですわ」
「ジャノォーー!!!」
ハッとして、再度ジャノビーに目を向けると──さきほどまで、フィールドを覆っていたグラスフィールドが、吸い寄せられるように渦を巻きながら、ジャノビーに向かって集まっている。
まさか……。
歩夢「この引き寄せる力は……風!? ジャノビーが操ってるの!?」
ダイヤ「この子はヘビポケモンですが……ヘビは1000年生きれば──龍となると言われていますのよ」
ダイヤさんのその言葉を皮切りに──吸い寄せる風はジャノビーを中心に渦巻きながら、一気に成長し始める。
ダイヤ「“たつまき”!!」
──ゴォッ!! と、音を立てながら、大きな“たつまき”が発生する。
「ラ、ラビッ…!!」
ラビフットもその吸引力に引っ張られないように、必死に走り回るが、徐々にスピードを殺され始めていた。
歩夢「か、“かえんほうしゃ”!!」
「ラビフーーー!!!!」
苦し紛れに“かえんほうしゃ”を“たつまき”に向かって放ってみるけど──火炎はみるみる内に風の渦に飲み込まれて掻き消えていく。
歩夢「……っ」
こんなフィールド全体を巻き込むような大規模な技、どうすれば……!
歩夢「フィールド全体……? ゆ、侑ちゃんたちは……!?」
ハッとしながら、イーブイの方に目を向けると──
侑「イーブイ……!! とにかく、“いきいきバブル”で耐えて……!!」
「ブ、ブィィ!!!」
風に抗いながらで体勢を崩してしまっていた。
そんな中で襲いくるワカシャモの“かえんほうしゃ”。イーブイから仕掛けていたはずなのに、気付けば炎の勢いに押され気味になっていた。
歩夢「な、なんでワカシャモはこんな風の中でも攻撃が……」
リナ『わ、ワカシャモの足腰は強靭……! それにするどい爪を床に立てて体勢を保ってる……!』 || >ᆷ< ||
歩夢「リナちゃん!?」
風に煽られながら、頼りなく私に近寄ってくるリナちゃんを抱きとめる。
- 536 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:27:00.16 ID:ffPGApYk0
-
リナ『ありがとう歩夢さん……このままじゃ、“たつまき”に吸い込まれるところだった……』 || > _ <𝅝||
歩夢「う、うぅん、それはいいんだけど……」
リナちゃんの言うとおり、ワカシャモの方を見ると、
「シャモォォォォ!!!!」
鋭い爪を地面に突き立てて姿勢を安定させたまま、“かえんほうしゃ”をイーブイに放っているところだった。
歩夢「このままじゃ……侑ちゃんたちも……」
──つまり、私がジャノビーを止めなくちゃいけない。
歩夢「……私に……出来るの……?」
目の前の巨大な“たつまき”を前に、気が遠くなりかけた、そのとき、
侑「歩夢!!」
歩夢「……!」
侑「大丈夫!! 歩夢なら、出来るよ!! ……うわっちち!!? イーブイ、もっと泡出して〜!!」
「ブ、ブィィ!!!」
歩夢「侑ちゃん……」
懸命に炎を消火しながらも、私を励ましてくれる侑ちゃんの言葉に、私は、
歩夢「……出来るかじゃない……やらなくちゃ……!」
勇気を振り絞る。風に抗うように自分の足でしっかり立って。
──このままじゃ、イーブイもろともやられちゃう。
とにかく、あの“たつまき”を止めないと……。
でも、どうする? ……とにかく考えるんだ。
発生源はジャノビーだから、ジャノビーを直接攻撃すればいいのかな……。
でも、正面から炎で攻撃しても、風の壁に阻まれて、ジャノビーを止められない……。
じゃあ、
「ラ、ラビビビビビ…!!!」
今も懸命に“ニトロチャージ”を続けるラビフットの加速した突撃で、壁を突き破る、とか……?
……それも無茶な気がする。
歩夢「せめて……風の吹いてない隙間でもあれば……」
それなら、どうにか中に飛び込むことが出来るかもしれないのに……。
リナ『隙間かわからないけど……風が吹いてない場所、あるよ』 || >ᆷ< ||
歩夢「え?」
抱きかかえたリナちゃんからの言葉に、一瞬なんのことかと思ったけど、
歩夢「……そっか! “たつまき”には一点だけ、風の吹いてない場所がある……!」
- 537 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:27:47.96 ID:ffPGApYk0
-
すぐにその意味に気付く。
あとはそこにたどり着く方法だけど──頭を過ぎった方法は、またしても無茶な作戦。でも──
歩夢「……さっきよりは出来そう……!!」
私は意を決して、ラビフットに向かって叫んだ。
歩夢「ラビフット!! “ニトロチャージ”!!」
「!!! ラビフッ!!!!」
私は困惑気味だったラビフットに、道を示す。
歩夢「走って走って……とにかく走って!!」
「ラビィィィ!!!!!」
ラビフットは迷いがなくなったのか、ジムの床を蹴りながら再び猛加速を始める。
ダイヤ「どうするつもりですか……?」
ダイヤさんはヤケでも起こしたのかと言いたげだったけど──
歩夢「とにかく速く、速く走って!! ラビフット!!」
「ラビィィィィィ!!!!」
ラビフットは──ぐんぐん加速していく。
先ほどのスピードとは比べ物にならない速さで……!
ダイヤ「……! まさか……!」
リナ『ラビフット、“たつまき”を利用して、加速してる!?』 || ? ᆷ ! ||
──そう、“たつまき”が渦を巻きながら、周囲のモノを吸い込んでいるということは、
歩夢「渦の方向に逆らわなければ、それはむしろ“おいかぜ”になる……!」
「ラビィィィィィ!!!!!」
風の力を利用して、爆発的な加速をするラビフット。その通り道は、大きな熱エネルギーによって、赤く赤く赤熱した跡を床に残しながら、さらにスピードを増していく。
ダイヤ「その爆発的なスピードで、突き破る気ですか……! なら、こちらももっと壁を堅牢にするまでですわ!! ジャノビー!!」
「ジャノビィィーー!!!」
ダイヤさんの声と、“たつまき”の中から響くジャノビーの声と共に、周囲の“グラスフィールド”から巻き上げられた葉っぱたちが、まるで意思をもったかのように、“たつまき”を緑色に染め上げていく。
リナ『これは、“グラスミキサー”!?』 || ? ᆷ ! ||
ダイヤ「そのとおりですわ! 風だけではありません、大量の草を巻き上げて、さらに堅牢になった壁、打ち破れますか!」
歩夢「……ラビフット!! 今だよ!!」
「ラビッ!!!!!」
加速しきったラビフットは急転換しながら、一点に向かって飛び出して行く。
ただ──
ダイヤ「……なっ!?」
行き先は“たつまき”の方じゃない……!
- 538 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:28:40.16 ID:ffPGApYk0
-
ダイヤ「何故、壁に向かって……!?」
そう、行き先は──ジムの壁……!
歩夢「ラビフット!! そのまま走って登ってーーー!!!」
「ラビィィィ!!!!!」
真っ赤な線を引きながら、壁に突撃していったラビフットは──猛スピードのまま、壁を垂直に登っていく──
ダイヤ「なっ!?」
だけでは留まらず──そのエネルギーのまま、天井を逆さまに走っていく。
今、ラビフットの目指している場所……“たつまき”の風のない場所、それは──
ダイヤ「目的は……“たつまき”の目……!?」
そう、風のない場所とは、“たつまき”の中心点だ。
そしてそこに向かうため、少しでも風の壁が薄い場所があるとすれば──天井スレスレしかない。
歩夢「お願い!! ラビフット!!」
「ラビッ!!!」
天井を逆さまに走りながら、“たつまき”の中心点に達したラビフットは、天井を蹴りながら、真下に向かって飛び降りる。
溜めに溜めた熱を宿した足を振り下ろしながら、
歩夢「“ブレイズキック”っ!!」
ダイヤ「……!!」
膨れ上がる熱が内側から、“グラスミキサー”を吹き飛ばす……!!
歩夢「きゃっ!!」
弾け飛ぶ草と風に、思わず顔を腕で庇ってしまう。
でも──
歩夢「出来た……! “たつまき”、攻略出来た!!」
あの絶望的な光景を打ち破った……!!
ダイヤ「……大したものですわ」
内側から膨れ上がる熱に、草と風が吹き飛ばされる中、
ダイヤ「……ですが」
今さっきまで“たつまき”のど真ん中だったであろう場所には、
歩夢「え……」
「ジャノ」
「…ラ、ラビフッ」
脚をジャノビーの“つるのムチ”に絡めとられながら、拘束されているラビフットの姿だった。
- 539 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:29:38.72 ID:ffPGApYk0
-
歩夢「な、なんで……」
ダイヤ「……まさか、あの“たつまき”をあんな方法で攻略されるとは思いませんでしたが……。……風のない場所で自由に動けるのは、ジャノビーも同じだったということですわ」
歩夢「あ……」
勝手にアドバンテージを取ったと思い込んでしまっていたけど──風の影響を受けていなかったのはジャノビーも同じ、いやそれどころか……。
ダイヤ「真上から一直線に落ちてくるとわかっていれば、容易ではなくとも、いなすことくらいは出来ますわ」
歩夢「そんな……」
ダイヤ「……“しぼりとる”」
そのまま、絡めとられて地に伏せったラビフットは、
「ラ、ラビ…」
“つるのムチ”で縛り上げられて──戦闘不能になってしまった。
歩夢「……」
……ダメだった。……今回はうまく行くと思ったのに……。
思わず唇を噛みそうになった、そのときだった。
「シャモォォォォーーー!!!?」
歩夢「……!」
響くワカシャモの声に視線を向けると、泡まみれになって、ダメージを負っているワカシャモに向かって、
侑「イーブイ!! “すてみタックル”!!」
「ブーーーイッ!!!!!」
「シャモォォォ!!!!!?」
イーブイが“すてみタックル”を炸裂させているところだった。
ルビィ「ワカシャモ!? 大丈夫!?」
「シャ、シャモォ…!!」
ダイヤ「い、いつの間に形勢が……!?」
ルビィ「あ、あのイーブイ……かなり攻撃してたはずなのに、全然倒れてくれなくって……」
確かに、イーブイはずっと押されていたはずなのに……いつの間にか状況が逆転していた。
ダイヤ「確かあれは“相棒わざ”……存在は知っていましたが、効果までは把握しきれていませんが……状況を鑑みるに、恐らく吸収技ですわね」
どうやら、“いきいきバブル”の相手の体力を吸収する効果のお陰で持久戦に迫り勝ったということみたいだ。
ダイヤ「ルビィ、一旦ワカシャモを後ろに下げてください」
ルビィ「う、うん……! ワカシャモ、距離を取って……!」
「シャモ…!」
手負いのワカシャモは跳ねるようにして、イーブイたちから距離を取って、フィールドの奥の方へと下がっていく。
- 540 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:30:13.78 ID:ffPGApYk0
-
リナ『状況がこっちに傾いてる! 今が攻め時だよ!』 ||,,> 𝅎 <,,||
侑「歩夢とラビフットのお陰だね!」
歩夢「……え」
侑「歩夢たちが、ジャノビーのあの大技を打ち破ってくれたからだよ!」
歩夢「……でも、結局勝てなくて……」
侑「それでもすごいよ! 私だったら、あんな作戦思いつかなかったと思うもん!」
歩夢「……だけど、また同じことされたら……」
──次はもう突破出来る気がしない。だけど、そんな私の心配に、
リナ『その心配はないと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんが答える。
歩夢「……え?」
リナ『あんなフィールド全体を巻き込むような大技、最終進化系じゃないジャノビーには連発出来ないんじゃないかな』 || ╹ᇫ╹ ||
ダイヤ「……」
リナちゃんの言葉に対して、ダイヤさんは沈黙で答える。
その沈黙は即ち肯定を意味しているのに等しい。
私は、負けて倒れてしまった、ラビフットに目を向ける。
……確かに勝つことは出来なかったけど、
「…ラビ…」
……役割は果たしたとでも言わんばかりに、ラビフットが小さく鳴いたのだった。
歩夢「……うん」
私は、ラビフットをボールに戻す。そのボールをぎゅっと胸に抱き寄せて、
歩夢「ありがとう……ラビフット」
お礼を言った。
侑「歩夢! 勝てるよ!」
歩夢「……うん!」
私は、この試合の最後のポケモンをフィールドに繰り出す。
「──マホミ〜♪」
歩夢「行くよ、マホミル!」
試合は最終局面へ──
- 541 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:31:10.51 ID:ffPGApYk0
-
🎀 🎀 🎀
ダイヤ「“グラスフィールド”」
「ジャノッ」
手始めに、ダイヤさんは“グラスフィールド”を再展開する。
ダイヤ「ワカシャモには“グラスフィールド”で体力を回復しながら、後方支援をお願いします」
ルビィ「わかったよ、お姉ちゃん!」
「シャモ…!!」
リナ『相手は時間を稼いで体力を回復する気だよ!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
侑「そんな暇与えない!! “いきいきバブル”!!」
「ブーイッ!!!」
イーブイが全身から泡を飛ばして、後方のワカシャモを狙うけど、
ダイヤ「“リーフブレード”!!」
前で構えているジャノビーの草の刃で泡を斬り裂かれて無効化される。
ダイヤ「さすがに狙いが見え見えすぎますわ!」
侑「っ……“いきいきバブル”じゃ攻撃のスピードが遅すぎる……。なら、これならどうですか……!」
──パチパチとイーブイの体毛から火花が爆ぜる音と共に、電撃が飛び出す。
侑「“びりびりエレキ”!!」
「ブイイイ!!!!」
泡の攻撃と違って、電撃は動きが速く捉えづらい。そんな侑ちゃんの思惑に対してダイヤさんは、
ダイヤ「“つるのムチ”を伸ばして!!」
「ジャノ!!」
“つるのムチ”を電撃に向かって伸ばす。すると、電撃は“つるのムチ”の先端に向かって、吸い込まれていく。
侑「嘘!? “つるのムチ”を避雷針代わりにした!?」
ダイヤ「確かに電撃は動きが速いですが、操作もされやすい。攻撃は後ろには通させませんわ」
ワカシャモに通りの良い、みずタイプやでんきタイプをジャノビーが受け止めて、その間に“グラスフィールド”で回復する作戦。
単純だけど、対処が難しい。なら……!
歩夢「マホミル! “ミストフィールド”!」
「マホミ〜!!」
ダイヤ「!」
回復手段のフィールドを書き換えちゃえばいいんだ……!
ダイヤ「“グラスフィールド”!」
「ジャノッ!!!」
歩夢「“ミストフィールド”!」
「マホミ〜!!!」
ダイヤさんも黙ってフィールドの書き換えを許すわけはないから、自然とフィールド展開の応酬が始まる。
- 542 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:31:47.50 ID:ffPGApYk0
-
ダイヤ「……っ! ルビィ!!」
ルビィ「うん! ワカシャモ! “かえんほうしゃ”!!」
「シャモーーーッ!!!!」
これ以上のフィールド展開を許すまいと、マホミルに向かって後方から火炎が飛んでくる。
侑「させない!! “めらめらバーン”!!」
「ブイッ!!!」
その炎を全身の炎で相殺するように、イーブイが盾となって受け止める。
ダイヤ「……先にマホミルを狙わないといけませんわね。“グラスフィールド”を一旦諦めましょう」
ダイヤさんが“グラスフィールド”の展開を諦めると同時に──身をくねらせて、突貫してきた。
侑「なっ……!?」
歩夢「え!?」
腰を据えた防御をしてくると思い込んでいた私たちは一瞬反応が遅れる。
ジャノビーは目にも留まらぬスピードでイーブイの横を通過し、
ダイヤ「“グラスミキサー”!!」
「ジャノーーッ!!!!」
「マホミーーー!!!?」
草の旋風をマホミルの真下から発生させて、渦の中にマホミルを捕える。
歩夢「マホミル!?」
侑「しまった……!? イーブイ! マホミルを援護──」
ルビィ「“かえんほうしゃ”!!」
「シャモーーー!!!!」
侑「っ!?」
今度はワカシャモがイーブイとジャノビーの間に火炎を噴き出し、進路を妨害してくる。
ダイヤ「わたくし、防御の方が得意ですが、もちろん攻撃も抜かりありませんわよ……!」
「マホミーーーー!!!」
歩夢「……っ……どうにか、どうにかしなきゃ……」
考えるんだ、自分と相手のポケモンをよく見て、何か解決策を──
歩夢「……あれ……?」
ふと、草の渦の中で、くるくると回転しているマホミルを見て、思った。
「マホミーーーー♪」
──マホミル……楽しそう……?
反時計回りに渦を巻く、“グラスミキサー”の中で、マホミルは苦しそうというより……楽しそうだ。
理由はわからない、だけど……。
- 543 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:32:29.12 ID:ffPGApYk0
-
歩夢「侑ちゃん! 私たちのことはいいから、ワカシャモに集中して!」
侑「え!?」
歩夢「どうにか、出来ると思うから……!」
侑「な、なんかよくわからないけど、わかった! 歩夢を信じる!! イーブイ! 炎を纏ったまま、ワカシャモに突撃!!」
「ブイッ!!!」
イーブイはマホミルへの援護を諦めて、ワカシャモの方へと走り出す。
そして私は再び渦の中で楽しそうに回り続けるマホミルに目を向ける。
──理由はわからないけど、あの子があんなに楽しそうにしているなら、きっとこれはピンチじゃない!
次の瞬間、
「マホミーーー♪」
マホミルが渦の中で──光り輝き始めた。
ダイヤ「なっ!?」
ルビィ「これって!?」
侑「まさか!?」
歩夢「……進化の……光……!」
光の中から、マホミルの進化した姿──ピンク色のホイップクリームの体に、かすみちゃんから貰った“リボンあめざいく”を付けた姿のポケモン。
リナ『マホミルがマホイップに進化した!!』 ||,,> 𝅎 <,,||
歩夢「マホイップ……! それが、あなたの新しい姿なんだね!」
「マホイップ♪」
リナ『マホイップ(ミルキィルビー) クリームポケモン 高さ:0.3m 重さ:0.5kg
手から 生みだす クリームは マホイップが 幸せなとき
甘味と コクが 深まる。 進化の 瞬間 体の 細胞が
揺れ動く ことで 甘酸っぱい フレーバーに なった。』
ダイヤ「この土壇場で進化を……!?」
歩夢「マホイップ! あなたの新しい力を見せて!」
「マホイ〜♪」
マホイップが楽しげに鳴き声をあげると、
「ジ、ジャノッ!!?」
急にジャノビーの体がふわりと浮いて、自ら出したはずの“グラスミキサー”の渦の中に引きずり込まれる。
ダイヤ「これは“サイコキネシス”!? ジャノビー!? 今すぐ、脱出してください!?」
「ジ、ジャノー!!?」
脱出の指示も虚しく、ジャノビーは為すすべもなく、渦の中で振り回される。
そして、渦の中心で楽しそうに回り続けるマホイップの周囲に、ポポポポっと紫色の炎が出現する。
歩夢「いけーーー!! マホイップ!! “マジカルフレイム”!!」
「マホイップッ♪」
現れた紫色の炎は、“グラスフィールド”に巻き込まれる形で── 一気に紫色の炎の火炎旋風へと昇華した。
「ジ、ジャノオオオッ!!!!?」
逃げ場のない、“マジカルフレイム”の旋風に巻き込まれたジャノビーは、そのまま炎の中を打ち上げられたあと──地面に落ちてきて、
- 544 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:33:10.76 ID:ffPGApYk0
-
「ジ、ジャノ……」
目を回してひっくり返っていた。
ダイヤ「……ジャノビー、戦闘不能ですわ」
歩夢「やった……! やったよ! マホイップ!」
「マホイ♪」
勝利の余韻に浸るのも束の間、
歩夢「……そうだ、侑ちゃんたちは……!」
まだ試合は終わっていない。
イーブイは、
「ブイイイイイイ……!!!!!」
「シャモオオオオオオオ!!!!!!!」
“めらめらバーン”を身に纏ったまま、ワカシャモの“かえんほうしゃ”の中、どうにか前に進もうとしているところだった。
🎹 🎹 🎹
侑「イーブイ!! 頑張れー!!」
「ブ、ブイイイイイ……!!!!!」
ルビィ「ワカシャモ! 火力で負けちゃダメだよ!」
「シャモオオオオオ!!!!!」
イーブイがワカシャモに向かって攻撃してくることに気付いたルビィさんは、すぐに標的をイーブイに切り替えてきた。
どうにか“めらめらバーン”で炎の勢いを相殺しながら、接近しようとしているけど、
「ブ、ブイイイイ……!!!!」
いかんせん相手の火力が強い。でも……でも──
侑「歩夢たちが頑張って作ってくれたチャンスなんだ……!! 絶対に負けない……!!」
「ブイイイイイイイッ!!!!!!」
ここが正念場だ、この炎さえ突破出来れば──
ルビィ「ワカシャモ!! とっておきの炎、行くよーーー!! “だいもんじ”!!!」
「シャモオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」
侑「なっ!?」
「ブイッ!!!?」
まだ、これ以上の技を隠してた……!?
“かえんほうしゃ”の中を懸命に進むイーブイに向かって──より集束された大の字の炎の塊が飛んでくる。
侑「……っ!!」
- 545 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:33:47.01 ID:ffPGApYk0
-
そのとき、イーブイは、
「ブイッ!!?」
炎の中で──“なにか”に躓いた。
侑「……!! イーブイ!! 突き進め!!」
「ブイイイイイッ!!!!!!」
私の言葉、イーブイの雄たけびと共に──“だいもんじ”が着弾して、爆発を起こす。
侑「っ……!!」
強い熱波に思わず、顔を庇う。
ルビィ「いくらイーブイさんの“相棒わざ”が強くても、これは耐えられませんよね……!」
侑「……そう、ですね……」
ルビィさんの言葉と共に、爆炎が晴れていく。その中に、
侑「──……当たってたら、ですけど」
イーブイの姿は──なかった。
ルビィ「え!?」
そこにあったのは──小さなだけ穴だった。
ルビィ「え、何……? 穴……? イーブイは……?」
ダイヤ「ルビィ!! 下です!!」
侑「もう遅いです!!」
「──ブイッ!!!!」
ワカシャモの真下から、急にイーブイが飛び出して、
「シャモォッ!!!!?」
“ずつき”をかました。
──ゴンッという鈍い音と共に、吹っ飛ばされたワカシャモは、
「シャ、シャモォ…」
ここまで蓄積したダメージもあってか、耐えきれずに倒れこむのだった。
ルビィ「あ……ワカシャモが……」
ダイヤ「ワカシャモ……戦闘不能ですわ」
ダイヤさんが口にする判定と共に、
侑「……ぃやったあぁぁぁぁ……!!」
声が漏れた。
- 546 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:34:42.30 ID:ffPGApYk0
-
侑「歩夢! 私たち──」
歩夢「侑ちゃん……!!」
私が声を掛けようとした瞬間、それを遮るかのように、歩夢が私に抱き着いてくる。
歩夢「侑ちゃん……! 私……私たち……っ……!!」
侑「……うん。……勝ったよ、私たち……」
歩夢「ホントに……ホントに勝ったんだよね……? ……私たち……っ……」
泣きそうな声で言う歩夢に向かって、
ダイヤ「……ええ。正真正銘、貴方たちの勝利ですわ」
ダイヤさんがそう答えながら、こちらに歩いてくるところだった。
ダイヤ「自分のポケモンと、自分のパートナーを信じて戦い抜いた、貴方たちの勝利ですわ」
ダイヤさんは試合中の表情が嘘のように、柔らかい笑顔でそう告げる。
歩夢「は……はい……っ……!」
侑「ふふ……やったね、歩夢!」
歩夢「うん……っ……!」
目に一杯の涙を浮かべながら喜ぶ歩夢のもとに、
「マホ〜♪」「ブイ♪」
試合を終えた、マホイップとイーブイが駆け寄ってくる。
歩夢「マホイップ……イーブイ……ありがとう……っ……。……ラビフットも、ライボルトも、みんなが頑張ってくれたから……私たち、勝てたよ……っ……」
ダイヤ「歩夢さん、勝者がそんな泣いていてはいけませんわよ」
歩夢「す、すみません……っ……」
ダイヤ「……自信は付きましたか?」
歩夢「……はい……っ!」
ダイヤ「それは何よりです」
ダイヤさんは歩夢の返事に満足げな表情をするのだった。
ルビィ「あ、あの……侑さん。聞きたいことがあるんですけど……」
侑「? なんですか?」
ルビィ「最後……よく“あなをほる”……間に合いましたね。……ジムの床板もあるのに……」
侑「ああ、えっと……」
私はイーブイが最後に掘った穴に目を向ける。
侑「炎を凌ぐのに夢中で、ぎりぎりまで気付かなかったんですけど……炎の中でイーブイが躓いたんですよね」
ルビィ「躓いた……?」
侑「それで、気付いたんです」
──『ライボルト、床に向かって“アイアンテール”!』
- 547 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:35:26.55 ID:ffPGApYk0
-
侑「イーブイが躓いたのは、ライボルトが“アイアンテール”で床板を砕いた場所だったんだって」
ルビィ「あ……」
ダイヤ「それだけではありませんわ。ルビィ、気付きませんか? この香りに」
ルビィ「え? 香り……? ……言われてみれば、なんか甘い良い匂いがするかも……?」
ダイヤ「これは、マホイップの放っている“アロマミスト”ですわよね?」
歩夢「は、はい……」
ダイヤ「“アロマミスト”によって、上昇した特防で攻撃を耐えつつ、砕いた板材の下に咄嗟に潜り込んで“だいもんじ”を回避した、ということですわね」
侑「最後の最後で運がよかっただけかもしれないですけど……あはは」
ダイヤ「いいえ、運を引き寄せるのも、引き寄せた運を好機に変えたのも、貴方の実力ですわ。それでは、ルビィ」
ルビィ「う、うん」
ダイヤさんに促されたルビィさんは、ポケットから2つ──宝石のようなシルエットをしたバッジを取り出した。
ルビィ「侑さん、歩夢さんの実力を認め、お二人にはこの──“ジュエリーバッジ”を進呈します!」
侑・歩夢「「はい!」」
二人で1つずつ“ジュエリーバッジ”を受け取る。
侑「やったね、歩夢♪」
歩夢「うん……♪」
リナ『二人ともおめでとう♪ 見ていてずっとドキドキハラハラしっぱなしで、すごい試合だった!』 ||,,> ◡ <,,||
侑「リナちゃんも、サポートありがとう」
歩夢「ありがとね、リナちゃん♪」
リナ『どういたしまして♪ 二人の役に立てて、私、嬉しい♪』 ||,,> ◡ <,,||
ダイヤ「ふふ、ロトム図鑑さんも含めて、良いチームワークでしたわ」
ルビィ「うん! すごかったです!」
称賛の言葉もそこそこに、
ダイヤ「それで、この後はどうされるおつもりですか?」
ダイヤさんはそう訊ねてくる。
- 548 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:36:04.26 ID:ffPGApYk0
-
侑「えっと……この近くに研究所がありましたよね? そこに行ってみたいなって……」
ダイヤ「アワシマ研究所ですわね。港から定期便が出ていますので、それを使えばすぐに行けると思います。あと、そちらの所長とは古い仲ですから、こちらからお二人のこと、連絡しておきますわね」
侑「いいんですか!?」
ダイヤ「ええ、もちろん。善子さんのところから旅立ったトレーナーが来ると聞いたら、きっと喜びますから。是非、訪ねてあげてください」
侑「わかりました!!」
次の行き先も無事決定。そして、ダイヤさんは最後に歩夢に向き直る。
ダイヤ「歩夢さん」
歩夢「は、はい……!」
ダイヤ「貴方はポケモンをよく見ている。きっとその目は、これからも貴方を助けてくれると思いますわ。今日の気持ちを、経験を忘れずに、精進してください」
歩夢「はい」
ダイヤ「……ふふ、いけませんわね。また説教臭いことを言ってしまいましたわ。教師時代の癖が抜けていませんわね……」
ダイヤさんはそうおどける。
ダイヤ「大切な試合。頑張ってください」
歩夢「はい! ありがとうございます!」
こうして私たちは激闘の末、四天王とジムリーダータッグの変則ジムバトルに勝利し──ジムバッジを手に入れたのでした!
- 549 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/24(木) 14:36:40.00 ID:ffPGApYk0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ウチウラシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. ● .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.34 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.27 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.30 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.25 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:77匹 捕まえた数:4匹
主人公 歩夢
手持ち ラビフット♂ Lv.30 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.23 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.25 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
タマザラシ♀ Lv.18 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
バッジ 1個 図鑑 見つけた数:104匹 捕まえた数:14匹
侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 550 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/25(金) 14:31:58.32 ID:vdkzhBrC0
-
■Chapter028 『葛藤』 【SIDE Shizuku】
──『しず子っ!!!』
かすみさんの声。
──『あんなのより、かすみんの方がずっと、ずーーーーっと!!! 可愛くて、美しくて、綺麗で、魅力的でしょ!!!?』
かすみさんが、私に向かって、叫んでいる。
──『毒だか、フェロモンだか知らないけどッ!!! あんな変なやつに負けないでッ!!!! かすみんがいるからッ!!!!』
かすみさんの声が、私の中で木霊していた。
──
────
──────
しずく「──…………ん……」
──瞼の裏に光を感じて、ぼんやりと目を開けると、見慣れない天井があった。
しずく「ここ……どこ……?」
自分がどうしてこんな場所にいるのか、寝起きの頭を働かせて思い出そうとするけど──記憶に靄がかかったかのように、直近のことがほとんど思い出せなかった。
ホシゾラシティで侑さんたちと別れて……コメコの森に入ったところまでは覚えている。
しずく「…………」
ゆっくりと身を起こすと、酷い眩暈に襲われた。
頭が……重い……。
重い頭を押さえながら、傍らに目を向けると──
「…ロゼ…zzz」
ロゼリアが眠っていた。
しずく「……ロゼリア……? ……もしかして、スボミー……?」
──そういえば……スボミーが進化していたような……。記憶の中の靄の向こうに手を伸ばそうとした瞬間、
しずく「……いた……っ……!」
頭がズキンと痛んだ。
私は一体どうしてしまったのか……。
頭を押さえながら、改めて、周囲を確認していると──
かすみ「…………すぅ…………すぅ…………zzz」
私の寝ているベッドにもたれかかるようにして、かすみさんが寝息を立てていた。
- 551 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/25(金) 14:32:41.04 ID:vdkzhBrC0
-
しずく「かすみさん……? ダメだよ、かすみさん……寝るならちゃんとベッドで寝ないと……風邪引いちゃうよ……」
かすみ「……ん、ぇ……?」
私が声を掛けると、かすみさんは少しビクっとしてから、顔を上げて──
かすみ「……しず子……?」
目を丸くする。
しずく「かすみさん……?」
かすみ「…………よ」
しずく「……よ?」
かすみ「よかったぁぁぁぁぁ!!! しず子〜〜〜!!!!」
しずく「きゃぁっ!?///」
突然かすみさんが、抱き着いてくる。
しずく「か、かすみさん!?///」
かすみ「よかった、よかったよぉ……! 痛いところとかない!? 大丈夫!?」
しずく「え、えっと……強いて言うなら……重い、かな……?」
かすみ「んなぁ!?」
ベッドの上で飛び付かれたから、軽くのしかかられている状態なわけだし……。
かすみ「か、かすみん重くないもん!! 確かに彼方先輩の作ってくれるご飯おいしくって3回もおかわりしちゃったけど……育ちざかりだから、すぐに消費されるもん!!」
しずく「あはは……冗談だよ。……彼方先輩……?」
かすみ「あ、うん! かすみんたちを助けてくれた人たちの一人なんだよ!」
しずく「助けてくれた……? ……えっと……どういうこと……?」
かすみ「え……? もしかして、しず子……なんにも覚えてないの?」
しずく「……う、うん……コメコの森に入ったところくらいから……記憶が曖昧で……」
かすみ「…………やっぱ、ウルトラビースト症……の後遺症……」
しずく「……え?」
かすみ「あ、いや! なんでもないよ! とりあえず、お医者さんがいるから──えっと、はる子って言うんだけど……! すぐ呼んでくるから、待ってて!」
しずく「あ、いいよ。お世話になったんだったら、私の方から挨拶に行かないと──」
かすみ「今起きちゃダメ!!」
しずく「!?」
かすみさんが珍しく激しい剣幕で声をあげる。
普段のぷりぷりと怒るような可愛い感じの雰囲気ではなく──本当に私が行くことに対して、否定的な意思を示しているのが嫌でもわかる……それくらいの剣幕だった。
かすみ「いいから、しず子はここで待ってて!」
しずく「わ、わかった……」
言い返すことも出来ず、素直に頷くと、
かすみ「絶対勝手に歩き回ったりしたらダメだからね!」
- 552 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/25(金) 14:33:59.44 ID:vdkzhBrC0
-
そう残して、パタパタと駆けていってしまった。
どうやら、相当身体のことを心配されているらしい。
しずく「…………本当に、私……どうかしちゃったのかな……?」
一抹の不安を覚えながら、しばしかすみさんを待つことに──
💧 💧 💧
遥「──ひとまず……問題はなさそうですね」
かすみ「……よかったぁ……」
しずく「ありがとうございます。遥さん」
かすみさんが呼んできたお医者さんこと──遥さん。
そして、そんな遥さんと一緒に部屋に来たのは、
彼方「遥ちゃんが平気って言うなら間違いないよ〜。よかったね、しずくちゃん」
そんな彼女のお姉さんだという、おっとりした雰囲気の人──彼方さん。
さらに、
千歌「何かあったらすぐ言ってね? 飛んでくるから!」
まさかのチャンピオン・千歌さんの姿。
そして、最後に、
穂乃果「とりあえず、しずくちゃんとは今後のことをお話ししたいんだけど……いいかな?」
初めて見る人だったけど……チャンピオンもいるようなこの場をまとめていることから、只者ではなさそうな──穂乃果さん。
かすみさん含めて、今私がいるベッドの周りには5人も集まってきていた。
しずく「今後のこと……ですか」
──今後のこと。
先ほど、自分がどうしてこんな場所で眠っていたのか、その理由を簡単な診察を受けながら聞かされた。
ただ……。
しずく「正直、何も覚えていないので……実感が湧かないというか……」
ウルトラビーストという未知の世界から来たポケモンに襲われ、命を失いかけたこと。
彼方さんたちが間一髪で助けに来てくれて、かすみさんともども命拾いしたこと。
そして、そんなウルトラビーストの毒に侵され、危ない状態を治療してもらって今に至ると説明されたが、正直頭が追い付いていない。
遥「フェローチェの毒は精神に強く作用します……だから、記憶に混濁が発生するのは仕方ないと思います……」
彼方「とはいえ、襲われちゃったのは事実だからね〜……」
遥「奇跡的に回復こそしていますが……いつ発作が現れるかも、わかないので……」
しずく「発作……ですか……」
- 553 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/25(金) 14:35:47.69 ID:vdkzhBrC0
-
その発作が具体的にどういったものかはわからないが……未知の毒に侵されている以上、楽観的な状況ではなさそうだ。
遥「今こちらに、もう少し精密に検査をするための機器を送ってもらっているんですけど……」
彼方「どっちにしろ、一旦本部に来てもらって、ちゃんとした設備で精密検査をした方がいいかもしれないね〜……」
しずく「精密検査……。それって、どれくらい時間が掛かるものなんですか……?」
遥「経過観察もあるので……1ヶ月から……最悪1年くらいは見てもらうことになるかもしれません……」
かすみ「1年!?」
遥さんの回答に、かすみさんが悲鳴のような声をあげた。
かすみ「それじゃ、旅は!? 旅はどうするの!?」
穂乃果「……残念だけど、中断してもらうしかないかな」
しずく「……そう、ですよね……」
かすみ「そ、そんな……」
私は穂乃果さんの言葉に俯いてしまう。
とはいえ、起こってしまったことは仕方がない。
しずく「わかりました……私の旅は一旦ここで──」
やむを得ないと、首を縦に振ろうとしたら、
かすみ「ち、ちょっと待ってよ、しず子!! しず子はそれでいいの!?」
かすみさんが、ベッドに手をつくようにして、身を乗り出しながら言う。
しずく「私だって旅を諦めたくはないけど……」
かすみ「じゃあ、諦めちゃダメだよ!!」
しずく「……でも」
かすみ「少なくともかすみんは、しず子が一緒に来てくれなきゃイヤだもん!!」
しずく「かすみさん……」
かすみさんの気持ちは理解出来る。……だけど、
彼方「あのね、かすみちゃん。……かすみちゃんが思ってるよりも、これって重い事態なの」
遥「ちゃんとした設備があれば、ウルトラビースト症の発作が起こったとしても、すぐに治療が出来ます……。なので、しずくさんには本部の医療施設に入ってもらって──」
かすみ「──しず子が旅出来なくなることの方が、重い事態ですっ!!」
説得を試みる彼方さん、遥さんの言葉をかき消すように、かすみさんが大声で反発する。
- 554 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/25(金) 14:36:52.83 ID:vdkzhBrC0
-
しずく「かすみさん……もういいから。ありがとう、私は大丈夫だよ……」
かすみ「大丈夫じゃないっ!!」
しずく「かすみさん……」
かすみ「私知ってるもん!! しず子がこの旅に出るために、どれだけ勉強してたか、頑張ってたか……! 旅立ちが決まった後もいっぱいいろんな下調べして、いろんな街のこととか勉強してたのも知ってるもん!!」
しずく「それは……」
かすみ「それに……旅してる間のしず子、いっつも楽しそうだった……。新しい仲間に出会う度に、学校じゃ見たことなかったような嬉しそうな顔して……新しい景色を見るたびにワクワクしたような顔してたの……知ってるもん……」
しずく「……」
かすみ「そんなしず子が……もういいなんて、旅を諦めてもいいなんて……思ってるわけないもん……」
何か、説得する言葉を探すけど──私は言葉が出なかった。それくらい、かすみさんは私の気持ちを言い当てていた。
そんな中で、どうにか絞り出せたのは、
しずく「……子供みたいなこと……言っちゃ、ダメだよ……」
そんな弱々しい言葉だった。
かすみ「しず子のしたいことが出来なくなるのを協力するのが大人なら、かすみん子供でいいもん……」
しずく「……」
先ほどまで、説得を行っていた彼方さんや遥さんも、かすみさんの悲痛な言葉に、なんと言えばいいかわからない様子だった。
そんな中、口を開いたのは、
穂乃果「……じゃあ、かすみちゃん。聞くけどさ」
穂乃果さんだった。
穂乃果「しずくちゃんが発作を起こすところ、かすみちゃんは見たんだよね?」
かすみ「……はい」
穂乃果「……あの発作が起こるとまずいってことは、わかるよね?」
かすみ「それはわかります……でも、かすみんがまたいっぱい声掛けて、しず子の目を覚まさせます……!」
穂乃果「……なるほど。……じゃあ、もう一つ教えておくね」
かすみ「……?」
穂乃果「一度ウルトラビーストに魅入られた人は……また、ウルトラビーストと出会う確率が高くなるんだ」
かすみ「え……?」
──それは初耳だけど……。思わず、遥さんの方に視線を向けると……遥さんは黙ったまま頷く。事実らしい。
穂乃果「しずくちゃんと一緒に旅をするってことは、かすみちゃんもまたウルトラビーストに襲われる可能性が高いんだよ。ウルトラビーストがどれほど強いかは……かすみちゃんが一番よくわかってるんじゃないかな」
かすみ「それ……は……」
穂乃果「しずくちゃんだけじゃない。次は、かすみちゃんの命に関わることが起こるかもしれない」
かすみ「…………」
穂乃果「その反面、本部でなら、いつでもしずくちゃんを守ってあげられるし、絶対に身の安全は保証する。だから──」
かすみ「…………っ」
大人の理屈だった。でも、それ故に正しかった。
こんな理屈を突き付けられたら、誰も反論なんて出来ない。出来ない……はずなんだけど、
- 555 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/25(金) 14:37:53.48 ID:vdkzhBrC0
-
かすみ「なら……」
穂乃果「?」
かすみ「なら、ウルトラビーストに負けないくらい、かすみんが強ければいいってことじゃないですか……!!」
穂乃果「……」
かすみさんが急に机上の空論を言い出すからか、穂乃果さんも呆れて、言葉を止めてしまった。
穂乃果「…………どうしよう、確かにそれはそのとおりかも……」
──いや、違った。あれ、もしかしてこの人……実はかすみさんに近しい側の人……?
彼方「ほ、穂乃果ちゃん……重要なところで負けないでよ〜……」
穂乃果「いやでも、かすみちゃんがウルトラビーストより強ければ、確かに問題ないし……」
ま、まあ……かすみさんが強ければ解決するのは確かなんだけど……。
今、重要なのはそこじゃないような……。
かすみ「なら話は早いです!!」
かすみさんは、いそいそと荷物をまとめ始める。
しずく「かすみさん、どこに……?」
かすみ「ポケモントレーナーが強さを示すなら行く場所は一つ……! 今すぐコメコジムでジムバッジを手に入れてくるから、待ってて!!」
それだけ言うと、かすみさんは部屋を飛び出して行ってしまった。
しずく「え、あ、ちょっと待って、かすみさ──……行っちゃった……」
強さを示すのはいいにしても……ジムバッジ3個程度じゃ、穂乃果さんたちが納得する強さの証明にならないと思うんだけど……。
恐らく誰もがそう思っているだろうという中、口を開いたのは、
千歌「……少し、様子を見てもいいんじゃないかな」
ずっと黙ったまま、話を聞いていた千歌さんだった。
彼方「そういえば、千歌ちゃん……ずっと、黙ったままだったね〜……?」
千歌「あーうん……必死なかすみちゃん見てたら、なんか思い出しちゃって……」
彼方「思い出しちゃった……?」
千歌「……自分が旅をしてたときのこと。私も無茶なことたくさんしたなぁって……」
千歌さんは昔を懐かしむように言う。
千歌「そのたびに、危ない目に遭って……。それを周りの大人に反対されたこともあった。でも……それでも、ポケモンたちとそれを乗り越えてきてさ。……その先に今の私があるって思ったら……なんか、かすみちゃんの気持ち、簡単に否定出来ないなって……」
穂乃果「むー……千歌ちゃんばっかりずるいよ〜! 私だって、おんなじこと考えてたけど、今はしずくちゃんとかすみちゃんの身の安全が大事だって思って喋ってたのに……!」
千歌「ご、ごめんなさい……。でも、やっぱり、かすみちゃんの気持ち……全部無視するのは出来なくて……。……もちろん、しずくちゃんの気持ちも」
しずく「…………」
彼女たちも昔、ポケモントレーナーとして旅をして、今があるからこそ、私やかすみさんの旅に水を差すことに、思うところがあるのだろう。
……だけど、大人が大人として、私やかすみさんの身の安全を守ろうとしていることも、かすみさんが私と旅を続けられるように必死になっていることも、どちらの心情も理解出来るからこそ……私はどうすればいいのかがわからなかった。
- 556 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/25(金) 14:39:18.92 ID:vdkzhBrC0
-
千歌「私は……しずくちゃんがどうしたいかも大事だと思う」
しずく「……私は……」
千歌「素直に答えて欲しいんだけど……旅を続けたい?」
しずく「……それは……。……はい。続けたいです……かすみさんと一緒に」
千歌「だよね……。じゃあ、私たちの意思だけで勝手にダメだって決めつけちゃうのも……」
しずく「……でも……それと同じくらい……怖いって気持ちも、あります……」
少なくとも命が脅かされていることに覚える恐怖はある。
未知の毒に侵食されているかもしれない。またその原因と出会うことになるかもしれない。
そして、なによりも──次はかすみさんも命の危険にさらすことになるかもしれない。
それはどうしようもなく……恐ろしいことだと、私はそう思う。
穂乃果「……わかった。とりあえず、今後どうするか、しずくちゃん自身でよく考えてみてもらっていいかな?」
しずく「……はい」
穂乃果「その答え次第で、私たちもまた考えるから。……状況によっては、しずくちゃんやかすみちゃんの要望通りに出来るとは限らないけど……」
しずく「……わかりました」
私は穂乃果さんの言葉に頷く。
かすみさんの意向や行動に関わらず、私も自分自身がどうしたいのか、決断する必要があるだろう。
遥「とりあえず今日は安静にしていてくださいね。この後、簡易検査用の機器が届いたら、私が検査をするので……」
しずく「はい、よろしくお願いします」
とりあえず、今私に出来ることは、ここで考えながら安静にして待つことだ。
彼方「ん〜じゃあ、とりあえず話もひと段落したし、彼方ちゃんご飯作ってくるね〜。みんな、いっぱいお話しして、お腹空いちゃったでしょ?」
穂乃果「それじゃ、私たちは彼方さんがご飯を作ってくれてる間に、見回りに行こうか」
千歌「そうですね……森にウルトラビーストが出現したばっかりだから、警戒をちゃんとしておいた方がいいだろうし……」
それぞれが持ち場に戻っていき、人口密度の高かった室内が一気に寂しくなる。
私も、いろいろ考えて少し疲れてしまった……一旦、休ませてもらおうかな……。
そう思い、横になる。
しずく「…………私は……どうすればいいのかな……」
私はそう呟いて……目を閉じたのだった。
👑 👑 👑
──ロッジを飛び出したあと、かすみんはジムの前でぼんやりしています。
何故なら、ジムの扉にこんな張り紙がしてあったからです。
──『農作業のため、ジムに御用の方は午後以降にお願いします』──だそうです。
だから、こうしてジムの前でジムリーダーが戻ってくるまで待っているわけです。
- 557 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/25(金) 14:40:04.80 ID:vdkzhBrC0
-
かすみ「かすみん、誰かからジム戦はスムーズに出来ない呪いでも掛けられてるんですかね……」
「ガゥ?」
……とはいえ、今回に関してはここで待っていれば絶対に来るわけですし、まあいいでしょう。
かすみ「それにしても、コメコのジムリーダーは働き者ですねぇ。ジムリーダーをやってるのに、農業もやってるなんて……」
コメコと言えば、農業の町で有名ですし、かすみんもお料理の買い物をするときは、よくコメコ産のお野菜とか果物とかを選んでいた気がします。
──くぅぅぅ〜……。食べ物のことを考えていたら、かすみんのお腹から可愛らしい音が鳴る。
「ガゥ」
かすみ「お腹空いた……」
やっぱり、何も食べずに飛び出してきたのは失敗でしたね……。
彼方先輩の作ってくれるおいしいご飯を食べて、ジム戦に備えるべきでした。
……なんてこと、今更言っても仕方ないので、今はそこのおにぎり屋さんで買った、塩むすび──豪勢な具を選べるようなお小遣いも残っていない──で我慢します。
かすみ「ゾロアも食べよ?」
「ガゥ♪」
大きめの塩むすびをゾロアと半分こして、パクつくと、
かすみ「……! お、おいしい……!」
「ガゥガゥ♪」
恐らく質素な味だろう思っていた塩むすびは、そんな予想に反して、思わず感想を口にしてしまうくらいおいしかった。
お米一粒一粒がしっかり感じられて、でも硬いわけではなくて、炊き立てのようにふっくらとした食感。
お米特有の風味が口いっぱいに広がり、それでいて炭水化物特有の口に残るような癖もほとんどない。
そんなおにぎりだからなのか、米そのものの味をしっかり感じられて──それを際立たせる絶妙な塩加減。
かすみ「かすみん……こんなおいしい塩むすび、初めて食べました……!」
「──ですよねですよね!! コメコのお米は世界一なんですよ!!」
かすみ「わひゃぁ!?」
──気付けば、知らない人の顔が至近距離にありました。
かすみ「だ、誰ですかぁ!?」
花陽「あ、ご、ごめんなさい……私、花陽って言います……。お米農家をしていて、うちのお米をおいしそうに食べてくれていたから、つい嬉しくなっちゃって……」
かすみ「な、なーんだ……そういうことですか。でも、このおにぎり本当においしいです!」
花陽「えへへ、ありがとう♪」
目の前の花陽という人は本当に嬉しそうにお礼を言ってくる。
かすみ「むしろお礼を言いたいのは、かすみんの方ですよ!」
花陽「かすみんちゃん……? 変わった名前だね?」
かすみ「かすみんちゃんじゃなくて、かすみんです! かすみだから、かすみんなんです!」
花陽「あ、そういうことだったんだね! よろしくね、かすみちゃん!」
かすみ「……」
な〜んか……テンポが狂う感じがしますねぇ……。
- 558 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/25(金) 14:40:37.70 ID:vdkzhBrC0
-
かすみ「……と、とにかく。おいしいお米、ありがとうございます! お陰で元気出てきたんで、ジム戦もばっちりこなせそうです!」
花陽「あれ? もしかして、ジムの挑戦者さん?」
かすみ「はい。見たとおり、まだジムリーダーが帰ってきてなくて……」
確か、ここのジムリーダーの名前は……。なんか、りん子先輩が言ってたような……かよち? かよ……なんだっけ。
かすみ「かよ……子先輩でいいや。その人を待ってるんです」
花陽「かよ子……? ……あ、もしかして凛ちゃんに会ったのかな?」
かすみ「あれ、もしかしてりん子先輩と知り合いなんですか?」
花陽「うん♪ 凛ちゃんとは幼馴染なんだ♪」
かすみ「へぇ〜、そうだったんですね」
隣の町とはいえ、世間は意外と狭いものですねぇ。
花陽「それじゃ、凛ちゃんを倒して、ここに来たってことだね」
かすみ「はい!」
花陽「そっか! なら、私も気合い入れて頑張らないと……」
かすみ「……?」
花陽「ジムリーダーとして、全力でお相手するよ! よろしくね、かすみちゃん!」
かすみ「……はい? えっと、かすみんが待ってるのは、ジムリーダーであって……」
花陽「あ、えっとね。実は私がそのジムリーダーなんだ♪」
かすみ「…………へ?」
間抜けな声が出た。
かすみ「え、で、でも名前が……」
花陽「凛ちゃんからは、昔から、かよちんってあだ名で呼ばれてるんだ♪ だから、きっとかすみちゃんの言ってる、かよ子先輩は私のことだと思う!」
かすみ「じ、じゃあ、かすみんたち敵同士じゃないですかっ!!」
思わず、飛び退いてしまう。
ジム戦前に、ジムリーダーと仲良く談笑してる場合じゃないんですよ、かすみんは!!
かすみ「お米はおいしかったですし、それはありがとうって思いますけど……ジムリーダーなら話は別です!! かすみんは敵さんと仲良しこよししに来たんじゃないんです!!」
花陽「え、ええ!? ジムリーダーとチャレンジャーってだけだから……バトル外では仲良くしても……」
かすみ「それじゃ、戦いづらくなっちゃうじゃないですか!!」
花陽「た、確かにそうかも……。わかった! それじゃ、仲良くお話するのはバトルの後にするね! それじゃ、ジムの中に入ってください!」
かよ子先輩の先導でジムの中へと案内される。かすみんもゾロアをボールに戻しながら、その後ろを付いていく。
……なんだかおっとりしていて、良い人そうだけど、今日のかすみんは1ミリ足りとも手加減してやるつもりはありません。
ジムリーダーだろうがなんだろうが、完膚なきまでに叩きのめしてやるくらいのつもりです。
かすみ「しず子のために……圧倒するくらいじゃないと、ダメなんだから……!!」
今日は、完璧な勝利をもぎ取らなくちゃいけない。かすみんがしず子を守れるんだってことを、示すためにも……!!
- 559 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/25(金) 14:41:20.77 ID:vdkzhBrC0
-
👑 👑 👑
ジムに入ると、中は地面を敷き詰めて作ったフィールドになっていた。
りん子先輩の道場のような板張りのジムとはだいぶ印象が違いますね……。
花陽「ルールの確認です! 使用ポケモンは3体ずつ! 全てのポケモンが戦闘不能になったら、その時点で決着です!」
ジムリーダーのバトルスペースから、かよ子先輩がそう伝えてくる。
かすみ「わかりました」
かすみんは軽く深呼吸をします。
かすみ「しず子……待っててね」
絶対絶対、何がなんでも、勝つ。そう意気込んで、ボールを構える。
花陽「それでは、これよりジム戦を開始します! コメコジム・ジムリーダー『陽光のたがやしガール』 花陽! よろしくお願いします……!」
かすみんとかよ子先輩、お互いのボールが同時に宙を舞う。バトル……スタートです……!!
- 560 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/25(金) 14:41:55.48 ID:vdkzhBrC0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【コメコシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___●○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 かすみ
手持ち ジュプトル♂ Lv.23 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.22 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.17 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.22 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
バッジ 2個 図鑑 見つけた数:113匹 捕まえた数:6匹
かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 561 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 11:49:39.41 ID:K66c2REr0
-
■Chapter029 『激闘! コメコジム!』 【SIDE Kasumi】
かすみ「──行きますよ、ジュプトル!!」
「プトルッ!!!」
かすみんの1番手はジュプトル! 今日は出し惜しみなしです! 最初からエースで一気に決めちゃいますよ!
花陽「お願い、ホルード!」
「ホルー!!」
相手のポケモンはホルード……なんか、うさぎさんっぽいのに絶妙に可愛くない……。
『ホルード あなほりポケモン 高さ:1.0m 重さ:42.4kg
大きな 耳は 1トンを 超える 岩を 楽に 持ち上げる。
ショベルカー並みの パワーで 固い 岩盤も コナゴナに
する。 穴を 掘り終えると ダラダラと 過ごす。』
かすみ「パワーはすごそうですけど、その分のろまさんっぽいですね……!」
図鑑をパタンと閉じる。どうやら、図鑑によればじめんタイプっぽいですし、有利相性で攻め込めますね……!
かすみ「ジュプトル! “リーフブレード”!!」
「プトルッ!!!!」
──ダンッ! と音を立てながら飛び、速攻で切りかかる。
「ホル!?」
予想どおり、のろまさんなのか、急に飛び出してきたジュプトルに驚いて動けなくなってますね……ふふふ。
「プトォルッ!!!!」
そのまま、縦に振り下ろした、草の刃が直撃し──パシッ。
かすみ「……へぇ!?」
──して、なかった。
花陽「ホルード、ナイスだよ!」
「ホル〜」
耳を使って、真剣白羽取りの要領で受け止められていた。
そして、ジュプトルの腕の葉っぱを掴んだまま、
花陽「“アームハンマー”!!」
「ホルーー!!!!」
地面に叩きつけようとしてくる。
かすみ「やばっ!? ジュプトル!!」
「ジュプトォッ!!!」
ジュプトルは咄嗟に口から、タネを吐き出す。
吐き出したタネは──ボンッ!と音を立てて、ホルードの前で爆発する。
「ホ、ホル…!!」
- 562 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 11:50:51.52 ID:K66c2REr0
-
爆裂したタネに驚いたホルードの耳は、思わずジュプトルを放す。
勢いはあったため、ぶん投げられこそしたものの、
「プ、プトルッ」
そこは自慢の身のこなしで華麗に着地する。
かすみ「セ、セーフ……」
花陽「咄嗟の防御に“タネばくだん”を使うなんて……!」
素早さで攪乱出来ると思ってたけど……そこは、さすがジムリーダー。一筋縄では行きませんね……。
遠距離技で一旦様子を見ようとしていた矢先、
花陽「“マッドショット”!」
「ホールーッ!!!!」
ホルードは泥の塊を複数飛ばしてくる。
かすみ「“リーフブレード”で斬り払って!」
「プトルッ!!!」
泥の塊を的確に斬り落としての防御。
多少、捌ききれずにぶつかりますが、こっちはくさタイプ。じめんタイプの攻撃ではそんなにダメージは通りません!
花陽「なら……!」
「ホルッ!!!」
急にホルードが自分の耳を土に突っ込むと、耳を突き立てた部分が赤みを帯びる。
花陽「“ねっさのだいち”!」
「ホルーーッ!!!」
そして、耳を使ってその土をひっくり返すように、こっちに向かって投げつけてくる。
「プトル…ッ」
かすみ「あ、あちち!? あついですぅ!?」
熱された土は、水分を失ったからなのか、砂になってジュプトルを襲う。
その熱量はかなりのもので、離れた場所から指示しているはずのかすみんのところにも熱気が届いてきている。
かすみ「ジュプトル、“やけど”しなかった!?」
「プトルッ!!」
どうやら、状態異常は免れたらしい。ラッキーです……!
ただ、熱にひるんだかすみんたちに、かよ子先輩は畳みかけるように攻撃を続ける、
花陽「“でんこうせっか”!」
「ホルッ!!!」
かすみ「いっ!? “ファストガード”!?」
「プ、プトルッ!!!!」
のろのろだと思っていたホルードが急に、猛スピードで突っ込んでくる。
咄嗟に、ガードをするけど──あまりに強力なスピードとかすみんの指示が相手よりワンテンポ遅れていたためか、完全に防ぎきれず、
「ジュプトォッ…!!!」
- 563 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 11:52:36.43 ID:K66c2REr0
-
またしても、吹っ飛ばされる。
かすみ「受け身とって!!」
「プトルッ!!!」
かすみ「よし! いい子ですよ、ジュプトル!」
「ジュプトッ!!!」
攻撃を受けてもどうにか受け身で威力を殺している。身のこなしの軽さが活きているけど……。
かすみ「あの破壊力……どこかで攻撃が直撃したら……」
恐らく直撃は食らったら終わり……!
どうにか、攻撃を直撃させられる前に策を練らないとと思うのに、
花陽「“メガトンパンチ”!!」
「ホルッ!!」
かすみ「ぴきゃぁぁぁ!? 逃げて逃げて!?」
「プ、プトォル!!!」
かよ子先輩は攻撃の手を緩めない。
花陽「──“とっしん”!!」
「ホル!!!」
花陽「──“アイアンヘッド”!!」
「ホーールッ!!!!」
花陽「──“10まんばりき”!!」
「ホルーーーー!!!!!」
畳みかけられる近接攻撃。とにかく回避に専念させて、逃げ回らせる。
それでも、ホルードはしつこくジュプトルを追い回しながら、攻撃をしまくってくる。
かすみ「当たったら終わり、当たったら終わり……!」
「プトル…ッ」
が、避けながら後退をしすぎたのか──気付けば壁際に追い込まれていました。
いや、
かすみ「も、もしかして、誘導されてた〜!?」
「プ、プトルッ…!!!」
あんな無茶苦茶に技を振りまくってるように見えて、少しずつジムの角の方に追い込まれていた。
花陽「これで、逃げ場はないよ! “ばかぢから”!!」
「ホーーーールーーー!!!!!」
壁に追い詰められたジュプトルに向かって、耳を大きく引きながら、殴りかかってくるホルード。
かすみ「っ……! 飛び越えて! “アクロバット”!!」
「ジュプトォル!!!!」
咄嗟の指示。飛び出したジュプトルは、ホルードの頭に手を突きながら、身を捻って、耳と耳の間をすり抜けながら飛び越える。
花陽「!」
かよ子先輩が驚いて息を呑むのが聞こえた。そして、その直後──ドゴォッ!! と大きな音を立てながら、ホルードの攻撃はジムの壁に炸裂する。
かすみ「……ひ、ひいぃぃ! か、壁に穴が……!」
- 564 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 11:53:05.76 ID:K66c2REr0
-
“ばかぢから”でぶん殴られた壁は、一発でジムの壁をぶち抜いて、そこから先に外が見える。
あの人、自分のジムなのに、容赦なくぶっ壊してきましたよ!?
あんなの当たったら本当に一溜りもありません……! 避けられてよかった……。
花陽「逃げてばっかりじゃ、勝てないよ!」
かすみ「そんなのわかってますよぉ! でも、そんなバカみたいな破壊力ズルじゃないですかぁ!!」
花陽「そ、そんなこと言っても、ホルードの特性は“ちからもち”なんです! これは、そういう個性ですから……!」
そんな特性を持っているなら尚更、真正面から戦うなんて出来ません……!
とにかく今は、距離を取って──
花陽「あくまでも逃げるんだね……なら──」
「ホル」
ホルードがまた耳を地面に突き刺す。また“ねっさのだいち”!? と身構えたけど、いつまで経っても、耳を引き抜かない。
かすみ「? な、なにを……」
いつ土をひっくり返してくるかと警戒していたけど──警戒する方向はそっちじゃなかった。
「プトルッ!!?」
かすみ「!? ジュプトル、どうしたの!? って、えぇ!?」
ジュプトルの驚く鳴き声に反応して、目を向けると──ジュプトルの足が砂に絡め取られていた。
花陽「“すなじごく”!」
「ホルッ!!!」
かすみ「こ、拘束までしてくるなんて、聞いてないですよー!!」
「プ、プトルッ」
花陽「これで……もう逃がしません……」
かすみ「脱出! 全力で脱出!」
「プ、プトォル…」
脱出を指示するも、完全に足が砂に埋まってしまっていて、逃げるのはもはや困難。
やばい、やばい……!! どうにかしないと、と考えている間にも、ホルードはジュプトルに迫ってくる。
回避は無理……! なら、近寄らせないしかない……!
かすみ「“タネマシンガン”……!」
「プトルルルル!!!!」
“タネマシンガン”でけん制をするものの、
「ホルー」
ホルードは耳で払い飛ばしながら、のっしのっしと迫ってくる。
小さいダメージはこの際気にしていないようだった。
そりゃぁ、あの破壊力だと、こっちは一発貰ったら終わりだから、わかる気もしますけどぉ……!?
かすみ「あ、あのパワーをどうにか……」
とはいえ、特性ということは、あのポケモンの唯一無二の性質みたいなものです。
どうにかするって言っても、どうにも……。
- 565 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 11:53:46.56 ID:K66c2REr0
-
かすみ「……? 特性……?」
そこでかすみんはハッとする。
かすみ「そうだ……! ジュプトル! あれです! ……“タネばくだん”!」
「!!! プットルッ!!!!」
ジュプトルはまたしても、口からタネを飛ばす。
花陽「また“タネばくだん”ですね……! でも、もうここまで来たら関係ないです! ひるまないで、確実に攻撃を仕掛けて!」
「ホルーー」
もはや回避するつもりもない。そのままタネは──ゴッと音を立てて、ホルードの頭に直撃した。
花陽「不発……?」
かすみ「う、うそ……」
花陽「ふふ……最後の最後で運が悪かったですね」
もうホルードはジュプトルの目と鼻の先。
かすみ「“リーフブレード”ォ……!!」
「プトォルッ!!!!」
苦し紛れに振るう草の刃、だけど、
花陽「受け止めて!」
「ホルッ!!!」
またしても、真剣白刃取りの要領で受け止められる。
花陽「これで、終わりです! “アームハンマー”!!」
最初と同じ展開で、今度は動けないジュプトルに向かって、ホルードの耳が振り下ろされ──……なかった。
花陽「!? ホルード、どうしたの!?」
「ホ、ホル…!!!」
「プトル…!!!」
何故か、ホルードはジュプトルの刃を掴んだまま、ほぼ力の釣り合った押し合いに発展していた。
花陽「な、なんで!? ホルードの方がパワーは圧倒的に上なのに!?」
かすみ「……にっしっし……引っ掛かりましたね〜?」
花陽「え……!?」
かすみ「さっきの“タネばくだん”……本当にただ不発なだけだったと思いますか〜?」
花陽「……!? まさか、さっきの他の技……!?」
かすみ「そのとおりです! 特性“ちからもち”は“ふみん”に書き換えさせて貰いましたよ!」
そうさっきの技は“タネばくだん”ではなく──
花陽「──“なやみのタネ”……!?」
相手の特性を“ふみん”にする技──“なやみのタネ”だったというわけです。
- 566 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 11:54:42.15 ID:K66c2REr0
-
花陽「……そ、それでもまだ力比べでなら、拮抗してる……! ホルード! 頑張って!」
「ホルゥゥゥ!!!!!」
「プ、プトルッ!!!」
特性を失った今でも、どうにか押し切ろうと、踏ん張りながら迫り合いを続ける。
さすが、ジムリーダーのポケモンとでも言いましょうか。よく育てられていて、“ちからもち”が消えちゃったあとでも、本当に押し切られちゃいそうですけど──
迫り合いを続ける最中、ホルードが耳で掴んでいる部分が、急に内側から光り出す。
花陽「なっ!?」
かすみ「……ここまで来て、かすみんたちは真正面から力比べなんてしませんよ!」
「プトルッ!!!!」
その光はどんどん輝きを増し──大きな刃となって、ホルードを貫く……!
かすみ「“ソーラーブレード”ッ!!」
「プトォル!!!!!!」
「ホルゥゥゥ!!!?」
ジュプトルの草の刃が──光の刃となって、ホルードの脳天から直撃した。
花陽「!! ホルード!!」
「ホ、ホルゥ……」
こんな至近距離で大技を食らったら、もうとてもじゃないけど、立ってるのは無理ですよね。
ホルードは太陽光の刃に吹き飛ばされて、気絶したのでした。
花陽「……やられちゃった。……ありがとう、ホルード。戻って」
「ホルゥ…──」
かすみ「……ふぅ、どうにか1匹目、突破です……」
「プトルッ」
かよ子先輩がホルードをボールに戻して、次のボールを投げる。
花陽「……お願い、ダグトリオ!」
「──ダグダグ!!」
──次に出てきたポケモンは、ダグトリオ。
『ダグトリオ もぐらポケモン 高さ:0.7m 重さ:33.3kg
チームワークに すぐれた 三つ子の ディグダ。
3匹は とても仲良し。 3つの 頭が 互い違いに 動いて
どんなに 硬い 地層でも 地下100キロまで 掘り進む。』
かすみ「さぁ、どんどん行きますよ! ジュプトル!」
「ジュプトォル!!!!」
ダグトリオ目掛けて、“リーフブレード”を構えて飛び出すジュプトル。この流れに乗って、2匹目も討ち取ってやります……!
肉薄して、横薙ぎにリーフブレードを一閃──したのですが、
かすみ「……あ、あれ……?」
そこにはダグトリオの姿はなく……。穴っぽこが空いているだけ。
かすみ「潜って逃げられた……! ジュプトル、気を付けて!」
「プトルッ」
- 567 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 11:55:23.96 ID:K66c2REr0
-
ジュプトルともども、キョロキョロとフィールド内を見回しながら警戒する。
どこから出てきても追い付いて攻撃するくらいのつもりで、神経を尖らせる。
そんな中……もこっと地面が盛り上がった場所は、
かすみ「……!? 真下……!? ジュプトル、逃げ──」
花陽「“ふいうち”!!」
「ダグッ!!!」
「プトォルッ!!?」
真下から突き上げられて、ジュプトルが真上に吹っ飛ぶ。
相手が逃げてるんだと思い込んでいたせいで、攻撃への対処が遅れた……!
かすみ「ぐぬぬ……! そのまま、“リーフブレード”!」
「…プトォォル!!!」
ただ、転んだままでいるつもりはない。尻尾を器用に使って空中で体勢を立て直し、そのまま落下のスピードを加えて、反撃を試みる。
──縦薙ぎの刃がダグトリオの直上から、一閃されるが、
「ダグッ──」
かすみ「……っ! また、潜られた……!」
またしても、ジュプトルの攻撃は空振り。
かすみ「ジュプトル、足元注意だよ!」
「プトル…!!」
次の攻撃は受けないと、足元に警戒を回したら──今度はジムの隅っこの方の地面が盛り上がる。
花陽「“トライアタック”!!」
「ダグダグダグ!!!!」
「プトォル!!!?」
かすみ「ちょ……! 今度は、遠距離!?」
三角形の頂点にほのお・でんき・こおりを宿したエネルギー弾がジュプトルに直撃する。
かすみ「ぐぅ……! “タネマシンガン”……!」
「プトルルルルルッ!!!!」
すかさず、遠距離技で反撃をするも、
「ダグッ──」
かすみ「ああーもう……! また、逃げられた……!」
ダグトリオはすぐに穴に潜って逃げてしまう。
かすみ「悠長に相手を待ってたら、ただの的ですね……! ジュプトル!」
かすみんがバッと手をあげると、
「! プトルッ!!」
ジュプトルは地面を蹴って跳躍し──壁に張り付いた。
- 568 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 11:56:33.14 ID:K66c2REr0
-
かすみ「これなら、少なくとも近接攻撃は当たりません!」
花陽「! なるほど……」
キモリの時代から、壁や樹に登るのは得意技なんですから……!
近距離攻撃を予防してしまえば、あとは遠距離攻撃対策に絞るのみ……!
と、思った瞬間──グラグラと地面が揺れ始めた。
かすみ「ひゃぁっ!? な、なんですかぁ!?」
「プ、プトォル…!!」
壁に張り付いたジュプトルを振り落とすような激しい揺れ。
かすみ「まさか、“じしん”ですか!?」
花陽「そのとおりだよ! 逃がさない……!」
かすみ「が、頑張ってジュプトル!」
「プ、プトル…ッ」
かすみんの応援も虚しく──ジュプトルは揺れに耐えきれず、壁から振り落とされてしまう。
かすみ「……っ! 起き上がって、ダッシュ!!」
「プトル…ッ!!」
振り落とされても、ひるんでいる場合じゃない。着地と同時に受け身を取って起き上がり、すぐに走り回り始める。
狙いを定めさせるわけにはいかない……!
でも、ダグトリオは、
「ダグッ!!!」
「プトルッ!!?」
かすみ「ひゃぁぁ!? なんで進路上に出てくるのぉ!?」
花陽「地面に潜ったポケモンは地上の振動を感知して攻撃するんです! “ヘドロばくだん”!!」
「ダグッ!!!」
かすみ「そんなのズルじゃないですかぁ〜!! タ、“タネマシンガン”……!!」
「プトルルルルッ!!!!!」
苦し紛れに相殺を狙うけど、ヘドロの塊を消し飛ばしきることは出来ず、
「プトォル……ッ!!!」
真正面からダメージを負う。
次の瞬間にはもうダグトリオは地面の中だし……!
かすみ「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ……!! ひ、卑怯ですよぉ……!!」
花陽「ごめんなさい……でも、これも戦略だから……」
かすみ「むきーっ!! ジュプトル!! “タネマシンガン”!! “タネマシンガン”ですぅ!!」
「プートルルルルルッ!!!!!」
ジュプトルがフィールド一帯を手当たり次第に“タネマシンガン”で攻撃させる。
花陽「ヤケを起こしちゃったら、勝てないよ……?」
かすみ「うるっさいですっ!!」
花陽「……なら、もう決めちゃおう! ダグトリオ!」
かよ子先輩の指示と同時に──ジュプトルの足元がもこっと盛り上がった。
- 569 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 11:59:12.59 ID:K66c2REr0
-
花陽「──“10まんばりき”っ!!」
直下からの大技──でしたが、
かすみ「……引っ掛かりましたねぇ〜?」
花陽「え!?」
ダグトリオは何故か──頭の先っちょだけ出たところで止まってしまっていた。
花陽「な、なんで!?」
かすみ「かよ子先輩、本当にかすみんがヤケっぱちを起こして、“タネマシンガン”をばらまいてたと思ってたんですかぁ?」
花陽「……!? ダグトリオ! 一旦潜りなおして!」
「ダ、ダグッ」
先っちょだけ出ていたダグトリオは、すぐに地面に潜りなおして離脱する。
花陽「い、一体何が……」
かすみ「かよ子先輩〜、二度もおんなじ作戦に引っ掛かってたら……勝てる勝負も勝てませんよ〜?」
花陽「同じ作戦……? ……まさか、さっきの……“タネマシンガン”じゃない……!?」
今更気付いても、もう遅い。さっきのブラフの“タネばくだん”同様……今回の“タネマシンガン”も実は“タネマシンガン”じゃなくって──
かすみ「もうダグトリオが掘った穴の中は──“やどりぎのタネ”から出た芽が張り巡らされてますよ!」
花陽「……!?」
さっきばら撒いていたのは、“やどりぎのタネ”……!
それをダグトリオが空けた穴目掛けて、打ち込みまくったというわけです。
穴同士は繋がっているわけですから、穴の中を縦横無尽に伸びまくるやどりぎの芽から逃げる方法なんて皆無です……!
そして、やどりぎに体力を吸収され続けていることがわかった今、
かすみ「そっちは無理やりにでも攻撃せざるを得ませんよね!」
──離れたところでもこっと盛り上がった地面目掛けて、
花陽「“トライアタック”……!!」
「──ダグ…ッ」
かすみ「“エナジーボール”!!」
「プトォーールッ!!!!」
勢いよく飛び出した“エナジーボール”が、まっすぐ“トライアタック”を捉えて相殺し、エネルギーが弾けた衝撃で周囲の土を巻き上げる。
──その土煙を突っ切るようにして、
かすみ「“リーフブレード”!!」
「プトォルッ!!!!」
ジュプトルがダグトリオを袈裟薙ぎに斬り裂いた。
「ダ、グ…」
効果抜群。たまらずダグトリオは戦闘不能となりました。
花陽「……戻って、ダグトリオ」
かすみ「……あと……1匹……!」
- 570 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 12:00:09.96 ID:K66c2REr0
-
自分が今、かつてない程バトルに集中していることを実感できた。でも、それは当たり前──
かすみ「今日のかすみんは……圧倒的に、絶対的に、無敵な感じを見せつけに来たんですから……!!」
しず子を守れるって証明するために──かすみんはジムリーダーに圧勝しに来たんです……!!
花陽「……かすみちゃん、強いね。びっくりしちゃった」
かすみ「そうでしょう、そうでしょう! 今日のかすみんは無敵なんですから!」
花陽「でも、私にもジムリーダーとしての意地があるから……この切り札で、劣勢を覆します……!」
かよ子先輩が、最後のポケモンのボールをフィールドに投げ込んだ。
👑 👑 👑
花陽「お願い、ナックラー!」
「──…ナク」
最後に出てきたポケモンは……ナックラー。
かすみ「なんか……最後によわっちそうなのが出てきましたね……」
今までで一番弱そうかも……。と、思った矢先、
「プトッ!?」
ジュプトルが驚きの声をあげながら、少しずつ前進……いや、滑ってる……?
かすみ「……違う!? 何かに、引っ張られてる!?」
かすみんは状況把握のために、図鑑を開いて、ナックラーのページを開く。
『ナックラー ありじごくポケモン 高さ:0.7m 重さ:15.0kg
すり鉢状の 巣穴の 底で じっと 獲物が 落ちて くるのを
待ち続けている。 大きな アゴは 大岩を 噛み砕く。 頭が
大きいので ひっくり返ると なかなか 起き上がれなくなる。』
かすみ「アリジゴク……!? じゃあ、ジュプトルを引っ張ってるのは……砂!?」
気付けば、いつの間にかジュプトルの足元どころか──ナックラーを中心にして、フィールド全体に大きな流砂が発生していた。
かすみ「やば……! 脱出! ジャンプ、ジャンプ!!」
「プトルッ…!!」
すかさずジャンプで脱出……! 身のこなしの軽いジュプトルなら、体が埋まる前なら、十分脱出が出来ます。
でも、相手もそれくらいはわかっていたようで、
花陽「“マッドショット”!!」
「ナックラ」
「ジュプトッ…!!」
泥の弾を飛ばしてきて、空中のジュプトルを撃ち落としにかかってくる。
かすみ「ああもう……! せっかく逃げたのに……!」
- 571 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 12:01:00.50 ID:K66c2REr0
-
叩き落されて、すぐに状況はリセット……いや、それどころか、
花陽「“すなあらし”!」
「クラ〜」
──ゴォッと音を立てながら、“すなあらし”が発生する。
かすみ「ぐぅ……!」
「プ、プトル…」
足元が悪いだけでなく、さらに砂がバシバシとぶつかってくる。しかも、視界まで悪くなってきた。
かすみ「これじゃ、遠くからナックラーが狙えないじゃないですかぁ……!」
そんな、かすみんの不満を無視するように、
花陽「“ねっさのだいち”!!」
「ナックラー」
「プトォル…!!!」
かすみ「あち、あちち!? だから、それ熱いんですってば!?」
飛んでくる灼熱の砂。向こうは容赦なく、範囲攻撃で攻めてくる。
かすみ「とにかく、近寄らなきゃ……! もう逃げるのはなし! ジュプトル、“リーフブレード”!!」
「…プトルッ!!!」
砂を蹴って、ジュプトルが前方へ飛ぶ。
足を取られて、動きづらいのは確かですが、この流砂はナックラーを中心にして引き寄せられている。
なら、近接攻撃はその流れに逆らわなければ、確実に相手に届くんです……!
「──プトォルッ!!!」
“すなあらし”の先で、ジュプトルが草の刃を振り下ろす影が見えた。
真っすぐに振りぬかれた攻撃は、ジュプトルの足元にいるであろう、ナックラーらしき影に直撃する。
かすみ「やりました……!」
相性ではこっちが有利……! 直撃さえしてしまえば、こっちのもの……!
だけど──
かすみ「……? ジュプトル……?」
ジュプトルの影が、動かない。
かすみ「な、なに……?」
“すなあらし”の先に、必死で目を凝らすと──
かすみ「……なっ!?」
ジュプトルの草の刃は──
「ナク」
花陽「捕まえたよ……!」
- 572 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 12:01:47.67 ID:K66c2REr0
-
ナックラーの大アゴで完全に受け止められていた。
考えてみれば……悪い視界の中、流砂の流れに従って行けば確実に敵に行きつくのと同様に、相手からしても攻撃してくる方向が簡単にわかってしまう。
かすみ「逆っ!! 逆の刃で、“リーフブレード”!!」
「プ、プトルッ!!!!」
当てさえすればいいんです……! 捕まってるなら、相手だって、動けないはずだもん……!!
だけど、かよ子先輩は、
花陽「“あなをほる”!」
「ナック」
かすみ「んなぁ!?」
「プトル…!?」
ジュプトルもろとも、地面に引き摺りこんできた。
悪い足場の中、どうにか踏ん張りながら、攻撃を仕掛けていたジュプトルはいとも簡単に体勢を崩して、ナックラーの巣穴に頭から突っ込む。
かすみ「やばっ!? 逃げて、ジュプトル、逃げてー!!」
かすみんの言葉も虚しく、頭から砂に埋もれて、下半身だけを外に出してもがいている状態のジュプトルに、脱出の手段など残されておらず、
花陽「“むしくい”!!」
「ナックナクナク」
地中から、好き放題噛みつかれたあと──気絶してしまったのか、もがいていた下半身は動かなくなってしまった。
かすみ「も、戻って、ジュプトル……!」
花陽「ジュプトル、戦闘不能だね」
かすみ「ぐぬぬ……」
パーフェクトは叶わず。……でも、まだまだこっちが優勢ですもん!
かすみ「ジグザグマ!」
「──ザグマァ!!」
ジグザグマを繰り出す、が……。
「ク、クマァ!!?」
ジグザグマは出てきて早々、足を砂に取られる。
かすみ「と、止まっちゃダメ! “しんそく”!」
「ザ、ザグマァ!!!」
足に力を込めて飛び出す。……が、“すなあらし”の邪魔もあってか、思うように速度が出ない。
速度が出なければまた自然と足を取られて──
「グ、グマァ…」
かすみ「ジ、ジグザグマぁ〜!?」
ジグザグマは砂にずぶずぶと沈んでいく。
花陽「ふふ……選出を間違えちゃったみたいだね」
かすみ「ぐぬぬ……! “じたばた”!」
「ザ、ザグマァ!!!」
- 573 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 12:02:33.41 ID:K66c2REr0
-
ジグザグマは手足を“じたばた”暴れさせ、周囲の砂を吹き飛ばしながら、これ以上沈むのを耐える。
花陽「じゃあ、追撃の“すなじごく”」
「ナク」
「グマァ〜〜!?」
抵抗虚しく、ジグザグマはみるみる砂に沈んでいく。
程なくして──ジグザグマの姿は完全に見えなくなってしまった。
かすみ「あ……」
花陽「これで2匹目も戦闘不能だね。ちょっとくらいなら砂に埋まっていても、ボールを投げれば手元に戻してあげられると思うから」
かすみ「…………」
花陽「かすみちゃん、ジグザグマをボールに戻して、次のポケモンを出してもらえるかな?」
かすみ「…………」
花陽「かすみちゃん、悔しいのはわかるけど、早くポケモンの交替を……」
かすみ「………………まだです」
花陽「? まだ……?」
かすみ「……まだ……ジグザグマは戦闘不能じゃ──ありませんよ……!」
次の瞬間──
「ナックッ!!!?」
ナックラーの体が砂の中に引っ張られるように、沈み込んだ。
花陽「えっ!?」
かすみ「かすみんのジグザグマはですね、穴掘りは得意なんですよ! 前に何時間も砂浜で、“ものひろい”をしてたくらいなんですから! 最初っから砂に足を取られてなんかなかったんですよ!」
花陽「……!? じゃあ、ナックラーのさらに下に潜り込んで……!?」
かすみ「相手を捕えたつもりが、逆に捕らえられちゃいましたね! 逃げ場のない砂の中で、爆音を食らわせてやりますよっ!! ──“ハイパーボイス”!!」
「──ザグマアァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!」
地中から砂をぶっ飛ばす大音量で、ジグザグマが“ハイパーボイス”をぶっ放す。
そして、その大量の砂に交じって、
「……クラァ……」
至近距離からの大爆音に卒倒したナックラーが宙をくるくると回転しながら──ボスッと砂のフィールドの上に落ちていった。
花陽「…………ナックラー、戦闘不能。……このジム戦、かすみちゃんの勝利です」
かすみ「……やったー!! ジグザグマ! よく頑張りましたね!」
「ザグマァ♪」
飛びついてきたジグザグマを抱きしめる。
かすみ「あらら……こんなに砂だらけになっちゃって……」
体に付いた砂を払ってあげながら頭を撫でると、
「ザグマァ♪」
ジグザグマをご機嫌な鳴き声をあげるのでした。
- 574 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 12:03:19.25 ID:K66c2REr0
-
花陽「まさか……最後の1匹を見ることなく負けちゃうなんて……」
かすみ「ふふん、どうですか? かすみんの実力は!」
花陽「すっごく強かったよ……! 残りポケモンに差を付けられての負けって、ジム戦でもあんまりないから……びっくりしちゃった」
かすみ「そうでしょうそうでしょう! 今日のかすみんは最強なんですから……!」
花陽「うん、そうだね……! その証として──この“ファームバッジ”を受け取ってください!」
かよ子先輩から、稲穂型のバッジを受け取る。
かすみ「えへへ、ありがとうございます!」
本当は1匹も倒されないくらいの圧勝がしたかったけど……十分快勝だったと言えるレベルでしょう。たぶん。
かすみ「これなら……少しくらい、しず子を守れるって証明も──」
「──かすみさんっ!」
そのとき、声と共に──誰かが私を背中側から抱きしめてきた。
いや、誰かは……声を聞けばわかるんだけど……。
かすみ「し、しず子……!?」
しずく「かすみさん……バトル、すごかったよ……」
かすみ「え、えぇ!? み、見てたの……!?」
しずく「うん……途中からだったけど……」
かすみ「か、体は!? 体はもうなんともないの!?」
しずく「うん……簡易検査で、とりあえず動いても問題ないって言われたから……見に来たんだ」
かすみ「そ、そうだったんだ……」
しず子が後ろからぎゅーっと抱きしめてくる。
かすみ「しず子……苦しい……」
しずく「……ごめん……」
しず子は「ごめん」と謝った割には、全然力を緩めてくれなかった。
かすみ「しず子」
しずく「……なに……?」
かすみ「しず子のことは……かすみんが守るから」
しずく「……うん」
かすみ「だから──」
しずく「一緒に冒険……続けよう」
かすみんが口にする前に──しず子に言われてしまった。
それだけ言うと、しず子はやっとかすみんを解放してくれる。
振り返ると──今の今までかすみんを抱きしめていたはずなのに、今はこっちに背中を向けていた。
- 575 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 12:04:18.99 ID:K66c2REr0
-
かすみ「しず子? なんで、背中向けてるの?」
しずく「えっとね……かすみさんに言わないといけないことがあって……」
かすみ「言わないといけないこと?」
しずく「実は……旅、続けても大丈夫って、言われたんだ」
かすみ「……はい?」
しず子のカミングアウトに変な声が出た。
しずく「簡易検査の結果がすごくよかったみたいで……精密検査とかも大丈夫ってことで、旅を続けてもいいよって」
かすみ「………………」
え、じゃあ、かすみんの頑張りの意味は……?
かすみ「せっかく、かすみん……めちゃくちゃ頑張ったのに……」
しずく「……ふふ♪ でも、今日のかすみさん、すっごくかっこよかったよ♪」
しず子はいたずらっぽく笑いながら、かすみんに向かって振り返る。
しずく「それじゃ、一旦ロッジに戻ろうか」
かすみ「えー? 戻らなくてもよくないー? もう、しず子、特に身体とかに問題ないんでしょ?」
しずく「でも、帰ったら彼方さんの作ってくれるご飯が食べられるよ?」
かすみ「……! た、確かにそれは魅力的……」
しずく「それに、もう一晩くらい泊めて貰ったほうがいいんじゃないかな? かすみさん、お小遣い結構ピンチだし、宿代、浮かせたいでしょ?」
かすみ「……し、仕方ないなぁ……しず子がそう言うなら、戻ってあげますよ〜」
しずく「ふふ、ありがとう、かすみさん♪」
まあ、今日は気分もいいですしね。かすみんのジム戦での活躍でも語りながら、彼方先輩の作った、おいしい晩御飯を頂くとしましょう……!
かすみんは意気揚々とロッジを目指して、ジムを後にするのでした。
しずく「──……ありがとう、かすみさん。……今度は……私が頑張る番だよ……」
💧 💧 💧
──時刻は深夜を回ろうかという時間帯。
かすみさんはジム戦の疲労もあってか、鼻高々にジム戦のことを語りながらご飯を食べたあと、すぐに寝てしまった。
かすみさんが先に就寝し、この場には穂乃果さん、千歌さん、彼方さん、遥さん……そして、私が残っている。
そんな中で私は──
しずく「…………」
三つ指をついて、頭を下げていた。
自分で言うことではないかもしれないが、我ながら美しい姿勢で頭を下げていると思う。
厳しく躾けてくれた両親には感謝しなくてはいけない。
- 576 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 12:05:12.77 ID:K66c2REr0
-
遥「し、しずくさん……あ、頭を上げてください……」
しずく「…………」
彼方「しずくちゃん……えっと……あのね……。彼方ちゃんたちも困っちゃうというか……」
しずく「…………」
結論から言うと──私の簡易検査の結果はあまり芳しいものではなかった。
すぐさま、どうこうと言うほどのものではなかったが……ウルトラビーストが持つ、特有のエネルギーのような毒素が体の中に留まってしまっているらしく、出来る限り専門の医療施設で治療を受けて欲しいと説明を受けた。
……だから、その頼みを断るために、私を診てくれた遥さんの厚意を無下にするために、こうして頭を下げている。
しずく「……私が──私たちが旅を続けることを、許してもらえませんか……」
遥「……ど、どうしよう……お姉ちゃん……」
彼方「う、うーん……」
頭を下げ懇願する私と、困惑する彼方さんと遥さん。それを見かねてか、
穂乃果「……しずくちゃん、一度顔を上げてもらえないかな」
穂乃果さんがそう口にする。
しずく「……許可を頂けるなら」
穂乃果「……ちゃんと顔を見て話したいから、顔を上げて」
しずく「…………」
私は渋々顔を上げる。
穂乃果「……しずくちゃん、自分が何を言ってるか、わかってる?」
しずく「……わかってます」
穂乃果「しずくちゃんはいつ発作が起こってもおかしくないし……ウルトラビーストにまた襲われる可能性も高い……って言うのは、朝説明したとおりなんだけどさ」
遥「……少なくとも、しずくさんを診た人間としては……本部の医療施設に入って欲しいと思っています……」
しずく「……診ていただいたこと、治療していただいたことには感謝しています。……ですが」
私は──
しずく「……私は、かすみさんと一緒に……旅を続けたい」
本当は今日、あの場に観戦をしに行ったのは……検査の結果を受けて、専門の医療施設に入るため……かすみさんにお別れを言うためにジムに赴いていた。
だけど……かすみさんが必死に戦う姿を見て。
私と一緒に旅を続けるために、その力を示すために戦う姿を見て──自然と涙が溢れてきた。
諦めないかすみさんの姿を見て、私も簡単に諦めたくなくなってしまった。
しずく「……無茶を言っていることは承知しています。……ですが、この旅は……かすみさんと、ポケモンたちとする冒険の旅は、この一度きりしかないと思うんです……。……お願いします、私に、私たちに……時間をください」
私はただ懇願して、頭を下げる。
私が頭を下げると、再び場が静まり返る。
沈黙の中、ただひたすらに頭を下げ続けている中──沈黙を破ったのは、
千歌「……じゃあ、こうしよう、しずくちゃん」
- 577 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 12:09:29.95 ID:K66c2REr0
-
千歌さんだった。
彼女は腰のボールベルトからボールを外して、ポケモンを出す。
「──グゥオ」
しずく「ルカリオ……?」
千歌さんのルカリオが私に近付いてきて、手をかざすと──ボォっと青いオーラのようなものが見えた。
千歌「今、しずくちゃんの波導をルカリオに覚えてもらってる」
しずく「波導……?」
千歌「人の持ってるエネルギー……みたいな感じかな? 波導は距離が離れてても、集中してれば、ある程度感知が出来るんだ。だから、こうしてしずくちゃんの波導を覚えさせておけば、もし何か異常があったときに、すぐルカリオが報せてくれる」
しずく「……監視、ということですね」
千歌「うん。もし、しずくちゃんがウルトラビーストと遭遇したり、それこそ発作が起こるようなことがあったら、すぐに飛んで行くから」
──飛んで行く……というのは、私にとってプラスな理由だけではなく……発作が起こるようなことがあったら、今度こそ医療施設に入ってもらう、ということでもあるのだろう。
ただ、今は私の身を慮って言ってくれた提案を蹴って、無茶な要求を聞いてもらっている立場だ。これくらいの条件は付いていて当たり前。
しずく「わかりました」
千歌「穂乃果さん、彼方さん、遥ちゃん。それでいいかな?」
千歌さんが、3人に確認を取る。
遥「……わかりました。ただ、しずくさん、無茶だけはしないでくださいね……」
彼方「みんなが納得してるなら、彼方ちゃんからはこれ以上何か言うつもりはないよ〜……」
穂乃果「……わかった。ただ、しずくちゃんにはいくつか注意して欲しいことがあるんだけど……」
しずく「注意してほしいこと……ですか?」
穂乃果「何かおかしな気配を感じたら、何がなんでも逃げるのを優先すること。異常を感じたら、真っ先に私たちの誰かに連絡をすること。出来るかな」
しずく「は、はい……! もちろんです……!」
私が穂乃果さんの言葉に首を縦に振ると、
穂乃果「うん、ならオッケー!」
先ほどまで神妙な面持ちだった穂乃果さんは、柔らかい雰囲気で笑いながら、許可をしてくれたのでした。
彼方「そうと決まったら、今日は早く寝るんだよ〜? 明日からまた旅が始まるんだから〜」
しずく「は、はい……! そうさせてもらいます……!」
気付けば随分深い時間になりつつある。
明日もかすみさんと、ポケモンたちと共に旅を続けるのであれば、しっかり睡眠を取って明日に備えなければ。
寝室に行くために、リビングを出ていく際、
しずく「……皆さん、私のわがままを聞いてくださって……本当にありがとうございます」
もう一度、深々と頭を下げてから、部屋を後にしたのだった。
- 578 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 12:10:11.39 ID:K66c2REr0
-
💧 💧 💧
かすみ「…………ふぇへへ…………どーれすかー…………かすみん…………むてきの…………トレーナー………………むにゃむにゃ……」
──寝室に入ると、かすみさんが寝言を言っているところだった。
しずく「ふふ……今日のジム戦の夢でも見てるのかな」
思わず、くすくす笑ってしまう。本当に今日のバトルはかすみさんの中でも会心の結果だったんだろう。
……実際、すごくかっこよくて、胸を打たれる戦いだった。
しずく「……ありがとう、かすみさん。これからもよろしくね」
かすみ「………………ふぇ…………? …………しず子ぉ……? …………なんか、言ったぁ…………?」
しずく「なんでもないよ。おやすみって言っただけ」
かすみ「……ん〜……そぅ…………………………すぅ……すぅ…………」
寝言で会話するなんて、かすみさんらしいなと思って、またくすくすと笑ってしまった。
しずく「…………」
これから先、私はどうなってしまうんだろうか。
不安はあるけど……。
かすみ「…………zzz」
かすみさんと一緒なら、きっと大丈夫。
今はそう思うから。
私は今度こそ、明日に備えて、布団に潜るのだった。
- 579 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 12:10:58.41 ID:K66c2REr0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【コメコの森】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回●__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 かすみ
手持ち ジュプトル♂ Lv.29 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.23 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.22 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.22 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:118匹 捕まえた数:6匹
主人公 しずく
手持ち ジメレオン♂ Lv.18 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
マネネ♂ Lv.18 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アオガラス♀ Lv.18 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロゼリア♂ Lv.19 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
キルリア♀ Lv.20 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:127匹 捕まえた数:9匹
かすみと しずくは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 580 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 20:37:43.90 ID:K66c2REr0
-
■Intermission🐏
遥「あの……穂乃果さん」
穂乃果「ん?」
遥「……本当に……行かせてしまっていいんでしょうか……」
彼方「遥ちゃん、もう決めたことだから、これ以上何か言うのはダメだよ〜? 今更、やっぱりダメって言っても、しずくちゃんもかすみちゃんも納得できなくなっちゃうし」
遥「でも……」
彼方「遥ちゃんは優しい子だからね〜……しずくちゃんのことが心配なんだよね。でも、今はしずくちゃんたちのこと……信じてみよう」
遥「……うん」
実際、自分たちの意思に関わらず、自由を縛られるというのが、どれほど大変なことかは、私も遥ちゃんもよくわかっているつもりだ。
しずくちゃんが心配だって気持ちは、もちろん私にもあるけど……彼女の自由を奪いたくないという気持ちもある。そしてそれは遥ちゃんも同じだと思う。だからこそ葛藤しているんだと思うしね。
穂乃果「それに……千歌ちゃんにあそこまでされたら、私も折れるしかないな〜って」
千歌「あはは……まあ、その〜……真っすぐ気持ちぶつけられると……弱くて……」
彼方「……? あそこまでされたらって、どういうこと……?」
穂乃果ちゃんの発言に首を傾げる。
千歌ちゃんにとって、ルカリオでしずくちゃんの波導を管理するのは大変だからなのかな……? くらいに思ったけど、
千歌「んっとね、完全に離れた場所の人の波導を感知し続けるってなると、ルカリオはほぼバトルには使えないんだよね」
大変なんてもんじゃなかった。ルカリオといえば、千歌ちゃんにとって、一番信頼しているエースのはずなのに……。
彼方「じゃあ……千歌ちゃんはエースを手持ちから外してまで……。……まあ、確かにしずくちゃん……すごい頑張ってお願いしてたもんね〜……」
千歌「しずくちゃんだけじゃなくて……かすみちゃんもかな」
彼方「かすみちゃんも?」
千歌「ご飯食べながら今日のジム戦のこと、聞いてたけどさ……私、自分が旅してるときに花陽さんとのジム戦で結構ギリギリの勝利だったんだよね。でも、かすみちゃんはジムリーダー相手に危うげなく勝ってきて……ちゃんと強さを証明して見せた」
彼方「なるほど〜……」
千歌「何かを背負いながらの戦いって、焦っちゃったりして、自分の力が発揮しきれなかったりするけど……かすみちゃんはそんな中でも、ちゃんと結果を見せてくれた。やっぱり、その努力には報いてあげたいなって」
千歌ちゃんなりに彼女たちの努力に報いた結果が、ああいう形だったということらしい。
千歌「それに……私たちにも落ち度はあるし……」
穂乃果「……そうだね。こうならないために、普段から見回って、一般人が接触する前に撃退してきたわけだし……。今回みたいに巻き込んじゃったのは、私たちの落ち度だね……」
そこは彼方ちゃん含めて、反省しなくちゃいけないことかも……。
だからこそ、これが彼女なりの責任の取り方なのかもしれない。
- 581 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/26(土) 20:38:28.56 ID:K66c2REr0
-
穂乃果「……ごめんね、千歌ちゃんだけに責任取らせるみたいになっちゃって……」
千歌「あはは、ダイジョブですよ! その代わり、穂乃果さんにはルカリオの分まで頑張ってもらうつもりなんで!」
穂乃果「ふふ、そういうことなら任せて! ……ところで、空いた手持ちの分は、補充するの?」
千歌「えっと……今、善子ちゃんの研究所にルガルガンを預けてるんですけど、あの子を手持ちに戻そうかなって。……あ、でも健康診断もするから一度ローズに連れてくとか言ってたっけ……。すぐにってわけにはいかないかも……」
一応手持ちの補充の当てはあるみたい。確かネッコアラと入れ替えで外してた子だったかな?
ただ、来るまでは時間が掛かっちゃうみたいだから……その間は、彼方ちゃんも頑張ってフォローしないと……!
フォローをしっかりするためにも……彼方ちゃんもしっかり、睡眠を取って明日に備えなきゃ……!
彼方「じゃあ、私たちも明日に備えて、そろそろ寝ちゃおうか〜」
遥・千歌・穂乃果「「「は〜い」」」
ロッジの夜はこうして、更けていくのでした〜……。
………………
…………
……
🐏
- 582 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 15:45:28.09 ID:4KWPSfBf0
-
■Chapter030 『オハラ研究所』 【SIDE Yu】
──ジム戦を終えて……。
今は船に揺られて移動の真っ最中。
侑「潮風が気持ちいい〜!」
「ブイ〜♪」
歩夢「ゆ、侑ちゃん……! そんなに身を乗り出したら危ないよ……!」
甲板の手すりから身を乗り出して風を感じていると、歩夢が甲板口の方から声を掛けてくる。
侑「平気平気〜! ほら、歩夢もおいでよ!」
歩夢「い、いいよ……船って思ったより揺れるし……」
侑「いいからいいから!」
半ば強引に歩夢の手を引く。
歩夢「きゃ……!」
「…シャボ」
歩夢「だ、大丈夫だよ、サスケ。ちょっとびっくりしただけだから……」
「シャーボ」
侑「ほら! 風……気持ちよくない?」
歩夢「……ほんとだ」
侑「ね!」
セキレイシティには海がないから、船に乗ることなんてまずないし、せっかく経験出来ることは進んでしなくちゃ損だからね!
歩夢は初めて乗る船が思った以上に揺れることにおっかなびっくりだったものの、連れ出してしまえば、気持ちよさそうに風を感じてくれていた。
二人で船旅を満喫していると、間もなく、目指していた島に到着しようとしていた。
侑「もう着いちゃうのかぁ……まだ、もう少し乗ってたかったなぁ」
歩夢「あはは……島自体は最初から見えてたもんね」
すぐそこに迫った目的地は、近くで見ると思ったよりも大きく存在感を放っている。
侑「ここが……アワシマ……! オハラ研究所のある場所……!」
「ブイ」
リナ『アワシマ……ちょっと懐かしい』 || > ◡ < ||
歩夢「リナちゃんは、あの島に行ったことがあるの?」
リナ『うん! 私のボディはあそこの研究所で作ってもらったんだよ!』 ||,,> ◡ <,,||
侑「へー! そうだったんだ!」
歩夢「それじゃあ、リナちゃんにとっては里帰りなんだね」
リナ『そんな感じかも!』 ||,,> ◡ <,,||
リナちゃんを作った場所っていうのも気になるし……本当に楽しみになってきた……!
今の今まで、船での移動が終わるのを名残惜しんでいたのに、気付けば気持ちは研究所を見られることに移り変わっていた。
一体、どんな場所なんだろう……! オハラ研究所……!
- 583 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 15:46:05.45 ID:4KWPSfBf0
-
🎹 🎹 🎹
──島に降り立ち、船着き場から歩くこと数分。
侑「……わぁ……!」
研究所が見えてきて、思わず声をあげてしまう。
侑「見て、歩夢! 研究所だよ!」
歩夢「ふふ、そうだね♪」
侑「小さな島にぽつりと佇む施設……! THE研究所って感じがするよね……! はぁー……なんかときめいてきちゃった……!!」
「ブイ」
リナ『外観を見ただけでここまでテンション上がるの……ある意味すごいかも』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「侑ちゃん、ポケモンに関する施設は大好きだもんね」
侑「うん! その中でも、ポケモン研究所って言ったら、いろんなポケモントレーナーが最初のポケモンを貰う場所なわけだし……! それこそ、千歌さんはここで最初のポケモンを貰ったトレーナーだし、曜さんやルビィさん、ヨハネ博士もここから旅に出たんだよ! そう考えたらすごいよ……! 今のチャンピオンやジムリーダーたちの歴史が始まった場所なんて言われたら、そりゃテンション上がるに決まってるじゃん……!!」
リナ『侑さん、楽しそう』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「ふふ、そうだね。それじゃ、ここで話してても仕方ないし……早く入ろっか」
歩夢にそう促されたけど、
侑「ま、待って……! 一度、深呼吸させて……!」
いざ、そんな場に立ち入ろうと思ったら、急に緊張してきた……。
リナ『大袈裟すぎる……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「あはは……」
大きく息を吸って、吐いて……。
侑「よし……!」
歩夢「大丈夫?」
侑「うん! い、行こう……!」
リナ『侑さん、手と足が一緒に出てる……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「あはは……大丈夫かな……」
「ブイ…」
🎹 🎹 🎹
──研究所の中に入ると、
「ピカチュ?」「ハニ〜?」
可愛らしく小首を傾げる、ピカチュウとミツハニーに出迎えられた。
- 584 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 15:46:50.27 ID:4KWPSfBf0
-
歩夢「わ、可愛い♪ こんにちは♪」
「ピカピカ〜♪」「ハニ〜♪」
このピカチュウたちは、研究所内で放し飼いにされているようだ。
そして、そんなポケモンはピカチュウやミツハニーだけでなく……。
「カラ」「…ラル」
カラカラやラルトスのようなポケモンたちの姿も見える。
そんな放されているポケモンたちの中でも、一際私の目を引いたのは、
「ブイ」「ブイ〜?」「イブイッ!!」
侑「わ〜! イーブイがこんなにいっぱい……!」
「ブイ…!!」
イーブイたちの姿。
イーブイはあまり数の多くない珍しいポケモンだから、これだけ集まっているところを見たのは初めてかもしれない。
歩夢「侑ちゃんのイーブイも、同じイーブイがいっぱいいるから興味があるみたいだね」
侑「同じイーブイ同士、仲良くなれるんじゃないかな? どう?」
「ブイ…」
肩に乗っているイーブイに訊ねてみるけど、当のイーブイは興味こそあれど、あまり気が進まないというか……私の頭を盾にして隠れてしまった。
侑「うーん……やっぱ初対面相手だと“おくびょう”な子だったことを思い出すね……」
私たちには随分と慣れてきたから忘れていたけど、人見知り──いやこの場合、ポケ見知り……?──する子なんだった。
歩夢「ふふ、帰るまでに仲良くなれるといいね♪」
侑「そうだね」
「ブイ…」
じゃれているイーブイたちのさらに奥には、これまた珍しいポケモンがいた。
「ポリ」
侑「わ……! あれって、もしかしてポリゴン!?」
歩夢「確か……珍しいポケモンだよね?」
侑「うん! すっごく珍しいポケモンだよ! 私こんな近くで見るの初めてだよ……!」
リナ『ここでは、あのポリゴンが来客番をしてるんだよ。だから、もうすぐ迎えの人が来ると思う』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「そんなところまでポケモンがやってくれてるんだ!? さすが、ポケモン研究所……!」
ヨハネ博士の研究所でも思ったけど、研究所では珍しいポケモンをたくさん見ることが出来て本当に楽しい……!
次は何が見られるかなと、ワクワクしていると──奥の扉が開く。
使用人「──お待ちしておりました。侑さんと歩夢さんですね」
扉からは、恭しい言葉遣いと共にメイド服に身を包んだ人が姿を見せる。
- 585 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 15:47:34.74 ID:4KWPSfBf0
-
侑「今度はメイドさん!? 歩夢! 私本物のメイドさん初めて見たよ!?」
歩夢「う、うん……私もメイドさんを見たのは初めてだけど……これは研究所だからなのかな……?」
リナ『この研究所の職員は、みんな博士に仕えてるメイドさんなんだよ』 || > ◡ < ||
歩夢「それはそれですごいかも……」
使用人「奥で博士がお待ちです。ご案内します」
侑「はい! よろしくお願いします!」
背筋をピンと伸ばしたメイドさんに案内されて、私たちはついに、この研究所の博士のいるところまで案内してもらいます……!
リナ『そういえば、歩夢さん。なんだか、落ち着いてるけど……あんまりこういう場所好きじゃないの?』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「うぅん、そんなことはないよ? むしろ、いろんなポケモンが見られるのは楽しいかな。けど……」
リナ『けど?』 || ? ᇫ ? ||
侑「はぁ……ポケモン研究所……最高……♪」
歩夢「侑ちゃんがあれだけテンション高いと、逆に落ち着いちゃって……」
リナ『……なるほど』 ||;◐ ◡ ◐ ||
🎹 🎹 🎹
──メイドさんに連れられて、研究所内の奥の方までやってきた。
使用人「博士、失礼します。お二人とも、どうぞ中へ」
言われるがままに部屋の中に入ると──
鞠莉「あなたたちが侑と歩夢ね? ようこそ、オハラ研究所へ。私がここの所長の鞠莉よ。待っていたわ」
鞠莉博士に出迎えられる。
侑「……!! ほ、本物の鞠莉博士……!」
鞠莉「あら〜、わたしのこと知ってくれていたのね?」
侑「も、も、もちろんです……!! あ、あ、あの……!!」
鞠莉「ん〜?」
侑「さ、サイン……!! サイン貰ってもいいですか……!?」
バッとサイン色紙を差し出す。
鞠莉「あらあら♪ わたしのサインなんかでよかったら、いくらでも書いちゃうわよ〜♪」
鞠莉博士は、わたしのサイン色紙を受け取ると、慣れた手付きでサラサラとサインを書いていく。
鞠莉「はい、どうぞ♪」
侑「わぁ……! 鞠莉博士の直筆サイン……!! か、感激です……!!」
思わず感動してしまう。
今日はダイヤさんやルビィさんからもサインを貰っちゃったし……最高の日だ。
- 586 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 15:48:14.45 ID:4KWPSfBf0
-
リナ『侑さんって、そんなに博士が好きだったの? 知らなかった』 || ? ᇫ ? ||
歩夢「う、うん……私も……。侑ちゃんってトレーナーが好きなんだと思ってたけど……」
侑「何言ってるの二人とも!?」
歩夢「!? え、えーっと……」
思わず、歩夢たちに詰め寄ってしまう。
侑「鞠莉博士と言えば、9年前のポケモンリーグでトリプル、ローテーション、シューターの3部門で優勝してる超凄腕トレーナーでもあるんだよ!?」
歩夢「そ、そうなの……?」
リナ『うん。確かに鞠莉博士はポケモンリーグでも結果を残してる。最近の大会では、出場自体してないけど……』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんが補足するように解説してくれる。
さすがに10年近く前の大会のことだったから、歩夢は知らなかったみたいだけど……。
そんな中、鞠莉博士は私たちの会話内容よりも──
鞠莉「あら……? もしかして、あなた……リナ?」
リナちゃんに反応を示した。
リナ『うん! 博士、久しぶり!』 ||,,> ◡ <,,||
鞠莉「え、ええ、久しぶりなのはいいんだけど……。どうして、侑たちと一緒に……?」
リナ『……? 博士が侑さんに私を渡したんじゃないの?』 || ? ᇫ ? ||
侑「え……? 私はヨハネ博士からリナちゃんを渡されたんだけど……」
リナ『?? どういうこと??』 || ? ᇫ ? ||
侑「……?」
私もどういうことって感じだけど……?
鞠莉「……ははぁーん……そういうことね……。……あの堕天使……」
ただ、鞠莉さんは一人納得した様子。
鞠莉「リナ。侑とはうまくやれているかしら?」
リナ『うん! 侑さんとの旅はいろんな発見があって楽しい!』 ||,,> ◡ <,,||
侑「私も、リナちゃんにはいっつも助けられてるよ!」
リナ『それなら嬉しい! リナちゃんボード「にっこりん♪」』 ||,,> ◡ <,,||
鞠莉「そっか。リナが順調に経験を積めているならいいの。侑、これからもリナのこと、よろしくね」
侑「は、はい!」
……なにか、ちょっとした手違いがあったのかな?
話が食い違っている部分があるけど……まあ、よろしくって言われたし、大丈夫ってことだよね?
- 587 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 15:48:52.44 ID:4KWPSfBf0
-
鞠莉「それよりも、あなたたち。ダイヤ、ルビィとマルチバトルして勝ったって聞いたわ!」
侑「は、はい! 先ほど、ジムで戦わせてもらって……」
歩夢「侑ちゃんと一緒だったから、勝てました……えへへ」
鞠莉「大したものだわ……特に歩夢。あなたのことは、ダイヤもすごく褒めていたわ」
歩夢「え? わ、私ですか……?」
鞠莉「ええ。ポケモンをよく見ていて、心から寄り添える素敵なトレーナーだって」
歩夢「そ、そうですか……///」
鞠莉さんから、ダイヤさんの称賛の言葉を貰って、歩夢が恥ずかしそうに頬を染める。
侑「ふふ、よかったね。歩夢」
歩夢「う、うん……///」
歩夢は褒められたことが純粋に嬉しいのか、顔を赤くしながらも笑っていた。
私も自慢の幼馴染が褒められて、なんだか嬉しい気持ちになってくる。
鞠莉「あと、侑のことも褒めていたわ」
侑「え? 私のことも……?」
鞠莉「あなたは歩夢とは逆に、トレーナーをよく見てるって」
侑「トレーナーのこと……?」
鞠莉「トレーナー個々の癖や戦術、やろうとしてることを見抜く力に長けているって評価していたわ。相手に対する下調べもしっかりしていて、なかなか出来ることじゃないって」
侑「そ、そんな……/// ただ、ダイヤさんやルビィさんの試合はたまたま見たことがあったってだけで……///」
歩夢「ふふっ、侑ちゃん顔赤いよ♪」
侑「あ、歩夢だって、さっき顔真っ赤だったじゃん……っ!///」
褒められ慣れてないというのもあるけど……まさか、現役の四天王にこうして褒められるなんて思ってもいなかったから、すごく顔が熱かった。
でも……嬉しいな。
こうして褒められると、俄然やる気が湧いてくる。
侑「……もっともっと、強くなろうね、歩夢……!」
歩夢「うん、そうだね……えへへ」
鞠莉「なんだか、初々しくて、昔のこと思い出しちゃうわね……」
リナ『昔のことって?』 || ╹ᇫ╹ ||
鞠莉「もちろん、チカッチたちを送り出したときのことよ。あの子たちは6人とも……最初のポケモンを渡すときから大変だったんだから」
侑「……! そ、その話もっと詳しく聞きたいです!」
チャンピオンの千歌さんと、その同期の人たちが最初の3匹を選ぶときの話なんて、めちゃくちゃ興味があるし、聞いてみたい……!
