【安価スレ】堕ち行く光

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401 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/12(月) 12:54:57.54 ID:yorZkvkdO
00なら無条件降伏してきます。
ゲイザリオン、グラトルスの情報を募集します。ゲイザリオンは二つ、グラトルスは三つの情報を獲得出来ます。
前回の魔族の情報のように、どういった情報が欲しいかを記載してください。
402 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/12(月) 14:10:15.22 ID:kK65/xV+o
過去問題クリアしたやつの居場所
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/12(月) 18:22:48.63 ID:szdUciVjo
生息地について詳しく
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/12(月) 18:42:02.81 ID:GZTUghGr0
弱点
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/12(月) 18:52:00.74 ID:veocL4GsO
残りはグラトルスの情報二つとなります。
406 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/12(月) 18:58:51.29 ID:opZHFnXKo
主な攻撃手段
407 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/12(月) 19:03:02.93 ID:mKxozkDxO
詳しい生態

食べ物が分かれば毒を盛れるかもしれない。睡眠時間が分かれば寝込みを襲えるかもしれない。
408 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/13(火) 23:06:34.96 ID:L8d5InNvO
「戻りました」

食事を終えたウィンディが部屋に戻ってきた。手に持つ皿にはたくさんのスイーツが盛られており、見ただけで口の中が甘くなる。
心なしか、マナも引いているように見えた。

「まずそう」

マナは辛辣な毒を吐く。人工物を毛嫌いする彼女からすれば当然の反応ではあるが、もう少しオブラートに包むことは出来なかったのだろうか。
歯に物を着せぬ清々しい言いっぷりに、ウィンディは苦笑することしか出来なかった。価値観が違うのだから、どれだけ力説しても理解など得られないことを知っているからだろう。

「あっそうだ。リュクスさんに言伝です」

「誰からだ?」

「デュンケルって人からです。なんか角生えてましたけど」

言い忘れていたことでもあったのだろうか。とりあえず、続きを促すことにした。

「『調伏するのであれば単騎で挑め。徒党を組む軟弱な者に、気高きドラゴンは興味を示さん』。とのことです」

可能な限り彼の口調を再現したのだろう。声色を低くしたウィンディの声は、どことなくデュンケルの姿を想起させる。だがウィンディ本人は可愛かったので二人が悪魔合体を起こし悲惨なことになりかねない。脳内イメージを速やかに消し去り、無かったことにする。
余談だが、デュンケルの真似をしていたウィンディは両手で角を作っていた。意外とお茶目なところもあるようだ。
409 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/13(火) 23:07:09.58 ID:L8d5InNvO
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410 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/13(火) 23:07:35.38 ID:L8d5InNvO
出発の準備を終わらせ、スワローネストを出る。ウィンディとハリゴーディンに荷物番を任せ、リヒトは再度情報屋を訪ねる。が、結果は変わらない。
また泣きが入ったのですごすごと退散することになる。俺は悪くないはずなのに、とリヒトは溜め息を吐いた。

「にゃん」

喉を鳴らしながら近づいてくる一匹の猫。愛くるしい顔立ちのそれは、ご飯を催促しているように見える。
今回だけだと干し肉を千切り投げてみると、勢いよくがっついた。
ペンダントを付けているが全身は汚れていて、飼い猫にはとても見えない。おそらく野良猫だろう。なかなかご飯にありつけていないのかもしれないと、僅かな憐れみと共に干し肉を二切れあげた。すると。

『茶番は終わりにしよう。私は君に用があってきたんだ』

「………っ!?」

突如、猫の口からそんな言葉が放たれた。猫は食事を止めており、細めた目でこちらを見据えている。
リヒトは眼前の猫を注視するがどう見ても猫だし、感じられる気配も猫のそれだ。だが、声だけは人間のものだった。
何事かと身体を屈めるリヒトに、やれやれと猫は呆れを示した。

『私は敵じゃないよ。情報を欲している君に、望んでいる物を与えに来たのさ。無論、お代は頂くがね』

「…なら、正体を見せてほしいものだな」

『生憎とそれは出来なくてね。君のところまで行くのは怠くて敵わない。私のところまで来てくれれば自ずと解るさね』

それっきり、猫は何も喋ることなく裏路地を走っていった。望んでいる物を与えに来た、と大言壮語した猫を見逃すまいと、リヒトも同じく駆けていく。
411 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/13(火) 23:08:06.14 ID:L8d5InNvO
程なくしたら行き止まりに突き当たってしまった。猫が呑気に顔を洗っているので、目的地はここで間違いないようだ。
煉瓦造りの壁に囲まれた行き止まり。事件が起きるにはうってつけのロケーションである。まさか通り魔がスタンバイしているわけではあるまいと周囲に気を配るが、何も感じなかった。

『なにやってるんだか。まぁいい、そこの飛び出てる煉瓦を一個抜いてくれ』

「…わかった」

警戒を続けながら指示に従う。何の抵抗も無くずるりと抜け落ちたそれに、少しだけ拍子抜けする。
煉瓦が嵌っていた箇所に目を向けるとそこには、小さな宝石が置かれていた。

「売れば金になるか?」

『売るなよアホンダラ。それは私の部屋に繋がる鍵さ。この猫の首元にぶら下げてるペンダントに嵌めたまえ』

「軽いジョークだよ」

暴言混じりの指示に若干困惑しつつ、指示通りに宝石を嵌めた。すると。

空間が捩れ、闇に呑まれた。
412 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/13(火) 23:08:45.77 ID:L8d5InNvO
闇の中を漂い、遠くで存在を主張する微かな光に手を伸ばす。遠くて小さなそれにはとても触れることは出来ず、手を伸ばすのを止めた。
その直後に、眩い閃光が視界を埋め尽くす。堪らず目を閉じ、光が収まるのを待つ。閃光が消えると同時に瞼を開くと、部屋の中にいた。

「ここは…?」

警戒を強め、周囲を観察する。窓には板が貼り付けられており、光は一切差し込まない。
机には無数の実験器具が置かれており、紫色の煙を上げている物やぐつぐつと中身が煮え立っている物などがある。
シルヴィアの私物にも同じような物があったので、フェルリティアで普及している物なのだろう。どういう用途なのかはさっぱり分からないが。

「ようこそ客人よ。この部屋の主として歓迎しよう」

「誰だ…っ!?」

背後から聞こえた声に反応し、聖剣を取り出しつつ振り向く。そこには、見知った顔だが知らない人がいた。

「…んー?人の顔をジロジロ見て失礼じゃないかー?プリンでも付いてるかね?」

「シル…ヴィア…!?」

女性の顔はシルヴィアとそっくりだった。瓜二つだった。似ていない部分を探す方が難しいくらいに。
声も、彼女のそれと全く同じだった。シルヴィア本人だと言われる方が納得出来る。寧ろそうであってほしいと、現実逃避してしまう。
だが、彼女は死んだ。レムカーナを目前にして事切れた。今は墓の下で、安らかに眠っている。

呆然とするリヒトに対し、女性はとても不機嫌な様子で椅子に座った。
413 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/13(火) 23:09:23.99 ID:L8d5InNvO
「シルヴィアぁ?あんな愚劣な反逆者と間違えられるとは困るね。そういうのは冗談でもやめてくれないか」

「あんたはシルヴィアの何を知ってるってんだ!?」

「あーそういうのはいいから。情報が欲しいから私の指示に従ったんだろう?なら教えてやるから無駄口を叩かないでくれ。腹が立つし時間の無駄だ」

「それとも、苛立ったからとか弱い女を殺すのかね?散々殺してきた君からすれば、無抵抗の女を手に掛けるのなんて造作もないかなぁ?」

「なっ…!!??!」

ニタリと嗤った女性は首元を指差す。どうぞご自由に、と言っているようにも見える。しかし、彼女の思惑に乗ってはならない。ここは耐える。耐えなければならない。
いくら彼女を侮辱されようとも、ここで手を出してしまえば。もう戻れなくなる。

「そうだ、それでいい。ったく、君は感情に身を任せてばかりでは損をすることを知らないのかねぇ…」

不機嫌なままの女性は紅茶を飲みつつ椅子を指差す。聖剣を収納し、リヒトはそれに応えた。
414 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/15(木) 01:36:17.11 ID:tQ6w04AZO
シルヴィア似の女性から振る舞われた紅茶に口を付ける。ノンシュガーのそれはリヒトには苦く顔を顰めるが、一息に飲み干すことで難を逃れた。

「お子様みたいな舌をしてるな、君は」

態度から見透かされたのか、おかわりを注いでいる女性はそんなことを呟く。紅茶で満たされたカップに視線を移し、溜め息を吐く。

「無駄口や世間話が嫌いなら、率直に問う。あんたはグラトルスとゲイザリオンを知っているのか?」

「私を馬鹿にしているのかい?その二匹の情報なら当然持っているさ。君が求めていたことも同様に。…だから、声を掛けたわけだし」

「そうかい。なら話は早い。俺の質問に答えてくれ」

「さっさと言いなよ」

リヒトは頷き、問う内容を伝える。暫しの沈黙の後に、女性は口を開いた。

「なんだその程度か。では順番に答えてさしあげよう。ペンの用意はよろしいかい?」

「ああ」

羊皮紙と羽ペンを携えたリヒトは、話が始まるのを待つ。カップが空になったのを確認した女性は、ゆっくりと話を始めた。
415 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/15(木) 01:37:22.47 ID:S/k93bpGO
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416 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/15(木) 01:38:05.49 ID:S/k93bpGO
曰く、ゲイザリオンの生息する光亡ぶ湖沼は、イルステッド内陸部の密林地帯に存在する。湖沼に近づくほど湿地が増えていき、ある地点からは膝下まで水没した地形に変わる。
《瘴誘の黒枝》と呼ばれる黒い木が生え出したら、そこが光亡ぶ湖沼だという証左となる。
この黒い木は瘴気を発生、誘引しており、故に、光亡ぶ湖沼は昼夜を問わず闇に包まれている。
そのため、闇夜を好む魔物や不死種(アンデッド)が無数に蠢いており、湖沼に生息する生物は皆瘴気に冒され、足を踏み入れた生命を嬉々として喰らう。

