【安価スレ】堕ち行く光

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601 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/10/16(日) 22:54:55.47 ID:O2iSUGQ1O
竹ノ湯の従業員に振る舞われた温泉卵なる珍味。それをおっかなびっくり食べるリヒトと蓮武の姿が対照的だった。
従業員に食べるか尋ねられたマナは黙秘を貫き、刺々しい視線を向けることで答えていた。
善意で訊いた従業員が不憫でならなかったので、リヒトは謝罪し、マナの分も食べることにする。が。

「なんだぁこれ…。黄身は固まってると思ったらそうじゃないし、白身はトゥルントゥルンだし…」

リヒトは初めて食べる珍味に難色を示す。
美味い、不味いの問題ではない。味は元が卵なので問題ない。問題があるのは食感だけだ。
こんな食感は初めてだ。卵の面影を色濃く残しているというのに、卵らしさがほとんどない。
ゆで卵のように黄身も白身も固まっているのかと思ったがそんなことはなく、黄身はとろけていて、白身に至っては口で啜れるほどにトゥルントゥルンだった。

ただ不味いだけなら、それはそれだと割り切って食べるだけで良い。
だが、独特にも程があるこの食感…未知との遭遇に、リヒトの頭はフリーズする。
それから回復するまでの間、なぁにこれ、と間の抜けた声が頭の中で途切れることなく反響していた。

マナの分については、見かねた蓮武が食べてくれた。馴染みがあったのか、彼はすんなりと完食していた。
ということは、緋桜郷近辺出身なのかもしれない。

「修行の旅、だっけか。今までどこを旅してきたのか、訊いても構わないか?」

「…とは言われてもな。俺はあくまで修行のために旅をしている。面白味のある話は出来ないぞ」

「どこに行ったかくらいで構わないさ」

旅程だけでも知っておけば、今後の行動に役立つ日が来るかもしれない。
欲を言えば何があったか、その仔細まで聴いておきたいのだが、そこは彼次第と言ったところだろう。

面白味が無い。後で聴かない方が良かったと後悔しても知らない。と散々に予防線を張った後に、蓮武は修行の旅程を語った。
602 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/10/16(日) 22:55:39.17 ID:8Pkr7wOQO
彼がまず最初に赴いたのは、嘗てリヒトが陥落させた都市『カロゥス』だった。
彼が来訪したのはリヒトが産まれるより前のこと。なので当然、戦火に包まれていたわけはない。
とても平穏な、ごくごく普通の都市だったし、今ほどレムカーナとの仲が険悪ではなかった。
今も当時も、メリちゃん最かわ教の狂信者が相当数いたことは変わらないが、まあ平和だった。

そんな狂信者の集う都市に何故蓮武が向かったのか。
先述した通り、修行のためである。断じてメリちゃん最かわ教に入信したかったわけではない。
魔王であるメリオゴストーグ。
本体はとても貧弱、軟弱、虚弱であり、新米冒険者ですらタイマン勝負であればほぼ勝ちが確実なくらいに戦闘に向いていない、見かけ通りの弱さを持つ魔王という肩書きからは想像が付かないほどに弱い女の子だ。

だが、そんな弱々しい彼女を守護(まも)るべく、その可愛さに脳を壊された強者が集いに集い、英雄級の戦士が幼女に人目を憚ることなく頭を垂れ、嬉々としてこき使われている地獄絵図が生まれていた。
メリオゴストーグさえ関わらなければ真っ当な人たちなので、蓮武は彼らの組手を観察し、カロゥス周辺の魔物を掃討しつつ実力と経験を培っていった。

この話を聴いた時、リヒトは盛大に頭を抱えていた。
当時殺し合った人たちが、とんでもない醜態を見せていたことに、なんとも言えない気持ちになっていたのだ。
それを平気で言ってのける蓮武にも物申したい気分だが、彼は大真面目に当時の旅程を説明してくれているだけだし、自分がカロゥスを陥としたことも知らなそうなので黙っておくことにした。
603 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/10/16(日) 22:56:14.67 ID:MSlb9YkiO
カロゥスで研鑽を積んだ蓮武は、去年まで別の大陸で武者修行をしていたのだという。
今緋桜郷に留まっているのは湯治のためらしく、かなりの激戦を繰り広げてきたようだ。

彼が修行をしてきた大陸の名は『イザリア』。イルステッドとの距離はそれなり、大陸面積はイルステッドの役七割程度。
気候は全体的に熱帯で、大部分を砂漠と火山が占めている灼熱の地である。
天貫の霊峰を除けばほぼ温暖で過ごしやすいイルステッドとは大違いなので、イザリアに住むだけでもさぞ鍛えられるだろう。暑さには滅法強くなりそうだ。

とある火山の近くには龍人(ドラゴニュート)の集落が点在しているらしく、蓮武は過酷な環境に身を置いて鍛錬を積んでいたそうだ。
龍人の数は非常に少なく、リヒトは未だお目に掛かったことが無い。
そも、現時点ではイルステッド内に龍人が暮らしている情報は無いため当たり前の話ではあるのだが。
もしかしたら、奴隷の類でなら何人か流通しているのかもしれないが、市場を知らない彼には関係のないことだ。

心身共に鍛え上げた蓮武は武者修行の旅に一区切りを付け、暫しの休養を取ることにした。
傷ついた身体を癒すには緋桜郷の温泉が効果的だという話を耳にし、わざわざイルステッドに戻ってきたそうだ。

足湯を堪能しつつ旅程を語る蓮武。リヒトはそれを真面目に聴き、マナは興味が無いと言わんばかりに目を閉じていた。
シンパシーを感じるのと興味があるのはノットイコールなのだろう。
604 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/10/16(日) 22:57:04.35 ID:6vCb68Y1O
会話を継続する場合は話題を↓1にどうぞ。
終了したい場合は、その旨を記載してください。蓮武との交流を終了します。
605 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/10/16(日) 22:58:39.03 ID:6vCb68Y1O
継続する場合は今回の会話が最後となります。安価下です。
606 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/10/17(月) 00:00:22.59 ID:K/QzLom1o
相当の腕前と見込んで手合わせを申し込む
(勝っても負けても鍛錬目的で拠点に呼べるようになるといいな)

((余談、リヒト君ここまでの描写的に強めのマップ兵器といった感じで広範囲制圧は得意そうだがタイマンはどのくらいかなと))
607 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/10/17(月) 00:53:27.99 ID:FkkKZhHyO
イルステッドとは全く違う環境で叩き上げてきた戦士。その実力を知るのもまた、今後の役に立つはずだ。
そう結論付けたリヒトは、武器屋で刃を潰している模擬剣を二本購入した。
もちろん、武器種は利用者に合わせている。蓮武の物は大剣、リヒトの物は直剣だ。

「相当の手練れと見込んで頼みがある。俺と手合わせしてくれないか?」

リヒトの率直な依頼に、蓮武は渋面を作る。どうやら乗り気ではないようだ。
休養に来たのに模擬戦とはいえ戦うのは控えておきたい、とでも言いたそうな顔だ。
その考え方は正しい。間違っているのは手合わせを申し込んだリヒトだということは、本人は百も承知である。
だが、だからと引き下がる気は無かった。千載一遇のこのチャンスを逃したくないのだ。

蓮武もリヒトの心情を読み取ったのか、逡巡の後に重い腰を上げた。

「…まあ。休んでばかりでは身体も太刀筋も鈍る、か。全力で身体を動かせないから、見苦しいところもあるだろうがご容赦いただきたい」

「俺のわがままに付き合ってくれて感謝するよ」

頭を下げるリヒトに、蓮武は温和な笑みで答える。

「気にするな。軽い運動だとでも思っておくさ」

模擬剣を片手に、二人は森の中に入った。
608 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/10/17(月) 00:54:02.74 ID:FkkKZhHyO
竹風村の子供たちの遊び場となっている、切り開かれた土地。そこに立つのは二人の剣士。
一人は嘗て勇者と謳われた直剣使い。もう一人は遠き地で修練を積んだ大剣使い。

どちらも刃を潰して安全性を確保した模擬剣を持っているが、どちらが危険かは言うまでもないだろう。
リヒトは大剣の直撃だけは避けたい、と身体を解しながらぼんやりと考えていた。
対する蓮武は何を考えているのやら。表情からは思考が読めなかったので、出たとこ勝負だと割り切ることにする。

「あくまで剣の腕を競う手合わせだ。魔法の行使は厳禁で行こうか」

純粋な腕比べに、余計なものは不要。それに、魔法を解禁したら怪我をする可能性が出てくるのだ。
休養している蓮武にたかが模擬戦で怪我を負わせるなど本末転倒にも程がある。
そういった配慮はしておくに越したことはない。

蓮武は無言で大剣を構え、臨戦体勢を取る。どうやら準備は終わったようだ。

リヒトに頼み込まれたマナが、小さな石を放り投げる。
水たまりに落ちると同時に、轟音が鳴り響いた。
609 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/10/17(月) 00:56:01.73 ID:FkkKZhHyO
模擬戦は2回有利を取った方が勝利となります。
模擬戦 判定↓1コンマ


01〜20:蓮武有利
21〜99:リヒト有利
00:???
610 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/10/17(月) 01:15:25.93 ID:UrGsiMjMo
611 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/10/17(月) 01:16:20.49 ID:Guat35aWo
やはり天災ドラゴン共がおかしかったんやな
612 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/10/17(月) 01:51:30.34 ID:9jx8E+yFO
リヒトはまず、小手調べに二、三合斬り結ぶ。お互いの得物は派手な音を立てぶつかり火花を散らした。
こちらの動きに対応出来る程度の敏捷性は持ち合わせているようだ。とは言っても、まだまだ全力は出していないので追いつけなければ話にならないのだが。