鞠莉「あらそう? それじゃあ、どこから話そうかしら……。そうね、それじゃ一番最初にポケモンを持って行っちゃった子のことから話そうかしら──」
侑「はい!」
私はわくわくしながら、鞠莉さんの思い出話に耳を傾ける──
- 588 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 15:49:36.97 ID:4KWPSfBf0
-
🎹 🎹 🎹
鞠莉「──……そして、ルビィはアチャモを、花丸はナエトルを連れていくことになったってわけね」
侑「……花丸さんも、ここの研究所で最初の3匹を選んだ1人だったんですね……」
鞠莉「あら、花丸のこと知ってるの?」
侑「はい! ダリアで……えーっと、たまたま会っただけなんですけど……」
途中まで言いかけて、ダリアのジムリーダーのことは、あまり詳しく言っちゃいけなかったことを思い出して、適当に言葉をぼかす。
鞠莉「あら、そうだったのね。ダリアで大学に入ったあと、そのまま向こうの研究室に入ったみたいなのよね。連絡はちょくちょくくれるんだけど……今は何をやってるのかしらねぇ」
どうやら、鞠莉さんは花丸さんがジムリーダーをしていることを知らなさそうだ。セーフ、言わなくてよかった……。
それにしても、千歌さんたちの旅立ちの話は、興味深い話だった。
千歌さん、曜さん、ヨハネ博士、ルビィさん、花丸さんと……今でも一線級で活躍している人ばっかりだし……。
あ、でも……梨子さんって人のことはあんまり知らないかも……。
歩夢「あ、あの……」
鞠莉「ん〜? なにかしら?」
歩夢「もしかして、梨子さんって……今カントーで活躍してる芸術家の梨子さんですか……?」
鞠莉「Oh! That's right! その通りよ!」
侑「歩夢、知ってるの……?」
歩夢「うん! 梨子さんは絵を描いたり、作曲も手掛けてて……『星』って作品群がすっごく有名なの。ある地方を旅したときに見た輝きを表現したってインタビューで言ってたんだけど……それって」
鞠莉「……ふふ、そうね。きっとこの地方での旅のことよ」
歩夢「やっぱり……!」
歩夢は目をキラキラさせながら言う。
芸術家か……そこまで把握しきれてなかった……。
侑「私も見てみたい……」
歩夢「ふふ、今度家に帰ったら、梨子さんの出した本とCDがあるから、一緒に鑑賞しよっか♪」
侑「うん!」
鞠莉「あと梨子は、バトルも優秀な子だったわよ。ジムバッジも8つ全て集めていたし、千歌のライバルだったからね〜」
侑「そうなんですか!? ど、どんなトレーナーだったんですか……!?」
鞠莉「そうねぇ……最初はさっき言ったとおり、ちょっと困った子だったんだけど──」
鞠莉さんが梨子さんの話をし始めた、そのとき、
「──鞠莉〜? いる〜?」
鞠莉さんの研究室に知らない人が入ってきた。
深い海のような髪をポニーテールに縛っているお姉さん。
果南「あ、ごめん……来客中だったんだ」
鞠莉「あら、果南……っと……もうこんな時間だったのね。思ったより話し込んじゃったわね」
どうやらこの人は果南さんと言うらしい。
- 589 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 15:50:29.40 ID:4KWPSfBf0
-
果南「今タイミング悪いなら、後にするけど……ん?」
鞠莉さんとやり取りをしていた果南さんの視線は──ふよふよと浮かぶリナちゃんに留まる。
果南「あれ!? もしかして、リナちゃん!?」
リナ『うん! 果南さん、久しぶり!』 ||,,> ◡ <,,||
果南「どうしてリナちゃんがここに……!?」
鞠莉「いろいろあってね。今はそこにいる侑がリナと一緒に旅してるのよ」
侑「わ、私が侑です」
鞠莉さんから紹介を受けて、頭を下げて挨拶する。
果南「私は果南、よろしくね。そっちの子は?」
歩夢「私は歩夢って言います」
果南「歩夢ちゃんだね。よろしく」
鞠莉「この子たちは、善子のところから最初のポケモンと図鑑を貰って旅に出た子たちなのよ」
果南「へー。ってことは、かすみちゃんやしずくちゃんと一緒に旅に出た子たちってこと?」
鞠莉「そうなるわね」
そういえば、かすみちゃんたちもこの島に来たって話を、ホシゾラで聞いたっけ。
歩夢「あ、あの……果南さんは、鞠莉さんに何か用事があったんじゃ……」
果南「……っと、そうだった。……ただの定例報告みたいなもんなんだから、後でもいいんだけど……」
歩夢「い、いえ……! お仕事の邪魔をするわけにはいかないので……! ね、侑ちゃん」
侑「う、うん」
正直もっと鞠莉さんの話は聞きたいけど……確かに仕事の邪魔をするのは忍びない。
歩夢に手を引かれて、部屋を後にしようとするけど……名残惜しいというのが顔に書かれていたのか、
鞠莉「うーん、それじゃあ……侑たちがイヤじゃなかったら、今日はここに泊まっていったらどうかしら?」
と、鞠莉さんが提案してくれる。
侑「い、いいんですか!?」
鞠莉「ええ。だから、仕事が片付いたら、またお話ししましょ?」
侑「は、はい! 是非!」
鞠莉「それまでは、研究所の中を好きに見て回っていていいから。何かあったら、そこらへんにいる所員に聞いてくれれば対応するわ」
歩夢「ありがとうございます。侑ちゃん、リナちゃん、行こっか」
侑「うん」
リナ『お仕事頑張ってね。リナちゃんボード「ファイト、おー!」』 || > ◡ < ||
歩夢とリナちゃんと一緒に、私たちは一旦、博士の研究室を後にした。
- 590 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 15:51:24.59 ID:4KWPSfBf0
-
🎹 🎹 🎹
──あの後、研究所内をくまなく見て回って……鞠莉博士の仕事が片付いたあと、ここから旅立って行ったトレーナーたちの話をたっぷり聞かせてもらった。
ついでに夕食も頂き──メイドさんが作ってくれた絶品料理に舌鼓を打った──その後、お湯を頂き、今は所内にある客用寝室のベッドの上に寝転んでいる。
侑「いたれりつくせりだぁ……幸せぇ……♪」
「ブイ〜…」
歩夢「ご飯、すっごくおいしかったね。ホテルのご飯みたいで、ポケモンたちも大喜びだったし」
「シャーボ♪」
侑「大浴場まであるなんて、本当にホテルだよぉ……」
歩夢「侑ちゃん、風邪引いちゃうから、先に髪乾かさないとダメだよ? イーブイはこっちおいで♪ 毛繕いしようねー♪」
「ブイ♪」
侑「えー……イーブイばっかりずるいー……私にもブラッシングしてー……」
歩夢「ダーメ、ポケモンたちが先だよ」
侑「うー……わかったよー……」
私はもそもそと立ち上がって、ドライヤーをバッグから取り出して、髪を乾かし始める。
リナ『侑さんが見たことないくらい、だらけきってる……』 ||;◐ ◡ ◐ ||
侑「あまりに尽くされすぎて……ずっとここにいると、ダメ人間になりそう……」
歩夢「もう……侑ちゃんったら……。でも、本当にすごいね、この研究所……。所員……というかメイドさんもすごい数いるし、ご飯もお風呂も本当にホテルみたい……」
リナ『みたいというか、もともとホテルなんだよ』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「そうなの?」
リナ『博士のお祖父さんが経営してたホテルなんだけど、お父さんに代替わりしたときに研究所に改装したんだって』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「どうりで……あの大浴場ホントにすごかったもんなぁ」
歩夢「ホテルは辞めちゃったの?」
リナ『うぅん。海外とかでは今でもグループ展開で経営してるみたいだよ。鞠莉さんが博士になったときにお父さんとお母さんはそっちに集中するために、研究職は辞めたらしいけど』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「じゃあ、あのメイドさんって……元従業員?」
リナ『従業員というよりは、鞠莉さんの使用人かな。信頼出来るメイドさんを残して研究所で働いてもらってるみたい』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「へー……じゃあ、本物のメイドさんなんだね」
歩夢「本物のメイドさんにお世話される生活って、なんか想像出来ないかも……」
侑「確かに……今日の今日まで本物のメイドさんなんて見たことなかったし……」
庶民の私たちとは住む世界が根本的に違うのかも……。
「イッブィ…♪」
歩夢「……んー? ここ気持ちいいんだねー?」
そんな会話をしながらも、せっせとイーブイの毛繕いをしてあげている歩夢。
この甲斐甲斐しさなら、メイドとしてもやっていけるんじゃないかな……? なんて思ってしまう。
歩夢「? どうしたの? じーっとこっち見て……?」
侑「いや、イーブイ気持ちよさそうだなって」
歩夢「ふふ、イーブイ毛繕い好きだもんね〜?」
「ブイ♪」
歩夢「たまには侑ちゃんもしてみる?」
- 591 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 15:52:28.89 ID:4KWPSfBf0
-
そう言いながら、歩夢がイーブイを抱きかかえて私のもとに運ぼうとすると、
「ブイィ…」
イーブイはイヤイヤと首を振る。
歩夢「あ、あれ……?」
侑「歩夢の毛繕いがいいんだってー……」
全く、本当にどっちが“おや”なんだか……。
歩夢「じゃあ、もう少し……」
再び歩夢がブラシを握ると、
「タマァ…」
歩夢「きゃ!? ど、どうしたの、タマザラシ?」
タマザラシが歩夢の腰辺りに身を摺り寄せていた。
侑「タマザラシも毛繕いしてほしいんじゃない?」
歩夢「えっと……今はイーブイにしてあげてるから」
「タマァ…」
歩夢「ど、どうしよう……侑ちゃん……」
歩夢、相変わらずポケモンに大人気……。
侑「ほら、イーブイ。こっちおいで。もう十分してもらったでしょ?」
「ブイ…」
侑「タマザラシと交替。歩夢のこと困らせたくないでしょ?」
「…ブイ」
説得すると、イーブイは歩夢の膝から降り、私の隣まで来て腰を下ろす。
よしよし、こういうときにわがまま言わずに言うこと聞くなら、まだ“おや”としての威厳が保てている。……はず。
歩夢「それじゃ、タマザラシ、おいでー」
「タマァ♪」
侑「タマザラシ、随分甘えん坊なんだね」
歩夢「群れからはぐれちゃった子だからってのはあるのかも……ラビフットやマホイップに比べると……」
確かにラビフットやマホイップはワシボンと一緒に遊んでいるし、あそこまで歩夢に甘えるって感じではないかもしれない。
ちなみに、ライボルトとサスケはすでに寝ている──ライボルトに関しては目を瞑っているだけかもしれないけど。
あともう1匹──ニャスパーは、
「ニャァ…」
リナ『ずっと視線を感じてる』 || ╹ _ ╹ ||
侑「やっぱり、リナちゃんが気になるみたいだね、ニャスパー」
何故か、リナちゃんを目で追いかけていることが多い。
- 592 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 15:53:01.95 ID:4KWPSfBf0
-
歩夢「やっぱり、動くものが気になるのかな……?」
リナ『確かにネコポケモンは動く物体を追いかける習性がある。ここまで興味を持ち続けるのは珍しい気がするけど』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「ふーん……。……ねぇ、ニャスパー」
「ニャァ?」
侑「もしかして、リナちゃんのこと好きなの?」
リナ『私、好かれてる? リナちゃんボード「テレテレ」』 ||,,╹ᨓ╹,,||
「ニャァ」
侑「……ダメだ、全然わからない」
鳴いて相槌こそ打つものの、無表情すぎる。
侑「この子の“おや”だったら、わかるのかなぁ……?」
歩夢「早く、見つかるといいんだけどね……」
侑「そうだねぇ……」
まあ、今のところ手掛かりもない状態だからなぁ……。
すっかり髪も乾かし終わり、再びベッドに身を投げ出すと──
侑「……ふぁぁ」
あくびが出る。
侑「眠くなってきた……」
歩夢「ふふ。今日は朝からジム戦もしたから、そろそろ休もうか」
侑「そうだね……」
もぞもぞと動きなら、布団を被ると──
「…ブイ」
イーブイが私のベッドを抜け出して、歩夢のいるベッドにぴょんと飛び移る。
歩夢「イーブイ、私と一緒に寝る?」
「ブイ♪」
「タマァ…」
歩夢「タマザラシも一緒に寝ようね〜」
「タマァ…♪」
侑「……」
リナ『侑さん、ドンマイ』 ||;◐ ◡ ◐ ||
全く……ホントに誰が“おや”なんだか……。
イーブイの歩夢ラブなところに内心呆れながらも、私は目を瞑る。
歩夢の言ったとおり、今日は朝からジム戦もあったし、疲れからか睡魔はすぐに訪れた。
おやすみなさい……また、明日も頑張ろう……。
- 593 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 15:53:33.78 ID:4KWPSfBf0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【オハラ研究所】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ ●‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.35 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.30 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.31 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.25 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:99匹 捕まえた数:4匹
主人公 歩夢
手持ち ラビフット♂ Lv.32 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.26 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.26 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
タマザラシ♀ Lv.20 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
バッジ 1個 図鑑 見つけた数:126匹 捕まえた数:14匹
侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 594 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 20:22:35.94 ID:4KWPSfBf0
-
■Intermission✨
──時刻は深夜を回り……みんなが寝静まった時間。
果南「……」
鞠莉「……さて、そろそろかしら」
果南と一緒に研究室で待ち続けていると──扉が開く。
鞠莉「ご苦労様、ポリゴン」
「ポリ」
ポリゴンZは私からのお礼を受けると、恭しく頭を下げた後、持ち場へと戻っていく。
果南「……ホントにポリゴンZとは思えない律義さだ……」
鞠莉「まあ、ポリゴンZというか、ポリゴンZじゃないというか……」
まあ、それはいい……。目的はポリゴンZの観察じゃなくて──
リナ『博士、話ってなぁに?』 || ╹ᇫ╹ ||
そのポリゴンZが連れて来てくれた、リナと話すことだ。
リナ『部屋にいたら、急にポリゴンから通信が入ってびっくりした』 || ╹ᇫ╹ ||
鞠莉「とりあえず、こっちにいらっしゃい」
リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||
ふよふよと浮かぶリナを室内に迎える。
鞠莉「こうして3人で話すのも久しぶりかしらね……」
果南「もう……1年振りくらいかな?」
リナ『図鑑ボディに入ってから果南さんとは話してないし……それくらいになるかも』 || ╹ _ ╹ ||
鞠莉「組み込むのに結構手間取ったものねー……」
リナ『でもお陰で今はこんなに自由に喋れるし、動き回れる。ありがとう、博士』 ||,,> 𝅎 <,,||
鞠莉「どういたしまして。……それで、本題なんだけど……何か、変化はあった?」
リナ『……全然』 || ╹ _ ╹ ||
鞠莉「……まあ、そうよね」
リナ『どうすれば、他の部分にアクセス出来るかの見当もついてない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
鞠莉「何か外部刺激を受ければ変化があるかと思ったけど……やっぱり領域が連結されてないと、うまく読み込めないと考えるべきなのかしらね……」
まあ……ここまでは予想の範疇だ。……となると、打開策は──視線は果南へと移る。
果南「期待の視線を向けられてる中、申し訳ないけど、こっちも難航中だよ」
鞠莉「そうよね……わたしの方も全然手掛かりなし……」
果南「……そういえば……クロサワの入り江の裂け目って今どうなってるの? 何かの間違えで復活してたりとかしない?」
鞠莉「ずっと豆粒みたいなサイズだったけど、この間完全に閉じちゃったわ……何か変化があったら教えて欲しいとはルビィに言ってあるんだけど……」
- 595 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/27(日) 20:23:32.63 ID:4KWPSfBf0
-
わたしも果南もリナも……それぞれの進捗は芳しくないと言ったところのようだ……。
とはいえ、
鞠莉「手掛かりなしのまま足踏みしてるわけにもいかない……とは思ってる」
果南「……まあ、やっぱり気になるしね」
鞠莉「大した理由がないならそれでもいいけど……わたしにはどうしても、もっと何か大切な意味があるって気がするから……」
あの日、リナと出会ったときのことを思い出す。
最初はたった9文字の信号でしかなかった──『・・・−−−・・・』。
あくまで直感でしかないと言われれば、それまでかもしれない。でも……それでも……わたしはこの信号にただならぬ何かを感じた。
少なくとも──意思を持った存在から送られた信号であったことには間違いなかったからだ。
リナ『そういえば、博士』 || ╹ᇫ╹ ||
鞠莉「なにかしら?」
リナ『私……侑さんと旅する予定じゃなかったの?』 || ╹ᇫ╹ ||
鞠莉「ああ、そのこと……。……ええ、本来は千歌か善子と一緒に行動してもらうつもりだったわ。何かの手違いというか……善子が一度もあなたを起動もせずに、侑に渡しちゃったのは予想外だったけど」
リナ『そうなんだ……今からでも、千歌さんか善子さんの場所に行った方がいい……?』 || 𝅝• _ • ||
鞠莉「……いいえ、侑の傍にいてくれればいいわ。リナも侑のこと、気に入ってるんでしょう?」
リナ『うん……! 侑さん優しいし、一緒にいるといろんな経験が出来て楽しい……!』 ||,,> ◡ <,,||
鞠莉「なら、それでいい。侑のこと、サポートしてあげて」
リナ『わかった!』 ||,,> ◡ <,,||
……それに、今は何やらキナ臭いことが起こっているという噂も耳にしている。
実力者への襲撃……。リナの存在が……もし、この襲撃に関与しているのだとしたら、千歌や善子みたいな、名前が知れ渡っている人間の傍に置いておくよりも、侑の傍の方が安全かもしれないし……。
鞠莉「……何より、リナが居たい場所に居られる方がいいものね」
果南「……ふふ。……かもね」
私が漏らした小さな呟きに果南が小さく笑うのだった──
………………
…………
……
✨
- 596 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2022/11/27(日) 21:14:19.75 ID:EePErrFco
- 『ポケモンSV大戦会 vs視聴者』
(22:00〜開始)
https://youtube.com/watch?v=Q1b22FkS5P0
- 597 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:12:58.32 ID:9EuEq8f90
-
■Chapter031 『悠揚の町・ウラノホシタウン』 【SIDE Yu】
侑・歩夢「「──お世話になりました」」
──翌日、私たちは鞠莉博士に見送られる形で、オハラ研究所を後にするところだった。
侑「興味深いお話、たくさん聞かせてくれてありがとうございます!」
鞠莉「また、いつでも遊びに来て頂戴ね」
歩夢「はい!」
鞠莉「それと侑。リナのこと、よろしくね」
侑「はい!」
リナ『博士、行ってきます!』 ||,,> ◡ <,,||
鞠莉「侑、歩夢、リナ──Good luck! 良い旅を」
博士が手を振りながら、私たちを送り出してくれる。
侑「それじゃ、行こうか……!」
「ブイ」
歩夢「うん」
リナ『リナちゃんボード「レッツゴー!」』 ||,,> ◡ <,,||
🎹 🎹 🎹
──アワシマから船に揺られること、数十分。
侑「やっぱいいなぁ、船旅……! 気に入っちゃったよ♪」
「ブイ」
苦手な人は苦手らしいけど、風が気持ちいいし、この独特の揺れも非日常感がして、私は嫌いじゃない。
歩夢「ふふ、今回は乗船時間が長くてよかったね、侑ちゃん」
侑「うん!」
ご機嫌な船旅で私たちが目指す先は──ウラノホシタウンだ。
本数は少ないものの、アワシマからウラノホシの南端の港を行き来する船があって、今はそれでウラノホシタウンへと移動中ということだ。
船着き場からすでに島が見えているウチウラシティとは違って、ウラノホシタウンの港は岬を迂回するため、少し時間が掛かる。
私としては、お陰で船旅が満喫出来て嬉しい。
歩夢「あ、見て侑ちゃん! あそこ……入江の洞窟になってるよ!」
侑「え、ホント?」
今まさに、迂回しようとしている岬の下には──歩夢の言うとおり、洞窟の口がぽっかりと口を開けていた。
侑「うわぁ〜! すっごい! こんなの写真でしか見たことなかったよ!」
歩夢「うん!」
- 598 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:13:47.75 ID:9EuEq8f90
-
実際に目の当たりにすると、小舟くらいだったら飲み込んでしまいそうな大きさの洞窟が海にせり出してきている様子は圧巻だった。
そんな自然の作り出す光景を目の当たりにして、歩夢と二人で興奮してしまう。
リナ『あそこはクロサワの入江だよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「クロサワ? ってことは……」
リナ『うん、ルビィさんやダイヤさんの一族が管理してる場所なんだよ。入江の洞窟内は、メレシーってポケモンがキラキラ輝いてて、オトノキ地方に3つある、夜の虹の1つって言われてる』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「あ、オトノキの3つの夜の虹って、聞いたことあるよ! 大樹・音ノ木、クロサワの入江、クリスタルケイヴのことだよね」
リナ『歩夢さん、大正解! リナちゃんボード「ぴんぽーん!」』 ||,,> ◡ <,,||
侑「夜の虹……! なんかもう響きだけで、ときめいてきちゃう! 私、見に行きたい!」
リナ『残念だけど、今は一般開放はされてない……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「え、そうなの……?」
歩夢「3年前のグレイブ団事変のときに、戦いの場になったらしくって……それ以来は、調査以外では立ち入り出来ないんだったよね」
リナ『うん。洞窟内部もかなり崩れちゃったところもあるらしいし……関係者じゃないと中に入るのは難しい』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「そっかぁ……」
せっかく名所の近くに来たのに、見られないのは残念……。でもまあ、入れないなら仕方ないか……。
侑「じゃあせめて、ウラノホシタウンは満喫するぞー!」
リナ『ウラノホシは温泉旅館が有名だから、のんびり過ごせると思うよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「ウラノホシの旅館はご飯もおいしいって話だよ」
侑「おいしいご飯……今から楽しみ……!」
なんだかここ数日、おいしいものを食べてばっかりな気はするけど……でも、各地のおいしいご飯も旅の醍醐味だよね……!
歩夢「ポケモン用のご飯を作ってくれる場所も多いみたいだから、着いたらみんなで食べようね♪」
「シャボ♪」「ブイブイ♪」
ポケモンたちもご機嫌な様子。
私たちはわくわくしながら──船は間もなく、ウラノホシの南の港へと到着します……!
🎀 🎀 🎀
──港で船から降り、船着き場を抜けると……すぐに緑の溢れる景色が見えてきた。
歩夢「自然豊かな町なんだよね、ウラノホシは」
リナ『うん。木々と海に囲まれた町で、すごく穏やかなところだと思う。悠揚の町なんて呼ばれ方をすることもあるよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「悠揚の町……本当にゆっくり過ごせそうだね」
リナ『そうだね。温泉旅館も多いから、ここに来る人の大半はのんびりとした休暇を取りに訪れることが多いみたい』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「最近、バトルも多かったから……ポケモンたちと一緒に今日くらいはゆっくりしたいなぁ。侑ちゃんはどうする?」
侑「……」
歩夢「……侑ちゃん?」
侑ちゃんの方を見ると──何故か、侑ちゃんがぷるぷると震えている。
- 599 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:14:53.31 ID:9EuEq8f90
-
侑「……こ」
歩夢「……こ?」
侑「……ここが……チャンピオンの生まれ育った町なんだぁ……!」
侑ちゃんはぱぁーっと目を輝かせて、周囲をキョロキョロし始める。
歩夢「侑ちゃん……。千歌さんのこともいいけど、少しは町の雰囲気を楽しもうよー……」
リナ『侑さんはいつもどおりだね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「いや、楽しんでるよ! この自然溢れる町で、千歌さんは日々鍛錬に励んでたんだって思うだけで、あちこちが輝いて見えるよ……! この海で遠泳とか砂浜ダッシュとかしてたのかな……!」
歩夢「いや……鍛錬は旅しながらしてたんじゃ……」
リナ『侑さん、楽しそう』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑ちゃんったら相変わらず、好きなもののことになると、周りが見えなくなる子なんだから……。
少し呆れ気味に──でも、そんなところも可愛いなと思いながら、侑ちゃんのことを眺めていた、そのとき、
「──……侑さ〜ん! ……歩夢さ〜ん! ……リナさ〜ん!」
近くの砂浜の方から、私たちを呼ぶ声が聞こえてきた。
リナ『呼ばれてる?』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「あれ、この声……」
侑「もしかして……!」
「ブイ」
声のする方に目を向けると──黒髪のストレートロングを右側で一房括った髪型の少女が、ウインディと並走しながら、こちらに向かってくる。
あの子は……。
侑「せつ菜ちゃん!?」
せつ菜「……はい! こんなところでお会い出来るなんて……!」
歩夢「カーテンクリフ以来だね……! せつ菜ちゃん!」
せつ菜「そうですね! 砂浜ダッシュをしていたら、遠くに侑さんたちが見えて……! またお会いできて嬉しいです!」
リナ『せつ菜さんはなんで、ここで砂浜ダッシュしてたの?』 || ╹ᇫ╹ ||
せつ菜「それはもちろん、ここはチャンピオンである千歌さんの出生の地……! きっと、彼女もこの大自然の中で、日々鍛錬を積んでいたに違いありませんから! 私もそれに倣って、ポケモンたちと鍛錬をしているところだったんです!」
侑「……! せつ菜ちゃんもそう思う!? やっぱり、そうだよね!」
せつ菜「はい……!! こうして、ここで修行すれば、千歌さんの強さの秘訣がわかるかもしれませんし!」
侑「うんうん!」
歩夢「いや、だから……それはたぶん、旅の道中で……」
リナ『歩夢さん、ファイト』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑ちゃんと同じようなことを考えている人がまた一人……あれ、私がおかしいのかな……?
せつ菜「それはそうと、侑さん、歩夢さん、旅の方は順調ですか?」
侑「あ、うん! せつ菜ちゃんと別れた後いろいろあったけど……」
歩夢「ダリア、コメコ、ホシゾラ、ウチウラと進んできて、さっきアワシマから船でここに到着したところなんだよ」
せつ菜「そうだったんですね!」
侑「ジムバッジもほら……!」
- 600 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:15:35.78 ID:9EuEq8f90
-
侑ちゃんがせつ菜ちゃんにバッジケースを開いて見せる。
せつ菜「おぉ! もうバッジが3つも……! つい数日前に旅に出たばかりだというのに……これは、私たちもウカウカしていられませんね!」
「ワォン」
せつ菜「侑さんが頑張っているのを聞いたら、なんだか燃えてきました……! ウインディ! もう一本、砂浜ダッシュ行きますよ!」
「ワォン!!」
侑「あ、なら私も一緒にやってもいい!?」
せつ菜「是非是非!! 侑さんもポケモンたちと一緒に汗を流しましょう!」
歩夢「ストップ! ストーーップ!!」
今にも走り出そうとする侑ちゃんたちを制止する。
歩夢「さ、先に今日泊まる場所見つけよ? ね?」
リナ『確かに宿を確保してからの方がいいと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「……それはそうかも」
どうにか納得してもらえてホッとする。
今のこの二人の熱量だと、それこそウラノホシで過ごす時間のほとんどがトレーニングになっちゃいそうだし……。
せつ菜「確かに……まだ宿をお決めになっていないなら、そっちを優先した方がいいですね……」
侑「あ……! せっかく宿を探すなら、せつ菜ちゃんも一緒に泊まらない!? いいよね、歩夢?」
歩夢「うん、私は構わないけど」
せつ菜「ホントですか!? 是非……! ……と、言いたいところなんですが……実は明日の朝までには、一度ローズの方に帰らなくてはいけなくて……」
リナ『そうなの?』 || ╹ᇫ╹ ||
せつ菜「はい……皆さんとご一緒したいのはやまやまなんですが……外せない用事があるので」
侑「そうなんだ……残念……」
せつ菜「ただ、夜までは滞在しているつもりなので……! それまで、ご一緒させてもらってもいいでしょうか?」
侑「それはもちろん! ね、歩夢?」
歩夢「うん♪」
それには異論はないかな。私もせっかく会えたんだから、せつ菜ちゃんとお話ししたい気持ちもあるし。
せつ菜「それでは、まずは侑さんたちの宿を見つけるところからですね……! あ、そうだ!」
せつ菜ちゃんが何かを思いついたかのように、ポンと両手を叩く。
せつ菜「もしよかったら、千歌さんのご実家の旅館にご案内しますよ!」
侑「え!? 千歌さんの実家……!?」
せつ菜「はい! 千歌さんのお家は温泉旅館を営んでいるんですよ!」
侑「そうなの……!?」
せつ菜「ただ、素敵な旅館はたくさんあるので、それ以外の場所を探すのもありだと思いますが──」
侑「うぅん! そこ! 絶対そこに泊まりたい! いいよね、歩夢!?」
歩夢「ふふ、いいよ♪ じゃあ、せつ菜ちゃん、そこに案内してもらってもいい?」
せつ菜「はい、お任せください! こちらです!」
私たちは、せつ菜ちゃんに案内される形で、千歌さんのご実家の旅館目指して歩き始めた。
- 601 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:16:22.81 ID:9EuEq8f90
-
🎹 🎹 🎹
侑「──ここが千歌さんの育った家なんだぁ……」
「ブイ」
訪れた旅館は、木造の大きな旅館だった。
せつ菜「チャンピオンのご実家というだけあって、ウラノホシの旅館の中でも人気なんですよ」
リナ『なら、なくなる前に部屋を確保しないとだね』 || ╹ ◡ ╹ ||
せつ菜「ですね。侑さん、歩夢さん、中に入りましょう」
歩夢「はーい」
侑「う、うん」
ちょっと緊張する。
引き戸を開けて、中に入ると──外観からも見てわかるとおり、和風の造りになっている館内。そして、そんな館内の受付に立っている妙齢の女性が一人。
女性「あら……? せつ菜ちゃん! いらっしゃい♪」
せつ菜「こんにちは、志満さん!」
どうやら、この人は志満さんというらしい。
志満「また泊まりに来てくれたの?」
せつ菜「いえ……私は日帰りなので……。ただ、友達が是非ここに泊まりたいとのことなので、案内していたんです」
志満「あら、そうだったのね。ありがとう、せつ菜ちゃん」
志満さんはせつ菜ちゃんにふわりと笑いかけたあと、
志満「ようこそ、お越しくださいました。旅館トチマンへようこそ」
綺麗なお辞儀と共に私たちを迎えてくれる。
志満「一部屋でよろしいですか?」
侑「は、はい! よろしくお願いします!」
歩夢「お世話になります」
志満「かしこまりました、少々お待ちくださいね」
志満さんは、そう言うと手続きを始める。よかった……部屋、まだ残っていたみたいだ。
そんな中、せつ菜ちゃんが、
せつ菜「こちらの志満さん、千歌さんのお姉さんなんですよ」
と、耳打ちしてくる。
侑「ええっ!? ち、千歌さんの……!?」
志満「あら……? もしかして、千歌ちゃんのファンの子かしら?」
侑「は、ははは、はい!!」
志満「妹のこと、応援してくれて嬉しいわ♪ 千歌ちゃんがいたら、お部屋への案内とかを任せたんだけど……最近、あんまり帰ってこなくて……ごめんなさいね」
侑「い、いえっ!? お構いなくっ!?」
- 602 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:17:19.80 ID:9EuEq8f90
-
千歌さんに、案内なんてしてもらったら、申し訳なくて逆にいたたまれなくなっちゃうよ……!?
志満「それでは、こちらに宿泊者のお名前と連絡先をいただけますか?」
侑「は、はーい」
渡された用紙に、必要事項を書いて渡す。
志満「タカサキ・侑ちゃんとウエハラ・歩夢ちゃんね。一緒に泊まるポケモンは4匹ずつの計8匹で大丈夫?」
侑「は、はい!」
志満「かしこまりました。それではお部屋にご案内しますね」
歩夢「はい、お願いします」
侑「よ、よろしくお願いします!」
志満「ふふ、侑ちゃん。あんまり緊張しなくていいのよ。千歌ちゃんはチャンピオンだけど、ここは普通の旅館だから」
私があまりに緊張しているように見えたのか、志満さんがクスリと笑う。
侑「は、はい……」
歩夢「ふふっ♪」
ついでに歩夢にも笑われてしまった。……だってあの千歌さんのお家なんだし……緊張くらいするよ……。
せつ菜「それでは、私は待合ロビーで待っていますので」
侑「あ、うん! 荷物置いたらすぐ戻ってくるね!」
歩夢「ちょっと待っててね、せつ菜ちゃん」
私たちは、志満さんに部屋まで案内してもらう。
その際、
歩夢「侑ちゃん、そういえばさ……」
歩夢が耳打ちをしてくる。
侑「も、もう緊張してないけど……?」
歩夢「えっと……そうじゃなくてね。千歌さんのこと」
侑「千歌さんのこと?」
歩夢「うん。せつ菜ちゃん、千歌さんのこと探してるみたいだけど……千歌さんのいる場所ってコメコの森だよね?」
侑「ああ……」
確かに、しばらくあそこに滞在しているみたいだし、コメコの森のロッジに行けば会える可能性はかなり高い。けど……。
侑「千歌さん、かなり忙しそうだったし……なんか、あんまり大っぴらにあそこにいるよって言わない方がいい感じだったよね……」
詳細はわからないけど……なんか、言えないことが多い仕事をしているっぽかったし……。
歩夢「……だよね。侑ちゃんならそう言うと思った。じゃあ、せつ菜ちゃんに悪いけど……千歌さんのことは内緒にしようね。リナちゃんも」
リナ『了解』 || ╹ ◡ ╹ ||
- 603 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:18:10.82 ID:9EuEq8f90
-
なるほど、これの確認がしておきたかったってことね。
まあ、確かにある程度示し合わせておかないと、誰かがぽろっと言っちゃうかもしれないしね。
内緒話をしていると、志満さんがとある部屋の前で足を止める。
どうやら、話している間に部屋に着いたようだった。
志満「こちらがお二人のお部屋です。ごゆっくりお過ごしください」
侑「はい、ありがとうございます」
歩夢「お世話になります」
案内してくれた志満さんにお礼を言うと、志満さんは柔らかく笑ってから、「くつろいでいってね」と言葉を残して、フロントの方へと戻っていった。
侑「それじゃ、私たちも早く荷物置いて、戻ろっか」
歩夢「うん、そうだね」
せつ菜ちゃんをいつまでも待たせちゃいけないからね!
🎹 🎹 🎹
侑「──じゃあ、せつ菜ちゃんはよくこの町に来るんだ」
せつ菜「はい! 今回でもう何度目かわからないくらいですね!」
せつ菜ちゃん曰く、この町には頻繁に足を運んでいるようだった。
そんな私たちの会話が聞こえたのか、受付カウンターにいる志満さんから「いつもご贔屓にしてくれてありがとうね♪」との声が。
志満さんが千歌さんのお姉さんだと言うのはさっき聞かされたことだけど、千歌さんにはもう一人お姉さんがいるらしく、名前は美渡さん。
千歌さんは三姉妹の末っ子らしく、次女が美渡さんで、長女が志満さんだそうだ。
侑「それにしても……千歌さんにお姉さんが二人もいたなんて……」
歩夢「ふふ♪ 侑ちゃんはトレーナーとしての部分以外には、なかなか興味が向かないところがあるからね」
侑「わ、笑うことないじゃん……」
確かに歩夢が言うとおり、千歌さんのバトルの腕にばかり目が行っていて、家族についてなんて全然考えたことなかったけど……。
せつ菜「確かにポケモントレーナーとしてだと、千歌さんは突出していますよね。ですが、志満さんもコーディネーターとしては有名な方らしいですよ!」
歩夢「コーディネーターって、ポケモンコンテストの?」
せつ菜「はい! なんでも、現コンテストクイーンのことりさんとはライバル関係だったとか」
侑「ことりさんと……!」
私たちにとって馴染み深い名前が出てきて反応してしまう。まさか、千歌さんのお姉さんがことりさんとライバルだったなんて……世間って思ったより狭いんだなぁ……。
侑「そういえば……せつ菜ちゃんがこの町によく来るのって……」
せつ菜「もちろん、千歌さんにお手合わせをお願いするためです! って、言っても……空振りになっちゃうことも多いんですけどね、あはは」
志満「──千歌ちゃん、本当にたまにしか帰ってこないんだもの……」
私たちが会話をしていると、いつの間にか志満さんがお茶を載せたお盆をこちらに運んで来てくれていた。
- 604 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:19:05.58 ID:9EuEq8f90
-
志満「よかったら、お茶菓子もどうぞ。ポケモンちゃんたちにも♪」
「ブイブイ♪」「シャーボ」
歩夢「あ、ありがとうございます」
侑「お、お気遣いなく〜……!」
志満「ふふ、お客様なんだから気遣いますよ」
……確かに。
せつ菜「私までいただいてしまっていいんですか……?」
志満「もちろん♪ お得意様ですから♪」
せつ菜「ありがとうございます。お言葉に甘えていただきますね」
志満「ええ。それじゃ、ごゆっくり」
志満さんはまた柔和な笑みを浮かべてから、パタパタと奥の方へと消えていく。
リナ『せつ菜さん、志満さんからすごく気に入られてるんだね!』 || > ◡ < ||
せつ菜「本当に何度も千歌さんを訪ねて来ていますからね。……本人に会えたのは数回ですが……」
リナ『千歌さんに会ってどうするの?』 || ╹ᇫ╹ ||
せつ菜「それはもちろん、バトルです! 千歌さんはお優しい方なので、チャンピオンでありながら、野良試合をほとんど断らないことでも有名なんですよ」
侑「そうなんだ……!」
じゃあ、私も千歌さんが帰ってくるのを待っていたら、バトルしてもらえたのかな? ……って、言っても今の私じゃ、全然歯が立たないだろうけど。
せつ菜「もちろん、公式戦ではないので、それで千歌さんに勝ってもチャンピオンの称号などは貰えませんが……。……と言っても、勝てたことはないんですけどね」
せつ菜ちゃんは自嘲気味に言う。
侑「で、でも……! せつ菜ちゃんは千歌さんに負けないくらい強いトレーナーだと私は思ってるよ……!」
せつ菜「ありがとうございます、侑さん。……ですが、千歌さんと実際に戦ってみるとわかるんです。私はまだまだだなと……。……もちろん、いつかは超えたいと思っていますが……!」
リナ『どうして、そこまで千歌さんに拘るの?』 || ╹ᇫ╹ ||
せつ菜「それはもちろん──チャンピオンを目指しているからです!」
リナちゃんの言葉に迷いなく答えるせつ菜ちゃん。
侑「かっこいい……!」
堂々と言い切るせつ菜ちゃんに思わずときめいてしまう。
うん、そうなんだよ……! 実力ももちろんだけど、この堂々とした言動、立ち振る舞いがせつ菜ちゃんの魅力なんだ……!
歩夢「それじゃ、こうして千歌さんを何度も訪ねてるのは……」
歩夢が、サスケとイーブイに貰ったお菓子を食べさせてあげながら、せつ菜ちゃんに訊ねると、
せつ菜「はい。少しでも……彼女の強さに迫るためです」
せつ菜ちゃんは力強く頷きながら、そう答える。
せつ菜「私は……強くならなきゃいけないんです。強くなって、証明したい」
侑「証明……?」
- 605 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:19:56.61 ID:9EuEq8f90
-
──証明。その言葉に首を傾げる。どういう意味だろうか。
せつ菜「あ、すみません。これだけ言われても、何を証明したいのか、よくわからないですよね。えっとですね……」
せつ菜ちゃんはそう言いながら、何故か浮遊するリナちゃんに視線を向ける。
リナ『?』 || ╹ _ ╹ ||
せつ菜「……歴代のチャンピオンと言われる人には共通点があるんです」
歩夢「共通点?」
せつ菜「はい。このオトノキ地方の歴代チャンピオンは──全員がポケモン図鑑の所有者なんです」
それは初耳だ。
侑「そうなの……?」
思わず、私もリナちゃんの方を見て確認してしまう。
すると、
リナ『確かに歴史上、この地方のチャンピオンは最初のパートナーポケモンとポケモン図鑑を貰って旅に出た人しかいないみたいだね』 || ╹ᇫ╹ ||
との回答が返ってくる。せつ菜ちゃんの言う共通点というのは、事実らしい。
せつ菜「もちろん、それをずるいとは思いませんし、ポケモン図鑑やパートナーポケモンの有無が、トレーナーの強さに直結するとも思いません。実際に図鑑とパートナーを貰って旅に出るトレーナーはそれ相応の才能を認められて選ばれるものですから」
リナ『図鑑を貰う人はそもそも強くなる素質を認められて選ばれることも少なくないからね。図鑑所有者がチャンピオンになるのは、ある意味道理なのかも』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||
せつ菜「そうですね。……ですが、この地方にはたくさんのトレーナーがいます。その誰も彼もがポケモン図鑑と最初のパートナーを手にするチャンスがあるわけではありません」
せつ菜ちゃんは、一息吸ってから、
せつ菜「だから私は……そんなポケモン図鑑や最初のパートナーを持つ資格を得られなかった人間でも、最強の称号を手に入れられるんだと……証明したい」
そう言葉にする。はっきりと。
……ただ、その余韻のように、
せつ菜「──……そうじゃないと……私は……存在出来ないから……」
消え入るような声で、せつ菜ちゃんはそう漏らした。
侑「……え?」
せつ菜「……あ、す、すみません! 最後のは無しで……!」
侑「えっと……」
少し動揺してしまう。存在出来ないって……。
せつ菜「それくらい、私にとって強くなることは、重要だということですよ!」
リナ『それがせつ菜さんの、レゾンデートルなんだね』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「レゾン……?」
歩夢「存在理由って意味だよ、侑ちゃん」
侑「なるほど」
- 606 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:20:29.98 ID:9EuEq8f90
-
それくらい、せつ菜ちゃんは強くなることにひたむきなんだ……。
そのひたむきさに胸を打たれたからか、
侑「きっと……なれるよ、チャンピオン……!」
私は自然とそう口にしていた。
せつ菜「侑さん……」
侑「わ、私が言っても……生意気に聞こえるかもしれないけど……」
せつ菜「いえ……嬉しいです! 応援してくれる侑さんのためにも、何が何でもチャンピオンにならなくてはなりませんね!」
せつ菜ちゃんはそう言いながら立ち上がって、
せつ菜「そうとなったら、もっと鍛えなくてはいけませんね……!! なんだか、やる気が湧いてきました……!!」
嬉しそうに笑う。
よかった。少しでもせつ菜ちゃんの背中を押せたんだったら、嬉しいな。
せつ菜「この気持ちがあるうちにもうひとっ走り……! と、行きたいところですが……」
せつ菜ちゃんが壁掛け時計の方に目を向ける。釣られて私も時間を確認すると──もう夕方と言っても差し支えない時刻になっていた。
せつ菜「名残惜しいですが……私はそろそろ、帰らないといけませんね……」
侑「もう、こんな時間……」
歩夢「ふふ、侑ちゃん、夢中でお話ししてたもんね」
せつ菜「あ……す、すみません、バトルのお話しばかりで……歩夢さん、退屈ではありませんでしたか?」
歩夢「うぅん! 全然退屈なんかじゃなかったよ! 私もせつ菜ちゃんのバトルのお話、聞いてみたかったから」
侑「歩夢も、あれからバトルをするようになったし、強くなったんだよ! ね?」
歩夢「そ、そんなに言うほどじゃないけど……うん、今はバトルの魅力もわかってきたと思う」
せつ菜「そうですか……! それはいいことですね! ……では、いつか歩夢さんとも、バトル出来る日が来るということですね!」
歩夢「え、えぇ……!? せ、せつ菜ちゃんとバトル出来るくらいになるまでだと……すっごい時間掛かっちゃうかも……」
せつ菜「大丈夫です! 歩夢さんが強くなるまで、チャンピオンとして待っていますから! もちろん、侑さんのこともですよ!」
リナ『まだチャンピオンになってないのに気が早い』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
せつ菜「ふふ♪ そうですね♪」
侑「あはは♪」
歩夢「ふふ♪」
思わず3人で顔を見合わせて笑ってしまう。
せつ菜「いつか──最高の舞台でお会いしましょう!」
せつ菜ちゃんはそう言って、最高の笑顔を見せてくれるのだった。
- 607 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:21:07.06 ID:9EuEq8f90
-
🎹 🎹 🎹
せつ菜「──お見送り、ありがとうございます」
侑「もっと話したかったなぁ……」
「ブイ」
せつ菜「ふふ、きっとまたどこかで会えますよ」
侑「……うん。そうだね!」
こうしてウラノホシタウンで会えたんだから、またどこかで偶然会うこともあるよね!
歩夢「もう日も落ちちゃったね……暗いから気を付けて帰ってね」
せつ菜「お気遣いありがとうございます。ですが、帰りは“そらをとぶ”でひとっとびなので、ご安心を!」
せつ菜ちゃんはそう言いながら、ボールからポケモンを外に出す。
「ムドー!!」
侑「わぁ! せつ菜ちゃんのエアームド!」
せつ菜「さすが侑さん、ご存じでしたか」
侑「うん! 攻守隙の無いせつ菜ちゃんのエアームド……大好きなんだ……!」
せつ菜「ふふ、ありがとうございます。エアームド、褒められていますよ」
「ムド」
せつ菜ちゃんの言葉を聞いて、エアームドはペコリとお辞儀をする。
侑「礼儀正しい……!」
せつ菜「ふふ、頭のいい子なので」
歩夢「……あ、そうだ!」
せつ菜「?」
歩夢は何かを思い出したらしく、バッグの中から、紙と袋を取り出す。
歩夢「これ、せつ菜ちゃんに」
せつ菜「これは……?」
せつ菜ちゃんが紙を開く。
- 608 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:21:53.67 ID:9EuEq8f90
-
せつ菜「『ウインディ:からいポフィン(赤)』『スターミー:あまいポフィン(桃)』……これは……メモ、ですか?」
歩夢「うん♪ 私が作ったポケモンのお菓子だよ! せつ菜ちゃんのポケモンの好みに合わせて作ってあるから!」
せつ菜「え? 私の手持ちの好みにですか……?」
歩夢「うん! 前にせつ菜ちゃんが試合で出してた5匹しかわからなかったけど……」
せつ菜「バトルを見ただけで私の手持ちの好みがわかったんですか……?」
歩夢「? うん。好きな色の“ポフィン”がメモに書いてあるから、そのとおりに食べさせてあげてね!」
せつ菜「わかりました! ありがとうございます!」
歩夢「絶対メモのとおりにあげてね」
せつ菜「? はい!」
歩夢「人が作ったものを勝手にアレンジとかしちゃだめだよ? 絶対に、書かれたとおりに、食べさせてあげてね」
せつ菜「は、はい……な、なんだか、ちょっと圧が強いですけど……承知しました!」
歩夢「うん」
リナ『歩夢さん。きっと、ウインディたちも泣いて喜ぶ』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ;||
侑「?」
いつになく歩夢がぐいぐい行ってるけど……そんなに会心の出来だったのかな?
まあ、せっかく作ったのなら、好きな味のものを食べて欲しいもんね。
せつ菜「さて……」
せつ菜ちゃんがエアームドの背に飛び乗る。
せつ菜「またどこかでお会いしましょう!」
侑「うん! またね! せつ菜ちゃん!」
「ブイブイ!!」
歩夢「案内してくれてありがとう!」
リナ『次会えるとき、楽しみにしてる』 || ╹ ◡ ╹ ||
せつ菜「はい! それでは──エアームド、行きますよ!」
「ムドーー!!!」
エアームドが鋼鉄の翼を羽ばたかせ、一気に飛翔する。
侑「ばいばーい!」
歩夢「またねー!」
手を振って見送る中、暗闇を切り裂く鋼の翼は、ぐんぐんと遠ざかり──すぐに見えなくなった。
侑「やっぱせつ菜ちゃんのエアームド、速いなぁ……」
リナ『すごくよく育てられてる証拠』 || ╹ ◡ ╹ ||
やっぱり、せつ菜ちゃんとそのポケモンたちはすごいんだって、感じちゃうなぁ。
そんなせつ菜ちゃんに追い付けるように。
侑「よし、私も頑張るぞ……!」
一人気合いを入れる。
歩夢「ふふ♪」
- 609 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:22:36.52 ID:9EuEq8f90
-
そんな私を見て、歩夢が微笑ましそうに笑う。
ふいに──潮の香りを孕んだ、夜風が吹き抜ける。
歩夢「……風、気持ちいいね」
侑「うん、そうだね」
これだけ自然豊かだからだろうか。空気がおいしくて、こうした何気ない風も、心地がいい。
旅館に戻る前に、もう少し外の空気を感じていたいなと思った。
どうやら、歩夢も同じことを考えていたらしく、
歩夢「侑ちゃん、少し……歩かない?」
侑「うん、そうだね」
私たちは少しだけ、夜道を散歩をすることにした。
🎹 🎹 🎹
「──ブイ、ブイ」
侑「イーブイー! あんま遠く行っちゃダメだよー!」
夜の砂浜を無邪気に駆け出すイーブイに声を掛けながら、私は歩夢とのんびり砂を踏みしめる。
歩夢「夜の海って……綺麗だね」
侑「そうだね……」
夜の水面は、昼のような澄んだ青さこそないものの──真っ暗な境界面に星や月の光を反射して、まるでもう一つ夜空がそこにあるかのような、幻想的な風景を作り出している。
きっと、こんな景色も……旅に出なかったら、見ることはなかったんだ。
侑「歩夢」
歩夢「なぁに?」
侑「私と旅に出てくれて、ありがとう」
歩夢「ふふ。どうしたの、急に?」
侑「歩夢が居てくれたから、私はこうして旅が出来てるんだって思ったら……お礼言いたくなっちゃった」
歩夢「もう……お礼を言いたいのはそれこそ私の方だよ。一緒に旅してくれてありがとう、侑ちゃん」
侑「……あはは♪」
歩夢「うふふ♪」
お互いお礼を言い合っているのがなんだか可笑しくって、今度は二人で顔を見合わせて笑ってしまう。
リナ『二人だけ、ずるい』 ||,,╹ᨓ╹,,||
侑「もちろん、リナちゃんも! いつもありがとう!」
歩夢「リナちゃんがいっぱいサポートしてくれるから、楽しい冒険が出来てるよ♪」
リナ『うん!』 ||,,> ◡ <,,||
セキレイから始まって、ダリア、コメコ、ホシゾラ、ウチウラ……そしてウラノホシと進んできた。
- 610 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:23:21.07 ID:9EuEq8f90
-
侑「ここまで……いろんなものを見てきたね」
歩夢「うん。短い間にいろいろあったね」
侑「力を合わせて進んだり……」
歩夢「ケンカもしちゃったね」
侑「そうだね……」
歩夢「でも……今になってみたら、ああやってケンカして、思ってることを言い合えたから、もっと侑ちゃんのこと、理解出来た気がする」
そう言いながら、歩夢は私の手を握ってくる。
だから、私も歩夢の手を握り返す。
歩夢「侑ちゃんと一緒に旅に出られて……よかった」
侑「歩夢……」
なんだか、胸があたたかかった。
空は暗闇の中に浮かぶ星と月だけで、お日様はとっくに沈んでしまっているのに、歩夢の言葉を聞いていると、ぽかぽかとお日様に照らされているような、あたたかさを感じる。
侑「……歩夢はお日様みたいだね」
歩夢「え?」
侑「いつも私の心を、あったかい太陽みたいに照らしてくれる」
歩夢「ええ……? それなら、太陽は侑ちゃんの方だよ! 侑ちゃんの隣にいると、すっごくあったかいもん……侑ちゃんの手も……」
侑「歩夢の手の方があったかいよ。だから、やっぱり太陽は歩夢の方だよ」
歩夢「えー? 侑ちゃんの方があったかいよ」
侑「歩夢の方があったかい」
歩夢「侑ちゃんの方が……」
侑「……っぷ」
歩夢「……ふふ♪」
言い合っているのが可笑しくて、また二人で笑ってしまう。
侑「じゃあ、二人とも、お互いがお互いの太陽ってことで!」
歩夢「ふふ、そうだね♪」
ああ、なんか……いいな、こういう時間。
侑「私……この旅、ずっと続けてたいな」
歩夢「ふふ、そうだね」
リナ『まだまだ、この地方は行ってない場所の方が多い。まだまだ、旅は終わらないよ』 ||,,> ◡ <,,||
侑「……旅を名残惜しむにはまだ早いか」
バッジもまだ半分も集まってないしね。旅はこれからだ……!
漣の音を聴きながら、胸中で決意をしていると、ふと──
侑「……? 何……?」
歩夢「侑ちゃん?」
侑「……何か……聞こえる……?」
- 611 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:24:06.58 ID:9EuEq8f90
-
──海の方から、何かが呼んでいる気がした。
その声に引き寄せられるように、波打ち際に視線を向けると──
侑「え……?」
それは、落ちていた。
波打ち際に、ぽつんと。
角の取れた、丸石のような、でも、それは石じゃなくて──
歩夢「侑ちゃん、これって……」
侑「──ポケモンの……タマゴだ……」
そこにあったのは──ポケモンのタマゴだった。
🎹 🎹 🎹
あの後、旅館に戻って、志満さんにタマゴの落とし物があったこと、探している人がいないかを訊ねたけど、
志満「──……少なくとも、この旅館には心当たりのいる人はいなかったわ……」
宿泊客に確認を取ってくれた志満さんからは、そんな回答が返ってきた。
この旅館の前の浜辺で拾ったから、誰か知っている人がいないかなと思ったんだけど……。
美渡「志満姉〜、役場にも確認してみたけど、タマゴの落とし物探してるみたいな届け出はなかったよ〜」
そんな風に志満さんに報告をしているのは、先ほど話に聞いた、千歌さんのもう一人のお姉さんの美渡さんだ。
志満「ありがとう美渡。……っていうことで、私たちにはそのタマゴのことはちょっとわからないわね……」
侑「そうですか……ありがとうございます」
歩夢「どうしようか、そのタマゴ……」
侑「う〜ん……」
誰か落とした人がいるならその人に返したいけど……。
美渡「誰も持ち主が居ないなら、貰っちゃってもいいんじゃないかな?」
侑「え、でも……」
美渡「もしかしたら、誰かの捨てたタマゴとかなのかもしれないし……」
志満「こら、美渡! 滅多なこと言わないの!」
リナ『……でも確かに、その可能性はある。強いポケモンを厳選する人の中には余らせたタマゴを捨てちゃう人もいないわけじゃない』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「タマゴって……ポケモンみたいに“おや”はわからないの?」
リナ『タマゴは生まれたときに、一番近くにいた人が“おや”になる。だから、まだ“おや”と呼ばれる人間は決まってない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
美渡「それに、タマゴは元気なトレーナーと一緒にいないと、孵化しないって言うしさ……警察とかに届けて持ち主が現れるのを待つのもありだけど……その間ずーっとタマゴのまま待ち続けるのも、気の毒だなって思うし」
志満「それはまあ……そうねぇ……」
侑「うーん……」
- 612 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:24:43.30 ID:9EuEq8f90
-
……普通に考えたら、もともとタマゴを持っていた人が居て、なんらかの理由で落としちゃったとかな気がするけど、
侑「…………」
私は何故か……理由はうまく説明できないけど、このタマゴはそういうものではない気がした。
このタマゴは──私を呼んでいた気がする。
少し考えたけど、
侑「……わかりました。私、このタマゴ、育ててみます」
……私はこのタマゴを、受け取ることにした。
歩夢「侑ちゃん、いいの……?」
侑「うん。もし、持ち主を探すにしても……タマゴのままじゃ、他のタマゴと見分けも付かないし……生まれてきたポケモンを見てから探した方がいいだろうしさ」
仮に落とし主がいるんだとしても、生まれてきたポケモンの種類を見れば、タマゴのままの状態よりは探す手がかりも見つけやすいだろうしね……。
美渡「うん、そうしな。一応、タマゴを探してるみたいな人が居たら、連絡はしてあげるからさ」
侑「はい、ありがとうございます」
志満「侑ちゃんたちがそれでいいなら、私はいいんだけど……」
こうして私たちは、ウラノホシの町でせつ菜ちゃんと出会い、そして……ふしぎなタマゴを拾うことになった。
……一体、このタマゴ……どんなポケモンが生まれてくるんだろう……?
- 613 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 12:25:17.67 ID:9EuEq8f90
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ウラノホシタウン】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o●/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.36 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.32 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.31 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.25 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
タマゴ なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:105匹 捕まえた数:4匹
主人公 歩夢
手持ち ラビフット♂ Lv.33 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.27 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.27 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
タマザラシ♀ Lv.22 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
バッジ 1個 図鑑 見つけた数:132匹 捕まえた数:14匹
侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 614 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 23:37:08.98 ID:9EuEq8f90
-
■Intermission🎹
──暗い部屋にいた。
「んー? 今日の──は甘えん坊だなぁ〜」
「…………」
「じゃあ、──が寝るまで、ぎゅーってしててあげるね」
「うん……」
なんだか……幸せな光景を見ている気がした。
私も嬉しかった。
「……私は──突き止めなくちゃいけない……。お父さんとお母さんの理論を、研究を、完成させないといけない……」
そうじゃないと──お父さんとお母さんが……報われないから……。
そんな声が……頭の中でぼんやりと木霊していた……。
「ニャァ…」
──
────
──────
- 615 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/28(月) 23:37:48.72 ID:9EuEq8f90
-
侑「……んぅ…………」
ぼんやりと目を開ける。
侑「…………」
また、変な夢を見た……なんなんだろ……。
……まあ、夢に意味を求めてもしょうがないんだけどさ。
頭を掻きながら、枕元を見ると、
「ニャァ……zzz」
ニャスパーが眠っていた。
リナ『侑さん、おはよう』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「おはよう……リナちゃん」
リナ『今日は朝一でメールが届いてたよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「メール?」
リナ『凛さんから』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「! 凛さんからってことは……!」
リナ『うん! ジム戦の日取りが決まったみたい! 明日ホシゾラジムで待ってるって!』 ||,,> ◡ <,,||
侑「明日……!」
ついに、再戦の時が来たということだ。
ホシゾラまでは1日もあれば十分戻れるから、今日は移動になるだろう。
歩夢「……んぅ……侑ちゃん……?」
リナちゃんと話していると、隣の布団で寝ていた歩夢も、目を覚ましたようだ。
侑「あ、おはよ、歩夢。ジムの再戦の日取り、決まったよ!」
歩夢「え、本当に!?」
侑「うん! 明日、ホシゾラジムで待ってるって! 急いで戻らないとだね」
歩夢「うん!」
変な夢のこともすっかり忘れて、私は朝から、ジムへの闘志で心を燃やすのだった。
………………
…………
……
🎹
- 616 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:03:18.53 ID:ULDkry570
-
■Chapter032 『ジグザグジグザグドッグラン?』 【SIDE Kasumi】
──朝。コメコの森のロッジ。
しずく「それでは、行ってまいります」
かすみ「お世話になりました! 彼方先輩! ご飯すっごくおいしかったです!」
私はしず子と一緒に、お世話になった彼方先輩たちへお礼交じりに挨拶をする。
彼方「ふふ、またいつでもおいで〜。次も腕によりをかけてご飯作ってあげるから〜」
遥「お身体にお気をつけて……」
穂乃果「二人とも、無茶しちゃダメだよ〜?」
千歌「何かあったら、いつでも連絡してね!」
しずく「はい、ありがとうございます」
ロッジの皆さんの送り出しの言葉にしず子が深々と頭を下げる。
この短い数日の間に、いろいろあったもんね。
かすみんもそれに倣って、ぺこっとお辞儀します。
かすみ「……さて、それじゃいこっか!」
しずく「うん!」
さぁ、冒険の旅の再開です!
👑 👑 👑
さて、ロッジを颯爽と旅立った、かすみんたちが次に向かう先は──
かすみ「……わぁ〜!! 広〜い!」
眼前に広がる、広大な草原。
いわゆる都会で育ってきた、かすみんたちからしてみると、こんなに広い草原はほとんど見たことがない。
そんなここは──コメコシティとダリアシティを繋ぐ4番道路。通称『ドッグラン』です!
これだけ広々としていると、かすみんも開放的な気持ちになっちゃいますね!
ただ、そんなかすみんよりも、
しずく「──見て見てかすみさん!! ヨーテリーとハーデリアの群れだよ! あ! あっちにはガーディ!」
しず子は、さらにテンションが高かった。目をキラキラさせながら、かすみんの腕をぐいぐい引っ張ってくる。
かすみ「し、しず子〜そんなに引っ張らないでよ〜」
しずく「あそこでボールを追いかけてるのは、ワンパチだよ! ワンパチはね、“たまひろい”って特性で、ボールで遊ぶのが大好きなんだよ! ……私もボールを投げたら、取ってきてくれるかな」
聞いてないし……。言うまでもなく、普段しず子のテンションがここまで高くなることはそんなにない。
ただ、理由ははっきりしています。
- 617 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:04:12.50 ID:ULDkry570
-
かすみ「しず子ってホントに犬ポケモン好きだよね」
しずく「うん! だって、あんなに可愛いんだよ!? 誰だって大好きだよ!」
しず子は筋金入りの犬ポケモン大好きっ子なんです。
「イヌヌワンッ!!」
しずく「見て見てかすみさん! ワンパチがボール拾ってきてくれたよ!」
かすみ「うんうん、よかったね、しず子」
何はともあれ、しず子が楽しそうで何よりです。
大丈夫だとは言われているけど、しず子は病み上がり。
かすみん、これでも結構気を付けて見ていたんですけど……これだけ元気なら本当に大丈夫そうですね。
しずく「ほーら、とっておいでー♪」
「イヌヌワンッ!!」
しず子が再びボールを放り投げると、ワンパチがそれに向かって駆け出す。
……野生ポケモンなのに、ここまで野生を忘れていると、ちょっと心配になりますね。
ボールを追いかけるワンパチを目で追いかけていると──そのワンパチの目指す場所に人影があることに気付く。
かすみ「あれ? あの人って……」
その人影には見覚えがあった。
青みがかった黒髪をウルフカットにしている、女性の後ろ姿──
しずく「!? も、もしかして──果林さんじゃないですか!?」
果林「?」
しず子の声に気付いて、果林先輩が振り返る。
果林「あら、貴方たちは……」
かすみんたちの姿を認め、こちらに近付いてくる。
果林「一週間振りくらいかしら? 確か……しずくちゃん、だったわよね?」
しずく「はい! 名前、覚えていてくださったんですね! でも、どうして果林さんがここに……お仕事ですか?」
果林「今日はオフよ」
かすみ「じゃあ、なんでこんなところに……?」
果林「こんなところなんて言ったら、コメコの人に怒られるわよ。えっと……貴方は……」
かすみ「かすみんは、かすみんです!」
果林「かすみんちゃん……? 変わった名前ね……?」
かすみ「かすみんちゃんじゃなくて、かすみんはかすみん──」
しずく「えっと、ごめんなさい! この子はかすみさんって言うんです!」
果林「ああ、なるほど……そういうことね」
果林先輩は納得したように、片手を顎に当てて、小さく頷いて見せた。
かすみ「それで、どうして果林先輩はドッグランにいるんですか?」
果林「ああ、えっとね……ちょっと友達と待ち合わせしてるところで……」
- 618 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:04:46.27 ID:ULDkry570
-
果林先輩が言いかけた矢先、
「──果林ちゃ〜ん!」
彼女の名前を呼びながら、コメコ方面から駆け寄ってくる女の人の姿。
果林「ああ、言ってる傍から来たみたい」
エマ「──おはよう、果林ちゃん!」
果林「おはようエマ」
エマ「ごめんね、待たせちゃったみたいで……」
果林「大丈夫よ、私もさっき着いたところだから」
赤毛を三つ編みおさげにしている青い目の女の人──果林先輩が待っていたこの人は、エマ先輩というらしい。
エマ「えっとあなたたちは……果林ちゃんのお友達?」
果林「前、コンテスト会場で見に来てくれた子たちよ」
エマ「あ、もしかして果林ちゃんのファンの子ってことかな?」
しずく「は、はい!」
かすみ「まあ、かすみんはそいうわけじゃ……」
しずく「か、かすみさん……! 本人の前でそんなこと……!」
果林「別にいいわよ。そんな気を遣わなくても」
慌てるしず子とは裏腹に、当人は涼しい顔をしている。なんか随分サバサバしてる人ですねぇ……。
エマ「コンテストってことは、フソウからここまで……? でも、この辺りでは見たことないし……もしかして旅人さん?」
しずく「あ、はい」
かすみ「何を隠そうかすみんたちは──ポケモン図鑑と最初のポケモンを貰って旅に出た、選ばれしトレーナーなんですよ〜」
かすみんは胸を張って自慢します。ポケモン図鑑の所有者に選ばれたトレーナーなんて、どこにでもいるわけじゃないですからね!
さぞ珍しがって、敬って貰えるかと思ったんですが、
エマ「あ! もしかして、歩夢ちゃんと侑ちゃんのお友達なのかな!?」
全然珍しがって貰えていませんでした。
しずく「侑先輩たちをご存じなんですか!?」
エマ「うん! 二人もちょっと前にコメコに来たんだよ!」
……考えてみれば、侑先輩たちはかすみんたちと逆回りでホシゾラシティまで辿り着いていたわけですから、コメコに知り合いが居てもおかしくないですね……。
エマ「わたしはエマ、よろしくね♪」
かすみ「あ、えっとかすみんは──」
しずく「こちらはかすみさんです。私はしずくと言います」
かすみ「ちょっとぉ!! 人の自己紹介、邪魔しないでよぉ!!」
しずく「だって、どうせ私が訂正する羽目になるし……」
かすみ「むー……」
エマ「かすみちゃんとしずくちゃんだね♪」
- 619 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:05:33.63 ID:ULDkry570
-
嬉しそうに笑いながら握手を求めてくるエマ先輩。
果林先輩とは真逆で、フレンドリーな人ですね〜。
一方で、件の果林先輩は、
果林「……へー……貴方たちが、図鑑所有者……」
かすみんたちのことをジロジロと観察していた。
かすみ「ちょ……な、なんですか……」
果林「あら、ごめんなさい……図鑑所有者と聞いて、少し興味が湧いちゃって」
かすみ「……へー、果林先輩もそういうの気になるんですね。いいですよいいですよ! 好きなだけかすみんを見てください!」
注目されているって言うなら満更でもない。かすみんは思わず得意になって、胸を張ってしまいます。
果林「しずくちゃん、貴方、図鑑所有者だったのね……」
しずく「え、あ、は、はい……///」
かすみ「もう、こっち見てない!?」
なんなんですか、期待させておいて……! ぐぬぬ……!
このかすみんを適当にスルーした癖に、果林先輩は、
果林「……」
しずく「あ、あの……果林さん……ち、近くないですか……?///」
しず子の顔を覗き込むようにして、じっくりと観察している。
果林「……ふふ、そう」
しずく「か、果林さん……?///」
果林先輩は一人で勝手に納得したように笑う。
果林「良い目になったわね、しずくちゃん」
しずく「そ、そうですか……?」
果林「ええ。……真の美を理解したような目になったわ」
しずく「し、真の美……ですか……?」
果林先輩の言葉にきょとんとするしず子。
……ってか、
かすみ「ホントに近いですよ!! 近すぎます!! 離れて離れて!!」
なんかちゃっかり、しず子の顎に手を添えて、顔を覗き込んでるし!
二人の間に割って入るようにして、引きはがす。
果林「あら、ごめんなさい」
しずく「……///」
かすみ「しず子も何、満更でもなさそうな顔してんの!」
しずく「だ、だって……///」
しず子にとっては憧れの人みたいだし……わからなくはないけどさぁ。
- 620 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:06:24.15 ID:ULDkry570
-
エマ「ところで、二人はこれからドッグランを抜けてダリアに行こうとしてるのかな?」
しずく「あ、はい。そのつもりです」
エマ「だったら、ちょっと気を付けた方がいいかも……」
かすみ「気を付ける? 何をですか?」
果林「今ドッグランは、野生ポケモンの縄張りがちょっと不安定らしいわよ」
かすみ「縄張りが不安定……?」
エマ「もともと犬ポケモンって、それぞれしっかりとした縄張りを持ってて、お互いがそれに干渉しないようにしてることが多いんだけど……最近ラクライの群れの縄張りが不安定みたいで……」
果林「それで、一旦それを落ち着かせるために、エマが駆り出されたってわけ。私はその手伝い」
果林先輩はそう言いながら、腕を組んで肩を竦める。
まさにそのとき、遠方の雲がピカっと光る。
かすみ「あれ、雷ですか……?」
かすみんがそう訊ねる頃に──ゴロゴロと音が聞こえてくる。
しずく「……2〜3kmくらい先ですね」
エマ「うん。今はあの辺りにいるみたいだね」
しず子の言葉にエマ先輩が頷いた。
かすみ「なんで、わかるの……?」
しずく「光は音より速いから、秒数を数えればなんとなくの距離がわかるんだよ」
かすみ「……ふーん……?」
なんかよくわからないけど、そうらしい。
果林「場所がわかったのはいいけど……こんなこと、わざわざエマがどうにかするようなことなのかしら……?」
エマ「あのね、ドッグランはコメコの人が昔から管理してきた場所なんだよ。だから、コメコの一員として、ドッグランの平和を守るのも私の仕事だよ!」
果林「そう……まあ、エマがそれでいいならいいけど」
エマ「それにラクライ以外にも、変な子が紛れちゃってるらしいし……そっちの対策もしないと……」
かすみ「変な子?」
エマ「えっとね……最近ドッグランにもともといなかったポケモンを間違って逃がしちゃった人がいるらしくって……」
しずく「確かドッグランは保護区域だから……特定の種類のポケモン以外は逃がしちゃいけなかったはずですよね」
かすみ「ええ? じゃあ、犬ポケモンたちの中に猫ポケモンが紛れちゃってるみたいな……?」
エマ「確認されてる子は一応犬ポケモンなんだけど……もともとここにはいない犬ポケモンだったの。だから、間違えちゃっただけだと思うんだけど……」
果林「だから、そういう本来いない種類の子たちを捕まえるのも、コメコの人たちの仕事の一つらしいわ」
かすみ「へー……そうなんですね」
エマ「そういうことだから、二人とも、ここを抜けるなら気を付けてね」
しずく「はい、ありがとうございます」
この場所を維持するのも大変なんですねぇ……。
果林「それじゃ、早く終わらせちゃいたいし、私たちも行きましょ、エマ」
エマ「うん、そうだね! それじゃあね、二人とも」
- 621 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:07:00.57 ID:ULDkry570
-
エマ先輩が手をふりふりしながら、ドッグランを奥の方へと歩き出す。
そして、その後に付いていくように果林先輩も、歩き出しながら──振り返る。
果林「……それじゃあ、またどこかで会いましょう」
果林先輩は最後にそう残してから、エマ先輩と行ってしまった。
しずく「また、どこかで……えへへ……」
かすみ「ちょっとしず子、何ニヤニヤしてんの」
しずく「べ、別にニヤニヤなんかしてないもん……」
しず子がぷくっと頬を膨らませる。
全く、こんなに可愛いかすみんが傍にいるのに、ちょ〜っと果林先輩がリップサービスしただけで、チョロチョロなんですから……。
👑 👑 👑
果林先輩たちと別れたあと、かすみんたちはのんびりとドッグランを進んでいるところです。
「──クマァ♪」
かすみ「わぁ♪ ジグザグマ、また拾ってきたんですね、偉いですよ〜♪」
しずく「今日はたくさん拾ってきてるね?」
かすみ「平原が広がってるから、見つけやすいのかな?」
この穏やかでだだっ広い場所だからか、今日はジグザグマの“ものひろい”が絶好調です。
かすみ「この調子でたくさん集めようね〜♪」
「クマァ♪」
ジグザグマから受け取った“げんきのかけら”をバッグに押し込む。
しずく「まだ集めるの……? もうかすみさんのバッグ、パンパンだけど……」
かすみ「手に入れられるものは手に入れておいて損はないの!」
しずく「でも、そこまでパンパンだと逆に物が取り出しづらくない? 少し間引いた方が……」
かすみ「ダメ! せっかく、ジグザグマがかすみんのために拾ってきてくれたものなんだから、全部かすみんが使うの! それに『備えあれば嬉しいな』って言うでしょ!」
しずく「それを言うなら『備えあれば憂いなし』ね……。あと『過ぎたるは及ばざるが如し』って言葉もあるんだけど……」
かすみ「ふーんだ、そんなこと言うしず子には、後で必要になっても分けてあげないんだから」
口うるさいしず子に言い返しながら、バッグを背負おうとした、その時──かすみんの足元を、猛スピードで何かが通り過ぎた。
かすみ「わっ!?」
急なことに驚いて、足がもつれる。そしてその拍子に、重いバッグが重力に引っ張られて、かすみんは後ろ向きにひっくり返る。
しずく「か、かすみさん!? もう、言わんこっちゃない……!」
かすみ「いたた……今何かが足元を……」
頭を上げて、何かが通り過ぎて行った方向に目を向けると──白と黒の縞模様をした細長いポケモンが、長い舌を見せながらこっちを見つめていた。
- 622 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:08:39.57 ID:ULDkry570
-
かすみ「……何あいつ……?」
しずく「……もしかして、ガラルマッスグマ?」
かすみ「マッスグマって……ジグザグマの進化系だっけ」
しずく「うん、そうなんだけど……あれはガラルの姿で、本来ドッグランには普通の姿のマッスグマしかいなかったはず……」
かすみ「じゃあもしかして、エマ先輩が言ってた変な子って……」
しずく「たぶん、ガラルの姿のマッスグマを逃がしちゃった人がいたってことじゃないかな……」
そんな話をしている間に、マッスグマはかすみんたちに背を向けて、猛スピードで走り去っていく。
かすみ「なんか、ガラルのマッスグマはずいぶんと凶悪な顔をしてるんだね……」
しずく「あくタイプが加わってて、こっちのジグザグマやマッスグマと比べると凶暴だって言うからね……」
かすみ「ふーん……」
それにしても、なんで急にかすみんのこと転ばせてきたんだろう。
それ以上、何か攻撃してくるでもなく、そのまま走って行っちゃったし……。
……まあ、いいや。
かすみんは起き上がって、周囲を伺います。
すると、転んだ拍子にバッグから散らばってしまった、アイテムの数々。
かすみ「……盛大に散らばっちゃった……」
落ちたアイテムを拾おうとした、瞬間──手を伸ばしたアイテムが目の前から掻き消えた。
かすみ「……へ?」
びっくりして顔を上げると──ジグザグマが居た。
でも、かすみんのジグザグマじゃない。
白と黒の──さっきのマッスグマと同じような色をしたジグザグマ。
それも1匹じゃない。2匹、3匹、4匹──いや、10匹はいる。
しかも……全員、今しがたかすみんが落としたアイテムを咥えている。
かすみ「ち、ちょっと! それかすみんのですよ!」
「グマグマ」「ググマー」「グママ」
かすみんが声をあげると、ジグザグマたちは散り散りになりながら、アイテムを持ち逃げしていく。
かすみ「こ、こらー!? 泥棒ー!?」
しずく「あれ全部ガラルジグザグマ……!? もしかして、さっきのマッスグマの子分……!?」
かすみ「んな……じゃあ、もしかしてかすみんを転ばしたのって……」
しずく「た、たぶん、最初から転んで散らばった“どうぐ”を奪うため……」
かすみ「むっかー……!! 寄ってたかって人の物を奪うなんて、許せません……!!」
「クマァ」
かすみ「行くよ、ジグザグマ! 絶対取り返してやるんだから!!」
「クマァ!!」
かすみんは怒り心頭、白黒のジグザグマたちを追いかけて、駆け出します。
しずく「あ、ちょっとかすみさん! 待ってってばー!?」
- 623 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:09:31.83 ID:ULDkry570
-
👑 👑 👑
かすみ「むむむ……どこに行きやがりましたか〜……」
しずく「行きやがったって……まだそんなにたくさんあるんだから、ちょっとくらい良いんじゃない……?」
しず子はかすみんのバッグを見て、そんなことを言う。
かすみ「ダメ! これは、せっかくジグザグマが頑張って拾ってきてくれたものなんだから! それに……」
しずく「それに?」
かすみ「まんまと奪われたままなんて、悔しいじゃん!」
しずく「……はぁ……。わかった……私も取り戻すの手伝うよ」
かすみ「ホントに!? やっぱ、しず子わかってる〜!」
しずく「わかってるというか、諦めてるだけだけど……。でも、どうやって探すの? 見失っちゃったけど」
かすみ「それを今考え中なの!」
最初は足跡を追えばいいかなと思っていたんだけど……ジグザグマたちは逃げている間も好き勝手ジグザグに走るせいか、逆に居場所を特定しづらい。
しずく「ジグザグマたち、結構逃げなれてる感じがするね……足跡を大量に作ってるのも、わざと攪乱するためなのかも」
かすみ「姑息な奴らですねぇ……!」
こうなったら、足跡を虱潰しに追うしかない……?
頭を抱えていると、
「クマ」
かすみんのジグザグマが足跡をくんくんと嗅いだあと、
「クマ」
とてとてと先に向かって歩き始める。
かすみ「もしかして、においで追える?」
「クマァ」
かすみ「さすが、かすみんのジグザグマです! あのガラルのジグザグマたち、すぐに追いついてやりますからね!」
「クマ」
ジグザグに歩きながら、においを追って進むジグザグマを追いかける。
気付けば、徐々に草原エリアから外れて、ちょっとした林のようなエリアに入ろうとしていた。
しずく「……ジグザグに進むからか、進みが遅いね……」
かすみ「ま、まあ……ジグザグマだし……。マッスグマよりも可愛げあっていいじゃん!」
しずく「別に悪いとは言ってないけど……」
確かに探し物をしているときは真っすぐ目的に向かって進んでくれたら嬉しいけど……これが、ジグザグマの可愛いところでもあるわけだし。
しずく「……そういえばさ」
かすみ「なに?」
しずく「かすみさん、ジグザグマの進化、キャンセルしてるよね?」
- 624 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:10:31.64 ID:ULDkry570
-
──進化のキャンセルとは、書いて字のとおり、進化をさせずそのままの姿にしているということです。
自分のポケモンの進化タイミングでポケモン図鑑にあるボタンをぽちっと押すと、進化させない電波が出るらしく、それで進化前の姿を維持できるんです。
しずく「進化させないの?」
かすみ「んー……進化させちゃうと可愛くなくなっちゃうし……」
しずく「そうかな? 私はマッスグマも愛嬌ある顔してると思うけど」
かすみ「うーん……」
マッスグマは見たことあるけど……かすみん的には少しシャープすぎるなぁって思うんですよね。
ただ──なんとなく、しず子の顔を見る。
しずく「……? どうかした?」
かすみ「……なんでもない」
穂乃果先輩に言われたように、かすみんたちはウルトラビーストに襲われる可能性がある。
なら、少しでも進化した方が強くなれるのかな……なんて思うけど……。
かすみ「……やっぱ、今はジグザグマのままでいい」
しずく「そう?」
かすみんはやっぱり可愛いポケモンたちに囲まれていたいんです──まあ、もうすでになんかそれっぽくない手持ちもいる気はしますが……。
もちろん、どうしても進化の必要性を感じたら、進化させることもあるかもしれないけど……それは今じゃない気がする。
しずく「まあ、進化させない方が育ちも速くなるし、かすみさんがそうしたいなら、それでいいと思うよ」
かすみ「うん」
林の中を、結構奥の方へと進んできたと思う。
そんな中、においを嗅いでいるジグザグマの動きに変化があった。
「クマ…」
しずく「ジグザグマ、さっきから行ったり来たりしてるね……?」
かすみ「ジグザグマ、どうかしたの?」
「クマ」
ジグザグマは困ったように周囲をキョロキョロとしている。
しずく「においがここで途切れちゃってるのかな……?」
かすみ「えーでも、なんもないし……」
さっきまで順調だったのに、急ににおいが途切れるものなんだろうか。
すると、ジグザグマは、
「クマ」
地面に鼻をこすりつけながら、そこを掘り返し始める。
すると──黄色いキラキラとした欠片のようなものが顔を出す。
- 625 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:11:18.79 ID:ULDkry570
-
しずく「! “げんきのかけら”……!」
かすみ「もしかしてこれ、かすみんたちの!? やりました! 取り返してやりましたよ!」
しずく「いや待って……なんでこんな場所に埋まってるの」
かすみ「へ?」
考えてみれば……なんでせっかく盗ってきた物を埋めちゃうんでしょうか。
しかも、集めて埋めてるわけでもなくて、これ1個だけ……。
かすみ「まるで見つけてくださいとでも言ってるような……」
しずく「……たぶん、そういうことだよ、かすみさん」
そう言いながら、しず子がかすみんの背中に、自分の背中を合わせてくる。
かすみ「え、なになに? どういうこと?」
しずく「周り……見て」
かすみ「え?」
しず子に言われて気付く。周囲の木々の影に──
「グマ」「グマァァ…」「ジグザ…」
白黒のジグザグマの姿が見切れていた。
その数、5匹……10匹……いや、
かすみ「な、なんかものすごい数いない……?」
さっきかすみんの道具を持ち逃げしていった子たちの倍以上……20匹以上はいる気がする。
かすみ「か、完全に囲まれてる……もしかして……」
しずく「……私たち……まんまと誘い込まれたみたい」
かすみ「え、ヤバイじゃんそれ!?」
かすみんが声をあげた瞬間、
「グマッ」「グマァッ!!!!」「グママ!!!」
ジグザグマたちが四方八方から一気に飛び掛かってきた。
かすみ「わぁ!? こっち来た!?」
しずく「く……! 出てきて、キルリア!! マネネ!!」
「──キル!!」「──マネネッ!!」
しずく「キルリア! “チャームボイス”!!」
「キル〜〜♪」
「グマッ!!?」「グザグザッ!!」「ザグマァッッ!!!」
しず子のキルリアが音波攻撃で飛び掛かってくるジグザグマたちを吹っ飛ばす。
かすみ「し、しず子、どうしよう!?」
しずく「とにかく逃げるしかないよ!! かすみさんもポケモン出して!!」
かすみ「えぇ、盗られたかすみんの“どうぐ”は!?」
しずく「言ってる場合!?」
- 626 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:12:29.50 ID:ULDkry570
-
ちょっと口論している間にも、次のジグザグマたちが飛び掛かってくる。
かすみ「ジ、ジュプトル! “シザークロス”!!」
「──ジュプトッ!!!」
「グマッ…!!!?」「グマァッ!?」
ジュプトルを出して、飛び掛かってくるジグザグマを撃ち落とすけど──数が多い。
倒しても倒してもどんどん次が襲い掛かってくる。
かすみ「ぐぬぬ……わかったよ、もう!! 逃げればいいんでしょ!!」
しずく「来た道を戻ろう!! 後ろは任せて! マネネ、“リフレクター”!!」
「マネッ!!!」
マネネが背後に物理攻撃を防ぐ壁を発生させると、そこにジグザグマたちが衝突して、地面に落ちる。
その隙にかすみんは今来た道を塞ぐように群がっているジグザグマたちに向かって、
かすみ「ジュプトル!! “りゅうのいぶき”!!」
「ジュプトォォォォ!!!!!」
「グマ!!?」「ジグザググ!!!!」
攻撃を放って、道を開く。
かすみ「しず子!! 走るよ!!」
しずく「うん!」
しず子の手を取って、かすみんは走り出します。
その間にも四方八方からジグザグマたちが飛び掛かってきますが、
かすみ「“タネマシンガン”!!」
「プトルルルルル!!!!!」
しずく「“マジカルシャイン”!!」
「キルゥッ!!!!」
どうにか、迎撃しながら突き進む。
しずく「マネネ! 振り落とされないようにね!」
「マネッ」
全力で包囲網を突破すると──先ほどまで引っ切り無しに飛び掛かってきていたジグザグマたちの姿が見えなくなる。
かすみ「やった、群れを抜けた……!!」
が、安心するのも束の間、林の中を並走するようにして猛追してくる白黒の影、
「マッスグ!!!!」「グマグマッ!!!」
しずく「今度はマッスグマ……!」
かすみ「もう勘弁してくださいよぉ!!」
両サイドから追ってくる2匹のマッスグマ。
樹々を縫うように、直角カーブを繰り返しながら、少しずつかすみんたちの方に幅寄せするように迫ってくる。
かすみ「は、挟まれる〜……!! “エナジーボール”!!」
「ジュプトッ!!!」
- 627 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:13:14.34 ID:ULDkry570
-
追い返すために、エネルギー弾を放ちますが、
「グマグマグマッ」
相手が速すぎる上に、攻撃が樹に阻まれて、うまく撃退出来ない。
かすみ「そ、そうだ、しず子!! エスパータイプの技でどうにかしてよ!!」
しずく「ガラルマッスグマはあくタイプだから、エスパータイプは効果ないんだよ!!」
かすみ「そ、そんな〜!!」
もう、とにかく走るしかない。必死に足を動かしていると──林の樹々の隙間から光が見えてくる。
かすみ「!! 出口……!!」
林から出てしまえば、その先は広い草原だ。
この視界の悪い林に比べたら、絶対に戦局も有利になるはず……!
かすみん、最後の力を振り絞って、全力でダッシュします。
しずく「かすみさん!! 前、なんかいる!!」
かすみ「へっ!?」
しず子に言われて視線を前に向けると──確かに、何かが立ち塞がっていた。
でも、咄嗟のことで反応しきれず、
かすみ「ぎゃんっ!?」
しずく「きゃぁっ!」
正面からソレに衝突して、かすみんはしず子ともども、すっ転んで尻餅をつく。
かすみ「いたた……」
しずく「かすみさん、大丈夫……?」
かすみ「しず子こそ、平気……?」
しずく「う、うん、でも……」
尻餅をついて蹲るかすみんたちの左右には、
「グマグマグマッ」「マッスグゥッ」
ガラ悪く舌をベロりと出したマッスグマたち、
「グマグマ」「ググマァッ」「ジグザグ」
そして、背後から追いかけてくるジグザグマたちの鳴き声。
さらに、かすみんたちがぶつかった前方の主は──
「……グマァッ」
大きな体躯で立ち塞がり、見下ろしていた。
ガラルのマッスグマをさらに一回り大きくして、ゴツくしたようなポケモン……。
- 628 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:13:50.26 ID:ULDkry570
-
かすみ「な、なんですか……こいつ……」
しずく「た、タチフサグマ……」
かすみ「タチフサグマ……?」
しずく「ガラルマッスグマの進化系だよ……」
かすみ「し、進化系!? マッスグマってさらに進化するの!?」
「──グマァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!」
タチフサグマはかすみんたちに向かって声を轟かせながら、威嚇してくる。
かすみ「う、うるさい……」
しずく「た、タチフサグマは大きな声で相手を威嚇するの……」
至近距離で叫ばれたせいか、頭がガンガンする。
でも、とにかく目の前のこいつをぶっ飛ばさないと、それこそ袋叩きにされる。
かすみ「ジュプトル……!! “リーフブレード”!!」
「ジュプトォッ!!!!」
自慢の草の刃で切り抜けようと、縦薙ぎに振り下ろされた、“リーフブレード”は、
「グマァッ!!!!」
「プトルッ!!!!?」
タチフサグマが前方でクロスしている腕に防がれて、弾かれてしまった。
かすみ「んなぁ!?」
しずく「あれは“ブロッキング”……!」
タチフサグマは、弾き飛ばしてよろけたジュプトルに肉薄し、クロスした腕を開くようにして、“クロスチョップ”をジュプトルに炸裂させた。
「ジュプトォッ…!!!」
かすみ「ジュプトル!?」
吹っ飛ばされるジュプトルをすかさずボールに戻す。
かすみ「あいつ強い……」
しずく「ごめん、かすみさん……」
かすみ「なんで急に謝るの……?」
しずく「まんまとタチフサグマのいる方に誘導されてた……私のせいだ……」
かすみ「しず子のせいじゃないって!!」
しずく「で、でも、このままじゃ……」
かすみ「だから、今考えてるの……!!」
- 629 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:14:47.77 ID:ULDkry570
-
背後からはすでにジグザグマたちが飛び掛かってきていて、マネネの張ってくれた“リフレクター”も限界までは時間の問題。
どうする? 後方のジグザグマたちをどうにか倒して逃げる? ……いや、また林の中に戻っちゃったら、マッスグマから逃げられない。
左右のマッスグマを振り切るのも、かなり難しそうだし……じゃあ、目の前のタチフサグマを倒す……?
かすみんの手持ちのエース、ジュプトルでも歯が立たなかった。
ゾロアでどうにか策を考える……? サニーゴで最悪相打ちを取るとか……いやでも、そもそも相性で負けてるし……。
必死で考えるけど、この場を切り抜けるビジョンがどうにも浮かんでこない。
そんな中でも、
「グマァッ」
タチフサグマがこちらに向かって歩を進めてくる。
絶体絶命。
もう、どうしようもない……。
かすみ「しず子……」
しずく「な、なに……?」
かすみ「かすみんがあいつに突っ込むから、その間に脇を通り抜けて林を出て」
しずく「!? だ、ダメだよ!! そんなことしたらかすみさんが……!」
かすみ「もうこれしかないの!!」
しずく「嫌!! せっかく一緒にまた旅に出られたのに、かすみさんだけおいてなんかいけない!!」
かすみ「しず子、お願いだから……!!」
しずく「嫌!! 絶対に嫌……」
しず子がぎゅっとかすみんの袖を握ってくる。
眼前にはタチフサグマが迫る。
タチフサグマが大きく息を吸ったのが見えた。
かすみんはもうダメだって思っちゃって……目を瞑った。……そのときだった、
「グマ──」
「──クマァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
タチフサグマの雄叫びをかき消すように──大きな鳴き声が響き渡った。
この声は、ずっとかすみんの聞いてきた鳴き声。
かすみ「ジグザグマ……?」
「クマァッ!!!!」
ジグザグマはかすみんの前に立って、自分の何倍もあるタチフサグマの前で、全身の毛を逆立てながら、威嚇していた。
かすみ「何やってるんだ……私……」
何勝手に諦めてるんだ……まだ、自分のポケモンは戦う意思を失ってないのに……。
かすみ「ジグザグマ……!! やるよ!!」
「クマァッ!!!」
しずく「かすみさん!? 無茶だよ!?」
かすみ「無茶でも、ジグザグマがやる気なんです!! “ミサイルばり”!!」
「クママママッ!!!!!」
逆立った体毛を飛ばして、タチフサグマを攻撃する。
- 630 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:15:35.78 ID:ULDkry570
-
「グマ…」
タチフサグマは両腕を上げて防御。ダメージはあんまりなさそうだけど……。足は止まった。
かすみ「しず子!! ジグザグマとマッスグマ任せるから、とにかく時間を稼いで!!」
しずく「……! わ、わかった! やってみる……!」
「キルッ」「マネネッ!!!」
周りの手下たちはしず子にどうにかしてもらう。
かすみんはとにかく、こいつを倒す……!
さっきから見ていると、タチフサグマはカウンター的な攻撃が得意らしい。
つまり、自分から積極的に攻撃してくるタイプではなさそうだ。
かすみ「なら、“はらだいこ”!」
「クマ、クマ〜」
ジグザグマは座るような体勢になって、ぽんぽことお腹を叩き始める。
自分を鼓舞して、攻撃力をフルパワーにする技です。
そっちから来る気がないなら、今のうちに準備を整えるまで、
「グマ…!!」
ですが、相手も戦い慣れしているのか、すぐにこっちの思惑に気付いて、走り出す。
地面にいる小さなジグザグマを、両手でガッと抑えつけると──そのまま、自分もろとも後ろに転がり始める。
しずく「か、かすみさん!! “じごくぐるま”だよ!!」
かすみ「わかってる!! しず子は雑魚散らしに集中してて!!」
相手は見た目通り、近距離技主体のポケモン。
何かしら肉弾戦を仕掛けてくるのはわかっていたから、ここまでは想像の範疇。
あとは──タイミングを間違えるな。
「ク、クマァァ」
「グマァッ!!!!」
“じごくぐるま”は相手もろとも転がったのち、回転の勢いを使って相手を投げ飛ばし、地面に叩きつける技。
叩きつけられるその一瞬、
かすみ「今です!! “こらえる”!!」
「クマァッ!!!!」
ゴッ!! と鈍い音を立てながら、地面に叩きつけられるジグザグマ。
ですが、どうにか攻撃を堪えて耐えきります。
「グマァッ!!!」
もちろん、すぐに追撃しようと、タチフサグマは起き上がって、ジグザグマに向かって走り出しますが、
「グ、マァッ!!?」
急にタチフサグマが痛そうな声を上げて怯んだ。
- 631 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:16:28.76 ID:ULDkry570
-
しずく「え!?」
かすみ「……痛いですよねぇ!! 足に鋭い欠片がぶっ刺さったら!!」
しずく「欠片……!? って、まさか……!?」
タチフサグマが痛そうに持ち上げた足の下には──黄色の輝く欠片が一つ。
しずく「“げんきのかけら”!?」
そう……! “じごくぐるま”を受けてる最中に、さっき拾った“げんきのかけら”を地面に突き立てて、即席の“まきびし”代わりにしたわけです!!
一発怯ませれば十分……!!
「クマァッ!!!!」
今度は逆にタチフサグマの懐に飛び込んでやります。
「グマッ!!?」
かすみ「かすみんたちのフルパワー!! 食らいやがれです!! “じたばた”!!!!」
「クマクマクマァァァァァ!!!!!!」
ジグザグマはタチフサグマの懐に潜り込みながら、全身の硬い毛を擦り付けるようにして、激しく攻撃する。
かすみ「“こらえる”で体力もギリギリ!! しかも、“はらだいこ”でフルパワーになった最大威力の“じたばた”です!!」
「クマァッ!!!」
「グマァァッ!!!!」
全身をくねらせながら、硬い毛と爪と牙で無茶苦茶に攻撃しまくって、タチフサグマをぶっ飛ばす。
「グマァッ…!!!」
見た目からは想像も出来ないようなパワーで吹っ飛ばされたタチフサグマは、樹に背中を打ち付けられて、ガクりと首を垂れたのでした。
かすみ「よっしゃぁ!! やってやりました!!」
「クマァッ…」
が、喜びも束の間で、
「マ、マネネェッ!!」
しずく「きゃぁっ!!?」
──パリンという何かが砕ける音と共にしず子の悲鳴。
“リフレクター”が破られた。
かすみ「……っ!?」
せっかく、タチフサグマを倒したのに、このままじゃ逃げ切れない。
かすみ「しず子……!!」
しず子に向かって飛び掛かるジグザグマたちがスローモーションに見えた。
視界の端では、マッスグマたちが“リフレクター”が壊れたことを認識して、飛び出そうと構えているのもわかった。
ダメだ。間に合わない。
かすみ「しず子ぉぉぉぉ!!!! 逃げてええええぇぇぇ!!!!」
- 632 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:18:13.06 ID:ULDkry570
-
叫ぶかすみん。だけど、しず子たちはもう逃げる余裕なんてなくて──白黒の毛むくじゃらがしず子たちに爪を立てようとした、瞬間、
「──キュウコン! “ひのこ”!!」
「コーーンッ!!!!!」
9つの火の玉が──飛び掛かってくるジグザグマたちをピンポイントで撃ち抜いた。
しずく「え……?」
かすみ「へ……」
突然の攻撃に驚いたのか、
「グマッ!!?」「グママ、グマグマッ」「グマ、ググマッ!!!」
ジグザグマたちは一目散に逃げ出し始める。
かすみ「あ、そ、そうだ……! マッスグマは……!」
「そっちも、大丈夫だよ」
優しい声と共に、
「ワンワンッグルルルルッ!!!!!」
激しいうなり声をあげる、黄色と黒の犬ポケモン──パルスワンが視界に入る。その傍らにはすでに1匹仕留めたのか、マッスグマが伸びていた。
バチバチと牙の周りに稲妻を迸らせて、もう1匹のマッスグマを威嚇している。
「グ、グマ…」
形勢が悪くなったと思ったマッスグマが逃げ出すと、
「ワンッ!!!!!」
パルスワンは駆け出し、追いかけていく。
気付けば……あれだけいたジグザグマやマッスグマの群れは、1匹残らずいなくなっていたのでした。
かすみ「た、助かった……?」
「大丈夫? 二人とも?」
「このタチフサグマ、かすみちゃんがやったの? すごいわね、お姉さん、ちょっとかすみちゃんのこと見直しちゃったわ」
声の主の方へ振り返ると──先ほどのお姉さんたちの姿。
しずく「果林さん!!」
かすみ「エマ先輩ぃぃぃ!!」
エマ「二人とも、怪我してない?」
果林「怪我の手当てもいいけど……一旦、林から出ましょうか。ここだと見晴らしが悪いわ」
エマ先輩と果林先輩の助太刀によって、どうにか窮地を脱したのでした。
- 633 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:19:27.73 ID:ULDkry570
-
👑 👑 👑
かすみ「パルスワン……戻ってきませんけど……」
エマ「パルスワンは三日三晩走っても大丈夫だから、疲れて動けなくなったマッスグマをちゃんと捕まえて戻ってきてくれるはずだよ」
果林「スピードでもマッスグマに負けてないしね」
エマ先輩の言葉に、果林先輩がそう補足する。
果林「それにしても、タチフサグマの雄叫びが聞こえて向かってきたら……貴方たちが戦っているんだもの。驚いたわ」
しずく「危ないところを助けていただいて……ありがとうございました……」
エマ「こっちこそごめんね……こんな場所に縄張りを作ってたなんて知らなかったから……」
しずく「あのガラルジグザグマたちが、本来ここにいないポケモン……ということですよね」
エマ「うん! だから、全部捕まえちゃうつもり!」
果林「って言っても、ボスはかすみちゃんが倒してくれたから、まとまりのなくなったジグザグマたちを捕まえるくらいならわけないと思うわ」
そう言いながら、果林先輩は今しがた捕獲した、タチフサグマの入ったボールをエマ先輩に手渡しながら言う。
エマ「ちょこちょこ草原エリアで目撃情報はあったんだけど……巣や縄張りがわからなくて捜索にずっとてこずってたんだ……。でも、二人のお陰で、どうにか全部捕まえられそうだよ〜。ありがとう」
かすみ「とりあえず……もう当分あんなのとは戦いたくないです……」
果林「ふふ、ジャイアントキリングだったものね」
そう言いながら、果林先輩がかすみんのジグザグマに視線を落とす。
果林「早速、その経験が反映されそうだけど?」
かすみ「え?」
言われてジグザグマを見ると、ジグザグマがぶるぶると震えていた。
進化の兆候だ。
かすみ「いけないいけない……!」
かすみんは図鑑を取り出して、キャンセルボタンを押す。
果林「あら……進化キャンセルしちゃうの?」
かすみ「はい! かすみんたち……まだしばらくはこのままでいいかなって」
「クマ」
かすみ「この姿でも工夫次第で戦えること、わかっちゃいましたから!」
「クマァ♪」
だから、進化はもうちょっと先でいいかな? いつか、本当に力が必要になったときまで、進化はお預けです!
エマ「二人はこのまま、ダリアに行くんだよね?」
しずく「はい、そのつもりです」
エマ「それじゃ、ドッグランを抜けるまで付き合うね! って言っても……他にはそんなに好戦的なポケモンはいないと思うけど……」
かすみ「助かりますぅ……かすみんもう結構くたくたなんで」
万が一にも、もうバトルはしたくない。
何かあったらエマ先輩たちに戦ってもらいましょう……。
- 634 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:20:32.53 ID:ULDkry570
-
果林「それじゃ、早く行きましょう。日が暮れちゃう前にエマを家まで送りたいし」
エマ「果林ちゃーん! そっちは、コメコ方面だよー!!」
果林「……わ、わかってるわよ……/// まだジグザグマが残ってないか確認しようとしただけ……///」
かすみ「……バトルもコンテストも強くて、スーパーモデルなのに……方向音痴……」
果林「……あら、何か言ったかしら〜?」
かすみ「ぴぇ! な、なんでもないですぅ〜! 早く行きましょう〜!」
果林「全く……」
ぞろぞろとダリア方面へと歩き出す。
かすみ「……あれ?」
しずく「どうしたの? かすみさん?」
かすみ「何か忘れてるような……」
そもそも、何か目的があって、ジグザグマたちを追いかけてたんじゃないっけ……。
かすみ「あっ!! 盗られた“どうぐ”!!」
しずく「もう、諦めよう。本当に日が暮れちゃうよ」
かすみ「そ、そんなぁ〜……かすみんたち頑張ったのにぃ……」
エマ「ジグザグマたちを捕獲するときに見つけたら、かすみちゃん宛てにポケモンセンターに届けておくよ」
かすみ「うぅ……そうしてくれると助かりますぅ……。ジグザグマ、また頑張って集めようね……」
「クマァ♪」
傾き始めた日が照らす中、落ち込むかすみんとは対照的に、ジグザグマは尻尾をぶんぶん振りながら、楽しそうに鳴き声をあげるのでした。
- 635 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 13:21:12.70 ID:ULDkry570
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【4番道路】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. ●|  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 かすみ
手持ち ジュプトル♂ Lv.31 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.25 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.30 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.23 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:130匹 捕まえた数:6匹
主人公 しずく
手持ち ジメレオン♂ Lv.21 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
マネネ♂ Lv.20 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アオガラス♀ Lv.20 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロゼリア♂ Lv.20 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
キルリア♀ Lv.22 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:139匹 捕まえた数:9匹
かすみと しずくは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 636 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 20:27:50.75 ID:ULDkry570
-
■Intermission👏
──コメコシティ・DiverDiva拠点。
姫乃「──姫乃、戻りました」
愛「あれ? 姫乃っちじゃん」
声に振り向いてみると、姫乃っちの姿があった。
この子は大抵カリンの企み事に付き合って、地方中を行ったり来たりしているから、こうして拠点で会うのは珍しい。
姫乃「はい、今は果林さんから特に指示もないので……一度拠点に顔を出そうかと思って……」
そう言いながらしきりにキョロキョロとしている姫乃っち。
愛「カリンならいないよー」
姫乃「そうなのですか……?」
露骨に残念そうな顔をする。
姫乃「して……果林さんはどちらへ?」
愛「カリンなら、今エマっちとドッグランにいるよ」
姫乃「は?」
愛「なんでも、ラクライの縄張りを元の場所まで引っ張るのをお願いされたんだとさー。自分で牧場側に呼び出す作戦立てておいて、よくやるよねー」
姫乃「ありがとうございます、愛さん。それでは行ってまいります」
愛「待った待った。どこ行くつもりよ」
姫乃「もちろんドッグランへ……」
愛「ダメに決まってるでしょ。ってか、カリンに怒られるよ」
姫乃っちはカリンが自由に動くために、外での接触タイミングはかなり限られている。
ましてや、エマっちとカリンが一緒にいるタイミングで出て行くなんて言語道断だ。
姫乃「……」
愛「愛さんに向かって、そんな不機嫌そうな顔されても困るんだけど」
姫乃「果林さんは、あの現地人と距離が近すぎます……」
愛「それは前にも聞いたし、カリンにも伝えたよ。でもまあ、しょうがないじゃん?」
姫乃「愛さんはいいんですか」
愛「何が?」
姫乃「果林さんがあの現地人にうつつを抜かしていても何も思うことがないと」
愛「やることやってくれてれば私はどっちでもいいんだよねー。それに──私はカリンに逆らえないし」
そうおどけながら、首輪をつまんで見せる。
- 637 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 20:28:45.08 ID:ULDkry570
-
姫乃「そうですか……まあ、貴方には期待していません」
愛「酷いこと言うねぇ、姫乃っち」
姫乃「そうですか? ご自分にどうして、そんな首輪が着いているかを考えればわかることでは?」
愛「……」
姫乃「……失礼。言いすぎました」
愛「ま、いいよ、別に」
まあ、姫乃っちからしたら、アタシは目の上のたんこぶみたいなもんだからね。
別にいちいち怒るようなことでもない。
姫乃「お詫びと言ってはなんですが……面白い情報を手に入れてきましたよ」
愛「面白い情報?」
姫乃っちが私にデータの入ったUSBを手渡してくる。
早速データを読み込むと──人物資料が入っていた。
愛「ナカガワ・菜々……? ……ローズのジムリーダーの秘書……?」
情報に適当に目を通していく。ローズのジムリーダーと言えばマッキーだけど……。
愛「……って、ずいぶん若いね」
16歳で、ジムリーダーの秘書……? トレーナーとしてはそれくらいで大成してる人はいくらでもいるけど……トレーナーとしての経歴もないし……。
姫乃「はい、私もそう思いまして。合間に調べていたんですが……面白い人物と結びつきまして」
愛「面白い人物……?」
画面を下にスクロールしていくと──その人物の情報があった。
愛「……マジで?」
姫乃「十中八九、間違いないかと」
愛「……なるほどね」
なるほどどうして……これは叩けば埃が出そうな話だ。
愛「いいね……カリン、こういうの好きだと思うよ」
姫乃「ありがとうございます。果林さんに伝えておいてください」
そう言うと、姫乃っちは背を向けて、拠点から出ていこうとする。
愛「カリンに会ってかないの?」
姫乃「私の役目は果林さんの役に立つことですから。また、何か情報を探してきます」
そう残して、姫乃っちは拠点から出て行ってしまった。
愛「真面目だねぇ」
思わず肩を竦める。
それにしても──
愛「これは……面白いことになるかもね」
- 638 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/29(火) 20:29:22.97 ID:ULDkry570
-
私はモニターに映る人物の資料を見ながら、一人呟くのだった。
「ベベノー」
………………
…………
……
👏
- 639 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:35:44.01 ID:4td2vpP20
-
■Chapter033 『叡智の行き先?』 【SIDE Kasumi】
──ドッグランを抜けて、ダリアシティに着いた頃にはすっかり日も落ちていて……。
エマ先輩たちと別れた後はすぐに宿を探して、部屋に入った後は特に何をするでもなく寝てしまった。
……疲れていましたからね。
と、言うわけで、
かすみ「改めて……ダリアシティ、到着しましたよー!」
ホテルを出ると、すでに白衣を纏った人たちがちらほらと歩いているのが見える。
かすみ「博士がたくさんいるんですかね、この街は……」
しずく「当たらずとも遠からずかな。ここは学園都市だからね。きっと、あの人たちは研究者の人たちだよ」
かすみ「へー……」
かすみんからしてみると、好き好んで勉強をしているなんて、物好きな人たちって思っちゃいますけど……。
しずく「ところで、これからどうするの? やっぱりジム?」
かすみ「もちろん! ……と、言いたいところなんだけど」
しずく「……? かすみさんがジムに直行しないなんて珍しい……どこか行きたいところでもあるの?」
かすみ「行きたいところというか……新しい手持ちが欲しいんだよね」
しずく「新しい手持ち……? ジム戦に備えてってこと?」
かすみ「そゆこと!」
しずく「え……? 本当にそういうことなの?」
かすみ「何、その反応」
しずく「……もしかして、熱ある?」
かすみ「何!? その反応!?」
しずく「だって……行き当たりばったりなかすみさんが、ジム戦のために準備だなんて……」
なんて失礼なしず子なんでしょうかね。
- 640 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:37:04.95 ID:4td2vpP20
-
かすみ「かすみんだって、準備くらいするもん! ……それに、ここのジムリーダーには絶対負けられないんですよ……」
しずく「ダリアのジムリーダーって言うと……にこさんだっけ」
かすみ「そう!! ヤザワ・にこです!!」
しずく「なんでフルネーム……」
かすみ「ヤザワ・にこと言えば、アイドルポケモントレーナーなんですよ!!」
しずく「ああ、うん。そうだね。テレビとかでも見ることあるよね」
かすみ「許せません!!」
しずく「……だから、何が?」
かすみ「かすみんとキャラが被ってるじゃん!!」
しずく「被って……るかな……?」
かすみ「だから、かすみん、ここのジムリーダーにだけはぜーったい負けたくないんですよ!!」
しずく「はー……だから、対策用のポケモンが欲しいのね」
かすみ「そういうこと! んで、しず子!」
しずく「今度は何?」
かすみ「ジムリーダーのタイプと相性の良いタイプ教えて!」
しずく「あ、そこは知らないんだ……」
しず子は呆れたように、肩を竦める。
しずく「えっと……にこさんのエキスパートタイプはフェアリーだね。となると……相性が良いのは、はがねタイプかな……」
かすみ「はがねタイプぅ〜……? はがねタイプって、どこにいるんだろう……」
しずく「うーん……山岳地帯に多いイメージだけど……」
かすみ「えー山ぁ〜? なんかもっと楽そうな場所にいないの?」
しずく「楽そうな場所って言われても……。……あ、そうだ」
しず子は何かを思いついたようで、ポンと手を叩く。
かすみ「なになに? 良い場所思い浮かんだ?」
しずく「うん! 良い場所思い浮かんだよ!」
👑 👑 👑
──と、言うわけでやってきたのは……。
かすみ「野生ポケモン捕獲研究室……?」
しずく「ダリアにはたくさんの研究室があってね。野生のポケモンと捕獲についての研究室があったことを思い出したの」
かすみ「……で、ここがどうしたの?」
しずく「なんとね、ここの中では野生ポケモンが生息する環境が再現されていて、しかも、ここにいるポケモンを野生ポケモンと同様に捕獲していいことになってるんだよ!」
かすみ「え、ホントに?」
しずく「その代わり捕獲のときに使った技やボールとかは記録されるけどね。ここなら、はがねタイプも探しやすいかもよ」
かすみ「なるほど! しず子、冴えてる!」
かすみん、早速研究室にお邪魔します。
- 641 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:38:02.53 ID:4td2vpP20
-
かすみ「失礼しま〜す!」
室員「おおっ? 見ない顔だけど、見学者かな?」
入ると、いかにもな白衣を着て、眼鏡を掛けた人に出迎えられる。
──いかにもって言う割に、他の部分は赤髪を両サイドで縛っている、背の低い人で……ビジュアル的には本当にこの人研究者さんなのかなと思ったけど。
かすみ「はい! ここでポケモンを捕まえられるって聞いて!」
室員「カッカッカッ! 吾輩たちの研究室も随分有名になったものだな! ああ、確かにここでは自由に捕獲が出来るぞ」
……なんか、随分キャラが濃い人が出てきましたね。口調にやや面食らっていると、
しずく「はい。私たち、はがねタイプのポケモンを探してまして……」
しず子が事情の説明を始める。
室員「はがねタイプか……わかった、案内しよう」
しずく「はい、お願いします。かすみさん、行こう」
かすみ「あ、うん」
しず子は気にならないのかな……って思ったけど……まあ、研究者さんって変わり者が多そうだし、そういうものなのかも。
適当に自分を納得させつつ、案内された奥の部屋へと到着する。
室員「ここが、はがねタイプのポケモンがいるエリアだ。あとは自由に捕獲してくれたまえ」
そう言って、研究員の人は出ていこうとする。
かすみ「あれ? 記録する人とかいないんですか? 使った技とかボールとか記録するって聞きましたけど……」
室員「ああ、その辺は全てロボットが使用技やボールを判別するから、誰かが見て確認することはないんだ。吾輩たちも何かと忙しいからね。ただのデータ収集なら機械化してしまうに越したことはないしな」
かすみ「へ、へー……そうなんですね」
随分とハイテクですね……。確かに言われてみれば、そこらへんに観測機っぽいものがたくさんある。
なるほど、あれで技とかは判別するってことですね……。
室員「それに、自然環境では観測者は普通いないからね。少しでも野生捕獲を再現するためには必要なことなのだよ」
かすみ「な、なるほどー」
室員「それじゃ、後は好きに捕獲してくれたまえ」
そう残して、研究室の人は部屋を出て行ってしまった。
かすみ「……なんか、変わった人だった」
しずく「確かに独特の雰囲気ではあったね……」
かすみ「まあ、いいや……今は捕獲!」
新戦力拡充のためにも、案内された室内を見回す。
はがねタイプのために部屋の中を見回すと──どう見ても人工の研究室といった感じの室内だった。
かすみ「……? これのどこが自然再現なの……?」
しずく「あ、かすみさん、ここにこの部屋の解説掲示があるよ」
しず子に言われて、入り口のすぐ傍にある説明書きを見てみると、
- 642 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:38:34.77 ID:4td2vpP20
-
かすみ「『無人発電所の環境再現』……?」
と書いてあった。
しずく「なるほど……。確かに無人の発電所とかには野生ポケモンが棲み付くって聞いたことあるかも」
かすみ「へー……はがねタイプってそういうところにいるもんなの?」
しずく「確かに人工物に棲み付くポケモンには、はがねタイプのポケモンもいたと思う」
かすみ「例えば?」
しずく「えーっと……コイルとか」
かすみ「コイルって……あの丸っこいやつだっけ」
かすみんは頭にコイルを思い浮かべる。
丸いボディに磁石をくっつけたような見た目のあのポケモン。
かすみんがぼんやりコイルを頭に思い浮かべている矢先、
しずく「あ……! 早速いたよ! コイル!」
早速コイルが機材の物陰から、浮遊して出てきた。
確かにかすみんの記憶通りのコイルです。
『コイル じしゃくポケモン 高さ:0.3m 重さ:6.0kg
生まれつき 重力を さえぎる 能力を もち 電磁波を
出しながら 空中を 移動する。 電線に くっついて
電気を 食べ 停電の 原因に なることがある。』
しずく「どうかな、コイル。はがねタイプだし、結構可愛いと思うんだけど」
かすみ「う、うーん……確かに、可愛いと言えば可愛いけど……」
「ビ、ビビ?」
コイルと目が合う。一つ目でジロジロとかすみんを観察していますが……。
かすみ「なんか……こういう可愛いじゃないというか……」
しずく「ええ……わがままだなぁ……」
かすみ「他! 他にいないかな!」
かすみん、とりあえずコイルは保留です。
まだ1匹目だし、せっかく捕まえるなら吟味したいもん!
しずく「あとは……あ、見て! ギアルがいるよ!」
かすみ「ギアル?」
しず子が指差す方に目をやると──歯車が2つ合わせたようなポケモンがいた。
かすみ「あれがギアル……」
『ギアル はぐるまポケモン 高さ:0.3m 重さ:21.0kg
2つの 体は 組み合わせが 決まっている。 別の 体とは
噛み合わずに 離れてしまう。 大昔に ギアルを 見た
人間が 歯車の 構造を 思いついたと 言われている』
- 643 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:47:33.87 ID:4td2vpP20
-
しずく「あのポケモンもはがねタイプだよ。どう?」
かすみ「……」
しずく「あの表情とか可愛くない?」
かすみ「なんか、無機質な感じがする……」
しずく「……もう! かすみさん、文句ばっかり!」
かすみ「だって、かすみんの可愛いのイメージと違うんだもん! しょうがないじゃん!」
しずく「……はぁ。……じゃあ、どういう子がかすみんさんの可愛いのイメージなの……?」
かすみ「えぇ〜? それは、ピカチュウとかピッピみたいな、いかにも妖精みたいな感じの子かなぁ〜?」
しずく「はがねタイプでそんなポケモンいたかな……」
しず子はうーんと頭を悩ませ始める。
かすみ「しず子、頑張って思い出して! かすみんの新しい手持ちが懸かってるんだから!」
しずく「かすみさんも考えてよ……」
かすみ「だって、かすみん、しず子ほどポケモンの種類、わかんないし……」
しずく「頼ってくれるのは嬉しいけど……あんまり、人任せにしてると罰が当たるよ?」
かすみ「罰当たりでも地獄に落ちても、可愛いは最重要の正義なの!」
しずく「ええー……まあ、いいけど……そうだなぁ……」
しず子が考えてくれている間、辺りを見回すけど──コイルやギアルばっかり。
なんだか、ここには目ぼしいポケモンは居ないのかも……。
ジム戦用の新しいポケモン、どうしようかな……。そう思いながら、偶然壁際にあった、腰掛が目に入る。
待ってる間疲れちゃうし座ってよっかな。
かすみんが腰掛に座った瞬間──ガクンと身体が後ろに傾いた。
かすみ「え!?」
そのまま、かすみんの視界はぐるっと回転し──天井が見えたかと思ったら、すぐに暗闇に包まれる。
しかも、謎のスピード感と浮遊感──もしかして、かすみん……落ちてる!?