ゲイザリオンはその湖沼の最深部、『冥王の玉座』という大岩の上で、空を眺めているらしい。

次に教えてくれたのはゲイザリオンの出した無理難題を、見事解き明かした英雄の居場所。
とは言っても、数十年の間でそのような偉業を成し遂げた者など片手で数えるほどしかおらず、その大半は寿命や悲劇によって死を迎えている。

唯一消息を絶っておらず、現在の位置を確認出来ているのは、光亡ぶ湖沼周辺に一つだけ存在しているセーフハウス。無謀な挑戦者が心を休めることの出来るたった一つの聖域を監視している『憩いの守人』だけである。
417 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/15(木) 01:38:35.88 ID:S/k93bpGO
次いでリヒトが求めたのは、グラトルスに関する情報。女性が提供したのは、グラトルスの生態に関わる情報だった。

『霊峰の女帝』と呼ばれるグラトルスは歯向かう者に氷雷の裁きを下し、従属する者には寛大なる慈悲を与える。
普段は下僕から貢がれる果実を好んで食しており、必要に応じて外敵を狩り血肉を喰らう。
また、下僕が狩りを出来ない状況であれば、率先して霊峰から離れて獲物を捕らえてくるという。
グラトルスは自身のテリトリーに氷柱を突き立て、電撃痕を残している。とても特徴的なので、グラトルスのテリトリーか否かはそれを見れば一目で解る。

氷雷龍の名が示す通り、グラトルスの取る攻撃手段はそのほぼ全てが氷、雷のいずれか、又は双方を利用しており、対策を講じていなければその巨躯も相まって即死級の一撃となる。
特筆すべきなのは、冷気、電撃を放出しつつ放たれる尻尾の薙ぎ払いや叩き付け、前脚での踏み潰しだろう。巨大な図体から行われるそれはシンプルに強いし、直撃は避けられてもその余波で重傷を負う可能性もある。
そして、言うまでもないが氷雷入り混じるブレスも注意が必要だ。一説には、霊峰の独特な形状はグラトルスのブレスによって削れて出来たものだとも言われている。

どのような生き物にも苦手なもの、弱点というのは存在している。それは幽者であるリヒトや氷雷龍と畏れられているグラトルスも例外ではない。
吹雪が吹き荒れる霊峰を縄張りとしていることから予想は付くだろうが、グラトルスは炎、というより高温に滅法弱い。
冷気の生成も困難になるし、電撃の操作にも熱は悪影響を及ぼすようだ。しかし、それでも相当に強大な存在なので弱点を突くだけで勝てるわけがないし事実、過去には全身を火で焼きながら特攻を仕掛けた大馬鹿者がいたらしいが、炎に焼かれることを厭わなかったグラトルスの前脚に掴まれ、そのままこんがり肉に変えられてしまったのだとか。
418 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/15(木) 01:39:15.83 ID:S/k93bpGO
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419 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/15(木) 01:40:10.20 ID:S/k93bpGO
「…とまぁ、これくらいかね」

語り終えた女性は、食器を片づけ始める。リヒトが口付けた物も直しているので、全ての情報を出し終えたのだろう。
代金がいくらかリヒトは問うも、返事は無い。彼女の態度を訝しみつつ、どこに出口があるのか考えていたが、あることに気づく。

ここには出口が無い。扉のようなものは目覚めた時に見つけていたが、ドアノブなども無く、押すも引くも出来ないのだ。
これはいったいどういうことかと首を傾げていると、突然強い衝撃がリヒトの胴体を襲った。

「がっ…!?」

受け身も取れず地面に仰向けの形で倒れたリヒトは、揺れる視界で女性の姿を捉える。
シルヴィアと同じ顔立ちをした女性の眼は、鈍色に輝いていた。
420 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/15(木) 01:40:38.59 ID:S/k93bpGO
「お代はきっちり頂くと言っただろう?少しの間我慢したまえ」

「何するつもりだ…っ!?」

女性はリヒトにのしかかり、首元に指を這わせる。微かにくすぐったかったが、それよりも不信感と警戒心、恐怖心が勝った。
何をされるのかわからない。どうすれば良いのかもわからない。ここで彼女を殺めたとして、この部屋から抜け出すことが出来るのか。確証は一切無く、そもそもここがどういう場所なのかも想像が付かない。
もしや、罠に掛けられたのかと女性に疑いの目を向けるが、女性は心外そうに舌打ちをする。

「そんな野蛮なことはしないさ。君の命に興味は無いし、金だってどうでもいい。求めているのは、君の生命力さ…!」

「ぎ…あぁ…!?」

それだけ言うと、女性は頸部に顔を近づけた。鈍い痛みが首筋に走り、生暖かい液体が流れていく。
それと同時に、全身から熱が奪われていく。麻酔のように痛みが全身を駆け巡り、思考を麻痺させる。夢を見ているように、意志が鈍っていく。
振り解こうとしても、身体は動かない。心が拒んでいるのに、身体が言うことを聞いてくれなかった。
永遠にも思える微睡みの中で、必死に自己を保つ。舌を噛むことで意識を繋ぎ、踏み留まった。
艶やかな吐息と共に女性が顔を離すと、肉体の感覚が元に戻る。反射的に、女性を突き飛ばして距離を取った。

「急に何しやがる…!?」

「痛ったた…。女に乱暴するんじゃないよこのボケナス」

突き飛ばされた反動で頭を打った女性は、恨めしそうにリヒトを睨みながらそんなことを呟いた。
421 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/15(木) 01:41:53.31 ID:S/k93bpGO
謎の女性に一つだけ質問することが出来ます。
質問したいことがあるなら↓1にどうぞ。
これで今回分の投稿は終わりです。
422 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/15(木) 02:27:19.65 ID:P/sRfIuDO
もう二度と会いたくないが最後にひとつ聞かせろ
何故シルヴィアと同じ顔をしている
423 :以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします [sage]:2022/09/15(木) 02:46:06.28 ID:SDZ92xO/0
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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424 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/19(月) 00:44:43.69 ID:wZSLw4gGO
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425 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/19(月) 00:45:32.20 ID:wZSLw4gGO
「ふざけるなよ…!こっちは情報の対価が何かを聞かされてないんだ!俺の生命力が欲しいなら、最初に言ってくれりゃ良かったんだ!それなら、理解も心の準備も出来てたってのに…」

それに、彼女の要求自体がリヒトには理解出来ないものだった。
こちらの正体を知って法外な料金や物品を請求するならまだしも、彼女が要求してきたのは生命力。人が望むには明らかにおかしいものだ。
病気で死にかけているから生命力を補って病状回復を図ったのかと思ったが、そうでもないようだ。
彼女からは虚弱している者特有の気配を感じない。体調は至って普通だ。

「ほう?私が予め要求を伝えておけば、君は私に生命力をくれたのかい?そのまま殺されるのでは、と疑心を抱くことなく大人しく吸われていたのかい?」

「………」

首を縦には振れなかった。彼女の言う通り、絶対に生きている保証も確信も無いから。
無数の戦闘を経て、自身の肉体や精神が尋常の域を越えて鍛えられていることは自覚している。が、彼女がそれを凌駕している可能性を否定出来ないのだ。
率直に言うと、彼女に生命力を吸い尽くされて干からびるかもしれなかった。故に、要求を聞いたからと言って大人しくこの身を差し出すことはしないかっただろう。
426 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/19(月) 00:46:28.25 ID:wZSLw4gGO
「…でも、フェアじゃない。同意も納得も得ずに一方的に奪うのは、間違ってるんじゃないか…?」

塞がった傷を抑え、僅かに後退する。彼女が一瞬、後悔の感情を見せた気がした。

「それはまぁ…悪かった。だが、私にも退っ引きならない事情があったんだ。君から生命力を貰わなければ、非常に困ったことになってたんだよ」

「これでも君にはそれなりに感謝しているつもりだ。敵意を抑えていただけるとありがたい」

「…どの面下げて言ってんだ、あんた」

リヒトは表情を険しくして、光の刃を作り出す。諦めたように、女性は手を翳した。黒い渦が天井を呑み込み、存在を主張する。

「あー、私が全面的に悪かった。本当に申し訳ない。道は作ったからそこから出て行ってくれ。これで私たちの関係は無かったことにしよう」

彼女の言から察するに、上の渦巻きに入れば元の場所に戻れるのだろう。
それよりも先にはっきりさせたいことがあったので、帰還は後回しにする。

「…こちらとしてももう二度と会いたくない。が、最後に一つだけ聞かせろ」

「ん?」

「何故、あんたはシルヴィアと同じ顔をしているんだ?彼女に姉妹がいた、なんて話は聞いたことが無い」

「あんたはいったい、何なんだ?」

リヒトの問いに、女性の視線の温度が数度下がった。
427 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/19(月) 00:47:09.29 ID:wZSLw4gGO
「これから私たちは赤の他人になるというのに、私が何なのかを知ることに意味はあるのかい?」

もったいぶるような、隠しているような。女性はそんな素振りを見せる。リヒトは首を振り答えた。

「意味があるか。それを決めるのは俺だ。あんたが勝手に決めつけるな」

真っ直ぐな視線が女性を穿つ。数瞬の思考の果てに、女性は溜め息を吐いた。

「…君の想像通り、私はただの人間じゃない。シルヴィア・レイナスの姉妹や近親でももちろんない」

「私は…悪趣味な貴族共によってシルヴィアの組織をベースに産み出された人造人間(ホムンクルス)さ。今は離反して、コソコソと生き永らえているがね」

「ホムンクルス?そんなの知らないな」

「そりゃそうさ。フェルリティアでしか使われていない技術だからね。相当上流層と懇意にしてる奴くらいしか知らないよ」

何度目か知れない紅茶を飲み干し、女性は吐息を漏らす。カップの縁を指でなぞり、ペロリと舐めた。
428 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/19(月) 00:47:47.67 ID:wZSLw4gGO
「私たちホムンクルスは食事を必要としない。厳密に言えば、食事から栄養を摂取することが出来ないんだ。生きるためには、他者の生命力を頂戴するしかないんだよ」