光魔法を併用した最高速度と比べれば、虫が止まるほどに遅い斬撃を蓮武は難なく受け止める。
そして、お返しと言わんばかりの横薙ぎを放つ。
直剣の腹をかち当てて対処するが、剣が触れた瞬間にリヒトは失策を悟った。
この膂力を受け止めるには、力も武器の耐久性も足りない。ならば、流すしかないと。

身体を低くし、剣の角度を変える。滑るように大剣は空を切り、風切り音を出した。
刹那、蓮武の表情が変わった。力のままに振るう剣の勢いを活かし、後退しつつ切り上げた。
懐に潜り込まれては、長所である間合い(リーチ)を活かせないと判断したが故の逃げの一手だろう。
彼の判断は戦術的には大正解だ。だが、リヒト相手にするべき判断ではなかった。

切り上げより速く身体を捻り、後ろに下がる。そのまま地面に手を突き、クラウチングスタートと同じ体勢になる。
そして、地面を蹴り急速接近する。地を這う蛇のように左右に揺れながら迫る幽者に、天狗の青年は大剣を向け、突き出した。
613 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/10/17(月) 01:52:40.74 ID:9jx8E+yFO
模擬戦 判定↓1コンマ


01〜20:蓮武有利
21〜00:K.O
614 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/10/17(月) 07:46:00.91 ID:GUooIM6zO
慶応
615 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/10/17(月) 11:42:22.69 ID:oLsWN4C7o
つよい
616 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/10/19(水) 19:41:27.53 ID:mVIMh6K+O
狭間の地から抜け出せなくて申し訳ない。進めます。
617 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/10/19(水) 19:42:20.63 ID:mVIMh6K+O
しかし、当たらない。返す刀で回避した方向に剣を振るっても、揺れる髪先すら捉えることは出来ない。

肌が触れ合うほど近くにいるのに、幽者との距離はあまりにも遠かった。
どれだけ手を抜かれようとも、剣戟を交わせば伝わるものだ。対手の力量は、隠せないものだ。
蓮武はこの戦いで幽者を、彼岸に到達した者を知る。
それは、果てのない修羅の道を、果ての果てまで進んだ者のみが立つことを許される領域。

いったいどれほどの血を流したのだろうか。まだまだ未来のある若者がこの歳で彼岸に至るなど、尋常の道は歩んでいないはずだ。
そこまでしてでも力を得たかった理由があったのだろうか。護りたいものがあったのだろうか。

幽者を見て浮かんだ憧憬。求め続けた領域はまだ、遠い。だが、それでいい。
たとえどれほど離れていても、存在するのだと知れたから。
まだ、自分は強くなれると知れたから。

幾度となく入れ替わる攻防の中、天狗の青年は微かに、笑った。
618 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/10/19(水) 19:42:51.39 ID:mVIMh6K+O
「俺の勝ちだ」

蓮武は幽者に組み伏せられ、首筋に模擬剣を添えられていた。どちらが勝ったのかは明白だ。
蓮武を解放するが、リヒトは病み上がり相手にちょっとやりすぎたかもしれない、と盛大に冷や汗を流す。
やっぱり怒っているだろうか。説教はされたことが無いから勘弁してもらいたいものだと、念じながら視線を向ける。
蓮武は、曇りなき眼で空を見上げていた。

「それだけの力があれば、大切なものを護れるのか?」

ふと投げかけられた質問に、リヒトは唇を噛む。そして、暫しの回想を終え。

「…何も護れなかったよ。どれだけ強くなったとしても、喪うものだ」

邪眼竜の加護を受けた者は皆、誰もが羨む強大な力を持っていた。
しかし、誰もが悲劇に見舞われ、消えていった。
力の大きさなど関係ない。喪う時は喪う。どうしようもないことは、往々にしてあるものだ。

だが。

「…だからって、進むのを辞めたら。喪った全てが無駄になる。進み続けることが報いになると、俺は信じてる」

その苦しみを、痛みを忘れず、前に進めば。消えた命に意味を持たせることが出来る。
その生は、無駄ではなくなる。

「…そうか」

蓮武は小さく答え、口を噤んだ。リヒトは頭を掻き、一枚の紙切れを置く。

「俺は普段そこに住んでる。何か用があれば気軽に来てくれ。腕比べでもなんでも、付き合うからさ」

「…覚えておこう」

答えを受け取った幽者は、青年の元を去る。
蒼空を眺める青年は、初めての敗北に何を想う。
619 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/10/19(水) 19:44:09.71 ID:mVIMh6K+O
何をするかを↓1にどうぞ。この行動を終えると緋桜郷に戻ります。
620 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/10/19(水) 23:43:27.31 ID:HGXAwpRQO
マナと森林浴していく
621 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/10/20(木) 00:58:53.81 ID:Ll4B6ueXO
竹風村から離れた深い森の中。リヒトたちは、苔むした大岩の上に座っていた。
じっとりと湿った岩の冷たさが、服越しに皮膚を冷やす。肌に貼り付く感覚が不快だったが、空気は美味かった。

「−−−−」

妖精はどうやらご機嫌なようだ。人智の及ばない独自の言語が紡ぐ歌声は、大地に染み渡り、祝福を齎す。
その歌は生命への祝福であり、しかし、智慧を持ち過ぎた人類に対する警告でもある。
故に、歌は人の身に馴染まず、肉体を蝕む呪いとなる。

「………」

身体が、精神(こころ)が、声なき悲鳴を上げる。侵蝕する呪詛に苦しんでいる。
だが、やめろとは言えなかった。
ちょっとシャレにならないくらいに重大なダメージを受けているのは事実だが、彼女は心からリラックスしている。
だから、歌っているのだろう。何を言っているのか理解出来ないし、したくもないが。喜んでいるのはなんとなく分かる。

マナが嬉しいのなら、それでいい。彼女が気兼ねなく歌えるように、この苦痛を耐え忍び、自分を誤魔化せばいい。

なに、今までだって何度もしてきたことだ。躊躇うことはないだろう。
奪うことに苦しみ、喪うことに苦しんだ。
その痛みを誰とも分かち合うことなく、一人で背負うことを選んだのはお前だろう。
ならば、この程度の苦しみ、耐えてみせろ。

「…解ってるよ」

混濁した意識の中での自問自答。その答えは微かな声となり口から溢れる。

「………?どうしたの?」

マナはリヒトの独白に歌を止める。リヒトはなんでもない、と首を振り、続きを促した。
マナは首を傾げつつもすぐに前を向き、歌う。淀みない清らかな歌声が、森へと澄み渡る。
孤独な妖精の細やかな祝福が、森を成長へと導く。
今年の竹風村の収穫量は、従来の1.5倍になったという。
622 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/10/20(木) 00:59:56.65 ID:H79t/QchO
緋桜郷へと戻った頃にはすっかり夕方になり、郷の雰囲気も昼間とは違った様相を呈す。
飲んで。騒いで。歌って。踊って。道楽に耽り、今を楽しむその様は、幽者には眩しいものだった。

「お兄さん、暇ならうちと一杯いかが〜?」

「おい兄ちゃん!俺の店に来な!たっぷりサービスするからさっ!」

「一人で寂しいなら私と一緒にあの部屋でイチャコラしませんか!?」

と様々な勧誘を受けるが謹んで辞退し、逃げるようにその場を去る。
牡丹雪に戻るまでに片手では数えきれないほどの勧誘を受け、油断も隙もあったものじゃないな、と乾いた笑いを浮かべる。
こういう賑やかさも緋桜郷の魅力で、彼らとの駆け引きも醍醐味なのだろうが、リヒトが苦手とする領分なので困ったものだ。

用意されていた夕餉を平らげ、荷物を整理する。
お土産の温泉饅頭は子供たちに大層喜ばれ、食後のデザートだとあっという間に食べきられてしまったが、これだけ喜ばれたら買った甲斐があったというものである。
リンは花をもらっても置き場に困る。気持ちは嬉しいから、花瓶に入れて客間にでも飾っとくよ。と苦笑しつつ受け取られた。
選択を誤ったかもしれない。

ウィンディの反応だが、こちらの想像を遥かに超えて喜ばれた。それはもうめっちゃくちゃに喜ばれた。
髪の手入れが楽になるだのリヒトさんにしては素晴らしいチョイスだのマトモな感性は残ってるんですねだのと言われたが、とにかく喜ばれた。

ちょっと傷ついた。
623 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/10/20(木) 01:00:59.55 ID:r39z3Vy5O
何をするかを↓1にどうぞ。
624 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/10/20(木) 02:32:46.18 ID:KPwoR/O0o
多様な種族が暮らすという緋桜郷がなぜうまく繁栄できているかを知れば
自分が国を作るときに役立つかもしれないから調べてみよう
625 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/10/20(木) 04:24:54.29 ID:fysog/pwO
ちなみに緋桜郷のイメージBGMは『カムラ祓え歌』です。
626 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/11/06(日) 21:49:39.39 ID:/Uf1KQWvO
お久しぶりです。>>1でございます。
しばらく謎の腹痛だったり膿が出たりで大変なことになってました。申し訳ありません。
落ち着いたのでもう大丈夫とは思います。明日の夜に再開いたします。
627 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/06(日) 21:53:11.94 ID:Le2Sug4lo
大丈夫か大丈夫か
無理はなさらず
帰還ありがとう
628 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/06(日) 22:01:23.26 ID:E0ok0Syxo
待ってた
無理のないペースで続けてくれると嬉しい。報告乙です
629 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/11/08(火) 17:27:14.67 ID:O7KWV/5MO
万物には因果がある。因果を紐解くことは即ち、真理の探究に繋がる。と、シルヴィアが言っていたような気がする。
彼女ほど理詰めで考える知性は無いが、脳死で本能に従い動けるほど理性を投げ捨ててはいない。
故に、リヒトは緋桜郷の変遷を知ろうとしていた。
多種多様な種族が争うことなく共存し繁栄する緋桜郷。
何故緋桜郷が在るのか。その因果を知れば、自身とシルヴィアの夢の実現に、また一歩近づけるかもしれない。