かすみ「きゃぁぁぁぁぁ!!?」
気付いたときには、かすみんは何やら狭い管のようなものの中を頭から滑り落ちていた。
かすみ「なになになになに、なんなのぉぉぉぉ!!?」
絶叫するかすみん。
が、すぐに管は終わり──開けた場所に放り出される。
……もちろん、そんな管から飛び出した場所は地面なんかではなくて、
かすみ「ぎゃぁぁぁぁぁ!! 落ちるぅぅぅぅぅ!!!」
かすみんは開けた空間の中を真っ逆さまに落ちていく。
時間として数秒もしないうちに──ぼふっと音を立てて、何かの上に落着した。
かすみ「……はぁ、はぁ……い、生きてる……?」
- 644 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:48:09.29 ID:4td2vpP20
-
心臓がバクバクと爆音を上げているが、どうやら何か柔らかいものの上に落ちたらしい。
お陰でどうにか助かったらしい。……でも、
かすみ「く、臭い……」
強烈な悪臭が立ち込めている場所だった。鼻が曲がりそうになって、思わずハンカチを取り出して鼻と口を覆う。
かすみ「ここ、どこ……」
周囲を見渡してみるも、真っ暗で全然わからない。
かすみ「そうだ……出てきてジュプトル」
「──ジュプト」
かすみ「“フラッシュ”」
「プト」
ジュプトルが腕の葉っぱの先を光らせ、周囲を明るく照らす。
“フラッシュ”によって照らされたここは……大きなビニール袋があちこちに積まれている場所だった。
かく言うかすみんが落ちた柔らかいものの上というのも、ビニール袋の上……。
かすみ「……ここ、どこ……?」
眉を顰める。めっちゃ暗くて、割と広くて、かなり臭い場所……。
さっきまで研究室にいたはずなのに……。
「──……ゴミの保管所だよ」
かすみんの疑問に答えたのは上から降ってきた声。
声のする方に視線を向けると、
かすみ「あ、しず子!」
しず子がアオガラスに掴まって、ゆっくり下りてきているところだった。
しずく「もう……突然消えたかと思ったら、悲鳴が聞こえてきて、何かと思ったよ……。……それにしても、すごい臭い……」
しず子もかすみんと同じようにハンカチで鼻と口を覆いながら、そんなことを言う。
かすみ「……ってか、今ゴミの保管所って言った? かすみん、なんでそんな場所にいるの? かすみん、腰掛に座ろうとしただけなんだけど……」
しずく「はぁ……かすみさん、口の空いてるダスト・シュートに腰掛けたでしょ……」
かすみ「“ダストシュート”……? なにそれ……? ポケモンの技……?」
しずく「そっちじゃない。簡単に言うと、建物に付けられたゴミ捨て場への直通の管みたいなものかな……」
かすみ「え……じゃあ、かすみんもしかしてゴミ捨て場に落ちちゃったってこと!?」
しずく「さっきからそう言ってるでしょ」
しず子が呆れた顔で肩を竦める。
- 645 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:48:49.43 ID:4td2vpP20
-
かすみ「なんでそんな危ないものの口、開けっ放しにしておくの!?」
しずく「鉄製だったから、コイルたちがいたずらで開けちゃったのかもしれないね……危ないことには代わりないけど。でも、元はといえばロクに確認もせず腰掛けたかすみさんが悪い」
かすみ「う……」
しずく「早速罰、当たったね」
かすみ「……」
しずく「……あ、どっちかいうと地獄に落ちたの方がそれっぽいか……。ゴミ捨て場なんて、ある種の地獄みたいなものだし……」
かすみ「半端にうまいこと言わないでよ……」
思わず項垂れてしまう。
可愛いポケモンを探しに来たはずなのに、よりにも寄ってゴミ捨て場に落ちてきちゃうなんて……。
かすみ「とにかく早く上に戻ろう……」
しずく「そうしたいのは山々なんだけど……」
かすみ「?」
しずく「あそこまで飛ぶのはちょっと難しいかも……」
そう言いながらしず子が見上げる先を目で追うと──結構高い場所に穴が見えた。
どうやら、あそこから落ちてきたらしい。
かすみ「え、じゃあどうするの?」
しずく「ここ自体がゴミ処理場なわけじゃないから……ゴミを運搬するための出入り口がどこかにあるはずだよ。そこを探そう」
そう言いながら、しず子はかすみんの手を取って、ゴミ袋の山を一歩ずつ下り始める。
しずく「足元……不安定だから、また転がり落ちないようにね」
かすみ「……ねぇ、しず子」
しずく「何?」
かすみ「もしかして……こんな場所だってわかってて、助けに来てくれたの……?」
しずく「そりゃそうでしょ……目の前で落っこちたら、助けに行かないわけにいかないし……」
かすみ「ふ、ふーん……そうなんだ……」
しずく「なんで嬉しそうなの」
かすみ「いやその……しず子だったら、呆れて自分でどうにかしなさいとか言うのかなって思ったから……」
しずく「呆れてはいるけど……言わないよ。私だって……何度もかすみさんに助けられてるんだから。お互い様」
かすみ「しず子……」
しずく「とにかく、早く外に出ちゃおう。腐敗したガスとかが充満してるだろうし……長くいると身体に悪いと思うから」
かすみ「う、うん! そうだね!」
かすみんたちは少しでも早く脱出するために、転ばない程度に早足でゴミ袋の山を駆け下ります。
- 646 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:49:32.01 ID:4td2vpP20
-
👑 👑 👑
かすみ「思った以上に広いね……ここ……」
しずく「街全体のゴミを全部ここに集めてるらしいからね……ダリアの地下ほぼ全域に広がってるって聞いたことがあるかも……」
結構歩いたつもりですが、景色はゴミ山が続いている。
見通しが悪く、足場も悪いためか思った以上に前に進めてないというのはあるだろうけど……それでも、かなり広い空間であることには違いない。
気付けば、ジュプトルの“フラッシュ”だけでは心もとなかったのか、しず子もキルリアとマネネを出して“フラッシュ”をしているお陰で、暗闇で困るということはなくなった。
かすみんの手持ちはほとんど灯りになる技が使えないから助かりますね……。
かすみ「それにしても……なんでこんな大きなゴミ捨て場を使ってるんだろう……? セキレイではダスト・シュートなんてなかったよね?」
しずく「もともとダリアって街の東側が切り立った崖になってて……街中でゴミを運び出すよりも、一旦街の地下に落として、崖下の6番道路から運び出すのが効率がいいからって聞いたことがあるかな。通称『叡智のゴミ捨て場』なんて言われることもあるみたい」
かすみ「へー……じゃあ、ゴミ捨て場のためだけに、わざわざ地下を掘ったってこと?」
しずく「うぅん、ここは元からあった空間みたい」
かすみ「元から? どゆこと?」
しずく「もともとは、大昔ダリアに住んでいた貴族が有事の際に逃げ込むための地下壕として掘られたとか」
かすみ「え、ここってお姫様とかが住んでたの?」
しずく「お姫様かはわからないけど……貴族制度があった時代では、ここが首都的な扱いだったらしいね。今でこそ、貴族なんて階級もなくなって、残された街は学園都市になったけど……ダリア図書館の時計塔なんかはその当時から残ってる建造物の1つらしいよ」
かすみ「へー、しず子めっちゃ詳しいじゃん」
しずく「歴史の授業で習ったと思うんだけど……」
かすみ「歴史の授業なんて、起きてたことない……」
しずく「はぁ……全く……。……上層に街を発展させる中で、下層を有効活用するために、ここが大規模なゴミの保管施設がなったみたいだね。……まさか、こんなに大きいとは私も思ってなかったけど」
かすみ「なんかそれっぽく言ってるけど、ゴミを毎日出すのがめんどくさくなっただけだったりして……」
しずく「あはは……あながち間違いでもないかもね……研究者たちが1分1秒でも多く時間を使うために、ゴミをまとめてここに捨ててただけって言う説もあるからね……」
しず子からダリアの歴史について聞きながら、歩を進めていく。
しずく「……ふぅ」
かすみ「しず子、疲れた?」
しずく「ちょっと……」
この足場の悪い場所でずっと歩き続けているんだから無理もない。
かすみ「少し休憩しよっか」
しずく「いや……大丈夫だよ」
かすみ「いいから」
しず子にはあまり無理をさせたくない。空気が悪いから、あまり留まらない方がいいというのは確かだけど……。
少しでもゴミの少なそうな場所を探して、周囲をキョロキョロと見回していると──ガサガサッと、音を立てながら……ゴミ袋が動いていた。
かすみ「!? ……ゴミ袋が動いた!?」
「ヤブ…」
かすみんが声をあげると、それに反応して、ゴミ袋が──睨んできた。そして、その直後、
- 647 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:50:55.19 ID:4td2vpP20
-
「ヤブーー!!!!」
鳴き声をあげながら、こっちに向かって飛び掛かってきた。
かすみ「な、なんかこっちきたぁ!? じ、ジュプトル、“エナジーボール”!!」
「プトォル!!!」
「ヤブゥッ!!?」
咄嗟に“エナジーボール”で迎撃すると、そいつは吹っ飛びながら、ゴミ袋の上を転がっていく。
しずく「かすみさん! あれ、ポケモンだよ!」
かすみ「ポケモン!?」
かすみんはすぐさま図鑑を開きます。
『ヤブクロン ゴミぶくろポケモン 高さ:0.6m 重さ:31.0kg
不衛生な 場所を 好む。 満腹まで ゴミを 喰らうと
口から 毒ガスを 吐き出す。 うっかり かぐと 即 入院
ゴミで 汚したまま 放っておくと 部屋にも 現れて 棲みつく。』
かすみん「ホントだ……! ヤブクロン……!」
これだけゴミがたくさんある場所だ。ゴミが好きなポケモンたちからしてみれば楽園……いてもおかしくはない。
「ヤブクゥ…」
吹っ飛ばされたヤブクロンはすぐに身を起こして、再びこっちを睨みつけてくる。
「ヤブクゥーー!!!」
突然叫んだかと思ったら──周囲のゴミ袋の中から、
「ヤブ」「ブクロン」「ヤーブク」
ヤブクロンたちが飛び出してきた。
かすみ「こ、これって、もしかしてヤバイ……?」
しずく「た、たぶん、縄張りを荒らされたと思って……怒ってるんじゃないかな」
かすみ「だ、だよねー」
「ヤブクゥッ!!!!」
最初の1匹の合図と同時に、一気にヤブクロンたちが飛び掛かってきた。
かすみ「やば……!! 逃げるよ、しず子!!」
しず子の手を取って、走り出す。
しずく「かすみさん!? 下!?」
かすみ「へっ!?」
しず子の声で、真下に顔を向けると──
「ヤブク…!!!!」
足元から飛び出してきたヤブクロンがかすみんの顔に張り付いてきた。
- 648 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:51:37.45 ID:4td2vpP20
-
かすみ「!!?!!? ──む、むぐー!!!」
しずく「キルリア!! “ねんりき”!!」
「キルゥッ!!!」
「ヤブッ!!?」
すぐさま、しず子のキルリアがサイコパワーで引きはがしてくれる。
かすみ「うっ、げほっげほっ……!! くっさ……!!」
しずく「かすみさん、大丈夫!?」
かすみ「う、うん……ガス吸ったわけじゃないから……っ……でも、鼻曲がりそう……っ……」
再びハンカチを口元に当てて走り出すけど、あまりの激臭に泣きそう……。
その間もヤブクロンたちはひっきりなしに飛び掛かってくる。
しずく「マネネ! “サイケこうせん”!! アオガラス! “みだれづき”!!」
「マネッ!!!」「カカカカカァッ!!!!!」
かすみ「ジュプトル! “りゅうのいぶき”!!」
「プトルッ!!!!」
飛び掛かってくるのを迎撃しますが、不安定な足場のせいで思うように前に進めない。
このままじゃ物量で潰される……!!
かすみ「そ、総力戦です!! ゾロア、ジグザグマ、サニーゴ!! 出て来て!」
「──ガゥッ!!!」「──クマァッ」「──……」
しずく「私も……! ジメレオン、ロゼリア!」
「──ジメ…」「──ロゼッ!!!」
それぞれ手持ちを全部出して、飛び掛かってくる大量のヤブクロンたちを撃退する。
かすみ「“あくのはどう”!! “ずつき”!! “ナイトヘッド”!!」
「ガーゥゥッ!!!!」「ク、マァッ!!!」「……ニ」
しずく「“みずのはどう”!! “マジカルリーフ”!!」
「ジメェ…!!」「ロッゼッ!!!!」
「ヤブッ!!!?」「ブクローンッ!!!?」「クロンッ!!!?」
かすみ「よっし……! どうにか捌き切れてる……! サニーゴ行くよ!!」
「……サ……」
どうにか追っ払いながら、しず子の手を取り、動きが鈍いサニーゴを小脇に抱えて、ゴミ捨て場の中を駆け回る。
その際、
しずく「かすみさん!! あれ、なんか変じゃない!?」
しず子がそう言いながら、かすみんの手を引っ張る。
かすみ「へっ!?」
言われて、見てみると──
「ヤブッ」「ブクロンッ」「ヤブゥッ」
大量のヤブクロンが何かに群がっている。
最初は餌があそこにあるのかなと思ったけど……雰囲気的に何かに怒っているような感じだった。
- 649 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:52:11.67 ID:4td2vpP20
-
かすみ「なんかを攻撃してる……!?」
しずく「まさか、私たちみたいに落ちてきた人なんじゃ……!」
かすみ「……!?」
さすがにそれは放っておくわけにはいかない。
かすみ「しず子!! サポートして!!」
しずく「う、うん!」
かすみんは一人でヤブクロンたちが群がってる場所に駆け寄りながら、抱えたサニーゴを前方にかざす。
かすみ「“パワージェム”!!」
「……ニゴ……」
──ヒュンヒュンと輝くエネルギー弾が飛び出し、
「ヤブ…!!?」「クロンッ…!!!」
数匹を弾き飛ばす。
「ブクロン…」「クロンッ」
それと同時に、かすみんたちの攻撃に気付いたヤブクロンたちが、一斉にこっちに振り返り──飛び掛かってきた。
しずく「キルリア!! マネネ!! “サイコキネシス”!!」
「キルッ!!!」「マネネッ!!!」
が、ヤブクロンたちはしず子たちの攻撃で、空中で動きを止める。
かすみ「ナイスしず子!! ジュプトル!! “きりさく”!!」
「プトルッ!!!」
踏み切って高く跳んだジュプトルが、空中で釘付けにされていたヤブクロンたちを、1匹ずつ斬り裂いていく。
その隙にかすみんは、ヤブクロンたちに襲われていた人のもとへ滑り込む。
かすみ「だいじょう……ぶ!?」
かすみんが突っ込んだ先にいたのは──
「…ヤブ」
またしても、ヤブクロンだった。
かすみ「へ!? ヤブクロンがヤブクロンを襲ってたの!? どゆこと!?」
しずく「かすみさん! そこにいた人は無事!?」
かすみ「それが……」
駆け寄ってくるしず子に、身を退けて、ヤブクロンの姿を見せると、
しずく「え、ヤブクロン……!?」
しず子も困惑したような顔になる。
が、考える間もなく、
- 650 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:54:24.45 ID:4td2vpP20
-
「ヤブゥッ!!!」「ヤブクゥッ!!!!」
ヤブクロンたちがまた背後から追い付いてきた。
そして、それに反応するように、
「ヤブゥ……」
目の前のヤブクロンは怯え始める。
かすみ「なんかわかんないけど、この子いじめられてるみたい……」
なんだか、放っておけずに立ち止まってしまう。
しずく「かすみさん!! 来てるよ!!」
でも、ここで立ち止まっているわけにはいかない、でも置いてくわけには……。
かすみ「……そうだ、ヤブクロンたち……このゴミの臭いが好きなんだよね。しず子!! 逆にめっちゃ良い匂いにしたら、ヤブクロンたち嫌がるんじゃない!?」
しずく「……! なるほど! やってみる!! ロゼリア!!」
「ロゼッ!!!」
しずく「“アロマセラピー”!!」
「ロゼェーー!!!!!」
しず子の指示と共にロゼリアを中心に、お花の良い香りが一気に周囲を包み込む。
「ヤ、ヤブ…」「ブクロンッ…」「ヤブゥ…!!!!」
すると、ヤブクロンたちはその匂いから逃げるように、一目散に撤退を始めたのだった。
しずく「……せ、成功した……」
かすみ「……はぁ……最初からこうすればよかったね……」
二人でその場にへたり込む。ただ、すぐにまだ目の前に自分が助けたヤブクロンがいたことを思い出す。
かすみ「あわわ、そうだった、ヤブクロンには苦しいよね……!?」
慌てて、目の前のヤブクロンに目を向けると、
「ヤブクゥ♪」
ヤブクロンはご機嫌な鳴き声をあげていた。
かすみ「あ、あれ……? 平気なの……?」
「ヤブゥ♪」
ヤブクロンはむしろ元気になっているような……。
ついでに言うなら……さっきまで襲い掛かってきていた灰色のヤブクロンたちと違って、紺色をしていた。
そんなヤブクロンは急に、
「ヤブゥ♪」
かすみんの顔に飛びついてきた。
- 651 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:55:03.78 ID:4td2vpP20
-
かすみ「むがっ!?」
しずく「かすみさん!? ヤブクロン! 助けてもらって嬉しいのはわかるけど、飛びつかないでください!?」
「ヤブク…?」
しず子が焦って、引きはがす。
しずく「大丈夫、かすみさん!?」
かすみ「…………」
しずく「……かすみさん?」
かすみ「しず子……このヤブクロン……」
しずく「?」
かすみ「めっちゃ良い匂いする……」
しずく「……え?」
👑 👑 👑
かすみ「くんくん……やっぱり、すごく良い匂いするよ、この子」
「ブクロン♪」
しずく「……うん、確かに。普通のヤブクロンと色も違うし……特殊個体なのかな」
かすみ「特殊個体? そんなのいるの?」
しずく「ヤブクロンって普段からゴミを食べてるから、あの臭いと強い毒性を持つポケモンなんだけど……個体によって、好きなゴミが違うらしいの」
かすみ「ゴミが違う……?」
しずく「廃液が好きだったり、生ごみが好きだったり、ボロボロになったおもちゃとかが好きってこともあるんじゃないっけ……」
かすみ「人で言う、好きな食べ物の好み的な……?」
しずく「そういうことだと思う……。それでこの子は……」
「ヤブクゥ♪」
「ロゼ」
ロゼリアが腕にある花から花弁を1枚、ヤブクロンの前に落とすと──ヤブクロンはそれをむしゃむしゃと食べ始めた。
「ヤブ♪」
かすみ「お花が好きってこと……?」
しずく「まあ、確かに……散って落ちた花弁も広義の意味ではゴミかもしれないね……」
かすみ「良い匂いのお花が好きだから、このヤブクロンも良い匂いがするんだ……。ってか、ロゼリアは花食べられてもいいの?」
「ロゼ」
しずく「もともとリーダー気質の子だから……子分に餌を分けてあげてる気分なのかも」
かすみ「ふーん……そういうものなんだ……」
まあ、別にロゼリアが嫌がってないならいいんだけど……。
- 652 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:56:13.16 ID:4td2vpP20
-
かすみ「もしかして、このヤブクロンがいじめられてたのって……」
しずく「たぶん、この匂いのせいだろうね……。私たちにとっては良い匂いだけど、ヤブクロンからしたら“あくしゅう”ってことだろうし……」
かすみ「それだと……この子、またいじめられちゃうんじゃ……」
「ブクロン?」
しずく「だろうね……」
かすみ「そんなの……可哀想……ヤブクロンは自分の好きなものを食べてるだけなのに……」
しずく「かすみさん……」
かすみ「どうにか……してあげられないかな……」
しずく「難しいかもしれないね……野生ポケモンたちは自分たちと違うことをしてる個体を追い出して、群れを守ろうとする習性があるから……」
「ロゼ…」
そういえば、しず子のロゼリアも似たような感じなんだっけ……。
そうなると、この子はこれからもいじめられるし、いつかはここを追い出されるってこと……。
……それなら、いっそ──
かすみ「……い、いや……それは…………でも……」
しずく「…………」
「ブクロン?」
かすみ「……そ、そんな顔してもダメです……か、かすみんは可愛いポケモンでチームを作るって決めてて……」
しずく「かすみさん」
かすみ「……」
しずく「心配なら、連れて行ってあげれば? それにどくタイプなら、フェアリータイプにも有利だし、探していた条件にも合ってるよ?」
かすみ「ぅぅ……でもぉ……」
かすみんはピカチュウとかピッピみたいな、いかにもな可愛いポケモンが……。
「ヤブクゥ…」
しずく「ほら、見ようによってはヤブクロンも愛嬌があって可愛いよ? この子は他のヤブクロンと違って臭くもないし」
かすみ「……あぁもう!! わかったわかりました!! 連れて行きます!! 一緒に行こう、ヤブクロン!!」
「ヤブク…♪」
しずく「ふふっ♪ 新しい仲間が増えてよかったね、かすみさん♪」
かすみ「うん……そうだね……。なんでだろ……かすみんの当初想像してた6匹からどんどん離れて行ってる気がする……」
ただまあ……。
「ヤブク♪」
嬉しそうなヤブクロンを見ていたら、悪くはないのかな、なんて思ったり思わなかったりするのでした。
- 653 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:56:52.80 ID:4td2vpP20
-
👑 👑 👑
その後、かすみんたちは叡智のゴミ捨て場の中を彷徨い──
かすみ「やっと出れた……光ですぅ……外の光ぃ……」
「ブクロン♪」
しずく「外への道をヤブクロンが知ってて助かったね」
かすみ「それはホントに……」
ヤブクロンがいなかったら、未だに中を彷徨っていたかもしれないと思うと、少しゾっとする……。
そして、外に出た頃にはもうすっかり太陽は傾き始め、空が茜色に染まっていました。
しずく「もう夜になっちゃいそうだね……」
かすみ「ジム戦は明日にしよう……」
とにかく今はお風呂に入りたい……。
ずっとゴミ捨て場に居たせいで……たぶん、臭う……。
かすみんはくたくたな体にムチ打ちながら、乙女の尊厳を守るために、ホテル目指して、ダリアシティに戻っていくのでした。
- 654 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/11/30(水) 12:57:53.98 ID:4td2vpP20
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【叡智のゴミ捨て場】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回● . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 かすみ
手持ち ジュプトル♂ Lv.32 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.28 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.32 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.27 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.24 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:134匹 捕まえた数:7匹
主人公 しずく
手持ち ジメレオン♂ Lv.25 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
マネネ♂ Lv.21 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アオガラス♀ Lv.25 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロゼリア♂ Lv.25 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
キルリア♀ Lv.26 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:143匹 捕まえた数:9匹
かすみと しずくは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 655 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:01:30.00 ID:RGwRBCJA0
-
■Chapter034 『激闘! ダリアジム!』 【SIDE Kasumi】
──翌日。
かすみ「ふっふっふっ。雲一つない快晴……絶好のジム戦日和ですねぇ……!」
ホテルを出ると、空には青空が広がっていた。
まさに今日という日が、かすみんを祝福してくれているようです。
かすみ「対ヤザワ・にこ決戦兵器を手に入れたかすみんに敗北の文字はありません! もう戦う前から勝ったも同然ですね!!」
しずく「あはは……。それにしてもヤブクロン、ちゃんとどく技を使えてよかったね」
かすみ「それはホントに……」
こうして今日のために捕獲したヤブクロンですが……1つ懸念がありました。それはヤブクロンがまともにどくタイプの技を扱えるのかということです。
ご存じのとおり、かすみんのヤブクロンは普通のヤブクロンと違って、良い匂いがします。
それは、本来のヤブクロンたちとは毒性が違うということを意味していて……もしかしたら、どくタイプの技が使えない説がありました。
ただ、それはしず子と二人でいろいろ試した結果──
しずく「草花にも有毒種はあるもんね。それこそ、ロゼリアにもどくタイプはあるし……」
かすみ「そこからちゃんと毒を作り出してるみたいだね」
くさタイプのポケモンが使う毒に似たような成分のどく技が使えることがわかりました。
これで、どくタイプの技が全く使えないなんて言われたら、ジム戦対策で捕まえた意味がなくなっちゃいますからね……。
ただ、本来どくタイプのポケモンが使うような、いかにもやばそうな毒ではなさそうですが……むしろ、クリーンなイメージのかすみんにはぴったりですね!
──というわけで、準備は万端です!
しず子と話しているうちに、あっという間にジムへとたどり着いてしまいました。
かすみ「さぁ、勝負ですよ、ヤザワ・にこ……! たのもーー!!」
かすみんは気合い十分に、ジムへと入っていきます。
ジムに入ると、目的の人物はチャレンジャーを待っているところでした。
にこ「チャレンジャーね? いらっしゃい」
かすみ「はい! セキレイシティからきた、かすみんって言います!! どっちが本物のアイドルトレーナーに相応しいか、勝負ですよ!! ヤザワ・にこ!!」
にこ「……なんか、随分威勢の良い子が来たわね」
しずく「す、すみません……! かすみさん、ダメでしょ! 初対面の人にそんな失礼な態度取ったら……!」
かすみ「これから戦うんだもん! 勢いで負けちゃダメなんだもん!」
勝負は試合が始まる前から始まっているんです……!
- 656 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:03:23.14 ID:RGwRBCJA0
-
にこ「あーえっと……気合いたっぷりなところ、悪いんだけど……実はにこはバトルは出来ないのよね」
かすみ「はぇ……?」
しずく「どういうことですか?」
にこ「実はにこ、今はここのジムリーダーじゃないのよ」
かすみ「はぁ? 何言ってるんですか?」
しずく「こら、かすみさん! ……ですが、ダリアのジムリーダーは、にこさんで間違いないはず……ポケモンリーグ公式の情報でもそうなってたはずですよね?」
にこ「実はね……それ、フェイクなのよ。このジムでは、バトルの実力だけではなくて、それ以外の知恵を試すための──」
かすみ「……はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
かすみんは思わず、人生最大級の溜め息が漏れてしまいます。
にこ「……今説明してるところなんだけど」
かすみ「……またこれです……なんなんですか……かすみんがジムに挑もうとすると、だいたいこれじゃないですか……セキレイでも、ホシゾラでも、ウチウラでも、コメコでも……かすみんはまず出鼻をくじかれてばっかです……」
にこ「えっと……急にどうしたの……この子……?」
しずく「……すみません。こちらのかすみさん、ジム戦がスムーズに出来た試しがなくて……」
かすみ「それでダリアでもですか……あーやだやだ……ポケモンジムっていつでもトレーナーたちの挑戦を待ってるなんて言っておきながら、いっつもこんなんばっかり……」
しずく「か、かすみさん、ジムリーダーの人たちにも事情があるからさ……」
かすみ「わかってるよ? 今までがたまたまタイミングが悪かっただけだってことくらい。でも、なんですか。こっちはちゃんと案内見て、この人と戦うんだって、いろんなこと考えてやっとの思いでジムにたどり着くんですよ? なのに、目の前にジムリーダーはいるのに、自分は本当はジムリーダーじゃないとか、酷くないですか?」
にこ「ぐ……。痛いところを……」
しずく「そんないじけなくても……」
かすみ「いじけてないもん……」
にこ「……なんか、悪かったわね。……でも、このジムはそういうルールなのよ……」
かすみ「……いいですよ。じゃあ、早くそのルールとやら、説明してくださいよ。別にいいですよ、にこ先輩となんて戦わなくたって、かすみんの方が可愛いアイドルトレーナーに向いてることなんて、最初からわかってたんですから」
別にかすみんとしては、白黒付けてやろうとしていただけで、勝つことなんて最初から決まっていましたし、別にいいんです。
ただ、当のにこ先輩は、
にこ「……なんですって?」
かすみんの言葉を聞いて、キッと睨みつけてくる。
かすみ「えーだって、アイドルトレーナーって言う肩書の割に、やってることはただの受付さんじゃないですか〜。どっちかというと、裏方的な? そんな人、アイドル性でも、ポケモンバトルでもかすみん負ける気しないですし……というか、もう興味なくなっちゃいました」
にこ「……言ってくれんじゃない……こちとら、元四天王よ? アイドルとしてもバトルでも、そんじょそこらの新米トレーナー如きに、後れを取るとでも?」
かすみ「なんで新人トレーナーだって決めつけるんですか!?」
にこ「じゃあ、トレーナー歴何年よ? ジムバッジはいくつ持ってるの? こちとら歴戦のアイドルトレーナーで通ってんのよ、立ち振る舞い見れば、新米かどうかなんて一目瞭然じゃない。よくそんなんで、負ける気しないなんて大口叩けたもんね。無知って怖いわねぇ〜」
かすみ「はぁ〜〜〜〜!? 先にバトルから逃げたのはそっちじゃないですかぁ!? 何逆ギレしてるんですか!?」
にこ「逃げてないわよ!? ルールがそうだって言ってんでしょ!? あんた話聞いてたの!?」
かすみ「聞いてましたぁ〜! 要約したら、かすみんに恐れ慄いて、逃げ出したって内容だったってだけですぅ〜!」
にこ「ぬぅわんですってぇ!? ああもう、あったま来た……!! バトルスペースに出なさい! そこまで言うなら相手してやるわよ!!」
かすみ「いや、いいですよ〜? 今更無理しないで、本当のジムリーダーさんと戦うんで〜? かすみんに恐れ慄いた逃げ出したジムリーダーさん」
にこ「むっかぁーーー!! さすがのにこも、ここまでコケにされて黙ってられないわよ!! いいわ!! 私がジム戦してやろうじゃない!!」
かすみ「いいんですか〜? 負けて、泣いちゃっても知りませんよ〜?」
にこ「はっ! それはこっちの台詞よ!! ボコボコにしてやるわよ!!」
- 657 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:04:06.71 ID:RGwRBCJA0
-
にこ先輩は肩を怒らせながら、奥へと歩いていく。
にこ「ちょっと今、一本連絡入れてくるから、そこで待ってなさい!! 逃げるんじゃないわよ!!」
かすみ「にこ先輩こそ、逃げないでくださいね〜」
にこ「〜〜〜っ!!! 絶対ぎったんぎったんにしてやる……!!」
そう言いながら、にこ先輩はジムの奥にある部屋に消えていきました。
なんか知らないですけど、バトル出来るらしいです。
ま、別にかすみんはジムリーダーが誰でもいいんですけどね? どうせ勝つのはかすみんですし。
そんな中で、私たちのやり取りを見ていたしず子が一言ボソッと呟いた。
しずく「……確かにこれはキャラ被ってるかも」
かすみ「……でしょ! でも、これで白黒つけてやるから! 真のアイドルトレーナーはかすみんです!」
しずく「……そういうことじゃないんだけどなぁ……」
かすみ「え?」
しずく「うん、まあ、気にしないで。ジム戦、頑張ってね」
かすみ「任せて!」
かすみんの実力見せつけてやりますよ……!!
💮 💮 💮
花丸「今日も平和ずらぁ……」
天窓から入ってくる太陽の光を浴びながら、今日も読書。
今日は挑戦者来るかなぁ……。
お茶を啜りながら、ぼんやり過ごしていると──prrrrと備え付けの電話が鳴る。
花丸「もしもし?」
にこ『花丸、ちょっといい?』
花丸「にこさん。何かあったずら?」
にこ『今、ジムに挑戦者が来たんだけど』
花丸「あ、はーい。いつ来てもいいように、準備を──」
にこ『私が相手することになったから』
花丸「ずら?」
にこ『それだけ、じゃあね──』
花丸「あ、ちょっと、にこさ……切れちゃった……」
なんか、事情が全くわからなかったんだけど……。
花丸「まあ……それならそれでいっか……」
マルは再びお茶を一口。
花丸「今日も平和ずらぁ……」
- 658 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:04:52.21 ID:RGwRBCJA0
-
再び読書に没頭するために、本を手に取るのだった。
👑 👑 👑
にこ「待たせたわね……」
かすみ「お構いなく〜。かすみんはどっかのジムリーダーと違って、いつでもどこでも準備万端ですので〜」
にこ「いちいち、むかつく言い方するわね……まあ、いいわ。バトルが始まったらそんな余裕かましてる場合じゃないだろうから。所持バッジの数はいくつ?」
かすみ「3つです」
にこ「わかった。使用ポケモンは3体。全て戦闘不能になった時点で決着よ」
かすみ「にしし……今回しっかり対策もしてきましたから、かすみん圧勝しちゃいますよ〜」
にこ「せいぜい今のうちに粋がっておくといいわ!」
両者、ボールを構える。
にこ「ダリアジム・ジムリーダー『大銀河宇宙No.1! フェアリーアイドル』 にこ! こてんぱんにしてやるからかかってきなさい!!」
チャレンジャー、ジムリーダー、両者の手からボールが放たれて──バトル開始です!
👑 👑 👑
かすみ「いくよ! ヤブクロン!」
「ブクロン!!」
にこ「トゲチック! 目に物見せてやりなさい!」
「トゲチックッ!!!」
にこ先輩の1番手はトゲチック。
『トゲチック しあわせポケモン 高さ:0.6m 重さ:3.2kg
優しい人の そばに いないと 元気が でなくなってしまう。
羽を動かさずに 空に浮かべる。 純粋な 心の 持ち主を
みつけると 姿を 現し 幸せを 分け与えると 言われる。』
そして、かすみんの1番手はもちろん、昨日捕まえたばっかりのヤブクロンです!
にこ「はぁ……」
が、にこ先輩、かすみんのヤブクロンを見るや否や溜め息を吐きました。
かすみ「なんですか……」
にこ「フェアリーのジムだからって、はがねタイプとかどくタイプを用意してくる。芸がないわね……」
かすみ「む……かすみんのヤブクロンは普通のヤブクロンと違います!」
「ブクロン!!」
にこ「確かに色違いだけど……」
かすみ「舐めてかかってると痛い目見ますよ! “ヘドロばくだん”!!」
「ブクローンッ!!!」
ヤブクロンの口から毒の塊が飛び出す。
- 659 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:06:46.62 ID:RGwRBCJA0
-
にこ「それが芸がないって言ってんのよ。“サイコキネシス”!」
「チックッ!!!」
が、“ヘドロばくだん”はトゲチックに届くことなく、空中で静止する。
かすみ「んな!?」
にこ「こちとら、弱点タイプへの対策なんて出来てるに決まってるでしょ。トゲチック、それは捨てちゃいなさい」
「チック!!」
トゲチックは空中で止めた、“ヘドロばくだん”を脇に放り投げる。
べしゃっと音を立てて、何もない場所に散る“ヘドロばくだん”。
かすみ「ぐぬぬ……! “どくどく”!!」
「ブクロッ!!!」
今度は鋭く毒液を飛ばす。
にこ「無駄よ! “しんぴのまもり”!」
「チックッ!!!」
今度は現れたしんぴのベールが“どくどく”を阻む。
かすみ「こ、攻撃が通らない……!」
にこ「もちろん、対策は防御だけじゃないわよ!! “サイコショック”!!」
「チックッ!!!」
にこ先輩の指示と同時にヤブクロンの周囲にブロックのようなものが現れて、
「ヤブクロッ!!!?」
ヤブクロンに向かって突撃してきた。
かすみ「わ、わー!! ヤブクロン!?」
にこ「どくタイプのヤブクロンには、効果抜群ね」
かすみ「フェアリータイプの癖に、エスパータイプの技使うなんてずるいですよ!!」
にこ「ずるくないわよ。これは対策。あんたがこのジムに挑戦する前にしてたことと同じよ」
かすみ「ぐ、ぐぬぬ……言い返せない……」
にこ「さらに畳みかけるわよ!! “じんつうりき”!!」
「チックッ!!!」
「ブクロッ!!!?」
さらに追撃で、念動力による衝撃がヤブクロンを吹っ飛ばす。
かすみ「は、反撃しなきゃ……! “ヘドロばくだん”!!」
「ヤ、ヤブクーーーッ!!!!」
再び、ヘドロの塊を発射する。
にこ「だから、効かないって言ってるでしょ!!」
「トゲチックッ!!!」
でも、やっぱりこっちの攻撃は“サイコキネシス”で逸らされてしまう。
- 660 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:08:54.39 ID:RGwRBCJA0
-
かすみ「ぐ、ぐぬぬ……!! 一旦逃げる!! ヤブクロン! 走り回って!」
「ブクロン!!」
にこ「あら、もう逃げの一手?」
かすみ「うるさいですねぇ! 今、次の作戦を考えてるんですよ!!」
とにかく狙いの的にされないように……。
にこ「なら、“みらいよち”よ!」
「トゲチックッ!!!」
かすみ「!?」
トゲチックの周囲に何かエネルギーの塊のようなものが現れたと思ったら、それはすぐに掻き消える。
かすみ「な、なんですか今の……」
にこ「“みらいよち”は未来に向かって予め攻撃をしておく技よ。逃げ回るのは結構だけど、もうあんたたちが逃げ回る先に、攻撃は置いてきた」
かすみ「う、うぇぇ!? そんなのズルじゃないですかぁ!?」
にこ「さぁ、いくらでも逃げ回ればいいわ!! “みらいよち”の攻撃が来る前に対策を思いつかないと、あんたの負けだけどね!」
かすみ「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ……!! 徹底して、エスパー技ばっかり……!!」
にこ「対策の対策なんて簡単なのよ。相手がしてくることがわかりやすくて、逆に大助かりだわ。あんた単純そうだし」
かすみ「う、うるさいですっ! こうなったら、肉弾戦ですぅ!!」
「ブクロンッ!!」
走り回っていた、ヤブクロンは、トゲチックの方に方向転換する。
にこ「相手するわけないでしょ! “サイコキネシス”!!」
「チックッ!!!!」
トゲチックがこっちに向かって手をかざすと──
「ブ、ブクロ!!!?」
ヤブクロンは天井に向かって、吹っ飛んでいく。
かすみ「わー!!!? ヤブクロン!! 着地!! 天井に着地!!」
「ブクロンッ!!!!」
ヤブクロンは身を捻って、どうにか天井に両足で着地、そのまま天井を蹴って、飛び出す。
にこ「へー! やるじゃない! でも、空中じゃ技が避けられないわね!! “サイコショック”!!」
「チックッ!!!」
空中から一直線にトゲチックに向かっていく、ヤブクロンの進行方向に、大量の念力で出来たブロックが出現する。
そこに突っ込むようにして、飛び込んでいくヤブクロン。
「ブ、ブクロンッ…!!!」
かすみ「頑張ってヤブクロン……!!」
そのまま、エスパーエネルギーの障害物を突っ切って、
かすみ「抜けた……!! お返ししますよ!! “しっぺがえし”!!」
「ヤーーブクロンッ!!!!」
全身を使って、トゲチックに反撃を試みる。
- 661 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:09:48.08 ID:RGwRBCJA0
-
「チチック…!!!」
にこ「よく耐えたって言ってあげたいけどね、エスパー技は遠距離だけじゃないのよ!!」
かすみ「!?」
にこ「“しねんのずつき”!!」
「チックッ!!!!」
至近距離にいるヤブクロンに返しの“しねんのずつき”が炸裂する。
「ブ、ブクロンッ!!!?」
ずつかれたヤブクロンは、一瞬怯んでたたらを踏む。
にこ「“じんつう──」
かすみ「怯まないで!! “ひっかく”!!」
「ブクロンッ!!!!」
すかさず追撃してくるにこ先輩。でも距離を取らせたら、またやり直しだ……!
ヤブクロンは足を踏ん張って、そのまま短い手を振りかぶって、トゲチックに喰らいつく。
にこ「苦し紛れね!! そんなのほとんど効かないわよ!! “しねんのずつき”!!」
かすみ「受け止めて!!」
「ブクロンッ!!!!」
再び、頭から突っ込んでくる、トゲチックを──真正面から受け止める。
にこ「んな!?」
かすみ「ヤブクロン!! 放しちゃダメだよ!!」
「ブクロンッ!!!」
にこ「結構攻撃してるはずなのに……どんだけタフなのよ……!!」
かすみ「だから、言ったじゃないですか!! かすみんのヤブクロンは普通のヤブクロンと違うんです!!」
にこ「……まあ、それは認めてあげるわ。でも、あんた何か忘れてるんじゃないの?」
かすみ「え?」
にこ「……あんたたちは過去から攻撃されることが決まってるって言ったわよね!」
かすみ「!? あ、やばっ!?」
直後、ヤブクロンの周囲の空間がぐにゃりと歪む。
“みらいよち”による強大な念動力の力がヤブクロンに向かって、襲い掛かって来る。
かすみ「ヤブクロン、逃げ……!?」
かすみん、咄嗟に指示を出しますが、組み合った状態のヤブクロンは逃げる暇もなく。
「ブ、ブクローーンッ!!!!?」
なすすべもなく、“みらいよち”の攻撃がヤブクロンを直撃した。
かすみ「……あ」
にこ「……“しねんのずつき”を受け止められたときは正直ビビったけど……。さすがにこれは耐えきれないでしょ。エスパータイプの中でも最強クラスの威力の技なんだから」
にこ先輩は得意げに言う。
……が、
- 662 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:10:40.89 ID:RGwRBCJA0
-
「ト、トゲチッ!!!?」
にこ「え……?」
トゲチックの焦るような鳴き声に、にこ先輩が視線を向けると、
「ブクロン…!!!!」
ヤブクロンはまだその場に立って、トゲチックの頭を抑えつけたままだった。
にこ「……はぁ!? どうなってんのよ!? “みらいよち”が当たったのよ!?」
「ト、トゲッ!!!」
焦るにこ先輩とトゲチック。ヤブクロンに捕まったまま、自由の効かないトゲチックに向かって、
かすみ「“ヘドロばくだん”!!」
「ヤーーーブクッ!!!!!」
至近距離から“ヘドロばくだん”をお見舞いする。
「ト、トゲチッ…!!?」
ヘドロが派手に炸裂して、後方に吹っ飛ばされるトゲチック。
にこ「い、一旦撤退……!!」
かすみ「逃がしません!! “こうそくいどう”!!」
「ブクロンッ!!!!」
逃げようとするトゲチックに、“こうそくいどう”で肉薄する。
「チ、チックッ!!?」
にこ「はぁ!? “こうそくいどう”!? そんな技覚えないでしょ!?」
かすみ「そもそもヤブクロンは、“ひっかく”を覚えませんよ!」
にこ「!?」
かすみ「トドメです!! “ヘドロばくだん”!!」
「ヤーブクゥッ!!!!!」
至近距離から二度目の“ヘドロばくだん”を炸裂させ、
「ト、トゲチィィィ…」
ヘドロまみれになった、トゲチックは耐えきれず、その場に倒れこんだのだった。
にこ「う、うそ……」
かすみ「……あっれぇ〜? 対策の対策は完璧なんじゃないんですかぁ〜?」
にこ「ぐ、ぐぬぬ……こ、こんなの初見でわかる訳ないじゃない!!」
激昂するにこ先輩の前で、ヤブクロンの姿が靄のようにブレる。
そして、その姿はどんどん小さくて黒い狐のような、シルエットに変わっていく。そう、この子はヤブクロンじゃない、
かすみ「にっしっし……ナイスだよ、ゾロア!!」
「──ガゥッ!!!」
“イリュージョン”で化けたゾロアだったんです。
- 663 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:11:58.30 ID:RGwRBCJA0
-
にこ「ず、ずるなのはどっちよ!!」
かすみ「ずる? これは対策って言うんですよ〜。いや〜こっちもにこ先輩が対策の対策をしてくるだろうなんて、わかりきってたんで、対策の対策の対策を仕込んできたんですよね〜」
まあ、ホントのことを言うと、エスパータイプで対策を打ってくると予想したのはしず子なんだけど……。
あくタイプのゾロアにとって、エスパータイプの攻撃は効果がありません。
だから、最初から食らっている振りをして、チャンスを伺っていたというわけです。
かすみ「あれ、なんでしたっけ? 芸がないとか、わかりやすくて助かるとか、誰かが言ってたような気がするんですけど〜」
にこ「ぐぬぬぬぬぬぬ……。……って、ちょっと待ちなさいよ! “サイコキネシス”で吹っ飛ばされてたじゃない!!」
かすみ「ああ、あれは“とびはねる”ですよ。派手に吹っ飛ばされた演技をしてました」
にこ「な、なんて姑息な……」
かすみ「姑息? これはかすみんとゾロアの作戦勝ちですよ。それに、にこ先輩がヤブクロンは“ひっかく”を覚えないって知ってれば、見破ることも出来たはずですよ〜?」
にこ「……ぐぬぬ……確かにそれを言われると、こっちの知識不足だったと言わざるを得ない……」
にこ先輩はそう言って、項垂れる。
にこ「……まあ、いいわ。ネタがわかっちゃえば、相性有利なゾロアなんて、数の内に入らないわ」
かすみ「……」
にこ先輩は負け惜しみのようなことを言うけど……あながちただの負け惜しみとも言い切れない。
ゾロアで出来るのは、それこそ不意を打っての一発勝負だけで、真っ向から戦って勝つのは少し厳しい。
かすみ「ゾロア、お疲れ様、戻って」
「ガゥッ──」
だからかすみんは、ゾロアをボールに戻す。
にこ「賢明ね」
こうすれば次にゾロアを出したときに、また“イリュージョン”で姿を変えて場に出せるけど……。
たぶん、次は真っ先に“イリュージョン”を破るのを優先してくるはずだから、実質ゾロアが出来ることはここまで。
かすみ「さぁ、今度こそ出番ですよ、ヤブクロン!」
「──ブクロン!!!」
にこ「今度こそ出てきたわね……。さぁ行くわよ、ペロリーム」
「──ペロリ〜」
にこ先輩の2番手はペロリーム。
『ペロリーム ホイップポケモン 高さ:0.8m 重さ:5.0kg
嗅覚は 人の 1億倍以上。 空気中に 漂う わずかな においでも
まわりの 様子が すべて わかる。 体毛に たくさん 空気を
含んでいるので 触り心地は 柔らかく 見た目より 軽い。』
にこ「今度こそ、“サイコキネシス”!!」
「ペロリ〜」
早速のエスパー攻撃。
今度は本当のヤブクロンなので、無効には出来ませんが──
「…ヤブゥ」
ヤブクロンはちょっと浮いただけで、すぐにポトっと地面に落ちる。
- 664 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:12:54.67 ID:RGwRBCJA0
-
にこ「なんかしょぼいことになってる……!?」
かすみ「“ドわすれ”をしたから、エスパー技もそんなに痛くないですよ!!」
“ドわすれ”は痛みすらも忘れて、相手の特殊攻撃の威力を大幅に抑える技。
お陰でタイプ相性の悪いヤブクロンでも十分対策しきれます!
にこ「さすがにあそこまでやってくるのに、対策してないわけないか……! ただ、ヤブクロンに関しては、ダリアの人間は詳しいのよ! ペロリーム、“アロマセラピー”!!」
「ペロリ〜〜」
ジム内に良い匂いが充満する。
にこ「“あくしゅう”が大好きなヤブクロンからしてみたら、この芳香は激臭のはずよ! 苦しみなさい!」
「ヤブク〜♪」
にこ「……って、なんか嬉しそうなんだけど!?」
かすみ「だから、かすみんのヤブクロンは特別だって言ったじゃないですか! 良い匂いは大好きですよ! “ヘドロばくだん”!!」
「ヤブックッ!!!!」
今度こそ、本物のヤブクロンから放たれる“ヘドロばくだん”ですよ!
にこ「やば……! “かえんほうしゃ”!!」
「ペロリ〜〜〜!!!!」
ペロリームから、放たれる“かえんほうしゃ”が“ヘドロばくだん”を相殺する。
にこ「“10まんボルト”!!」
「ペロ〜〜〜!!!!」
畳みかけるように飛んでくる電撃が、ヤブクロンに直撃する。
かすみ「わわっ!? 大丈夫!? ヤブクロン!?」
「ヤブク〜…」
かすみ「“ドわすれ”が活きてる……!」
にこ「く……厄介ね……!」
そこまでダメージの通りはよくない。とはいえ、さっきから多彩な技ですね……!
何か仕掛けられる前に、動くべきですね……!
かすみ「ヤブクロン、動くよ!!」
「ブク…ロロロロ」
にこ「うわぁ!? なんか、吐き出した!? ……って、花!?」
かすみんの合図と共に、ヤブクロンが体内のゴミを吐き出し始める。
まあ、お花なんですけど……。
かすみ「軽くなったね! 行けー! ヤブクロン!」
「ヤブクーー」
ヤブクロンがペロリームに向かって走り出す。
にこ「って、速っ……!?」
にこ先輩も驚くほどの猛スピードで走り出したヤブクロン。
今さっきやったのは、“ボディパージ”。自分の体を構成するゴミを外にパージして、軽くなるのと同時に、速くなる技です!!
- 665 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:13:42.57 ID:RGwRBCJA0
-
かすみ「“とっしん”!!」
「ヤブクーーー」
近接戦に持ち込み、ペロリームに真正面から突撃する、が、
にこ「“コットンガード”!」
「ペロッ」
もこもこになった体毛にボフっと音を立ててぶつかり、勢いが殺される。
かすみ「防御された……! でも、速さで攪乱すればチャンスはいくらでもありますよ!」
にこ「動き回られると厄介ね……! でも、素早さ操作はこっちも得意なのよ……!」
高速で離脱しようとした矢先、
「ヤ、ヤブ…」
ヤブクロンは今しがた突っ込んだ体毛から抜け出したと思ったら、急に動きが鈍くなる。
かすみ「!? 何かされた!?」
動きづらそうにするヤブクロンの体のあちこちに、綿がまとわりついている。
かすみ「まさか、“わたほうし”……!?」
にこ「正解よ! さらに、その綿はよく燃えるわよ! “かえんほうしゃ”!!」
「ペロリーーーー!!!!」
「ヤ、ヤブクーーーー!!!?」
ペロリームの噴き出した火炎が、ヤブクロンに纏わりついていた綿に引火し、ヤブクロンを一気に燃やしていく。
かすみ「やばっ!? “ころがる”で消火して!!」
「ヤ、ヤブクーー!!!!」
ヤブクロンは体を転がして、フィールドに押し付けながら消火を図る。
ただ、“わたほうし”は本当によく燃えるらしく、なかなか火の勢いが収まらない。
かすみ「こーなったら、そのまま突っ込んじゃえ!!」
「ヤブクーーー」
「ペ、ペロリーー!!?」
にこ「のわーー!? こっち来るんじゃないわよ!!」
そのまま、ペロリームに突撃すると──ペロリームの体毛に引火して、2匹は一気に炎に包まれる。
「ペ、ペロォォォ!!!!」
「ブ、ブクロンーー!!!!」
にこ「ちょっとぉ!! 何してくれてんのよ!?」
かすみ「先に火つけてきたのはそっちじゃないですかぁ!?」
でももはや、こうなったら後は根比べ……!
かすみ「“ドわすれ”してるから、こっちに分がある……と思う!! ヤブクロン苦しいかもしれないけど、頑張って!!」
「ブ、ブクローーーン!!!!!」
「ペ、ペロリィィィィ!!!!!」
にこ「く、ヤバイ……! これじゃ、ペロリームの方が先に……!」
あくまでくっつけられた綿毛が燃えているだけのヤブクロンと、自身の体毛が燃えているペロリームでは炎によるダメージにも差が出てくる。
- 666 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:14:59.67 ID:RGwRBCJA0
-
かすみ「この勝負、もらいましたよ!!」
にこ「ぐ……!! こうなったら、止むを得ない……! 最後の手段よ、ペロリーム!!」
かすみ「え!?」
にこ「“ミストバースト”!!」
「ペロ、リィィィィィィィィ!!!!!!!!」
「ブクロォォォォ!!!!?」
にこ先輩の合図と共に、ペロリームがピンク色の光と共に──大爆発した。
かすみ「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!? 何してくれてるんですかぁ!!!?」
にこ「ああなったらもう、死なばもろともよ……!!」
ピンクの爆炎が晴れると──
「ブ、ブクロン……」
「リィ〜〜〜ム……」
ヤブクロンとペロリームが2匹とも、戦闘不能になっていた。
かすみ「ぐぬぬ……あのままなら、勝ってたのはこっちだったのに……」
にこ「勝てないと踏んだら、相討ちを取りに行くのも立派な戦略よ」
かすみ「この卑怯者!! 恥ずかしくないんですか!?」
にこ「先に相討ち覚悟で突っ込んできたのはそっちでしょ!?」
かすみ「ぐぬぬ……」
にこ「さぁ、早く次のポケモン、出しなさいよ」
かすみ「そ、そっちこそ……!」
二人で次のポケモンを選択する。
ゾロアを出す……? いや、“イリュージョン”がバレている状態で、フェアリータイプのエキスパートと戦うのは、かなり苦しい……。
実質、最後の手持ちがやられたら負けと言っても過言ではない。
なら……ここでやりきるしかない。
かすみ「頼みますよ……! かすみんのエース!」
「──ジュプト!!!」
にこ「ジュプトルね。こっちはこの子よ!」
「──フィァ」
かすみ「ニンフィア……!」
にこ「へー、よく知ってるじゃない」
そりゃ知ってますよ……ヤザワ・にこのエースと言えばニンフィアなんですから……。
もちろん、今回のはジム戦用の個体でしょうけど……。
『ニンフィア むすびつきポケモン 高さ:1.0m 重さ:23.5kg
リボンのような 触角から 敵意を 消す 波動を 発して 争いを
やめさせる。 ひとたび 戦いとなれば 自分の 何倍もある
ドラゴンポケモンにも いっさい怯まず 飛びかかっていく。』
にこ「さぁ行くわよ、ニンフィア!! “ハイパーボイス”!!」
「フィアアアアアァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」
「ジュプトォ…ッ!!!!!!!」
- 667 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:15:32.39 ID:RGwRBCJA0
-
出会い頭から、大音量の音波攻撃でジュプトルを吹っ飛ばされる。
──吹っ飛ばされながらも、ジュプトルは受け身を取って立ち上がり、フィールド内を走り始める。
かすみ「とにかく、あの音攻撃……! 食らわないようにしないと……!」
単純だけど、爆音による攻撃は強いと言わざるを得ない。
威力もだけど、何より範囲が広すぎる。
避けるとなると、距離を取って、少しでもダメージを抑えるか、あとは音が発せられるニンフィアの前方から逃げるかだ。
かすみんの選択は後者! ジュプトルの身のこなしを活かして、とにかく回り込んで避ける!
相手の横や背後を取れば、攻撃のチャンスも訪れるはずです……!
にこ「最後は逃げ回るのね! “ハイパーボイス”!!」
「フィアァァァァァァァ!!!!!!!!!!」
かすみ「ジュプトル!! とにかく、ニンフィアの前に行かないように!!」
「ジュプトォ!!!!!」
にこ「ちょこまかと……!! “ハイパーボイス”!!」
「フィィィィァァァァァァ!!!!!!!!!!!!」
床を蹴り、壁を蹴り、身のこなしを生かして、どうにか攻撃を回避しながら、フィールド内を駆け回る。
この制圧力は本当に厄介だし、それこそゾロアじゃ対抗できない……!
ジュプトルでどうにか決め切らないと……!!
にこ「逃げてばっかりじゃ、勝てないわよ!!」
にこ先輩がなんか吠えてますけど、こればっかりは避けないわけにはいかない。
にこ「あくまで逃げるってことね……なら、これならどう! “スピードスター”!!」
「フィァーー!!!!」
ニンフィアから、ピンク色をした星型弾が飛び出して、ジュプトルを追尾し始める。
かすみ「なんか追ってきてるし……!!」
にこ「“スピードスター”はホーミングよ!! 逃がさないわ!!」
かすみ「ぐぅ……! とにかく、足を止めちゃだめだよ、ジュプトル!!」
「プトルッ!!!」
にこ「足ならこっちから、止めてあげるわ!!」
にこ先輩がそう言うと、ニンフィアがジュプトルの進行方向に、顔を向ける。
そりゃ、“スピードスター”からの逃げ先に撃ってきますよねぇ……!?
にこ「“ハイパーボイス”!!」
「フィィィアァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!」
かすみ「やばっ! ジュプトル!! 180度切り替えし!!」
「プトルッ!!!」
音波の射程から逃れるために、今追ってきている“スピードスター”の方にあえて突っ込ませる。
突っ込みながらも、“スピードスター”の弾と弾の合間を掻い潜るように、身を捩らせながらの回避。
かすみ「せ、セーフ……」
にこ「へー! やるじゃない! でも、まだ“スピードスター”は追ってくるわよ!」
にこ先輩の言うとおり、“スピードスター”も折り返して、再びジュプトルを追いかけまわす。
- 668 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:16:11.53 ID:RGwRBCJA0
-
にこ「今の回避はなかなかだけど、そう何度も避け続けられるかしらね!」
かすみ「ぐぅ……!」
確かにこのままじゃジリ貧だ。
どこかで攻撃に転ずるしかない。
かすみ「ジュプトル! “スピードスター”に向かって、“タネマシンガン”!!」
「プトルルルルル゚!!!!!!」
逃げ回りながらも、“スピードスター”を迎撃して、少しでも余裕を作ろうとする。
が、
にこ「なら追加の“スピードスター”よ!」
「フィァーー!!!!!」
かすみ「ぎゃーー!? 増えたーー!?」
撃ち落としたところで、また新しい“スピードスター”が飛んでくるだけ。
このままじゃキリがない……!
にこ「どんだけ頑張って逃げても無駄よ無駄。音よりも速く動けない以上、逃げ切ることなんて不可能だわ」
かすみ「ぐぬぬ……」
悔しいけど、こればっかりはにこ先輩の言うとおりかもしれない。
確か、前にしず子が言っていた気がする……音ってめっちゃ速いんだよね。
ジュプトルがいかに素早いとは言え、音の速さより速く動くことは難しい。
かすみ「どうする……どうする……」
頭を回転させながら、どうにか打開策を考えるけど……逃げるのが精いっぱいで、なかなかいい案が浮かばない。
かすみ「やっぱり音より速く攻撃するしか……」
でも、そんな方法……。
かすみ「……あ、あれ?」
記憶の中で、何かが引っ掛かった。
音がすごく速いって、確かにしず子から聞いたけど……音が一番速いって話じゃなかった気がする。
なんだっけ、何か……音よりも速いものがあるって……。
かすみ「そうだ……ジュプトル!!」
「プトル!!」
かすみ「音を、速さで、ぶち抜くよ!!」
「プトルッ!!!!」
かすみんが天を指さしながら言うと、ジュプトルは壁を蹴りながら、ジムの上の方へと駆けあがっていく。
にこ「何するつもりか知らないけど、そんな方向に行ったら完全に的よ!!」
「フィア!!!!」
- 669 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:16:47.33 ID:RGwRBCJA0
-
ニンフィアが空中のジュプトルに向かって、口を開く。
“ハイパーボイス”が来る……!!
チャンスは一度……!
天窓から差し込んだ光を背に受けながら、ジュプトルは──腕の刃を前に構えた。
にこ「“ハイパーボイス”!!」
「フィィィィィアァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!」
……あとで教えてもらったことだけど、この距離だとニンフィアの音波が届くまでの時間は1秒にも満たないらしいです。そんな時間の中──
にこ「な……!」
それよりも速く、天窓から集めた一筋の光が、一直線にニンフィアを貫いていた。
かすみ「──“ソーラーブレード”……!!」
直後、爆音の直撃を受けて、ジュプトルが天窓に叩きつけられ、さらに追い打ちをかけるように、“スピードスター”がジュプトルを襲って、エネルギーが爆ぜる。
「ジ、プトォ……」
無防備な空中でありったけの攻撃を受けたジュプトルは、戦闘不能になって落下してきますが、
かすみ「……はぁ……はぁ……! かすみんたちの、勝ちです!!」
「フィ、ァ……」
光速の剣で撃ち抜かれたニンフィアも、攻撃に耐えきれずに、地に伏せったのでした。
ワンテンポ遅れて、ドサっと地面に落ちたジュプトルは、
「プトォ…ル」
最後の力を振り絞って、かすみんに向かって親指を立ててきた。
最後の力を振り絞ってやることがサムズアップだなんて、なんて粋なんでしょうね、この子は……!
まさにかすみんのエースに相応しいです!
思わず、かすみんも親指を立てて返しちゃいます。
かすみ「ナイスファイトだよ! ジュプトル!」
「プトォル…!!!」
にこ「……う、うそでしょ……?」
かすみ「さぁ、にこ先輩。言うことがあるんじゃないですか? まだ、かすみんの手持ちにはゾロアが残ってますよ!」
にこ「ぐ……。……3匹全て戦闘不能。よってこの勝負、チャレンジャーかすみの勝利よ……」
かすみ「ふっふっふっ……どんなもんですか!!」
にこ「…………」
かすみ「やっぱ、かすみんに敗北の二文字はなかったってことですねぇ〜」
にこ「…………ニンフィア、ありがとう。ゆっくり休んで」
にこ先輩はニンフィアをボールに戻しながら、ゆっくりとこっちに歩いてくる。
かすみ「ほらほら、どうですか、かすみんの実力は? 褒めてくれていいんですよ? 崇めてくれていいんですよ?」
にこ「…………」
にこ先輩が無言で近寄ってくる。
- 670 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:17:28.39 ID:RGwRBCJA0
-
かすみ「……あ、あの……もしかして、めっちゃ怒ってます……?」
にこ「…………」
かすみ「あ、あのあのあの……こ、これも勝負なので……お、怒んないでくださいよ……!」
にこ「かすみ」
かすみ「ぴゃ、ぴゃぃ!?」
にこ「……にこの負けよ」
かすみ「……へ?」
かすみん、間抜けな声を出してしまいました。
にこ「……見くびってたわ。正直、生意気な態度について言いたいことはいくらでもあるけど……勝負で負けたことについては、認めざるを得ないわ。あんたの勝ちよ」
そう言いながら、にこ先輩はかすみんの手に何かを握らせる。
かすみ「あ……これ……」
にこ「ダリアジムを突破した証──“スマイルバッジ”よ。持って行きなさい」
かすみ「にこ先輩……」
にこ「何よ?」
かすみ「もしかして……にこ先輩、結構良い人ですか?」
にこ「……あんた最後まで失礼な奴ね……」
にこ先輩はそう言って溜め息を吐く。
しずく「──す、すみません、にこさん……! かすみさん、そういう態度取っちゃ、めっ! だよ!」
かすみ「だ、だって……」
しずく「正々堂々バトルした相手には、最後に言うことがあるでしょ」
かすみ「ぅ……。……にこ先輩、ジム戦ありがとうございました……」
にこ「……ふふ。どういたしまして」
にこ先輩は苦笑いしながら、肩を竦めた。
- 671 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:18:32.59 ID:RGwRBCJA0
-
にこ「それにしても……よく“ハイパーボイス”の中心を“ソーラーブレード”で撃ち抜こうなんて思ったわね」
かすみ「え、えっと……光の方が音より速いって……前にしず子が言ってたから……」
にこ「なるほどね……。でも、それを実行する胆力は大したものよ」
かすみ「えへへ……そ、それほどでも……」
にこ「にこの次にすごいと認めてやってもいいわ」
かすみ「……はぁ〜〜〜?」
にこ「最近の新米トレーナーも捨てたもんじゃないわね」
かすみ「勝ったのはかすみんなんですけど〜? この期に及んで、まだ自分の方がかすみんより上だと思ってるんですか〜?」
にこ「はぁ……ジムリーダーにはね、本気の手持ちってのがあるのよ。ジム戦突破の実力はもちろん認めてあげるけど、本気のにこに勝とうなんて、100年早いわ」
かすみ「な、な、な……!! なんですか、その態度!! じゃあ、本気の手持ち出してくださいよ!! かすみんがボコボコにしてやりますよ!!」
にこ「やめときなさい。泣いて帰る羽目になるわよ」
かすみ「それはこっちの台詞ですよ!! ぼっこぼこにしてやりますから、フィールドについてください!! しず子!! 手持ち回復して!! かすみんのバッグの道具使っていいから!!」
しずく「え、いやー……本当にやめておいた方が……」
かすみ「いいから!! 早く、今すぐ!!」
にこ「本当にいいのね? 本気の手持ちを使っても」
かすみ「当たり前です!! これで手加減なんかしたら、かすみん許しませんからね!!」
👑 👑 👑
にこ先輩の本気の手持ちとやらとの戦いは……かすみんの手持ちの数に合わせて5匹対5匹で行われました。
結果は──
かすみ「──……ぅ……ぇぐ……しず子ぉ……っ……」
しずく「よしよし。頑張った頑張った」
かすみ「……がずみん……でもあじもでながっだよぉ……っ……」
しずく「仕方ないよ、相手は本当に歴戦のトレーナーなんだから。いつか強くなって、見返せるように頑張ろう! ね?」
かすみ「ぅ……ひぐ……っ……うん……っ……」
にこ先輩の1匹目のポケモンに5匹全員為すすべもなくやられるという惨敗に終わりました。
かすみ「……いつか……かすみんが勝つもん……」
しずく「うん、その意気だよ、かすみさん!」
いつか、誰にも負けないポケモントレーナーになってやります……。
もちろんアイドルトレーナーとしても一番になれるように、かすみん、これからも強くなるんですから……!
一番星が輝くダリアの星空の下、涙をぐしぐしと拭いながら、次へ進むために、歩いて行きますよ……かすみんは……!
- 672 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/01(木) 11:19:11.28 ID:RGwRBCJA0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ダリアシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. ● . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 かすみ
手持ち ジュプトル♂ Lv.34 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.32 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.32 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.27 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.27 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
バッジ 4個 図鑑 見つけた数:136匹 捕まえた数:7匹
主人公 しずく
手持ち ジメレオン♂ Lv.25 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
マネネ♂ Lv.21 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アオガラス♀ Lv.25 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロゼリア♂ Lv.25 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
キルリア♀ Lv.26 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:145匹 捕まえた数:9匹
かすみと しずくは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 673 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 03:10:02.94 ID:s0SNcJvm0
-
■Intermission🎙
──ローズシティ。ローズジム。
菜々「真姫さん、こちらが今週の予定です」
真姫「ありがとう、菜々」
組んだスケジュールが入力された端末を手渡すと、真姫さんはそれに目を通し始める。
ジムリーダーを務める傍ら、医者としての研究、さらにこの街の多くの企業に影響を持っているニシキノ家のご令嬢である真姫さんは、常に多忙だ。
こうして、秘書をやらせてもらうようになり、実際に彼女のスケジュールを管理していると、それがよくわかる。
管理と言っても……私がやっているのは、彼女に来るアポイントメントを整理している程度だけど……。
真姫「うん。これで問題ないわ」
菜々「ありがとうございます」
真姫「それじゃ、今回の仕事はこれで終わりよ。また何日かしたら顔を出してくれればいいから」
菜々「え!?」
真姫「どうかしたの?」
菜々「いや……私、つい先ほど戻ってきたばかりですよ?」
真姫「そうね」
菜々「そうねって……」
せっかく仕事をしに、ローズまで戻ってきたのに……。
真姫「でも、このスケジュール完璧よ? 菜々にお願いしているのは、基本的にアポの管理業務なわけだし、貴方の仕事はここまででいいのよ」
菜々「で、ですが……! さすがにこれだけでは……申し訳ないと言いますか……」
真姫「菜々ったら、相変わらず真面目ね」
菜々「ま、真面目とかそういう話ではなく……!」
真姫「菜々は優秀な秘書になりたいの? 違うでしょ?」
菜々「……そ、それは……」
確かにそれは違うけど……。
真姫「貴方がなりたいモノは何?」
菜々「……チャンピオンです」
真姫「なら、それに向かって努力をすればいい」
菜々「どうしてそこまでしてくれるんですか……」
真姫「ひたむきに頑張る人の夢を応援するのに、理由が必要かしら?」
菜々「真姫さん……」
真姫「わかったら、早く行きなさい。貴方には最強を目指せるだけの資質があるんだから」
菜々「……ありがとうございます!」
- 674 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 03:10:38.53 ID:s0SNcJvm0
-
──真姫さんにはずっとお世話になってばかりだ。
こうして、私が私らしく、私の好きなことをしていられるのも……全部、真姫さんのお陰。
もし、そんな彼女に報いることが出来るとしたら──1秒でも早く、この地方のチャンピオンになることなんだろう。
菜々「……」
眼鏡を外し、三つ編みを解く。これが、私が……菜々が──せつ菜に変わる、スイッチ。
せつ菜「──ユウキ・せつ菜……! 行って参ります!」
──せつ菜として、最強を目指すために、私はまた修行の旅に出る。
………………
…………
……
🎙
- 675 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:19:23.83 ID:s0SNcJvm0
-
■Chapter035 『再戦! ホシゾラ・コメコジム!』 【SIDE Ayumu】
──朝、ホシゾラシティの旅館から出る。
侑「見て、歩夢……良い天気だ」
「イブイ!!」
歩夢「うん」
雲一つない、青い空。
リナ『快晴! ジム戦日和!』 ||,,> ◡ <,,||
歩夢「ふふっ、そうだね♪ 侑ちゃん」
侑「なに?」
歩夢「ジム戦、頑張ろうね!」
侑「うん! もちろん!」
一日掛けて、ウラノホシタウンからホシゾラシティまで戻ってきて──ついに迎えた再戦当日。
私の心には、以前コメコジムに挑戦したときのような迷いはなく……晴れ渡っていた。今日のこの青空のように。
なんの迷いもなく、真っすぐ、正々堂々、戦える気がした。
歩夢「みんなも……よろしくね」
手持ちの入ったボールに話しかけると──みんな元気いっぱいにボールを震わせながら応えてくれる。
「シャーボ」
歩夢「うん! もちろん、サスケもよろしくね!」
侑「それじゃ、行こう! 歩夢!」
「ブイ!!!」
歩夢「うん!」
私たちはホシゾラジムへ向かいます。
🎀 🎀 🎀
──ホシゾラジムへ向かうと、ジムの前に人影が二つ。
凛「あ! 侑ちゃ〜ん、歩夢ちゃ〜ん!」
私たちの姿に気付いた凛さんが、ぶんぶんと手を振ってくる。
侑「凛さん、花陽さん!」
花陽「こんにちは♪ 二人とも元気だった?」
歩夢「はい! あの……今日は再戦を受けてくださって、ありがとうございます」
花陽「うぅん、こちらこそ、再戦を申し込んでくれてありがとう♪ 凛ちゃんと一緒に、全力でお相手するね♪」
侑「よろしくお願いします!」
凛「それじゃ、いこっか!」
- 676 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:22:07.76 ID:s0SNcJvm0
-
そう言って凛さんが歩き出して、ジムから離れていく。
侑「あ、あれ……?」
歩夢「あの……ジム戦は……?」
花陽「あれ? もしかして、凛ちゃんから聞いてないの?」
侑・歩夢「「え?」」
二人で同時に首を傾げる。
聞いてないとは……?
凛「……あ! 言うの忘れてた!」
花陽「凛ちゃん……もう……。……あのね、今回のバトルは屋外でやろうと思って……」
歩夢「外でですか……?」
凛「理由は……まあ、移動しながら話そっ! こっちこっち!」
侑「は、はい、わかりました」
凛さん先導のもと、私たちは移動を開始します。
🎀 🎀 🎀
侑「わー! 高いよ! イーブイ!」
「ブイブイ!!」
凛「でしょでしょ! 流星山ロープウェイからの景色は絶景なんだよ! ホシゾラの自慢の一つだにゃ!」
──凛さんの案内で連れてこられたのは、ロープウェイだった。現在4人でロープウェイを使って、流星山を登山中。
歩夢「あの……もしかして、バトルするのって……」
花陽「うん。流星山の頂上だよ」
侑「流星山の頂上で!?」
凛「ホシゾラジムみたいな床張りの場所だと、ディグダみたいなポケモンは使いづらいからね」
侑「あぁ、なるほど」
確かにディグダみたいな体が地面に埋まっているポケモンは、床張りのジムだと動きが制限されちゃいがちかも……。
花陽「私はそれでも大丈夫って言ったんだけど……」
侑「いえ! やるなら、お互いが全力で戦える場所でバトルしたいです! ね、歩夢!」
歩夢「ふふっ、そうだね♪」
凛「二人なら、そう言ってくれると思ったにゃ♪」
花陽「ありがとう、侑ちゃん、歩夢ちゃん。正々堂々戦おうね♪」
侑・歩夢「「はい!」」
話していると、ロープウェイは間もなく頂上へと到着します──
- 677 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:22:44.46 ID:s0SNcJvm0
-
🎀 🎀 🎀
流星山の頂上は思った以上に広々とした場所だった。
侑「うわぁ〜、頂上って思ったより広いんですね! 普通にバトルフィールドくらいの広さは余裕でありそう……」
リナ『この辺りは天体観測用の機材を置いたりすることも多いから、整備されてるんだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「言われてみれば……流星山って天体観測で有名だったね」
凛「そうそう! ちょっと行けば、凛が所長をやってるホシゾラ天文所もあるから、遊びに来て欲しいにゃ! ……っと、それはさておき」
凛さんが花陽さんと一緒に奥の方へと歩いていき──こちらを振り返る。
凛「それじゃ、時間も勿体ないし、はじめよっか!」
花陽「二人とも、準備はいい?」
凛さん、花陽さんがボールを構える。
侑「はい! 歩夢、行ける?」
歩夢「もちろん!」
リナ『二人ともファイト〜』 || > ◡ < ||
私たちもそれぞれボールを構える。
凛「使用ポケモンはそれぞれ3匹ずつの計6匹対6匹だよ!」
花陽「全てのポケモンが戦闘不能になった時点で決着です!」
侑・歩夢「「はい!」」
侑ちゃんと二人で頷く。
凛「ホシゾラジム・ジムリーダー『勇気凛々トリックスター』 凛!」
花陽「コメコジム・ジムリーダー『陽光のたがやしガール』 花陽!」
凛「さぁ、楽しいバトルにしようね!」
花陽「二人の全力……! 私たちに見せて!」
4人が同時にボールをフィールドに放った──バトル、開始です……!!
🎀 🎀 🎀
歩夢「お願い、サスケ!」
「シャーーーボッ!!!!」
侑「ワシボン! 行くよ!」
「ワッシャァ!!!!」
私たちの最初のポケモンは、前回と同じサスケとワシボン。
一方、凛さん花陽さんは、
- 678 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:23:42.20 ID:s0SNcJvm0
-
凛「行くよ、サワムラー!」
「シャェェイ!!!!」
花陽「ダグトリオ、お願いね!」
「ダグダグダグ」
サワムラーとダグトリオ。
ダグトリオは前回戦ったディグダの進化系だ。
リナ『サワムラー キックポケモン 高さ:1.5m 重さ:49.8kg
脚が 自由に 伸び縮みして 遠く 離れている 場合でも
相手を 蹴り上げることが できる。 はじめて 戦う 相手は
その 間合いの 広さに 驚く。 別名 キックの鬼。』
リナ『ダグトリオ もぐらポケモン 高さ:0.7m 重さ:33.3kg
チームワークに すぐれた 三つ子の ディグダ。 3つの
頭が 互い違いに 動いて どんなに 硬い 地面でも 地下
100キロまで 掘り進む。 地面の下は だれも 知らない。』
──開幕早々、サワムラーの手が伸びてくる。
凛「“ねこだまし”!」
「シェイッ!!!!」
侑「“まもる”!」
「ワシャッ!!!」
その手を、翼を目の前でクロスするようにしながら、ワシボンがガードする。
凛「!? 防がれた!?」
侑「サワムラーの初手“ねこだまし”は定石! わかってれば、防げる!」
サワムラーは伸びる手足でリーチに優れているポケモン。それを生かした先制攻撃だったけど、侑ちゃんはそれを読んで防御をしていた。
侑「しかも、失敗すれば、腕を引き戻す間リスクになる……!」
「シ、シェイ」
侑「いけ!!」
「ワシャッ!!!」
侑ちゃんの指示で、翼を広げ、ワシボンが飛び出した。
戻っていくサワムラーの腕を追いかけながら、翼を構える。
花陽「“がんせきふうじ”!!」
「ダグダグ!!!!」
ただ、これはマルチバトル。横から、花陽さんのフォローの迎撃が飛んでくる、けど、
歩夢「“アシッドボム”!!」
「シャーーーボッ!!!!!」
フォロー出来るのは、こっちも同じ……!
サスケの“アシッドボム”が、“がんせきふうじ”で飛んできた岩に直撃し、煙を出しながら、溶かしてしまう。
花陽「ええ!? 飛んできた岩を撃ち落とした!?」
歩夢「いいよ! サスケ!」
「シャーボッ」
特訓の成果が出てる……!
技の命中率を上げる訓練をしていたのが功をなした。
- 679 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:24:41.18 ID:s0SNcJvm0
-
侑「ありがとう、歩夢!」
もう邪魔するものはないとでも言わんばかりに、構えた翼がサワムラーを捉える。
侑「“つばさでうつ”!!」
「ワシャァッ!!!!」
「シェェェイッ!!!!?」
攻撃が直撃し、吹き飛ぶサワムラー。
凛「サワムラー!」
「シェイッ!!!!」
でも、凛さんもただやられるばかりじゃない。
吹き飛びながらも、地面に手を伸ばし、それを軸にしながらカポエイラのように身を捻る。
すると、2本の脚がうねるように伸びながら、ワシボンに襲い掛かってくる。
凛「どんな体勢からでも攻撃出来るのが、サワムラーの強みだよ! “まわしげり”!!」
侑「ワシボン! 怯まず突っ込め!!」
「ワシャァッ!!!」
凛「え、突っ込んでくるの……!? どうにか、追っ払うよ! サワムラー!」
「シェェェイ!!!!」
うねる脚を掻い潜りながら、ワシボンとサワムラーの攻防が始まる中、
歩夢「サスケ! “たくわえる”!」
「シャーーーボッ」
サスケは自分の態勢を整える。
サスケの要は防御と遠距離からのサポート……!
歩夢「ダグトリオに向かって、“どろばくだん”!!」
「シャーー、ボッ!!!!!」
花陽「! こっちも“どろばくだん”!」
「ダグッ!!!」
サスケとダグトリオの“どろばくだん”が、ぶつかりあって相殺する。
私の役目は、花陽さんの注意を引くこと……!
サスケとダグトリオが攻撃を撃ち合っている間に、
「ワッシャァッ!!!!」
「シェェェイッ!!!!」
ワシボンはさらに距離を詰めて、サワムラーに大きな爪で襲いかかっている真っ最中だった。
侑「ワシボン!! そのまま、地面に押さえつけて!」
「ワシャァァァッ!!!」
サワムラーは、体を上から押さえつけられながらも、
凛「離れるにゃぁー!! “ブレイズキック”!!」
「シェェェェェイ!!!!!」
自分に覆いかぶさるワシボンに向かって、脚を伸ばしながら燃える蹴撃を放つ、
「ワッシャッ!!!」
- 680 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:25:45.62 ID:s0SNcJvm0
-
攻撃を察知して、飛び立つワシボン。
そして、攻撃を避けたら、
「ワシャァ!!!!」
再び、爪で襲いかかる。
凛「こ、これじゃ動けない……!」
侑「自由にはさせません!!」
凛さんの苦戦が見て取れたのか、
花陽「ダグトリオ! サワムラーを助けるよ!」
「ダグダグ!!!」
ダグトリオが、組み合うサワムラーとワシボンの方に顔を向けた──瞬間、
「シャーーーボッ!!!!!」
ダグトリオの進行方向の地面から、サスケが飛び出す。
花陽「“あなをほる”!? いつの間に!?」
さっき相殺して飛び散った泥を目くらましにしながら、潜らせて接近させていたんだ。
飛び出したサスケとダグトリオの視線が交差する。
歩夢「“へびにらみ”!!」
「シャーーーーー、ボッ!!!!!」
「ダ、ダグッ!!!?」
ヘビに睨まれて、“まひ”したように身を竦めて動けなくなるダグトリオ。
歩夢「いいよサスケ! 畳みかけて!」
「シャーーボッ!!!」
サスケが大口を開けながら、ダグトリオに向かって飛び出す。
歩夢「“かみつく”!!」
花陽「あ、“あなをほる”!!」
「ダ、ダグッ」
あともう少しのところで、ダグトリオが地面に頭を引っ込めて、サスケの攻撃が空振りする。
花陽「……ま、まずいよぉ」
花陽さんは焦り気味にチラチラとサワムラーを気にしている。
それもそのはず、
「ワシャッ!!!」
「シェェイッ!!!」
- 681 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:27:00.96 ID:s0SNcJvm0
-
取っ組み合いを続けるサワムラーは── 一瞬足りとも地面から飛び上がることが出来ない状態になっている。
ダグトリオは地面に潜って、“じしん”や“じならし”で全体を攻撃したいだろうけど、サワムラーを巻き込みそうで、攻撃が出来ずにいる。
いや──侑ちゃんが、サワムラーを地面から逃がさないようにしているんだ。
ダグトリオは潜って逃げたとはいえ、“まひ”して自由が効きにくい、なら……!
歩夢「攻めるなら今……! サスケ、“まきつく”!!」
「シャーーボッ!!!」
サスケが尻尾を伸ばす──
「シェェィッ!!!?」
──サワムラーの脚の根本に。
凛「にゃ!?」
歩夢「そのまま、“まとわりつく”!!」
「シャボッ!!!」
そのまま“まとわりつく”に派生して、身をくねらせながら、サワムラーの両足、両手の根本に絡みついていく。
四肢を完全に縛られたサワムラーは身動きが取れず、
侑「ナイス、歩夢! ワシボン、決めるよ!!」
「ワシャァッ!!!!」
その隙にワシボンが垂直に飛び上がり──空中で身を翻して、重力で加速しながら、一直線に突撃する……!
侑「“ブレイブバード”!!」
「ワッシャァァァァ!!!!!!!」
「シェェェェイ!!!!?」
サスケにホールドされて、逃げることもままならないまま、大技が直撃したサワムラーは、
「シェ、シェィィ…」
そのまま、目を回して戦闘不能になった。
歩夢「侑ちゃん!」
侑「うん! ワシボン!」
「ワシャッ!!!」
攻撃を決めた直後、ワシボンは、サスケの体を爪で掴んで、
侑「“そらをとぶ”!!」
「ワシャッ!!!」
サスケごと、一気に飛翔する。
直後──グラグラと地面が大きく揺れる。
この揺れは──さっき地面に潜った、ダグトリオの“じしん”だ。
侑「味方が倒れた瞬間だったら、巻き込むことを心配しないで、範囲攻撃が出せるもんね」
歩夢「ありがとう、侑ちゃん」
だから、サスケはワシボンに掴んでもらって、空に逃げたということだ。
- 682 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:28:02.75 ID:s0SNcJvm0
-
リナ『二人ともすごい! ここまで完璧!』 ||,,> ◡ <,,||
花陽「り、凛ちゃん……これも読まれちゃってる……どうしよう……」
凛「……二人とも、前とはまるで別人だにゃ……」
凛さんはサワムラーをボールに戻しながら言う。
花陽「うん……チームワークが全然違う」
凛「しっかり、成長してきたってことだね……! 燃えてきたにゃ!」
凛さんが、次のボールをフィールドに放る。
凛「次はサワムラーのようにはいかないよ。行くよ、ズルズキン!」
「──ズキン!!」
侑「今度はズルッグの進化系……!」
リナ『ズルズキン あくとうポケモン 高さ:1.1m 重さ:30.0kg
縄張りに 入ってきた 相手を 集団で たたきのめす。 口から
酸性の 体液を 飛ばす。 粗暴だが 自分の 家族や 群れの
仲間や 縄張りを とっても 大切にしている ポケモンなのだ。』
凛「ズルズキン! “ちょうはつ”!!」
「ッペ」
ズルズキンが地面に唾を吐いて“ちょうはつ”してくる。
「ワシャ…ッ?」
ワシボンは明らかに不快そうな顔をして、ズルズキンの方に急降下を始める。
リナ『“ちょうはつ”に乗せられてる……』 || ˋ ᇫ ˊ ||
侑「ワシボン、結構短気なところあるからね……」
歩夢「地上に引き摺り落として、ダグトリオで一掃するつもりかな……」
侑「たぶんね……」
となると、ダグトリオを止める役割が必要だ。
歩夢「侑ちゃん、ダグトリオは私たちに任せて」
侑「OK! 任せるよ! ワシボン! サスケを放して、“ダブルウイング”!」
「ワッシャァーー!!!!」
ワシボンはサスケをパッと放しながら、急降下の勢いを乗せて、両翼を振りかぶる。
凛「“てっぺき”!」
「ズキンッ!!!!」
ズルズキンは自身の皮を被って、防御に徹する。
攻撃が直撃して──ガス、ガス、と鈍い音が鳴るけど、
「ズキン」
防御をしていただけあって、ダメージはあまり通っていないのがわかる。
一方、地面に降り立ったサスケは、
「シャボ」
- 683 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:28:43.09 ID:s0SNcJvm0
-
地面を凝視していた。
チロチロと舌を出しながら、じーっと地面を観察したあと、
歩夢「“あなをほる”!」
「シャボッ」
勢いよく頭から地面を掘って潜り始める。
──アーボには、敵を探すための能力が生まれつきいくつか備わっている。
舌先は非常に敏感に匂いを感じ取り、さらに──熱を感知して相手を探す能力がある。
今こうして地面に潜ったのは……地中のダグトリオを追跡するため……!
花陽「! ダグトリオ! 地面の外に顔を出して!」
花陽さんもこちらの思惑に気付いたのか、ダグトリオに外に出てくるように指示を出す。
だけど、ダグトリオは“へびにらみ”で“まひ”している状態。
相手の位置を正確に探れるサスケなら──狙った獲物は逃がさない!!
「ダ、ダグゥ!!!!」
「シャーーーボッ!!!!」
地面から飛び出してきたダグトリオの頭には、すでにサスケが噛み付いている状態だった。
花陽「だ、ダグトリオ!! “さわぐ”!!」
「ダーーーダグダグダグダグ!!!!!!!!!!!」
3匹のダグトリオが大騒ぎし始める。
激しい騒音でサスケを振り払うつもりだ。
でも、
歩夢「させない……! “とぐろをまく”!」
「シャボ」
サスケは騒ぎまくるダグトリオの頭に噛みついたまま、その身をぐるぐるとダグトリオに巻き付けていく。
歩夢「絶対に放さない……! ダグトリオは私が任されたから!」
「シャーーボッ!!!」
もちろんこの状況、サスケはただ噛み付いて耐えているだけじゃない。
歩夢「“ギガドレイン!”」
「シャーボッ!!!」
噛み付いた部分から、“ギガドレイン”で相手の体力を吸い取る。
「ダ、ダグ、ダグググ…」
騒ぎ続けるダグトリオも、体力を直接吸収され、次第に元気がなくなっていき、
「ダ、ダグ…」
最終的には力尽きておとなしくなった。
花陽「も、戻って、ダグトリオ……!」
歩夢「やったね、サスケ!」
「シャーボッ」
- 684 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:29:40.72 ID:s0SNcJvm0
-
ダグトリオ撃破……!
それで侑ちゃんたちは……!?
凛「“かわらわり”!!」
「ズルッ!!!」
侑「“ブレイククロー”!!」
「ワシャッ!!!」
2匹の攻撃が相殺しあう。
侑「“つばさでうつ”!!」
「ワシャッ!!!」
「ズルズ…!!」
凛「“しっぺがえし”!!」
「ズルゥッ!!!」
「ワシャァッ!!?」
一進一退の肉弾戦。
歩夢「侑ちゃん、今加勢に……!」
サスケを向かわせようとした、瞬間──ボムッと音がして、
「…ブルルル」
大きな馬ポケモンがサスケの行く手を阻む。
花陽「通しません……!」
リナ『あのポケモンは、バンバドロ……! ドロバンコの進化系だよ!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
花陽さんの2番手だ。
リナ『バンバドロ ばんばポケモン 高さ:2.5m 重さ:920.0kg
10トン ある 荷物を 引きながら 三日三晩 休まずに
山道を 歩き続けることが 出来る。 泥で 固めた 脚は
岩より 硬くなり 一撃で トラックを 破壊する 威力。』
花陽「“ふみつけ”!!」
「ブルルル!!!」
歩夢「さ、サスケ! 逃げよう!」
「シャ、シャボッ」
あんな大きな足で踏みつけられた、一溜りもない。
サスケはバンバドロの足元を縫うようにして、すり抜けていく。
花陽「逃がさない……! “すなじごく”!!」
「ブルルルル!!!!!!」
バンバドロが乱暴に足を踏み鳴らすと──足場の岩が砕かれて細かくなっていく。
「シ、シャボォ…!!!」
砕かれた岩は砂利になり砂になり──そして、バンバドロを中心に流砂へと成長していく。
侑「サスケ……! 早く、ズルズキンをどうにかしなきゃ……!」
- 685 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:31:02.94 ID:s0SNcJvm0
-
侑ちゃんが、サスケのピンチに気付き、助けようとするけど、
「ワッシャァッ!!!」
「ズキンッ!!!」
ワシボンとズルズキンは今も攻撃の応酬をしている。
サスケのサポートに入るのは難しい状況……。
なら、私たちに出来ることは──
花陽「バンバドロ! “10まんばりき”!!」
「ブルルルルルッ!!!!!!」
バンバドロが全身全霊の力を込めて、サスケを踏みつける。
「シャ、シャーーーボォッ……!!!!」
サスケは踏みつけられて、じたばたともがくけど、相手が重すぎて、逃げることなんて到底できそうになかった。
「シャ、シャボォ……」
結局、途中で力尽きて戦闘不能に。
私はサスケをボールに戻す。
歩夢「ありがとう、お疲れ様、サスケ……」
サスケは十分仕事をしてくれた。
サスケの頑張りは、次のポケモンが引き継げばいい。
歩夢「いくよ、マホイップ!」
「──マホ〜」
私はマホイップをバンバドロの前に繰り出す。
小さい小さいマホイップは、バンバドロを見上げる形になる。
花陽「“ふみつけ”!!」
「ブルルル!!!!」
バンバドロの足一本よりも小さいマホイップは、ぐしゃっと踏みつぶされてしまう。
「ブルル…?」
花陽「……手応えがなさすぎる……」
バンバドロが足を持ち上げると──
「マホ〜♪」
ぺちゃんこ──というか、ドロドロになった、マホイップが楽しそうに鳴き声を上げた。
花陽「……“とける”……!?」
歩夢「いくら踏みつぶされても、マホイップにはダメージになりません!」
「マホ〜♪」
ここからは持久戦です……!
- 686 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:32:03.90 ID:s0SNcJvm0
-
🎹 🎹 🎹
歩夢のマホイップがバンバドロを受けながら、時間を稼ぎ始める。
なら、ズルズキンは私たちでどうにかしないと……!
「ワッシャァ!!!」
「ズキンッ!!!!」
2匹は未だに、肉弾戦の応酬を続けている。
ただ、いい加減“ちょうはつ”の効果も切れているはず。
なら、正直に付き合い続ける必要もない!
侑「ワシボン! “そらをとぶ”!」
「ワシャァッ!!!」
ガッと爪で攻撃する反動を利用して、ワシボンは一気に空へと離脱する。
これで、距離を取って、一旦態勢を立て直す……!
……が、凛さんの対応は早かった。
凛「逃がさないよ!! “うちおとす”!!」
「ズルッ!!!」
ズルズキンは足元の小石を拾って──それをワシボンに投げつけてきた。
「ワシャッ!!?」
侑「やばっ!?」
──石が頭に直撃して、今空に飛び立ったばかりのワシボンは、真っ逆さまに落ちてくる。
無防備に落ちてくる相手を、見逃してくれるわけもなく、
凛「“アイアンヘッド”!!」
「ズ、キンッ!!!!!」
硬質化した頭でもって、地面に叩きつけられる。
逃げを打った結果、大きな隙を晒す羽目になったしまった。
……だけど、
侑「ワシボン……! まだ、終わりじゃないよね!」
「ワシャァ…!!!!」
押しつぶしてくるズルズキンの頭の下で──ワシボンが“ばかぢから”で踏ん張っていた。
凛「嘘!? まだ耐えるの……!?」
ワシボンの闘志はまだ潰えていない……!!
自分を押しつぶしてくるズルズキンの頭を“ばかぢから”で少しずつ押し返していく。
迫り勝てる……!! そう思った瞬間だった、
──足元を大きな揺れが襲った。
侑「わぁ!!?」
歩夢「きゃぁ!!?」
- 687 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:32:59.37 ID:s0SNcJvm0
-
隣にいる歩夢ともども、大きな揺れに驚きの声をあげる。
それと同時に、踏ん張っていたワシボンも大きな揺れの影響を受け、
「ワ、ワシャァァァ…!!!」
せっかく、押し返せそうだったのに、ズルズキンの頭に押し返されていた。
そして、トドメと言わんばかりに、
「ズキン!!!!」
もう一度振りかぶって、振り下ろされた“ずつき”を脳天に食らって、
「ワ、ワシャァ……」
ついに、気絶してしまった。
侑「く……戻って、ワシボン」
勝てると思ったのに……。
それにしても今の揺れ……。
侑「バンバドロの“じしん”……だよね」
花陽「ごめんね、凛ちゃん……出来れば、ズルズキンは巻き込みたくなかったんだけど……」
凛「うぅん、助かったよ……ありがと、かよちん」
凛さんのピンチに花陽さんが機転を利かせたということらしい。
歩夢「ご、ごめん侑ちゃん……止められなかった」
どうやら、歩夢との持久戦の中で、無理やり全員を巻き込んで攻撃してきたらしい。
歩夢は防御に徹して時間を稼いでいたし、やむを得ない。
侑「うぅん、大丈夫!」
それより次だ。まだ私の手持ちは2匹残ってる。
ただ、問題は……イーブイとライボルト、どっちを先に出すかだ。
ライボルトは花陽さんのじめんタイプと相性が悪いし、イーブイは凛さんのかくとうタイプと相性が悪い。
どっちを先に出しても、どうにか相性を覆す必要がある。
ボールに手を掛けながら、次のポケモンを迷っていると──腰につけたままのボールの一つから、ボムッと音がした、
侑「へ……!?」
びっくりして、振り返ると、
「…ニャァ」
ニャスパーが出て来ていた。
- 688 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:33:37.10 ID:s0SNcJvm0
-
侑「に、ニャスパー! 今、バトル中で……」
「ニャァ?」
凛「にゃ? どうかしたの?」
侑「あ、えっと、ごめんなさい! この子勝手に出てきちゃったみたいで……!」
凛「そういうことなら、戻しても大丈夫だよ」
侑「す、すみません! ニャスパー、ボールに戻って!」
「ニャァ」
すぐさまボールに戻そうとするけど、ニャスパーは知らんぷりして、とてとてとフィールドへと歩いていく。
侑「ニャスパー……?」
リナ『もしかしたら……侑さんたちが戦ってるところを間近で見て、闘争本能が刺激されたのかも』 || ╹ᇫ╹ ||
「ニャァ〜」
侑「……一緒に、戦ってくれるの?」
「ニャァ」
侑「……」
相変わらず何考えてるかわからないけど……。少なくとも、明らかに戦っている中で、自分から前に出たということは、乗り気……と捉えてもいいのかもしれない。
侑「……わかった。すみません! やっぱり2匹目はこの子で戦います!」
歩夢「ええ!? ゆ、侑ちゃん!? 大丈夫なの!?」
まだ、この子のことはよくわからないことばっかりだけど、
「ニャァ〜」
私たちのバトルを見て、自分も戦いたいと思ってくれたってことは……私たちの戦いを見て、少しでも熱くなってくれたということ。
侑「せっかくやる気を出して、自分から出て来てくれたんだから。その気持ちに応えてあげたいんだ!」
歩夢「侑ちゃん……。……わかった!」
凛「じゃあ、その子が侑ちゃんの2匹目でいいんだね?」
侑「はい! それじゃ行くよ、ニャスパー! 初陣だ!」
「ニャ〜〜〜」
🎹 🎹 🎹
リナ『侑さん、ニャスパーがなんの技を使えるかはわかる?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「大丈夫! 予習済みだから!」
ニャスパーが仲間になった後から、ニャスパーの覚える技は調べていた。
いつか、一緒に戦うこともあるかもって思ってたしね!
──まさか、それがジム戦の真っ最中になるとは思ってなかったけど。
侑「ニャスパー! ズルズキンに向かって、“シグナルビーム”!」
「ニャァ〜〜」
ニャスパーから、点滅する光線が発射される。
「ズルズッキンッ…!!!!」
- 689 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:34:50.61 ID:s0SNcJvm0
-
ズルズキンに攻撃が直撃する。技自体はすごく威力が高いわけじゃないから、倒しきるのは難しいけど……。
ズルズキンは遠距離技に乏しいし、特殊技に対する防御手段も少ない。
となると、
凛「ズルズキン! “とびひざげり”!」
「ズキンッ!!!」
侑「接近してくるよね!」
ズルズキンは助走を付けて、ニャスパーに向かって飛び掛かってくる。
なら……!
侑「ニャスパー! “じゅうりょく”!」
「ニャ〜」
「ズキンッ!!!?」
空中に浮いていたズルズキンは無理やり、地面に叩き落される。
“じゅうりょく”が発動すると、周囲のポケモンは空を飛べなくなるし、“とびげり”や“とびひざげり”を使うことが出来なくなる。
全員が飛べなくなるということは、裏を返せば、すべてのポケモンが“じしん”や“じならし”を回避できなくなるということでもある。
これで、花陽さんは凛さんのポケモンを巻き添えにしないで、“じしん”を撃つことは出来なくなったわけだ。
リナ『侑さん、すごい! 初めてなのに、ニャスパーの技を使いこなしてる!』 ||,,> ◡ <,,||
侑「えへへ、実は結構イメトレしてたんだよね!」
ニャスパーが覚える技を眺めているとき、面白い技がたくさんあるとは思っていたんだ。
エスパータイプは思った以上にいろんなことが出来て、面白い戦いが出来そうだなって……!
凛「無理にジャンプしなくても、出来る技なんてたくさんあるよ!! “じごくづき”!!」
「ズキンッ!!!!」
ダッシュで突っ込んできた、ズルズキンが“じごくづき”をしようと、迫ってくる。
ニャスパーにとっては弱点タイプのこの技だけど──狙い通りだ!
次の瞬間、ズルズキンの“じごくづき”は──ベシャという音を立てた。
凛「にゃ!?」
「ズキンッ!!?」
花陽「え!?」
「ブルル…!!?」
驚きの声をあげる凛さんと花陽さん。そして、それぞれの手持ちのポケモンたち。
それもそのはず──ズルズキンの攻撃した場所には、
「マホ〜♪」
“とける”で物理攻撃に強い耐性を持ったマホイップの姿。
そして、先ほどから地面を踏み鳴らしまくっていたバンバドロは、
「バ、バンバ…!!!!」
脚を上げたまま、静止していた。
しかもその足元には──
「ニャァ〜〜〜」
- 690 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:35:58.99 ID:s0SNcJvm0
-
ニャスパーの姿。
侑「成功! “サイドチェンジ”!」
ダイヤさん、ルビィさんとの戦いで使われた技だ。
使いどころを選べば、奇襲を掛けながら、有利なマッチアップを作り出せるテクニカルな技。
凛「ま、マホイップはまずいにゃ……!!」
歩夢「マホイップ! “マジカルシャイン”!」
「ホイップ〜〜♪」
「ズルゥーーッ!!!?」
輝く閃光がズルズキンを圧倒する。
リナ『あく・かくとうタイプのズルズキンには、フェアリータイプはこうかばつぐん!』 ||,,> ◡ <,,||
先ほどから、効果があまりないとわかっていても、バンバドロが攻撃によってマホイップを足止めし続けていたのは、ズルズキンと戦わせないためだということには気付いていた。
だからこそ、足止めしていたはずのマホイップが目の前に現れたのには面食らったことだろう。
加えて──
「ニャァ〜〜〜」
「ブ、ブルルル…」
花陽「バンバドロがパワーで押し負けてる……!?」
耳をわずかに開いたニャスパーが、バンバドロの足を少しずつ押し上げる。
侑「やっぱり、ニャスパーのサイコパワーは強力だって、図鑑に書いてあったとおりだ……!」
繊細なコントロールこそ苦手なものの、純粋に重いものを持ち上げたり吹っ飛ばしたりする、力任せな使い方なら、バンバドロのパワーにも負けてない……!
「ニャァ〜〜〜」
「ブルルッ!!!?」
ニャスパーはそのまま、バンバドロをひっくり返してしまう。
侑「すごいよ! ニャスパー!」
「ニャァ〜」
侑「畳みかけるよ!! “サイコショック”!!」
「ニャァ〜〜」
実体化したサイコパワーが、バンバドロを集中砲火する。
「ブ、ブルルル…!!!!」
花陽「く……強力な攻撃だけど……バンバドロの特性は“じきゅうりょく”です! 攻撃を受ければ受けるほど、防御力が増して……」
「ブ、ブルル……」
花陽「え……!? ぜ、全然受けきれてない……!?」
転んで動けなくなった状態で、“サイコショック”の集中砲火を受けたバンバドロは、
「ブ、ブルルゥ…………」
ダメージに耐えきれず気絶してしまった。
花陽「え、え……どういうこと……?」
- 691 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:36:35.82 ID:s0SNcJvm0
-
動揺する花陽さん。
それに答えたのは、
歩夢「……サスケが最後にした技、何かわかりますか」
歩夢だった。
歩夢「バンバドロが“10まんばりき”で踏みつける瞬間……サスケは技を使ってたんです」
花陽「え……?」
歩夢「“いえき”を」
花陽「……! だから、“じきゅうりょく”が……!」
“いえき”は相手の特性を消してしまう技だ。
それによって、バンバドロは“じきゅうりょく”を失っていたため、ニャスパーの攻撃に耐えることが出来なかったというわけだ。
花陽「完全にやられちゃったね……」
凛「侑ちゃんも、歩夢ちゃんも、すごいね……! すっごく強くなった!」
花陽「うん! そうだね。びっくりするくらい強くなってる!」
凛「でも、まだ凛もかよちんも、とっておきの子が残ってるからね! 最後まで勝負はわからないよ!」
凛さんと花陽さんは、それぞれズルズキンとバンバドロをボールに戻しながら言う。
二人の最後のポケモンは──
凛「行くよ、オコリザル!!」
「ムキィィィィ!!!!!」
花陽「ドリュウズ! お願い!」
「ドリュ!!!!」
オコリザルとドリュウズ。
特にオコリザルは、私たちにとっては因縁の相手だ。
歩夢「……オコリザル」
侑「歩夢」
緊張気味に相手の名前を呟く歩夢の肩をぽんと叩く。
侑「もうあのときみたいに、知らないままじゃないから。大丈夫」
歩夢「……うん、そうだね!」
侑「このまま、行くよ!」
歩夢「うん!」
さぁ、ジム戦も最終局面だ……!
- 692 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:37:39.07 ID:s0SNcJvm0
-
🎹 🎹 🎹
花陽「ドリュウズ! “あなをほる”!」
「ドリュ!!!」
最初に動き出したのは花陽さんのドリュウズ。
頭と爪のドリルを使って、地面に潜っていく。
狙いは恐らく──
侑「歩夢! 来るよ!」
歩夢「うん!」
マホイップだ。
相手は恐らく、数を削りたいだろう。
そうなると、マホイップと相性の良いドリュウズをぶつけてくるはずだ。
歩夢「マホイップ! “とける”!」
「マホ〜〜」
ならばと、歩夢はさらに物理攻撃への耐性を上昇させる。
無敵ではないにせよ、これでタイプで不利なドリュウズ相手でも十分時間を稼げるはずだ。
そして、その間に、
「ニャ〜〜」
ニャスパーでオコリザルを倒す……!
凛「オコリザル! 行くにゃ!」
「ムキィーーーー!!!!」
侑「行くよ、ニャスパー!」
「ニャ〜」
飛び出してくるオコリザルを迎え撃とうと、ニャスパーが前に走り出した瞬間──
ニャスパーの足元から、
「ドリュッ!!!!!!」
「ニャァッ!!!?」
ドリュウズが飛び出してきた。
侑「なっ!?」
──読みが外れた!?
花陽「“ドリルライナー”!!」
「ドリュゥ!!!!!」
侑「さ、“サイコキネシス”!!」
「ニ、ニャァ〜〜〜〜」
下から突き上げるように、ドリュウズが体を回転させながら迫る。
それをサイコパワーでどうにか押し返しながら耐えるニャスパー。
- 693 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:38:40.49 ID:s0SNcJvm0
-
侑「……そうだ、オコリザルは!?」
オコリザルはどうにか拮抗しているニャスパーとドリュウズ目掛けて走りこんできている真っ最中。
そこでやっと、相手はマホイップではなく、ニャスパーへ集中攻撃を選んだんだと気付いて、ハッとする。
今必死にドリュウズを抑えているニャスパーへ攻撃をされたらまずい……!
歩夢「マホイップ!」
「マホ〜〜〜」
歩夢もそれに気付いて、マホイップを前線に送り出す。
──ただ、これが相手の狙いだった。
なんと、オコリザルは──ニャスパーとドリュウズの横を素通りした。
侑「え!?」
オコリザルの狙いは──マホイップ!?
凛「行けっ!! オコリザル!!」
「ムキィィィィ!!!!」
歩夢「! マホイップ!」
「マホ〜〜」
ドロドロの状態のマホイップに向かって、オコリザルが拳を突き刺した。
──ドチャッという粘性の高い液体の音が鳴る。
その音がオコリザルの物理攻撃は効果が薄いと物語っているはずなのに、
「マ、マホ…マホイ…ッ!!!?」
歩夢「え!?」
急にマホイップが苦しみだした。
凛「もう一発!!」
「ム、キィィィ!!!!!」
「マ、マホ〜〜〜〜!!!?」
マホイップが悲鳴をあげながら、オコリザルと距離を取ろうとする。
確実にダメージが入っているということ。
何……!? 何をされてるの……!?
必死で頭を回転させる。
フェアリータイプのマホイップには、かくとうタイプは効果が薄いはずだ。
となると、あれはかくとうタイプの技じゃないのは間違いない。
フェアリータイプへの有効打となると、ドリュウズのようなはがねタイプや──
侑「……どく、タイプ……?」
そこでやっと気付く。
侑「歩夢!! “どくづき”だ!!」
歩夢「“どくづき”……!?」
“どくづき”は毒タイプの物理技。確か、オコリザルも覚えることが出来たはずだ、
- 694 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:39:28.21 ID:s0SNcJvm0
-
侑「ただの物理攻撃に見せかけて、拳から毒を注入してるんだ!」
歩夢「!?」
凛「バレちゃったね! でも、もう遅いよ!!」
「ムキィィィ!!!!!」
3発目の拳が、マホイップに突き刺さる。
「マ、マホィィィ…!!!」
苦しむマホイップ。
侑「歩夢、早く対策を……!」
花陽「歩夢ちゃんのポケモンを気にしていて大丈夫ですか?」
侑「!?」
花陽さんの声にハッとして、ニャスパーの方を見ると、
「ニ、ニャァァァァ…!!!!!」
「ドリュゥゥゥゥ!!!!!」
ドリュウズのドリルに今にも押し負けそうになっているところだった。
完全に注意がマホイップに向いていて、指示がおろそかになっていた。
花陽さんは、その隙を逃してはくれなかった。
花陽「“つのドリル”!!」
「ドリュゥゥゥ!!!!!!」
「ゥニャァァァァ!!!!?」
一撃必殺……!
“つのドリル”が直撃して、ニャスパーは回転しながら、吹き飛ばされた。
侑「ニ、ニャスパー!!」
吹っ飛ばされたニャスパーは、
「フ、フニャァァァ…」
地面に落っこちて、戦闘不能になってしまった。
そして、それと同時に──
「マ、マホ…」
歩夢「マホイップ……! ……ありがとう、戻って」
マホイップも“どく”に耐えきれずに戦闘不能になったところだった。
侑「……ニャスパーもありがとう。戻れ」
私もニャスパーをボールに戻す。
やってしまった。
侑「……っ」
- 695 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:40:05.90 ID:s0SNcJvm0
-
一気に流れが変わったのを感じる。
その原因を作ったのは……恐らく私だ。
完全に向こうの作戦を読み違えた。
百歩譲ってそこは仕方ないとしても……読み違えたことに動揺して、完全にその後の指示を間違えた。
嫌な汗が出てくる。この展開はよくない。これは逆転を許す流れだ。
どうにか、どうにかこの悪い流れを切らないと──
そんな焦る私を引き戻したのは──
歩夢「侑ちゃん、落ち着いて」
侑「え……?」
歩夢の言葉だった。
歩夢「大丈夫だよ」
侑「歩夢……」
歩夢「大丈夫」
侑「……」
ああ……私、何一人で焦ってるんだ。
侑「……すぅー……はぁー……」
深呼吸をする。
歩夢「落ち着いた?」
侑「うん……ありがとう、歩夢」
焦ることなんてない。
私には──こんなに頼もしいパートナーがいるんだから。
歩夢「侑ちゃん」
侑「ん」
歩夢「勝とう!」
侑「……!」
いつかのバトルで私が歩夢に言った言葉だ。
侑「……うん! 勝とう! 二人で!」
歩夢「うん!」
私たちは最後のポケモンを繰り出す。
侑「行くよ! イーブイ!!」
「イブイッ!!!」
歩夢「ラビフット! お願い!」
「ラビフッ!!!!」
イーブイとラビフット。奇しくも前回、敗北したときと同じ組み合わせ。
だけど──負けるつもりなんてさらさらない。
- 696 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:40:54.83 ID:s0SNcJvm0
-
侑「歩夢! 行くよ!」
歩夢「うん!」
侑「イーブイ! オコリザルに“すくすくボンバー”!!」
「ブイッ!!!」
イーブイが尻尾を振ると、目の前に樹が生えてくる。
そして、その樹からオコリザル目掛けてタネを落としまくる。
凛「もう、それは前に食らったもんね! オコリザル、相手しちゃダメだよ!」
「ムキィィ!!!」
凛さんは冷静に距離を取らせる。
この技はビジュアル的なインパクトこそすごいものの、技が敵に届くまで少々時間が掛かるという難点がある。
とはいえ、後ろに下げさせただけでも十分だ。
その隙に、
歩夢「ラビフット! ドリュウズに“かえんほうしゃ”!」
「ラーーービィィィィ!!!!!!!!!」
ラビフットがドリュウズに向かって、炎を噴き出す。
花陽「“あなをほる”!」
「ドリュ!!!!」
それを回避するように、またしてもドリュウズは穴に潜っていく。
さぁ、今度はどっちに来る……!
歩夢「侑ちゃん」
侑「歩夢?」
歩夢「任せて」
侑「! オッケー任せるよ! イーブイ!」
「ブイッ」
イーブイは、自分で生やした“すくすくボンバー”の樹をぴょんぴょんと跳ねながら登っていく。
地中を突き進むドリュウズの射程外に行くために。
凛「にゃ!? 何かする気だね! オコリザル!」
「ムキィィィ!!!!!」
凛さんの指示で、オコリザルが再びこっちに走ってくるが、
侑「“びりびりエレキ”!!」
「ブーーーイッ!!!!!」
凛「わわっ!?」
「ムキィッ!!?」
オコリザルの目の前に電撃を落として威嚇する。
歩夢の邪魔はさせない……!
- 697 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:41:41.66 ID:s0SNcJvm0
-
🎀 🎀 🎀
侑ちゃんが、私を信じて、私が戦うステージを作ってくれている。
歩夢「行くよ、ラビフット」
「ラビ!!!」
地中から迫るドリュウズ。
地面のどこから飛び出すか、出てくるまで目に見えない攻撃。
だけど、大丈夫。
──ヒバニーの頃から、この子の大きな耳は、いろんな音を聴き分ける。
歩夢「──よく聴いて」
「ラビ」
集中すれば、
「──ドリュ!!!!」
どこから、飛び出してくるかも、きっとわかる……!!
──ドリュウズが飛び出した瞬間、掠るようにギリギリで攻撃を躱しながら、
歩夢「そこっ!! “ブレイズキック”!!」
「ラビッフッ!!!!!」
ドリュウズのボディに、横から炎の蹴撃を炸裂させた。
「ド、ドリュゥ!!!!?」
完全に攻撃を直撃させるルートに入ったと思い込んでいたドリュウズは、攻撃に対応できずに、吹っ飛ばされる。
そこに畳みかける。
「ラビビビビビビ!!!!!!!」
“ニトロチャージ”で加速しながら、全身を炎を纏ったラビフットが飛び込んでいった。
歩夢「“フレアドライブ”!!」
「ラーービフゥゥゥゥゥ!!!!!!!!!」
「ドリュゥッ!!!?」
燃え盛る炎の一撃を、ドリュウズに炸裂させた。
花陽「ドリュウズ……!」
「ド、ドリュゥ…」
リナ『ドリュウズ、戦闘不能……!』 || > ◡ < ||
侑「やった!」
そして、ドリュウズを倒すと同時に──
「ラビ…!!!!──」
ラビフットの体が光に包まれる。
- 698 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:42:22.37 ID:s0SNcJvm0
-
侑「こ、これって……もしかして……!?」
歩夢「進化の……光……」
ラビフットが、最後の姿へと、その身を変える。
「──バーーーース!!!!!」
侑「歩夢……! ラビフットが、進化したよ!!」
リナ『最後の姿……エースバーンだよ!!』 ||,,> 𝅎 <,,||
リナ『エースバーン ストライカーポケモン 高さ:1.4m 重さ:33.0kg
小石を リフティングして 炎の サッカーボールを つくる。 するどい
シュートで 相手を 燃やす。 攻守に 優れ 応援されると さらに
燃えるが スタンドプレイに 走り ピンチを 招くこともある。』
歩夢「エースバーン……!」
残るポケモンは、
花陽「ごめん凛ちゃん……また、先にやられちゃった……」
凛「大丈夫! 凛がどうにかするから!」
「ムキィィィィ!!!!!」
凛さんのオコリザルと、侑ちゃんのイーブイ。
そして、新しい姿を得た、私のエースバーン。
前回とほとんど同じシチュエーション。
侑「歩夢、大丈夫?」
歩夢「え?」
侑「前のときと……ほとんど同じだから」
歩夢「……」
確かに、ちょっとドキドキしていた。
また、同じ失敗をするかもって、そんな気にもなるけど。
歩夢「うぅん、平気。前の私だったら、プレッシャーを感じてたかもしれないけど……」
今は、大丈夫。
むしろ、今は、
歩夢「あのときの失敗を、乗り越えるチャンスなんだって、思えるんだ」
侑「歩夢……」
あの大失敗から、ずっと私の心につっかえていたものを、前に進むことを遮っていた壁を──全部、全部、壊して、前に進めるんだって。
侑「……うん! 進もう! 前に!」
歩夢「うん! 行こう! 前に!」
- 699 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:44:32.73 ID:s0SNcJvm0
-
🎀 🎀 🎀
歩夢「エースバーン! 行くよ!」
「バーーーースッ!!!!」
侑「イーブイ! GO!」
「ブイッ!!!!!」
エースバーンとイーブイが一緒に走り出す。
凛「オコリザル!! “クロスチョップ”!!」
「ムキィィィィィ!!!!!」
オコリザルが、イーブイに向かって飛び掛かってくる。
それを横から、
歩夢「“ブレイズキック”!!」
「バースバーー!!!!」
「ムキィィィ!!!!!」
蹴り飛ばす。吹っ飛ばされ、転がりながらも、オコリザルは受け身を取って立ち上がる。
凛「地面に向かって、“メガトンパンチ”!!」
「ムキィィィッ!!!!!」
今度は、地面に拳を叩きつけ──
凛「“かいりき”!」
「ムッキィィィィィ!!!!!」
パンチで砕いた大岩を持ち上げる。
侑「歩夢! 来るよ!」
歩夢「うん!」
「ムッキィィィィィ!!!!!!!」
そして、大岩をこっちに向かって放り投げてくる。
それと同時に、
「ムキィィィィ!!!!!!」
オコリザルが走り出す。
侑「オコリザルは私たちが止める!! 歩夢は岩を!! イーブイ! “めらめらバーン”!!」
「ブイ!!!!」
歩夢「うん! エースバーン!」
「バース!!!!」
エースバーンは足元にある小石を、足で器用にリフティングし始める。
そこに自身の炎を宿らせながら、火球を作り出す。
──ポーンと一際高く蹴り上げた燃えるボールを、
歩夢「“かえんボール”!!」
「バーースバーーーッ!!!!!!」
- 700 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:45:26.87 ID:s0SNcJvm0
-
大岩に向かって、蹴り飛ばす!
猛スピードで蹴り出された炎のボールは──大岩にぶつかると同時に、炎のエネルギーを散らしながら炸裂した。
大岩は轟音を立てながら、バラバラと砕け散る。
そして、その下ではイーブイが、
「ブイイイイイ!!!!!!!」
「ム、ムキィィィィィ!!!!!!」
オコリザルの“クロスチョップ”に対して、全身に炎を纏いながら、迫り合っているところだった。
侑「イーブイ!! いっけぇぇぇ!!」
「ブィィィィィ!!!!!!!!!」
凛「かくとうタイプの意地、見せるにゃぁぁぁぁ!!」
「ムッキィィィィィィ!!!!!!!!!!」
最後の迫り合い。
歩夢「加勢に行って、エースバーン!!」
「バースバーーーッ!!!!!!」
駆け出すエースバーン。
──恐らく、普通だったら、ここで決着だったんだと思う。
だけど、最後の最後で──神様がいたずらをした。
エースバーンが砕いた岩が、バラバラに砕け散って大量の礫が降っている。
その礫の一つが──偶然、
「ブヒッ!!!!!!」
オコリザルの鼻っ柱──オコリザルの急所にぶつかった。
侑「なっ!?」
歩夢「えっ!?」
リナ『嘘っ!?』 || ? ᆷ ! ||
凛「にゃっ!?」
花陽「えぇ!?」
誰も予想をしていなかった展開に、この場にいる全員が驚きの声をあげた。
「ムッキィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
──“いかりのつぼ”が発動した。
「ブイッ!!!?」
「バースッ!!!?」
オコリザルはイーブイの“めらめらバーン”で体が燃やされているのもお構いなしに、腕を引く。
凛「……“ばくれつパンチ”ィ!!!!」
「ムッキィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!」
オコリザルのフルパワーの拳が──爆発した。
そう……爆発と言って差し支えなかった。
- 701 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:46:02.36 ID:s0SNcJvm0
-
「ブ、ブィィィィィィィ!!!!?」
「バァァァァス!!!!!!」
至近距離にいたイーブイはもちろん、援護をしようと駆け寄っている真っ最中だったエースバーンもろとも吹き飛ばす、爆発に匹敵する超威力の拳。
──また、負けるの?