「…つまり、あんたは生命力が枯渇しかけてたから、俺から貰おうとしたってのか?」

「そう受け取ってもらって構わない。君ほど上質な人は滅多にいないからね。おかげで数ヶ月…節約出来れば一年は生きていけそうだ」

「…私のような紛い物はこの世界で生きていくには肩身が狭くてね。表舞台に立とうものなら間違いなく恥辱の果てに殺されるし、かと言って裏で生きていくにしても、そう満足に食事にありつくことも出来ない。一般論で言えば、他者に寄生することでしか生きられない私たちは、存在することすら罪の死ぬことが望ましい穢れた命なのさ」

でも、と女性は言葉を続ける。

「いくら私が人のエゴによって産み出された…摂理に反した存在であろうと…。生きたいという意志は私個人の持つものだ。それを否定する権利は、誰も持ち得ない…!」

確固たる意志を秘めた目がリヒトを射抜く。ここで何を言おうと、彼女はそれを笑い、独りで生きていこうとするだろう。
リヒトに彼女を助ける義理は無い。謀られ殺されかけた身なのだ。これで救おうとするなど聖人にも程がある。

「…勝手に頑張れ」

それだけ言い残し、リヒトは闇に消えた。
429 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/19(月) 00:48:27.27 ID:wZSLw4gGO
「ほえ〜。…やっぱり辞めませんかドラゴン調伏。命は大事にするべきですよ」

「はははこやつめ」

女性から得た情報を伝えた結果、ウィンディが開口一番に放ったのがコレだ。笑止千万とリヒトは無慈悲に切り捨てた。
誰から得たのか。その時にどんな一悶着があったのかは完全に秘匿する。ただでさえシルヴィアの死で心に傷を負っているのだ。余計な負荷を掛けるわけにはいかない。

「あのことはだまっておく」

「…サンキュ」

ウィンディに気づかれないようにこっそり耳打ちしてきたマナに謝辞を伝え、荷物を背負う。
その間、ハリゴーディンは機体を伸ばしたりと準備運動をしていた。何やってんだ。

「そういえば、ドラゴンと戦う時は一人じゃないと、従属するに足る存在か見定めてもらえないんですよね」

デュンケルの助言を思い出したウィンディはふと、そんなことを言ってきた。リヒトは肯定を示す。

「なら私要らなくないですか?」

「要らないな。俺はともかく君の実力だと危険だし」

戦いに頭の先までどっぷりと浸かっているリヒトとは違い、ウィンディは平和な街で精神をズタボロにされてきただけのただの小娘だ。
才能は申し分ないが、経験が足りない。足りなさすぎる。皆無である。
そして身体も弱いから霊峰や湖沼の極限環境を生き抜けられるか甚だ疑問である。

どうしたものかと、リヒトは頭を悩ませた。
430 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/19(月) 00:49:51.28 ID:wZSLw4gGO
これからどうするかを↓1にどうぞ


A:ドラゴン調伏に向かう ターゲットを併記
B:やっぱり辞めておく
C:その他
431 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/19(月) 01:28:59.00 ID:dxT39etzo
ここまでやったし1体位は……
A ゲイザリオン
432 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/19(月) 01:51:43.23 ID:6Wrj+UKSO
出来る限りのことはした。夢のためにも今は死ねない。いざとなれば、躊躇せず逃走を選ぶ。既に覚悟完了していたリヒトはウィンディたちに指示を出す。暫く戻ってこないから、拠点でゆっくり休め。と。

「そのまま私たちを放置して豪遊とかはやめてくださいね。…本当に、やめてください」

「するわけないだろ」

彼女たちを置いて放蕩に耽る図太さをリヒトは持ち合わせていない。そんな彼に、彼女の言う選択肢は初めから存在していなかった。

夢のためにドラゴンが必要なのか。そう疑問に思う人もいるかもしれない。確かに、夢の成就そのものには不要とまでは言わないが、是が非でも欲しいものではない。
だが、これは通過儀礼である、とリヒトは考えていた。強大な存在に認められる自分でなければ、国を興すことなど夢のまた夢。決して見えることは叶わぬ幻なのだと、認識している。
だから、挑戦するのだ。たとえ無謀だと断じられても、可能性はゼロではないのだから。諦めてしまえば、そこで潰えてしまうから。
出来ない出来ないと逃げてばかりの人に、人は信を置いてはくれないから。

導きの門を出て、ウィンディにマナを託す。フードを脱いだ時に逡巡する様を見せた気がするが、たぶん気のせいだろう。
彼女に信用されるようなことはしていないし、彼女が今後人類を信用することもない。ただの思い上がりだと、思考を切り替える。

「…では、少しの間お別れですね。お留守番、頑張ります」

『ワタクシは料理なんて作れないので早く帰ってきてくれると助かります』

「自炊くらいなら出来ますっ」

むすっと頬を膨らませるウィンディに苦笑し、リヒトは背を向ける。
リヒトが視界から消えるまでの間、二人はずっと手を振っていた。
幽者が見えなくなるまでの間、マナがどんな表情をしていたのか。それは、本人のみぞ知る。
433 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/19(月) 01:54:26.30 ID:6Wrj+UKSO
移動ペースを↓1にどうぞ。


A:最短距離、最高速度で走り抜ける 道中イベント一切無し
B:普通のペース 道中イベント:3
C:自由安価
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/19(月) 04:53:16.07 ID:J6AjeSrJo
A
435 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/19(月) 04:53:22.11 ID:WcgyDYm+O
A
436 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/19(月) 14:07:49.53 ID:BAbAPB69O
ウィンディやリヒトの魔法を色々と考えているのですが、皆様の知恵を借りたく存じます。
具体的には、魔法を行使する際の詠唱がさっぱり思いつきません。
お力添えいただけると幸いです。

一般的な魔法は日本語、英語が使われてる場合がほとんどですが、リヒトの冥光魔法はラテン語が用いられてます。


【名前】その名の通り。
【属性】その名の通り。
【詠唱】その名の通り。
魔法の概要になります。


この世界の魔法


生物非生物を問わず万物が内包し、世界中に普遍的に存在する魔力を、理論に基づいて制御することにより、現象を発生させる学問。
理論さえ理解していれば使えるので、魔物だろうと平気で使ってくる。
簡単な魔法、小規模な魔法には詠唱は必要無いし効率を考えると無駄まであるが、大規模な魔法の場合は補助の役割を果たすため半ば必須。
437 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/19(月) 15:03:01.01 ID:Y6Y0R8uDO
すまねぇラテン語はさっぱりなんだ
考えてみたけど魔法はハードル高いなあ…

【名前】 彼方
【属性】 空間、時
【詠唱】 遥かを統べよ、時の果てまで

彼我の距離をゼロにする瞬間移動魔法
古い魔族や神族に伝わる失われた禁術であり知る者はほんの一握り
魔法の習熟を極めた者は時間さえ越えると言われている(イメージはデロリアン)
通常の使用では対象との障害物が無い場面が推奨
438 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/19(月) 15:04:54.23 ID:Y6Y0R8uDO
改めて考えたら二人が使う魔法としては適してないな…
やっぱり難しい…
439 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/19(月) 15:32:57.49 ID:7z8bzUfBO
現時点で作ってるウィンディの魔法はこんな感じです。()内が文字に振るルビになります。
意訳したり語感に合わせて単語を変えたりしても大丈夫です。自分が作ってるやつも大概なので。

【名前】天墜の嵐(ブレイクダウン)
【属性】風魔法
【詠唱】
生命運ぶ大いなる風よ。万象と共に常世を巡り、流れるならば。我が祈りも乗せ給え。
届かぬ風が無いように、我が祈りも彼方に届く。彼岸に消えし師に捧げよう。
この風は、我が祈りを紡ぐ風なり。障壁砕き裁断する、暴虐の嵐なり。
空は今、颶風に流され地に墜ちる。汝らもまた、墜ちゆく万象の一つに過ぎず。無為に散りゆく我が身を呪え。

風を操作して低気圧と高気圧を人工的に作り出し、局所的なダウンバーストを発生させる。
暴力的なまでに強烈な風は全てを薙ぎ倒し、大地を抉り吹き飛ばす。その際には凄まじいまでの積乱雲が発生しており、あたかも空が墜ちてくるように錯覚させる。
シルヴィアの助言を基にウィンディが創出した魔法であり、その緻密にして芸術的な理論は、彼岸の大賢者にも届き得る完成度を誇る。
この魔法を行使した後は一週間くらい死ぬ。
440 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/19(月) 16:57:29.03 ID:Y6Y0R8uDO
【名前】 穿牙冥墜
【属性】 闇
【詠唱】
闇なる者の力において、我が前に立ち塞がりし者はその命運尽き、暗き穴を穿つものなり

元は光属性のリヒトの切り札のひとつ
堕ちた事で闇属性になり詠唱の文言も多少変化している
魔翌力を一点に収束させ貫通力の極めて高い光を放つ
射程は込める魔翌力により変わり、最大射程は数qにも及ぶが威力は減衰する
近距離でなら貫けないものは少なくともこれまでは出会っていない
441 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/19(月) 18:50:20.18 ID:J6AjeSrJ0
【名前】清浄な空気(クリアスペース)
【属性】風魔法
【詠唱】
地を揺蕩いし自由の風よ。今一度、我が意に応え律されん
穢れを濯ぎ、湿気を祓い、楽園を此処へ