そんな希望を抱き、お雪の元を訪ねてみる。しかし、微笑ののちに首を横に振られた。

「わしが一から十まで全部教えるのは無粋だと思ってね。どうしても知りたいというのなら、教えるのは吝かではないけどさ」

困った時は助けるからそれまでは自力で頑張れ、と遠回しに言われてしまった。
こうなっては引き下がるしかない。夜に本屋とかが開いてるとは思えないが。

「…なんてね。こんな時間に外で調べるのは徒労というものさ。意地悪して悪かったね」

そう言って、お雪は座布団を敷き、温かいお茶を用意する。どうやら揶揄われたみたいだ。
シルヴィアといいお雪といい、歳上には弄ばれてばかりだ。何か嗜虐心でもくすぐるものがあるだろうか。

「お前さんの反応が素直なのがいけないね。あまりに可愛くてつい揶揄ってしまうよ」

「…俺が可愛いとかご冗談を。第一俺は男だ」

「可愛いか否かに性別なんて関係ないよ。わしからすれば、牡丹雪にいる子は皆可愛い子供みたいなものさ。お前さんたちも含めてね」

「…子供扱いしないでくれ」

子供っぽいところがあるのは自覚しているが、自分は大人だ。ちゃんと成人しているのだ。
だから、そういう扱いをされても困る。どう対応すればいいのか、てんで分からないのだ。

「男の子が好きな人についちょっかいを掛けてしまうのと同じさ。愛おしくてたまらないから、反応見たさに揶揄ってしまうし構ってしまうんだよ」

「…そういうのは解らないな」
630 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/11/08(火) 17:27:51.41 ID:O7KWV/5MO
誰かを愛したり、好きになったことは一度も無い。故に、理解が出来ない。
愛とは何なのか。好きになるとはどういうことなのか。リヒトは一切知らない。
知る機会も、権利も無かった。忌み子であるリヒトを愛す者も、関わろうとする者も、誰一人いなかったから。
だからなのだろう。愛されることを望んでいながら、自身を愛することが出来ず。疎んでさえいるのは。
幽者はずっと、矛盾を抱え生きている。それは、これからも変わることはない。
変わろうと決意し、自分と向き合うその瞬間が訪れるまで、決して。
631 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/11/08(火) 17:28:22.71 ID:O7KWV/5MO
不意に押し黙ったリヒトを細い目で見やり、お雪は布団を敷き始める。
危機感を感じたリヒトは席を立ち、退散しようと背を向ける。
小さな手が、リヒトの傷だらけの手を優しく包み込んだ。人肌の温かさと氷の冷たさを内包した、不思議な感覚だった。

「寝る準備をしているだけさね。お前さんが望むのなら床を同じくしても構わないけど、その気はないんだろう?」

リヒトはゆっくりと頷き、お雪の方へ振り向いた。視線は下に向けられ、聖銀を思わせる艶やかな髪が目に入った。

「…今宵の緋桜も、変わらず可憐に咲いてるねぇ。酒を飲みながら昔話に興じるには、風情があってちょうどいいものだよ」

障子は開かれ、緋桜の大木が存在を主張する。ひらひらと舞い散る花びらは、月の光に照らされ世界を彩る。
月を背に力強く咲く緋桜。その光景を一目見ようと、緋桜郷を訪れる人が後を絶たないのも頷ける、とても絵画などでは表せない幻想的な光景だった。

窓の縁に腰掛けたお雪は、半身を外に出して夜桜を眺めている。
そんな彼女が、頃合いを見計らったように口を開く。彼女の口から語られたのは、緋桜郷の辿った数奇な歴史だった。
632 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/11/08(火) 17:29:17.51 ID:Dkr7FbmhO
人間にとっては遠い昔、鬼にとっても二世代ほど前の時代。
ここには緋桜郷という地名は無く、村や集落といった小規模な拠点が点在する、寂れた土地だった。
それでいて、とてつもなく閉鎖的。外界からの来訪者には石とブーイングを以って熱烈に歓迎する、凄まじいまでの排他主義だった。

そんな村に、お雪は産まれた。

そして、一人の青年と出逢った。

『…なにしてるんですか。貴方なんて誰も歓迎してないから、早くどこかに行った方が身のためですよ』

『たはは…。まさか子供に心配されるとはね』

『子供扱いしないでくださいっ!』

どれだけ罵倒され、拒絶されようとも、めげないしょげない泣きもしない、変人の旅人がやってきた。
毎日交流しようと村まで来ては、投石を浴びてすごすごと退散し。日を改めてはまたチャレンジする頭のおかしな無謀者。
何があっても笑顔を絶やさず、こちらが心配になるほど脳内お花畑のお人好し。
それが、お雪が旅人に抱いた印象だった。
633 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/11/08(火) 17:29:52.88 ID:Dkr7FbmhO
村長の英才教育を受けたお雪もまた、その排他主義に染まりかけてはいたのだが、苛烈にも程がある大人たちの姿と、この『話せば分かる。人類皆お友達!』を地で行く旅人を見て考えを少しずつ改めていった。
たとえ、外部の人間と関わるのが重罪だと知っていても。彼と話すのは辞められなかった。
それほどまでに彼との会話は楽しく、心が躍っていたから。

『どうして、毎日村を訪ねるのか、かい?』

『はい』

どれだけ痛い目に遭おうとも、決して諦めず交流を試みる旅人に、お雪はそんな質問をした。

『孤独の辛さってのを、僕は嫌と言うほど知っているからね。今はそのままでも良いのかもしれない。でも、時が経てば、世界から取り残され、やがて独りになる。そんな時に、誰も頼れないのは悲しいから…』

『…もちろん、僕が言っていることはただのわがままさ。君たちの事情を無視して押し付けているだけ。だから、拒絶されても仕方ないことだとは思ってる。それが、諦める理由にはならないけど』

と、包帯を巻きながら旅人は笑顔で答える。微塵も後悔していない、寧ろ、この状況を楽しんでいるようにすら見えた。
外には変な人間もいるものだと、お雪は呆れる。だが、そんな変な人間を生み出す外の環境に、世界を旅する青年に、表には出さないがいつしか憧れていった。
その旅人の名は『リヒト・ローテス』。曇りなき紅い瞳が綺麗な、優しい青年だった。
634 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/11/08(火) 17:30:20.43 ID:Dkr7FbmhO
そんな変人が村の近くに居付き、村人たちも適当にあしらうのに慣れた頃。
お雪は村長の命を受け、周辺の森を調査していた。

数日前より、無造作に捨てられた動物の死体が頻繁に目撃されるようになる。
遺体の損傷から見て人の手によるものなのは確実。しかし、あまりにも乱雑なそれは、知識人たる村人の手腕では逆に刻めないものだ。

当初は旅人が犯人ではないか、と疑っていたのだが、二日ほど監視していても不審な様子は見せることなく。
監視している最中にまた遺体が複数発見されたので、容疑者の疑いを晴らされた。
そんな疑いを向けられたことは、彼は知らないのだが。

可食部が根こそぎ削り取られ、内臓は放置された無残な遺体を埋葬する。
村に伝わるしきたりにより、狩りをする際は丁重に弔うようになっている。故に、このような遺体が放置されるのは本来あり得ないことなのだ。

事前に遺体の発見場所と村人の行動圏を把握していたお雪は、何者かがこの森に潜んでいることを推察する。
今回は、その推察を裏付けるために現地調査をしていた。

そして、部外者の痕跡はすぐに見つかることになる。

『人の足跡?それもまだ新しい…』

ぬかるんだ地面に刻まれた、人の痕跡。数と指向性を見るに、人数は三名と思われる。
また、近くの木は根本から伐採されており、切り落とされた枝がそこかしこに散らばっていた。
ルールを知らない部外者特有のやりたい放題に頭痛を覚えるが、原因を取り除かなくては延々と繰り返されるだけだ。
犯人を見つけ出し、吊るし上げるか始末すること。もしくは、この領域から追い出すか。
そのどれかを達成しなければならない。

何者かがこの森に潜んでいることが半ば確定になったが、その正体は未だ影さえ掴めていない。
故に、正体を探るべく深追いしたのだが、それが過ちだと気づく頃には、もう手遅れだった。
635 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/11/08(火) 17:31:02.18 ID:Dkr7FbmhO
途絶えていた意識は、額に落ちた水滴によって現実に引き戻される。
重い瞼を開くと、暗闇が瞳に映る。

『………っ』

全身が、痛い。ぼやけた目で身体を見ると、直視するのも躊躇うほど痛ましい傷が付けられていた。
情けなのか最低限の手当てはされていたが、血は滲み出て包帯を汚していたし、身を苛む激痛と不快感は消えることなく心を蝕んでいる。
そしてそこで、ようやく自分の置かれている状況を理解した。

ああ、そうか。私は負けたのか。

犯人を突き止めたのはいいが、姿を晦ます前に対象しなければ、とそこで焦ってしまい、攻勢に出たのが間違いだった。
自身の浅慮を猛省するのと同時に、どれだけ気丈に振る舞おうと、自分はまだまだ子供なのだと、未熟な精神を戒める。
そんなことをしても後の祭りだと気づいているが、そうでもしないとやってられなかった。