吹き飛ぶエースバーンとイーブイを見て、そう思った。
……やだ。
やだ。
歩夢「……やだっ!! 負けたくないっ!!」
侑「歩夢っ!!!!」
歩夢「!?」
侑「まだだっ!!!!」
宙を舞う、エースバーンと、イーブイは、
「バース、バァァァァ!!!!!!」
「ブイィィィィィッ!!!!!!」
まだ闘志の炎を失っていない。
侑「イーブイッ!! “めらめらバーン”ッ!!!」
「ブゥゥゥゥイィィィィィィ!!!!!!!!」
──ゴォっと音を立てながら、イーブイが燃え上がる。
そのとき、侑ちゃんとイーブイのやろうとしていることが、自然とわかった。
侑「歩夢ーーーーっ!!! いけーーーーっ!!!」
歩夢「エースバーンッ!!!! イーブイに向かって、“ブレイズキック”ッ!!!」
エースバーンは身を捻りながら──
「バァァァァァァーーースッ!!!!!!!!!!!!!!」
空中のイーブイを、蹴り飛ばした。
「ブゥゥゥゥイィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!」
燃える火球となったイーブイが猛スピードで、
「ム、キィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!!」
怒り狂うオコリザルの──急所を捉えた。
炸裂と共に、2匹分のほのおのエネルギーが一気に膨張し──爆裂した。
歩夢「きゃぁっ!!?」
侑「くっ……!!」
激しい爆風に思わず尻餅をつく。
そんな爆風が収まり──炎が晴れた先では、
「ム、キィィィィ……」
- 702 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:47:36.73 ID:s0SNcJvm0
-
丸焦げになったオコリザルが、白目を向いて、ひっくり返っていた。
「ブ、ブイ…ブィィ…」
そして、オコリザルの傍らには、ふらふらになりながら立っているイーブイ。
少し離れたところで、
「バ、バァス…」
こちらも満身創痍ながら、どうにか立っているエースバーンの姿があった。
歩夢「え、っと……」
なんだか、ポカンとしてしまった。
侑「歩夢」
歩夢「侑ちゃん……?」
侑「私たちの──勝ちだよ」
歩夢「……ぁ」
オコリザル、戦闘不能。よって、この勝負は──
歩夢「私たち……勝ったんだ……っ……」
自然と涙が溢れてきた。
歩夢「勝ったんだ……っ……」
侑「うん……! 勝ったよ! 二人で!」
歩夢「……勝った……勝てたよぉ……っ……侑ちゃんと、二人で……っ……ひっく……っ……」
侑「うんっ! 歩夢が居たから、勝てたよ!」
歩夢「侑、ちゃん……っ……、ゆう……ちゃん……っ……!」
私は嬉しくて嬉しくて、涙が止まらなくて。
何度も何度も侑ちゃんの名前を呼びながら、しゃくりをあげて泣きじゃくる。
侑「歩夢……ありがとう……」
歩夢「……ぅぇ……っ……ひっく……っ……わ、わた、しも……あり、がとう……ゆう、ちゃ……っ……」
侑「うん……」
ぎゅっと抱きしめてくれる侑ちゃんの胸の中で、しばらくの間、泣き続けていました。
- 703 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:48:29.70 ID:s0SNcJvm0
-
🎀 🎀 🎀
侑「落ち着いた?」
歩夢「……うん///」
なんだか、ものすごく泣いてしまった。
ちょっと恥ずかしい……。
侑「ふふ、ならよかった」
侑ちゃんがクスリと笑う。
歩夢「むー……笑わないでよ……///」
侑「ふふ、ごめんごめん」
また笑うし……。
そんな私たちのもとに、
凛「逆転勝ちだと思ったのににゃー……」
花陽「ふふ、そうだね」
凛さんと花陽さんが歩いてくる。
凛「でも、すっごい楽しいバトルだった!」
花陽「うん!」
凛「侑ちゃん、歩夢ちゃん。こっちにおいで」
侑「はい! ……歩夢」
侑ちゃんが私の手を引いて、立ち上がらせてくれる。
歩夢「……ありがとう、侑ちゃん」
侑「どういたしまして♪」
二人で、並んで凛さんと花陽さんの前に立つ。
凛「二人の果てしない信頼、強さ、勇気を認めて──この“コメットバッジ”と」
花陽「“ファームバッジ”を進呈します♪」
侑・歩夢「「……はい!!」」
- 704 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:49:03.27 ID:s0SNcJvm0
-
バッジを受け取り、私は思わず天を仰いだ。
すると、来るときは透き通るように青かった空は──綺麗な茜色に染まっていた。
きっと明日も晴れ渡っているんだろうな──今の私の心のように。
歩夢「侑ちゃん」
侑「ん?」
歩夢「これまで、ありがとう……!」
侑「ふふっ、こちらこそ」
私はやっとこれで一区切り出来た気持ちだった。
だから、これまでのお礼と、
歩夢「これからも、よろしくね!」
侑「うん!」
これからの気持ちを全部込めて、侑ちゃんに伝えるのでした。
- 705 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/02(金) 11:49:43.29 ID:s0SNcJvm0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【流星山】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂●|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.39 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.36 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.31 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.28 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
タマゴ なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:111匹 捕まえた数:4匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.37 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.33 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.32 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
タマザラシ♀ Lv.26 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:138匹 捕まえた数:15匹
侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 706 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2022/12/02(金) 22:51:07.51 ID:QMN4W/Ljo
- 『SVレート初戦』
(21:37〜)
https://www.twitch.tv/kato_junichi0817
- 707 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:00:09.91 ID:ogLreJcM0
-
■Chapter036 『朧月の夢の中で』 【SIDE Ayumu】
流星山で激闘の末、凛さん、花陽さんとの戦いに勝利した私たち。
気付けば、すっかり日も落ちて、夜の時間が訪れようとしていた。
侑「歩夢……空、すごいね」
「ブィ〜!!」
歩夢「……うん」
ふと空を見上げると、まだ日が落ちて間もないのに、空にはたくさんの星が瞬き始めていた。
リナ『流星山は天体観測の名所だからね。空気が澄んでて星がよく見える』 || ╹ ◡ ╹ ||
リナちゃんの言うとおり、話には聞いていたけど……実際に見ていると、満天の星たちが今にも落ちてくるんじゃないかという錯覚に陥る。
「…シャボ」
バトルの後、回復してあげて、すっかり元気になったサスケも、私に釣られて空を見上げる。
侑「サスケが、ご飯以外に興味を示すなんて珍しい……」
歩夢「ふふ、そうかも♪」
「シャボ」
だって、本当にすごい星空なんだもん。普段ご飯にしか興味のないサスケだって、気になっちゃうよね。
──さて、ジム戦を終えたのに、どうしてまだ私たちがこの流星山に残っているのか、その理由は……。
侑「っと……あんまりのんびりして、凛さんたちを待たせてちゃいけないね」
歩夢「うん、そうだね」
凛さんの提案で今日はホシゾラ天文所に泊めてもらえることになったからだ。
凛さんと花陽さんは、一足先に天文所に行って宿泊手続きをしてくれている。
なので、私は侑ちゃんと一緒にのんびり夜空を見上げながら、天文所に向かっているところというわけだ。
とはいえ、この星空を堪能していたら、本当に一晩中、空を見上げたまま、ここに根っこが生えてしまいそう。
だから、一旦夜空の鑑賞はここまでにして、天文所へ向かうことにする。
侑「花陽さんが、コメコで採れた食材でご飯を作ってくれるらしいし!」
「シャボッ!!!!」
ご飯と聞いて、サスケが私の肩から降りて、天文所に猛スピードで向かっていく。
歩夢「もう、サスケったら……」
侑「あはは♪ ジム戦頑張ったし、きっとお腹空いてるんだよ。私もお腹ペコペコだし……」
「ブイ」
イーブイも侑ちゃんに同調するように、鳴く。
確かに、あんな激戦の後だから、私もお腹空いたかも……。
リナ『それじゃ、早く天文所に行こう♪』 || > ◡ < ||
侑「だね! 歩夢、行こう!」
- 708 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:02:29.09 ID:ogLreJcM0
-
そう言って、侑ちゃんが駆け出す。
歩夢「あ、侑ちゃん! 暗いから、走ったら危ないよ!」
侑「平気平気!」
歩夢「もう……!」
慌てて侑ちゃんの後を追いかけようとした、そのときだった。
少し離れたところに、星空を見上げる小さなポケモンが居た。
「…ピィ」
小さな小さな星型のシルエット。
あれって……。
歩夢「……ピィ?」
ほしがたポケモンのピィ。
可愛らしくて、小さい頃から好きなポケモンなんだけど……すごく珍しいポケモンだから、野生の姿を見るのは初めてだった。
もっと近くで見てみたくて、ピィに近寄ろうとしたら、
「ピ?」
ピィは私に気付いたようで。
「ピィ〜」
ぴょんぴょん跳ねながら、どこかに逃げて行ってしまった。
歩夢「あ……行っちゃった……」
仲良くなりたかったんだけどな……。
ちょっぴり残念に思っていると、
侑「──歩夢〜? 何してるの〜? 早く行こうよ〜?」
侑ちゃんが呼び掛けてくる。
歩夢「あ、うん! 今行く!」
逃げられちゃったのは残念だけど……この山に生息しているなら、また会えるかな?
天文所に着いたら、凛さんに聞いてみようかな。
私は胸の内でそう決めて、侑ちゃんの後を追いかけるのだった。
- 709 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:03:05.56 ID:ogLreJcM0
-
🎀 🎀 🎀
凛「──にゃ? ピィ?」
天文所の食堂で、花陽さんの作ってくれたご飯を食べながら、私はピィのことを凛さんに訊ねていた。
歩夢「はい、さっき見かけたんです」
侑「えー! 私もピィ見たかったなぁ……言ってくれればよかったのに……」
歩夢「だって、侑ちゃんどんどん先に行っちゃうんだもん……」
尤も、いの一番に飛び出して行っちゃったのはサスケなんだけど……。
羨ましがる侑ちゃんに対して、
凛「うーん……」
凛さんは腕を組んで唸っていた。
花陽「凛ちゃん、どうしたの?」
凛「うーんと……ピィかぁ……」
歩夢「……?」
凛さんの不思議な反応に首を傾げていると、リナちゃんがふわふわと近付いてきて、
リナ『流星山にはピィは生息してないはずだよ』 || ╹ᇫ╹ ||
そんなことを言う。
歩夢「え?」
侑「そうなの?」
リナ『うん。流星山にピィはいない。少なくとも図鑑の分布データでは生息してないってことになってる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「えぇ……?」
侑「もしかして、他のポケモンと見間違えた?」
歩夢「そんなはずないと思うんだけど……」
あの独特な星型のシルエット……見間違えるかな……?
凛「確かに……流星山にはピィは生息してないよ」
侑「やっぱり、見間違えたんじゃない?」
歩夢「えぇ……? あれはピィだったと思うんだけど……」
絶対にピィだったと思うんだけど……なんだか、みんなに言われると、自信がなくなってくる。
凛「ここ自体が研究施設だから、周辺のポケモン分布とかはしっかり調査されていて、ピィはいないってことになってるんだけど……」
歩夢「……そうなんですか」
思わずしょんぼりしてしまう。しょんぼりしてから、
歩夢「……いないってことになってる?」
- 710 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:04:02.40 ID:ogLreJcM0
-
不思議な言い回しだったことに気付く。
凛「実はね、天文所が出来るよりずーーーっと前。凛が生まれるよりもずっとずっと昔から、流星山にはちょっとした伝説が残ってるんだ」
歩夢「伝説……ですか?」
凛「流れ星の夜になると、月の世界からピィが流れ星に乗って遊びに来るっていう伝説。実際、流星山の周辺でたびたびピィを見たって情報があってね……」
歩夢「じゃあ、やっぱりあれは……!」
凛「……ただね。何度調査しても、ピィは発見されてないんだ。だから、ここの所長として言うなら、ピィは生息してない……って答えになっちゃうかも」
歩夢「そんなぁ……」
凛「ただ、夢のあるお話だから、凛もいるって信じたいんだけどね」
凛さんは苦笑いする。
侑「その伝説ってピィが遊びに来るってだけのお話なんですか? それだけだと伝説って言うよりはただの噂っぽい気が……」
凛「あはは、確かにそれだけだと噂だよね。なんでも、ピィは龍神様の遣いなんだって」
侑「龍神様……?」
侑ちゃんが首を傾げる。
歩夢「龍神様ってもしかして……龍の止まり樹の龍神様ですか?」
凛「歩夢ちゃん、よく知ってるね! その龍神様だよ」
侑「え、なにそれ?」
歩夢「ほら、セキレイの南におっきな樹があるでしょ?」
侑「ああうん、大樹・音ノ木だよね。この地方のシンボル」
歩夢「そこの頂上でお休みする龍のお話、聞いたことない?」
侑「……ああ、そういえば絵本で読んだことあるかも」
私が説明すると、侑ちゃんはなんとなく思い出したようだ。
侑「龍の咆哮だよね。毎年季節になると、大樹から龍の鳴き声がするってやつ。ちょうど今くらいが季節なんじゃないっけ?」
花陽「でも、あれはメテノが衝突する音なんだよね?」
確かに私もそう教わった。昔の人はそれが龍神様の咆哮だと思い込んでいただけだったって……。
凛「うん。今ではそう言われてるね。ただ、それは別の現象なだけで、本当は実際に龍神様がいるって考えもあるんだよ」
歩夢「そうなんですか?」
凛「普段は人目に付かないところでひっそり暮らしてるんじゃないかって。……そして、そんな龍神様のもとに導いてくれるのが、ピィだって言われてるんだよ」
歩夢「じゃあ、あれは……」
凛「もしかしたら、龍神様が近くに来てて、その遣いのピィも流星山に遊びに来てるのかもしれないにゃ」
侑「ホントなら、龍神様、会ってみたいなぁ……!」
凛「でも龍神様は、怒ると怖いらしいよ〜? 怒らせると、町一つくらいだったら簡単に消し飛ばしちゃうんだって!」
リナ『随分おっかないね、龍神様……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
凛「まあ、お伽噺の一つだからね。ちょっと大袈裟に表現してるんだと思う。ホシゾラの町では、親が子供に『言うこと聞かないと龍神様が怒って出て来るぞ!』なんて言って脅かすんだよ。凛も小さい頃お母さんから、よく言われたにゃ……」
花陽「ふふっ、凛ちゃんちっちゃい頃はよくいたずらして怒られてたもんね♪」
リナ『お伽噺はあんまり私のデータにないから興味深い』 || ╹ ◡ ╹ ||
- 711 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:04:42.22 ID:ogLreJcM0
-
話はすっかり、龍神様の話題になってしまったけど、
歩夢「やっぱり、あれは……ピィだったのかな……」
私は龍神様の遣いのピィのことがすごく気になっていた。
🎀 🎀 🎀
──夜も更けてきた頃合い。
私たちは、用意してもらった宿泊部屋で過ごしていた。
もういい時間なので、隣では侑ちゃんがイーブイの毛繕いをしながら、船をこぎ始めている。
そんな中、
歩夢「……よし」
私は上着を羽織って、外に出る準備をする。
侑「んぁ……? 歩夢、外行くの……?」
歩夢「うん。ちょっと星が見たくて……」
侑「……私も……行く……」
歩夢「もう眠そうだし、無理しないで? 私もちょっと見たら、戻ってくるから」
侑「んー……そういうことなら……」
もともと一人で行くつもりだったし、完全にうとうとしている侑ちゃんを連れて行くほどではない。
ちょっと確認がしたいだけ。
さっきピィがいた場所を確認して、ピィがいなかったらすぐに戻るつもりだ。
歩夢「それじゃ、ちょっと行ってくるね」
侑「んー……いってらっしゃーい……」
ふにゃふにゃと手を振る侑ちゃんに見送られて、私はさっきの場所に一人で赴く。
🎀 🎀 🎀
真っ暗な夜道を、足元に気を付けながら歩いていく。
歩夢「確か……この辺りだよね……」
「シャボ」
さっきピィを見かけた場所は、天文所からそう離れた場所じゃなかったから、すぐにたどり着いた。
ただ、
歩夢「ピィ……いないね」
「シャボ」
- 712 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:05:27.71 ID:ogLreJcM0
-
ピィの姿はないし、鳴き声のようなものも聞こえない。聞こえるのは、私の言葉に相槌を打ってくれるサスケの鳴き声くらい。
歩夢「やっぱり……見間違いだったのかな」
結構自信あったんだけどな……。
ちょっとしょぼんとしてしまう。
でも、見間違いだってことがわかっただけでも、すっきりしたかな。
歩夢「早く戻ろっか」
「シャボ」
私が来た道を戻ろうとした、そのときだった。
「──ピィ」
背後から、鳴き声がした。
歩夢「え?」
声がする方に振り返ると、
「…ピィ」
いつの間にか、星型のシルエット──ピィが少し離れた場所にいた。
歩夢「……いた」
「ピィ」
本当にいた……。
ピィは少し離れた場所で、ぴょこぴょこ飛び跳ねながら、踊っている。
何をしているんだろう。
今度こそ、間近で見たくて、私がピィの方へ歩を進めると、
「ピッ!?」
私の足音に気付いたのか、ビクッとして、
「ピピィッ!!!」
逃げ出してしまう。
歩夢「あ、待って……!」
慌てて追いかける。
「ピ、ピィ!!!」
ピィはぴょこぴょこ跳ねながら、岩山を奥へ奥へと逃げていく。
歩夢「待って! ちょっとお話ししたいだけなの……!」
「ピ…?」
私の言葉を理解したのかしていないのか、ピィが足を止める。
- 713 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:06:20.28 ID:ogLreJcM0
-
歩夢「ごめんね、びっくりさせちゃったみたいで……」
「ピィ」
ゆっくり近付くと、ピィはおとなしく私を待ってくれている。
出来るだけ大きな音を立てないようにして近付き……ピィの目の前にしゃがみこんで、声を掛けてみる。
歩夢「こんばんは。私、歩夢」
「ピィ」
歩夢「あなたは……龍神様の遣いさんなの?」
「ピィ?」
ピィは私の言葉に小首を傾げる。
歩夢「って言ってもわかんないか……」
人間の作ったお伽噺でそう言われているだけだもんね。
歩夢「あなたはここに住んでるの?」
「ピィ?」
歩夢「それともここじゃないどこかから来たの?」
「ピィ」
歩夢「あはは、よくわからないや……」
「ピィ」
手を伸ばして、優しく撫でてみる。
歩夢「よしよし♪」
「ピィ♪」
ご機嫌に鳴くピィ。
触れるし……本当に目の前にいるのは確かだ。
でもデータ上、ピィがここには生息していないというのも恐らく事実なんだと思う。
嘘を言う理由がないし……。
そうなると、普段ピィは人目に付かない場所にいるってことになるけど……。
歩夢「あなたは普段どこにいるの?」
「ピィ?」
そう訊ねると、ピィは、
「ピィ…」
月を見上げる。
歩夢「お月様から来たの……?」
「ピィ」
歩夢「……やっぱり、この子……龍神様の……?」
確証はないけど……やっぱり、なんだか不思議な感じがする。
ただ、しばらく撫でていたら、飽きてしまったのか。
「ピィ」
- 714 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:07:08.41 ID:ogLreJcM0
-
私の手から離れて、またぴょこぴょこと岩山を奥へと跳ねていく。
少し名残惜しかったけど……なんだか、捕まえるという感じではないし、そっとしておいた方がいい気がした。
実際に、ピィがいることが確認出来てすっきりもしたし。
今度こそ、戻ろうかなと思った瞬間──遠くで大きな音がした。
歩夢「龍の咆哮……?」
さっき侑ちゃんが言っていたとおり、今はちょうど龍の咆哮の季節だ。
北側を見ると、音ノ木に向かって虹色の流星の筋が見えた。
色とりどりのメテノたちの姿だ。
「シャボ」
歩夢「ああ、うん。戻るんだったね」
改めて戻ろうとした、そのとき、
「ピィーーー!!!?」
歩夢「!?」
ピィの鳴き声が響く。
声がする方に、バッと振り返ると──
「ピ、ピィィ!!!?」
ピィが岩の突き出た崖から落ちそうになっていた。短い手で必死に崖を掴んでいる。
まさか、龍の咆哮に驚いて、バランスを崩した……!?
歩夢「あ、危ない……!?」
私は咄嗟に、ピィのもとへと駆け出して、
歩夢「ピィ……! 今助けるからね!」
「ピ、ピィィ…」
突き出した岩の上で腹ばいになって、ピィに手を伸ばす。
歩夢「おとなしくしててね……!!」
「ピィィィ…」
ピィの小さな手を掴んで、手繰り寄せる。
「ピィ…」
歩夢「もう、大丈夫だよ……」
しっかりと胸に抱き寄せる。
これで安心だ。
そう思った、瞬間──ガクンと視界が揺れた。
歩夢「っ!?」
急な浮遊感に、頭が真っ白になる。
突き出た岩が私の体重を支え切れずに──崩れた。
「シャーーボッ!!!!!」
- 715 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:07:48.09 ID:ogLreJcM0
-
サスケが咄嗟に、私の腕に尻尾を巻き付けて、
「シャボッ!!!!!」
崖に牙を突き立てて、噛み付く。
それによって、宙ぶらりん状態になるが、
「シャ、シャボォォォォ…!!!」
サスケの小さな体で、私の体重を支えるのは無理だ……!
歩夢「サスケっ!? ダメ!! サスケじゃ支えきれないよ!?」
「シャボォォォォ…!!!!」
歩夢「サスケだけでも、上にあがって!! 私のことはいいから!!」
「シャァァボォォォォォ…!!!!」
このままじゃサスケの体がちぎれちゃう……!!
歩夢「サスケ、私を放して!!」
「シャァァァァボォォォォォォ……」
歩夢「お願い!! 言うこと聞いて!!」
「シャァァァァボ……」
だけど、一向にサスケは私を放そうとしない。
腕に食い込むくらいの力で尻尾を巻き付けてくる。
──ビシ。
頭上でさらに嫌な音がした。
直後──再び、全身が浮遊感に包まれる。
サスケが噛み付いていた崖ごと──崩れた。
でも、落ちながら──サスケがちぎれちゃうより、マシだなんて思ってしまった。
歩夢「サスケ……! ピィ……!」
落ちながら2匹のポケモンをぎゅっと抱き寄せる。
神様、お願い……! この子たちだけでも、助けて……!!
歩夢「お願い……!! 龍神様──」
🎀 🎀 🎀
「──シャボ」
──声が……聞こえる……。
「──ピピィ…?」「シャボ」
──サスケと……ピィの……声……?
歩夢「……ん……ぅ……」
- 716 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:08:31.76 ID:ogLreJcM0
-
ぼんやりと目を覚ますと──
「シャボッ!!!」「ピピィ!!」
サスケとピィが私の顔を覗き込んでいた。
歩夢「……サスケ……ピィ……」
「シャーボッ」「ピィ」
歩夢「……私……生きてる……?」
ゆっくりと身を起こす。
まだ、ぼんやりしている頭のまま、周囲を見回すと──洞窟の中のような場所にいた。
でも、ただの洞窟というわけではなく……灯りがある。
壁に火の灯った松明が掛けられていて、お陰で視界が確保されていた。
それに、私が寝ていた場所も……平たい岩の上に藁が敷き詰められていて……寝床のような状態になっていた。
歩夢「ここ……どこ……?」
私……崖から落ちたんだよね……?
キョロキョロと周囲を見回していると──
「──……目を覚まされたんですね」
背後から声を掛けられて、振り返る。
そこには、見たことのないデザインの和装──民族衣装かな──を身に纏い、やや緑掛かった黒髪をボブカットにし、左側を髪飾りで留めている女の子の姿があった。
歩夢「あなたが、助けてくれたの……?」
女の子「いえ、助けたのは、そこのピィですよ」
歩夢「え……?」
女の子「その子が、貴方をここに連れて来たんです」
歩夢「どういうこと……?」
まさか、ピィが私を持ち上げてここまで運んできた……とか……?
疑問が顔に出ていたのか、女の子は、
女の子「ピィが持ち上げて運んできたわけではありませんよ」
私の心の中の疑問を正確に復唱しながら否定する。
女の子「ピィが貴方をここに導いたんです」
歩夢「導いた……? えっと、ここはどこなの……?」
女の子「ここは……そうですね。どこでもない場所です」
歩夢「……?」
いまいち話が要領を得ない気がするんだけど……。
またしても、疑問が顔に出ていたんだろう。
女の子「そうですね……強いて言うなら、“朧月の洞(おぼろづきのうろ)”と呼ばれることがあります」
女の子はそう教えてくれる。
- 717 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:09:08.41 ID:ogLreJcM0
-
歩夢「朧月の……洞……?」
女の子「ええ。それと、ピィを助けてくださったようで、ありがとうございます」
歩夢「えっと……」
助けたのか、助けられたのか……ここはどこで、目の前の子は誰なんだろう……?
疑問だらけで、頭の中がこんがらがりそうになる。
女の子「順を追って説明をしましょう。……とりあえず、場所を移したいのですが……立てますか?」
歩夢「あ……うん……」
ゆっくりと立ち上がってみせると、目の前の女の子は一度小さく頷いてから、
栞子「私は栞子と言います。こちらへどうぞ」
そう名乗ってから、奥へと歩いていく。
私はその後ろを付いていく形で歩を進める。
「シャボ」「ピィ」
サスケとピィも私に付いてくる。
私が眠っていた部屋からちょっと歩くと、開けた部屋に出た。
そこには──
「ピッピ」「ピピッピ?」「ピッピプ〜」
歩夢「ピッピ……?」
たくさんのピッピがいた。
ピッピたちの群れを見た瞬間、
「ピィ」
ピィがピッピたちの群れに向かって、とことこと駆け出していく。
「ピピッピ?」「ピピピ」
「ピィ」
「ピピップ」「ピッピ」
何やら話をしながら、ぴょこぴょこと飛び跳ねている。
栞子「あのピィは群れで一番幼い子でして、時折勝手に外に遊びに出かけてしまうんです」
歩夢「は、はぁ……」
栞子「外は、身を守る手段の乏しいピィには危険な場所なので、行かないように言っているのですが……やんちゃで言うことを聞かないことが度々あって……」
歩夢「あの……外、って言うのは……」
さっきも言っていた、外とか、どこでもない場所、とか……。
栞子「そうですね……ここは、特別な結界の中にある場所……と言えば、少しはわかりやすいでしょうか」
歩夢「結界……?」
栞子「そう、結界……。外の世界とは隔絶された、特別な空間」
歩夢「……」
- 718 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:09:47.21 ID:ogLreJcM0
-
要領を得ないことには変わりないけど……私の頭の中で一つ、結びついたことがあった。
歩夢「龍神様の……遣い……」
栞子「そうですね、外でピィがそのように呼ばれることがあるのは把握しています」
私の言葉に、栞子ちゃんは首を縦に振る。
つまり、ここは……。
歩夢「龍神様のいるところ……ってこと……?」
栞子「はい、そうですね」
歩夢「あの話……本当、だったんだ……」
まさか、ピィが本当に龍神様の遣いだったなんて……。
栞子「ですが、本来は外の人間がここに来ることはありません」
歩夢「え? じゃあ、どうして私は……」
栞子「貴方が、落ちそうになったピィを、身を挺して助けてくれたからです」
歩夢「身を挺してって……あのときはただ夢中だっただけで……」
栞子「その姿勢が、龍神様のお気に召したのでしょう。仮に遣いの案内があっても、心の穢れた人間は入ることすら出来ない場所ですから」
歩夢「…………」
恐らく、龍神様の聖域……みたいな場所なんだと理解する。
落ちそうなピィを助けた結果、私も一緒に落ちちゃったけど……落ちている最中に、ピィがこの空間に私を飛ばして、助けてくれたということらしかった。
それはわかった……けど、
歩夢「あの……」
栞子「なんでしょうか?」
歩夢「あなた……栞子ちゃんは、どうしてここにいるの?」
この子がここにいる理由がよくわからなかった。そもそもこの子は誰なんだろう……?
栞子「いきなりちゃん付けですか……」
歩夢「あ、ご、ごめんなさい……! 馴れ馴れしかったかな……?」
栞子「いえ……あまり、そのように呼ばれたことがなかったので驚いただけです。呼び方は貴方のご自由に」
歩夢「あ……私は歩夢って言います!」
そういえば、まだ名乗っていなかった。
- 719 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:10:33.89 ID:ogLreJcM0
-
栞子「歩夢さんですね。覚えておきます。……それで、どうしてここにいるか、ですが……」
歩夢「うん」
栞子「私は……巫女なんです」
歩夢「……巫女……? えっと、龍神様の……ってこと?」
栞子「はい。私たちの一族は代々、龍神様の巫女として仕えてきました。その中でも当代の巫女は“翡翠の巫女”と呼ばれています」
歩夢「それじゃあ……栞子ちゃんがその翡翠の巫女なの?」
栞子「そうなります」
歩夢「ここには他の人はいないの?」
栞子「はい。私の一族は基本的には隠れ里に住んでいて、翡翠の巫女だけが、龍神様の傍にお仕えする決まりになっているんです。龍神様はあまり人間がお好きではなく……最低限の人間しか傍に置きたがらないので」
歩夢「そうなんだ……。じゃあ、栞子ちゃんはずっと一人で……」
栞子「一人ではありませんよ。ポケモンたちがいますから」
歩夢「ポケモンたちって……ピッピたち?」
栞子「ピッピたちもそうですが……。見た方がわかりやすいと思います。こちらへどうぞ」
栞子ちゃんはそう言って、さらに奥の部屋へと私を案内する。
栞子「このピッピたちの部屋は、月と星を通じて、ここと外界を繋ぐ部屋……つまるところ、この結解の玄関のような場所なんです」
栞子ちゃんの案内で、ピッピたちのいた部屋の隣の部屋へ入る。
そこは先ほどよりは小ぢんまりとしていて──部屋の中には、お布団や畳んだ衣服が置かれていた。
歩夢「もしかして、栞子ちゃんの部屋……?」
栞子「はい」
通された彼女の部屋の中から、生き物の気配がする。
栞子「みんな、出て来てください」
栞子ちゃんが声を掛けると、
「キュゥ…」「ワン」「ビリリリ」「ウォー」
ポケモンたちが顔を出す。
栞子「こちら歩夢さんです。ピィを助けてくれたんですよ」
「キュウ…」「ワンワン」「ビリリ」「ウォー」
出て来たポケモンは4匹。でも、どれも見たことのないポケモンばかり。
栞子「歩夢さん、こちら一緒に住んでいるポケモンたちです。ゾロア、ガーディ、ビリリダマ、ウォーグルです」
歩夢「え?」
ただ、栞子ちゃんの紹介する名前はどれも知っているポケモンの名前ばかりだった。
特にゾロアなんかは、かすみちゃんのゾロアを何度も見てきたから、馴染み深い。
でも、目の前にいるゾロアは、かすみちゃんのゾロアのような黒い毛ではなく……真っ白な毛並みをしていた。
ゾロア以外も、ガーディは白いもこもこで目が覆われているし、ビリリダマは……なんだか質感が木のようだ。
私が知っているガーディやビリリダマとは違う姿をしている。
ウォーグルは……実物を見たことがないから、あまりわからないけど……少なくとも、テレビで見たことがある姿とは何か違う気がする。
- 720 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:11:17.29 ID:ogLreJcM0
-
栞子「この姿、あまり馴染みがないかもしれませんね」
歩夢「う、うん……」
栞子「この子たちは今はもうない、ヒスイ……という地に生息していたポケモンなんです」
歩夢「ヒスイ……」
栞子「翡翠の巫女は、龍神様にお仕えすることの他に、このヒスイの地に生まれたポケモンたちを人知れず守るのも使命の一つとして代々受け継いできたんです」
歩夢「そうなんだ……。じゃあ、この子たちは栞子ちゃんの家族なんだね?」
栞子「家族……そうですね。私の家族です」
歩夢「そっか……じゃあ、私とおんなじだ」
栞子「?」
歩夢「私もお家にたくさんポケモンがいてね、小さい頃から家族同然に過ごしてきたんだ」
栞子「……だからですね」
歩夢「え?」
栞子「歩夢さんからは、少し不思議な雰囲気を感じていました」
歩夢「不思議な雰囲気……?」
栞子「はい。本来ここに住んでいるピィは警戒心が強くて、滅多に人間には近寄らないのですが……歩夢さんにはポケモンの警戒心を解く、不思議な雰囲気があるようです。それは恐らく、幼い頃から、ポケモンと家族同然に育ってきたからこそ、身に付いたものなのでしょう」
歩夢「そう……なのかな?」
栞子「ええ。だからこそ、ピィも心を許してくれたんだと思いますよ」
自覚はないけど……そうらしい。
栞子「他の部屋にも、別のヒスイのポケモンたちがいますが……特に仲の良い子はこの子たちなんです。あ、もちろん、ピィやピッピとも仲良しですよ」
歩夢「大切な子たちなんだね」
栞子「はい。この子たちがいるから、私は寂しくないんです。……寂しくありません」
そういう栞子ちゃんの声は……なんだか、強がっているような気がした。
歳は私と同じか……少し下くらいかな……。
そんな女の子がこんな薄暗い洞窟の中で、ずっと一人で過ごしていて、寂しさを感じないわけなんてない。
だから私は、
歩夢「……ねぇ、栞子ちゃん」
栞子「なんですか?」
歩夢「私と……お友達になってくれないかな?」
自然とそう提案していた。
栞子「お友達……ですか……?」
歩夢「うん。ダメかな……?」
栞子「ダメ……ではないです。そう言ってくださって嬉しいです。ですが……もう会うこともないでしょうから」
歩夢「え……」
栞子「本来、ここに外の人間が入ることも、存在を知らせることも、許されていないんです。今回はあくまで特例ですから」
歩夢「そっか……」
栞子「ですから……今日ここで見たことは、歩夢さんの心の中だけにしまっておいてください」
歩夢「……うん、わかった」
栞子「それでは……帰りの道をご案内します」
- 721 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:12:30.52 ID:ogLreJcM0
-
栞子ちゃんと一緒にさっきのピッピたちの部屋へと戻る。
栞子「そこの中央の丸い岩の上に」
歩夢「うん」
ピッピたちが踊る部屋の真ん中にある──大きな真ん丸のテーブルのような岩の上に立つ。
すると、不思議なことに、洞窟の中なのに、頭上に空が見えて、月の光が降り注いでくる。
栞子「そこを通れば、外の世界に戻れますよ」
歩夢「ありがとう、栞子ちゃん」
栞子「いえ……こちらこそ、ピィを──家族を、助けていただいて、感謝しています」
栞子ちゃんは丁寧に腰を折ってお辞儀をする。
歩夢「もう、会えないんだよね……?」
栞子「はい。不思議な夢を見たと、そう思ってください」
歩夢「……せっかくお友達になれたのに……ちょっと、寂しいな」
栞子「寂しくありませんよ。きっと外で、歩夢さんの大切な人たちが待っていますから」
歩夢「……うん……ばいばい、栞子ちゃん」
栞子「はい。お元気で」
私は──ゆっくりと、空にある朧月へと、吸い込まれていき……不思議な浮遊感に包まれながら、元の世界へと帰っていく──
- 722 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:13:16.50 ID:ogLreJcM0
-
🎀 🎀 🎀
気が付いたときには、
侑「…………すぅ……すぅ……zzz」
「ブイ…zzz」
ホシゾラ天文所の宿泊部屋にいた。
ベッドの上で侑ちゃんが眠っているから間違いないだろう。
歩夢「戻ってきた……」
「シャボ」
なんだか、随分と不思議な体験をしてしまった気がする。
あまりに不思議すぎて……。
歩夢「……夢、だったのかな」
寝ぼけていただけなのかと、一瞬思ったけど……。
ピィも、ピッピも、ヒスイのポケモンたちも。
──栞子ちゃんも。
全部全部、鮮明に覚えている。
──『不思議な夢を見たと、そう思ってください』
栞子ちゃんには、そう言われたけど。
歩夢「……」
どうして栞子ちゃんが、ヒスイの家族たちを紹介してくれたのか。
ただ送り返すだけでもよかったはずなのに。
それは、もしかして……。
歩夢「……自分を、知って欲しかったから……じゃないかな」
たった一人で、龍神様に仕える中で、偶然現れた私に、自分という存在を伝えたかったんじゃないかな。
ここにいるよ。ここで使命を全うしているよ。ここで家族と暮らしているよ。
そんなことを、知って欲しかったんじゃないかなって。
わかんないけど……私の想像でしかないけど。
もう会うことはないって言われたけど……でも、
歩夢「忘れないでいれば……いつか、どこかで会うかもしれないから」
──たった、一時だけど、朧月の夢の中で出会った不思議な女の子……栞子ちゃんのことを。今日あった不思議な出来事を、忘れないように胸にしっかり刻んで、しまうことにした。
また、いつか……あの朧月の夢の中で出会える日を、願って……。
- 723 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/03(土) 12:13:52.86 ID:ogLreJcM0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【流星山】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂●|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.37 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.34 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.32 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
タマザラシ♀ Lv.26 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:143匹 捕まえた数:15匹
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.39 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.36 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.31 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.28 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
タマゴ なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:111匹 捕まえた数:4匹
歩夢と 侑は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 724 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 01:55:00.14 ID:iC9FggQ30
-
■Intermission🎹
──そこは温かい丘だった。
「ベベノ〜♪」
「ベノ〜」「ベノム〜」「ベベベノ〜」
その温かい丘で、小さなポケモンがたくさん楽しそうに飛んでいる。
みんな同じポケモンで紫色のポケモンだけど……そのうちの1匹だけは目を引くような白と黄色の白光色をしていた。
「ベノ〜♪」
「アタシたちに楽しいこと、報告してくれてるのかもね♪」
「うん。きっとそう」
──女の子二人がそんな会話をしていた。
そのうちの一人に──
「ベベノ?」
さっきの小さなポケモンが1匹近づいてくる。
この子はたくさんいる紫色の子のうちの1匹だ。
その子は白光色の子と一緒に踊り始める。
「ベベノ〜♪」「ベベノ〜♪」
「この子なら、仲良くなれそう」
「そうだね。ねぇ、ベベノム、よかったらアタシたちのベベノムと友達になってよ」
「ベベノ〜♪」
「よかったね、ベベノム♪ 友達出来たよ♪」
「ベベノ〜♪」「ベベノ〜♪」
「また、賑やかになるね」
「だね〜♪」
なんだか楽しくて、嬉しくて、温かな光景だった……。
「ニャァ…」
──
────
──────
侑「……んぅ……」
目が覚める。
侑「…………まただ」
また、この夢……。
最近、よく見る……。
侑「なんなんだろ……?」
- 725 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 01:55:44.87 ID:iC9FggQ30
-
最初は何も気にしていなかったけど……さすがに短い間に何度も見ると、何か意味があるのかと考えてしまう。
そういえば、夢の中に出てきた女の子……。どこかで見たような……?
侑「…………夢の記憶が曖昧で…………思い出せない……」
さすが夢とでも言うべきだろうか……。なんとなくの印象はあったけど……容姿を鮮明に覚えていないというか……。
歩夢「……ん……ぅ…………ゆうちゃん……?」
侑「あ、ごめん……起こしちゃった?」
歩夢「んーん……大丈夫……」
歩夢は眠そうに目を擦りながら身を起こす。
リナ『おはよう。侑さん、歩夢さん』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「おはよう、リナちゃん」
歩夢「……おはよう…………ふぁ……」
リナ『歩夢さん、まだ眠そう』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「ん……ちょっと……」
侑「まだ寝てていいよ。ごめんね、起こしちゃって」
歩夢「……じゃあ……もう少しだけ……」
そう言うと、歩夢はぽてっと横になると……すぐに、すぅすぅと寝息を立て始めた。
リナ『歩夢さんの寝起きが悪いなんて、珍しいね』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「確かにそうだね」
リナちゃんと二人ひそひそ声で話す。
歩夢は朝に強い方だから、私も珍しいもの見ちゃったかも。
侑「昨日、寝るの遅かったのかな? リナちゃん、知ってる?」
リナ『うぅん。スリープモードにしてたから……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「そっか。まぁ……昨日はジム戦もあったし、もう少しゆっくり休ませてあげよう」
リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「…………すぅ……すぅ……」
さて……歩夢が起きるまで、どうしようかな……。
あまり音を立てないように、ベッドの上で身体を伸ばしていると、
リナ『そういえば、侑さん。今日はどうする予定?』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんがそう訊ねてくる。
侑「うーんと……せっかく流星山の頂上まで来たし、北に向かって、アキハラタウンを目指す感じになるかな?」
リナ『となると、流星山の北側を下山するんだね』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「うん。アキハラタウンでは特にやることもないから……そのまま、セキレイを目指すことになると思う」
- 726 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 01:56:20.96 ID:iC9FggQ30
-
アキハラタウンはセキレイシティの南に位置する小さな田舎町。
二つの町を繋ぐ8番道路ものどかで、野生のポケモンも大人しいことから、ポケモンを持つ前にも、歩夢とお散歩で何度か行ったことがある場所でもある。
大樹・音ノ木があるから、観光地としては有名だけど、私たちセキレイ住民にとっては地元の範疇。
ジムもないし……この旅では素通りするだけになりそうだ。
侑「流星山の下山って厳しかったりする?」
リナ『登りよりは大変かもしれないけど、最近北側にも、山道が出来たから、大丈夫だと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「そっか、よかった。それじゃ、歩夢が起きたら、出発しよっか」
リナ『うん』 || > ◡ < ||
歩夢「…………すぅ……すぅ……」
………………
…………
……
🎹
- 727 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2022/12/04(日) 02:52:21.88 ID:mgqN8qMa0
- VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
- 728 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:13:45.75 ID:iC9FggQ30
-
■Chapter037 『カーテンの裾にて』 【SIDE Shizuku】
かすみ「さぁ〜次の目的地に向かって、旅立つよ〜!」
「ガゥガゥ♪」
──かすみさんのジムチャレンジが終わった翌日。
ダリアシティから、次の目的地を目指して出発する。
かすみ「ところで、次ってどこに行くの?」
しずく「えーと……ダリアからだと、北のヒナギクか、東に行ってセキレイに戻る感じになるかな……ただ、ヒナギクに行くためにはカーテンクリフを越えないといけないから、私たちには難しいかも……」
かすみ「カーテンクリフって……あれだよね?」
かすみさんが街の北側に目を向けると──大きな岩の壁が見える。
カーテンクリフとはオトノキ地方の西側にある大きな山脈のことだ。
ダリアシティとヒナギクシティの間を割るように東西に伸びている断崖絶壁で、山というより、もはや大きな岩盤を縦向きにしたかのような急傾斜をしている。
それがまるでカーテンを引いたかのような様から、カーテンクリフの名が付けられたと言われている。
かすみ「それにしても、ダリアから見ると、ホントに壁みたいだね……」
大きな山脈なので、セキレイからも見ることは出来るが、位置関係的に、カーテンを斜めから見るような形になる。
そして、ダリアから見ると真正面に横切っている形になるため、より『壁』という印象が強くなる。
かすみ「ヒナギクに行けないのはわかったけど……セキレイに戻る前に、一度近くで見てみない?」
しずく「そうだね。せっかく、こうして近くに来てるんだし、行ってみよっか」
今まで見てるだけだった場所に、実際に訪れてみるのも旅の醍醐味だろう。
私はかすみさんの意見に賛成する。
かすみ「それじゃ、カーテンクリフへレッツゴー♪」
「ガゥガゥ♪」
私たちはカーテンクリフ目指して、ダリアシティを発つ──
💧 💧 💧
ダリアの北の道路──5番道路を歩く。
かすみ「……もう結構歩いたよね?」
しずく「そうだね」
かすみ「なんか……思ったより、遠いね……」
しずく「カーテンクリフはとにかく大きいからね……」
あまりに大きい岩の壁を目の前に望みながら歩いていると、だんだん遠近感がおかしくなってくる。
とりあえず、目の前にずっと背の高い断崖絶壁があることがわかるという感じで、なかなか近付いている実感が湧かないのも無理はない。
- 729 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:15:08.86 ID:iC9FggQ30
-
しずく「カーテンクリフは5番道路と7番道路を続けて進んでいかないといけないからね」
かすみ「2つ分道路があるんだ……」
しずく「うん。ほぼ直線で繋がってるから、違う道路って印象は薄いけど……ダリアからカーテンクリフへの道のりは、この地方の中でもローズの北にある11番道路の次に長い道になってるんだよ」
かすみ「へー……さすが、しず子。物知り。とりあえず、すごい長い道なんだね」
しずく「あはは……まあ、大雑把に言うと、そんな感じかな」
かすみ「それにしても……ほんっとにでっかい山だねぇ……見上げてると、首が痛くなっちゃいそう」
「ガゥゥ…」
かすみさんが、肩に乗っているゾロアと一緒にカーテンクリフを見上げる。
かすみ「どうすればこんな高い山になるんだろう……」
しずく「いろいろ説があるけど……ヒナギク周辺の山脈はほとんどが、陸がぶつかって隆起して出来たらしいよ。だから、グレイブマウンテンやカーテンクリフでは、かなり高い場所なのに、太古の海にいたポケモンの化石が見つかることがあるんだって」
かすみ「陸が……ぶつかって……? りゅーき……?」
しずく「ああ、えっと……無理やり押されて、高くなったって感じかな……」
かすみ「ふーん……?」
たぶん、わかってなさそう……。
まあ……これもあくまで学説の一つでしかなく、それこそ『こんなものが自然に出来るわけがない!』、『神が創った!』、なんて言う人たちも少なくない。
実際、カーテンクリフの西端の頂上には遺跡があるらしく、遥か昔から信仰があったと言われている。高い場所に位置し、天に近い遺跡故に太陽信仰や月信仰があったのではないかと考えられているらしい。
専ら、今は信仰というよりは、オカルト好きな人たちによって、神が創ったと主張されていることの方が多いらしいけど……。
わかっているのかは怪しいけど、かすみさんの何気ない疑問に答えながら進んでいると、
かすみ「……あ! しず子、あそこがカーテンの一番下の部分じゃない!?」
やっと、クリフの麓が見えてくる。……いや、麓というには、かなり切り立った岩肌になっているけど。
しずく「麓まで、こんなに明確に壁のようになっているなんて……さすが、カーテンというだけはあります……」
上から下まで……特に、ダリア側からは超が付くほどの急勾配だとは聞いていたけど、実際に目の当たりにすると、本当に聞いていた通りで、感動すら覚える。
やはり、実際に見に来てみるものだ。
かすみ「こうして根本が見えたら、もうあと少し! 行くよ、ゾロア!」
「ガゥ!!」
かすみさんの合図で、ゾロアが肩から飛び降りて、一緒に走り出す。
かすみ「しず子〜♪ どっちが先に着くか競争だよ〜! 負けた方は、あとでジュース奢りね〜♪」
「ガゥ♪」
しずく「あ、ずるい!?」
かすみ「さぁ、しず子は、かすみんに追い付けるかな〜?」
しずく「ま、負けないんだから……!」
- 730 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:15:47.61 ID:iC9FggQ30
-
💧 💧 💧
かすみ「……ぜぇ……はぁ……はぁ……。……ま、まだ思ったより……距離が……あった……」
「ガゥ?」
クリフの麓に到着する頃には、かすみさんは息絶え絶え、満身創痍な状態だった。
しずく「かすみさん、大丈夫?」
かすみ「……しず子……足速くない……? かすみん普通に追い越されたんだけど……」
しずく「ポケモン演劇部で走り込みとかしてたからね。演劇は体力必要だから」
文化部だから、体力がないように思われがちですが、実は運動神経は良い方なんです。
球技は……苦手なんですけど……。
かすみ「そんなのずるい〜……」
しずく「ずるくありません。それじゃ、あとでジュース奢ってね?」
かすみ「ちぇ、わかったよー……セキレイ戻ったらね」
しずく「よろしい」
何のジュースを奢ってもらおうかなと考えながら──すぐ傍に聳えるカーテンクリフに目をやる。
かすみ「……本当に壁って感じだね」
しずく「うん……」
これが自然に出来た物だとは、にわかに信じがたい。
神様を信じているわけじゃないけど……神が創ったなんて言う人が出てくるのも頷ける。
垂直に近い形で天に向かって伸びている岩のカーテンは、並大抵の鳥ポケモンでも飛んで越えることが出来ないと言われている。
しずく「……。……出てきて、アオガラス」
「──カァーー!!!」
しずく「上まで、飛べる?」
「カァー」
訊ねると、アオガラスは翼を羽ばたかせながら、垂直に飛翔していく。
かすみ「なになに? どうしたの?」
「ガゥ?」
しずく「今の私たちで、どこまで行けるのか、試してみたくって……」
きっと、アオガラスのままでは難しい。
案の定、下で見ていると、岩の壁の中腹辺りで、アオガラスがバテ始めているのが見て取れた。
しずく「アオガラスー! 無理はしなくていいからねー!」
「カ、カァーー…!!!」
そろそろ限界のようだったけど……アオガラスはバタバタと翼を羽ばたかせて、少しでも高く飛ぼうとする。
しずく「無理しなくていいって言ってるのに……」
かすみ「アオガラス、見栄っ張りですねぇ」
しずく「かすみさんには言われたくないと思うけど……」
- 731 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:17:40.07 ID:iC9FggQ30
-
かなり我武者羅に羽根をバタつかせながら、頑張っていたけど……。
「カ、カァ……」
最終的には無理だと悟ったのか、ゆっくりと下に降りてくる。
かすみ「半分いけたくらい?」
しずく「そうだね……」
ここが今の私の手持ちの限界ということだろう。
もちろん、垂直の壁を登ったらそれで終わりというわけではなく、そこから山脈が始まるから、今の実力ではどう頑張ってもクリフを超えるのは無理ということだ。
「カァ…」
しずく「ごめんね、無茶振りしちゃって。でも、ナイスファイトだったよ、アオガラス」
「カァ〜……」
かすみ「鳥ポケモンでこんなんなのに、越えられる人なんているのかな……?」
しずく「きっと、進化してアーマーガアになれば、越えられると思う」
かすみ「そうなの?」
しずく「うん。アーマーガアに進化すると、飛翔高度も距離も、飛び続けられる時間も桁違いになるから」
実際ガラルでは、アーマーガアが地方全体の移動の要になっているくらいで、その飛行能力は折り紙付きだ。
しずく「アオガラスも、いつか進化したら、ここを越えられるようになるはずだから……! 頑張ろうね!」
「カァ〜〜〜!!!」
かすみ「えーかすみんも空の旅したい〜!」
しずく「ふふ♪ いつかオトノキ地方中の空を、一緒に巡ろっか♪」
「カァ〜♪」
かすみ「やった〜! 約束だからね! しず子! アオガラス!」
しずく「うん♪」
「カァカァ♪」
そのためにも、私もアオガラスをアーマーガアに進化させられるくらい強くならなきゃ。
かすみさんに負けていられないな。
かすみ「さて、それじゃ……実際に見て、越えられないこともわかったし、セキレイシティに向かおっか〜」
「ガゥ♪」
しずく「そうだね。風斬りの道を越えていくなら、自転車が必要だから……一旦、ダリアに戻って、レンタルサイクルかな……」
「カァ〜」
かすみ「……あっ!?」
しずく「ど、どうしたの? 急に大きな声出して……?」
かすみ「最終的にセキレイシティに行くってわかってたんだから……最初から、ダリアで自転車を借りればよかったんじゃ……」
しずく「……あ」
確かに、言われてみればそうだ……。
かすみ「ち、ちょっとぉ〜……かすみん、走り損じゃないですかぁ〜……しかも、これからまた長い道を戻るの〜……?」
しずく「走ったのはかすみさんが勝手にやったことだと思うんだけど……」
かすみ「もうやだ〜……かすみん、歩けない〜……」
「ガゥゥ…」
かすみさんはその場にへたり込む。
- 732 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:18:30.28 ID:iC9FggQ30
-
しずく「今向かおうって言ったばっかでしょ……」
かすみ「だって、ホントだったら、今頃自転車でスイスイだったんだよ!? そう考えたら、足が重く……もう一歩も動けない〜……」
しずく「はぁ……もう、そんなことばっかり言ってると、置いてくよ?」
「カァカァ」
溜め息交じりに、振り返って歩き出そうとしたとき、
「──ガドーン」
しずく「……!?」
そいつは気付けば、目の前に、居た。
パステルカラーで彩られた細長い体躯に真ん丸の頭の異形。
突然のことに身体が固まる。
かすみ「しず子っ!! こっちっ!!」
だが、かすみさんの反応は早かった。
呆気に取られて動けなくなってしまった私の手を、強引に引いて走り出す。
しずく「きゃっ……!?」
かすみ「足ぃ!! 動かしてぇ!! とにかく走ってぇ!!」
「ガゥガゥ!!!!」
足がもつれて転びそうになるけど、どうにか踏ん張って走り出す。
全速力で走りながら、やっと少しずつ頭が回り出す。
あれは──あの異様な雰囲気のポケモンは……!
しずく「ウルトラビースト……っ……! 確か、名前はズガドーン……!!」
かすみ「なんで名前知ってんの!?」
しずく「遥さんに、ウルトラビーストのデータをいくつか見せてもらったんだよ! その中にいたウルトラビースト!」
ズガドーンは、その場から動こうとしないが──その周囲に紫の炎がポポポッと出現する。
「ガドーン」
かすみ「なんかしてくる!? しず子伏せてっ!!」
「ガゥッ!!!」
しずく「きゃっ!?」
かすみさんが覆いかぶさるようにして、私を地面に押し倒す。
その上を、紫の色の炎──“マジカルフレイム”が素通りする。
かすみ「あ、あちちっ!?」
しずく「かすみさん!?」
かすみ「だ、大丈夫……! ちょっと熱かっただけ……!」
掠ってすらいないはずなのに、とてつもない熱気を感じる。
それが相手の攻撃の威力を物語っていた。
──絶対に勝てない。とにかく、逃げなきゃ……!
- 733 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:19:26.05 ID:iC9FggQ30
-
かすみ「しず子、立って!」
しずく「……うん……!」
二人で立ち上がって再び距離を取るために走り出す。
幸いとでも言うべきか、今のところズガドーンはあまり熱心にこちらを追いかけてくる素振りはない。
それが逆に不気味でもあるが……。
しずく「……そうだ! 千歌さんたちに連絡を……!」
私は大急ぎでポケギアを取り出し、千歌さんに通話を飛ばすと──
千歌『──しずくちゃん!!』
千歌さんが秒で通話に出る。
しずく「ち、千歌さん、今……!!」
千歌『もう向かってる!! 7番道路だよね!? ウルトラビーストの種類は!?』
しずく「ず、ズガドーンです!」
千歌『わかった!! 15分……うぅん、10分で着くから、とにかく逃げて!』
しずく「は、はい!!」
通話を切って、
しずく「かすみさん、千歌さんがすぐに来てくれるから──」
かすみ「な、なんかあいつ、様子がおかしくない!?」
しずく「えっ!?」
言われて、ズガドーンを振り返ると、
「ガドーーン」
ズガドーンが──自分の頭が取り外して、手に持っていた。
かすみ「あの頭取れんの!?」
確か、遥さんに見せてもらったデータでは──
しずく「に、逃げなきゃ……!!」
かすみ「わわっ!?」
あの珍妙な行動に、リアクションを取っている場合じゃない……!
今度は私がかすみさんの手を強引に引っ張って走り出す。
かすみ「ちょ、しず子!?」
しずく「とにかく……! とにかく、距離を……!!」
少しでも距離を離そうと全力疾走する。
……が、ズガドーンは逃げる私たちに向かって──自分の頭を放り投げてきた。
- 734 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:20:15.45 ID:iC9FggQ30
-
かすみ「な、投げてきたー!?」
「ガゥワゥッ!!!?」
しずく「っ……!」
私は咄嗟に、手持ち全員をボールから出す。
「ジメ…」「ロゼ!!!」「キル」「マネネッ」
しずく「“みずびたし”っ! “わたほうし”っ! “サイコキネシス”っ! “ひかりのかべ”っ! “きりばらい”っ!」
先に出ていたアオガラス含め、手持ち全員に叫ぶように指示を出す。
直後──目の前に鮮やかな色の花火が散った。
それと同時に全身が浮遊感に包まれ──吹っ飛ばされた。
あの頭が、目の前で大爆発したのだ。
しずく「ぐ……ぅぅぅ……っ……!!」
爆風を受けて、地面を転がる。
かすみ「……し、死ぬかと思ったぁ……!」
「ガ、ガゥゥ…」
しずく「ど、どうにか、間に合った……」
「ジ、ジメ…」「ロゼ…」「キルゥ…」「マ、マネェ…」「カァ…」
私たちは手持ちもろとも吹っ飛ばされたが、敷き詰められた“わたほうし”の上を転がることで、なんとか怪我せずに済んだ。
しずく「か……かすみさん……無事……?」
かすみ「な、なんとか……い、今の何……?」
しずく「“ビックリヘッド”……頭を大爆発させて攻撃する技みたい」
かすみ「なにそれこわっ!」
しずく「あんまり怖がらない方がいいと思う……」
かすみ「え?」
しずく「ズガドーンはそれで、驚かせた相手から生気を奪い取るらしいから……」
かすみ「ま、全く、それでかすみんを驚かせたつもりですかぁー!?」
取って付けたような強がりが出来ている時点で、かすみさんも無事なのは間違いないだろう。
それにしても、“ビックリヘッド”がどういう技があらかじめわかっていなかったら、本当に無事じゃ済まなかった。
ほのおタイプの爆発技。
“みずびたし”で爆弾自体を湿らせ、少しでも爆発と爆風の威力を殺すための“ひかりのかべ”と“きりばらい”。
身体を地面に叩きつけられないように、“サイコキネシス”で僅かに浮かせて、“わたほうし”を敷き詰めた地面に軟着陸。
手持ち全員が力を合わせてどうにか、耐えきった。
でも、まだ戦闘は終わっていない。
とにかく、千歌さんたちが来るまで逃げ続けないと……!
再びかすみさんの手を取って、逃げ出そうと、顔を上げると──
「ガドーン」
ズガドーンが眼前に迫っていた。
- 735 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:20:54.55 ID:iC9FggQ30
-
しずく「……っ……!」
かすみ「わ、わぁぁぁぁ!!?」
ズガドーンの手に炎が灯る。
攻撃の予兆。
ダメだ、避けられない。
かすみ「しず子っ!!」
かすみさんが庇うように、ズガドーンに背を向ける形で、私を抱きしめる。
ズガドーンの手がこちらを向く。
炎が噴き出す。
もうダメだ。
そう思った瞬間、
「──“ハイドロポンプ”!!」
「フゥッ!!!!!!」
「ガドーーンッ!!!!?」
声と共に、真上から激しい水流の筋飛んできて、ズガドーンを吹っ飛ばした。
かすみ「へ……な、なに……?」
しずく「い、今のは……?」
事態が呑み込めず、二人で唖然とする。
そんな私たちの頭上から──フワリと降りてくる影。
大きな星型のポケモン──スターミーに乗って、突然目の前に現れた一人の女の子。
女の子「大丈夫ですか!?」
かすみ「え……」
しずく「嘘……」
彼女の姿は、何度も見たことがあった。
ただ、会ったことがあるわけではない。
テレビの中で、だ。
かすみ「……せ……せ……!?」
せつ菜「何やらお困りのようですね! 僭越ながら、助太刀させていただきます!!」
前回ポケモンリーグの準優勝者──せつ菜さん、その人だった。
- 736 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:22:05.34 ID:iC9FggQ30
-
💧 💧 💧
「ガドォーン…」
せつ菜「見たことがないポケモンですね……。この地方はあちこち見て回ってきたつもりですが、まだ新しいポケモンに出会うことがあるなんて……やはり、世界は広いですね!」
スターミーの上に乗ったまま、ズガドーンと相対するせつ菜さん。
あまりに予想外の展開が続くせいで、また呆気にとられそうになったが……。
この人をウルトラビーストと戦わせちゃダメだ……!
しずく「せ、せつ菜さん! 戦わずに逃げてください!」
かすみ「そいつ、めっちゃくちゃ強いんですっ!」
せつ菜「逃げる? 強いというなら、ますます背中を見せるわけにはいきません!」
「ズガ──」
せつ菜「“パワージェム”!!」
「フゥッ!!!」
ズガドーンが動き出そうとしたときには既に、輝く閃光がズガドーンを貫いていた。
かすみ「は、はや……!?」
攻撃が直撃し、地面を転がるズガドーン。
「ガ、ガドーン」
せつ菜「“10まんボルト”!」
「フゥッ!!!」
「ガドドドドッ!!!!?」
畳みかけるように、電撃による追撃。
が、ズガドーンもただでやられてはいない。
「…ガ、ドォーンッ!!!!」
せつ菜「耐えますか……!」
「ドォーーンッ!!!!!」
そして、黒い球体を猛スピードで、スターミーに向かって放ってきた。
「フゥッ!!!?」
せつ菜「うわぁっ!!?」
ズガドーンの攻撃がスターミーに直撃し、その衝撃で上に乗っていたせつ菜さんが飛ばされる。
が、せつ菜さんは軽やかな身のこなしで、身体を捻りながら、地面に着地する。
「フ、フゥ…」
せつ菜「やりますね……! “シャドーボール”ですか……! まさか、私のスターミーが一発でやられるなんて……!」
せつ菜さんはスターミーをボールに戻しながら、ズガドーンの強さに感心したように言う。
せつ菜「なら、この子はどうですか!」
だが、怯むどころか、間髪入れずに次のポケモンを繰り出す。
- 737 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:22:59.77 ID:iC9FggQ30
-
「ゲンガッ!!!」
せつ菜「ゲンガー! 暴れますよ!」
「ゲンガッ!!!!」
「ガドォーーンッ」
再び、ズガドーンが黒い球体──“シャドーボール”を作り出し、撃ち放つ。
せつ菜「こちらも“シャドーボール”です!」
「ゲンガッ!!!!」
一方せつ菜さんも対抗するように、“シャドーボール”を撃ち出し──双方のシャドーボールが衝突する。
両者の攻撃はぶつかると、その場で相殺し合い、黒い影を周囲に散らす。
しずく「ご、互角……」
せつ菜「私のゲンガーの“シャドーボール”……威力には自信があったんですが……!」
自分の予想を裏切るほどの相手の強さに感心するものの、せつ菜さんはやはり臆さない。
せつ菜「その強さに……敬意を示します! 私の全力、受け止めてみなさい!!」
そう言いながら、せつ菜さんの手首に嵌めていた腕輪が輝きを放ち始めた。
かすみ「あ、あれって……!?」
しずく「“キーストーン”……!?」
せつ菜「さぁ、行きますよゲンガー!! メガシンカです!!」
「ゲンガァーー!!!!」
せつ菜さんが叫ぶと、ゲンガーも眩い光に包まれ──ゲンガーの体にある棘、腕、そして尻尾がより鋭角的に、さらに自身の体は足元の影と一体化し、
「ゲンガァァァ!!!!!!」
赤紫色の怪しい光を放つ──メガゲンガーへと姿を変えた。
メガゲンガーの持つ妖気……とでも言えばいいんだろうか。
姿を変えた瞬間、肌がびりびりとするのを感じた。それくらい、すさまじいパワーを身に秘めているのが、素人目でも理解できる。
「ズ、ガドォォォォーーー!!!!!!」
が、ズガドーンも全く臆することなく、再び“シャドーボール”を放ってくる。
せつ菜「今度は先ほどのようには行きませんよ!! “シャドーボール”!!」
「ゲンガァァーーッ!!!!!」
二度目となる同じ技の撃ち合い。
だけど、今回は──
かすみ「……で、でかっ!?」
メガゲンガーの放った“シャドーボール”は先ほどより一回りも二回りも大きいもので、
「ガドッ!!!?」
ズガドーンの放った“シャドーボール”をいとも簡単に呑み込んで──
- 738 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:26:03.08 ID:iC9FggQ30
-
「ガ、ガドォォォォンッ!!!!!!!」
ズガドーンに衝突すると同時に、影のエネルギーが収縮し、ズガドーンを押しつぶしたあと──黒い影を散らしながら、爆散した。
「ガ、ガドォォォォン……」
影が晴れると、ふらふらになったズガドーンの姿、
「ガ、ガドォォォン……!!」
勝てないと悟ったのか、ズガドーンはスゥーっと地面に潜るようにして、消えてしまった。
せつ菜「あ……逃げられました。……メガゲンガーの“かげふみ”から逃げられるということは、やはりゴーストタイプだったようですね……」
「ゲンガ──」
せつ菜さんは肩を竦めながら、メガゲンガーをボールに戻す。
しずく「う、嘘……」
かすみ「やっつけちゃった……」
またしても二人して呆けていると、
せつ菜「お二人とも、お怪我はありませんか?」
せつ菜さんは私たちのもとに駆け寄ってきて、そう訊ねてくる。
しずく「は、はい……」
かすみ「とりあえず、大丈夫です……」
せつ菜「それは何よりですね。真下で大きな爆発音が聞こえたので、何かと思いましたが……野生のポケモンに襲われるとは災難でしたね」
しずく「い、いえ……お陰で助かりました……」
せつ菜「……あ、自己紹介がまだでしたね! 私はせつ菜って言います! よくここにポケモン修行をしに来ているんです!」
存じております……。ここで修行をしているのは、知らなかったけど。
しずく「私は、しずくです……。こちらはかすみさん」
かすみ「あ、えっと……よろしくお願いします……」
あまりの展開に未だ頭が付いていっていないのか、かすみさんも自己紹介でのかすみん問答を忘れているほどだ。
せつ菜「お怪我はされていないようですが……心配なので、近くの街までお送りしますね! えっと、近くだとダリアかヒナギク……ん?」
そのとき、せつ菜さんは自分の腰のボールが震えていることに気付いて、その子を外に出す。
「ワォンッ」
せつ菜「ウインディ? どうかしたんですか?」
「ワォン」
せつ菜さんが訊ねると、ウインディは鳴きながら、クリフの上の方を見上げる。
せつ菜「ん……?」
せつ菜さんは少し考えたあと、
せつ菜「……あ、そうでした……! さっきまで、ご飯を作っている真っ最中でした……上に全部置いてきちゃいましたね。貰った“ポフィン”も……」
- 739 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:26:59.68 ID:iC9FggQ30
-
どうやら調理中に飛び出してきたということを思い出したらしい。
「ワォンッ!!!」
せつ菜「ち、ちょっとウインディ!? 引っ張らないでください……! もう! 歩夢さんから“ポフィン”を貰って以来、随分食いしん坊になりましたね……?」
「ワォンッ!!!」
しずく「あ、あの……私たち、街には戻れると思うので……」
せつ菜「……すみません、いつもはこんなに食に貪欲じゃないはずなんですが……」
「ワォンッ!!!」
せつ菜「わ、わかったから……! 引っ張らないで……!」
せつ菜さんは少し焦りながらも、ウインディの背にまたがる。
せつ菜「それでは、すみませんが失礼します!」
「ワォンッ」
せつ菜さんが背にまたがると、ウインディは跳ねるようにして、カーテンクリフを登って行ってしまった。
かすみ「……なんで、この壁、登れるの……?」
しずく「…………」
レベルが違うとは、こういうことを言うのかもしれない……。
かすみ「なんか……すごかったね……」
しずく「う、うん……」
ウルトラビーストとの遭遇もだが……それ以上に颯爽と現れ、風のように去っていったせつ菜さんのインパクトがあまりにすごすぎて、私たちはしばらくの間、その場で動けずに呆けてしまっているのだった。
💧 💧 💧
──その後、間もなくして千歌さんたちが到着した。
彼方「──……ってことは、せつ菜ちゃんがやってきて、ズガドーンを倒しちゃったんだ……」
しずく「はい……」
かすみ「圧倒してました……」
千歌「さすが、せつ菜ちゃん……」
遥「でも、どうしましょう……一般人のウルトラビーストとの接触案件ですけど……」
しずく「まだ、クリフの上にいるとは思いますが……」
千歌「んー……会って説明した方がいいのかなぁ……?」
穂乃果「うーん……」
穂乃果さんは少し悩む素振りを見せる。
穂乃果「しずくちゃん、かすみちゃん。せつ菜ちゃん、ウルトラビーストを見て、どんな反応してたか覚えてる?」
かすみ「えっと……強い相手なら逃げるわけにいかない……って。全然怖がってませんでした」
しずく「そうですね……強い野生ポケモンの一種と認識していた気がします」
その強さに感じるものはあったのかもしれないけど……少なくとも外世界から来た異質なポケモンだと認識していたとは考えにくかった。
- 740 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:28:54.86 ID:iC9FggQ30
-
穂乃果「……となると、無理に説明したりしないで、そういうものだと思い込んでもらったままの方がいいかもしれないね。もちろん、本部へは一応報告するけど」
彼方「そうだね〜……特異な存在だって知っちゃうと、逆に関わりを持っちゃうから……」
千歌「まあ……せつ菜ちゃんなら、仮にまた遭遇しても同じように対処しちゃいそうだしね……あはは」
千歌さんは過去に覇を競い合った相手なだけあって、せつ菜さんの強さをよく理解しているようだった。
彼女たちがそう判断したのなら、私たちからこれ以上言うことは特にない。
千歌「それじゃ、近くの街まで送ってくよ。ダリアでいい?」
かすみ「はい……今日中にセキレイに行くつもりでしたけど、もうくたくたなので、ダリアで休みたいです……」
彼方「それじゃ〜そんなかすみちゃんに彼方ちゃんが元気が出るご飯を作ってあげよう〜」
かすみ「え、ホントですか!? キッチン付きのホテル探さなきゃですね……!」
現金なモノで、彼方さんがご飯を作ってくれると聞くと、かすみさんは意気揚々と歩き出す。
まだ元気、結構余っている気がするんだけど……。
そんな中、遥さんが、
遥「あの、しずくさん」
しずく「? なんでしょうか……?」
遥「再び襲われた今でも……旅を続けたいと思いますか」
真剣な目で、そう訊ねてきた。
しずく「……はい」
遥「……わかりました」
それだけ言うと、遥さんも彼方さんたちを追って先に行ってしまった。
しずく「……」
穂乃果「遥ちゃん、ずっと心配してたからね」
しずく「はい……」
遥さんに診てもらい助けてもらった手前、罪悪感はある。
そんな私の胸中を察したのか、
穂乃果「旅を続けるって決めたなら、しずくちゃんはそれを頑張ればいいんだよ」
穂乃果さんは優しい声でそんな風に言う。
しずく「はい……ありがとうございます」
穂乃果「それじゃ、行こう。ダリアへの道は長いから、急がないと日が暮れちゃう」
しずく「そうですね……」
私は穂乃果さんの言葉に頷いて──再び道を歩き始めるのでした。
- 741 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/04(日) 12:29:49.80 ID:iC9FggQ30
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【7番道路】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
|| |●|. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 しずく
手持ち ジメレオン♂ Lv.27 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
マネネ♂ Lv.22 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アオガラス♀ Lv.27 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロゼリア♂ Lv.27 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
キルリア♀ Lv.27 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:149匹 捕まえた数:9匹
主人公 かすみ
手持ち ジュプトル♂ Lv.34 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.34 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.33 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.27 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.27 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
バッジ 4個 図鑑 見つけた数:140匹 捕まえた数:7匹
しずくと かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 742 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2022/12/04(日) 16:37:49.08 ID:4TqIcDHeO
- 『ポケモンSVさらに精度を上げていく』
レート戦/戦力集め・その3 (14:21〜開始)
https://www.twitch.tv/kato_junichi0817
- 743 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:30:00.87 ID:6bHKz0F20
-
■Chapter038 『凱旋セキレイシティ』 【SIDE Shizuku】
かすみ「──さぁ! セキレイシティに向かって、出発するよ〜!」
「ガゥ!!」
かすみさんが自転車にまたがりながら、元気よく拳を突き上げる。
かすみ「さぁさ! 早く行かないと、日が暮れちゃうから!」
しずく「どこかの誰かさんが、チェックアウトギリギリまで起きなかったからね……」
かすみ「ぅ……! だ、だって、疲れてたんだもん……! しず子だって、いつもよりは起きるの遅かったって言ってたじゃん!」
まあ、確かに……昨日は全く想定外のウルトラビーストとの戦闘があったため、疲れていたというのはある。……精神的にも、肉体的にも。
ただ、私が起きるのが遅かったというのは、普段6時に目を覚ますのが6時半になった程度のものだ。
一方かすみさんは、起こそうとしても全く起きる気配がなく、本当にホテルのチェックアウトギリギリに焦って起こしたくらいだし……。
かすみさんより遥か前に起きた穂乃果さんや千歌さんたちは、「また何かあったら連絡してね」と残し去って行った。
彼方さんは「まさか彼方ちゃんよりお寝坊さんな子がいるとはね〜」なんて笑っていたし……。
まあ、かすみさんに寝坊癖があるのは、今に始まったことじゃないけど……。
かすみ「と、とにかく……! セキレイシティに行くの!」
しずく「はいはい、わかりました」
かすみ「出発進行〜!」
「ガゥ♪」
💧 💧 💧
かすみ「風が気持ちいい〜♪」
「ガゥガゥ♪」
しずく「ふふ、そうだね」
かすみさんの寝坊に苦言を呈しはしたけど、ダリア〜セキレイ間は、風斬りの道を自転車で駆け抜けるだけだ。
途中に草むらがあるわけでもなく、隅から隅まで人の手が入った橋を越えていくだけ。
時折、周囲を飛んでいる鳥ポケモンが下りてくることがあるらしいけど……基本的には風を斬りながら走るサイクリングを楽しむ道だ。
その証拠に橋の上では私たち以外にも、サイクリングを楽しんでいる人がちらほら見える。
……まさか、ここでもウルトラビーストに襲われるなんてことはないと信じたい。
かすみ「このペースなら、すぐ着いちゃうね〜♪」
しずく「うん。お昼過ぎくらいにはセキレイに着けそうかな?」
かすみ「なら、時間に余裕もあるね!」
しずく「かすみさん、セキレイに到着したらどうするつもりなの? 一旦、家に帰る?」
かすみ「もちろん、一度お家には帰るつもりだけど……それよりも、大事なところがあるじゃん!」
しずく「大事なところ……? あ、ポケモンスクールへの挨拶?」
かすみ「……もう! ポケモンジムに決まってんじゃん!!」
言われて思い出す。
- 744 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:33:03.51 ID:6bHKz0F20
-
しずく「そういえば、かすみさん、まだセキレイジムに挑戦出来てなかったね……」
かすみ「忘れないでよ!!」
セキレイシティのジムは、ポケモンスクールにも近いし……あまりに地元感が強くて、すっかり忘れていた。
かすみ「今日という今日こそは、セキレイジムで曜先輩とバトルしてもらうんだもん! かすみん、5個目のバッジも絶対ゲットしちゃうんだから!」
「ガゥ!!」
かすみ「なんかそう考えたら、いち早く到着して挑戦したくなってきちゃった……! 全速力です!!」
「ガゥガゥ♪」
かすみさんが、急にペダルを全速力でこぎ始める。
しずく「あ、ち、ちょっと!? そんなに飛ばしたら危ないって!?」
かすみ「今かすみん燃えてるの! しず子も早く来ないと置いてっちゃうよ!」
そう言いながら、かすみさんはどんどん突っ走っていく。
しずく「ああもう……」
やれやれと思いながら、私も立ち漕ぎになりペースを上げて、かすみさんを追いかける。
このやる気が空回りしないといいけど……。
💧 💧 💧
──セキレイシティ。セキレイジム前。
かすみ「……何故」
ジムの前にはこんな張り紙──『現在ジムリーダー不在のため、ジムをお休みしています』。
前回来たときと同じ状態だった。
かすみ「もう〜!! なんで、曜先輩はいつもいないんですかぁ〜!!」
「ガゥゥ…」
しずく「あはは……セキレイジムって何かとジムリーダー不在なこと多いよね……」
前任のことりさんもだが、セキレイジムのジムリーダーはバトルだけでなくコンテストにも携わっているからか、不在なことが多い。
それでも、ジムリーダーとして籍を置いているのは、街の人からの支持が高いことが理由らしい。
確かに、ことりさんも曜さんも、街の人から慕われているのが一目でわかる人気者だ。
- 745 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:33:39.83 ID:6bHKz0F20
-
かすみ「はぁ……さすがにこれは待つしかないよね……」
しずく「そうだね……」
かすみ「でも、待ってる間何してよう……。家に帰ろうかな……」
しずく「あ、待って! 帰る前に行かなくちゃいけないところがあるよ!」
かすみ「行かなくちゃいけないところ……? えーでも……ポケモンスクールは正直」
しずく「いや、スクールじゃなくて……」
かすみ「? じゃあ、どこ……?」
しずく「どこって……決まってるでしょ!」
かすみ「えっと……?」
どうやら、本当に見当が付いていないらしい。思わず、溜め息が漏れそうになる。
しずく「ツシマ研究所! 博士に旅の報告しないと!」
かすみ「……あ、あー!!」
しずく「もう……なんで忘れるのよ……」
私たちを旅に送り出してくれた張本人なのに……。
かすみ「い、いや、もちろん覚えてたよ? 今から、行こうと思ってたもん! ね、ゾロア!」
「ガゥ?」
しずく「……」
思わず、かすみさんにジト目を向けてしまう。
かすみ「さぁ、行くよしず子! ツシマ研究所目指してレッツゴー!」
「ガゥ」
かすみさんが、調子よさげに研究所に向かって走り出す。
しずく「はぁ……」
私は思わず額に手を当てながら、かすみさんの後を追うのだった。
🎹 🎹 🎹
──流星山を北側から下山し、アキハラタウンを抜け、その先の8番道路を歩くこと数十分。
侑「帰ってきたね……!」
「イブイ」
歩夢「うん!」
「シャボ」
私たちはセキレイシティに戻ってきていた。
旅に出て大体2週間くらいだろうか。
すごく長い時間離れていたわけではないけど、今まで2週間も故郷から離れていたことなんてなかったし、こうして地方の南半分くらいを自分たちの足で歩いてきたと考えると、なんだか感慨深い。
それだけで見慣れた故郷の景色のはずなのに、一周回って新鮮に見えてくる。
- 746 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:34:31.70 ID:6bHKz0F20
-
リナ『とりあえず、どうするつもり?』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「えっと……せっかく、セキレイまで戻ってきたから、一度家には寄ろうかなって思うけど……」
侑「まずは……あそこだよね」
私と歩夢の視線は──ここからすでに見えているツシマ研究所に向けられる。
ツシマ研究所は街の南側に位置しているから、8番道路からだと、すぐなのだ。
侑「ヨハネ博士への旅の報告!」
「ブィ〜♪」
歩夢「だね♪」
リナ『なるほど』 || > ◡ < ||
早速ツシマ研究所へと近付いていくと、
──pipipipipipi!!! と、以前どこかで聞いた音が歩夢の方から鳴りだす。
歩夢「これ、図鑑の共鳴音……?」──pipipipipipi!!!
「シャボ…?」
侑「ってことは……!?」
私がキョロキョロと辺りを見回すと──
「侑せんぱーい! 歩夢せんぱーい!」──pipipipipipi!!!
共鳴音と一緒に元気いっぱいに駆け寄ってくる姿を見つける。
侑・歩夢「「かすみちゃん!」」
かすみ「はぁ……はぁ……! なんでなんで!? すごい偶然ですぅ〜!」
リナ『共鳴音が鳴ってるってことは、しずくちゃんもいるってことだよね?』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「あ、うん! そろそろ来ると思うけど……」
かすみちゃんが来た方向に目を向けると、一足遅れてしずくちゃんがこちらに小走りで駆けてくる姿が目に入る。
しずく「侑先輩! 歩夢さん! お二人もセキレイに戻ってきていたんですね……! 突然、図鑑が鳴りだしたから、驚きました……!」
歩夢「うん! 今から博士のところに、報告に行こうと思ってたところで……」
かすみ「先輩たちもですか!? ほんとすっごい偶然です〜! かすみんたちも今博士への報告に行こうと思ってたところなんですよ!」
しずく「……かすみさんはさっきまで忘れてたけどね」
かすみ「ちょっとしず子! 余計なこと言わないでよ!」
侑「あはは……」
二人ともいつもどおりで安心する。
歩夢「それじゃ、みんな揃って、博士に報告だね♪」
しずく「はい、そうですね」
侑「じゃ、行こうか!」
──4人揃って、研究所のドアを押し開け、中に入る。
侑「失礼しまーす!」
- 747 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:35:45.37 ID:6bHKz0F20
-
研究所の中に入ると、ヨハネ博士は奥の方で、ポケモンの世話をしている真っ最中だった。
博士が私たちの声に気付いて、こちらに顔を向けると、
善子「──あら、貴方たち……セキレイに戻ってきてたのね。ちょっと待ってて、今餌やり済ませちゃうから」
「ハミィ?」
ヨハネ博士は手早くユキハミの飼育部屋の中に、新しい雪を補充したあと、私たちのもとへとやってくる。
善子「おかえりなさい、リトルデーモンたち。4人揃って戻ってくるとは、相変わらず仲良しみたいでなによりだわ」
侑「4人揃ったのはたまたまなんですけどね……」
しずく「今さっき、研究所の前で会ったところなんです」
善子「それだけ気が合うってことじゃないかしら。そういう偶然、運命に導かれている感じがして、私は好きよ」
ヨハネ博士はうんうんと頷きながら言う。
善子「それに、みんな顔つきが変わったわね。頼もしくなった」
かすみ「そうでしょうそうでしょう! かすみんめっちゃ強くなっちゃったんですから!」
「ガゥガゥ♪」
胸を張る、かすみちゃん。
歩夢「えっと……そうなら、嬉しいです……えへへ」
控えめにはにかむ歩夢。
しずく「自分ではあまり自覚はありませんが……確かにいろいろなことを経験した分、成長出来たんじゃないかと思います!」
冷静に分析するしずくちゃん。
侑「みんなバラバラだね……あはは」
善子「気が合うんだか、合わないんだか……。侑は、どうかしら?」
侑「私は……いろんな場所を巡っている間に、たくさん仲間が増えました!」
「ブイ♪」
善子「ふふ、それは何よりね」
ヨハネ博士は優しく笑ってから、一人一人の顔を順に見回す。
善子「……かすみ……しずく……歩夢……そして、侑──……ん?」
そして、私の隣で目を留める。
リナ『初めまして、ヨハネ博士! 私リナって言います!』 ||,,> ◡ <,,||
善子「!? え、これ侑に渡した図鑑よね!? なんで、喋ってんの!? ってか、浮いてるじゃない!?」
侑「えっと……?」
そういえば、鞠莉博士もなんか変な反応してたっけ……。
リナ『そのことについて、鞠莉博士から言伝を預かってる』 || ╹ ◡ ╹ ||
善子「こ、言伝……?」
リナ『「人から渡されたモノを、断りもなく勝手に他の人に預けるんじゃありまセーン! そのことについて話があるから、後で、直接連絡を寄越すように!」』 || ˋ ᇫ ˊ ||
善子「!?」
侑「えーっと……?」
- 748 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:36:31.64 ID:6bHKz0F20
-
何やら事態がよく呑み込めないんだけど……。
善子「……そーゆーことか……」
ヨハネ博士は、気まずそうに頭を掻きながらも、どうやら何かを察したようだった。
リナ『とりあえず、鞠莉博士からはそれだけ! 私のことについては鞠莉博士から聞いてね!』 || > ◡ < ||
善子「わかったわ……」
侑「えっと、私はどうすれば……?」
私の知らないところで、何かが起こっているっぽいんだけど……。
リナ『うぅん、鞠莉博士とヨハネ博士の話だから、侑さんは気にしないで』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「そう……?」
まあ、リナちゃんが気にしないでと言うなら……。
善子「コホン……。気を取り直して……旅の調子はどうかしら?」
侑「あ……! そうそう、旅でたくさん集めたんです……!」
かすみ「あ、旅で集めたって言ったら……もしかして……!」
侑「いろんなトレーナーから貰ったサイン!!」
かすみ「いや、サインの話ですかっ!?」
侑「はい! ダリアのにこさん、コメコの花陽さん、ホシゾラの凛さん、ウチウラではルビィさんとダイヤさんのサイン……! それに鞠莉博士からも貰っちゃいました!」
歩夢「侑ちゃん、いつの間に……」
しずく「なんというか……さすが侑先輩……」
実は花丸さんにも書いてもらったんだけど、これは言っちゃいけないから、黙っておく。
かすみ「もう、侑先輩! これはただの観光の旅じゃないんですよ!?」
善子「あのね、侑……」
かすみ「ほら! ヨハ子博士も言ってやってください!」
善子「私、サイン書いてないんだけど」
かすみ「そっち!?」
侑「っは……言われてみれば、バタバタしてたから貰い忘れてた……! ヨハネ博士、サインください!」
善子「くっくっくっ……苦しゅうない……」
ヨハネ博士は私から色紙を受け取ると、サラサラとサインを書いていく。
侑「わーい! ありがとうございます!!」
善子「大切にするのよ?」
侑「はい!」
新しいコレクションが増えて、思わずホクホクしてしまう。
- 749 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:37:28.28 ID:6bHKz0F20
-
かすみ「一体なんの報告ですかぁ……」
歩夢「あはは……」
かすみ「はぁ……ま、かすみん、サインは集めてませんけど、ジムバッジは4つも集まったんですよ!」
侑「あ、私もジムバッジは5つ集めたよ!」
かすみ「かすみんこの流れでバッジの数も負けてるんですか!?」
しずく「かすみさん……ドンマイ」
かすみちゃんが悔しそうに項垂れる。
善子「さっきのサインラインナップからしても、地方の南を回ってきたのかしら? となると、セキレイ、ダリア、コメコ、ホシゾラ、ウチウラのジムよね」
侑「はい!」
善子「となるとかすみは、どんなルートだったの……? ジム4つを巡るルートって結構限られると思うけど……」
しずく「あ、えっと、私たちはサニーからフソウに渡って、ウチウラ、ホシゾラ、コメコ、ダリアと進んで、セキレイに戻ってきました」
かすみ「セキレイジムがまだなんですぅ〜……曜先輩が全然捕まらなくてぇ……」
善子「あぁ、なるほどね。曜だったら、たぶんサニーにいると思うわ」
しずく「前と同じように、まだサニーでお仕事をされているんですね」
善子「ええ。当分はあっちにいるって言ってたから……ジム戦をしたいなら、サニーに行った方が早いかもしれないわね」
かすみ「じゃあ、次の目的地はサニーかなぁ……」
しずく「あ、それじゃあ、今日は私、サニーに帰ってもいいかな? 皆さん、今日はさすがにご自分のお家に帰られるでしょうし……かすみさんも家に帰るって言ってたよね?」
かすみ「うん。さすがにセキレイに戻ってきたわけだし……」
しずく「それなら、私も今日くらいは家に帰りたいかな。ついでに、サニーで曜さんに会ったら、明日にでもジム戦をしてもらえるように、お願いしておくよ」
善子「確かにそれが確実かもね。曜って落ち着きがないから、ちゃんと予定押さえておかないと、なかなか捕まらないし」
かすみ「じゃあ、しず子、曜先輩に会ったらお願いね!」
しずく「うん、わかった」
というわけで、かすみちゃんはジム戦のために東に向かうみたいだ。
歩夢「私たちはどうする……?」
侑「うーん……今日はさすがに家に帰るけど……」
リナ『ジム巡りを続けるなら、次に目指すのは北のローズシティだと思うよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「だよね。なら、次はローズを目指そっか」
次は順当に、まだ行っていない北に進むことになりそうだ。
善子「あ、ちょっと待って。ローズに行くなら、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど……」
侑「お願い、ですか……?」
なんだろう……?
善子「ローズシティにいる真姫に渡して欲しいポケモンがいるの」
しずく「真姫さんって言うと……ローズジムのジムリーダーですよね?」
侑「渡して欲しいポケモンって言うのは……?」
善子「えっと、ちょっと待っててね」
- 750 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:38:29.03 ID:6bHKz0F20
-
そう言うと、ヨハネ博士は一旦奥の部屋へと下がっていく。
恐らく件のポケモンを探しに行ったのだろう。
すぐに目的のポケモンを見つけて戻ってきた博士は、
善子「この子よ」
そう言いながら、一個のボールからポケモンを出す。
ボールから出て来たのは、
「──ワォン」
黄昏色の毛色をした、オオカミようなポケモン。
侑「え……!?」
でも、私はこのポケモンにすごく見覚えがあった。
侑「こ、このポケモンってもしかして……!! 千歌さんのルガルガンじゃないですか!?」
歩夢「そうなの?」
侑「うん! この黄昏色の体毛……間違いないよ!」
この“たそがれのすがた”のルガルガンはオトノキ地方では、今のところ千歌さんしか持っていないと聞いたことがある。
侑「数が少ないから、研究のために千歌さんの手を離れてることがあるって噂には聞いてたけど……まさか、ツシマ研究所にいたなんて……!」
善子「あら……よく知ってるわね。ただ、つい最近千歌から手持ちに戻したいって言われてね」
「ワォン」
しずく「千歌さんの……ポケモン……ですか……」
歩夢「しずくちゃん? どうかしたの?」
しずく「あ、いえ、なんでもありません。……えっと、それでどうしてそのルガルガンをローズシティの真姫さんに?」
善子「健康診断のために、千歌の手持ちに返す前に、一度ローズで診てもらうのよ。あそこは医療設備も整ってるからね」
かすみ「えー……でも、それくらいならパソコンで転送しちゃえばいいじゃないですかぁ〜……?」
善子「そうしたいのは山々なんだけどね……チャンピオンのポケモンってなると、欲しがる人なんて、ごまんといるから、転送でやり取りするのは不安があるのよ」
リナ『確かに、万が一でも、クラッキングで気付かない間に、転送先を変えられてたりしたら、大事だね』 || ╹ᇫ╹ ||
善子「そういうこと。だから、出来るだけ人から人で受け渡しする方が確実なのよ。ただ、私もちょっと手が離せない研究があって、ここを離れる時間を作るのが難しくって……」
侑「なるほど! そういうことなら、私が真姫さんに届けます!」
善子「そうしてくれると助かるわ」
侑「はい! ……それに、あの千歌さんのポケモンと一瞬でも一緒に過ごせるなんて、貴重だよ……貴重すぎるよ……! 絶対に私がやりたい……!」
「ブイ…」
リナ『侑さん、心の声が漏れだしてる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「あはは……」
歩夢とリナちゃんが苦笑してる──ついでにイーブイも呆れてる──けど……これは絶対私がやりたいんだもん! 仕方ないじゃん。
- 751 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:39:10.51 ID:6bHKz0F20
-
善子「あー……ただ……。お願いしておいて悪いんだけど……すぐにってわけにはいかないのよね……」
侑「? どういうことですか?」
善子「ホント唐突に言われたもんだから、こっちもルガルガンの必要な観察データがまだ取り切れてないのよ……。今大急ぎで進めてるから、明後日には送り出せると思うんだけど……」
リナ『そうなると……すぐには、ローズに行けないね』 || ╹ᇫ╹ ||
しずく「そういうことでしたら……私たちが、ローズまでお届けしましょうか? サニーで曜さんとジム戦を終えたら、私たちもローズに向かうと思いますし……」
侑「いや! 絶対、私がやりたい!」
歩夢「あはは……侑ちゃんなら、そう言うよね」
千歌さんの手持ちと過ごせるチャンス……! これだけは絶対に譲れない……!
歩夢「それなら……私たちも、かすみちゃんと一緒にサニータウン方面に行ってもいいかな?」
かすみ「え? かすみんは別に構いませんけど……」
歩夢「私たち、今回の旅でサニーにはまだ行ってないし……太陽の花畑を、ポケモンたちに見せてあげたいの」
太陽の花畑といえば、一年中四季折々の花が咲き誇る、オトノキ地方でも有数の大きな花畑だ。
かなり穏やかな場所で、野生のポケモンが大人しく、ポケモントレーナーでなくても安全に訪れることが出来る。
特に歩夢は、あそこがすごくお気に入りで、この季節になると毎年一緒にピクニックに出かけていたっけ。
歩夢「私の大好きな景色……旅で出会ったみんなにも見て欲しくって……」
侑「そういうことなら!」
歩夢「えへへ、じゃあ決まりだね♪」
歩夢は嬉しそうに言う。
善子「それじゃ、悪いけど……明後日にまた、研究所までルガルガンを引き取りに来てもらえる?」
侑「はい! わかりました!」
かすみ「となると、しばらくは侑先輩と歩夢先輩も一緒ってことですね!」
歩夢「うん、よろしくね♪」
リナ『旅路が賑やかになるね。リナちゃんボード「ハッピー♪」』 ||,,> ◡ <,,||
というわけで、私たちはしばらくかすみちゃんたちと行動を共にすることになりました。
明日は太陽の花畑を抜けて、いざサニータウンへ……!
🎹 🎹 🎹
しずく「──それでは皆さん、また明日」
侑「うん! またね、しずくちゃん!」
歩夢「気を付けて帰ってね」
しずく「はい、ありがとうございます」
かすみ「しず子〜、曜先輩のことお願いね〜!」
しずく「うん、任せて!」
しずくちゃんは手を振って、サニータウンへと帰っていった。
- 752 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:39:48.91 ID:6bHKz0F20
-
侑「それじゃ、私たちも帰ろっか」
「ブブイ」
歩夢「うん」
かすみ「はーい!」
3人で帰り道を歩き出す。
歩夢「なんだか、こうして3人で歩いてると、スクールに居た頃みたいだね」
侑「あはは、確かにそうかも♪」
かすみ「でもでも、今はあのときとはもう違いますから!」
「ガゥ♪」
かすみちゃんが元気に言うと、ゾロアが同調するように鳴く。
かすみ「今はかすみんたち、ポケモントレーナーなんですから!」
歩夢「ふふっ、そうだね♪」
歩夢がくすくすと笑う。
なんだか、いつものセキレイシティの景色の中で、ポケモントレーナーになった歩夢やかすみちゃんと歩くのは不思議な感覚だった。
旅に出る前には考えられないくらい、いろんな人やポケモンと出会って、これまでにいろんなことがあった。
そして、何より──
「ブイ?」
私には新しい仲間がいる。
歩夢にも、かすみちゃんにも、しずくちゃんにも。
リナ『侑さん、なんか嬉しそう』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「うん! 私たち、前に進んでるんだなって思って、なんか嬉しいなって」
リナ『そっか。侑さんが嬉しそうにしてると私も嬉しい』 || > ◡ < ||
侑「ふふ、ありがとうリナちゃん」
そして、リナちゃんもこの旅で出会った大切な仲間だ。
このオトノキ地方での旅は、こうしてセキレイシティに戻ってきたことによって、地方全体の凡そ半分くらいを旅してきたことになると思う。
侑「この先には……何があるのかな……!」
私は旅の続きが楽しみで楽しみで堪らない。
大きな期待を胸に、未来に希望を抱きながら、私は無限に広がっている空を仰いで、この先に続いているまだ見ぬ地を思い描きながら、帰路に就くのだった。
🎹 🎹 🎹
……さて。
久しぶりに我が家へ帰宅した私だったんだけど……。
侑「まさか帰宅早々、夕飯の買い出しをやらされるとは……」
「ブイ?」
- 753 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:40:56.19 ID:6bHKz0F20
-
セキレイデパートの中をげんなりした顔で歩いていた。
侑「まあ、突然帰ってきたから、食材が足りなかったってのは、わかるけどさ……」
リナ『侑さん侑さん! 今日の“パイルのみ”普段の価格よりも22%もお得だよ』 || > 𝅎 < ||
侑「リナちゃんが毎日買い物についてきてくれたら、お母さん喜びそうだね……」
帰るや否や、買い物袋とお金を渡されて、自宅をUターンしてしまったため、まだロクに旅の仲間も紹介出来てないし……。
帰ったら、リナちゃんや新しく捕まえたポケモンたちも紹介しないとね。
侑「ま……余ったお金で好きなモノ買っていいって言ってたし、いっか……」
リナ『侑さんのお母さん、太っ腹だね』 || > ◡ < ||
太っ腹って言うなら、むしろ久しぶりに帰ってきた娘を労って欲しいものなんだけど……。
リナ『ところで、何か欲しいものとかあるの?』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「うん。まあ、なんとなくは」
デパートの中をうろうろしながら、私はお花のコーナーに足を向ける。
リナ『お花買うの?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「うん。ちょっとね」
私は並べられた色とりどりの花を眺めながら考える。
侑「どれがいいかな……」
リナ『……あ、もしかして……贈り物?』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「……ま、まあ……そんなところかな、あはは」
リナちゃん、意外と鋭いんだよなぁ……。ちょっと恥ずかしい。
並べられた花は、一輪の物から、ブーケになっているもの、ドライフラワーや、アクセサリーに加工してあるものもある。
そんな中、
侑「あ……これ……」
小さな、花飾りが私の目に留まった。
横にある小さなポップに、この花飾りに使っているお花の花言葉が書いてあって──
侑「……これにしよう」
私はこれしかないと思い、それを手に取って、レジに向かうのだった。
- 754 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:41:34.03 ID:6bHKz0F20
-
🎹 🎹 🎹
──その夜。
侑「んー……やっぱ自分の部屋は落ち着くなぁ……」
自室のベッドに寝転がってくつろいでいた。
突然の帰宅だったのに、お母さんが私の好きなものをたくさん作ってくれて、お腹もいっぱいだ──その夕飯のための買い出しに駆り出されたのは少々不服ではあるけど……。
──まあ、その買い出しのお陰で、良いものも買えたし、いいんだけどさ。
私がリラックスして、だらけていると、
「ブイ…」
イーブイがちょっと不機嫌そうに鳴く。
侑「ああ、ごめんごめん! 毛繕いするんだった! おいで」
「ブイ」
イーブイは呼ばれると、私の膝の上で素直に丸くなる。
手に取ったブラシで毛繕いをしてあげると、
「ブイィ♪」
ご機嫌そうに鳴く。
リナ『“おくびょう”だったイーブイもすっかり侑さんに慣れたね』 || > ◡ < ||
侑「慣れすぎて、軽くふてぶてしいけどね……」
「ブイ?」
お父さんとお母さんの前では、人見知りを発動して、お人形さんみたいになっていたのに……。
そんな家族での夕食の際、当初の計画通りイーブイ以外の手持ちたちも家族に紹介したし、
リナ『それにしても、侑さんのお父さんとお母さん、二人とも優しかった』 || > ◡ < ||
リナちゃんのことも、しっかりと紹介出来た。
もちろん、最新型AIではなくロトム図鑑だと説明したけど……。
お父さんもお母さんも、最初は驚いていたものの……ロトム図鑑というものがあるのを説明したら、すんなり受け入れてくれて、しばらく私そっちのけでリナちゃんと談笑していたくらいだ。
リナ『いっぱいお話し出来て嬉しかった』 || > ◡ < ||
侑「お父さんもお母さんも、順応性高いんだよね……」
のほほんとしているというかなんというか……。
まあ、変に勘繰られるよりずっといいんだけど。
リナちゃんともすぐ仲良くなれるくらいの順応性のお陰で、イーブイ以外の手持ちたちも、可愛がってくれていたし。
侑「ライボルトを撫でまくってるときはちょっとひやひやしたけど……」
「ライボ…」
苦笑いしながら言うと、いつものように部屋の隅で伏せて目を瞑っていたライボルトが静かに鳴く。
- 755 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:42:36.17 ID:6bHKz0F20
-
リナ『ライボルト、あんまり触られるの好きじゃないもんね』 || ╹ᇫ╹ ||
ライボルトは頭の良い子だから、気を遣って大人な対応をしてくれたんだろう……。
侑「お母さんたちがごめんね、ライボルト」
「…ライボ」
相変わらず、目を瞑ったまま、気にするなとでも言わんばかりに相槌だけ打つライボルト。……クールだ。
イーブイの毛繕いをしながら、ライボルトと会話していると、
「ワシャッ」
侑「おとと……」
頭の上にワシボンが止まる。
侑「ワシボンも毛繕いしてほしいの?」
「ワシャ!」
侑「イーブイ、ワシボンも毛繕いして欲しいって」
「ブイ…」
私がそう言うと、イーブイは私の膝の上からぴょんと飛び降りて、ワシボンに場所を譲る。
侑「よしよし、仲良く出来て、良い子良い子」
「…ブイ♪」
侑「じゃあ、ワシボン、毛繕いするよー」
「ワシャ♪」
リナ『侑さんの手持ちたちも随分打ち解けたよね』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「やっぱり、一緒に旅してると、仲間意識が湧くんだろうね」
手持ち同士の仲が悪かったりすると本当に大変だって言うから、その点は助かっている。
ただ、
「ニャァ〜」
ニャスパーはなんというか……我が道突き進むというか、周りのポケモンにあまり関心がない。
相変わらず、リナちゃんを目で追いかけながら、とてとてと歩き回っていて、イーブイやワシボンと遊んだりもしないし……。
侑「ニャスパーは本当にリナちゃんが好きだよね……」
「ニャァ〜」
リナ『リナちゃんボード「テレテレ」』 ||,,╹ᨓ╹,,||
このニャスパー……本当にどこの誰のポケモンなんだろう。
リナ『もっと動きまわった方がいいのかな』 || > ◡ < ||
「ニャァ〜」
リナちゃんが飛び回ると、ニャスパーは上を見上げながら、短い足でとてとてと追いかけ始める。
正直この光景に関しては、微笑ましいことこの上ない。
- 756 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:43:17.61 ID:6bHKz0F20
-
侑「やっぱネコポケモンは動くものが好きなんだね」
リナ『だね』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「……よし! ワシボン、毛繕い終わったよ」
「ワシャ♪」
「ブイブイ」
「ワシャ〜」
しっかり毛並みを整えてあげると、ワシボンはご機嫌に鳴きながら、イーブイと追いかけっこを始める。
侑「イーブイ、ワシボン、あんまり暴れちゃダメだよ〜」
「ブイ♪」「ワシャ〜」
イーブイ、ワシボン、ライボルト、ニャスパー、なかなか個性的な手持ちになってきた気がする。
そして……最後の手持ち、と言っていいのかな。
私はその子をボールから外に出す。
丸いラグビーボール大くらいの──タマゴ。
リナ『そのタマゴ、全然変化がないね』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「うん……」
たまにボールの外に出して、撫でてみたり、優しく抱きしめてみたりしているけど……あんまり変化はない。
侑「本当に生まれてくるのかな……」
タマゴに直接耳を当ててみるけど……特に何も聴こえない。
どんなポケモンが生まれてくるのかわからないと、この子をどうするかの方針も立たないんだけどなぁ……。
リナ『まだまだ時間がかかりそうだね』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「そうだね……」
まあ、根気よく待つしかないかな……。
何か早く生まれさせる方法があるわけでもないし。
リナ『……あ、侑さん』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「ん?」
リナ『歩夢さんから、メールだよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「歩夢から?」
リナ『ベランダ、今出られるかって、訊いてる』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「ん、わかった」
私は上着を羽織って、ベランダの外に出る。
ベランダに出ると──歩夢が隣の部屋のベランダの手すりにもたれかかりながら、空を見ていた。
私も歩夢と同じようにベランダの手すりに手を掛けながら、歩夢に声を掛ける
侑「歩夢」
歩夢「あ、侑ちゃん。ごめんね、急に呼び出して」
侑「うぅん、平気だよ。どうしたの?」
歩夢「なんだか……お話ししたくなっちゃって」
侑「ふふ、そっか。旅に出る前はよくこうして話してたもんね」
- 757 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:44:13.12 ID:6bHKz0F20
-
そんなに前のことじゃないはずなのに、なんだかこうしてベランダで話すのも懐かしい気持ちになってくる。
そう思っていたのは歩夢も同じだったようで。
歩夢「ふふ♪ なんだか、そんなに前のことじゃないのに、懐かしい気持ちになっちゃうね♪」
そう言って笑う。
歩夢「侑ちゃん、お部屋で何してた?」
侑「ポケモンたちと遊んでた」
歩夢「ふふ、私と同じだね♪」
侑「旅で出会ったポケモンたちが、自分の部屋にいるのはなんか不思議な気分だけどね」
歩夢「そうだね。……私たち、旅してきたんだね」
歩夢は空を見上げながら、しみじみと言う。
歩夢「ちょっと前まで……旅してる自分を全然想像出来なかったんだけど……」
侑「そうだね……」
歩夢「旅に出たら、やっぱり戸惑うことばっかりで……大変だなって思うこともいっぱいあったけど……」
侑「うん」
歩夢「旅に出てよかったって……思ってるよ」
侑「なら、よかった」
歩夢「侑ちゃんが居てくれたお陰だよ♪」
侑「それはこっちの台詞だよ。歩夢、いつもありがとう」
歩夢「えへへ……なんか、照れちゃうね」
歩夢は嬉しそうにはにかむ。
そんな歩夢を見て、今かなと思った。
侑「ねぇ、歩夢」
歩夢「?」
侑「実は、歩夢にプレゼントがあるんだ」
歩夢「え、プレゼント……?」
侑「歩夢のお陰で旅が出来て、歩夢のお陰で毎日が幸せだからさ……そのお礼というか」
歩夢「そ、そんな……感謝してるのはこっちだよ……! それに私、何も用意してないし……」
侑「私が歩夢にあげたいって思っただけだからさ。受け取って欲しいな」
そう言って、私は上着のポケットから、小さな小箱を取り出して歩夢に渡す。
歩夢「……開けていい?」
侑「もちろん」
歩夢がゆっくりと小箱を開けると──
歩夢「……わぁ♪ 可愛い……♪」
中から、桃色の花飾りが顔を出す。
- 758 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:45:53.91 ID:6bHKz0F20
-
侑「さっき、夕飯の買い物に行ったときにたまたま見つけて……歩夢に似合うと思ってさ」
歩夢「ありがとう、侑ちゃん……♪」
歩夢はそう言いながら、早速花飾りを着けて見せてくれる。
歩夢「……どうかな?」
侑「ふふっ。やっぱり私が思ったとおりだ。すっごく、よく似合ってるよ♪」
歩夢「えへへ……ありがとう……///」
歩夢は照れ臭そうに笑う。
侑「この旅をしててさ……私、歩夢の知らないところ、たくさんあったんだなって思ったんだ」
歩夢「そうなの?」
侑「うん。だから、ケンカもしちゃったし……」
歩夢「あ……そうだね……」
侑「あ、でも、あのときケンカしちゃったことは、今となってはよかったって思ってるよ。ちゃんとお互い思ってることを言い合えたから」
歩夢「侑ちゃん……。うん、私もそう思うよ」
侑「だからさ、その……なんていうか……。これから先、もしかしたら、また気持ちがすれ違っちゃうこととか、一緒にいられないことが、あるのかもしれないけど……」
歩夢「……うん」
侑「……私はいつでも、歩夢を大切に思ってる。そんな気持ちを込めたから……何かあったら、その花飾りを見て、思い出してくれたら嬉しいなって……」
歩夢「侑ちゃん……。……うん、わかった」
歩夢が優しい表情で笑い返してくれる。本当に心の底から、私の言葉を受け止めて笑ってくれているんだって。
なんだか、それが妙に気恥しくて、
侑「……そ、それじゃ、そろそろ明日に備えて寝ないとね///」
思わず、話を切り上げてしまう。
歩夢「ふふっ♪ そうだね♪」
くすくすと笑いながら言う歩夢。
なんだか、今の私の気持ちを見透かされているみたいで、余計恥ずかしくなってくる。
歩夢「おやすみ」
侑「う、うん、おやすみ! また明日!」
半ば逃げるように、部屋に戻ろうと踵を返す。
歩夢「侑ちゃん」
侑「?」
歩夢「私の侑ちゃんへの想いも、ずっと変わらないから……安心してね」
侑「……うん、ありがとう」
──なんだかこそばゆい気持ちだけど、今日は良い夢を見られそうな気がする。
ふと見上げた夜空では、旅していたときと変わらず、月明りが優しく私たちを照らしていたのだった。
- 759 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 14:46:29.41 ID:6bHKz0F20
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【セキレイシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.39 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.38 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.34 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.29 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
タマゴ なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:136匹 捕まえた数:4匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.38 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.36 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.34 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
タマザラシ♀ Lv.29 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:146匹 捕まえた数:15匹
侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 760 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 21:01:41.49 ID:6bHKz0F20
-
■Intermission😈
──ツシマ研究所にて。
子供たちを家に帰して、ひととおり仕事を片付けたところだ。
善子「……さて……気は進まないけど、連絡しようかしらね……」
私はパソコンの前に座って、ビデオ通話を掛ける。
アプリの呼び出し音が鳴る中、先方が応じるのを待つ。
10秒……20秒……30秒……。
善子「出ない……」
あのルーズな古巣の師を思い出して、溜め息が出る。
連絡してくるときは突然なのに、こっちから連絡してもなかなか捕まらないのだ。昔から。
1〜2分待って、諦めようかと思ったとき、
鞠莉「チャオ〜、善子〜」
やっと、マリーは通話に応じてくれた。
善子「それでマリー、用件は?」
鞠莉「そっちから掛けてきたのに、すごい切り出し方するわね……。そんな言い方するってことは、リナに会ったのね」
善子「ええ。とりあえず、あのリナってポケモン図鑑がなんなのか、教えて欲しいんだけど」
鞠莉「リナは自分のこと、ロトム図鑑って言ってなかった?」
善子「……ロトム図鑑じゃないことくらいわかるわよ」
鞠莉「あら……さすがね」
善子「誰の研究所で助手やってたと思ってるのよ……」
ロトム図鑑とはそれなりに付き合いが長い。一目見れば、違うことはすぐにわかった。
問題は──じゃあ果たして何なのかということ。
鞠莉「AIよ」
善子「マリーが作った……わけないわよね」
鞠莉「あら、失礼ね……マリーには出来ないってこと? わたしはこれでも、そっち方面も出来るのよ?」
善子「それは知ってる。だけど、あのポケモン図鑑──リナはあまりに感情が豊かすぎる」
あんなに感情豊かなAIは、見たことがない。
というか、今の技術で作れるのかも怪しい。
- 761 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 21:02:27.08 ID:6bHKz0F20
-
鞠莉「……ふふふ」
善子「何笑ってんのよ」
鞠莉「さすが、わたしの弟子だと思って」
善子「誰がマリーの弟子よ……」
鞠莉「あなたの言うとおり、あんなに感情豊かなAIは今の技術では作れない……」
善子「じゃあ、あのリナってポケモン図鑑は何?」
鞠莉「逆に聞くけど、なんだと思う?」
善子「……」
ああもう……この人のこういうところが苦手だ。
ただ、何故こんなまどろっこしい訊き返し方をしてくるのか。それを考えればなんとなくわかった。
善子「……マリーも知らないってことね」
鞠莉「正解。いや、正確には、確信が持てていないだけだけどね」
善子「……もう一度聞くけど、あのリナってポケモン図鑑はなんなの? いや……違うか──」
私は、この質問では不十分だと思って言い直す。
善子「──私にあの子を託して、どうするつもりだったの?」
あのポケモン図鑑は、侑の手に渡らなければ私か、千歌の手にあるはずのものだった。
確認をしなかった私の落ち度だけど──当初は本当に図鑑データ収集の雑用をさせられると思ったし──この人選には、意味がある。
善子「私か千歌にあのポケモン図鑑を任せるってことは──自分であんまこういうこと言いたくないんだけど……マリーにとって信頼のおける人物の手に置く必要があった」
鞠莉「……続けて」
善子「そして、何故マリーの手元にあるだけではダメなのか。……あの子により多くのデータを与えるため。言うなれば……リナに進化を促す、とでも言えばいいのかしら」
恐らく自己学習型のAIだと言うのは少し会話をしただけでも、想像に難くない。
なら、そのために必要なのは経験だ。それを得やすい人のもとに預けておくのは理に適っている。
鞠莉「……ふむ。当たらずとも遠からずね」
善子「そりゃ、どーも……」
とはいえ、私の推測で考えられるのはここまでが限界。
ここでマリーから正解と言ってもらえなかったということは──私には知りえない情報がまだあるということだ。
鞠莉「リナを成長させたいというのは合ってるわ。あなたの考えているとおり。ただ、進化って言うのは……正確じゃないかな」
善子「まあ……成長でも進化でも、表現はなんでもいいんだけど……」
言い回しに拘るのは、ある意味研究者らしい返答だ。
- 762 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/05(月) 21:03:00.05 ID:6bHKz0F20
-
善子「その上で、あの子に経験を積ませて……何が起こるの?」
鞠莉「……リナは……あの子はね──Keyよ」
善子「……キー……? 鍵?」
鞠莉「そう──これから、この地方で起こる、何かに対する重要なKey factor」
善子「……何か……?」
鞠莉「善子、あの子……リナの正体は──」
私は、マリーの言葉を聞いて……驚き、目を見開いてしまった。
そんなこと……ありえるの……?