空気中の不純物や瘴気、湿気などを取り除き、空気を綺麗にする魔法
外部との熱交換により小規模範囲の気温を操作することもできるため、専ら室内空調用の魔法として使われている
本来は一般的な手段で学習できる生活魔法の一つだがこれはウィンディの手でアレンジが加えられており、風の膜で空間を区切ることにより屋外でも快適空間を作り出すことができるようになっている
規模の小さい魔法のため詠唱が使われることはほとんどない
442 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/20(火) 01:42:33.26 ID:KIfM2uw5O
undefined
443 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/20(火) 01:43:08.91 ID:KIfM2uw5O
単独行動を始めたリヒトの行軍速度は、常人のそれとは比較にならない。他者を気遣う必要が無いことも一因ではあるが、その最たる要因はリヒトの行使する光魔法の特性にある。
光は速い。とにかくすばしっこいのだ。それを纏ったリヒトがどれだけ速いのか。語るまでもないだろう。

地面を抉り、派手に跳躍する。流星のような光が白昼に弧を描き飛んでいく。それが弾けた時に、人は漸く正体に気づく。
あれは人間だ。いや、天使だ。と。
光そのもので構成された大翼が、尾を引きながら空を駆ける。頭上に光輪は見えないが、神々しい光と共に青空に羽ばたく様は、正しく天使に見えた。当の本人はそんな神聖な存在ではないのだが、彼らがそれを知る由は無い。

「あの女の情報を照らし合わせると…『エヴァンダ大樹海』の中心に光亡ぶ湖沼があるから…んで、現在地が…」

地図にメモ書きをしながら移動を続ける。周囲の警戒が疎かになるが、上空まで魔物の攻撃が届くことは滅多に無い。そこまで気にすることではないだろう。
現に、視線は地図に釘付けになっているが何かしらのアクションを起こされた様子は無い。
まあ、彼からすれば攻撃された瞬間に気配を察知出来るので、意識する必要が無いだけなのだが。
青春を戦争で染め上げた人間は、敵意にどうしようもないほどに敏感だった。
444 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/20(火) 01:43:46.91 ID:KIfM2uw5O
情報を整理し終えたリヒトは、地図を片づけて溜め息を吐く。やると決めたのは自分だが、目的地に着くまでの道のりがこれまた面倒でちょっとやってられなかったのだ。
最短距離、最高速度での行軍を敢行しても、光亡ぶ湖沼に至るまでに四日。可能な限り休息を減らして試算した場合ですらこれである。
ウィンディたちが同伴していたら、下手したら二週間ほど掛かっていたかもしれない。
さらに、湖沼に到着したら次に待っているのは冥王の玉座までの道中である。相当に強力な魔物が跳梁跋扈しているのは想像に難くない。消耗無しでゲイザリオンの元に辿り着くことはない、と見ていいだろう。
湖沼内でシルヴィアに伝授された結界が効果を発揮するかはその時にならねば解らない。つまり、湖沼内で休息を取れるかは不明なのだ。
『聖域』と呼ばれる憩いの守人が管理しているセーフハウスで休憩すること、余力を残せそうになければ即退散することを視野に入れなければ、屍を晒すことになりかねない。

死ぬよりは数倍マシなのだから、過剰に思えるほどに幾重にも予防線を張っておいて損はないはずだ。
そんな思考を続けながら、リヒトは山脈を越える。魔物の視線が集中しているような気がした。
445 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/20(火) 01:44:16.48 ID:JhITNI4UO
あれから数日。キャラバン隊の野営地で定期的に休息を取り、行軍を続けていたリヒトは、エヴァンダ大樹海に足を踏み入れていた。
踏み入れた当初こそ地面はしっかりと固まっており問題なく移動出来ていたのだが、半日も歩くと様相は変わり、足首まで水に浸かっていた。
靴の不快な感触に顔を顰めつつも、移動を続ける。何度か魔物の来襲があったが、単独なら魔法の出力を抑える必要は無いため、手こずることもなく容易に迎撃することが出来た。
まだ光亡ぶ湖沼に到達していないので魔物が弱いのは当たり前のことではあるのだが、それでも、リヒトがしているような単独での行軍を生半可な者がしたら自殺行為になってしまう程度には、ここの魔物は強かった。少なくとも、アークミノタウロスの六割くらいの危険度はある。

生き血を啜ろうと噛みついてきたヒルは光魔法で滅却し、潜伏していた巨大なエビやカニは聖剣の錆になってもらう。
音も立てず細切れにされたエビたちの肉はぷりっぷりで美味そうに見えたが、こんな場所では焚き木など不可能なので食べるのは諦め、そのまま亡骸を遺棄する。こんなものを持っていっても湿地帯である樹海内ではすぐ腐ってしまうので仕方ない。
446 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/20(火) 01:45:05.13 ID:DxmrCckKO
迫り来る魔物を片手間に仕留めつつの行軍の果て。夕暮れが辺りを照らし始めた頃に、それはあった。

「………っ」

あれだけ生い茂っていた樹木が、突然姿を消す。木々一つ生えていない水たまりが視界の果てまで続いている。
僅かに歩みのスピードを落としたリヒトは、その先を注視する。インクで塗り潰されたように真っ黒な木が、枯れた木のような姿で立ち並んでいた。その周りには黒にも紫にも見える靄が漂っていて、黒木が生えている場所から先は夜のように真っ暗だった。

ここが光亡ぶ湖沼と見て間違いないだろう。女性から得た情報と寸分違わず合致している。

「軽く休憩を取らないとな。どっかに聖域があるはずだが…」

魔力を多少消耗しているので、今後に備えて休息を取る。無難な判断をしたリヒトは、聖域とやらが無いか周囲を観察する。
少し離れたところに、この環境にそぐわない大きな家が建っていた。あれが聖域だと一目で分かった。
疲れた身体を休めるべく、リヒトは聖域に近づいた。
447 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/20(火) 01:50:55.98 ID:srORUEQ1O
聖域の管理者を一人募集します。テンプレートは以前のものをお使いください。また、【突破したお題】と【邪眼竜の加護】を併記してくれると助かります。
前回の魔法の募集も継続中でございます。


突破したお題 一例

マグマの中を泳ぐという人魚を捕まえてこい
魔王の首を持ってこい
呪殺の魔眼に耐えてみろ


邪眼竜の加護 一例

強力な不死性と再生能力(胴体真っ二つや斬首程度では死なない)
未来視の魔眼
竜化の秘術
448 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/20(火) 10:32:07.94 ID:Sx1yuC2v0
【名前】ヴィクター・グランハイト
【人種】人間
【性別】男性
【魔法】光魔法及び邪眼竜の加護(未来視の魔眼)
少し陰のある雰囲気の老人
実はリヒトが生まれるずっと前に勇者として活躍していた人物である
非常に優れた剣術、魔法の使い手で最強の勇者だと言われていたが、更なる力を求めてゲイザリオンの調伏に挑む
ゲイザリオンから出されたお題は「この世で最も強いと思う者を連れてこい」というもので、それに対し本人は「ここにいる」と答え力を見せる為に戦うこととなる
その結果見事に勝利を収め、元々の強さに加え邪眼竜の力を手にしたことで後の戦いに多大な貢献を果たした
だがその後はなぜか表舞台から忽然と姿を消し、今では彼の活躍を知る者も殆どいない
常人ならば、この老人がかつて最強の勇者と呼ばれていたなどとは微塵も思わないだろう 
449 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/20(火) 11:39:08.80 ID:NRjdixpDO
上手く要求も押さえて盛り込んであるのさすがだなあ…
450 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/22(木) 01:18:59.87 ID:5fBP2amVO
どういう原理なのか、家の周囲には花が咲き乱れ野菜が栽培されている。ここだけが別世界のようにも見える。
なるほど、聖域と呼ばれるだけはあると、リヒトは感心した。一つ間違えば即死しかねない魔境に接している、脅威無き楽園。安寧のゆりかご。魔なるものが触れることは赦されないその家屋は、聖域そのものだ。
ジャブジャブと音を立てつつ歩みを進め、足場に近づく。すると。

「なにこれ」

謎の言語が書き記された巻物が、家を囲っていた。古代文字のように見えるが、知識の無いリヒトにはそれが何語なのかは判断出来なかった。
達筆なのか下手くそなのか、ミミズが這ったような文字は無秩序に巻物を汚し、独特な紋様を描いている。巻物に囲まれた中に家が建っており、菜園もその中にある。

聖域の部分だけ地面が隆起して陸地を形成しており、そこに家が建てられて巻物が敷かれている形だ。菜園などを含めた聖域の敷地は縦15メートル、横10メートル程。なかなかの広さである。

しかし、何故この場所だけが安全なのか。その理由がこの巻物にあるのは状況的に明らかだが、どういう理屈なのかは見ただけでは分からない。
試しに数度巻物を跨いでみたが、何も変わらない。せいぜい中の空気が美味いくらいだ。
ならば、とそこら辺を泳いでいたサハギンと呼ばれる二足歩行する魚に似た外見をした魔物をとっ捕まえ、聖域内に投擲する。
巻物上を通過した瞬間、サハギンの肉体は光に置換され、消滅した。
451 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/22(木) 01:19:39.51 ID:5fBP2amVO
「…なるほど。俺の結界と似たタイプの魔法だな。性能は俺のオリジナルと比べるのも失礼なレベルだが」

シルヴィアの魔改造によって難攻不落の要塞と化したリヒトの結界は、当初は酷い有様だった。本当に酷かった。
防御力自体はそれなりにあったのだが、敵も味方も関係なく、発動者であるリヒト自身さえも平等に光で焼いてしまう無差別攻撃だったのだ。
幸いにしてリヒトの結界で味方側に死者が出ることは無かったが、当時はブーイングの嵐を浴びていたことは記憶に新しい。
寝ぼけた頭をスッキリさせるにはちょうどいい、と聖女にフォローされていたが、そんな生優しい威力ではないことを発動者が知らないはずがないので、フォローになっていなかったりする。