それにしても、随分と乱暴をしてくれたものだ。
いくら鬼の肉体が頑強だとしても、痛いものは痛いし手荒に扱われては傷ついてしまうというのに。
容赦の無い暴力に蹂躙された身体には、愚行の代償たる残痕が刻まれている。これほどの深手は、一生消えない傷跡となって残るだろう。

彼らからすれば、ただ燻る情欲を満たし、悦楽に浸るための行為。
敗者である自分にとやかく言う権利は無い。それは、解っているが。

『…う…ぅ……っ!』

こんな目に遭わされるのなら、殺される方が良かった。
と、折れた小刀を抱き抱え、少女は一筋の涙を流した。
636 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/11/08(火) 20:06:26.33 ID:b+wZhYklO
それから二日。洞窟の中に幽閉され、悪漢に弄ばれる日が続いた時。
お雪は今頃村では大騒ぎになっているだろうな、と現実逃避に勤しんでいた。

『紅玉を追ってここまで来たのに、とんだ掘り出し物だぜ。鬼の女ってだけで高値が付くのに、こんな上玉ならどれくらいになるかねえ。想像しただけで笑いが止まらねえよ』

と首魁が言っていた気がするが、もはや自身の処遇には興味が無かった。
望むのは、この苦しみが終わること。たとえそれが死という結末だろうと、一向に構わなかった。
自身の命を絶つ勇気が無い彼女は、力なく呟く。

ただ一言、助けて。と。

そんな時、一筋の閃光が、闇を切り裂いた。

『やっと、見つけた』

短剣を片手に持った、あの旅人がそこにいた。
表情はお雪の知っているものではなく、感情の抜け落ちたそれは羅刹の如く。絶対零度の視線が、悪漢を射抜いている。

紅い瞳が、光が消えて戻った暗闇の中で煌めく。その眼には、確かな決意が宿っていた。

旅人の姿を認めた悪漢は、下品な笑みを浮かべ、髭を摩る。
旅人はそれを無視して短剣を向ける。光が溢れ、長大な光刃を形作った。

『もう少し、我慢してね』

『僕が全て、終わらせるから』

そして、悪漢たちは慈悲なき審判の光により、誰一人として例外なく断罪された。
637 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/11/08(火) 20:11:18.57 ID:b+wZhYklO
緋桜郷の歴史というよりお雪の回想になってますがお許しくだされ。
本日の更新はこれで終わりです。

今後リヒトが獲得する(かもしれない)装備を募集します。武器種は問いません。
入手手段は鍛冶屋か譲渡か強奪、はたまたダンジョン等の探索による入手となります。


【名前】その名の通り。
【種類】その名の通り。
【付帯効果】使用者に与える効果や装備が持つ能力になります。
装備の概要になります。
638 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/09(水) 00:02:49.84 ID:6SkV0TbN0
【名前】月蝕の短剣
【種類】短剣
【付帯効果】魔翌力を込めることで、光や光魔法を遮断する闇の結界を展開することができる
光を反射しない黒い物質で作られた短剣。特殊な効果は上述の通り
強度は高いが切れ味は悪い為、武器としての性能は低い
639 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/09(水) 01:42:56.12 ID:kQRrjtfh0
【名前】癒しの守り
【種類】盾
【付帯効果】魔翌力を込めると周りの人を治すことができる治癒能力を持っている。ただし装備している本人自身は治すことができない。魔翌力をより多く込めれば込める程、毒で苦しんでいる人や切断された箇所など治すことが可能(亡くなった人を蘇生することはできない)。世界一硬い鉱物を使用し、さらに光の魔翌力が入っている為、どんな攻撃も防ぐくらい頑丈になっている。
640 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/09(水) 23:31:42.24 ID:uZvKrrKWO
【名前】身代わりの偶像
【種類】人形
【付帯効果】
一見粗末な土偶にしか見えないが、血を分け与えることでダメージや呪いなどを肩代わりしてくれる。
ダメージを受けるとその部位と同じ部分が崩れ落ち、致命傷だった場合は力を失いただの土くれと化す。
641 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/11/10(木) 00:47:33.69 ID:Xo++OTWOO
更新は明日か明後日かな、という感じです。
オマケとしてリヒトの装備の情報を置いておきます。
642 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/11/10(木) 00:48:21.69 ID:Xo++OTWOO
【名前】聖剣/魔剣『無銘』
【種類】直剣
【付帯効果】使用者の魔力の増幅、魔法及び性質付与(エンチャント)の強化。また、魔力の増幅による身体能力の向上。
リヒトが肌身離さず持ち歩いている一振りの剣。
元はどこにでもある、市販されていたただの直剣だったが、度重なる戦闘によりリヒトの魔力を帯び、ついには変質してしまい聖剣へと変貌した。
故に、この聖剣には固有の銘が存在せず、真の意味での聖剣でも無い。
というより、結果的に聖剣として扱われるようになっただけで聖剣ですらないため、伝承で語られるような偉人の装備と比べたら性能は劣っている。

リヒトが闇に触れ冥光を纏う時、聖剣も魔剣へと転じ、敵対する悉くを余さず滅する。
聖剣になった影響なのか、何故か購入した時よりも綺麗な見た目になっている。
643 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/11/10(木) 01:10:35.96 ID:qAZUagtOO
ちょいと情報を訂正して再掲します。


【名前】聖剣/魔剣『無銘』
【種類】直剣
【付帯効果】使用者の魔力の増幅、魔法及び性質付与(エンチャント)の強化。また、魔力の増幅による身体能力の向上。
リヒトが肌身離さず持ち歩いている一振りの剣。
元はどこにでもある、市販されていたただの直剣だったが、度重なる戦闘によりリヒトの魔力を帯び、ついには変質してしまい聖剣へと変貌した。
故に、あるべき銘は無く、真の意味での聖剣でも無い。
というより、結果的に聖剣として扱われるようになっただけで聖剣ですらないため、伝承で語られるような偉人の装備と比べたら性能は劣っている。

リヒトが闇に触れ冥光を纏う時、聖剣も魔剣へと転じ、敵対する悉くを余さず滅する。
一人の英雄が壊れゆく様を間近で見続けた唯一の生き証人。たとえ彼がどこまで堕ちようとも、決して見捨てず傍に在り続ける。
それだけが、たった一つの存在意義であるが故に。
聖剣になった影響なのか、何故か購入した時よりも綺麗な見た目になっている。
644 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/10(木) 03:33:09.95 ID:nFlAyafJ0
【名前】正義の右拳(ジャスティス・ライトナックル)
【種類】グローブ
【付帯効果】使用者の魔翌力に応じてグローブが伸縮自在に変形することができる。さらに伸ばした状態でも物などをつかめる。遠距離からの攻撃や伸ばした状態で鎖付き鉄球のように振り回して攻撃などできる。そのままでも殴って戦える。
藍色に金色の天使の羽のような模様が入っている少し大きめのごつい右手のグローブ。なぜ右手しかないのかは文献等がなくいまだに不明になっている。
645 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/10(木) 23:46:48.01 ID:oQe6tZhvO
【名前】名無しの王達の鎧
【種類】鎧
【付帯効果】着用者の身体能力を向上し、着用している間は不死になる。
歴史には残らない、かつての時代の覇者達が着用した鎧。着用者によって姿を変え、着用している間は不死の力を手にすることが出来、寿命か不死殺し以外で[ピーーー]なくなる。
しかし、長い時間着用し続けると正気を失って元に戻れなくなる。
646 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/11(金) 00:14:50.53 ID:TlYK30FEo
【名前】専心の杖
【種類】杖
【付帯効果】手に持った者の意識を研ぎ澄まさせ、魔翌力と集中力を高める
フェルリティアで製造・販売されている飾り気のない白い杖
一般的には魔法使いが魔法を行使する際の補助として使われているが、その集中力を高めるという特性から非魔法使いにも人気が高い。学生が勉強のお供にしたり戦士が最前線で鈍器として使ったりなど、需要は多岐に渡る。ゴーレム技術を一部流用しているため耐久性も非常に高く、鈍器扱いに拍車をかけている
647 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/11(金) 02:39:49.81 ID:+ERA4t2JO
>>639少し追加で
特徴は真っ白で十字架が描かれており、騎士が使っているような逆三角形の盾
648 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/11/16(水) 14:01:46.47 ID:5gvuHotz0
まだ募集しているのかな?
【名前】獣王の爪
【種類】鉤爪
【付帯効果】装備した者は聴覚、嗅覚、視覚、身体能力、タフさが強化。無意識のうちに戦い方が野性的になり、長く装備していると外した後、しばらく野性的な性格が残ることがある(時間がたつと元の性格に戻る)。爪の部分は長く、手首の部分に獣の毛皮がついた2つの鉤爪。名前の通り「獣王」と呼ばれる幻のモンスターの素材を使用し、切れ味は鋭い。
649 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/07(水) 20:48:24.66 ID:GxQNJ30rO
2つ案を投げてみる

【名前】献身の魔盾(まじゅん)
【種類】盾
【付帯効果】
円みのある片手用の盾。魔翌力を通すことで味方を庇うための結界を発生させる。
結界を貫くほどの攻撃を受けた場合はダメージが使用者に集中するため、自己犠牲をも厭わない献身が求められることからこの名がつけられた。