………………
…………
……
😈
- 763 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:43:59.75 ID:hNufaooJ0
-
■Chapter039 『歩夢と桃色の花』 【SIDE Ayumu】
歩夢「──ん〜……! 今日はぽかぽかしてて、気持ちいいね〜……」
侑「こうぽかぽか陽気だと眠くなってくる……」
「ブイ…」
歩夢「ふふ♪ 確かに、お昼寝したくなっちゃうね♪」
眠そうな侑ちゃんとイーブイを見て、くすくすと笑ってしまう。
リナ『今日は一日中晴れだと思うよ! お散歩日和になってよかったね、歩夢さん!』 || > ◡ < ||
歩夢「うん♪」
私たちは今、セキレイの街を東にある9番道路方面に向かって歩いているところ。
まだ午前中だと言うのに、今日はぽかぽかとした、まさにお散歩日和な日だ。
二人で歩き慣れたセキレイの街を進んでいると、
かすみ「──侑せんぱ〜い! 歩夢せんぱ〜い!」
「ガゥガゥ♪」
かすみちゃんの呼ぶ声が聞こえてきて振り返る。
侑「おはよう、かすみちゃん」
歩夢「おはよう♪」
かすみ「おはようございます! って、あー! 歩夢先輩、なんですかなんですか、その新しい髪飾り! めっちゃ可愛いじゃないですかぁ〜!」
歩夢「あ、これ……えへへ、実は昨日、侑ちゃんに貰ったんだ……///」
かすみ「えー!? ずるいずるい! 侑先輩、かすみんにはプレゼントないんですかぁ〜!?」
侑「あ、えーっと……ごめん。かすみちゃんの分はちょっと用意してないや……」
かすみ「えー……むー……まあ、いいですけど。その代わり、今日のジム戦の応援、全力でお願いしますね」
侑「あはは、それなら任せて!」
というわけで、私たちはこれからサニータウンへ向かうために、セキレイシティを東に進んでいきます。
そしてその途中には──太陽の花畑がある。
私はこの太陽の花畑をすごくすごく楽しみにしている。
特に今日みたいなぽかぽか陽気な日に、あのお花畑をお散歩出来たら、きっとすごく気持ちいいに違いない。
歩夢「早くみんなに見せてあげたいな……♪」
素敵な景色を、私の大切なポケモンたちに見せてあげられるんだと思っただけで、気持ちがうきうきしていた。
- 764 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:44:34.78 ID:hNufaooJ0
-
🎀 🎀 🎀
──セキレイを東に抜けて、しばらく9番道路を歩いた先、
歩夢「見えてきたよ!」
気持ちが逸っていたのか、自然と少し前を歩いて、先導するような形になっていた私は、侑ちゃんとかすみちゃんを振り返りながら、前方を指差す。
そこには──色とりどりの花が、ずーっと先まで広がっている光景。
侑「うわぁ〜! 久々に来たけど、やっぱすごいね!」
「ブィ〜〜!!!」
歩夢「うん!」
ここが、セキレイの東にある大きなお花畑──太陽の花畑だ。
かすみ「かすみんはちょっと前に来たんですけど……そのときとなんかちょっと違うかも?」
「ガゥゥ?」
歩夢「ちょうど開花時期のお花もあるからだと思うよ♪ この時期は、一番咲いてるお花の種類が多くて綺麗なんだ♪」
かすみ「へーそうなんですね! 前来たときは、コソ泥さんを追いかけてて、ゆっくり見る暇もなかったけど……こうしてみると、やっぱり絶景ですね!」
歩夢「うん!」
まさに花の絨毯と言っても差し支えない光景を目の当たりにしながら、
歩夢「みんな、出てきて!」
みんなをボールから出す。
「バースッ!!」「マホイ〜♪」「タマァ…」
エースバーンは一面に広がる風景に目を丸くしていたけど、
「バスッ♪」
ご機嫌になって、花畑を駆け出す。
進化した今でも、走り回るのが大好きみたい。
「マホ〜♪」
マホイップは、近くにあるお花に近付いて、匂いを嗅いでいる。
「マホ〜♪」
歩夢「ふふっ♪ いい匂いするよね♪」
マホミルの頃から、甘い匂いが好きだったマホイップも、ニコニコしながら、あっちこっちの花の匂いを嗅いでいる。
ただ、そんな中、
「タマ…」
タマザラシは私の足元から離れようとしない。
- 765 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:48:06.20 ID:hNufaooJ0
-
歩夢「タマザラシ、お花綺麗だよ?」
「タマァ〜…」
侑「歩夢と離れたくないんじゃない?」
歩夢「そっか……じゃあ、一緒にお花、見よっか♪」
「タマァ…♪」
頭を撫でながら言うと、タマザラシは嬉しそうに鳴く。
この子はさみしがりやで甘えん坊だから、綺麗なお花畑よりも、私から離れたくないみたい。
まあ、私から離れないのはサスケも同じなんだけど……。
「シャボ…」
いつものように私の肩の上にいるサスケは、鳴きながら軽く目を開けたけど、
「シャボ…zzz」
すぐに目を瞑って、眠りだす。
侑「あはは……サスケは相変わらずだね」
リナ『ご飯あげれば起きるかもよ?』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「花より団子だからなぁ……サスケは……」
これに関しては昔から変わらないかも。
かすみ「それじゃ、せっかくですし、かすみんもポケモンたちを外に出してあげようかな〜♪」
侑「私も!」
侑ちゃんとかすみちゃんが私に倣うように、自分たちの手持ちを外に出す。
「ワシャッ♪」「ライボ」「ニャァ〜」
「ジュプトッ」「ザグマァ〜」「……サ」「ブクロン♪」
ボールから飛び出すと、ワシボンとジグザグマが元気よく飛び出して行く。
侑「あんまり、遠くに行っちゃダメだよ〜?」
「ワシャ〜」
かすみ「ジグザグマ〜! 何か見つけたら、ちゃんとかすみんのところに持ってくるんだよ〜!」
「クマァ〜♪」
一方で、ニャスパーとサニーゴはいつもどおり、ぼんやりしている。
「ニャァ〜」「…………サ」
侑「ニャスパー。遊んできていいんだよ?」
「ニャァ〜…?」
侑ちゃんが言うと、ニャスパーは近くの花に顔を近づけたり、手でてしてしと叩いてみたりしている。
かすみ「サニーゴは……うーん、まあいつもどおりですね」
「…………ニ」
サニーゴは興味があるのかないのか、いつもどおりの無表情で、花畑の上をゆっくりと浮きながら移動している。
- 766 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:48:39.50 ID:hNufaooJ0
-
かすみ「あれ、楽しいのかな……」
リナ『たぶん……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「イーブイも、行っていいよ」
「ブイ♪」
侑ちゃんの肩の上で待機していたイーブイも、侑ちゃんから許可をもらうと、元気よく花畑に飛び出して行く。
そんな、イーブイを追いかけるように、
「ガゥガゥ♪」
ゾロアも、駆け出す。
かすみ「やっぱり、こ〜んな大きなお花畑があると、みんな開放的な気分になるんですね!」
侑「ふふ、そうだね。せっかくだし、タマゴも外に出してあげよっかな」
侑ちゃんはタマゴをボールから出して、落とさないようにしっかりと胸に抱える。
歩夢「タマゴ、何か変化あった?」
侑「全然……。でも、こうやって歩いてたら、何か刺激になるかもしれないしさ」
かすみ「昨日もちょっとだけ見せてもらいましたけど、一体どんなポケモンが生まれるんでしょうね?」
侑「そればっかりは生まれてみないとかなぁ」
そんな話をしながら、私たちも花畑の中を歩き出す。
すると、タマザラシはコロコロと転がりながら、さらにその後ろから、ジュプトルとライボルトが警護でもしているかのように、ゆっくりと付いてくる。
かすみ「ジュプトルも遊べばいいのに……」
侑「ライボルトとジュプトルは、遊ぶって感じじゃないみたいだね」
歩夢「でも、お花に囲まれて、嬉しそうだよ♪」
いつもどおりのクールな表情でこそあるものの、足取りは気持ち軽やかに見える。
かすみ「あれ……そういえば、ヤブクロンは……?」
そういえば、飛び出して行った子たちの中にヤブクロンはいなかった。かすみちゃんがキョロキョロと辺りを見回すと、ヤブクロンはたくさんの花の影に隠れていて、
かすみ「ああ、そんなところにいたんだね。……って!?」
「ヤブ…」
もしゃもしゃとお花を食べているところだった。
- 767 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:49:44.85 ID:hNufaooJ0
-
かすみ「わー!? ヤブクロン、勝手に食べちゃダメでしょ!?」
「ヤブ…?」
侑「かすみちゃんのヤブクロン、お花食べるの?」
かすみ「は、はい……お花が大好物なんです……。でも、お花畑の花は食べちゃダメでしょ!」
「ヤブ…」
かすみ「そんな不機嫌そうな顔されても……勝手に食べたら、かすみんが叱られちゃいますよぉ……」
歩夢「うーん……ちょっとくらいなら大丈夫だと思うよ?」
かすみ「えぇ……? そんな、歩夢先輩まで……。管理してる人とかに叱られちゃわないですか……?」
リナ『太陽の花畑には管理人はいないよ』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「はぇ……? え、だって、お世話してる人がいるでしょ?」
歩夢「あのね、かすみちゃん。太陽の花畑は、自然のお花畑で、人の手は入ってないんだよ」
かすみ「え!? こんなに大きくて、いろんな種類のお花があるのに!?」
かすみちゃんが驚くのも無理はない。
私も昔は、誰かが手入れをして、作ったものだと思っていたもの。
リナ『この花畑は花にとって、特別な環境になってるんだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「特別な環境って、具体的には?」
歩夢「ここのお花畑はね、太陽のエネルギーに溢れてるって言われてるの」
かすみ「太陽のエネルギーに溢れてる……?」
歩夢「うん。あそこにある大きな花……見える?」
私は花畑の中央の方を指差す。
かすみ「ああ、あのでっかいヒマワリですよね! ここの名物ですから、あれは知ってますよ!」
侑「確か……大輪華・サンフラワーだっけ?」
かすみ「どうすれば、あんなに大きく成長するんですかねぇ……」
歩夢「あのヒマワリはね、太陽のエネルギーの塊だって言われてるの」
侑「太陽のエネルギーの塊……?」
かすみ「えぇ? じゃあ、あのおっきなヒマワリが、周りのお花を育ててるって言うことですかぁ?」
かすみちゃんが不思議そうに小首を傾げる。
歩夢「えっと……進化の石ってあるでしょ?」
侑「ああ、“ほのおのいし”とか“みずのいし”とかのことだよね」
歩夢「うん。あれは小さい手の平のサイズの石なんだけど……自然界には、あの進化の石と同じようなエネルギーを持った場所があるんだって」
リナ『ここはそんな“たいようのいし”のエネルギーが満ちてる場所って言われてるんだよ』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
かすみ「え? じゃあ、“たいようのいし”いらずってことですか?」
歩夢「うん。チュリネやヒマナッツはここにいるだけで、進化することがあるみたいだよ」
かすみ「え!? ほ、ホントに“たいようのいし”いらずだった……」
リナ『そんなエネルギーの恩恵を受けて、多くの花が自生してるんだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「でも、どうしてそんなエネルギーがここにはあるの?」
リナ『正確な理由はわかってないみたい……。私のデータにもない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「でもね、あのサンフラワーにまつわる伝説は残ってるんだよ」
かすみ「伝説ですか?」
- 768 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:51:17.05 ID:hNufaooJ0
-
私は、このお花畑が好きでもっと知りたくて……以前、学校の図書館で調べた、大輪華の伝説のことを話し始める。
歩夢「ここは最初は何もなかったんだけど……。このオトノキ地方に最初の輝きを与えたと言われるポケモン──ディアンシーは自らの輝きを地方中に分け与えたんだって」
かすみ「輝きって、なんかふわふわした言い方ですね?」
リナ『今ではこの輝きって言うのは生命エネルギーだったとか、宝石や鉱石だったんじゃないか、なんて言われてるね』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「うん。その輝きの一つはここ……太陽の花畑に。大きな大きな、太陽の輝き。その太陽の輝きの上に、たまたま一つのヒマワリの種が芽吹いたんだって。そして、そのヒマワリの種は太陽の輝きの中に芽を伸ばして──大きく、大きく成長した」
私は、大輪華を見上げる。
侑「……もしかして、その太陽の輝きって……」
歩夢「うん。巨大な“たいようのいし”だったんじゃないかって言われてるみたい」
“たいようのいし”のエネルギーを吸って成長したから、サンフラワーはあんな大きな大輪を咲かせたと考えられているそうだ。
歩夢「だから、サンフラワー自身が強い太陽のエネルギーを放って、土地を潤し続けてる。そんな場所だから、長い年月を掛けて、自然といろんな種類のお花が集まってきたんだって」
かすみ「へ〜……なんだか、壮大な話ですねぇ……」
侑「だから、人の管理は必要ないんだね」
歩夢「うん。あ、でもね……人以外がお花のお世話をしてるんだよ」
侑・かすみ「「人以外……?」」
侑ちゃんとかすみちゃんの声が重なる。
歩夢「えっとね……」
私はキョロキョロと辺りを見回す。
真ん中の方に来ると、いつもだいたい何匹かいるんだけど……そう思って、周囲を確認していると、
歩夢「あ、いた……」
「エッテ」「エッテ〜」「エッテエッテ♪」
歩夢「あの子たちがお世話してるんだよ」
少し離れたお花の上で、漂うように飛んでいる、小さなポケモンたちを指差す。
かすみ「わ、可愛い〜♡」
侑「あのポケモンは……確か、フラエッテだっけ?」
リナ『フラエッテ いちりんポケモン 高さ:0.2m 重さ:0.9kg
自分の パワーを 花に 与え 心を こめて 世話を する。
あちこちの 花畑を 飛び回り 枯れかけた 花を 見つけると
世話を 始める。 花の 秘められた 力を 引き出して 戦う。』
侑「確か、フラベベの進化系で……さらにフラージェスに進化するんだっけ」
歩夢「ふふっ♪ そうだね♪」
ポケモンの話題になると、急に饒舌になるのが侑ちゃんらしくて、ちょっと笑ってしまう。
歩夢「フラエッテたちがお花のお世話をして、ここでお気に入りの花を見つけたフラベベたちが、花に乗って飛んでくんだよ」
そう説明していると、風が吹いて、ちょうど目の前で花に乗ったフラベベたちが花畑を飛び立っていく。
- 769 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:52:33.69 ID:hNufaooJ0
-
リナ『フラベベ いちりんポケモン 高さ:0.1m 重さ:0.1kg
気に入った 花を 見つけると 一生 その花と 暮らす。 花の
力が ないと 危険だが 好きな 色と 形が 見つかるまで
旅を 続ける。 見つけると 風に 乗って 気ままに 漂う。』
歩夢「そうやって、世界中にお花を広げていくんだって♪」
かすみ「なんかロマンチックな話ですね! それにこれだけいろんな種類があったら、フラベベも絶対にお気に入りのお花が見つけられますもんね!」
歩夢「そうだね♪」
そして、お気に入りの花を見つけて飛び立っていったフラベベたちは、成長してフラエッテになると、お花のお世話をしにここに戻ってくるらしい。
まさにこのお花畑は、自然とポケモンが密接に結びついて繁栄させてきた、自然の楽園というわけだ。
侑「なんか身近な場所だったのに、全然知らなかったや……」
歩夢「ふふっ♪ 侑ちゃんは花よりポケモンだもんね♪」
侑「でも、ポケモンとも関わりがあるってわかったら、興味湧いてきたよ!」
やっぱり侑ちゃんらしくて、くすくす笑ってしまう。
そんな中、急に──prrrrrとポケギアのコール音が鳴る。
私のじゃない……。侑ちゃんを見ると、侑ちゃんも首を左右に振る。
じゃあ、
かすみ「あ、かすみんのポケギアです。……あれ、しず子から? もしもし、しず子?」
しずく『もしもし、かすみさん? 今どこ?」
私たちにも聞こえるように、かすみちゃんがスピーカーモードにしてくれる。
かすみ「太陽の花畑だけど……」
しずく『えっと……まだサニーに着くまで時間かかりそう? 曜さん、もう待ってくれてるんだけど……』
かすみ「え? ……って、もうこんな時間じゃん!?」
侑「……わぁ!? もうとっくにお昼過ぎてる!?」
どうやら、花畑でのんびりしすぎたらしい。
かすみ「すぐに行くって曜先輩に伝えてくれる!?」
しずく『うん、わかった。待ってるね』
──piと通話を切り、
かすみ「みんな〜! サニーまで行くから、戻ってきて〜!」
手持ちを呼び戻している。
侑「曜さんのこと待たせちゃってるみたいだね……歩夢、ちょっと急ごうか」
歩夢「うん。曜さん、忙しい中、予定空けてくれてるんだもんね」
私と侑ちゃんもポケモンたちを呼び戻し始める。
歩夢「みんな〜! 戻ってきて〜!」
タマザラシをボールに戻しながら呼び掛けると、
「バース!!」
- 770 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:53:21.02 ID:hNufaooJ0
-
エースバーンがすぐに戻ってくる。
あとは、マホイップ……。
歩夢「マホイップ〜……どこ行っちゃったの〜……?」
呼んでも全然マホイップの姿が見えない。
恐らく、花の匂いに夢中になっているんだと思う。
マホイップは小さいから、花の影に隠れちゃうし……呼ばれていることに気付いてくれないと探すのが大変なんだけど……。
どうしようかと考えていると、
「…シャボ」
私の意図を汲んだのか、さっきまで寝ていたはずのサスケが私の身体を伝って、するすると地面に降りていく。
舌をチロチロとさせたあと、花を掻き分けて、進んでいく。
どうやら、探してくれるようだ。
舌先で匂いを嗅ぎ分けるサスケの後に付いていくと、
「マホ〜…♪」
マホイップは案の定、お花の匂いに夢中になっているところだった。
歩夢「やっと見つけた……ありがとう、サスケ」
「シャボ」
歩夢「マホイップ。そろそろ、行くよ」
「マホ?」
屈んで、マホイップを抱き上げる。
その際、ふと──小さなポケモンが地面にいることに気付く。
「ベベ…」
歩夢「……フラベベ?」
いや、フラベベなら周りにたくさんいる。
ただフラベベが居ただけなら、特に気にしなかったんだろうけど……。
本来花に乗り、風を受けて空を漂っているはずなのに、そのフラベベは──地面をぴょんぴょんと跳ねていた。
つまり、花を持っていなかった。
歩夢「あなた……お花はないの?」
「ベベベ…」
訊ねると、ふるふると首を振る。
歩夢「お花がないと、危ないよ?」
「ベベベ…」
フラベベは花の力がないと、満足に戦えないポケモンだし、こうして花もないまま1匹でいるのは、少し心配になる。
歩夢「……好きなお花、見つからないの?」
「ベベ…」
そう訊ねると、フラベベは頭を垂れて、しゅんとしてしまう。
- 771 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:55:22.15 ID:hNufaooJ0
-
歩夢「そっか……」
これだけいろんなお花があるから、こんな風にお気に入りの花を見つけられないフラベベがいるなんて考えたことがなかった。
侑「──歩夢〜!! どこ〜!?」
歩夢「あ、いけない……」
花畑の中で屈んでいたからか、侑ちゃんが大きな声で私を探し回っている。
歩夢「侑ちゃん、ここだよ〜!」
侑「あ、いた!」
かすみ「歩夢せんぱ〜い! 早く行きますよ〜!」
歩夢「う、うん」
かすみちゃんに促されて、行こうと思ったけど。
「……ベベ」
歩夢「……」
なんとなく、このフラベベを放っておけなくって……。
歩夢「……ごめん、侑ちゃん、かすみちゃん、先に行ってもらってていい?」
侑「え? いいけど……一人で大丈夫?」
歩夢「うん、大丈夫。すぐに追いつくから」
かすみ「それじゃ、かすみんたち、先に行きますね! 行きますよ、侑先輩!」
侑「あ、うん! それじゃ、歩夢、何かあったら連絡してね!」
歩夢「うん、わかった」
侑ちゃんたちが先に行ったのを確認してから、もう一度花畑の中でしゃがみこむ。
歩夢「フラベベ」
「…ベベ?」
私はフラベベの小さな体を抱き上げる。
……抱き上げると言っても、フラベベは手の平に乗るくらいのすごく小さなサイズだから、手の平で掬い上げる……くらいの表現が正確かもしれないけど。
歩夢「私もあなたのお花探し、一緒にしていい?」
「ベベ?」
歩夢「あなた一人じゃ移動も大変だろうし……どうかな?」
訊ねると、
「ベベ、ベベ」
フラベベはコクコクと頷く。
歩夢「ありがとう♪ それじゃ、素敵なお花、見つけよっか♪」
「ベベ♪」
私は太陽の花畑で、フラベベのお花探しをお手伝いすることにしました。
- 772 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:56:02.88 ID:hNufaooJ0
-
🎀 🎀 🎀
歩夢「フラベベ、このお花は?」
「ベベ…」
歩夢「んー……じゃあ、こっちは?」
「ベベ…」
歩夢「そっかぁ……」
フラベベを手に乗せたまま、太陽の花畑を歩き回ること数十分。
新しい種類の花が目に入るたびに、フラベベに訊ねているけど、フラベベは首を振るばかり。
歩夢「うーん……」
フラベベにとって花は一生を共にする相手。
しっくりこない限り、身の危険があるにも関わらず、いつまでも花を探し続けるらしいし……。
フラベベの多くが花畑に生息するのは、少しでも早く自分にあった花を見つけるためなんだと思う。
とはいえ、このまま虱潰しに探していたら、日が暮れてしまうかもしれない。
歩夢「まずは系統を絞らなくちゃ……!」
「ベベ…?」
歩夢「ちょっと待っててね」
私はバッグの中から“ポロックケース”を取り出す。
このケースの中にはその名のとおり、“ポロック”が入っている。
“ポロック”というのはポケモンのお菓子のこと。いろんな味の“ポロック”があって、これを与えることによって、ポケモンのコンディションを整えることが出来ると言われている。
ポケモンコーディネーターが好んでポケモン与えるものだ。
歩夢「えっと……赤、青、桃、緑、黄、紫、紺、茶、空、黄緑、灰、白……」
色とりどりの“ポロック”をフラベベの前に並べる。
“ポロック”は味によって、種類が変わるんだけど……今回は重要なのは味じゃなくて……。
歩夢「フラベベ、どの色が好き?」
フラベベに聞きたいのは好きな色。
「ベベ」
フラベベは“ももいろポロック”を指差す。
歩夢「色はピンクだね……」
「ベベ」
となるとここからは出来るだけ、ピンク系統で探してみた方がいいのかな……。
お花探しの方針を考えていると、
「ベベ…」
フラベベは並べられた“ポロック”をじーっと見つめている。
- 773 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:56:54.63 ID:hNufaooJ0
-
歩夢「もしかして、お腹空いてるの?」
「ベベ…」
フラベベはコクコクと頷く。
歩夢「ふふ、そっか♪ 食べていいよ♪」
「ベベ…♪」
許可してあげると、フラベベは“あおいろポロック”を食べ始める。“おっとり”した性格だから、渋い味の“あおいろポロック”が好きみたい。
それはそれとして……好きな色はわかったから……あとは、形かな。
歩夢「フラベベ、好きな形はどういうのがいいの?」
「ベベ…?」
ひとえに花と言っても、様々な形がある。
サクラのようなポピュラーな形のお花から、アサガオのように漏斗型の物、壺のようなスズランや、バラのような幾重にも花びらが重なっているものもある。
もちろん、フラベベが乗るお花は、茎のあるものじゃないといけないけど……。
歩夢「自分の好きな形のお花があったら、指差して教えてくれないかな? 形がわかったら、それに似た形で好きな色のお花を探せると思うから」
「ベベ」
そう言うと、フラベベは私の顔を見上げてくる。
歩夢「? どうしたの?」
「ベベ」
今度は私の方を指差してきた。
歩夢「あはは……えっと、私じゃなくて……お花を……」
そこまで言い掛けて、
歩夢「……。……もしかして……?」
気付く。
私は自分の髪に留めた、花飾りを外して、
歩夢「……これ?」
フラベベに見せてみると、
「ベベ、ベベ♪」
フラベベは嬉しそうに鳴きながら、花飾りに手を触れる。
「ベベ、ベベ!!」
すると、今度はあっちあっちと言わんばかりに花畑の向こう側を指差し始める。
歩夢「もしかして……あっちにあるの?」
「ベベ!!」
歩夢「わかった、行ってみよっか」
- 774 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:57:42.58 ID:hNufaooJ0
-
🎀 🎀 🎀
フラベベを手に乗せたまま、花畑を進んでいくこと10分ほど。
「ベベ♪ ベベ♪」
歩夢「ホントにあった……」
花畑の一角に──ピンク色の可愛らしい花びらのお花が僅かに咲いていた。
数はそんなに多くないけど、間違いない。私が侑ちゃんから貰ったこの花飾りと同じお花だ。
どうしてここに咲いていることをフラベベが知っていたのかはわからないけど……。
もしかしたら、フラベベは一度触れることで、同じ種類の花の持っているエネルギーのようなものを感じ取ることが出来るのかもしれない。
花と共生するポケモンだし、そういうことが出来てもなんらおかしくはない……のかな?
──私は、フラベベを手に乗せたまま、その花に近付く。
歩夢「ここでいい?」
「ベベ♪」
花のすぐそばにフラベベを下ろしてあげる。
すると、フラベベは嬉しそうに、その花の上に登り、
「ベベ♪」
嬉しそうに鳴き声をあげた。
どうやら、気に入ってくれたようだ。
歩夢「ふふっ♪ よかったね♪」
「ベベ♪」
フラベベが再び嬉しそうに鳴くと同時に、フラベベが花ごとフワリと浮き上がる。
きっと、風に吹かれて、旅に出るんだと思う。
歩夢「ばいばい、元気でね」
「ベベ♪」
せっかく、私と同じお花が好きな子と出会えたから、こうしてすぐお別れになっちゃうのは少しだけ寂しかったけど……。
フラベベはそういうポケモン。いつかフラエッテに進化したら、ここに戻ってきてくれるだろうから……きっとまた会える。
風に乗って、飛んでいくフラベベを見送っていたら──急に、強い風が吹いた。
歩夢「きゃ……!」
風はすぐに止む。そして、気付くと、
「ベベ♪」
今さっき飛び立ったはずの、フラベベが私の目の前に戻ってきていた。
そして、それと同時に──フラベベがカッと光輝いた。
歩夢「これってまさか……進化の光……!?」
「──エッテ♪」
──フラベベから姿を変えたフラエッテは、先ほど乗っていた花に、今度はぶら下がりながら、私の手の上に降りてくる。
- 775 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:58:15.11 ID:hNufaooJ0
-
歩夢「ふふっ♪ ……もう進化して戻ってきちゃったの?」
「エッテ♪」
進化までして、もう戻ってきちゃったマイペースなフラエッテ。
この子がどうして戻ってきてくれたかなんて、わざわざ確認なんてしなくても、その気持ちはわかった気がした。
歩夢「一緒に行こっか、フラエッテ♪」
「エッテ♪」
コツンと優しくボールを押し当てると、フラエッテはボールに吸い込まれていった。
歩夢「これからよろしくね、フラエッテ♪」
ボールに向かって話しかけると、カタカタと揺れて返事をしてくれた。
歩夢「さて……それじゃ、早くサニータウンに向かわないと……!」
もうとっくにジム戦は始まってしまっているだろうから、急がないと……!
私は新しくフラエッテを仲間に加え、サニータウンへ急ぐため、花の絨毯の中を駆け出したのでした。
- 776 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/06(火) 13:58:46.73 ID:hNufaooJ0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【太陽の花畑】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__●__.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.40 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.37 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.36 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
タマザラシ♀ Lv.30 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラエッテ♀ Lv.20 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:154匹 捕まえた数:16匹
歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 777 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:11:26.82 ID:0Ok5BWPG0
-
■Chapter040 『激闘! セキレイジム!』 【SIDE Kasumi】
かすみ「──歩夢先輩……遅いですねぇ……」
侑「そうだね……」
かすみんたちは、サニータウンの東の浜辺で、歩夢先輩を待っていたんですが……歩夢先輩は一向に現れません。
侑「リナちゃん、歩夢ってまだ太陽の花畑にいるの?」
リナ『うん。図鑑サーチすると……太陽の花畑をうろうろしてるみたい』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「何やってるんだろう……歩夢」
侑先輩は心配そうですけど……。
しずく「ですが、さすがにこれ以上お待たせするのは、曜さんに悪い気がします……」
さっき合流したしず子が、浜辺で作業をしている曜先輩に目を配らせながら言う。
侑「それもそうだね……。これ以上は待つわけにもいかないし、かすみちゃん、ジム戦始めてもらおっか」
かすみ「えぇ、いいんですか?」
侑「歩夢もちっちゃい子供じゃないし……太陽の花畑なら危ないこともないだろうからさ」
かすみ「……わかりました。それじゃ……曜せんぱ〜い!」
かすみんは、浜辺に向かって、駆け出しながら曜先輩に声を掛ける。
曜「お? もういいの? 歩夢ちゃん、結局来てないみたいだけど?」
かすみ「はい! 歩夢先輩、ちょっと遅れてくるみたいなんで、ジム戦始めちゃおうと思います!」
曜「なんかごめんね、急かしちゃったみたいで……」
かすみ「いえいえ! 急なお願いしたのはかすみんの方ですから!」
曜「そう言ってもらえると助かるよ」
かすみ「ところで……どこでバトルするんですか? この浜辺ですかね?」
キョロキョロと辺りを見回しても、バトルフィールドらしい場所は見当たらない。
となると、フリーバトルのように、この浜辺で戦うのかなと思っていたけど、
曜「うぅん、フィールドは用意出来てるんだ。こっちだよ」
曜先輩はそう言いながら、浜辺に向かって歩いていく。
そして、水面に向かって──ピュ〜〜〜イと、指笛を吹く。
「マンタ〜」「マンタイ〜ン」「タイ〜ン」
かすみ「あ、マンタイン!」
曜「前に来たときに、かすみちゃんたちが一緒にマンタインサーフをした子たちだよ」
しずく「お久しぶりです!」
「タイ〜ン」
曜「このマンタインに乗ってちょっと移動するから、付いてきて!」
曜さんはそう言いながら、かすみんたちにライフジャケットを手渡し、ぴょんとマンタインに乗って、海を進みだす。
- 778 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:11:58.12 ID:0Ok5BWPG0
-
かすみ「え、ええ……?」
曜「ほら、早く早く〜!」
侑「えっと……マンタインに乗って移動すればいいんだよね?」
しずく「恐らくは……」
かすみ「と、とにかく曜先輩を追いかけなきゃ……!」
かすみんたちはせっせとライフジャケットを装備し、マンタインに乗って曜先輩を追いかけます。
👑 👑 👑
ちょっとの間、マンタインに乗って、海を移動していると──それはすぐに見えてきました。
侑「わぁ〜!! すごい!!」
侑先輩が、見るまでもなく目を輝かせているのがわかる声音で、歓声をあげた。
そこにあったのは──
しずく「これ……バトルフィールドですか……!?」
水上に浮かぶ、バトルフィールドでした。
曜「そのとーり!」
侑「なんでこんな場所にバトルフィールドがあるんですか!?」
ウッキウキで訊ねる侑先輩。
曜「実は、レジャー開発の中で、バトルも出来たらいいんじゃないかって意見があってね。何か面白いものが作れないかなーって考えてたんだけど……海上のバトルフィールドって面白いんじゃないかなって思ってさ!」
侑「わぁ〜〜〜!!! それ絶対面白いです!! このフィールドでしか出来ないバトル、絶対ありますよね!! 想像するだけで、ときめいてきちゃった……!!」
「ブィ…?」
曜「今回せっかくだから、これの試用も兼ねてみようかなって思って!」
侑「い、いいなぁ〜……!! 新生のバトルフィールドで戦えるなんて……羨ましい……!!」
「ブイ…」
侑先輩がかすみんに向かって、本当に心底羨ましいんだなってことがわかる表情を向けてくる。
かすみ「ここで、ジム戦するんですね……」
見たところ、浮島はやや太めのアーチを向かい合わせたような形をしていて、中央にある大きな穴からは海面が覗いている。
そして大きな中央の穴のちょうど真ん中に半径1mくらいの丸い浮島があって、そこにも乗ることが出来るようです。
簡単に言うと、モンスターボールのようなシルエットをしています。
曜「この浮島を中心とした、周囲の海もバトルフィールドになってるんだけど……かすみちゃん、ジム戦はここででもいいかな?」
曜先輩がそう訊ねてくる。
このフィールド……みずタイプのポケモンが戦いやすいつくりになっているのは一目でわかりますけど……。
- 779 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:12:58.60 ID:0Ok5BWPG0
-
かすみ「どんな場所でも戦えてこそ立派なポケモントレーナーです! もちろん、受けて立ちます!」
曜「あはは♪ かすみちゃんなら、きっとそう言ってくれると思ってた! それじゃ、フィールドに上がって!」
かすみ「はい!」
曜先輩に促されて、かすみんはマンタインから浮島の端っこに乗り移る。
乗った瞬間──波に合わせて上下する特有の揺れを感じる。
かすみ「う……結構揺れる……」
曜「まだ観戦席が完成してないから、侑ちゃん、しずくちゃんはマンタインの上から観戦してもらってもいいかなー?」
しずく「はーい! 承知しましたー!」
侑「わかりましたー! ……くぅ〜……私もあそこに乗ってみたかったぁ……!」
リナ『まだ言ってる……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
「イブィ…」
かすみんは、浮島の上で軽く跳ねてみる。
特有の揺れこそあるものの、立っていられないとか、そんなことはないし、簡単にひっくり返ったり、沈んだりということもまずなさそうな、しっかりとした浮島で少し安心する。
これなら、きっと大丈夫……!
曜「ちなみにこのバトルフィールドにはトレーナースペースはないから、フィールド内でだったら、トレーナーも自由に動きまわって大丈夫だからね! ただし、わざと相手トレーナーを狙ったり、相手のポケモンの攻撃をトレーナーが身体で防ぐのは禁止だよ」
フィールドの形だけじゃなくて、フリーバトルに近い形式みたいですね……! かすみん好みの面白そうなルールじゃないですか……!
曜「さて、それじゃ始めようか! かすみちゃん、準備はいい?」
かすみ「はい! お願いします!」
曜「使用ポケモンは4匹! 全員戦闘不能になったら決着だよ! セキレイジム・ジムリーダー『大海原のヨーソローシップ』 曜! 君の全力の航海、私に見せて!」
曜先輩は敬礼してから、ボールをフィールドに向かって投げ放った。
バトル──開始です……!!
👑 👑 👑
かすみ「行くよ、ヤブクロン!」
「ブクロン!!」
かすみんの1番手はヤブクロン! 対する曜先輩は、
曜「タマンタ! 出発進行!」
「タマ〜」
マンタインを二回りくらいちっちゃくしたポケモン、タマンタが1番手。
タマンタは、ボールから飛び出すと同時に、中央の水中にザブンとダイブする。
リナ『タマンタ カイトポケモン 高さ:1.0m 重さ:65.0kg
2本の 触角で 海水の 微妙な 動きを キャッチする。
とても 人懐っこく 人間の 船の 近くまで 寄ってくる。
テッポウオの 群れに 混ざって 泳ぐことが 多い。』
侑「タマンタって確か……マンタインの進化前だよね?」
しずく「はい、そうですね……」
- 780 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:13:54.15 ID:0Ok5BWPG0
-
かすみんの後ろで流れるリナ子の図鑑解説とその感想を聞く限り、タマンタはまだ進化していない姿らしい。
かすみ「曜先輩ったら、ジム戦用のポケモンなのに進化させてないで大丈夫なんですかぁ〜?」
曜「ふふ♪ 舐めてかかると痛い目見るよ! “バブルこうせん”!」
「タマ〜〜!!!」
水面から顔を覗かせたタマンタが、泡の光線を吐き出してくる。
かすみ「ヤブクロン! “ヘドロこうげき”!」
「ヤブッ!!!!」
対抗するように、ヤブクロンが口から毒液を飛ばし、両者の攻撃がぶつかり合って、相殺する。
しずく「か、かすみさん! 海にヘドロなんか流したら……」
かすみ「え、ええ!? そんなこと言われても困るんだけどぉ!?」
曜「大丈夫だよ。このフィールド内は外の海からは隔離されてるから」
かすみ「そ、そういうことは先に言ってくださいよぉ!!」
曜「あはは、ごめんごめん♪」
むむ……曜先輩は顔馴染みということもあって、なんだか緊張感がない……。
で、でもでも! かすみん、手を抜いたりなんかしないんですから……!
かすみ「ヤブクロン、追撃の──……あ、あれ……?」
攻撃を畳みかけようとした矢先、
かすみ「た、タマンタはどこですか……!?」
「ヤ、ヤブクゥ…」
気付けばタマンタはさっき顔を出していた水面から姿を消していた。
かすみんがキョロキョロと周囲を見回していると──ちょうど、背後からバシャっと何かが跳ねる音がした。
曜「タマンタ! “エアスラッシュ”!!」
「タマァ〜〜!!!」
かすみ「!?」
驚いて振り向くかすみんの真横を“エアスラッシュ”が横切って、
かすみ「し、しまっ……!?」
「──ヤブゥ!!!?」
ヤブクロンに直撃した。
かすみ「ヤブクロン、大丈夫……!?」
思わずヤブクロンに駆け寄る。
「ヤ、ヤブ…!!」
すぐに起き上がるヤブクロン。どうやら、大きなダメージにはなっていないようで安心する。
侑「そうか……浮島の下は海だから、潜られると簡単に背後を取られちゃうんだ……」
- 781 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:14:32.52 ID:0Ok5BWPG0
-
侑先輩の分析どおり、タマンタは海中に潜って背後を取ってきたわけです。
気付けば、タマンタはまた海に潜って姿を消してるし……。
リナ『しかも、このルール……トレーナー自身もフィールド内にいるから、背後を取られたときに気付きにくい……』 || ╹ᇫ╹ ||
確かに、フィールド全体を後ろから把握できる普段の戦闘と違って、トレーナーの後ろ側にもポケモンが来る可能性がある。
そうなると、意識を前だけじゃなくて、前後左右に配らないといけないから……。
かすみ「や、ヤブクロンは後ろ見て! かすみんが前見るから!」
「ヤ、ヤブッ!!!!」
こうなったら、役割分担です!
かすみんが前半分、ヤブクロンが後ろ半分をカバーすれば、死角を減らせる……!
あえてかすみんが前を見ている理由は──
曜「さぁ、次はどっちから来るかわかるかな?」
曜先輩を見るため──直後、曜先輩が一瞬だけ、向かって左側に視線を向けたのを見逃しませんでした。
かすみ「ヤブクロン、左から来──」
曜「“つばさでうつ”!!」
「タマァッ!!!!」
「ヤブゥッ!!!?」
ヤブクロンに指示を出した瞬間、右側から飛来してきたタマンタの“つばさでうつ”で吹っ飛ばされる。
かすみ「ぎ、逆!? 今、一瞬左側見て……!?」
曜「ふふ♪」
余裕そうに笑う曜先輩を見て、すぐ気付く。
──視線に誘われた。
かすみんに見られているのを理解した上で、曜先輩は一瞬左側に視線を送り、それに釣られて死角になった右側からの攻撃。
かすみ「ぐ、ぬぬぬ……!」
完全に術中にはまっている感じがする。
しずく「かすみさーん! 落ち着いてー!!」
しず子の声が飛んでくる。
こんなときこそ冷静にならなきゃ……!
かすみ「でも、相手がどこから飛び出してくるかわかんない……そうだ、それなら……! ヤブクロン、“まきびし”!!」
「ヤブゥッ!!!!」
ヤブクロンが周囲にトゲトゲ状の硬いモノを吐き出し、それはぽちゃんぽちゃんと海に落下する。
かすみ「さらに、“タネばくだん”!」
「ヤブッ!!!」
続けざまに、今度は“タネばくだん”を吐き出して、それも海にばらまく。
- 782 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:17:30.32 ID:0Ok5BWPG0
-
かすみ「さぁ、どうですか……! これなら、海の中はトラップだらけですよ……!」
曜「! なるほどね……」
無暗に動き回れば“まきびし”が刺さるし、“タネばくだん”に触れればドカンです!
曜「でも、かすみちゃん! タマンタは海の中で簡単に障害物に当たったりしないよ!」
曜先輩の言葉と共に、タマンタがザバァッ!! っと音を立てて海面から飛び出してくる。
──もちろん、“まきびし”や“タネばくだん”によって負傷した形跡はない。
曜「“ハイドロポンプ”!!」
「ターーマァーーーッ!!!!!」
かすみ「わぁーー!!? ヤブクロン、“ボディパージ”!!?」
「ヤ、ブェェェェ…」
上空から襲い来る強烈な水流に対して、ヤブクロンは咄嗟に体から大量の花を吐き出し、身を軽くし、辛うじて回避する。
空振った“ハイドロポンプ”は、浮島に突き刺さり、
かすみ「わ、わわわ!?」
かすみんたちの足元がグラグラと揺れる。
かすみんは転ばないように、思わず四つん這いになってしまう。
曜「咄嗟に身を軽くして、避けられた……!」
ただ、曜先輩の言うとおり、回避には成功している。
“ハイドロポンプ”は大技だし、タマンタは飛び回りながらの攻撃。
ヤブクロンまでちょこまか動き回っていたら、なかなか狙いを定めるのは難しいはずです。
かすみ「ヤブクロン……! もっと“まきびし”と“タネばくだん”!!」
「ヤブクッ!!!」
ヤブクロンはフィールド走り回りながら、さらにトラップを設置していく。
曜「あくまでトラップ設置をするんだね」
かすみ「……タマンタが頭の触角で、海流を察知して避けられるのはわかります」
それはさっき図鑑で読んだところだし。
かすみ「でも、これだけ大量にあったら、全部は避けきれないんじゃないですか?」
曜「むむ……」
しかも“タネばくだん”は1つが起爆すれば、他も誘爆します。“まきびし”への被弾で体勢を崩せば、それもまた“タネばくだん”への被弾の可能性が増えますし、もはや海中はタマンタにとって安全な場所ではありません。
かすみ「もはや、こうなったらあとは時間の問題ですね、曜先輩! 次、海に戻ったときが決着のときです!」
かすみんは早く下りて来い下りて来いと念じながら、空を飛ぶタマンタを見つめる。
曜「“みずでっぽう”!!」
「タマァー!!」
かすみ「悪あがきですね! そんなの当たりませんよ!」
「ヤブクッ!!!」
- 783 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:18:08.88 ID:0Ok5BWPG0
-
空を旋回しながら、“みずでっぽう”を撃ち下ろしてくるけど、お互いが高速で動き回っているせいか、狙いが定まらない様子。
……お陰で、浮島がめっちゃ揺れて酔いそうなんですけど……。
かすみ「で、でも、そろそろ限界なんじゃないですか……!」
揺れるフィールドの上で四つん這いになりながら、タマンタを見上げると──
かすみ「……あ、あれ……? 全然下りてきてないような……?」
むしろ……ちょっとずつ高く上がってるような……?
侑「かすみちゃーん!! タマンタ、“みずでっぽう”の反動で飛んでるよ!?」
かすみ「はぁ!?」
言われてやっと気付く。
タマンタは攻撃のために“みずでっぽう”を撃ってきたんじゃなくて──反動で、揚力を得るために水を噴射していた。
カイトの要領で旋回していたから、そのうち落ちてくると思ったのに……これじゃ、いつまで経っても着水しない。
海中をトラップで制圧したつもりだったのに、これじゃ……。
曜「さぁ……空からの攻撃、いくら素早くても、一生避け続けられるもんじゃないんじゃないかな……!」
かすみ「っ……!」
形勢が逆転している。
いくら命中精度が悪い状態とはいえ、ずっと撃ち続けられていたら、いつか当たってしまってもおかしくない。
きっと攻撃が命中したら、怯んだ隙をついて、畳みかけてくるはずだ。
かすみ「──……ま〜、自分から空に留まってくれるなら、こっちとしては万々歳なんですけどねぇ〜……♪」
曜「……え?」
かすみんはあまりに事がうまく運びすぎて、思わずニヤッと笑ってしまう。
曜「もう、かすみちゃん……そんな言葉で揺さぶろうなんて……」
曜先輩は溜め息交じりに言いながら──急にハッとして、かすみんと同じように身を屈めた。
曜「こ、この臭い……!? タマンタ!! 高度落として!!」
「タ、タマァ…」
気付けば、空で滑空するタマンタの軌道はふらふらとし始めていた。
かすみ「もう遅いですよ!! ……とっくにこの上空には“どくガス”が充満してますからね!!」
曜「で、でも、ヤブクロンはそんな素振り……。いや……まさか、あの“ボディパージ”……!?」
曜先輩はカラクリに気付いたようで、ヤブクロンが“ボディパージ”でフィールド上に吐き出した──ヤブクロンの体の中で発酵された花に目を向けた。
かすみ「にっしっし……♪ そうです、そのヤブクロンが吐き出したお花がずっと“どくガス”になって上空に昇り続けてたんですよ!」
ヤブクロンにはあえて──毒性の強い花を吐き出すように予め打合せをしておくことで、“ボディパージ”はただ素早さを上げるだけでなく、“どくガス”発生装置にもなるということです!!
曜「く……! “ハイドロポンプ”で吹っ飛ばして!!」
「タ、マァァァーーー!!!!」
- 784 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:18:42.72 ID:0Ok5BWPG0
-
上空から、ゴミを洗い流すように、浮島上が水流で掃除される。
ただ、もう今更掃除しても遅い。“どく”は十分に回っています……!!
動きの鈍ったタマンタの進行方向辺りに、
かすみ「ヤブクロン! “ベノムトラップ”!!」
「ヤッブゥッ!!!」
霧状の毒液を散布する。滑空しているタマンタは咄嗟に方向転換できず、“ベノムトラップ”に突っ込んだ。
「タ、マァァァ……!!!?」
曜「タマンタ……!?」
さらにふらふらになるタマンタ。
リナ『“ベノムトラップ”は“どく”状態の相手の能力を一気に下げる技……!』 || > ◡ < ||
しずく「かすみさん! 今だよ!!」
かすみ「言われなくても……!」
満身創痍のタマンタを撃ち落とすなんて、造作もありません!
かすみ「“ベノムショック”!!」
「ヤーーーブゥッ!!!!!」
ブッ!! と毒液を鋭く吐き出して──
「タマァッ!!!!?」
タマンタに直撃させた。
タマンタは完全にバランスを崩して、海に落っこち──
その直後──ドォンッ!! と特大の水柱が上がった。
海中の“タネばくだん”たちが大爆発したようです。
──打ち上げられた水が雨のように、サァァっと降り注ぐ中、
「…タ、タマァ…」
タマンタがお腹を上にした状態でプカァっと浮かび上がってきたのだった。
曜「……戻って、タマンタ」
かすみ「ヤブクロン! 作戦大成功だね!」
「ヤブッ」
曜「四つん這いになってたのも、揺れるのが怖くて屈んでたんじゃなかったんだね……」
かすみ「ええ! かすみんが“どくガス”を吸わないように、しゃがんでただけですよ!」
曜「いやぁー……かすみちゃんはこういうことしてくるって、警戒してたつもりだったんだけどなぁ……」
曜先輩は頭を掻きながら言う。
かすみ「かすみんと知恵比べで勝とうなんて思わない方がいいですよ!」
しずく「かすみさんの場合、知恵比べというよりかは、化かし合いとか騙し合いのような……」
リナ『詐欺、偽計、譎詐、嘘のつき合いとか?』 || ╹ᇫ╹ ||
- 785 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:20:25.69 ID:0Ok5BWPG0
-
かすみ「外野! うるさい!!」
曜「あはは、確かに私はそういうので戦うよりも──真っ向から戦った方が向いてるかも」
曜先輩はそう言いながら──後ろに向かって2匹目のポケモンの入ったボールを放り投げる。
すると──
かすみ「……!?」
曜先輩の背後に巨大な壁が出現する。
いや、壁じゃない……あれは……!?
曜「行くよ、ホエルオー!!」
「ボォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!」
壁に見えていたのは──あまりにも巨大な体躯を持ったポケモンだった。
ホエルオーは出て来るや否や、海に潜っていく。
かすみ「で、でっか……!? なにあれ!?」
リナ『ホエルオー うきくじらポケモン 高さ:14.5m 重さ:398.0kg
見つかった 中では 最大級の ポケモン。 大海原を ゆったりと
泳ぎ 大きな 口で 一気に 大量の エサを 食べる。 獲物を
追い立てる ために 水中から ジャンプして 水しぶきを あげる。』
しずく「ホエルオー……!」
侑「うっわぁーー!! 私、実物のホエルオー見たの初めて!!」
「ブ、ブィィ」
侑先輩が目をキラキラさせているのが、振り返らなくてもわかりますけど……あれは敵……。
かすみ「というか、あんなの倒せるんですか……!?」
曜「ふふ、それはかすみちゃん次第だよ……!」
曜先輩がすっと腕を真っすぐ振り上げると──海面が急に盛り上がっていく。
かすみ「!?」
曜「ホエルオー!! “とびはねる”!!」
「ボォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!」
海中から、大量の水を巻き上げながら──ホエルオーが飛び出した。
かすみ「と、とんで……!?」
その体躯からは想像出来ないくらいに、明確に跳んでいた。宙にいた。
思わず、呆気に取られてしまった。
そんな巨体が海に落ちてきたら、どうなるかなんて、考えるまでもなく──
曜「“なみのり”!!」
巨大な波が一気にかすみんたちに向かって押し寄せてきた。
かすみ「ぎゃーーー!!?」
「ヤ、ヤブゥ!!!?」
逃げ場なんてどこにもなく、かすみんはヤブクロンともども、巨大な波に押し流されて海に放り出される。
- 786 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:21:00.88 ID:0Ok5BWPG0
-
しずく「き、きゃぁぁぁ!!?」
侑「す、すごい迫力だぁぁぁぁ♪」
「ブ、ブィィ…」
リナ『退避退避ぃ〜!?』 || ? ᆷ ! ||
観戦席の方からも悲鳴が聞こえてくる。
いや、なんか一人歓声だった気もするけど……。
かすみ「はぁ……はぁ……」
「タィーン」
気付けば、かすみんをここまで連れて来てくれたマンタインが足場代わりになってくれていた。
かすみ「あ、ありがとうマンタイン……」
「タィーーーン」
マンタインはかすみんを浮島に戻すと、再びフィールドから離れていく。
ヤブクロンは……と海を見渡すと、少し離れたところで、
「ヤ、ブゥゥゥ…」
大量の水波を叩きつけられ、戦闘不能になった状態でぷかぷか浮かんでいるところだった。
かすみ「戻って、ヤブクロン」
ヤブクロンをボールに戻す。
曜「あはは♪ すごいでしょ、私のホエルオー」
曜先輩がけらけらと笑いながら言う。
かすみ「や、やりすぎですよ……」
曜「ごめんごめん♪ バトルに出してもらえることなんて滅多にないから、張り切っちゃったみたいでさ。ね、ホエルオー」
「ボォォォォォォォォ」
そりゃ、このサイズで、しかも地上で出せないポケモンとなると、バトルに出て来ることなんて滅多にないでしょうね……。
曜「でも、安心して! 何かあってもマンタインがかすみちゃんたちの身の安全は保証するから!」
かすみ「それは、安心ですね……」
気付けば観客席の方にも、波を回避した侑先輩たちが戻ってきていた。
侑「ねぇ、今のすごかったね!! あんな大迫力、間近で見られるなんて!! 完全にときめいちゃった!! もう一度やってくれないかな!?」
しずく「わ、私は……遠慮したいです……あはは……」
リナ『ポケモン好きもここまで来ると、ちょっと怖い』 ||;◐ ◡ ◐ ||
もう一度やられるなんて、シャレにならない……。
となると、次使うのは──
かすみ「サニーゴ! お願い!」
「──……サ」
曜「ガラルサニーゴ! 珍しいポケモン持ってるね、かすみちゃん!」
とりあえず、あんなバカみたいな“とびはねる”からの“なみのり”攻撃を食らっていたら、試合にならない。
- 787 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:21:37.75 ID:0Ok5BWPG0
-
かすみ「“かなしばり”!!」
「……サ」
「ボォォォォ」
曜「おっと……」
大波を起こすための一連の行動を封じる。
曜「なるほどね、じゃあこれならどうかな! “しおふき”!!」
「ボォォォォォォ!!!!!!!!!!!!」
ホエルオーの頭から、大量の潮が噴出され──それが降り注いでくる。
かすみ「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!?」
「…………サ」
大量の水が上から降り注いできて、思わず膝を折る。
これは作戦とかじゃなくて──無理!! 水の勢いで立ってられない!!
サニーゴも、浮くのもままならず、浮島に押し付けられている。
必死に耐えて耐えて耐えて──やっと、上から降ってくる潮水の雨が止む。
かすみ「はぁ……はぁ……」
相手の攻撃の規模が大きすぎる。
かすみ「こんなの……は、反則……ですよぉ……」
「……サ」
まだこっちから何も出来ていないのに、息が切れてしまう。
とにかく、攻撃をしなくちゃ……!
かすみ「……し、“シャドーボール”……!!」
「…………サ、コ」
影の弾が発射され──ホエルオーに向かって、当たって弾けた。
「ボォォォォォォ」
曜「そんなちっちゃい攻撃じゃ効かないよ!」
かすみ「あ、相手が……大きすぎる……」
勝てるビジョンが思い浮かばない。
さすがにヤバイと思ったとき、
「…………サ、コ……」
サニーゴがのろのろとホエルオーに向かって、進んでいっていることに気付く。
かすみ「サニーゴ……?」
のろのろと前進しながら、サニーゴはゆっくりとこっちを振り返る。
「………………ゴ」
相変わらず、吸い込まれるような虚ろな目。だけど、何故だか──今日のサニーゴはいつになくやる気なんだと言うことが自然と理解出来た。
かすみ「……私が弱気になっちゃダメだ」
- 788 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:22:08.02 ID:0Ok5BWPG0
-
サニーゴは戦う意思を見せてくれている。
なら、トレーナーが諦めるわけにはいかない。
だけど、どうする。パワーもだけど、あの大きさじゃ小細工が通用しない。
そのとき、ふと──
かすみ「……あ」
作戦が思い浮かんだ。
かすみ「え、いや、でもぉ……」
正直、この策を取るのは、嫌というかなんというか……癪だった。
だけど……。
「ボォォォォォ…」
あの巨大な相手を倒すには……たぶん、これしかない。
かすみ「サニーゴ……!」
「…………サ」
かすみ「“ハイドロポンプ”!!」
「──サゴ」
サニーゴが口から勢いよく水流を発射した──
曜「……!?」
それを見て、曜先輩が驚いた顔をする。
何故なら──“ハイドロポンプ”を後ろ向きに噴射していたからだ。
かすみ「一気に近付くよ!!」
水流の逆噴射で、一気にホエルオーに接近するサニーゴ。
曜「でも、近付いてどうするつもりかな!?」
「ボォォォォォ……!!!!」
ホエルオーが大口を開け、“おたけび”を上げながら、サニーゴを待ち構えている。
そんなホエルオーの大口目掛けて──
かすみ「つっこめーーー!!」
サニーゴは勢いよく、飛び込んだ。
曜「え!?」
さすがに自分から食べられに来たのは予想外だったのか、曜先輩が動揺の声をあげた。
曜「え、ち、ちょっと!? さすがに、ジム戦で相手のポケモン食べちゃうのはまずいって!? ホエルオー、吐き出さないと!?」
「ボォォォォ」
かすみ「その必要は、ありませんよ」
曜「な、なにいって……!?」
ああもう、ホントにこういう作戦は可愛くないからやりたくないし……何より、あのにっくき──にこ先輩と同じ戦術なんてしたくなかったのに。
- 789 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:22:40.71 ID:0Ok5BWPG0
-
かすみ「“じばく”!!」
曜「っ!?」
──ボォンッ!!!! と大きな音が、ホエルオーの方から発せられ、びりびりと空気を震わせた。
少しの間、辺りが波の音だけになる。
……が、
「ボ、ォォ…」
程なくして、ホエルオーの体がひっくり返るように転覆し始める。
曜「わ、わぁぁぁ!? 戻って、ホエルオー!?」
曜先輩が慌てて、戦闘不能になったホエルオーをボールに戻すと──ホエルオーのいた場所に、
「──……サ」
戦闘不能になって動かなくなったサニーゴがぷかぷか浮かんでいた。
かすみ「サニーゴ、戻って!」
ボールを投げて、サニーゴを戻してあげる。
かすみ「ありがとう、サニーゴ……“じばく”なんてさせて、ごめんね」
これしかなかったとは言え、最初から“じばく”特攻をさせるのはさすがに心が痛む。
ジム戦が終わったら、たくさん労ってあげよう。
曜「……す、すごいことするね、かすみちゃん……」
かすみ「出来れば、やりたくなかったですけど……」
まさか、にこ先輩に打開のヒントを貰うことになるとは思いませんでした……。
まあ、結果としてはうまく行きましたし……少しくらい感謝してやらなくもないですね。
──とにもかくにも、
かすみ「これで2対2……!」
お互い残りの手持ちは半分です。
曜「ホエルオーで勝ち切るつもりだったんだけどなぁ……ま、いいや! 切り替えていこー!」
曜先輩が3匹目のボールを構える。
かすみんも同じようにボールを構えて──後半戦スタートです!
- 790 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:23:14.07 ID:0Ok5BWPG0
-
👑 👑 👑
かすみ「さぁ、行くよ、ジグザグマ!」
「クマァ〜」
曜「ラプラス! 出発進行!」
「キュゥ〜♪」
かすみんの3匹目はジグザグマ、曜先輩はラプラスです。
リナ『ラプラス のりものポケモン 高さ:2.5m 重さ:220.0kg
人の 言葉を 理解する 高い 知能を持ち 背中に 人を
乗せて 海を泳ぐのが 好きな ポケモン。 寒さに 強く
氷の 海も 平気。 ご機嫌に なると 美しい 声で 歌う。』
曜「ラプラス! “うたかたのアリア”!」
「キュ〜〜♪」
ラプラスが曜先輩の指示で歌を歌い始める。
しずく「わぁ〜……♪ 素敵な歌声です……♪」
侑「うん……! ときめいちゃう……♪」
「ブイ〜…♪」
オーディエンスたちはどっちの味方なんでしょうか……。
確かにキレイな歌声なのはわかりますけど、これは攻撃なんです……!
その証拠に──ラプラスの周囲には水で出来たバルーンのようなものが複数浮かんでいる。
かすみ「歌で水を操る技ってことですね……!」
曜「正解!」
「キュ〜〜〜♪」
水のバルーンたちがジグザグマに向かって飛んでくる。
かすみ「ジグザグマ、“ミサイルばり”!!」
「クマァッ!!!」
対抗するように、水のバルーン向かって、硬く尖った体毛を飛ばす。
薄い音の膜のようなものに包まれたバルーンは“ミサイルばり”が直撃すると、破裂して、ただの水に戻る。
対策としては正解っぽいんだけど……。
かすみ「か、数が多い……!」
「ク、クマッ」
撃ち落としても撃ち落としても、四方八方から、バルーンが飛んでくる。
曜「声が届く範囲にいる以上、“うたかたのアリア”からは逃げられないよ!」
どうやら、音の届く範囲内の水を操作できる技らしい。
かすみ「なら……! “しんそく”!」
「ク、マァッ!!!!」
浮島を蹴って、ジグザグマが一気に飛び出す。
襲い掛かってくるバルーンたちを掻い潜るようにして、浮島を飛び出し──ザブンッ!!
- 791 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:23:48.22 ID:0Ok5BWPG0
-
曜「!? 自分から海に……!?」
かすみ「海の中なら、音は響いてきませんよ!」
曜「なるほどね……でも、みずタイプ相手に潜るとはね! ラプラス、行くよ!」
「キュゥッ!!!」
曜先輩はラプラスに掴まって、海に潜っていく。
かすみ「あー……これ、いいのかな?」
かすみん、すでにジグザグマに指示してる技があるんですけど……。
ま、まあ、わざとじゃないし大丈夫だよね! ちょっとビリっとしますけど!
直後──海中から、バチバチと放電が発生する。
そして、それと同時に──ザバッと音を立てながら、
曜「げ、げほっげほっ……!! び、びりっときたぁ……!!」
「キ、キュゥゥ…」
ジグザグマの“10まんボルト”に痺れて顔を出す曜先輩とラプラス。
水は電気を良く通しますからね。一緒に潜ったら、曜先輩もビリビリです。
かすみ「曜先輩、大丈夫ですか……?」
曜「う、うん、平気……」
かすみ「まだまだビリビリしちゃいますから、もう潜らないでくださいね!」
ジグザグマは、相手が倒れるまで“10まんボルト”をするはずですからね!
そんなことを考えている間にも、バチバチと海上の表面を火花が放電する。
ただ──ラプラスはなぜか平気な顔をしていた。
かすみ「あ、あれ……?」
曜「ふっふっふ、かすみちゃん、水は電気を通すのにって思ってるでしょ? でも、ラプラスはもう水の中にいないよ!」
かすみ「はい?」
いや、どう考えても水面に浮かんでいるようにしか──と、思ってら、ラプラスの真下は、
かすみ「!? こ、凍ってる!?」
分厚い氷になっていた。
というか、気付けば、
かすみ「へ……へ……へくしっ……! さ、寒い……!」
春の暖かい陽気が嘘のように、どんどん肌寒くなっていく。
曜「“ぜったいれいど”!!」
「キュゥ〜〜♪」
直後、ラプラスを中心として、海が一気に氷漬けになる。
かすみ「わぁーーー!!!? な、なにしてくれてるんですかぁ!!?」
かすみんは大慌てで、氷の上を走り出す。
分厚い氷を上から覗き込むと──足元の氷の中で、戦闘不能になって動けなくなっているジグザグマの姿があった。
- 792 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:24:21.17 ID:0Ok5BWPG0
-
かすみ「じ、ジグザグマぁー!!!」
曜「確かに海は電気を通しやすいけど……冷気も伝わりやすいからね」
かすみ「そ、それより、助けてあげてくださいぃ!!」
曜「了解! ラプラス、“つのドリル”!」
「キュゥ♪」
ラプラスが頭の角で、氷を砕き──ジグザグマのいるところまでボールが届くように穴を空けてくれる。
かすみ「ジグザグマ、戻って……!」
穴からボールに戻して、一安心。
でも……。
曜「さぁ、かすみちゃん。最後のポケモンになっちゃったね」
そうです。かすみん、次が最後のポケモンです……。
追い詰められたけど……。
かすみ「かすみん、まだ全然諦めてませんよ……!」
曜「お、いいね! かすみちゃんのそういうところ、私好きだなぁ♪」
かすみ「毎回頼ってばっかりだけど……今回も頼みますよ! かすみんのエース!」
「──ジュプトォッ!!!」
最後のポケモンはもちろん、ジュプトル……!
かすみ「行くよジュプトル!!」
「ジュプトッ!!!!」
ジュプトルは浮島を蹴って飛び出し──氷の上を駆ける。
ジグザグマはやられちゃったけど……結果として、ジュプトルの走り回るフィールドを増やしてくれました……!
曜「“フリーズドライ”!!」
迫るジュプトルに向かって、ラプラスは自分の周囲に冷気を発してくる。
かすみ「当たりませんよ!」
「プトォルッ!!!」
ジュプトルは、氷の床を踏み切って、跳躍する。
地表の上を放射状に伝わる冷気攻撃。一見すると範囲の広い攻撃ですけど──ジュプトルは縦の動きにも強いんです!
冷気の届かない上空から、腕の刃を振りかぶる。
かすみ「“リーフブレード”!!」
「プトォルッ!!!!」
縦に薙いだ刃をラプラスに直撃──させたつもりだったけど、
かすみ「んなっ!?」
気付けばラプラスの口には、大きな氷の結晶が咥えられていて、それを使ってジュプトルの攻撃を受け止めていた。
曜「“こおりのつぶて”には、こういう使い方もあるんだよ!」
「キュウッ!!!」
- 793 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:24:57.80 ID:0Ok5BWPG0
-
そのまま、ラプラスは首を振って、刃を交えていたジュプトルを追い払う。
どうやら、大きく結晶化させた“こおりのつぶて”でジュプトルの攻撃を受け止めたらしい。
そして、その流れのまま、
「キュウッ!!!」
“こおりのつぶて”をジュプトルに向かって投擲してくる。
もちろん、本来の先制技のような奇襲性は失われているため、
「プトォル!!!!」
ジュプトルは、冷静に飛んできた氷の結晶を斬り裂いて対処する。
曜「“うたかたのアリア”!」
「キュゥ〜〜〜♪」
再び、“うたかたのアリア”で周囲に水のバルーンが浮き上がり──ジュプトルに向かって襲い掛かってきた。
かすみ「迎え撃つよ!!」
「プトォルッ!!!!」
だけど、かすみん怯みません!
周囲が凍っている分、さっきよりも攻撃の物量が少ない。
それにジュプトルなら──絶対に捌ききってくれるという信頼があった。
──次々に、飛び掛かってくるバルーンを斬り裂きながら立ち回る。
曜「いつまで持ちこたえられるかな……!」
「キュ〜〜♪」
ただ、曜先輩とラプラスの攻撃も止まない。
斬り裂いても斬り裂いても、新しいバルーンが飛んでくる。
周りは海だから、無限に燃料があるような状態。
一度に出せる量が減っているんだとしても、確かにこのままじゃジリ貧……そんなことはかすみんもわかってます。
かすみ「だから、手はもう打ってます!!」
曜「ここから、どうする気かな!」
そのとき、ふいに風が吹いた。
海風にさらわれて──フィールドの上を草が舞っていた。
曜「……え、草……?」
曜先輩が目を丸くする。
そりゃそうですよね──ここは海のど真ん中!
草が舞うなんておかしいですもんね!!
曜「……!?」
そして、曜先輩はやっと気付く──自分たちの足元が生い茂る草に覆われていることに……!
- 794 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:25:31.20 ID:0Ok5BWPG0
-
曜「まさか、これ……“グラスフィールド”!!?」
かすみ「そのとおりです!! 技を捌きながら、フィールドを展開してたんですよ!!」
「プトォルッ!!!!」
力強い緑のフィールドは、浮島だけでなく、ラプラスの作った分厚い氷の上にも緑の絨毯を広げ──ラプラスまで繋がる道を作り出していた。
そして、この緑の絨毯の上でだけ使える──最速の一撃がある。
曜「ま、まずい……!! ラプラス、一旦海に逃げ──」
かすみ「遅いです!! “グラススライダー”!!」
「──プトォルッ!!!!」
── 一瞬だった。
気付いたときには、草の絨毯をラプラスの背後まで滑り抜け、刃で袈裟薙ぎに一閃していた。
「キ、キュゥ…」
そして、ワンテンポ遅れて、斬り裂かれたことに気付いたかのように、ラプラスが崩れ落ちた。
侑「すっごーーーい!! 何今の!? すっごいかっこよかった!! ときめいちゃう!!」
しずく「今のは“グラススライダー”ですね。“グラスフィールド”上だと、高速の一撃になる技です」
うんうん。オーディエンスたちも魅了する、ちょーかっこいい、かすみんのエースの一撃が決まりましたね!
かすみんも会心の結果に思わず腕組みして頷いていると──
「プトォ──」
ジュプトルが光り輝きだした。
かすみ「!? ま、まさかこれって……!!」
曜「進化の光……」
ラプラスを倒して──経験値を得たジュプトルが、新たな姿に……!
「──ジュ、カイィィンッ!!!!」
かすみ「ジュプトルが進化……! 進化しました〜!!」
思わず、新しい名前を確認するために、図鑑を開く。
『ジュカイン みつりんポケモン 高さ:1.7m 重さ:52.2kg
腕に 生えた 葉っぱは 大木も すっぱり 切り倒す 切れ味。
密林の 戦いでは 無敵。 背中の タネには 樹木を 元気にする
栄養が 沢山 詰まっていると いわれ 森の 木を 大事に 育てる。』
かすみ「ジュカインって言うんだね……!」
「ジュカィンッ!!!」
凛々しくなって……キモリからこうして成長してきたことを考えると、なんだか目頭が熱くなってきちゃいます……。
かすみ「さぁ、曜先輩! 最後のポケモンを出してください! かすみんとジュカインがスパッとやっつけちゃいますから!!」
「ジュカィンッ!!!」
曜「ふふ、言うねかすみちゃん! 私も最後はエースポケモン。負ける気なんてないよ!」
曜先輩がそう言いながら繰り出した最後のポケモンは──
- 795 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:26:08.56 ID:0Ok5BWPG0
-
「ガメーーー!!!!」
曜「さぁ、カメックス!! 全速前進だよ!!」
かすみ「カメックス……!」
ゼニガメの最終進化系ですね……!
『カメックス こうらポケモン 高さ:1.6m 重さ:85.5kg
甲羅の 噴射口の ねらいは 正確。 水の 弾丸を 50メートル
離れた 空き缶に 命中させる ことが できる。 噴き出す
水流は 分厚い 鉄板も 一発で 貫く 破壊力が ある。』
曜「さぁ、行くよ、かすみちゃん!!」
「ガメェェェ!!!!!」
かすみ「望むところです!!」
「ジュカインッ!!!!」
最終戦の火蓋が切って落とされる。
とはいえ、すでに周囲は“グラスフィールド”が生い茂っている、ジュカインにとって有利な状況……!
この勝負貰いました……!
と、思った矢先、
曜「まずは氷を溶かすよ!! “ねっとう”!!」
「ガメェーー!!!!」
カメックスは背中のロケット砲から“ねっとう”を出して、周囲の氷を溶かし始める。
かすみ「わー!? 何やってるんですかぁ!?」
土台の氷が溶かされれば、もちろんその上に展開されていた“グラスフィールド”も消えるわけで……。
──とりあえず、ジュカインは“ねっとう”を浴びないようにかすみんの目の前まで戻ってきたけど……。
すっかり、周囲の氷は溶かされつくして、浮島上に“グラスフィールド”が展開されている以外は、最初の状態に戻ってしまった。
そして、そんな中、
「ガメッ!!!」
カメックスは中央の浮島を陣取ってくる。
中央から狙いを定めて──
曜「“ハイドロポンプ”!!」
「ガメェーーーーッ!!!!」
水砲で攻撃してくる。
かすみ「ジュカイン! “リーフブレード”!!」
「ジュカイッ!!!!」
ジュカインは、真っ向から飛んでくる水の塊を、腕の刃で斬り裂く。
縦に一閃した、斬撃により斬り裂かれた水砲は、左右にわかれて後ろに海面に着弾する。
それと同時に背後で2つの水柱が上がる。
かすみ「ひ、ひぇぇ……す、すごい威力じゃないですかぁ……」
思わず、直撃したときのことを考えてヒヤッとしたけど──逆に言うなら、進化して新しい力を得たジュカインなら、あの威力でも斬り裂けるということ……!
かすみ「この勝負……本当に貰いましたよ……!」
- 796 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:26:42.57 ID:0Ok5BWPG0
-
勝ちを確信したそのとき、
曜「なるほどね……。じゃあ、こっちも本当に切り札、使わせてもらうよ……!」
そう言って、曜先輩はシャツの中から、イカリを模したようなネックレスを取り出した。
その中央には──キラリと光る珠が嵌め込まれていた。
かすみ「!? あ、あれってまさか……!?」
曜「カメックス──メガシンカ!!」
「ガメェーーー!!!!!」
カメックスが眩い光に包まれる。
そしてその光の中から──
「ガーーメェッ!!!!!」
両腕に2本のアームキャノン、そして背中に一際大きなキャノン砲を背負った姿で現れる。
かすみ「め、めめめ、メガシンカを使うなんて聞いてないですよぉー!!?」
完全に予想外の展開に動揺が声に出てしまう。
しずく「かすみさーん! 5人目のジムリーダーからは、メガシンカの使用が許可されてるんだよー!!」
かすみ「だからそういうのは先に言ってってば!?」
曜「さぁ、行くよ! カメックス!!」
「ガーーーメッ!!!!」
曜先輩の掛け声と共に、メガカメックスの3門の砲全てがこちらを向く。
かすみ「や、やばっ!!」
曜「“ハイドロポンプ”!!」
「ガーーーメェッ!!!!!」
指示と同時に、3つの水の塊がかすみんたちに向かって猛スピードで飛んでくる。
受ける前から、直感でわかった。この攻撃は防ぎきれない。
かすみ「ジュカインッ!! “みきり”!!」
「カインッ!!!!」
背後に向かって、飛び退くジュカイン。だけど、メガカメックスの攻撃力はかすみんの予想を遥かに超えていて──
着弾と共に、爆発に近い衝撃と共に──浮島ごと吹き飛ばされた。
かすみ「っ……!!」
- 797 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:27:19.05 ID:0Ok5BWPG0
-
悲鳴をあげる暇もなく、ジュカインもろとも海に投げ出される。
視界が真っ青な海に包まれ、周囲にはかすみんたちが落ちた衝撃で、大量の泡が舞っていた。
かすみんは咄嗟に、ジュカインを探して周囲を見回す。
水の中のせいで、見えづらいけど……ジュカインは思いのほか近くにいた。
どうやら幸いなことに、同じ方向に飛ばされてきていたようだ。
少しだけホッとする。かすみんは、そのうちマンタインが助けに来てくれるけど、ジュカインは場所がわからなければ、狙い撃ちにされちゃうし……。
いや、その心配は居場所がわかったところでそんなに変わっていない。
どうする……。考えている時間はそんなにない。すぐに決断しないと──
普通のカメックスの攻撃だったら、斬り裂けたけど……メガカメックスの攻撃は“リーフブレード”じゃ、斬り裂けない。
じゃあ、どうやって攻略する……。
どうにか、策を巡らせるけど──あまりに相手のパワーが大きすぎる。
思わず水中で天を仰いでしまう。
天を仰ぐといっても……ここは海の中だから、海面が見えるだけなんだけど……。
見上げた海面からは──太陽の光が差し込んできていた。
幻想的な風景だった。
真っ青な世界の中に差し込む──太陽の、光……。
……太陽の光。
そうだ、“リーフブレード”で足りないなら、もっと強い刃を用意するしかない。
──“ソーラーブレード”。
ジュカインの切り札と言ってもいい、最終奥義。
かすみんは泳いで、ジュカインの肩に掴まる。
かすみ「──」
「──」
水の中、お互い声は出せないけど、目を見つめ合って、気持ちを交わし合う。
ジュカインはコクリと頷き、陽光の下へと泳ぎ、ソーラーエネルギーのチャージを始める。
恐らく──チャンスは1回。
斬り裂ければ勝ち。出来なければ負けだ。
チャージをしながら──ジュカインは自分の足元に“タネばくだん”をいくつか漂わせる。
“タネばくだん”によるロケットスタート──準備は万端……行きますよ……!
💧 💧 💧
しずく「かすみさん……」
メガシンカの圧倒的なパワーを前に、かすみさんたちは海に放り出されてしまった。
ただ、私たちはあくまでオーディエンス。見守るしか出来ない。
曜「やば……威力強すぎて、浮島ごと吹っ飛ばしちゃった……」
「ガメェッ!!!」
曜「ま、いいや! カメックス!」
「ガメッ!!!」
- 798 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:28:00.18 ID:0Ok5BWPG0
-
曜さんがカメックスの名を呼ぶと、カメックスは前傾姿勢になって、砲を海面に向ける。
曜「水の中でも関係ない……! 全部吹っ飛ばす!!」
さらなる追撃の姿勢を取る。
しずく「かすみさん……!」
私は思わず両手を合わせて祈ってしまう。どうにかかすみさんに逆転の一手を……!
侑「しずくちゃん、大丈夫」
しずく「侑先輩……」
侑「かすみちゃんを信じよう」
しずく「……はい」
私は息を整えてから──かすみさんに届くように、
しずく「かすみさーん!! 頑張ってー!!」
海に向かって叫んでみる。
どうか……かすみさん……!
その声に応えるかのように──急に海面が盛り上がり、ザパッと音を立てながら、ジュカインの背中にしがみついたまま、かすみさんが飛び出してきた。
しずく「かすみさん……!!」
ジュカインはその腕に、光を蓄えて……!!
👑 👑 👑
かすみ「行くよ!! ジュカインッ!!」
「ジュカイッ!!!!」
曜「飛び出してきた!! カメックス!! 照準を上空に!!」
「ガメェッ!!!!」
3門のキャノン砲に集束された、みずのエネルギーが今まさに、こちらに向かって撃ち出されようとしているところだった。
それに対抗するように、ジュカインが右腕を振り上げる。
かすみ「曜先輩!! カメックス!! 勝負です!!」
小細工なしの最後の戦い……!!
曜「“ハイドロポンプ”!!」
「ガーーーーメェッ!!!!!!!!!」
3門から同時に発射され、集束して襲い掛かる水砲。
かすみ「“ソーラーブレード”!!」
「ジュカーーインッ!!!!!」
- 799 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:28:35.28 ID:0Ok5BWPG0
-
振り下ろされる、陽光剣が──水塊にぶつかる。
みずタイプのエネルギーと太陽のエネルギーがぶつかり合う。
かすみ「いっけぇぇぇぇぇ!!!」
「カーーーイーーーンッ!!!!!!」
太陽の熱が、重く分厚い水の砲弾を、斬り裂いていく。
かすみ「ああああああっ!!!!」
「ジュカァァァァイッ!!!!!!」
大きく眩く伸びた光剣が──水塊を真っ二つに切り裂いた。
かすみ「やったっ……!!」
割れた水塊の先には──カメックス。
「ガメーーッ!!!!」
今まさに、目の前に降り立とうとするジュカインに対して──カメックスはガパッと口を開けた。
曜「カメックスは──口からも水を出せるよ」
最後の最後で、曜先輩が隠し持っていた──まさかの4門目。
今しがた使ったジュカインの“ソーラーブレード”は……強力な水塊と相殺しきって、もう輝きを失っていた。
「ガーーーメェッ!!!!!」
カメックスの口から放たれる──“ハイドロポンプ”が自由落下中のかすみんたちに向かって飛んでくる。
もう、太陽の剣は消えてしまった。
──……右腕のは……!
かすみ「“ソーラーブレード”ォ!!!!!」
「カィィィィンッ!!!!!!!」
ジュカインは左腕に宿した太陽の光を──振り下ろした。
曜「!!」
カメックスの最後の“ハイドロポンプ”を斬り裂きながら──ジュカインは中央の浮島に、ダンッ!! と音を立てながら着地した。
かすみ「はぁ……はぁ……っ……!!」
左腕の陽光剣で──カメックスを縦に一閃しながら。
フィールドが静寂に包まれる。
かすみ「……カメックスに口があるなら……ジュカインにも両腕があるんですよ……!!」
「ガ…メ…」
カメックスが目の前で、崩れ落ちた。
かすみ「ぜぇ……はぁ…………これが……かすみんたちの……実力です……!!」
「ジュカィィィンッ!!!!!」
曜「……は、はははっ!! かすみちゃん、すごい!! まさか、メガカメックスが真正面から負けるなんて、思ってなかったや!!」
- 800 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:29:10.54 ID:0Ok5BWPG0
-
曜先輩は負けたのに、心底嬉しそうに笑っていました。
かすみんはもうくたくただったし、安心で気が抜けたのもあって、中央の浮島でへたり込んでしまう。
そんなかすみんの背中に、
しずく「──かすみさんっ!」
いつの間にやら、マンタインでこっちまで来ていたしず子が抱き着いてくる。
かすみ「わとと……」
しずく「かすみさん、お疲れ様……」
かすみ「ふふん……かすみん、すごいかったでしょ?」
しずく「うん、すごかったよ……!」
侑「かすみちゃん本当に良い試合だった……! 最後の攻防、本当に……胸がときめいちゃった……」
かすみ「あはは……全く侑先輩ったら……今日何度ときめけば気が済むんですか〜……」
侑「それくらい、すごい試合だったんだもん! ね、リナちゃん!」
リナ『うん! 感動した!』 ||,,> ◡ <,,||
かすみ「それは……何よりです……」
オーディエンスも魅了出来たということで……かすみん、今日はオールオッケーって感じですね……。めちゃくちゃ疲れましたけど……。
曜「──かすみちゃん」
前方からの声に顔を上げると、曜先輩が中央の浮島まで、移動してきていた。
……というか、ずぶ濡れなんですけどこの人。……ここまで、泳いで来たみたい。
曜先輩は濡れる髪をかき上げながら、私の目の前で片膝を折って、身を屈める。
曜「私の完敗! かすみちゃんの諦めない心、立ち向かう勇気、仲間たちへの信頼、そして……その強さを認めて──この“アンカーバッジ”を贈るよ。受け取って!」
曜先輩がかすみんの手に小さなバッジを手渡してくれる。
かすみ「えへへ……♪ “アンカーバッジ”ゲットです……♪」
「ジュカィィーンッ!!!!」
こうして、激闘の末──かすみんは5つ目のジムに無事、勝利したのでした。
👑 👑 👑
──ジム戦を終えて、サニータウンに戻ってくると……。
──pipipipipipi!!! と図鑑が鳴り始める。図鑑の共鳴音です。
ということは……。
歩夢「おーい……! みんなー!」
浜辺に着くとほぼ同時に、歩夢先輩が手を振りながら駆け寄ってくるところだった。
- 801 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:29:55.06 ID:0Ok5BWPG0
-
侑「歩夢! よかった、ちゃんとたどり着けたんだね」
「ブィブィ♪」
歩夢「うん。遅くなっちゃったけど……」
かすみ「全くですよぉ……かすみんの大活躍、見逃しちゃったんですからね」
歩夢「ご、ごめんね、かすみちゃん……。でも、大活躍したってことは……!」
かすみ「はい、このとおりです!」
かすみんは歩夢先輩に今しがた貰った“アンカーバッジ”を見せつける。
歩夢「おめでとう、かすみちゃん♪」
かすみ「ありがとうございます!」
しずく「今日のかすみさん、本当に頑張ったよね♪」
かすみ「でしょでしょ! 今日のかすみんは主役だよね!」
しずく「ふふ、そうだね♪」
珍しくしず子も素直に褒めてくれて気分がいいですね♪
曜「みんな、この後はどうするの? もう日も暮れ始めてるけど……」
曜先輩がそう訊ねてくる。
確かにもうサニータウンの空は夕暮れに包まれている。
かすみ「家に着く前に日が暮れちゃいそうですね……」
しずく「それなら、今日は私の家に泊まらない?」
かすみ「え、いいの?」
しずく「もちろんだよ! 侑先輩と歩夢さんもどうでしょうか?」
歩夢「迷惑じゃないなら、行きたい!」
侑「私も!」
「イブィ♪」
リナ『全員合意、レッツゴー♪』 ||,,> ◡ <,,||
かすみ「それじゃ、ちゃちゃっと移動しちゃいましょう〜」
かすみんもうくたくたですからね……。
かすみ「曜先輩、今日は本当にありがとうございました!」
曜「こちらこそ、楽しいバトルだったよ! ジム戦とか抜きに、またバトルしたくなっちゃった!」
かすみ「えへへ、是非また今度戦いましょう! それじゃ、今日はこの辺で……」
曜「うん! みんな、気を付けて帰るんだよ!」
かすみ・しずく・侑・歩夢「「「「はーい!」」」」
4人揃って、しず子の家に向かって歩き出す。
しずく「……あ。歩夢さん。その髪飾り、どうしたんですか? 昨日はしてませんでしたよね?」
歩夢「あ、えっと……これは、侑ちゃんから貰ったの……えへへ」
侑「んっん……///」
侑先輩はわざとらしく、咳払いをして、
侑「それより、かすみちゃん! さっきのバトルの感想語ってもいいかな!」
- 802 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:30:27.55 ID:0Ok5BWPG0
-
かすみんの方に話を振ってくる。
かすみ「もう〜仕方ないですね〜! いくらでも聞いちゃいますよ〜!」
歩夢先輩に対する照れ隠しなのはバレバレですけど、かすみんを褒めてくれるならオールオッケーです!
しずく「可愛らしいお花の髪飾りですね……素敵です」
歩夢「侑ちゃんが、私のこと大切に想ってるって……そんな気持ちを込めて贈ってくれたの……えへへ」
しずく「それは、大切にしないといけませんね」
歩夢「うん♪」
侑「え、えっとぉ……/// き、今日の試合、まずヤブクロンVSタマンタの話からなんだけど……!」
照れを隠しながら、必死にかすみんの試合の感想を言う侑先輩はちょっと可愛かったです。
そんなサニータウンの夕暮れ時。かすみんたちは、楽しくおしゃべりをしながら、しず子のお家へ向かうのでした。
- 803 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/07(水) 12:31:13.81 ID:0Ok5BWPG0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【サニータウン】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.●‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.39 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.35 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.36 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.32 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.32 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:149匹 捕まえた数:8匹
主人公 しずく
手持ち ジメレオン♂ Lv.29 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
マネネ♂ Lv.22 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アオガラス♀ Lv.29 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロゼリア♂ Lv.29 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
キルリア♀ Lv.29 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:156匹 捕まえた数:9匹
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.42 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.41 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.38 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.32 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
タマゴ なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:153匹 捕まえた数:4匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.40 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.37 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.36 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
タマザラシ♀ Lv.30 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラエッテ♀ Lv.20 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:155匹 捕まえた数:16匹
かすみと しずくと 侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 804 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 01:57:03.51 ID:S2FBcmzU0
-
■Intermission👏
──コメコシティ・DiverDiva拠点
果林「……姫乃ったら、とんでもない爆弾を見つけて来たみたいね」
カリンは数日前に姫乃から預かっていたデータを見ながら、そう漏らす。
愛「ホントにね。で、どうすんの?」
果林「利用しない手はないでしょ」
愛「ま、カリンならそう言うと思ってたけどね」
アタシはカリンに向かって、小さなフラッシュメモリを投げ渡す。
果林「……これは?」
愛「直近のマッキーのスケジュール」
果林「よくこんなもの手に入れられたわね……?」
愛「あっちこっちクラッキングして、やっとこさ入手した。セキュリティが厳重で足が付かないようにやるには結構苦労したよ……」
果林「ふふ、さすが愛ね」
果林は不適に笑いながら、メモリ内のデータを閲覧し始める。
愛「ホントギリギリになっちゃうけど、明後日……マッキーはいくつかの会社と、合同でビジネス発表会の会議があるはずだし、もしかしたらワンチャンそこに──菜々って子も現れるかもしんないよ」
果林「なるほど……。ただ……秘書を確実に同席させるなら、先方にスケジュール交渉をするように仕向けた方が……。時間がないわ……今すぐ、策を考えましょう」
カリンは拠点に戻ってきたところだと言うのに、次のミッションのために作戦を練り始める。
相変わらずストイックだ。まあ、カリンのそういうところは嫌いじゃないけど。
私もなんか手伝おうかと考えていると──拠点内をふよふよと漂っていた小さなポケモンが私の傍に近寄ってきた。
「ベベノー♪」
愛「おおー、急にどうした?」
「ベベノ、ベベノ♪」
愛「愛さんにかまって欲しいのか〜? 甘えんぼさんめ〜♪」
抱きしめて、撫でてあげると、相棒は嬉しそうに鳴き声をあげる。
果林「……仕事しないなら、外行ってくれる?」
愛「あーはいはい、手伝う手伝う。また後で遊んであげるから、待っててね」
「ベベノ」
全く、このストイックさに付き合っていたら、パートナーと遊ぶ暇もないんだから。
アタシは肩を竦めながら、カリンとの作戦会議に興じるのだった。
………………
…………
……
👏
- 805 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:24:08.45 ID:S2FBcmzU0
-
■Chapter041 『最初で最後のポケモン図鑑』 【SIDE Yu】
──かすみちゃんのジム戦も無事終わり……私たちはその翌日、約束どおりツシマ研究所を訪れていた。
侑「こんにちはー!」
「ブィ」
かすみ「ヨハ子博士〜! 可愛いかすみんが来ましたよ〜♪」
「ガゥガゥ♪」
私たちが研究所に入ると──博士はモンスターボールを磨いているところだった。
善子「あら、来たわね、リトルデーモンたち」
大切そうに磨いているボールを見て──
侑「も、もしかして、そのボール……! 千歌さんのルガルガンが入ってるボールですか!?」
思わず目を輝かせて、詰め寄ってしまう。
善子「ん、あー……残念ながら、これは千歌のルガルガンのボールじゃないわ」
侑「あ……そうなんだ……」
しずく「それにしても、随分丁寧に磨かれているんですね」
かすみ「もしかして〜……めっちゃ貴重なポケモンなんじゃないですかぁ〜? それなら、見せてくださいよ〜!」
善子「……まあ、確かに貴重なポケモンだけど……貴方たちには見せられないわ」
そう言いながら、博士はボールを引き出しにしまってしまう。
その際──その引き出しの中にちらっとだけど……赤い板状のものが見えた。
あれって……?
かすみ「えー!! ヨハ子博士のケチー!!」
歩夢「か、かすみちゃん……そんなこと言ったら博士も困っちゃうよ……」
善子「まぁ……普通のポケモンだったら見せてあげてもいいんだけどね。……この子だけはちょっと特別なのよ」
侑「特別……?」
善子「……ま、そんなことはいいの。今ルガルガンを連れてくるから、ここで待ってて」
侑「! はいっ!」
リナ『侑さん、テンション爆上がり』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
「イブィ…」
──程なくして、博士が奥の部屋から、戻ってくる。
もちろん、ルガルガンと一緒に、だ。
侑「わぁ〜〜〜!!!」
ヨハネ博士の横で、毅然とした態度で歩いてくる黄昏色のルガルガンを見て、私のボルテージは最高潮に達する。
侑「ち、千歌さんのルガルガンだぁ〜!!」
「ワォン」
侑「はぁ〜〜〜♪ やっぱ何度見ても実物で見ると、迫力が全然違う……! さ、触ってもいいですか!?」
善子「ルガルガン、触りたいって言ってるけど?」
- 806 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:25:07.54 ID:S2FBcmzU0
-
ヨハネ博士がそう訊ねると、
「ワォン」
ルガルガンは私の目の前で、伏せの姿勢を取る。
善子「許可が下りたみたいね」
侑「あ、ありがとうございますっ!!」
膝を折って、ルガルガンを優しく撫でてみると、柔らかい毛並みの感触が手に伝わってくる。
侑「こ、これが、あの伝説のルガルガン……私触っちゃった……! か、感激……!」
歩夢「ふふ、侑ちゃん、よかったね」
侑「うん……!」
善子「感動してるところ悪いけど……これから、この子を連れてくんだってこと忘れてないわよね? そんなテンションじゃローズまでもたないわよ……?」
侑「だ、大丈夫です! 責任持って送り届けます!」
善子「なら、いいんだけど。ルガルガン、戻りなさい」
「ワォン──」
ヨハネ博士はルガルガンをボールに戻して──
善子「それじゃ、千歌のルガルガン……確かに渡したからね」
ボールが私に手渡される。
侑「……はい!」
ぎゅっとボールを握りしめる。千歌さんの大切なルガルガン……責任を持って送り届けなくちゃ……!
かすみ「それはそうと〜……ヨハ子博士〜」
善子「? 何かしら」
かすみ「かすみん、昨日ジム戦すっごい頑張ったんですよ〜」
善子「そういえば、曜とジム戦をしてたんだったわね」
かすみ「ホントに激闘の末の勝利だったんですよぉ〜」
善子「そう」
かすみ「……」
善子「……えっと、なに?」
かすみ「もう! せっかく、自分のところから旅立ったかすみんが頑張ったのに、労いの言葉もないんですか!」
善子「あのねぇ……私は学校の先生じゃないのよ……」
かすみ「むーー!! ヨハ子博士のケチ!! 減るもんでもないんだし、褒めてくれてもいいじゃないですか!」
善子「かすみ、貴方は応援がないと頑張れないの?」
かすみ「頑張れませんっ! かすみんは人から応援されるのがパワーの源なんですっ!」
「ガゥガゥ」
ゾロアと同調しながら、ぷりぷりと文句を言うかすみちゃん。
そんなかすみちゃんを見てヨハネ博士が溜め息を吐く。
善子「はぁ……先が思いやられるわ……」
「──こら、善子ちゃん! そんな風に言っちゃダメでしょ!」
- 807 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:26:29.88 ID:S2FBcmzU0
-
急に私たちの背後から、聞き覚えのある声が響く。
振り返ると、そこにいたのは、ちょうど昨日も会った──
侑「曜さん!」
曜「ふふ、みんな、昨日振り!」
かすみ「曜せんぱ〜い……! ヨハ子博士がいじめますぅ〜……! かすみん、いっぱい頑張ったのに、ちっとも褒めてくれなくて〜……!」
曜「うんうん、酷い博士だよね〜……」
善子「曜……何しに来たのよ。あと、ヨハネって呼びなさい」
曜「えっと、昨日のバトルで水上フィールドが壊れちゃって……ちょっと耐久の見直しが必要だと思って、家まで設計資料を取りにセキレイに戻ってきたところだったんだけど……。ちょうど、研究所の前を通りかかったら、みんなの声が聞こえたからさ」
善子「それで、わざわざ寄ったってことね……」
曜「それより、善子ちゃん! 大切な図鑑所有者たちに、そんな冷たくしたらダメでしょ!」
かすみ「そうですそうです!」
「ガゥガゥ!!」
曜「そんな風に、冷たく接してると……もう嫌だーって辞めちゃうかもしれないよ!」
かすみ「そうですそうで……え、いや、それはかすみんも困るんですけど……」
「ガゥ?」
曜さんがヨハネ博士を窘める。私はてっきり、いつもみたいに軽くあしらうんだと思っていたんだけど……。
善子「……わ、悪かったわ……ごめんなさい……」
ヨハネ博士は気まずそうに、頭を下げる。
かすみ「あ、あれ……意外と素直に謝ってきましたね……」
曜「もう……善子ちゃん、本当は自分のもとから旅立った子たちが活躍してて嬉しい癖に、なんで素直に褒めてあげられないのかな」
善子「う……/// うっさいわね……余計なお世話よ……」
曜さんの言葉に、ヨハネ博士はプイっと顔を背ける。
曜「ごめんね、みんな……。善子ちゃん、前に失敗してるのもあって、君たちとの距離感を掴み損ねてるみたいでさ……」
しずく「失敗……?」
善子「あ、ちょっと、曜……! 余計なこと……!」
曜「やっぱりまだ言ってなかったんだね……」
善子「…………」
曜「善子ちゃん、そろそろ……この子たちには話してあげてもいいんじゃない?」
侑「……?」
一体、何の話だろう……?
善子「…………」
曜「善子ちゃんが、この子たちにどういう期待をしてて、どんな気持ちで旅に送り出したのか。その願いと想い……伝えてもいいんじゃないかな」
善子「でも、そんなの……私のエゴよ」
ヨハネ博士は困ったような表情をして言うけど、
- 808 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:27:15.89 ID:S2FBcmzU0
-
しずく「あ、あの……もし、ヨハネ博士に何か特別な想いがあるのでしたら……私は、聞きたいです」
善子「しずく……」
歩夢「き、期待に応えられるかはわからないですけど……私も、ヨハネ博士が何か考えてるなら……ちゃんと知りたいです」
善子「歩夢……」
かすみ「もう、ヨハ子博士、この期に及んで何を隠すことがあるんですか! 気になることがあるなら、このかすみんに話してくださいよ〜!」
善子「かすみ……あんたはなんか腹立つわね」
かすみ「なんでですかっ!?」
ヨハネ博士が選んだ3人からの言葉。
侑「あの、ヨハネ博士……私は博士に選んでもらったトレーナーじゃないですけど……みんなヨハネ博士のこと尊敬してるし、感謝してます! もし、何か気になることがあるなら、力になりたいです……!」
善子「侑……」
ヨハネ博士は少し悩む素振りを見せる。
善子「……もう、曜が余計なこと言うからよ……」
曜「こうしてあげないと、どこかの誰かさんはいつまでも抱え込むからね」
善子「……はぁ……わかったわよ」
ヨハネ博士は観念したように、溜め息を吐きながら──先ほど磨いていたボールをしまった引き出しを開けて、中から赤い板状の物を取り出した。
侑「あ、それ……」
さっきちらっと見たのと同じ物──
侑「ポケモン……図鑑……」
善子「……そうよ」
それは、真っ赤なポケモン図鑑だった。
かすみ「え、どういうことですか? 実はさらにもう1個ポケモン図鑑があったってこと?」
善子「……ええ。どの図鑑ともペアリングされてない。たった1つだけ……残された図鑑」
かすみ「ええ? なら、なんで侑先輩にはそれじゃなくて、リナ子を渡したんですか? リナ子はたまたま知り合いに頼まれて渡された〜みたいなこと言ってませんでしたっけ?」
善子「この図鑑を渡す相手は……もう決まってるの。ずっと……ずっと前から……」
侑「それって、どういう……」
善子「今から話すのは……2年前の話。私がこの研究所を持つ前のことよ──」
ヨハネ博士はそう切り出して──過去のことを話し始めた。
- 809 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:27:59.70 ID:S2FBcmzU0
-
😈 😈 😈
──────
────
──
──2年前。
善子「やっと……やっと、手に入れた……!!」
私は現在建設中の研究所の前で、小躍りしたくなるくらい嬉しかった。
私の手元に届いたのは──真っ赤な旧式のポケモン図鑑。
旧式と言っても、それはガワだけで、中身は最新のモノだ。
本当は外身も最新型の物が欲しかったんだけど……いかんせん、博士の地位を得たばかりで……しかも、自分の研究所も建設中の私にそんなツテがあるはずはなかった。
どうにかこうにか、方々に頭を下げ、あちこちを自分の足で回り、やっとの思いで手に入れることが出来たのが、この旧式のポケモン図鑑だったというわけだ。
そして、図鑑と同時に──わざわざ遠い地方まで探しに行って手に入れた、最初のポケモン。
これで……これでやっと……!
善子「私も博士として……新人トレーナーを送り出せるのね……!」
私の研究のテーマは人とポケモンとの関わり合いの文化だ。
もちろん、自分の足で、目で、それを調べることは重要だし、自分自身で出来ることはたくさんあるけど……。
それ以上に、ポケモンと共に旅に出て、共に成長していくトレーナーから得られる情報が必要だと考えていた。
それに、何より……過去に古巣の師が私たちを送り出してくれたように、博士として、新しいトレーナーを送り出せる人間になりたかった。
マリーには口が裂けても言えないけど……私にとって、あの人は憧れだ。
ケンカしてばっかりだけど、いつかマリーみたいな研究者になって、追い付くんだって、そう思っていた。
これはその第一歩なんだ……!
善子「早速トレーナーを……! 旅立ちを待ってるトレーナーを探さないと……!!」
😈 😈 😈
善子「…………」
曜「善子ちゃん、元気出しなよ」
項垂れる私に、カフェの向かいの席から、曜が言葉を掛けてくる。
善子「だって……全然……見つからないし……」
曜「まあ、鞠莉さんも新人トレーナー探しには苦戦してたもんね……」
善子「でも、ここセキレイよ!? ウラノホシとは違うのよ!?」
曜「そんなこと私に言われても……」
セキレイになら、明日にでも旅に出たくてうずうずしている子供がわんさかいると思っていたのに……まさかのマッチする子が誰も見つからない状態だった。
- 810 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:29:34.81 ID:S2FBcmzU0
-
善子「やっぱり私……不幸な堕天使なのね……」
曜「うーん……図鑑と最初のポケモンが1組しかないからかなぁ……」
善子「たぶんね……」
図鑑を貰って旅に出るとき、ポケモン図鑑と最初のポケモンは3組あるのが普通だ。
でも、私の手元にあるのは1組のみ……。
善子「やっぱり、最初のポケモンを選べないってのが、よくないのかしら……」
曜「まあ、一番最初の楽しみみたいなところあるもんね……」
善子「そうよね……」
今から、あと2組手に入れる……? いや、それこそ無理よ……。1組揃えるだけで、どれだけ大変だったか……。
曜「鞠莉さんに相談してみたら?」
善子「それは絶対嫌」
曜「はぁ……意地張らずにお願いすればいいのに……」
善子「絶対嫌よ……」
半ば強引に飛び出してきて独立したのに、なんやかんやあって、研究所を建てる際にも……頼んでもいないのにマリーが半ば強引に話を付けて研究所設立のお金を貸してくれたりして……。
そのお陰でどうにか自分の研究所を建てることが出来たようなものだったし……。
結局、私はあの人の世話になってばかりなのだ。
マリーは面倒見がいいし、お願いすれば、最初のポケモンどころか、ポケモン図鑑も工面してくれるかもしれない。
だけど……それじゃ、いつまで経っても私はマリーの腰巾着。あの人の隣になんていつまで経っても立つことが出来ない。
曜「なら……めげずに探し続けるしかないんじゃないかな」
善子「……わかってるわよ……」
机に突っ伏したまま、窓の外をちらりと見ると──まるで今のヨハネの気持ちを表したかのような、曇天に包まれていた……。
これは一雨来そうね……。
😈 😈 😈
善子「──あーもうっ!! やっぱり降られた……!!」
ずぶ濡れになりながら、マンションの自室に駆け込む。
玄関でびしょ濡れになった靴を脱いでいると、
「ムマァ〜ジ♪」
ムウマージがタオルを持ってきてくれる。
善子「ありがとう、ムウマージ……」
- 811 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:30:21.63 ID:S2FBcmzU0
-
タオルを受け取り、雨で濡れた身体を拭きながら、家に入る。
……お風呂沸かさないとね。
部屋に入ると、既にドンカラスがくちばしで器用にお風呂の給湯器を操作しているところだった。
自分の手持ちでありながら、賢い子が多くて助かる……。
善子「みんな、ただいま」
「カァ」「ゲコガ」「ヒュラ」「シャンディ」「ゲルル…」
ドンカラス、ゲッコウガ、ユキメノコ、シャンデラ、ブルンゲル……アブソルだけ返事がないけど……。
少し探すと、アブソルは部屋の隅の方で丸くなっていた。少し窮屈そうだ。
研究所が完成すれば、この子たちにも窮屈な思いをさせずに済むかもしれない。
もう少しの辛抱だ。
善子「とにかく今は……トレーナー探し……!」
お風呂が沸くまでの間に、パソコンを立ち上げる。
まだ研究所が建設中とはいえ、研究者の端くれ。
情報収集やメールチェックもしなくてはいけないのだ。
……知り合いがまだ少ないから、ほとんどはマリーから一方的にメールが送られてくるくらいだけど……。
──メーラーを開いて、カリカリとスクロールしながら、目を通す。
善子「スパム……多い……」
嘆息気味に目を滑らせながらスクロールしていくと──
善子「……え?」
一通のメールが目に留まった。
そこには──『新人トレーナー募集のお話について』と銘打ったメール。
開くと、そこには、こんな内容が書いてあった。
『初めまして。突然のご連絡、失礼いたします。この度、ツシマ研究所にて新人トレーナーを探されているとお伺いしました。もしよろしければ、詳しくお話を聞かせてもらえないでしょうか?』
善子「……来た」
「ムマァ〜ジ?」
善子「来た……!! 来たわ!! 新人トレーナーから連絡!!」
私はびしょ濡れで早くお風呂に入りたかったことなんてすっかり忘れて、メールに即行で返事をする。
メールに対するお礼と、こちらの詳細な連絡先、連絡可能時間、出来ればポケギアでいいので、一度直接話したい旨を送信する。
その際、送り主の名前を再度確認する。
善子「──ナカガワ・菜々……」
この子が、私が図鑑と最初のポケモンを託すことになる……最初のトレーナーなんだ……。
善子「くぅぅ……やった……やったわ……!」
思わず、拳を握りしめてしまう。それくらい嬉しかった。
まだ見ぬ、ナカガワ・菜々という少女と早く連絡が取りたい、そう思っていると──ピコンとメールの受信音。
- 812 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:31:21.33 ID:S2FBcmzU0
-
善子「嘘!? もう返事来た!?」
まさにそのナカガワ・菜々さんから返事だった。
今すぐにでも、話したいという旨と彼女の連絡先が書かれていた。
私はポケギアを引っ張り出し、すぐにその番号をプッシュした。
通話先の主は──ワンコールも掛からずに、電話に応じてくれた。
『……も、もしもし……』
ギアの向こうから、緊張気味な少女の声が聞こえてきた。
善子「ナカガワ・菜々さんね……?」
菜々『は、はい……ツシマ・善子博士ですか……?』
咄嗟に善子じゃなくてヨハネと言いそうになったけど、今はそれよりも大事な用件だから、言葉を呑み込む。
善子「ええ……! そのとおりよ、私がツシマ・善子よ」
菜々『よかった……ちゃんと繋がって……』
善子「それで……新人トレーナー募集の話なんだけど……」
菜々『は、はい……私、ポケモンと旅……ずっとしてみたくて……偶然、博士が新人トレーナーを探してるって話を聞いて……連絡してみたんです……』
善子「そうだったのね……」
ああ、私のやってきたことは無駄じゃなかった。
思わず涙ぐみそうになる。
菜々『あ、あの……もしかして……もう旅立ちの子、決まっちゃってたりとか……』
善子「ええ、決まってるわ」
菜々『え、あ……そんな……』
善子「貴方よ」
菜々『……え?』
善子「菜々。……貴方が、私のもとから旅立つことになる新人トレーナーよ……!」
菜々『……! はい!』
これが、私と菜々のファーストコンタクトだった。
- 813 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:32:18.16 ID:S2FBcmzU0
-
😈 😈 😈
私は菜々と何度かやり取りをして、彼女のプロフィールを教えてもらった。
ナカガワ・菜々。
歳は15歳。
住んでいるのはローズシティ。
そして、驚くことにローズの名門スクールに通っている子だった。
そのスクールは今どき珍しい座学メインで、ポケモンの授業がほとんどない学校。
ほとんどの生徒がそのままローズの大企業に就職すると聞く。
そんな学校に通うだけあって、今までポケモンに触れた経験はなし。
ただ、本人はポケモンにすごく興味があり、どうしても旅に出てみたくて、いろいろ調べているうちに、偶然私が新人トレーナーを探しているということにたどり着いたらしかった。
これから初めてポケモンと関わって、一緒に過ごして、繋がりを作っていこうとしている少女……。まさに私が探している人物像そのものだった。
運命すら感じた。
善子「──菜々は、どんなポケモントレーナーになりたい?」
菜々『すっごく強いポケモントレーナーになりたいです……! 誰にも負けない、ポケモントレーナー! 私……そんなトレーナーになれますか……?』
善子「ええ、きっとなれるわ。そういう風に言ってて、本当に強くなった友達がいるの」
菜々『本当ですか……!』
菜々との打ち合わせは順調に進んでいった。
──そして、彼女の旅立ちまであと1週間と迫ったある日のことだった。
ポケギアが鳴り響き、画面を確認すると、いつものように、菜々の番号からだった。
善子「もしもし、菜々?」
菜々『……ヨハネ……博士……っ……』
善子「……菜々?」
通話越しでも、すぐに理解できた。
菜々の声が、震えていた。
善子「どうしたの、菜々!? 何かあったの!?」
菜々『ご、ごめん……なさい……。あ、あの……お、親に……代わり、ます……』
善子「え……?」
親……?
菜々父『──初めまして、ツシマ博士でしょうか』
ポケギアの向こうから聞こえてきたのは、男性の声だった。
つまり、菜々の父親だろう。
真面目そうで、堅い……威圧感のある声。
- 814 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:33:14.34 ID:S2FBcmzU0
-
善子「は、はい……間違いありません」
菜々父『この度は、娘がご迷惑をおかけして申し訳ございません』
善子「はい……? い、いえ、ご迷惑だなんて……」
菜々父『いえ、ギリギリになって、旅立ちのお断りの連絡を入れることになってしまって、申し訳ない……』
善子「……は?」
今、なんて言った……?
旅立ちを断る……?
善子「え、ち、ちょっと待ってください、どういうことですか……!?」
菜々父『今回、娘が勝手に博士に連絡を入れて、旅立ちの約束をしてしまったと伺いまして』
善子「……な……」
完全に予想外だった。
菜々は15歳という年齢でありながら受け答えもしっかりしていて、よく出来た子だったから、てっきり保護者とも話がついているんだと思い込んでいた。
菜々父『直前の連絡になってしまったことは、私たちの監督不行き届きに他なりません。本当に申し訳ない』
善子「ち、ちょっと待ってください……!」
菜々父『なんでしょうか』
善子「菜々は……菜々さんはなんと言ってるんですか……!?」
確かに親の了解を取っていなかったのはまずい。とはいえ、話が一方的すぎる。
私はずっと菜々がどれだけ旅を楽しみにしていたのか知っている。期待を、希望を、夢を、全て聞いてきた。
それなのに、二の句を継がせずに、旅に出させないという話になっているのは、あまりに急すぎる。
だけど、菜々の父親は、
菜々父『娘の意見は関係ありません』
その一言で切り捨てた。
善子「な……」
菜々父『我が家の教育方針では、ポケモンとは関わる必要はないと考えています』
善子「ポケモンと関わる必要がないって……」
菜々父『菜々はスクールでも主席。私たちもこの子の未来には期待しています。学校を卒業して、ローズの企業に就職すれば、ポケモンと関わらなくてもそこまで問題はないはずです』
善子「…………それは」
確かにローズシティにはそういう人が少なくない。
人口も多く、他の街に比べると、街中にいるポケモンは少ない方で、このオトノキ地方でも、一生涯ポケモンを持たずに暮らす人間が最も多いと言われている。
安全管理が徹底しているから、野生のポケモンに至ってはほぼゼロと言って差し支えないほどに少ないのがローズシティという街なのだ。
ポケモンを排除しようとしているのではない。人が多いからこそ、ポケモンとの住み分けをしっかりし、お互いの領域を守る。そういう理念で動いている街。
菜々父『それなのに、わざわざポケモンと旅に出るなんて、危険な真似をさせたがる親がいますか?』
善子「…………」
言葉に詰まる。
だけど、ダメだ。ここで何も言い返さなかったら──菜々の夢がここで終わってしまう。
善子「で、ですが……ローズもポケモンの力を全く借りていないわけじゃないはずです」
- 815 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:34:21.23 ID:S2FBcmzU0
-
当たり前だが、この世界でポケモンと全く無関係に生きるというのは不可能なはずだ。
程度の問題であって、ゼロではない。
善子「ポケモンのことを実際に自分の目で見て、知ることは教育の上でも重要だと私は考えていて──」
菜々父『それは貴方の考えでしょう』
ぴしゃりと返される。
……怯むな。
善子「ローズシティと言えば、この地方のモンスターボール生産の98%を占めていますよね? モンスターボール事業に関わることになれば、ポケモンの知識が重要に──」
菜々父『逆にお聞きします。この地方でポケモンによって起こる事件・事故の発生件数がどれほどのものか……博士ならご存じですよね?』
善子「それ……は……」
菜々父『並びにローズではそのような事件・事故がどれだけ少ないかも』
善子「…………」
ポケモンが街中にほとんどいないというのは裏を返せば、ポケモンによる事件や事故は格段に少ない。
そりゃそうだ。居ないのだから、起こるはずがない。
菜々父『その上でお訊ねします。娘を危険な目に遭わせたくない。だから、ポケモンと距離を置かせる。そう考える私の考えはおかしいでしょうか?』
──極端だ。そう思った。
だけど、親が子を守るための方便として、これ以上のものはなかった。
善子「……仰る通りだと思います」
菜々父『わかっていただけたなら、幸いです』
善子「いえ……」
菜々父『この度は本当に、申し訳ございませんでした』
善子「いえ……こちらこそ、確認不足でいらぬご心配をお掛けしてしまい、申し訳ございませんでした……」
菜々父『とんでもないです』
思わず、下唇を噛む。
私は、こんなことが言いたいんじゃないのに。
善子「……あの」
菜々父『なんでしょうか』
善子「最後に……菜々さんとお話させてもらえませんか……」
菜々父『わかりました』
菜々のお父さんの了承の言葉のあと、
菜々『ヨハネ……博士……っ……』
菜々の声が聞こえてきた。震える、菜々の声。
善子「菜々……」
菜々『ご迷惑おかけして……申し訳……ございません……。……私には、まだ……ポケモンは……早かった……みたい、です……』
善子「……っ……!!」
- 816 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:35:07.92 ID:S2FBcmzU0
-
──頭がカッとなる感覚がした。
もちろん菜々への怒りではない。菜々の親への怒りだ。
こんな──どう考えても言わされているような言葉。
私は菜々の想いを散々聞いてきたからわかる。こんなの菜々の本心じゃない。
菜々『最初のポケモンと図鑑は……他の子にあげてください……。きっと……私が貰うより……幸せだから……』
善子「菜々……っ……私は……っ」
菜々『いっぱいお話聞いてくれて……ありがとう、ございました……』
──ツーツーツー。その言葉を最後に、通話は切れてしまった。
善子「…………何よ、これ……」
私は思わず椅子にもたれかかって、天井を仰いだ。
😈 😈 😈
その日の深夜のことだった。
どうしても眠る気分になんてなれずに、ボーっと椅子に腰かけていると──prrrrrとポケギアが鳴った。
善子「…………深夜2時よ、何考えて──」
ぼやきながらギアの画面を見て、目を見開いた。
急いで通話に応じる。
善子「菜々……!?」
菜々『……よは、ね……はか……せ……っ……。……わた……し……っ……たびに……でたい、です……っ……』
菜々は通話の向こうで泣いていた。
悲痛な声で、親の前では言うことを許されなかった気持ちを、吐露しながら。
善子「菜々……っ……いいわ、私が許可する……!! 私の所に来たら、旅に送り出してあげるから……!!」
菜々『……たくさん……ポケモンと……っ……なかよく、なって……っ……つよい……とれー、なーに……なり、たい……です……っ……』
善子「なれるわ……っ!! 菜々なら、絶対……っ!!」
菜々『ほん、と……ですか……?』
善子「ええ!! 私が保証する!!」
菜々『でも……お父さんも、お母さんも……ゆるして、くれない……から……っ……』
善子「説得しましょう……!! いえ、ヨハネが説得してあげるわ……!! 旅が危ないって言うなら、ヨハネが貴方の旅に付いていってもいい……!! だから……!!」
菜々『………………ぐすっ……。…………ありがとう、ございます……っ……。……はかせ……っ……わたし……もうちょっとだけ……がんばります……っ……』
善子「菜々……?」
菜々『……当日……待っててください……絶対、ツシマ研究所に……行きます……から……』
善子「……ええ、待ってるわ。……菜々のこと、待ってるから……!」
菜々『……はいっ』
- 817 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:35:44.29 ID:S2FBcmzU0
-
──だけど、当日……菜々が姿を現すことはなかった。
そして、この通話が、菜々との最後の会話になった。
これ以降はメールも返事がなくなり、ポケギアも通じなくなってしまった。
そして、その数ヶ月後──
善子「……手紙……?」
研究所のポストに入った一通の手紙。宛先は書いていなかった。
封筒を開けると、中から一枚の便箋が出てくる。
──『ごめんなさい』──
とても綺麗な文字で、たった6つの文字だけが書いてある手紙だった。
その綺麗な文字を見るだけで、育ちの良さが伺える。そんな筆跡だった。
それが逆に、菜々の痛みを体現しているかのようで、私は胸が締め付けられるような気持ちになるのだった──
──
────
──────
🎹 🎹 🎹
善子「──何度か、菜々の家を直接訪ねようと思ったこともなかったわけじゃないんだけど……。……これ以上、私が口を挟むと、余計に菜々を傷つけるんじゃないかと思って……出来なかったわ」
侑「……じゃあ、その図鑑と、モンスターボールは……」
善子「……ええ。菜々に渡すはずだったものよ」
博士はそう言いながら、ポケモン図鑑を大切そうに引き出しに戻す。
善子「これは……菜々以外が持っちゃいけない……」
侑「……」
それは重さを感じる言葉だった。
善子「そこから2年……ようやく、3組の図鑑と最初のポケモンを揃えることが出来た」
歩夢「それによって、旅立つことになったのが……」
しずく「私たち……なんですね」
善子「……そうよ」
少し、研究所の中が静かになる。
善子「……ごめんなさい。やっぱり、こんな重い話、聞きたくなかったわよね……」
ヨハネ博士は申し訳なさそうに言う。
が──
かすみ「そんなわけないじゃないですかっ!!」
かすみちゃんが、真っ先に声をあげた。
- 818 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:36:24.22 ID:S2FBcmzU0
-
善子「か、かすみ……?」
かすみ「むしろ、なんでそんな大事なこと、今の今まで黙ってたんですかっ!!」
善子「え、えっと……」
しずく「そのとおりです、ヨハネ博士」
善子「しずくまで……」
しずく「もちろん私たちは、その菜々さんにはなれません……ですが、意志を受け継ぐことくらい出来ます」
かすみ「菜々先輩の分まで、かすみんたちが立派なトレーナーになってやりますよっ!! 当り前じゃないですかっ!!」
善子「貴方たち……」
力強く、自分たちの意志を示す、かすみちゃんとしずくちゃん。
歩夢「……博士」
善子「歩夢……?」
歩夢「私……実はずっと、どうして自分が選ばれたのかわからなくて、悩んでました。だけど……この旅で、侑ちゃんと一緒にいろんな場所を巡って、いろんな人と会って、戦って、ポケモンたちと友達になって──ちょっとずつだけど、自分が旅で出た意味がわかってきた気がするんです」
善子「……」
歩夢「それに、今の話を聞いて……もっともっと、博士が選んでくれたことを誇りに思おうって、今はそう思ってます。もしどこかで……私たちの先輩──菜々さんに会ったときに恥ずかしくない私になれるように……」
善子「貴方たち……っ……」
ヨハネ博士は目頭を押さえて、顔を背ける。
曜「……ふふ。ちゃんと言ってよかったでしょ?」
曜さんがそう言いながら、博士の背中をポンと叩く。
曜「善子ちゃんが選んだこの子たちは、確実に信用出来る強さを持った、立派なトレーナーに成長していってるよ」
善子「うっさいバカ……当たり前じゃない……っ……。この子たちは、私が選んだリトルデーモンなんだから……っ」
曜「あはは、ホント素直じゃないんだから」
やれやれと言った感じで、曜さんが優しく笑う。
侑「ヨハネ博士」
善子「……侑」
侑「私は歩夢のお陰で偶然図鑑を貰っただけかもしれません……だけど、私も今の話を聞いて、博士の力になりたいって思いました。私も博士から図鑑を貰った人間として、この研究所から旅立ったトレーナーとして、一人の図鑑所有者として恥ずかしくないトレーナーを目指します!」
リナ『私、侑さんと一緒に頑張る! リナちゃんボード「ファイト、おー!」』 || > ◡ < ||
善子「侑もリナも……ありがとう。そう言ってくれて嬉しいわ」
ヨハネ博士は涙を拭いながら、お礼の言葉を返してくれる。
かすみ「そうとなったら、もたもたしてられませんね!! かすみん、菜々先輩の代わりに最強のトレーナーになっちゃいますよ!!」
しずく「目指すはローズシティだね!」
侑「残るジムは、あと3つ……!」
歩夢「セキレイから北の、オトノキ地方の残り半分……どんなポケモンに会えるかな?」
リナ『きっと、みんなとなら、素敵な冒険が待ってる!』 || > ◡ < ||
私たちは、決意を新たに──ローズシティに向かって旅立ちます……!!