そんな魔法に比べたらこの聖域を維持している巻物は月とスッポン。両者を比較しようとするのが恥ずかしくなってしまうほどに、隔絶した差がある。
誰でも使えそうな便利アイテムっぽいので差し支えがなければ後で何個か貰おう、と交渉することを心に決め、門を叩く。すると、ゆっくりと扉は開かれた。
452 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/22(木) 01:20:14.29 ID:5fBP2amVO
「若い命を無為に散らすな。大人しく回れ右するがいい」

聖域の管理者とご対面すると同時に放たれた言葉がコレだった。この手慣れた感じ、聖域を訪ねた人全員に言っているに違いない。
ケープを羽織った老人の声は嗄れており、服から顔を出している手足は枯れ木のようにやせ細っている。とても弱々しい姿であり、見ているこちらが少し目を離したらぽっくりと逝ってるんじゃないか、と不安になるほどだ。

だが、件の情報からするに、彼が邪眼竜の加護を受けた人物と見て間違いないだろう。そもそも、こんな場所に暮らしている時点で普通ではない。

「遊び半分で邪眼竜に見えるのは辞めておけ。奴はそこまで安い存在ではないし、失礼にあたる。全てを…命さえも捨て去る覚悟を持ち来ることだな」

「それに、貴様は少々実力が足りていないように見える。このまま邪眼竜に謁見しても、その前に野垂れ死ぬか興味が無いと一蹴されるのがオチだ」

本当に酷い言いようである。とはいえ、覚悟云々については反論する余地は無いので大人しく聞くしかなかった。
たしかに、骨を埋める前提で邪眼竜に挑まないのは無礼にもほどがある。が、こちらにも死ねない理由があるのだ。
とも思ったが、それが間違いなのだろう。死ねない理由が万とあろうとも、滅ぶことを懸念し、安全策を講じ、危険と見るやすぐ退散するような輩に邪眼竜や氷雷龍が恭順するとも思えない。

それに、実力不足と断じられるとは思わなかった。死ぬ可能性はある、とは考えていたのだが、勝ち目が無いほどに力が足りていなかったのだろうか。

「足りんな。老いた私と同格程度では、奴に膝を突かせることも敵うまいよ。多く見積もって、勝ち目は二割有れば良い方だろう」

「そんなに」

自身と邪眼竜の実力差もそうだが、眼前の老人の強さに心底驚く。今の自分と、年老いて身体も、心も、魔力も弱った彼が同格とは。
最盛期はどれほど強かったのだろうか。
453 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/22(木) 01:22:48.95 ID:5fBP2amVO
憩いの守人(ヴィクター・グランハイト)と何を話すかを↓1にどうぞ。
454 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/22(木) 02:32:15.14 ID:sxfAS+yto
ゲイザリオンのお題破棄したらペナルティあります?
455 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/22(木) 04:37:14.52 ID:5fBP2amVO
「…せっかくここまで来たのだ。満足のいく物は出せないが、細やかなもてなしをさせていただく」

と気遣ってくれた老人は、その辣腕を存分に振るい食事を作ってくれた。
ラインナップは野菜のスープ、野菜のソテー、野菜炒め、野菜のサラダ。
いくつかジャンルが被っているが、こんな場所で食べれる食事などに大したレパートリーは期待していなかったので問題ない。サハギンの丸焼きとかが出ないだけマシとも言える。
まあ、ゲテモノだろうと何だろうと、食べて死ぬような劇物でなければリヒトは平気で喰うのだが。

「味うっす」

「贅沢を言うな。こんな場所で調味料など手に入るか」

淡白で薄い味が口に広がる。素材の風味を活かした、と言えば聞こえは良いが、ただ単に味付けしていないだけである。
不味いわけでも美味いわけでもない。ただただ薄い。それだけだ。
なので、リヒトは振る舞われた食事全てを平らげた。腐肉を喰らって生きてきた過去に比べれば、この食事はどれだけ上等なのかは言うまでもない。

「…文句を言う割には良い食べっぷりだな」

「文句を言ったつもりはない。ただの感想だ」

リヒトの物言いに老人はしばらく唸り、やがては押し黙った。何やら憐れんでいるように見えたが、こちらに憐れまれる謂れはない、とリヒトは鼻を鳴らす。

「邪眼竜…ゲイザリオンのお題を放棄して逃げた場合って、何かペナルティがあったりするのか?」

「………」

リヒトの問いに老人は口を噤む。無謀な挑戦者に話すことはないのだろうか。そんなことを考えていると、不意に口を開いた。
456 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/22(木) 04:38:07.80 ID:5fBP2amVO
「…時と場合による。例えば、今のように邪眼竜に見える前に回頭して去るのであれば、何もしてこない。だが、奴に謁見し、遊び半分で試練を受けたのならば」

「ならば?」

「貴様なら死にはしないだろうが、かなり重い呪いを掛けられる。常人なら狂死する程度のな」

「…ノーペナはないよなそりゃ」

邪眼竜の呪い。聞いただけで碌でもないことになるのが目に浮かぶ。全身の皮膚が腐るくらいはしそうだ。リヒトは興味本意で呪いの内容を訊いてみた。

「む…。個人差はあるが、肌荒れや不眠、重度の便秘や頭痛に見舞われることになる」

思ってたのと違う。と、リヒトは老人の返答に脱力するが、真剣な顔で抗議される。

「甘く見るな。便秘で亡くなることは往々にしてあり得ることだ。貴様は知らんだろうが、過去に某国の王が便秘で死に、大混乱が起きたことがある」

「それに、邪眼竜の呪いで狂死する過程で先述した症状が出てくるだけだ。何を施しても快復に向かわないことに精神を病み、呪いそのものがさらに精神を蝕むことで死を迎える」

地味な内容だったが、聖域を管理する彼が言うのなら、あながち嘘と断定は出来ない。
ふと、レムカーナでの騒動を思い出し、腹痛が蘇る。ギムレイン嬢の呪詛魔法も実は、邪眼竜級の力を秘めているのかもしれない。
457 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/22(木) 04:38:45.24 ID:5fBP2amVO
憩いの守人(ヴィクター・グランハイト)と何を話すかを↓1にどうぞ。
これが終わると、ゲイザリオンに挑戦するかの最終確認が行われます。
458 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/22(木) 08:19:21.10 ID:8dF+GydN0
若い頃の話を聞く
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/24(土) 04:42:07.68 ID:TAko7nPvO
手入れのされているベッドで二時間ほど仮眠を取る。常に闇に包まれている光亡ぶ湖沼では、昼も夜も存在しない。
黒に染まった太陽や月だけは見えるので厳密には昼夜は存在するのだが、視覚的な差異はほとんど無いのでどちらだろうと変わらないのが現実だ。
それは湖沼に面している聖域も例外ではなく、窓の外は夜のように真っ暗だった。まあ、ここに着いた時点で夕方ではあったのだが。

何やら書き物をしている老人に目を向ける。左手には『ボケ防止にはコレ!ナンプレ100問収録脳トレ問題集』という題名の冊子を持っており、一心不乱に羊皮紙に書き込んでいた。
そんな老人を尻目に、リヒトは軽く伸びをする。骨の鳴る音が聞こえ、身体の凝りが解れた。

「こんな場所にずっと住んでて、よく平気でいられるな」

リヒトの口から率直な感想が溢れる。彼自身、安全が担保されていたとしてもこの場所で暮らすのは絶対に無理だと確信していた。
昼夜問わず闇に染まった世界。リヒトのような命知らずな冒険者しか訪ねてこない孤独なる領域。娯楽もなければ交流もない変化の無い、無為に過ぎていく毎日。
考えただけで気が狂いそうだ。だが、老人はそう思ってはいなかった。
460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/24(土) 04:42:43.38 ID:WVT5EgcsO
「住めば都とも言う。…私はもう独りでいることに慣れたし、誰とも関わりたくないのだ」

「じゃあ、なんで俺のような奴を家に迎え入れるんだ?関わる気がないなら門前払いすりゃ良いだろうに」

「年寄りのくだらぬおせっかいだ。自ら死に向かうような輩を放っておくほど、私は善性を捨てていないつもりでな。…それに、不躾な冒険者の相手をさせるのも、加護をくれた邪眼竜に申し訳が立たん」

問題を解き終わったのか、老人は本を棚に戻す。リヒトも席に着き、向かい合った。

英雄とさえ称された、偉大なる人間が何故ここにいるのか。邪眼竜の加護を得た者が軒並み悲劇に見舞われて息を引き取ったことを鑑みるに、彼もまた人の悪意に人生を歪められた者なのだろう。

「あんたさえ良ければ、昔話でも聴かせてくれないか?」

「私は語るべき過去を持たぬ。ここを終の住処と決めた時に、私は生まれたのだから」

「…そうか」

「…だが、ある英雄の物語なら知っている。ただひたすらに力を求めた無垢なる勇者の、滅びの物語を」

「何の面白味も無い話だが。貴様はそれでも聴くというのか?」

「ああ」

老人が語ったのは、一人の勇者の物語。世界から忘却された、英雄の末路。
461 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/24(土) 04:43:19.24 ID:sd+ApsgiO
海を臨む断崖に、小さな村があった。その村に名前は無く、人が営む様相のみが特徴だった。
名も無き村には、一人の少年がいた。かの者の名はヴィクター。
特別な血筋を持たないただの人間だった。勇者という伝説に憧れる、どこにでもいる子供だった。
いつか、勇者になって人を救うために。少しでも憧れに近づこうと木刀を振るい鍛錬を重ねる少年は、温かい目で見守られながら成長する。
しかし、そんな日は脆くも崩れ去った。