【名前】『悪竜ころし』グラースの斧
【種類】木こりの斧
【付帯効果】
斧を用いて悪竜を討伐したグラースという英雄が使っていたという触れ込みの斧。
一見使い古された木こり用の斧だが、英雄が戦いから引退して木こりになってから使っていたため一応は本物である。
彼の魔翌力が染み込むほど使い込まれているためか木をはじめとした植物には無類の切れ味を発揮する。
それほど使い込まれながらも小まめになされた手入れの跡やグラース自ら刃に彫りこんだ自分の名前がかの英雄の生真面目さを窺わせる。
650 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/10(土) 21:47:21.22 ID:04+zMF3D0
【名前】宇宙の大鎚
【種類】ハンマー
【付帯効果】頭部の部分が赤と青の2つに別れている大きいハンマー。魔翌力を込める事でそれぞれ違う効果が発揮する。赤い方で叩くと一定の範囲で重力を発生する。青い方を叩くと一定の範囲で無重力を発生する。魔翌力込めなくても武器として使える。昔とある学者がこの重力と無重力を発生できるハンマーを見てこの名前が付けられた。

【名前】雷鳴の剣
【種類】大剣
【付帯効果】見た目普通の大剣で持ち手が黄色で刃の部分に雷のマークが彫られている。普通に大剣として使えるが魔翌力を込めると雷を纏うことができる。大剣を振ると雷が落ちたような音がなることでその名前が付けられた。雷を纏うと威力が上がる。
651 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/25(日) 16:53:59.75 ID:LuVmkXjxO
あげ
652 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/02(月) 20:31:49.41 ID:le3ny7hkO
また更新が途絶えてしまい申し訳ありません。

待っていてくれている方がいるとは思えませんがチマチマ再開します。
653 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/02(月) 20:32:50.77 ID:le3ny7hkO
undefined
654 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/02(月) 20:33:27.23 ID:le3ny7hkO
『ご…ごめんね…。助けに来た側なのに、手当てなんかしてもらっちゃって…』

『…別にいいですよ。私は鬼なのでこれくらいなら治ります。貴方は弱っちい人間なんだから、ちゃんと手当てしとかないと』

殴られ、蹴られ、斬られ、射抜かれ。満身創痍になりながらも悪漢集団をとっ捕まえた旅人は、助けに来たはずの少女に治療してもらっていた。
あれほど強者の風格を漂わせていた彼だが、実際は明らかに戦い慣れしていなかった。
腰は引けて、足は震えて、太刀筋は鈍って、と目も当てられない姿だったが、そんな彼が身を呈して助けに来た事実に、お雪も思うところがあった。
故に、悪態を吐きながらも旅人の手当てをしているし、あれほど凄惨な出来事があっても温和な笑みを浮かべているのだろう。
本人は、自身が笑っていることは完全に無自覚なのだが。

『…しかし、どうして助けに来たんです?私、貴方のことをかなりぞんざいに扱っていたと思うんですけど』

彼に助けられるほどの恩は無いし、愛想も悪い自分をなぜ助けたのか。疑問に思ったお雪は、素直にそれをぶつけた。
対する旅人は、数瞬の黙考の後に口を開く。

『僕が疎まれていることは見捨てる理由にならないよ。どう扱われようとも、人道に反することはしたくない。だから、君を見捨てる選択肢なんて端から存在していなかったんだ』

『戦うのも、傷つけるのも、傷つけられるのも嫌だけど。君を見捨てて無かったことにする方がもっと嫌だから』
655 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/02(月) 20:33:59.87 ID:le3ny7hkO
薬草を塗り込みながらそう呟く青年は、君が無事でよかった、と笑顔を見せる。
お雪がどのような目に遭わされたのか。それに彼が触れないのは怖いからなのか、それとも。
少しだけ考えたお雪は、小さく頭を振り、立ち上がる。

『では、大人の人を呼びましょう。この極悪人たちに相応しき罰を与えなければ』

『…ごめん。村の場所分かんないや。この森同じ景色ばかりですぐ迷っちゃうんだよね』

『…それでよく私の場所が解りましたね』

『なんで解ったんだろうね。声が聞こえた気はしたんだけど…。深く考えても答えは出なさそうだからやめとこう』

『…そうですね』

お雪は、よろよろと歩く旅人の肩を担ぐ。そして、少しだけ背伸びをする。
その日、少女はちょっぴり大人になった。
そしてその時、少女は最初で最後の恋をする。

しかし、その初恋が実ることはなかった。
656 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/02(月) 20:34:34.62 ID:le3ny7hkO
騒動が終わった後、旅人は忽然と姿を消した。野営地の焚き木の跡以外の痕跡は、何一つ無かった。

旅人失踪の報を受け、せめて自分くらいには一言言ってほしかったと、お雪は悲しげに笑う。
置き手紙でも無いか、と野営地跡を調べるも、それらしき物は見当たらず。落胆と共に村に戻った。

その日の夜。

『自分たちの街を作るって正気かお雪。親父共が許すと思ってるのかよ?』

『親が言っているからなんなのですか。どう生きるかを決めるのは親ではなく、私たちでしょう』

『それはまあ…そうだが…』

周辺の集落から友人を呼び、見張り塔に集まって作戦会議を行う。
閉鎖された村から抜け出すために。外の世界に触れるために。
憧れに少しでも近づくために。

旅人が蒔いた種は着実に根を張り、成長していた。
あとは花開く時を待つだけ。その鍵は、種を持つ者の勇気だ。
彼らが勇気を振り絞り、行動に移せば。自ずと花は咲き、未来が生まれる。

あーでもないこーでもないと議論を重ね、出奔に備え準備をする。
夜明け前。各地の村でボヤ騒ぎが発生する。すぐに消火活動が行われ事なきを得たが、その騒動に乗じて十余名の子供が逃走した。
お騒がせなお子様をとっ捕まえようと大人たちが出動するも、季節外れの猛吹雪により断念することになる。
657 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/02(月) 20:35:27.14 ID:le3ny7hkO
待ち合わせ場所に指定した大桜の根本には、志を共にした友人が集っていた。
追手の妨害のために色々と仕込んできたので、気が付いたら大人たちに囲まれていた、なんてことは無いはずだ。
彼らも上手くやったようで、目立った外傷は見られなかった。

『お雪がやりすぎなだけでしょ。何あの大雪。こっちからも見えるくらい盛大に降ってたわよ』

『あそこまでしないと、私の村の頑固な連中は黙りませんから。…とはいえ、流石にあの規模の術を使うのは堪えました。甘いものが食べたいです』

『ならこれ食べなさい。竹ノ湯のじっちゃんが餞別にくれたお饅頭よ』

『ありがとうございます』

紙袋から饅頭を取り出し、口いっぱいに頬張る。他の人が羨ましそうな表情をしていたが黙殺する。
食べていいと言われたのだから一人で食べても問題ないはずだ。もし反論された時はちょっと頭を冷やしていただこう。

そんな物騒な思考をしつつも食べる手を止めないお雪をよそに、友人は腰を下ろして盛大に溜め息を吐いた。

『これからどうするべ。俺、あんな啖呵切っておいて村には戻れないんだが』

『大桜を目印に集まったのはいいけどどこに何があるのかさっぱり分かんないしね』

閉鎖された環境で生きてきたが故に、彼らは外に何があるのか。どこに何があるのかを知らない。
かく言うお雪でさえも、あの旅人からの伝聞で知った程度の知識しか無いため、はっきり言って当てにならない。
658 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/02(月) 20:36:01.11 ID:le3ny7hkO
ならば、と逆に考える。どこに何があるのか分からないなら、今自分たちがいる場所を安全な街にしてしまえば良い。
旅人が安心して利用出来る拠点になれば、情報が集まってくる。そうすれば自ずと、外の世界との関わりは増えていく。

あとはなんかいい感じにすればいいのだ。ノリと勢いに任せれば意外と上手くいくものだと、あの旅人は言っていた。
実際、そのノリとかに巻き込まれてお雪は旅人と交流を持ってしまったのだから、彼の言に説得力はそれなりにあった。

『ってことは…家が要るよな。俺らが住む家と、移住してくる人用の家』

『旅館や食堂とかも必要じゃない?あとは娯楽施設ね。暇も度を越すと心が荒んでいくのは、私たちの身に染みてるでしょ』

『娯楽って何すんだよ』

『そこは…ほら、花札とかチンチロとかカルタとか色々あるでしょ』

『色んな遊びがある中でなんでよりによってそれを選んだんだよお前じじ臭いなオイって危ねええええ!!!!!』

『離せお雪!野郎ぶっ殺してやらぁぁぁぁ!!!!!』

『落ち着いてください。どうどう』

『私ゃ馬じゃないってーの!!!』

突然刀を抜く凶行に走った仲間を羽交締めにする。本気と書いてマジと呼ぶ、ガチな目をしていたのでちょっと引いた。
659 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/02(月) 20:36:37.26 ID:le3ny7hkO
どうにかこうにか流血沙汰一歩手前の瀬戸際を回避し、会議の雰囲気を整える。
そして、お雪はある提案をした。

「ちょっと待った。ストップ」

「ん?どうしたんだい?」

昔話を続けるお雪を、リヒトは制止する。表情は少しやつれていた。

「聴きたいと言った手前我慢するつもりだったんだが。これ、もしかしてお雪さんが生まれてから今日に至るまで全部話す気です?」

「そうだけど?」

「まだ緋桜郷の『ひ』の字も出てないんだが!?このペースだと夜が明けて太陽がこんにちはするって!!!」

「これでも多少は巻いてるんだけどね…」

「これで!?こんな隅から隅まで語っておいて巻いてんの!???俺まだ風呂も終わってないんだけど!!!!!」

そんな返答をしつつやつれ具合が加速していくリヒトを見て、お雪はむむむ、と唸り。

「…じゃあ、とりあえず今日の昔話はここまで。続きはまた今度聴きにおいで」

不貞腐れた。
660 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/02(月) 20:42:46.33 ID:wVELktpiO
風呂に入る際に看板を立てるかを↓1にどうぞ。