- 819 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:37:09.00 ID:S2FBcmzU0
-
😈 😈 😈
善子「……あの子たち、行っちゃったわね」
曜「よかったね、善子ちゃん」
善子「……ヨハネだってば。……それにしても……子供たちの成長は、早いわね」
曜「そうだね。旅立った頃からは比べ物にならないくらい逞しくなってたね。……鞠莉さんも案外こういう気持ちだったのかもね」
善子「そうね。当時のヨハネの成長は目を見張るものがあっただろうし」
曜「ふふ♪ ルビィちゃんも、花丸ちゃんも、梨子ちゃんも、千歌ちゃんも──私も。みんな旅の中でいろんな経験したもんね」
善子「……ええ」
なんだか、自分たちが旅をしていた頃が、遠い昔のように感じる。
善子「……菜々。貴方の意志は貴方の後輩たちが受け継いでくれるって……」
私はそう独り言ちた。
今、彼女がどうしているかはわからない。
でも、きっと……あの子の想いは無駄になんてならない。ちゃんと、繋がったから。
今は少しだけ、そう思えて……心が救われたような気分だった。
- 820 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/08(木) 10:37:48.31 ID:S2FBcmzU0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【セキレイシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.44 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.44 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.41 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.36 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
タマゴ なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
ルガルガン♂ Lv.83 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:153匹 捕まえた数:5匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.41 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.38 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.36 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
タマザラシ♀ Lv.31 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラエッテ♀ Lv.24 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:155匹 捕まえた数:16匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.40 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.37 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.37 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.33 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.34 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:149匹 捕まえた数:8匹
主人公 しずく
手持ち ジメレオン♂ Lv.30 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
マネネ♂ Lv.23 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アオガラス♀ Lv.30 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロゼリア♂ Lv.30 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
キルリア♀ Lv.29 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:156匹 捕まえた数:9匹
侑と 歩夢と かすみと しずくは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 821 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2022/12/08(木) 18:34:12.95 ID:Vi/9troWO
- 『続・マジ強パーティー出来たから見てくれ。』
SVレート(シングル)/ハイボ〜マスボ級:Round.4
(19:00〜放送開始)
https://youtube.com/watch?v=vTP4Azqbcww
- 822 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 03:08:03.99 ID:9oar5n900
-
■Intermission😈
曜「そういえばさ、善子ちゃん」
善子「ヨハネだって言ってんでしょ。ってかあんた、いつまでいるのよ」
曜「千歌ちゃんのルガルガンから、何のデータ取ってたの?」
善子「聞きなさいよ!!」
全く、このヨーソローは本当に昔から私の話を聞かないのよね……。
善子「えっと……千歌のルガルガンって特殊個体でしょ?」
曜「うん。なんかこの地方にはあんまりいないんだっけ……?」
善子「今確認されてるのは進化見込みのイワンコを含めて9匹だけね」
曜「少ないって聞いてたけど、そんなに少ないんだ……」
善子「しかも、3年前に突然生まれたのよね……」
一応原因は──地方の危機を察知したルガルガンたちが、生存本能から特殊な変異個体を生んだんじゃないか……なんて言われてるけど、実際のところはまだ調査中だ。
ルガルガンたちの縄張りで問題が起こってしまったため、特殊なイワンコたちは派遣された調査団によって保護され……グレイブ団事変解決後にはパタリと生まれなくなったらしい。
曜「じゃあ、それの真相究明みたいな?」
善子「それもあるけど……私の研究テーマ、覚えてる?」
曜「えーっと……人とポケモンの関わりの文化……だっけ?」
善子「そう。……ポケモンの中には、いろんな姿を持ってる種類がいるでしょ?」
曜「オドリドリとか、ポワルンとか……それこそ、ルガルガンもだよね」
善子「ええ。オドリドリのように、アイテムによって姿を変えるポケモン。天候によって姿を変えるポワルンやチェリム。ルガルガンのように、進化の際に別の見た目になるものもいる」
曜「確か……カラナクシなんかは、地方によっては違う姿があるんだよね」
善子「水色の個体ね。この地方にはピンク色の個体しかいないからね。ガラルやシンオウで見られる姿らしいわ」
曜「そうなんだ」
善子「あとは♂♀で姿が違うポケモンもいるわ」
曜「ニャオニクスとかイエッサンとか?」
善子「それもそうだけど……もっと明確に違うのは、ニドランやバルビート、イルミーゼね」
曜「え、あれって姿の違いなの?」
善子「ポケモン図鑑だと一応別種って扱いになってるけど、生物学的にはほぼ同じ種類って考えられてるのよ」
実際、イルミーゼのタマゴやニドラン♀のタマゴからは、バルビートやニドラン♂が生まれるしね。
- 823 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 03:08:42.21 ID:9oar5n900
-
善子「それと──メガシンカも」
曜「メガシンカもなの?」
善子「当然よ。そして、メガシンカはトレーナーとのキズナの力によって姿を変えるわけだけど……」
曜「うん」
善子「極稀に……メガシンカとは違う方法で、姿を変えるポケモンがいるらしいの」
曜「メガシンカと違う……? “キーストーン”と“メガストーン”を使わないってこと?」
善子「ええ。……“キーストーン”や“メガストーン”を介さずに、ポケモンとの強いキズナで同調して、力を引き出すポケモンがいるらしいのよ」
曜「……なんかずいぶんふわふわしてるね?」
善子「何分資料がほとんどないからね……。数百年に一度確認されることがあるとかないとか……“キズナ現象”って呼ばれてるってことだけはわかってるんだけど」
曜「つまり、善子ちゃんは今……その“キズナ現象”って言うのについて研究してるんだ」
善子「そういうこと。ただ、あまりに情報が少なすぎてね……もしかしたら、特殊な姿をしている個体なら何か関係があるかもって思って、千歌のルガルガンを調べさせてもらってたってわけよ」
曜「なるほどね。それで、何かわかったの?」
善子「……正直収穫としては微妙ね。まあ、これでわかったら最初から苦労してないしね」
研究とは得てして地道なものだ。これくらいのことでへこたれている場合じゃない。
善子「でも……“キズナ現象”は人とポケモンの関わり合いの文化の中では、重要なファクターになってくるはずよ……」
それこそ、人とポケモンが関わり合いの中で、新たな力に目覚めるなんて、まさに私の研究したいことそのものなのだ。
もしその謎の解明が出来れば……人とポケモンはさらに一歩先に進めるんじゃないか。そんな気がする。
真剣な顔をしながら、次のことを思案していると、
曜「ふふ、善子ちゃん、すっかり研究者さんなんだね」
曜は笑いながら言う。
善子「前から研究者よ。あとヨハネだって言ってるでしょ」
曜「ごめんごめん。“キズナ現象”、解明出来るといいね」
善子「任せなさい。ヨハネが絶対解明してみせるんだから……!」
………………
…………
……
😈
- 824 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:30:29.69 ID:9oar5n900
-
■Chapter042 『菜々──せつ菜』 【SIDE Setsuna】
──カーテンクリフで修行していた私は、急な仕事が入ったため、一旦ローズシティへと帰ってきていた。
どうやら、直近の会議の中でスケジュールそのものを調整しなくてはいけないらしく、それなら秘書である私も同席せざるを得ない。
会議は明日の朝一からあるため、前日のうちにローズへ戻ってきたというわけだ。
せつ菜「三つ編み……大丈夫。髪留めも……よし。ちゃんと外してる」
手鏡で自分の姿を確認。
あとは……ポケモンたち。
せつ菜「みんな、窮屈かもしれないけど……少しの間、我慢してくださいね」
ボールをベルトごと外して、カバンに入れる。
最後に、上着のポケットから眼鏡を取り出して──
ユウキ・せつ菜は……ナカガワ・菜々になる。
菜々「……ふぅ」
小さく息を整えてから、私は──久しぶりに帰ることになった自宅を目指して、歩き始めた。
🎙 🎙 🎙
菜々「……ただいま」
菜々母「あら、菜々。おかえり」
帰宅して、自宅のリビングへ赴くと、母親が紅茶を飲みながら映画鑑賞をしているところだった。
ただ、ポケウッドでやっているような溌剌なものではなく、いかにも貴婦人が好みそうな洋画であることが、今ワンシーンをちらりと見ただけでもよくわかった。
なんというか……いつものお母さんの昼下がりだ。
菜々「……お父さんは?」
菜々母「お仕事よ。平日だもの。今日は遅くなるみたいで、帰ってくるのは深夜になるって言ってたわ」
菜々「……そっか」
今日帰ることは予め連絡していたんだけどな……。
久しぶりに娘が帰ってきたというのに、仕事熱心なようで何よりだ。
菜々母「それより菜々こそ、お仕事の方はどう? 順調?」
菜々「うん。真姫さんも優しいし……仕事もやりがいがあって楽しいよ」
菜々母「なら、安心だわ。あの真姫お嬢様の秘書になるって聞いたときは驚いたけど……誰もが出来る仕事じゃないものね。お母さんも誇らしいわ」
そう言いながら、ニコっと笑うお母さん。
菜々母「今日は菜々の好きな物、作ってあげるわ♪」
菜々「うん、ありがとう。楽しみにしてるね」
- 825 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:31:18.25 ID:9oar5n900
-
私は簡潔に返事をして、踵を返す。
菜々「ちょっと疲れてるから……部屋で休むね」
菜々母「そう? それじゃあ、夜ごはんになったら、部屋まで呼びに行くわね」
菜々「うん」
🎙 🎙 🎙
普段は真姫さんの手配してくれた社員寮で寝泊まりしている──ということになっている──ため、家に帰ってくること自体が随分久しぶりだ。
──そんな久しぶりの自室。
一息吐くために、荷物を置いて、使い慣れた机に向かって腰を下ろす。
久しぶりに帰ってきたというに妙にしっくりくるのは、何度もこの机で勉強をしてきたからだろう。
回転椅子の上で振り返り、久しぶりの自室を見回すと──本棚にはたくさんの参考書たち……そして、賞状やトロフィーが飾られている。
読書感想文や、スクールで主席に送られるもの。陸上で表彰されたときのものや……文武問わずいろいろなモノがある。
これも全て、幼い頃から両親の期待に必死に応え続けてきた結果……。
だけど──そこにポケモンに関わるモノは一つものなかった。
菜々「…………」
まるで私──ナカガワ・菜々という人間の歴史全てを物語っているような部屋だと思った。
幼い頃から、ナカガワ・菜々の生活の中には、驚くくらいにポケモンが存在していなかった。
スクールに入るまで、実際にポケモンを目にしたことがなかったし、そういうものがいる、くらいの認識しかしていなかったと言えば、その異常さがわかるかもしれない。
ほぼフィクションの存在。私にとっては全てのポケモンが伝説の存在のようなものだった。
ただ……この世界でそんなことが可能なのか? 今では、そう思う。
この世界では……至る所にポケモンが居る。それはもう、数えきれないくらいに。
そんな重度の箱入り娘を作り上げたのは、他でもない──両親の影響だったというのは言うまでもないだろう。
両親は父母二人揃って、ポケモンが苦手だと聞く。……特に父親は相当なポケモン嫌いらしく、母親が話題に出すことを忌避するくらいだ。
どうやら、父は小さい頃にポケモンに襲われたことがあるらしく……それ以来、ポケモンを毛嫌いしている節があるそうだ。
そんな家で育ったが故に……私は、酷くポケモンと遠ざけられて育ってしまった。
お陰で我が家ではポケモンの話をしたことは、一度もなかった。
そんな私がポケモンに興味を持ったのは──忘れもしない……3年前。
世に言うグレイブ団事変と言われる大事件でのこと。
街中にゴーストポケモンが大量発生し、ポケモンに耐性のない人が多いこのローズシティは大パニックに陥った。
それは私たちも例外ではなく……民家であろうが、お構いなしに壁をすり抜け侵入してくるゴーストポケモンから逃げる母親に手を引かれて、逃げ惑うことになった。
- 826 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:31:57.22 ID:9oar5n900
-
──────
────
──
菜々「はぁ……はぁ……」
菜々母「菜々、頑張って走って……!!」
息が切れて、苦しかった。
もう何時間逃げ回っているんだろうか。
もういい加減休みたかった。
ただ──ゴーストポケモンは人の命を奪うらしい。
それが恐ろしくて、怖くて、ただ逃げていた。
ただ、ずっと走り続けていれば、体力に限界は来るもので、
菜々「……あっ!」
菜々母「菜々……!?」
私は足をもつれさせて、転んでしまった。
菜々「……っ……」
菜々母「菜々、大丈夫……!?」
菜々「う、うん……。……っ゛……!」
立ち上がろうとすると、足に痛みが走った。
足をくじいてしまったらしい。
どうにか立ち上がろうとしていた、矢先、
菜々母「きゃぁぁぁっ!!」
お母さんが私の背後を見て、悲鳴をあげた。
恐る恐る振り返ると──
「サマヨーー…」
一つ目のゴーストポケモンが私の背後に立っていた。
菜々「……ヒッ!」
私は転んだまま、強引に足を引きずって、どうにか距離を取ろうとするけど、
「サマヨーー」
ゴーストポケモンは一歩一歩にじり寄ってくる。
怖くて怖くて仕方なかった。
「サマヨーー」
そのゴーストポケモンは、大きな手を私に伸ばしてくる。
もうダメだと思った。
そのとき──
- 827 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:32:51.83 ID:9oar5n900
-
「──“バレットパンチ”!!」
「ハッサムッ!!!!」
「サマヨォッ!!!!?」
弾丸のような速度で、真っ赤なポケモンが、ゴーストポケモンを殴り飛ばしていた。
そして、それと同時に、一人の女性が駆け寄ってくる。
女性「大丈夫!?」
菜々「は……はい……っ」
菜々母「あ、ありがとうございます……!!」
気付けば周囲では、その女性以外にも、駆け付けた“ポケモントレーナー”と呼ばれる人たちが、ゴーストポケモンたちと応戦を始めていた。
女性「ポケモンは私たちがどうにかするから、早く行きなさい!」
菜々母「は、はい……! 菜々、立てる?」
菜々「う、うん……」
お母さんに肩を貸してもらって、私は足を引きずりながら歩き出す。
菜々母「お父さんの会社まで行けば、きっと安全だから……! 頑張って……!」
菜々「う、うん……」
ローズの大きな会社は災害時にも機能を失わないために、非常に頑丈なつくりをしている。
父の会社も例外ではなく、しかもゴーストポケモンが侵入出来ないように、特殊な磁場で防ぐ機構もあるそうだ。
そこを目指して、再び進み始める。
菜々母「きっと、大丈夫だからね、菜々……!」
菜々「うん……」
私は逃げながら──ふと、今助けてくれた人の方を振り返る。
女性「“バレットパンチ”!!」
「ハッサムッ!!!!」
「ゴスゴスッ!!!?」
女性は今も懸命にゴーストポケモンたちを撃退し続けている。
いや、その人だけじゃない……。
男性トレーナー「キリキザン! “メタルクロー”!!」
「キザンッ!!!」
女性トレーナー「クチート! “アイアンヘッド”!!」
「クチッ!!!」
たくさんのトレーナーたちが、街の人を守るために、戦っていた。
私はその姿を見て、心の底から……思った。
菜々「──……かっこいい……!」
──
────
- 828 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:33:25.80 ID:9oar5n900
-
今までポケモンをほぼ見たことすらなかった私にとって、その経験は今までの人生全ての価値観をひっくり返してしまうほどに、衝撃的だったのは言うまでもない。
この頃には、両親がポケモン嫌いなことに気付いていたものの……私は湧き上がる好奇心とトレーナーへの強い憧れを抑えることが出来なかった。
両親に隠れて、図書館でポケモンバトルを題材にした作品を読み漁り、スクールの帰りにこっそり街の隅にあるバトル施設を見に行ったりもした。
そこには、私の知らない世界が広がっていた。
トレーナーがポケモンと力を合わせて、ぶつかり合い、競い合い──切磋琢磨し合う……そんな世界。
私は一瞬で、ポケモンとポケモントレーナーという存在の虜になった。
そして、そんな私がその次に考えることは、もちろん──
菜々「──私も……ポケモントレーナーになりたい……!!」
止め処なく溢れる熱い感情に突き動かされ、私はどうすれば自分がポケモントレーナーになれるかを必死に考えた。
調べて調べて調べて……そして、たどり着いたのが、
菜々「ツシマ研究所……新人用ポケモンと……ポケモン図鑑……」
ヨハネ博士だった。
ヨハネ博士は連絡を取ると、私のことを歓迎してくれて、私を旅立ちのトレーナーとして、選んでくれた。
嬉しかった。
ただ、懸念はあった。
もちろん、両親のことだ。
果たしてあの両親が……特に父親が私の旅立ちを認めてくれるのだろうか。
勢いで旅立ちを決めてしまったけど……許してもらえるんだろうか。
怖かったけど……。
菜々「……説得するんだ」
そのときの私は、きっとこの気持ちを真っすぐ伝えればわかってくれるなんて、そんな甘いことを考えていた。
──
────
菜々「お母さん、お父さんいつ帰ってくる……?」
菜々母「お父さん? そうね……今日も遅くなるんじゃないかしら」
菜々「そっか……」
菜々母「何か話があるなら、私が伝えておくけど……」
菜々「うぅん、お父さんがいるときに、直接伝える」
菜々母「そう?」
多忙な父とはなかなかタイミングが合わず……気付けば、旅立ちの日が迫っていた。
そんな中──父が休みの日に、やっと話が出来るタイミングがあって……。
菜々「よし……今日、お父さんに話すんだ……!」
ギリギリになっちゃったから……叱られるかな。こんな急だと、さすがに来週に旅に出る……なんてことを許してもらうのは急すぎて無茶かもしれない。
でも、今はとにかく気持ちをちゃんと伝えなくちゃ……!
自室でそう意気込んでいると──コンコンとドアがノックされた。
菜々父「菜々」
- 829 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:34:24.48 ID:9oar5n900
-
父の声だった。
菜々「は、はい……!」
意気込んでいたところだったから、少し面食らったけど、私は慌ててドアを開く。
開いたドアの向こうに立っていた父は、私の姿を確認すると、
菜々父「私の部屋に来なさい」
それだけ言うと踵を返してしまう。
菜々「……お父さん……?」
私は言われるがままに、父の書斎へ足を運ぶ。
書斎に入ると、父は鋭い視線で私を見つめていた。
なんだか、背筋が凍るような視線だった。
……でも、今しかない。
菜々「…………あのお父さん、実は話が……」
菜々父「最近、誰かとしきりに連絡を取っているようだな、菜々」
菜々「え、あ……うん。……そのことについてなんだけど……」
菜々父「ツシマ研究所だそうだな」
菜々「……!? し、知ってたの……?」
菜々父「最近様子がおかしいと、お母さんから聞いた」
どうやら、お母さんに電話しているところを聞かれていたらしい。
頻繁に連絡を取っていたし……様子がおかしいことに気付いていたなら、不思議なことでもないかもしれない。
菜々父「ポケモンを貰って旅に出る……か」
菜々「う、うん……!」
菜々父「今すぐにでも断りの連絡を入れないといけないな……」
菜々「……え」
一気に血の気が引いた。
菜々父「……今からツシマ研究所に連絡するから、ポケギアを取ってきなさい」
菜々「え、あ……いや……」
菜々父「早くしなさい。わざわざこのために仕事を休んだのだから」
菜々「……ま、待って……わ、私……」
菜々父「早くしなさい」
菜々「……っ!」
静かな口調だった。
静かで……とても、強い口調。
有無を言わせない、そんな、口調。
菜々「……は……はい……っ……」
- 830 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:35:51.35 ID:9oar5n900
-
──ああ、私……なんで説得出来るなんて思い上がってしまったんだろう。
取り付く島なんて、どこにもなかった。
私がトレーナーになれる可能性なんて──最初からなかったんだ……。
──
────
──────
菜々「…………」
なんだか、辛いことを思い出してしまった。
ヨハネ博士に断りの連絡を入れたその日の深夜に、私は親が寝静まったあと……ヨハネ博士に一度だけ電話をした。
励ましてくれて、『ヨハネが説得してあげるわ……!!』──そう言ってくれた博士の言葉に勇気を貰って、もう一度だけお父さんに話をしたけど……それが逆鱗に触れてしまったのか、ポケギアを没収され、連絡する手段すらも失ってしまった。
あの後……ヨハネ博士に会った──というか、見かけたのは1回だけ……ポケモンリーグ本選の会場で見かけたとき。
そのときは、思わず声を掛けそうになってしまったけど……。
今更、どの面を下げて話せばいいのかもわからず……結局、話しかけることは出来なかった。
何より……そのときの私は菜々ではなく──せつ菜でしたし。
菜々「……そう考えると……今が信じられないな……」
あのときはもう本当に、一生ポケモントレーナーになれないんだと思っていたから。
あの人が──私に“せつ菜”をくれたから。
──prrrrrr!!!!
菜々「あ、電話……」
仕事を始めてから、再び持たせてもらうようになったポケギアには──今思い浮かべていた人の名前が書かれていた。
菜々「はい、菜々です」
真姫『菜々、明日のことだけど……』
菜々「大丈夫ですよ、もうローズに戻っていますから」
真姫『急だったのに対応してくれてありがとう』
菜々「いえ、これも仕事ですから、気にしないでください。……ですが、本当に急でしたね」
真姫『なんでも先方がちょっと特殊な業種の人らしくて……』
菜々「特殊な業種……ですか?」
真姫『ええ。モデルらしいわ』
菜々「モデルさん……?」
真姫『今度のビジネス発表会に出てくれることが急に決まったらしくて……諸々の擦り合わせをしなくちゃいけなくてね……』
菜々「なるほど……」
確かにそうなると、両者で確認をしながら、直接スケジュールを押さえる必要が出てくることもあるだろう。
- 831 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:36:49.51 ID:9oar5n900
-
真姫『今は寮?』
菜々「いえ、実家です」
真姫『実家なの……?』
菜々「はい。たまには顔くらい見せないと……両親に悪いですし……」
真姫『大丈夫……?』
菜々「ふふっ、大丈夫も何も、自分の家ですよ」
真姫『それはそうだけど……』
菜々「心配してくれて、ありがとうございます。……お父さんもお母さんも、厳しいですけど……私のことを想って言ってくれてるだけですから」
そんなお父さんとは会えそうもないですけど……。
真姫『そう……。……でも無理はしちゃダメよ』
菜々「はい、ありがとうございます」
いろいろと事情を知っている真姫さんは、何かと気遣ってくれる。
彼女には本当に頭が上がらない。
真姫『それと今日の午後から天気が崩れそうだから、気を付けてね。それじゃ』
菜々「はい」
通話が切れる。
ふと窓から外を見ると──真姫さんの言うとおり、空は曇天に覆われていた。
菜々「これは……確かに天気が崩れそうですね……」
あまり酷くならないと良いのですが……。
🍅 🍅 🍅
真姫「…………」
菜々との通話を終えて、私は少し複雑な気分だった。
菜々は……なんというか、危うさがある。
優しすぎると言うか……真面目すぎるというか……無垢というか……一切ズルさがないのだ。
まあ……だからこそ、面倒を見ている節はあるのだけど……。
梨子のことと言い、私はどうやら、ああいう子たちを放っておけない性質らしい。
──────
────
──
- 832 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:37:42.66 ID:9oar5n900
-
──菜々と出会ったのは、ローズシティの外周区にあるポケモンバトル施設でのことだった。
私はローズジムのジムリーダーとして、たまに街のバトル施設に視察に赴くことがある。
グレイブ団事変ではっきりしたが……この街は有事の際に戦えるトレーナーが非常に少ない。
ローズシティの人とポケモンの住み分けをしっかり行う考え方にはそこまで反対する気はないが、少し極端な考えを持った人が見られるのは難しいところだ。
ただ……どうしても、ポケモンが苦手な人というのも居て、そういう人たちがローズに集まってくるからこそ、そういう文化が形成されやすいのは仕方のない話なのかもしれない。
ポケモンが苦手な人間に、無理にポケモンと触れ合えというのもまた道理の違った話なので、ポケモンリーグに所属するジムリーダーの一人としては──この街に今いるトレーナーたちを大切にすることが重要だと考えている。
だから、こうして折を見て、視察を行っているわけだ。
セキレイほどではないが、こうしてローズのバトル施設を訪れると、そこそこの数の人が居る。
人口比率で言うとやや物足りないのかもしれないが……それでも、こうしてバトルに興味を持ってくれている人がいるのは良いことだ。
観戦席から、トレーナーたちの戦っている様を観察していると──
「……違う、私だったら……ここは“シャドーパンチ”……ああ……だから言ったのに……」
何やら、ぶつぶつと言いながら観戦している少女がいることに気付く。
──結論から言うと、この子が菜々だった。
フィールドを見ると、ゴーストの放った“シャドーボール”をソーナンスが“ミラーコート”で反射して、ゴーストがやられてしまっているところだった。
……確かに、彼女の言うとおり相手のソーナンスからしたら、“ミラーコート”をしたいというのはわかりきっている盤面。
“シャドーパンチ”なら、意表を付けるし、仮に“カウンター”をされても、かくとうタイプだからゴーストにはダメージがない。
ただ……。
真姫「あのゴースト……“シャドーパンチ”は覚えてなかったんじゃなかしら」
菜々「え?」
真姫「ごめんなさい、独り言が聞こえちゃって……ゴーストは特殊攻撃が得意だから、物理技を覚えさせていないトレーナーは少なくないわ」
菜々「確かにそうかもしれません……だとしても、今のは悪手です」
真姫「どうして?」
菜々「相手の次の行動は読めている……なら交換すればいい。ゴーストタイプには“かげふみ”が効かないですし……」
真姫「……確かにそうね」
確かにそのとおりだ。“かげふみ”という特性はゴーストタイプ相手には効果がない。第一印象としては、よくバトルの勉強をしている子だと思った。
真姫「貴方、ポケモントレーナー?」
菜々「……いえ、私は……ポケモントレーナーではありません……」
真姫「トレーナーじゃないのに、随分バトルに詳しいのね」
菜々「……ポケモンバトルを……見るのが……好きなので……」
言葉とは裏腹に──彼女は、酷く寂しそうに返事をする。
菜々「あ……もうこんな時間……そろそろ、帰らないと……」
彼女はそう言って立ち上がり、私に会釈をしたあと、駆け足でその場を去ってしまった。
真姫「ポケモンバトルを見るのが好き……ね」
その割に──随分悲しそうな顔で観戦するのね……私はそう思った。
- 833 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:38:16.47 ID:9oar5n900
-
🍅 🍅 🍅
それからというもの、
菜々「ああ……そこは一旦“まもる”で時間を稼いで……」
真姫「あの子……またいる」
彼女をよくこのバトル場で見かけることが多くなった。
真姫「また来てたのね」
菜々「あ……こんにちは……」
彼女は相変わらず、沈んだ声音で独り言を呟きながら、バトルを観戦していた。
何度かこの子を観察していてわかったのは……恐らくこの子は毎日ここにきている。
恐らくというのは、他の仕事で、ここに訪れるのが少しでも遅れるとこの子には会えないからだ。
滞在時間は恐らく10〜15分ほど……1試合見るか見ないかくらいで、帰ってしまう。
真姫「ねぇ、貴方」
菜々「……なんでしょうか」
真姫「いつもここに来てるけど……観戦しかしないのね」
菜々「……私は……ポケモントレーナーではないので……」
真姫「……興味はないの?」
菜々「……あります。……ありますけど……私は、ポケモントレーナーに……なれなかった……。……なっちゃ……いけなかった……」
最初からなんとなく勘付いてはいたけど……どうやら訳アリらしい。
真姫「貴方、名前は?」
菜々「……知らない人には名乗るなと……親からきつく言われています」
真姫「……ごめんなさい。貴方の言うとおりね。自分から名乗りもしない相手に、名前なんて教えられないわよね。私は真姫。ローズジムのジムリーダーよ」
こちらから、名乗ると、
菜々「……え?」
少女はこちらを向いて、目をぱちくりとさせる。
菜々「……ジ、ジムリーダー……?」
真姫「嘘じゃないわよ。ほら、このとおりローズジム公認の証の“クラウンバッジ”も持ってるし」
ポケットから、ジムバッジを取り出して見せる。
菜々「じ、ジムバッジ……! 初めて見ました……!」
彼女はバッジを見ると目を輝かせる。
- 834 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:39:08.63 ID:9oar5n900
-
真姫「ふふ、やっと笑った」
菜々「え……?」
真姫「貴方……ずっと、この世の終わりみたいな顔しながら、バトルを見ていたから……」
菜々「……私……そんな顔をしていましたか……?」
真姫「ええ。絶望の底にいるみたいだったわよ」
菜々「そう……ですか……」
私の言葉を聞くと、少女は俯いて、再びしゅんとしてしまう。
真姫「……ポケモントレーナーになっちゃいけないって、どういうことか聞いてもいい?」
菜々「…………」
少女は少し迷ったあと、
菜々「……私……本当は旅に出たかったんです……」
ぽつりぽつりと話し始めた。
菜々「……博士と、最初のポケモンと……ポケモン図鑑を貰う約束までして……。……博士もそれを喜んでくれて……歓迎してくれて……。……でも……結局、親に反対されちゃって……」
真姫「……ダメになっちゃったのね」
菜々「……はい」
真姫「親御さんには貴方の気持ちは伝えたの?」
菜々「……取り付く島もありませんでした。……私の気持ちは……関係ないって……聞いてすらくれませんでした……」
真姫「…………」
どこかで聞いたような話だった。
親が全て判断して、親が全てを決めて、こちらの意思も、言葉も、全て無視されて。
所詮、子供言うことだとあしらわれて。大切に扱ってもらえなくて。
菜々「……私のお父さん……小さい頃にポケモンに襲われて大怪我をしたことがあるそうです……。……そのときに、お父さんのお母さん──私のお祖母さんは、お父さんを庇って……もっと酷い大怪我をして……それが原因で亡くなってしまったそうです……」
真姫「……だから、ローズに住んでいるのね」
菜々「……はい」
この街に住んでいれば、ポケモンに襲われる可能性は格段に減る。
実際、それが目的でここに移住している人は多いし。
菜々「私……もう15歳なのに、最近になるまで、ほとんどポケモンを見たことすらなかったんです……。両親がずっと……私からポケモンを遠ざけていたんだって……最近になってやっと気付いて……」
真姫「なら……どうやってポケモンバトルを好きになったの?」
菜々「……助けてもらったんです。ある日突然、野生のポケモンが街中に現れて……襲われたときに、ポケモントレーナーの方が助けてくれたんです。あまりに急なことだったので……助けてくれたトレーナーの方の顔もよく覚えてないのですが……」
恐らく、グレイブ団事変のときのことだろう。あのときは多くの人が野生のポケモンに襲われたし、私も数えきれない人数を保護した記憶がある。
もしかしたら、この子もそんな人たちの中の一人だったのかもしれない。
- 835 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:41:05.26 ID:9oar5n900
-
菜々「ただ……そのとき私を助けてくれたポケモントレーナーの人たちを見て……ああ、なんてかっこいいんだろう。私もあんな風にかっこよくて、強くて……誰かを守れる人になりたい……そう強く思ったことだけは覚えてます」
真姫「それはすごく立派なことよ。私はこの街のジムリーダーとして……貴方みたいな人にトレーナーになって欲しいわ」
菜々「あはは……ありがとうございます。……でも、ダメなんです。……私は、ポケモンを持っちゃいけない人間なので……ポケモンと関わっちゃいけない人間なんです……」
真姫「…………」
菜々「……あ……もう、こんな時間だ……。……帰って勉強しないと……親に怒られちゃいます……」
そう言って彼女はいつものように、立ち上がって、踵を返す。
その折に、
菜々「……菜々です。……ナカガワ・菜々」
彼女はそう名乗った。
真姫「……知らない人には名乗っちゃいけないんじゃないの?」
菜々「えへへ……この街のジムリーダーなら、知ってる人みたいなものです。お話を聞いてくれて、ありがとうございました」
そしていつものように会釈をして──去って行った。
真姫「……ままならないものね」
この世界はポケモンと共存して回っている。だけれど、そんなポケモンの人智を越えたパワーに恐怖する人間は決して少なくない。
ポケモンに命を救われる人がいる中で、ポケモンによって命を落とす人もいる。
だから、ポケモンを忌避し、関わらないように生きる人がいることはわかっているし、否定する気はない。
だけど……ポケモンと関わりたくて、力を合わせたくて、強くなろうとしている子の気持ちが……捻じ曲げられてしまうのを見ているのは……心苦しかった。
ただ、親の言葉というのは……年端もいかない子供にとっては絶対と言っても差し支えないほど、大きな大きな影響力を持って降りかかってくる。
──私もそうだったから。
あのとき、凛と花陽が、私を連れだしてくれなかったら……私は今でも親の敷いたレールの上を走り続けていたのかもしれない。
……菜々は、あのとき誰からも手を取ってもらえなかった……私なんじゃないか。
そう思えて仕方がなかった。
真姫「ナカガワ……菜々……。……ナカガワ……?」
そういえば、ナカガワって名前……どこかで聞いた気が……。
🍅 🍅 🍅
真姫「……やっぱり」
私は関連企業役員の名簿を見て、一人納得していた。
ナカガワというファミリーネーム、どこかで聞いたことがあると思ったら……ニシキノ家が出資している企業の中の一つにナカガワという名前の社長が居た。
彼は優秀な人物であると共に──ポケモン嫌いなことで有名な人でもあった。
有事の際にポケモンに頼らなくてもいいように、会社の外装や外壁に、“リフレクター”や“ひかりのかべ”と似たような効果を持たせた頑強なビルを建てていて、実際にグレイブ団事変のときも、住民の避難所として重宝した。
その理由は前述したとおり、ポケモン嫌い故にポケモンに頼らなくてもポケモンからその身を守ることが出来るように、そのような設計をしたというのは、グループ内では有名な話だ。
もちろん、ただファミリーネームが同じだけという可能性もなくはないが……。
- 836 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:41:58.16 ID:9oar5n900
-
真姫「菜々の話とも辻褄が合う……。十中八九、このナカガワ社長が菜々のお父さんで間違いないわね……」
確か……数回程度だけど、私も父親と一緒に会ったことがあった気がする……。
そういえば、優秀な娘が居るという自慢をしていたような……。
真姫「ゆくゆくは娘も……ニシキノのグループ傘下の会社に……とかも言ってたような」
私は、菜々の言葉を思い出す。
──『ただ……そのとき私を助けてくれたポケモントレーナーの人たちを見て……ああ、なんてかっこいいんだろう。私もあんな風にかっこよくて、強くて……誰かを守れる人になりたい……そう強く思ったことだけは覚えてます」──
──『……でも、ダメなんです。……私は、ポケモンを持っちゃいけない人間なので……ポケモンと関わっちゃいけない人間なんです……』──
15歳そこそこの女の子が、そんな風に自分の夢を諦めていいのだろうか。
真姫「……ダメよ、そんなの」
……正直リスクはある。だけど、今の菜々は昔の自分を見るようで──黙って見ていることが出来なかった。
それに私には、それを可能に出来るカードが揃っている。
真姫「……梨子のときと言い……私ってお節介焼きなのかしら……」
自分ではドライな方であるつもりなのにね。
真姫「……いいわ、私がどうにかしてあげようじゃない」
🍅 🍅 🍅
──次の日。
バトル施設に赴くと、
真姫「菜々。こんにちは」
菜々「……あ、真姫さん……」
菜々は今日もバトル施設に来ていた。
菜々「あの……昨日はおかしな話を聞かせてしまって……」
真姫「そんなことは良いの、ちょっと一緒に来てくれない?」
私は菜々の手を取って、立ち上がらせる。
菜々「え、えぇ……?」
困惑気味の菜々を強引に引っ張って歩き出した。
- 837 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:42:43.29 ID:9oar5n900
-
🍅 🍅 🍅
私が来たのは──ローズジム。
菜々「こ、ここ……ポケモンジム……」
菜々がポカンと口を開けている。
まあ、急に連れてこられたら驚くわよね。
真姫「菜々。正直に答えて欲しいんだけど」
菜々「……?」
真姫「貴方、トレーナーになりたい?」
菜々「え……」
真姫「貴方の正直な気持ちを教えて」
菜々の目を真っすぐ見つめて、問いかける。
菜々「……えっと…………」
菜々は少し、言葉に迷う素振りを見せたけど……。
菜々「…………なりたい……です……」
迷いながらも、確かにそう口にした。
真姫「……なら、私が貴方をポケモントレーナーにしてあげる」
菜々「……え?」
菜々は私の言葉に目を丸くする。
菜々「いや、あの……む、無理なんです……私は……」
真姫「貴方のお父さんは貴方にちゃんとした企業に就職して欲しいと思っているのよね」
菜々「は、はい……だから……」
真姫「なら、私が貴方を雇うわ。私の専属秘書として」
菜々「……え?」
菜々はまたしても目を丸くする。
真姫「私は貴方のお父さんの会社にも出資している。何度か会ったこともあるわ。そんな私から指名で専属秘書になれば、安定した就職については納得してくれるわよね」
菜々「そ、それはそうかもしれませんが……」
真姫「そして、その仕事をこなしてもらいながら──貴方をその裏でトレーナーとして、育ててあげる」
菜々「へ……」
菜々は目をパチクリとさせる。
無理もない。こんな突拍子もない提案をされたら、誰だって驚く。
だけど、私は──私には、今のこの子を助けるだけの力がある。
- 838 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:43:20.31 ID:9oar5n900
-
真姫「決して楽な道じゃない……。普通のトレーナーよりも何倍も、何十倍も大変な道になるかもしれない。……それでも、やりたいなら、やるべきよ。親に何を言われたんだとしても」
菜々「で、でも……」
ただ、菜々は困惑している。
菜々「お、お父さんが……ダメ……って……。……ダメ、だって……」
真姫「菜々。貴方の人生は貴方のモノよ」
菜々「……!」
真姫「貴方が決めなさい」
私は手を差し伸べる。
真姫「この手を掴むか……貴方が決めなさい。今ここで」
菜々「…………私……ポケモントレーナーになって……いいんですか……?」
真姫「それも全部、貴方が決めることよ」
菜々「…………」
菜々は私の言葉を聞いて、自分の手を胸の前にぎゅっと引き寄せる。
その手が、震えているのがわかった。
きっと彼女の中では今、たくさんの葛藤がぶつかり合っているに違いない。
不安、期待、恐怖、憧れ、悲哀、希望、後悔、いろんな感情がぶつかり合っているはずだ。
でも私は……この子はその感情の奔流に負けない子だと信じられた。
会って間もないけど、この子の好きは、ポケモンが、ポケモントレーナーが、ポケモンバトルが好きだという言葉は気持ちは──嘘じゃないと断言出来たから。
菜々「…………」
考えて、考えて、考えた菜々は震える手で──
菜々「……私は……ポケモントレーナーに……なりたい。……なります……!」
確かに、自分の意思で、意志で──私の手を握った。
🍅 🍅 🍅
菜々「──い、今でも……胸がドキドキしてます……」
真姫「ふふ、頑張ったわね」
本当に勇気を振り絞って、私の手を取ったことは言うまでもない。
そんな彼女の最初の勇気を労って、頭が撫でてあげる。
- 839 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:44:33.90 ID:9oar5n900
-
菜々「えへへ……。……それで……あの……私はどうすればいいんでしょうか……」
真姫「そうね……秘書の件は貴方の親御さんたちと話さないといけないとして……」
菜々「さ、最初のポケモン……とか……」
真姫「それは、用意はしてあげられないから、一緒に捕まえるしかないわね。それよりも、必要なことがあるわ」
菜々「必要なこと……?」
真姫「トレーナーとしての名前よ」
菜々「トレーナーとしての……?」
真姫「菜々って名前のままトレーナーになったら、公式戦に出たときにご両親に感付かれる可能性があるでしょう?」
菜々「あ……確かに……」
菜々の父親は、話を聞く限り筋金入りのポケモン嫌いみたいだし……。
そうなると、そのままの名前でトレーナーになるのはあまり得策とは言えない。
トレーナーとしての登録名自体を変えた方が安全だ。
それに……。
真姫「見た目もね……」
三つ編みに眼鏡。いかにも優等生でポケモンバトルをしなさそうなこの子の見た目は、バトルフィールドに立つと却って目立ちそうだ。
真姫「ちょっとじっとしてて」
せつ菜「は、はい……」
真姫「三つ編み、解くわね」
結ばれた三つ編みを解いて、髪を下ろし──
真姫「眼鏡も外した方がいいわね……後でコンタクトを買いに行きましょう」
眼鏡を取る。
あとは……。
真姫「……髪留め持ってる?」
菜々「ゴムしか持ってないです……」
真姫「……じゃあ、これ」
私はポケットから、髪留めを一つ取り出す。
──これは梨子から貰ったものだ。私は髪留めは使わないと言ったんだけど、まさかこんな形で使うことになるとはね。
髪を菜々の右側頭部で結んで、それを髪留めで留めてあげる。
真姫「……いい感じじゃない」
菜々の手を引いて、私の部屋の姿見の前まで連れていく。
- 840 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:45:17.57 ID:9oar5n900
-
菜々「……これ、私……?」
真姫「そうよ。これが貴方の新しい姿。名前はどうしましょうか……」
菜々「ゆ、ユウキと、セツナ……!!」
真姫「え?」
菜々「わ、私……図書館でポケモンのお話をたくさん読んで……! その中で、大好きな作品の主人公がユウキくんとセツナちゃんなんです……!」
真姫「……ふふ、いいじゃない。どっちも貰っちゃいましょう」
菜々「……はい!」
菜々は元気よく返事をして、
せつ菜「私は今日から──ユウキ・せつ菜です……!」
ここにユウキ・せつ菜という一人のトレーナーが誕生したのだった。
──
────
──────
真姫「あれからもう2年か……」
あのときはまさか、せつ菜がここまで強くなるとは思ってなかったけど……。
彼女は──本当に強くなった。
それこそ、チャンピオンまであと一歩のところまで来ている。
これも全て、あの子の努力の結果。
真姫「願わくば……このまま、せつ菜が夢を叶えてくれればいいんだけどね……」
気付けば、空は今にも雨が降り出しそうな灰色の雲に覆われていた──
- 841 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:46:02.61 ID:9oar5n900
-
🎹 🎹 🎹
歩夢「空……曇ってきたね……」
侑「ちょっと急いだ方がいいかな……?」
「ブイ…」
まだセキレイを出て、10番道路に差し掛かったところなんだけど……。
かすみ「行けます行けます!! 今のかすみん、ちょーーー気合い入ってますから!! レッツゴーです!!」
「ガゥガゥ♪」
リナ『レッツゴー♪』 || > ◡ < ||
元気よく飛び出す、かすみちゃんとリナちゃん。
しずく「大丈夫かな……」
侑「とにかく、雨が降り出す前に出来るだけ急ごう!」
歩夢「うん!」
──私たちは、曇天の空の下、ローズシティを目指して、10番道路を駆け出しました。
- 842 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/09(金) 12:46:56.96 ID:9oar5n900
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【10番道路】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____●|____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.45 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.45 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.41 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.36 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
タマゴ なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
ルガルガン♂ Lv.83 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:153匹 捕まえた数:5匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.41 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.39 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.36 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
タマザラシ♀ Lv.31 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラエッテ♀ Lv.24 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:155匹 捕まえた数:16匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.40 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.38 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.37 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.33 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.34 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:149匹 捕まえた数:8匹
主人公 しずく
手持ち ジメレオン♂ Lv.30 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
マネネ♂ Lv.24 特性:フィルター 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アオガラス♀ Lv.30 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロゼリア♂ Lv.30 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
キルリア♀ Lv.29 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:156匹 捕まえた数:9匹
侑と 歩夢と かすみと しずくは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 843 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 02:49:46.28 ID:hRdoaDre0
-
■Intermission👠
──DiverDiva拠点。
愛「カリン、調子どう?」
愛は端末をいじりながら、こちらに顔を向け、そう訊ねてくる。
果林「……大体まとまったわ。当日は愛にも手伝ってもらうけど」
愛「ん、りょーかい。それはそうと、報告があるんだけど」
果林「報告?」
愛「“星のガス”が十分に溜まったよ」
果林「……いいタイミングね」
私はそれだけ返すと、席を立つ。
愛「どっか行くの?」
果林「……ええ。今夜はエマと約束しているから」
愛「そっか」
愛はそれだけ答えると、また端末の方へと向き直り、作業を始める。
果林「……いつもみたいに、茶化してこないのね」
愛「ま、今日くらいはね」
果林「……」
今日くらいは──それが何を意味しているのかは、言うまでもない。
果林「行ってくるわ」
愛「ん、行ってら〜」
「ベベノ〜」
私は今日もきままに漂っている愛の相棒の、のんきな鳴き声を聞きながら、拠点を後にする。
愛「……まあ、今日くらいは監視はやめといてあげようかな。……たぶん、最後の機会だろうしね」
「ベベノ〜」
👠 👠 👠
「チャムー」「ヤンチャー」「チャム」
今日もヤンチャムたちが元気に鳴いている部屋で、私はエマと食卓を囲む。
エマ「──果林ちゃん、おいしい?」
果林「ええ、すごくおいしいわ。ありがとう、エマ」
- 844 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 02:51:31.93 ID:hRdoaDre0
-
私はエマの作ってくれたクリームシチューを食べながら、お礼を言う。
エマ「えへへ♪ 今日のはね、搾りたての“モーモーミルク”で作ったんだよ♪」
果林「ふふ♪ この前も同じこと言ってたわよ?」
エマ「でもね、でもね! 今日は特別ミルタンクの元気がよくてね! お乳の出もすっごく調子がよかったから、きっといつもよりもおいしいよ!」
エマは幸せそうに笑いながら、シチューを口に運び、
エマ「ん〜、ボーノ……♪」
一口食べるたびに、もっともっと幸せそうに笑いながら、つぼめた指先を唇に当ててキスをする。
彼女の生まれ育った国における、すごく美味しいということを表す仕草らしい。
果林「ふふ」
エマ「んー? どうかしたの、果林ちゃん?」
果林「エマっていっつも幸せそうに食べるから……見てる私もなんか嬉しくなっちゃっただけ」
エマ「えへへ♪ だって、おいしいものを食べてると幸せになるんだもん♪」
エマが嬉しそうに笑っていると、
「チャムー!!」「ヤンチャー!!!」「チャムチャム!!!」「チャムチャー!!」「ヤンチャムッ!!」
ヤンチャムたちが、空になったお皿を持って、エマの足元に群がってくる。
果林「こら、貴方たち……まだエマがご飯食べてるんだから……」
エマ「うぅん、大丈夫だよ。ヤンチャムちゃんたちもおかわりが欲しいんだよね? すぐによそってあげるね♪」
「チャムー!!」「チャムチャー」「ヤンチャ!!」
果林「いつもごめんなさいね……」
エマ「うぅん、わたしも好きでやってるだけだから♪ この子たちを連れて来たのも、わたしだし!」
果林「そういえば、そうだったわね……」
このヤンチャムたちは……ある日突然、エマが私にくれたポケモンだった。
もうずいぶん昔のことのように感じる。
果林「ねぇ、エマ」
エマ「ん〜?」
果林「……いつも、ありがとう」
エマ「ふふ、どうしたの?」
果林「ここに来てから……私はずっとエマのお世話になりっぱなしだっただから……」
エマ「そんなことないよ、果林ちゃんもわたしのこと助けてくれたもん♪」
果林「……そんなことあったかしら」
……心当たりがない。
エマ「あったよ? 私がここに来て1年くらいのとき……ケンタロスが暴れて逃げ出しちゃって……それを果林ちゃんが止めてくれたんだよ!」
果林「ああ……初めて会ったときのことね」
エマ「うん! そのときね、この地方にはこんなに優しい人がいるんだって、すっごく嬉しくなっちゃって!」
- 845 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 02:52:18.74 ID:hRdoaDre0
-
もう、耳にタコが出来るくらいこの話は聞いた。あれはただの気まぐれというか……私もここに来たばかりで──計画のために、面倒な騒ぎが起こるのが嫌だったから、手を出しただけ。
でも……それがきっかけでエマにはいたく気に入られ、その後、彼女はなにかと私の世話を焼いてくれるようになった。
ヤンチャムたちも……その中で貰ったポケモンだ。
エマ「それに、御守りの石もくれたし……今も大切にしてるんだよ?」
果林「まだ持ってたのね……」
エマ「当たり前だよ! 果林ちゃんからの贈り物だもん! 一生大切にするに決まってるよ!」
一生の宝物だなんて大袈裟な……。
あれは……ただ私の故郷で拾っただけの石なのに。
エマにとっては……本当にただの石ころのはずなのに……。
果林「そういえば……前から聞きたかったんだけど……」
エマ「?」
果林「どうして、ヤンチャムをくれたの?」
ある日突然ヤンチャムを渡され──次会ったときにも……またその次会ったときにもと、あれよあれよとヤンチャムの数は増えていった。
あまりに毎回ヤンチャムを渡されるから、さすがに6匹目で止めたんだけど……。
エマ「だって果林ちゃん、ヤンチャムが好きみたいだったから」
果林「え……? そんなことがわかる機会……あったかしら……?」
エマ「あったよ〜! 果林ちゃん、いっつもテレビでヤンチャムが出てくると、じーっと見てたもん!」
果林「そ、そうかしら……」
こっちに関しては逆に心当たりがあった。
私は……ここに来るまで、ヤンチャムというポケモンを見たことがなかった。
初めて見たときから、あの白と黒のボディに丸っこいフォルムが妙に私のツボを突いてきて── 一目惚れだったと思う。
エマはそれを見逃さなかったということらしい。
本当にエマは、私のことをよく見ている。……ずっと、ずっと見ていてくれた。
果林「……ねぇ、エマ」
エマ「なにかな?」
果林「もし……もしね、私がここを離れなくちゃいけないって言ったら……どうする……?」
エマ「……」
私の言葉を聞いて、エマはスプーンを持った手を止める。そして、
エマ「……やっぱり、果林ちゃん……いなくなっちゃうんだね」
そう続ける。
エマ「果林ちゃん……ここを出ていこうとしてるんだよね」
果林「……気付いてたの?」
エマ「なんとなく……そうなのかなって」
果林「……そう」
- 846 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 02:52:48.93 ID:hRdoaDre0
-
エマは……本当に私をよく見てくれていたようだ。
そして、それは……私も。
最初は、そんなつもりはなかった。……こっちの人と仲良くするつもりなんてなかった。……情が湧いてしまうから。
なのに、エマはどんなにあしらっても、私の傍に居て……笑ってくれた。
いつの間にか、エマは──……私にとって、大切だと思える存在になってしまっていた。
だから、私は……エマは……エマだけは……巻き込みたくなかった。
私はここまで、自分を殺して頑張ってきたつもりだ。……一つくらい、わがままを言ってもいいんじゃないか。
だから、
果林「……エマ」
エマ「……ん」
果林「何も言わずに……私と一緒に……来て……」
気付けばそう、言葉にしていた。
エマ「……」
果林「貴方は私が守るから……だから……」
私の言葉を受けてエマは、
エマ「……ごめんね」
そう言って、首を横に振った。
果林「……」
エマ「わたしね、この町が大好きなの。牧場も、牧場の人たちも、牧場のポケモンたちも、大好きなんだ。だから、今ここから離れることは出来ない……」
果林「エマ……」
エマ「だから……果林ちゃんとは一緒にいけない」
果林「……そっか」
エマ「……ごめんね」
果林「……こっちこそ、ごめんなさい。変なこと聞いて」
エマ「……うぅん」
果林「……」
エマ「……あ、果林ちゃん、おかわりよそうよ? 食べる?」
果林「……ええ、お願い」
エマ「……うん♪」
- 847 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 02:53:27.89 ID:hRdoaDre0
-
👠 👠 👠
エマ「──それじゃ、また来るね!」
果林「ええ、またね」
エマ「あ! ここを出て行くときは、ちゃんと一言言ってね? 勝手にいなくなったら……わたし、怒っちゃうから!」
果林「ええ、わかってる」
エマ「うん! 約束だよ♪」
エマは笑いながら去って行った。
果林「…………」
私はエマが出て行ったドアを──しばらく見つめていた。
👠 👠 👠
程なくして、DiverDiva拠点に戻る。
愛「あ、カリン、お帰り」
果林「……愛、荷物をまとめて。次の作戦が始まったら──ここにはもう戻らないと思うから」
愛「……カリン、エマっちは?」
果林「……何の話かしら」
愛「……まあ、カリンがいいなら、いいけどさ」
愛は言われたとおり、テキパキと荷物をまとめ始める。
「ベベノ〜」
愛「お、手伝ってくれんの? お前はいい子だな〜♪ 愛してるぞ〜♪」
「ベベノ〜♪」
果林「……明朝には発ちましょう」
愛「りょうか〜い」
愛が作業を始める中、拠点内の大モニターに目をやると──先ほどまでエマと一緒に食事をしていた部屋のカメラだけが真っ黒になっていた。
恐らく……愛が気を遣ってくれたのだろう。
当初の予定からは、想像出来ないくらい……ここには長く居ついてしまった。
あまり持たないようにしていたのに……愛着も、少しだけ湧いてしまった。……けど、
果林「……思い出作りは……もう十分、出来たから……。──さようなら。……エマ」
私は最後の踏ん切りをつけるために──小さく別れの言葉を呟いたのだった。
………………
…………
……
👠
- 848 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:08:59.80 ID:hRdoaDre0
-
■Chapter043 『マネネ? まねっこ? ものマネネ?』 【SIDE Shizuku】
──ローズシティを目指して10番道路を北上している私たちですが……。
「ヒヒィーーンッ!!!」
侑「かすみちゃん、ごめん! ギャロップそっちに行った!!」
かすみ「任せてください! ゾロア! “ナイトバースト”!!」
「ガァゥゥッ!!!!!」
「ヒヒィンッ!!!?」
突撃してくるギャロップを、かすみさんのゾロアが迎撃する。
歩夢「侑ちゃん! 茂みの奥にマルノームがいるよ!」
侑「え、どこ!?」
「マァールノォー!!!」
今度は、マルノームが茂みの奥から、“ヘドロばくだん”を侑先輩に向かって放ってきた、
侑「う、うわぁ!?」
しずく「キルリア! “サイコキネシス”!!」
「キルゥ!!」
その“ヘドロばくだん”をキルリアが念動力で逸らす。
侑「あ、ありがとう、しずくちゃん……! ライボルト!! “10まんボルト”!!」
「ライボォォォ!!!!!」
反撃する侑先輩、だが──マルノームは近くにあった岩を丸呑みにし始めた。
「マル、ノー」
すると、不思議なことに、ライボルトの“10まんボルト”を意にも介さなくなる。
ほとんどダメージが通っていない。
侑「くっ……“たくわえる”で耐えてきた……」
「ライボ…!!」
持久戦が苦手な侑先輩は苦い顔をする。
マルノームは緩慢な動きで、攻撃の姿勢に移ろうとするが、
歩夢「タマザラシ、“アンコール”!」
「タマァ〜〜♪」
歩夢さんのタマザラシがパチパチで手を叩くと、
「マル、ノー…」
マルノームは再び、“たくわえる”をし始める。
“アンコール”は相手のポケモンに前使ったのと同じ技を強制させる補助技だ。
それで出来た隙に向かって、
- 849 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:09:38.42 ID:hRdoaDre0
-
侑「ライボルト、“オーバーヒート”!! イーブイ、“めらめらバーン”!!」
「ライボォォォ!!!!」「ブーーイィッ!!!!!」
「マ、マルノォーーー」
2匹のほのお技で一気に圧倒する。
侑「歩夢、ありがとう!」
歩夢「ふふ、どういたしまして♪」
リナ『二人とも、まだ来るよ! 上空から、オオスバメ!』 || ˋ ᨈ ˊ ||
「スバァーーー!!!!!」
リナさんの言うとおり、鳴き声をあげながら突撃してくるオオスバメの姿。
かすみ「ああもう次から次へと……!! ヤブクロン!! “ヘドロこうげき”!!」
「ヤーブッ!!!」
ヤブクロンが向かってくるオオスバメに向かって、ヘドロを吐きつけるけど、
「スバッ!!!」
攻撃を察知し、オオスバメは上空へと回避する。
歩夢「フラエッテ! “ようせいのかぜ”!!」
「ラエッテッ!!」
オオスバメが逃げた上空に向かって、歩夢さんのフラエッテが“ようせいのかぜ”を放つが、オオスバメはダメージを受けるどころから、風攻撃の届かない範囲ギリギリを飛んで、おちょくっている。
歩夢「あ、あれ……?」
かすみ「歩夢先輩、全然攻撃が届いてないですよぉ〜!」
侑「相手が速すぎるんだ……!」
ひこうタイプにとって、地上からの攻撃はさぞ回避しやすいのだろう。
だけど、それならこちらにも考えがある。
しずく「ジメレオン」
「ジメ…」
ジメレオンは手の平に水の玉を作り始める。
ジメレオンというポケモンは自分の体液で膜を作ることによって、水をボール状に丸めることが出来る。
その水のボールを、
「ジメッ…!!」
空中を旋回しながら様子を伺っているオオスバメに向かって、投擲する。
でも、
かすみ「し、しず子〜!! 投げてる方向が全然違うじゃん!?」
「スバ…」
ボールは明後日の方向に飛んでいく。
オオスバメもあまりのノーコンっぷりに、空中で鼻を鳴らす。
- 850 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:10:14.59 ID:hRdoaDre0
-
しずく「ふふっ、ジメレオンは頭脳戦が得意なんですよ」
かすみ「……はぇ?」
明後日の方向に飛んでいたはずの水のボールは──急に空中で軌道を変えた。
侑「空中で動きが変わった!?」
「スバッ!?」
急に変化したボールの動きに対応出来ず、水のボールがオオスバメに炸裂し、驚いたオオスバメはバランスを崩す。
しずく「今度こそ、ストレートで決めるよ!」
「ジーーメッ!!!!」
ジメレオンは用意していた2球目を、オオスバメに向かって、投球し、
「ス、スバァーーーッ!!!?」
剛速の水球は先ほどよりも強い威力で炸裂する。
オオスバメは弾けた水の塊に吹き飛ばされて、戦闘不能になった。
しずく「やったね、ジメレオン♪」
「…ジメ」
かすみ「ちょっと、しず子、今何したの!? ボールが空中で変な動きしたけど……!?」
しずく「ふふっ♪ 上空に吹いていた風を利用しただけだよ♪」
歩夢「もしかして……フラエッテの“ようせいのかぜ”?」
しずく「はい♪ 使わせていただきました♪」
すでに空中で吹いていた“ようせいのかぜ”にジメレオンの水球を乗せ、軌道を変えて攻撃を当てたということだ。
ジメレオンは水のボールを使って、相手を追い詰めていくのが得意なポケモン。
うまく意表を突く展開で、ジメレオンの良さが生かすことが出来た。
侑「とりあえず……これで、野生のポケモンは落ち着いたかな」
かすみ「ですねぇ……ちょっと、疲れましたぁ……」
歩夢「一度にたくさん出てきて、びっくりしちゃったね……」
しずく「それに1匹1匹が、今まで戦ったきた野生のポケモンより強かった気がします……」
リナ『オトノキ地方は北側の方が野生のレベルも高いからね』 || ╹ᇫ╹ ||
先ほどから、こんな感じで何度も野生ポケモンの群れと出くわしている。
こちらも4人いるので、負けることはないが……何度も戦いながらのため、いかんせん進みが遅い。
かすみ「“むしよけスプレー”でも買っておけばよかったですぅ……」
歩夢「私は……“むしよけスプレー”はあんまり好きじゃないかも……。ポケモンが可哀想だし……」
かすみさんの言葉に遠慮がちに言う歩夢さん。
侑「私はみんなで戦いながら進むのも楽しいけどな〜。みんなのポケモンが戦う姿も見られるし!」
リナ『それに、強い相手と戦うのは悪いことばっかじゃないからね』 || ╹ ◡ ╹ ||
かすみ「そうなの?」
リナ『経験値がたくさんもらえる。その証拠に、ほら』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
- 851 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:10:57.23 ID:hRdoaDre0
-
そう言いながら、リナさんの視線が私の傍らのキルリアに向けられる。
「キルゥ…」
気付けば、キルリアはぶるぶると震えていて……次の瞬間、カッと眩い光を放つ。
歩夢「これって……!」
侑「進化の光だ……!」
光が晴れると──
「──…サナ」
キルリアはサーナイトに進化していた。
しずく「サーナイト……」
かすみ「わ、やったじゃん、しず子!」
しずく「…………」
かすみ「……しず子? どうしたの?」
しずく「……え?」
かすみ「なんか反応薄いよ? サーナイト、前から欲しかったって言ってたのに……」
しずく「あ、う、うぅん! 嬉しいよ! 新しい姿にちょっと感動してただけ!」
「サナ」
しずく「サーナイト、これからもよろしくね!」
「サナ」
サーナイトは恭しく頭を下げる。
リナ『サーナイト ほうようポケモン 高さ:1.6m 重さ:48.4kg
未来を 予知する 能力で トレーナーの 危険を 察知したとき
最大 パワーの サイコエネルギーを 使うと 言われている。
空間を ねじ曲げ 小さな ブラックホールを 作り出す 力を 持つ。』
リナさんの図鑑解説を聞きながら、
侑「わかるよ、しずくちゃん! 新しいポケモンを見ると、なんか言葉失っちゃうよね!」
侑先輩が目を輝かせながら、私の手を握ってくる。
しずく「は、はい……」
リナ『侑さんはちょっと感動しすぎなところあるけど』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
「ブイ…」
しずく「あ、あはは……」
呆れ気味なイーブイとリナさんを見て、苦笑してしまう。
そのとき、突然、
かすみ「──つめたっ!」
かすみさんが、声をあげた。
空を見上げると──パラパラと雨の粒が降り始めたところだった。
- 852 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:11:39.76 ID:hRdoaDre0
-
かすみ「わー!? 雨、降ってきちゃったぁ!?」
「ガゥゥ…」
侑「本降りになる前に急ごう……!」
「イブィッ」
侑先輩たちは大急ぎで手持ちをボールに戻して、10番道路を駆け出す。
私も、サーナイトとジメレオンをボールに戻す。
ボールに戻して──今しがた姿を変えたサーナイトのボールをまじまじと見つめてしまう。
しずく「…………私も……侑先輩みたいに、思えたら……」
──小さく独り言ちる。
歩夢「しずくちゃん……?」
そんな私の呟きが聞こえたのかどうかはわからないが、歩夢さんが足を止めて、こちらに振り返り、
歩夢「大丈夫……?」
ととっと近付いてきて、私の顔を心配そうに覗き込みながら訊ねてくる。
しずく「あ、いえ……すみません! なんでもないんです……!」
歩夢「そう……?」
咄嗟に誤魔化すものの、歩夢さんはやはり心配そうに私の顔を見つめている。
かすみ「しず子〜! 歩夢せんぱ〜い! 何してるんですかぁ〜!? 早く行きますよ〜!!」
しずく「あ、う、うん!! 歩夢さん、行きましょう!」
歩夢「……うん」
歩夢さんの視線から逃げるように、私はかすみさんたちを追って駆け出した。
歩夢「…………」
💧 💧 💧
──10番道路は長い道路だ。
二つの大きな都市に挟まれている割に、自然豊かで様々な種類のポケモンが生息している。
また東側を上流とする河川も流れていて、道路の中腹辺りには橋が架かっている。
多少勾配はあるものの、基本的には歩きやすく、多種多様なポケモンとの邂逅を求めて、多くのトレーナーが訪れるそうだが……。
かすみ「ほ、本降りですぅぅ〜〜!!!」
「ガゥ、ガゥガゥッ!!!!」
今日みたいな土砂降りだと、話は変わってくる。
私たちはバッグからレインコートを取り出して、ぬかるむ道を疾走中だが……かすみさんだけは何故か、レインコートを羽織っていない。
- 853 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:12:37.78 ID:hRdoaDre0
-
侑「かすみちゃん、雨具持ってないの!?」
かすみ「バッグの奥底にあって取り出せないんですぅ〜!!」
リナ『かすみちゃんは荷物を持ちすぎなんだと思う』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
だから普段から、道具を持ちすぎだって言ってるのに……。
しずく「それにしても……本当に酷い雨ですね……」
レインコートを羽織っていても、靴の中に水は入り放題だし、地面の状態は最悪だ。
あまりにも雨足が強すぎて──前方を走る、かすみさんと侑先輩の姿を追いかけるのがやっとな状態。
歩夢「しずくちゃん、平気?」
しずく「は、はい……! かなり置いていかれちゃってますから、急がないとですね……」
先ほどから歩夢さんは、しきりに私に声を掛けてくれている。
恐らく……先ほどの私の様子が気になっているのだろう。
歩夢「体調が悪かったら言ってね……?」
しずく「は、はい……ありがとうございます」
面倒見が良い歩夢さんらしいなと思った。
だからこそ、先ほどのような態度を見せてしまったのは失敗だったなと反省する。
後輩が急に無口になったら心配もするだろう。
この雨を抜けたら、本当になんでもないことを伝えなくては……。
──バシャバシャと音を立てながら、ぬかるむ道をひた走る。
走り続けていると、道路の中腹を横切る河川が見えてくる。
もちろんこんな大雨の中だ。川の水はかなり増水し、茶色い濁流となっている。
気付けば、かすみさんたちは橋をすでに渡り始めていて、そろそろ向こう岸に着こうとしていた。
しずく「い、急がないと……!」
私がもたもたしていたせいで、随分遅れてしまっている。
焦り気味に、橋へと差し掛かった瞬間──ミシっという嫌な音がした。
直後、視界がガクンと揺れる。
しずく「っ!?」
この大雨によって──橋が、壊れた。
急なことに、なすすべもなく私は濁流に投げ出される。
歩夢「──しずくちゃん……!!」
- 854 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:13:20.42 ID:hRdoaDre0
-
視界の端に居た歩夢さんが──濁流に飛び込んでくる姿が見えた。
──歩夢さん、来ちゃ、ダメです……!!
叫ぼうとするが、濁流に呑まれながら声を発することなど出来るはずもなく、私は流されていく。
溺れないように、必死に顔を水面に出そうとするが、激しい濁流の中では自由が全く効かず、私の視界は──気付けば全てが濁った水の中で、回転していた。
上も下も右も左もわからない。
洗濯機の中にでも放り込まれたような気分だった。
もはや水面がどっちかすらわからない。
──私……死んじゃうのかな。
ウルトラビーストに襲われたとかじゃなくて……まさか、川で溺れて死んじゃうなんて……。
情けないな……。
だんだん、抗う気力もなくなってきて……ただ流されていく私の腕を──何かが掴んで引っ張りあげるような感覚がした。
しずく「──ぷはっ……! げほっ! げほっ!」
歩夢「しずくちゃん、平気!?」
「シャーボ!!!」
私を引っ張りあげたのは──歩夢さんだった。サスケさんが私の腕に頭側を絡みつかせ、尻尾側は歩夢さんの腕に絡みつき、私を引っ張っていた。
そのまま、サスケさんを伝って、歩夢さんが手を伸ばし、私の腕を掴む。
歩夢さんに引き寄せられた状態で、濁流の中辛うじて顔だけを水面から出したような状態のまま、流されている。
しずく「あ、あゆむ……さん……っ……」
歩夢「サスケ……! 絶対、私から離れちゃダメだよ……!」
「シャーボッ!!!」
歩夢「タマザラシ……! 頑張って、岸まで……!」
「タマァァ…!!」
歩夢さんがタマザラシに掴まって泳いでいることに気付く。
そうだ私も……!
しずく「ジメレオン、出てきて……!」
「ジメッ!!」
私もジメレオンに掴まり、歩夢さんのタマザラシと力を合わせて、岸に向かおうとする──が、
歩夢「な、流れが……速すぎて……っ」
しずく「二人とも岸まで行くのは無理です……! ジメレオン、タマザラシと協力して、歩夢さんだけでも……!」
「ジ、ジメ…」
歩夢「そんなの絶対にダメ……!!」
しずく「ですが……っ」
歩夢さんは私を助けるために、飛び込んできたのだ。
私が落ちたりしなければ、歩夢さんが危険な目に遭うなんてことなかった。
しずく「どちらかしか助からないなら……歩夢さんが──」
歩夢「どっちが助かるかなんて考えないでっ!」
しずく「!」
歩夢「タマザラシ、お願い……!!」
「タマァァァ…!!」
そのとき──タマザラシの体が眩く光り始めた。
- 855 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:13:56.90 ID:hRdoaDre0
-
「──グラァッ!!!!」
しずく「トドグラーに……進化した!?」
歩夢「! これなら……! トドグラー、お願い!」
「グラーー!!!」
進化して、パワーアップしたトドグラーは、濁流の中でも私たちをぐんぐん引っ張って──どうにか岸へとたどり着いたのだった。
💧 💧 💧
歩夢「エースバーン、“ひのこ”」
「バース」
歩夢さんのエースバーンが集めた枝に火を点けてくれる。
歩夢「これで……ちょっとはあったかくなるかな」
しずく「はい……あったかいです」
水に浸かっていたせいで完全に冷え切ってしまった身体を、焚火が温めてくれる。
私たちは、あの後どうにか岸に上がり、川から少し離れた場所にあった大きな木陰の下で雨宿りをしていた。
歩夢「……結構流されちゃったみたいだね」
歩夢さんは図鑑のタウンマップを確認しながらそう言う。
しずく「すみません……私が不甲斐ないばっかりに」
私はしゅんとしてしまう。
しずく「歩夢さんまで巻き込んでしまって」
歩夢「…………」
歩夢さんは無言で立ち上がって、
しずく「……歩夢さん……?」
私の目の前にしゃがみこみ──そのまま、私のことをぎゅっと抱きしめてきた。
歩夢「……そんな悲しいこと言わないで……私たち、友達でしょ?」
しずく「歩夢……さん……」
歩夢「しずくちゃんが困ってたら……助けるよ。……だから、巻き込んだなんて言わないで欲しいかな……」
しずく「……ごめんなさい……」
歩夢「……もう言っちゃダメだよ、そんなこと」
しずく「……はい」
私が謝ると、歩夢さんは私を離したあと、頭を撫でてニコっと笑う。
- 856 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:16:35.68 ID:hRdoaDre0
-
歩夢「……雨、止むまでは動けないね」
しずく「そうですね……かすみさんたち、心配してますよね……」
歩夢「さっき、リナちゃんにメッセージは送っておいたよ。……あ、返事来てる」
しずく「侑先輩たちはなんて……?」
歩夢「『二人とも無事でよかった。天気が落ち着いたら、すぐに迎えに行くからそこで待ってて』って」
しずく「そうですか……。……くしゅんっ」
歩夢「わわ……! 風邪引いたら大変……! 私の上着、ちょっとだけ乾いてきたから、羽織ってて!」
しずく「い、いえ、そんな……! 歩夢さんこそ風邪引いちゃいます……!」
歩夢「私は大丈夫だから、ね?」
しずく「でも……」
歩夢「はい、どうぞ」
しずく「……ありがとう……ございます……」
歩夢さんには独特の押しの強さがあるというか……なんだか、気付くと言うことを聞いてしまっているような、不思議な雰囲気がある。
歩夢「いいんだよ、こんなときは甘えても。私の方がお姉さんなんだから♪」
しずく「は、はい……///」
なんだか、少し気恥ずかしくなってくる。
歩夢「他に困ったことはないかな?」
しずく「大丈夫ですよ。それこそ、そこまで気を遣っていただかなくても……」
そのとき──くぅ〜……とお腹の辺りから音が鳴る。
しずく「あ、あの、これは……///」
歩夢「ふふ♪ 確かにお腹空いちゃったね♪」
しずく「ぅぅ……///」
歩夢「何かあるかな……」
歩夢さんは自分のバッグの中身を確認し始める。
ただ、先ほどまで濁流を流されていたこともあって──
歩夢「……うーん……。……やわらかい“きのみ”はほとんどダメになっちゃってるかも……」
持っている“きのみ”の多くがダメになってしまったようだ。
しずく「あ、あの……歩夢さん、本当に大丈夫ですから……」
歩夢「あ……そうだ!」
歩夢さんは何かを思いついたらしく、ぽんと手を叩いて、バッグの中から何かの箱を取り出した。
歩夢「よかった……ケースの中身は無事みたい」
しずく「それって……“ポフィンケース”ですか?」
歩夢「うん♪ “ポフィン”はポケモンのおやつだけど……少し貰っちゃおうかなって。はい♪」
そう言いながら、ケースから“ポフィン”を取り出し、私に薄黄色の“ポフィン”を手渡してくれる。
- 857 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:17:21.22 ID:hRdoaDre0
-
しずく「いただいてしまって、いいんですか……?」
歩夢「もちろん♪」
「シャーーボッ!!!」「バーースッ!!」
歩夢「ふふ♪ サスケとエースバーンにもあげるから、慌てないで♪ はい♪」
「シャボッ」「バーース♪」
サスケさんとエースバーンは歩夢さんからそれぞれ、緑色と黄色い“ポフィン”を貰うと、おいしそうに食べ始める。
「グラァ…」
歩夢「トドグラーもおいで♪」
「グラ…♪」
トドグラーは歩夢さんに呼ばれると、彼女に身を摺り寄せる。
歩夢さんはトドグラーを優しく撫でながら、口元に赤い“ポフィン”を持っていき、食べさせ始める。
歩夢「ふふ♪ 進化しても、トドグラーは甘えん坊だね♪」
「グラァ…♪」
歩夢さんはトドグラーに“ポフィン”を与えながら、
歩夢「ジメレオンくんもおいで♪」
「ジメ…」
桃色の“ポフィン”を取り出して、私のジメレオンのことも呼ぶ。
ジメレオンは少し困惑気味だったけど、
歩夢「手渡しだと緊張しちゃうかな? ここにおいておくね♪」
歩夢さんがそっと“ポフィン”を置くと、
「ジメ…」
そろそろと近付いて、“ポフィン”を食べ始めた。
しずく「……」
歩夢「私も食べようかな♪」
そう言いながら、歩夢さんも桃色の“ポフィン”を取り出して、口に運ぶ。
歩夢「……えへへ♪ おいしく出来てる♪ しずくちゃんも遠慮せずに食べてね。たくさんあるから!」
しずく「は、はい……」
私も遠慮気味に貰った“ポフィン”を口の運ぶ。一口食べると──甘酸っぱい味が口いっぱいに広がる。
甘さの中にある酸っぱさが、疲労した身体に染み渡っていくようだ。
しずく「おいしい……」
歩夢「よかった♪ しずくちゃん、少し疲れてたそうだったから、“すっぱあまポフィン”を選んだんだけど……他の味もあるから、食べたい味があったら言ってね♪」
しずく「ありがとうございます、歩夢さん」
歩夢「ふふ♪ どういたしまして♪」
歩夢さんが優しく笑う。
- 858 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:18:15.56 ID:hRdoaDre0
-
「グラー…」
歩夢「トドグラー、おかわり欲しいの? 今日は頑張ったもんね。はい♪」
「グラァ…♪」
しずく「歩夢さんは……すごいですね」
歩夢「え?」
しずく「こんなときでも……ポケモンたちを大切にしていて……。……私は、いつも自分のことで精いっぱいで……ポケモンたちには助けてもらってばかりで……」
歩夢「しずくちゃん……?」
口に出してから、またやってしまったと思った。
しずく「す、すみません……! なんでもないんです……」
歩夢「……」
……でも、こんなことを言って誤魔化しても、歩夢さんがなんでもないなんて思ってくれるはずもなく。
歩夢「トドグラー、ちょっとごめんね」
「グラァ…」
“ポフィン”を食べているトドグラーの傍から離れて、歩夢さんは私の隣に腰を下ろす。
歩夢「やっぱり……何か、悩んでるんだね」
すぐ隣で私の顔を心配そうに覗き込んでくる歩夢さん。
しずく「……それは…………」
でも、私はなんだか気まずくて、目を逸らしてしまう。
歩夢「……もしかして──……最近マネネをあんまりボールから出してないことと、何か関係あるのかな……?」
しずく「……え?」
私はその言葉に驚いて、せっかく目を逸らしたのに、思わず歩夢さんの方をまじまじと見つめてしまう。
歩夢「えっと……あんまり、聞かれたくなかったかな……?」
しずく「あ、いえ……その……。……歩夢さんには……そう、見えましたか……」
歩夢「……うん。しずくちゃん、いつもマネネと一緒だったのに……セキレイに戻ってきてから、あんまりマネネをボールから出してなかったから、何かあったのかなって……」
しずく「…………歩夢さんには、敵いませんね……」
歩夢「マネネと何かあったの……?」
しずく「何か……というわけではないんですが……」
私はマネネのボールを手に取って、見つめる。
すると、ボールがカタカタと震えるのがわかった。
しずく「前に……ロトムの話をしましたよね」
歩夢「うん。鞠莉さんのロトムのお話だよね」
しずく「……ロトムはイタズラ好きなポケモンで、すごく子供っぽいと言いますか……。その気性が故に、精神的に成長していく鞠莉さんと少しずつ噛み合わなくなっていって……ケンカをしてしまったそうです」
歩夢「でも、しずくちゃんが昔の気持ちを思い出させてあげて……また仲直り出来たんだよね?」
しずく「……はい」
ただ、私はそのとき……いいや、正確にはその後、だけど……思ってしまった。
- 859 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:19:07.22 ID:hRdoaDre0
-
しずく「……でも、それは鞠莉さんが子供のときの気持ちを思い出してくれたから、うまく行っただけであって……ポケモン側が変わってしまったら、難しかったんじゃないかって……」
歩夢「……? どういうこと?」
しずく「……マネネってすごく子供っぽいポケモンなんです。主人の“まねっこ”をしたがる……そんなポケモン」
歩夢「うん」
しずく「でも……進化してバリヤードになったら、そういう子供っぽさはなくなるそうなんです……」
歩夢「……。……もしかして、マネネに進化して欲しくないから、あんまりボールから出してなかったの……?」
しずく「……意識してそうしていたつもりはなかったんです。……だけど、今、歩夢さんから言われて……ああ、私、そう思ってたのかもしれないって……」
いつも、私の近くで無邪気に子供っぽく、“まねっこ”をしていたマネネが、違う姿になってしまうことが、うまく想像出来なかった。
想像出来なくて……もし、変わってしまったマネネは、どうなってしまうのか、私を見てどう思うのか……なんだか、そんなことを無意識に考えてしまっていた自分に気付いてしまった。
しずく「本当はこんなこと考えちゃいけないことはわかってるんです……。大切な手持ちが成長するのは、トレーナーとして喜ぶべきことですから……」
ただ、この短い間にあまりにいろんなことがあって……。私の中に少しずつ迷いが生まれ始めて……。
しずく「姿が変わったら……私はどう映るのかなって……。……私は……今の私に……自信が、ないんです……」
だって私は──いつ自分がおかしくなっても、不思議じゃないから。
今でも、私の心のどこかで──ウルトラビーストの毒が私を蝕んでいる気がするのだ。
もし、私が私じゃなくなったら……私のポケモンたちは私をどう思うんだろう。
一番付き合いの長いマネネは、もし私がおかしくなってしまっても……きっと私の傍にいてくれる。そう思えたけど……もし、マネネが進化して、今のマネネじゃなくなったら……。
しずく「私……ダメですね……」
歩夢「……しずくちゃん」
しずく「……進化して欲しくなかったら……かすみさんみたいに、進化キャンセルをすればいいんですよね……でも」
だけど、かすみさんと私では少し事情が違う。
かすみさんは可愛いポケモンに拘りがあって……その上で強い。無理に進化させなくても、ポケモンたちを信じられるし、その強さを引き出せる自信があるのだ。
ポケモンたちも、かすみさんが望むものを理解して、かすみさんを信頼している。
だから、彼女と彼女のポケモンたちにとっては無理に新しい姿を手に入れる必要はないのだろう。
だけど、私は……私が進化して欲しくないのは、私が不安なだけなのだ。
しずく「……私の事情で、ポケモンたちの成長を止めてしまうのは……私のエゴなんじゃないかって……」
歩夢「……そっか」
しずく「……ごめんなさい。……変ですよね、こんなこと悩んでるなんて……」
歩夢「うぅん。そんなことないよ。ずっとお友達だったポケモンの姿が変わっちゃったら、びっくりしちゃうの、わかる気がするよ」
そう言いながら、歩夢さんは肩の上で鎌首をもたげているサスケさんの頭を撫でる。
「シャボ」
歩夢「私もね、サスケがアーボックに進化したらどうなっちゃうのか、想像出来ないもん」
「シャボ」
しずく「そういえば……サスケさんのレベルだと、もうアーボックに進化していてもおかしくないですよね」
歩夢さんもかすみさん同様、サスケさんには進化キャンセルをしているんだと思っていたけど、
- 860 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:19:54.59 ID:hRdoaDre0
-
歩夢「うん。ただ、サスケ……進化しないんだよね」
しずく「え? 歩夢さんがキャンセルしているんじゃないんですか……?」
歩夢「うん。だから、きっとサスケ自身がずっと私の肩の上にいたいって思ってるから進化しないのかなって……。アーボックになったら、さすがに肩には乗せられないだろうし……」
「シャーボ」
歩夢さんがサスケさんの頭を撫でると、サスケさんもそれに応えるように、歩夢さんに身を摺り寄せる。
歩夢「でも、私もサスケが進化しちゃったら……びっくりして戸惑っちゃうかもしれないなって……。だから、しずくちゃんがそう思う気持ち、ちょっとわかるんだ」
しずく「歩夢さん……」
歩夢「だから、全然変なことじゃないよ。そんなに自分がおかしいだなんて、自分を追い詰めなくてもいいんだよ」
そう言いながら、歩夢さんはまた私の頭を優しく撫でてくれる。
なんだか、歩夢さんが優しすぎて──ポロリと……涙の雫が零れてしまった。
しずく「……ぐすっ……す、すみません……」
歩夢「大丈夫だよ、しずくちゃん」
かすみさんの前では、ずっと気丈に振舞っていたからだろうか。
何故だか、年上のお姉さんである歩夢さんの前では、普段言えない気持ちも素直に言えてしまう気がした。
──もちろん……それでも、ウルトラビーストのことは歩夢さんには言えないけど……。
歩夢「ねぇ、しずくちゃん」
しずく「……なんでしょうか」
歩夢「しずくちゃんがマネネとどうやって出会ったのか……聞いてもいい? そういえば私、聞いたことなかったなって……」
しずく「マネネとの出会い……ですか」
そういえば、あまり人に話したことはなかったかもしれない。
いい機会だし、歩夢さんに聞いてもらうのも悪くないのかもしれない。
しずく「……私がマネネと出会ったのは、両親に連れられて、ガラル地方に旅行に行ったときのことでした……」
──────
────
──
初めて訪れるガラルの地。
目に映るもの全て、オトノキ地方とは全然違って──はしゃいでいた私は、気付いたら親から離れて迷子になってしまっていました。
しずく「おとうさん……おかあさん……どこですか……っ……」
ブラッシータウンでべそをかきながら、両親を探す私。
異国の地で不安になりながら、とぼとぼと歩いていると、
「マネ…マネネ…」
しずく「……?」
足元で、私みたいにベソをかいているポケモンがいた。
しずく「……あなたもまいごなんですか……?」
- 861 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:20:23.27 ID:hRdoaDre0
-
私が小首を傾げながら訊ねると、
「マネ?」
そのポケモンは私を見上げて、小首を傾げる。
しずく「……?」
そのポケモンが何を考えているのかよくわからなくて、私が不思議そうに見つめると、
「…?」
そのポケモンも私を不思議そうに見つめ返してくる。
しずく「もしかして……私のまねしてるんですか……?」
「マネ、マネネマネ?」
しずく「ま、まねしないでください……」
「マ、マネマネネ」
しずく「だから……まねしないで……!」
「マネ、マネネ!!!」
ただでさえ不安で心細いのに、からかわれているようで嫌だった私は、そのポケモンを無視して、歩き出す。
しずく「おとうさん……おかあさん……どこ……」
「マネー…マネネー…」
しずく「だから、付いてこないでください……!」
「マネ、マネネマネッ!!」
しずく「うぅ……」
「マネェ…」
異国の地でただでさえ不安で不安でしょうがないのに、変なポケモンにまで付きまとわれて、もう限界だった。
しずく「ぅ、…ぅぇぇん……っ……おとうさん……おかあさん……どこぉ……っ……ひっく……っ……」
「マ、マネ…!?」
その場に蹲って、しゃくりをあげながら泣き出してしまう私に、さすがに面食らったのか、マネネが私の周りでおろおろし始めた。
しずく「……ひっく……っ……かえりたい、ですぅ……っ……」
「マ、マネ…」
泣きじゃくる私、不安だし、寂しいし、お腹も空いてきた。もう帰りたい。
「マ、マネ…!!」
そんな、私の目の前で、マネネがぴょんぴょんと跳ね始める。
しずく「……こ、こんどは……っ……なん、ですか……っ……」
涙を拭いながら、マネネに文句を言うと、
「マネ」
マネネは私に向かって──青色をした“きのみ”を差し出していた。
しずく「これ……くれるんですか……?」
「マネ」
- 862 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:20:55.16 ID:hRdoaDre0
-
当時はこれがなんの“きのみ”かはわからなかったが、今考えてみると“カゴのみ”でした。
お腹も空いていたし……せっかくくれたから、食べてみることにする。
思い切って、齧ってみると、
しずく「……か、硬い……」
とてつもなく硬かった。
でも、頑張って、ガリっと噛み砕いて口に含むと、
しずく「…………ちょっと、しぶい……」
よく家で飲む、お茶のような渋みがあった。
くれたのはありがたいけど……このまま食べるのには、向いていないかもしれない。
しずく「ちょっと、しぶくて……これいじょう、たべられないです……」
そう言いながら、マネネに“きのみ”を返すと、
「マネ」
マネネはまた私の真似をして、“きのみ”に齧りつく。
ガリっと硬い“きのみ”を口に含むと、
「マ、マネェェェ…」
“きのみ”の渋い味に、顔を顰めた。
しずく「……くすくす♪ わたし、そんなかおしてませんよ♪」
「マ、マネェ…」
さっきまでひたすら“まねっこ”していたのに、自分で持ってきた“きのみ”の味に険しい顔をするマネネが面白くて、なんだか笑ってしまった。
私がくすくすと笑うと、
「マネマネ♪」
私を真似して、マネネもくすくすと笑う。
しずく「もう……また、まねしてる……」
よほど、人の“まねっこ”をするのが好きなポケモンらしい。
少し呆れてしまうけど──お陰で、少しだけ元気が出てきた気がする。
しずく「……わたし、しずくっていいます。あなたは?」
「マネネッ!!」
しずく「マネネ……でいいのかな? いっしょにおとうさんとおかあさん……さがしてくれますか?」
「マネ♪」
──
────
──────
- 863 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:21:28.01 ID:hRdoaDre0
-
その後、マネネと一緒に両親を探して……ブラッシータウンの駅で両親と再会することが出来ました。
しずく「──これが、私とマネネの出会いでした」
歩夢「素敵な出会いだったんだね」
しずく「はい……大切な思い出です。私にとっての……初めての友達……」
だから……だからこそ、マネネとの距離感が変わってしまうことが怖かった。
しずく「……マネネ、出てきて」
私は握ったボールから、マネネを外に出す。
「──マネ♪」
歩夢「しずくちゃん……いいの?」
しずく「はい……なんだか、マネネとお話ししたくなっちゃって……」
「マネ♪」
進化してしまうのは、変わってしまうのは、怖いけど……でも、マネネと話したい気持ちもある。
しずく「マネネは……“まねっこ”が大好きなポケモンですが……それが“まねっこ”ではなく、“ものまね”になったとき、バリヤードに進化するそうです」
「マネ?」
しずく「果たして“まねっこ”と“ものまね”の何が違うのか……よくわかりませんが……」
技としては、“まねっこ”は直前に見たのと同じ技を繰り返す。“ものまね”は直前に見た技を覚えて使えるようになる……という違いだが、何が起こると“まねっこ”が“ものまね”になるのかはよくわからない。
結局人の真似をしているということには何も変わりがないわけだし……。
しずく「でも……私がこんな悪あがきをしていても……マネネは成長して、いつかは進化しちゃうんでしょうけどね……」
歩夢「……私は、大丈夫だと思うな」
しずく「大丈夫……ですか……?」
歩夢「きっと、マネネは進化しても、しずくちゃんのこと、大切にしてくれると思う」
しずく「…………どうして、そう言い切れるんですか」
これだけ話したのに、そんな風に言う歩夢さんの言葉が、少し無責任に聞こえて、むっとした声になる。
しずく「ポケモンは進化して、新しい姿を得たら、気性が変わるのは事実なんです……保証なんてどこにも……」
歩夢「あるよ」
でも、歩夢さんは頑なだった。
歩夢「だって、それはしずくちゃんが今話してくれたよ」
しずく「……え? 私、そんな話……」
歩夢「ガラルで迷子になったとき、見ず知らずのマネネと出会ったしずくちゃんはどうしてマネネと仲良くなれたの?」
しずく「え……?」
歩夢「マネネの優しさをしずくちゃんが受け取ったからだよ」
しずく「…………」
歩夢「マネネから貰った“きのみ”を食べたとき、しずくちゃんはどう思った?」
しずく「どう……」
- 864 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:22:25.46 ID:hRdoaDre0
-
あのとき、マネネがくれた──あの渋い“きのみ”。
おいしくなかった、あの“きのみ”。
だけど……。
しずく「……心が……あったかく、なりました……」
泣きじゃくる私に、小さなマネネが考えた、精いっぱいの優しさで、胸が温かかった。
歩夢「姿が変わったら、気性が変わっちゃうポケモンがいるのは、しずくちゃんの言うとおりだと思う」
しずく「…………」
歩夢「子供っぽくて、甘えん坊なマネネじゃなくなっちゃうかもしれない。……だけど、しずくちゃんと出会ったときの優しい気持ちは──きっとそんなに簡単に変わらないよ」
しずく「……歩夢さん」
歩夢「変わっていくことで、気持ちがわからなくなっちゃうこともあるかもしれない……。だけど、そのときはまたいっぱいお話しして、仲直りすればいい」
しずく「……はい」
歩夢「だから、変わることを怖がらなくていいんだよ」
そう言いながら、歩夢さんはまた私の頭を優しく撫でてくれた。
しずく「……はい……っ……」
本当はわかっていたんだ。
だって今、歩夢さんが言っていることは、私がロトムと鞠莉さんに伝えたかったことだから。伝えたことだから。
悲しいこと、怖いことがたくさんあって、いつの間にか私も見失っていたんだ。
歩夢さんに話してみて、やっと心のつかえが取れた気がして──安心と一緒に、また涙が零れる。
しずく「す、すみません……っ……私、泣いてばかりで……っ……」
歩夢「うん、大丈夫だよ。しずくちゃん」
ポロポロと涙を零す私。そんな私を優しく撫でる歩夢さん。
そんな私たちを見て、
「マネ…」
マネネは私の肩までよじ登り。
「マネ…」
歩夢さんのように、私の頭を優しく撫でてくれる。
……そこで私は、やっと気付いた──……そっか、そういうことだったんだ。
“まねっこ”と“ものまね”の違い。
──“まねっこ”はただ、目の前の人の仕草を真似るだけだけど……。
──“ものまね”は、その行動の意味を、気持ちを、自分で理解して、することなんだ。
今のマネネのように。泣いている私を、慰めたいって、優しい気持ちで──歩夢さんの“ものまね”をしているように。
しずく「……いつの間にか……成長、してたんだね……っ……マネネ……っ……うぅん……っ……」
「──バリ」
しずく「バリヤード……っ……」
「バリ♪」
“まねっこ”は“ものまね”に。マネネは──バリヤードに。
- 865 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:22:59.16 ID:hRdoaDre0
-
しずく「今まで、構ってあげられてなくて……ごめんね……っ……」
「バリバリ♪」
私はバリヤードを抱きしめる。
こんなに優しい、私の友達。私の最初の友達。
姿が変わったくらいで、なくなってしまうわけなかったんだ。
しずく「どんなに姿が変わっても……ずっと、一緒だよ……」
「バリバリッ♪」
私は姿が変わっても、こんなに愛おしいんだと、再確認出来て──やっと心の底から、安堵したのだった。
💧 💧 💧
歩夢「落ち着いた?」
しずく「……はい。すみません、いろいろご迷惑を……」
歩夢「もう……だから、そういうこと言っちゃダメだよ!」
しずく「す、すみませ……あ、えっと……。…………すみません」
歩夢「……ふふ♪ しずくちゃんらしいけど♪」
「バリバリ♪」
しずく「むぅ……バリヤードまで……」
少し膨れてしまう。
歩夢「それにしても……私が知ってるバリヤードと少し違うかも……」
しずく「はい。この子はガラルで出会ったマネネが進化したバリヤードなので……」
図鑑を開いて歩夢さんに見せる。
『バリヤード(ガラルのすがた) ダンスポケモン 高さ:1.4m 重さ:56.8kg
タップダンスが 得意。 足の 裏から 出す冷気で つくった
氷の 床を 蹴り上げ バリヤーの ごとく 身を 守る。
凍らせた 床の 上で 1日 タップダンスに 励んでいる。』
歩夢「ガラルのバリヤードは、こおりタイプもあるんだね」
しずく「はい♪」
「バリバリ♪」
歩夢さんとバリヤードの新しい姿について話しているうちに──激しい雨の音はすっかり消えており、
歩夢「……雨……あがったね……!」
しずく「……はい!」
気付けば雲の隙間から、夕日の茜が差し込んできて、私たちを照らしていた。
それとほぼ同時に──
侑「おーーい!! 歩夢ーーー!! しずくちゃーーん!!」
かすみ「やっと見つけましたよー!! しず子ーーー!! 歩夢せんぱーい!!!」
川の向こう岸から、かすみさんと侑先輩が、私たちを呼んでいた。
- 866 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:23:33.83 ID:hRdoaDre0
-
歩夢「侑ちゃーん! かすみちゃーん! 今そっちに行くねー! トドグラー、もう一度向こう岸まで泳げる?」
雨も落ち着いて、少しずつ大人しくなってきた川を渡ろうとする歩夢さん。
しずく「歩夢さん、もう泳いで渡らなくても大丈夫ですよ」
歩夢「え?」
しずく「ね、バリヤード♪」
「バリバリ♪」
バリヤードがタップダンスを踏みながら、川へと歩いていくと──彼の足元が凍り付いて、氷の道が出来上がる。
歩夢「わぁ……!」
しずく「行きましょう、歩夢さん♪ 二人が待ってます♪」
歩夢「うん♪」
私はバリヤードと共に──雨の晴れた10番道路を、再び歩き始めたのでした。
- 867 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/10(土) 16:24:05.55 ID:hRdoaDre0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【10番道路】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. ●| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 しずく
手持ち ジメレオン♂ Lv.33 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
バリヤード♂ Lv.25 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アオガラス♀ Lv.32 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロゼリア♂ Lv.33 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
サーナイト♀ Lv.32 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:172匹 捕まえた数:11匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.43 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.41 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.38 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
トドグラー♀ Lv.33 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラエッテ♀ Lv.28 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:170匹 捕まえた数:17匹
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.48 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.48 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.45 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.39 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
タマゴ なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
ルガルガン♂ Lv.83 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:167匹 捕まえた数:5匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.43 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.40 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.39 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.37 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.38 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:164匹 捕まえた数:8匹
しずくと 歩夢と 侑と かすみは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 868 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2022/12/10(土) 18:54:26.43 ID:3U0IO5Sko
- 『雑談しながらポケモンSVランクマ考察する2』
(14:51〜開始)
https://www.twitch.tv/kato_junichi0817
- 869 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 09:57:24.11 ID:6zYh2+nI0
- ■Intermission🎹
──4人の女の子が、砂漠のような世界を歩いているのを足元から見上げていた。
「……あつ、すぎ……る……」
「我慢しなさい……暑いのはみんな同じよ……」
「こんなときのために、発明したものがある」
「発明?」
「自立式自動日傘ロボット『パラソル君』」
「おぉ〜傘が開いた」
「いや……大きすぎでしょ……どこにしまってたのよ……」
「布部分は真空圧縮してる。携帯性抜群」
「でも、快適だよ〜……生き返る〜……」
「はぁ……じゃあ、進みましょうか」
そう言って、リーダーらしき女の子の一声で一行は歩き出すけど──
「……いや、遅すぎるんだけど……」
「風の抵抗をモロに受けるから、このスピードが限界」
「むしろ、これくらいゆっくりな方が楽でい〜よ〜♪」
「今すぐ閉じて進むわよ」
「えぇ〜!? なんで〜!?」
「ま、日が暮れると砂漠はめちゃくちゃ冷えるからね……それはそれでしんどいし」
「ちぇ〜……わかったよぉ〜……」
のんびり屋さんっぽい女の子が項垂れると同時に── 一陣の風が吹く。
「……!? い、今のって〜……!?」
「……お出ましみたいね」
「──、下がって……」
「う、うん……」
女の子に抱き上げられながら、下がっていく。
緊迫する空気の中──
「──フェロッ」
真っ白な体躯のポケモンが、猛スピードで突っ込んできた──
──
────
──────
- 870 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 09:58:04.96 ID:6zYh2+nI0
-
侑「…………」
身を起こす。
侑「…………また…………変な夢……」
もうこの夢を見るのは何度目だろうか。
今回はいつもよりも登場人物が多かったけど……。……しかも、見覚えがあるような、ないような……。
だけど、やっぱり絶妙に思い出せない……。
暗がりの中で、ぼんやりと周囲を見回すと、
歩夢「…………すぅ…………すぅ…………」
「…zzz」
歩夢がシュラフの中で、サスケと一緒に寝息を立てていた。
リナ『侑さん? どうしたの?』 || ╹ᇫ╹ ||
私が起きたことに気付いたのか、リナちゃんがふわりと私の目の前に現れる。
侑「ちょっと目が覚めちゃっただけだよ」
リナ『雨の音のせいかな?』 || ╹ᇫ╹ ||
リナちゃんにそう言われて──確かに私たちのテントに雨粒が当たっている音がしていることに気付く。
侑「せっかく止んだのに……また降ってきちゃったんだね」
リナ『10番道路は天候が変わりやすいから仕方ない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
リナちゃんと話していると、
「ブイ…?」
私のシュラフで一緒に寝ていたイーブイが、寝ぼけまなこで私のことを見上げていた。
- 871 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 10:00:01.03 ID:6zYh2+nI0
-
侑「あ、ごめんね。起こしちゃったね……まだ寝てていいよ」
イーブイを撫でながら言うと、
「ブイ…♪」
気持ちよさそうな声をあげたあと、また丸くなって、眠り始めた。
イーブイや歩夢たちの睡眠の妨げにならないように、私は声のボリュームを1段階落とす。
侑「かすみちゃんたちのテントは平気かな……?」
リナ『川からは離れてるし、雨自体もそんなに強くないから大丈夫だよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「ならいいんだけど……。…………ふぁぁ……」
リナ『まだ朝まで時間があるから、ちゃんと寝ておいた方がいいよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「うん……そうする……」
もぞもぞとシュラフに潜り込み、もふもふのイーブイを抱きしめる。
侑「イーブイ……あったかい……」
「……ブィ…zzz」
もふもふでぽかぽかなイーブイを抱きしめていると、私の意識はまたすぐに眠りへと落ちていくのだった。
………………
…………
……
🎹
- 872 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 18:58:25.43 ID:6zYh2+nI0
-
■Chapter044 『急転』 【SIDE Setsuna】
菜々「……やはり、雨ですね」
マンションのエントランスから空を見上げると、灰色の空から雨が降り注いでいた。
不幸中の幸いとも言えるのは、昨日の午後のような、記録的な土砂降りではないことくらいだろうか。
昨日は大雨のせいで、公共交通機関にも乱れが生じるほどだったそうだ。
夕方ごろに一度、晴れこそしたものの……また明け方に掛けて天気が崩れ、雨になっている。
ただ、ここは整備の行き届いたローズシティ。
普通の雨くらいなら、舗装された道路を歩くのも、そこまで苦ではない。
私は真っ赤な傘を差して、仕事へと向かう。
🎙 🎙 🎙
本日の仕事は、数週間後に控えた、ビジネス発表会のための打ち合わせだそうだ。
会議を行うビジネスタワーで入館手続きを済ませ中に入ると、ローズシティ内の様々な企業の人たちの姿が目に入る。
件のビジネス発表会というのは、このローズシティの中でもかなり大きなビジネスショウの一つで、ローズ中の会社が集うイベントとなる。
真姫さんはローズシティにある、かなりの数の企業に影響を持っているニシキノ家のご令嬢ということもあり、顔を出さないわけにはいかない。
そして、そんな真姫さんのスケジュール管理と業務補佐をするのは、秘書である私の役目だ。
菜々「真姫さんは……もう会議室の方に行ってるのかな」
エントランスホール内には姿が見えないので、私は会議室の方へと足を運ぶ。
それにしても、本日の会議は急に決まったものだと言うのに人が多い。
やはり──噂のスーパーモデルの飛び入り参加が大きいのだろう。
一応、昨日のうちに件の人物については調べておいた。
──アサカ・果林。4年ほど前に突如モデル界に現れ、その抜群のプロポーションと人の目を引くカリスマ性で、そちらの界隈ではかなり話題になっていたそうだ。
私は……家庭の方針でそういう浮ついたものには触れさせてもらえなかったので、あまり知らなかったけど……。
今ではファッション業界や化粧品会社などから、多くの仕事を請け、広告塔としても有名のようだ。
そんな彼女とお近づきになっておきたい企業はいくらでもある。
だから、このような急なスケジュールでも、多くの企業から人が出張ってきているのだろう。
エントランスホールから廊下を抜け、エレベーターホールに差し掛かったとき、
菜々「……あ」
ちょうど、エレベーターに乗り込むお父さんの後ろ姿がちらっと見えた。
──お父さんも、今日の会議にいるんだ……。
お父さんもニシキノグループの関連企業の人間だ。いてもおかしくはないけど……。
父の姿を見ると、少しだけ緊張してしまう。
菜々「……落ち着きなさい、菜々。……私はあくまで秘書として、仕事をこなすだけです」
- 873 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 18:59:39.87 ID:6zYh2+nI0
-
小さく呟きながら、自分を落ち着かせる。
いつもどおり、真姫さんの傍で真姫さんを補佐することに専念すればいい。
次のエレベーターが来るのを待ちながら、息を整えていると──エレベーターホールの向こう側から、
「──……もう……会議室はどっちなのぉ……?」
そんな声が聞こえてきた。
菜々「……?」
エレベーターホールの向こう側って……非常階段だよね?
私はエレベーターホールを抜けて、非常階段の方に足を向ける。
すると──深い青みがかった髪をウルフカットにしている、長身の女性がいた。
まさに昨日調べていた人、
菜々「……アサカ・果林さん……?」
果林「……え?」
──アサカ・果林さんその人だった。
菜々「こんなところで、どうかされたんですか?」
果林「え、えぇっと……。……会議室に行きたいんだけど」
菜々「会議室ですか……?」
もしかして……道に迷っている?
いやでも……会議室はエントランスホールからエレベーターホールで上の階に行くだけだし……。
どうやっても、この非常階段に来る間にエレベーターの前は通るはずなんだけど……。
……まあ、いいか。困っているのなら、助けることに理由はいらないでしょう。
菜々「私も会議室に用があるので、よろしければ一緒に行きましょうか」
果林「ホントに……? 助かるわ……」
菜々「こちらです」
私は果林さんと共に会議室へと赴く──
🎙 🎙 🎙
──エレベーターで上階へ昇りながら、
果林「貴方……もしかして、真姫さんの秘書かしら?」
菜々「え……?」
果林さんから、そう話を振ってきた。
- 874 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:01:47.81 ID:6zYh2+nI0
-
菜々「えっと……はい、確かにそうですが……」
果林「やっぱり」
菜々「よくご存じでしたね……」
果林「真姫さんの秘書は若い女の子だって聞いていたから……。このビルで見かけた人の中でも、貴方は飛びぬけて若い子だったから、もしかしてと思って」
菜々「なるほど……」
果林「確か……ナカガワ・菜々さんよね」
菜々「はい」
果林「まだ16歳って本当なの?」
菜々「は、はい……真姫さんに直接秘書にならないかとお声を掛けていただいて……」
果林「若いのに、有能なのね」
菜々「い、いえ、そんな……///」
果林「それに、可愛い顔してる……」
菜々「はいっ!?///」
果林さんの言葉に、思わず声が裏返る。
果林「その容姿なら、きっと人気者になれるわよ?」
菜々「か、か、からかわないでくださいっ!!///」
思わず、果林さんから目を逸らす。
この人は急に何を言い出すんだ。
果林「ふふっ、ごめんなさい。でも、可愛いって思ったのは本当よ?」
菜々「ぅぅ……///」
顔が熱い。ポケモンバトルを褒められることはよくあるけど、こんな風に容姿を褒められるのには慣れていない。
しかも──今の私は菜々モードだ。眼鏡に三つ編みで、比較的地味な見た目にしているはずなのに……。
果林「ふふ……隠してもダメよ? お姉さんには、わかっちゃうんだから」
菜々「だ、だから……か、からかわないでください……///」
果林「ふふ、ごめんなさい♪」
果林さんが、いたずらっぽく笑うのとほぼ同時に──ピンポーン。という音と共に、エレベーターが目的の階に到着する。
エレベーターのドアが開くと果林さんは、
果林「案内してくれてありがとう、それじゃまた後でね」
そう残して、先に行ってしまった。
菜々「……はぁ……///」
一緒にエレベーターに乗っていただけなのに、なんだか気疲れしてしまった。
菜々「……これから、大事な会議なんだから、しっかりしないと」
私は動揺を飛ばすために頭を振り、果林さんの後を追ってエレベーターを降りるのだった。
──余談ですが、何故か果林さんが会議室に姿を現したのは、会議開始時間ギリギリでした。……ちゃんと会議室まで案内してあげた方がよかったのかもしれません。
- 875 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:02:50.07 ID:6zYh2+nI0
-
🎙 🎙 🎙
──さて……。会議は滞りなく終わり、
菜々「真姫さん、お疲れ様です。こちら、本日の内容を簡単にまとめたものです」
真姫「ありがとう、菜々」
他の参加者たちはまばらに退室を始めているところだ。
真姫さんに情報をまとめた端末を渡しながら、周囲を軽く確認すると──果林さんはもう退室していて少しだけ安心する。
それと……お父さんの姿も、すでに会議室内にはなかった。
真姫さんもお父さんの姿がもうないことを確認したのか、
真姫「菜々、大丈夫だった?」
そう訊ねてくる。
菜々「はは……確かに、父と同じ場所で仕事をしていると思うと、少し緊張はしましたが……会話をしたわけでもないですし……問題ありません」
真姫「なら、いいけど」
……始まる前や終わった後に、少しくらい話しかけられるかなと思ったけど……そんなこともなかったし……。
真姫「私たちも、出ましょうか」
菜々「はい」
私は真姫さんと一緒に、会議室を後にする。
二人でエレベーターを降りながら、真姫さんはふと会議中のことを思い出したらしく、
真姫「そういえば、貴方……アサカさんから随分熱い視線を送られてた気がするけど……知り合いだったの?」
そう訊ねてくる。
菜々「え、ええっと……ここに来る前に、会議室の場所がわからずに困っていたので……場所をお教えした際に少しお話ししまして……」
真姫「あら……少し話しただけで随分気に入られたのね」
菜々「き、気に入られたというか……私が分不相応に若いから、気になっただけですよ……」
本当に気に入られたというよりも、からかわれただけですし……。
場が場だけに、私は一際若い……というか、他の人から見たら子供ですし……。
真姫「案外、トップモデルから見ても、光るモノを感じられたのかもしれないわよ?」
菜々「ま、真姫さんまで……やめてください……///」
恥ずかしいから、からかわないで欲しい。
せつ菜モードでなら、褒められてもうまく対応できるのに、菜々モードのときにこういうことを言われるとワタワタしてしまう。
真姫「それにしても……そういうのはマネージャーの仕事だと思うんだけど……」
菜々「言われてみればそうですね……」
会議中、果林さんの背後には、スーツを着た金髪のお姉さんが居ましたが……恐らくあの方がマネージャーなんだと思います。
会議室にギリギリで入ってきたときは一緒にいたので、会議室のある階で合流出来たのかもしれませんが……。
- 876 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:03:32.69 ID:6zYh2+nI0
-
真姫「まあ……滞りなく会議も終わったし、別にいいけど」
確かに向こうの事情は向こうにしかわからない。
果林さんはあまりマネージャーに頼らない方針なのかもしれないし……。
せめて、行き先にたどり着けるようにしてあげて欲しいですが……。
二人で話しながら、エントランスホールへと戻ってくる。
菜々「……そういえば、真姫さん。そろそろ、ジムの挑戦者受付時間ですよね?」
真姫「ええ、わかってる。私はジムに戻るから、菜々は……」
菜々「私は今日の会議の内容をちゃんと纏めて、後で持って行きますね」
真姫「ありがとう。お願いね」
菜々「はい。お任せください」
真姫さんはジムに戻るために、一足先にビジネスタワーを後にする。
私は……どうしようかな。タワー内には一般の人も使える、カフェスペースがあるし……そこで資料を纏めようかな。
👠 👠 👠
愛「カリンさー、どうすれば一本道で迷うわけ?」
果林「い、いいじゃない……ちゃんとたどり着けたんだから……。それに愛こそ、マネージャー役なのに、私を無視して先に行っちゃうのはどうなのかしら?」
愛「気付いたら、いなくなってただけじゃん……せっつーもカリンを見つけたときはさぞ驚いただろうね。“タワー”にカリンおっ“たわー”! って感じで」
果林「はいはい……じゃあ、私が悪かったってことでいいわよ……」
愛「いや、愛さんに悪いところ一つもないと思うんだけどなー……。それより、この後どうすんの? 逃走経路の確保と、ここらの監視カメラのクラッキングはやっておいたけどさ」
果林「大丈夫よ。もう全部──仕掛けてあるから」
──直後、ドンッと何かが壊れるような大きな音がする。
果林「さて……どうなるかしらね」
私は今後の展開を思い、口角を釣り上げた──
- 877 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:04:21.49 ID:6zYh2+nI0
-
🎙 🎙 🎙
菜々「……これでいいかな」
ある程度今日の会議の内容が纏まって来たところで一息。
目の前がガラス張りになっているカウンター席で、エントランスホールを眺めながら、コーヒーを飲む。
程よい苦みと香りが心地いい。
作業もスムーズに進んだし、この後は少し時間が浮く。
真姫さんへ資料を渡したあと、久しぶりにローズの街を散歩するのも悪くないかもしれない。
どうせ、また明日からはせつ菜として、この街を離れるわけだし……。
ぼんやりと今後のことを思案していた──そのときだった。
──ドンッ!! と急に大きな音が、響く。
菜々「!? ……な、なに……?」
爆発……? 周囲のお客さんも突然の大きな音に、ざわついている。
音がしたのは……エレベーターホールの方……?
何が起きたのか考えている間に──エレベーターホールの方から、逃げ惑う人の波がエントランスの方へと押し寄せて来た。
その姿にさらにざわめく店内。
何かがあったのは間違いなかった。
私はバッグをひったくるように手に取り、店の外に駆けだす。
カフェスペースから外に出る頃には──この騒動の正体が、すでにエントランスホールまで姿を現していた。
「──バーンギッ!!!!!」
エレベーターホールの方から、怪獣のような巨体が、我が物顔で歩いてくるではないか。
菜々「ば、バンギラス……!?」
姿を現したのは、よろいポケモン、バンギラス。当たり前だが、こんなところにいるはずがない。
ここはローズシティの、それも中央地区にあるビジネスタワーだ。
突然のことに動揺を隠せないが──それ以上に、エントランスホール内の混乱は酷かった。
逃げ惑う人たちから、怒号が飛び交い、押し合い圧し合いで、逃げ惑う。
まさに、パニック状態だった。
パニックの最中、
女性「きゃぁ……!!」
逃げ惑う人たちに押されて、転んだ女性が目に入る。
「バンギィ…!!!!」
バンギラスは声をあげながら、転んだ彼女の方に視線を向ける。
女性「……い、いや……! だ、誰か……たすけ……!」
菜々「……! いけない……!!」
- 878 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:05:57.06 ID:6zYh2+nI0
-
私は咄嗟に走り出す。
迷っている暇なんかなかった。
バッグの中から、ボールベルトごと引っ張り出して、
「バァンギッ!!!!!」
女性「いやぁっ……!!」
女性に向かって襲い掛かるバンギラスに向かってボールを投げた。
──ボムという音と共に、
「──ドサイッ!!!」
「バンギッ…?」
現れた巨体が、バンギラスの拳を受け止める。
菜々「ドサイドン!! “ロックブラスト”!!」
「ドサイッ!!!」
組み合った手とは逆の掌を、バンギラスに突き付け──至近距離で岩石の砲弾を発射する。
「バンギッ!!?」
──ドンッ、ドンッ! と音を立てながら、岩の砲弾がバンギラスを吹き飛ばす。
菜々「大丈夫ですか……!?」
女性「は、はい……っ……」
菜々「ここは私がどうにかします……! 貴方は逃げてください!」
女性「あ、ありがとうございます……っ……」
よろよろと立ち上がる彼女を手助けしながら、どうにか送り出すと──
「バァンギッ!!!!」
鳴き声と共に、私たちの方に向かって大岩が飛んでくる。
菜々「……っ! “ドリルライナー”!!」
「ドサイッ!!!」
頭のドリルを回転させて、飛んできた岩を破壊する。
が、その隙に、
「バァンギッ!!!!」
バンギラスが突撃してくる、
菜々「くっ……!」
まだ背後には逃げ遅れた人たちがいる。止めなくちゃ……!
せつ菜「ドサイドン! 受け止めなさい!!」
「ドサイッ!!!」
「バンギッ!!!!」
- 879 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:06:40.00 ID:6zYh2+nI0
-
二つの岩の巨体がぶつかって、がっぷり四つで組み合う形になる。
私のドサイドンはパワーが自慢。組み合いさえしてしまえば並のポケモン程度にはまず力負けしない──
「バンギィッ!!!」
「ド、ドサィ…ッ!!!」
菜々「な……!?」
が、私の予想と反して、ドサイドンが押され始める。
さらに、
「バァンギッ!!!!」
組み合いながら、バンギラスが首を伸ばして、ドサイドンの肩に噛みついてくる。
この状況で“かみくだく”……!?
いや、それだけじゃない。パキパキと音を立てながら、バンギラスの噛み付いた部分が凍り付いていく。
菜々「まさか“こおりのキバ”……!?」
このバンギラス──強い。しかも、恐ろしく戦い慣れている。
「ド、ドサイッ…!!!」
これは──これ以上、組み合っちゃいけない……!
菜々「“アームハンマー”!!」
「ドサイッ!!!」
ドサイドンは片手を振り上げ、それをバンギラスの肩の辺りに勢いよく振り下ろす。
──ガンッ! と大きな音を立てながら殴りつけられたバンギラスは、
「バンギッ…!!!」
さすがに、噛みつき続けていられずに、体勢を崩す。
そこに向かって、
菜々「“アイアンテール”!!」
「ドサイッ!!!!」
ドサイドンが身を捻りながら、尻尾にある大きな石鎚を叩きつけた。
「バァンギッ!!!?」
遠心力を利用した尻尾のハンマーの威力に、バンギラスが数メートル吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「バン、ギッ…」
崩れる瓦礫と砂煙の中──やっとバンギラスは大人しくなる。
と同時に──バンギラスが何かに吸い込まれて小さくなっていく。
菜々「……!?」
一瞬、何かと思ったが──
菜々「まさか、トレーナーがいる……!?」
- 880 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:07:15.42 ID:6zYh2+nI0
-
今のは、バンギラスがボールに戻されただけだ……!!
そう気付いて、
菜々「待ちなさい……!!」
私は駆け出した。
だけど、砂煙と瓦礫に視界を遮られているせいで──犯人の姿を見つけるのは、とてもじゃないが困難だった。
菜々「く……」
先ほどバンギラスが倒れた瓦礫の向こう側に辿り着いた時には──すでに人影のようなものは見当たらず……。
菜々「逃げられましたね……」
私は苦々しい顔で、肩を落とす。
それにしても……どうしてこんなことが……。
これが人為的なものであるなら……ポケモンによるテロ行為と言って差し支えない。
到底許されるものではない……。
私が怒りに肩を震わせながら、振り返ると──
菜々「……え」
そこには──お父さんがいた。
お父さんが、信じられないものを見るような目で──私を見つめていた。
菜々「お、とう……さん……」
菜々父「……菜々、どういうことだ」
──どういうことだ。
その言葉が、この事態に対する説明要求──でないことは、すぐに理解出来た。
父の表情を見て──理解、してしまった。
ポケモンと、共に戦う私に対しての──『どういうことだ』。
「ド、ドサイ…」
菜々「こ、れは……そ、の……」
何か誤魔化さなきゃ。そう思ったけど、考えれば考えるほど、頭の中は真っ白になっていく。
言い訳なんて、出来るはずがない。
自分の気が──どんどん遠くなっていくのを感じた。
🎹 🎹 🎹
かすみ「到着しましたー!! ローズシティ!!」
「ガゥガゥ♪」
侑「うん!」
「イブィ♪」
- 881 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:08:08.53 ID:6zYh2+nI0
-
──雨模様の10番道路の長い道のりを越え……私たちはようやく、ローズシティにたどり着いた。
さて、ローズシティに着いたならまずは……。
侑「ローズジムだよね!」
かすみ「侑先輩、さすがわかってますねぇ〜!」
かすみちゃんと二人で黒と黄色の傘を並べながら意気揚々と、歩き出す。
歩夢「あ、侑ちゃん……ローズを歩くなら、イーブイをボールに入れないと……」
侑「え? どういうこと?」
歩夢の言葉に首を傾げる。
リナ『ローズシティでは、あんまりポケモンの連れ歩きが推奨されてない。基本的にボールに入れてた方がいい』 || ╹ᇫ╹ ||
かすみ「え、そうなの?」
しずく「本当に厳しいのは中央区だけなんだけど……基本的にはポケモンはボールに入れておいた方がいいかもね」
リナ『無用なトラブルは避けたいしね。郷に入っては郷に従え』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
かすみ「ポケモンを出しちゃいけないなんて、珍しい街ですね〜?」
「ガゥ?」
侑「うーん……でも、そういうルールなら従わないわけにもいかないよね……」
かすみ「まあ、それもそうですね……戻って、ゾロア」
「ガゥ──」
かすみちゃんがゾロアをボールに戻す。
歩夢も同様に、
歩夢「ちょっと窮屈だけど……ボールの中で大人しくしててね」
「シャボ──」
サスケをボールに戻していた。
私も、イーブイを戻さないと……。
侑「イーブイ、しばらくボールの中に──」
私がボールを近づけると、
「ブイッ」
イーブイは前足でボール弾き飛ばした。
侑「…………」
「ブィィ…ッ!!!」
かすみ「なんかめっちゃ怒ってますよ、イーブイ……」
歩夢「侑ちゃんのイーブイ……ボールに入るのが嫌いなんだよね」
侑「そうなんだよね……」
実はイーブイをボールに入れたことは一度しかなくて……自分の手持ちとして登録する際に一瞬ボールに入れたときだけだ。
何度かボールに戻そうとしたことはあるにはあったんだけど……ものすごく嫌がられるし、私の頭の上か、肩の上にいるのが好きみたいだから、ずっとボールには入れてなかったんだよね。
- 882 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:09:00.01 ID:6zYh2+nI0
-
侑「どうしよう……」
しずく「ボールに入れられないなら……抱きかかえて歩くのがいいかもしれませんね。……抱きしめていれば、突然飛び出したりしないとわかってもらえるでしょうし……」
リナ『しずくちゃんの言うとおり、たぶん抱っこしてれば大丈夫だと思う。中央区にはあんまり行かない方がいいだろうけど、ジムがあるのは街の外側だし』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「うん……そうするしかないね……」
「ブイ…?」
侑「歩夢、ちょっと傘持っててもらっていい?」
歩夢「うん」
歩夢に傘を持ってもらい、頭の上のイーブイを両手で掴んで、そのまま胸に抱きかかえる。
侑「これならいい?」
「ブイ♪」
どうやら、これなら許してもらえたようだ。歩夢から傘を受け取りながら、空いた方の手でイーブイをしっかり胸に抱き寄せる。
侑「それじゃ、ジムに行こっか!」
かすみ「はい! 腕が鳴りますね〜!!」
私たちはローズジムを目指して、ローズシティの地に足を踏み入れます!