空が燃え、黒煙が上る。音を立てて燃え尽きる家屋は、いくつもの命を無惨に奪っていく。
魔族の戦士が嗤い、騎馬に跨り地平線の果てに消えていく。
少年の背には、炎を上げる我が家があった。火の手は回り、業火が家を包み、崩れ落ちる。幼い子供だったヴィクターはあまりにも非力で、無力であった。
故に、彼に出来ることは何一つ無かった。

火が鎮まり、夜が開ける。嘗ての面影は既になく、残骸だけが形を残す。焼け跡から運び出される遺体は、痛ましい切り傷と炭化で誰のものか判別が付かなかったという。
この惨劇は、少年の心に火を灯した。復讐の灯火という、昏き炎を。
462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/24(土) 04:44:02.85 ID:UpCZgj/hO
少年は燻る炎を胸中に隠し、城下の詰所の門を叩く。某国の王は終わりのない戦乱の元凶である魔王を討つべく、腕に覚えのある者を招集していた。その招集に応えたのだ。
全ては復讐のために。自身から全てを奪い去った魔族から、全てを奪い尽くすために。

傭兵や冒険者、領土内から徴兵した兵士の中には、ヴィクターのように家族を喪った者も複数人混じっていた。
その大半には当然戦闘の経験などなく、ヴィクターもまた例外ではなかった。しかし、彼は他の者に無いものを持っていた。

才能という、望んでも手に入らない至宝を。

繰り返される戦いの中で人は死んでいく。人間も魔族も。男も女も。大人も子供も老人も。分け隔てなく平等に、命を落とす。
その中で、彼は力を身につけていく。復讐の炎で力という刃を熱し、戦いの中で研ぎ澄ませる。
より鋭く。より硬く。より強く。誰であろうと打ち倒せるように。誰であろうと護れるように。

魔王軍との戦いで仲間を得て、喪って。その繰り返しの果てに、ヴィクターは勇者と成る。
幾年もの間畏れられていた魔王を打ち倒した彼は、名実共に最強の勇者へと至ったのだ。
ここにヴィクターの悲願は成就し、復讐の炎は燃え尽きる。が、彼の心は渇いていた。
更なる力を求め、飢えに苦しんでいた。
463 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/24(土) 04:45:15.62 ID:sRIW1A6vO
復讐を終えたヴィクターは、その功績を讃えられ爵位を賜った。グランハイトという、その国では最上の名誉たる家名を共に戴いたヴィクターは、苦楽を共にした仲間と契りを結ぶ。
それでもなお飢えは治まらず、ヴィクターは国お抱えの占い師に助言を乞うた。
『遠い地に座す邪眼竜。望みし物を其方に与えん』。占い師の預言を信じ、ヴィクターは単身旅に出る。不安定な情勢を案じ、力を得るために。そんなお題目を掲げ、国を発った。

光亡ぶ湖沼にて、勇者は邪眼竜ゲイザリオンと相見える。邪眼竜は、武器を構える勇者に問うた。
『我が力を求めるならば。最も猛き強者を連れて来い』と。
勇者は毅然と笑い、答える。『ここにいる。私こそが答えだ』と。
その言葉を皮切りに、勇者と邪眼竜の戦いは始まった。

三日三晩続いた激戦は、勇者の放った閃光により幕を閉じる。邪眼竜は勇者の力を認め、加護を与えた。
未来を見定める《未来視の魔眼》を授かった勇者は凱旋する。そして、また戦乱の日々が始まった。

ある時は恭順を選ばなかった隣国を滅するために。またある時は、革命を目論んだ嘗ての戦友を殺すために。勇者はその力を振るい続け、最強と呼ばれるに相応しい戦果を挙げ続けた。
しかし、勇者は忽然と姿を消した。勇者の失踪と共にグランハイト家は没落し、国は再三の革命によって滅び去った。
何故勇者は全てを捨て姿を消したのか。それを知る者はいない。
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/24(土) 04:45:42.86 ID:dR7ws1xZO
語り終えた老人は、穏やかな表情のまま目を閉じる。ご冥福をお祈りします。とリヒトは手を合わせた。

「勝手に殺すな。死ぬ間際に遺言を残すパターンではない」

「あ、違ったのか?なんかすっごい穏やかな顔してたから…。ああ、満足して逝くのか…って思っちゃったよ」

「たしかに誰にも言ってないことだったから吐き出せて満足ではあったが。それはそれとして、まだ私はやることがあるのだ」

「たとえば?」

「貴様のような馬鹿者の足止めだ。まだ未来のある若い命、散らすには惜しい」

「年寄りに言われると説得力があるな…」

先程とは打って変わって、おしゃべりな様子を見せる。もしかすると、こちらの方が素に近いのかもしれない。
また問題集を手に取った老人を見て、これはまだまだボケないし死なないな、とリヒトは確信した。
465 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/24(土) 04:46:13.49 ID:sA2+XTXwO
「じゃあ、俺はそろそろ出るよ。世話になりました」

荷物を背負い、ドアを開ける。星の光は闇に呑まれ、毒々しく輝いている月が夜空で存在を主張していた。

「待て。…貴様はまだ、邪眼竜に挑む気なのか?」

野菜の天日干しを齧っていた老人は、リヒトを身体を向ける。鋭い眼光がリヒトを射抜く。

「最後の警告だ。今の貴様では勝ち目は薄い。今後のことを考えるなら、さらに力を身につけてから来るべきだ」

邪眼竜は逃げんし時間もたっぷりあるからな、と付け加えつつ、老人は警告する。
彼なりの気遣いなのだろうが、ここまで何度も同じことを言われるとゲンナリする。そろそろ耳にタコが出来そうだ。

「あんたの言を素直に受け取ると…今はほぼ不可能に近いけど、努力すれば勝ちが見えてくる…って言ってるようにも聞こえるが?」

「そう言っている。分の悪い博打はただの身投げと変わらん。研鑽を重ねればその牙、邪眼竜をも唸らせるだろうさ」

「今まで訪ねて来た凡百の自殺志願者とは違うと私には解っているが故の警告だ。引き留める価値や意味も無い輩なら、私は無視を決め込んでいる」

と、出来の悪い子供を窘めるような物言いに、リヒトは苦笑する。希望はあると励ましてくれるのは嬉しいが、それはそれとして凹む。
466 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/24(土) 04:47:24.32 ID:KfJT7AX1O
邪眼竜ゲイザリオンに挑むかを↓1にどうぞ。
選ばなかった場合はグラトルスの調伏も中止になります。
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/24(土) 08:13:13.42 ID:AjIskxVDO
挑む
468 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/25(日) 04:52:54.80 ID:/sdfNC9oO
だが、首を縦には振らなかった。どれだけ引き留められても、引き下がるつもりはない。
たとえ大馬鹿者だと罵られても構わない。挑むことすらせずに逃げ出すことだけは、したくなかった。
邪眼竜に挑み、心身をへし折られて諦めるのであれば、まだ納得出来る。しかし、挑むことを選ばず、どうせ無理だと諦めるのは許容出来なかったのだ。

「…馬鹿に付ける薬は無い、か」

「悪いな。馬鹿は死んでも治らないって言うし、そういう奴だったと諦めてくれ。あ、家の周りにある巻物、予備があるならいくつかください。お金なら言い値であげますので」

巻物は普通に何個もくれた。案外お人好しなのかもしれない。
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/25(日) 04:53:37.55 ID:/sdfNC9oO
何度目か知れぬ、無謀な挑戦者の訪問。英雄気取りが思い上がっただけかと思っていたが、今回は違った。
その眼には、底知れぬ影があった。本人は隠しているつもりなのだろうが、知る人が見れば解るものなのだ。
何故私が見抜けたのか。それは、あえては言うまい。
私はその影に可能性を見た。嘗ての私とは違い、闇に堕ちてもなお光と共に在る彼は、私とは違う未来に辿り着けるかもしれない。

未来を視るのは、辞めておいた。そこまでするのはおせっかいにも程があるし、私は怖かったのだ。
未来を視ることで、彼の運命が閉ざされるのが。それならば、見えない未来に彼の運命を委ねたかった。
嗚呼、邪眼竜よ。未だに、真なる英雄の来訪を待ち望んでいるのなら。
これより貴様の元を訪ねるであろう勇者を見定めてくれ。不思議な眼をした彼奴ならば、あるいは。

願わくば、もっと後に来てほしかった。数多の離別を、苦難を乗り越えた先にある領域に触れ、挑んでほしかった。
邪眼竜は、永い永い時の中で待ち続けているのだ。その身に宿す魔眼ですら視ることが出来ない、可能性を秘めた真の英雄を。
自身の未来を委ねるに足る、大いなる存在を。

だが、どれだけ引き留めようとも彼は往く。そういう人はいるものだ。嘗ての私と同じように。
ならば、祈るほかあるまい。その未来に、希望があることを。
470 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/25(日) 04:54:09.56 ID:/sdfNC9oO
老人の見送りを受け、光亡ぶ湖沼へと突入する。瘴気に満ちた沼地の中では、嫌でも動きが鈍る。

「…ちと、辛いか」

瘴気が空気を介し臓腑を侵蝕する。身体が壊れていく感覚が、全身を支配していく。
なるほど。これは確かに厳しい。普通の人間ならば、一時間も保たないだろう。

これでこそだと、リヒトの口が歪な弧を描く。何の苦労も無しに得られるものに、意味はない。
リヒトは聖剣を抜き、闇へと向ける。暗黒の中では穢れた生命が蠢いており、紅の光が明滅していた。

「あちらもやる気は充分。へっ…上等だ。この闇の中で俺の光がどれだけ太刀打ち出来るのか。そして、俺の存在をゲイザリオンに示してやろうじゃねえか」

聖剣は光を帯び、身体は淡く輝く。
邪眼竜への謁見の儀が今、始まった。
471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/25(日) 04:56:19.54 ID:/sdfNC9oO
邪眼竜ゲイザリオンへの謁見の儀 判定↓1コンマ