A:看板を立てる。ソロお風呂になります。
B:看板を立てない。下の判定が同レスのコンマで行われます。
C:その他。自由安価。

01〜20:無人
21〜40:雫
41〜60:霧香
61〜80:結衣乃
81〜99:静音
00:???
661 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/02(月) 21:10:27.08 ID:l6Yg8tYj0
B
662 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/02(月) 23:57:11.57 ID:5XY1oEYFo
待ってました
緋桜郷の歴史国作りの参考になりそうだな
663 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/03(火) 00:42:19.27 ID:loCIh16kO
途中で話を終わらせてもらったことにお詫びをして、浴場へ向かう。
色々と濃密な一日だったので、一風呂浴びてさっぱりしたいものだ。
そんなことを考えながら、替えの私服と下着を片手に更衣室に入る。
直前に何度かノックをしたが、反応はなかったので大浴場は独占できるだろう。

念のためにカゴを全て確認するも、他人の服は無い。もしあったらあったで大変なことになっていた気がするが、気にしないでおこう。
どうせ人目は無いのだから黙っていればバレない。

「看板は…別にいいか。こんな時間に入るやつなんて俺くらいだろ」

『客人入浴中!立ち入り禁止!』と書かれた看板は隅に置き、風呂へと入った。

「…ふう…」

湯船に肩まで浸かり、息を漏らす。
ただ風呂に入っているだけなのに、不思議と身体の疲れが取れていく。これが温泉の効能なのだろうか。

青色の湯は透き通っており、腕を軽く振ってもその姿を目視できる。
今は夜なので夜空が水面に映って幻想的な雰囲気が出ているが、野郎一人では台無しである。

身体を洗い、また湯船に戻って空を眺める。
黒い海の中に星が煌めき、桜の雨がひらりと降る。
そんな素晴らしい光景を目に焼き付け、リヒトは言葉を溢す。

「…お嬢様やシルヴィアにも、この光景を見せてあげたかったな」

その願いはもう、叶わない。
664 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/03(火) 00:43:11.15 ID:loCIh16kO
皆が寝静まった深夜。牡丹雪の七階にて。リヒトは客室の椅子に座り、目を閉じていた。

「ここでねないの?おふとんあるよ?」

そんな様子を見かねたマナが問うも、リヒトは首を横に振り、今はそんな気分じゃないと、返事をしておいた。

「…わかった。じゃあわたしもおきてる」

マナはそう言うと、リヒトの肩に留まる。肩が重くて困るのだが、彼女がこんなことをするのは珍しく、やめろとも言うわけにもいかなかった。
なので、リヒトは特に返事をすることなく、ただその場にいた。

温泉に浸かっている時にふと思い出した、聖女との記憶。
彼女との出逢いは、お世辞にも運命的とは言えなかった。惨めで愚かな自分を、憐れんだ聖女が救ってくれただけだ。
泥と血に塗れた、穢らわしい自分を。明確に好意を拒絶した自分を。彼女は臆することなく、何度も手を差し伸べてきた。

リヒトの知る中で唯一、自身を人として受け入れようとしてくれた人。自身を人間だと認めてくれた人。
だが、彼女はもういない。人の善性を信じすぎたが故に、身を滅ぼした。滅びゆく様を、見届けることしかできなかった。

どうして、無理にでも止められなかったのだろう。たとえ嫌われようとも、死なれるよりはマシだったはずなのに。
どれだけ後悔しても、心は晴れなかった。今もそうだ。

あの過去さえ変われば。何度そう思ったか。叶わない願いだと知っていてもなお、心の奥底ではそれを望んでいた。
だが、何も変わらない。変わるわけがない。過去とは不変であるが故に。
罷り間違って変わったとしても、今への変革は起きぬが故に。

「…ごめんなさい…」

変えられぬ過去に。贖えぬ罪に。罪人(幽者)は嘆くことしかできなかった。
665 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/03(火) 00:43:57.27 ID:loCIh16kO
何をするかを↓1にどうぞ。
666 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/03(火) 00:44:43.51 ID:loCIh16kO
行動する際には自動で朝になってます。ご了承ください。
667 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/03(火) 03:57:41.10 ID:0K2dDwJcO
朝風呂としゃれこむ
668 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/03(火) 08:08:54.26 ID:LW0MRItpO
風呂に入る際に看板を立てるかを↓1にどうぞ。
前回と選択肢などは同じです。
669 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/03(火) 09:06:51.18 ID:hX9COdHfO
A 看板を立てる
670 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/03(火) 10:10:47.74 ID:Jxk0Dk6uO
椅子に座ったままの寝落ちという最悪な寝方をしたリヒトは、マナに寝ている間に何か変なことを宣っていなかったか質問する。
なにもなかった。とは言っていたが、目が泳いでいたのでたぶんとんでもないことを言ってしまったと思われる。
可及的速やかに忘れた方が精神衛生上よろしいだろう。

さて、定刻通り配膳された朝餉をペロリと平らげたリヒトは、気分転換を兼ねて朝風呂をキメることにした。
温泉に入り放題の今、これをしない手は無いと、温泉を思う存分堪能するつもりだった。
ちなみに、マナはウィンディの元に待機させている。一人でゆっくりしたいのだから当然の措置である。
看板もしっかり立てておいたので、例によってこの広い温泉を独り占めだ。

「あ゛ぁ゛〜〜〜〜〜〜。極楽極楽〜〜〜〜〜」

凝り固まった筋肉を湯船の中で解す。
なるほど。湯治でわざわざ緋桜郷に来る蓮武の気持ちも分かる。
ここまで身体を癒やしてくれるのなら、遠路はるばる緋桜郷へ湯治に来る人がいるのも頷ける。

戦争の時にこれがあれば、士気もまた違っただろうに。そんな益体もないことを考えながら、のんびりと風呂を楽しんだ。
671 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/03(火) 10:11:27.14 ID:Jxk0Dk6uO
何をするかを↓1にどうぞ。
次の行動は昼となります。
672 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/03(火) 10:28:03.04 ID:b8hs6V240
トレーニング
673 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/03(火) 10:39:35.37 ID:pU6DTSY/O
トレーニングに同伴させるキャラを↓1にどうぞ。
コンマが51以上でそのキャラとコミュを取れます。
674 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/03(火) 12:51:21.86 ID:KyJiUUoeo
675 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/03(火) 16:55:13.94 ID:I4LJWsDyO
風呂上がりで火照った身体を冷ますために、自室に戻ったリヒトは一人トレーニングに勤しんでいた。
とは言っても、近くに稽古場が無い上客室では大それたことはできないので、筋トレや魔力トレーニング程度しかできないのが困りものだ。

「………」

「ほわぁ〜………」

なので、天井の梁に足を掛けて腹筋をしながら、体内の魔力を総動員して無数の鳥を作り出していた。
生憎リヒトは魔法のことに明るくないので、効率的な鍛え方はできない。故に、過去の経験を基にした鍛え方しか行えないのだ。

即ち、死ぬ手前まで身体を苛める大作戦である。死線を潜れば潜るほど強くなってきたのなら、平時でも同じようにすれば良いのだ。
魔力と体力を完全に使い果たした極限状態。それを擬似的に作り出し、耐え続けることで限界を無理矢理延ばす。
自殺行為にも等しい愚行だが事実、彼はそれを何度も繰り返してここまで強くなった。

当たり前だが、そんな鍛え方をするのは彼が重度の被虐趣味を持つからではない。
この鍛え方しか知らず、否が応でもそうせざるを得なかったからだ。
度重なる激戦を生き延びるには死力を尽くす他なく、限界まで戦い抜いたからこそ力を身に付けた。
リヒトの持つ力はあまりにも泥臭く、血に塗れているものだった。

部屋を埋め尽くすほどに展開された鳥の群れを、雫は興味深く見つめている。
どんなトレーニングをするのか気になると言われたので部屋に迎えたのだが、いったいこんなものを見て何が楽しいのだろうか。
乙女心はさっぱり理解できないが、彼女は不満に思っていないようなので良しとしよう。

「綺麗な鳥さんですね」

「…ぱっと見綺麗かもしれないが、触らないようにね。たぶん君が触ったら命に関わることになる」

「えっ」

「ダメだからね」

「わ、解りましたっ!」

幽者の使う魔法などそんなものだと。リヒトは胸中に吐露しつつ、危ないことをしないように釘を刺した。
お利口さんな雫は、言いつけ通り変な真似はしなかった。何よりである。
676 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/03(火) 16:55:54.04 ID:I4LJWsDyO
雫と何を話すかを↓1にどうぞ。
677 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/03(火) 19:09:33.10 ID:ddwzSzrnO
お雪さんについて
678 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/04(水) 01:52:08.44 ID:UMliEI7XO
トレーニングを取りやめ、雫が用意してくれた冷水を大量に飲み干す。
数十分ほど続けたトレーニングだが、肝心の成果は芳しくなかった。

ただでさえ人並み外れた体力と魔力を持つので、こんな鍛え方をしても限界が来るまでに日が暮れてしまうだけだということに気づいたのだ。
最低でもフェルリティアで出会ったニール・ライトホープやカロゥスで殺し合った親衛隊級の実力を持つ者たちと戦わねば、強くなるのは困難を極めるだろう。
おそらく、そこらの魔物退治や盗賊殲滅程度では経験にもならない。

汗ばんだ身体を拭いてくれる雫に謝辞を述べ、お茶請けのせんべいを齧る。
程なくして、リヒトは質問を投げかけた。

「女将さんのことが知りたい、ですか?」

「ああ」

小動物のように可愛らしく首を傾げる雫に、リヒトは肯定で返す。
甲斐甲斐しく世話をしてくれているお雪だが、彼女の人となりがどうなのか。正直言うとよく分からない。
優しい人なのは紛れもない事実だが、旅館兼娼館の主であることもまた事実である。
もしかしたら、裏では何か悪どいことに手を染めているやもしれない。