🎹 🎹 🎹
しずく「──ローズシティは外側部は低い建物が多くて、中央区に近付くほど、高いビルが増えていくんですよ」
侑「じゃあ……あっちの方向が中央区なんだね」
私は一際背の高いビルの方に目を向ける。
リナ『一番高いのはセントラルタワーって言うんだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
しずく「一番背の高いセントラルタワーを中心に、同心円状にビルの高さが変わって行くんです。なので、夜のローズシティを上空から見ると、夜景が光の山のように見えるそうですよ」
かすみ「なにそれなにそれ〜! 絶対きれいなやつじゃん!」
リナ『ただ、中央区の中でもセントラルタワーの上空付近は飛行許可を取らないと、“そらをとぶ”も使えないから、一般人が見るのはなかなか大変みたい』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「噂には聞いてたけど……ローズシティって本当に厳重なんだね……」
しずく「この地方の商業、工業の要ですからね……。この街の中央区が止まると、同時にいろんな物流が止まってしまうそうなので……」
リナ『モンスターボールなんかも、このローズシティから出回ってるしね。ボールの出荷が停止すると、どこも困っちゃう』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「ポケモンは少ないけど、トレーナーにとっても重要な街なんだね」
「イブィ?」
オトノキ地方の大きな街の中でも、いろんなポケモンの姿が見られるセキレイシティとは真逆だけど……この街はこの街で、重要な役割を担っているみたいだ。
しずく「中央区とは逆に外周区には、ポケモン用の施設が多くあります。ポケモンセンターやバトル施設……それこそ、ポケモンジムも外周区にありますね」
リナ『多いって言っても、街の規模に対して考えると少ないけどね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
かすみ「まあ、そのお陰でこーんなおっきな街でも、すぐにジムにたどり着けるけどね!」
そう言いながら、私たちはまさにローズジムの前に到着したところだった。
侑「ここがローズジム……! なんだか、今からジム戦するって考えただけで、ときめいてきちゃう!」
「イブィ♪」
- 883 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:09:37.71 ID:6zYh2+nI0
-
ローズジムの真姫さんとはどんなバトルになるんだろう……! 楽しみで、今からときめきが止まらない……! ついでにサインも貰わないと……!
リナ『侑さん、ときめくのはいいけど、もう一個目的があるの忘れないでね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「もちろん! 千歌さんのルガルガンを渡すことだよね!」
このために研究所から、真っすぐローズシティまできたわけだしね!
侑「それじゃ、入ろうか」
私は早速ローズジムの中に入ると、
真姫「──あら、いらっしゃい。チャレンジャーかしら?」
ジムの中には、早速ジムリーダー──真姫さんの姿。
侑「わ……! 本物の真姫さん……! とりあえず、サイン色紙……」
リナ『侑さん、目的……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
歩夢「あはは……」
歩夢が苦笑している。
一方で真姫さんは、
真姫「あら……? そのロトム図鑑……もしかして、貴方が侑?」
何故か私の名前を言い当ててくる。
侑「え!? な、なんで知ってるんですか……!?」
真姫「善子から聞いてるわ。ジムに挑戦するついでに、千歌のルガルガンを持ってきてくれたのよね」
侑「あ、は、はい!」
私は小走りで真姫さんのもとに駆け寄り、
侑「このモンスターボールの中に、千歌さんのルガルガンが入ってます……!」
真姫さんに手渡す。
真姫「ありがとう。確かに受け取ったわ」
侑「は、はい! あ、あの……それと……」
真姫「何かしら?」
侑「もしよかったら……サインください!」
真姫「ふふ、いいわよ」
侑「やったー! ありがとうございます!」
私がバッグから、サイン色紙を取り出そうとすると、
かすみ「ちょーーーっと待ってください!!」
かすみちゃんが大きな声をあげる。
かすみ「侑先輩! サインは後ですよ! かすみんたちはジム戦をしに来たんですから!!」
そう言いながら、かすみちゃんが前に出てくる。
- 884 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:10:17.77 ID:6zYh2+nI0
-
真姫「あら……ということは貴方もチャレンジャーかしら?」
かすみ「はい! かすみんは、セキレイシティから来たかすみんです!」
真姫「かすみん……? 変わった名前ね?」
しずく「す、すみません……この子の名前はかすみさんって言います……。……もう、初対面の人に変な自己紹介したら、めっ! って何度も言ってるでしょ!」
真姫「ああ……にこちゃんのにこにー的なアレね……」
かすみ「ちょっとぉ!! あんなのと同じにしないでくださいよ!」
真姫「まあ、それはいいんだけど……侑とかすみ、どっちと先にジム戦すればいいのかしら?」
真姫さんは私とかすみちゃんを交互に見ながら、そう訊ねてくる。
しずく「そういえば、どっちが先にジム戦をするかの話、してなかったね……」
かすみ「……侑せんぱ〜い……? かすみんが先にジム戦しちゃダメですかぁ〜……?」
かすみちゃんが可愛くおねだりしてくる。
侑「ふふ、いいよ♪ 私はかすみちゃんの後で大丈夫だから!」
そう答えて、私は一旦見学スペースの方へと歩いていく。
かすみ「あ〜ん♡ 侑先輩優しいですぅ〜♪ 好き好き〜♡」
しずく「侑先輩……いいんですか?」
侑「うん。むしろ後の方が、かすみちゃんとの試合を見て、対策も立てられるし」
かすみ「任せてください! かすみんがしっかり勝ち方を見せてあげちゃいますから!」
かすみちゃんは私と入れ替わるように歩み出て、チャレンジャー用のスペースに着く。
真姫「話は付いたみたいね。それじゃ、さっさと始めましょうか」
かすみ「よろしくお願いします!」
真姫さんがジム戦用のポケモンのボールを携え、フィールドに立った──そのときだった。
使用人「──お嬢様、お電話が入っております」
ジムの奥から、いかにもな使用人さんが電話を持って現れる。
真姫「電話……? ちょっと待ってもらっていいかしら」
かすみ「あ、はい。わかりました」
真姫「ありがとう」
真姫さんはお礼を言いながら、使用人さんの持ってきた受話器を受け取る。
真姫「誰から?」
使用人「それが……警察の方からです……」
真姫「……警察?」
真姫さんは電話の主を聞いて、眉を顰める。
真姫「もしもし……真姫だけど」
- 885 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:10:50.00 ID:6zYh2+nI0
-
かすみ「今、警察って言いませんでした……?」
リナ『ジムリーダーは街の治安維持も仕事だから、警察から連絡が来ることもあるとは思う』 || ╹ᇫ╹ ||
しずく「うん……何か、あったのかな?」
かすみ「なーんか、嫌な予感がしますぅ……」
ひそひそと話しながら、通話の行く末を見守っていると、
真姫「………なんですって?」
真姫さんの眉間にシワが寄るのがわかった。──そのまま目を細めて通話先の話を聴き、
真姫「……わかった。すぐ行くわ」
そう返して、通話を切った。
そして、かすみちゃんに向かって、
真姫「ごめんなさい……ちょっと、急用が出来て、どうしても出なくちゃいけなくなったわ」
申し訳なさそうに、そう伝えて来る。
かすみ「や、やっぱり……」
真姫「本当にごめんなさい……」
かすみ「あ、あのぉ……それじゃ、ジム戦……いつなら出来ますか……?」
真姫「……ちょっと、本当に緊急事態だから、しばらくジムを閉めるかもしれないわ」
かすみ「ええ!? そ、そんなぁ……!」
真姫「本当に急ぐから申し訳ないけど、ジムは他の場所から巡って頂戴」
それだけ残すと、真姫さんは私たちの横を通り過ぎ、駆け足でジムから立ち去ってしまった。
かすみ「ま、またこのパターン……」
リナ『かすみちゃん……ドンマイ』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
しずく「ここまで来ると、なんて声を掛ければいいやら……」
かすみ「……もう、いいです。慣れました……」
がっくりと肩を落とす、かすみちゃん。
しずく「と、とりあえず、ポケモンセンターのカフェスペースにでも行こ! ね?」
かすみ「……うん」
とぼとぼとジムから出ていくかすみちゃんと、そんなかすみちゃんを慰めるしずくちゃん。
歩夢「侑ちゃん、私たちも行こっか」
侑「う、うん」
とりあえず、ジムリーダーがいなくなってしまったし、この場にいても仕方ないので、私たちは一旦ポケモンセンターへと移動することに……。
- 886 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:11:27.75 ID:6zYh2+nI0
-
🎹 🎹 🎹
私たちがポケモンセンターに到着すると、どうして真姫さんが飛び出して行ったのかがわかった。
カフェスペースに備え付けてあるテレビモニターからは──警察車両に囲まれた建物の映像。
しずく「中央区のビル内で人がポケモンに襲われたって……」
かすみ「だ、大事件じゃないですかぁ!?」
歩夢「怪我人も出てるって……大丈夫かな……心配……」
3人の言うとおり、ビジネスタワーのビル内で、ポケモンが大暴れする事件が発生したらしい。
偶然居合わせたポケモントレーナーによって、どうにかそのポケモンを無力化することは出来たらしいけど……怪我人も出ているらしい。
不幸中の幸いというべきなのは、怪我人は転んで軽傷を負った程度のもので、襲われたことが原因で大怪我をした人はいないとのこと。
侑「これじゃ……ジムを飛び出して行ってもおかしくないよね……」
「ブィ…」
リナ『うん。ジムリーダーは街を守るのも仕事だからね』 || ╹ᇫ╹ ||
それこそ、ジム戦をしている場合じゃない状況だ。
しずく「こうなってくると……当分の間はジム戦は難しそうですね……」
かすみ「うぅ……さすがにこれは仕方ないよねぇ……」
リナ『中央区は安全確認が出来るまで、立ち入りも出来ないみたいだね』 || ╹ᇫ╹ ||
となると……この街で出来ることはかなり限られてくる。
それに、どのタイミングでジム戦受付が再開されるかもわからないし……。
侑「……真姫さんの言ってたとおり、他のジムを先に巡っちゃう方がいいかもしれないね」
しずく「そうですね……ここで待っていても、本当にいつジム戦の受付を再開するかもわからないですし……」
リナ『そうなると……東のクリスタルレイクを越えた先のクロユリシティに行くか、街を北に抜けて11番道路沿いに西のヒナギクシティを目指すかになると思う』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「クロユリかヒナギクかぁ……」
歩夢「クロユリとヒナギクは、ローズシティを経由するから……どちらにしろ、どっちかの町に行ったら、ローズに戻ってくることになるね」
侑「考えようによっては、むしろ都合がいい気もするけど……」
どちらにしろ、ローズにジム戦をしに戻ってくる必要はあるわけだしね。
ただ、問題はどっちに進むかだ。
侑「私は……クロユリに行きたいかな」
リナ『何か理由があるの?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「私、クロユリのジムリーダーの英玲奈さんに会ってみたいんだ」
──彼女はこのオトノキ地方の中で最強のジムリーダーと呼ばれている。
ジムリーダー序列というジムリーダー内での総当たり試合の勝率でも頭一つ抜けているし、その実力は四天王と同等……もしくはそれ以上なんて噂もあるくらいの人だ。
ストイックで鍛錬に余念がなく、むしポケモンによる畳みかけるようなバトルスタイルから、付いた通り名は『壮烈たるキラーホーネット』。
まさにポケモンバトルのスペシャリストみたいな人だ。
もちろん、全てのジムを回る以上、いつかは会えるとは思うんだけど……クロユリかヒナギクかと言われたら、私はポケモンバトルのスペシャリストである英玲奈さんに会ってみたかった。
かすみ「じゃあ、次はクロユリシティですかね?」
- 887 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:12:05.06 ID:6zYh2+nI0
-
行き先が決定しかける中、
しずく「あ、あのぉ〜……」
しずくちゃんが遠慮がちに手を上げる。
歩夢「どうしたの? しずくちゃん?」
しずく「私は……その……。……ヒナギク側に行きたいなって……」
ここで予想外なことに、しずくちゃんから反対方向へ行きたいとの意見が出てきた。
かすみ「なになに? ヒナギクシティに何かあるの?」
しずく「うん……。私、クマシュンってポケモンと会ってみたくって……」
かすみ「クマシュン?」
歩夢「クマシュンって確か……寒い場所にいるシロクマポケモンだよね?」
しずく「はい……! ポケウッドスターのハチクさんの相棒──ツンベアーの進化前で……すっごく可愛いんです! 旅をするなら、実際に一度見てみたいとずっと思っていて……」
リナ『確かにクマシュンはグレイブマウンテンにしかいないから、会うならヒナギク方面に行かないといけないね』 || ╹ᇫ╹ ||
確かに旅をするならジム巡り以外にも、そこにしかいないポケモンに会うのも楽しみの一つだよね。
侑「そういうことなら……ヒナギク方面に行く?」
しずく「えっと……でも、侑先輩はクロユリ方面が良いんですよね……?」
侑「それはそうなんだけど……後から行っても英玲奈さんには会えるし……」
しずく「その理屈で言うなら、私もクロユリに行った後でも大丈夫です……! すみません、後から余計なことを言ってしまって……」
侑「うぅん、ここはしずくちゃんの意見を優先しよう」
しずく「い、いえ、侑先輩の行きたい場所を優先に……」
かすみ「もう! なんで二人して譲り合ってるんですか!」
譲り合い合戦が始まってしまった私たちの間に、かすみちゃんが割って入る。
かすみ「なら侑先輩! 競争しませんか!」
侑「競争……?」
かすみ「はい! かすみんとしず子はヒナギク方面に、侑先輩と歩夢先輩はクロユリ方面に進んで──どっちが先にジム攻略出来るか、競争しましょう!」
侑「なるほど……」
確かに言われてみれば、4人で行動しなくちゃいけないわけじゃないし……行き先が割れちゃうなら、前みたいに、かすみちゃんはしずくちゃんと、私は歩夢と二人で旅をすればいい話だ。
侑「歩夢はそれでいい?」
歩夢「うん♪ 侑ちゃんと一緒なら、私はどっち方向でも♪」
リナ『それじゃ、決まりだね』 || ╹ ◡ ╹ ||
かすみ「かすみんたちは、ヒナギク方面へ!」
侑「私たちは、クロユリ目指して! 負けないよ、かすみちゃん!」
かすみ「かすみんも負けるつもりはないですよ! そうと決まったら、スタートダッシュです!」
- 888 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:12:37.44 ID:6zYh2+nI0
-
かすみちゃんはいそいそと荷物を纏めて、
かすみ「しず子、行くよ!」
しずく「え、ええ!? 今すぐ行くの!?」
かすみ「だって、そうじゃないと侑先輩に負けちゃうじゃん! 早くして!」
しずく「わ、わかったから、引っ張らないで〜……! ゆ、侑先輩、歩夢先輩、またローズで合流しましょう……!」
かすみ「レッツゴー!」
半ば強引にしずくちゃんの手を引きながら、かすみちゃんたちは慌ただしく旅立って行った。
侑「それじゃ、私たちも行こうか、歩夢、リナちゃん」
「イブィ♪」
歩夢「うん♪」
リナ『クロユリシティ目指して、リナちゃんボード「レッツゴー♪」』 ||,,> 𝅎 <,,||
私たちもクロユリシティを目指して、ローズシティを後にするのでした。
- 889 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/11(日) 19:13:13.24 ID:6zYh2+nI0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ローズシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | ● __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.50 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.50 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.48 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.42 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
タマゴ なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:176匹 捕まえた数:5匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.44 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.42 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.39 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
トドグラー♀ Lv.35 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラエッテ♀ Lv.30 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:179匹 捕まえた数:17匹
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.45 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.42 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.40 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.38 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.39 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:171匹 捕まえた数:8匹
主人公 しずく
手持ち ジメレオン♂ Lv.33 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
バリヤード♂ Lv.28 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アオガラス♀ Lv.33 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロゼリア♂ Lv.33 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
サーナイト♀ Lv.33 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:179匹 捕まえた数:11匹
侑と 歩夢と かすみと しずくは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 890 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 01:29:17.05 ID:ropYqdR40
-
■Intermission🍅
真姫「……これは予想以上に酷いわね」
──現場に到着した私は、『KEEP OUT』のテープを潜りながら、眉を顰める。
先ほど会議をしたビジネスタワーは外から見ても、中の惨状がよくわかる状況だった。
あちこちガラスは割れているし、中にはあちこちに瓦礫があって、砂煙が立ち込めている。
ここで戦闘があったというのは本当らしい。
私が、タワー内に立ち入ると、
ジュンサー「真姫さん……! お待ちしておりました!」
ジュンサーが私に気付いて、駆け寄ってくる。
真姫「これはまた……派手にやられたみたいね」
ジュンサー「はい……。ですが、お陰で助かりました……」
真姫「お陰で……? なんの話?」
ジュンサー「もしかして、まだご存じないんですか……? ポケモンを撃退したトレーナー──真姫さんの秘書の方と伺ったんですが……」
真姫「菜々が……?」
確かに菜々なら、並大抵のポケモンには負けることはないと思う。
ただ、そうなってくると、逆に気になることがある。
真姫「……それで、菜々──私の秘書は事件後、どこにいったのかしら……?」
これだけのことがあったのに、何故、菜々本人から連絡がないのかが不可解だ。
ジュンサー「警察の方から軽く事情を伺ったあと、彼女のお父様と一緒に帰られましたよ」
真姫「……え?」
ジュンサー「どうかされましたか……? 顔色が悪いですが……」
真姫「……いえ、大丈夫よ」
ジュンサー「それなら、いいんですが……。詳しい事件の詳細をお話ししますので、こちらに」
真姫「……ええ」
──まさか……菜々が戦っている場面に、菜々の父親もいたのでは……?
そんな疑惑が頭を過ぎる。
真姫「菜々……」
- 891 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 01:29:52.20 ID:ropYqdR40
-
🎙 🎙 🎙
菜々父「……この5つで持っているポケモンのボールは全てか?」
菜々「……はい」
──私は今、父の会社の社長室にいる。
そして、父の座る社長室の机の上には……5つのモンスターボールが並べられていた。
もちろん、私のポケモンたちだ。
菜々父「私の知らないところで、こんなものを……」
菜々「そ、その子たちを……どうするつもり……?」
菜々父「業者に引き渡して、逃がしてもらう」
菜々「!? だ、ダメ……!!」
私は、机の上に並べられたボールに覆いかぶさるようにして、自分の胸に抱き寄せる。
菜々父「……菜々、言うことを聞きなさい」
菜々「この子たちは、私の大切な仲間なの……! そんなこと出来ないよ……!」
菜々父「ポケモンは危険な生き物なんだ。これもお前のためを思って──」
菜々「どうしてお父さんは、そんなにポケモンを嫌うの!?」
大切な仲間たちを渡すまいと、私は5つのモンスターボールを抱きかかえたまま、後退る。
菜々「ポケモンは怖い生き物なんかじゃないよ!! お父さんはポケモンのことを知らないまま怖がってるだけだよ……!!」
菜々父「知らないまま、怖がっているだけか……」
お父さんは椅子から立ち上がり、私から背を向ける。
菜々「それなのに、知ろうともしないで危険だ、近寄るななんて言われても、納得できないよ……!!」
菜々父「……菜々……エレキッドというポケモンを知っているか」
菜々「え?」
まさか父の口からポケモンの名前を聞くことがあるなんて、思ってもいなかったから、面食らってしまう。
菜々「し……知ってるけど……」
菜々父「私は小さな山村に生まれてな。ある日、山の中で弱っているエレキッドを見つけたんだ」
菜々「……」
菜々父「私は放っておけず、そのエレキッドを家に連れ帰り、両親を説得した。元気になるまで、家で世話をさせてくれと」
……正直、私は驚いていた。あの父が、そんな風にポケモンに優しくしていた時期があったなんて、まるで想像が出来なかったから。
菜々父「保護したエレキッドは、みるみる回復していった。特にケチャップが好きなやつでな。あげると喜んで食べていたよ。次第にエレキッドは私たち家族に溶け込んでいき……我が家の一員となった」
菜々「……な、なら、どうして……」
この話のどこにポケモンを嫌う要素があるのだろうか。
- 892 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 01:30:34.96 ID:ropYqdR40
-
菜々父「ある日……エレキッドが進化したんだ」
菜々「……エレブーに……?」
菜々父「そうだ。ただ姿が変わっただけだと思っていた私が、いつものようにエレブーにケチャップを持って行ったら──あいつは暴れ出した」
菜々「え……」
菜々父「これは後で知ったことだが……エレブーは赤いものを見ると、興奮して暴れ出す習性があるそうだ。……暴れるエレブーは、どんなに声を掛けても聞く耳を持たず、周囲に無差別に“ほうでん”を繰り返し、家は瞬く間に炎に包まれた」
菜々「……そんな」
菜々父「燃える家から命からがら逃げだす中、私の母親は、私を庇って“ほうでん”を受けた。……あのときの母さんの叫び声は、今も覚えている」
菜々「…………」
菜々父「その後、私も気を失ったらしい。父さんがどうにか、私と母さんを近くの病院まで運んで……次に目が覚めたのは病院のベッドの上だった。母さんは……酷い火傷と感電によって、包帯でぐるぐる巻きのままベッドに寝かされ──数日後に帰らぬ人になったよ」
お父さんは、私の方に振り返る。
菜々父「……何度自分を呪ったか。あのとき、もっと知識があれば。あのとき、エレキッドを助けなければ。あのとき……ポケモンと、関わらなければ、と」
お父さんは深く息を吐きながら、
菜々父「人とポケモンは……根本から違う生き物なんだと……」
そう、言葉にした。
菜々「おとう……さん……」
お父さんがそんな風にポケモンと触れ合っていたなんて、知らなかった。
ただ襲われて、ポケモンを嫌いになってしまっただけだと思っていた。
菜々父「……私は、ポケモンを知らないまま怖がっているかい。菜々」
菜々「それは……」
私は思わず言葉に詰まる。お父さんの苦しみは……ポケモンから受けた痛みは……きっと計り知れないものだったのだろう。
それも助けたポケモンに、家族を奪われるなんて……。
菜々「でも……そういうポケモンばかりじゃない……ポケモンと触れ合って、わかり合っていけば、どうやって接すればいいかもわかるはずだよ……!」
菜々父「今日のバンギラスのように、人を傷つけるポケモンもいる」
菜々「そうだけど……! でも、人を守るポケモンたちだっているよ……!」
私は今日みんなを守って見せたドサイドンのボールを手に持ち、前に突き出す。
この子が多くの人の命を守ったんだ。それはお父さんだって見ていたはず。
でも、お父さんはそんなことを意にも介していないかのように、質問を投げかけてきた。
菜々父「なら、聞こう。菜々。そのポケモンたちと一緒に過ごす間に、菜々は掠り傷一つ負わなかったか?」
菜々「……え?」
菜々父「菜々の大切な仲間たちは──私の大切な娘に掠り傷一つ負わせなかったか?」
菜々「え……と……」
- 893 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 01:31:19.32 ID:ropYqdR40
-
私は思わず言葉に詰まる。
──捕まえたばかりのヒトデマンが何を考えているかわからなくて、無理やり言うことを聞かせようとして、顔に“みずでっぽう”を噴きかけられたことがある。
──いたずら好きのゴースに何度驚かされて、転んで擦り傷を作ったか。
──エアームドの抜け落ちた鋭い羽根で、ザックリ手を切ってしまったときは、血がたくさん出て、すごく焦った。
──サイホーンがなかなか懐かなくて、何度も追い回されたし、あの角でお尻を小突かれて痛い思いをした。
──最初の友達のガーディにだって……最初の頃は、何度も手を噛まれた。
菜々父「ポケモンは、人とは違う常識と、人とは違う力を持っている。思い当たる節があるんじゃないか」
菜々「……だから、ポケモンは危ないって言うの?」
菜々父「そうだ」
菜々「だから、ポケモンと関わるなって言うの?」
菜々父「そうだ」
菜々「そんなの、おかしいよ!!」
私は思わず声を張り上げる。
菜々「お父さんの言いたいこともわかるよ……でも、だからって、一生関わらないのが正解だなんて、おかしいよっ!!」
菜々父「……」
菜々「確かに最初はわかんなくって怪我したこともあったけど……それでも、今はちゃんと信頼し合えてる!! 人とポケモンはわかり合えるよ!!」
私はそうやってポケモンと手を取り合って強くなってきた。それは胸を張って言える。
菜々父「その保証がどこにある」
菜々「なんでわかってくれないのっ!?」
菜々父「お前に危ないことをして欲しくないだけだ」
菜々「っ……」
お父さんの言い分はわかる。
私を想って言ってくれていることもわかる。
だけど……だから、もうポケモンと関わるのは諦めろなんて言われても、納得なんて出来ない。
菜々父「どうやってポケモンとわかり合えることを証明する?」
どうすれば父を説得できるか。それが頭の中をぐるぐるする。
勉強してポケモンドクターの資格を取るとか……? ……そんなの一朝一夕でなれるようなものじゃない。
ポケモン研究者として、ポケモンの生態を研究し尽くして……。……いや、それだって、ポケモンと実際に触れ合わないと無理だ。
それに、なると言ってなれるものではない。
ポケモンの専門家たちは、途方もない時間を掛けて、やっとその地位や資格を手に入れるのだ。
私に出来ることなんて……バトルしか──
菜々「……!」
そうだ。私には……ポケモンバトルがある。
菜々「……チャンピオン」
菜々父「……なに?」
菜々「もし……私が、この地方で一番ポケモンを上手に扱える人だったら……証明になるはずだよ」
- 894 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 01:31:57.71 ID:ropYqdR40
-
チャンピオン──それは、誰よりもポケモンたちと信頼し合って、誰よりも強くなったトレーナーに贈られる称号。
菜々父「菜々、いい加減に──」
菜々「すぐにでも、私がチャンピオンになって……証明するからっ!!」
私はそれだけ言うと、踵を返して、部屋から飛び出したのだった。
🎙 🎙 🎙
──お父さんの会社から駆け足で飛び出すと、
真姫「菜々っ!?」
真姫さんとすれ違う。
菜々「真姫さん……」
真姫「菜々、お父さんと話したの……?」
菜々「……真姫さん、これ」
ポケットから、今日の会議内容を纏めたデータの入ったメモリを手渡す。
真姫「今はこんなのはどうでもいいの……!」
菜々「真姫さん」
真姫「……何?」
菜々「少し、お休みをください」
真姫「え……?」
菜々「私──」
三つ編みを解いて、眼鏡を外す。
せつ菜「──チャンピオンになってくるので……!」
決意を伝えて、走り出す。
真姫「ち、ちょっと待ちなさい……! 菜々……!!」
雨の降る、ローズシティを駆け──中央区を抜けて、
せつ菜「エアームド!! ウテナシティへ!!」
「──ムドーー!!!!」
エアームドの背に飛び乗り──チャンピオンになるため、雨雲を切り裂くように、空へと飛び立ったのだった。
………………
…………
……
🎙
- 895 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:07:51.89 ID:ropYqdR40
-
■Chapter045 『水晶洞窟でうらめしや〜?』 【SIDE Yu】
──ローズシティから一旦10番道路に戻り、そこから東に歩くこと数時間ほど。
私たちは、雨でぬかるむ丘を登っているところだった。
侑「歩夢、足滑らせないようにね」
歩夢「うん」
丘といっても、比較的なだらかで、ある程度道も舗装されているため、すごく大変というほどではないんだけど……。
やっぱり、雨のせいで足元の状態は悪いし、傘を差しながら勾配を進むのはなかなかに骨が折れる。
「ブイ」
こんな雨模様の丘登りだと、イーブイを歩かせるのも忍びなくて、いつものように頭の上に乗せている。
今歩かせたら、絶対泥まみれになっちゃうだろうしね……。
リナ『二人とも、もう少しで頂上だから、頑張って』 || >ᆷ< ||
近くをふよふよ漂っているリナちゃんからの応援を受けながら登っていくと──急に視界が開ける。頂上だ。
侑「……わぁ!」
「ブイ〜♪」
丘を登りきると──そこは大きな湖が広がっていた。
侑「ここが、クリスタルレイク……!」
歩夢「テレビで何度も見たことあったけど……実際に見るとすっごく大きいね……!」
侑「うん、そうだね……!」
ここクリスタルレイクは、オトノキ地方の絶景スポットとして、とても有名な湖で、地理にあまり詳しくない私でも、何度も見聞きしたことがあるくらいの場所。
ただ、惜しむらくは……。
歩夢「晴れてると、湖に太陽の光が反射して、すごく綺麗って聞いてたけど……」
侑「この雨じゃ、それはちょっと見れそうにないね……」
大分、雨足が弱まってきているものの、陽光を反射する湖面を見ることは出来なさそうだ。
リナ『でも、雨雲レーダーを見る限り、夜になれば天気もよくなってくると思うよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「あ、それなら……夜まで待ちたいな」
侑「じゃあ、今日はこの辺りでキャンプにしよっか」
歩夢「うん♪」
私がそう言うと、歩夢は嬉しそうに頷く。
このクリスタルレイク……ただ、陽光が反射して綺麗な大きな湖というだけで、オトノキ屈指の名所だなんて言われているわけではない。
この湖の本当の絶景は、夜にこそ見れる。
歩夢「湖面の夜空……楽しみ♪」
- 896 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:08:37.13 ID:ropYqdR40
-
歩夢は本当に楽しみな様子で、目を瞑ってその光景を思い浮かべうっとりしている。
──湖面の夜空。クリスタルレイクは非常に特殊な生態系をしていて、湖中に生息しているポケモンはたった1種類しかいない。
その1種類はケイコウオというポケモンだ。
歩夢「あ、見て侑ちゃん! ケイコウオが跳ねてるよ!」
侑「ホントだ!」
まさに今も目の前の湖でケイコウオが跳ね、その姿を見せてくれる。
ケイコウオというポケモンは、日中に太陽の光を溜め、夜になるとそれを鮮やかに光らせることで知られるポケモン。
そんなケイコウオしか生息していない、このクリスタルレイクでは、夜になると湖の中でたくさんのケイコウオたちが一斉に光り輝き、湖面をまるで星空のように輝かせる。
その光景を通称『湖面の夜空』と呼んでいるというわけだ。そんなことを頭の中でおさらいしながら……ふと思う。
侑「そういえば……ケイコウオって海にいるポケモンだよね……?」
海水と淡水だと、生息するポケモンが変わってくると思うんだけど……。
ただ、私のそんな疑問に、歩夢が答えてくれる。
歩夢「クリスタルレイクは塩湖だから、海と似たような環境なんだよ」
侑「え? こんな丘の上なのに……?」
リナ『クリスタルレイクは大昔、地殻変動で海がそのまま持ち上がって出来たって言われてる。だから、ここの地層は多くの海水由来のミネラルを含んでいて、湖の塩分濃度もほぼ海水と同じらしいよ』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「そうなんだ……ここが昔、海だったって言われても、ピンと来ないね……」
歩夢「何百年、何千年、何万年って時間を掛けて、この不思議な湖が出来たって思うと……ちょっとドキドキしちゃうね」
侑「うん……」
それも人の手を借りず、自然の力だけで形作られたというのは本当に、大自然の神秘と言うしかない。
リナ『夜には晴れるし、きっと明日の朝には朝日に照らされる、クリスタルレイクも見られると思う』 ||,,> ◡ <,,||
侑「なんか、今から楽しみになってきちゃった……!」
「イブィ♪」
リナ『そのためにも、早く野営の準備をしちゃおう〜!』 ||,,> ◡ <,,||
侑「うん、そうだね!」
歩夢「おー♪」
私たちは夜に備えて、野営の準備を始めるのだった。
- 897 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:09:24.82 ID:ropYqdR40
-
🎹 🎹 🎹
──テントを張り、野営の準備が出来る頃には、
侑「雨、止んだね」
歩夢「うん♪」
雨はすっかり止んでいた。
時刻的には、もうそろそろ夕方くらいかな。
西の空の雲の切れ間から──夕日が差し込んできて、湖面を赤く染めている。
そんな幻想的な風景を横目に、歩夢が食事を作ってくれている真っ最中だ。
歩夢「よし……! 後は、しばらく煮込めばシチューの完成だよ♪」
侑「歩夢のシチュー、おいしいから好きなんだよね♪ もう待ちきれない〜♪ ちょっと、味見しちゃダメ?」
歩夢「ダメだよ? シチューはちゃんと煮込んであげた方がおいしくなるんだから」
「シャーボ」
侑「ほら、サスケも待ちきれないって!」
歩夢「もう……侑ちゃんもサスケも食いしん坊なんだから……。でも、完成するまで待っててね? せっかく食べてもらうなら、おいしく出来たものを食べて欲しいもん」
侑「うぅ……わかった……」
「シャボ…」
空腹でお腹がぐーぐー鳴っているけど、完成するまで我慢我慢……。
私とサスケがシチューの完成を今か今かと待ち構えている中、
「イブイ♪」
イーブイは夕日を反射して光るクリスタルレイクを、キラキラとした目で眺めていた。
侑「イーブイ、湖もっと近くで見る?」
「イブィ♪」
訊ねるとイーブイは嬉しそうに鳴きながら、湖に向かって駆けだしていく。
ご飯が出来るのを眺めていたら、余計にお腹が空きそうだし、私もイーブイと一緒に近くに行ってみようかな。
侑「ちょっと行ってくるね」
リナ『私も付いてく』 || > ◡ < ||
歩夢「うん、行ってらっしゃい」
歩夢に見送られながら、私ははしゃぐイーブイを追いかけて、湖畔へ向かう。
「イブイ、ブイ♪」
侑「ふふっ♪」
嬉しそうにはしゃぐイーブイを見ていると、なんだか私も嬉しくなってくる。
さっきまで湖からは少し離れた場所で、テントの設営をしていたけど……こうして近くに寄ってみると、クリスタルレイクの湖畔は思ったよりも凸凹としていた。
- 898 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:10:06.41 ID:ropYqdR40
-
侑「思ったよりも歩きづらい……」
リナ『この辺りは野生のイワークが地中を掘り進んでるから、イワークの通った後の地面が盛り上がって凸凹になることがあるらしいよ』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「へー、イワークがいるんだ」
リナ『クリスタルレイクの地下にはイワークが掘って出来た洞窟があるんだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「あ、もしかして……クリスタルケイヴ?」
リナ『正解! リナちゃんボード「ぴんぽーん!」』 ||,,> ◡ <,,||
クリスタルレイクの地下には、大きな洞窟があるというのは有名な話だけど……イワークが掘ったものだったんだ。
リナ『だから、たまに丘の上まで顔を出すイワークを見られるらしいよ。基本は地下を掘り進んでるから、丘の上で会えるのは稀だけど』 || ╹ 𝅎 ╹ ||
侑「せっかくだから、出て来てくれないかな……!」
リナ『イワークにとっては地中を掘り進むのは食事みたいなものだからね。狙って会うのはなかなか難しいかも』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
イワークは土や岩石を食べるポケモンだから、食べ進んでいる間に、地上に出て来てしまうということらしい。
──そこでふと思う。
侑「イワークが顔を出した場所って、穴になってるのかな?」
あの太い、いわヘビポケモンが顔を出したら、そこはきっと大きな穴っぽこになるよね……?
リナ『うん。その穴がクリスタルケイヴへの入り口になるんだよ。丘の上から入る人は滅多にいないけどね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「確かに、地下からここまで上ってきた穴だと、すごい勾配になってるだろうしね……」
もはや縦穴みたいになってるかもしれない……。
リナ『……あ、侑さん。歩夢さんからメッセージ。シチュー出来たって』 || > ◡ < ||
侑「やった♪ すぐ戻らないとね! イーブイ! 戻るよー!」
「イブイ」
私が呼び掛けると、水辺で遊んでいたイーブイが私のもとへと駆け出してくる。
私もイーブイを迎えに歩き出す。
──さて、ここは非常に凸凹した地形になっているためか、起伏に隠れて見えづらくなっているものがある。
それは──穴だ。イワークが顔を出したために出来た……大きな縦穴。
角度的に、私にも今の今まで全く気付けなかった位置に、大きな穴が空いていた。そして──それは、今まさにこちらに向かって駆けてくる、イーブイの進路上にあった。
侑「……!? イーブイ、ストップ!?」
「ブイ?」
イーブイが私の声に気付いて、ブレーキを掛け──ギリギリ、穴の手前で止まってくれた。
侑「せ、セーフ……」
あのままだと絶対に落っこちていたに違いない。早く迎えに行ってあげないと……。
私は穴を迂回するように、駆け出す。
そんな私の姿を見て、自分の行き先に何かがあることに気付いたイーブイは、自分の足元を覗き込むようにして、身を乗り出す。
「ブ、ブィィ!!?」
- 899 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:10:46.56 ID:ropYqdR40
-
そこでやっと、自分の目の前に縦穴があることに気付いたらしい。
ただイーブイは、急に視界に入ってきた奈落に驚いてしまったのか、逃げるように踵を返す。
だけど、それが却ってよくなかった。
雨が降った直後の湿った岩で──イーブイが足を滑らせた。
「ブイッ!!!?」
侑「!? イーブイ!?」
イーブイはずるりと足を滑らせて──その身が投げ出される。
もちろん──縦穴の真上に。
「ブ、ブィィィィ!!!!?」
イーブイが重力に従い、縦穴に吸い込まれていく。
侑「イーブイッ!!!」
そこからは、身体が勝手に動いていた。
リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||
私はイーブイの落ちた縦穴に、自ら飛び込んでいた。
──風を切る音と共に、私は猛スピードで穴を真っすぐ落ちていく。
「ブ、ブイィィィ!!!!」
侑「イーブイッ!!!」
真っすぐ自由落下しながら──私は、イーブイに手を伸ばす。
空中でどうにか掴んで手繰り寄せ──そして、抱きしめる。
「ブイ、ブイィッ!!!!」
侑「っ……!!」
もちろん、イーブイを抱き寄せても、落下は終わらない。
猛スピードで、縦穴を真っすぐ落ちながら、私はイーブイをぎゅっと抱きしめる。
侑「イーブイ……! 私がいるから……!」
「ブ、ブィィッ…」
不安げに鳴くイーブイを抱きかかえたまま──私たちは奈落へと落ちていった。
🎹 🎹 🎹
「ブイィ…」
侑「……生きてる」
とんでもない高さを真っ逆さまに落ちたのに、何故か私たちは無事だった。
薄暗い空間の中で仰向けになっている私の視界のずーっと先には、小さな穴の先に夕焼け空が見える。
私たちが今しがた落ちてきた縦穴だろう。
私はゆっくりと身を起こす。
- 900 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:11:24.72 ID:ropYqdR40
-
「ブイィ…」
侑「よしよし、怖かったね……もう、大丈夫だよ」
ぶるぶると震えるイーブイを優しく撫でながら、声を掛ける。
相当びっくりしたに違いない。
しばらく抱きしめていたら、イーブイは次第に落ち着いてくる。
「ブイ…」
侑「怪我してない?」
「…ブイ」
訊ねると、イーブイは首を小さく縦に振る。
侑「よかった……」
もう一度ぎゅっと抱きしめる。
本当にイーブイが怪我しなくてよかった……。
侑「それにしても……これだけの高さから落ちて、よく無事だったね、私たち……」
「ブイ…」
座ったまま、周囲を確認する。
縦穴を落ちてきただけあって、完全に洞窟内だけど……かなり狭い通路のような場所──恐らくここもイワークの通った道なんだろう──で、周囲には何やらキラキラとした粉のようなものが舞っている。
そして、私のお尻の下には──何やら白くてぶよぶよしたものがあった。
侑「これが、クッションになって助かったみたいだね……。でも、なんだろ、これ……」
「ブイ…?」
手で押してみると、強い弾力性があって押し返してくる。
侑「うーん……?」
全く見当も付かず、頭を捻っていると──
リナ『──侑さーん……!』
真上からリナちゃんの声が聞こえてきた。
侑「リナちゃん!」
リナ『よかった、侑さん無事だった……』 || > _ <𝅝||
侑「うん、これのお陰で助かったみたい」
私は自分たちの真下にある、白いぶよぶよを指差す。
侑「これ、なんだろ?」
リナ『これは……キノコの一種みたい』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「キノコ……? じゃあ、周りに漂ってる粉みたいなのは……」
リナ『たぶん胞子』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「どうしてこんなところにキノコが……?」
リナ『クリスタルケイヴは、ネマシュの生息地だからだと思う。たぶんここは、ネマシュたちの巣だよ』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「なるほどね……お陰で助かったよ……」
「ブイ…」
- 901 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:12:28.18 ID:ropYqdR40
-
私たちはどうやらネマシュたちに救われたようだ。
リナ『でも、このままここにいると、眠らされて養分にされる』 ||;◐ ◡ ◐ ||
侑「それは困るね……」
とりあえず、早く移動した方がよさそうだ。
そう思って、腰を上げたちょうどそのとき、
「──侑ちゃーん!! 大丈夫ー!?」
遥か上の方から、歩夢の声が聞こえてきた。
リナ『あ、そうだ……歩夢さんに侑さんとイーブイが穴に落ちちゃったってメッセージ送ったんだった』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「それで様子を見に来てくれたんだ……。──歩夢ー!! 私たちは無事だよー!!」
上に向かって、叫び返す。
歩夢「──よかったー!! 私たちも、他の入り口から、クリスタルケイヴに入るねー!!」
侑「わかったー!! 図鑑のナビを使って、どうにか合流しようー!!」
歩夢「うーん!!」
とりあえず、歩夢に無事を伝えることは出来たから、今は移動だ。
ぶよぶよのキノコの上を、イーブイを抱えたまま歩き出す。
リナ『とりあえず、奥に行けば開けた場所がある。夜の虹の場所辺りで合流するのがいいと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「夜の虹って……確か、クリスタルケイヴの名所だよね」
リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「わかった、そこを目指そう」
リナ『了解! ナビするね!』 ||,,> ◡ <,,||
リナちゃんが先導する形で前を飛ぶ。
侑「……それにしても、ネマシュたちの巣って言う割に、姿が見えないね」
リナ『ネマシュやマシェードは夜行性だから、日中は暗い洞窟内で過ごして、日が沈み始めると16番道路の方に出ていくみたい。全くいないわけじゃないと思うけどね』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「ってことは、もうそろそろ夜ってことだね……」
私たちが落ちたときに夕方だったから、考えてみれば当たり前だけど……洞窟内だと外からの光がないから、時間の感覚がなくなってくる。
リナ『そろそろ、夜の虹がある場所に出るよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
リナちゃんの案内通り、細い通路を抜けて、開けた空間に出る。
そして、その空間の天井には──
侑「わぁ……!」
大きな水晶で出来た天然の水槽があった。
これが夜の虹の一つ──クリスタルケイヴの大水槽だ。
まだ、ケイコウオたちが光り出す時間になっていないのか、水晶の天井の向こうで何かが泳いでいる影が見える程度だけど……。
迫り出すような形で圧倒的な存在感を示している、巨大な水晶の水槽だけでも、十二分に迫力があった。
- 902 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:13:39.26 ID:ropYqdR40
-
侑「確かに、これはすごいかも……」
「ブイィ♪」
さらにこれが七色に光るんだと想像するだけで──なんだか、ときめいてきた。
リナ『ここで歩夢さんと合流しよう。歩夢さんにここの座標を送っておくね』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「うん、お願い」
ここで歩夢を待つわけだけど……もうかなり日も暮れているだろうし、そろそろ夜の虹の時間になっちゃうかな……?
私たちのせいで、湖畔の夜空は見られるか怪しいけど……せめて、夜の虹は歩夢と一緒に見たいな……。
歩夢が来るまで、夜の虹が視界に入らない場所で待っていようかな……などと考えていた、そのとき──トントンと肩を叩かれた。
侑「? リナちゃん、どうかしたの?」
私が振り返ると、
「メシヤァ〜〜〜〜〜♪」
侑「わぁーーーーっ!!?」
「ブイッ!!?」
目の前に急にポケモンが現れて、思わず声をあげながら尻餅をつく。
侑「え、な、なに……!?」
「ブイ…?」
「メシヤ〜〜〜♪」
そのポケモンは私が驚いている姿を見ると、満足げに笑い、飛び去ってしまう。
侑「い、いつの間に私の背後に……?」
気配とかも何もしなかったし……ホントに急に現れた気がするんだけど……。
リナ『今のは、ドラメシヤだね』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「ど、ドラメシヤ……?」
先ほど見たポケモンの名前は、ドラメシヤと言うらしい。
緑色のボディに、特徴的な角と、ニョロッとした尻尾を生やして、空を飛んでいた。
いや、飛んでいた……というか──
「メシヤ〜〜」「ドラメシ〜」「メシヤ〜〜〜」
気付けば、この空間内がドラメシヤだらけだった。
侑「わ、わぁ!? な、なにこれ!?」
「ブ、ブイ」
リナ『確かにここはドラメシヤの生息地だけど……これだけ大量発生してるのは珍しい』 || ╹ᇫ╹ ||
リナ『ドラメシヤ うらめしポケモン 高さ:0.5m 重さ:2.0kg
古代の 海で 暮らしていた。 ゴーストポケモンとして
よみがえり かつての すみかを さまよっている。 1匹では
非力だが 仲間の 協力で 鍛えられ 進化して 強くなる。』
そういえば、さっきもここは、大昔に海だったって言ってたっけ……。
- 903 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:14:13.72 ID:ropYqdR40
-
リナ『でも、ドラメシヤはあんまり好戦的なポケモンじゃないから、放っておいても大丈夫だと思うよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
侑「なら、いいんだけど……」
さすがにこれだけ大量に現れたらびっくりもするよ……。
とりあえず、危なくはないらしいから、安堵の息を漏らす。
ただ、そのときだった。
「──ロンチ〜」
侑「……!?」
ドラメシヤと似たようなカラーリングだけど──ドラメシヤよりも何倍も大きなポケモンが、いつの間にか私の目の前にいて、思わず固まってしまった。
そして、そのポケモンは──
「ロンチ」
「ブイ!?」
ひょい、と私の腕からイーブイを取り上げ、頭の上に乗せて──
「ローンチ」
「ブ、ブイーー!!!?」
目にも止まらぬスピードで、その場から逃げ去ってしまった。
──突然のことに、呆気に取られてしまったけど……すぐにハッと我に返る。
侑「い、イーブイ!?」
イーブイを連れ去られた……!?
私は大急ぎで立ち上がって、そのポケモンが逃げて行った方に駆け出す。
リナ『イーブイ連れてかれちゃった!? 今のポケモンはドロンチって、ポケモンだよ!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
侑「ドロンチ……!?」
リナ『ドラメシヤの進化系!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
リナ『ドロンチ せわやくポケモン 高さ:1.4m 重さ:11.0kg
飛行速度は 時速200キロ。 ドラメシヤと 一緒に 戦い 無事に
進化するまで 世話をする。 ドラメシヤを 頭に 乗せていないと
落ち着かないので ほかの ポケモンを 乗せようとする。』
侑「ドラメシヤなら、いくらでもいるじゃん……!?」
とにかく、早くイーブイを取り返さなきゃ……!!
私はドロンチを追いかけて、クリスタルケイヴを奥へと進んでいく──
🎹 🎹 🎹
ドロンチを追いかけ、クリスタルケイヴ内の細い道を進んでいくと──程なくして、小部屋のような場所にたどり着く。
小部屋に入ると、
「ローンチ♪」
「ブ、ブイ…」
- 904 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:14:48.07 ID:ropYqdR40
-
ドロンチとイーブイの姿をすぐに見つけることが出来た。
侑「いた……!」
ドロンチはイーブイを頭の上に乗せたままで──尻尾で器用に“きのみ”を持ち上げながら、それを自分の頭の上に置く。
目の前に現れた“きのみ”を見たイーブイは、
「ブ、ブィィ…」
警戒しているのか、食べたりはせず、ふるふると首を振っている。
侑「あれ……何してるんだろう……?」
リナ『たぶん……イーブイのお世話をしてるんだと思う……』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「……なるほど」
さすが、“せわやくポケモン”というだけはある……。
ただ、部屋の中に落ちている“きのみ”は、“ナナシのみ”や“パイルのみ”と言った、すっぱい“きのみ”ばっかりだ。
それはイーブイの好きな味じゃない。
私はイーブイのお世話をしている、ドロンチの前に出る。
侑「……ドロンチ」
「ロン?」
侑「イーブイを返してくれないかな。その子は私の相棒なんだ」
「ロン」
でも、ドロンチは首を横に振る。
まあ、奪っていくようなポケモンに説得しようとしてもダメかな……。
侑「……イーブイ、戻っておいで」
「イブィ…!!」
私が呼び掛けると、イーブイはドロンチの頭の上から、私の方に向かって飛び跳ねる。
だけど──
「ローンチ」
「ブイ!?」
ドロンチは尻尾を伸ばして、イーブイを捕まえ──再び自分の頭の上に乗せてしまう。
リナ『返す気はないみたい……』 || ╹ _ ╹ ||
侑「みたいだね……」
出来れば、話し合いで解決したかったけど……。
侑「ワシボン、出てきて!」
「──ワッシャァ!!!」
「ローンチ…」
侑「言うこと聞いてくれないなら、力ずくで返してもらうよ! ワシボン、“ダブルウイング”!!」
「ワッシャァ!!!」
ワシボンが飛び出し、ドロンチに向かって、両翼を叩きつける。
- 905 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:15:23.11 ID:ropYqdR40
-
「ロン…!!!」
攻撃を受けて一瞬怯むが、すぐに顔を上げ──
「ローンッ!!!!」
口から“りゅうのはどう”を、至近距離にいるワシボンに向かって発射する。
「ワッシャァッ!!?」
“りゅうのはどう”に吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられたワシボンに向かって、
「ローンッ!!!!」
追撃するように飛び掛かってくる。
リナ『侑さん!! “ドラゴンダイブ”だよ!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
侑「なら……!! ワシボン! 壁に向かって、“ブレイククロー”!!」
「ワッシャァッ!!!!」
ワシボンは、猛禽の爪で壁を蹴り砕き、即座に離脱──それによって壁が崩れて、岩壁が崩れ落ちてくる。
侑「“がんせきふうじ”!!」
「ローンッ!!!?」
勢いよく崩れてくる岩石に巻き込まれ、ドロンチが体勢を崩す。
その拍子に──
「ブ、ブィィ!!!?」
ドロンチの頭の上にいたイーブイが放り出される。
侑「イーブイ!!」
私は、地面を蹴って走り出し──滑り込むようにして、イーブイを受け止めた。
「ブィィ…」
侑「おかえり、イーブイ」
私がイーブイを抱きしめると、イーブイも私の胸にすりすりと身を寄せてくる。
一方でドロンチは、
「ローンチ…!!!!」
イーブイを取り返されたのが気に食わないようで、不機嫌そうに鳴いたあと──ユラリと姿が掻き消える。
侑「……! “ゴーストダイブ”……!」
恐らく、イーブイを奪った私──私のイーブイなんだけど──を直接狙うつもりだろう。
リナ『侑さん、きっと狙われてる!? 逃げて!?』 || ? ᆷ ! ||
リナちゃんもそれに気付いたのか、逃げるように促してくるけど……恐らく、ドロンチのスピードからは逃げきれない。
追い付かれたら、また力ずくでイーブイを奪われる。そうなるくらいなら……!
- 906 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:16:42.71 ID:ropYqdR40
-
侑「私はここだよ!! ドロンチ!!」
リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||
私は挑発するように、声を張り上げる。それと同時に腰のボールに手を掛けながら、前に飛び出す態勢を取る。
直後──
「──ローンチ」
背後から、ドロンチの鳴き声と共に──私は背後から大きな尻尾を叩きつけられ、吹き飛ばされた。
侑「ぐっ……」
強い衝撃に、思わず声が漏れる。でも、私は手に掛けたボールを放って手持ちを出す。
侑「ニャスパーっ! “テレキネシス”!!」
「──ニャー!」
ニャスパーはボールから飛び出すと同時に、私の身体を浮き上がらせ、それによって落下の衝撃をゼロにする。
侑「いっつつ……」
リナ『侑さん、大丈夫!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「う、うん……後ろから攻撃してくることはわかってたから、どうにか……」
“ゴーストダイブ”は相手の背後を取って死角から攻撃することが多い技だ。
背後から来るとわかっていれば、前に向かって飛びながら当たって、“テレキネシス”で床や地面に叩きつけられないようにすれば、大方の衝撃を殺せる。
……と、言ってもさすがポケモンのパワーなだけあって、結構痛い。
どうにか、起き上がって振り返ると──
「ローンッ…!!!」
相変わらず、ドロンチが不機嫌そうに鳴いている。
侑「でも……これだけやった甲斐はあったよ。ね、イーブイ!」
「ブイ!!」
「ロン…?」
吹き飛ばれたのに、何故か得意げな私たちを見て、ドロンチが首を傾げた──直後、ドロンチの足元から、太い樹が地面から飛び出し、
「ロンッ!!!?」
それはドロンチを巻き込みながら成長し、洞窟内の天井に叩きつけた。
ドロンチを天井に押し付けながらも、樹はどんどん成長し、蔦と枝に絡め取っていく。
「ロ、ローン…」
侑「そうなったら、もう身動き取れないよね!」
「イブィ♪」「ワッシャ♪」「ニャー」
「ローン…」
リナ『この樹……もしかして、“すくすくボンバー”!?』 || ? ᆷ ! ||
侑「うん。ドロンチが“ゴーストダイブ”で消えた瞬間、足元に仕込んでおいたんだ」
「イブィ♪」
- 907 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:17:16.49 ID:ropYqdR40
-
相手は見るからに、ドラゴンタイプとゴーストタイプのポケモン。
そうなると、イーブイの相棒技──“めらめらバーン”、“びりびりエレキ”、“いきいきバブル”、“すくすくボンバー”はどれも相性が悪い。
唯一使えるとしたら、この狭い空間での制圧力の高さを活かして、“すくすくボンバー”なんだけど……“すくすくボンバー”は技を出してから、決まるまでに時間が掛かるのが難点だった。
……なら、ドロンチが“ゴーストダイブ”で私を狙ってくるってわかっているわけだし、あらかじめ私の足元に“すくすくボンバー”を仕込んでおけばいいだけだ。
そうすれば、ドロンチが私を攻撃して吹っ飛ばしたあと、時間差で足元から生えてくる樹に巻き込まれて、動けなくなるという寸法だ。
リナ『侑さん、意外と無茶する……』 ||;◐ ◡ ◐ ||
侑「逃げるだけじゃ、勝てないと思ったからね……いてて……」
「ブイ…」
イーブイが心配そうに、私の胸の中で鳴く。
侑「あはは、大丈夫だよ。ニャスパーのお陰で壁にぶつかったりはしなかったから」
「ブイ…」
もしかしたら、尻尾がぶつかったところは軽い打ち身くらいにはなってるかもしれないけど……。
「ローン…」
リナ『ドロンチ、どうする……?』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「うーん……」
“すくすくボンバー”はしばらくしたら枯れちゃうから、放っておけば自由になれるだろうけど……。
侑「放っておいたら、また別のポケモンを頭に乗せようと彷徨い始めるのかな……」
リナ『たぶん……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
それはそれで、次にここに訪れた人が危ないような気もする……。
侑「そもそも、なんでこのドロンチは、ドラメシヤを頭に乗せないんだろう……?」
ドラメシヤなんて、洞窟内にあんなにたくさんいるのに……。
リナ『たぶん、ここのドラメシヤが特殊なんだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「特殊?」
リナ『そもそもクリスタルレイクとクリスタルケイヴって、環境がすごく特殊だから、ここにしかいない変わった生態のポケモンが多いんだ』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「そうなの?」
リナ『外敵が少ないからか、ケイコウオは滅多にネオラントに進化しないし、イワークもここの土中に含まれる水晶をよく食べるからか、水を泳げる個体が目撃されたこともあるみたいだよ』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「い、イワークが泳ぐの……?」
ちょっと想像出来ない……。
リナ『たぶん、ドラメシヤたちも外敵が少ないから、普通と違って強くなる必要があんまりなくて、お世話係を必要としてないんじゃないかな。実際、群れの中に絶対数匹はいるはずのドロンチは滅多に目撃されないらしいし……』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「なるほどね……」
だから、何かの拍子でドラメシヤが進化してしまうと、逆にお世話する相手がいなくて落ち着かなくなっちゃうってことか……。
それはそれで、なんだか気の毒な気もしてくる。
「ローンチ…」
侑「うーん……」
- 908 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:17:51.22 ID:ropYqdR40
-
どうにかしてあげたいけど……イーブイを取り上げられるのはさすがに困る……。
そのとき、ふと、
侑「ん?」
腰のボールが僅かに揺れた。揺れたボールをベルトから外してみる。
侑「このボールって……タマゴの入ってるボールだ」
リナ『少し揺れた?』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「うん」
長らく全然変化のない、このタマゴだけど……。
少しは孵化の時が近付いてきているのかもしれない。
侑「あ……そうだ!」
リナ『?』 || ? ᇫ ? ||
私は良いことを思いつく。
侑「ねぇ、ドロンチ!」
「ローン…?」
侑「一つ提案があるんだけど……聞いてくれないかな?」
「ロン…?」
私はドロンチにその考えを話し始めた──
🎹 🎹 🎹
──さて、あの後、私たちが水晶の水槽の部屋に戻る最中、
歩夢「あ……侑ちゃん! やっと見つけた……!」
図鑑を片手に、向こう側から歩いてくる歩夢と鉢合わせになる。
歩夢「もう……水晶の水槽の部屋で待ってるって、メッセージくれたのに……」
侑「ごめんね、ちょっとトラブルがあって……」
「ローン」
歩夢「あれ? そのポケモンは……」
侑「私の新しい仲間のドロンチだよ!」
「ローン♪」
私の紹介を受けて、ドロンチがご機嫌に鳴く。
そして、彼の頭の上には──
歩夢「タマゴを乗せてるけど……? 侑ちゃんの持ってたタマゴ?」
侑「うん、そうだよ」
私は思いついたこと、それは──私のタマゴのお世話をしてもらうということだった。
- 909 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:18:32.30 ID:ropYqdR40
-
リナ『侑さんはドロンチにタマゴを守ってもらえて安心だし、ドロンチはタマゴをお世話出来て安心するし、Win-Winだね!』 ||,,> ◡ <,,||
歩夢「なんだかよくわからないけど……。私、歩夢。よろしくね、ドロンチさん」
「ローン♪」
挨拶もそこそこに、
歩夢「それより侑ちゃん、来て♪」
歩夢に手を引かれる。
手を引かれ、通路から大広間に出ると──
侑「わぁ……!!」
「イブィ〜!!」
水晶の大水槽の中から、ケイコウオたちの光が乱反射して、洞窟内を虹色に照らしていた。
侑「すっごい……!!! こんなの見たら── 」
歩夢「ときめいちゃうよね♪」
侑「もう、歩夢! それ私の台詞!」
歩夢「ふふっ、ごめんね♪」
歩夢がいたずらっぽく笑う。
侑「……それにしても……本当に綺麗だね……」
「ブィ…♪」
歩夢「……うん、そうだね」
厚い水晶の壁の向こうから、揺蕩う虹色の光たち。
それに照らされる洞窟の中にいると、まるでオーロラの中にでもいるような気がしてくる。
まさに夜の虹の名に相応しい、幻想的な光景だった。
侑「こんなの見たら、落ちたのも悪くなかったなって思っちゃうよ……」
歩夢「もう……私、すっごい心配したんだよ……?」
侑「あはは、ごめんね……。でも、見たとおり元気だから!」
歩夢「もう、侑ちゃんったら……」
侑「この調子で湖面の夜空も見ちゃう?」
「イブィ♪」
リナ『ケイコウオたちは、日が昇るまで光り続けるから、いいと思う』 ||,,> ◡ <,,||
歩夢「ふふっ♪ 私たち、すっごく夜更かしすることになりそうだね♪」
侑「たまにはいいじゃん、そういうのも♪」
どうやら今日は楽しい夜になりそうだ。
私たちは、幻想的な虹の光に包まれながら、わくわくした気持ちで、クリスタルケイヴでの夜を過ごすのでした。
- 910 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/12(月) 14:19:04.74 ID:ropYqdR40
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【クリスタルケイヴ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ● |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.52 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ワシボン♂ Lv.52 特性:はりきり 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.49 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.43 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドロンチ♂ Lv.50 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
タマゴ なにが うまれてくるのかな? うまれるまで まだまだ じかんが かかりそう。
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:179匹 捕まえた数:6匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.45 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.44 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.40 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
トドグラー♀ Lv.36 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラエッテ♀ Lv.33 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:182匹 捕まえた数:17匹
侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 911 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 03:23:27.64 ID:r2gRr5pF0
-
■Intermission🎙
──ウテナシティ、ポケモンリーグ。
せつ菜「チャンピオンは不在ですか……」
ダイヤ「はい……申し訳ありません。四天王戦は通常通り出来ますが、勝ち抜いてもチャンピオン戦は……」
せつ菜「いつ戻られるかはわかりますか……?」
ダイヤ「すみません……最近、千歌さんは捕まらないことが多くて……。こちらから連絡は入れておきますが……」
せつ菜「……わかりました。ありがとうございます」
私はダイヤさんに頭を下げ、踵を返して、ポケモンリーグを後にする。
チャンピオンの不在を聞いて、私は早速出鼻を挫かれてしまった。
ただ不在なだけならまだしも……ダイヤさんのあの口振りだと、チャンピオン戦をするためにリーグに戻ってきてもらえるかも怪しい。
そうなると──
せつ菜「やはり、地方のどこかにいる千歌さんをどうにか見つけて、バトルしてもらうしかない……」
もちろん野良試合で勝っても、すぐさまチャンピオンになることは出来ないだろう。
だけど、私は千歌さんとは何度もバトルしているからわかる。彼女は野良バトルだから負けてもよかった、なんて思えるタイプじゃない。
きっと私が善戦したら、決着をつけなくては気が済まなくなるはず。
だからこそ、今はとにかく千歌さんを見つけてバトルを申し込む。
それが、私が最速でチャンピオンになる方法なのには、間違いがない。
せつ菜「問題は千歌さんがどこにいるか……」
せつ菜として地方を回っている間は、頻繁に千歌さんを探していたつもりではあったけど……最近はウラノホシのご実家にも帰られていなかったようだし……。
せつ菜「最後に会ったのは、確か10番道路ですね……」
なら、もう一度10番道路に向かって、会えることに賭けるべきか……?
いや、あそこで何をしていたかは定かではないけど、用もなく道路のど真ん中にいるとは到底思えない。
せつ菜「せめて、何か手掛かりがあれば……」
私は必死に頭を動かして考える。
一刻も早く千歌さんを見つけなくては。
お父さんの手前であんな啖呵を切ってしまった以上、1秒でも早く結果を出さなくてはいけない。
チャンピオンになると宣言したからと言って、いつまでも黙って待っていてくれる人じゃないことなんて、もうわかっていることだ。
せつ菜「会えれば……千歌さんとバトルさえ出来ればいいんです……!」
今まで、勝ったことはないけど──あと、ちょっとのところまで来ている。そういう手応えは確かにあるんだ。
私のチャンピオンへの道は──もう、すぐそこに見えているんだ。
だからこそ、探さなくちゃ……!
せつ菜「千歌さんの居場所を知っている人がいれば……」
そう独り言ちた、そのときだった。
- 912 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 03:24:06.96 ID:r2gRr5pF0
-
「──千歌ちゃんの居場所なら、知っているけど?」
せつ菜「え?」
背後から聞き覚えのある声がして、振り返ると──
果林「こんにちは。……いえ、初めましての方がいいのかしら?」
せつ菜「……果林さん……?」
私は一瞬ポカンとしてしまった。何故、ここに果林さんが……?
……いや、それよりも、果林さんは今、なんて言った……?
果林「チャンピオン……探してるんでしょ?」
せつ菜「……! 千歌さんの居場所をご存じなんですか!?」
果林「ええ」
せつ菜「お、教えてください……!! 私、今すぐにでも千歌さんに会わないといけないんです……!!」
思わず果林さんに詰め寄ってしまう。
果林「落ち着いて。私は千歌ちゃんの今現在の居場所を知っているわけじゃないの」
せつ菜「え、で、でも、さっき知ってるって……」
果林「今いる場所は知らない……でも、近いうちに現れる場所は知ってる」
せつ菜「え……と……」
どういうことだろう。
- 913 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 03:24:50.10 ID:r2gRr5pF0
-
果林「でも、もう日も沈んじゃったし、今その場所に行っても、千歌ちゃんには会えない。でも、これから千歌ちゃんが行く場所は知ってる」
せつ菜「…………」
この人は何を知っているんだろうか。何故そんなことがわかるんだろうか。
正直、怪しいと思ったけど──それ以上に、今の私は藁にもすがりたい気持ちだった。
果林「明日、ここに行ってみるといいわ」
そう言って、果林さんは私に一枚のメモ紙を手渡してくる。
果林「それじゃ、頑張ってね♪ 未来のチャンピオン──ユウキ・せつ菜さん♪」
最後にそう言い残してから、果林さんはボールから出したファイアローの脚に掴まって、飛び去ってしまった。
せつ菜「……」
果林さんから貰ったメモ紙を開いてみると──時刻と地名が書かれていた。
明日、この時間、この場所に、千歌さんが……?
わからないことだらけだけど……。
せつ菜「行ってみるしかない……!」
せっかく手掛かりを得たのだから。
せつ菜「……あれ? ……そういえば……果林さん、どうして私の名前、知っていたのでしょうか……?」
菜々のときにしか面識はなかったような……?
………………
…………
……
🎙
- 914 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:08:26.63 ID:r2gRr5pF0
-
■Chapter046 『森とキノコと魔法使い』 【SIDE Kasumi】
──ローズシティを出て数時間。かすみんたちは11番道路を進んでいる真っ最中です。
かすみ「るんる〜ん♪」
「ガゥガゥ♪」
しずく「かすみさん、ご機嫌だね」
かすみ「そりゃそうだよ〜! だって、かすみんの集めたお宝、返ってきたんだもん♪」
「ガゥ♪」
そう言いながら、かすみんは物がたくさん詰まってパンパンになったバッグをしず子に見せつける。
返ってきたお宝とは何か──話はローズシティを出る前に遡ります……。
────
──
かすみ「さて……侑先輩たちも行っちゃいましたし、かすみんたちも行こっか!」
しずく「うん、そうだね」
ローズシティのポケモンセンターで侑先輩たちと別れて、かすみんたちも11番道路に向かおうとした矢先──prrrrrr!!! とポケギアが鳴りだしました。
かすみ「あれあれ〜? かすみんのファンの人からのラブコールかなぁ〜……?」
しずく「……馬鹿なこと言ってないで、早く出なさい」
かすみ「もー……しず子ったら、ノリ悪〜い……」
失礼なことを言うしず子を後目に、ポケギアの通話に応じると──
エマ『もしもし、かすみちゃん? エマだよ〜♪』
かすみ「エマ先輩?」
お相手はエマ先輩でした。
エマ『今、大丈夫かな?』
かすみ「はい、大丈夫ですよ〜。どうかしたんですか?」
エマ『うん♪ 前、言ってたものが見つかったから、かすみちゃんのパソコンに送っておいたよ♪』
かすみ「前言ってたもの……?」
何かエマ先輩に頼んでいたものとかありましたっけ……?
エマ『ゆっくりお話ししたいんだけど……私はまだ、お仕事の途中だから。確認してみてね!』
かすみ「は、はい。ありがとうございます……?」
エマ『それじゃ、またね〜♪』
それだけ言うと、エマ先輩からの通話は切れてしまいました。
本当に用件を伝えるための連絡だったみたいです。
- 915 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:09:22.31 ID:r2gRr5pF0
-
しずく「エマさんから?」
かすみ「うん」
しずく「なんだって?」
かすみ「前、言ってたものが見つかったから、かすみんのパソコンに送っておいたって……何かあったっけ?」
かすみん、さっぱり思い出せないんですけど……。……でも、しず子はしっかり覚えていたようで、
しずく「……あ、もしかして……あれじゃないかな?」
かすみ「……あれ?」
しずく「とにかく、パソコンを確認してみたら?」
かすみ「ま、それもそっか」
かすみんはエマ先輩からの贈り物を確認するために、ポケモンセンターへとトンボ返りするのでした。
──
────
そして、そんなかすみんのパソコンに入っていたものは──
かすみ「まさか、ドッグランでジグザグマたちに盗られた“げんきのかけら”が戻ってくるなんて〜♪」
そう、エマ先輩から送られてきたのは、ドッグランでジグザグマたちの群れに強奪された、大量の“げんきのかけら”だったんです!
ドッグランで数を減らしちゃったあとも、コツコツ集めていたけど──もう戻ってこないと思っていた分が戻ってきたお陰で、かすみんのバッグはもはや宝の山状態になったというわけです!
しずく「はぁ……せっかく減ったのに……。そんなに持ち歩いてたら重くて疲れちゃうよ……?」
かすみ「いーの! 『備えあれば嬉しいな』って言うでしょ!」
しずく「『備えあれば憂いなし』ね……」
しず子は呆れ気味だけど……これはジグザグマがかすみんのために、頑張って集めてくれた宝物だもん。一つも無駄になんて出来ません!
しずく「でも、本当にその大荷物で大丈夫……? 11番道路は結構長い道のりになるよ?」
かすみ「へーきへーき! これはかすみんの宝物だから、荷物のうちに入らないも〜ん♪」
しずく「……後で文句言わないでよ?」
かすみ「言わない言わな〜い♪ それじゃ、レッツゴー!」
「ガゥガゥ♪」
- 916 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:09:51.67 ID:r2gRr5pF0
-
👑 👑 👑
かすみ「──しず、子……もぅ……無理……き、休憩……しよ……」
「ガゥ?」
しずく「はぁ……だから、言ったのに……。……わかった、ここでちょっと休憩にしようか」
かすみ「しず子〜! やっぱ、話がわかる〜!」
しずく「全く、調子いいんだから……」
11番道路を歩くこと数時間。
かすみんはすっかりバテバテモードになっていました。
しず子に注いでもらったお茶を飲みながら、
かすみ「……11番道路がこんなに歩きづらい道だと思わなかった……」
そうぼやく。
今かすみんたちのいる、この11番道路は本当に荒れ地って感じで、ゴツゴツした岩があちこちに飛び出している。
さっきから道も登ったり下ったり……しかも地面も硬いし、歩きづらいのなんの……。
しずく「11番道路はローズシティから、ヒナギクシティを繋ぐために強引に作った道だからね。これでも十分人の手が加えられてるんだよ」
かすみ「これでぇ……?」
しずく「ヒナギクシティはもともと四方を山に囲まれた町だったんだよ。しかも南北はカーテンクリフとグレイブマウンテン……。比較的低い山だった東側を切り開いて、ローズからの道を繋いだみたい」
かすみ「へー……。ヒナギクシティの人たちはそれまでどうやって暮らしてたんですかね……? あそこって雪とか降るくらい寒いんでしょ?」
四方が山って、満足に生活出来てたのかな?
しずく「そうだね……ローズとの道が開通するまでは相当厳しい環境だったみたいだよ。外から物資が入ってくることも、ほとんどなかっただろうし……」
かすみ「食べるものとかあったのかな……」
かすみん、おいしいご飯が食べられない場所で暮らすなんて、考えただけでゾッとしちゃいます……。
しずく「一応ヒナギクの東側には小さな森があるから、そこで調達してたみたいだね」
かすみ「森があるの? オトノキ地方の森って、コメコの森だけだと思ってた」
しずく「森って言っても、コメコの森と比べると、かなり小さいからね。知らない人も多いと思うよ」
かすみ「ふーん……じゃあ、その森で採れる“きのみ”とかを食べて暮らしてたんだ」
しずく「うん。あとはキノコかな」
かすみ「キノコ? ……キノコって、あのにょきにょき生えてるキノコ?」
しずく「そう、そのキノコ。ヒナギクの東の森には、すごく生命力の強いキノコが群生していて、森全域にたくさんキノコが生えてるらしいよ。だから、ヒナギクの東の森は通称マッシュルームフォレストなんて言われることもあるみたい」
かすみ「へー! 名前になっちゃうくらいたくさんキノコが採れるんだ! ちょっと、かすみんも食べてみたいかも!」
しずく「うーん……。やめておいた方がいいと思うよ。毒キノコらしいし……」
かすみ「……え? 毒キノコなのに、食べてたの……?」
しずく「それくらい食べるものがなかったんだよ。あの辺りに生息してるジオヅムってポケモンの“しおづけ”で何ヶ月も掛けて水分を飛ばして、毒素を薄めて……それでやっと食べられる状態にしてたみたい。それでも、毒を完全に抜ききることは出来なくて、食中毒で亡くなる人も多かったって聞いたかな……」
かすみ「ひ、ひぇぇ……過酷すぎる……」
かすみん、今の時代にセキレイシティで生まれてよかったです……。
- 917 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:10:31.78 ID:r2gRr5pF0
-
しずく「まあ、それも昔の話で……今は観光地としてそれなりに賑わってるみたいだから、ヒナギクに着けばおいしいご飯も食べられると思うよ。ポケモンジムがあるくらいだしね」
かすみ「本当に今の時代に生まれてよかった……」
しずく「さて……そろそろ行けそう?」
かすみ「あ、うん! かすみん休憩して元気回復したから!」
「ガゥ♪」
かすみんが元気よく立ち上がると、ゾロアもご主人様の復活が嬉しいのか、ご機嫌な鳴き声をあげる。
かすみ「この調子でさっさとヒナギクまで行っちゃいましょー!」
しずく「ふふ、そうだね」
👑 👑 👑
──あれから歩くこと、さらに数時間。
かすみ「……なにこれ」
かすみんはあるものを見上げて、唖然としていました。
そのあるものとは──
かすみ「これ……キノコ……?」
しずく「……だね」
めちゃくちゃでかいキノコでした。
どれくらいでかいかと言うと……軽く3mは超えていると思います。
しずく「この巨大キノコが森の入り口の目印だね」
かすみ「さすがマッシュルームフォレスト……」
コメコの森よりは小さいと聞いていたものの……とんでもないサイズのキノコの圧迫感と、森の樹々はなんというか、鬱蒼としていて……おだやかな森だったコメコの森に比べると、大分ホラーな感じがします……。
たぶん、その怖い感じに拍車を掛けているのは……いつの間にか出始めてきた霧も関係しているのかも……。
しずく「とりあえず……もう日も暮れ始めちゃってるし、霧も濃くなってきたから、森には入らずに、ここで野宿にしようか……」
かすみ「えー!! また野宿……2日連続じゃん……。ローズで泊まればよかった……」
しずく「言ってても仕方ないよ。早くテント張っちゃおう」
かすみ「うん……そうだね……」
かすみんがテンション低めに、テントの設営をお手伝いしようとしたそのとき──森の奥の方で、何かがチカチカと光るのが見えた。
かすみ「あれ……? 今なんか光った……?」
……気になる。
かすみんは、目を凝らして森の奥に目を向ける。すると──また、チカチカと何かが光る。
かすみ「やっぱ、なんかある……!」
霧のせいで、ぼやーっとした光が点滅しているのがわかる程度ですけど……確実に何かが光っている。
- 918 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:11:08.27 ID:r2gRr5pF0
-
しずく「かすみさん? どうかしたの?」
かすみ「あそこでなんか光ってる……ちょっと確認してくる」
しずく「……もう暗いし、森に入らない方がいいと思うけど……」
かすみ「すぐそこだし、ちょっと確認したらすぐ戻ってくるから!」
しずく「まあ、それくらいなら……。……絶対に奥まで入っちゃダメだよ?」
かすみ「わかってるって〜♪ ゾロア、行くよ!」
「ガゥ」
ゾロアと一緒に光に向かって駆け出す。
巨大なキノコの脇をすり抜けて、入った森の中──光っていた目的物は本当にすぐ近くにあった。
チカチカと光っていたのは──
かすみ「……キノコ?」
またしてもキノコだった。
大きな傘をした──って言っても入り口のキノコよりは全然小さい30pくらいの──真っ白なキノコ。
かすみ「なーんだ……見に来て損した……」
「ガゥ…」
なんかお宝的なものを期待してたのに……。まあ、光るキノコは珍しいけどさ……。
かすみんは振り返って、
かすみ「しず子ー!! 光ってるの、ただの光るキノコだったー!」
しず子に向かって、報告するために声をあげる。
そして、しず子の反応を待つこと、数秒……数十秒……。
かすみ「あ、あれ……?」
しず子からの反応が返ってこない……。
森から少ししか入っていないのに、すでに入り口は霧に覆われていて、ほぼ見えないし……。
かすみんは駆け足で、先ほどまでしず子が居た場所に戻ると──そこには、設営途中のテントを残して……しず子の姿はどこにもなかった。
かすみ「しず子……? どこ行ったのー? おーい!」
「ガゥガゥーー!!」
ゾロアと一緒に呼んでみるけど、しず子からの反応は一向に返ってこない。
もしかしたら緊急事態か何かで席を外してるのかな……? お花摘みとか……。
そう思って、かすみんは少しの間、その場で待つことにした。
- 919 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:11:46.27 ID:r2gRr5pF0
-
👑 👑 👑
かすみ「……おかしい」
どれだけ待てども、しず子は一向に戻ってこなかった。
テントの設営もすっかり終わっちゃったし……。
かすみ「しず子が何も言わずに、こんなに戻ってこないなんて考えられない……やっぱ何かあったとしか……」
でも音もなく消えちゃうなんてことあるのかな……。
あまりに霧が濃すぎて、帰り道を見失っちゃったとか……?
しっかりもののしず子に限って、そんなことあるかな……。
かすみ「とにかく、探さなきゃ……!」
ここで考えていても仕方ありません。
しず子に何かあったなら、かすみんが見つけないといけないし、道に迷ってるんだとしても、探さなくちゃ!
かすみ「……そうだ、図鑑!」
図鑑のサーチ機能を思い出して、図鑑を取り出し、ぽちぽちと操作する。
かすみ「えーっと……確か、こうしてこうして……あ、出た!」
しず子の図鑑の位置を検索すると──それはすぐ傍に表示された。
かすみ「……? なんだ、思ったより近くにいるじゃん……」
表示された場所は本当にすぐ傍だった。たぶん2mも離れていない。
テントの場所から、少し森の方へ歩いた方向……。
深い霧の中、しず子の図鑑が表示されている位置に一歩ずつ歩を進めていく。
かすみ「……ここだ」
図鑑の表示の真上に立つ。……だけど、しず子の姿はどこにもなかった。
かすみ「しず子ー! どこー?」
「ガゥガゥー!!」
その場でキョロキョロと辺りを見回しながら探していると──足に何かが当たった。
かすみ「ん……?」
屈んでそれを確認してみると──
かすみ「……!? これ、しず子のバッグ……!?」
「ガゥガゥ!!」
それはしず子が使っていた、バッグだった。
そして、そのバッグから少しだけ離れたところに──赤い布切れが見えた。
近寄って確認してみると──
- 920 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:13:19.06 ID:r2gRr5pF0
-
かすみ「しず子の……リボン……!?」
しず子のトレードマークとも言える、大きな赤いリボンだった。
バッグなら落とす可能性はある。だけど、身に着けているリボンを落とすなんて、普通ありえない。
かすみ「しず子に何かあったんだ……!!」
──なんでもっと早く気付かなかったんだ。
かすみんに何も言わずに、しず子が急にいなくなった時点でおかしいって思うべきだった。
その時点ですぐに探しに行くべきだった。
かすみ「いや、反省は後です……!! 探しに行くよ、ゾロア!!」
「ガゥ!!!」
かすみんはしず子のバッグとリボンを拾い──マッシュルームフォレストの中へと駆け出した。
👑 👑 👑
かすみ「しず子ー!! しず子ーー!!」
「ガゥガゥッ!!!!!」
しず子の名前を呼びながら、森の中を駆け回る。
だけど、鬱蒼とした森な上に、深い霧が立ち込めているせいで、とにかく視界が悪い。
同じような樹々と同じようなキノコがたくさんあるだけ──キノコの中には、たまに光るやつもいるけど、本当にそれくらいだ。
あまりにも手掛かりがなさすぎる……。というか……。
かすみ「はぁ……はぁ……バッグ……重……」
自分のバッグが重いというのもあるけど……今はしず子のバッグも一緒に持っている。
さすがにこの状態で走り回ると息が上がってしまう。
一旦荷物の一部をテントに置いてきた方がいいかもしれない……そう思い、踵を返そうとして──
かすみ「あ、あれ……? かすみん……どっちから来たんだっけ……?」
「ガゥ…?」
かすみ「ゾロアは……どっちから来たか覚えてる……よね?」
「ガゥゥゥ…」
かすみ「……」
「ガゥ……」
かすみ「もしかして、かすみんたち……迷子……?」
「ガゥ…」
かすみ「あー、うー……どうしよう……しず子は見つからないし、かすみんたちは迷子だしぃ……」
思わずちょっぴり涙目になって、蹲る。
蹲っていると──バッグを後ろから何かに引っ張られるような感覚がして、
かすみ「わぁっ!?」
そのまま、仰向けにひっくり返る。
- 921 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:14:11.12 ID:r2gRr5pF0
-
かすみ「い、いたた……な、なに……?」
「ベロバーーーー!!!!!!!」
かすみ「ぎゃーーーーーっ!!?」
仰向けになったかすみんの目の前に──ピンク色の何かが急に現れた。
「ガゥガゥッ!!!!」
ご主人様の叫び声を聞いて、ゾロアがそいつに向かって飛び掛かる。
「ベロバッ!!?」
「ガゥガゥゥゥッ!!!!」
その隙に、かすみんは起き上がって距離を取る。
かすみ「はぁ……はぁ……あれ、ポケモン……!?」
ゾロアと取っ組み合いをしている相手は、ピンクの体色に紫の模様と紫のベロという、とにかく毒々しい色をしたポケモンだった。
「ベロバッ!!!!!」
「ガゥッ…!!」
そいつは取っ組み合いしながら、ゾロアに“かみつく”で攻撃してくる。
かすみ「“ナイトバースト”!!」
「ガーーゥゥゥッ!!!!!」
「ベロバー!!!?」
それを内から溢れる黒いオーラで吹っ飛ばす。
吹っ飛ばされこそしたものの、ピンクのポケモンはすぐに起き上がって、
「ベロベー、ベロベロバー」
“ちょうはつ”するように踊りだす。
かすみ「もう、なんなんですか、こいつ……!」
その仕草に苛立ちながらも、バッグを持って立ち上がろうとして──さっきまであれだけ重かったバッグが妙に軽いことに気付く。
かすみ「……!? バッグの中身がまた減ってる!?」
さっきすっころんだときにぶちまけたのかと思って周囲を伺うと、
「ベロバー」「ベロベロバー」「ベロ」
かすみ「……!?」
かすみんの周囲には、さっきゾロアと取っ組み合いをしていたピンクのと同じ種類のポケモンが大量にいた。
しかも──“げんきのかけら”を持っている。
かすみ「ち、ちょっとぉ!? それ、せっかく戻ってきたかすみんのお宝!?」
「ベロ」「ベロバーー♪」「ベロベロバー」
そして、そのまま散り散りに持ち逃げしていく。
- 922 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:14:59.85 ID:r2gRr5pF0
-
かすみ「ま、また盗まれた……」
「ガ、ガゥ…」
そして、気付けば、さっきゾロアと戦っていた個体もいなくなっている。
かすみ「あーーーもーーー……!! なんなのこの森ーーーー!!!」
かすみんの叫びは虚しくも霧の森に呑み込まれていく……。
👑 👑 👑
かすみ「もうやだ……早くこの森から出たい……」
「ガゥゥ…」
しず子もいなくなっちゃったし……またかすみんのお宝も奪われて……。
そういえば、さっきのポケモン……図鑑で調べてみたら、どうやらベロバーというポケモンらしい。
『ベロバー いじわるポケモン 高さ:0.4m 重さ:5.5kg
常に 舌を 出している。 民家に 忍びこみ 盗みを
働き さらに 悔しがる 人や ポケモンの 発する
マイナスエネルギーを 鼻から 吸い込み 元気になる。』
かすみ「つまり、かすみんを悔しがらせて食事をしてた……ってことだよね」
まんまとしてやられたのが悔しくてたまらないけど、ここで悔しがると、それを餌にされるらしい。
それは癪だ……。
かすみ「早くしず子を見つけて、この森……脱出しなきゃ……」
「ガゥゥ…」
ゾロアと一緒に霧の森の中を彷徨っていると──急に霧が薄くなってきた。
かすみ「こ、今度はなにぃ……?」
もうこの得体のしれない森にうんざりしてきた。
今度は何かと身構えながら、周囲を伺う。
かすみ「……? ここだけ、霧が晴れてる……?」
どうしてかはわからないけど、かすみんはちょうど球状に霧が晴れている空間に入り込んでいたようだった。
まるでバリアで霧の侵入を阻んでいるような……そんな不思議な空間。
ただ、その空間内にあるのは、相も変わらずここまで見てきたのと同じような樹と……中心に光る大きなキノコがあるだけ。
かすみ「……? なんで、ここだけ……?」
首を捻りながら、中心にある光るキノコへと歩を進めると──キノコの下から、小さな何かが飛び出してきて、
「ミ、ミブーー!!!!」「ミブリーーー!!!!」
かすみ「わ……!?」
鳴き声をあげながら、逃げていく。
- 923 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:23:33.63 ID:r2gRr5pF0
-
かすみ「えっと……今のもポケモンだよね……?」
かすみん何もしてないんだけど……。
図鑑を開く。
『ミブリム おだやかポケモン 高さ:0.4m 重さ:3.4kg
人気の ない 場所が 好き。 頭の 突起で 生物の
気持ちを 感じとる。 穏やかな ものにしか 心を 開かず
強い 感情を 感じとると 一目散に 逃げ出してしまう。』
かすみ「ミブリムって言うんだ……」
かすみん、どうやらミブリムたちの巣にお邪魔しちゃったみたいですね……。
かすみ「ミブリムたちには悪いですけど……ちょっとここで休憩させてもらいましょう……」
「ガゥ」
視界の開けた場所で、今後どうするかを少し考えたい。
そう思って、大きな光るキノコに背を預けようとしたら──キノコの影から、
「テブリ…」
また新しいポケモンが現れた。
帽子のような髪の毛を被った、先ほどのミブリムを少し大きくしたようなポケモン。
かすみ「わ……! 可愛い……?」
その姿は愛らしく、子供の頃テレビアニメで見た魔女っ娘を小さくしたような見た目で、可愛いポイントがものすごく高いポケモンです。
かすみ「ミブリムと雰囲気が似てるし……もしかして、ミブリムが進化した姿なのかな?」
「テブ…」
かすみ「怖くないですよ〜。かすみん、敵じゃありません♪」
その愛らしさに思わず手を伸ばして、撫でようとした──そのときだった。
かすみ「んがっ!!?」
急に顎下から強烈な衝撃と共に、目の前に星が舞った。
次、気付いた時には、かすみんはまたしても仰向けにひっくり返っていた。
かすみ「…………はっ!?」
今、ものすごい衝撃に吹っ飛ばされて、一瞬意識が飛んだ。
顎がすごい痛い……。起き上がろうとすると、頭がふらふらする。
かすみ「え、な、なに……?」
「テブリィ…」
どうにか身を起こすと、先ほどの魔女っ娘ポケモンがゆっくりとこちらに迫ってきていた。
かすみ「え、えっとぉ……あ、あのぉ……も、もしかして怒ってます……?」
「テブリィ…」
かすみ「ま、待ってください……!! かすみん、本当に敵とかじゃなくて、可愛いからちょっと仲良くしたいなって思っただけで……!」
- 924 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:24:05.25 ID:r2gRr5pF0
-
かすみんの必死の説得も虚しく、
「テブッ!!!!」
かすみ「んがぁっ!?」
かすみんは魔女っ娘ポケモンの頭の房に、鼻っ柱を殴り飛ばされていました。
強烈なパンチで殴り飛ばされて、またしても地面を転がる。
かすみ「いったぁぁぁぁぁ!! もう、なんなんですか!? 魔女っ娘ポケモンに見せかけて、とんだ脳筋ポケモンじゃないですかぁ!?」
「テブリィ…?」
かすみ「あ、いえ、なんでもないです。ごめんなさい」
睨みつけられて、即ごめんなさいする。
この子、見た目に反して、めちゃくちゃおっかなくないですか!?
図鑑を開いて確認してみる。
『テブリム せいしゅくポケモン 高さ:0.6m 重さ:4.8kg
強い 感情を もつ ものは それが 誰であれ 黙らせる。
その手段は じつに 乱暴で プロボクサーさえ 一発
KOの 破壊力が ある 頭の房で 相手を 殴り飛ばす。』
すごい見た目詐欺ポケモンです……。
「ガゥ…」
かすみ「大丈夫だよ、ゾロア……。そもそも、テブリムたちの巣にお邪魔してるのはかすみんたちですから……」
心配して身を摺り寄せてくるゾロアを撫でる。
元はと言えば、勝手に巣にお邪魔している方が悪いわけですから……。
かすみ「ただ、あのぉ……本当にこれ以上近付かないので、ここで休憩だけさせてください……」
「テブリ…」
不機嫌そうなテブリムだけど……結局のところ、それは許可してくれたのか、わざわざ近付いて暴力を振るってくることはなかった。
とりあえず、一安心……ここで、作戦を考えないと……。
しず子をどうにか見つけなくちゃいけないけど……。
恐らくしず子も、この不思議な森の不思議な何かのせいで、出られなくなってる……もしくは元の場所に戻れなくなってるって考えればいいのかな……。
その何かがなんなのかわからなくて困ってるんだけど……。
かすみ「うーん……どうしたものか……」
「ガゥ…」
腕組みをしながら悩んでいると──
「ミブーーー!!!」
巣の中の、かすみんたちがいるのとは反対側の方から、ミブリムが鳴き声をあげながら逃げ込んできた。
そして、その後ろからは──
「ベロバーー!!!」「ベロベロバーー!!!!」「ベローーー!!!!」
かすみ「ベロバー……!!」
- 925 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:24:40.72 ID:r2gRr5pF0
-
ベロバーたちがミブリムを追いかけて巣に侵入してくる。
あいつら、ミブリムたちにもいじわるしてるんですね……!!
ベロバーたちを追い払おうとボールに手を掛けた瞬間、
「テブリッ!!!!」
「ベロバッ!!!?」
テブリムがベロバーを殴り飛ばして、巣の中から追い出し始める。
かすみ「テブリム、めちゃつよじゃないですか……」
次々とベロバーを拳で追っ払うテブリム。……これは手伝う必要はなさそうですね。
そう思った矢先──樹の上から影が飛び降りてきた。
かすみ「!?」
「テブッ!!?」
ちょうどテブリムの背後に着地した影は──
「ギモッ!!!!」
テブリムの顔の目の前で、両掌を合わせて叩き、大きな音を立てる──“ねこだまし”だ。
「テブッ!!!?」
頭上からの奇襲攻撃に反応できなかったテブリムが怯む。
「ギモッ!!!!」
そして、相手のポケモンがその勢いのまま、追撃を仕掛けようとした瞬間、かすみんはボールを投げ放っていた。
かすみ「ジュカインッ!! “でんこうせっか”!!」
「──カインッ!!!!」
「ギモォッ!!!?」
ボールから出ると同時に、高速の一撃で肉薄しながら、敵を斬り裂いた。
かすみ「テブリム、大丈夫ですか!?」
「テブ…」
かすみんはテブリムに駆け寄る。
かすみ「全く、“ふいうち”なんて卑怯なやつですね……!」
「ギ、ギモ…」
かすみ「お前、ベロバーたちの親玉ですね! もう許しませんよ……!!」
「ギ、ギモー!!!」
かすみんに恐れ慄いたのか、急にそいつは膝をついて土下座をし始める。
かすみ「全く……情けないですねぇ。勝てないと思ったら、土下座なんて」
「カイン」
- 926 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:25:15.07 ID:r2gRr5pF0
-
でも、そんなことされても、許してなんてやりませんもんね。
ジュカインはのっしのっしと近付いていく。
あんなやつ巣からつまみ出してやります。
その間に、あいつの名前を調べるために図鑑を開く。
『ギモー しょうわるポケモン 高さ:0.8m 重さ:12.5kg
悪知恵を 使って 夜の 森に 誘い込もうとする。
土下座して 謝る 振りをして 槍のように 尖った
後ろ髪で 突き刺してくる 戦法を 使ってくる。』
かすみ「!? 土下座は罠!?」
「ギモッ…!!!」
十分に近づいたと判断した瞬間、ギモーは髪の毛を尖らせてジュカインに突き刺してくる。
「カインッ…!!」
「ギモ、ギモモモ!!!!」
引っ掛かったと言わんばかりに下卑た笑い声をあげるギモー。
……が、
「…カイン」
ジュカインは突き刺さった髪の毛を──手で掴む。
「ギ、ギモ…!?」
かすみ「かすみんのエースは、その程度じゃ怯みもしませんよ!」
「ジュ、カインッ!!!」
髪の毛を直接握って捕まえたギモーに向かって、
かすみ「“りゅうのいぶき”!!」
「ジュ、カイーーンッ!!!!」
至近距離から“りゅうのいぶき”を噴き付けた。
「ギ、ギモォォォッ!!!!?」
ドラゴンエネルギーの炎に焼かれ、地面を転がりながら、
「ギ、ギモ、ギモモモ!!!!」
ギモーは一目散に逃げ出していく。
かすみ「ふん! おととい来やがれです!」
「カインッ」
かすみんが鼻を鳴らして勝ち誇ると、
「ミブ♪」「ミブリー♪」「ミブミブー♪」
ミブリムたちがかすみんとジュカインの足元に掛けよってきた。
かすみ「わわ……!? え、えっと……認めてもらえた感じ、ですかね……?」
恐る恐る、テブリムの顔色を伺うと、
- 927 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:25:47.14 ID:r2gRr5pF0
-
「…テブ」
先ほどまで睨むような目つきだったテブリムも気持ち穏やかな表情になっている気がした。
かすみ「ほ……」
これなら、もうさっきみたいにぶん殴られる心配もなさそうです。
かすみ「これでゆっくり考えられます……」
かすみんが、ミブリムたちの中央に腰を下ろすと、
「ミブ…?」
1匹のミブリムが、かすみんのバッグに結んでいた──しず子のリボンに反応を示した。
かすみ「……? ミブリム、もしかしてこのリボン、見覚えあるの?」
「…ミブ」
ミブリムはかすみんの言葉に首──というか体を左右に振りながら否定する。
でも……その代わりとでも言いたげに、さっきテブリムにぶん殴られて伸びているベロバーを指差す。
かすみ「ベロバーがどうかし……ん……?」
そういえば、さっき図鑑で……ミブリムは生物の気持ちを感じとるって……。
かすみ「……」
さらにギモーは悪知恵で夜の森に誘い込む……ベロバーはギモーの手下で……。
しず子の持ち物を見て、気持ちを感じ取れる力を持つミブリムがベロバーを指差した……。
だんだん、話が見えてきました……。
ミブリムはきっとこう言いたいんだと思う。そのリボンの持ち主は、ベロバーたちのところにいる……って。つまり──
かすみ「しず子は……ギモーたちに連れ去られたんだ……!!」
かすみんは立ち上がる。
そうとわかれば、今すぐにでもギモーたちの巣を見つけて、しず子を助けないと……!
かすみ「行くよ、ゾロア!! ジュカイン!!」
「ガゥッ!!!」「カインッ!!!」
かすみんが駆け出そうとした、そのとき、
「テブッ!!!」
テブリムが自分の頭の房を使って、器用にジャンプし、かすみんの頭の上に飛び乗ってくる。
かすみ「わとと……!? ……もしかして、一緒に来てくれるの?」
「テブリ」
テブリムは頷くと、伸びてるベロバーを指差し、頭の房で殴るようなジェスチャーをする。
……どう見てもベロバーやギモーたちとは仲悪そうでしたし、自分も乗り込んでボコボコにしてやろうってことなのかも……。
- 928 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:26:20.62 ID:r2gRr5pF0
-
かすみ「まあ、構いませんよ! かすみんも好き放題やられて頭に来てるのは同じですからね!」
「テブリッ!!」
かすみ「テブリム! 一緒にギモーたちをぼっこぼこのけちょんけちょんにしてやりましょう!!」
「テブリッ!!!!」
テブリムが進むべき方向を指差して教えてくれる。
かすみ「こっちにいるんですね! 行きますよ!」
「テブッ!!!」
さぁ、好き放題やってくれたギモーたちに反撃開始ですよ……!!
💧 💧 💧
しずく「……むー……!! むー……!!」
激しく抗議の意思を表してみる、
だけど、
「…ロン」
私を拘束しているこの黒い髪は全く力を緩めようとしない。
私を捕えているのは──ベロバー、ギモーの最終進化系である、オーロンゲだ。
森の光るキノコに誘われて、かすみさんが私の近くを離れた直後だった。
森の奥から伸びてきた髪の毛に、手足を絡め取られ、
しずく『な、なに……!? かすみさ──むぐっ……!』
声をあげる前に、口も髪で塞がれて──
しずく『むー……! むー……!!』
森の奥に引き摺りこまれた。
しずく「……」
ベロバーとその進化系たちは、人のマイナスエネルギーを餌とするポケモンだ。
恐らくこうして近くを通った人間やポケモンを捕まえて恐怖を与えることで、自分たちの糧としているのだろう。
たぶん、かすみさんを光るキノコで引き付けて、私と引き離したのも、ギモーの悪知恵だと思う。
そうすれば、恐怖に怯える私と、私がいなくなったことで焦ったり不安になるかすみさんからもマイナスエネルギーを奪えて一石二鳥というわけだ。
ただ、誤算があるとしたら──
「ロンゲ…」
私を至近距離で睨みつけてくるオーロンゲ。
それもそうだろう。私が全然怯えないからだ。
しずく「……むー……」
- 929 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:27:22.49 ID:r2gRr5pF0
-
そんな風に睨みつけても無駄ですよ。
私は貴方なんか怖くもなんともありません。
──絶対かすみさんが助けに来てくれますから。
「…ロンゲ」
オーロンゲは機嫌悪そうに鳴く。
私が希望を失っていないから。
そして、私に希望を与えてくれるあの人は──
「──しず子ー!! どこー!!」
やっぱり、来てくれた。
👑 👑 👑
かすみ「ジュカイン! “マジカルリーフ”!! ゾロア! “スピードスター”!!」
「カインッ!!!」「ガゥガゥッ!!!!」
「ベロ!!?」「ベベロバッ!!!?」「ベロベー!!!?」
そこらへんにいるベロバーたちを必中の遠距離技で片っ端から倒しながら突き進む。
そして、
「ベローー!!!」「ギモーーッ!!!!」「ギモォ!!!!」
飛び掛かってくるベロバーやギモーは、
かすみ「テブリム!! “ぶんまわす”!!」
「テブリーーー!!!!!」
「ベベローー!!?」「ギモッ!!!?」「ギモォッーーー!!!!」
かすみんの頭の上で拳を振り回すテブリムが全部ぶっ飛ばします。
かすみ「しず子ーーー!! 迎えに来たよーー!! どこーー!?」
もう完全にベロバーやギモーたちの縄張りに入っている。
いるとしたら、ここしかありえない。
かすみ「テブリム! しず子のもっと詳しい居場所、わかる!?」
「テブ」
テブリムが自らの額を、しず子のリボンに近付ける。
恐らく、またしず子の思念みたいなものを読み取っているんだろう。
「テブ!!」
かすみ「あっちだね! 了解!!」
テブリムが指差す方向へと走る。
ベロバーやギモーたちをぶっ飛ばしながら、走っていくと──大きな樹が見えてきた。
- 930 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:28:06.82 ID:r2gRr5pF0
-
「テブ!!」
かすみ「あの樹!? よっし……じゃあ、行きますよ!!」
大きな樹にダッシュで駆け寄り──
かすみ「テブリム!! お願いします!!」
「テーーブッ!!!!」
テブリムが樹木に向かって拳を叩きつけると──樹木の表面がバラバラと崩れ、大きな洞が現れる。
そして、
しずく「──むー……!!」
かすみ「しず子!!」
そこには、黒いひも状のもので縛られたしず子が居た。
「ロンゲ…」
「テブッ!!!」
かすみ「お前がしず子を攫ったやつですね……!!」
ギモーたちよりもずっと大きな背丈の──恐らく群れのボスらしきポケモンに向かって、テブリムが飛び出していく。
体を捻りながら、テブリムが渾身のパンチを繰り出すと──
「ロンゲッ!!!!」
相手も、身を捻りながら、拳を突き出し、2匹の拳が真っ向からぶつかり合うが──
かすみ「ご、互角……!?」
「テブッ…!!」
「ロンゲッ」
2匹のパワーは互角で、お互い相殺し合っている。
テブリムのパンチ力は身をもって体験している。それなのに、それと互角に撃ち合ってくるなんて……!!
しずく「──かすみさんっ!! 攻撃を緩めないで!!」
かすみ「!?」
気付けば先ほどまで、口を塞がれていたしず子が、私に向かってそう伝えてくる。
しずく「オーロンゲは全身の髪の毛で、自分の筋力を増強するの!! だから、攻撃に使っていたら、私を拘束できなく──むぐっ……!!」
かすみ「なるほど! そういうことなら……!! テブリム!!」
「テーブッ!!!!」
テブリムは、オーロンゲと呼ばれたポケモンの前に立って、連続で拳を繰り出す。
「ロンゲ…!!!」
もちろん、そうなればオーロンゲも応戦するしかなくなり、
しずく「……ぷはっ!」
しず子の拘束が緩んだ隙に、
かすみ「ジュカイン!!」
「カインッ!!!!」
- 931 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:29:35.36 ID:r2gRr5pF0
-
ジュカインが自慢の身のこなしで洞内の壁を蹴りながら、しず子を救出して、すぐに離脱する。
かすみ「ナイス! ジュカイン!」
「カインッ!!!」
すぐに、ジュカインがしず子を抱きかかえたまま、私のもとに戻ってくる。
しずく「かすみさん……!」
かすみ「しず子! よかった、無事で……!」
しずく「うん……! 絶対助けに来てくれるって信じてたよ!」
かすみ「当たり前じゃん!」
再会を喜び合うのも束の間、
「テ、テブーー!!!」
テブリムがこちらに吹っ飛ばされてくる。
かすみ「テブリム!? 大丈夫!?」
「テ、テブ!!」
しずく「オーロンゲも私の拘束に使っていた分を、全部攻撃に回してきたみたいだね……」
「ロンゲ…」
忌々しそうにこちらを睨みつけてくるオーロンゲ。
そして、背後からは、
「ギモーーー!!!!!」「ギモモ!!!!」「ギーーモッ!!!!」
この洞に向かって、ギモーたちが殺到してきている。
しずく「後ろは任せて」
かすみ「! そういうことなら……!! オーロンゲ、倒しますよ!!」
「テブッ!!!!」
しずく「出てきて、ジメレオン!!」
「ジメ…」
ジメレオンはボールから出ると同時に、手に大量の水の球を作り出し、
「ジメッ!!!」
それを連続で投擲──投げられた水の球は、森の樹々を反射しながら、
「ギモッ!!!?」「ギモッ!!!!」「ギィ!!!?」
予測不可能な軌道で、ギモーたちを次々と撃ち落としていく。
しずく「1匹たりとも、ここは通しません!!」
「ジメ…!!」
しず子とジメレオンがギモーたちを抑えてくれている間に、
かすみ「テブリム……!! “ぶんまわす”!!」
「テーーブッ!!!!」
テブリムが頭の房を振り回しながら、オーロンゲに飛び掛かる。
- 932 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:30:06.51 ID:r2gRr5pF0
-
「ロンゲ!!!!」
「テブッ…!!!」
が、やはりフルパワーのオーロンゲ相手だと、力負けしてテブリムが吹っ飛ばされる。
かすみ「なら……!! “マジカルシャイン”!!」
「テーーブッ!!!!」
テブリムは吹っ飛ばされながらも、激しく閃光を放って反撃。
「ロン…!!?」
暗い洞の中で急に激しい閃光が放たれたことによって、オーロンゲが一瞬怯む。
かすみ「そこです!! テブリム!!」
「テーーーブッ!!!!」
怯んだところに──テブリムが走り込み、オーロンゲの顎に向かってアッパーカットを叩きこんだ。
「ロンゲッ!!!?」
オーロンゲは体が宙を浮くほどの強烈な一撃を食らい、洞の中で倒れこむ。
「ロンゲ…!!」
まだ倒しきれていないのか、オーロンゲはすぐに起き上がるけど……確実に大きなダメージを与えたはず……!!
かすみ「この調子でもう一発……!」
さらなる追撃を加えようとした瞬間、
「ロンゲッ!!!」
オーロンゲは、髪の毛で強化した腕を──洞内の壁に思いっきり叩きつけた。
かすみ「壁に向かって“アームハンマー”……!?」
それと同時に──洞の壁が吹き飛び、それによって耐えきれなくなった樹木が倒壊を始める。
かすみ「や、やば……!?」
「カインッ!!!」
かすみんが指示するよりも早く、ジュカインが私としず子を抱きかかえ、脱出を試みる。
テブリムやゾロア、ジメレオンもジュカインの大きな尻尾にしがみついているし──お陰でどうにか、全員倒壊に巻き込まれることなく脱出が出来た。
かすみ「あ、ありがとう……ジュカイン」
「カインッ」
かすみ「そうだ、オーロンゲは……!!」
気付けば、オーロンゲの姿は見えなくなっていた。
かすみ「に、逃げられた……!」
周囲にいたギモーやベロバーたちも、樹々の影に隠れて逃げ始めている。
- 933 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:30:41.39 ID:r2gRr5pF0
-
しずく「恐らく逃げて態勢を立て直すつもりだろうね……。森の中は彼らのテリトリーだから、一旦引いて態勢を立て直せば、いくらでも策はあるだろうし……」
かすみ「冷静に分析してる場合じゃないって〜!?」
しずく「大丈夫だよ、かすみさん」
かすみ「え?」
しずく「今回は──私もかなり怒ってるから」
静かに怒りを顕わにするしず子の声に同調するように──
「ジメ──」
ジメレオンが光り出した。
かすみ「これって、まさか……!?」
しずく「かすみさんのキモリはジュカインに、歩夢さんのヒバニーもエースバーンになって……私のメッソンも、最終進化の時が近いってわかってたから」
「──インテ」
しずく「行くよ、インテレオン」
「インテ」
進化し、新しい姿を得たジメレオン……改めインテレオンは、指を銃口のようにかざし、
しずく「この森では貴方たちは隠れ放題、逃げ放題って思ってるかもしれないけど……私の“スナイパー”は、絶対に外さない──“ねらいうち”」
「インテ──」
指先から──超速度の水の弾丸を撃ち出した。
ヒュン、と風を切る音と共に、水の弾丸は樹々の間をすり抜けて──
「ロンゲェッ!!!!!!」
オーロンゲの悲鳴に変えて、直撃を私たちに報せてくれた。
「…インテ」
しずく「これに懲りたら、今後は無暗矢鱈に人を襲わないことだね。……もう、聞こえてないだろうけど」
かすみ「か、かっこよ……」
インテレオンの必殺の一撃によって──マッシュルームフォレストで起こった、一連の騒動は終息するのでした。
👑 👑 👑
かすみ「テブリム。協力してくれてありがとね」
「テブ」
あの後かすみんたちは、テブリムの巣に戻ってきました。
──あ、ちなみに盗まれた“げんきのかけら”は、崩れた樹の近くにまとめて置いてありました。もちろん全部取り戻してめでたしめでたしです。
かすみ「それじゃ……これからもミブリムたちを守ってあげてね」
「テブ」
かすみ「よし……! それじゃ、しず子! さっさと森、抜けちゃおっか! 朝になっちゃう!」
かすみんはテブリムへの挨拶を終えて、しず子に振り返る。
- 934 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:31:29.60 ID:r2gRr5pF0
-
しずく「かすみさん、いいの……? テブリム、捕まえなくても……?」
かすみ「いいのいいの! あの子は群れのリーダーなんだから、いなくなったらみんな困っちゃうもん」
せっかく一緒に戦った仲だし、ちょっと寂しくはありますけど……。
しずく「そっか……。……でも、テブリムはそう思ってないみたいだよ?」
かすみ「え?」
そう言われてテブリムの方へ振り返ると──
「テブ」
テブリムは私の足元に居た。
かすみ「テブリム……もしかして、一緒に来てくれるの?」
「テブ」
かすみ「でもミブリムたちは……」
「ミブー!!」「ミブ、ミブーーー!!!」「ミブリーー!!!!」
しずく「ふふ、旅に出る仲間を応援してくれてるね♪」
かすみ「……野生のポケモンってたくましいですね……」
嬉しそうに飛び跳ねるミブリムたちを見ていると、まるで「私たちは私たちでどうにかやっていくから、心おきなく旅に行っておいで」と群れのリーダーの門出を祝っているようだった。
「テブリ」
テブリムはまた器用に頭の房を使ってジャンプすると、
かすみ「わっとと……」
かすみんの頭に飛び乗ってくる。
「テブ」
しずく「かすみさんの頭の上で腕組んでるね」
かすみ「……なーんか、ちょっと偉そうですね、このテブリム……」
しずく「群れのみんなも大切だけど……頼りない子分が心配だから、付いて行ってやろうって感じなのかな……?」
「テブ」
かすみ「えぇ!? なにそれ!? 頼りない子分ってかすみんのこと!?」
「テブテブ」
かすみ「むー……ま、いいけどさー……。……これからよろしくね、テブリム」
「テブ!!」
霧に包まれ、キノコが群生する、この不思議な森で……新たな仲間を加えて、かすみんたちは再び、ヒナギクシティを目指して出発するのでした。
──ちなみに、森を出る頃には完全に朝になっていました……。うぅ……徹夜は美容の敵なのに……。
- 935 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/13(火) 12:32:19.20 ID:r2gRr5pF0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【11番道路】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回_●__ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.48 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.45 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.42 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.39 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.41 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
テブリム♀ Lv.40 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 5個 図鑑 見つけた数:179匹 捕まえた数:9匹
主人公 しずく
手持ち インテレオン♂ Lv.37 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
バリヤード♂ Lv.32 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アオガラス♀ Lv.36 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロゼリア♂ Lv.36 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
サーナイト♀ Lv.36 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:187匹 捕まえた数:12匹
かすみと しずくは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 936 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:12:54.47 ID:A5BOh9Vw0
-
■Intermission🎙
せつ菜「……ここ、ですね……。エアームド、下に降りてください」
「ムドー」
夜が明けて──私たちがやってきたのは、クロユリシティのちょうど北西部に存在する大きなカルデラ湖。その中心に鎮座している火山島だ。
未だに活発な活火山で、名前は──天睛山(てんせいざん)、とりわけその火山洞は天睛の火道(てんせいのかどう)と呼ばれています。
活火山なだけあって、危険を伴う場所で、人があまり近寄らず、街から繋がる道もない。大きなカルデラ湖から中央の火山島へ渡る船などもないため、ポケモンの力を借りずに来る方法はほぼないと言っていい。
──果林さんから貰ったメモには、『オトノキ北の火山洞奥。20〜』とだけ書かれていた。
オトノキ北の火山と言われたらここしかないし、20〜というのは20時以降を示しているものだろう。
ただ……。
せつ菜「本当にこんな場所に千歌さんが来るのでしょうか……」
流れ出す溶岩を横目に見ながら、私は溶岩洞に足を踏み入れる。
溶岩洞窟内は大きさこそあるものの、入り組んだ道ではなかった。
溶岩洞の入り口から真っすぐ進んでいくと、大きな広間のような空間に出る。
せつ菜「入り口は一つしかありませんでしたし……もし来るんだとしたら、ここに居れば必ず鉢合わせるはず……」
だだっ広い空間ではあるが、赤熱した溶岩のお陰で洞窟内は意外と明るかった。
その光景自体は自然の力強さを感じる幻想的な風景ではあるのだが──
せつ菜「さすがに……暑いですね……」
ドロドロとした溶岩がそこかしこに見られるだけあって、非常に暑い。
私は暑さにはかなり耐性がある方だけど……それでも、ずっと居たくはないと思うくらいには暑かった。
せつ菜「本当に、ここに千歌さんが来るの……?」
何度目かわからない自問。
千歌さんがここに来ることが想像できない。出来ない、のだが……。
せつ菜「当てもなく探し回るよりは、いい……はず」
何せ、彼女がどこにいるかは本当に見当が付いていないのだ。
もし来ないのであれば、それはそのとき考えればいい。
今は、もし彼女がここに訪れたらどうするかを考える方が建設的だ。
──これから彼女とするであろう、戦いのシミュレーションを。
一匹一匹手持ちのボールに触れながら、戦い方を頭の中で思い浮かべる。
千歌さんの手持ちとどう渡り合うかを一つ一つ考えて。
せつ菜「……」
正直、不安はあった。
今の私で勝てるのか。
今の力で通用するのか。
でも、
- 937 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:15:06.65 ID:A5BOh9Vw0
-
せつ菜「……大丈夫」
私が信じて進んできた道に、間違いはない。
あと、少しで手が届くという手応えだって、ずっと感じていた。
だから、今日、ここで、超える。
弱気になんてなっちゃダメだ。
せつ菜「私は……チャンピオンになるんだ」
私は自分に言い聞かせるように、そう言葉にした──
🎙 🎙 🎙
──時刻は20時半を回ろうとしていた。
せつ菜「…………」
溶岩洞の内部は、今も灼熱の溶岩が流れ続けるだけ。
20〜と書かれていたが、千歌さんは未だ姿を現していなかった。
せつ菜「…………また、からかわれてしまったみたいですね……」
菜々のときだけではなく、せつ菜であってもからかわれてしまったようだ。
さて、これからどうしたものだろうか……。
次の策を思案し始めた、そのときだった。
「──こっちであってるよね!?」
入り口からこの広間へ向かう通路の方から、声が聞こえてきた。
せつ菜「……え?」
その声は、あまりに聞き覚えのある声で──程なくして、
千歌「はぁ……はぁ……! どこ……!?」
千歌さんが、この火山洞の中に、姿を現した。
せつ菜「本当に……来た……」
私は唖然としてしまった。
まさか本当に来るなんて。
キョロキョロと何かを探していた千歌さんは、
千歌「……え?」
私を視界に入れた瞬間、目を丸くする。
千歌「せつ菜ちゃん……?」
- 938 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:15:48.34 ID:A5BOh9Vw0
-
千歌さんもポカンとしていた。
まさか、私がこんな場所にいるなんて思っていなかったとでも言わんばかりに。
呆然としながら、見つめ合う私たち。そして、その背後から、
彼方「千歌ちゃーん……待って〜……」
息を切らせながら、広間に入ってくる女性の姿。
確か……彼方さんと呼ばれていた気がします。
そしてその後ろから、ツインテールの少女と、さらにサイドテールの女性が姿を現す。
遥さんと……穂乃果さんと呼ばれていたと思います。
最近、千歌さんと会うときに大体一緒に行動している方たちです。
千歌「あ、えっと……彼方さん……」
彼方「はぁ……はぁ……あ、あのねー……大変なのー……。……ここに入ったら、急に反応が、消えちゃって……」
千歌「え? そうなの……?」
彼方「うん……」
遥「勝手に戻っていったということでしょうか……」
穂乃果「今までそんなことあったっけ……?」
何やら話をしていますが……こうして千歌さんと出会えたのなら、
せつ菜「……あの!!」
私は私の目的を果たさねばならない。
せつ菜「千歌さん!! 私とバトルしてください!!」
千歌「あ、えっと……」
千歌さんは少し動揺した様子だった。
彼方「あれ……? なんで、せつ菜ちゃんがいるの〜……?」
遥「まさか、またせつ菜さんが……?」
千歌「えーっと……」
千歌さんは背後の穂乃果さんを伺うように、チラりと視線を送る。
穂乃果「……とりあえず、反応が消えちゃったなら、私たちには何も出来ないし……大丈夫だと思う」
千歌「……まあ、それもそっか」
どうやら、向こうも話が付いたらしく。
千歌「どうしてここにせつ菜ちゃんがいるのかはわからないけど……トレーナー同士、目が合ったら戦うのが礼儀だもんね!」
せつ菜「……! はい!!」
──やった……! バトルまで、漕ぎつけた。
後は──戦って勝つ……!! 勝って、実力を示して、チャンピオン戦をしてもらう!!