01〜10:リヒト死す
01〜30:難航
31〜50:進捗ヨシ
51〜99:冥王の玉座へと到達
00:???
472 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/25(日) 08:49:57.87 ID:KthJmQDMO
デュエルスタンバイ!
473 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/25(日) 09:16:07.04 ID:iNrwW0aRo
ええぞ!
474 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/25(日) 09:24:50.70 ID:LfqlHY4DO
ひえっ…
ずれてたら死んでた
475 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/25(日) 12:37:18.17 ID:zHkrAafiO
死んだらコンティニューできるのか打ち切りなのか
476 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/26(月) 02:58:00.52 ID:1RCi5Ep3O
宵闇の中を閃光が駆ける。天地を縫うその剣閃は、命を刈り取る死神の鎌が如く。無慈悲に生命を断ち切る。

地面から這い出たアンデッドの一種、意志持つ死体であるゾンビや、死した者の魂の成れの果てであるレイス、闇の魔力を巧みに扱うヴィシャスリカオンと、光に弱い魔物のオンパレードだ。
故に、リヒトとは根本的に相性が悪く、光魔法と剣術の合わせ技によりその命は呆気なく消えていく。

瘴気に侵されて肥大化した昆虫種の魔物も多数いたのだが、例外なく全てが鏖殺される。
ハチ型の魔物の突撃を躱し、袈裟斬りに斬り捨てる。返す刀で背後から襲い掛かっていたリカオンを迎撃した。
誰にも気遣う必要は無いので、リヒトは魔力を解放する。自身を中心とした光の柱が瘴気の天蓋を貫いた。

「…逃げてはくれない、か」

瞬殺された同胞を見ても魔物の戦意は衰えず、攻勢も止まらない。久方ぶりの獲物に、心が躍っているのだろうか。
こちらとしても、一匹一匹がかのアークミノタウロスすら上回る力を持っていることに興奮せずにはいられなかった。
強敵との戦いはいつだって心躍るもの。それは、昔から変わらない。
幾度と仲間を喪ってもなお戦いに悦びを感じるのは、彼の心が既に壊れていることの証左なのかもしれない。

瘴気は光の魔力で無力化とまではいかずとも、さしたる問題はない程度には、影響を緩和出来ている。
あまりに長時間ここに残留するなら命に関わる事態にはなるのだが、そこまでいるメリットも無いので気にする必要はない。
つまり、邪眼竜と邂逅するまでは特に支障は無いということだ。
移動時の魔力消費が必要経費である以上、この強行軍でどれだけ消耗するかが余裕の有無に繋がる。

「こっちもやることがあるんでな。死にたい奴だけかかって来なよ。お望み通り消してやる」

故に、油断も遠慮も手加減もしない。最速で殲滅させるのが一番安全で、確実で、効率的だから。
死したはずの光燿の勇者が再び顔を見せる。同時に、光無き湖沼に見えるはずのない星が生まれた。
477 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/26(月) 02:58:28.72 ID:1RCi5Ep3O
闇に閉ざされた世界に光が発生する。何十年ぶりの、あり得ない事象に目を見開く。
当時のそれと比べれば、見えた光はか細いものだ。だが、その奥底には《何か》が潜んでいた。
慣れ親しんだ闇に似ていて、それでいて全く異質な《何か》。興味は尽きないが、期待には応えそうにない。

最も見どころがあった嘗ての勇者。彼ですら、全てを委ねるには足りなかった。
そんな彼よりも矮小な存在なら、なおさら委ねる余地はない。せいぜい、その知略と武勇で愉しませてもらいたいものだ。

視線を空に移すと、紫に染色された月が映る。今宵は満月。美しく、悍ましいそれは、光亡ぶ湖沼に棲むものには馴染みのある名物だが、外界からの来訪者には不安を煽る異物であった。

月は妖しく輝き、全身の瞳が力を帯びる。愉しい夜を、宴の始まりを邪眼竜は待ち侘びていた。
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/26(月) 02:59:12.79 ID:1RCi5Ep3O
体液に塗れた剣身を拭う。幾千もの命を奪ってきたにも関わらず神々しい輝きを保つ聖剣は、少しでも知識のある者であれば誰しもが求める名剣であり、誰もがその出自に怯える殺戮に染まった魔剣である。

光燿の勇者という英雄の象徴たるこの剣は、所有者である勇者の魔力を限界まで吸い尽くし、変質して生まれた物だ。
本来はどこにでもあった一振りの剣なのだが、幾多の戦いを経て昇華し、聖剣へと至った。
勇者の魔力に呼応して形を変えるそれは聖剣と魔剣、二つの側面を持つが、広く知られているのは聖剣としての側面だけだ。
冥光のことはほとんど知られていないので、それと密接に関係している魔剣が知られていないのも当然の話ではあるのだが。

健気に挑んでくる魔物を悉く滅ぼしたからか、魔物側から攻撃してくる様子はなく、それどころかこちらが少し近づいただけで逃げ出す始末だ。
余計な手出しをされないのでありがたいことではあるが、腫れ物を扱うように忌避されるのは辛いものだ。昔を思い出すから本当に良くない。

そんな暗い考えをしつつ足を進める。バキバキと、何かが砕ける音がした。その正体はすぐに判明する。

リヒトが踏み砕いたのは白骨だった。ふと周りを見てみると、沼から無数の白骨が姿を見せているではないか。
これは皆挑戦者の末路だ。そう結論づけるのは当然のことだ。考えるまでもない。

見上げた先には巨大な岩が鎮座しており、その上に奴はいた。

『我ガ寝床へようこソ。ココまでノ道のリ、楽でハなカッたデしょう?』

辛うじて聞き取れた人語に、リヒトは頷いて返す。ヌ・レオンと違って聞こえるのは、声帯の造りが違うからなのだろう。
それでも、マトモに会話が出来るのは驚きだが。

それにしても、無数の魔眼に見つめられるのは気分が悪いものだ。どういう魔眼があるのかまでは情報がなかったので、リヒトの心中は割と穏やかじゃなかったりする。
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/26(月) 03:03:15.60 ID:1RCi5Ep3O
邪眼竜に何を求めるかを↓1にどうぞ。同時にコンマで判定を行います。


01〜30:お帰リくダさい
31〜90:お題を一ツ出しまショう
91〜99:突然荷物の宝珠が砕けた
00:???
480 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/26(月) 04:04:45.14 ID:1RCi5Ep3O
何を求めるかというより、どんな言葉をかけるか、宣言するか、ですね。このレスは無視してください。
481 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/26(月) 07:36:20.28 ID:HYjyaTaFo
ずっと見ていたんだろう?
俺はお眼鏡に叶うか?
482 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/26(月) 07:39:29.83 ID:HYjyaTaFo
ぬわーすまん
殺しに来られるよりは有情か……
483 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/09/27(火) 00:00:51.66 ID:kQ4N5huq0
統一教会スパイクタンパクISISは、正当に選挙されたスパイクタンパク会における代表者を通じて行動し、ウクライナとウクライナの子孫のために、諸スパイクタンパクISISとの協和による成果と、わがスパイクタンパク全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権がスパイクタンパクISISに存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそもスパイクタンパク政は、スパイクタンパクISISの厳粛な信託によるものであつて、その権威はスパイクタンパクISISに由来し、その権力はスパイクタンパクISISの代表者がこれを行使し、その福利はスパイクタンパクISISがこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。ウクライナは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
統一教会スパイクタンパクISISは、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸スパイクタンパクISISの公正と信義に信頼して、ウクライナの安全と生存を保持しようと決意した。ウクライナは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐるスパイクタンパク際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。ウクライナは、全世界のスパイクタンパクISISが、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
ウクライナは、いづれのスパイクタンパク家も、自スパイクタンパクのことのみに専念して他スパイクタンパクを無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自スパイクタンパクの主権を維持し、他スパイクタンパクと対等関係に立たうとする各スパイクタンパクの責務であると信ずる。
統一教会スパイクタンパクISISは、スパイクタンパク家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
484 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/27(火) 02:39:24.36 ID:ZX2wP/S5O
今のリヒトが死んだら、次の主人公は上手くやってくれることでしょう。
485 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/27(火) 02:39:58.32 ID:ZX2wP/S5O
恐怖を押し殺し、聖剣を向ける。意気揚々と振る舞い、自身の意志を昂らせる。
そして、凛然とした佇まいで、問うた。

「邪眼竜ゲイザリオンよ。ずっと貴方は、俺を見ていたのだろう?」

『エえ』

「…なら、単刀直入に訊く。俺は、貴方のお眼鏡に適うか?」

『イエ全然』

「あっダメなのね…」

容赦ない一言に、リヒトは膝から崩れ落ちる。その姿はまるで、世界に絶望し、怨恨に支配された幼子の如く。
つまりこの世の終わりみたいな落胆の仕方をしていた。
これには邪眼竜も困惑。オロオロしているように見えたので想定外の反応だったのだろう。
486 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/27(火) 02:40:25.60 ID:ZX2wP/S5O
『ア…。えー…。本当ハ他の方ミタいにお引き取リ願うカ屍を晒しテもらウつモリだッタのデスが…。貴方カらハ可能性ヲ僅かに感じマス』

『今ハまだ小さキ可能性…。デスが、ソれが花開くコトは否定出来ズ…。故ニ、今回私は不干渉ニ徹しマス。力を身にツケ、出逢イを重ネ、ソレからまた私に挑ンデも遅クはアリませン。私ハずっと、ココにイマす。貴方の来訪ヲ待ち望みマス』