という冗談はさておき。彼女がどういった人物なのか、いまいち捉えどころが無いのだ。
年の功によるものなのか、のらりくらりとあしらわれている感が否めないので、彼女のことを知ってそうな人に訊く方が効率的な予感がした。
藪蛇だったらその時はその時である。土下座でもすれば許してくれるだろう。
679 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/04(水) 01:52:47.87 ID:U0IMKs1LO
「女将さんがどんな人か…。むむ〜…。何と言えばいいのかな〜。お母さん?おばあちゃん?うーん?」

頭を悩ませる雫を見て、リヒトは内心冷や汗を掻く。彼女の年齢に触れたら大変なことになる可能性があると、リヒトは知っている。

ただ、百、二百では済まない歳だというのは予想が付いていた。
緋桜郷の成立についての話をつい先日してもらったが、お雪が産まれた時点ではまだ緋桜郷が存在していなかったのだから、相当なご年配だろう。
そのはずなのに、外見は幼子のそれとそこまで変わらず肌もツヤツヤで瑞々しいのが不思議でならないが。何か特殊な美容法でもあるのかもしれない。

「…女将さんは、牡丹雪で働く人全員の恩人なんです。借金のカタに桜花衆に売られた人…事件や病気で家族を亡くした人…色々な理由で孤独になった人を、暖かく迎えてくれました」

「私もその一人です。物心ついた時には独りぼっちだった私を、女将さんは引き取ってくれたんですよ。あの時、女将さんに逢ってなかったら…。私はきっと、死んでいたと思います」

ぽつぽつと話す雫に視線を向け、静かに話を聴く。雫の境遇と自身の境遇。お雪と聖女が、少しだけ重なった。

「だから、私にとって女将さんは…。命の恩人で、お母さんみたいな人なんです。お仕事のことを教えてくれて、幸せもたくさんもらっちゃいました」

「…そっか。すごい人なんだね、お雪さんは」

「はいっ!私も、女将さんみたいになってたくさんの人を幸せにしたいです!それが、私の夢なんですよっ!!!」

屈託の無い笑顔を見せる雫。ここまで子供に、人に愛されるお雪を、リヒトは羨ましく思ってしまう。
そんな自分に気付けなかったのは、幸か不幸か。
680 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/04(水) 01:53:39.35 ID:U0IMKs1LO
雫と何を話すかを↓1にどうぞ。
これが終わると夕方の行動に移ります。
681 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/04(水) 09:20:15.48 ID:ZXqpI2G10
雫から見て他の牡丹雪の従業員たちはどんな人たちなのか聞く
682 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/05(木) 13:12:14.14 ID:GLiBNlDbO
リヒトの戦友枠を何名か募集しておきます。
条件としては、最後まで同伴した戦友は二人まで、それ以外(負傷して脱落、力不足だったり事情があったりで除名された人)が数名です。
戦友枠ではリヒトと同格に強いキャラは現状いないです。
テンプレートをご利用ください。


【テンプレート】
【名前】その名の通り。
【人種】その名の通り。
【性別】その名の通り。
【魔法】どんな魔法を得意とするか。全く使えない人もいます。

魔法から下は自由記入欄となります。来歴や特徴などご自由にお書きください。
683 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/05(木) 21:03:29.25 ID:HUxyO92p0
【名前】アンナ・アルミューレ
【人種】人間
【性別】女性
【魔法】なし
力不足で戦線から脱落した元騎士の若い女性。平時はアッシュブラウンのロングヘアを無造作に下ろしているが、戦に赴く際は後ろで一束にまとめる。
貴族の出だが身分を笠に着ることはなく、真面目で人当たりの良い人物だった。
しかし戦線を脱落してからは自信を失い、現在は昼も夜も酒場に入り浸る自堕落な生活を送っている。引き締まっていた体つきも少しだらしなくなってきている。
リヒトのことは人としては好いているものの、共に戦い抜けなかった負い目や実力差による劣等感もあり、複雑な感情を抱いている。
そういった感情からリヒトの悪口を言うことがあるが、他人がリヒトの悪口を言うと怒る。周囲からは面倒臭い女と思われている。
戦いにおいては攻めよりも守りの方が得意なため、盾を持つと実力を発揮しやすい。
684 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/05(木) 22:14:26.23 ID:skzxg/Nw0
【名前】カイ・ラフィラス
【人種】人間
【性別】男
【魔法】火炎魔法
赤髪ツンツン髪の男性。筋肉質で身体中に傷がある。リヒトと同じ年齢。元々貴族だったが窮屈な生活に嫌気がさし身分を捨て自由の身となった。性格は熱血漢で友達の事を大切に思っている。リヒトとは長くともに戦ったなかでもあり、さらに同年代の為リヒトのことは大切な親友だと思っている。今でもたまに手紙を送っている。斧を使った戦闘が得意。戦う際は、斧と火炎魔法をよく使う。
685 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/05(木) 23:21:04.51 ID:jrJbFzLP0
【名前】サラ・アンバー
【人種】人間
【性別】女性
【魔法】速度強化魔法(あまり強力ではなく自身の速度を少し上げられる程度。それでスピードを強化しつつ得意武器である双剣での戦闘が基本となる)
鮮やかなオレンジの髪を持つショートカットの少女。年齢は十代後半ほど。
元盗賊であり、当初はリヒトが勇者だとは知らずに金目の物を奪おうと襲い掛かったものの見事に返り討ちに遭ってしまったという恥ずかしい過去を持つ
その後リヒトの情けもあって共に戦う事となるのだが、ある時魔物に襲われそうになった子供を庇った際に深い傷を負ってしまった事から、自分のケガのせいで足手まといになるわけにはいかないとリヒトと別れる道を選んだ。
口も手癖も悪いが上述のように子供や弱いものには優しく、奪った金品は貧しい人々に分け与えたりするなど根っからの悪人というわけではない。
現在はとある街で孤児院を開き、子供達がかつての自分の様に道を踏み外さないよう愛情を持って見守っている。
ちなみに今では性格もだいぶ穏やかになったようだが、子供たちを叱る時は盗賊時代の乱暴な口調がつい出てしまう事があるらしく、それを聞いた子供たちはあまりの怖さにもう絶対にイタズラや悪さはしないと心に誓うのだとか。
686 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/06(金) 12:16:11.08 ID:v5yb8+XVO
【名前】タイラス・コード
【人種】人間
【性別】男
【魔法】闇魔法、雷魔法
茶髪で背丈がリヒトと同じくらい。闇魔法に深く身を委ねた影響で目が紅くなっている。年齢はリヒトの1個下。
リヒトや仲間達と共に戦場を駆け抜け、最後の戦いの後に人々に絶望して闇落ちした。
現在は全身を黒い鎧で覆い、指名手配されたリヒトが過ごしやすくなるように、リヒトの名を名乗りながら圧政を敷く国を滅ぼしたらしながら世界を放浪している。
687 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/06(金) 12:53:20.23 ID:OjXFXxrbO
【名前】マレット・クロウル
【人種】犬の獣人
【性別】男
【魔法】風魔法
リヒトのパーティーで斥候を務めていた人物で弓と短剣を武器に偵察や索敵、狙撃などを行っていた。
二足歩行する土佐犬のような外見で細身ながらもリヒトより頭一つ分程度背が高い。
いつもは皮肉や悪態をついたりとガラが悪いが仲間思いでパーティー同士の喧嘩の仲裁もしていた。
リヒト達との旅の後半で仲間を庇い重傷を負って戦線離脱し、復帰を望んでいたが間に合わなかった。
現在はリヒトに合流するべくかつての戦友達に呼びかけているがうまくいくかは定かではない。
リヒトより7、8歳程度年上。独身。
688 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/06(金) 13:42:57.55 ID:6BOcwNzP0
【名前】ラルフ・レドリック
【人種】人間
【性別】男性
【魔法】毒魔法
紫髪で長身の男性で白衣を着てる。顔にはいくつか縫い傷がある。口元は包帯で隠している(昔口元に大きい傷が残っておりそれを隠すために包帯をしている)。杖を武器にしており遠くから毒魔法を放っている。冷静な性格だがよくネガティブになることが多い。毒魔法を得意とするが医学を学んでおり、よく仲間達を治療していた。彼の医療技術は回復魔法以上の技術力を持っている。前は別の仲間と旅をしていたが仲間の裏切りにあいパーティーを解雇、さらにボロボロの状態で大量のモンスターに一人置き去りにされ絶対絶命のところリヒトに助けられる。それがきっかけでリヒトに恩があり、恩を返す為にリヒト達の仲間になり、共に戦った。今はその技術を活かし医者になった。街外れに診療所を建て色んな人種関係なく治療している。
689 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/06(金) 22:37:11.28 ID:SBHFGlz7O
【名前】グレゴリー・ネスミス
【人種】人間
【性別】男
【魔法】土魔法
銀髪短髪の40代の大男。武器のハンマーを持っている。涙もろいが兄貴肌。過去に自分の村が盗賊に襲われた事があり、生き残ったのはグレゴリー本人だけだった。1人森の中をさ迷っている時にリヒト達に出会う。グレゴリー本人は敵かと思い攻撃するがリヒトの強さに圧倒され返り討ちあう。その後、お互い誤解がとけ仲良くなる。過去に襲われた盗賊もリヒト達と協力し撃退した。撃退後、リヒト達のパーティーに入り共に戦った。現在は結婚して子供もいる。仕事はその強さから現在騎士として活躍している。
690 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/06(金) 23:44:26.18 ID:SBHFGlz7O
>>689少し訂正
「過去に襲われた盗賊もリヒト達と協力し撃退した。」
           ↓
「過去に自身の村を襲った盗賊はリヒト達と協力し撃退した。」
691 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/08(日) 14:45:40.26 ID:GVK8D8WsO
部屋に乱入してきたチャカを可愛がりつつ、雫と会話をする。話題は自然と、牡丹雪で働く面々のことに変わっていった。