私はボールから手持ちを繰り出す。
- 939 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:16:30.06 ID:A5BOh9Vw0
-
せつ菜「行きますよ、ゲンガー!!」
「ゲンガッ!!!」
千歌「出てきて、バクフーン!」
「──バクフーン!!!!」
お互いの手持ちが相対して、今まさにバトルが始まろうとした──その瞬間だった。
──ビーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
けたたましいブザー音のようなものが洞窟内に響き渡った。
千歌「……!?」
せつ菜「な、なに……!?」
千歌さん共々、ブザー音の発信源に目を向けると──それは彼方さんの持っている端末から鳴っている音だった。
彼方「……うそ」
穂乃果「彼方さん、場所は……!?」
彼方「叡智のゴミ捨て場付近と……フソウ島」
遥「二ヶ所同時……!?」
穂乃果「しかも、ここと真逆……!?」
彼方「それに、どっちも市街地が近い場所だよ〜……!」
穂乃果「……っ……私はフソウに飛ぶ!! 千歌ちゃんは、ダリアの方に行って!!」
そう言って、穂乃果さんは踵を返して駆け出して行く。
千歌「は、はい……!」
千歌さんも動揺しながらも、踵を返して出て行こうとする。
せつ菜「ま、待って……!?」
千歌「ごめん、せつ菜ちゃん……!! バトルはまた今度……!!」
そう言って、千歌さんが洞窟内から駆け出して行く。
どうしよう。戦わなくちゃいけないのに。私は、すぐにでも千歌さんと戦って示さなくちゃいけないのに。
私の頭の中は、それでいっぱいだった。
だから、私は、
千歌「んぎっ!?」
彼方「千歌ちゃん!?」
遥「どうしたんですか……!?」
千歌「身体が……う、動かない……!!」
せつ菜「……トレーナーとの戦いが始まったのに、背を向けるんですか……」
“メガバングル”を輝かせながら、言う。
- 940 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:21:21.68 ID:A5BOh9Vw0
-
「ゲンガァー…!!!!!」
千歌「め、メガゲンガー……! “かげふみ”……!」
彼方「ち、千歌ちゃん……!」
千歌「二人は穂乃果さんと、先に行って……!」
遥「わ、わかりました……!」
彼方「ご、ごめんよ〜……!」
彼方さんと遥さんが千歌さんを置いて駆け出して行く。
せつ菜「……バトルの最中に……相手に背を向けるんですか……チャンピオンが……」
千歌「……っ……せつ菜ちゃん、今は緊急事態で……バトルなら、今度会ったときに改めてやろう! ね!?」
せつ菜「今度って……いつですか……次会うのはいつですか……!!」
千歌「え、いや、それは……わ、わかんないけど!!」
せつ菜「──それじゃ、ダメなんですっ!!」
千歌「……っ!?」
自分でも驚くくらい、大きな声が火山洞内で反響する。
次会えるのなんて、いつになるかわからない。
今ここでこの機会を逃したら──全てを失ってしまう気がした。
せつ菜「今……!! 今、バトルしてください……!!」
千歌「だ、だから……!! 緊急事態なんだって!! 今行かないと大変なことに……」
せつ菜「私だって、今バトル出来ないと困るんですっ!!!」
千歌「……っ」
私の無茶な要求に千歌さんも困っていたし、苛立ちがあったのかもしれない。
だから、彼女は私に向かって──言ってしまった。
千歌「──ポケモントレーナーだったら、バトルなんていつだって出来るじゃんっ!!!!」
せつ菜「────」
その言葉を聞いて、私の中で──何かが切れてしまった。
せつ菜「いつだって……出来る……?」
千歌「そうだよ、いつだって出来る、だから……!」
せつ菜「……ゲンガー!! “シャドーボール”!!」
「ゲンガーーッ!!!!」
千歌「!? “かえんほうしゃ”!!」
「バクフーンッ!!!!!」
ゲンガーの放った“シャドーボール”が“かえんほうしゃ”で相殺されて、爆発する。
爆発の衝撃で、朦々と立ち込める煙の向こうに立つ千歌さんを、見据える。
せつ菜「……そうですよね、貴方はいつだって、どこでだって、好きなときに、好きなだけ、戦える。トレーナーでいられる。何不自由なく、縛られることなく、誰に言われることもなく」
千歌「せつ菜ちゃん、やめてって!! 今は戦えないって言ってるじゃん!!」
せつ菜「戦う気がないなら……戦う気にさせてあげますよ……!!」
私は──ボールを4つ放った。
- 941 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:22:18.17 ID:A5BOh9Vw0
-
「ムドー!!!」「フゥ!!!」「ドサイッ!!!」「ワァォン!!!!」
せつ菜「エアームド、“ステルスロック”! スターミー、“ハイドロポンプ”! ドサイドン、“ロックブラスト”! ウインディ、“かえんほうしゃ”!」
「ムドーーー!!!!」「フゥッ!!!!」「ド、サイッ!!!!」「ワァーーーオーーーンッ!!!!!」
千歌「……っ!」
「バクフッ!!!」
私の手持ちたちの総攻撃に、千歌さんはバクフーンに掴まり、駆け出して回避する。
千歌「せつ菜ちゃんっ!! いい加減にしてよっ!!」
せつ菜「私は本気です!! 本気で貴方と戦う意志を持って今ここにいるんですっ!! だから、千歌さんも私と本気で戦ってくださいっ!!」
彼女なら、意志を見せれば、向き合ってくれると思った。
だけど──そうじゃなかった。
千歌「あーーーーもーーーーっ!!! 今は無理って言ってるでしょーーーー!!!!」
千歌さんが叫ぶのと同時に──彼女の腕に付けたリングが、強烈な閃光を放ち始めた。
せつ菜「……!?」
千歌さんとは何度も戦ってきたけど、これは、こんな光景は、一度も見たことがなかった。
彼女の腕の光は、千歌さんの腕から──バクフーンへと流れ込み、
「バクフーーー!!!!!!!」
離れていても、ビリビリとほのおのエネルギーを感じるほどに、すさまじい熱気を放ち、
千歌「──“ダイナミックフルフレイム”!!」
「バーーーーク、フーーーーーーンッ!!!!!!!!!!!!!!」
せつ菜「う……そ……」
見たこともないような、巨大な火球が──
「ゲンガッ!!!?」「フゥ…!!!」「ドサイ…!!!」「ムドーッ!!!?」「ワォンッ!!!?」
私たちの手持ち5匹全てを呑み込み──直後、膨れ上がったほのおエネルギーが大爆発を起こした。
せつ菜「うぁっ……!!」
強烈な爆音と爆風が衝撃波となって、私に襲い掛かってくる。
立っていることもままならず、吹き飛ばされて地面を転がる。
せつ菜「……っ……」
轟音が洞窟内で何度も反響し、火山全体を大きく揺さぶる。
目の前で大噴火が起こったのかと錯覚するような、とてつもない熱量。
──やっと、余波が収まった頃に顔を上げて、どうにか身を起こす……。
せつ菜「…………」
千歌「はぁ……! はぁ……!」
せつ菜「………………」
千歌「ごめん、せつ菜ちゃん……!! 私、行くから……!!」
- 942 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:23:08.31 ID:A5BOh9Vw0
-
千歌さんは今度こそ踵を返して、洞窟から駆け出して行く。
彼女が去ったあとの洞窟内をぼんやりと見回すと、
「ゲ、ン…」
ゲンガーが倒れていた。
「ムドー…」
エアームドも力なく地に伏せ、
「フ、ゥ…」
ほのおタイプが得意なはずのスターミーもコアを点滅させ、
「ド、サイ…」
溶岩さえ耐える、硬い岩の皮膚を持つドサイドンも丸焦げにされ、
「ワ、ォン…」
同じほのおタイプのはずのウインディも、力尽きて倒れていた。
せつ菜「……なに……いま、の……」
私は──思い上がっていた。
もう少しで手が届くと思っていたのは、ただの勘違いだった。
私のポケモンたちは──たった一撃で全滅してしまった。
千歌さんは、あんな技を隠していた、あんな特別な、技を……。
せつ菜「あ、……あはは、あははははははっ……」
笑いが込み上げてきた。
笑いと一緒に──涙も。
せつ菜「あはは、あははははははっ……千歌さんは、本気じゃなかったんだ……ずっと私なんか相手に、本気なんて出してなかったんだ……」
本当はいつでも一撃で終わらせられる技を持ってたんだ。そんな──『特別』を持っていたんだ。
私にはまだ──チャンピオンなんて遠かったんだ。
ただ、負けただけなら……いつもだったら、どうすれば勝てるかを考えていた。
だけど……今回は、そう思えなかった。そんな風に、考えられなかった。
せつ菜「なんで……っ……。なんで……その技なんですか……っ……。なんで……バクフーンなんですか……っ……」
ずっと、言わないようにしていた言葉が……勝手に溢れ出してきた。
せつ菜「なんで……選ばれた貴方が……選ばれた技で……選ばれたポケモンで……──選ばれなかった私から、全てを奪うんですか……っ!!」
もう言葉が止まらなかった。
せつ菜「私だって、選ばれたかった……っ!!! 博士からポケモン図鑑を貰って、最初のパートナーを貰って、旅に出たかった……!! 私だって、そうしたかった……そうありたかった……」
──結局。
- 943 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:23:58.79 ID:A5BOh9Vw0
-
せつ菜「結局……貴方は選ばれたから、なんですか……? 私は選ばれなかったから……勝てないんですか……? そんなの……そんなのって……っ……」
力無く項垂れる私の背後から──
「──……そうよね、酷いわよね」
女性の声がした。
聞き覚えのある、声だった。
せつ菜「果林……さん……?」
果林「酷い……酷すぎるわ……」
そう言いながら、彼女は私のことを後ろから抱きすくめる。
果林「選ばれた人間が……選ばれなかった人間をめちゃくちゃにする。……どんなに頑張っても、結局選ばれた人たちだけが、笑って、貴方たちの努力あざ笑う」
せつ菜「…………」
果林「可哀想なせつ菜……。でも、大丈夫よ、せつ菜……」
果林さんは私の頭を優しく撫でながら、私の耳元で、
果林「──私が、選んであげるから」
そう、言葉にした。
せつ菜「え……?」
果林「貴方に……『特別』な力をあげる」
『特別』──その言葉は……今の私には、あまりにも甘美な響きだった。
果林「私と一緒に、来なさい……せつ菜。私が貴方を──『特別』にしてあげる」
せつ菜「…………はい」
今の私は、その甘い毒に、抗う術を持っていなかった──
………………
…………
……
🎙
- 944 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:37:02.97 ID:A5BOh9Vw0
-
■Chapter047 『激闘! ヒナギクジム!』 【SIDE Kasumi】
かすみ「さて、今日はついにヒナギクジムに挑戦の日です!」
「ガゥガゥ♪」
しずく「ふふ、そうだね」
かすみ「昨日は1日お休みした分、かすみん元気全開! 気合い入りまくってるんだから!」
「ガゥ♪」
しずく「うんうん、頑張ろうね♪」
昨日の朝方、ヒナギクに到着したかすみんたちは、もちろん宿に直行しました。
あまりに疲れていたのもあって、起きたら夕方……そこからジム戦に行くのもタイミングが悪いということで、結局その日は休息日ということにしたわけです。
お陰でたくさん寝られましたし、お肌もつるつる、髪もつやつや、乙女の尊厳も守りながら、元気全開、パワー全開でジムに挑むことが出来ますよ!
さあ、早速ジムにレッツゴーです!
👑 👑 👑
かすみ「…………」
──『現在ジムリーダーは留守です』
お決まりの留守札がかかっている、ジムのドアを見て、かすみん思わずしかめっ面になります。
しずく「あはは……なんか、なんとなくこうなるかなーって気はしてたんだけど……」
かすみ「はぁ……かすみん呪われてるんですかねぇ……」
「ガゥ?」
しずく「い、いっそ、このまま全ジム制覇出来ちゃうかもしれないよ……?」
かすみ「そんなジム制覇したくないよぉ〜……」
全部のジムで出鼻を挫かれるなんて嫌すぎます……。って言っても、結局後回しになっちゃったローズジムを含めたら、これで7個目ですからね……。
制覇も近い……。
ジムの前で項垂れるかすみんなんですが……そんなかすみんに向かって、
女の子1「あら……お前たち、ジム挑戦者かしら?」
女の子2「この時間……ジムリーダーは基本的にジムにいない……」
たまたま通りかかったっぽい、女の子たちが声を掛けてくる。
黒いゴスロリ服に身を包んだアッシュグレーの髪の女の子と、それとは対照的に白いゴスロリ服に長い黒髪を携えた女の子の二人組。
……この、いかにもな服装……オカルトマニアかな……?
- 945 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:37:55.36 ID:A5BOh9Vw0
-
かすみ「ジムリーダーはこの時間はいつも留守なんですか?」
女の子2「うん……この時間は基本留守」
しずく「どこかに出かけているんですか?」
女の子1「ええ……この時間はいつもグレイブガーデンにいるみたいよ」
かすみ「グレイブガーデン……?」
しずく「グレイブガーデンって……ヒナギクの北にある、墓地ですよね……?」
かすみ「え、墓地? お墓参りってこと……?」
女の子1「みたいね……毎日朝夕に欠かさず行っているみたいよ」
しずく「毎日……ですか」
かすみ「この町のジムリーダーは、随分マメな人なんですね……」
女の子2「ただ、誰のお墓参りなのかは誰も知らない。聞いても答えてくれないから」
女の子1「噂では、ここのジムリーダーは過去に“機関”に属していて、そのときに犠牲にしてしまった命への弔いだなんて言われているわ……」
しずく「き、“機関”……!? こ、ここのジムリーダーはまさか壮絶な過去を……」
かすみ「しず子〜……こういうの本気で相手しない方がいいよ〜……?」
オカルトマニアが言うことなんて大体適当なんだし……。
女の子1「まあ、信じる信じないはお前たちの勝手だけどね……行くわよ、咲良」
女の子2「うん……姉さん」
そう言い残して、二人は去って行ってしまった。
しずく「今の二人、姉妹だったんだね」
かすみ「この町……癖強い人が多いよねぇ……」
軽く周囲を見渡してみても、さっきの姉妹のようなゴスロリっぽい衣装の人や、魔女みたいな服装の人とか……今日は仮装パーティの日なのかと疑いたくなるような人たちがたくさんいる。
しずく「あはは……この町は南北を霊峰に挟まれてるからね……そっち系の人は多いらしいよ。……それで、どうする? ここでジムリーダーが帰ってくるの待つ?」
かすみ「うーん……」
かすみん少し悩みましたが、
かすみ「グレイブガーデンにいるって言うなら、行ってみよう。もしかしたら、また急用でジム戦出来ない〜とか言われたら嫌だから、直接捕まえるべきです!」
しずく「捕まえるって……ポケモンじゃないんだから……」
かすみ「とにかく! グレイブガーデンへレッツゴー!」
「ガゥガゥ♪」
かすみんたちは、町の北にあるグレイブガーデンを目指します。
- 946 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:38:58.98 ID:A5BOh9Vw0
-
👑 👑 👑
──グレイブガーデンはジムからそこまで遠くなくて、すぐにたどり着きました。
かすみ「うわ……一面お墓だらけ……」
「ガゥ」
しずく「墓地だからね。……あんまり変なことすると呪われちゃうかもよ〜……?」
かすみ「ひぅっ!?」
しずく「ふふ、なーんて。冗談だよ。でも、お墓だから、いつもみたいにはしゃぎすぎないようにね?」
かすみ「お、脅かさないでよ! ま、まあ、別にかすみんそれくらいじゃ全く怖くないですけど〜? ゾロアもいるし……」
「ガゥ?」
しずく「もう……じゃあ、なんで私の後ろに隠れるの?」
かすみ「ほ、ほら……しず子の背中になんか憑かないようにと思って……!」
しずく「ふふ、そっか、ありがとね」
かすみ「ほら、前に進まないと!」
「ガゥ」
しずく「はいはい、わかりました」
しず子を盾──じゃなかった……しず子の背中を守りながら、グレイブガーデンを進んでいきます。
かすみ「それにしても……ホントにすごい数だね……」
しずく「厳しい環境の町だからね……開拓前は多くの人が亡くなったって言うし……」
かすみ「そうなんだ……」
しずく「人だけじゃなくて、ポケモンもね……。あと、この共同墓地はヒナギクの人やポケモンだけじゃなくて、地方のいろんな町から、お墓を建てに来る人がいるみたいだよ」
かすみ「確かに、セキレイではお墓ってあんまりないよね……」
しずく「特にポケモンのお墓はね。オトノキ地方以外でも、カントーのポケモンタワー、ホウエンの送り火山、シンオウのロストタワー、イッシュのタワーオブヘブン、アローラのハウオリ霊園とか……ポケモンを弔う場所は共同墓地として置かれてることが多いかな……」
しず子の説明を聞きながら、グレイブガーデンを進んでいくと、
しずく「あ……」
かすみ「むぎゅっ!」
しず子が急に足を止めた。そのせいで、しず子の背中に顔を押し当ててしまう。
かすみ「き、急に止まらないでよ……」
しずく「かすみさん、あの人じゃないかな」
かすみ「え?」
言われて、しず子の影から覗いてみると──確かに、お墓の前で手を合わせている女の子がいた。
赤紫の髪をツインテールに結っている女の子だ。
しずく「ちょうどお墓参りしてるところみたいだね」
かすみ「さすがに終わるまで待った方がいいよね?」
しずく「そうだね」
さすがにお墓参り中に話しかけるなんて、非常識な真似はしません。
少し離れた位置で見守ることにする。
- 947 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:39:51.00 ID:A5BOh9Vw0
-
女の子「…………」
かすみ「……真剣に手を合わせてますね」
しずく「よほど大切な人なのかもね……」
だとしても、これを毎日しているというのは、大変な気がする。
すごく優しくて、真面目な人なのかもしれない。
しばらく待っていると、女の子は目を開けて、立ち上がる。
女の子「──ごめんなさい、待たせたみたいね」
かすみ「はぇ……?」
しずく「もしかして、私たちに気付かれてました……?」
女の子「なんとなく気配でわかった」
かすみ「そ、そうですか……」
こうして目の前に立つ女の子は、背こそ低いものの、眼光は鋭く、立ち居振る舞いって言うんでしょうか……なんだか毅然としていて……簡単に言うと、なんか強そうな感じがします。
女の子「こうしてここまで私に会いに来たってことは……ジム戦に来たのよね」
かすみ「は、はい……!」
理亞「私は理亞。ヒナギクジムのジムリーダーよ」
かすみ「よ、よろしくお願いします! わ、私はかすみって言います!」
しずく「私はしずくです」
理亞「よろしく。あと貴方も」
そう言いながら、理亞先輩はゾロアの頭を撫でる。
「ガゥ♪」
理亞「わざわざ迎えに来てくれてありがとう。すぐにジム戦の準備するから、ジムに行きましょう」
かすみ「は、はい!」
理亞先輩を先頭に、来た道を戻っていく。
しずく「そういえば、かすみさん……珍しくまともに自己紹介してたね」
かすみ「な、なんというか……ふざけちゃいけない空気を感じたというか……いや別に、かすみんがかすみんなのは、ふざけてるわけじゃないけどね?」
「ガゥ?」
しずく「普段も挨拶のときくらいは、それくらい空気を読めればいいのに……」
かすみ「む……まるで普段が空気読めてないみたいじゃん」
全く、失礼なしず子ですね……!
かすみんがぷんぷんしていると、
理亞「それにしても、良いタイミングだった」
理亞先輩が話しかけてくる。
- 948 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:40:35.56 ID:A5BOh9Vw0
-
かすみ「良いタイミング……ですか?」
理亞「実は明日からローズに行くためにジムを空けようと思ってたから」
しずく「ローズにですか?」
かすみ「今、ローズはバタバタしてますよ?」
理亞「知ってる。中央区でテロがあったって。……ただ、姉がローズの病院に入院してるから、様子を見に行こうかと思って」
しずく「そういうことでしたか……」
理亞「もちろん病院の方は問題ないってことは聞いてるけど……一度見に行った方がいいと思ったから」
ってことは、かすみん珍しく、間がよかったみたいですね……!
最初留守札を見たときはまたかって思っちゃいましたけど……やっぱり、こういうときに日頃の行いが出るんですよね〜。
理亞「だから、もし挑戦に失敗しても、再戦は出来ないから」
かすみ「む……もちろん、かすみん1回で勝つつもりで来てますよ」
理亞「そ。でも、手加減するつもりとかないから」
なかなか自信家さんみたいですねぇ……でも、かすみんだって負けるつもりなんてありませんから!
かすみ「……そういえば、しず子」
しずく「ん、なに?」
かすみんは、理亞先輩に聞こえないように、こっそりしず子に耳打ちをします。
かすみ「理亞先輩って何タイプ使うの……?」
しずく「そこは私頼りなんだね……。えっと……理亞さんはこおりタイプのエキスパートだよ」
かすみ「こおりタイプ……」
ジュカインが苦手なタイプですね……。これはちょっと考えないといけないかも……。
作戦を練りながら、かすみんたちはヒナギクジムへ向かいます。
👑 👑 👑
──ヒナギクジムに到着すると、理亞先輩は早速バトルスペースに赴きます。
かすみ「よろしくお願いします!」
理亞「ん、よろしく。使用ポケモンは4体。全員戦闘不能になったらその時点で決着だから」
めんどくさいやり取りは抜きで、お互いボールを構える。
理亞「これ……一応、戦う前に言うやつらしいから。ヒナギクジム・ジムリーダー『無垢なる氷結晶』 理亞。負けて、泣かないようにね」
両者のボールがフィールドに放たれて──バトル、開始です!!
- 949 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:41:21.25 ID:A5BOh9Vw0
-
👑 👑 👑
理亞「行くよ、マニューラ」
「マニュッ!!!」
理亞先輩の1匹目はマニューラ。対するかすみんは、
かすみ「さぁ、行きますよ! ジュカイン!」
「カインッ!!!」
しずく「い、いきなりジュカイン!?」
驚きの声をあげるしず子。こおりタイプはジュカインにとっては苦手な相手です。
最後の1匹に残して、相性不利のまま戦うくらいなら、最初に全力で戦ってもらって、数を削る方が得策と考えました。
理亞「へぇ……こおりタイプのジムでくさタイプ先発……いい度胸してる」
かすみ「相性が悪くても、当たらなければ問題ありません! かすみんのジュカインは速いですよ!」
「カインッ!!」
理亞「そ。でも──もう、当たりそうだけど」
かすみ「え……!?」
気付いたときには、フィールド上からマニューラの姿が掻き消えていた。
フィールド全体を見渡しても、マニューラの姿はどこにも見えない。
そんな中──突然かすみんの頭上に影が差した。
かすみ「!? 上!?」
理亞「“つららおとし”!!」
「マニュッ!!!!」
ジュカインの真上に跳躍したマニューラは冷気を放ち、それを塊にして降らせてくる。
かすみ「“リーフブレード”!!」
「カインッ!!!!」
でも、動き出しで負けても、ジュカインがスピード自慢なのには変わりありません!
落ちてくるつららを1本ずつ正確に切り落としていく。
かすみ「これなら、捌ききれ──」
理亞「──ると思う?」
大量のつららに紛れて──
「マニュッ!!!!」
かすみ「!?」
マニューラが爪を構えながら、降ってくる。
理亞「“きりさく”!!」
「マニュッ!!!!」
「カインッ…!!!」
- 950 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:42:06.37 ID:A5BOh9Vw0
-
マニューラは鋭い爪で、ジュカインの胸部を切り裂きながら、床に着地する。
かすみ「着地隙逃がしちゃだめ!! “アイアンテール”!!」
「カァ、インッ!!!!」
ジュカインは床を踏みしめながら、体を捻って前方に着地したマニューラに向かって大きな尻尾を振るう。
でも、
理亞「遅すぎ」
「マニュッ!!!」
マニューラはすぐにジャンプをして、尻尾を回避し、さらに、
理亞「“トリプルアクセル”!!」
「マニュ、マニュ、マニュッ!!!!!」
跳ねながら回転し、3連続キックを繰り出してくる。
「カインッ!!!?」
身を捻って向けた背に、氷の蹴撃を食らって、ジュカインがうつ伏せに倒れる。
かすみ「ジュカイン!?」
理亞「トドメ……! “れいとうパンチ”!!」
「マニュッ!!!!」
倒れたジュカインの背に向かって、“れいとうパンチ”が迫る。
かすみ「わ、“ワイドブレイカー”!!」
「…!!! カインッ!!!!」
「マニュッ!!!?」
咄嗟に尻尾を大きく振るって、マニューラを迎撃する。
理亞「ちっ……仕留めそこなった」
「マニュッ…!!!」
“ワイドブレイカー”が当たりこそしたものの、こちらも体勢が悪い状態での攻撃だったため、大きなダメージにはなっていない。
マニューラは軽い身のこなしでフィールドに着地しながら、
理亞「“つるぎのまい”」
「マニュッマニュッ!!!!」
“ワイドブレイカー”で下げられた攻撃を元に戻している。
ジュカインもすぐさま、全身のバネを使って起き上がり、迎撃態勢を取るけど──完全に劣勢だ。
かすみ「せめて、一瞬でも隙が作れれば……」
かすみんはチラりとジムの天窓を見る。
寒い寒いヒナギクシティだけど、日中になればちゃんと日が照ってくれる。
“ソーラーブレード”さえ叩き込めれば勝機はあるんだけど……。
かすみ「……あ」
- 951 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:43:38.75 ID:A5BOh9Vw0
-
……かすみん、良いこと考えついちゃいました。
ソーラーの使い道は“ソーラーブレード”だけじゃありません……!
理亞「マニューラ、“こうそくいどう”」
「マニュッ!!!」
またマニューラの姿が掻き消える。
確かにめちゃくちゃ速いです。全然目で追えない。
……でも、
かすみ「目で追えなくても、目で追われてればいいんです!」
理亞「……は?」
理亞先輩がかすみんの言葉に怪訝な顔をした瞬間、
「マニュッ!!!!」
マニューラがジュカインの頭上後方から飛び掛かってくる。
完全な死角からの高速奇襲。絶対回避不可能な位置関係だけど──
かすみ「“フラッシュ”!!」
「カインッ!!!!」
ジュカインは自身に溜まっている太陽のエネルギーを光にして、一気に放出する。
「マ、マニュッ!!!?」
理亞「な……!?」
至近距離での強烈な閃光を受け、驚いたマニューラはそのまま、地面に落っこちる。
ジュカインは、目を潰されて隙だらけになったマニューラの頭上に尻尾を振り上げる。
かすみ「“アイアンテール”!!」
「カインッ!!!!」
「マニュッ!!!!?」
今度こそ、“アイアンテール”を頭上から直撃させた。
「マ、マニュ…」
鋼鉄の尻尾を叩きつけられたマニューラはあえなく戦闘不能。
理亞「……戻れ、マニューラ」
かすみ「よし!! まず一勝です!!」
理亞「マニューラは素早い代わりに、防御が弱い……やられた」
かすみ「さぁ、この調子で行きますよ! 早く次のポケモンを出してください!」
理亞「それはそっちもね」
かすみ「……え?」
直後──
「カインッ…」
- 952 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:44:20.26 ID:A5BOh9Vw0
-
ジュカインが崩れ落ちた。
かすみ「え、ええ!? ジュカイン!? どうしちゃったの!?」
理亞「熱くなりすぎて、気温の変化に気付いてないんじゃない?」
かすみ「へ……?」
言われてみれば……。
かすみ「な、なんか……さ、寒い……?」
しずく「……! まさか、“こごえるかぜ”……?」
かすみ「え?」
理亞「マニューラは場に出たときから、ずっと“こごえるかぜ”で少しずつフィールドの気温を下げながら戦ってた。ジュカインは寒さに弱いから、それでじわじわ体力が削られてたことに気付いてなかったみたいね」
かすみ「う、うそぉ……」
せっかく、大逆転したと思ったのに……。
理亞「さ……仕切り直し」
かすみ「くぅ……戻って、ジュカイン」
ジュカインをボールに戻す。
さすがに6人目のジムリーダーともなると、一筋縄ではいかなさそうです……!
かすみ「行くよ、ヤブクロン!」
「──ヤブゥッ!!!」
理亞「バイバニラ、よろしく」
「──バニーラ♪」「──バニーラ♪」
理亞先輩の2匹目のポケモンが現れると同時に──ジム内に“ゆき”が舞い始める。
かすみ「わ!? なんか、“ゆき”が降ってきた!?」
しずく「かすみさん! 特性“ゆきふらし”だよ!」
かすみ「ゆ、“ゆきふらし”……」
かすみん、確認のために図鑑を開きます。
『バイバニラ ブリザードポケモン 高さ:1.3m 重さ:57.5kg
体温は マイナス6度 前後。 水を 大量に 飲み込んで
体内で 雪雲を 作る。 2つの頭 それぞれに 脳があり
両者の 意見が 一致すると 猛吹雪を 吐いて 敵を 襲う。』
かすみ「めっちゃ冷たいポケモンだってことはわかりました……。もたもたしてると氷漬けですね……! なら、さっさと倒しちゃいましょう! “ヘドロばくだん”!!」
「ヤーーーーブッ!!!!!」
ヤブクロンがヘドロの塊を球状にして発射する。
相手のバイバニラはさっきのマニューラとは打って変わって、動きが速い感じはしない。
避ける素振りも見せず、攻撃が直撃するかと思った瞬間──パキンと音を立てて、“ヘドロばくだん”が凍り付いた。
かすみ「んなっ!?」
理亞「“フリーズドライ”で凍らせた」
“ヘドロばくだん”は炸裂することなく、空中で急激に冷やされたあと、バキリと真っ二つに割れ、バイバニラに当たることなく落ちてしまった。
- 953 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:48:29.72 ID:A5BOh9Vw0
-
理亞「“ふぶき”!」
「バーニラ♪」「バニーラ♪」
かすみ「んぎゃーー!! さ、寒いぃぃぃ!!」
「ヤ、ヤブゥゥ…!!!」
かすみ「ヤブクロン、“ドわすれ”……!」
「ヤブゥ……」
寒さを忘れて凌ぎ切ります。
さ、先にかすみんがダメになりそうですけど……が、頑張る!
理亞「ボーっとしてていいの? “れいとうビーム”」
「バニーラ♪」「バニーラ♪」
それぞれの頭から“れいとうビーム”が発射され──ボーっとしているヤブクロンに直撃する。
「ヤブ──」
直撃したビームは一瞬でヤブクロンを氷漬けにしてしまう。
理亞「寒さを忘れて防ぐことが出来るんだとしても……凍らせれば関係ない」
かすみ「ぐぬぬ……」
確かにそのとおりです。あれはあくまで寒さを忘れるだけで、物理的に凍らされることを防ぐことは出来ません。
ただ、凍った状態を脱する方法も考えています……!
──ジュゥ……。
理亞「……? なんの音……?」
──ジュー……ジュゥゥゥゥ……。
何かが焼けるような音が響く。
理亞「……ヤブクロンの方……? まさか……」
かすみ「ふふん、凍らされても溶かせばいいんです! “アシッドボム”!」
「──ヤブクゥ…」
寒さは“ドわすれ”で防いで、凍らされても落ち着いて“アシッドボム”で溶かす!
完璧です!
あとはゆっくり“どくガス”なりなんなり、体力を削る手段で──
理亞「“ぜったいれいど”」
「バニーラ♪」「バニーラ♪」
──パキリ……と音を立てながら、ヤブクロンが氷漬けになった。
かすみ「んなぁ!?」
理亞「“ぜったいれいど”は命中率が低い技だけど、動かない相手にはさすがに当たる」
かすみ「やややや、ヤブクロン!! “アシッドボム”で溶かしてぇ!?」
理亞「無理。“ぜったいれいど”は一撃必殺。“アシッドボム”すら使えないくらいに、完全に氷漬けになって気絶してるから」
かすみ「ぅ、ぅぅぅぅぅぅ!! 戻って、ヤブクロン!!」
かすみん、ヤブクロンをボールに戻します。
あっけなく2匹目が戦闘不能に……。
- 954 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:49:02.61 ID:A5BOh9Vw0
-
かすみ「サニーゴ!! 行きますよ!!」
「……サ」
かすみ「“パワージェム”!!」
「…………ニ」
輝くいわタイプのエネルギーが発射される。
理亞「“ラスターカノン”!!」
「バニーラ♪」「バニーラ♪」
対するバイバニラは、“ラスターカノン”で“パワージェム”を迎撃してくる。
ただ、バイバニラはさっきから避けようとしない。
マニューラと違って、スピードにはそんなに自信がないことがわかる。
かすみ「なら、これならどうですか!! “ナイトヘッド”!!」
「……ゴ」
サニーゴの目が怪しく光ると──
「バ、バニーラ…」
バイバニラの片側が苦しみ始める。
“ナイトヘッド”は直接攻撃を飛ばしたりする技と違って、相手に恐ろしい幻を見せて攻撃する技。
これなら相殺は出来ませんし、さらに──
「バ、バニーラ…」「バ、バニバニ」
バイバニラは図鑑の説明通りなら、お互いの意見が一致しないと技がうまく出せなくなるはずです……!
かすみ「最初からこうすればよかったですね……バイバニラ攻略です!」
と、思った瞬間、
理亞「“ボディパージ”!!」
「バ、ニーーーラッ!!!!!」
バイバニラは──“ナイトヘッド”受けている片側の頭を、サニーゴに向かって発射してきた。
かすみ「うそぉ!?」
飛んできたバイバニラの頭は──ボスッ! と音を立てながらサニーゴに直撃し、サニーゴの体がバイバニラの頭に埋まってしまう。
かすみ「ちょ、何やってるんですか!?」
理亞「バイバニラの脳は完全に独立してる。片方が溶けても、問題なく生きられるし、溶けてもそのうち戻る」
かすみ「それ逆にどうなってんですか!?」
理亞「ついでに“ボディパージ”をしたら、速くなるから」
「バニーーーラ!!!!」
素早い動きで、飛んできたバイバニラは──さっき飛ばしたもう半分の頭に合体し、元の形になる。
即ち──サニーゴを完全に体内に取り込んだ形になる。
- 955 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:49:34.82 ID:A5BOh9Vw0
-
かすみ「ちょっとぉ!?」
理亞「バイバニラの体温はマイナス6度……あとは氷漬けになって、戦闘不能になるのを待つだけ」
かすみ「そ、そんなぁ……」
理亞「これで3体目……もうサニーゴにこの状態を脱する手段がない。今のうちに、4匹目の準備をしておいたら?」
かすみ「…………」
こおりタイプによる場の支配力が強すぎます……。……強すぎますけど……。
「──バ…!!?」「──ニーラ…!!!?」
急にバイバニラが奇声をあげた。
理亞「な……!? なに……!?」
かすみ「確かに、氷漬け……怖いですけど……──“こおり”を溶かす技もあるんですよ!!」
理亞「……!?」
むしろ、動きがノロノロなサニーゴでどうやって、接近するかを考えていた。
相手から、自分の体内に取り込んでくれるなら、むしろ好都合です!!
かすみ「“ねっとう”!!」
「ニー……ーゴ」
「バ、バニィィィィ…」「ィィィィィラ…」
内側から高温のお湯で溶かされたバイバニラは、ドロドロに溶けて、その場にべしゃりと音を立てて、落っこちた。これはさすがに戦闘不能でしょう。
かすみ「ふふん♪ 3匹目の準備をしてください?」
理亞「……戻れ、バイバニラ」
理亞先輩が戦闘不能になったバイバニラをボールに戻す。
理亞「モスノウ、出てきて」
「──スノォ…」
次に出てきたポケモンは、モスノウ。
しずく「かすみさん! モスノウはユキハミの進化系だよ!」
かすみ「ユキハミ……ヨハネ博士の研究所に居たやつだよね……」
『モスノウ こおりがポケモン 高さ:1.3m 重さ:42.0kg
はねの 温度は マイナス180度。 冷気を 込めた りんぷんを
雪の ように ふりまき 野山を 飛ぶ。 野山を 荒らすものには
容赦せず 冷たいはねで 飛びまわり 吹雪を 起こし 懲らしめる。』
かすみ「マイナス180度!?」
理亞「“ふぶき”!」
「スノォ…」
モスノウが“こおりのりんぷん”をまき散らしながら、“ふぶき”を発生させる。
かすみ「さ、さっむ……!!」
「サ……」
冷たいのはあくまで翅の温度で、“ふぶき”自体がマイナス180度あるわけじゃないだろうけど──それでもあの冷たい翅から繰り出される“ふぶき”は猛烈に寒い。
しかも、バイバニラが降らせた“ゆき”もフィールド全体を覆いつくすのに一役買っている。
- 956 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:50:08.49 ID:A5BOh9Vw0
-
かすみ「こ、このままじゃ、サニーゴが凍っちゃう……! “ねっとう”!」
「ニ、ゴー……」
口から“ねっとう”を吐き出し、自分の身体が氷漬けになるのだけは防いでいるけど──“ねっとう”はサニーゴから少し離れたら、すぐに凍って落ちてしまって全然前に飛んでいかない。
理亞「それじゃ攻撃、届かないけど?」
かすみ「ぐぬぬ……で、でもでも、防御は出来てますもんね!!」
あの冷たい翅で直接触られない限り、いくら“ふぶき”をされても“ねっとう”で氷を溶かし続ければ、簡単にはやられません!
今のうちにどうにか、反撃の一手を──
理亞「なら……“まとわりつく”」
「スノォ…」
モスノウがゆったりとした動きで、こちらに羽ばたいてくる。
かすみ「ぎゃー!? こっち来ないでくださいー!? “パワージェム”!!」
「サ……」
またしても、いわエネルギーの光を集束させて発射する。
理亞「……! “オーロラビーム”!」
「モスノォー」
かすみ「おろ……?」
サニーゴが“パワージェム”を発射すると、モスノウは近付くのを中断して、“オーロラビーム”で迎撃を始めた。
かすみ「もしかして……“パワージェム”には当たりたくない感じですか?」
しずく「──かすみさん! モスノウはこおり・むしタイプだから、いわタイプにはかなり弱いはずだよ!」
かすみ「なるほど……! そういうことなら、連打連打です! “パワージェム”!!」
「サ、コ……」
──サニーゴから発せられた輝きが、モスノウに襲い掛かります。
理亞「“オーロラベール”」
「スノォ」
が、モスノウに当たった輝きはオーロラの輝きにかき消されて霧散してしまった。
かすみ「わ、わあぁぁぁぁ!? かき消すなんてずるいですぅ〜!!」
「サ、コ……」
理亞「ずるくない」
かすみ「こ、こっちこないでー!? “パワージェム”!! “パワージェム”!!」
どうにか追っ払おうと、“パワージェム”を連打するけど──全部“オーロラベール”にかき消されてしまう。
ゆったりサニーゴの眼前に迫ったモスノウは、
理亞「“まとわりつく”」
「スノォ……」
今度こそ、マイナス180度の翅で、サニーゴを包み込む。
かすみ「さ、サニーゴ!!」
「サ……」
- 957 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:50:41.44 ID:A5BOh9Vw0
-
翅で触れられると、サニーゴの体がみるみるうちに凍り始める。
かすみ「ね、“ねっとう”!!」
「サ……」
咄嗟に、モスノウに向かって“ねっとう”を噴射する。
ただ、モスノウの翅の冷たさは常軌を逸していて、“ねっとう”すらも一瞬で凍りつかせていく。
かすみ「が、頑張って、サニーゴ!!」
「サ、コー……」
かすみんが声を掛けると──サニーゴの噴射の勢いが少しだけ強まり、凍った“ねっとう”がどうにかモスノウを押し返す。
かすみ「よ、よし! 今のうちに逃げ──」
理亞「られるわけないでしょ」
「スノォ……」
でも、当然と言わんばかりにまたモスノウが“まとわりつく”。
かすみ「うぅ、“ねっとう”!!」
「サ……」
噴き出す“ねっとう”──もとい氷の塊で押し返しては、またまとわりつかれて、凍りそうになり、それをまた“ねっとう”で溶かして押し返し……だ、ダメです……! このままじゃ、ジリ貧です……!
かすみ「ど、どうにか……どうにかしないと……」
でも、“ねっとう”すら一瞬で凍り付かせる冷気に対抗する術が……。
かすみ「……! そうだ、氷だ!!」
かすみん、やっと反撃の一手をひらめきました……!
かすみ「サニーゴ、“あまごい”!!」
「サ……」
理亞「“あまごい”……?」
理亞先輩が怪訝な顔をする。
“ゆき”を降らせていた雪雲が── 一気に雨雲にとってかわり、大粒の雨を降らせ始める。
大粒の雨が降ったところで、モスノウの冷気が全てを凍らせてしまうけど──それでいい……!!
理亞「悪あがき……モスノウ、トドメを」
理亞先輩が、サニーゴにトドメを刺そうとした、そのとき──
「ス、スノゥ…!?」
モスノウが突然、地面に叩き落とされた。
理亞「な……!?」
かすみ「ふっふっふ……この“あまごい”は──攻撃技です!!」
そう、これは攻撃です……!!
理亞「!? まさか……!? 凍った雨粒が、翅に刺さってる……!?」
- 958 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:51:28.05 ID:A5BOh9Vw0
-
そのとおりです! 大粒の雨は降ったそばから、凍り付いて──大粒の雹に変わるんです!!
翅や体の軟らかいモスノウは、上空から叩きつけてくる大量の雹に耐えられず、落っこちる!
そして、
「サ……コ」
硬い体のサニーゴなら、問題なく耐えられる……!!
理亞「天候を“ゆき”に戻して……!」
「ス、スノォ……」
理亞先輩はすぐさま、“あまごい”を再び“ゆきげしき”で上書きして、態勢を立て直そうとするけど──もう遅いです!
かすみ「サニーゴ!! “ハイドロポンプ”!!」
「サ、コー……」
サニーゴの口から、強烈な水流が発射され、それは冷気によって一瞬で凍り付き──
「スノォ……」
急激に成長する氷の柱が、真正面から、モスノウをぶっ飛ばしました。
理亞「モスノウ……!」
「ス、スノォ……」
大きな氷の塊を叩きつけられたモスノウは、吹っ飛ばされた先で転がって、ついに戦闘不能になったのでした。
かすみ「さぁ、これで形成逆転ですよ!!」
かすみんの残りは2匹、理亞先輩は残り1匹です!
この勝負、貰いましたよ……!!
と、思った瞬間──ゴトっと何か重いものが落ちるような音がする。
かすみ「へ?」
何かと思って、音のした方に目を向けると──
「サ……」
サニーゴが──でかい氷柱を口元にくっつけたまま、地面に落下していた。
かすみ「ってぇ!? サニーゴと氷がくっついてる!?」
理亞「この氷点下で“ハイドロポンプ”を使ったら、普通そうなるでしょ。オニゴーリ」
「──ゴォーーリ!!!!」
理亞先輩が、最後のポケモン──オニゴーリを繰り出す。
かすみ「わーーー!! ちょっとタンマ!! タンマです!!」
理亞「待たない。“フリーズドライ”」
「ゴォーーリ!!!!」
氷柱の重さで動けないサニーゴは、波状に飛んでくる冷気の直撃を受け。
「────」
- 959 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:52:10.71 ID:A5BOh9Vw0
-
完全に氷漬けになって、戦闘不能になってしまった。
かすみ「あぁーー!? サニーゴーー!?」
理亞「意表を突くのもいいけど……その後まで考えてやった方がいいんじゃない?」
かすみ「ぐ、ぐぬぬ……返す言葉がない……」
サニーゴをボールに戻しながら、相手を確認する。
『オニゴーリ がんめんポケモン 高さ:1.5m 重さ:256.5kg
氷を 自在に 扱う 力を 持ち 岩の 体を 氷の よろいで
かためている。 空気中の 水分を 一瞬で 凍らせる 力で
獲物を 冷凍し 動けなくなったところを バリバリと 頂くのだ。』
かすみ「またおっかないポケモンですね……」
そんなオニゴーリに対抗する最後のポケモンは──
かすみ「行くよ! テブリム!」
「──テブリッ!!!」
手に入れたばっかの新顔、テブリムです!
理亞「まさか、ここまで追い詰められると思ってなかった……。オニゴーリ、メガシンカ!」
そう言いながら、理亞先輩の腕にあるブレスレットが眩く光り──
「ゴォォォォーーーーリ!!!!!!!!!」
雄叫びと共に、メガオニゴーリへと姿を変える。
大きく開いた口から、冷気が溢れ出し、周囲を凍結させる。
距離は十分にあるはずなのに、刺さるような冷気が伝わってくる。
理亞「オニゴーリ、“ふぶき”!」
「ゴォォォォーーーーリッ!!!!!!!!」
大きく開いた口から、強烈な冷気が“ふぶき”となって襲い掛かってくる。
フィールド全体を巻き込むような、強烈な寒波。だけど、
かすみ「“サイコキネシス”!!」
「テブッ!!!」
テブリムは自分の周囲に球状のサイコパワーを展開し、メガオニゴーリの“ふぶき”から逃れる。
この子は巣でもこうやって、霧を払っていたんです!
それが霧から冷気に変わっただけ!
理亞「へぇ……これ、防げるんだ」
かすみ「当然です! さらに、こんなことも出来ちゃいますよ!」
「テブ!!」
テブリムが前方に手をかざすと──紫色の炎がぽぽぽぽっと発生する。
かすみ「“マジカルフレイム”!!」
「テーブゥッ!!!!」
その炎を一気に発射する。
- 960 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:52:51.62 ID:A5BOh9Vw0
-
理亞「“こごえるかぜ”!!」
「ゴォォーーーリッ!!!!」
かすみ「か、かき消された!? 炎なのに!?」
理亞「炎だから、温度が低すぎれば消える」
かすみ「なら、“サイコショック”!」
「テブッ!!!」
今度はオニゴーリの周囲に、サイコパワーで生成したキューブが現れ──それが一気にオニゴーリに襲い掛かる。
「ゴォォーーリ…!!!!」
かすみ「そのでかい図体じゃ避けられませんよね!」
今度は問題なく技が直撃する。相手の氷の鎧が硬いのか、致命傷にこそなっていませんが、
かすみ「このまま、攻め攻めで行きますよ!」
「テブッ!!!」
テブリムのサイコパワーなら攻防同時に展開できる!
これなら一方的に、有利が取れると思った矢先、
理亞「遠距離からちまちまやられるのは面倒……! オニゴーリ、“ころがる”!!」
「ゴォーーーリッ!!!」
メガオニゴーリはゴロゴロと転がりながら、こっちに迫ってくるじゃないですか……!
かすみ「ちょ、動けるの!?」
理亞「動けないなんて言ってない」
かすみ「テブリム!」
「テブッ!!!」
テブリムは髪の毛の房を使って──跳ねる。
かすみ「かすみんのテブリムはジャンプも得意なんですよ!! 転がってたら、空中には手を出せませんよね!!」
「テブッ!!」
さぁ、上から攻撃して、今度こそ──テブリムが攻撃を構えた、そのときだった。
突如前方に、大きな柱のようなものが現れ──それがテブリムに向かって勢いよく振り下ろされた。
「テブッ!!!?」
かすみ「テブリム!? な、なに!?」
テブリムはそれに押しつぶされるような形でフィールドに叩きつけられる。
その柱の根本を辿ると──
「ゴォォォーーーリ…」
それは、メガオニゴーリの体から伸びているものだった。
理亞「オニゴーリは空間内の水分を自在に凍らせられる。相手がどこにいようが、関係ない」
「ゴォォォーーリ!!!!」
そして、テブリムを押しつぶした氷の柱を一旦持ち上げてから──
- 961 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:53:31.06 ID:A5BOh9Vw0
-
「ゴォォォーーーリッ!!!!」
理亞「これで終わり……!」
再度、テブリムに向かって、勢いよく振り下ろしてきた。
──ガシャァンッ!! とド派手な音がジム内に響き渡り、衝撃で雪や氷の欠片が舞い上がって、フィールド内を真っ白な煙が包み込む。
かすみ「…………」
理亞「……これで──」
かすみ「……終わりじゃありません!」
理亞「……!?」
煙の中で──
「テブッ!!!」
テブリムは立っていた。
理亞「な……!?」
目を見開く理亞先輩。そりゃ、無理もありません。
だって──先ほどテブリムに向かって振り下ろされた氷柱は、中央辺りでボッキリ折れていたんですから!
理亞「ど、どうやって!?」
かすみ「殴って折りました!!」
「テブッ!!!」
理亞「はぁ!?」
テブリムのサイコパワーは確かに強力ですけど──やっぱり、一番の自慢はあのパンチ力です!!
テブリムは腕を組み、頭の房でのっしのっしと歩を進めながら──
「テブッ!!!!」
メガオニゴーリから伸びている、砕けた氷柱を、真正面から殴りつける。
──ゴッ!! と鈍い音と共に、氷柱がバキバキと音を立てながらひび割れ、その衝撃は氷柱の根本にいたメガオニゴーリ本体まで吹っ飛ばす。
「ゴ、ゴォォォーーリ…!!!!」
理亞「お、オニゴーリ!?」
さらに追撃と言わんばかりに、
「テブッ!!!!!」
折れて転がっていた、氷柱の片割れをメガオニゴーリに向かって、殴り飛ばす。
理亞「う、受け止めろ!!」
「ゴォォーーリッ!!!」
メガオニゴーリは咄嗟に氷の盾を作り出して、キャッチしますが、
「テーーーブッ!!!!!」
- 962 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:54:18.12 ID:A5BOh9Vw0
-
テブリムはその氷の盾に向かって、間髪入れずに飛び掛かり──拳を叩きつける。
──ビキッ!! 1撃目で強烈な拳でヒビが入る。
──バキッ!! 2撃目でさらにヒビが広がり、
──バギンッ!! 3撃目で氷の盾を粉々に粉砕した。
理亞「嘘……!?」
「テブッ!!!」
かすみ「テブリム!!! いっけーー!!!」
砕け散る氷が舞う中、メガオニゴーリの脳天目掛けて──テブリムが両拳を合わせて、叩きつけた。
「ゴォォォーーーリ…!!!!」
至近距離から、脳天に向かって振り下ろされた拳は、メガオニゴーリの全身の氷の鎧にヒビを入れるほどの威力で、
「ゴ、ォォォ…リ…」
その破壊力に耐えられず、メガオニゴーリは目を回して、戦闘不能になったのでした。
「テブッ!!!!」
かすみ「やったー!! テブリムー!!」
かすみん、思わずテブリムに駆け寄っちゃいます。
そして、ハグ──しようと思ったら。
「テブッ!!!」
テブリムはぴょんと跳ねて、かすみんの頭に飛び乗ってきました。
かすみ「わっとと……!!」
「テブッ!!!」
そして、いつものように腕を組んで鼻を鳴らす。
かすみ「あ、相変わらずかすみんは子分扱いなんだね……」
「テブッ」
まあ、いいんだけど……ちょっと複雑です。
そんな私たちのもとへ、
理亞「まさか……最後にパワー負けすると思わなかった」
理亞先輩が近づいてくる。
かすみ「ふふんっ! かすみん自慢のテブリムですからね!」
「テブテブッ!!!」
理亞「負けたのは悔しいけど、貴方の強さは認めざるを得ない。これ……“スノウバッジ”」
そう言って、理亞先輩は雪の結晶を模したジムバッジを手渡してくる。
かすみ「はい! ありがとうございます! やったね、テブリム!」
「テブテブッ!!」
- 963 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:55:27.53 ID:A5BOh9Vw0
-
こうして、かすみんたちは、理亞先輩との激戦を制し──無事に6個目のジムバッジを手に入れたのでした!
にしし……これは侑先輩たちより早くジム攻略しちゃったかもしれませんね〜? これは、ローズでの結果報告が楽しみですね〜♪
👑 👑 👑
理亞「それじゃ、私はグレイブガーデンに行くから」
かすみ「はい! ジム戦ありがとうございました!」
ペコっと頭を下げると、理亞先輩はひらひらと手を振りながら、グレイブガーデンの方へと消えていった。
かすみ「ホントに朝夕欠かさず、お墓参りしてるんですね……」
しずく「みたいだね」
というわけで、気付けば夕方です。
かすみ「そういえば……しず子、グレイブマウンテンに行きたいって言ってたよね? クマシュンだっけ? そのポケモンに会いたいって」
しずく「あ、うん。……でも、今から山に入るのはちょっと難しいだろうから……グレイブマウンテンは明日かな。それよりも、ちょっと町を観光しない?」
かすみ「言われてみれば、あんまり観光出来てなかったね……。よーし! じゃあ今日は夜までヒナギクシティを巡ろ〜!」
しずく「うん♪」
夕日に照らされるヒナギクの町で、かすみんたちはのんびり一息つくことにしました♪
明日はしず子のために山登りですから! 今のうちに英気を養いますよ〜♪
おいしいモノとかあればいいな〜♪
るんるん気分で、町へと繰り出す、かすみんなのでした!
- 964 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/14(水) 12:56:28.02 ID:A5BOh9Vw0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ヒナギクシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. ●____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 かすみ
手持ち ジュカイン♂ Lv.51 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
ゾロア♀ Lv.47 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
ジグザグマ♀ Lv.44 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
サニーゴ♀ Lv.45 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
ヤブクロン♀✨ Lv.44 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
テブリム♀ Lv.44 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 6個 図鑑 見つけた数:183匹 捕まえた数:9匹
主人公 しずく
手持ち インテレオン♂ Lv.38 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
バリヤード♂ Lv.35 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
アオガラス♀ Lv.38 特性:はとむね 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
ロゼリア♂ Lv.38 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
サーナイト♀ Lv.38 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:191匹 捕まえた数:12匹
かすみと しずくは
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 965 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/15(木) 02:49:24.30 ID:J+r4F7N00
-
■Intermission🍊
──結局、天睛の火道から飛び出して、叡智のゴミ捨て場にたどり着いた時には、すでにウルトラビーストの反応は消えていた。
穂乃果さんも同様だったらしく、フソウに到着すると同時にパタリと反応が消えてしまったそうだ。
そして、私は……あの後すぐに、天睛の火道に戻ってきたんだけど……。
そこに、せつ菜ちゃんの姿はもうなかった。
千歌「せつ菜ちゃん……様子がおかしかったよね……」
それはわかっていたんだけど……私もウルトラビーストのもとへ急行しなくちゃいけなかったし、完全にテンパってしまっていた。
意識して、使わないようにしていたZ技まで使っちゃったし……。
千歌「せつ菜ちゃんに悪いことしちゃったな……」
結果として、私がダリアの方に行く意味はなかったわけだし……。
まあ、どちらにしろ放っておくわけにはいかなかったけど……。
千歌「今度会ったら、ちゃんと謝らなくちゃ……! そんでもって、せつ菜ちゃんが満足出来るまで、バトルに付き合ってあげよう!」
私はそう心に決めて──天睛の火道を後にし、もう一つの目的地に飛ぶことにした。
🍊 🍊 🍊
──ローズシティ、ローズジム。
真姫「はい、ルガルガン」
千歌「ありがとうございます、真姫さん」
私はローズシティの真姫さんのもとへ訪れていた。
理由はもちろん、ルガルガンを手持ちに戻すためだ。
真姫「ルガルガン、どこも異常なく健康だったわ」
千歌「はい、ありがとうございます!」
心身共に問題もないそうで、これで抜けたルカリオの穴も埋まったし、一安心。
真姫「そうだ、千歌……」
千歌「なんですか?」
真姫「最近、せつ菜に会ったりした……?」
千歌「え!?」
ちょっとタイムリーな名前が出てきて、思わず驚きの声をあげてしまう。
- 966 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/15(木) 02:49:57.43 ID:J+r4F7N00
-
真姫「……会ったの?」
千歌「え、えっと……まあ……その……バトルを申し込まれたんですけど……急用で中断することになっちゃって……」
真姫「……そう」
千歌「でもでも、今度会ったらせつ菜ちゃんの気が済むまでバトルするつもりなんで!」
真姫「そう……。……そうしてあげてくれると嬉しいわ」
千歌「はい! ……っと、もうこんな時間……早く帰らないと……」
彼方さんが今日は何かと振り回されて、疲れただろうからって、ご馳走を振舞ってくれると言っていたし、みんな待っているはずだ。
千歌「それじゃ、真姫さん! ありがとうございました!」
真姫「ええ。気を付けて帰りなさいね」
千歌「はーい!」
私は元気よく返事して──ムクホークに乗り、コメコの森を目指すのでした。
………………
…………
……
🍊
- 967 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:27:23.32 ID:eLOLjL7n0
-
■Chapter048 『決戦! クロユリジム!』 【SIDE Yu】
侑「歩夢! リナちゃん! 見えてきたよ!」
「イブィ♪」
歩夢「うん!」
リナ『やっと到着だね!』 ||,,> ◡ <,,||
侑「うん! クロユリシティ!」
「ブイブイ♪」
歩夢「結局ローズから、ここまで来るのに2日も掛かっちゃったね……」
侑「ちょっとクリスタルレイクでのんびりしすぎたからね……あはは」
──クリスタルケイヴで夜の虹を見たあと、私たちは洞窟で話していたとおり、再びクリスタルレイクまで登り、湖面の夜空を鑑賞。
ついでに朝日に照らされて輝くクリスタルレイクの時間まで起きて、クリスタルレイク三景をしっかり見た。
……そんな夜更かしをした結果、その日私たちが起き出したのは、昼下がり頃……。
もともと、クリスタルレイクからクロユリシティに行くのにも、16番道路と18番道路の2つの道路を経由しなくちゃいけないこともあって、どうやってもその日のうちにクロユリに到着するのは無理だった。
そんなこんなで、私たちはローズを発ってから、次の町にたどり着くまで2日間掛かってしまったというわけだ。
歩夢「でも、クリスタルレイク……すっごくキレイだったから、見られてよかったかな……えへへ」
侑「ふふ、そうだね♪ 夜の虹も、湖面の夜空も、朝日の湖も、最高だったよ!」
「イブィ♪」
歩夢「うん♪」
リナ『思い出に残る経験が出来たみたいで、私も嬉しい! リナちゃんボード「ハッピー」』 ||,,> ◡ <,,||
クリスタルレイクでは本当に良い経験が出来た。
そして、そんな経験を経て、たどり着いたここクロユリシティでの目的はもちろん──
侑「さぁ……! 今からジム戦だ!」
歩夢「頑張ってね、侑ちゃん! イーブイも♪」
侑「任せて!」
「イブィ♪」
リナ『侑さん! 頑張ろうね! 私も全力でサポートする! リナちゃんボード「ファイト、おー!」』 ||,,> 𝅎 <,,||
侑「うん! よろしくね、リナちゃん!」
いざ、クロユリジムへ!
- 968 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:36:07.96 ID:eLOLjL7n0
-
🎹 🎹 🎹
クロユリは非常に自然豊かな町で──雰囲気としては、林の中に点々と民家が建っている、そんな印象を受ける町だ。
侑「なんだか、今まで来た町とは全然印象が違うね……」
リナ『クロユリは、自然を大切にする町だからね。むしろ、自然の中に住まわせてもらってるって考え方みたい』 || ╹ᇫ╹ ||
歩夢「人口も少ないんだよね。……確か、オトノキ地方の町の中だと……今はヒナギクよりも少ないんだっけ……?」
リナ『うん。地方の中では、住んでる人が一番少ない町のはずだよ』 || ╹ᇫ╹ ||
侑「でも、この町は強いトレーナーが多いんだよね! 住んでる人ほとんどがトレーナーらしいよ!」
歩夢「そうなの?」
リナ『これだけ自然に囲まれてると、町中でも野生のポケモンが出るからね。そういう環境で暮らしてると自然とポケモントレーナーとして戦えるようになってるみたい』 || ╹ ◡ ╹ ||
そして、そんな町で生まれ育った強者……それが、オトノキ地方最強のジムリーダー・英玲奈さんだ。
侑「英玲奈さんと戦えるなんて……想像しただけでときめいちゃうよ……!」
リナ『ときめくのはいいけど、油断しないでね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||
侑「大丈夫大丈夫! バトルは全力でやるから!」
みんなで話しながら、林の間を抜けていくと──間もなくクロユリジムが見えてきた。
侑「よし……たのもー!!」
ジムの扉を押し開けて入る。
すると、ジムの中央で、目を瞑って待っている人が一人。
もちろん──
侑「ほ、本物の英玲奈さんだ……!」
英玲奈「……挑戦者か」
侑「は、はい! 侑って言います!」
英玲奈「私はクロユリジムのジムリーダー・英玲奈だ。ジムバッジはいくつだい?」
侑「5つです!」
英玲奈「わかった。難しい言葉は必要ないな。自らを語るよりも、お互いポケモン勝負をした方が早いだろう。バトルスペースにつくといい」
侑「は、はい!」
噂通りのストイックな感じ……! なんかドキドキしてきちゃった……!
英玲奈「使用ポケモンは4体。全て戦闘不能になった時点で決着だ。構わないね?」
侑「はい! よろしくお願いします!」
私はボールを構える。
英玲奈「クロユリジム・ジムリーダー『壮烈たるキラーホーネット』 英玲奈。さぁ、存分に戦おう」
私と英玲奈さん、両者が同時にボールを放って──バトル、開始です!!
- 969 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:38:24.87 ID:eLOLjL7n0
-
🎹 🎹 🎹
英玲奈「行け! ヘラクロス!」
「──ヘラクロッ!!!」
英玲奈さんの1番手はヘラクロス。
私の1番手は、
侑「ドロンチ! 初陣だよ!」
「ローンチ」
ドロンチだ。
英玲奈「……頭に乗せたタマゴは降ろした方がいいんじゃないか?」
侑「え? あ、そうだった……! ドロンチ、タマゴこっちに頂戴!」
「ローンチ…」
侑「そんな不機嫌そうな顔しないで! バトル中だけだから! ね?」
「ローンチ…」
渋々渡してくれたタマゴを受け取る。
侑「歩夢! バトル中、預かってて!」
歩夢「あ、うん」
セコンドスペースにいる歩夢にタマゴを預けて、大急ぎでバトルスペースに戻る。
侑「し、失礼しました!」
英玲奈「いや、構わない。それでは、始めようか」
「ヘラクロ!!!」
リナ『ヘラクロス 1ぽんヅノポケモン 高さ:1.5m 重さ:54.0kg
一直線に 敵の 懐に 潜り込み たくましい ツノで すくい上げ
投げ飛ばす。 ものすごい 怪力の 持ち主で 自分の 体重の
100倍の 重さでも 楽に ぶん投げる。 甘いミツが 大好き。』
リナちゃんの解説を聞きながら考える。
このマッチアップは悪くない。肉弾戦主体のヘラクロスだけど、ゴーストタイプのドロンチなら多くの攻撃を透かせる。
英玲奈「ヘラクロス!! “メガホーン”!!」
「ヘラクロッ!!!」
侑「ドロンチ! まずは飛ぶよ!」
「ローンチ!!」
ツノを下げて、前傾姿勢で突っ込んでくるヘラクロスに対して、ドロンチはフワリと浮き上がる。
侑「とにかく、空中戦で行こう!」
「ローンチ!!」
英玲奈「なるほど、悪くない作戦だ。だが、ヘラクロスにも翅はあるぞ!」
「ヘラクロッ!!!」
ヘラクロスが翅を広げて、飛び立ち──ツノをドロンチに向けたまま、突っ込んでくる。
侑「“かえんほうしゃ”!!」
「ローンチッ!!!!!」
- 970 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:39:18.63 ID:eLOLjL7n0
-
真正面から突っ込んでくるドロンチに向かって、火炎で迎撃する。
当たり前だけど、むしタイプのヘラクロスはほのおタイプに弱い。
翅があるから、空中まで追ってくることは出来るけど、地上と違って踏ん張りが効かない分、パワーも落ちる。
遠距離から弱点の技を選んで立ち回れば、ヘラクロスは攻略出来るはずだ……!!
だけど、
英玲奈「ヘラクロス!! 突っ込め!!」
侑「え!?」
英玲奈さんは怯むことなく、ヘラクロスを突っ込ませてくる。
“かえんほうしゃ”の中を真正面から突っ切り──
「ヘラクロッ!!!!」
「ロンチッ!!!?」
ドロンチの首元辺りにツノを突き立てる。
侑「ドロンチ!?」
英玲奈「畳みかけろ!!」
「ヘラクロッ!!!!」
ヘラクロスは、怯んだドロンチの上に回り込み──
英玲奈「“10まんばりき”!!」
「ヘラクロッ!!!!!」
真上から、思いっきりツノを振り下ろして、
「ロンチッ!!!?」
ドロンチを地面に向かって叩き落とす。
「ロン、チッ…!!!」
ドロンチは下方に吹っ飛ばされながらも、地面スレスレで体勢を立て直して、どうにか再び飛行に移行する。
侑「とにかく、距離を取らなきゃ……!」
地面スレスレを飛びながら逃げるドロンチに向かって、再びヘラクロスが、ドロンチの真上に並ぶようにして、追いかけてくる。
侑「く……追いかけてくる……! なら、“りゅうのはどう”!!」
「ロンッ!!!」
飛行しながら、体を捻って真上を向き、口から“りゅうのはどう”を発射した──直後、ヘラクロスの姿が急に掻き消えた。
侑「え、消え……!?」
「ロンッ!!?」
ヘラクロスを見失って、動揺する私とドロンチ。
その直後、
- 971 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:40:47.08 ID:eLOLjL7n0
-
英玲奈「“つばめがえし”!!」
「ヘラクロッ!!!!」
「ロン、チッ!!!?」
いつの間にか、真横に回り込んでいたヘラクロスがツノを叩きつけて、ドロンチを吹っ飛ばした。
消えたんじゃない……! “つばめがえし”で急に軌道を変えられたから、一瞬見失ったんだ……!
「ロ、ロンッ…!!!」
侑「ドロンチ……!!」
さすがに飛行を維持出来ず、地面に墜落するドロンチ。
器用に尻尾を振るいながらバランスを取って、すぐに体勢を復帰させるけど、
「ヘラクロッ!!!!」
ヘラクロスはもうすでにドロンチの眼前に迫っていた。
英玲奈「“じごくづき”!!」
「ヘラクロッ!!!」
「ロンッッ!!!!!!!」
ヘラクロスのツノが、ドロンチの胸部に突き立てられ、その勢いでドロンチはジムの壁まで吹っ飛ばされた。
──ドンッと大きな音を立てて、壁に叩きつけられるドロンチ。
侑「ドロンチ……!!」
「ロ、ロン…」
侑「……ありがとうドロンチ、戻って」
ドロンチ戦闘不能……。私はドロンチをボールに戻す。
──全く手も足も出なかった……。
パワーもスピードもテクニックも、どれも一級品だ。
これが、最強のジムリーダー……英玲奈さん……。
英玲奈「……確かに、ヘラクロス相手に近接戦を挑まないようにする立ち回りは悪くない。定石と言ってもいいだろう」
侑「……」
英玲奈「が、この私に対して、そんな消極的な戦い方で勝てると思っているなら、随分と舐められたものだな」
侑「……!」
そうだ……私はチャレンジャーなんだ……。安全安心な勝ち方なんて、最初から考えちゃいけない。
ジム戦用に使用ポケモンのレベルを合わせてくれているとはいえ、相手は百戦錬磨の最強のジムリーダー。
定石での戦いを仕掛けてくる相手への対策だって、知り尽くしているだろうし、私が見聞きした程度で知っている作戦なんかじゃ通用しなくて当然だ。
私が今やるべきことは、教科書通りの試合運びなんかじゃない……!
侑「……英玲奈さんの想像を超えた戦いをしなくちゃ……!」
英玲奈「……ふ。……さぁ、次のポケモンを出したまえ」
侑「はい! 行くよ、ライボルト!!」
「──ライボッ!!!!」
ボールから飛び出すと同時に、ライボルトが走り出す。
- 972 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:42:29.93 ID:eLOLjL7n0
-
侑「“ニトロチャージ”!!」
「ライボッ!!!!」
ライボルトは加速しながら赤熱し、ヘラクロスの周囲をイカズチのように走り回る。
そして、周囲を走り回りながら、
侑「“ほうでん”!!」
「ライボッ!!!!!」
全方位から、電撃を浴びせる。
「ヘラクロッ…!!!」
英玲奈「ヘラクロス、怯むな!! “じならし”!!」
「ヘラッ!!!!」
ヘラクロスが勢いよく四股を踏むと──グラグラと地面が揺れ、
「ラ、ライボッ!!?」
ライボルトが揺れでバランスを崩し、足をもつれさせる。
英玲奈「そこだ!! “メガホーン”!!」
「ヘラクロッ!!!!」
侑「……っ!! “でんじふゆう”!!」
「ライボッ!!!」
ライボルトは咄嗟に浮遊し、ヘラクロスの突撃を間一髪で躱す。
英玲奈「なるほど、それなら足をもつれさせても関係ないな! だが、無防備に浮いたら隙だらけだぞ!!」
「ヘラクロッ!!!」
ヘラクロスが再び翅を開いて、ライボルトに飛び掛かってくる。
英玲奈「“インファイト”!!」
「ヘラクロッ!!!」
侑「組みつかせちゃダメだ!! “オーバーヒート”!!」
「ライボォッ!!!!」
「ヘラクロッ…!!!」
近距離で決しようとしてきた、ヘラクロスを全方位に発される熱波で押し返す。
だけど、隙だらけなのはそのとおりだ。
侑「“でんじふゆう”解除!!」
「ライボッ!!!」
自分に纏わせていた電磁力を解除して、地に戻る。
英玲奈「“10まんばりき”!!」
「ヘラクロッ!!!!」
またしても突っ込んでくるヘラクロス。
“ほうでん”程度じゃ怯まない気迫で突っ込んでくる。
なら……!!
- 973 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:46:33.99 ID:eLOLjL7n0
-
侑「“ライジングボルト”!!」
「ライボッ!!!!!」
「ヘ、ヘラクロッ!!!!?」
ヘラクロスの足元から──電撃が立ち上って、ヘラクロスを感電させる。
強烈な電撃がヘラクロスの足を完全に止める。
英玲奈「!? 威力が大きすぎる!? ……! まさか、さっきの“ほうでん”は攻撃のためだけじゃない……!!」
そのとおり……! フィールド全体に“ほうでん”しまくっていたのは、攻撃のためだけじゃない!
バトルフィールド内を“エレキフィールド”状態にするためだ……!
リナ『“ライジングボルト”は“エレキフィールド”下だと、威力が倍以上になるよ!』 || > ◡ < ||
感電し、完全に足が止まったヘラクロスに向かって──
侑「“かえんほうしゃ”!!」
「ライボォーーー!!!!!」
火炎を噴き付けた。
「ヘ、ヘラクロォ…!!!!」
足が止まったヘラクロスには、さっきのように炎を突っ切る突進力もない!!
これで、決着かと思った、そのとき、
英玲奈「ヘラクロス!! “こんじょう”を見せろ!!」
「──ヘラクロォッ!!!!!」
侑「!?」
「ライボッ!!!?」
ヘラクロスが雄叫びをあげながら──ライボルトに突っ込んできた。
ヘラクロスは前傾姿勢になり、ライボルトの腹下に大きなツノを滑り込ませる。
侑「しまっ!?」
英玲奈「“メガホーン”!!」
「ヘラクロッ!!!!」
──ブンと風を切る音と共に、
「ライボッ!!!!?」
ライボルトは勢いよく、打ち上げられた。
侑「ライボルト……!!」
英玲奈「少々肝を冷やしたが……“かえんほうしゃ”は悪手だったな。“やけど”したお陰で“こんじょう”が発動出来たよ」
侑「…………」
“こんじょう”は状態異常になると、攻撃力が爆発的に上昇する特性だ。
英玲奈「さぁ、ヘラクロス。落ちてきたところを狙い撃ち、に……?」
- 974 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:47:24.41 ID:eLOLjL7n0
-
英玲奈さんは上を見上げて、目を見開いた。
何故なら──上空に大きな雷雲が出来ていたからだ。
ライボルトは、空気中の電気をたてがみに集めて、雷雲を作り出すポケモンだ。
英玲奈「しまった!? ヘラクロス、防御を──」
侑「もう遅いです!! “かみなり”ッ!!」
「ライボォォォッ!!!!!!!!」
天空からの“かみなり”はヘラクロスの1本ヅノ目掛けて、轟音を立てながら、迸る。
空気の爆縮で、ジム内を雷轟が響き渡り──
それが晴れた頃には、
「ヘ、ラク、ロ…」
“かみなり”に撃たれて丸焦げになったヘラクロスが、地に伏せっていた。
「ライボッ!!!」
そして、再び“でんじふゆう”で着地の衝撃を緩和しながら、ライボルトが地面に降り立った。
侑「やったー!! ナイスだよ、ライボルト!!」
「ライボッ!!!」
英玲奈「……やられたな……さっきの“かえんほうしゃ”はわざと“こんじょう”を発動させるためのものだったか」
侑「えへへ……はい!」
ヘラクロスの特性は“こんじょう”、“むしのしらせ”、“じしんかじょう”の3種類。
その中でも、“むしのしらせ”は少なくて、“こんじょう”か“じしんかじょう”が圧倒的に多い。
ただ、相手を倒したときに自分のパワーを上げる特性の“じしんかじょう”なら、ドロンチを倒した時点でパワーアップしていないとおかしい。
となると、十中八九“こんじょう”だと当たりを付けていた。
英玲奈「“こんじょう”を発動させたのは……“メガホーン”で少しでも、高く打ち上げて欲しかったからか」
侑「はい! 天井に近ければ、一気に電荷を放出して、バレずに雷雲を即座に作り出せますから!」
英玲奈「土壇場で技の選択を間違えたようだな……。私もまだまだだ」
英玲奈さんはそう言いながら、ヘラクロスをボールに戻す。
確かに、“メガホーン”以外の技で来られていたら、この作戦は成功していなかったけど……“メガホーン”はヘラクロスの代名詞とも言える技。
ヘラクロスというポケモンが咄嗟に使うとしたら、きっと“メガホーン”だって自信があった。
英玲奈「なら、こいつはどうだ……! 行け、アイアント!!」
「──アントーーー!!!!」
英玲奈さんが2匹目のポケモン──アイアントを繰り出す。
アイアントは飛び出すと同時に、ものすごいスピードで、ライボルトへと迫ってくる。
侑「は、速い……!? “10まんボルト”!!」
「ライボッ!!!!」
高速で迫ってくるアイアントに向かって──バチバチと音を立てながら、電撃が迸る。
侑「よし……! 当たった……!!」
- 975 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:50:43.32 ID:eLOLjL7n0
-
相手が速かったから少し焦ったけど、いくら速いといっても電撃以上のスピードではない。
でも……電撃が直撃したはずの場所に──アイアントの姿はなかった。
侑「!?」
消えた──わけない……!!
侑「ライボルト!! “でんじふゆう”!!」
「ライボッ!!!!」
英玲奈「よく気付いた!! でも、遅い!!」
英玲奈さんの言葉と同時に──
「アーーーントッ!!!!!」
ライボルトの足元の地面から、アイアントが勢いよく飛び出してきて、空中に逃れようとしていたライボルトの前脚に噛みついた。
侑「ぐ……! ライボルト! “ほうで──」
英玲奈「“シザークロス”!!」
「アントッ!!!!」
「ライボォッ…!!!!」
こちらが攻撃で引きはがす前に、アイアントが鋭い顎で、ライボルトを切り裂いた。
「ラ、ライ…」
侑「戻って、ライボルト……!」
ライボルト、戦闘不能だ……。
英玲奈「“あなをほる”にすぐに気付いたのには驚いたよ。普通は焦ってしまって、なかなか判断出来ないんだがな」
……それでも、回避するんだったら、私はもっと早く判断しなくちゃいけなかった。
いや……反省は後だ……! 切り替えなくちゃ……!
侑「イーブイ! 出番だよ!」
「イブィ!!!」
私の傍らで待っていたイーブイが、フィールドに足を踏み入れる。
英玲奈「さぁ、もう一度だ、アイアント!!」
「アントーーー!!!!!」
アイアントが今度はイーブイ目掛けて、猛スピードで飛び出してくる。
でもスピードには、スピードで張り合っちゃダメだ……!
侑「イーブイ、“いきいきバブル”!」
「イブィ!!!」
イーブイの全身からぷくぷくと泡が立ち、それがフィールド上に漂い始める。
英玲奈「……! アイアント、止まれ!」
「アントーー!!!!」
英玲奈さんは、漂う泡を見て、アイアントを停止させた。
- 976 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:52:29.59 ID:eLOLjL7n0
-
英玲奈「見慣れない技だな……だが、当たっていいものではなさそうだ。とはいえ、そんな動きの遅い泡では攻撃技とは言い難いな。狙いが他にあるな?」
侑「…………」
まずい、一瞬で看破された……。
もしイーブイの技でアイアントを倒すとしたら、“めらめらバーン”を直撃させるしかない。
でも、“めらめらバーン”は直接攻撃だし、素早いアイアントに狙って当てるのは至難の業だ。
そのため、“いきいきバブル”の泡を設置して、うまく誘導しようと思ったけど……さすがにこっちの思惑通りには動いてくれなさそうだ。
英玲奈「……ふむ、来ないか。なら、“あなをほる”だ。アイアント」
「アントーーー!!!!」
アイアントが地面に潜っていく。
英玲奈「これなら、地上にいくら技が設置されていても、足元から攻撃出来るから問題ないな」
侑「…………」
ど、どうにかしなくちゃ……!
努めて平静を装ってはいるものの、こっちは作戦らしい作戦を思いついていない。
何か策を──いや、とりあえず……!
侑「“みきり”!!」
「ブイ!!!!」
「──アントーーー!!!!」
足元から飛び出すアイアントの攻撃を見切って躱す。
攻撃を躱されると、アイアントはまたすぐに地面に潜ってしまう。
英玲奈「なるほど。それなら、そちらも攻撃は食らわないと言うことだな。だが、ジリ貧じゃないか? “みきり”は何度も使える技じゃないぞ」
そう、そのとおりだ。
連続で使えば成功率も下がるし……何より、この技はPPも多くない。
あくまで一時凌ぎにしかならない。
侑「“みきり”!」
「イブィッ!!!!」
「──アントッ!!!!」
侑「み、“みきり”!!」
「イ、イブィッ!!!!!」
「──アントーーーッ!!!!!」
英玲奈「さぁ、そろそろ苦しいんじゃないか?」
本当に策を考えないと、もう数回ほどで避け切れずに攻撃が直撃する……どうしよう……!
フィールド内は気付けば穴ぼこだらけだし……。
侑「ん……?」
……この穴、使えないかな……?
侑「イーブイ! “すくすくボンバー”!」
「! イブィ!!!」
イーブイがブンと尻尾を振るうと、樹がニョキニョキと生えてくる。
- 977 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:55:02.64 ID:eLOLjL7n0
-
侑「樹の上に避難!!」
「イブィッ!!!」
「アントーーーッ!!!!」
地面から飛び出してくるアイアントをギリギリで回避して、樹上に逃げる。
英玲奈「む……また、面妖な技を……」
侑「イーブイ! 穴を狙うよ!」
「イブィッ!!!!」
そして、樹から大きなタネを──アイアントが掘った穴目掛けて落とす……!
“すくすくボンバー”のタネが次々と、“あなをほる”の入り口を塞ぐように落下する。
英玲奈「……なるほど、自分たちは樹上に退避し、さらにアイアントの動きを制限するために穴の口を塞ぐというわけか」
侑「…………」
もちろん、それだけじゃない。この技は“やどりぎのタネ”だ。
そんなの初見でわかる人なんて……。
英玲奈「ただ、私にはこの面妖な技が、それだけの技のようには思えない」
侑「……!?」
英玲奈「“タネばくだん”のようなものか……いや、それならとっくに爆発させているだろう。……なら、“やどりぎのタネ”のようなものか……?」
う、嘘でしょ……!? どんだけ、勘がいいの!?
英玲奈「……どうやら“やどりぎのタネ”だと言うのは、図星のようだな」
侑「!?」
英玲奈「さっきから、ポーカーフェイスをしているつもりかもしれないが……君は考えていることが顔に出るタイプのようだね」
侑「ぅ……」
リナ『確かに侑さんは表情豊か』 || ╹ ◡ ╹ ||
歩夢「──侑ちゃんのそういうところ、私は大好きだから、大丈夫だよー!!」
侑「そう言ってくれるのは嬉しいけど、この場合フォローになってないってー!!」
歩夢もリナちゃんも、たぶん本気で言ってくれているんだろうけどさ……!
英玲奈「凡そ、穴の中で“やどりぎのタネ”のツタを伸ばして、捕まえようという魂胆だろう」
私は目を逸らす。
英玲奈「だが、無駄だよ。アイアントは岩石をも噛み砕く顎で、複雑に入り組んだトンネルを作ると言われている。いくら掘った穴にツタを張り巡らされても──常に新しい穴を掘り続けていれば問題ない」
侑「…………」
英玲奈「それに……君たちは、どうして樹上なら安全だと思い込んでいるんだ?」
侑「え?」
「ブイ?」
次の瞬間──急に樹がグラリと傾き始めた。
侑「な……!?」
ハッとして、樹の根本を見ると──アイアントが樹の根本を齧って伐採している真っ最中だった。
- 978 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:55:52.48 ID:eLOLjL7n0
-
「イ、イブィィィ!!!!」
傾く樹からイーブイが振り落とされ、
──ズシンッと、音を立てながら樹が横倒しになる。
侑「っ……! イーブイ、平気!?」
朦々と土埃の立つフィールドに向かって声を掛けると、
「イ、イブィ〜」
鳴き声が返ってくる。どうやら、無事なようだ。
英玲奈「さぁ、今度こそ逃げ場はないぞ」
侑「……それはお互い様です」
英玲奈「……何?」
侑「確かに、“すくすくボンバー”のタネは“やどりぎのタネ”です。でも──私たちは“やどりぎのタネ”で捕まえようとしてたんじゃない」
──土煙の晴れた先で、イーブイが“すくすくボンバー”のタネの前に立ち、
侑「“めらめらバーン”!!」
「ブイッ!!!」
そのタネに──自らの炎を着火した。
英玲奈「な……!」
侑「確かにツタの成長速度じゃ、地中のアイアントには追い付けません……でも、そのツタに引火した炎と熱から、逃げられますか!」
ツタに引火した炎は一気に穴の中で燃え広がり、仮にツタの長さが足りず炎が届かなかったとしても──穴が繋がっていれば、その熱は穴全体を蒸し焼きにする……!
「アーーーントーーーー!!!!?」
急な熱波に驚いて、穴から飛び出してきたアイアントに、
侑「そこだ……!! “めらめらバーン”!!」
「ブーーーイッ!!!!!」
「イアーーーントッ!!!!?」
今度は“めらめらバーン”を直接炸裂させた。
全身を炎に包まれながら吹っ飛んだアイアントは、
「ア、アイアン……」
大の苦手なほのおタイプの技によって、戦闘不能になったのだった。
英玲奈「く……戻れ、アイアント」
英玲奈さんがアイアントをボールに戻す。
英玲奈「……まさか、ほのおタイプの技まで持っているなんて予想外だ」
確かに、“相棒わざ”は初見だと対応が難しい。それは百戦錬磨の英玲奈さんでも例外ではなかったようだ。
……改めて、イーブイが“相棒わざ”を使えてよかった……。
- 979 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:57:10.66 ID:eLOLjL7n0
-
英玲奈「だが、ネタが割れれば、どうにでもなる……! 行け、メガヤンマ!」
「ヤーーンマッ」
英玲奈さんの3匹目はメガヤンマだ。
リナ『メガヤンマ オニトンボポケモン 高さ:1.9m 重さ:51.5kg
加速すると 衝撃波が 出るほどの 力強い はねを持っている。
アゴの 力は けたはずれ 高速で 飛んで すれ違いざまに
相手を かみちぎるのが 得意。 尻尾の はねで バランスを とる。』
相手はむし・ひこうタイプのメガヤンマ。それなら……!
侑「“びりびりエレキ”!!」
「ブーーイッ!!!」
イーブイが電撃で攻撃する。相性良好、効果抜群の技だ……!
が、
「ヤンマ──」
メガヤンマは一瞬で掻き消える。
侑「よ、避けられた!?」
英玲奈「“みきり”だ。やはり、まだ隠していたようだね」
しまった……読まれた……!?
英玲奈「さっきも言ったが、ネタが割れてしまえば、なんてことはない」
メガヤンマは──ブーン、ブーンと音を立てながら、どんどん“かそく”していく。
侑「まずい……!! これ以上“かそく”されたら、手が付けられなくなっちゃう……!? イーブイ、“いきいきバブル”!!」
「ブーイッ!!!!」
空中に向かって、ぷくぷくと泡を散布する。
さっきみたいにこれで、動きを制限出来れば……!!
が、
英玲奈「“ソニックブーム”!!」
英玲奈さんの指示と共に、音速の衝撃波がフィールド上に浮いた泡を片っ端から割っていく。
英玲奈「タネが割れればなんてことはないと言っただろう!」
侑「び、“びりびりエレキ”!!」
「イッブィッ!!!!!」
英玲奈「もう、メガヤンマは“かそく”しきった……! 当たらんよ!」
侑「ど、どうしよう……!? もう、速すぎて姿が見えない……!?」
英玲奈「さぁ、さっきの仕返しだ!! “きりさく”!!」
──超加速したメガヤンマがイーブイを切り付ける。
「イッブィッ…!!!!」
イーブイを吹っ飛ばす。
- 980 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 01:59:32.84 ID:eLOLjL7n0
-
侑「イーブイ!!?」
「イ、ィブ…!!!」
イーブイはフィールドを転がりながらも、どうにか立ち上がるけど……あのスピードから繰り出される攻撃だ。ダメージが尋常じゃない……!
もう何発も耐えられない……!
とにかく、あのスピードをどうにかしなきゃ……!!
メガヤンマ、メガヤンマの弱点、何か、何か……!!
でも、“かそく”しきったメガヤンマを止める方法なんて……!
侑「……そういえば……前、かすみちゃんが……」
もしかしたら、あれなら……? で、でも、メガヤンマ相手でも出来るの……!?
侑「いや……もう、やるしかない……!!」
──ヒュンヒュンと風を切る、メガヤンマ。
英玲奈「“むしくい”!!」
大顎を開けて突っ込んでくるメガヤンマに向かって──
侑「イーブイ!!! “しっぽをふる”!!! くるくる回してっ!!」
「イ、イブイ!!!!」
イーブイが背を向け、宙に向かって円を描くように、尻尾をくるくると回し始めた。
風を切る、メガヤンマは──
「──ヤン」
イーブイに噛みつく直前で、ビタッと空中で静止した。
英玲奈「なんだと!?」
侑「ホントに止まった!?」
リナ『なんで侑さんが驚いてるの!?』 || ? ᆷ ! ||
英玲奈「メガヤンマ!! 惑わされるな!!」
「ヤンマッ」
侑「今だ、イーブイ!! 飛び乗って!!」
「イッブィッ!!!」
イーブイは、一瞬動きを止めたメガヤンマの背中に、飛び乗ってしがみつく。
──直後、メガヤンマは再び“かそく”を開始し、飛行を再開する。
イーブイを乗せたまま、超スピードで風を切り始める。
英玲奈「く……! 振り落とせ!!」
侑「イーブイ!! 放しちゃダメだよ!! そのまま、“めらめらバーン”!!」
「ブーーーーイーーーッ!!!!!!」
イーブイの雄叫びと共に、空中に猛スピードで飛ぶ炎の塊が現れる。
「ヤーーーンマーーー!!!!!!」
背中の上から直接炎で焼かれたメガヤンマは火だるまになり、
- 981 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:00:20.71 ID:eLOLjL7n0
-
「ヤンマァァァァァァ……!!!!!!」
「ブィィィィィ!!!!?」
イーブイを背中に乗せたまま、フィールドに墜落した。
「ヤ、ヤン…マ…」
メガヤンマはもちろん戦闘不能。
イーブイは……。
「ブ、ブィ…」
よろよろと立ち上がるものの……もう、戦う力が残っているとは言い難かった。
侑「もう、大丈夫だよ、イーブイ……!」
私はイーブイに駆け寄って、抱き上げる。
侑「英玲奈さん、イーブイ……戦闘不能です」
英玲奈「……ああ、メガヤンマもだ。お互い戦闘不能。仕切りなおそうか」
侑「はい。ありがとう、お疲れ様、イーブイ」
「ブィ…」
今回イーブイはアイアントとメガヤンマを倒して、大活躍だった。試合が終わったらたくさん労ってあげないとね……。
私はイーブイを抱きかかえて、セコンドスペースへ走る。
侑「歩夢、イーブイのことお願い」
歩夢「うん、わかった」
歩夢にイーブイを預けて、バトルスペースに戻る。
侑「お待たせしました」
ボールを構えようとして、
英玲奈「ちょっと待ってくれ」
英玲奈さんからストップが入る。
侑「え? な、なんですか……?」
英玲奈「さっきメガヤンマを止めたのは……一体なんなんだ。あんな戦術見たことも聞いたこともないぞ……」
英玲奈さんはかなり困惑していた。確かにあんなこと試合中にする人、私も見たことない……。
侑「えっと……スクールにいたころ、かすみちゃ──……イタズラ好きな友達が、よくヤンヤンマの目を回す遊びをしてて……」
英玲奈「……確かにヤンヤンマのような“ふくがん”を持ったポケモンは、目の前で指を回されると、それが何かを認識するために本能的に動きを止める習性があるが……実戦で使うのは初めて見たぞ……」
そういう理由だったんだ……。さすがむしポケモンのエキスパートの英玲奈さんだ。
まあ、本音を言うなら、半ばヤケクソ気味だったけど……。メガヤンマでやったことなんかなかったし……。
- 982 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:01:02.98 ID:eLOLjL7n0
-
英玲奈「……ふむ。メガヤンマの視界について、もう少し研究をした方がよさそうだな……こんな弱点があるとは思わなかった」
侑「わ、私も驚いてます……」
英玲奈「とりあえず、メガヤンマのことはわかった。中断してしまって済まない。試合の続きに戻ろうか」
侑「あ、はい!」
気を取り直して、お互い最後のポケモンのボールを構える。
泣いても笑ってもこれが最後だ──両者のボールがフィールドに放たれた。
🎹 🎹 🎹
侑「行くよ! ワシボン!」
「ワッシャァ!!!」
英玲奈「行くぞ、スピアー!」
「ブーーーンッ!!!!」
英玲奈さんの最後のポケモンはスピアーだ。
対して私は、ここまで温存していたひこうタイプのワシボン。
相性的にはこっちが有利だけど──
英玲奈「スピアー、メガシンカだ!」
「ブーーーンッ!!!!」
英玲奈さんの“メガブレスレット”が光り輝き、
「ブゥーーーーンッ!!!!!!!」
スピアーのフォルムがより鋭角に、足も毒針に変わり、より攻撃的な姿へと変貌する。
リナ『メガスピアー どくばちポケモン 高さ:1.4m 重さ:40.5kg
両足も 毒バリに 変化。 足の 毒バリが 分泌する
毒は 即効性で 敵の 動きを 止めるために 使い
より強力に なった 尻の 毒バリで 止めを 刺す。』
英玲奈「スピアー!!」
「ブンッ!!!!」
英玲奈さんの声と共に──スピアーが目にも止まらぬスピードで突っ込んでくる。
そのスピードを乗せたまま、
「ブーンッ!!!!」
腕の針を突き出してくる。
侑「“ブレイククロー”!!」
「ワシャッ!!!!」
その針を上から押さえつけるようにして、爪を振るって、攻撃を逸らす。
英玲奈「ほう、防ぐか……!」
だけど、間髪入れず、
- 983 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:03:46.48 ID:eLOLjL7n0
-
英玲奈「“ダブルニードル”!!」
「ブーンッ!!!!」
両足の針が襲い掛かってくる。
侑「ワシボン!! 離脱!!」
「ワッシャァッ!!!!」
ワシボンは、押さえつけた針を踏み台の要領で反動にし、上昇──両足の針を間一髪で、回避する。
英玲奈「ふむ……メガスピアーの針の恐ろしさはわかっているようだな」
いくらこっちがタイプ相性で優っていても、相手はメガシンカしたポケモン。
パワーも毒の強さも普通のポケモンの比じゃないし、掠っただけで致命傷になりかねない。
だけど、もちろん逃げ回っているだけじゃ勝てるものも勝てない。
攻撃を捌きながら、確実に反撃をしないと……!
侑「急降下して、“ダブルウイング”!!」
「ワシャァァァァ!!!!」
空に離脱したワシボンはすぐに切り返すようにして、両翼を構えながら、スピアーに向かって急降下する。
が、
「ブーーーンッ」
スピアーは素早い軌道で、急降下してくるワシボンを回避する。
英玲奈「“はりきり”すぎだな! 軌道がわかりやすすぎて、当たらんぞ!」
侑「く……」
メガスピアーはパワーこそあれ、防御は薄いポケモンだから、当たりさえすれば勝機はあるのに……!
英玲奈「“ミサイルばり”!!」
「ブーーーーンッ!!!!!」
下方に飛んで行ったワシボンに向かって、撃ち下ろすように、スピアーの持つそれぞれの針から“ミサイルばり”が発射される。
侑「“エアスラッシュ”で迎撃!!」
「ワッシャァ!!!!」
ワシボンは身を捻り、上を向いて、空気の刃を“ミサイルばり”に向かって撃ち放つ。
が、“エアスラッシュ”が当たっても、“ミサイルばり”は軽く揺れる程度だ。
──相手の攻撃の威力がありすぎる……!!
侑「……! ワシボン、“ブレイククロー”!!」
「ワッシャァッ!!!!」
遠距離攻撃での相殺は無理だと踏んで、直接攻撃で受け流す作戦に切り替える。
「ワッシャァァッ!!!!」
1発目を爪でホールドするように受け止め──掴んだ“ミサイルばり”の反動を利用しながら、弧を描くようにして投げ返し、“ミサイルばり”同士を相殺させる。
英玲奈「いい対応力だ!! だが、全然手数が足りていないぞ!!」
- 984 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:08:57.76 ID:eLOLjL7n0
-
英玲奈さんの言うとおり、私たちが捌ききれたのは最初の2発だけで、
「ワシャッ!!!?」
3発目がワシボンの翼を掠り、それだけでワシボンはバランスを崩して、吹っ飛ばされる。
侑「ワシボン!?」
回転しながら、地面に落下したワシボンだが、
「ワシャァ…ッ」
咄嗟に爪で踏ん張りながら、羽ばたくことで、落下の衝撃をギリギリまで殺す。
だけど、相手の攻撃はそれでもまだ続いている。さらに追撃を掛けるように迫る、残り2発の“ミサイルばり”。
侑「“がんせきふうじ”っ!!」
「ワシャァッ!!!」
思いっきり爪を突き立て、フィールドを砕き割り、それを飛んでくる針に向かってぶん投げる。
が──針は岩石をいとも簡単に穿ち、
「ワッシャァッ…!!!!!」
そのままワシボンに直撃した。その衝撃で、ワシボンがフィールドを転がる。
侑「ワシボンッ!!」
「ワ、ワシャァ…ッ…!!!」
ワシボンは気合いですぐさま立ち上がるけど──もう満身創痍なのは、見るからに明らかだった。
そこに向かって──
「ブーーンッ!!!!」
メガスピアーがお尻の針を突き立てながら、猛スピードで突っ込んでくる。
侑「!? ワシボン!! 避けて!?」
私の叫びも虚しく──避ける間もなく、隕石のように落下してきた、メガスピアーは一直線にワシボンを串刺しにした。
侑「そ、そんな……」
圧倒的だった。圧倒的なメガシンカの前に、手も足も出なかった……。
──私が諦めかけたそのとき、
「ワッシャァァァ…!!!」
ワシボンの雄叫びが響く。
侑「!」
私はワシボンの声にハッとなって顔をあげると──
英玲奈「ほう……なかなかのガッツだな」
- 985 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:12:50.44 ID:eLOLjL7n0
-
ワシボンは、体をひっくり返し、両足の爪を使って、どうにかメガスピアーの突撃を受け止めていた。
それも間一髪。ワシボンの目と鼻の先には針の切っ先がある。
英玲奈「だが、これで終わりだ!! “ダブルニードル”!!」
「ブーーーンッ!!!!」
メガスピアーが両腕の針をワシボンに向かって、突き立て──た、瞬間。
「ワシャァッ!!!」
ワシボンは“ダブルニードル”を足蹴にして、離脱する。
侑「ワシボン……!」
英玲奈「まだ、そんな力が残っていたか……! “みだれづき”!!」
至近で繰り出される連続攻撃だけど、
「ワシャッ!!!! ワシャァァッ!!!!」
ワシボンは爪を、翼を、嘴を振るって、針を弾く。
もちろん、そんな超近距離で猛スピードの連打を完全に捌ききることなんて不可能だ。
逸らしきれなかった針が、翼を掠めて羽根が散り、力負けした爪がひび割れ、掠った頭に傷が付く。
でも、それでも、何度も、何度も、何度も何度も何度も、どれだけ針が襲い掛かってきてもワシボンは諦めない。
ずたずたに引き裂かれても、ワシボンは戦うのをやめない。
「ワッシャァァァァァ!!!!!」
もう策なんて何一つ残ってない。もはや、ただ我武者羅に抵抗しているだけだ。
英玲奈「その気合い、嫌いじゃない──だが、戦う意思を見せるなら、こちらも攻撃を止めることは出来ないぞ!!」
「ブーンブーーーンッ!!!!!!」
「ワッシャァァァァァァァ!!!!!!!」
──見ていられなかった。私はあまりに圧倒的な力で傷つけられていくワシボンを見ていられず、
侑「もういいっ!! ワシボンっ!! これ以上、戦わなくていい!!」
そう叫んだ。
侑「英玲奈さん!! もうやめてください!! 私、降参し──」
「ワッシャァァァァァァァアァァァァァァ!!!!!!!!!!!」
侑「!?」
私の言葉を遮るように、ワシボンがジム内に劈くような、大きな声で鳴いた。
もう、ボロボロでそんな大きな声が出せるはずないのに。
なんで、そこまでするの……?
どうして、そこまでボロボロになってまで、戦ってくれるの……?
考えたけど……そんなの、簡単な話だった。
──ワシボンだって……負けたくないからに決まってんじゃん……!
「ワッシャァァァァァァ!!!!!!!!!!!」
- 986 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:13:35.81 ID:eLOLjL7n0
-
スピアーの攻撃を捌きながら、ワシボンはもう一度大声をあげた。
今度は、私にぶつけるように。気持ちを示すように。
──指示を寄越せ!! まだ戦える!!
ワシボンはそう言っていた。
言葉は通じないはずなのに──確かにそう言っていた。
英玲奈「いい加減、倒れた方が身のためだぞ──」
侑「“はがねのつばさ”!!!」
「ワッシャァァァァァァ!!!!!!」
ワシボンは針の間を掻い潜り──メガスピアーの針に、鋼鉄の翼を叩きつけて対抗する。
英玲奈「……!」
侑「ワシボンッ!! 最後まで戦い切るよ!!」
「ワッシャァァァァ!!!!!!!!」
侑「“インファイト”!!!!」
「ワシャワシャワシャワシャァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!」
防御を完全に捨て、全身を使って、メガスピアーの連撃に対抗するように、全力攻撃を叩きこむ。
英玲奈「その根性、大したものだな!! なら、これはどうだ!! スピアー!!」
「ブーーンッ!!!!」
メガスピアーは一瞬距離を取り、
英玲奈「“いとをはく”!!」
「ブーンッ!!!!!!」
「ワシャッ!!!!?」
口から、ワシボンを絡め取るように糸を発射する。
英玲奈「スピードが下がってなお、受け切れるものならやってみろ……!!」
「ブーーーンッ!!!!!!」
“いとをはく”で糸が絡みつき、体がうまく動かせないワシボンに向かって──今度こそ、トドメと言わんばかりに突っ込んでくるメガスピアー。
「ワッシャァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」
──うん。わかってるよ。
どうなっても、諦めない。
だって──
侑「負けたくないのは──私も同じだからっ!!!」
「ワッシャァァァァァァ!!!!!!!!!!!!」
私とワシボンの“まけんき”が同調した、その瞬間──
ワシボンの体が、眩い光に包まれた。
「ブーーーーンッ!!!!!!!」
突っ込んでくるメガスピアーに向かって──大きな爪を振り下ろし、
「──ウォォォォォーーーーーー!!!!!!!!!!!」
- 987 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:14:12.87 ID:eLOLjL7n0
-
雄叫びをあげながら──ウォーグルが、メガスピアーの頭を猛禽の爪で地面に押さえ付ける。
「ブ、ブーーーーンッ!!!!」
英玲奈「なっ!? この土壇場で進化だと……!?」
侑「行け、ウォーグル!!」
「ウォォォォーーーーーー!!!!!!!!!」
ウォーグルは大声をあげながら、メガスピアーの頭をがっちり掴んで──飛翔する。
英玲奈「く……!? まだ飛行する体力が残っているのか!? “どくづき”!!」
「ブ、ブーーーーンッ!!!!!!」
スピアーは捕まったまま、針を伸ばして、突き刺してくる──が、
「ウォォォォォォォーーーーー!!!!!!!!!」
ウォーグルは怯まない。
ジムの天井付近まで上昇し……そこから、一気に──地面に向かって切り返す。
侑「いっけぇぇぇぇ!!! “ブレイブバード”!!!!」
「ウォォォォォォォ!!!!!!!!!!!」
メガスピアーを掴んだまま、猛スピードで急降下し──地表スレスレで低空飛行に移行、
「ブ、ブブ、ブブブブブブ!!!!?」
メガスピアーを地面に擦り付けながら、飛行し──
「ウォォォ!!!!」
そのまま、メガスピアーもろとも壁に突っ込んだ。
2匹の衝突で、大きな音と共に、ジムが揺れる。
英玲奈「……!! スピアー!!」
立ち込める土煙と共に──フィールドが静寂に包まれた。
静寂の中、ゆっくり、ゆっくりと煙が晴れると──
「ウォォォォォ!!!!!」
「…ブ…ブーン……」
メガスピアーは、ウォーグルに頭を掴まれ踏まれたまま、戦闘不能になっていた。
英玲奈「…………よもやよもやだ……」
侑「……か、勝った……?」
英玲奈「……スピアー戦闘不能。私たちの負けだ」
そう言いながら、英玲奈さんはメガスピアーをボールに戻す。
私は、一瞬信じられなくて固まってしまったけど──すぐに実感が湧いてきて、
侑「やった、やったぁぁぁ!! ウォーグル!!」
フィールドのウォーグルに向かって駆け出す。
と、同時に──
- 988 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:15:26.83 ID:eLOLjL7n0
-
「ウォー……」
ウォーグルの身がゆらりと揺れ──崩れ落ちた。
侑「ウォーグル……!?」
ウォーグルは──完全に気絶していた。
英玲奈「恐らく、気力だけで、立っていたのだろうな……」
侑「ウォーグル……ありがとう……お疲れ様」
私は、気を失ったウォーグルを優しく抱きしめる。
リナ『何度も致命傷を受けてた……なんで、こんなに戦えたのか……私も見ていてよくわからなかった……』 || 𝅝• _ • ||
英玲奈「稀に……ギリギリの戦いの中で、強い意志を持ったポケモンが、常識では考えられないような力を発揮することがある……」
侑「……それを、ウォーグルが……」
英玲奈「そして、それを引き出すのは……トレーナーとの強い絆だと言われている。……負けてしまったが、すがすがしい気分だ。良いモノを見せてもらったよ」
そう言って、英玲奈さんは懐から──ソレを取り出した。
英玲奈「その強さ、認めざるを得ないだろう。“スティングバッジ”だ。受け取ってくれ」
侑「……はい!!」
私は死闘の末──6つ目のバッジ、“スティングバッジ”を手に入れたのでした。
🎹 🎹 🎹
──さて、ジム戦のあと、さすがにくたくただったし、ウォーグルたちをしっかり休ませてあげるために、宿で一晩過ごした私たちは、
侑「よし! みんなも回復してもらったし、ローズに戻ろっか!」
「イブィ♪」
歩夢「うん♪」
クロユリシティを発って、ローズシティに向かおうとしていた。
リナ『ちゃんとストレート突破だったし、ジム攻略競争は私たちの勝ちかもね!』 ||,,> ◡ <,,||
侑「あはは、だといいなぁ」
かすみちゃんの方もうまく行っているといいけど……。
そんなことを考えていると──prrrrrrとポケギアが鳴る。
歩夢「誰から?」
侑「えっと……あ、かすみちゃんからだ」
噂をすればなんとやらってやつかもしれない。
向こうもジムが終わって、報告のために連絡をしてきたのかもしれない。
- 989 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:19:57.11 ID:eLOLjL7n0
-
侑「もしもし? かすみちゃん?」
かすみ『侑先輩っ!!』
侑「わぁ!?」
ギアからかすみちゃんの大声が聞こえてきてびっくりする。
侑「ど、どうかしたの……?」
かすみ『侑先輩、た、助けてください!! しず子が、しず子が……!!』
侑「え……? な、なにかあったの!?」
かすみ『おっきな音がして、しず子がクマシュンを助けるために飛び出しちゃって……!! でもかすみん、飛べるポケモンがいなくて……!!』
侑「かすみちゃん、一旦落ち着いて!」
かすみ『で、でもでも、すぐに助けないとしず子が……!』
……ダメだ、完全にパニックを起こしてる。
侑「場所はどこ!?」
かすみ『ぐ、グレイブマウンテンですぅ……っ!』
侑「わかった……! 歩夢! 電話代わって!」
歩夢「え!? う、うん、いいけど」
歩夢にポケギアを投げ渡し、
侑「ウォーグル!」
「ウォーーー!!!!」
ウォーグルをボールから出す。
侑「歩夢!! ウォーグルの背中に乗って!」
歩夢「う、うん! わかった! ──かすみちゃん、とりあえず一旦深呼吸しよっか!」
歩夢もすぐに、かすみちゃんがパニックを起こしていることに気付いたのか、電話口でかすみちゃんを落ち着かせるように言葉を選びながら、ウォーグルの背に乗る。
侑「リナちゃん、バッグに入って!」
リナ『わかった!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
侑「ウォーグル、飛ぶよ!!」
「ウォーーーーッ!!!!!」
飛び立つウォーグルの脚を掴んで、そのまま飛翔する。
侑「歩夢!! 振り落とされないようにね!!」
歩夢「う、うん!」
侑「リナちゃん、グレイブマウンテンまでガイドして!!」
リナ『了解!』
侑「行こう!」
「イブィ!!!」
何があったのかわからないけど……しずくちゃんのピンチなのは間違いない……!
待ってて、すぐに駆け付けるから……!!
- 990 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:21:42.41 ID:eLOLjL7n0
-
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かきこんでいます
でんげんを きらないでください...
【クロユリシティ】
口================== 口
||. |○ o /||
||. |⊂⊃ _回/ ||
||. |o|_____. ● | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||.○⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||. / o回/ ||
口==================口
主人公 侑
手持ち イーブイ♀ Lv.55 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
ウォーグル♂ Lv.56 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
ライボルト♂ Lv.52 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
ニャスパー♀ Lv.44 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
ドロンチ♂ Lv.51 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
タマゴ ときどき うごいている みたい。 うまれるまで もう ちょっとかな?
バッジ 6個 図鑑 見つけた数:190匹 捕まえた数:7匹
主人公 歩夢
手持ち エースバーン♂ Lv.47 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
アーボ♂ Lv.46 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
マホイップ♀ Lv.41 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
トドグラー♀ Lv.38 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
フラエッテ♀ Lv.36 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:192匹 捕まえた数:17匹
侑と 歩夢は
レポートに しっかり かきのこした!
...To be continued.
- 991 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:23:26.89 ID:eLOLjL7n0
-
■Intermission⛄
──ローズシティ・ニシキノ総合病院。
真姫「──いらっしゃい、理亞」
理亞「真姫さん……。ねえさまの顔を見るだけだから、面会に付き合ってくれなくても大丈夫なのに……。今忙しいって聞いたし」
真姫「まあね。事後処理でバタバタよ。……でも、今聖良は私がいないと面会出来ないの」
理亞「……え、どういうこと」
そんな話は聞いていない。
理亞「まさか、ねえさまの容態が悪化して……!?」
真姫「悪化は……してないわ」
理亞「なら、どうして……」
真姫「たぶん、見てもらった方が早い」
理亞「……?」
真姫「……いい加減、黙っているのも限界が近いしね」
理亞「……わかった」
何かがあったことは理解出来た。私は黙って、真姫さんの後を付いていくことにした。
⛄ ⛄ ⛄
──ねえさまの病室。
聖良「………………」
理亞「これ、どういうこと……」
真姫「……見たとおりよ」
理亞「見たとおりって……」
ねえさまは……目を開けたまま、ベッドに横たわっていた。
目は開いているのに……微動だにしない。
真姫「今の聖良は……心がないの」
理亞「心が……ない……?」
真姫「目も見えてる、耳も聞こえる、触れられたらそれに気付く。……でも、意思がない。心がないから、それ以上の反応は示さない。情感を持った行動もしないし、喋ることもない……」
理亞「……そっか」
真姫「……思ったより、落ち着いているみたいね」
理亞「……なんとなく、こういうことが起こってもおかしくないんじゃないかって……ずっと思ってたから」
真姫「……そう」
ねえさまは……神様を怒らせたのだから。
悪しき心で……ディアンシーに触れたから……。
- 992 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:24:12.75 ID:eLOLjL7n0
-
理亞「神様の中には……罰を与えるときに人から心を奪う神様もいるって……希さんが前に言ってた」
真姫「……」
そう言いながら私は、病室の棚に置かれている──ピンクダイヤモンドの欠片に目を向ける。
真姫「……ねぇ、理亞」
理亞「なに?」
真姫「もし、ディアンシーが聖良の心を奪ってしまったんだとしたら……どうするの?」
理亞「……わからない」
私は静かに首を振った。
理亞「ねえさまには帰ってきて欲しい……。……だけど、ねえさまがしたことは許されないことだったのは、わかってるつもり。その上で、ねえさまの心を返してなんて……ディアンシーに向かって言っていいのか、わからない……」
真姫「理亞……」
理亞「まぁ……どちらにしろ、今はディアンシーに会う方法がないし……」
ルビィも、ディアンシーに会ったのは、3年前のあのときが最後だって言っていた……。
クロサワの祠の“やぶれた世界”へのゲートも気付いたら消滅してしまっていたと聞く。
そうなると、ディアンシーとコンタクトを取るのはほぼ不可能と言っても過言ではない。
理亞「……真姫さん」
真姫「なにかしら」
理亞「しばらく……ねえさまと二人にしてもらっていい? おかしなことしないって約束するから」
真姫「そんな約束しなくていいわ。好きなだけ一緒にいて大丈夫だから」
理亞「……ありがと」
真姫さんは私の肩を優しく叩くと、そのまま病室を後にした。
理亞「ねえさま……」
聖良「………………」
理亞「ねえさま……っ……」
病室の中では、無機質なバイタルサインの音と──私がねえさまを呼ぶ声だけが、静かに響いていた。
………………
…………
……
⛄
- 993 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:32:17.08 ID:eLOLjL7n0
- 次スレ
侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part2
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1671125346/
- 994 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/16(金) 14:12:20.45 ID:eLOLjL7n0
- 埋め
- 995 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/16(金) 14:12:58.59 ID:eLOLjL7n0
- 埋め
- 996 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/16(金) 14:13:33.54 ID:eLOLjL7n0
- 埋め
- 997 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/16(金) 14:14:07.86 ID:eLOLjL7n0
- 埋め
- 998 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/16(金) 14:14:45.81 ID:eLOLjL7n0
- 埋め
- 999 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/16(金) 14:15:30.62 ID:eLOLjL7n0
- 埋め
- 1000 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/16(金) 14:16:01.44 ID:eLOLjL7n0
- 1000
- 1001 :1001 :Over 1000 Thread
- /|\
|::::0::::|
|`::i、;;|
|;;(ヽ)|
//゙"ヘヘ
// ヾ、
! ! l |
| | .! !
.| | ノ:,! SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)
ヽ! !ノ http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/
- 1002 :最近建ったスレッドのご案内★ :Powered By VIP Service
- 侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part2 @ 2022/12/16(金) 02:29:07.12 ID:eLOLjL7n0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1671125346/
寝こさんバグ大学 不眠学部不休学科 @ 2022/12/16(金) 00:00:26.63 ID:9l9wYlMW0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1671116425/
【デレマス】フリスクモデル大作戦!【フリルドスクエア】 @ 2022/12/15(木) 23:16:00.54 ID:lSf+06he0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1671113759/
穂乃果「こーるおぶでゅーてぃ?」 @ 2022/12/15(木) 20:54:07.39 ID:JrkBgZVH0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1671105246/
流子「○○のチンポ気持ち良すぎだろ!」←入りそうな名前 @ 2022/12/15(木) 19:54:44.88 ID:t6xnFCVw0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1671101684/
穂乃果「ここどこ!?」 カイマン「ここは"ホール"だぜ」 @ 2022/12/15(木) 17:59:37.52 ID:Rsq0UsNQ0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1671094777/
ひとりかくれんぼする!! @ 2022/12/14(水) 21:21:03.42 ID:dwjfLmOi0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/liveany/1671020462/
千川ちひろ「スタンプログインボーナスは本日で終了となります」 @ 2022/12/14(水) 18:08:02.34 ID:9ZsjEOfb0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1671008881/
VIPサービスの新スレ報告ボットはじめました http://twitter.com/ex14bot/
管理人もやってます http://twitter.com/aramaki_vip2ch/
Powered By VIPService http://vip2ch.com/
2130.98 KB Speed:1.2
↑
VIP Service
SS速報VIP
更新
専用ブラウザ
検索
全部
前100
次100
最新50
新着レスを表示
スポンサードリンク
Check
荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service)
read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)