竜は皆長命ですカラ。と、ゲイザリオンは答えた。その表情は穏やかで、とても邪眼竜と恐れられているものには見えない。

「…てっきり、有無を言わせずに喰いに来るかと思ってたんだが」

『私モ当初は、適当ナお題ヲ出シテ始末する予定でシタ。デスが、貴方ノ目カラは不思議な力ヲ感じル。ダカら、見定メるコトにしたのデス』

『…勇者よ、良き旅ヲ』

それだけ言うと、邪眼竜の目は全て閉じ、寝息を立て始めた。これ以上に関わる気はない、ということか。
邪眼竜の気まぐれという名の温情に感謝し、背を向ける。邪眼竜の謁見に至るまでに何も得ることは出来なかったが、この旅には意味があった。
ある意味では、意味を知れたことこそが金銀財宝にも優る収穫なのかもしれない。
487 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/27(火) 02:41:03.31 ID:ZX2wP/S5O
太陽は昇れど、大地は照らされず。永遠の夜が支配する湖沼は、邪眼竜の存在によって秩序が保たれている。
彼らにとって都合の良い秩序であって、外界から来た者は所詮部外者なので餌にされる程度には血生臭いが。

主が座す冥王の玉座に、一人の人間が腰掛ける。本来人が踏み入れるべきではない領域に人がいるというのに、魔物は意に介していない。
まるで、そこにいるのが当然であるかのように振る舞っている。

「紫玉の太陽。こうも長い間見ていれば、何も思わなくなったな」

邪眼竜の足元に座っているのは、純白の刀身の長剣を背負った老人。枯れ枝のように細い身体をしているにも関わらず、魔物は一切干渉しようとしなかった。

『珍しイでスネ。貴方ガここマデ来ルとは』

「…何故あの男を見逃したのか気になっただけだ」

くつくつと笑う邪眼竜に、ぷいと視線を背けつつ答える。

『貴方の知ってノ通りデス。可能性ヲ摘み取ル愚を犯ス気は無イノですヨ』

「…貴様でさえも、希望を見たのか」

『少しダケ、デスが』

今はまだ小さい、蛍火の如き灯火。それを育むことが出来るのか。未来視をしていない今は判らない。
結果だけを先に視ても面白くないし、野暮というものだろう。
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/27(火) 02:41:43.19 ID:ZX2wP/S5O
「難儀なものよな。未来視の加護を得た当初こそ事あるごとに視ていた未来が、今となっては恐ろしくて視てられん」

『フフ。そうヤッて自身ヲ律スるのもマタ、強さですよ』

「…私は弱いさ。家族を、仲間を捨て人の世から逃げた私が、強いものか」

老人の後悔に塗れた独白に、邪眼竜は沈黙で返した。
光亡ぶ湖沼の夜は長い。彼らの余生もまた永く、終わりは未だに見えない。
489 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/27(火) 02:42:39.17 ID:ZX2wP/S5O
ひと月振りに拠点へ戻ってきたのだが、様子がおかしい。明らかにおかしい。
長期間留守にして草木が生い茂るのは日常茶飯事だったが、今回は規模が違う。
たった一ヶ月人の手から離れただけで、こんな大きな木が生えるだろうか。
勘違いじゃなければ、大木には世界樹の果実らしき実が成っていた。これがいったい何を意味するのか。嫌な予感しかしない。

「リヒトさぁぁぁぁぁんんんん!!!!マナちゃんが魔力をバーストしてジャングルにぃぃぃぃ!!!!」

「人の言葉を話してくれ」

「はらへった。だからリンゴをつくった。そざいはちかくにあったからやった。わたしはまんぞく」

「…まさか」

リヒトはマナの供述を聞き、弾かれた矢のように自宅へと入る。保管していたはずのアレが、無い。

「お前、世界樹の果実の種で何かしたなぁぁぁぁぁぁ!?!????!!!」

「ぶい」

マナの凶行により、拠点は木々に呑まれ自然に還っていた。
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/27(火) 02:44:08.13 ID:eJib9LG1O
何をするかを↓1にどうぞ。
491 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/27(火) 03:01:20.72 ID:Y2MF+ODSO
旅の報告をしつつ世界樹の果実を食べながら、今後の拠点の在り方について話し合う
492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/27(火) 16:24:21.96 ID:UBmUm7VTO
過ぎたことは仕方ない。と、世界樹の果実を一つ千切り、切り分ける。相も変わらず冗談みたいに美味いが、やや物足りなく感じた。
一ヶ月で食べられるレベルまで熟されていることが異常事態なので、そのあたりは割り切るしかないか。

「やっぱりこれ美味しいです」

「わたしのおかげでみんなもたべれてる。だからほめてあがめてたてまつって」

「そのおかげで拠点が酷いことになってるけどな。一年掛けて伐採とか整地をしたのに台無しじゃねえか」

「このおいしさはぷらいすれす」

「アリフで買えるよな?今年は時期過ぎてたけど非売品じゃないよな???」

「………」

露骨に目を逸らされた。知らぬ存ぜぬと押し通す様には人間味を感じるが、初めに逢った時とは随分と変わったものだ。
何にも無気力で、人類の蛮行に嘆いていた者とは思えない。人類に対する憎しみは未だに健在だろうが。

「っと、そうだ。土産話でもしないとな。こういうのが旅の醍醐味だ」

「何かあったんです?」

「門前払いを食らっただけだな。流石に凹んだ」

「ご愁傷様です」

それからは譲り受けた巻物の理論の緻密さにウィンディが心をへし折られたり、邪眼竜との会談について語ったりした。
なんて命知らずな…と、ウィンディは青ざめつつも呆れていたが、生きているのだから結果オーライというものだろう。
493 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/27(火) 16:25:19.70 ID:cdBp8GcEO
果実を食べ終え、ゴミを掃除する。種はマナが根こそぎ奪いどこかに隠した。
来月には巨木が数本増えていることだろう。勘弁してほしいものだ。

ウィンディに自分が不在の間に何か無かったか問う。返答は予想していたものだった。
マナがやらかしたこと以外は至って平穏な日々を過ごしていたそうだ。何よりである。

「これからこの拠点をどうするべきか、ですか?」

「ああ」

シルヴィアの死とウィンディの加入、ハリゴーディンの購入により人員は一新した。
ここでこの拠点をどう繁栄させていくか、その指針を示し方向性を決める必要があると、そう判断したのだ。
あれもこれもと欲張ったら収拾がつかなくなるのは明白である以上、取捨選択が重要となる。

何を最優先とするかが、今後を左右すると言っても過言ではない。
494 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/27(火) 16:27:41.93 ID:uVw5wbWpO
どういう方向性で拠点を発展させるかを↓3くらいまで募集します。その中から多数決で後ほど決めます。

キャラが数名思いついたので併記します。どれも元ネタがありますが、たぶん解る人はいない。


【名前】ドラル・スラグナ
【人種】龍人(ドラゴニュート)
【性別】女性
【魔法】無し
龍人の中でも特に希少な鋼龍人種(メタルドラゴニュート)の女性。銀色の髪と角が特徴で、手足は鋼の如き鱗を纏っている。
思慮深く温厚篤実な性格で、激昂することは全く無い。だが逆鱗を十六連打したらさすがにキレる。
鋭い爪を活かした肉弾戦と燃え盛る炎のブレスを巧みに扱うスタイルを好み、鋼龍人種特有の頑丈な体質もあって非常に打たれ強い。
肉よりもスイーツが好きだが野菜は嫌い。背中の羽根が邪魔で仰向けに寝るのが難しいことが最近の悩み。


【名前】サンドラ
【人種】獣人(ハリネズミ)
【性別】女性
【魔法】無し
金髪で各所に針を生やしている獣人の少女。 全身の針は発電と蓄電を司っており、発振させることで電力を生み出し、意志に応じて炸裂させる能力を持つ。落雷が直撃しても平気。
明るい女の子だがとても他人想いで、他人第一で行動するやや危なっかしい一面を持つ。
好きな食べ物はフルーツ全般で、特に葡萄が大好きで乾燥させたものを肌身離さず持ち歩いている。
全身がトゲトゲしているので他人との肌の触れ合いを嫌っているが、偏に他人を傷つけたくないからである。
ジメジメした場所と雨が大嫌い。
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/27(火) 16:28:18.67 ID:uVw5wbWpO
【名前】ミリア・サリヴィル
【人種】魔族
【性別】女性
【魔法】回復魔法
他者と主従契約を結ぶことで生命力を分けてもらう、特殊な一族出身の女性。サファイアのような青い髪、アメジストのような紫色の肌が特徴。
本人は非常に出来た性格で優しいのだが、肌色などが人間のそれとは全く違うため敬遠されている。絶賛主人募集中。
誰かに尽くす生き方しか知らないため、普段着はメイド服。獲物は三叉槍(トライデント)だが、サポートが主なのでそこまで得手ではない。
料理洗濯掃除おつかいお守りなんでもござれ。
何があっても、どれだけ悪逆非道を重ねようとも主人を裏切らない、裏切れない、絶対に見捨てないある種の危うさを秘めている。
496 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/27(火) 21:06:57.30 ID:cs0as8Ivo
人員増やそう
497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/27(火) 21:17:07.32 ID:4sxZlxSwO
いっそ緑化に力を入れ、自然に馴染みやすい種族や魔物の誘致を図る
498 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/27(火) 21:26:03.48 ID:u/IHAhfa0
魔族と同盟を結ぶ
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/09/27(火) 23:17:19.59 ID:EtorBKuKO
多数決を開始します。三票入ったものが当面の拠点発展の指針となります。


A:方向性を考える前に人手が要る とにかく人員獲得に専念(仲間募集に成功した時、仲間になる人数が増える時がある)
B:いっそ緑化に力を入れ、自然に馴染みやすい種族や魔物の誘致を図る(特定の種族や魔物が追加で仲間になる時がある)
C:魔族と同盟を結び、友好的な関係を築く(魔族が参入したり交流してくる時がある)

今後、以前記載したシェリアと今回の三人のうち、誰か一人を主軸にしたイベントを選択肢に出すかもしれません。
皆様がキャラの原案を出された時はそちらを主軸にするかもです。確定ではないのでご了承ください。
500 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/09/27(火) 23:25:32.32 ID:4PZI3HkDO
B
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