「結衣乃さんと霧香さんは、夜のお勤めを主に担当されてます。お客様にも好評で、出勤日は予約でいっぱいになってますね」

「結衣乃さんはそれとは別に衣装製作や修繕も担当されてて、今牡丹雪で働いてる若い人たちの衣装は、結衣乃さんお手製なんですよ」

そう言って、雫はくるりと一回転する。寒色系の鮮やかな着物がふわりと踊った。
一流の職人をも唸らせる絶技で作られた着物。
それはどこの呉服店に卸しても恥ずかしくない逸品なのだが、結衣乃は頑なに販売しようとしないのだとか。
過去に他の子供や客にその理由を尋ねられた時も、黙秘を貫かれたらしい。ポリシーなのだろうか。

「霧香さんは…お休みの時はどこかにお出掛けしてる時が多いですね。数日帰ってこない日もよくあります。でも、ここに居る日は皆の面倒を見てくれたり、美味しいご飯を食べに連れてってくれたりします」

ノリノリでイケイケな人だが、心根は優しいらしい。まあ、子供に好かれているのだから優しいのが普通な気もするが。
ただ、気になるのは初対面の時の行動だ。外に貼り付くなんて普通じゃあない。
鬼なら誰でもできる基本技術だったなら、その時は潔く腹を切ってお詫びしよう。どうせすぐ治る。
692 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/08(日) 14:46:28.54 ID:koHNzqgIO
「静音さんは、従業員の健康管理をしてくれてるお医者さんです。急病のお客様を診たり、お薬を処方したりもしてます」

飲み過ぎなどで酔い潰れた客でも看病しているのだろうか。だとしたら、とても大変で気の毒な仕事である。
酔っ払いの対応ほどめんどくさいものはない。酔っ払って暴れる冒険者は、酒場でよく見られる光景だった。
それをボッコボコにして鎮圧させたのも懐かしい思い出だと、リヒトは小さく笑う。

「リンさんはご存知の通り、牡丹雪の台所を取り仕切り板前さんです。お客様のご飯から私たちのご飯まで、全てを毎日作ってくれてます」

「ただ…あまり私たちとお話ししてくれないんですよね。お風呂だって、いっつも一人で入ってるんです。…嫌われてるのかなあ」

他人と関わるのが嫌いなのか。それとも、他人と関わりたくない理由があるのか。
牡丹雪で働く人全員にワケありなことを考えるとなんらかのトラウマを抱えている可能性があるが、彼女のことは何も知らないのでそれも憶測の域を出ない。
彼女自身、そういった事情を知らないのだろう。それに、雫はまだまだ子供なのだから配慮を求めるのは酷というものだ。

とはいえ、部外者の自分が気安く立ち入っていい問題ではないのも事実。
時間が解決してくれる日を待つのが良さそうだが、果たしていつになるやら。
693 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/08(日) 14:47:16.52 ID:AYT1t1MNO
夕食を終えたリヒトだが、ふとお雪の姿が見えないことに気づく。
何事かと霧香に問うと、彼岸花 紅華に呼び出され自棄酒に付き合わされることになったという。
不憫で涙が止まらないが、この強制連行は日常茶飯事らしい。お雪の明日はどっちだ。

「リヒトさ〜ん…」

城の方を向いて合掌をしていたリヒトに、ウィンディが声を掛けてくる。
振り向いてみると、ウィンディはゴマを擦っていた。本当に胡麻を擦っていた。

「何もできてないのに恐縮ですが…どうかこの貧乏で薄汚い小娘にお小遣いをお恵みください…!お洋服が買いたいんですぅ…!」

二種のゴマ擦りを並行するウィンディに、リヒトは思わず閉口した。そこまでへりくだって媚を売るほどに自分は敬遠されていたのか、と。

悲しみのあまりに半ば悟りを開きつつ、金貨が数枚入った麻袋を渡す。これだけあれば、多少の贅沢もできるだろう。

「あ゛り゛がどう゛ござい゛ま゛ず〜〜〜〜!!!!!」

そこまで洋服が欲しかったのか。
そう思いながら、リヒトはスキップで去っていったウィンディを見送り、一筋の涙を流した。
694 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/08(日) 14:47:55.57 ID:AYT1t1MNO
何をするかを↓1にどうぞ。
695 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2023/01/08(日) 15:15:22.68 ID:8vUksv+Y0
ウィンディの部屋を掃除しよう
696 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/08(日) 21:00:33.88 ID:O+jeblKRO
「おっす。俺ですリヒトです」

「ぶうううええええええええぇぇぇぇえっっっっ!?!!!???!!!」

『Oh………』

挨拶をしながらドアを開けると、お茶を飲んでいたウィンディが盛大に噴き出した。
その全てはハリゴーディンに直撃したので、畳は汚れなかった。何よりである。
というより、何故ここまで驚かれたのか不思議でならない。ノックをしなかったのが原因なのだろうか。

「あああああごめんなさいハリゴーディンさん!!!っていうかリヒトさん!女の子の部屋に入るなら先に一言言ってくださいよ!」

と、ハリゴーディンの装甲を拭きながら猛抗議するウィンディ。顔は赤面しており、まるで茹蛸のようだった。
軽く謝罪しながら部屋の中を見渡してみる。特に汚れたりはしていないが、本が散乱しているのはいただけない。

興味本位で中身を見る。やはりと言うべきか、どの本も魔法や忍術に関係したものだった。忍術とはいったいなんなのだろうか。

「忍術は緋桜郷などの一部の地域で利用されている魔法の一種です。どちらも魔力を媒体にして現象を発生させますが、そのプロセスが違うんです。例えば私たちが使っている魔法。これは理論を構築して、理論通りに魔力を制御することで現象を発生させています。それに対して忍術は、印を結ぶ行為そのものを理論の代替として使用するので、印の結びさえ知っていれば、誰でもどんな忍術を扱えます。魔力が足りなかったらたぶん死にますけど。また、どちらも杖などの道具や儀式を併用することで簡略化や魔力の消費量の軽減、性能の強化が行えます。寧ろ、それ前提で理論を構築する方が多いですね」

何気ない質問にお返しされた解説の奔流。軽はずみで訊いた自分が馬鹿だったと内心戒めつつ、ウィンディが話し終えるのを待つ。
待つこと数分。一通り説明して満足したのか、ウィンディは息を吐いた。

ここで理解できなかったと言ったら、また先程の解説が再生されるのだろうか。微塵も試す気はないが。
697 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/08(日) 21:01:13.13 ID:JJTguKe/O
undefined
698 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/08(日) 21:01:55.52 ID:ru160NNSO
気が済んだウィンディを尻目に、リヒトは散らかっていた本を机に置く。
掃除はこの程度でいいだろう、と身体を伸ばした。
そろそろ身体が鈍ってきそうなので、軽く仕事(殺し合い)でもした方がいいかもしれない。

「…私って、リヒトさんの役に立ってますか?」

そんな物騒な思考を涼しい顔でしていると、不意にウィンディが口を開いた。
ちょっと前の様子からは考えられないほど弱々しいウィンディの声。
リヒトも思考を中断し、ウィンディの方を見る。俯いていて表情は伺えないが、声色からして笑っていることはないだろう。

「…ここに泊まってから、色々と考えたんです。レムカーナでリヒトさんに逢ってからお世話になってるわけですが、私は何かしてあげられたのかなって。ある意味、先生の後釜なわけですし、ね」

「まあ、どれだけ考えても何も貢献できてないことしか出てこないわけですが」

力なく笑うウィンディに、リヒトは瞑目する。追憶してみるが確かに、ウィンディが助けになったことは無かったようにも思える。
が、別にそんなことはどうでもよかった。彼女に魔法の才があるのは紛れもない事実だが、過去に彼女自身が言ったように性分が戦いにはまるっきり向いていないし、戦意も無い。
そんなウィンディを戦いに投入するのもいかがなものか。と、骨の髄まで殺し合い(命のやり取り)に染まったリヒトは考えていた。
699 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/08(日) 21:02:43.74 ID:gBXAJslCO
それに、彼女が役に立つかどうかは全然気にしていないのが本音だ。
ただ傍にいてくれれば、それでいい。孤独にならなければ、それでいいのだ。

シルヴィアの後釜だと本人は言っているが、彼女にその役目を求めたことは一度もない。
シルヴィアから託されたものは既に自分が受け取っている。それを手伝ってくれるのは嬉しい限りだが、そう強要したことはないし、これからもするつもりはない。
言ってしまえば、彼女が勝手に後釜だと思い込んで思い詰めているだけだ。
役に立たないから切り捨てるなど傲慢にも程がある。そんな扱いをされるのがどれだけ辛いのか。
それを知らないリヒトではない。自身もそういった扱いをされていたのだから、尚更だ。

だが、それを素直に言ったら控えめに言って大変なことになるだろう。人間とはめんどくさいものだ。
どう気遣うのが最適なのか、賢くない頭を悩ませるリヒトの姿が、そこにあった。
700 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2023/01/08(日) 21:05:36.35 ID:yp3djGB/O
重要な局面なのでシンキングタイムを設けさせていただきます。
次に出す安価はどんな言葉をかける、どんな対応するか、です。

暫くの間質問等ありましたらお願いします。今開示できる範囲の情報をお出しいたします。
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